説明

円筒ころ軸受用保持器の製造方法、保持器、および円弧ブローチ加工ユニット

【課題】 円筒ころ軸受用保持器のポケットの盗み部を短時間で生産性良く加工することができ、製造コストが安価な円筒ころ軸受用保持器の製造方法を提供する
【解決手段】 円筒ころ軸受用保持器は、ポケットに面する柱部3の側面6の保持器軸心方向に垂直な断面の形状が円弧状であり、各ポケットの四隅に盗み部が設けられ、この盗み部の内面の断面形状が柱部3の側面6に沿う円弧状である。この製造方法は、上記円筒ころ軸受用保持器の製造に適用され、以下の過程を含む。第1の過程では、ポケットにおける四隅の盗み部が設けられていないポケット用開口43を有する保持器半製品1Aを製造する。第2の過程では、複数の切れ刃13が円弧状に並ぶ円弧ブローチ11,12を切れ刃13の並びの円弧中心Q1,Q2を回転中心にして回転させて、保持器半製品1Aのポケット用開口43の四隅に盗み部を加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、柱部のポケットを向く側面の断面形状が円弧状である円筒ころ軸受用保持器の製造方法、この製造方法により製造された円筒ころ軸受用保持器、円筒ころ軸受、および前記製造に用いられる円弧ブローチ加工ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
一体型の円筒ころ軸受用保持器は、対向する一対の円環部と、円周方向に配列され前記一対の円環部を連結する複数の柱部とからなり、隣合う柱部間に円筒ころを収容するポケットが形成されている。柱部のポケットを向く側面は、その保持器軸心方向に垂直な断面の形状が、ポケットに収容される円筒ころの外周面に沿った円弧状をしている。各ポケットは径方向から見て略長方形であり、その四隅に、円環部と柱部の交差部分に食い込む盗み部が設けられる。盗み部は潤滑性の向上や、柱部のポケットを向く側面の仕上用盗みに利用される。
【0003】
上記ポケットの加工方法として、ドリル加工および特殊エンドミルによりポケット用開口を穴加工した後、盗み部をスロッティングにより加工する方法が知られている(例えば特許文献1)。この方法によると、盗み部の内面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状が柱部のポケットを向く側面の断面と同じ曲率中心とする円弧形状になるように、盗み部を加工することができるため、軸受寿命を低下させることがない。そのため、保持器の強度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−162003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の方法では、スロッティング加工を実施していたため、加工に時間がかかり、コストもかかるという課題があった。なぜなら、スロッティング加工は、盗み部の粗加工から仕上げ加工までを一つの刃で行うため、一つの盗み部を加工するのにスロッティング工具を何度も往復させる必要があり、加工に時間がかかる。また、一つの刃で盗み部の粗加工から仕上げ加工まで行うため、刃にかかる負荷が大きく、工具を頻繁に交換する必要がある。
【0006】
この発明の目的は、円筒ころ軸受用保持器のポケットの盗み部を短時間で生産性良く加工することができ、製造コストが安価な円筒ころ軸受用保持器の製造方法を提供することである。
この発明の他の目的は、盗み部の加工が簡単に行える円筒ころ軸受用保持器を提供することである。
この発明のさらに他の目的は、盗み部の加工が簡単に行える円筒ころ軸受を提供することである。
この発明のさらに他の目的は、上記円筒ころ軸受用保持器のポケットの盗み部の加工に適した円弧ブローチ加工ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の円筒ころ軸受用保持器の製造方法は、対向する一対の円環部と、円周方向に配列され前記一対の円環部を連結する複数の柱部とからなり、隣合う柱部間にポケットが形成され、このポケットに面する前記柱部の側面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状が円弧状であり、前記各ポケットの四隅に盗み部が設けられ、この盗み部の内面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状が前記柱部の側面に沿う円弧状である円筒ころ軸受用保持器の製造方法であって、前記ポケットにおける前記四隅の盗み部が設けられていないポケット用開口を有する保持器半製品を製造する過程と、複数の切れ刃が円弧状に並ぶ円弧ブローチを前記切れ刃の並びの円弧中心を回転中心にして回転させて、前記保持器半製品の前記ポケット用開口の四隅に前記盗み部を加工する過程とを含むことを特徴とする。
【0008】
この製造方法によると、盗み部を加工する過程において、加工しようとする盗み部の円弧中心と円弧ブローチの回転中心とが一致するように、保持器半製品のポケット用開口内に円弧ブローチを位置決めし、この円弧ブローチを1回転させることにより、円弧ブローチの複数の切れ刃によって盗み部を加工する。この加工により得られる盗み部の内面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状は、盗み部以外のポケット内面すなわち柱部のポケットを向く側面の保持器軸心方向に垂直な断面と曲率中心が一致する円弧形状である。そのため、従来のスロッティング加工で盗み部を加工する場合と同等に、軸受寿命を低下させることなく、保持器の強度を向上させることができる。
【0009】
円弧ブローチを1回転させることで盗み部を加工することができるため、一つの刃を何度も往復させて加工を行うスロッティング加工と比較して、加工時間を短くすることができ、生産性が向上する。また、加工に使用する円弧ブローチは、複数の切れ刃が配列されているため、一つの刃で加工するスロッティング工具と比較して、刃一つ当たりにかかる負担が小さい。単純計算で、円弧ブローチの一つの刃にかかる負担は、スロッティング工具の刃にかかる負担の、円弧ブローチ刃数分の1になる。そのため、円弧ブローチはスロッティング工具よりも刃の寿命が長く(例えば刃数倍)、工具交換の回数を減らすことができる。これらのことから、円筒ころ軸受用保持器の製造コストを低減することができる。
【0010】
この発明において、前記円弧ブローチは、この円弧ブローチの回転方向に沿って、回転中心から刃先までの寸法が短いものから長いものへ複数の切れ刃が寸法順に配列されているのが良い。
複数の切れ刃が上記のように配列されていると、円弧ブローチを1回転させるだけの最小動作により、前記寸法が短い切れ刃により粗加工を行い、前記寸法が長い切れ刃により仕上げ加工をすることで、盗み部を円滑にかつ精度良く加工することができる。切れ刃の寸法や配列を設計変更することで、同一曲率半径の盗み部だけでなく、曲率半径等が異なる様々な盗み部の加工に対応させることができる。
【0011】
この発明において、前記保持器の前記ポケットの四隅に設けられた4箇所の盗み部のうちの保持器軸心方向の片側に位置する2箇所の盗み部と、もう片側に位置する2箇所の盗み部とを別々の円弧ブローチで加工しても良い。
この場合、保持器半製品を保持器軸心方向に反転させる作業を省くことができ、かつ加工寸法の調整を容易に行うことができる。
【0012】
前記ポケットの四隅に設けられた4箇所の盗み部のうちの保持器軸心方向の片側に位置する2箇所の盗み部を一つの円弧ブローチで加工した後、この一つの円弧ブローチの保持器軸心方向の位置を基準にして別の円弧ブローチが定められた保持器軸心方向の位置になるよう位置調整し、この別の円弧ブローチでもう片側に位置する2箇所の盗み部を加工しても良い。
このように、一つの円弧ブローチの保持器軸心方向の位置を基準にして別の円弧ブローチの保持器軸心方向の位置を調整することにより、一つの円弧ブローチ加工ユニットで、サイズの異なる保持器半製品のポケットの盗み部を加工することができる。
【0013】
この発明の円筒ころ軸受用保持器は、上記円筒ころ軸受用保持器の製造方法により製造されるため、盗み部の加工が簡単に行える。
【0014】
この発明の円筒ころ軸受は、上記円筒ころ軸受用保持器を用いるため、盗み部の加工が簡単に行える。
【0015】
この発明の円弧ブローチ加工ユニットは、対向する一対の円環部と、円周方向に配列され前記一対の円環部を連結する複数の柱部とからなり、隣合う柱部間にポケットが形成され、このポケットに面する前記柱部の側面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状が円弧状であり、前記各ポケットの四隅に盗み部が設けられ、この盗み部の内面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状が前記柱部の側面に沿う円弧状である円筒ころ軸受用保持器の製造に用いられる円弧ブローチ加工ユニットであって、前記ポケットの四隅に設けられた4箇所の盗み部のうちの保持器軸心方向の片側に位置する2箇所の盗み部を同時に加工する第1の円弧ブローチと、保持器軸心方向のもう片側に位置する2箇所の盗み部を同時に加工する第2の円弧ブローチとを有し、これら第1および第2の円弧ブローチは、複数の切れ刃が円弧状に並び、これら複数の切れ刃の並びの円弧中心を回転中心にして回転させるものであることを特徴とする。
【0016】
この円弧ブローチ加工ユニットによると、ポケットにおける四隅の盗み部が設けられていないポケット用開口を有する保持器半製品に対し、加工しようとする盗み部の円弧中心と第1または第2の円弧ブローチの回転中心とが一致するように、ポケット用開口内に第1または第2の円弧ブローチを位置決めし、この円弧ブローチを1回転させることにより、第1または第2の円弧ブローチの複数の切れ刃によって盗み部を加工する。第1の円弧ブローチで、保持器軸心方向の片側に位置する2箇所の盗み部を同時に加工し、第2の円弧ブローチで、もう片側に位置する2箇所の盗み部を同時に加工することにより、保持器半製品を保持器軸心方向に反転させることなく、ポケットの四隅の盗み部をすべて加工することができる。
この加工により得られる盗み部の内面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状は、盗み部以外のポケット内面すなわち柱部のポケットを向く側面の保持器軸心方向に垂直な断面と曲率中心が一致する円弧形状である。そのため、従来のスロッティング加工で盗み部を加工する場合と同等に、軸受寿命を低下させることなく、保持器の強度を向上させることができる。
【0017】
第1または第2の円弧ブローチを1回転させることで盗み部を加工することができるため、一つの刃を何度も往復させて加工を行うスロッティング加工と比較して、加工時間を短くすることができる。また、加工に使用する円弧ブローチは、複数の切れ刃が配列されているため、一つの刃で加工するスロッティング工具と比較して、刃一つ当たりにかかる負担が小さい。単純計算で、円弧ブローチの一つの刃にかかる負担は、スロッティング工具の刃にかかる負担の、円弧ブローチ刃数分の1になる。そのため、円弧ブローチはスロッティング工具よりも刃の寿命が長く(例えば刃数倍)、工具交換の回数を減らすことができる。これらのことから、円筒ころ軸受用保持器の製造コストを低減することができる。
【0018】
この発明において、前記第1および第2の円弧ブローチは、第1の円弧ブローチによる加工時に第2の円弧ブローチが保持器に干渉せず、かつ第2の円弧ブローチによる加工時に第1の円弧ブローチが保持器に干渉しない位置にそれぞれ配置するのが良い。
第1および第2の円弧ブローチを上記位置に配置することにより、一方の円弧ブローチで加工を行うときにもう一方の円弧ブローチを取り外さなくてもよく、作業能率が向上する。
【0019】
この発明において、前記第1および第2の円弧ブローチは、これら円弧ブローチの回転方向に沿って、回転中心から刃先までの寸法が短いものから長いものへ複数の切れ刃が寸法順に配列されているのが良い。この場合、例えば、寸法の短い切れ刃は、隣の切れ刃との間の寸法差を大きく、つまり切込み量の大きい粗加工用とし、寸法の長い切れ刃は、隣の切れ刃との寸法差が小さい仕上げ加工用とするのが良い。
複数の切れ刃が上記のように配列されていると、順次切込み量を大きくして円滑に加工できる。特に、上記のように粗加工用と仕上げ加工用の切れ刃を並べた場合は、第1または第2の円弧ブローチを1回転させるだけの最小動作により、前記寸法が短い切れ刃により粗加工を行い、前記寸法が長い切れ刃により仕上げ加工をすることで、盗み部を円滑にかつ精度良く加工することができる。切れ刃の寸法や配列を設計変更することで、同一曲率半径の盗み部だけでなく、曲率半径等が異なる様々な盗み部の加工に対応させることができる。
【0020】
この発明において、前記第1および第2の円弧ブローチは、共通の回転駆動源により同時に回転させても良い。
この場合、回転駆動源の数を少なくして、コストの低減を図ることができる。
【0021】
この発明の円弧ブローチ加工ユニットは、例えば、直交3軸方向に移動自在で前記回転駆動源により回転させられる主軸と、前記円筒ころ軸受用保持器を載せて回転するロータリテーブルとを有する設備の前記主軸に取付けられる。
このように1軸回りの回転および直交3軸方向の移動の計4軸以上の位置制御可能な設備を用いることにより、円弧ブローチの加工位置決めに、同設備の位置決め機構を用いることができ、専用の位置決め機構を設けなくて済む。
【0022】
この発明の円弧ブローチ加工ユニットを前記主軸に取付ける場合、前記第1および第2の円弧ブローチのそれぞれの回転中心は、互いに平行で、かつ前記主軸に対して互いに点対称の位置にあるのが良い。
第1および第2の円弧ブローチのそれぞれの回転中心が主軸に対して互いに点対称の位置にあると、主軸の動作を小さくでき、効率良く動かすことができる。
【0023】
また、この発明の円弧ブローチ加工ユニットを前記主軸に取付ける場合、前記主軸の回転を減速して前記第1および第2の円弧ブローチへ伝達する減速機構を設けるのが良い。
減速機構により、第1および第2の円弧ブローチの回転数を、加工条件に合わせて変更することができる。また、主軸の回転を減速することで、大きな加工トルクにも耐えることができる。
【0024】
前記減速機構は、摩擦伝動式波動減速機を用いたものであっても良い。
摩擦伝動式波動減速機を用いた減速機構は、コンパクトな構成で大きな減速比が得られ、またそのための回転駆動源に小型で高速のモータを用いることができて、円弧ブローチ加工ユニットをコンパクトにできる。
【0025】
この発明の円筒状製品は、対向する一対の円環部と、円周方向に配列され前記一対の円環部を連結する複数の柱部とからなり、隣合う柱部間にポケットが形成され、このポケットに面する前記柱部の側面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状が円弧状であり、前記各ポケットの四隅に盗み部が設けられ、この盗み部の内面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状が前記柱部の側面に沿う円弧状である円筒状製品であって、前記ポケットにおける前記四隅の盗み部が設けられていないポケット用開口を有する半製品を製造する過程と、複数の切れ刃が円弧状に並ぶ円弧ブローチを前記切れ刃の並びの円弧中心を回転中心にして回転させて、前記半製品の前記ポケット用開口の四隅に前記盗み部を加工する過程とを含む製造過程を経て製造される。
【0026】
上記製造方法における盗み部を加工する過程において、加工しようとする盗み部の円弧中心と円弧ブローチの回転中心とが一致するように、半製品のポケット用開口内に円弧ブローチを位置決めし、この円弧ブローチを1回転させることにより、円弧ブローチの複数の切れ刃によって盗み部が加工される。この加工により得られる盗み部の内面の軸心方向に垂直な断面の形状は、盗み部以外のポケット内面すなわち柱部のポケットを向く側面の軸心方向に垂直な断面と曲率中心が一致する円弧形状である。そのため、従来のスロッティング加工で盗み部を加工する場合と同等に、軸受寿命を低下させることなく、保持器の強度を向上させることができる。
【0027】
円弧ブローチを1回転させることで盗み部を加工することができるため、一つの刃を何度も往復させて加工を行うスロッティング加工と比較して、加工時間を短くすることができる。また、加工に使用する円弧ブローチは、一つの円弧ブローチに複数の切れ刃が配列されているため、一つの刃で加工するスロッティング工具と比較して、刃一つ当たりにかかる負担が小さい。単純計算で、円弧ブローチの一つの刃にかかる負担は、スロッティング工具の刃にかかる負担の、円弧ブローチ刃数分の1になる。そのため、円弧ブローチはスロッティング工具よりも刃の寿命が長く、工具交換の回数を減らすことができる。これらのことから、円筒状製品の製造コストを低減することができる。
【0028】
この発明の盗み部の加工方法は、この発明の円筒状製品の前記盗み部の加工方法であって、マシニングセンタのロータリテーブルにより円周方向の位相決めされた前記円筒状製品の半製品に対して、この発明の円弧ブローチ加工ユニットを用いて前記盗み部を加工することを特徴とする。
この加工方法によると、円弧ブローチの加工位置決めに、マシニングセンタのロータリテーブルを用いることができるため、専用の位置決め機構を容易する必要がない。
【発明の効果】
【0029】
この発明の円筒ころ軸受用保持器の製造方法は、対向する一対の円環部と、円周方向に配列され前記一対の円環部を連結する複数の柱部とからなり、隣合う柱部間にポケットが形成され、このポケットに面する前記柱部の側面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状が円弧状であり、前記各ポケットの四隅に盗み部が設けられ、この盗み部の内面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状が前記柱部の側面に沿う円弧状である円筒ころ軸受用保持器の製造方法であって、前記ポケットにおける前記四隅の盗み部が設けられていないポケット用開口を有する保持器半製品を製造する過程と、複数の切れ刃が円弧状に並ぶ円弧ブローチを前記切れ刃の並びの円弧中心を回転中心にして回転させて、前記保持器半製品の前記ポケット用開口の四隅に前記盗み部を加工する過程とを含むため、円筒ころ軸受用保持器のポケットの盗み部を短時間で生産性良く加工することができて、製造コストが安価である。
【0030】
この発明の円筒ころ軸受用保持器は、この発明の円筒ころ軸受用保持器の製造方法により製造されるため、盗み部の加工が簡単に行える。
【0031】
この発明の円筒ころ軸受は、この発明の円筒ころ軸受用保持器を用いるため、盗み部の加工が簡単に行える。
【0032】
この発明の円弧ブローチ加工ユニットは、対向する一対の円環部と、円周方向に配列され前記一対の円環部を連結する複数の柱部とからなり、隣合う柱部間にポケットが形成され、このポケットに面する前記柱部の側面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状が円弧状であり、前記各ポケットの四隅に盗み部が設けられ、この盗み部の内面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状が前記柱部の側面に沿う円弧状である円筒ころ軸受用保持器の製造に用いられる円弧ブローチ加工ユニットであって、前記ポケットの四隅に設けられた4箇所の盗み部のうちの保持器軸心方向の片側に位置する2箇所の盗み部を同時に加工する第1の円弧ブローチと、保持器軸心方向のもう片側に位置する2箇所の盗み部を同時に加工する第2の円弧ブローチとを有し、これら第1および第2の円弧ブローチは、複数の切れ刃が円弧状に並び、これら複数の切れ刃の並びの円弧中心を回転中心にして回転させるものであるため、円筒ころ軸受用保持器のポケットの盗み部の加工に適する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の製造方法により製造される円筒ころ軸受用保持器の一例の縦断面図である。
【図2】同円筒ころ軸受用保持器の横断面図である。
【図3】同円筒ころ軸受用保持器の一部を内周側から見た図である。
【図4】図3のIV−IV断面図である。
【図5】この発明の一実施形態にかかる円弧ブローチ加工ユニットの破断側面図である。
【図6】同円弧ブローチ加工ユニットの平面図である。
【図7】図5のVII−VII断面図である。
【図8】第1または第2の円弧ブローチの部分拡大図である。
【図9】同円弧ブローチの切り刃の形状を示す図である。
【図10】同円弧ブローチ加工ユニットの減速機構の拡大図である。
【図11】図10のXI−XI断面図である。
【図12】同円弧ブローチユニットを用いて同円筒ころ軸受用保持器のポケットの盗み部を加工する状態の破断側面図である。
【図13】同状態の破断平面図である。
【図14】(A),(B)は円筒ころ軸受用保持器の製造過程の互いに異なる状態における保持器半製品を内周側から見た部分図である。
【図15】(A)は同円筒ころ軸受用保持器を用いた円筒ころ軸受の正面図、(B)はその破断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。図1ないし図4は、この発明の製造方法により製造される円筒ころ軸受用保持器の一例を示す。この円筒ころ軸受用保持器1は、大型の円筒ころ軸受に用いられるものであって、図1および図2に示すように、対向する一対の円環部2と、円周方向に配列され前記一対の円環部2を連結する複数の柱部3とからなり、隣合う柱部3間にポケット4が形成されている。円環部2に対する柱部3の連結部の径方向位置は、外周側端は円環部2の外周縁と一致し、内周側端は円環部2の内周縁よりも外周側に若干後退した位置にある。この円筒ころ軸受用保持器1は、金属製である。なお、図1は、図2のI−O−I断面を示している。
【0035】
図3に示すように、各ポケット4は径方向から見て略長方形であり、その四隅に、円環部2と柱部3の交差部分に食い込む盗み部5が設けられている。盗み部5の径方向から見た輪郭形状は、例えば部分拡大図に示すように、柱部3のポケット4に面する側面6と鈍角θ1をなす斜面を介して接続した第1ストレート部5aと、円環部2のポケット4に面する内壁面7と鈍角θ2をなす斜面で接続した第2ストレート部5bと、第1および第2ストレート部5a,5bにそれぞれつながる第3ストレート部5dおよび第4ストレート部5eと、これら第3および第4ストレート部5d,5eに両端がつながる円弧部5cとで構成されている。
【0036】
図4に示すように、柱部3の前記側面6の保持器軸心方向に垂直な断面の形状は、曲率中心Pを中心とする円弧状である。ここで言う側面6は、ポケット4における盗み部5以外の部分に面する側面のことである。また、柱部3の盗み部5に面する側面8の保持器軸心方向に垂直な断面の形状も、前記曲率中心Pを中心とする円弧状である。つまり、側面6と側面8は互いに平行であって、それぞれの断面形状は、互いに曲率半径が異なる円弧状である。図中のLは、円弧状の側面6の内径側に続く側面部分6aの対向距離である柱部間隔を示す。
【0037】
次に、前記盗み部5の加工に用いられるこの発明の円弧ブローチ加工ユニットを、図5ないし図11と共に説明する。図5および図6に示すように、円弧ブローチ加工ユニット10は、第1および第2の円弧ブローチ11,12を有する。円弧ブローチ11,12は、複数の切れ刃13が円弧状に並び、これら複数の切れ刃13の並びの中心を回転中心Q1,Q2にして回転させて加工を行う工具である。具体的には、円板状のブローチ本体14の外周における約3分の1程度の範囲に、複数の切れ刃13がブローチ本体14と一体に形成されている。ブローチ本体14の直径は、円筒ころ軸受用保持器1のポケット4における内周側および外周側の柱間隔のうち広い側の柱部間隔よりも小さい径とされている。図1ないし図4に示す円筒ころ軸受用保持器1の場合、内周側の柱部間隔L(図4)の方が広く、ブローチ本体14の直径はこの柱部間隔Lより小さくしてある。
【0038】
図8に示すように、各切れ刃13は、円弧ブローチ11,12の円周方向に沿って、回転中心Q1,Q2から刃先までの寸法Sが短いものから長いものへ寸法順に配列されている。各切れ刃13は、前記寸法Sが短い方の切れ刃群である粗加工用の粗刃群13Aと、長い方の切れ刃群である仕上げ加工用の仕上げ刃群13Bとに分かれている。いずれも寸法順に配列されていることに違いはないが、粗刃群13Aは、隣合う切れ刃13の寸法差を大きく、つまり切込み量が大きくしてあり、仕上げ刃群13Bは、隣合う切れ刃13の寸法差を小さくしてある。
【0039】
また、図9に示すように、各切れ刃13の円周方向から見た刃先形状は、盗み部5の形状と合致させてある。すなわち、刃先の輪郭形状は、盗み部5の輪郭形状における第1ストレート部5a、第2ストレート部5b、第3ストレート部5d、第4ストレート部5e、および円弧部5cにそれぞれ対応する第1ストレート部13a、第2ストレート部13b、第3ストレート部13d、第4ストレート部13e、および円弧部13cで構成されている。
【0040】
図5および図6において、上記第1および第2の円弧ブローチ11,12は、ユニットハウジング15に支持されている。ユニットハウジング15は、左右に長い形状であって、その左右両側部に一対のブローチ支持軸16,17が軸心を上下に向けて回転自在に設けられている。そして、左のブローチ支持軸16のユニットハウジング15よりも上方に突出した上端部に、第1の円弧ブローチ11が取付けられ、右のブローチ支持軸17のユニットハウジング15よりも下方に突出した下端部に、第2の円弧ブローチ12が取付けられている。左右のブローチ支持軸16,17の軸心からなる第1および第2の円弧ブローチ11,12のそれぞれの回転中心Q1,Q2は、互いに平行で、かつユニットハウジング15の中心Rに対して互いに点対称の位置にある。
【0041】
ユニットハウジング15の中央上部には、この円弧ブローチ加工ユニット10の外部から回転力を入力する入力部20が設けられている。入力部20は減速機構21を有し、この減速機構21により、入力部20に下向きに連結される後記工具主軸40等の外部回転軸の回転を、下方の駆動軸23へ減速して伝達する。減速機構21としては、例えば摩擦伝動式波動減速機のものを用いることができる。
【0042】
摩擦伝動式波動減速機を用いた減速機構21の一例を、図10および図11に示す。この減速機構21は、円形の内周面を有する環状剛性部材61と、この環状剛性部材61の内側に配置され、環状剛性部材61の内周面に対して接触可能な外周面を有する環状弾性部材62と、この環状弾性部材62の内側に配置され、環状弾性部材62を半径方向の外方に撓めて、環状弾性部材62の外周面を周方向の複数箇所(この例では2箇所)で前記環状剛性部材61の内周面に接触させ、これらの接触部62aを周方向に移動させる波動発生器63とを備えている。波動発生器63は、カム板64と、このカム板64の外周に配置されて環状弾性部材62の内周面と接触する転がり軸受65とでなる。
【0043】
波動発生器63が高速回転すると、波動発生器63によって半径方向の外方に撓められた環状弾性部材62の外周面の部分と、環状剛性部材61の内周面とが接触する2箇所の接触部62aが周方向に移動する。その結果、環状剛性部材61の内周面の円周と環状弾性部材62の外周面の円周の差に応じた相対回転が、環状剛性部材61と環状弾性部材62との間に発生し、その相対回転が減速出力回転として、駆動軸23に伝達される。
【0044】
駆動軸23には駆動歯車24が取付けられ、また左右のブローチ支持軸16,17には上記駆動歯車24と噛み合う従動歯車25,26がそれぞれ取付けられて、歯車伝達機構27を構成している。駆動軸23の回転が、歯車伝達機構27を介して左右のブローチ支持軸16,17へ伝達されて、第1および第2の円弧ブローチ11,12が回転する。
【0045】
この円弧ブローチ加工ユニット10による円筒ころ軸受用保持器1の盗み部5の加工は、円弧ブローチ加工ユニット10および円筒ころ軸受用保持器1を、1軸回りの回転および直交3軸方向の移動の計4軸以上の位置制御可能な設備を用いて行われる。図12および図13の例では、上記設備がマシニングセンタ30であって、鉛直方向の回転中心31回りに回転自在で円筒ころ軸受用保持器1が載置されるロータリテーブル32と、直交3軸(X,Y,Z軸)方向に移動可能で円弧ブローチ加工ユニット10が取付けられる工具主軸ベース33とを有する。ロータリテーブル32は、ベッド34に対して位置固定である。
【0046】
工具主軸ベース33は、ベッド34に立設した支柱35上に設置された前後レール35aに沿う前後移動台36の前後方向(Z軸方向)の移動と、前後移動台36に設けた左右レール36aに沿う左右移動台37の左右方向(X軸方向)の移動と、左右移動台37に設けた上下レール37aに沿う工具主軸ベース33の昇降との組み合わせにより、直交3軸(X,Y,Z軸)方向に移動させられる。固定板39を介して、工具主軸ベース33に円弧ブローチ加工ユニット10のユニットハウジング15が固定され、工具主軸ベース33の下向きに突出する工具主軸40が、円弧ブローチ加工ユニット10の入力部20に連結される。工具主軸40は、工具主軸ベース33に設けた回転駆動源41により回転駆動される。
【0047】
この例では、ロータリテーブル32は位置固定で、工具主軸ベース33が直交3軸(X,Y,Z軸)方向に移動する構成であるが、直交3軸のうち1軸ないし3軸に移動可能な機能をロータリテーブル32に持たせ、その分だけ工具主軸ベース33の移動機能を減らした構成としても良い。
【0048】
図1ないし図4に示す円筒ころ軸受用保持器1の製造方法を説明する。まず、リング状の素材(図示せず)に対して径方向に貫通する、後でポケット用開口となる複数の角穴を開け、各角穴間の部分である柱部3の側面を断面形状円弧状に加工して、図14(A)のような、複数のポケット用開口43が開けられた保持器半製品1Aを製造する。ポケット用開口43は、ポケット4(図3)における四隅の盗み部5(図3)が設けられていない状態の開口である。なお、図14では、保持器半製品1Aの一部のみを表示している。
【0049】
次に、円弧ブローチ加工ユニット10を用いてポケット用開口43の四隅に盗み部5を加工する。図12および図13のように、保持器半製品1Aを、その中心Oをロータリテーブル32の回転中心31と一致させてロータリテーブル32上に載置する。例えば保持器半製品1Aのポケット用開口43(1)から加工を開始する場合、工具主軸ベース33を直交3軸方向に移動させて、円弧ブローチ加工ユニット10のユニットハウジング15の左端部をポケット用開口43(1)に内周側から進入させ、加工しようとする盗み部5の円弧中心Pと第1の円弧ブローチ11の回転中心Q1とが一致するように、ポケット用開口43(1)内に第1の円弧ブローチ11を位置決めする。このとき、第1の円弧ブローチ11の切れ刃13はポケット用開口43(1)よりも内周側に位置している。この状態で、第1の円弧ブローチ11を1回転させることにより、図14(B)のように、ポケット用開口43(1)の軸方向上側の2箇所の盗み部5が加工される。一度の加工では盗み部5の軸方向幅が不足である場合は、工具主軸ベース32の高さ位置を変えて再度加工を行い、定められた盗み部5の軸方向幅を得る。
【0050】
ポケット用開口43(1)の上側2箇所に盗み部5を加工したら、工具主軸ベース33の左右移動により、円弧ブローチ加工ユニット10の第1の円弧ブローチ11をポケット用開口43(1)から退出させる。次いで、ロータリテーブル32をポケット用開口43のピッチ角αの1/2の角度だけ一方向(図13の矢印方向)に回転させた後、今度は円弧ブローチ加工ユニット10の第2の円弧ブローチ12を前記ポケット用開口43(1)と対向する位置にあるポケット用開口43(8)内に位置決めする。その際、第1の円弧ブローチ11の保持器軸心方向の位置を基準にして、第2の円弧ブローチ12が定められた保持器軸心方向の位置になるように、円弧ブローチ加工ユニット10の高さを調整する。そして、第2の円弧ブローチ12を1回転させることにより、ポケット用開口43(8)の軸方向下側の2箇所の盗み部5を加工する。
【0051】
ポケット用開口43(8)の下側2箇所に盗み部5を加工したら、工具主軸ベース33の左右移動により、円弧ブローチ加工ユニット10の第2の円弧ブローチ12をポケット用開口43(8)から退出させる。次いで、ロータリテーブル32をポケット用開口43のピッチ角αの1/2の角度だけ同方向に回転させた後、今度は円弧ブローチ加工ユニット10の第1の円弧ブローチ11をポケット用開口43(2)内に位置決めして、ポケット用開口43(2)の上側の2箇所の盗み部5を加工する。
【0052】
以下同様に、ポケット用開口43(9)の下側2箇所に盗み部5を加工し、ポケット用開口43(3)の上側2箇所に盗み部5を加工し、ポケット用開口43(10)の下側2箇所に盗み部5を加工するというように、順に盗み部5の加工を行う。ロータリテーブル32を1回転させた時点で、各ポケット用開口43(1〜13)の4隅に盗み部5が加工される。
【0053】
このように、保持器半製品1Aを保持器軸心回りに適当角度ずつ回転させながら、保持器軸心方向の片側に位置する2箇所の盗み部5の加工と、もう片側に位置する2箇所の盗み部5の加工とを繰り返し行うことにより、保持器半製品1Aを保持器軸心回りに1回転させる間にすべてのポケット4の四隅の盗み部5を加工することができる。そのため、第1および第2の円弧ブローチ11,12を位置変換させる動作が少なくて済み、かつ保持器半製品1Aを保持器軸心方向に反転させる必要がないため、加工時間を短縮することができ、生産性が良い。円筒ころ用保持器1を量産する場合にも適する。
【0054】
この円筒ころ用保持器の製造方法によると、盗み部5を加工する過程において、加工しようとする盗み部5の円弧中心Pと第1および第2の円弧ブローチ11,12の回転中心Q1,Q2とが一致するように、保持器半製品1Aのポケット用開口43内に円弧ブローチ11,12を位置決めし、この円弧ブローチ11,12を1回転させることにより、円弧ブローチ11,12の寸法順に配列された複数の切れ刃13によって盗み部5を加工する。この加工により得られる盗み部5の内面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状は、盗み部5以外のポケット内面すなわち柱部3のポケット4を向く側面の保持器軸心方向に垂直な断面と曲率中心が一致する円弧形状である。そのため、従来のスロッティング加工で盗み部を加工する場合と同等に、軸受寿命を低下させることなく、保持器の強度を向上させることができる。
【0055】
円弧ブローチ11,12を1回転させることで盗み部5を加工することができるため、一つの刃を何度も往復させて加工を行うスロッティング加工と比較して、加工時間を短くすることができる。また、加工に使用する円弧ブローチ11,12は、複数の切れ刃13が配列されているため、一つの刃で加工するスロッティング工具と比較して、刃一つ当たりにかかる負担が小さい。単純計算で、円弧ブローチ11,12の一つの切れ刃13にかかる負担は、スロッティング工具の刃にかかる負担の、円弧ブローチ刃数分の1になる。そのため、円弧ブローチ11,12はスロッティング工具よりも刃の寿命が長く(例えば刃数倍)、工具交換の回数を減らすことができる。これらのことから、円筒ころ軸受用保持器1の製造コストを低減することができる。
【0056】
円弧ブローチ11,12の複数の切れ刃13は、粗刃群13Aと仕上げ刃群13Bとからなり、粗刃群13Aによって粗加工を行い、仕上げ刃群13Bによって仕上げ加工をすることで、盗み部5を円滑にかつ精度良く加工することができる。切れ刃13の寸法や配列を設計変更することで、同一曲率半径の盗み部5だけでなく、曲率半径等が異なる様々な盗み部5の加工に対応させることができる。
【0057】
円弧ブローチ加工ユニット10は、4軸以上の位置制御可能な設備、例えば既存のマシニングセンタ30等に取付けて使用することができる。その場合、マシニングセンタ30等が具備する位置決め機構を用いることができるため、専用の位置決め機構を設けなくて済む。第1および第2の円弧ブローチ11,12のそれぞれの回転中心Q1,Q2が工具主軸40に対して互いに点対称の位置にあるため、工具主軸40の動作を小さくでき、効率良く動かすことができる。
【0058】
円弧ブローチ加工ユニット10には、工具主軸40の回転を減速して第1および第2の円弧ブローチ11,12へ伝達する減速機構21が設けられているため、第1および第2の円弧ブローチ11,12の回転数を、加工条件に合わせて変更することができる。また、工具主軸40の回転を減速することで、大きな加工トルクにも耐えることができる。
【0059】
図15は、上記円筒ころ軸受用保持器の製造方法により製造された円筒ころ軸受用保持器1を用いた円筒ころ軸受を示す。この円筒ころ軸受50は、内輪51および外輪52の各軌道面51a,52a間に複数の円筒ころ53が転動自在に介在している。各円筒ころ53は、円筒ころ軸受用保持器1の各ポケット4に収容されている。上記円筒ころ軸受用保持器の製造方法によると、円筒ころ軸受用保持器1の盗み部5(図1、図3、図4)の加工が簡単に行えて、製造コストを低減することができるため、この円筒ころ軸受用保持器1を用いた円筒ころ軸受50も製造コストも低減することができる。
【0060】
この発明の円筒ころ軸受用保持器の製造方法は、円筒ころ軸受用保持器以外のポケットを有する円筒状製品の製造にも適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1…円筒ころ軸受用保持器
1A…保持器半製品
2…円環部
3…柱部
4…ポケット
5…盗み部
6…柱部のポケットに面する側面
8…柱部の盗み部に面する側面
10…円弧ブローチ加工ユニット
11…第1の円弧ブローチ
12…第2の円弧ブローチ
13…切れ刃
30…マシニングセンタ(設備)
32…ロータリテーブル
40…工具主軸
41…回転駆動源
43…ポケット用開口
50…円筒ころ軸受
Q1,Q2…円弧中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対の円環部と、円周方向に配列され前記一対の円環部を連結する複数の柱部とからなり、隣合う柱部間にポケットが形成され、このポケットに面する前記柱部の側面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状が円弧状であり、前記各ポケットの四隅に盗み部が設けられ、この盗み部の内面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状が前記柱部の側面に沿う円弧状である円筒ころ軸受用保持器の製造方法であって、
前記ポケットにおける前記四隅の盗み部が設けられていないポケット用開口を有する保持器半製品を製造する過程と、複数の切れ刃が円弧状に並ぶ円弧ブローチを前記切れ刃の並びの円弧中心を回転中心にして回転させて、前記保持器半製品の前記ポケット用開口の四隅に前記盗み部を加工する過程とを含むことを特徴とする円筒ころ軸受用保持器の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記円弧ブローチは、この円弧ブローチの回転方向に沿って、回転中心から刃先までの寸法が短いものから長いものへ複数の切れ刃が寸法順に配列されている円筒ころ軸受用保持器の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記保持器の前記ポケットの四隅に設けられた4箇所の盗み部のうちの保持器軸心方向の片側に位置する2箇所の盗み部と、もう片側に位置する2箇所の盗み部とを別々の円弧ブローチで加工する円筒ころ軸受用保持器の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記ポケットの四隅に設けられた4箇所の盗み部のうちの保持器軸心方向の片側に位置する2箇所の盗み部を一つの円弧ブローチで加工した後、この一つの円弧ブローチの保持器軸心方向の位置を基準にして別の円弧ブローチが定められた保持器軸心方向の位置になるよう位置調整し、この別の円弧ブローチでもう片側に位置する2箇所の盗み部を加工する円筒ころ軸受用保持器の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の円筒ころ軸受用保持器の製造方法により製造された円筒ころ軸受用保持器。
【請求項6】
請求項5に記載の円筒ころ軸受用保持器を用いた円筒ころ軸受。
【請求項7】
対向する一対の円環部と、円周方向に配列され前記一対の円環部を連結する複数の柱部とからなり、隣合う柱部間にポケットが形成され、このポケットに面する前記柱部の側面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状が円弧状であり、前記各ポケットの四隅に盗み部が設けられ、この盗み部の内面の保持器軸心方向に垂直な断面の形状が前記柱部の側面に沿う円弧状である円筒ころ軸受用保持器の製造に用いられる円弧ブローチ加工ユニットであって、
前記ポケットの四隅に設けられた4箇所の盗み部のうちの保持器軸心方向の片側に位置する2箇所の盗み部を同時に加工する第1の円弧ブローチと、保持器軸心方向のもう片側に位置する2箇所の盗み部を同時に加工する第2の円弧ブローチとを有し、これら第1および第2の円弧ブローチは、複数の切れ刃が円弧状に並び、これら複数の切れ刃の並びの円弧中心を回転中心にして回転させるものであることを特徴とする円弧ブローチ加工ユニット。
【請求項8】
請求項7において、前記第1および第2の円弧ブローチは、第1の円弧ブローチによる加工時に第2の円弧ブローチが保持器に干渉せず、かつ第2の円弧ブローチによる加工時に第1の円弧ブローチが保持器に干渉しない位置にそれぞれ配置されている円弧ブローチ加工ユニット。
【請求項9】
請求項7または請求項8において、前記第1および第2の円弧ブローチは、これら円弧ブローチの回転方向に沿って、回転中心から刃先までの寸法が短いものから長いものへ複数の切れ刃が寸法順に配列されている円弧ブローチ加工ユニット。
【請求項10】
請求項7ないし請求項9のいずれか1項において、前記第1および第2の円弧ブローチは、共通の回転駆動源により同時に回転させられる円弧ブローチ加工ユニット。
【請求項11】
請求項10において、直交3軸方向に移動自在で前記回転駆動源により回転させられる主軸と、前記円筒ころ軸受用保持器を載せて回転するロータリテーブルとを有する設備の前記主軸に取付けられる円弧ブローチ加工ユニット。
【請求項12】
請求項11において、前記第1および第2の円弧ブローチのそれぞれの回転中心は、互いに平行で、かつ前記主軸に対して互いに点対称の位置にある円弧ブローチ加工ユニット。
【請求項13】
請求項11または請求項12において、前記主軸の回転を減速して前記第1および第2の円弧ブローチへ伝達する減速機構を設けた円弧ブローチ加工ユニット。
【請求項14】
請求項13において、前記減速機構は、摩擦伝動式波動減速機を用いたものである円弧ブローチ加工ユニット。
【請求項15】
対向する一対の円環部と、円周方向に配列され前記一対の円環部を連結する複数の柱部とからなり、隣合う柱部間にポケットが形成され、各ポケットの四隅に盗み部が設けられ、前記柱部の前記ポケットに面する側面の断面形状が円弧状である円筒状製品であって、
前記ポケットにおける前記四隅の盗み部が設けられていないポケット用開口を有する半製品を製造する過程と、複数の切れ刃が円弧状に並ぶ円弧ブローチを前記切れ刃の並びの中心を回転中心にして回転させて、前記半製品の前記ポケット用開口の四隅に前記盗み部を加工する過程とを含む製造過程を経て製造された円筒状製品。
【請求項16】
請求項15に記載の円筒状製品の前記盗み部の加工方法であって、
マシニングセンタのロータリテーブルにより円周方向の位相決めされた前記円筒状製品の半製品に対して、請求項8に記載の円弧ブローチ加工ユニットを用いて前記盗み部を加工することを特徴とする盗み部の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−96542(P2013−96542A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242189(P2011−242189)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】