説明

円筒体の製造方法

【課題】シュリンク工程、溶接工程、拡管工程を工夫することにより、真円度の小さい円筒体を製造する方法を得る。
【解決手段】板状金属の被加工物1をロール成形によりオープンパイプ状に形成し、シュリンク工程によって被加工物1の突合せ部1aを閉じ、溶接工程によって突合せ部1aを溶接し、拡管工程によって内径側を拡管して所定の内径の円筒体を製造する円筒体の製造方法において、シュリンク工程では、突合せ部1aをほぼ鉛直上方又は下方に向けて被加工物1をシュリンク装置2の上下の金型21a,21bの内側にセットし、突合せ部1aの位置を位置決め用突起24で保持しながら金型21aを鉛直方向に駆動してシュリンク加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、板状の金属部材からなる被加工物をオープンパイプ状に成形し、その突き合せ部を溶接して円筒体を製造する、円筒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
板状の被加工物を曲げ加工して真円に近い短管を形成する場合は、例えば、以下に示す工程に従って行なわれている。
(1)板状の被加工物の両側部(突合せ部となる部位)を端曲げ加工する端曲げ加工工程
(2)被加工物をロール成形によりオープンパイプ状に形成する曲げ加工工程
(3)ロール成形後のオープンパイプ状の被加工物の突き合せ部を溶接して管材にする溶接工程
(4)溶接した管材の形状を整え、真円度を小さくするための拡管工程
上記(1)〜(4)の各工程において、管材の真円度を小さくする手法が種々提案されている。
【0003】
例えば、(1)(2)の工程をロール成形ではなくプレス成型により行うUOE鋼管の製造方法として、U形鋼板にOプレスを行ってUOE鋼管を製造する際に、Oプレスを複数回に分けて行うと共に、複数回の前記Oプレスそれぞれにおけるダイスに対するU形鋼板の突き合わせ部の位置を変更するようにして、UOE鋼管の真円度等の寸法精度を改善する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、(4)の工程を行う拡管装置として、例えば、円筒成形物の内周面と当接する外周面を有するとともに、円周方向に複数個に分割され、かつ、各分割部材は円筒成形物の軸心に対して半径方向に往復動作可能に設けられたダイ部材と、このダイ部材の中心部に挿入されると共に、円筒成形物の軸心方向に沿って往復動作可能に設けられた挿入棒とを備え、挿入棒の軸心方向への往復動作に連動して、分割されたダイ部材が半径方向に往復動作して円形に成形する拡管装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−285729号公報(第2頁、図1)
【特許文献2】特開平2−84220号公報(第1頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの手法を用いて管材を製造した場合、管材の径および板厚にもよるが、例えば内径140〜160mm,板厚5〜6mm程度の場合、溶接部近傍を除いた部分の真円度は150〜200μm程度が限界となる。これは、
(ア)上記(1)〜(3)までの工程で生じる被加工物の歪みのうち特に突合せ部近傍の歪みは、(4)の拡管工程のみで矯正しきれない。
(イ)上記(3)の溶接工程での溶接部は硬くなるため、(4)の拡管工程で管材の円周方向の伸びが不均一になる。
の2点が原因となっている。以下にこの2点の詳細について説明する。
【0006】
図7及び図8は、上記(2)の工程のうち、引用文献1の場合のOプレス機と類似の装置を用いて、突合せ部の開口が大きいオープンパイプ状の被加工物を、開口部がほぼ突き合わされた状態にシュリンク成形するシュリンク工程において、被加工物の姿勢と加工後の断面形状を説明する図である。
図7は、シュリンク時のシュリンク金型の内径(被加工物の外径と接触する部位)が真円であり、かつ被加工物の突合せ部を鉛直真上に向けて加工する場合を示している。すなわち、(a)のように、被加工物51の突合せ部を鉛直真上にしてセットした状態で、シュリンク金型52a,52bを上下方向に駆動してシュリンクする。(b)はその場合のシュリンク工程後の被加工物51の内径形状を示す。図中のy軸は、内径形状の最小自乗中心と突合せ部中心を結ぶ方向の軸線を示しており、以下同様とする。なお、真円とのズレを分かりやすくするため、直径が被加工物の平均径と一致する真円との半径方向のズレを誇張して表示している。また、(c)は突合せ部を溶接した後に、内径を広げる拡管工程時のセグメントの状態を示す図である。
【0007】
シュリンク工程後の被加工物の形状が(b)のようになるのは、シュリンク金型52a,52bと被加工物51との間の摩擦が原因となっている。つまり図7(a)に示す部位Aに比べ、部位Bではシュリンク金型と被加工物との間に生じる円周方向の摩擦力が大きいため、円周方向平均圧縮応力が小さくなるためである。
【0008】
図8は、図7と同様なシュリンク工程において、被加工物の突合せ部を左斜め上を向けて加工した場合の説明図である。すなわち、被加工物51を(a)のようにセットした場合であり、(b)はその場合のシュリンク工程後の被加工物51の内径形状を示す。この場合も図7と同様に、(a)の部位Aに比べ部位Bでは円周方向平均圧縮応力が小さくなる。しかし、部位A,Bと突合せ部との相対位置関係が異なっているため、シュリンク工程後は(b)のような形状となる。すなわち、図7(b)の場合とは異なり、y軸に対する対称性が損なわれた形状となっている。
【0009】
このような被加工物51を溶接し拡管すると、拡管装置のセグメント53は、図7の場合では図7(c)のように、図8の場合では図8(c)のように広がろうとする。ここで図8(c)は分かりやすくするためズレを誇張して表示している。
図8のように、シュリンク時に突合せ部が鉛直真上または真下を向いていない場合、被加工物51の内径形状に影響されて(c)のようにセグメント53が円周方向に回転し、結果的に管材の真円度が低下してしまうことになる。
【0010】
上記特許文献2の拡管装置では、セグメントに相当するダイ部材と、ダイ部材の内側にあって軸方向に往復摺動しダイ部材を径方向に移動させる挿入棒との間に、桟状の案内部材を設けて円周方向にずれないような工夫はなされているが、摺動部には僅かな遊びがあるために、被加工物の内径形状がy軸に対して対称性を損なっている場合には、やはり真円度の低下を避けるのは難しかった。
【0011】
また、シュリンク工程において、グリスや潤滑皮膜等でシュリンク金型と被加工物との間の摩擦を低減し、シュリンク工程後の形状を真円に近づけることで、突合せ部の向きに関らず対称性をできるだけ損なわないようにすることは可能であるが、単にシュリンク工程で真円に近づけるだけでは、拡管後の真円度が逆に大きくなる場合がある。これは溶接部が他の部分に比べ硬化して伸びにくくなるため、拡管工程前の段階で被加工物の真円度が小さいと、拡管時の円周方向の伸びの不均一が原因で、真円度は悪化してしまうためである。
【0012】
この発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、シュリンク工程、溶接工程、拡管工程を工夫することにより、真円度の小さい円筒体の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係わる円筒体の製造方法は、板状金属の被加工物をロール成形によりオープンパイプ状に形成し、シュリンク工程によって被加工物の突合せ部を閉じ、溶接工程によって突合せ部を溶接し、拡管工程によって内径側を拡管して所定の内径の円筒体を得る円筒体の製造方法において、シュリンク工程では、突合せ部の中心をほぼ鉛直上方又は下方に向けて、被加工物をシュリンク装置の上下の金型の内側にセットし、位置決め部材によって突合せ部の位置を保持しながら金型を鉛直方向に駆動させてシュリンク加工するものである。
【0014】
また、溶接工程では、被加工物の径方向断面の最小2乗中心と溶接部中心とを結ぶ直線をy軸とするとき、y軸方向の直径が、y軸に直交方向の直径より短くなるように溶接装置で矯正しながら溶接を行うようにしたものである。
【0015】
また、溶接工程では、被加工物の径方向断面の溶接部近傍の曲率半径が、拡管後の目標半径と一致するように溶接装置で拘束しながら溶接を行うようにしたものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明の円筒体の製造方法によれば、シュリンク工程では、突合せ部の中心をほぼ鉛直上方又は下方を向けて、被加工物をシュリンク装置の上下の金型の内側にセットし、位置決め部材によって突合せ部の位置を保持しながらシュリンク加工するようにしたので、被加工物の断面形状が、突合せ部に対して対称性を損なわないようにシュリンク加工できるため、最終の拡管工程で真円度の小さい円筒体を得ることができる。
【0017】
また、溶接工程では、被加工物の径方向断面のy軸方向の直径がy軸に直交方向の直径より短くなるように溶接装置で矯正しながら溶接を行うようにしたので、溶接部近辺が熱歪によりy軸方向に延びようとするのを抑制できるため、最終の拡管工程で真円度の小さい円筒体を得ることができる。
【0018】
また、溶接工程では、被加工物の径方向断面の溶接部近傍の曲率半径が拡管後の目標径と一致するように溶接装置で拘束しながら溶接を行うようにしたので、溶接後には変形しづらい溶接部近傍の曲率半径を目標半径にあわせることができ、最終の拡管工程で真円度の小さい円筒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施の形態1による円筒体の製造方法のシュリンク装置を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図を示す。
【図2】この発明の実施の形態1による円筒体の製造方法の溶接装置を示す図であり、(a)は上面図、(b)は側面断面図、(c)は(b)のc−c断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1による円筒体の製造方法の拡管装置を示す図であり、(a)は正面断面図、(b)は(a)のb−b断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1によるシュリンク工程前の被加工物の断面形状を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態1によるシュリンク工程の一連の流れを説明する説明図である。
【図6】この発明の実施の形態1による拡管装置に被加工物をセットした時の、溶接部と各セグメントとの相対位置関係の説明図である。
【図7】シュリンク時に被加工物の突合せ部が鉛直真上に向くようにセットした時のシュリンク工程後の被加工物の内径形状を説明する説明図である。
【図8】シュリンク時に被加工物の突合せ部が左斜め上を向くようにセットした時のシュリンク工程後の被加工物の内径形状を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1による円筒体の製造方法を、図に基づいて説明する。
円筒体の製造工程は、背景技術の項で説明した(1)〜(4)と同様の工程から成っているので、まず、各工程で使用される装置から説明する。
但し、(1)と、(2)のロール成形によりオープンパイプに形成するまでの工程は、従来から知られた方法と装置で実施するので、それらの説明は省略する。以下では、突合せ部の開口幅が大きいオープンパイプ状の被加工物を、開口部を突き合わせて断面を略円形にするシュリンク工程から説明する。
【0021】
図1は、被溶接物1をシュリンク加工するためのシュリンク装置を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。シュリンク装置2にはシュリンク金型21が設けられており、シュリンク金型21は上金型21aと下金型21bによって構成されている。上金型21aは上ベース22に、下金型21bは下ベース23に固定されている。上ベース22側はシュリンク駆動手段(図示せず)によって太矢印のように上下に駆動される。上金型21aと下金型21bとが合わさったとき、被加工物1の外面と接触する金型内面は真円になるように形成されている。
また、シュリンク時の被加工物1の突合せ部1aに嵌合する位置決め用突起24を有するマンドレル25が、両金型21a,21bの内部に配置されている。マンドレル25は,側面図(b)に示すように、マンドレル25を保持すると共に上下に駆動させるマンドレル駆動手段26を備えている。
なお、図では、位置決め用突起24はマンドレル25の鉛直上方に設けた場合を示しているが、鉛直下方にあっても良く、金型の駆動方向と一致していれば良い。
【0022】
次に溶接工程に用いられる溶接装置3について説明する。
図2は、溶接装置3を示す図であり、(a)は上面図、(b)は側面断面図、(c)は(b)のc−cから見た正面断面図である。
溶接装置3は、被加工物1が押し込まれるトンネル金型31と、被加工物1をトンネル金型31に押し込むプッシャー32と、被加工物1がトンネル金型31に押し込まれる際に被加工物1の位置決めを行なう位置決め刃33と、突合せ部1aを溶接する溶接手段34とを備えて構成されている。
【0023】
上記の位置決め刃33は、被加工物1の突合せ部1aが溶接手段34の直下に来るように位置決めするためのもので、溶接手段34と同じ軸線上に配置され、図示しない固定手段でトンネル金型31に取り付けられている。溶接手段34も、図示しない固定手段でトンネル金型31に固定されて一体と成っている。また、プッシャー32は、プッシャー駆動手段(図示せず)を備えており太矢印の方向に駆動できるように構成されている。
ここで、トンネル金型31の、被加工物1が通過するトンネル部31aの径方向断面の形状は、真円ではなく、(c)に示すように、y軸方向の直径がy軸に直交方向の直径より僅かに短軸となる楕円形状とし、更に、トンネル部31aの、突合せ部1aと接触する部分近傍(及びその180度反対側)の曲率半径が拡管工程後の被加工物1の目標半径と一致するようにしている。
【0024】
次に拡管工程に用いられる拡管装置4について説明する。
図3は拡管装置4を示す図であり、(a)は正面断面図、(b)は(a)のb−bから見た断面図である。図のように、複数のセグメント41とプッシャー42とガイド43を有する拡管機構部と、拡管機構部の径を変化させるために、プッシャー42を駆動する拡管用駆動手段部(図示せず)とを有している。セグメント41とプッシャー42とは、互いに摺動可能な傾斜面を有して嵌合されている。
図中の白抜き矢印のうち、横方向のものはセグメント41の移動可能な方向を示し、縦方向のものはプッシャー42の移動可能な方向を示している。つまりプッシャー42を拡管用駆動手段部で押し込むことで傾斜面で摺動しセグメント41が径方向に広がる。なお、セグメント41の径方向の移動はガイド43によって、最大でもセグメント41とガイド43との間に設けた隙間分になるように規制されている。
【0025】
次に各装置の動作について示す。
被加工物1は、説明は省略したが、まず、板状の金属部材からなる被加工物1をロール成形してオープンパイプ状に形成する。図4は、ロール成形後の被加工物1の断面形状を示す図である。図のように、成形後の被加工物1は、y軸に対してできるだけ対称になるように成形しておく。
開口部は、突き合わされて最終的に溶接により接続されて円筒体となるが、溶接されるまでは突合せ部1aと称し、溶接後は溶接部1bと称することにする。ロール成形後の段階では、突合せ部1aはまだ大きく開口している。
この段階に加工された被加工物1を、図1で説明したシュリンク装置2にセットする。図5は、シュリンク装置2に被加工物1をセットした状態を正面から見たもので、シュリンク工程の一連の流れを説明する説明図である。
【0026】
図5に基づいてシュリンク装置2の動作を説明する。(a)のように、被加工物1を突合せ部1aの中心をほぼ鉛直上方に向けて下金型21bにセットする。次に、(b)のように、位置決め用突起24を被加工物1の突合せ部1aに嵌まり込む位置まで、マンドレル25を上昇させる。その後、シュリンク駆動手段を作動させて、上金型21aを鉛直下向きに押し込んでいく。この時、上金型21aがある一定の高さまで押し込まれると、被加工物1の突合せ部1aの隙間が狭まり、両端が位置決め用突起24に接触するが、接触とほぼ同時に、マンドレル駆動手段26を作動させマンドレル25を下げて(c)のように中心部位に退避させ、その状態で上金型21aを更に押し込んで下金型21bに当接するまでシュリンク工程を続行する。最終段階では、被加工物1は略円形に成形され突合せ部1aは突き合わされた状態となるが、両金型21a,21bから外せば、スプリングバックで僅かに隙間が空いた状態となる。
【0027】
なお、位置決め用突起24をマンドレル25の鉛直下方に設け、被加工物1の突合せ部1aを鉛直下方に向けてセットし、上記と同様に加工するようにしても良い。
また、被加工物1と両金型21a,21bとの接触面の摩擦係数は0.15〜0.2程度とするのが望ましい。
【0028】
発明が解決しようとする課題の項で説明したように、シュリンク時に突合せ部が鉛直上方または下方(金型の駆動方向と同方向)を向いていることが、真円度の小さい円筒体を得る上で重要であるが、金型の駆動方向に対し突合せ部が±5度の範囲に収まる状態でシュリンクできれば、後工程の拡管工程でセグメントに円周方向の力が作用するのを抑制できることを、発明者らは実験及び解析により見出した。そして、上述のように、置決め用突起24を用いてシュリンク時に被加工物1を位置決めすれば、±5度の範囲に十分収まるようにシュリンク加工できることも実証した。
【0029】
次に、溶接装置3の動作を説明する。図2で説明した溶接装置3を用いて、先ず、位置決め刃33に、被加工物1の突合せ部1aの隙間が位置するように被加工物1をセットし、次に、プッシャー32を駆動させてトンネル金型31に被加工物1を押し込む。押し込まれた被加工物1の先端部が溶接手段34の直下に来たところで溶接手段34を用いて溶接を行なう。その後は被加工物1をプッシャー32で押し込みながら溶接を継続し、被加工物1の後端が溶接手段34の直下を通過した時点で溶接を終了する。さらに被加工物1をプッシャー32で押し込み、トンネル金型31から排出する。溶接された被加工物1の断面形状は、トンネル部31aで矯正されて、y軸方向の直径が、y軸に直交方向の直径より僅かに短い楕円形状で、且つ、溶接部1b近傍及びその180度反対側の曲率半径が拡管工程後の被加工物1の目標半径と同じになっている。
【0030】
次に、拡管装置4の動作について説明する。溶接装置3によって溶接部1bが形成された被加工物1を、拡管装置4にセットする場合に、セグメント41の継目部と被加工物1の溶接部1bとの周方向の関係は、図6(a)又は(b)になるようにセットする。すなわち、図6(a)のように、溶接部1bがセグメント41の継ぎ目に来るように被加工物1をセットするか、又は、図6(b)のように、セグメント41の中央に来るようにセットするものである。
セット後に、プッシャー42を被加工物1の目標径に対応した所定位置まで押し込むことで、セグメント41が径方向に広がり、被加工物1が目標径まで拡管されて円筒体が成形される。
【0031】
以上のようにして製造された被加工物である円筒体の製造方法の各工程における作用について説明する。
シュリンク工程においては、被加工物1の突合せ部1aをほぼ鉛直上方または下方(シュリンク金型の駆動方向と同方向)を向くように加工することが可能となり、シュリンク加工したときの被加工物1の断面形状の対称性を損なわないようできる。
次の溶接工程においては、溶接時に被加工物の断面形状をy軸方向が短軸になるように矯正したことにより、溶接工程時の熱歪により、被加工物1の溶接部がy軸方向に伸びようとするのを抑制できる。
また、溶接部近傍の曲率半径を拡管後の目標径と一致するようにしたので、溶接部近傍は溶接時の硬化により他の部分より伸びづらくなっているが、拡管工程での伸びの不均一を考慮したものになっているため、拡管での真円度を小さくできる。
そして、拡管工程においては、被加工物1の溶接部1bが拡管装置4のセグメント41の中央または継ぎ目に来るように被加工物1をセットすることにより、y軸に対する対称性が保持された状態で拡管できる。
従って、拡管後の被加工物の真円度を従来手法に比べて小さくできる。
【0032】
以上のように、実施の形態1の円筒体の製造方法によれば、板状金属の被加工物をロール成形によりオープンパイプ状に形成し、シュリンク工程によって被加工物の突合せ部を閉じ、溶接工程によって突合せ部を溶接し、拡管工程によって内径側を拡管して所定の内径の円筒体を得る円筒体の製造方法において、シュリンク工程では、突合せ部の中心をほぼ鉛直上方又は下方に向けて、被加工物をシュリンク装置の上下の金型の内側にセットし、位置決め部材によって突合せ部の位置を保持しながら金型を鉛直方向に駆動させてシュリンク加工するようにしたので、被加工物の断面形状が、突合せ部を基準にして対称性を損なわないようにシュリンク加工できるため、最終の拡管工程で真円度の小さい円筒体を得ることができる。
【0033】
また、溶接工程では、被加工物の径方向断面の最小2乗中心と溶接部中心とを結ぶ直線をy軸とするとき、y軸方向の直径が、y軸に直交方向の直径より短くなるように溶接装置で矯正しながら溶接を行うようにしたので、溶接部近辺が熱歪によりy軸方向に延びようとするのを抑制できるため、最終の拡管工程で真円度の小さい円筒体を得ることができる。
【0034】
また、溶接工程では、被加工物の径方向断面の溶接部近傍の曲率半径が拡管後の目標半径と一致するように溶接装置で拘束しながら溶接を行うようにしたので、溶接後には変形しづらい溶接部近傍の曲率半径を目標半径にあわせることができ、最終の拡管工程で真円度の小さい円筒体を得ることができる。
【0035】
更に、上記の各工程の方法を少なくとも2つ以上組み合わせることにより、より真円度の小さい円筒体を得ることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 被加工物 1a 突合せ部
1b 溶接部 2 シュリンク装置
3 溶接装置 4 拡管装置
21 シュリンク金型 21a 上金型
21b 下金型 22 上ベース
23 下ベース 24 位置決め用突起
25 マンドレル 26 マンドレル駆動手段
31 トンネル金型 31a トンネル部
32 プッシャー 33 位置決め刃
34 溶接手段 41 セグメント
42 プッシャー 43 ガイド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状金属の被加工物をロール成形によりオープンパイプ状に形成し、シュリンク工程によって前記被加工物の突合せ部を閉じ、溶接工程によって前記突合せ部を溶接し、拡管工程によって内径側を拡管して所定の内径の円筒体を得る円筒体の製造方法において、
前記シュリンク工程では、前記突合せ部の中心をほぼ鉛直上方又は下方に向けて、前記被加工物を前記シュリンク装置の上下の金型の内側にセットし、位置決め部材によって前記突合せ部の位置を保持しながら前記金型を鉛直方向に駆動させてシュリンク加工することを特徴とする円筒体の製造方法。
【請求項2】
板状金属の被加工物をロール成形によりオープンパイプ状に形成し、シュリンク工程によって前記被加工物の突合せ部を閉じ、溶接工程によって前記突合せ部を溶接し、拡管工程によって内径側を拡管して所定の内径の円筒体を得る円筒体の製造方法において、
前記溶接工程では、前記被加工物の径方向断面の最小2乗中心と溶接部中心とを結ぶ直線をy軸とするとき、前記y軸方向の直径が、前記y軸に直交方向の直径より短くなるように溶接装置で矯正しながら溶接を行うようにしたことを特徴とする円筒体の製造方法。
【請求項3】
板状金属の被加工物をロール成形によりオープンパイプ状に形成し、シュリンク工程によって前記被加工物の突合せ部を閉じ、溶接工程によって前記突合せ部を溶接し、拡管工程によって内径側を拡管して所定の内径の円筒体を得る円筒体の製造方法において、
前記溶接工程では、前記被加工物の径方向断面の溶接部近傍の曲率半径が、拡管後の目標半径と一致するように溶接装置で拘束しながら溶接を行うようにしたことを特徴とする円筒体の製造方法。
【請求項4】
前記請求項1〜請求項3の、少なくとも2つ以上を組み合わせたことを特徴とする円筒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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