説明

再帰性反射体の製造方法及び再帰性反射体

【課題】再帰性反射シートを被貼付体の3次曲面に、剥離やしわの発生を防止しながら貼り付けることが可能な再帰性反射体の製造方法を提供する。
【解決手段】再帰性反射層12と、再帰性反射層12の一の面に配設される粘着層13とを備える再帰性反射シート11を、被貼付体の表面に貼り付けて再帰性反射体を製造する再帰性反射体の製造方法であって、再帰性反射シート11の一の面(粘着層側の面)側の圧力調節可能な第2の成形室10と、再帰性反射シート11の他の面側の、第2の成形室10とは独立に圧力調節可能な第1の成形室9とを形成し、被貼付体を第2の成形室10側から再帰性反射シート11の一の面に当接させ、第2の成形室10側の圧力を第1の成形室9側の圧力より低下させて、再帰性反射シート11を被貼付体の表面に貼り付けて再帰性反射体を形成する再帰性反射体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再帰性反射体の製造方法及び再帰性反射体に関し、更に詳しくは、3次曲面を有する被貼付体に再帰性反射シートを貼り付けるときに、再帰性反射シートが3次曲面に追従できずに剥離やしわが生じることを防止することが可能な再帰性反射体の製造方法、及びその方法により得られた再帰性反射体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、夜間又は暗所で使用する道具等であって、その夜間等における視認性を高めたいものについては、再帰性反射シートを貼り付けたり、表面に再帰性反射機能を有する物質を接着剤で貼り付けたりしていた。例えば、道路工事等の工事現場等で使用されるヘルメットや、オートバイ運転者が被るヘルメット等についても、そのヘルメット等を装着したときの夜間の視認性を高め、夜間の安全性を向上させるため、上記再帰性反射シートや再帰性反射機能を有する物質が使用されていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、ヘルメットやガードレールの曲面のように、その表面が3次曲面からなるもの、又は3次曲面を有するものについては、再帰性反射シートをその全面に貼り付けると、再帰性反射シートが3次曲面に追従できずに剥離やしわが生じるという問題があった。そのため、従来は、ヘルメットやガードレールの曲面の一部に、小さい再帰性反射シートやストライプ状の再帰性反射シートを貼り付けていたことにより、その視認性の向上という観点からは、さらに向上させることが望まれていた。
【0004】
また、ヘルメットの表面に再帰性反射機能を有する物質を接着剤で貼り付ける方法は、例えば、液状の接着剤を表面に塗布し、そこにビーズ状の再帰性反射機能を有する物質を貼り付ける方法であるため、表面が3次曲面であっても、その曲面による剥離やしわが生じることは少ない。しかし、この方法では、ヘルメット表面に多数の層を形成する工程が必要であるため、製造工程が複雑になることが考えられる。また、使用する接着剤や塗料等に、有機溶剤等が含有される場合には環境保全の面において好ましくない場合がある。
【特許文献1】特開2002−266149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その特徴は、3次曲面を有する被貼付体に再帰性反射シートを貼り付けるときに、再帰性反射シートが3次曲面に追従できずに剥離やしわが生じることを防止することが可能な再帰性反射体の製造方法、及び被貼付体表面の所定の曲面を有する部分の広範囲にわたって再帰性反射シートが貼り付けられた再帰性反射体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明によって以下の再帰性反射体の製造方法及び再帰性反射体が提供される。
【0007】
[1] 再帰性反射層と、前記再帰性反射層の一の面に配設される粘着層とを備える再帰性反射シートを、被貼付体の表面に貼り付けて再帰性反射体を製造する再帰性反射体の製造方法であって、前記再帰性反射シートの一の面(粘着層側の面)側の圧力調節可能な第2の成形室と、前記再帰性反射シートの他の面側の、前記第2の成形室とは独立に圧力調節可能な第1の成形室とを形成し、前記被貼付体を前記第2の成形室側から前記再帰性反射シートの一の面に当接させ、前記第2の成形室側の圧力を前記第1の成形室側の圧力より低下させて、前記再帰性反射シートを前記被貼付体の表面に貼り付けて再帰性反射体を形成する再帰性反射体の製造方法。
【0008】
[2] 前記再帰性反射シートを、加熱する[1]に記載の再帰性反射体の製造方法。
【0009】
[3] 前記再帰性反射シートの前記再帰性反射層が、前記一の面側から順に、アルミニウム蒸着層、及びシート状の樹脂にガラスビーズが封入された樹脂層を有する[1]又は[2]に記載の再帰性反射体の製造方法。
【0010】
[4] 前記再帰性反射層が、前記樹脂層の表面(再帰性反射シートの他の面側)に表面層を有する[3]に記載の再帰性反射体の製造方法。
【0011】
[5] 前記再帰性反射シートが、厚さ50〜600μmであり、JIS Z 0237に準拠して測定した伸び率が50〜500%である[1]〜[4]のいずれかに記載の再帰性反射体の製造方法。
【0012】
[6] 前記被貼付体がヘルメットである[1]〜[5]のいずれかに記載の再帰性反射体の製造方法。
【0013】
[7] 被貼付体と前記被貼付体の表面に貼り付けられた再帰性反射シートとを備える再帰性反射体であって、貼り付けられた領域において前記再帰性反射シートの最大の面積変化率が50%以上である再帰性反射体。
【0014】
[8] 前記再帰性反射シートが、厚さ50〜600μmであり、JIS Z 0237に準拠して測定した伸び率が50〜500%である[7]に記載の再帰性反射体。
【0015】
[9] 前記被貼付体がヘルメットである[7]又は[8]に記載の再帰性反射体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の再帰性反射体の製造方法によれば、再帰性反射シートを加熱して伸びやすくした状態で被貼付体に当接させ、第2の成形室側を低圧にするため、被貼付体の表面が3次曲面を有していても再帰性反射シートがその曲面に追従することができ、剥離やしわが形成されない再帰性反射体を製造することが可能となる。そして、この方法によれば、少ない工程数で再帰性反射体を製造することができるので、短時間に多くの再帰性反射体を製造することが可能となる。
【0017】
本発明の再帰性反射体は、所定の曲面の表面に再帰性反射シートが、剥離やしわを生じることなく貼り付けられた再帰性反射体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0019】
図1は、本発明の再帰性反射体の製造方法の一の実施形態において、貼付装置1に被貼付体(ヘルメット14)と再帰性反射シート11とを装着した状態を模式的に示した断面図である。図1に示すように、貼付装置1は、2つの圧力調節口5,6を有する貼付装置本体2と、ヒーター7と、テーブル8とを備えるものである。そして、貼付装置本体2は、その上側半分である本体上部3と、その下側半分である本体下部4とを有する構造である。貼付装置本体2は、密閉可能で、本体上部3側の第1の成形室9と本体下部4側の第2の成形室10とを形成できるものであれば特に限定されるものではないが、所定の減圧状態又は加圧状態に耐え得る構造であることが好ましい。本実施形態においては、本体上部を第1の成形室とし、本体下部を第2の成形室としているが、本体上部を第2の成形室とし、本体下部を第1の成形室としてもよい。また、貼付装置本体を上部と下部(鉛直方向)とに分割しているが、横方向(水平方向)に2つに分割し、左右に分かれるようにしてもよい。また、ヒーター7は、本体上部3の内側(第1の成形室9側)に配設されている。また、テーブル8は、第2の成形室10に配設されており、その上面に被貼付体を載せて上下動することができるように形成されている。上述のような貼付装置1としては、例えば、布施真空社製の両面真空成形機NGF等を挙げることができる。また、本実施形態の再帰性反射体の製造方法では、被貼付体としてヘルメットを使用しているが、被貼付体としてはこれに限定されるものではなく、ガードレールや自動車部品等を挙げることができる。
【0020】
本実施形態の再帰性反射体の製造方法では、貼付装置本体2の本体上部3と本体下部4との間に再帰性反射シート11を、粘着層13側の面(一の面11a)が本体下部4側を向くようにして挟み込むことにより、再帰性反射シート11の一の面(粘着層側の面)11a側の圧力調節可能な第2の成形室10と、再帰性反射シート11の他の面11b側の、第2の成形室10とは独立に圧力調節可能な第1の成形室9とを形成している。再帰性反射シート11を本体上部3と本体下部4との間に挟みこむ方法としては、貼付装置本体2を本体上部3と本体下部4とに分割し、再帰性反射シート11を、本体下部4の分割により開放状態となった上面部分に装着し、本体上部3を被せてもとの貼付装置本体2の状態に戻すようにする方法が挙げられる。再帰性反射シート11で仕切られた第1の成形室9と第2の成形室10とは、それぞれ一つずつの圧力調節口5,6を有する構造となっている。
【0021】
貼付装置本体2及びテーブル8の材質は特に限定されないが、強度、耐久性等の観点からステンレススチール、鉄等を使用することができる。また、貼付装置本体2の外形も特に限定されるものではなく、角柱状、円筒状、その他いずれの形状でもよい。また、貼付装置本体2の大きさも特に限定されるものではなく、被貼付体の大きさに合わせて適宜決定することができる。
【0022】
本実施形態の再帰性反射体の製造方法は、図1に示すように、上述のように構成された再帰性反射シート貼付装置1のテーブル8の上面に被貼付体であるヘルメット14を載せる。このとき、ヘルメット14の再帰性反射シート11を貼り付ける面が、再帰性反射シート11側を向くようにする。そして、圧力調節口5,6を通じて、第1の成形室9と第2の成形室10とを減圧する。このとき、第1の成形室9と第2の成形室10との圧力を同じにすることが好ましい。そして、図2に示すように、テーブル8を上昇させ、ヘルメット14を再帰性反射シート11の一の面11aに当接させる。そして、ヒーター7により、再帰性反射シート11を加熱する。図2は、本発明の再帰性反射体の製造方法の一の実施形態において、被貼付体を再帰性反射シート11の一の面11aに当接させた状態を模式的に示した断面図である。
【0023】
第1の成形室9と第2の成形室10とを減圧したときの圧力は特に限定されないが、10kPa以下であることが好ましく、5kPa以下であることが更に好ましい。また、圧力調節口を通じて減圧するときの減圧装置は、特に限定されず、通常使用される真空ポンプ等を使用することができる。
【0024】
ヒーターは、特に限定されないが、近赤外線ヒーターであることが好ましい。ヒーターの数は、特に限定されず、再帰性反射シートの加熱温度により適宜決定することができる。また、再帰性反射シートの加熱温度は、30〜200℃であることが好ましく、50〜150℃であることが更に好ましく、80〜120℃であることが特に好ましい。また、ヒーターは、第2の成形室側に配設されていてもよく、さらに、第1の成形室と第2の成形室の両方に配設されていてもよい。
【0025】
尚、上記、第1の成形室9と第2の成形室10とを減圧する操作、ヘルメット14を再帰性反射シート11の一の面11aに当接さる操作、及び、再帰性反射シート11を加熱する操作は、この順番で行うことが好ましいが、これら3つの操作の順番は特に限定されるものではなく、どのような順番でもよい。また、3つの操作を異なる時間帯に順次行う必要はなく、いずれか2つの操作を同時に行ってもよいし、3つの操作を同時に行ってもよい。
【0026】
次に、図3に示すように、ヘルメット14を第2の成形室10側から第1の成形室9側に向かって再帰性反射シート11を押圧しながら移動させる。そして、この移動とともに第1の成形室9側の圧力を上昇させる。第1の成形室9側の圧力は、減圧状態から圧力調節口5を通じて常圧に戻すことにより上昇させることができる。また、第1の成形室9側の圧力を上昇させることで、減圧状態の第2の成形室10の圧力を第1の成形室9の圧力より低下させた状態とすることができる。図3は、本発明の再帰性反射体の製造方法の一の実施形態において、被貼付体(ヘルメット14)を、再帰性反射シート11を押圧しながら移動させている状態を模式的に示した断面図である。
【0027】
このように、加熱された再帰性反射シート11を押圧しながらヘルメット14を移動させるとともに、第1の成形室9側の圧力を上昇させるため、図4に示すように、再帰性反射シート11をヘルメット14の表面全体に貼り付けることが可能となり、剥離やしわが形成されない再帰性反射体を得ることができる。これは、第1の成形室9の圧力が第2の成形室10の圧力より高くなるため、再帰性反射シート11が、第1の成形室9側から第2の成形室10側に押される力で、ヘルメット14の表面に貼り付くものである。図4は、本発明の再帰性反射体の製造方法の一の実施形態において、被貼付体(ヘルメット14)に再帰性反射シート11を貼り付けた状態を模式的に示した断面図である。
【0028】
本実施形態では、第1の成形室9及び第2の成形室10を減圧した後に、第1の成形室9を常圧に戻すことにより、第2の成形室10側の圧力を第1の成形室9側の圧力より低下させているが、第1の成形室9及び第2の成形室10の減圧をせずに両方を常圧の状態とし、加熱された再帰性反射シート11を押圧しながら被貼付体(ヘルメット14)を移動させるときに、第1の成形室9側を加圧することにより、第2の成形室10側の圧力を第1の成形室9側の圧力より低下させてもよい。また、被貼付体の再帰性反射シートに当接させた後の移動は、必ずしも必要ではなく、当接後、移動させずに第2の成形室側の圧力を低下させてもよい。被貼付体の移動の有無は、被貼付体の形状に合わせて適宜決定することができる。
【0029】
ヘルメット14を第2の成形室10側から第1の成形室9側に向かって再帰性反射シート11を押圧しながら移動させるときの、移動(上昇)速度は、特に限定されず、再帰性反射シート11の温度や、第1の成形室9の圧力上昇速度等と合わせて、最適な値を選択することができる。
【0030】
図5に示すように、再帰性反射シート11は、再帰性反射層12と、再帰性反射層12の一の面に配設される粘着層13とを備えるものである。そして、再帰性反射層12は、粘着層13に接する側から順に、アルミニウム蒸着層、ビーズ、ビーズを封入する樹脂層及び表面層を備えるものである。
【0031】
本実施形態の再帰性反射体の製造方法においては、再帰性反射シートは、加熱され、被貼付体により押圧されながら被貼付体に貼り付くものであるため、被貼付体に貼り付いた再帰性反射シート自体は若干伸ばされた状態となる場合がある。このような場合、上記封入レンズ型再帰性反射シートを使用すると、再帰性反射シートが伸ばされても、ビーズ同士の配置が若干変動し、その間隔が若干大きくなる程度の変化があるだけであるため、再帰性反射効果はそれほど大きくは変化しない。また、このビーズの配置の変動を考慮して、被貼付体に貼り付ける前のビーズを封入した樹脂層におけるビーズの密度を高くしておけば、得られる再帰性反射体の再帰性反射効果を最適化することが可能である。また、本実施形態の再帰性反射体の製造方法で使用する再帰性反射シートは、このように、ビーズを有する封入レンズ型再帰性反射シートであることが好ましいが、これに限定されず、図6に示すような露出レンズ型再帰性反射シート11a、図7に示すようなカプセルレンズ型再帰性反射シート11b及び図8に示すようなプリズムレンズ型再帰性反射シート11cも使用することができる。
【0032】
ここで、図6に示す露出レンズ型再帰性反射シート11aは、ビーズ22、アルミニウム蒸着層23、膠着層25及び粘着層13から構成され、ビーズ22を構成するガラスビーズが表面に露出した状態になったものである。ここで、膠着層25は、ビーズもしくはプリズムといった再帰性反射素子を固定する役割を果たす層である。図7に示すカプセルレンズ型再帰性反射シート11bは、表面層21、空気層26、ビーズ22、アルミニウム蒸着層23、膠着層25及び粘着層13から構成され、表面層21とビーズ22との間に空気層26を形成したものである。図8に示すプリズムレンズ型再帰性反射シート11cは、表面層21、プリズム層27、空気層26、膠着層25及び粘着層13から構成され、ビーズの代わりにプリズムを使用したものである。
【0033】
図5に示す再帰性反射シート11は、厚さが50〜600μmであることが好ましく、100〜400μmであることが更に好ましい。50μmより薄いと、所望の大きさのビーズを使用できないことがあり、また被貼付体に貼り付けるときに破損し易くなることがある。600μmより厚いと、しわ等が発生し易くなることがある。厚さは、JIS C 2151に準拠する方法によって測定した、マイクロメータによる平均厚さである。
【0034】
また、再帰性反射シート11は、JIS Z 0237に準拠した方法で測定した伸び率が、50〜500%であることが好ましく、100〜300%であることが更に好ましい。伸び率が50%より小さいと、被貼付体に貼り付けるときに、しわ等が発生し易くなることがあり、伸び率が500%を超えると、ビーズ同士の配置の変化が大きくなり、プリズムの変形が大きくなることがある。
【0035】
図5に示す、再帰性反射シート11の再帰性反射層12を構成するビーズ22は、シート状の樹脂層24内に複数のビーズ22が埋め込まれて形成された層であることが好ましい。本実施形態において、ビーズ22は、ガラスを使用して測定した屈折率が1.5〜2.5の、粒子状のガラスからなるガラスビーズであることが好ましい。ビーズの粒子径は、30〜200μmであることが好ましく、50〜100μmであることが更に好ましい。このような粒子径にすることにより、最適な再帰性反射効果を得ることができる。樹脂層24の材質は、透明であれば特に限定されないが、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂等であることが好ましい。また、ビーズ22の厚さは、40〜300μmであることが好ましい。
【0036】
図5に示す、再帰性反射シート11の再帰性反射層12を構成するアルミニウム蒸着層23は、樹脂層24の一の面に配設されたアルミニウムからなる層である。アルミニウム蒸着層23は、アルミニウムを樹脂層24の一の面に真空蒸着させたものであることが好ましい。本実施形態では、アルミニウム蒸着層を使用しているが、これに限定されるものではなく、光を良好に反射し得る反射層であればよい。そして、反射層としては、アルミニウム蒸着層に限らず金属蒸着層であればよい。
【0037】
図5に示すように、再帰性反射シート11の再帰性反射層12の粘着層13が形成されない側の面(他の面)には、表面層21が形成されていることが好ましい。表面層21及び樹脂層24によりビーズ22等が保護され、また、表面層21により再帰性反射体の表面を所望の状態に仕上げることができる。表面層21は、シート状の透明樹脂から形成された層であることが好ましい。表面層21を構成する透明樹脂は、特に限定されるものではないが、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリオレフィン系樹脂等を挙げることができる。表面層21の厚さは、5〜50μmであることが好ましい。
【0038】
図5に示す、再帰性反射シート11を構成する粘着層13は、再帰性反射層12の一の面側に粘着層13を層状に配設したものであることが好ましい。粘着層13を構成する粘着剤としては、アクリル系接着剤、合成ゴム系接着剤等を使用することが好ましい。また、粘着層13の厚さは、5〜50μmであることが好ましい。
【0039】
上述のような、本発明の再帰性反射体の製造方法に使用する再帰性反射シートとしては、例えば、封入レンズ型再帰性反射シート1570、封入レンズ型再帰性反射シート680、プリズムレンズ型再帰性反射シート3910、カプセルレンズ型再帰性反射シート3810、露出レンズ型再帰性反射シート8850(いずれも、住友スリーエム社製)等を挙げることができる。
【0040】
本発明の再帰性反射体の製造方法において、ヘルメットのような圧力変化により変形するおそれのあるものを被貼付体とした場合には、被貼付体の内部に変形防止用の型を入れて被貼付体の変形を防ぐことが好ましい。例えば、ヘルメットの場合、ヘルメットの内側の面に沿った相補的な形状の型に、ヘルメットを被せた状態で貼付装置のテーブルに装着することが好ましい。型の材質は、本発明の再帰性反射体の製造方法における圧力変化に耐え得る材質であれば特に限定されるものではないが、例えば、木材、土、エポキシ樹脂、スチール、アルミニウム等を挙げることができる。
【0041】
本発明の再帰性反射体の製造方法においては、被貼付体の表面にウレタン系樹脂等を塗布することにより表面処理した後に、再帰性反射シートを貼り付けてもよい。これにより、例えば、被貼付体の表面に細かい凹凸があることにより再帰性反射シートを貼り付け難い場合や、被貼付体の材質が再帰性反射シートを貼り付け難いものである場合等であっても、容易に、しわ等の発生を防止しながら再帰性反射体を製造することが可能となる。被貼付体の表面処理を行うウレタン系樹脂としては、例えば、住友スリーエム社製のK520を挙げることができる。
【0042】
本発明の再帰性反射体は、被貼付体と、その被貼付体の表面に貼り付けられた再帰性反射シートとを備える再帰性反射体であって、貼り付けられた領域において前記再帰性反射シートの最大の面積変化率が50%以上の再帰性反射体である。ここで、面積変化率(%)とは、R={(S−S)/S}×100で定義される値であり、Rは「面積変化率(%)」、Sは再帰性反射シートの貼り付け前の面積(cm)、Sは再帰性反射シートの貼り付け後の面積(cm)をそれぞれ示す。このように再帰性反射シートの最大面積変化率が大きいことより、広い範囲にわたって再帰性反射シートが配設されることが可能となり、夜間の視認性をより高めることが可能となる。例えば、被貼付体を外表面の曲率が大きなヘルメットとして、再帰性反射体を、外表面の全面に再帰性反射シートを配設したヘルメットとすることにより、夜間の視認性を向上させ、安全性を向上させることが可能となる。さらに、ヘルメットのような外表面の曲率が大きな貼付体の全面に、再帰性反射シートを配設する場合は、最大の面積変化率は100%以上であることが好ましい。再帰性反射シートは、厚さ50〜600μmであり、JIS Z 0237に準拠して測定した伸び率が50〜500%であることが好ましい。このような再帰性反射シートを使用することにより、再帰性反射シートが剥離したり、しわ等が形成されたりしていない再帰性反射体となる。本発明の再帰性反射体における、被貼付体、再帰性反射シート等の各条件は、上記本発明の再帰性反射体の製造方法において使用される、被貼付体、再帰性反射シート等の各条件と同じであることが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
貼付装置として、布施真空社製の両面真空成形機NGFを使用し、被貼付体として谷沢製作所社製のヘルメット(ST#148−EZ)を使用した。ヘルメットの材質は、ABS樹脂であり、高さ153mm、幅226mm、奥行き263mmのものを使用した。また、再帰性反射シートとしては、住友スリーエム社製、封入レンズ型再帰性反射シート1570を使用した。この再帰性反射シートは、厚さが150μmであり、JIS Z 0237に準拠して測定した伸び率が200%である。再帰性反射シートの表面には、予め油性ペンを使用して1cm間隔の格子模様を描いておいた。また、表面層の材質は、ポリ塩化ビニルであり、粘着層に使用される粘着剤はアクリル系樹脂である。
【0045】
(貼付操作)
ヘルメットを土製の型に被せて、貼付装置の本体下部側に位置するテーブル上に載せた。また、再帰性反射シートを、粘着層側を本体下部側に向けて、本体上部と本体下部との間に挟み、内部空間を仕切って第1の成形室と第2の成形室とを形成した。そして、第1の成形室及び第2の成形室を減圧して1.5kPaにした。さらに、第1の成形室側に設置されたヒーターにより再帰性反射シートを加熱して110℃にした。次に、テーブルを上昇させてヘルメットの頭頂部を再帰性反射シートに当接させた。次に、ヘルメットを上方向に(第2の成形室側から第1の成形室側に向かって)、再帰性反射シートを押圧しながら移動させながら、第1の成形室の圧力を上昇させ、最終的に常圧に戻した。これらの操作により、再帰性反射シートが外表面全体に貼り付けられたヘルメット(再帰性反射体)を得た。
【0046】
再帰性反射シートを貼り付けたヘルメットの外表面全体の格子模様の状態を観察し、最大の変化を生じた格子部分の面積変化率を求めたところ、110%であった。
【0047】
得られた再帰性反射体(ヘルメット)について、以下に示す、冷熱サイクル試験を7サイクル実施した。その結果、外観変化はなく、良好な状態を維持していた。
【0048】
(冷熱サイクル試験)
温度−30℃、湿度0%で1.5時間保持し、1時間かけて温度23℃、湿度65%とし、その状態で0.5時間保持し、0.5時間かけて温度40℃、湿度95%とし、その状態で2時間保持し、0.5時間かけて温度23℃、湿度65%とし、その状態で0.5時間保持し、0.5時間かけて温度−30℃、湿度0%とし、その状態で1.5時間保持し、1時間かけて温度23℃、湿度65%とし、その状態で0.5時間保持し、1時間かけて温度80℃、湿度50%とし、その状態で11時間保持し、1時間かけて温度23℃、湿度65%とし、その状態で0.5時間保持するところまでを1サイクルとした。各サイクルのつなぎとしては、1サイクルの最後の状態である温度23℃、湿度65%の状態から0.5時間かけて、温度−30℃、湿度0%とし、次のサイクルに入ることとした。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の再帰性反射体の製造方法は、3次曲面を有する被貼付体の表面の広範囲に再帰性反射シートを貼り付けるのに利用することができる。本発明の再帰性反射体は、ヘルメット等の夜間等における視認性を高めたい物品として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の再帰性反射体の製造方法の一の実施形態において、再帰性反射シート貼付装置に被貼付体と再帰性反射シートとを装着した状態を模式的に示した断面図である。
【図2】本発明の再帰性反射体の製造方法の一の実施形態において、被貼付体を再帰性反射シートの一の面に当接させた状態を模式的に示した断面図である。
【図3】本発明の再帰性反射体の製造方法の一の実施形態において、被貼付体(ヘルメット14)を、再帰性反射シートを押圧しながら移動させている状態を模式的に示した断面図である。
【図4】本発明の再帰性反射体の製造方法の一の実施形態において、被貼付体(ヘルメット14)に再帰性反射シートを貼り付けた状態を模式的に示した断面図である。
【図5】本発明の再帰性反射体の製造方法の一の実施形態において使用する、再帰性反射シートを模式的に示した断面図である。
【図6】本発明の再帰性反射体の製造方法の一の実施形態において使用する、再帰性反射シートの他の態様を模式的に示した断面図である。
【図7】本発明の再帰性反射体の製造方法の一の実施形態において使用する、再帰性反射シートの他の態様を模式的に示した断面図である。
【図8】本発明の再帰性反射体の製造方法の一の実施形態において使用する、再帰性反射シートの他の態様を模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1:貼付装置、2:貼付装置本体、3:本体上部、4:本体下部、5,6:圧力調節口、7:ヒーター、8:テーブル、9:第1の成形室、10:第2の成形室、11:再帰性反射シート、11a:露出レンズ型再帰性反射シート、11b:カプセルレンズ型再帰性反射シート、11c:プリズムレンズ型再帰性反射シート、12:再帰性反射層、13:粘着層、14:ヘルメット、21:表面層、22:ビーズ、23:アルミニウム蒸着層、24:樹脂層、25:膠着層、26:空気層、27:プリズム層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
再帰性反射層と、前記再帰性反射層の一の面に配設される粘着層とを備える再帰性反射シートを、被貼付体の表面に貼り付けて再帰性反射体を製造する再帰性反射体の製造方法であって、
前記再帰性反射シートの一の面(粘着層側の面)側の圧力調節可能な第2の成形室と、前記再帰性反射シートの他の面側の、前記第2の成形室とは独立に圧力調節可能な第1の成形室とを形成し、
前記被貼付体を前記第2の成形室側から前記再帰性反射シートの一の面に当接させ、前記第2の成形室側の圧力を前記第1の成形室側の圧力より低下させて、前記再帰性反射シートを前記被貼付体の表面に貼り付けて再帰性反射体を形成する再帰性反射体の製造方法。
【請求項2】
前記再帰性反射シートを、加熱する請求項1に記載の再帰性反射体の製造方法。
【請求項3】
前記再帰性反射シートの前記再帰性反射層が、前記一の面側から順に、アルミニウム蒸着層、及びシート状の樹脂にガラスビーズが封入された樹脂層を有する請求項1又は2に記載の再帰性反射体の製造方法。
【請求項4】
前記再帰性反射層が、前記樹脂層の表面(再帰性反射シートの他の面側)に表面層を有する請求項3に記載の再帰性反射体の製造方法。
【請求項5】
前記再帰性反射シートが、厚さ50〜600μmであり、JIS Z 0237に準拠して測定した伸び率が50〜500%である請求項1〜4のいずれかに記載の再帰性反射体の製造方法。
【請求項6】
前記被貼付体がヘルメットである請求項1〜5のいずれかに記載の再帰性反射体の製造方法。
【請求項7】
被貼付体と前記被貼付体の表面に貼り付けられた再帰性反射シートとを備える再帰性反射体であって、貼り付けられた領域において前記再帰性反射シートの最大の面積変化率が50%以上である再帰性反射体。
【請求項8】
前記再帰性反射シートが、厚さ50〜600μmであり、JIS Z 0237に準拠して測定した伸び率が50〜500%である請求項7に記載の再帰性反射体。
【請求項9】
前記被貼付体がヘルメットである請求項7又は8に記載の再帰性反射体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−239272(P2007−239272A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61607(P2006−61607)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】