説明

再生中空マルチフィラメント

【課題】リサイクルポリエステルを用いていながら、テントや鞄類に十分使用可能な強度を有し、かつ繊維内部に軽量化に必要な中空部を有する再生中空マルチフィラメントを提供する。
【解決手段】リサイクルポリエステルを90質量%以上含有してなるマルチフィラメントであって、該マルチフィラメントを構成する各単糸が繊維断面において少なくとも2個以上の中空部を繊維軸方向に連続して有し、極限粘度〔η〕が0.8以上、中空率が15〜30%、切断強度が5.5cN/dtex以上であることを特徴とする再生中空マルチフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、総質量の90質量%以上が使用後回収されたリサイクルポリエステルからなるマルチフィラメントであって、特に軽量化が要望される鞄材やテント材に用いるのに好適な再生中空マルチフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物の埋め立てや焼却処分による環境汚染が問題視され、特に使い捨てとなるPETボトルや食品包装用フィルムは、年々使用量が増加する傾向にあり、問題の深刻化と共に、資源の再利用としてのリサイクルを行うことが重要視されている。
【0003】
中でも、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称す。)を主成分としたPETボトル由来のPET樹脂屑は、不純物が少ないことや粘度のバラツキが比較的少ないため、リサイクル用途としての再繊維化には適している。この様な再生繊維は、無造作な廃棄に伴う環境負荷を与えないものとして、「環境に優しい繊維」として注目されている。
【0004】
また、使用済みのPETボトルやPETボトルの製造時に発生するPET樹脂屑等を回収しリサイクルする方法としては、PETボトルをフレーク状にしたものや更にはフレークをチップ化したマテリアルリサイクルポリエステルを繊維の原料に用いる方法と、最近では回収したPETボトルを、一旦、PETの原料であるテレフタル酸とエチレングリコールに戻し、この原料を用いて、再度、重合を行ったケミカルリサイクルポリエステルを繊維や再度PETボトルに戻すことも一部行われるようになってきた。
【0005】
しかし、ケミカルリサイクルされたポリエステルは、一般市場では入手することは難しく、従って前者のマテリアルリサイクルされたポリエステルを繊維の原料として用いるのが好ましい。しかしながら、このようなPETボトル由来のPET樹脂屑から再生されたリサイクルPETの粘度は、通常、極限粘度〔η〕0.6〜0.75程度であり、衣料用繊維として使用するには十分な粘度レベルであるが、高強度の繊維が必要な資材分野に用いることはできなかった。
【0006】
そこで、本発明者等はこのような問題点を解決すべく検討した結果、特許文献1に記載しているように、PETボトル由来のPET樹脂屑から再生されたPETの極限粘度を上げることにより、高強度で産業資材用途に適した再生ポリエステル繊維を得ることができるようになった。
【0007】
一方、ある程度の高強度のポリエステル繊維を使用する資材分野としてテントや鞄類等があるが、近年、このようなテントや鞄類等は軽量化が重要視されるようになり、中でも、持ち歩く鞄類は特に軽量化が望まれている。
【0008】
したがって、ポリエステル繊維を用いた鞄類を軽量化する方法としては、使用する繊維の繊度を細くした布帛を用いることが一つの手段であるが、布帛が薄くなるため高級感が損なわれたり、また、荷物を入れると重さ等で鞄の形状維持が出来なくなるなど品位の劣る鞄となる。
【0009】
この対策として繊維の太さを同程度にして繊維の内部に中空部を設けた中空ポリエステル繊維を鞄本体やベルトに用いることで、布帛を薄くすることなく中空率(%)の分程度鞄を軽くすることができる。
また、近年、軽量と環境に配慮した鞄類が注目視されるようになり、したがって、リサイクルポリエステルを原料とした高強度の再生中空ポリエステル繊維が要望されていた。

【特許文献1】特開2002−235243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決し、リサイクルポリエステルを用いていながら、テントや鞄類に十分使用可能な強度を有し、かつ繊維内部に軽量化に必要な中空部を有する再生中空ポリエステル繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
(a)リサイクルポリエステルを90質量%以上含有してなるマルチフィラメントであって、該マルチフィラメントを構成する各単糸が繊維断面において少なくとも2個以上の中空部を繊維軸方向に連続して有し、極限粘度〔η〕が0.8以上、中空率が15〜30%、切断強度が5.5cN/dtex以上であることを特徴とする再生中空マルチフィラメント。
(b)リサイクルポリエステルがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1記載の再生中空マルチフィラメント。
【発明の効果】
【0012】
本発明の再生中空マルチフィラメントは、リサイクルポリエステルを用いていながら、架橋や末端基封鎖などの変性処理を施すことなく、テントや鞄類等の用途に使用するのに十分な強度と軽量性を保持している。すなわち、本発明の再生中空マルチフィラメントは、単糸断面において2個以上の中空部を繊維軸方向に連続して有しているため、軽量化が可能となっている。加えて、単糸断面において複数の中空部を有していることから、繊維断面において網目構造を形成した中空部壁面の効果により、中空率を十分に保持しながらも断面方向への潰れ難さや変形し難さを保持したものとなっている。さらに、複数の中空部が繊維断面における中心点に対し均等に、あるいは点対称に配置されることで、多面的な力に対する形状保持性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の再生中空マルチフィラメント(以下、本発明のマルチフィラメントと称することがある。)としては、一度使用された後、回収されたリサイクルポリエステルを原料として形成されたものである。該リサイクルポリエステルとしては、液体飲食品用PETボトルやフィルム、繊維などのペレット以外の形に成形された後、低分子に戻されずに再び成形するために回収されたものであり、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称する。)を主体成分として含有するものが好ましい。中でもPETボトルを回収したものをマテリアルリサイクルしたものが比較的品質がよいため好ましい。
【0014】
さらに、本発明のマルチフィラメントとしては、上記リサイクルポリエステルを90質量%以上含有して形成されていることが必要である。リサイクルポリエステルの含有量が90質量%に満たない場合、リサイクルの拡大に繋がらないため本発明の趣旨に反するものであると共に、原料の均一性が損なわれることになり、物性の均一性が低下したり、紡糸時の糸切れなどの操業性が低下することとなる。ここで、リサイクルポリエステルとしては、マテリアルリサイクルされたポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。また、該リサイクルポリエステルとしては、単一銘柄のポリエステル製品からのリサイクルポリエステルであることが、マルチフィラメントの製糸性や物性の均一性の面から好ましい。なお、リサイクルポリエステル以外の成分としては、特に限定はされないが、バージンポリエステルであることが好ましい。
【0015】
本発明のマルチフィラメントとしては、極限粘度[η]が0.8以上であることが必要であり、0.85〜1.1であることが好ましい。該極限粘度[η]が0.8未満である場合、紡糸時の溶融粘度が低くなり目標とする中空率が得られ難くなり、強度が劣り、潰れ難さに弱いものとなる。一方、該極限粘度[η]が、1.1を超えて高い場合、延伸性が劣ったり、コスト面で不利益となる傾向にあるため好ましくない。
【0016】
因みに、PETボトル由来のPET樹脂屑を単に溶融押し出し機等で溶融し、チップ状に再生されたリサイクルポリエステルにおいては、その極限粘度[η]は0.6〜0.7程度となる場合がある。衣料用途に対しては、左記の極限粘度の範囲で十分に使用可能であるが、より高強度を要する産業資材用途にあっては極限粘度を更に高める必要がある。このような場合、本発明のマルチフィラメントにおいては、リサイクルポリエステルを溶融或いは固相重合を行うことで、目標とする粘度まで上昇させることができるものであり、末端基(COOH)を30eq/ton以下にすると耐加水分解性に優れるようになるため、固相重合で所定の溶融粘度まで高めることが好ましい。その方法は常用のPETと同じ固相重合法で行うことができる。
【0017】
本発明のマルチフィラメントにおける各単糸としては、繊維断面において少なくとも2個以上の中空部を繊維軸方向に連続して有していることが必要である。本発明のマルチフィラメントについては、軽量化を図るため繊維断面において中空部を設けることが必要であるが、断面方向での中空部の形状については特に制限を有するものではない。しかしながら、効果的で、且つ繊維軸方向での物性の均一性、すなわち引張強度や潰れ難さなどの力学特性の均一性を担保するために、それぞれの中空部は繊維軸方向に連続して形成されていることが必要である。
【0018】
また、上記のように断面方向での中空部の形状については特に制限を有するものではないが、中空部の潰れや変形を防止する手段として、中空部を分割して1個の中空部の面積を小さくし、且つこれを繊維断面に対し均等に配置させることが、効果的であることを見出した。すなわち、繊維断面において中空部を2個以上設けることが必要である。このように複数の中空部を設けることで、繊維内部の非中空部は架橋部となるので、外圧に対して支えとなり中空部の潰れや変形を抑制する効果が有効に発現する。また、繊維断面に対し多面的な外圧が加わることによる中空部の潰れや変形を抑制するためには、中空部を繊維内部にバランスよく配置することが有効である。したがって、中空部は3個以上とすることがより好ましい。中でも4〜6個とすることが好ましい。さらには、これらの中空部は繊維断面における中心点に対し、点対称となる位置に同一の形状で配置されていることが好ましい。このように配置することで、本発明のマルチフィラメントでは、特定方向に折れ曲がることも阻止され、屈曲に対する回復性を有した、優れたしなやかさも発現させることができる。
【0019】
本発明のマルチフィラメントにおける中空率としては、15〜30%であることが必要であり、20〜30%であることが好ましい。該中空率が15%未満である場合、マルチフィラメントとしての軽量化は少なく、使用時における軽量感を得ることができない。一方、該中空率が30%を超える場合、高強度を要する分野にあっては適用が困難となったり、延伸性が損なわれることとなる。なお、中空率の変更は、紡糸口金の紡出孔の形状や寸法の変更、或いはポリマー粘度や温度、更には加熱筒の温度等で行うことができる。因みに、鞄材等の布帛において厚み等を変えずに軽量化させる場合、例えば中空部を有しない1000dtexのPET繊維を用いていた鞄であれば、中空率20%の800dtexの再生中空マルチフィラメントを用いれば鞄は20質量%程度の軽量化が可能となる。
【0020】
これらの工夫により、本発明のマルチフィラメントでは、リサイクルポリエステルという原料品質面での課題を、架橋剤や別途添加剤等を加えて樹脂変性をさせることなく物性面で克服することができるものであり、産業資材用途にも好適に使用することが可能となる。
【0021】
つぎに、本発明のマルチフィラメントにおける切断強度としては、5.5cN/dtex以上であることが必要であり、5.5〜7.0cN/dtexであることが好ましい。該切断強度が5.5cN/dtex未満であると鞄やテント資材には適さないものとなり、7.0cN/dtexを超えると中空繊維であるため延伸性が劣るようになる。
【0022】
本発明のマルチフィラメントにおける各単糸の断面形状としては、特に限定されるものではないが、製糸性や高強度化を考慮にいれると丸断面形状であることが好ましい。また、中空部の形状も特に限定されるものではないが、潰れ難いことや紡糸口金の形状等を考慮すると、円形や楕円形状であることが好ましい。
【0023】
また、本発明のマルチフィラメントとしては、単糸繊度10〜25dtexとすることが好ましく、総繊度は250〜1500dtexとすることが好ましい。
【0024】
本発明のマルチフィラメントにおいては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、熱安定剤、結晶核剤、艶消し剤、顔料、耐光剤、耐候剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、表面改質剤、難燃剤、撥水剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0025】
次に、本発明のマルチフィラメントの製造法について説明する。まず、原料となるリサイクルポリエステルとしては、例えば、不適格品として廃棄された成形品や市場にて一度使用された後回収された成形品から得られたフレークを、極限粘度等が好適な範囲になるように適宜混合されたものを使用する。これを通常の工程で紡出後、未延伸糸を一旦巻き取り、その後延伸を行う2工程法でも製造可能であるが、一旦巻き取ることなく連続して延伸を行うスピンドロー法がコスト面から好ましい。その巻き取り速度も2000〜4000m/分が生産性や製糸性の面から好ましい。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、これに限定されるものではない。なお、実施例における各物性値は、次の方法で測定した。
(a)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等重量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dl、温度20℃で、通常の手法により測定した。
(b)強伸度(cN/dtex)
JIS L−1013に従い、島津製作所製オートグラフDSSー500を用い、試料長25cm、引っ張り速度30cm/分で測定した。
(c)中空率(%)
マルチフィラメントより単糸を抜き出し(n数10)、繊維の横断面形状を顕微鏡で撮影し、全面積(A)と中空部の面積(B)を測定し、中空率(%)=(B/A)×100で算出した。n数10の平均値とした。
(d)潰れ難さ
マルチフィラメントより単糸を抜き出し(n数10)、任意の箇所で180°折り曲げ、回復後の断面形状を顕微鏡で観察し、その結果を以下のように評価した。
○:8以上の試験糸で潰れがなかった。
△:4〜7の試験片で潰れがなかった。
×:0〜3の試験片で潰れがなかった。
【0027】
(実施例1)
溶融紡糸装置に、常用に用いられるホール数が48個の四穴中空糸用の紡糸口金を装着し、極限粘度〔η〕0.64のPETボトル再生チップを温度230℃の減圧下で攪拌しながら19時間固相重合を行い、極限粘度〔η〕1.0まで重合度を高くしたチップを用い、温度290℃で紡出し、直下に常設された温度450℃、長さ40cmの加熱筒内を通過させた後、長さ180cmの横型冷却装置で温度15℃、速度0.8m/秒の冷却風で冷却した後、オイリングローラで油剤を付与した。続いて、非加熱の第1ローラに引き取り、引き続き非加熱の第2ローラで1.02倍の引き揃えを行い、その後、温度400℃、圧力5.0Mpaのスチームを糸条に吹き付けながら、温度210℃の第3ローラで5.4倍の延伸を行い、温度160℃の第4ローラで4%の弛緩熱処理を行った後、速度2500m/分のワインダーに巻き取り、繊維断面中に4個の中空部を有し、中空率20%の890dtex/48フィラメントの再生中空マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表1に示した。
【0028】
(実施例2)
実施例1における固相重合を23時間行って極限粘度〔η〕1.05のPETボトル再生チップを用いたこと、繊維断面における中空部を6個としたこと、中空率を27%としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2のマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表1に示した。
(実施例3)
実施例1における再生チップの質量%を95%、5%を同粘度のバージンPETとし、中空部の数を3個としたこと、中空率を15%としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例3のマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表1に示した。
【0029】
(比較例1)
実施例1における固相重合を行わない極限粘度[η]0.64のPETボトル再生チップを用いたこと、中空部の数を2個としたこと、中空率を5%とした以外は、実施例1と同様にして比較例1のマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表1に示した。
(比較例2)
実施例1における再生チップの質量%を95%、5%を同粘度のバージンPETとし、固相重合を10時間行って極限粘度[η]0.88のPETボトル再生チップを用いたこと、中空部の個数を1個としたこと、中空率を35%としたこと以外は実施例1と同様にして比較例2のマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表1に示した。 得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から明らかなように、実施例1〜3は切断強度が優れると共に、軽量でありながら潰れ難さやしなやかさを有するものであった。
【0032】
一方、比較例1は極限粘度が低いリサイクルポリエステルであり、中空率が低かったため、切断強度が低く、軽量化の効果は認められなかった。比較例2では、中空部が1個しかなく中空率が大きすぎたため、繊維断面方向での耐圧性が悪く、潰れ易く、曲げ応力に弱いものであり、本発明の目的とする機能効果を有するものではなかった。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクルポリエステルを90質量%以上含有してなるマルチフィラメントであって、該マルチフィラメントを構成する各単糸が繊維断面において少なくとも2個以上の中空部を繊維軸方向に連続して有し、極限粘度〔η〕が0.8以上、中空率が15〜30%、切断強度が5.5cN/dtex以上であることを特徴とする再生中空マルチフィラメント。
【請求項2】
リサイクルポリエステルがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1記載の再生中空マルチフィラメント。






















【公開番号】特開2009−191390(P2009−191390A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31739(P2008−31739)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】