説明

内面被覆ポリエチレン容器

【課題】日光に暴露されたときにも無極性または低極性の有機溶剤に対するバリア性を長期間に亘って保持できる内面被覆ポリエチレン容器を提供する。
【解決手段】内面被覆ポリエチレン容器1は、高密度ポリエチレンからなる容器本体2と、容器本体2の内面側にプラズマCVDにより形成されたアモルファスカーボン被膜3とを備える。アモルファスカーボン被膜3は5〜100nmの範囲の厚さを備え、無極性または低極性の有機溶剤に対するバリア性を有する。高密度ポリエチレンは380nm以下、好ましくは500nm以下の波長の光線の透過率を1%以下として、該光線による該アモルファスカーボン被膜3のバリア性の低下を抑制するための顔料を含み、容器本体2は該顔料により着色されている。前記顔料は、茶色、黄色、緑色からなる群から選択される少なくとも1種の色の顔料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無極性または低極性の有機溶剤を含む農薬等の容器に用いられる内面被覆ポリエチレン容器に関する。
【背景技術】
【0002】
液状の農薬、殺虫剤、塗料等の容器として、高密度ポリエチレンからなる容器が用いられている。尚、本発明では、前記高密度ポリエチレンは、中圧法または低圧法により製造されたポリエチレンであり、比重が942kg/m以上のものを意味する。
【0003】
ところで、前記液状の農薬、殺虫剤、塗料等は、一般にシクロヘキサン、トルエン、キシレン等の無極性または低極性の有機溶剤を含んでいるが、前記高密度ポリエチレンはこのような有機溶剤に対するバリア性が低いという問題がある。この結果、前記高密度ポリエチレンからなる容器では、内容物の前記液状の農薬、殺虫剤、塗料等に含有される前記有機溶剤が、経時的に容器を透過して散逸し、内容物濃度の変化や、減圧による容器の変形が生じる。
【0004】
そこで、前記問題を解決するために、前記高密度ポリエチレンに、エチレン・ビニルアルコールコポリマー(EVOH)またはナイロン等の前記有機溶剤に対するバリア性を有する樹脂を積層した多層容器が用いられている。しかし、前記EVOHまたはナイロン等の樹脂は、前記高密度ポリエチレンに比較して高価であり、前記多層容器はコスト増となることが避けられない。
【0005】
一方、前記液状の農薬、殺虫剤、塗料等の容器として、容器内面側にアモルファスカーボン被膜を備えるプラスチック容器を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。前記プラスチック容器は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン等の樹脂からなる容器本体の内面に、22〜40nmの範囲の厚さのアモルファスカーボン被膜を備えることにより、エタノールに対するバリア性を得ることができ、ノルマルヘキサン、トルエン、キシレン等に対しても同様の効果を得ることができるとされている。
【0006】
しかしながら、前記プラスチック容器は、日光に暴露されると短期間のうちに前記バリア性が失われるという不都合がある。
【特許文献1】特開2001−240034号公報
【特許文献2】特表2004−510651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる不都合を解消して、日光に暴露されたときにも無極性または低極性の有機溶剤に対するバリア性を長期間に亘って保持することができる内面被覆ポリエチレン容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明は、高密度ポリエチレンからなる容器本体と、該容器本体の内面側にプラズマCVDにより形成されたアモルファスカーボン被膜とを備える内面被覆ポリエチレン容器において、該アモルファスカーボン被膜は5〜100nmの範囲の厚さを備え、無極性または低極性の有機溶剤に対するバリア性を有すると共に、該高密度ポリエチレンはおよそ400nm以下、例えば380nm以下の波長の光線の透過率を1%以下として、該光線による該アモルファスカーボン被膜のバリア性の低下を抑制するための顔料を含み、該容器本体は該顔料により着色されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の内面被覆ポリエチレン容器は、高密度ポリエチレンからなる容器本体の内面側に5〜100nmの範囲の厚さのアモルファスカーボン被膜を備えているので、無極性または低極性の有機溶剤に対して優れたバリア性を得ることができる。前記無極性または低極性の有機溶剤としては、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等を挙げることができる。
【0010】
前記アモルファスカーボン被膜は、前記無極性または低極性の有機溶剤に対して優れたバリア性を得るために、前記範囲の厚さを備えていることが必要である。前記アモルファスカーボン被膜が、5nm未満または100nmを超える厚さを備えるときには、前記無極性または低極性の有機溶剤に対し、十分なバリア性を得ることができない。
【0011】
本発明の内面被覆ポリエチレン容器は、高密度ポリエチレンからなる容器本体の内面側に前記アモルファスカーボン被膜を備えていると共に、該容器本体を構成する前記高密度ポリエチレンがおよそ400nm以下の波長の光線の透過率を1%以下として、該光線による該アモルファスカーボン被膜のバリア性の低下を抑制するための顔料を含んでいる。この結果、前記容器本体は前記顔料により着色されている。
【0012】
前記光線は、日光に含まれる光線のうち、短波長側の光線であって略紫外線に相当し、その高いエネルギーにより前記アモルファスカーボン被膜のバリア性の低下を惹き起こすと考えられる。本発明の内面被覆ポリエチレン容器によれば、前記顔料により前記およそ400nm以下の波長の光線の透過率が1%以下となるので、容器本体の内面側に備えられている前記アモルファスカーボン被膜が該光線に暴露されることを抑制することができる。従って、日光に暴露されたときにも、前記アモルファスカーボン被膜のバリア性の低下を抑制して、前記無極性または低極性の有機溶剤に対するバリア性を長期間に亘って保持することができる。前記顔料は、有機顔料であっても無機顔料であってもよく、白色顔料でも有色顔料でもよい。
【0013】
また、本発明の内面被覆ポリエチレン容器において、前記アモルファスカーボン被膜は、前記無極性または低極性の有機溶剤に対し、さらに優れたバリア性を得るために、10〜50nmの範囲の厚さを備えていることが好ましい。本発明の内面被覆ポリエチレン容器は、前記範囲の厚さの前記アモルファスカーボン被膜を備えることにより、該アモルファスカーボン被膜を全く備えない場合に比較して、前記無極性または低極性の有機溶剤の透過量を1/10以下の量とすることができる。
【0014】
また、本発明の内面被覆ポリエチレン容器において、前記高密度ポリエチレンは、およそ500nm以下の波長の光線の透過率を1%以下として、該光線による該アモルファスカーボン被膜のバリア性の低下を抑制するための顔料を含んでいることが好ましい。前記光線は、日光に含まれる光線のうち、可視光の短波長側乃至紫外線に相当する。
【0015】
本発明の内面被覆ポリエチレン容器によれば、前記顔料により前記およそ500nm以下の波長の光線の透過率が1%以下となるので、容器本体の内面側に備えられている前記アモルファスカーボン被膜がさらに広い波長領域の光線に暴露されることを抑制することができ、日光に暴露されたときにも、前記無極性または低極性の有機溶剤に対するバリア性をさらに長期間に亘って保持することができる。
【0016】
前記およそ500nm以下の波長の光線の透過率を1%以下とする顔料としては、前記有色顔料のうち、例えば茶色、黄色、緑色からなる群から選択される少なくとも1種の色の顔料であることが好ましい。
【0017】
尚、高密度ポリエチレンからなる飲料用容器では、容器内面側に前記アモルファスカーボン被膜を備えると共に、該高密度ポリエチレンに含まれる顔料により着色されたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。前記飲料用容器において、前記アモルファスカーボン被膜は、0.05〜10μmの厚さを備えている。従って、前記飲料用容器では、前記着色は紫外線による劣化から内容物を保護するものであり、前記アモルファスカーボン被膜の前記無極性または低極性の有機溶剤に対するバリア性を保持するとの技術的思想は備えられていない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態の内面被覆ポリエチレン容器の説明的断面図であり、図2は図1に示す内面被覆ポリエチレン容器の製造方法を示す説明的断面図である。また、図3は本実施形態の内面被覆ポリエチレン容器に対する光透過スペクトル、図4は本実施形態の内面被覆ポリエチレン容器におけるキシレンの透過量の経時変化を示すグラフである。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の内面被覆ポリエチレン容器1は、液状の農薬、殺虫剤、塗料等の容器として用いられるものであり、顔料を含む高密度ポリエチレンからなる着色された容器本体2と、容器本体2の内面側に形成されたアモルファスカーボン被膜3とを備える。容器本体2は、細口の開口部4と、開口部4の基部から下方に向けて拡径する半球状の肩部5と、肩部5の基部から下方に延在する円筒状の胴部6と、胴部6の下部に接続して容器本体2に自立性を付与する底部7とからなる。開口部4の外周面には、図示しない蓋が螺着される雄ねじ部8が形成されている。また、底部7は、内周側に容器本体2の内部に没入する凹部9を備えると共に、外周側が接地部10となっている。
【0020】
内面被覆ポリエチレン容器1は、顔料を含む高密度ポリエチレンをダイレクトブロー成形することにより形成された容器本体2の内面側にプラズマCVDによりアモルファスカーボン被膜3を形成することにより得ることができる。
【0021】
次に、図2を参照して、プラズマCVDによるアモルファスカーボン被膜3の形成方法について説明する。図2に示すプラズマCVD装置11は、側壁12と、昇降自在の底板13とにより画成された処理室14を備え、側壁12に臨む位置にマイクロ波発生装置15を備える。処理室14の上方には、側壁16と上壁17とにより画成された排気室18が備えられ、処理室14と排気室18との間には隔壁19が設けられている。
【0022】
底板13は、アモルファスカーボン被膜3が形成されていない容器本体2を配置して上昇移動することにより、容器本体2を処理室14内に収納する。このようにして収納された容器本体2は、口部保持具21を介して容器内部が隔壁19に設けられた排気孔22と連通するように配置される。口部保持具21は上部突出部23が排気孔22に密に挿入され、口部保持部24が容器本体2の開口部4に挿入される。
【0023】
処理室14と排気室18とは隔壁19に設けられた通気口25のバルブ26を介して連通しており、排気室18の側壁16に形成された開口27は図示しない真空装置に接続されている。排気室18の上壁17にはシール28を介して、ガス状の出発原料(以下、原料ガスと略記する)を供給するガス導入管29が支持されており、ガス導入管29は上壁17と口部保持具21とを貫通して、容器本体2内に挿入される。尚、ガス導入管29と口部保持具21の内周面との間には間隙がある。
【0024】
次に、プラズマCVD装置11の作動について説明する。プラズマCVD装置11では、まず、底板13に、アモルファスカーボン被膜3が形成されていない容器本体2を載置する。そして、底板13を上昇移動せしめ、処理室14内に容器本体2を収納する。
【0025】
次に、図示しない真空装置を作動して、排気室18内を排気し、これにより通気口25を介して処理室14の内部を約10kPaの真空度に減圧する。同時に、排気孔22に挿入されたガス導入管29と口部保持具21の内周面との間隙を介して、容器本体2の内部を1〜50Paの真空度に減圧する。
【0026】
次に、ガス導入管29から容器本体2内に、所定の組成を備える原料ガスを供給する。プラズマCVD装置11では、前記原料ガスを連続的に供給すると共に、前記真空装置により連続的に排気し、容器本体2の内部を前記真空度に保持する。また、前記原料ガスの供給量は、対象となる容器本体2の表面積、形成される被膜の厚さに応じて適正な量に設定される。前記原料ガスの供給量は、例えば、内容積500mlの容器本体2に、5〜100nmの膜厚のアモルファスカーボン被膜3を形成する場合、容器表面積当たり0.04〜0.4sccm/cmの範囲とすることが適している。
【0027】
前記原料ガスとしては、エチレン、アセチレン等の脂肪族不飽和炭化水素、メタン、エタン、プロパン等の脂肪族飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、含酸素炭化水素類、含窒素炭化水素類を用いることができる。前記原料ガスは、単独で用いても、必要に応じて2種以上混合して用いてもよく、被膜改質剤として少量の水素、有機珪素化合物、その他の被膜形成性有機化合物を併用してもよい。また、前記原料ガスは、アルゴン、ヘリウム等の希ガスで希釈して用いるようにしてもよい。
【0028】
ただし、ガスバリヤ性に優れた被膜であるポリマー性薄膜をより短時間で形成するためには、前記原料ガスの60容量%以上、好ましくは80容量%以上をアセチレンとすることが適しており、さらに好ましくは前記原料ガスを実質的にアセチレンとすることが適している。尚、前記原料ガスが実質的にアセチレンからなる場合、該アセチレンは製造過程等で混入する不可避的な不純物を含んでいてもよい。
【0029】
そして、前記原料ガスが供給されている間、マイクロ波発生装置15を作動して、例えば2.45GHz、150〜600Wのマイクロ波を、0.2〜2.0秒間、好ましくは0.4〜1.5秒間照射することにより、前記原料ガスを電磁励起して容器本体2内にプラズマを発生せしめ、容器本体2の内面側にアモルファスカーボン被膜3を形成する。このとき、前述のように、前記原料ガスを連続的に供給しつつ、前記真空装置により連続的に排気し、処理室14と容器本体2との内部を前記真空度に保持することにより、安定なアモルファスカーボン被膜3を形成することができる。また、前記マイクロ波の照射時間が0.2秒未満のときにはアモルファスカーボン被膜3において所望の膜厚が得られないことがあり、2.0秒を超えるとアモルファスカーボン被膜3の膜厚が過大になることがある。
【0030】
次に、前記原料ガスの供給が終了したならば、マイクロ波発生装置15を停止して、処理室14と容器本体2との内部を大気圧に戻し、底板13を降下させて容器本体2を取り出すことにより、処理を終了する。マイクロ波発生装置15は、前記原料ガスの供給が終了と同時に停止してもよいが、短時間延長して照射するようにしてもよい。このようにすることにより、容器中に残存している原料ガス成分を完全に被膜化することができ、得られた容器本体2のガスバリヤ性をさらに向上させることができる。
【0031】
本実施形態の容器本体2は、図2に示すプラズマCVD装置11を用い、前述の操作を行うことにより、容器内面側に5〜100nmの範囲、好ましくは10〜50nmの厚さのアモルファスカーボン被膜3が形成されている。この結果、内面被覆ポリエチレン容器1は、液状の農薬、殺虫剤、塗料等に含まれるシクロヘキサン、トルエン、キシレン等の無極性または低極性の有機溶剤に対して優れたバリア性を備えることができる。
【0032】
また、本実施形態の容器本体2は、内面側に前記範囲の厚さのアモルファスカーボン被膜3を備えると共に、前述のように原料の高密度ポリエチレンに含まれる顔料により着色されている。この結果、容器本体2は、日光に暴露された場合にも、前記範囲の厚さのアモルファスカーボン被膜3により、前記無極性または低極性の有機溶剤に対するバリア性を長期に亘って維持することができる。
【0033】
前記顔料は、およそ400nm以下の波長、好ましくはおよそ500nm以下の波長の光線の透過率を1%以下にするものが用いられる。およそ400nm以下の波長の光線の透過率を1%以下にする顔料としては、白色顔料または、茶色、黄色、緑色等の有色顔料を用いることができる。また、およそ500nm以下の波長の光線の透過率を1%以下にする顔料としては、茶色、黄色、緑色等の有色顔料を用いることができる。前記顔料は、有機顔料であってもよく、無機顔料であってもよい。
【0034】
尚、図2に示すプラズマCVD装置11では、特定の元素のプラズマ発光の強度を検出することにより、原料ガスの調整等の品質管理を行うことができ、原料ガスの調整が不適切であったときに製造された容器本体2は、これを不良品として検出することができる。前記プラズマ発光としては、例えば、656nmの波長の光線を利用することができる。従って、前記顔料は、前記656nmの波長の光線は透過することができるものであることが好ましい。
【0035】
また、本実施形態の容器本体2は、前記高密度ポリエチレンが、一般にポリエチレン等に用いられる紫外線吸収剤を含むものであってもよい。
【0036】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
〔参考例1〕
本参考例では、比重945kg/mの高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製、商品名:HB220R)を用い、顔料を添加することなく、ダイレクトブロー成形により内容積500ml、質量55gの容器本体2を製造した。本参考例で得られた容器本体2は無着色である。
【0037】
次に、図2に示すプラズマCVD装置11を用い、本参考例で得られた複数の容器本体2の内面側に、それぞれ厚さを変えてアモルファスカーボン被膜3を形成した。前記複数の容器本体2において、アモルファスカーボン被膜3の厚さは、0〜260nmの範囲で変量されている。
【0038】
次に、本参考例で得られた各容器本体2にそれぞれキシレン50gを充填した後、キャッピングして密封した。次に、各容器本体2を38℃で暗所に30日間保存し、キシレンの透過量を測定した。アモルファスカーボン被膜3の厚さと、キシレンの透過量との関係を表1に示す。
〔参考例2〕
本参考例では、比重953kg/mの高密度ポリエチレン(丸善石油化学株式会社製、商品名:B5504)を用いた以外は参考例1と全く同一にして、0〜260nmの範囲で厚さが変量されたアモルファスカーボン被膜3を備える複数の容器本体2を製造した。次に、本参考例で得られた各容器本体2を用いた以外は参考例1と全く同一にして、各容器本体2のキシレンの透過量を測定した。アモルファスカーボン被膜3の厚さと、キシレンの透過量との関係を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1から、アモルファスカーボン被膜3の厚さが5〜100nmの範囲にあることにより、アモルファスカーボン被膜3を全く備えないとき(厚さ0nm)に比較して、キシレンの透過量を低減することができることが明らかである。また、アモルファスカーボン被膜3の厚さが10〜50nmの範囲にあることにより、キシレンの透過量をさらに低減でき、アモルファスカーボン被膜3を全く備えないとき(厚さ0nm)の1/10以下にできることが明らかである。
【実施例1】
【0041】
本実施例では、参考例2と同一の高密度ポリエチレンを用い、それぞれ白色顔料、茶色顔料、黄色顔料、緑色顔料を添加した以外は参考例1と全く同一にして、30nmの厚さのアモルファスカーボン被膜3を備える4種(各色1種)の容器本体2を製造した。
【0042】
次に、前記各色の容器本体2に対する200〜850nmの範囲の波長の光線の光透過スペクトルを測定した。結果を図3に示す。
〔比較例1〕
本比較例では、参考例2で得られた無着色の容器本体2であって、30nmの厚さのアモルファスカーボン被膜3を備える容器本体2に対する200〜850nmの範囲の波長の光線の光透過スペクトルを測定した。結果を図3に示す。
【0043】
図3から、比較例1の無着色の容器本体2では、200〜850nmの全波長範囲において光線の透過率を1%以下とすることができないのに対し、実施例1の白色顔料または、茶色、黄色、緑色の各有色顔料により着色された容器本体2によれば、およそ400nm以下の波長の光線の透過率を1%以下とすることができることが明らかである。また、実施例1の茶色、黄色、緑色の各有色顔料により着色された容器本体2によれば、およそ500nm以下の波長の光線の透過率を1%以下とすることができることが明らかである。
【実施例2】
【0044】
本実施例では、実施例1で得られた前記各色の容器本体2にそれぞれキシレン50gを充填した後、キャッピングして密封した。次に、各容器本体2を、南向き窓際に静置し、ガラス窓を介して日光に暴露して、キシレンの透過量の経時変化を測定した。結果を図4に示す。
〔比較例2〕
本比較例では、参考例2と同一の高密度ポリエチレンを用い、顔料を添加することなく、ダイレクトブロー成形により内容積500ml、質量55gの容器本体2を製造した。本比較例で得られた容器本体2は無着色であり、内面側にアモルファスカーボン被膜3を備えていない。
【0045】
次に、本比較例で得られた容器本体2を用いた以外は実施例2と全く同一にして、キシレンの透過量の経時変化を測定した。結果を図4に示す。
〔比較例3〕
本比較例では、参考例2で得られた無着色であって、30nmの厚さのアモルファスカーボン被膜3を備える容器本体2を用いた以外は実施例2と全く同一にして、キシレンの透過量の経時変化を測定した。結果を図4に示す。
【0046】
図4から、無着色で内面側にアモルファスカーボン被膜3を備えていない比較例2の容器本体2は、キシレンに対するバリア性が著しく劣ることが明らかである。また、内面側にアモルファスカーボン被膜3を備えてはいるものの無着色である比較例3の容器本体2は、日光に暴露されたときには、約20日でキシレンに対するバリア性が低下し始め、約40日ではキシレンに対するバリア性がほとんど失われることが明らかである。
【0047】
これに対して、内面側にアモルファスカーボン被膜3を備え白色顔料により着色された、実施例2の容器本体2によれば、日光に暴露されたときにも、キシレンに対するバリア性を約40日間保持しており、その後キシレンに対するバリア性が低下し始めるものの、約90日後でもキシレンの透過量は3g程度であり、キシレンに対するバリア性を長期間に亘って保持できることが明らかである。
【0048】
また、内面側にアモルファスカーボン被膜3を備え、茶色、黄色、緑色の各有色顔料により着色された実施例2の各容器本体2によれば、日光に暴露されたときにも、キシレンに対するバリア性を保持しており、約120日後でもキシレンの透過量は1g以下であり、キシレンに対するバリア性をさらに長期間に亘って保持できることが明らかである。
〔参考例3〕
本参考例では、参考例2で得られた無着色であって、30nmの厚さのアモルファスカーボン被膜3を備える複数の容器本体2に、それぞれ各種有機溶剤を50gずつ充填した後、キャッピングして密封した。次に、各容器本体2について、38℃の暗所に30日間保存したときの各有機溶剤の透過量を測定した。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2から、無着色であって、30nmの厚さのアモルファスカーボン被膜3を備える参考例2の容器本体2は、トルエン、シクロヘキサンについて、キシレンに対すると同等のバリア性を備えていることが明らかである。従って、参考例2の容器本体2は、実施例1と同一にして着色することにより、無極性または低極性の有機溶剤であるトルエン、シクロヘキサンに対するバリア性を長期に亘って保持することができることが明らかである。
【0051】
また、表2から、参考例2の容器本体2は、ケロシンあるいは、極性の高い有機溶剤であるエタノール、イソプロパノールについても、キシレンに対する以上のバリア性を備えていることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の内面被覆ポリエチレン容器の説明的断面図。
【図2】図1に示す内面被覆ポリエチレン容器の製造方法を示す説明的断面図。
【図3】本発明の内面被覆ポリエチレン容器に対する光透過スペクトル。
【図4】本発明の内面被覆ポリエチレン容器におけるキシレンの透過量の経時変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0053】
1…内面被覆ポリエチレン容器、 2…容器本体、 3…アモルファスカーボン被膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高密度ポリエチレンからなる容器本体と、該容器本体の内面側にプラズマCVDにより形成されたアモルファスカーボン被膜とを備える内面被覆ポリエチレン容器において、
該アモルファスカーボン被膜は5〜100nmの範囲の厚さを備え、無極性または低極性の有機溶剤に対するバリア性を有すると共に、
該高密度ポリエチレンは380nm以下の波長の光線の透過率を1%以下として、該光線による該アモルファスカーボン被膜のバリア性の低下を抑制するための顔料を含み、該容器本体は該顔料により着色されていることを特徴とする内面被覆ポリエチレン容器。
【請求項2】
前記アモルファスカーボン被膜は10〜50nmの範囲の厚さを備え、無極性または低極性の有機溶剤に対するバリア性を有することを特徴とする請求項1記載の内面被覆ポリエチレン容器。
【請求項3】
前記高密度ポリエチレンは500nm以下の波長の光線の透過率を1%以下として、該光線による該アモルファスカーボン被膜のバリア性の低下を抑制するための顔料を含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の内面被覆ポリエチレン容器。
【請求項4】
前記顔料は、茶色、黄色、緑色からなる群から選択される少なくとも1種の色の顔料であることを特徴とする請求項3記載の内面被覆ポリエチレン容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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