説明

円筒物保持具

【課題】内径にばらつきのある円筒物でも偏心を生じることなく回転軸に取り付けでき、保持力が大きく、長期間使用しても動作に異常を生じない円筒物保持具を提供すること。
【解決手段】120度間隔で3個1組で2対設けられたレバー3a,3bと、レバー上端の側面を保持するガイド穴4とレバー回転の支点のピン孔5が形成されたガイドバー6と、ガイドバーのピン孔に挿入されレバーの支点となるピン7と、レバーの下端を動作させる溝10a,10bが形成された2本の円筒スライダと、円筒スライダを夫々片側から押圧する2本の独立したバネ12a,12bと、円筒スライダとレバー下端の側面をガイドする円筒ガイド8と、円筒スライダが当接するバネを押圧するプッシャ13と、プッシャをロックする爪16とで構成され、プッシャのロックを外すと、円筒スライダがバネにより押し出され、円筒スライダの溝によりレバーが回転してレバー先端がガイドバーより突出するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻き取りスプール等の円筒物をモータ等駆動装置の回転軸に保持するために用いる治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金線等の極細線を巻き取るスプール等の円筒物をモータ等の回転軸に固定する場合、その回転軸に設けられた円筒物保持具の外形が前記円筒物の内径よりも小さくなるように加工し、この回転物に1対のプランジャーを120度間隔で3個2組取り付けることによって行われていた。スプール等の円筒物は通常、高速回転で使用されるため、その重量バランスが良好であることが重要である。
【0003】
しかしながら、実際にはスプール等の内径にばらつきがあるので、良好な重量バランスを保持するためには、プランジャーによるバランス調整を行うことが必要であった。
しかし、このバランス調整はスプール毎に内径のばらつきが異なっているため難しく、又、モータ等の回転軸との着脱の際にスプールの内壁部に損傷を生じてしまうおそれもあった。
【0004】
そこで、図4に示すような、保持具が特許文献1に記載されている。該保持具はテーパー状のパイプ19を中心軸に沿って左右に移動させることによって、120度間隔で保持具に設置され、両端2か所の丸孔のガイド20にはめ込まれた3個2組のシャフト21の下端を押し、スプールの円周方向にシャフトを動作させ、スプール等の円筒物に偏心を生ぜずに固定する方法が用いられていた。
【特許文献1】特開平10−9219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この方法はテーパー状のパイプがシャフト21を押す際の傾斜角に限界があるため、バネの力が有効に作用せず保持力が弱いこと、さらにシャフト21にモーメントが発生するため、長期間使用するとシャフト21とガイド20が摩耗しシャフトとガイドの隙間が広がることにより、動作不良を起こしてしまう等の問題が発生していた。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、内径にばらつきのあるスプール等の円筒物であっても偏心を生じることなく容易にモータ等の回転軸に取り付けることが可能で、保持力が大きく、且つ、長期間使用してもその動作に異常をきたさないスプール等の円筒物保持具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の円筒物保持具は金線等極細線の巻き取りスプール等の円筒物を保持するために、120度間隔で3個1組で2対設けられた長さが等しいレバーと、該レバー上端の側面を保持するガイド穴及び前記レバーを回転させるための支点となるピン孔が形成されたガイドバーと、該ガイドバーの該ピン孔に挿入され前記レバーの支点となるピンと、前記レバーの下端と係合して前記レバーを動作させる溝が形成されスライド方向で直線状に配置された2本の円筒スライダと、該2本の円筒スライダを夫々片側から押圧する2本の独立したバネと、前記円筒スライダと前記レバー下端の側面をガイドする円筒ガイドと、前記2本の円筒スライダを夫々当接する前記バネに対し押し縮める方向に押圧するプッシャと、該プッシャをロックする爪とにより構成されているとともに、前記プッシャのロックを外すと、前記2本の円筒スライダが前記バネの力により押し出され、前記2本の円筒スライダの溝により前記レバーが回転させられることにより、前記レバーの先端が前記ガイドバーより突出するように構成されているものである。
【0008】
また、本発明の円筒物保持具は上記に加え、前記2本の円筒スライダはスライド方向で両者の端面が当接し、前記プッシャにより前記プッシャと当接している円筒スライダを押圧して前記2本の円筒スライダを同時に等距離移動させることにより、前記レバーを動作させるようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の円筒物保持具を用いれば、スプール等の円筒物を、その内径の大小にかかわりなく偏心を生ぜずにモータ等の回転軸に固定することができる。また、前記円筒物に対する本発明の保持具の保持力は十分であるとともに、長期間使用してもスムーズな動作が可能となる。さらに前記円筒物と本発明の円筒物保持具との着脱の際、かかる円筒物の内壁面に損傷を与えることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図1乃至図3を用いて本発明を詳細に説明する。
図1は本発明によるスプール等の円筒物保持具の構成を示す正面図であり、図2は図1のA−A線断面図である。但し、図2の下半分は図1の下半分を60度回転させて示してある。本発明の円筒物保持具1では、スプール等の円筒物2を保持するための形状が等しいレバー3aとレバー3bが夫々3個1組で120度間隔でもって間隔をおいて設けられている。夫々の3個1組を1対とすると、2対設けられていることになる。
このレバー3a,3bは、ガイド穴4とピン孔5が形成された3本のガイドバー6により先端側の側面が保持され、ガイドバー6に固定されたピン7によって回転可能に保持されるとともに、円筒ガイド8の外周に加工された長穴9によって下端側の側面がガイドされている。
【0011】
円筒ガイド8の内部には、レバー3a,3bの下端と係合しレバー3a,3bを動作させる溝10a,10bが形成された2本の円筒スライダ11a,11bが摺動可能に収納されている。そして、円筒スライダ11aの端面と円筒スライダ11bの端面が当接するようになっている。また、これら2本の円筒スライダ11a,11bを夫々片側から押圧する2本のバネ12a,12bが円筒ガイド8の内部に備えられている。また、プッシャ13には円筒スライダ11aの軸14が固定されており、このプッシャ13を押圧することにより、円筒スライダ11a,11bを夫々当接するバネ12a,12bの弾性力に逆らう方向(図2において左方向)に水平移動させることができるようになっている。
【0012】
また、円筒ガイド8の外周面には溝15が形成されており、この溝15にプッシャ13に設けられた爪16を嵌め込むことによって、円筒スライダ11a,11bの位置を固定できるようになっている。なお、爪16とプッシャ13の間には、爪16を円筒ガイド8の溝15に固定するためのバネ17が設けられている。
【0013】
本発明の円筒物保持具1はこのように構成されているため、爪16が円筒ガイド8の溝15から外れると、夫々独立したバネ12a,12bにより2つの円筒スライダ11a,11bは図2において水平右方向に移動させられる。これによって、この円筒スライダ11a,11bの溝10a,10bに係合している120度間隔を有する3個ずつ等しい形に成形された2対のレバー3a,3bの下端を右方向に押す。その結果、レバー3a,3bが反時計方向に回転し、夫々のレバー先端3a’,3b’がガイドバー6から突出してスプール2の内径を押し広げるように動作する。これにより、内径にばらつきのあるスプール2を偏心させることなく均等にクランプすることが可能になる。
【0014】
また、プッシャ13をバネ12a,12bの弾性力に逆らう方向に押すことによりスプール2に対するレバー3a,3bの締付け力を緩め、スプール2の内壁面にレバー3a,3bを接触させることなくスプール2の着脱が可能になる。
この構造はレバー3a,3bが円筒スライダ11a,11bの溝10a,10bとピン7との接触のみであり、摩耗が少なく、滑らかな動作が行われるようになっている。
【0015】
図3(a),(b)は図2に示した本発明の円筒物保持具1の概略を示す図であるが、この図を用いて本発明の円筒物保持具1のメカニズムを更に詳細に説明する。
図3(a)に示すように、本発明の円筒物保持具1において、プッシャ13を押すと爪16が円筒ガイド8の溝15とかみ合ってロックされるが、このときスライド部外周に溝加工された円筒スライダ11aは、図において水平左方向に移動して固定される。なお、円筒スライダ11bは円筒スライダ11aに押されているため、同時に等距離移動して固定される。
【0016】
更に、この状態で、レバー3a,3bはガイドバー6と円筒ガイド8とに夫々形成されているガイド穴4及び9に側面を保持されるとともに、ガイドバー6に取り付けられたピン7を支点として円筒スライダ11a,11bに成形された溝10a,10bによって矢印で示すように時計方向に回転させられる。よって、3個1組よりなるレバー3a,3bによって形成されるレバー先端3a’,3b’の径の大きさは夫々スプール2の内径よりも小さくなる。
【0017】
この状態でスプール2に本発明の円筒物保持具1を挿入した後、図3(b)に示すように、プッシャ13の爪16を円筒ガイド8の溝15から外すと円筒スライダ11a,11bはバネ12a,12bによって、図において水平右方向に押し出され、円筒スライダ11a,11bの溝10a,10bがレバー3a,3bを矢印で示すように反時計方向に回転させる。レバー3a,3bがピン7を支点として回転すると、レバー先端3a’,3b’はピン7を軸として回転するので、その結果レバー先端3a’,3b’はガイドバー6から突出してスプール2の内壁面を押し付けることができる。
【0018】
このようにして、スプール2はその内径の大小にかかわりなく、保持具1のレバー先端3a’,3b’により強く固定されるが、このとき、スプール2は偏心することなく保持具1に固定されているため、重量バランスも良好になる。したがって、このようにスプール2が固定された保持具1をモータなどの回転軸18に取り付けることにより、良好な状態でスプール2を回転させることができる。また、レバー3a,3bはピン7からレバー先端3a’,3b’までの距離がレバー下端までの距離に比べはるかに短く作られているので、レバー先端3a’,3b’の保持力はその比に反比例して十分な大きさになっている。但し、ピン7からレバー先端3a’,3b’までの距離とピン7からレバー下端までの距離の比はスプール2を押圧するのに必要とする力や、スプール2の保持具1への挿入時に必要とするクリアランス等により適宜選択可能である。
【0019】
次に、スプール2を円筒物保持具1から取り外す場合には、図3(a)に示すように、再びプッシャ13を押せばプッシャ13の爪16が円筒ガイド8の溝にロックされ、パイプ4aが図の水平左方向に移動し、レバー下端が円筒スライダ11a,11bの溝10a,10bによって時計方向に回転し、レバー先端3a’,3b’がガイドバー6より下がり、スプール2の内壁面にレバー先端3a’,3b’を接触させることなくスプール2を簡単に円筒物保持具1から取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の円筒物保持具の構成を示す正面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である(但し、下半分は図1の下半分を60度回転させて示してある。)。
【図3】本発明の円筒部保持具の作用を説明するための図であり、(a)はプッシャを押す爪が円筒ガイドの溝15とかみ合ってロックされている状態であり、(b)はロックが外れている状態を示したものである。
【図4】従来の極細線巻き取りスプール等の円筒物保持具の構成を説明するための図である。
【符号の説明】
【0021】
1 円筒物保持具
2 スプール
3a,3b レバー
3a’,3b’ レバー先端
4 ガイド穴
5 ピン孔
6 ガイドバー
7 ピン
8 円筒ガイド
9 ガイド穴
10a,10b 溝
11a,11b 円筒スライダ
12a,12b バネ
13 プッシャ
14 軸
15 溝
16 爪
17 バネ
18 モータ軸
19 テーパー状のパイプ
20 丸孔のガイド
21 シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金線等極細線の巻き取りスプール等の円筒物を保持するために、120度間隔で3個1組で2対設けられた長さが等しいレバーと、該レバー上端の側面を保持するガイド穴及び前記レバーを回転させるための支点となるピン孔が形成されたガイドバーと、該ガイドバーの該ピン孔に挿入され前記レバーの支点となるピンと、前記レバーの下端と係合して前記レバーを動作させる溝が形成されスライド方向で直線状に配置された2本の円筒スライダと、該2本の円筒スライダを夫々片側から押圧する2本の独立したバネと、前記円筒スライダと前記レバー下端の側面をガイドする円筒ガイドと、前記2本の円筒スライダを夫々当接する前記バネに対し押し縮める方向に押圧するプッシャと、該プッシャをロックする爪とにより構成されているとともに、
前記プッシャのロックを外すと、前記2本の円筒スライダが前記バネの力により押し出され、前記2本の円筒スライダの溝により前記レバーが回転させられることにより、前記レバーの先端が前記ガイドバーより突出するように構成されていることを特徴とする円筒物保持具。
【請求項2】
前記2本の円筒スライダはスライド方向で両者の端面が当接し、前記プッシャにより前記プッシャと当接している円筒スライダを押圧して前記2本の円筒スライダを同時に等距離移動させることにより、前記レバーを動作させることを特徴とする請求項1に記載の円筒物保持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−78026(P2010−78026A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245714(P2008−245714)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】