説明

再生熱接着性繊維

【課題】 芯成分にリサイクルポリエステルを含有していながら、産業資材や家庭用資材用として十分に使用可能な、高強度で優れた接着性を有する再生熱接着性繊維を提供する。
【解決手段】 リサイクルポリエステルを含有するポリエステル樹脂を芯成分、芯成分より低融点で融点が140〜190℃の共重合ポリエステルを鞘成分とする芯鞘型複合繊維であって、芯鞘質量比が1:1〜5:1、切断強度が3.0cN/dtex以上、切断伸度が20〜35%である再生熱接着性繊維。鞘成分の共重合ポリエステルは、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分を含有し、かつ、1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用後、回収されたリサイクルポリエステルを芯成分に含有する熱接着性繊維であって、網目形状を固定するための樹脂加工と同様の加工を施すことができ、メッシュシートやネット等の産業資材や家庭用資材用として好適に使用することができる再生熱接着性繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物の埋め立てや焼却処分による環境汚染が問題視され、特に使い捨てされるポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称する。)を主成分としたPETボトルは年々使用量が増加し、問題となってきており、資源の再利用としてリサイクルを行うことが重要視されている。
【0003】
使用済みのPETボトルやPETボトルの製造時に発生するPET樹脂屑等を回収し、再利用する動きは年々高まりつつあり、その一つの用途として繊維の原料として再利用されるようになっており、このようなポリエステル繊維は環境に優しい繊維として注目されている。
【0004】
中でもPETボトル由来のPET樹脂屑は、不純物が少ないことや粘度のバラツキが比較的少ないため、繊維化に適している。
【0005】
このようなことから、本発明者等は、PET樹脂屑から再生されたPETを用いた再生ポリエステルを主成分とするポリエステルを芯成分、芯成分よりも40℃以上融点の低いポリエステルを鞘成分に用いた再生ポリエステル系熱接着性複合繊維(特許文献1参照)や、PET樹脂屑から再生されたPETの極限粘度を上げることにより得られる、高強度で産業資材用途に適した再生ポリエステル繊維(特許文献2参照)を提案しており、特に 特許文献1記載のポリエステル系熱接着性複合繊維は、不織布やクッション材等の成型品に使用するには好適である。
【0006】
一方、産業資材や家庭用資材用として使用されるメッシュシートやネット等の交点部の固定や網目形状の固定には、塩化ビニル等の樹脂を用いた加工が行われていたが、近年、その代替として特許文献3〜5に記載されているような熱接着性長繊維を用いて製編織した後、鞘成分の融点以上の温度で熱処理を行って、交点部や網目形状の固定を行う方法が採用されるようになった。
【0007】
したがって、このような繊維にもリサイクルポリエステルを用いることがリサイクルの拡大や環境の面においても好ましく、リサイクルポリエステルを用いた高強度で優れた接着性を有する産業用資材や家庭用資材に使用可能な熱接着性繊維が要望視されている。
しかし、特許文献1記載の再生ポリエステル系熱接着性複合繊維には、切断強度や切断伸度についての説明が全くなく、したがって、この繊維は、明細書に記載されているように、短繊維状態で、切断強度や切断伸度が特に要求されない不織布やクッション材等の成型品に使用するには好適であるが、高強度が要求されるメッシュシートやネット等の用途には適しないものであった。
【特許文献1】特開2001−172828号公報
【特許文献2】特開2002−235243号公報
【特許文献3】特開2002−194622号公報
【特許文献4】特開2003−201627号公報
【特許文献5】特開2004−332152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題を解決し、 芯成分にリサイクルポリエステルを含有していながら、産業資材や家庭用資材用として十分に使用可能な高強度を有し、かつ優れた接着性を有する再生熱接着性繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、次の構成を要旨とするものである。
(1)リサイクルポリエステルを含有するポリエステル樹脂を芯成分、芯成分より低融点で融点が140〜190℃の共重合ポリエステルを鞘成分とする芯鞘型複合繊維であって、芯鞘質量比が1:1〜5:1、切断強度が3.0cN/dtex以上、切断伸度が20〜35%であることを特徴とする再生熱接着性繊維。
(2)鞘成分の共重合ポリエステルが、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分を含有し、かつ、1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を含有する共重合ポリエステルである上記(1)記載の再生熱接着性繊維。
【発明の効果】
【0011】
本発明の再生熱接着性繊維は、製編織した後、熱処理することにより、メッシュシートやネット等の交点部や網目形状を固定するための樹脂加工と同様の加工を施すことができ、しかも、芯成分にリサイクルポリエステルを含有しているので、リサイクルの拡大につながる。そして、十分に使用可能な高強度を有し、かつ優れた接着性を有しており、産業資材や家庭用資材用と好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の再生熱接着性繊維(以下、繊維と称することがある。)は、主に産業資材や生活資材用途に用いられるため、高い接着力と強度が必要であり、また、良好な製糸性を得るために、繊維断面形状は芯成分を補強成分とし、鞘成分を接着成分とする芯鞘構造を有するものである。
【0013】
まず、芯成分には、一度使用された後、回収されたリサイクルポリエステルを含有するポリエステル樹脂を用いるが、リサイクルポリエステルとは、液体飲食品用PETボトルやフィルム、繊維等のペレット以外の形に成形された後、低分子に戻されずに再び成形するために回収された樹脂のことをいう。中でもPETボトルを回収したものが比較的品質がよいため好ましい。
【0014】
本発明の繊維においては、このようなリサイクルポリエステルを芯成分のポリエステル樹脂中に含有するものであるが、リサイクルポリエステルはポリエステル樹脂中に混合されていることが好ましい。そして、リサイクルポリエステルとしてPETボトル由来のものを用いる場合、ポリエステル樹脂としては、PETを主成分とする通常のポリエステル樹脂(バージンポリエステル)を用いることが好ましい。
【0015】
芯成分に用いるリサイクルポリエステルは、PETボトル由来のPET樹脂屑を溶融押し出し機等で溶融し、チップ状に再生されたリサイクルポリエステルが好ましく、そして一般的にその極限粘度〔η〕は0.6〜0.7程度であるが、高倍率の延伸を行えば芯成分としてリサイクルポリエステルを単独で用いても目標とする強度3.0cN/dtex以上の繊維を得ることは可能である。また、必要に応じて固相重合等で極限粘度を高くして用いることもできる。
【0016】
これらの点を考慮すると、芯成分におけるリサイクルポリエステルの割合は50〜100質量%、特に60〜90質量%が好ましく、40質量%未満になると、リサイクルポリエステルの活用という点から好ましくない。
【0017】
また、芯成分は、本来の性能を損なわない程度に第3成分として、着色顔料、耐候剤、耐熱剤等を添加したものでもよい。
【0018】
次に、本発明の繊維の鞘成分は、摩擦や屈曲によっても芯成分との剥離がし難く、芯成分と相溶性のある共重合ポリエステルが好ましく、このような共重合体は、2塩基酸又はその誘導体の1種もしくは2種以上と、グリコール系の1種もしくは2種以上とを反応させて得ることができる。
【0019】
2塩基酸又はその誘導体の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、P−オキシ安息香酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族2塩基酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸の脂肪族2塩基酸、1,2−シクロブタンジカルボン酸等の脂肪族2塩基酸、脂肪族ラクトン成分等が挙げられる。
【0020】
一方、グリコール類の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンタンジオール、P−キシレングリコール等や、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール類が挙げられる。
【0021】
これらの2塩基酸又はその誘導体の1種もしくは2種以上と、グリコール系の1種もしくは2種以上からなる重合体は、熱的に安定性が良好であると共に、原料が比較的安価に供給されるので工業的に有利である。
【0022】
その中でも、1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分のうちの少なくとも一成分と、テレフタル酸成分及びエチレングリコール成分とを含有する共重合ポリエステルとすることが好ましい。特にテレフタル酸成分、脂肪族ラクトン成分、エチレングリコール成分及び1,4−ブタンジオール成分からなる共重合ポリエステルは、比較的結晶化速度が速く、紡糸時や熱接着加工後の冷却の面からも好ましい。なお、脂肪族ラクトン成分としては、炭素数4〜11のラクトンが好ましく、特に好ましいラクトンとしては、ε−カプロラクトン(ε−CL)が挙げられる。
【0023】
鞘成分は、芯成分より低融点であり、融点が140〜190℃であることが必要であり、中でも150〜180℃であることが好ましい。鞘成分の融点が140℃より低いと、用途が限られるようになり、また、融点が190℃よりも高いと、溶融接着加工時の加熱温度が高くなり、コスト面で不利益となるばかりでなく、溶融接着温度が高くなると、芯成分が強度低下を起こすようになる。
【0024】
そして、本発明においては、芯成分のポリエステルとの融点差を50〜100℃程度とすることが好ましい。また、鞘成分には、本来の性能を損なわない程度に必要に応じて艶消し剤、着色顔料、抗菌剤、耐熱剤等の各種添加剤が添加されていてもよい。
【0025】
また、鞘成分の極限粘度〔η〕は0.6〜0.8とすることが好ましい。極限粘度〔η〕が0.6より低いと、複合形態の斑が発生しやすく、また、0.8より高いと、熱接着加工時の溶融流動性が悪くなって、接着斑が発生しやすくなるので好ましくない。
【0026】
本発明の繊維は、芯鞘質量比が1:1〜5:1であるが、好ましくは2:1〜4:1である。芯成分がこの範囲より小さくなると、高強度が得られ難くなり、また、大きくなると接着力の低下や複合形態の斑が発生しやすくなるので好ましくない。
【0027】
次に、本発明の繊維の切断強度は、3.0cN/dtex以上であることが必要であり、好ましくは3.5cN/dtex以上である。切断強度が3.0cN/dtexよりも低いと、用途が限られるようになるので好ましくない。また、芯成分の極限粘度や、後述するように繊維の切断伸度を20〜35%にすることを考慮すると、切断強度は3.5〜4.5cN/dtexとするのが好ましい。
【0028】
また、本発明の繊維の切断伸度は20〜35%であることが必要であり、好ましくは20〜30%である。切断伸度が20%より低いと、リサイクルポリエステルはバージンポリエステルと比較して一般的に異物が多いため、製造(特に延伸)時に単糸切れ(毛羽)等の問題が生じやすく、また、35%より高いと、この繊維を製編織して得たメッシュシートやネット等が施工時や使用中の張力あるいは衝撃等により伸長しやすくなるので好ましくない。
【0029】
本発明の繊維の形態は、長繊維、短繊維いずれでもよいが、メッシュシートやネット等の産業資材や家庭用資材用としては長繊維が好ましく、不織布やクッション材等の成型品用としては短繊維が好ましい。
【0030】
長繊維の場合、糸条繊度は200〜2000dtexが好ましく、単糸繊度は製糸性の良好な5〜15dtexが好ましい。また、短繊維の場合、単糸繊度は3〜30dtexで、繊維長は5〜50mmが好ましい。
【0031】
そして、本発明の繊維(長繊維)を使用してメッシュシートやネット等を製編織するに際しては、本発明の繊維をそのまま使用してもよいが、撚り等の後加工を施したり、他の繊維と混繊して用いてもよい。また、製編織するに際しては、本発明の繊維だけで布帛を形成してもよいが、用途や目的により組織の一部に用いたものでもよい。
【0032】
なお、上記で製編織して得られたメッシュシートやネット用の原反は、例えば加熱ローラ接着加工装置で熱処理を行って、鞘成分の低融点成分である共重合ポリエステルを溶融又は軟化させ、交点部を固定したメッシュシートや網目形状を固定したネットを得るものである。
【0033】
次に、本発明の再生熱接着性繊維の製造方法として、例えば長繊維の場合、常用の溶融複合紡糸装置で製造することが可能であるが、生産性やコストの面から紡糸後、一旦巻き取ることなく連続して延伸を行うスピンドロー法で行うことが好ましい。また、巻き取り速度は2000〜4000m/分程度が好ましく、2000m/分より遅いと生産性が劣り、4000m/分より速いと、延伸時に単糸切れ(毛羽)等の問題が生じやすく、また得られる繊維の切断強度が劣るようになりやすい。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における各物性値は、次の方法で測定した。
(a)ポリエステルの極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した。
(b)切断強度、切断伸度
JISL−1013に従い、島津製作所製オートグラフDSSー500を用い、つかみ間隔25cm、引っ張り速度30cm/分で測定した。
(c)融点
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−7型を使用し、昇温速度20℃/分で測定した。
(d)延伸性
各々7kg巻きチーズを採取し、両端面の毛羽を目視で観察して次の2段階で評価した。
○…毛羽数が2個以下
×…毛羽数が3個以上
【0035】
実施例1
芯成分として、PETボトル由来のフレーク状のPET樹脂屑を溶融し、チップ化して得られた極限粘度〔η〕0.66(融点255℃)のリサイクルポリエステルのみを用い、鞘成分として、テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応で得られたテレフタル酸成分とエチレングリコール成分とのモル比が、1:1.13のPETオリゴマーに、ε−カプロラクトンを酸成分に対して15モル%及び1,4−ブタンジオールをジオール成分に対して50モル%の割合で共重合された極限粘度〔η〕0.70、融点160℃の共重合ポリエステルを用いた。
そして、常用の溶融複合紡糸装置を用い、孔直径が0.5mmの芯鞘型の溶融複合紡糸口金を装着し、温度280℃、芯鞘質量比3:1として紡出した。紡糸した糸条を長さ30cm、温度200℃に加熱された加熱筒内を通過させた後、長さ150cmの横型吹き付け装置で、冷却風温度15℃、速度0.7m/秒で冷却した。
次に、油剤を付与して非加熱の第1ローラに引き取り、連続して温度100℃の第2ローラで1.02倍の引き揃えを行い、その後、温度140℃の第3ローラで5.2倍の延伸を行い、温度120℃の第4ローラで3%の弛緩処理を行い、1%のリラックスを掛けて速度2500m/分のワインダーに巻き取り、555dtex/48フィラメントの同心丸断面形状の再生熱接着性繊維(長繊維)を得た。
【0036】
実施例2
芯成分として、実施例1で用いたリサイクルポリエステルと極限粘度〔η〕が0.75(融点256℃)のPETとを1:1の質量比でドライブレンドしたポリエステルを用いた以外は、実施例1と同様に行った。
【0037】
比較例1
芯鞘質量比を1:2に変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0038】
比較例2
延伸倍率を5.4倍に変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0039】
実施例1〜2及び比較例1〜2で得られた繊維の切断強度、切断伸度と延伸性の評価結果を併せて表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1からも明らかなように、実施例1〜2で得られた繊維は、切断強度が3.0cN/dtex以上と高く、切断伸度が20〜35%と適切であり、また、延伸性にも優れていた。
【0042】
一方、比較例1で得られた繊維は、芯成分の比率が小さいため切断強度が劣り、また、比較例2で得られた繊維は、切断伸度が低くなったために延伸性が劣っていた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクルポリエステルを含有するポリエステル樹脂を芯成分、芯成分より低融点で融点が140〜190℃の共重合ポリエステルを鞘成分とする芯鞘型複合繊維であって、芯鞘質量比が1:1〜5:1、切断強度が3.0cN/dtex以上、切断伸度が20〜35%であることを特徴とする再生熱接着性繊維。
【請求項2】
鞘成分の共重合ポリエステルが、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分を含有し、かつ、1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を含有する共重合ポリエステルである請求項1記載の再生熱接着性繊維。


【公開番号】特開2007−254908(P2007−254908A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78774(P2006−78774)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】