説明

再活性化のための無細胞生体由来組織の作製方法及びその方法を実施するための装置

本発明は生細胞の再移植による再活性化のための無細胞生体由来組織を作製する方法に関し、該方法は実質的に平らな表面に該無細胞組織を作製する段階と、少なくとも該組織厚みの一部を貫通するように複数の穴を該組織の表面の全体に分散するように形成する段階を有する。該穴は生細胞が再移植された場合に、該細胞を収容するのに適している。本発明はさらに該方法を実施するためのホルダー(20)に配置された1つまたは複数の針(1)と該1つまたは複数の針に接続されている電力源(4)を有する装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は再活性化のための無細胞組織を作製する方法に関し、さらに再活性化のための組織を作製する該方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野、特に外科分野においては、臓器の一部あるいは臓器全体を置換することの必要性の増加に対処するために、組織の生体移植が益々重要になりつつあることはよく知られている。
【0003】
研究室で作製し、動物またはヒトレシピエントに移植する生物学的代替物の構築は、「組織工学」の名前で知られている医療技術である。
【0004】
研究室では、「スカフォールド(足場)」と一般に呼ばれている無生物支持媒体からなるマトリックスに細胞を植え付ける、公知方法により移植用組織を作製している。
【0005】
治療が行われる臓器の物質の喪失を補うために使用される「スカフォールド」は、新しい組織の形成が完成するまで細胞の三次元組織化を促進する。
【0006】
そして、スカフォールドに植え付けた細胞により促進されて、スカフォールドは完全に消失し、再生された組織により置換されるまで自然に分解過程を受けなければならない。
【0007】
移植組織は、人工または食道壁などのヒトまたは動物から取得可能な生体(例えば、「ドナー」)のスカフォールドを使用して上記方法により取得することができる。
【0008】
ドナーから採取した生体スカフォールドを他のヒトに移植して使用するためには、拒絶反応を避けるために、まず、組織を処理して結合組織の繊維間に存在する全ての細胞を取り除き、移植を受けるレシピエント(宿主)のヒト細胞を再移植しなければならない。
【0009】
ドナーから採取した組織から出発してスカフォールド、すなわち、無細胞マトリックスを形成する方法は、よく知られているのでここでは詳細に説明しないが、簡潔には、組織の結合繊維を損傷することなく組織中に含まれる生細胞を消化、破壊することができる酵素物質を含有する液体中に、組織を浸して処理することを有する。
【0010】
宿主から採取した細胞を受け入れる準備ができた無細胞組織マトリックスを形成したら、該組織またはスカフォールドを、生物学実験室で一般的に使用されているトレーである、いわゆる「ペトリ皿」(または同様の容器)の底部に調製、放置して組織を再活性化させる。
【0011】
該組織の再活性化は、レシピエントの幹細胞を植え付け、細胞培養液により幹細胞に栄養を与え、幹細胞の生存を保持し、増殖、伝播させて行う。
【0012】
基本的に、最初に組織の上部表面に置かれた幹細胞は、以前はドナーの細胞で塞がれていた、スカフォールドの組織中の天然間質を通り抜ける。
【0013】
一定時間後、温度制御下、培養液に含まれる栄養物質の存在下に、生細胞自身が組織の間質に再配置して、宿主臓器への移植に備える。
【0014】
一般に、スカフォールドを再活性化させるために使用される細胞は幹細胞であり、幹細胞はその後分化して(あるいは既に分化しており)、再活性化した組織が移植される臓器特有の機能を獲得することは特筆されるべきである。
【0015】
この方法により処理された組織の移植の成功または失敗は、組織マトリックスを介する細胞の毛管拡散に依存する。
【0016】
この拡散が困難であったり、深部ではなく表面で起こったりすると、移植組織は適切に再活性化されず、壊死性経過が始まり、移植の失敗を招く。
【0017】
上記に鑑み、組織のあらゆる部分の深部での再活性化、特に深さ方向全層にわたっての再活性化を確保することが、成功に不可欠ではないにしても、本質的かつ重要であることは明らかである。
【0018】
仮に、前処理および再活性化処理を充分に長い時間行ったとしても、移植の失敗を避ける確実な結果を確保することはなお不可能である。
【0019】
これは、スカフォールドに再移植されている生細胞の浸透が不十分であることによる。
【0020】
実際の問題として、厚みのある組織ほど充分な深さまでの浸透ができないので、移植後の再活性化が不十分になり、上記のような欠点は移植に好適な組織を作製する機会を大幅に制限する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、現行の方法はごく限られた層の、例えば、約0.1mmを超えない厚さの組織を移植するのに適当なだけであることは明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は上記欠点を解消する無細胞組織を作製する方法を開発することを目的とする。
【0023】
さらに具体的には、本発明は無細胞生体由来組織の作製方法を開発することを目的とし、該方法によれば、組織を幹細胞で再活性化する場合、失活される前の組織の状態と実質的に同じ状態が再生されるように、網状の結合組織繊維のあらゆる空間に浸透し、コロニーを形成することがより容易である方法を開発することを目的とする。
【0024】
本発明の他の目的は、移植組織を作製するために生細胞を添加した後の、無細胞スカフォールドを再活性化させるのに必要な処理時間の大幅かつ重要な短縮を達成することである。
【0025】
本発明の目的は、請求項1に記載の無細胞生体由来組織の作製方法により達成される。
【0026】
より正確には、本方法は、作製される組織の表面に複数の穴を形成することを有し、これらの穴は少なくとも組織層の厚みの一部を、好ましくは全厚みを貫通する。
【0027】
これらの穴は、形成された穴の周りの結合組織に変化(分裂、壊死、層厚の増減、内容液の変化または凝固)をもたらすことなく、適当な電流を通すことが可能な針を有する装置により作成することができる。
【0028】
これらの穴の作製により穴の周りの結合組織やスカフォールドを概して劣化させない限り、該穴は種々の装置や方法を使用して処理される組織の厚みを貫いて形成することができる。
【0029】
以下に説明するように、本発明の目的及び組織に形成される穴の質における最良の結果は、各穴を形成するために使用される各針の先端に高周波電圧(通常、4MHz)を印加して弱いが結合組織中の分子間の結合を破壊するには充分な電流を流し、分子を破壊することなく穴を形成することにより得られる。
【0030】
これにより、基本的に挿入された針の口径と同じ大きさの小さな径の穴があけられる。
【0031】
使用する針は、例えば、50μm程度のかなり小さな口径であることが重要であるが、細胞が穴の中に浸透することを促進して周りの組織を再活性化するために充分な大きさであることが必要である。
【0032】
多数の穴の作成が、組織の最も深い部分に細胞を移植するための新たな経路を作製することを意味することは理論的かつ明白であって、関与する組織の再活性化を確実に達成する。
【0033】
本発明の方法によれば、穴は移植用組織の厚みを貫いてかつ表面全体に形成され、無細胞スカフォールドに再移植された生細胞は組織を貫通して浸透し再活性化が完了されるので、移植用に作製される組織の厚みが特に限定されることはない。
【0034】
また、本発明は、本発明による生体由来組織の作製方法を実施するための装置を提供する。該装置の主な特徴は請求項11に記載されている。
【0035】
本発明の好ましい実施形態を非制限的な例示として提供して説明し、本発明の他の特徴及び特色をさらに詳細に明らかにするとともに、該方法を実施するための装置について明らかにする。
【0036】
本発明を添付の図を用いて以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】再活性化用に作製される組織の層の上に静止している、針のアレイを備えたホルダーを有する装置の断面の概略を示す図である。
【図2】ホルダーに設置された針の1つを示す図である。
【図3】アレイの針の配置を示す図である。
【図4】針ホルダーの位置を移動させるための装置の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明によれば、前もって処置した無細胞生体由来組織、すなわち、いわゆるスカフォールドをペトリ皿(または同様の容器)の底部に置き、平らな表面上に広げる。
【0039】
図2に参照番号1として示されるような針の複数をアレイ状に並べて、好ましくは同じ間隔、すなわち、互いに等距離を置いて規則正しく並べて、例えば、全体として図3に参照番号3として示されるように四角を形成する。
【0040】
各針1のヘッド11は、例えば、針のアレイのホルダー20に取り付けられている金属導体プレート2により電気的に接続されている。
【0041】
該プレート2はさらに発電機4からの出力を受け取る電線21に接続されている。
【0042】
該発電機4は電圧源であり、4MHzの波周波数で、好ましくは200〜230Vの電圧を作り出す。これは、周知である電子回路を使用して得られるので、簡略化の目的で個々の説明を省く。
【0043】
発電機4の出力41での電圧正弦波は、好ましくは歪められた正弦波であるので、少なくとも1次、2次、3次高調波である。
【0044】
発電機4の電力は各電極1の先端での電流が2〜2.5mAになるように調整される。
【0045】
各針の先端が生体由来組織5の表面51上に置かれ、各針1の先端が生体由来組織に接触すると、上述したように約2〜2.5mAの電流が流れる。
【0046】
該電流はエネルギーを周囲の分子に伝達する。これは、(実験的に立証されるように)いわゆる「分子共鳴」と呼ばれるものに相当する。
【0047】
このエネルギーは、丁度、電流の流れに影響される分子間の結合を破壊するのに充分であるが、周辺領域に破壊、分裂、壊死、層厚の増減、内容液の変化、凝固、その他の組織変性を引き起こさない程度である。
【0048】
基本的に、分子間結合内に形成されたこの開口は、実際には、各針の直径、すなわち、約50〜55μmと同じ直径を有する小さな穴の形成に等しい。
【0049】
もちろん、使用者が針の最小口径が再活性化に使用される細胞の直径より大きくなければならないことを認識している限り、大小異なる口径の針を使用してもよい。
【0050】
次いで、針のアレイ3のホルダー20を針が向いている方向に押し、針が前進しながら針の先端が電流とその後の分子間の破断により形成された穴をたどるように充分に遅い速度で前進させる。
【0051】
その結果として、結合組織の分裂が起こっていないこと、挿入されている針の口径に対応する狭い穴が形成されていることは簡単に確認できる。
【0052】
先に説明したように、組織上に再移植される細胞は組織中を深部まで浸透でき、穴の壁面上に移植され、そこで増殖し、生体由来組織の全厚みにわたって素早く再活性化できるので、これは特に重要かつ有用である。
【0053】
図1に示すように、穴の長さを長くしてスカフォールド内に最大のチャネリング効果を与えるように、針1を、必ずではないが好ましくは、スカフォールド5の表面51に対して斜めに侵入させる。
【0054】
実験では、垂直線に対して60度の角度がスカフォールドの厚さより長い穴を形成でき、再活性化工程においてより効果的であることが立証されている。
【0055】
実験室試験によれば、約200本の針1を備えた針のアレイ3の有用な大きさはおよそ1cmである。この場合、発電機4により供給された電流は500mA未満である。
【0056】
穿孔工程は、当然、移植する組織の厚み全体にわたって、かつ有効表面全体にわたって穴が均等に分布するように、スカフォールドの表面51の全体にわたって繰り返す必要がある。
【0057】
この目的のため、本発明は、穴を作成するために、有利には3つのデカルト軸、すなわち、図4に概略的に示される垂直または斜交軸Z及び表面51の平面に平行なデカルト軸X及びY、に沿ってホルダー20を移動させる手段30を有する装置を提供する。
【0058】
穴がスカフォールド5の所定の部位に形成されると、ホルダー20が移動し、表面51全体に及ぶように同じ工程を規則正しく繰り返す。
【0059】
明らかに、針のアレイ3を支持するホルダー20がプログラム可能な移動手段30、例えば、電子制御ユニットにより制御されるステッピングモータに接続されていれば、該工程を最高の正確さで自動的かつ連続的に繰り返すことができる。
【0060】
上記のように、無細胞組織5に一連の穴を形成した後、該無細胞組織をペトリ皿または同様の容器に移し、そこに、通常は移植を受ける宿主個人から採取した幹細胞である、生細胞を加える。
【0061】
培養液により好適に栄養が与えられると、該幹細胞は迅速かつ簡単に針1によって形成された穴の全てを占めることができ、移植用の組織全体の完全かつ効果的な再活性化が確実に行われる。
【0062】
完全かつ効果的な再活性化が確保され、その後の移植における失敗のリスクが避けられるので、本発明の方法及びその実施用の装置は本発明の全ての目的を達成することは明らかである。
【0063】
さらに、本発明の再活性化工程は、公知方法による場合に比較してはるかに迅速に行われ、かつその成功率が極めて高い。
【0064】
引用符号を付して請求項に記載されている技術的特性では、引用符号は単に請求項の理解を容易にすることを目的とするものであって、そのような引用符号は実施例においてその引用符号により特定される各要素の解釈に何ら制限を与えるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生細胞の再移植により再活性化するための無細胞生体由来組織を作製する方法であって、実質的に平らな表面に該無細胞組織を作製する段階と、生細胞が再移植された時に該生細胞を収容するに適している複数の穴を該組織の表面の全体に分散し、少なくとも該組織厚みの一部を貫通するように形成する段階とを有することを特徴とする無細胞生体由来組織の作製方法。
【請求項2】
該複数の穴は1つまたは複数の金属針を利用して作成され、該針は電力源に接続されていて、該電力源は該針の先端の周辺に存在する生体由来組織を形成する分子間の結合を破壊するに充分なエネルギーを供給するような強度及び波形の電流の流れを各針の先端に誘導し、該電流の流れにより各穴が形成され、該穴は該針の先端が該分子結合の開口によって形成された空間に侵入できるだけの充分な大きさを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該1つまたは複数の金属針が約4MHzの周波数を有する実質的に正弦波である交流電流により電力を供給されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該1つまたは複数の針への該電力源が少なくとも3次高調波を有することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
該1つまたは複数の針に印加される電圧がほぼ200〜230Vであることを特徴とする請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
各針に供給される電流がほぼ2〜2.5mAであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
該穴の深さが該生体由来組織の全厚みに相当することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
該穴の長さが該無細胞生体由来組織の厚さより大きいことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
該複数の穴が該組織の表面に対して実質的に直角方向に開いていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
該複数の穴が該生体由来組織の表面に対して斜めに開いていることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
無細胞生体由来組織を再活性化するための細胞を収容するのに適した1つまたは複数の穴を該組織の表面に形成するのに適した装置であって、ホルダー(20)に配置された1つまたは複数の針(1)、該針の先端が接触する生体由来組織中の分子間の結合を開口させるのに充分なエネルギーを供給するような強度及び波形の電流を各針の先端に与えるのに適した、該1つまたは複数の針に接続されている電力源(4)を有することを特徴とする装置。
【請求項12】
該電力源が約4MHzの周波数の実質的に正弦波電圧の発電機からなることを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
該正弦波電圧が少なくとも3次高調波を有することを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
各針に供給される電流がほぼ2〜2.5mAであることを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項15】
互いに実質的に等距離を置いて並べられた針の列(3)が実質的に互いに平行に並んでいるアレイを形成するのに適したホルダー(20)に配置されている複数の針を有することを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項16】
該少なくとも1つの針の口径が少なくとも50〜55μmであることを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項17】
該少なくとも1つの針の口径が再活性化細胞の最大寸法より大きいことを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項18】
該針がホルダー(20)に対して実質的に直角に配置されていることを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項19】
該ホルダー(20)が穿孔される生体由来組織の表面に対して斜めに位置することを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項20】
該少なくとも1つの針を該組織の表面に入射する少なくとも1つの軸に沿って、及び該生体由来組織の該表面に平行な少なくとも1つの軸に沿って移動させる手段を有することを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項21】
該移動手段が該生体由来組織の表面に実質的に平行な2つのデカルト軸に沿った動きを誘導することを特徴とする請求項20に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−527724(P2010−527724A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509905(P2010−509905)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【国際出願番号】PCT/IB2008/000921
【国際公開番号】WO2008/146106
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(509322074)
【Fターム(参考)】