説明

円筒体の樹脂成形用金型

【目的】 樹脂成形用金型においてスライドを分割して、それぞれのスライドコアをその離脱方向に対してアンダーカット部を回避するような抜き方向に移動可能にした。
【構成】 リード溝12,13を備えた樹脂製円筒体である製品1を形成するスライド2は、複数のスライド21−26に分割されている。それぞれのスライドは、スライドコア211,212,241、スライドブロック213,242からなり、スライドコアには、リード溝12,13の形成部219を有すると共に、これらのスライドの離脱方向に対してアンダーカット部14,15の方向に対応して移動させるために、固定側プレート100に固定されたアンギュラピン51,52によって案内されることによりアンダーカット部を回避して、円筒体の軸線方向に垂直な溝面を有するリード溝12,13を損傷なく、精度よく形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、円筒体の樹脂成形用金型に関し、特に、円筒体の成形品に形成されるリード溝において成形後の金型離脱方向に対して生じるアンダーカット部に対応することができる樹脂成形用金型に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、カメラ等のレンズ用筒体の製作においては、円筒体の外周部にリード溝を形成する場合、円筒体がアルミ製であるために、切削によって形成している。その際、工具とワークの相対的な移動により円筒体の表面に軸線方向に対して斜めに位置するリード溝が形成される。
【0003】最近では、このような円筒体においても、強度的に問題にならず製作の容易さから樹脂成形されることが多くなってきた。その際、円筒体に軸線方向と交差する方向のリード溝を形成する場合、このリード溝には成形型を離脱させる方向に対してアンダーカットが生じるために、溝面には型抜きのための逃げを必要としている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このように、アルミ製の円筒体にリード溝を切削によって形成することは、現在の技術では問題なく製作することができるものの、目的、用途によっては、工具の設定、後処理等で面倒な作業を伴い、効率的でなかった。
【0005】そこで採用された樹脂成形においては、現在の樹脂では強度的に問題がないものの、円筒体のリード溝のように、その外周表面に軸線方向に対して交差するリード溝を形成しようとすると、溝面に逃げを形成しなければならない。
【0006】そこで、このようなリード溝を円筒中心に向かい勾配を有しない溝とすることが必要となるが、その成形用金型を取り外す時には、金型の離脱方向に対しては溝がアンダーカット部を有することになるので、金型の一方向のみの移動では、アンダーカット部が破損することになり、製品の精度を低下させ不良品となってしまう。
【0007】本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、円筒体にその軸線方向に回転移動させるためのリード溝が、軸線に対して垂直な方向の溝面を有して精度、強度の低下なくその外周部に形成されることができる円筒体の樹脂成形用金型を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の樹脂成形用スライドは、軸線方向へ回転移動させるリード溝を外周部に有する円筒体の樹脂成形用スライドにして、前記円筒体の軸線に対して直角となる溝面を有する前記リード溝を形成するための溝形成部を有するスライドコアを備え、該スライドコアが複数に分割されていて、前記分割されたスライドコアが成形後の前記スライドコアの離脱方向に対してアンダーカットとなる前記溝面に沿って移動することができるように構成されていることを特徴とする。
【0009】上記スライドコアが、その移動方向に対する前記リード溝のアンダーカットの程度が大きくなる部分においては、さらに溝面に沿って移動可能に細分割されていることを特徴とする。
【0010】上記複数に分割されたスライドコアがリンクによって連結され、前記分割されたスライドコアがそれぞれ異なった角度のアンダーカットに応じた方向の移動を可能にしたことを特徴とする。
【0011】
【作用】上記のような円筒体の樹脂成形用スライドにおいては、軸線方向に回転移動させるためのリード溝を円筒体の外周部に形成するための溝形成部を有し、かつ製品からの離脱方向の移動を行う分割されたスライドコアを備えているので、その型部による樹脂の射出成形によってリード溝を有する円筒体が形成され、その後で分割されたスライドコアが離脱するよう移動されると、成形されたリード溝のアンダーカット部に沿ってそれぞれスライドコアが移動して回避することができ、溝面を損傷することなく、製品として精度のよい樹脂製の円筒体をその中心方向に向かって勾配なしの溝を有して得ることができる。
【0012】また、スライドコアが、リード溝の移動方向に対するアンダーカットの程度が大きくなる部分において、さらに細分割されているので、アンダーカット部に対する処理が異なった溝面の方向に細密に行われ、さらに精度の高い製品が得られる。
【0013】また、複数に分けられたスライドコアがリンクによって連結され、成形後の製品からの離脱方向の運動によって一体に移動するとともに、さらに各スライドコアがアンダーカット部に沿って個々に移動することができ、アンダーカットの厳しい溝に対しても十分に対応することができ、精度の高い製品を得ることができる。
【0014】
【実施例】実施例について図面を参照して以下のごとく説明する。図1は図2のI−I線に沿った断面図であり、これらの図に示されるように、本発明の一実施例である円筒体を成形するためのスライド2を用いて樹脂成形機は、それぞれI,II,III,IV,V,VI等からなり、成形工程においては、それぞれ境界面102,104,106,108において分離されるようになっている。図1に示される樹脂成形機の状態は、射出成形における樹脂注入が可能なように組み立てられた状態である。スライド2を含む主要部は、プレート101に取り付けられている。製品をなす下入子3の可動側入子31および固定側入子4とスライドコア21−26との間の空間には、ロケートリング65,スプルーブッシュ64に設けられ樹脂流路を通って、ランナーロックピン63に支持されたランナー62およびスプルー61を経て溶融樹脂が注入され、樹脂成形が行われる。
【0015】樹脂成形された製品1は、図3および図4に示すように、円筒体の周面に形成されるリード溝12を有し、このリード溝12がそこにピンが係合して、円筒体を軸線方向に移動させるために、軸線方向に直角の溝面を設けるのがよいことから、スライドの離脱される方向に対してはアンダーカット部14,15を生じることになる。このようなアンダーカット部14,15に対応するために、スライド2は、それぞれスライドコア21−26に分割され、そしてそれらと一体のスライドブロック213,242が成形終了後離脱される際に、下入子3側からそれぞれが離脱方向を異にして移動することができる。下入子3の可動側入子31は、成形された製品1と共にスライド2の離脱後に成形された溝形状に合わせて離脱させることができる。この可動側入子31によって、表面側から対応できない成形部分に対しても成形を可能にすることができる。
【0016】上記のようなスライド2において、分割されたスライドコア211,222,212,223を有する場合について説明すると、斜め下方にスライドするスライドコア211は、図5に示すように、下側スライドコア222上を斜め下方向に移動可能なようにショルダボルト216の端部が固定され、スライドブロク213内に内蔵されてスプリング217によって衝接方向に付勢するよう設けられている。図示していないが、スライドコア211と下側スライドコア222は、互いにあり溝等で摺動のみ可能なように係合されている。また、下側のスライドコア223は、スライドブロック213に取り付けられた上側スライドコア212に対して斜め上方向にスライドし、スライドブロック213内に内蔵されて衝接方向に付勢するスプリング225を具備したショルダボルト224が取り付けられている。
【0017】また、上記スライドコア211,212に対するスライドコア241は、スライドブロック242と一体で、スライド孔244を有し、プレート100に固定されたアンギュラピン52が嵌合されて、プレート100の移動と共に、スライドコア211の溝形成部245が製品1から離脱するように移動される。そして、スライドコア211,212,222,223をプレート101に固定するために、図1に示すように、スライドコアおよびスライドブロックに係合するロッキングブロック214を備えていて、これらのロッキングブロック214,215,220および243は、プレートIII およびV の分離時に各スライドコア、スライドブロックから離脱していく。その際、ロッキングブロック215は、スライドコア211とスライドブロック213との間に、スライドコア222上に沿って溝深さだけの間隙を設けるように位置されている。
【0018】図2に示すような他のスライドのスライドコア22,23および25,26においても、半径外方向に上下入子3,4から離脱するように、上記と同様の構成を有し、後述する作用においても同じである。
【0019】上記のような構成において、図1の状態で樹脂が注入され硬化した後、各プレートI,II,III,IV,V およびVIは、離脱用の境界面102,104,106および108において順次切り離されるが、ここでは最も注目すべきスライド2が製品1から離脱されプレートIII およびIVが境界面102において切り離される場合について、以下において説明する。
【0020】まず、スライドコア21を一体として考えると、図5において斜め下方向に移動するスライドコア211に注目した場合、プレート100の切り離しにおいて、スライドコア21は、プレート100の移動に伴い、まずこのアンギュラピン51が貫通したスライドブロック213のスライド孔218内の遊びの分だけ図6に示すように、スライドコア21を残してロッキングブロック214,215も同時に離れる。したがって、スライドコア211は、ロッキングブロック214に図5の状態に保持されていたショルダボルト217がスプリング216に引っ張られて、間隙の分だけ図6に示すようにスライドコア222上をスライドブロック213に衝接状態に移動させる。これにより、スライドコア211の溝形成部214が全体のスライドコア21の移動方向に対してアンダーカットになる部分に沿って移動して、その後はアンギュラピン51がスライドブロック213のスライド孔218から抜け出すまで支持ブロック100の移動とともに、図7に示す状態まで製品1からスライドコア211が離脱していく。
【0021】また、スライドコア211が対応するリード溝21のアンダーカットの溝面とは反対向きの溝面に対応して設けられた図8に示すスライドコア223は、スライドコア222と共通のスライドブロック213に固定されたスライドコア212の面に沿って図上斜め上向きにスライドすることができるように設けられている。そして、図1に示す組み立てられた状態では、ロッキングブロック215とは反対側の他方のロッキングブロック220が係合して、間隙223′を空けて成形状態に保持されている。
【0022】上記スライドコア211と同様に、円筒体の製品1の射出成形が終了して、プレート100が境界面102から分離されて成形された製品1からスライド2が離脱される以前に、アンギュラピン51が貫通されているスライド孔218の遊びの分だけ移動すると、図8R>8に示すようにロッキングブロック220が、その端部が取り付けられた支持ブロックIVとV がその間の境界面108から分離されると、スライドコア223およびスライドブロック213から離れて、間隙223′の間隔だけスライドコア223は、取り付けられたショルダボルト224のスプリング225によって引っ張られる。そして、固定されたスライドコア212の面に沿って図面上で斜め上向きに、リード溝のアンダーカット部における溝面に沿った移動をして、スライドブロック213に図9に示すように衝接する。
【0023】この後、スライドコア213は、図7に示すスライドコア211の場合と同様に、アンギュラピン51がスライド孔218から抜け出すまで、スライドブロック213と一体の他のスライドコア211,212,222とともに、製品1から離れて移動していく。
【0024】なお、スライドコア211および223は、図示されていないがそれぞれスライドコア222および212とあり溝等でスライド可能に接続されるとともに、スライドコア212および222に対してはそれぞれスライドブロック213に固定されている。
【0025】以上のように、樹脂成形用スライド2は、円筒体の製品1のリード溝12,13、それも軸線方向に対して垂直の溝面を有するリード溝12,13を形成するために、スライド2を樹脂成形後に離脱させるときに、離脱方向に対してアンダーカットとなる部分に対してもスライド2は形成された溝面に沿って移動させることができ、成形された円筒体は、スライドがリード溝に当たって溝を損傷することなく形成され、精度のよいリード溝を形成することができ、従来の樹脂製円筒体のようにスライドの抜きしろを有するリード溝の溝面を形成することなく、円筒体が成形され耐久性においても勝るという優れた効果を奏する。
【0026】また、実施態様として、スライドは分割されていて、アンダーカットの程度が大きくなる部分においては、さらに細分されかつリンクで接続されているので、一方向の離脱では対処しきれないアンダーカット部でも十分に細分割されたスライドのそれぞれの離脱方向をそれぞれの溝面に沿って向けることによりさらに精度の高いリード溝が得られる。
【0027】
【発明の効果】本発明は、上述のとおり構成されているので、上記構成の円筒体の樹脂成形用スライドは、以下のような効果を奏する。軸線方向に回転移動させるためのリード溝を円筒体の外周部に形成するための溝形成部を有し、かつ製品からの離脱方向の移動を行う分割されたスライドコアを備えているので、その型部による樹脂の射出成形によってリード溝を有する円筒体が形成され、その後で分割されたスライドコアが離脱するよう移動されると、成形されたリード溝のアンダーカット部に沿ってそれぞれスライドコアが移動して回避することができ、溝面を損傷することなく、製品として精度のよい樹脂製の円筒体をその中心方向に向かって勾配なしの溝を有して得ることができるという優れた効果がある。
【0028】また、スライドコアが、リード溝の移動方向に対するアンダーカットの程度が大きくなる部分において、さらに細分割されているので、アンダーカット部に対する処理が異なった溝面の方向に細密に行われ、さらに精度の高い製品が得られる。
【0029】また、複数に分けられたスライドコアがリンクによって連結され、成形後の製品からの離脱方向の運動によって一体に移動するとともに、さらに各スライドコアがアンダーカット部に沿って個々に移動することができ、アンダーカットの厳しい溝に対しても十分に対応することができ、精度の高い製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る円筒体の樹脂成形用スライドの図2におけるI−I線に沿った断面図。
【図2】図1の面102に概略沿った断面図。
【図3】本発明に係る樹脂成形用スライドによって得られた製品の正面図。
【図4】図3の部分拡大図。
【図5】図1に示すスライドの部分断面図。
【図6】図5の分割されたスライドの一方のスライドコアの離脱状態における途中の段階を示す部分断面図。
【図7】同図6のスライドの完全に離脱された状態を示す部分断面図。
【図8】同図5のスライドの分割された他方のスライドコアの部分断面図。
【図9】図8のスライドコアの離脱状態における途中の段階を示す部分断面図。
【符号の説明】
1 製品
2 スライド
3 可動側入子
4 固定側入子
12,13 リード溝
14,15 アンダーカット部
21−26 分割されたスライド
31 可動入子
51,52 アンギュラピン
61 スプルー
62 ランナー
63 ランナーロックピン
64 スプルーブッシュ
65 ロケートリング
100 固定側プレート
101 可動側プレート
102,104,106,108 プレートの離脱面
211,212 分割されたスライドコア
213 スライドブロック
214,215,220 ロッキングブロック
216,224 ショルダ・ボルト
217,225 スプリング
218 アンギュラピン孔
219 リード溝形成部
221 ストップボール
241 スライドコア
242 スライドブロック
243 ロッキングブロック
244 アンギュラピン孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】 軸線方向へ回転移動させるためのリード溝を外周部に有する円筒体の樹脂成形用金型にして、前記円筒体の軸線に対して直角となる溝面を有した前記リード溝を形成するための溝形成部を有するスライドコアを備え、該スライドコアが複数に分割されていて、前記分割されたスライドコアが成形後の前記スライドコアの離脱方向に対してアンダーカットとなる前記溝面に沿って移動することができるように構成されていることを特徴とする円筒体の樹脂成形用金型。
【請求項2】 請求項1に記載の樹脂成形用金型において、前記スライドコアが、その移動方向に対する前記リード溝のアンダーカットの程度が大きくなる部分においては、さらに溝面に沿って移動可能に細分割されていることを特徴とする円筒体の樹脂成形用金型。
【請求項3】 請求項2に記載の樹脂成形用金型において、前記複数に分割されたスライドコアがリンクによって連結され、前記分割されたスライドコアがそれぞれ異なった角度のアンダーカットに応じた方向の移動を可能にしたことを特徴とする円筒体の樹脂成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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