円筒深絞りの成形シミュレーション方法、装置及びプログラム
【課題】円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、形状の予測精度を高める。
【解決手段】板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮して、Hillの異方性降伏条件式における異方性パラメータを設定する。この場合に、板厚が4mm以上の鋼板の複数の面それぞれから複数の傾きで立方体を切出し、圧縮して、その歪みに基づいて、Hillの異方性降伏条件式における異方性パラメータを設定する。
【解決手段】板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮して、Hillの異方性降伏条件式における異方性パラメータを設定する。この場合に、板厚が4mm以上の鋼板の複数の面それぞれから複数の傾きで立方体を切出し、圧縮して、その歪みに基づいて、Hillの異方性降伏条件式における異方性パラメータを設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りの成形シミュレーションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車部品や家電部品等の製造分野では、鋼板のプレス成形が行われており、中でも円筒状の底付き容器を製造する方法として、絞り成形が多く用いられている。円筒深絞りは、図1に示すように、ダイ1とブランクホルダー2により固定された被加工材3にパンチ4を押込んで底付き円筒容器を成形するものである。近年、自動車用部品分野を中心に、棒鋼を用いた熱間鍛造及び冷間鍛造や鋳造により製造されていた比較的板厚の大きい円筒状の底付き容器が、厚手の鋼板を用いて深絞りにて製造されつつあり、コストダウンに寄与している。厚手の鋼板を用いて深絞りを行うと板厚変化の絶対値が大きく、成形後の板厚を精度良く推定することが重要となる。
【0003】
従来、薄鋼板のプレス成形のFEM解析においては、例えば特許文献1にあるように、面内異方性を考慮したFEM解析が行われている。また、非特許文献1にあるように、円筒深絞りのFEM解析において、面内異方性を考慮し、成形後のカップ高さを予測した例がある。
【0004】
また、例えば特許文献2には、有底非円筒形状の絞り成形品についてFEM解析を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−107818号公報
【特許文献2】特開2006−281281号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「プレス成形難易ハンドブック第2版」、薄鋼板成形技術研究会、日刊工業新聞社
【非特許文献2】山田嘉昭、「塑性・粘弾性」、培風館、P216−218
【非特許文献3】寺野元規、北村憲彦、「板材の塑性異方性」、平成18年度塑性加工春季講演会、P337−338
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、厚手の鋼板の円筒深絞りのFEM解析においては、従来の薄板のFEM解析に用いられている面内異方性を考慮した解析では形状の予測精度が不十分であった。
【0008】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたもので、円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、形状の予測精度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の円筒深絞りの成形シミュレーション方法は、板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮して成形シミュレーションを行うことを特徴とする。
また、本発明の円筒深絞りの成形シミュレーション方法の他の特徴とするところは、Hillの異方性降伏条件式における異方性パラメータを求める点にある。その場合、板厚が4mm以上の鋼板の複数の面それぞれから複数の傾きで立方体を切出し、圧縮して、その歪みに基づいて、前記Hillの異方性降伏条件式における異方性パラメータを求める。
本発明の円筒深絞りの成形シミュレーション装置は、板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮して成形シミュレーションを行う手段を備えたことを特徴とする。
本発明のプログラムは、板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮して成形シミュレーションを行う処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、形状の予測精度を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】円筒深絞りのためのダイ、ブランクホルダー及びパンチ並びに被加工材の断面図である。
【図2】引張試験片の切り出し方向を示す図である。
【図3】実験及び計算によるカップ高さを示す特性図である。
【図4】板厚の測定箇所及びカップカップ高さを示す絞り成形品の断面図である。
【図5】実験及び計算による板厚を示す特性図である。
【図6】Z値を求めるために用いる立方体試験片の切出し方向、圧縮方向及び歪の測定方向を示す図である。
【図7】Y値を求めるために用いる立方体試験片の切出し方向、圧縮方向及び歪の測定方向を示す図である。
【図8】X値を求めるために用いる立方体試験片の切出し方向、圧縮方向及び歪の測定方向を示す図である。
【図9】被加工材の初期板厚が10mmの場合の実験及び計算によるカップ高さを示す特性図である。
【図10】被加工材の初期板厚が10mmの場合の実験及び計算による板厚を示す特性図である。
【図11】被加工材の初期板厚が3.5mmの場合の実験及び計算によるカップ高さを示す特性図である。
【図12】被加工材の初期板厚が3.5mmの場合の実験及び計算による板厚を示す特性図である。
【図13】実施例の円筒深絞りのためのダイ及びパンチ並びに被加工材の断面図である。
【図14】被加工材の初期板厚を10mmとしたNo.1、No.2及び実験によるカップ高さを示す特性図である。
【図15】被加工材の初期板厚を10mmとしたNo.1、No.2及び実験による板厚を示す特性図である。
【図16】被加工材の初期板厚を8mmとしたNo.3、No.4及び実験によるカップ高さを示す特性図である。
【図17】被加工材の初期板厚を8mmとしたNo.3、No.4及び実験による板厚を示す特性図である。
【図18】被加工材の初期板厚を4mmとしたNo.5、No.6及び実験によるカップ高さを示す特性図である。
【図19】被加工材の初期板厚を4mmとしたNo.5、No.6及び実験による板厚を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
板厚が10mmのSPH590の円板の円筒深絞り行い、それを成形シミュレーションであるFEM(有限要素法:Finite Element Method)にて解析した。まず、面内異方性のみを考慮したFEM解析を行った。降伏条件式は式(1)に示すHillの異方性降伏条件式を用いた。
【0013】
【数1】
【0014】
面内異方性を考慮するため、式(1)における異方性パラメータF、G、H及びNは、例えば非特許文献2にあるように以下のように求めることができる。図2に示すように、鋼板11から、圧延方向に対する傾角α=0°、45°、90°を有する試験片12を作り、引張試験を行い、式(2)で示すLankfordのr値を求める。
【0015】
【数2】
【0016】
上述のようにして求めたr値を式(3)、式(4)、式(5)に代入することにより、それぞれ異方性パラメータG、F、Nを得ることができる。その値を表1に示す。
【0017】
【数3】
【0018】
【表1】
【0019】
面内異方性を考慮したFEM解析では、図3に示すように、圧延方向から45°方向のカップ高さ(図4に示すH)が大きくなる傾向は再現できたが、カップ高さが実験結果より大きくなった。また、図4に示すように、成形後の絞り品21の4ヶ所a〜dで板厚を調査した結果、図5に示すように、パンチ肩部での板厚が実験結果よりかなり小さくなる結果となった。
【0020】
本願発明者は鋭意検討を重ねた結果、面内異方性のみならず、板厚断面内の異方性が形状変化に影響することを突き止めた。面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮するため、式(1)における異方性パラメータF、G、H、L、M及びNを、例えば非特許文献3にあるように以下のように求める。
【0021】
図6に示すように、辺長が6mmの立方体を加工し、圧延方向に対する傾角β=0°、45°、90°の方向に圧縮し、式(6)で示すZ値を求める。図6は、Z値を求めるために用いる立方体試験片の切出し方向、圧縮方向及び歪の測定方向を示す図である。31は鋼板である。32は圧縮方向が圧延方向に対する傾き角β=0°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。33は圧縮方向が圧延方向に対する傾き角β=45°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。34は圧縮方向が圧延方向に対する傾き角β=90°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。
【0022】
【数4】
【0023】
また、図7に示すように、辺長が6mmの立方体を加工し、圧延方向に対する傾角γ=0°、45°、90°の方向に圧縮し、式(7)で示すY値を求める。図7は、Y値を求めるために用いる立方体試験片の切出し方向、圧縮方向及び歪の測定方向を示す図である。41は鋼板である。42は圧縮方向が圧延方向に対する傾き角γ=0°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。43は圧縮方向が圧延方向に対する傾き角γ=45°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。44は圧縮方向が圧延方向に対する傾き角γ=90°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。
【0024】
【数5】
【0025】
また、図8に示すように、辺長が6mmの立方体を加工し、圧延方向に対する傾角θ=0°、45°、90°の方向に圧縮し、式(8)で示すX値を求める。図8は、X値を求めるために用いる立方体試験片の切出し方向、圧縮方向及び歪の測定方向を示す図である。51は鋼板である。52は圧縮方向が幅方向に対する傾き角θ=0°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。53は圧縮方向が幅方向に対する傾き角θ=45°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。54は圧縮方向が幅方向に対する傾き角θ=90°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。
【0026】
【数6】
【0027】
上述のようにして求めたZ値、Y値、X値を式(9)、式(10)、式(11)、式(12)、式(13)に代入して、それぞれ係数G、F、N、M、Lを得ることができる。その値を表2に示す。
【0028】
【数7】
【0029】
【表2】
【0030】
図9及び図10に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮したFEM解析結果を示す。図9は、被加工材の初期板厚が10mmの場合の実験及び計算によるカップ高さを示す特性図である。また、図10は、被加工材の初期板厚が10mmの場合の実験及び計算による板厚を示す特性図である。被加工材の初期板厚が10mmの場合、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性を考慮した解析結果は、面内異方性のみを考慮した解析結果と比較して実験結果に近く、解析精度が向上している。
【0031】
一方、図11は、被加工材の初期板厚が3.5mmの場合の実験及び計算によるカップ高さを示す特性図である。また、図12は、被加工材の初期板厚が3.5mmの場合の実験及び計算による板厚を示す特性図である。図11及び図12に示すように、板厚が4mm未満になると、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性を考慮した解析結果と、従来の面内異方性のみを考慮した解析結果とは略同等となる。従って、板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りのFEM解析を行う場合に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性を考慮した解析を行うのが好適である。
【実施例】
【0032】
板厚が10mm、8mm、4mmのSPH590の鋼板から円板に切削加工したものを被加工材とした。図13に示す金型(パンチ61、ダイ62)を用い、表3に示す条件にて被加工材63の絞り成形を行った。板厚が厚いため、しわ押さえが無くても皺が発生しないため、しわ押さえを使用しなかった。
【0033】
FEM解析条件を表3に示す。符号No.1及びNo.2は、板厚10mmのFEM解析であり、その結果を図14及び図15に示す。図14は、被加工材の初期板厚を10mmとしたNo.1、No.2及び実験によるカップ高さを示す特性図である。また、図15は、被加工材の初期板厚を10mmとしたNo.1、No.2及び実験による板厚を示す特性図である。本発明を適用したNo.1では、面内異方性のみを考慮した比較例No.2と比較して解析精度が良い。
【0034】
No.3及びNo.4は、板厚8mmのFEM解析であり、その結果を図16及び図17に示す。図16は、被加工材の初期板厚を8mmとしたNo.3、No.4及び実験によるカップ高さを示す特性図である。また、図17は、被加工材の初期板厚を8mmとしたNo.3、No.4及び実験による板厚を示す特性図である。本発明を適用したNo.3では、面内異方性のみを考慮した比較例No.4と比較して解析精度が良い。
【0035】
No.5及びNo.6は、板厚4mmのFEM解析であり、その結果を図18及び図19に示す。図18は、被加工材の初期板厚を4mmとしたNo.5、No.6及び実験によるカップ高さを示す特性図である。また、図19は、被加工材の初期板厚を4mmとしたNo.5、No.6及び実験による板厚を示す特性図である。本発明を適用したNo.5では、面内異方性のみを考慮した比較例No.6と比較して解析精度が良い。
【0036】
【表3】
【0037】
上述したような円筒深絞りのFEM解析は、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータ装置からなる成形シミュレーション装置により実行可能である。また、上述した円筒深絞りのFEM解析を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(又はCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行することも可能である。
【符号の説明】
【0038】
1…ダイス、2…ブランクホルダー、3:…被加工材、4…パンチ、11…鋼板、12…引張試験片、21…成形後の絞り品、31…鋼板、32…圧縮方向が圧延方向に対する傾き角β=0°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、33…圧縮方向が圧延方向に対する傾き角β=45°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、34…圧縮方向が圧延方向に対する傾き角β=90°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、41…鋼板、42…圧縮方向が圧延方向に対する傾き角γ=0°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、43…圧縮方向が圧延方向に対する傾き角γ=45°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、44…圧縮方向が圧延方向に対する傾き角γ=90°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、51…鋼板、52…圧縮方向が幅方向に対する傾き角θ=0°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、53…圧縮方向が幅方向に対する傾き角θ=45°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、54…圧縮方向が幅方向に対する傾き角θ=90°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、61…パンチ、62…ダイ、63…被加工材
【技術分野】
【0001】
本発明は、板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りの成形シミュレーションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車部品や家電部品等の製造分野では、鋼板のプレス成形が行われており、中でも円筒状の底付き容器を製造する方法として、絞り成形が多く用いられている。円筒深絞りは、図1に示すように、ダイ1とブランクホルダー2により固定された被加工材3にパンチ4を押込んで底付き円筒容器を成形するものである。近年、自動車用部品分野を中心に、棒鋼を用いた熱間鍛造及び冷間鍛造や鋳造により製造されていた比較的板厚の大きい円筒状の底付き容器が、厚手の鋼板を用いて深絞りにて製造されつつあり、コストダウンに寄与している。厚手の鋼板を用いて深絞りを行うと板厚変化の絶対値が大きく、成形後の板厚を精度良く推定することが重要となる。
【0003】
従来、薄鋼板のプレス成形のFEM解析においては、例えば特許文献1にあるように、面内異方性を考慮したFEM解析が行われている。また、非特許文献1にあるように、円筒深絞りのFEM解析において、面内異方性を考慮し、成形後のカップ高さを予測した例がある。
【0004】
また、例えば特許文献2には、有底非円筒形状の絞り成形品についてFEM解析を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−107818号公報
【特許文献2】特開2006−281281号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「プレス成形難易ハンドブック第2版」、薄鋼板成形技術研究会、日刊工業新聞社
【非特許文献2】山田嘉昭、「塑性・粘弾性」、培風館、P216−218
【非特許文献3】寺野元規、北村憲彦、「板材の塑性異方性」、平成18年度塑性加工春季講演会、P337−338
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、厚手の鋼板の円筒深絞りのFEM解析においては、従来の薄板のFEM解析に用いられている面内異方性を考慮した解析では形状の予測精度が不十分であった。
【0008】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたもので、円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、形状の予測精度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の円筒深絞りの成形シミュレーション方法は、板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮して成形シミュレーションを行うことを特徴とする。
また、本発明の円筒深絞りの成形シミュレーション方法の他の特徴とするところは、Hillの異方性降伏条件式における異方性パラメータを求める点にある。その場合、板厚が4mm以上の鋼板の複数の面それぞれから複数の傾きで立方体を切出し、圧縮して、その歪みに基づいて、前記Hillの異方性降伏条件式における異方性パラメータを求める。
本発明の円筒深絞りの成形シミュレーション装置は、板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮して成形シミュレーションを行う手段を備えたことを特徴とする。
本発明のプログラムは、板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮して成形シミュレーションを行う処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、形状の予測精度を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】円筒深絞りのためのダイ、ブランクホルダー及びパンチ並びに被加工材の断面図である。
【図2】引張試験片の切り出し方向を示す図である。
【図3】実験及び計算によるカップ高さを示す特性図である。
【図4】板厚の測定箇所及びカップカップ高さを示す絞り成形品の断面図である。
【図5】実験及び計算による板厚を示す特性図である。
【図6】Z値を求めるために用いる立方体試験片の切出し方向、圧縮方向及び歪の測定方向を示す図である。
【図7】Y値を求めるために用いる立方体試験片の切出し方向、圧縮方向及び歪の測定方向を示す図である。
【図8】X値を求めるために用いる立方体試験片の切出し方向、圧縮方向及び歪の測定方向を示す図である。
【図9】被加工材の初期板厚が10mmの場合の実験及び計算によるカップ高さを示す特性図である。
【図10】被加工材の初期板厚が10mmの場合の実験及び計算による板厚を示す特性図である。
【図11】被加工材の初期板厚が3.5mmの場合の実験及び計算によるカップ高さを示す特性図である。
【図12】被加工材の初期板厚が3.5mmの場合の実験及び計算による板厚を示す特性図である。
【図13】実施例の円筒深絞りのためのダイ及びパンチ並びに被加工材の断面図である。
【図14】被加工材の初期板厚を10mmとしたNo.1、No.2及び実験によるカップ高さを示す特性図である。
【図15】被加工材の初期板厚を10mmとしたNo.1、No.2及び実験による板厚を示す特性図である。
【図16】被加工材の初期板厚を8mmとしたNo.3、No.4及び実験によるカップ高さを示す特性図である。
【図17】被加工材の初期板厚を8mmとしたNo.3、No.4及び実験による板厚を示す特性図である。
【図18】被加工材の初期板厚を4mmとしたNo.5、No.6及び実験によるカップ高さを示す特性図である。
【図19】被加工材の初期板厚を4mmとしたNo.5、No.6及び実験による板厚を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
板厚が10mmのSPH590の円板の円筒深絞り行い、それを成形シミュレーションであるFEM(有限要素法:Finite Element Method)にて解析した。まず、面内異方性のみを考慮したFEM解析を行った。降伏条件式は式(1)に示すHillの異方性降伏条件式を用いた。
【0013】
【数1】
【0014】
面内異方性を考慮するため、式(1)における異方性パラメータF、G、H及びNは、例えば非特許文献2にあるように以下のように求めることができる。図2に示すように、鋼板11から、圧延方向に対する傾角α=0°、45°、90°を有する試験片12を作り、引張試験を行い、式(2)で示すLankfordのr値を求める。
【0015】
【数2】
【0016】
上述のようにして求めたr値を式(3)、式(4)、式(5)に代入することにより、それぞれ異方性パラメータG、F、Nを得ることができる。その値を表1に示す。
【0017】
【数3】
【0018】
【表1】
【0019】
面内異方性を考慮したFEM解析では、図3に示すように、圧延方向から45°方向のカップ高さ(図4に示すH)が大きくなる傾向は再現できたが、カップ高さが実験結果より大きくなった。また、図4に示すように、成形後の絞り品21の4ヶ所a〜dで板厚を調査した結果、図5に示すように、パンチ肩部での板厚が実験結果よりかなり小さくなる結果となった。
【0020】
本願発明者は鋭意検討を重ねた結果、面内異方性のみならず、板厚断面内の異方性が形状変化に影響することを突き止めた。面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮するため、式(1)における異方性パラメータF、G、H、L、M及びNを、例えば非特許文献3にあるように以下のように求める。
【0021】
図6に示すように、辺長が6mmの立方体を加工し、圧延方向に対する傾角β=0°、45°、90°の方向に圧縮し、式(6)で示すZ値を求める。図6は、Z値を求めるために用いる立方体試験片の切出し方向、圧縮方向及び歪の測定方向を示す図である。31は鋼板である。32は圧縮方向が圧延方向に対する傾き角β=0°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。33は圧縮方向が圧延方向に対する傾き角β=45°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。34は圧縮方向が圧延方向に対する傾き角β=90°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。
【0022】
【数4】
【0023】
また、図7に示すように、辺長が6mmの立方体を加工し、圧延方向に対する傾角γ=0°、45°、90°の方向に圧縮し、式(7)で示すY値を求める。図7は、Y値を求めるために用いる立方体試験片の切出し方向、圧縮方向及び歪の測定方向を示す図である。41は鋼板である。42は圧縮方向が圧延方向に対する傾き角γ=0°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。43は圧縮方向が圧延方向に対する傾き角γ=45°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。44は圧縮方向が圧延方向に対する傾き角γ=90°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。
【0024】
【数5】
【0025】
また、図8に示すように、辺長が6mmの立方体を加工し、圧延方向に対する傾角θ=0°、45°、90°の方向に圧縮し、式(8)で示すX値を求める。図8は、X値を求めるために用いる立方体試験片の切出し方向、圧縮方向及び歪の測定方向を示す図である。51は鋼板である。52は圧縮方向が幅方向に対する傾き角θ=0°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。53は圧縮方向が幅方向に対する傾き角θ=45°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。54は圧縮方向が幅方向に対する傾き角θ=90°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片である。
【0026】
【数6】
【0027】
上述のようにして求めたZ値、Y値、X値を式(9)、式(10)、式(11)、式(12)、式(13)に代入して、それぞれ係数G、F、N、M、Lを得ることができる。その値を表2に示す。
【0028】
【数7】
【0029】
【表2】
【0030】
図9及び図10に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮したFEM解析結果を示す。図9は、被加工材の初期板厚が10mmの場合の実験及び計算によるカップ高さを示す特性図である。また、図10は、被加工材の初期板厚が10mmの場合の実験及び計算による板厚を示す特性図である。被加工材の初期板厚が10mmの場合、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性を考慮した解析結果は、面内異方性のみを考慮した解析結果と比較して実験結果に近く、解析精度が向上している。
【0031】
一方、図11は、被加工材の初期板厚が3.5mmの場合の実験及び計算によるカップ高さを示す特性図である。また、図12は、被加工材の初期板厚が3.5mmの場合の実験及び計算による板厚を示す特性図である。図11及び図12に示すように、板厚が4mm未満になると、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性を考慮した解析結果と、従来の面内異方性のみを考慮した解析結果とは略同等となる。従って、板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りのFEM解析を行う場合に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性を考慮した解析を行うのが好適である。
【実施例】
【0032】
板厚が10mm、8mm、4mmのSPH590の鋼板から円板に切削加工したものを被加工材とした。図13に示す金型(パンチ61、ダイ62)を用い、表3に示す条件にて被加工材63の絞り成形を行った。板厚が厚いため、しわ押さえが無くても皺が発生しないため、しわ押さえを使用しなかった。
【0033】
FEM解析条件を表3に示す。符号No.1及びNo.2は、板厚10mmのFEM解析であり、その結果を図14及び図15に示す。図14は、被加工材の初期板厚を10mmとしたNo.1、No.2及び実験によるカップ高さを示す特性図である。また、図15は、被加工材の初期板厚を10mmとしたNo.1、No.2及び実験による板厚を示す特性図である。本発明を適用したNo.1では、面内異方性のみを考慮した比較例No.2と比較して解析精度が良い。
【0034】
No.3及びNo.4は、板厚8mmのFEM解析であり、その結果を図16及び図17に示す。図16は、被加工材の初期板厚を8mmとしたNo.3、No.4及び実験によるカップ高さを示す特性図である。また、図17は、被加工材の初期板厚を8mmとしたNo.3、No.4及び実験による板厚を示す特性図である。本発明を適用したNo.3では、面内異方性のみを考慮した比較例No.4と比較して解析精度が良い。
【0035】
No.5及びNo.6は、板厚4mmのFEM解析であり、その結果を図18及び図19に示す。図18は、被加工材の初期板厚を4mmとしたNo.5、No.6及び実験によるカップ高さを示す特性図である。また、図19は、被加工材の初期板厚を4mmとしたNo.5、No.6及び実験による板厚を示す特性図である。本発明を適用したNo.5では、面内異方性のみを考慮した比較例No.6と比較して解析精度が良い。
【0036】
【表3】
【0037】
上述したような円筒深絞りのFEM解析は、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータ装置からなる成形シミュレーション装置により実行可能である。また、上述した円筒深絞りのFEM解析を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(又はCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行することも可能である。
【符号の説明】
【0038】
1…ダイス、2…ブランクホルダー、3:…被加工材、4…パンチ、11…鋼板、12…引張試験片、21…成形後の絞り品、31…鋼板、32…圧縮方向が圧延方向に対する傾き角β=0°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、33…圧縮方向が圧延方向に対する傾き角β=45°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、34…圧縮方向が圧延方向に対する傾き角β=90°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、41…鋼板、42…圧縮方向が圧延方向に対する傾き角γ=0°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、43…圧縮方向が圧延方向に対する傾き角γ=45°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、44…圧縮方向が圧延方向に対する傾き角γ=90°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、51…鋼板、52…圧縮方向が幅方向に対する傾き角θ=0°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、53…圧縮方向が幅方向に対する傾き角θ=45°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、54…圧縮方向が幅方向に対する傾き角θ=90°になるように加工した辺長が6mmの立方体試験片、61…パンチ、62…ダイ、63…被加工材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮して成形シミュレーションを行うことを特徴とする円筒深絞りの成形シミュレーション方法。
【請求項2】
Hillの異方性降伏条件式における異方性パラメータを求めることを特徴とする請求項1に記載の円筒深絞りの成形シミュレーション方法。
【請求項3】
板厚が4mm以上の鋼板の複数の面それぞれから複数の傾きで立方体を切出し、圧縮して、その歪みに基づいて、前記Hillの異方性降伏条件式における異方性パラメータを求めることを特徴とする請求項2に記載の円筒深絞りの成形シミュレーション方法。
【請求項4】
板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮して成形シミュレーションを行う手段を備えたことを特徴とする円筒深絞りの成形シミュレーション装置。
【請求項5】
板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮して成形シミュレーションを行う処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項1】
板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮して成形シミュレーションを行うことを特徴とする円筒深絞りの成形シミュレーション方法。
【請求項2】
Hillの異方性降伏条件式における異方性パラメータを求めることを特徴とする請求項1に記載の円筒深絞りの成形シミュレーション方法。
【請求項3】
板厚が4mm以上の鋼板の複数の面それぞれから複数の傾きで立方体を切出し、圧縮して、その歪みに基づいて、前記Hillの異方性降伏条件式における異方性パラメータを求めることを特徴とする請求項2に記載の円筒深絞りの成形シミュレーション方法。
【請求項4】
板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮して成形シミュレーションを行う手段を備えたことを特徴とする円筒深絞りの成形シミュレーション装置。
【請求項5】
板厚が4mm以上の鋼板の円筒深絞りの成形シミュレーションを行う際に、面内異方性に加えて、板厚断面内の異方性も考慮して成形シミュレーションを行う処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−250245(P2012−250245A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123343(P2011−123343)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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