説明

再帰反射性標識体

【課題】標識としての図柄が明りょうに視認でき、また設置場所の自由度が高い再帰反射性標識体を提供する。
【解決手段】図柄部11と下地部12とがプリズム再帰反射体により形成されていることで標識面1全体の再帰反射輝度が高められて視認性が高められるが、下地部12の周縁外部3がプリズム再帰反射体となされていることで、図柄部11の主要部分の周縁部2とその周囲の周縁外部3との再帰反射輝度の差が小さくなされて標識としての図柄が明りょうに視認できるようになると共に、図柄部11と下地部12とのコントラストにより図柄部11が視認されるようになることから背景の色調によらず図柄部11を明りょうに視認でき、設置場所の自由度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、夜間における視認性に優れる再帰反射性標識体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
再帰反射性の標識体は、よく知られるものとしてガラスビーズ再帰反射シート上に矢印状のプリズム再帰反射体を設けたもの等があるが、例えば、デリネーターの表面(正面)に横断歩道標識又は踏切標識の絵図面を貼着し、これを保護カバー内に納め該保護カバーに鉄パイプ柱を取付けてなるデリネーター標識が開示されている(例えば特許文献1)。
【0003】
また、矢印輪郭の先端当部から連なるプレート部とからなる厚板状の枠体となし、前記枠体の少くとも片面に反射面を形成すると共に、前記プレート部の適所に支柱取付部材を有してなる道路用誘導標識が開示されている(例えば特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】実願昭53−35678号のマイクロフィルム(実開昭54−138591号)
【特許文献2】実願昭59−196570号のマイクロフィルム(実開昭61−116808号)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような再帰反射性標識体では、絵図面の再帰反射輝度がデリネーターよりはるかに低くなることから、車両のヘッドライトが照射される等による再帰反射時にデリネーターからの光が絵図面上に被さってくることで、絵図面が明りょうに見えづらくなるものであった。
【0006】
また特許文献2のような再帰反射性標識体では、標識面の略全面が反射体となされていることから、反射面の色調と背景の色調とが近似する場合には矢印等の図柄の視認性が低下してしまい、設置場所の自由度が制限されているものであった。
【0007】
本発明は上記の如き課題に鑑みてなされたものであり、標識としての図柄が明りょうに視認でき、また設置場所の自由度が高い再帰反射性標識体を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような構成としている。すなわち、本発明に係わる再帰反射性標識体は、図柄部と、該図柄部の残余の部分である下地部とから標識面が形成され、前記図柄部と前記下地部との明度のコントラストにより前記標識面に図柄が表示され、該図柄によって標識としての意味が表示されている標識体であって、前記図柄部がプリズム再帰反射体により形成され、且つ前記下地部の、少なくとも前記図柄部の主要部分の周縁部と接する周縁外部がプリズム再帰反射体となされていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明に係わる再帰反射性標識体によれば、図柄部と下地部とがプリズム再帰反射体により形成されていることで標識面全体の再帰反射輝度が高められて視認性が高められるが、下地部の周縁外部がプリズム再帰反射体となされていることで、図柄部の主要部分の周縁部とその周囲の周縁外部との再帰反射輝度の差が小さくなされて標識としての図柄が明りょうに視認できるようになると共に、図柄部と下地部とのコントラストにより図柄部が視認されるようになることから背景の色調によらず図柄部を明りょうに視認でき、設置場所の自由度を高めることができる。
【0010】
また請求項1に記載の再帰反射性標識体において、前記周縁部及び前記周縁外部は、蛍光物質が配合されたプリズム再帰反射体を用いて形成されていれば、夜間のみならず、昼間や薄暮時においても図柄が明りょうに視認することができ好ましい。
【0011】
また請求項1又は2に記載の再帰反射性標識体において、前記図柄部と前記下地部とは、各々が同一形状のプリズム再帰反射体を複数組み合わせて形成されていれば、プリズム再帰反射体の成形において多数の金型を備える必要がなくなり好ましい。
【0012】
また請求項1〜3のいずれかに記載の再帰反射性標識体において、前記図柄部と前記下地部とは前面が略同一の高さの面となされていれば、図柄部と下地部とが互いに影を作って光の再帰反射を干渉することをなくして高い視認性を保持することができ好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係わる再帰反射性標識体によれば、図柄部と下地部とがプリズム再帰反射体により形成されていることで標識面全体の再帰反射輝度が高められて視認性が高められるが、下地部の周縁外部がプリズム再帰反射体となされていることで、図柄部の主要部分の周縁部とその周囲の周縁外部との再帰反射輝度の差が小さくなされて標識としての図柄が明りょうに視認できるようになると共に、図柄部と下地部とのコントラストにより図柄部が視認されるようになることから背景の色調によらず図柄部を明りょうに視認でき、設置場所の自由度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係わる最良の実施の形態について、図面に基づき以下に具体的に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係わる再帰反射性標識体の、第一の実施形態を示すもので、(a)は斜視図、(b)は(a)のA−A断面図である。まず(a)において、再帰反射性標識体10は適宜の取付部材を用いて、地表から立設された支柱20に取り付けられて用いられ、主として道路のカーブに沿って設置されて運転者の視線誘導を行うものである。再帰反射性標識体10の標識面1は、下地部12上に矢印形状である図柄部11が設けられて形成され、図柄部11と下地部12とは全面がプリズム再帰反射体によって形成されている。
【0016】
ここで、図柄部11は矢印形状であるから、主要部分の周縁部2は外周の内、傾斜している辺が相当し、その周縁部2と接する下地部12の周縁外部3がプリズム再帰反射体となされていることで図柄部11の視認性が確保され、ひいては図柄によって表示されている標識としての意味が夜間においても明りょうに確保することができる。
【0017】
次に(b)において、下地部12であるプリズム再帰反射体はアルミニウム合金板からなる標識駆体4の前面側αにビス等の締結手段Tにより固着され、下地部12上に図柄部11である同じくプリズム再帰反射体が、両面テープ等の接着手段Hにより接着されて取り付けられたものである。前面側αから到来する車両のヘッドライト等からの光L1は、図柄部11及び下地部12を形成するプリズム再帰反射体によって、ガラスビーズを埋設して形成した再帰反射シート等よりもはるかに高い反射効率で前面側αに光L2として再帰反射される。
【0018】
下地部12において、プリズム再帰反射体は図柄部11の周縁部2との反射輝度差を小さくするものであるから、必ずしも下地部12全体をプリズム再帰反射体とする必要はなく、少なくとも図柄の主要部分を形成する外周部分である周縁部2と接する周縁外部3がプリズム再帰反射体となされていればよく、例えば周縁部2を縁取るような形で周縁外部3をプリズム再帰反射体とするようにしてもよい。
【0019】
本実施形態において、図柄部11は赤橙色、下地部12は黄色となされており、互いの色調のコントラストによって図柄が表示されるものであるが、明りょうな視認性を確保するにおいては、L値により示される色彩の明度が10以上、より好ましくは20以上としておくのが好ましい。
【0020】
また図柄部11及び下地部12を形成するプリズム再帰反射体の色調を設定するにおいては、透光性の合成樹脂に通常の顔料を練り込む等してもよいが、蛍光性物質を用いることで再帰反射する光L2が鮮明な色調となり、夜間はもとより、昼間や薄暮時においての視認性をより一層高めることができる。好適に用いることができる蛍光性物質としては、屋外での使用においても化学的な安定性が高い金属酸化物を主成分として蛍光を発する蛍光顔料等であり、蛍光性を発現させる金属酸化物としては、一般には、アルミニウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、亜鉛、カドミウム、ストロンチウム等の酸化物やユーロピウム等の希土類酸化物等が用いられ、これらは一種のみが用いられてもよいが、二種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0021】
図2は、本発明に係わる再帰反射性標識体の、第二の実施形態を示すもので、(a)は正面図、(b)は(a)のB−B断面図である。まず(a)において、再帰反射性標識体10は第一の実施形態に示したものと同様に、主として道路のカーブに沿って設置されて運転者の視線誘導を行うものである。再帰反射性標識体10の標識面1は、矢印形状である図柄部11とその残余の部分に下地部12が設けられて形成され、図柄部11と下地部12とは全面がプリズム再帰反射体によって形成されている。
【0022】
ここで図柄部11と下地部12とは、図中一点波線で示される部分にて分割された、直角二等辺三角形の平面形状であるプリズム再帰反射体を用いて形成されており、かかる平面形状のプリズム再帰反射体を用いることで、図柄部11と下地部12とを同一の平面形状のものを用いてもプリズム再帰反射体を隙間なく配置して周縁部2と周縁外部3とを円滑に接しさせることができ、また同じ金型を用いてプリズム再帰反射体を形成できることで、成形時に多数種類の金型を備える必要がなく、コストや作業性において利点が得られる。
【0023】
次に(b)において、図柄部11及び下地部12であるプリズム再帰反射体は、アルミニウム合金板からなる標識駆体4の前面側αにビス等の締結手段Tにより固着されている。ここで図柄部11と下地部12の前面側の面は、プリズム再帰反射体が略同一の厚みとなされることで略同一の高さの面となされて段差が生じておらず、互いに影を作って前面側αから到来する光L1や再帰反射する光L2がかかる段差によって干渉されることがなくされている。本実施形態の如く、カーブの途中に設置される場合には、斜め方向から光が入射される場合が多くなることから、図柄部11と下地部12の前面側の面が略同一の高さとなされている利点は更に高いものとなり得る。
【0024】
プリズム再帰反射体はポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニール等の透光性合成樹脂等によって成型されるものであり、裏面にプリズム加工が施されている。このプリズム再帰反射体は前面より入射したヘッドライト等の光が前記プリズムにより再帰反射されて光源方向に回帰するようになされているものであればよく、またプリズム加工された裏面に金属蒸着等により反射層を形成しておいてもよい。
【0025】
次に本発明に係わる再帰反射性標識体について、以下の実施例によりその効果を示す。
【0026】
(実施例1)
図1に示した如き再帰反射性標識体において、縦40cm、横22cmの標示面に、表面積221cmの矢印形状の図柄部を設け、図柄部及び下地部を共にプリズム再帰反射体によって形成して本発明に係わる実施例1の再帰反射性標識体を得た。図柄部はポリカーボネート樹脂を赤色の蛍光顔料(BASF社製、Lumogen Red305)により着色したもの、下地部は同じくポリカーボネートを黄緑色の蛍光顔料(BASF社製、Lumogen F Yellow083)により着色したものであり、図柄部と下地部との明度差はL値で24である。
【0027】
(実施例2)
図柄部及び下地部を着色する顔料に通常の非蛍光性の赤色顔料及び黄緑色顔料を用いた以外は実施例1と同じにして、本発明に係わる実施例2の再帰反射性標識体を得た。
【0028】
(比較例1)
下地部を黄緑色の塗装板とした以外は実施例1と同じにして、比較例1の再帰反射性標識体を得た。
【0029】
(比較例2)
下地部として黄緑色に着色されたガラスビーズの再帰反射シートを用いた以外は実施例1と同じにして、比較例2の再帰反射性標識体を得た。
【0030】
実施例1及び2と、比較例1及び2の再帰反射性標識体を用いて、夜間における視認性の評価試験を行った。評価試験は、被験者に自動車(カルディナバン)の運転席に乗車し、一体の再帰反射性標識体の正面に正対して10m、20m、40m、60m離れてロービーム及びハイビームにて前照灯を照射し、その際の視認性を評点によって評価する。また曲率半径90mの道路に再帰反射性標識体を10m間隔で五体設置し、ロービーム及びハイビームにて前照灯を照射しながら時速40kmで走行した際の視認性を評点によって評価する。
【0031】
被験者は26歳〜47歳までの男女10人で、評点は、再帰反射性標識体及びその図柄が、かなりかなりよく見えるが5点、よく見えるが4点、見えるが3点、見えにくいが2点、見えないが1点とし、被験者の主観にて評価を行った。その平均値を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
評価試験の結果において、実施例1及び2は、比較例1と比較して格段に視認性が高いことが表わされており、下地部すなわち周辺外部にプリズム再帰反射体を用いることで高い視認性が得られることが明確に示されている。また実施例1及び2は比較例2よりも明らかに高い視認性が得られていることが示されており、ガラスビーズを用いた再帰反射シートを下地部に用いた場合より、プリズム再帰反射体を用いた場合のほうが夜間における視認性に優れることが表されている。また、蛍光顔料により周縁部及び周縁外部が鮮明な色調となされた実施例1が、最も高い視認性が得られるとの結果となった。
【0034】
次に、実施例1及び2と、比較例1及び2の再帰反射性標識体を用いて、昼間及び薄暮時における視認性の評価試験を行った。評価環境が晴天日中及び薄暮時である以外は夜間での評価試験と同様の試験を行っている。
【0035】
被験者は夜間の評価試験と同じ26歳〜47歳までの男女10人で、評点は、再帰反射性標識体及びその図柄が、かなり目立ってよく見えるが5点、目立ってよく見えるが4点、目立って見えるが3点、あまり目立って見えないが2点、目立って見えないが1点とし、被験者の主観にて評価を行った。その平均値を表1に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
周縁部及び周縁外部に蛍光顔料を用いた実施例1の視認性が、他の再帰反射性標識体と比較して際だって高いものとなり、蛍光顔料を用いることで昼間及び薄暮時においても高い視認性が得られることが示されている。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係わる再帰反射性標識体の、第一の実施形態を示す説明図である。
【図2】本発明に係わる再帰反射性標識体の、第二の実施形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 標識面
11 図柄部
12 下地部
2 周縁部
3 周縁外部
10 再帰反射性標識体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
図柄部と、該図柄部の残余の部分である下地部とから標識面が形成され、前記図柄部と前記下地部との明度のコントラストにより前記標識面に図柄が表示され、該図柄によって標識としての意味が表示されている標識体であって、前記図柄部がプリズム再帰反射体により形成され、且つ前記下地部の、少なくとも前記図柄部の主要部分の周縁部と接する周縁外部がプリズム再帰反射体となされていることを特徴とする再帰反射性標識体。
【請求項2】
前記周縁部及び前記周縁外部は、蛍光性物質が配合されたプリズム再帰反射体を用いて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の再帰反射性標識体。
【請求項3】
前記図柄部と前記下地部とは、各々が同一形状のプリズム再帰反射体を複数組み合わせて形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の再帰反射性標識体。
【請求項4】
前記図柄部と前記下地部とは、前面が略同一の高さの面となされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の再帰反射性標識体

【図1】
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【図2】
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