説明

再生PET擬竹の生産方法及びこれによる再生PET擬竹

【課題】 PETボトルをリサイクルした耐熱性,耐衝撃性に優れた再生PET擬竹を提供する。
【解決手段】 PETボトル粉砕物70wt%,高密度ポリエチレン12wt%,増粘剤9wt%を添加してドローダウンを防止した再生ペット樹脂を用いて,断面円形中空パイプ状の擬竹1を押出成形し,これをローラー上で1.5m移送して徐冷を施し,擬竹1の内側に結晶化層11を形成し,その後に急冷する。擬竹1は内側の結晶化層11と外側の非結晶化層12の積層構造となり,200gを負荷した110℃×20分の耐熱試験で全く変形がない高耐熱性と,アイゾット法の耐衝撃試験で9.0kJ/m〜9.5kJ/mの高耐衝撃性を呈するものとなり,ABS樹脂の擬竹を超えた耐熱性と耐衝撃性を備えた再生PET擬竹1の実用化を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,溶融粘度を向上した再生PET樹脂を原料とした再生PET擬竹の生産方法及びこれによる再生PET擬竹に関する。
【背景技術】
【0002】
この種擬竹は,例えばABS系樹脂を用いて,中空パイプ状に押出成形することによって生産するものとされており,このとき該生産は,一般に押出成形工程,押出材の水冷工程,押出材の所定長さの切断工程を備える一連の工程によって行うものとされる。該ABS系樹脂の擬竹は,例えば塩ビ系樹脂の擬竹が,そのガラス転移点が低いために耐熱性が63〜65℃程度とされていたのに対して,該塩ビ系樹脂に代わるものとして使用することによって擬竹の耐熱性を85℃程度まで向上して,例えば夏場の直射日光を受ける屋外で使用し得るようにするとともにその耐衝撃性も,アイゾット法による耐衝撃試験において7.3kJ/m程度を呈するものとし得ることから,例えば冬場の屋外のように寒冷雰囲気の場合を除いて,一般に釘打ちによるクラックの発生を防止できるものとされている。
【0003】
一方,容器包装リサイクル法によって,特にPETボトルのリサイクルが求められているが,該PET,即ちポリエチレンテレフタレートのリサイクルは,一般に繊維,シート,射出成形品やPETボトル原料への添加材とする程度に限られており,再生PET樹脂によって押出成形,特に中空パイプ状の擬竹材を押出成形すると,再生PETの溶融粘度が低いためにドローダウン現象を呈して中空パイプ形状の保形性を維持することができないものとされる。これに対して本発明者は,溶融粘度を向上することによってドローダウンを解消し得る再生PET樹脂として,使用済みPETボトルを粉砕した粉砕物を主体として,これに,例えば,高密度ポリエチレン及び増粘剤を加えてリペレットしたものを用いて押出成形によって擬竹を生産することを提案済みであり,これによると,該再生PET樹脂における使用済みPETボトルを粉砕した粉砕物に対する上記高密度ポリエチレンの重量比を10±5wt%とすること,上記増粘剤を,上記再生PET樹脂と反応性基を有するアクリレート又はメタアクリレート及びこれらと共重合可能のビニル単量体の重合体とし且つその上記再生PET樹脂における使用済みPETボトルを粉砕した粉砕物に対する該ビニル単量体重量比を7±5wt%とすることが,上記ドローダウンを解消するとともに,アイゾット法による耐衝撃試験において上記ABS系樹脂を用いた擬竹の7.3kJ/m程度に対して,9.0kJ/m〜9.5kJ/m又はそれ以上の耐衝撃性を呈するものとなし得て,ABS系樹脂の擬竹に見られる冬場の屋外における上記寒冷雰囲気の釘打ちによるクラックの発生を解消することができる,PET樹脂の耐衝撃性を大きく向上して,特に耐衝撃性に優れた再生PET擬竹の実用化が可能になるに至る。
【0004】
【特許文献1】特開2006−123268号
【特許文献2】特願2006−291385号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし乍ら,この再生PET樹脂を用いた擬竹は,上記ドローダウンを防止し得るとともに耐衝撃性に優れたものとなし得る一方で,その耐熱性が,上記塩ビ系樹脂の擬竹を幾分上回る67℃程度に低いものとなり,該塩ビ系樹脂の擬竹と同様に,夏場の直射日光による変形,例えば支柱間に架設した擬竹の両端が下方に垂れ下る結果,上枠と擬竹間に隙間を生じる可能性や,例えば温泉地で源泉近傍の仕切りに使用したり,源泉に近い高温の温泉水によって洗浄を行ったりすると同じく変形を来す可能性があり,ABS系樹脂の擬竹に比較して,耐衝撃性において優位であるも,耐熱性において大きく劣るという問題点があるために,PETボトルのリサイクルをなし得るとともに耐衝撃性に優れた擬竹となし得ても,なお耐熱性が低いことによってその普及が妨げられる可能性が残されている。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので,その解決課題とするところは,耐熱性に優れて屋内外で使用するに適した再生PET擬竹の生産方法及びこれによる再生PET擬竹を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に沿って鋭意研究したところ,ドローダウンを防止し得るように溶融粘度を向上した再生PET樹脂を用いて中空パイプ状に押出成形した擬竹材に徐冷を施し,該擬竹材の中空部によって外気と隔絶された内周面側の温度を高温状態に維持し,擬竹材の押出成形温度,即ち再生PET樹脂の250℃程度の溶融温度から幾分低下した再結晶開始温度,即ち220℃〜200℃程度を経て緩やかな温度低下を行うようにして,該擬竹材の内周面側からその肉厚方向に向けて部分的な結晶化(再結晶化)を進行させて内周面側に該内周面に添う断面形状の結晶化層を形成するとともに該結晶化層を形成した後に擬竹材に対して急冷を施しその結晶化を停止し,擬竹材のその余を非結晶化層(非晶質層)とすることによって,該擬竹材を,内側の結晶化層とその外周側の非結晶化層を備えた積層構造とすると,該擬竹材が極めて高度な耐熱性を確保して,例えば該擬竹材に200gの荷重を付加した状態で110℃の高温雰囲気中に20分間曝す耐熱試験を行うと,ABS系樹脂の擬竹材はその上下面が偏平化するように2/3程度の高さに潰れた状態に変形するのに対して,該再生PET樹脂の擬竹材は押出成形当初の形状をそのまま維持して全く変形を生じないという高度な耐熱性を確保したものとなし得るとの知見を得るに至った。即ちこれは,PET樹脂の擬竹材が高温を受けることにより,その外周側の非結晶化層が軟化しても,内周面側に位置する結晶化層には軟化が生じないことによって,該内周面側の該内周面に添う結晶化層が,その外周側に位置して軟化した非結晶化層をその内側で保形する耐熱補強芯をなすように作用する結果,擬竹材の断面形状を維持してその保形性を確保するためと見られる。このとき内周面側に結晶化層が形成されるも,これが肉厚方向に部分的であり,その外周側は非結晶化層をなすことにより,弾性率,伸び率等擬竹材として質感を確保したものとなるので,溶融粘度を向上した再生PET樹脂として上記高密度ポリエチレンと増粘剤を加えたものを用いることにより,PETボトル等のリサイクルした再生PET擬竹として,従来のABS系樹脂の擬竹を超える高度な耐熱性及び耐衝撃性の双方を兼備して,屋外で使用しても夏場の変形や寒冷雰囲気の釘打ちでもクラック発生のない優れた擬竹を実用化することが可能となる。
【0008】
本発明はかかる知見に基づいてなされたもので,即ち請求項1に記載の発明を,溶融粘度を向上した再生PET樹脂を用いて中空パイプ状の擬竹材を押出成形する押出成形工程と,該押出成形した擬竹材の内周面側を肉厚方向部分的に結晶化する徐冷工程と,該擬竹材を急冷して結晶化を停止する急冷工程を備えることにより内周面側に該内周面に添う断面形状の結晶化層を形成することを特徴とする再生PET擬竹の生産方法としたものである。
【0009】
請求項2に記載の発明は,上記に加えて,上記内周面側の結晶化層の厚さを,中空パイプ状の擬竹における内周面から肉厚方向に20±5%の厚さとすることが,上記擬竹材の質感を確保するとともに上記高度な耐熱性及び耐衝撃性を確保するに好適とし得ることから,これを,上記徐冷工程と急冷工程による内周面側の結晶化層を,内周面側から肉厚方向に向けて20±5%の厚さに形成することを特徴とする請求項1に記載の再生PET擬竹の生産方法としたものである。
【0010】
請求項3に記載の発明は,同じく上記に加えて,上記徐冷工程は,急激な温度変化を避けて押出成形した擬竹材を上記再結晶開始温度とすればよく,擬竹材の中空部は,それ自体,工場の雰囲気温度の影響を受け難いから,押出成型した擬竹材を常温で押出方向に向けて移送するようにすればよく,また急冷工程は,該移送による結晶化を停止するように一気に冷却すればよいから,冷却水中を通過するように該擬竹材を浸漬すればよく,これによって可及的に簡易且つ確実に結晶化層と非結晶化層の積層構造を備えた擬竹材を形成することが可能であることから,これを,上記徐冷工程を,押出成形した擬竹材を常温で移送することによって行い且つ上記急冷工程を,該擬竹材を冷却水中に浸漬することによって行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の再生PET擬竹の生産方法としたものである。
【0011】
請求項4及び請求項5に記載の発明は,同じく上記に加えて,再生PET擬竹を,可及的に天然竹の風合いと形状を有するものとしてその商品価値を向上するものとするように,請求項4に記載の発明は,上記天然竹の風合いを備えるものとして,これを,上記押出成形工程,徐冷工程及び急冷工程に加えて,上記擬竹材の押出成形工程と同時にその押出成形速度と同速の押出成形によって又は急冷工程後の切断工程を経た後に擬竹材の送り速度と同速の押出成形によって擬竹材の表面に着色皮膜層を被覆形成する着色皮膜層形成工程を備えることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の再生PET擬竹の生産方法とし,請求項5に記載の発明は,上記天然竹の形状を備えるものとして,これを,上記押出成形工程,徐冷工程及び急冷工程に加えて,押出成形工程直後に擬竹材に間欠的な真空吸引を施すことによって又は急冷工程後の切断工程を経た後に擬竹材の送り速度と同速の押出成形によって擬竹材の表面に着色皮膜層を被覆形成する追加的な着色皮膜層形成工程において擬竹材を間欠的に停止して着色皮膜層の皺寄せを形成することによって擬竹材に節付けを行う節付け工程を備えることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の再生PET擬竹の生産方法としたものである。
【0012】
請求項6に記載の発明は,上記内周面側に肉厚方向部分的にして該内周面に添う断面形状の結晶化層を形成することにより,内側の結晶化層とその外周側の非結晶化層を備えた積層構造とすることによって極めて高度な耐熱性を確保するとともに弾性率,伸び率等の質感を確保した擬竹を提供するように,これを,溶融粘度を向上した再生PET樹脂を用いて押出成形した中空パイプ状にしてその内周面側に肉厚方向部分的にして該内周面に添う断面形状の結晶化層を形成してなることを特徴とする再生PET擬竹としたものである。
【0013】
請求項7に記載の発明は,上記に加えて,上記結晶化層を内周面から肉厚方向に向けて20±5%の厚さとすることによって,上記擬竹の質感を確保するとともに上記高度な耐熱性及び耐衝撃性を確保するに好適なものとするように,これを,上記結晶化層を,内周面側から肉厚方向に向けて20±5%の厚さに形成してなることを特徴とする請求項6に記載の再生PET擬竹としたものである。
【0014】
本発明は,これらをそれぞれ発明の要旨として上記課題解決の手段としたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以上のとおりに構成したから,請求項1に記載の発明は,ドローダウンを防止し得るように溶融粘度を向上した再生PET樹脂を用いて中空パイプ状に押出成形した擬竹材に徐冷を施し,該擬竹材の中空部によって外気と隔絶された内周面側の温度を高温状態に維持し,擬竹材の押出成形温度,即ち再生PET樹脂の250℃程度の溶融温度から幾分低下した再結晶開始温度,即ち220℃〜200℃程度を経て緩やかな温度低下を行うようにして,該擬竹材の内周面側からその肉厚方向に向けて部分的な結晶化(再結晶化)を進行させて内周面側に該内周面に添う断面形状の結晶化層を形成するとともに該結晶化層を形成した後に擬竹材に対して急冷を施しその結晶化を停止し,擬竹材のその余を非結晶化層(非晶質層)とすることによって,該擬竹材を,内側の結晶化層とその外周側の非結晶化層を備えた積層構造として,200gの荷重を付加した状態で110℃の高温雰囲気中に20分間曝す耐熱試験においても押出成形当初の形状をそのまま維持して全く変形を生じないという高度な耐熱性を確保し得るとともに非結晶化層により弾性率,伸び率等,擬竹材として質感を確保して室内外で使用するに適した再生PET擬竹の生産方法を提供できる。従ってこのとき溶融粘度を向上した再生PET樹脂として上記高密度ポリエチレンと増粘剤を加えたものを用いることにより,PETボトル等をリサイクルした再生PET擬竹として,従来のABS系樹脂の擬竹を超える高度な耐熱性及び耐衝撃性の双方を兼備して,屋外で使用しても夏場の変形や寒冷雰囲気の釘打ちでもクラック発生のない優れた擬竹を実用化することが可能となる。
【0016】
請求項2に記載の発明は,上記に加えて,上記内周面側の結晶化層の厚さを,中空パイプ状の擬竹における内周面から肉厚方向に20±5%の厚さとすることによって,上記擬竹の質感を確保するとともに上記高度な耐熱性及び耐衝撃性を確保するに好適なものとすることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は,同じく上記に加えて,上記徐冷工程を,押出成型した擬竹材を常温で押出方向に向けて移送して行い,急冷工程を,冷却水中を通過するように該擬竹材を浸漬することにより,可及的に簡易且つ確実に結晶化層と非結晶化層の積層構造を備えた擬竹材を形成することが可能となる。
【0018】
請求項4及び請求項5に記載の発明は,同じく上記に加えて,再生PET擬竹を,可及的に天然竹の風合いと形状を有するものとして,請求項4に記載の発明は,上記天然竹の風合いを備えるものとし,請求項5に記載の発明は,上記天然竹の形状を備えるものとすることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は,上記内周面側に肉厚方向部分的にして該内周面に添う断面形状の結晶化層を形成することにより,内側の結晶化層とその外周側の非結晶化層を備えた積層構造とすることによって極めて高度な耐熱性を確保するとともに弾性率,伸び率等擬竹材として質感を確保して室内外で使用するに適した擬竹を提供することができる。
【0020】
請求項7に記載の発明は,上記に加えて,上記結晶化層を内周面から肉厚方向に向けて20±5%の厚さとすることによって,上記擬竹の質感を確保するとともに上記高度な耐熱性及び耐衝撃性を確保するに好適なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下図面の例に従って本発明を更に具体的に説明すれば,1は再生PET擬竹であり,該再生PET擬竹1は,その原料樹脂を,溶融粘度を向上した再生PET樹脂とし,該再生PET樹脂を用いて押出成形した中空パイプ状にしてその内周面側に肉厚方向部分的にして該内周面に添う断面形状の結晶化層11を形成したものとしてあり,本例にあって該再生PET擬竹1は,PET,特にPETボトルをリサイクルしたPETボトルリサイクル擬竹としてあり,このとき該擬竹1の上記再生PET樹脂は,使用済みPETボトルを粉砕した粉砕物を主体とし,これに高密度ポリエチレン及び増粘剤を加えてリペレットしたものを用いることによって,上記溶融粘度を向上し,これによって押出成形した擬竹材の張力を確保して,PET樹脂の押出成形に伴うドローダウンを防止して中空パイプ状としたものとしてある。
【0022】
本例の擬竹1は,その中空パイプ状の断面形状を円形とし,その外径を,例えば2〜2.5cm程度,肉厚を2〜3mm程度とし,後述の節2部分の外径を2.5〜3cm程度として,押出成形した擬竹材を所定の長さに切断することによって適宜長さを有する長尺バー状のものとし,また本例の擬竹1は,その表面に,同じく後述の着色被覆層13を備えるとともに長手方向間欠的に外周側に隆起した節2と該節2から長手方向に添う溝条3を凹陥形成したものとしてあり,これによって,例えば青竹,枯竹,煤竹等の色調と節2や枝分かれ部に見られる溝条を備えて天然竹の質感を有する可及的高品質のものとしてある。
【0023】
本例にあって上記断面形状円形の中空パイプ状とした再生PET樹脂擬竹1は,その内周面側からその肉厚方向に向けた部分的な結晶化層11を,その内周面側から肉厚方向に向けて20±5%の厚さに形成する一方,その余を非結晶化層12とすることにより,内側の結晶化層11とその外周側の非結晶化層12を備えた積層構造としてあり,これによって該擬竹1は,その弾性率,伸び率等の質感を確保するとともに極めて高度な耐熱性と耐衝撃性の双方を兼備したものとしてある。即ち擬竹1は,例えば200gの荷重を付加した状態で110℃の高温雰囲気中に20分間曝す耐熱試験において,当初の断面円形の形状をそのまま維持して全く変形を生じないものとしてあり,また溶融粘度を向上した再生PET樹脂を上記高密度ポリエチレンと増粘剤を加えたものとすることによって,アイゾット法による耐衝撃試験において9.0kJ/m〜9.5kJ/m又はそれ以上の高度な耐衝撃性を呈するものとしてある。即ち耐衝撃性及び耐熱性に優れるとされて従前から広く用いられている,同一形状の断面円形中空パイプ状のABS系樹脂の擬竹は,上記耐熱試験において,その上下面が偏平化するように2/3程度の高さに潰れた状態に変形するとともに上記アイゾット法による耐衝撃性は7.3kJ/m程度に止まるから,上記再生PET擬竹1は,該ABS系樹脂の擬竹を耐熱性と耐衝撃性の双方において大きく上回る高度な耐熱性と耐衝撃性の双方を兼備したものとしてあり,これによって屋外で使用しても夏場の変形や寒冷雰囲気の釘打ちでもクラック発生を解消したものとしてある。
【0024】
上記高度な耐熱性は,該再生PET樹脂擬竹1における内周面側の該内周面に添う結晶化層11が,耐熱補強芯をなし,高温によって軟化したその外周側の非結晶化層12を内側で保形するように作用して擬竹1の保形性を確保するためと見られ,また高度の耐衝撃性は,上記高密度ポリエチレンの密度が高いことによって再生PET樹脂の性状を改良して擬竹1の高密度化に寄与するためと見られる。
【0025】
このように形成した本例のPET再生擬竹1を,その生産方法によって説明すれば,該擬竹1は,溶融粘度を向上した再生PET樹脂を用いて中空パイプ状の擬竹材を押出成形する押出成形工程と,該押出成形した擬竹材の内周面側を肉厚方向部分的に結晶化する徐冷工程と,該擬竹材を急冷して結晶化を停止する急冷工程を備えることにより内周面側に該内周面に添う断面形状の結晶化層を形成するものとしてあり,その後に常法による切断工程を経ることによって上記適宜長さの擬竹1とするものとしてあり,このとき本例にあって,上記押出成形工程,徐冷工程及び急冷工程に加えて,上記擬竹材の押出成形工程と同時にその押出成形速度と同速の押出成形によって擬竹材の表面に着色皮膜層を被覆形成する着色皮膜層形成工程を備え,また同じく上記押出成形工程,徐冷工程及び急冷工程に加えて,押出成形工程直後に擬竹材に間欠的な真空吸引を施すことによって擬竹材に節付けを行う節付け工程を備えるものとしてあり,これによって該擬竹1が上記着色被覆層と節2を備えて,可及的に天然竹の風合を呈する高品質のものとしてあるとともに該生産方法を一連の連続工程として可及的に生産性を高度に維持し得るようにしてある。
【0026】
本例の上記溶融粘度を向上した再生PET樹脂は,使用済みPETボトルを粉砕した粉砕物に上記高密度ポリエチレンと増粘剤を加えてリペレットしたものとしてあり,本例にあって該再生PET樹脂は,使用済みPETボトルを粉砕した粉砕物に対する上記高密度ポリエチレンの重量比を10±5wt%とし,また上記増粘剤は,これを,上記再生PET樹脂と反応性基を有するアクリレート又はメタアクリレート及びこれらと共重合可能のビニル単量体の重合体とし且つその上記再生PET樹脂における使用済みPETボトルを粉砕した粉砕物に対する該ビニル単量体重量比を7±5wt%としたものとしてあり,このとき本例の該増粘剤は,上記アクリレート又はメタアクリレートを該ビニル単量体で被覆した重合体としたものを用いるようにしてある。また本例における再生PET樹脂は,上記高密度ポリエチレン,増粘剤に加えて,更に相溶化剤,滑剤及び顔料,例えば黄土色系の顔料を添加してあり,該相溶化剤及び滑剤によって擬竹1としての押出成形性を向上してあり,また上記顔料によって押出成形の擬竹材を黄土色とし,擬竹1の切断面を乾燥状態の天然竹の色調を呈するようにしてある。
【0027】
即ち高密度ポリエチレンは,擬竹1における高度な耐衝撃性を確保する上で極めて有効であるが,更に使用済みPETボトルの粉砕物に対して増粘剤とともに使用することによってその押出成形時の溶融粘度を相乗的に向上してドローダウンを有効に防止して,上記押出成形と節付け成形を一連の連続工程として擬竹1を生産する上で有効に作用するものと見られるところ,そのために該高密度ポリエチレンの密度は,これを0.945〜0.970g/m,メルトインデックスが0.001〜20g/10分の範囲のものとするのが好ましい。また増粘剤は,上記再生PET樹脂と反応性基を有するアクリレート又はメタアクリレート及びこれらと共重合可能のビニル単量体とを重合した重合体を単独又は複数で使用でき,このとき上記アクリレート又はメタアクリレートとしては,例えばグリシジルアクリレート,グリシジルメタアクリレート等のエポキシ基を有するものとし,またこれらアクリレート又はメタアクリレートと重合するビニル単量体としては,例えばスチレン,α−メチルスチレン,クロロスチレン等の芳香族ビニル単量体や,アクリロニトリル,メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体等とするのが好ましく,その重合体の分子量は4万〜15万とするのが好ましい。増粘剤には,更に,例えば2―エチルヘキシルアクリレート,ブチルアクリレート,エチルアクリレート,メチルアクリレート等のアルキル基の炭素数8のアルキルアクリレート,2―エチルヘキシルメタクリレート,ブチルメタクリレート,エチルメタクリレート,メチルメタクリレート等のアルキル基の炭素数8のアルキルメタクリレートを添加することにより,例えば懸濁重合法乃至乳化重合法によってその重合を行ったものとすることができる。
【0028】
このように高密度ポリエチレン及び増粘剤をPETボトルの粉砕物に添加するに際しては,高密度ポリエチレンの粉砕物に対する重量比を上記10±5wt%,増粘剤の重量比を上記7±5wt%とすることによって,上記高度な耐衝撃性と再生PET樹脂の溶融粘度を増加して押出成形した擬竹材に充分な張力を付与して,押出成形工程から急冷工程までの間のドローダウンを有効に防止し,上記断面形状円形の中空パイプ状の擬竹材を得ることができる。
【0029】
押出成形工程は,高密度ポリエチレン及び増粘剤を加えて形成した上記再生PET樹脂は,そのペレットを,常法に従ってホッパーから押出成形機に供給し,例えば溶融粘度を4.80×10−3〜8.00×10−3(Pa・s)として擬竹材を押出成形することによって,これを行うようにしてある。
【0030】
このとき該押出成形工程と同時の上記着色皮膜層形成工程は,擬竹材の押出成形機に連続的に配置した被覆層形成用の押出成形機に,そのホッパーから,例えばポリ塩化ビニール等の熱可塑性樹脂を供給し,再生PET樹脂の押出成形による擬竹材に対して同時的に押出成形してその表面,即ち外周面を着色皮膜層13によって被覆するようにすればよく,このとき,本例の着色被覆層13は,これを,擬竹材に対してダブル供給することによって,例えば内外複層,特に異色2層に積層するとともに外側層の肉厚を外周方向に異厚とし,擬竹材に厚肉の外側層の色調部分と,薄肉の外側層と内側層の複合色調部分とを形成して,該擬竹材の外周方向に変化する色調によって,上記青竹,枯竹,煤竹等の色調を有して,天然竹に見られる風合をなす濃淡模様を表出するようにしてある。
【0031】
また押出成形工程直後,本例にあっては上記着色皮膜層形成工程直後の上記節付け工程は,押出成形直後の擬竹材を,節形成溝を形成し押出速度と同速移動するとともに所定範囲を往復動して定位置に復帰するように配置した金型に,その定位置で挟持するとともにその節形成溝を真空吸引して,押出成形直後にしてなお真空成形が可能な溶融状態,即ち再結晶化が開始する220℃程度より高温の,好ましくは230℃程度以上の温度を維持している擬竹材に,該真空成形によって表面隆起の隆起リブによる上記節2を長手方向間欠的に隆起形成するように行うものとしてあり,本例にあって該金型に押出方向に複数,例えば一対の節形成溝を形成することにより上記隆起リブを一対として,例えば断面M字状とするように配置してある。このとき本例の擬竹材は,更にその節形成を行う上記金型における一方の節形成溝に連続して外周方向部分的に隆起して押出方向に先細りとし且つ隆起高さを漸減するようにした長寸の隆起突起を形成し,該隆起突起によって上記断面M字状の隆起リブから擬竹材長手方向に向けて上記隆起突起に対応した隆起リブ間の溝条3を凹陥形成して,天然竹の節に連続する枝分れ部に見られる溝条を付与して天然竹の形状により近似した形状のものとしてある。
【0032】
このように押出成形し,本例にあっては上記着色被覆層13を形成し且つ節2及び溝条3を形成した擬竹材には上記徐冷工程と急冷工程を施すことによって,擬竹材が上記結晶化層11と非結晶化層12の積層構造をなすようにしてあり,本例にあって上記徐冷工程は,これを,押出成形した擬竹材を常温で移送することによって行い且つ上記急冷工程は,これを,該擬竹材を冷却水中に浸漬することによって行うものとしてあり,このとき上記徐冷工程と急冷工程による内周面側の結晶化層は,これを,内周面側から肉厚方向に向けて20±5%の厚さに形成するようにしてある。
【0033】
即ち擬竹材は,その内周面側に該内周面に添う断面形状,本例にあっては断面形状円形の結晶化層11を形成することによって,その高度な耐熱性を確保することが可能となるところ,本例の徐冷工程による該結晶化層の形成は,押出成形した擬竹材をその再結晶開始温度の220℃〜200℃程度を経て緩やかな温度低下を行うようにすればよく,押出成形した擬竹材の中空部は,それ自体,工場の雰囲気温度の影響を受け難いから,押出成型した擬竹材を常温で押出方向に向けて移送するようにすることにより該緩やかな温度低下を行って,上記徐冷工程を施して,その徐冷とこれによる内周面側の結晶化層11を形成するようにしてある。また該徐冷工程の結晶化を行った後に,これを停止するように一気に冷却すれば,その余を非結晶化層12とすることが可能となるところ,急冷工程は,該内周面側を結晶化した擬竹材を冷却水に接触させてこれを行えばよく,本例の急冷工程による結晶化の停止は,押出成形した擬竹材を,その押出方向に直列に配置した水槽に浸漬してその冷却水中を通過させ,該擬竹材の内周面及び外周面を冷却水によって冷却するようにすることにより,上記急冷工程を施して,その急冷による内周面側の結晶化層11形成の停止とその余の非結晶化層12とによる積層構造とするようにしてある。
【0034】
このとき徐冷工程の移送は,例えば押出成形した擬竹材,本例にあっては上記230℃程度の擬竹材に対する節付け工程を経た擬竹材を,例えば0.5m乃至2m,好ましくは0.5m乃至1.5mの距離範囲,押出速度によって異なるが,時間換算すると,例えば0.3分〜1.3分間,好ましくは0.3〜1分間,常温でローラー上を押出方向に水平に移送するように行うものとしてある。このとき上記距離範囲が0.5m,時間換算0.3分を下回ると結晶化層11の形成が不充分となり,該擬竹材における結晶化層11の厚さが内周面側から肉厚方向に向けて15%を下回る結果,上記110℃の高温に曝された場合に幾分の変形が生じる傾向を呈するようになり,耐熱性を充分に確保できなくなる一方,距離範囲が1.5m,時間換算1分を上回ると,結晶化層11の形成が過剰となり,該擬竹材における結晶化層11の厚さが同じく25%を上回る結果,擬竹材としての弾性率が低下して,例えばそのしなやかさが損なわれ,天然竹の質感を得られなくなる傾向を呈し,また距離範囲が2m,時間換算1.3分を上回ると,移送時間が長すぎて擬竹材にドローダウンによる形状変化が生じる可能性があるとともに弾性率の低下が大きく天然竹の質感を確保し難くなるので,該徐冷工程は,上記距離範囲乃至時間範囲のもの,特に上記好ましい範囲のものとするのがよい。
【0035】
冷却水には常温の流水を用いることも可能であるが,水槽に貯水した冷却水を使用するのが好ましく,このとき徐冷状態の擬竹材を冷却することによってその温度上昇が大きいので,冷却水は,その水槽から熱交換器を経由して再度水槽に循環するようにして温度上昇による冷却不良のないようにすることが好ましい。
【0036】
実施例として,例えばペットボトル粉砕物70wt%,高密度ポリエチレン12wt%,増粘剤9wt%を併用し,その余に相溶化剤,滑剤,顔料を添加してリペレットした再生ペット樹脂のペレットを用いて,押出溶融温度を230℃,スクリュー回転数50rpm,吐出量3kg/hの条件下で押出成形を行うとともに,該押出成形工程と同時の着色皮膜層工程,その直後の節付け工程を経た擬竹材に,常温で1.5m,時間換算1分間ローラー上を移送して徐冷工程を施し,次いで水槽の5℃冷却水中を通過させて急冷工程を施し,その後切断工程によって所定長さ切断して,肉厚3mmにして着色皮膜層を備えた断面円形中空パイプ状の上記節付き擬竹1を得た。該擬竹1は,ドローダウンがなく,断面が円形にして所定間隔に節と溝条が付され,また表面に着色被覆層を有する天然竹に近い質感を備えたものとなし得た。該擬竹1の長さ5cmの試験体を用いて,これに金属プレートを載置して200gの荷重を付加して,110℃の加熱炉に入れて20分間,該110℃の高温雰囲気中に20分間曝して耐熱試験を行った結果,擬竹1は当初の円形中空状の形状をそのまま維持して,金属プレート載置部分を含めて全く変形は見られなかった。比較例として従前のABS系樹脂擬竹の同形状にして肉厚3mmの節付き擬竹の長さ5cmの試験体を用いて同様の耐熱試験を行った結果,金属プレート載置部分の上下面が偏平化するように2/3程度の高さに潰れた状態に変形した。また同じく厚さ3mmの試験片を用いてアイゾット法による耐衝撃試験(23℃)を行ったところ,その結果は9.3kJ/mであった。比較例として上記従前のABS系樹脂擬竹の厚さ3mmの試験片を用いた耐衝撃試験を行ったところ,その結果は7.3kJ/mであった。従って耐熱性及び耐衝撃性は,実施例が比較例をそれぞれ大きく上回るものであることが確認された。
【0037】
上記例において,着色皮膜層形成工程を,擬竹材の押出成形工程と同時にその押出成形速度と同速の押出成形によって,これを行うものとしたが,必要に応じて,急冷工程後の切断工程を経た後に擬竹材の送り速度と同速の押出成形によって,同じく擬竹材の表面に着色皮膜層を被覆形成するようにして,これをバッチ式のものとすること,また節付け工程を,押出成形工程直後に擬竹材に間欠的な真空吸引を施すことによって,これを行うものとしたが,必要に応じて,急冷工程後の切断工程を経た後に擬竹材の送り速度と同速の押出成形によって,擬竹材の表面に着色皮膜層を被覆形成する上記着色皮膜層形成工程において擬竹材を間欠的に停止して着色皮膜層の皺寄せを形成することによって,同じく擬竹材に節付けを行うようにして,これを同じく上記バッチ式のものとすること等を含めて,本発明に実施に当って,溶融粘度を向上した再生PET樹脂,押出成形工程,徐冷工程,急冷工程,必要に応じて用いる着色皮膜層形成工程,節付け工程等の各具体的方法,材質,組成,比率等,擬竹,その結晶化層等の各具体的形状,構造等,またこれらの関係,これらに対する付加等は,上記発明の要旨に反しない限り様々のものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】節付き擬竹の斜視図である。
【図2】節付き擬竹の断面図である。
【図3】結晶化層と非結晶化層の積層モデルを示す部分拡大縦断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 擬竹
2 節
3 溝条
11 結晶化層
12 非結晶化層
13 着色被覆層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融粘度を向上した再生PET樹脂を用いて中空パイプ状の擬竹材を押出成形する押出成形工程と,該押出成形した擬竹材の内周面側を肉厚方向部分的に結晶化する徐冷工程と,該擬竹材を急冷して結晶化を停止する急冷工程を備えることにより内周面側に該内周面に添う断面形状の結晶化層を形成することを特徴とする再生PET擬竹の生産方法。
【請求項2】
上記徐冷工程と急冷工程による内周面側の結晶化層を,内周面側から肉厚方向に向けて20±5%の厚さに形成することを特徴とする請求項1に記載の再生PET擬竹の生産方法。
【請求項3】
上記徐冷工程を,押出成形した擬竹材を常温で移送することによって行い且つ上記急冷工程を,該擬竹材を冷却水中に浸漬することによって行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の再生PET擬竹の生産方法。
【請求項4】
上記押出成形工程,徐冷工程及び急冷工程に加えて,上記擬竹材の押出成形工程と同時にその押出成形速度と同速の押出成形によって又は急冷工程後の切断工程を経た後に擬竹材の送り速度と同速の押出成形によって,擬竹材の表面に着色皮膜層を被覆形成する着色皮膜層形成工程を備えることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の再生PET擬竹の生産方法。
【請求項5】
上記押出成形工程,徐冷工程及び急冷工程に加えて,押出成形工程直後に擬竹材に間欠的な真空吸引を施すことによって又は急冷工程後の切断工程を経た後に擬竹材の送り速度と同速の押出成形によって擬竹材の表面に着色皮膜層を被覆形成する追加的な着色皮膜層形成工程において擬竹材を間欠的に停止して着色皮膜層の皺寄せを形成することによって,擬竹材に節付けを行う節付け工程を備えることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の再生PET擬竹の生産方法。
【請求項6】
溶融粘度を向上した再生PET樹脂を用いて押出成形した中空パイプ状にしてその内周面側に肉厚方向部分的にして該内周面に添う断面形状の結晶化層を形成してなることを特徴とする再生PET擬竹。
【請求項7】
上記結晶化層を,内周面側から肉厚方向に向けて20±5%の厚さに形成してなることを特徴とする請求項6に記載の再生PET擬竹。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−114455(P2008−114455A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299223(P2006−299223)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(597073368)藤沢電工株式会社 (6)
【Fターム(参考)】