説明

円筒体の樹脂成形用金型

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、円筒体の樹脂成形用金型に関し、特に、円筒体の成形品に形成されるリード溝において成形後の金型離脱方向に対して生じるアンダーカット部に対応することができる樹脂成形用金型に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、カメラ等のレンズ用筒体の製作においては、円筒体の外周部にリード溝を形成する場合、円筒体がアルミ製であるために、切削によって形成している。その際、工具とワークの相対的な移動により円筒体の表面に軸線方向に対して斜めに位置するリード溝が形成される。
【0003】最近では、このような円筒体においても、強度的に問題にならず製作の容易さから樹脂成形されることが多くなってきた。その際、円筒体に軸線方向と交差する方向のリード溝を形成する場合、このリード溝には成形型を離脱させる方向に対してアンダーカットが生じるために、溝面には型抜きのための逃げを必要としている。その一例として、特開昭60−32609号公報に記載されたものがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このように、アルミ製の円筒体にリード溝を切削によって形成することは、現在の技術では問題なく製作することができるものの、目的、用途によっては、工具の設定、後処理等で面倒な作業を伴い、効率的でなかった。
【0005】そこで採用された樹脂成形においては、現在の樹脂では強度的に問題がないものの、円筒体のリード溝のように、その外周表面に軸線方向に対して交差するリード溝を形成しようとすると、溝面に逃げを形成しなければならない。
【0006】そこで、このようなリード溝を円筒中心に向かい勾配を有しない溝とすることが必要となるが、その成形用金型を取り外す時には、金型の離脱方向に対しては溝がアンダーカット部を有することになるので、金型の一方向のみの移動では、アンダーカット部が破損することになり、製品の精度を低下させ不良品となってしまう。
【0007】本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、円筒体にその軸線方向に回転移動させるためのリード溝が、軸線に対して垂直な方向の溝面を有して精度、強度の低下なくその外周部に形成されることができる円筒体の樹脂成形用金型を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の円筒体の樹脂成形用金型は、軸線方向へ回転移動するためのリード溝をその外周部に有する円筒体の樹脂成形用金型であって、リード溝を円筒体の軸線に対して直角となる溝面を有して螺旋状に形成するようにした円筒体の樹脂成形用金型において、円筒体の樹脂成形用空間を形成し、かつリード溝を形成するための溝形成部を成形用空間側に設けたスライドコアを、成形後に円筒体からその半径方向に離脱することができるように円周方向に複数設け、スライドコアのそれぞれを、溝形成部の前記リード溝に対するアンダーカット部に沿って成形用空間の軸線方向に分割し、分割されたスライドコアのアンダーカット部を有する側をアンダーカット用スライドコアとし、そして分割されたスライドコアにおける分割面側に、アンダーカットを回避する方向にアンダーカット用スライドコアを案内する係合部を有することを特徴とする。
【0009】上記スライドコアの移動方向に対して前記リード溝のアンダーカットの程度が大きくなる分割されたスライドコアにおいては、アンダーカット用スライドコアがアンダーカットを回避する方向にさらに細分割されていることを特徴とする。
【0010】
【作用】上記のような円筒体の樹脂成形用スライドにおいては、軸線方向に回転移動させるためのリード溝を円筒体の外周部に形成するための溝形成部を有するスライドコアを円周方向に複数有するとともに、かつ製品からの離脱する半径方向の移動を行うとともに、溝形成部側の成形用空間の軸線方向に溝形成部に沿って分割し分割されたスライドコアのアンダーカット部を有する側をアンダーカット用スライドコアとし、この分割されたスライドコアの分割面側に、アンダーカット部を回避する方向にアンダーカット用スライドコアを案内する係合部を有しているので、その型部による樹脂の射出成形によってリード溝を有する円筒体が形成され、その後でそれぞれのスライドコアが離脱するよう移動されると、成形された円筒体のリード溝のアンダーカット部に沿ってそれぞれアンダーカット用スライドコアが係合部により案内されて移動し回避することができ、溝面を損傷することなく、製品として精度のよい樹脂製の円筒体をその中心方向に向かって勾配なしの溝を有して得ることができる。
【0011】また、スライドコアが、リード溝の移動方向に対するアンダーカットの程度が大きくなる部分において、さらにアンダーカット用スライドコアが細分割されているので、アンダーカット部に対する処理が異なった溝面の方向に細密に行われ、さらに精度の高い製品が得られる。
【0012】また、複数に分けられたスライドコアがリンクによって連結され、成形後の製品からの離脱方向の運動によって一体に移動するとともに、さらに各スライドコアがアンダーカット部に沿って個々に移動することができ、アンダーカットの厳しい溝に対しても十分に対応することができ、精度の高い製品を得ることができる。
【0013】
【実施例】実施例について図面を参照して以下のごとく説明する。図1は図2のI−I線に沿った断面図であり、これらの図に示されるように、本発明の一実施例である円筒体を成形するためのスライド2を用いて樹脂成形機は、それぞれI,II,III,IV,V,VI等からなり、成形工程においては、それぞれ境界面102,104,106,108において分離されるようになっている。図1に示される樹脂成形機の状態は、射出成形における樹脂注入が可能なように組み立てられた状態である。スライド2を含む主要部は、プレート101に取り付けられている。製品をなす下入子3の可動側入子31および固定側入子4とスライドコア21−26との間の空間には、ロケートリング65,スプルーブッシュ64に設けられ樹脂流路を通って、ランナーロックピン63に支持されたランナー62およびスプルー61を経て溶融樹脂が注入され、樹脂成形が行われる。
【0014】樹脂成形された製品1は、図3および図4に示すように、円筒体の周面に形成されるリード溝12を有し、このリード溝12がそこにピンが係合して、円筒体を軸線方向に移動させるために、軸線方向に直角の溝面を設けるのがよいことから、スライドの離脱される方向に対してはアンダーカット部14,15を生じることになる。このようなアンダーカット部14,15に対応するために、スライド2は、それぞれスライドコア21−26として複数設けられている。そしてそれらと一体のスライドブロック213,214が成形終了後離脱される際に、下入子3側からそれぞれが離脱方向を異にして移動することができる。下入子3の可動側入子31は、成形された製品1と共にスライド2の離脱後に成形された溝形状に合わせて離脱させることができる。この可動側入子31によって、表面側から対応できない成形部分に対しても成形を可能にすることができる。
【0015】上記のようなスライド2における円周方向に複数に分かれた1つであるスライドコア21において、成形された製品1のアンダーカット14,15に対応するようにそれぞれのスライドコア21において円筒体の樹脂成形用空間の軸線方向に分割された上側のスライドコア212および下側のスライドコア222別体分割されたスライドコア211,223を有する場合について説明する。これらの別体に分割されたスライドコアはアンダーカット用スライドコア211,223と称される。そして、図5に示すように、図上斜め下方にスライドするアンダーカット用スライドコア211は、下側の分割されたスライドコア222上を斜め下方向に移動可能なようにショルダボルト216の端部が固定され、スライドブロック213内に内蔵されてスプリング217によって衝接方向に付勢するよう設けられている。図示していないが、アンダーカット用スライドコア211とアンダーカットにならないスライドコアの部分の下側のスライドコア222は、、互いにあり溝等係合部で摺動のみ可能なように係合されている。また、下側のアンダーカット用スライドコア223は、スライドブロック213に取り付けられた上側の分割されたスライドコア212に対して、上記アンダーカット用スライドコア211および222と同様に設けられた係合部に沿って斜め上方向にスライドするように、スライドコア213内に内蔵された衝接方向に付勢するスプリング225を具備したショルダボルト224が取り付けられている。なお、以下の説明において、各スライドコアの位置および移動方向は、図5から図9までに示された状態で説明されている。
【0016】また、上記アンダーカット用スライドコア211,上側の分割されたスライドコア212に対向する成形用スライドコア241は、スライドブロック242と一体で、スライド孔244を有し、プレート100に固定されたアンギュラピン52が嵌合されて、プレート100の移動と共に、アンダーカット用スライドコア211,223および上側の分割されたスライドコア212、下側の分割されたスライドコア222をプレート101に固定するために、図1に示すように、スライドコアおよびスライドブロックに係合するロッキングブロック214を備えていて、これらのロッキングブロック214,215,220および243は、プレートIIIおよびVの分離時に各スライドコア、スライドブロックから離脱していく。その際、ロッキングブロック215は、アンダーカット用スライドコア211とスライドブロック213との間に、下側の分割されたスライドコア222上に沿って溝深さだけの間隙を設けるように位置されている。
【0017】図2に示すような他のスライドのスライドコア22,23および25,26においても、半径外方向に上下入子3,4から離脱するように、上記と同様の構成を有し、後述する作用においても同じである。
【0018】上記のような構成において、図1の状態で樹脂が注入され硬化した後、各プレートI,II,III,IV,VおよびVIは、離脱用の境界面102,104,106および108において順次切り離されるが、ここでは最も注目すべきスライド2が製品1から離脱されプレートIIIおよびIVが境界面102において切り離される場合について、以下において説明する。
【0019】まず、スライドコア21を一体として考えると、図5において斜め下方向に移動するアンダーカット用スライドコア211に注目した場合、プレート100の切り離しにおいて、スライドコア21は、プレート100の移動に伴い、まずこのアンギュラピン51が貫通したスライドブロック213のスライド孔218内の遊びの分だけ図6に示すように、スライドコア21を残してロッキングブロック214,215も同時に離れる。したがって、アンダーカット用スライドコア211は、ロッキングブロック214に図5の状態に保持されていたショルダボルト216がスプリング217に引っ張られて、間隙の分だけ図6に示すように下側の分割されたスライドコア222上をスライドブロック213に衝接状態に移動させる。これにより、アンダーカット用スライドコア211の溝形成部214が全体のスライドコア21の移動方向に対してリード溝のアンダーカットになる部分に沿って移動して、その後はアンギュラピン51がスライドブロック213のスライド孔217から抜け出すまで支持プレート100の移動とともに、図7に示す状態まで製品1からアンダーカット用スライドコア211が離脱していく。
【0020】また、アンダーカット用スライドコア211が対応するリード溝21のアンダーカットの溝面とは反対向きの溝面に対応して設けられた図8に示す下側のアンダーカット用スライドコア223は、下側の分割されたスライドコア222と共通のスライドブロック213に固定された上側の分割されたスライドコア212の面に沿って図上斜め上向きにスライドすることができるように設けられている。そして、図1に示す組み立てられた状態では、ロッキングブロック215とは反対側の他方のロッキングブロック220が係合して、間隙223′を空けて成形状態に保持されている。
【0021】上記アンダーカット用スライドコア211と同様に、円筒体の製品1の射出成形が終了して、プレート100が境界面102から分離されて成形された製品1からスライド2が離脱される以前に、アンギュラピン51が貫通されているスライド孔218の遊びの分だけ移動すると、図8に示すようにロッキングブロック220が、その端部が取り付けられた支持ブロックIVとVがその間の境界面103から分離されると、下側のアンダーカット用スライドコア223およびスライドブロック213から離れて、間隙223′の間隔だけアンダーカット用スライドコア223は、取り付けられたショルダボルト224のスプリング225によって引っ張られる。そして、固定された上側の分割されたスライドコア212の面に沿って図面上で斜め上向きに、リード溝のアンダーカット部における溝面に沿った移動をして、スライドブロック213に図9に示すように衝接する。
【0022】この後、スライドブロック213は、図7に示す上側のアンダーカット用スライドコア211の場合と同様に、アンギュラピン51がスライド孔218から抜け出すまで、スライドブロック213と一体の他のスライドコア211,212,222とともに、製品1から離れて移動していく。
【0023】なお、アンダーカット用スライドコア211および223は、図示されていないがそれぞれ上側の分割されたスライドコア212および下側の分割されたスライドコア222に対してはそれぞれスライドブロック213に固定されている。
【0024】以上のように、樹脂成形用スライド2は、円筒体の製品1のリード溝12,13、それも軸線方向に対して垂直の溝面を有するリード溝12,13を形成するために、スライド2を樹脂成形後に離脱させるときに、離脱方向に対してアンダーカットとなる部分に対してもスライド2は形成された溝面に沿って移動させることができ、成形された円筒体は、スライドがリード溝に当たって溝を損傷することなく形成され、精度のよいリード溝を形成することができ、従来の樹脂製円筒体のようにスライドの抜きしろを有するリード溝の溝面を形成することなく、円筒体が成形され耐久性においても勝るという優れた効果を奏する。
【0025】また、実施態様として、アンダーカットの程度が大きくなる部分においては、さらに、アンダーカットになるアンダーカット用スライドコアがアンダーカットにならない方向へ溝面に沿って移動可能とするように、このアンダーカット用スライドコアをさらに細分割して、かつこのように細分割されたアンダーカット用スライドコアを互いにリンクで接続することにより、成形後の製品からの離脱方向の運動によって連係して移動することができ、一方向の離脱では対処しきれないアンダーカット部分でも十分に細分割されたスライドコアのそれぞれの部分の離脱方向をそれぞれの溝面に沿って移動させることによりさらに精度の高いリード溝が得られる。さらに、一体の移動の際には、各スライドコアがリンクにより連結されているので、アンダーカット部に沿って個々に移動させることができ、アンダーカットの厳しい溝に対しても十分に対応することができ、精度の高い製品を得ることができる。
【0026】
【発明の効果】本発明は、上述のとおり構成されているので、上記構成の円筒体の樹脂成形用金型は、以下のような効果を奏する。軸線方向へ回転移動させるためのリード溝を外周部に有する円筒体である、リード溝を円筒体の軸線に対して直角となる溝面を有して螺旋状に形成するようにした円筒体の樹脂成形用金型において、円筒体の樹脂成形用空間を形成しかつリード溝を形成するための溝形成部を樹脂成形用空間側に設けたスライドコアを、成形後に円筒体からその半径外方向に離脱することができるように複数設け、スライドコアのそれぞれを、溝形成部のリード溝に対するアンダーカット部に沿って成形用空間の軸線方向に分割し、分割されたスライドコアのアンダーカット部を有する側をアンダーカット用スライドコアとし、そして分割されたスライドコアにおける分割面側に、アンダーカットを回避する方向にアンダーカット用スライドコアを案内する係合部を有しているので、その型部による樹脂の射出成形によってリード溝を有する円筒体が形成され、その後で分割されたスライドコアが離脱するよう移動されると、ガイドによって成形されたリード溝のアンダーカット部に沿ってそれぞれアンダーカット用スライドコアが移動してリード溝のアンダーカットの部分を回避することができ、リード溝の溝面をスライドコアのアンダーカットになる部分によって損傷することがなく、製品として精度のよい樹脂製の円筒体がその中心方向に向かって勾配なしの溝を有したものとして得ることができるという優れた効果がある。
【0027】また、スライドコアの移動方向に対するリード溝のアンダーカットの程度が大きくなる部分においては、さらにアンダーカットスライドコアがアンダーカットにならない方向へ溝面に沿って移動可能とするように、アンダーカット用スライドコアが細分割されているので、アンダーカット用スライドコアによってリード溝のアンダーカットになる部分に対する処理が細密に行われ、さらに精度の高い製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る円筒体の樹脂成形用スライドの図2におけるI−I線に沿った断面図。
【図2】図1の面102に概略沿った断面図。
【図3】本発明に係る樹脂成形用スライドによって得られた製品の正面図。
【図4】図3の部分拡大図。
【図5】図1に示すスライドの部分断面図。
【図6】図5の分割されたスライドの一方のスライドコアの離脱状態における途中の段階を示す部分断面図。
【図7】同図6のスライドの完全に離脱された状態を示す部分断面図。
【図8】同図5のスライドの分割された他方のスライドコアの部分断面図。
【図9】図8のスライドコアの離脱状態における途中の段階を示す部分断面図。
【符号の説明】
1 製品
2 スライド
3 可動側入子
4 固定側入子
12,13 リード溝
14,15 アンダーカット部
21−26 スライドコア
31 可動入子
51,52 アンギュラピン
61 スプルー
62 ランナー
63 ランナーロックピン
64 スプルーブッシユ
65 ロケートリング
100 固定側プレート
101 可動側プレート
102,104,106,108 プレートの離脱面
211,223 アンダーカット用スライドコア
212 上側の分割されたスライドコア
213 スライドブロック
214,215,220 ロッキングブロック
216,224 ショルダ・ボルト
217,225 スプリング
218 アンギュラピン孔
219 リード溝形成部
221 ストップボール
222 下側の分割されたスライドコア
241 成形用スライドコア
242 スライドブロック
243 ロッキングブロック
244 アンギュラピン孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】 軸線方向へ回転移動するためのリード溝をその外周部に有する円筒体の樹脂成形用金型であって、前記リード溝を前記円筒体の軸線に対して直角となる溝面を有して螺旋状に形成するようにした円筒体の樹脂成形用金型において、前記円筒体の樹脂成形用空間を形成し、かつ前記リード溝を形成するための溝形成部を前記成形用空間側に設けたスライドコアを、成形後に前記円筒体からその半径方向に離脱することができるように円周方向に複数設け、前記スライドコアのそれぞれを、前記溝形成部の前記リード溝に対するアンダーカット部に沿って前記成形用空間の軸線方向に分割し、該分割されたスライドコアのアンダーカット部を有する側をアンダーカット用スライドコアとし、そして前記分割されたスライドコアにおける分割面側に、アンダーカットを回避する方向に前記アンダーカット用スライドコアを案内する係合部を有することを特徴とする円筒体の樹脂成形用金型。
【請求項2】 請求項1に記載の樹脂成形用金型において、前記スライドコアの移動方向に対して前記リード溝のアンダーカットの程度が大きくなる前記分割されたスライドコアにおいては、前記アンダーカット用スライドコアがアンダーカットを回避する方向にさらに細分割されていることを特徴とする円筒体の樹脂成形用金型。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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