説明

円筒形電池

【課題】封口性能を維持しつつ放電性能に優れた円筒形電池を提供する。
【解決手段】周囲にビーディング部11を有する有底円筒状の電池缶10の開口が内方にかしめられて、当該開口に略円盤状の封口体30がガスケット40を介して嵌着されている円筒形電池1であって、前記ガスケットは、ロックウェル硬度が115以上、122以下であり、前記電池缶の円筒軸50に直交する方向を水平方向として、前記封口体が嵌着されている部位での前記電池缶内方の水平断面積をA1とし、前記ビーディング部によって前記電池缶が最も内方に突出した位置における当該電池缶内方の水平断面積をA2としたときに、(A1−A2)/A1で表される面積比Arが10%以上、17%未満であることを特徴とした円筒形電池としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形電池に関し、具体的には、周囲にビーディング部を有する有底円筒状の電池缶の開口が内方にかしめられて、当該開口に略円盤状の封口体がガスケットを介して嵌着されている円筒形電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の円筒形電池の一例としてボビン形リチウム電池を挙げる。図1に当該ボビン形リチウム電池の構造を示した。当該図は、円筒軸50の延長方向を上下(縦)方向としたときの円筒形電池1の縦断面を示している。円筒形電池1は、有底円筒状の電池缶10、二酸化マンガン等の正極活物質を黒鉛等の導電助剤とともに中空円筒状に成形してなる正極合剤21、円筒状の金属リチウムやリチウム合金からなる負極リチウム22、円筒カップ状のセパレーター23、ガスケット40、封口体30などによって構成されている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
電池缶10は、金属製で、電池ケースと正極集電体を兼ねている。その外底面には凸状の正極端子部12がプレス加工により形成され、開口部近傍の周囲には絞り加工によるビーディング部11が形成されている。円筒形電池1は、この電池缶10内に、正極合剤21、セパレーター23、および負極リチウム22が電解液とともに収納されているとともに、電池缶10の開口端側に略円盤状の封口体30がガスケット40を介して嵌着されたものである。
【0004】
封口体30は、負極端子板31と封口板32とから構成されており、負極端子板31は金属製で、電池缶10の開口を上方とすると、上方を底とした皿状で、皿の縁には、フランジが形成されている。封口板32は、金属製の円板で、負極端子板31の下方に積層される。また、ガスケット40は、樹脂製で、図2に示したように、電池缶10内に組み込まれる前の形状は、上方を開口41とした円形カップ状で、円形の底部42の周縁に上方に立設しながら周回する扁平筒状の側壁44が一体的に形成されている。
【0005】
図1に示した円筒形電池1の組み立て手順としては、まず、電池缶10内に、発電要素である、正極合剤21、セパレーター23、および負極リチウム22を順次装填する。負極リチウム22は、板状の金属リチウムやリチウム合金を丸めたものであって、あらかじめ、その一部に帯状の金属薄板で形成された負極集電体を兼ねる負極リード33の一端部33aが取り付けられている。
【0006】
次に、電池缶10の内方に環状に突出するビーディング部11を座として、ガスケット40を電池缶10の開口端側に装着する。ガスケット40の底部42は、中央に開口43を有して、この開口43に上述した負極リード33を挿通させつつ、当該負極リード33の他端部33bを封口板32の下面に溶接する。そして、封口体30をカップ状のガスケット40内に圧入し、ガスケット40の底部42の上面42iに封口体30を積層させ、この状態で電池缶10の開口端を内方にかしめ加工(カール絞り加工)する。それによって、封口体30がガスケット40を介して電池缶10の開口端側に嵌着され、電池缶10の内部が密閉される。
【0007】
図3は、図1における円100内の拡大図であり、封口体30が電池缶10に嵌着されている状態を示している。図3に示したように、ガスケット40の側壁44は、封口体30の周縁と電池缶10の内面との間に挟持され、さらに、その側壁44の上端部45が、電池缶10開口が内方に屈曲する形状に沿って屈曲し、封口体30の周縁が、この側壁44の屈曲部位とガスケット40の底部42の周縁とによって上下方向から挟持されている。
【0008】
ところで、ガスケット40は、電池缶10の内面と封口体30の周縁とによって挟持されることで弾性変形し、電池缶10を密閉する。そのため、ガスケット40には適度な柔らかさ(硬度)が必要となる。そして、以下の特許文献2には、ガスケットのロックウェル硬度を100以上とした筒形電池について記載されている。具体的には、実施例として、ロックウェル硬度が105のガスケットを用いた筒形電池について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−273911号公報
【特許文献2】特開平1−209658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した円筒形電池では、ビーディング部を座にして電池缶内に装着されたカップ状のガスケットの内側に封口体を圧入している。そして、電池缶を内方にかしめて封口体をガスケットとともに電池缶開口に嵌着している。そのため、ビーディング部の深さ、すなわち、ビーディング部によって電池缶内方に突出する高さが高いほど、ガスケットが安定して載置され、封口性能が向上する。
【0011】
しかしながら、電池缶内では、ビーディング部の下方が発電要素の収納空間となるので、ビーディング部を電池缶内方に大きく突出させるように形成すると、電池缶外方から見て、ビーディング部の上下方向の溝の幅が広くなり、結果的に、発電要素を収納する空間の高さ方向のサイズが減少し、発電要素の充填量が減少する。とくに、電解液は、かしめ加工に際して電池缶外に飛散する可能性もあることから、その充填量を少なくせざるを得ない。そのため、電池の放電性能が低下する。一方、ビーディング部の深さを浅くすると、かしめ加工時にガスケットがビーディング部から脱落して電池缶の下方に落ち込むなどして封口不良が発生する可能性がある。
【0012】
したがって、本発明は、封口性能を維持しつつ放電性能に優れた円筒形電池を提供することを目的としている。なお、その他の目的については以下の記載で明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明者は、ガスケットの物性とビーディング部の深さとの関係に着目して鋭意研究を重ね、その結果、ガスケットの硬度とビーディング部の深さとの間に最適数値範囲が存在することを知見した。本発明は、その知見に基づきなされたものである。
【0014】
そして本発明は、周囲にビーディング部を有する有底円筒状の電池缶の開口が内方にかしめられて、当該開口に略円盤状の封口体がガスケットを介して嵌着されている円筒形電池であって、
前記ガスケットは、ロックウェル硬度が115以上、122以下であり、
前記電池缶の円筒軸に直交する方向を水平方向として、前記封口体が嵌着されている部位での前記電池缶内方の水平断面積をA1とし、前記ビーディング部によって前記電池缶が最も内方に突出した位置における当該電池缶内方の水平断面積をA2としたときに、
(A1−A2)/A1
で表される面積比が10%以上、17%未満である、
ことを特徴とした円筒形電池としている。より好ましくは、前記ガスケットが、ポリフェニレンサルファイドを主成分とした素材で形成されていることである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る円筒形電池によれば、封口性能を維持しつつ放電性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】円筒形電池の一例であるボビン形リチウム電池の構造を示す図である。
【図2】上記円筒形電池に採用されているガスケットの構造を示す図である。
【図3】上記円筒形電池における封口状態を示す拡大図である。
【図4】上記円筒形電池を構成する電池缶に形成されたビーディング部に関わる物理的なパラメーターを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
===円筒形電池===
本発明の実施例に係る円筒形電池としてボビン形リチウム電池を挙げる。当該実施例のボビン形リチウム電池の基本的な構造は、図1に示したものと同じである。しかし、本実施例に係るボビン形リチウム電池1は、ガスケット40の物性に関わるパラメーターと、電池缶10のビーディング部11に関わる物理的なパラメーターとが最適化されて、十分な封口強度を維持しつつ優れた放電性能を備えている。
【0018】
なお、上述したガスケット40の物性に関わるパラメーターは、ガスケット40を構成する樹脂のロックウェル硬度であり、また、ビーディング部11に関わる物理的なパラメーターについては、図4に具体的に示した。図4(A)は、図1における点線矩形領域101内を拡大した縦断面図であり、(B)は、(A)におけるa−a矢視断面図である。(B)に示したように、ビーディング部11の形成位置よりも下方から電池缶10の開口方向を見ると、封口体30が嵌着されている位置において電池缶10の内面が縁取る円(以下、外円)10oと、ビーディング部11によって電池缶10が最も内方に突出している位置において、その電池缶10内面が縁取る円(以下、内円)10iとによって、円環状の領域(図中、網点部分)10rが形成される。そして、この円環状の領域10rの面積と外円10oの面積との比を上記ビーディング部11における物理的なパラメーターとしている。以下に、上記物理的なパラメーター(以下、面積比Ar)の定義と計算手順とを示す。
【0019】
上記円環状の領域10rにおける外円10oの面積をA1、内円10iの面積をA2とすると、当該円環状の領域10rの面積は、A1−A2であり、上記面積比Arを、
Ar=(A1−A2)/A1・・・(式1)
と規定する。
【0020】
そして、外円10oの直径を2r(半径r)、上記円環状領域10rの幅、すなわちビーディング部11によって電池缶10内方に突出する高さをhとすると、
A1=πr・・・(式2)
A2=π(r−h)・・・(式3)
であるから、上記面積比Arは、(式2)と(式3)を(式1)に代入して
Ar=h(2r−h)/r・・・(式4)
となる。
【0021】
===放電性能試験・封口性能試験===
本発明の実施例に係る円筒形電池1の性能を評価するために、ロックウェル硬度が異なる様々なガスケット40と、上記Arの値が異なる様々な電池缶10とを用い、外形が、直径φ=17mm、高さh=45mmとなるCR8型ボビン形リチウム電池をサンプルとして作成し、各サンプルについて、放電性能試験と封口性能試験とを行った。なお、ロックウェル硬度はRスケールでのロックウェル硬度(以下、硬度Hr)とした。
【0022】
放電性能試験は、同じ製造条件のサンプルをそれぞれ5個用意し、各サンプルに対して510Ωの負荷で終止電圧2.0Vに至るまで連続放電させるまでの放電時間を計測することで行い、5個のサンプルの平均放電時間によって放電性能を評価した。
【0023】
また、封口性能試験は、同じ製造条件のサンプルをそれぞれ20個用意し、80℃の温度下で80日間保存したときに、漏液の有無を目視によって確認することで行った。そして、同じ製造条件の20個のサンプルの内、一個も漏液が発生しなければ、その製造条件のサンプルを合格とし、一個でも漏液が発生すれば不合格とした。
【0024】
以下の表1に各サンプルについて、製造条件と性能評価試験の結果とを示した。
【表1】

【0025】
まず、サンプルs1は、本発明の従来例であり、市販されているCR8型ボビン形リチウム電池と同等の製造条件で作製した円筒形電池である。当該従来例のサンプルs1では、硬度Hr=110のポリプロピレン(PP)製のガスケット40を用い、ビーディング部11の面積比Arを17%としている。この従来例のサンプルs1の放電時間は510hで、封口性能試験においては、高い信頼性を要する市販品であるので、当然のことながら、20個中一つも漏液が発生しなかった。
【0026】
サンプルs2は、サンプルs1と同様の硬度Hr=110のPP製ガスケット40を用いつつ、放電性能の向上を試みるために作製されたものであり、ビーディング部11の深さをサンプルs1の電池缶10よりも浅くし、面積比Ar=15%とした。しかし、20個中4個に漏液が発生した。すなわち、従来と同等の硬度Hr=110のガスケット40では、封口性能を維持しつつ放電性能を向上させることが難しい、ということが確認できた。
【0027】
サンプルs3〜s9は、従来例のサンプルs1よりも硬いガスケット40を用いつつ、ビーディング部11の面積比Arを減少させたサンプルであり、これらのサンプルs3〜s9に対する放電性能試験と封口性能試験とを通じて封口性能を維持しつつ放電性能の向上が可能な条件を求めた。なお、サンプルs3〜s9は、ガスケット40の素材として、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を主成分とした樹脂を用いている。PPSは、周知のごとく、エラストマーなどの軟質ポリマーと混合してポリマーアロイとすることができ、PPSに添加するエラストマーの種類や量により、硬度Hrを自由に調整することができる。
【0028】
もちろん、ガスケット40の素材をPPなど他の樹脂としてもよいが、PPは、ポリマーアロイのように硬度Hrを容易に調整することができないため、硬度Hrを調整するために複雑な製造工程を要する。そのため、硬度Hrが異なる樹脂材料の調達に時間が掛かる。そこで、従来とは異なる硬度Hrのガスケット40が必要となるサンプルs3〜s9では、ガスケット40の素材として、樹脂材料メーカーなどからの原料調達が容易なPPSを主成分としたポリマーアロイを採用した。
【0029】
まず、サンプルs3〜s5では、サンプルs2において漏液が発生した面積比Ar=15%を採用しつつ、ガスケット40の硬度Hrが従来例s1よりも大きくなっている。そして、サンプルs4、s5より、硬度Hrを115以上とすると、面積比Ar=15%でも漏液が発生せず、十分な封口性能が得られることが分かった。放電性能は、面積比Arを減少させることにより従来例s1よりも多くの発電要素、とくに電解液を電池缶10内に充填できようになったため、従来例s1の510hから523hに向上した。
【0030】
次に、さらなる放電性能の向上を試みるため、サンプルs6、およびサンプルs7では、硬度Hrを上記サンプルs3〜s5から得た最小値Hr=115としつつ、面積比Arを10%、および8%とした。その結果、サンプルs6では、放電性能が、従来例1cの510hに対し528hにまで向上し、漏液も発生しなかった。しかし、面積比Ar=8%としたサンプルs7では、20個中2個に漏液が発生した。
【0031】
以上、サンプルs3〜s7における放電性能試験と封口性能試験の結果より、まず、ガスケット40の硬度Hrを115以上とすることで、ビーディング部11の面積比Arを従来例s1の面積比Ar=17%よりも減少させて放電性能の向上が可能であることが分かった。そして、封口性能を維持しつつ、放電性能を従来の円筒形電池に対して向上させるためには、まず、硬度HrをHr≧115とした上で、面積比Arを10%≦Ar<17%とすればよいことが分かった。
【0032】
表1におけるサンプルs8とs9は、サンプルs3〜s7によって求められた硬度Hrの下限115に対し、その硬度Hrに上限が存在するか否かを確認するためのサンプルである。サンプルs8は、硬度Hr=122で、サンプルs9は、硬度Hr=123である。また、面積比Arは、ともに下限値の10%としている。そして、サンプルs8では漏液が発生せず、サンプルs9では漏液が発生した。目視検査によれば、サンプルs9では、本来は円形である封口体30の平面形状が楕円形状に歪んでいるものが散見され、最終的に封口性能試験において、20個中3個に漏液が発生した。このサンプルs9に対する封口性能試験の結果から、ガスケット40は、硬度Hr=123では硬すぎることが分かった。すなわち、ガスケット40が硬すぎるため、かしめ加工に際して電池缶10の円周方向に均一な圧力を安定して加えることが困難であることが確認できた。したがって、封口性能を維持しつつ放電性能に優れた円筒形電池1を達成するためには、ガスケット40の硬度Hrを、115≦Hr≦122とし、かつビーディング部11の面積比Arを10%≦Ar<17%とすればよいことが分かった。また、面積比Arは、実際の測定値が存在する10%≦Ar≦15%とすれば、より好ましい。
【0033】
なお、封口性能を維持しつつ放電性能を向上させるためのガスケット40のロックウェル硬度Hr、およびビーディング部11に関わる面積比Arの数値範囲は、ボビン形リチウム電池に限らず、周囲にビーディング部を有する有底円筒状の電池缶の開口が内方にかしめられて、その開口に略円盤状の封口体がガスケットを介して嵌着されているタイプの円筒形電池であれば適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明はボビン形リチウム電池などに利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 円筒形電池(ボビン形リチウム電池)、10 電池缶、11 ビーディング部、
12 正極端子部、21 正極合剤、22 負極リチウム、23 セパレーター、
30 封口体、31 負極端子板、32 封口板、33 負極リード、
40 ガスケット、42 ガスケット底部、44 ガスケット側壁、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲にビーディング部を有する有底円筒状の電池缶の開口が内方にかしめられて、当該開口に略円盤状の封口体がガスケットを介して嵌着されている円筒形電池であって、
前記ガスケットは、ロックウェル硬度が115以上、122以下であり、
前記電池缶の円筒軸に直交する方向を水平方向として、前記封口体が嵌着されている部位での前記電池缶内方の水平断面積をA1とし、前記ビーディング部によって前記電池缶が最も内方に突出した位置における当該電池缶内方の水平断面積をA2としたときに、
(A1−A2)/A1
で表される面積比が10%以上、17%未満である、
ことを特徴とした円筒形電池。
【請求項2】
請求項1において、前記ガスケットは、ポリフェニレンサルファイドを主成分とした素材で形成されていることを特徴とする円筒形電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−41795(P2013−41795A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179810(P2011−179810)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(503025395)FDKエナジー株式会社 (142)
【Fターム(参考)】