説明

冠動脈疾患および心血管イベントのリスクの予測

対象からの試料中の少なくとも1種の代謝産物のレベルを検出するステップによる対象における心血管疾患のリスクを評価する方法は、本明細書に開示される。代謝産物のレベルは、対象における心血管疾患のリスクを示す。代謝産物は、アシルカルニチン、アミノ酸、ケトン、遊離脂肪酸またはヒドロキシブチラートとなり得る。心血管疾患は、心血管イベントのリスク、冠動脈疾患の存在または冠動脈疾患の発症のリスクとなり得る。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年3月10日出願の米国特許仮出願第61/159,077号明細書の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
冠動脈疾患(CAD)は、先進工業国における主な死亡原因であり、肥満および糖尿病の流行と足並みを揃えており、急速に開発途上国の主な死亡原因になっている。CADの遺伝的な偏向は十分に確立されており、家族歴は、特に、早期の発生形態でCADの独立したリスク因子となり得ることが示されている。これにもかかわらず、CADの遺伝的な構築は、大部分は未知のままである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Smith et al., Circulation 1991;84[5 Suppl], 111:245-253
【非特許文献2】Shah et al., Mol Syst Biol 2009;5:258
【非特許文献3】Newgard et al., Cell Metab 2009;9(4):311-26
【非特許文献4】An et al., Nat Med 2004;10(3):268-274
【非特許文献5】Chace et al., Clin Chem 1995;41(l):62-8
【非特許文献6】DeLong et al, Biometrics 1988;44(3):837-45
【非特許文献7】Hauser et al, 2003, Am Heart J, 145, 602-613
【非特許文献8】Haqq et al, 2005 Contemp Clin Trials, 26, 616-625
【非特許文献9】Millington et al, 1990, J Inherit Metab Dis, 13, 321-324
【非特許文献10】Wu et al, 2004, J Clin Invest, 113, 434-440
【非特許文献11】Patterson et al, 1999, J Lipid Res, 40, 2118-2124
【非特許文献12】Almasy and Blangero, 1998, Am J Hum Genet, 62, 1198-1211
【非特許文献13】Johnson and Wichern D. W., 1988, Applied Multivariate Statistical Analysis. Prentice Hall, Englewood Cliffs, New Jersey
【非特許文献14】Kaiser, 1960, Educational and Psychological Measurement, 20, 141-151
【非特許文献15】Lawlor et al, 2004, Am J Epidemiol, 159, 1013-1018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CADの多くの容認されたリスク因子は代謝性である。しかし、CADのリスクを機構的に理解することはまだ完全ではなく、心血管イベントの最も高いリスクがある個体を同定する能力を洗練させる必要性が等しく重要である。CADの複雑な性質を考えると、より包括的なツールによる判定は、リスク階層化を改善し疾患過程の理解を深めることができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、対象における心血管疾患のリスクを評価するための方法が提供される。リスク評価は、心筋梗塞などのその後の心血管イベントの可能性を予測すること、CADの発症を予測すること、または対象におけるCADの存在を識別することが含まれ得る。これらの方法には、対象からの試料中の少なくとも1種の代謝産物を検出するステップが含まれる。代謝産物は、アシルカルニチン、アミノ酸、ケトン、遊離脂肪酸またはβ−ヒドロキシブチラートとなり得る。その場合は、代謝産物のレベルは、標準または対照群と比較され、対象における心血管イベントのリスクのレベル、CADの発症のリスクまたはCADの存在を決定するために用いることができる。
【0006】
他の態様では、CADを発症した対象もしくは発症するリスクのある対象または心血管イベントのリスクのある対象のための治療計画を開発する方法はまた、提供される。これらの方法には、対象における検出された代謝産物のレベルを用いて、対象における心血管疾患のリスクに基づいた治療計画を開発するステップが含まれる。この計画は、食事制限、運動および医薬品治療オプションを含み得る。
【0007】
さらに他の態様では、対象における心血管疾患のリスクを評価するための方法は、試料が対象から得られるものが提供される。試料は、試料中の代謝産物レベルを検出するために研究室に提供される。検出された代謝産物は、アシルカルニチン、アミノ酸、ケトン、脂肪酸またはヒドロキシブチラートとなり得る。研究室は、対象における心血管疾患のリスクを示す、試料中の代謝産物レベルを示す報告書を返却する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】代謝産物因子およびCADの受信者動作特性(ROC)曲線を示す一組のグラフである。ROC曲線およびモデルの適合(c統計量)の測定値は、3つのモデルについて示された。すなわち、伝統的なCADリスク因子(糖尿病、高血圧、異脂肪血症、喫煙、BMI、家族歴;複製群の場合、年齢、人種および性別はまた含まれる)を含めた臨床モデル(黒線);すべての伝統的なリスク因子プラス代謝産物因子4および9を含めたモデル(灰線);すべての伝統的なリスク因子プラスすべての代謝産物因子を含めたモデル(破線の黒線)である。上部のグラフは、初期群を示し、下部のグラフは、複製群を示す。
【図2】心血管イベントのための代謝産物因子8の予測能力のためのコックス比例ハザードモデルを示す一組のグラフである。調整されない(左パネル)および調整された(右パネル)生存曲線(BMI、CADの重症度、高血圧、異脂肪血症、糖尿病、喫煙、家族歴、駆出率、血清クレアチニン、その後のCABG、年齢、人種および性別について調整された)は、代謝産物因子8について示された。
【図3】8つのマルチプレックスのGENECARDファミリーの系図を示す図である。符号中の塗りつぶされた黒は早期CADに罹患したことを表し、より小さい灰色の丸は、本試験のために行われた血液プロファイリングを表す。プロファイルされたファミリーメンバーの大部分は、元の罹患した同胞対(以下、罹患同胞対)の今のところ罹患していない子孫であることに留意されたい。
【図4】従来の代謝産物の遺伝率を示すグラフである。Y軸は、遺伝率推定値(X軸)のためのp値の負のlog10である。遺伝率の点推定値近くのエラーバーは、薄灰色である。
【図5】アミノ酸および遊離脂肪酸の遺伝率を示すグラフである。示されたのは、アミノ酸および遊離脂肪酸の遺伝率である。Y軸は、遺伝率推定値(X軸)のためのp値の負のlog10である。遺伝率の点推定値近くのエラーバーは、薄灰色である。
【図6】アシルカルニチンの遺伝率を示すグラフである。Y軸は、遺伝率推定値(X軸)のためのp値の負のlog10である。遺伝率の点推定値近くのエラーバーは、薄灰色である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
小分子代謝産物の試験であるメタボロミクスは、ヒトの疾患の診断に有用となり得る。試験は、植物およびマウスにおける代謝産物の遺伝率を実証している。実施例に記載されている通り、代謝産物プロファイルは、早期発生CADを有するヒトのファミリーに遺伝性であり、CADの公知の遺伝率は、血液中の測定可能な代謝性の成分によって少なくとも一部で媒介され得ることを示唆する。実施例は、Duke大学CATHGENバイオレポジトリー(Duke CATHGEN biorepository)に登録された患者においておよびDuke大学GENECARD試験(Duke GENECARD study)から選択されたファミリーにおいて、アシルカルニチン種(ミトコンドリアの脂肪酸、炭水化物、およびアミノ酸酸化の副生成物)、アミノ酸、ならびに遊離脂肪酸、ケトンおよびβ−ヒドロキシブチラートなどの従来の代謝産物を含めて、69種の代謝産物の定量的なプロファイリングを記載している。対象において心血管疾患のリスクを評価する代謝産物プロファイルの能力は、本明細書において提供される。実施例により、特定の代謝産物のレベルは、単独であるいは組み合わせて、CADを発症する可能性、CADの存在およびその後の心血管イベントのリスクを識別することが実証される。
【0010】
対象において心血管疾患のリスクを評価するまたは予測する方法は提供される。これらの方法には、対象からの試料中で少なくとも1種の代謝産物のレベルを検出するステップが含まれる。代謝産物の量または相対レベルは検出することができる。検出された代謝産物は、アシルカルニチン、アミノ酸、ケトン、遊離脂肪酸(FFA)、またはヒドロキシブチラートとなり得る。対象からの試料中の代謝産物のレベルは、その場合、心血管疾患のリスクを評価するために標準と比較される。標準は、正常な範囲および/または心血管疾患を示す範囲を示す各代謝産物について経験に基づいて引き出された数値になり得るまたは公知の心血管疾患状態を有する個体における代謝産物のレベルとの直接比較になり得る。
【0011】
対象から試料を得るステップおよび試料中の代謝産物レベルを検出するために研究室に試料を提供するステップにより対象における心血管疾患のリスクを評価するための方法はまた提供される。上記と同様に、研究室により検出された代謝産物は、アシルカルニチン、アミノ酸、ケトン、脂肪酸およびヒドロキシブチラートを含み得る。その場合には、試料中の代謝産物レベルを示す報告は、研究室から受け取られる。報告は、対象における代謝産物のレベルを示し、このレベルは、対象における心血管疾患のリスクを示す標準値と比較するために用いることができる。
【0012】
心血管疾患のリスクには、CADを有さない対象の、遺伝性の因子により経時的にCADを発症するリスクを評価すること、対象においてCADの存在または非存在を評価することおよび心血管イベントを有するリスクを評価することが含まれる。心血管イベントには、心筋梗塞、脳卒中および死亡が含まれる。
【0013】
対象は、任意の哺乳動物となり得、適当には、対象はヒトである。CADを有するまたはCADを発症するリスクがあると同定された対象は、本明細書で提供される方法を用いて心血管イベントのこれらのリスクを決定するためにさらに評価することができる。これらの方法は、非侵襲的なやり方でCADの存在を診断するのに役立てるおよび/またはCADのリスクがあると同定された対象、CADを有する対象または心血管イベントのリスクがある対象のための治療計画を開発するために用いることができる。治療計画は、対象への規定食、運動、および医薬品療法の提供が含まれ得る。心血管イベントには、制限するわけではないが、心筋梗塞(MI)、脳卒中および死亡が含まれる。
【0014】
代謝産物は、様々な試料を用いて検出することができ、その中のいくつかは、当業者には明らかである。実施例では、末梢血は、対象から得られ、対象における代謝産物のレベルを検出するために処理された。対象からの他の組織または液体は、それだけには限らないが、血液、血漿、尿、血清、唾液、および組織生検を含めて用いることもできる。
【0015】
任意の方法は、代謝産物を検出するために用いることができる。適当には、この方法は、対象における代謝産物または対象からの試料のレベルもしくは量を決定できるように定量的である。実施例において、代謝産物のレベルは、質量分析により決定された。測定の他の方法は、核磁気共鳴(NMR)を含めて用いることができる。代謝産物はまた、結合もしくは酵素アッセイなどのアッセイによる代謝産物の検出に基づいた比色定量アッセイまたは蛍光定量アッセイを用いて検出することができる。代謝産物についての任意の適当なアッセイ方法は用いることができる。かかる方法は、当業者には明らかである。対象における代謝産物のレベルは、血液または組織中の代謝産物をng/mlとして、血液もしくは組織中の代謝産物mMまたはμM濃度によって、または対象間の相対レベルを示すために任意の単位を用いることによって報告することができる。実施例では、血液中の代謝産物mMもしくはμMは報告される。
【0016】
いくつかの実施形態では、単一の代謝産物の検出は、心血管疾患のリスクを評価するのに十分である。他の実施形態では、2、3、4、5、7、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60または65種の代謝産物は、心血管疾患のリスクを評価するための方法で検出し用いることができる。検出された代謝産物は、対象の母集団の主成分分析による一因子として関連し得る。CADの遺伝率を評価するために有用なおよびCADの存在もしくは心血管イベントを有するリスクのために有用な代謝産物の因子、または群は、以下の実施例に示される。
【0017】
対象における代謝産物のレベルは、対象がCAD、対象がCADを発症するリスクおよび/または対象が将来心血管イベントを経験するリスクを有するか否かを決定するために用いられる。リスク決定のレベルは、血液中に存在する代謝産物の標準レベルに基づくことができる。このような標準は、HDLおよびLDLコレステロール測定値間の関係について用いられ、コレステロールレベルが絶食後の血液中のあるレベルに達し、HDL対LDLの比が標準の限界を超えるとき、CADのリスクは予測される。かかる標準は、大規模な母集団試験に基づいて一般に開発される。あるいは、リスクの決定は、1種または複数の対照群との直接比較に基づくことができる。例えば、一組のCADがない対照群および試料入手後2年心血管イベントを伴わない対照群、ならびに一組のCADを有する対照群および試料入手後2年心血管イベントを伴うもしくは伴わない対照群は、比較として用いられ得る。
【0018】
対象における心血管疾患のリスクは、相対的な用語で表すことができる。例えば、代謝産物の正常なレベルは、CADまたは心血管イベントなど、心血管疾患の低リスクから平均的なリスクのある対象において1.0と言われ得る。1.0未満の任意の数値は、対象が一般的な母集団リスクよりも低いリスクを有することを示し得る。1.0を超える数値は、対象が平均的なリスクレベルよりも高く、実際の数値がリスクのレベルに関係し得ることを示すことになる。例えば、代謝産物レベルが2.0である対象は、平均的な個体に比べて今後2年に心血管イベントを経験する可能性が2倍となり得る。
【0019】
CADまたは将来の心血管イベントを含めた心血管疾患のリスクの評価には、制限するわけではないが、リスクプロファイルの作成が含まれる。評価または予測は、対象が、対照群よりもCADなどの心血管疾患を有するもしくは発症する、または心血管イベントを有する可能性が10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%、300%、400%、500%、750%または1000%高いことが示され得る。対照群は、CADを有さず、CADまたは心血管イベントの高いリスクと相関しない代謝産物のレベルを有する個体である。
【0020】
心血管疾患CADを発症するリスクの予測的な代謝産物には、脂質、タンパク質および炭水化物代謝の主な経路の多くに関与する代謝産物が含まれる。したがって、アシルカルニチンには、アミノ酸異化作用に関する情報を提供するアセチルカルニチン(C2)、グルコース、脂肪酸およびアミノ酸代謝の副生成物、プロピオニルカルニチン(C3)およびイソベレリルカルニチン(Isoveleryl carnitine)(C5)、ペルオキシソームの脂肪酸代謝について報告されるジカルボキシル化されたアシルカルニチン、および、長鎖脂肪酸β−酸化における中間体である中長鎖アシルカルニチンが含まれる。アミノ酸は、タンパク質代謝回転および異化作用における重要な中間体として働き、ケトンは、脂肪酸β−酸化の指標である。以下の表1は、実施例において試験された代謝産物の短縮名およびフルネームを示す。表2は、可能な場合、それぞれの試験された代謝産物の生体機能を示す。
【0021】
【表1−1】

【0022】
【表1−2】

【0023】
【表2−1】

【0024】
【表2−2】

【0025】
【表2−3】

【0026】
対象において少なくとも1種の代謝産物を検出するステップにより対象における心血管イベント(死亡または心筋梗塞)のリスクを予測する方法はまた、提供される。心血管イベントのリスクの予測的な代謝産物は、ペルオキシソームの脂肪酸代謝の推定された生成物であり、具体的には、短鎖ジカルボキシルアシルカルニチン、およびシトルリンである。特定の代謝産物は、実施例の表9に列挙され、因子8として同定される。表10は、因子8内の個別の代謝産物を示し、それぞれの代謝産物についての因子負荷データを提供する。実施例中のデータから、シトルリンおよび短鎖ジカルボキシルアシルカルニチンが心血管イベントのリスクを予測することが実証される。
【0027】
個別の代謝産物はまた、心血管イベントのリスクを予測することができる。これらの代謝産物には、Gly、Ala、Ser、Pro、Met、His、Phe、Tyr、Asx、Glx、オルニチン、シトルリン、arg、C2、C3、C4:C14;C5:1、C5、C4:OH、C14−DC:C4DC、C5−DC、C6−DC、C10:3、C10、C10−OH:C8DC、C12:1、C12、C12−OH:C10DC、C14:1−OH、C14−OH:C12−DC、C16、C16−OH/C14−DC、C18:2、C18−OH/C16−DC、C20、C20:1−OH/C18:1−DC、C20−OH/C18−DC、C8:1−OH/C6:1−DC、C8:1−DC、C16:1、C16:1−OH/C14:1−DC、C20:4、FFA、HBUT、およびKetが含まれる。具体的には、シトルリン、C5−DC、C6−DC、C8:1−OH/C6:1−DC、およびC8:1−DCのレベルは、心血管イベントを予測する。さらに、オルニチン、シトルリン、C5、C14−DC:C4DC、C5−DC、C6−DC、C10−OH:C8DC、C8:1−OH/C6:1−DC、C8:1−DC、C20:4およびFFAのレベルはまた、心血管イベントのリスクを評価するために有用である。
【0028】
対象からの試料中の少なくとも1種の代謝産物のレベルを検出するステップによる対象におけるCADの存在および/または程度を評価する方法はまた提供される。CADの存在を評価するために有用な代謝産物は、中鎖アシルカルニチン、分枝鎖アミノ酸または関連する代謝産物、尿素回路に関連する代謝産物である。
【0029】
特定の代謝産物は、実施例の表6、7および8に列挙され、表9中の因子1、4、および9として同定される。表10は、因子1、4および9内の個別の代謝産物を示し、それぞれの代謝産物についての因子負荷データを提供する。0.04以上の因子負荷を有するこのような代謝産物のみ、因子中に含まれる。
【0030】
個別の代謝産物は、心血管イベントのリスクを予測することもできる。これらの代謝産物には、Pro、Leu/Ile、Met、Val、Glx、シトルリン、C2、C3、C4:Ci4;C5、C8、C8:1−OH/C6:1−DC、C10:1、C14:2、C14:1−OH、C16:2、C16:1、C16:2、C16:1、C16:1−OH/C14:1−DC、C18−OH/C16−DC、HBUT、およびKetが含まれる。具体的には、Leu/Ile、Glx、C2、C14:1−OHおよびC16:1−OH/C14:1−DCのレベルは、対象におけるCADの存在を示す。正常な対照または正常な標準に比べてLeu/IleまたはGlxのレベルの増加は、対象におけるCADを示す。C2、C14:1−OHおよびC16:1−OH/C14:1−DCのレベルの低下は、対象におけるCADの存在を示す。165mM、170mMまたは175mMを超えるLeu/Ileのレベルは、冠動脈疾患を示す。127mM、128mM、129mM、130mM、132mM、135mMまたは140mMを超えるGlxのレベルは、冠動脈疾患を示す。0.014μM、0.013μMまたは0.012μM未満のC14:1−OHのレベルは、冠動脈疾患を示す。0.009μM、0.0089μM、または0.0088μM未満のC16:1−OH/C14:1−DCのレベルは、冠動脈疾患を示す。
【0031】
対象からの試料中の少なくとも1種の代謝産物のレベルを検出するステップにより対象においてCADを発症する可能性を評価する方法はまた提供される。CADの可能性のある発症を評価するために有用な代謝産物は、短鎖および中鎖アシルカルニチン代謝産物、分枝鎖アミノ酸および尿素回路に関係する代謝産物である。
【0032】
特定の代謝産物は、実施例の表14に列挙される。表15は、同定された因子内の個別の代謝産物を示す。0.04以上の因子負荷を有するこのような代謝産物のみ、因子中に含まれる。個別の代謝産物はまた、心血管イベントのリスクを予測することもできる。これらの代謝産物には、ケトン、arg、オルニチン、シトルリン、glx、ala、val、leu/ile、pro、C2、C14:1、C18:1、C5:1、C4−i4、C18、C10:1およびFFAが含まれる。
【0033】
実施例
以下の実施例は、例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものではないことを意味する。
【実施例1】
【0034】
代謝産物のCADおよび心血管イベントのリスクとの関連
方法
試験試料
CATHGENバイオレポジトリーは、Duke大学メディカルセンター(Durham、NC)の心臓カテーテル処置研究室により順次募集された対象からなる。インフォームドコンセント後、血液を、カテーテル処置のための動脈アクセス時に大腿動脈から得、直ちに血漿を分離するために処理し、−80℃で凍結した。すべての対象は、採取前に最低6時間空腹であった。臨床データは、DDCD、すなわち1969年からDuke Universityで心臓カテーテル処置を実施した患者のデータベースによって提供された。薬剤データを、慢性的に用いた薬剤、すなわち、入院時の薬剤(入院患者)について収集したまたは以前の1カ月以内の診察記録(外来患者)から収集した。心筋梗塞(MI)の発生および死亡を含めたフォローアップデータを、カテーテル処置後6カ月目に収集し、次いで、その後毎年収集した。生命状態を米国死亡指数(National Death Index)によって確認した。すべての対象についてのカテーテル処置の適応は、虚血性心疾患の臨床的な配慮であった。重症肺高血圧または臓器移植を有する患者を除外した。
【0035】
CADのための代謝産物の識別可能な能力を評価するため、2つの独立した症例−対照群を構成した。すなわち、「初期」(CAD症例174名および無CAD対照174名);および「複製」(CAD症例140名および無CAD対照140名)である。初期群の場合、組み入れ基準を満たす逐次的な症例を選択した。すなわち、CAD指数≧32(≧95%の狭窄を有する少なくとも1つの冠動脈)および発生年齢≦55歳である。CAD指数は、血管造影のデータの数値的な要約である。(例えば、非特許文献1を参照)。発生年齢を、最初のMI、経皮的冠動脈形成術(PCI)、冠動脈バイパス移植術(CABG)の年齢、またはCAD指数閾値を満たす最初のカテーテル処置時の年齢として定義した。次の基準を満たす性別および人種に一致した対照を選択した。すなわち、CAD指数≦23;>50%の狭窄を有する冠動脈なし;カテーテル処置時年齢≧61歳;およびMI歴、PCI歴、CABG歴、または移植歴なしである。これらの基準に基づいた年齢が異なる場合、結果は年齢によって混乱する可能性がある。したがって、複製群の場合、同じ組み入れ基準を満たす逐次的な症例および対照を選択したが、発生年齢(症例)またはカテーテル処置時の年齢(対照)の基準を取り除き、症例/対照を一致させなかった。これにより、カテーテル処置について参照された患者の代表的な母集団への知見の一般化可能性が可能になる。分析を、CAD症例を以前のMI歴を有する症例に限定することによっても行った(初期における症例N=86症例、複製における症例N=61)。
【0036】
その後の心血管イベントのリスクを予測する代謝産物の能力を評価するために、初期および複製群からCAD症例を組み合わせ、「イベント」群を構成し(「イベント」群、N=314)、その中の、個体74名は、フォローアップ中死亡したまたはMIに罹った。代謝産物の心血管イベントのリスクとの関連についての知見を検証するため、プロファイリングを、次の基準、すなわち、駆出率>40%;PCI歴またはCABG歴なし;およびその後のCABGなしを満たすCATHGENから得られた独特な個体から構成される独立した心血管イベント症例−対照群(「イベント−複製」)において行った。これらのうち、イベント症例(N=63)は、死亡したもしくはMIに罹った、またはカテーテル処置後2年以内に急性の冠動脈症候群でPCIを行い、対照(N=66)は、フォローアップの少なくとも2年でイベントがなく、年齢、人種、性別およびCAD指数において症例に一致した。
【0037】
Duke大学施設内審査委員会(Duke Institutional Review Board)は、CATHGENに関するプロトコールおよび現在の試験を承認した。インフォームドコンセントは、それぞれ対象から得た。
【0038】
代謝産物測定
空腹時血漿試料を、45種のアシルカルニチン、15種のアミノ酸、5つの従来の分析物(総コレステロール、低密度リポタンパク質[LDL]コレステロールおよび高密度リポタンパク質[HDL]コレステロール、トリグリセリド、ならびにグルコース)、ケトン、β−ヒドロキシブチラート、全遊離脂肪酸およびC反応性タンパク質[CRP]についての標的レベルの定量的な決定のために用いた(表1)。それぞれのアッセイの方法論および変動係数は報告されている。(非特許文献2および非特許文献3を参照)。研究室(Sarah WStedman Nutrition and Metabolism metabolomics/biomarker core laboratory)は、症例−対照状態に盲検化され、症例/対照は無作為に分布された。
【0039】
標準の臨床化学方法を、Roche Diagnostics(Indianapolis、IN)から入手した試薬を含む従来の代謝産物のために、およびWakoから入手した試薬を含む(全)遊離脂肪酸およびケトン(全およびβ−ヒドロキシブチラート)のために用いた。すべてのアッセイを、Hitachi 911臨床化学分析器で行った。
【0040】
質量分析(MS)によってプロファイルされた代謝産物(アシルカルニチン、アミノ酸)の場合、次のプロトコールを用いた。(非特許文献4および非特許文献5を参照)タンパク質を、メタノールを用いた沈澱により最初に除去した。アリコートした上清を乾燥し、次いで、熱い、酸性のメタノール(アシルカルニチン)またはn−ブタノール(アミノ酸)でエステル化した。Quattro Micro instrument(Waters Corporation、Milford、MA)を有するタンデム型MSを用いて分析をした。「標的化された」中間代謝物の定量を、安定同位体内部標準の公知の量の混合物を加えることによって容易にした(表3)。ロイシン/イソロイシン(LEU/ILE)を、これらが、本発明者らのMS/MS方法によって分離されず、アロ−イソロイシンおよびヒドロキシプロリンによる寄与を含むため、単一の分析物として報告した。正常な環境下で、これらの等比重のアミノ酸は、LEU/ILEに帰せられるシグナルにほとんど寄与しない。さらに、ブチルエステルを形成するために用いた酸性条件により、グルタミンをグルタミン酸に部分的に加水分解し、アスパラギンをアスパルタートに部分的に加水分解する。したがって、GLU/GLN(GLX)またはASP/ASN(ASX)として報告される値は、グルタマートおよびグルタミンのモル和、またはアスパルタートおよびアスパラギンのモル和を示すものではなく、むしろ、グルタマートまたはアスパルタートの量プラスそれぞれグルタミンおよびアスパラギンの部分的な加水分解反応の寄与を測定することを意味する。生物学的な注釈づけは、上記表2に含まれる。
【0041】
【表3】

【0042】
統計分析
「0」(すなわち、定量下限(LOQ)を下回る)として報告された代謝産物レベルは、LOQ/2の値を与えられた。「0」としての値の>25%を有する代謝産物を分析しなかった(5つのアシルカルニチン)。すべての代謝産物を、正規分布に近づけるために自然対数に変換させた。CAD状態の分析の場合、一般化された線形回帰モデルを、マッチング、すなわち、糖尿病、高血圧、異脂肪血症、肥満度指数(BMI)、CADの家族歴、および喫煙によって限定されない伝統的なCADリスク因子について調整されないおよび調整された、CAD症例と対照間の代謝産物レベルの差を評価するために用いた。複製群の分析を、人種、性別および年齢についてさらに調整した。対数に変換すると、すべての有意な代謝産物は、バリン、ケトン、およびC8、C8:1−OH/C6:1−DC、C10:1、C14:2、C16:1、C16:1−OH/C14:1−DC、およびC18−OH/C16−DCアシルカルニチンを除いて、正規分布(コルモゴロフ−スミルノフ検定P>0.01)を示した。分布を目視検査すると、大いに正規分布が示唆された。それにもかかわらず、本発明者らは、ノンパラメトリックウィルコクソン検定を用いて感度分析を実施し、バリンおよびC14:2アシルカルニチンを除く、セミパラメトリックな線形モデルとして類似の結果を示し、どちらも、線形回帰において有意でなかった(それぞれp=0.10およびp=0.06)が、これらのノンパラメトリック検定で有意であった(p=0.05およびp=0.008)。分析を、糖尿病および喫煙によってやはり層別化した。
【0043】
探索的分析において、多変量モデルを、薬剤クラス(β遮断薬、スタチン、糖尿病薬剤、アスピリン、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、硝酸塩、クロピドグレルおよび利尿薬)、処置前の鎮静の使用、およびカテーテル処置時の連続的な静脈内ヘパリンの使用についてさらに調整した。CATHGENプロトコールは、カテーテル処置中の追加的なヘパリン投与前に試料採取を必要とする。したがって、カテーテル処置時の連続的な静脈内ヘパリン使用についての調整は、ヘパリンに関連した差に対処している。個体の66%が薬剤データを有しているにすぎず、そのため、薬剤を、別々の変数としてコード化した。すなわち、投薬なし、不明、および投薬ありである。
【0044】
代謝産物が重複する経路に存在する場合、代謝産物の相関は予想される。本発明者らは、主成分分析(PCA)を用いて、多数の相関変数を無相関因子にした。「固有値」がより高い因子は、データセット内でより多量の可変性を説明する。固有値≧1.0を有する因子を同定し、バリマックス回転を行って解釈可能な因子を生成した。因子負荷≧|0.4|を有する代謝産物を、因子を構成するものとして報告した。表10を参照のこと。スコアリング係数を、初期群から構成し、それぞれの個体についての因子スコア(それぞれの代謝産物について因子負荷量に重み付けされた、その因子内で標準化された代謝産物の重み付けされた和)を算出するために用い、複製群にも適用した。一般化された線形回帰モデルを用いて、症例と対照間との因子スコアの差を評価した。すべての因子は、因子7〜9を除いて正規に分布し(コルモゴロフ−スミルノフ検定P>0.01)、目視検査では、大いに正規分布を示した。これらの因子についてのノンパラメトリックウィルコクソン検定は、線形モデルと同じ結果を示した。
【0045】
CAD症例を対照と識別する代謝産物プロファイルの独立した能力をさらに評価するために、多変量ロジスティック回帰モデルを構成し、これらのモデルにおいて、CADリスク因子(BMI、異脂肪血症、高血圧、糖尿病、家族歴、喫煙)をモデルに強制し、次いで、代謝産物因子を加えた。受信者動作曲線(ROC)を構成し、モデル適合の測定値を算出した。これらの曲線下面積の比較についてのノンパラメトリック分析を以前の方法を用いて行った(非特許文献6参照)。
【0046】
その後の心血管イベントの分析の場合、初期および複製群からの症例を併合した(「イベント」群)。代謝産物因子と死亡/Mlの発生までの時間との関係を、(BMI、異脂肪血症、高血圧、糖尿病、家族歴、喫煙、年齢、人種、性別、クレアチニン、駆出率およびCAD指数について調整されないおよび調整された)Cox比例ハザードを用いて評価した。比例ハザードの仮定は満たされた。「イベント−複製」群中の複製の場合、初期のCAD群において構成されたPCA由来因子から得られたスコアリング係数を用いて、イベント−複製群における因子スコアを算出し、ロジスティック回帰を用いて、因子と(BMI、異脂肪血症、高血圧、糖尿病、家族歴、喫煙、クレアチニン、および駆出率について調整されないおよび調整された)症例/対照状態との関連を評価した。
【0047】
すべての分析が、性質上探索的であり、代謝産物の共直線性をもたらすため、多重比較について調整されない両側のp値を示したが、ボンフェローニ補正と関連して解釈された結果を報告した。公称の統計的有意性をP≦0.05として定義した。ボンフェローニにより調整されたp値は、P<0.0007(個別の代謝産物)およびP<0.004(因子)であった。統計解析をSAS version 9.1(Cary NC)を用いたD.R.C.およびS.H.Sによって行った。
【0048】
結果
患者母集団
初期(早期発生CAD症例174名、一致する対照174名)および複製群(CAD症例140名、対照140名)についての母集団の特徴を、表4に示し、イベント−複製群についての母集団の特徴を表5に示した。
【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
個別の代謝産物のCADとの関連
いくつかのアミノ酸のレベルは、分枝鎖アミノ酸ロイシン/イソロイシン(P<0.0001)およびバリン(P=0.007)、グルタマート/グルタミン(P<0.0001)、プロリン(P=0.04)およびメチオニン(P=O.05)を含めて、初期群において症例と対照間で異なった(表6)。いくつかのアシルカルニチンのレベルはまた、C16アシルカルニチン(C16:1、P=0.006;C16:1−OH/C14:1−DC、P=0.004;C16:2、P=0.05;およびC18−OH/C16−DC、P=0.003)、およびC4:Ci4(P=0.009)、C8(P=0.009)、C8:1−OH/C6:1−DC(P=0.003)、およびC10:1(P=0.002)アシルカルニチンを含めて、初期群において症例と対照間で異なった(表6)。ほとんどの代謝産物の場合、これらの差は、CADリスク因子についての調整後に持続した。
【0052】
【表6−1】

【0053】
【表6−2】

【0054】
これらの代謝産物のいくつかは、アミノ酸ロイシン/イソロイシンおよびグルタマート/グルタミン、および長鎖アシルカルニチンC14:1−OHおよびC16:1−OH/C14:1−DCを含めて(効果の類似した方向を有する)調整された分析における複製群で有意であった(表6)。調整されない分析では、これらの代謝産物、アミノ酸メチオニンおよびプロリン、およびC16:2およびC16:1アシルカルニチンは、両群で有意であった。
【0055】
初期群中のLEU/ILEについての関連を減弱するが、脂質(総コレステロール、LDLコレステロール、およびHDLコレステロールおよびトリグリセリド)についてのさらなる調整は、類似の結果になった(表7および8)。糖尿病によって層別化された分析は、糖尿病による関連のいくつかの異質性を示唆した。例えば、LEU/ILEおよびC16:1−OH/C14:1−DCは、非糖尿病においてより強い関連を示した。喫煙により層別化された分析では、喫煙者および非喫煙者において差がないことが示唆された。
【0056】
【表7−1】

【0057】
【表7−2】

【0058】
【表8−1】

【0059】
【表8−2】

【0060】
不偏主成分分析
PCAは、共線状の代謝産物からなる12個の因子を同定し(表9)、生物学的に妥当な因子にグループ化した。3個の因子は、調整された分析において初期群の症例と対照間で有意差があった、すなわち、因子1(中鎖アシルカルニチン)、因子4(分枝鎖アミノ酸および関連する代謝産物)、および因子9(アルギニン、ヒスチジン、シトルリン、Ci4−DC:C4DC)である。これらの因子のうち、2個の因子(4および9)は、複製群において有意なままであった。因子1は、複製群においてわずかに有意であったにすぎない(調整されないP=0.15、調整されたP=0.03)。それぞれの代謝産物についての因子負荷を表10に示す。
【0061】
【表9−1】

【0062】
【表9−2】

【0063】
【表9−3】

【0064】
【表10−1】

【0065】
【表10−2】

【0066】
【表10−3】

【0067】
脂質についてさらに調整すると、因子4は初期群において有意でなかったが(初期群:因子1、P=0.0002;因子4、P=0.59;因子9、P=0.02;複製群:因子1、P=0.01;因子4、P=0.02;因子9、P=0.004)、CADとの連続した関連を示した。研究がインスリン抵抗性を有する代謝産物との関係を示す場合、本発明者らは、糖尿病について調整したが、空腹時グルコースについてのベース多変量モデルにさらに調整した。これらの分析は、CADとの連続した有意な関連を明らかにした(初期群:因子1、P=0.02;因子4、P=0.02;因子9、P=0.003;複製群:因子1、P=0.03;因子4、P=0.05;因子9、P=0.02)。
【0068】
層別化された分析は、糖尿病と比較して非糖尿病においてCADを有する因子4と因子9との間でより強力な関連を示唆し(表11)、糖尿病においてシグナルが最小もしくは識別不能であるが、喫煙によるCADとの関連において一貫した差はなかった(表12)。
【0069】
【表11】

【0070】
【表12】

【0071】
薬剤の10クラスについてさらに調整すると、初期群では因子とCADとの関係に対する影響が最小限であった(因子1、調整されたP=0.009;因子4、P=0.03;因子9、P=0.003)が、複製群ではまったく有意でなかった(因子1、P=0.02;因子4、P=0.19;因子9、P=0.14)。本発明者らは、検出力を最適化するために組み合わせたデータセットにおいて、利用可能な薬剤データを有するこれらの個体に限定した、類似の分析を行った(N=416)。これらの結果は、減弱したが(因子4:調整されないモデル、p=0.0009;CADリスク因子について調整されたモデル、P=0.03;CADリスク因子および薬剤について調整されたモデル、P=0.05;因子9:調整されないモデル、P=0.0003;CADリスク因子について調整されたモデル、P=0.002;CADリスク因子および薬剤について調整されたモデル、P=0.007)、CADを有する因子4と9との間の連続した関連を示した。
【0072】
示された結果を、多重比較について調整していない。本発明者らは、PCAを用いて代謝産物の共直線性を説明する。個別の代謝産物のうち、グルタマート/グルタミンのみ、ボンフェローニ補正を存続した。因子4および9は、因子のレベルでボンフェローニ補正を存続した(P<0.004)。
【0073】
代謝産物プロファイルの一般的な心筋梗塞との関連
これらの代謝産物のより重症の表現型との関連を試験するために、本発明者らは、CADのない対照と比べた以前のMI歴を有する症例においてPCA由来の因子の関係を評価した(初期群 MI症例N=86、複製群 MI症例N=61)。CADと関連する2つの因子(4および9)はまた、両群で以前のMIと関連した(表9)。
【0074】
モデル適合およびCADのROC曲線の評価
代謝産物因子のCADとの独立した関連をさらに定量化するため、ロジスティック回帰モデルを構成した。すなわち(1)臨床モデル;(2)臨床モデルプラス因子4および9;ならびに(3)臨床モデルプラスすべての代謝産物因子である。因子4および9は、初期群(因子4:オッズ比[OR]1.42;95%CI、1.09から1.84、P=0.01;因子9:OR0.69、95%CI、0.53から0.90、P=0.006)および複製群(因子4:OR1.42;95%CI1.06から1.89、P=0.02;因子9:OR0.67;95%CI0.48から0.92、P=0.01)において、独立にCADと関連した。初期群におけるモデル適合およびROC曲線の測定値(図1)は、臨床変数のみを含むモデルを上回って(c統計量0.756;臨床モデルと臨床モデルプラス因子4および9との比較の場合、P=0.06;臨床モデルと臨床モデルプラスすべての因子との比較の場合、P=0.003)、すべての因子(c統計量0.804)の付加によるいくつかの改善と共に、因子4および9を含むモデル(c統計量0.778)について、穏やかにより優れた識別可能な能力を示した。複製群において、臨床モデル単独(c統計量0.743)の場合よりも因子4および9を臨床モデルに加えたc統計量(c統計量0.773)がわずかに高かったが、すべての因子の付加によりさらに劇的に改善した(c統計量0.874;臨床モデルと臨床モデルプラス因子4および9との比較の場合、P=0.04;および臨床モデルと臨床モデルプラスすべての因子との比較の場合、P<0.0001)。
【0075】
CADの診断が考慮されている患者において脂質を測定することが標準治療であり、CRPが、心血管疾患の認識された生物マーカーであることを前提として、本発明者らは、脂質およびCRPを含めたこれらのモデルを再構成した。これらの分析は、初期および複製群において臨床モデル適合がより高いことを明らかにした(c統計量それぞれ0.842および0.778)。因子4および9を脂質およびCRPを含めた臨床モデルに付加すると、初期群においてモデルの識別可能な能力が改善せず(c統計量0.848、臨床モデルとの比較の場合、P=0.31)、すべての因子を付加することでいくつか改善した(c統計量0.865、臨床モデルとの比較の場合、P=0.01)。しかし、代謝産物因子の付加による臨床モデルの改善の大きさは、複製群において類似し大きいままであった(c統計量:脂質およびCRPを含めた臨床モデル、0.778;臨床モデル+因子4および9、0.799、P=0.08;臨床モデル+すべて代謝産物因子、0.900、臨床モデルとの比較の場合、P=0.0001)。
【0076】
代謝産物因子およびその後の心血管イベントのリスク
フォローアップの2.72年の中央値の間、CAD症例314名のうち74名は、起こりやすい心血管イベントを有した。調整されない比較において、因子8(短鎖ジカルボキシルアシルカルニチン)は、死亡またはMIの発生に大いに関連した(図2;最高対最低三分位値のハザード比[HR]2.50;95%CI、1.47から4.17;P=0.0008;最高対中央三分位値HR2.33;95%CI、1.39から3.85;P=0.002)。この関連の強度は、CADリスク因子、CAD指数、年齢、人種、性別、駆出率、クレアチニンおよびカテーテル処置後のCABGによる治療について調整した後いくぶんか減弱した(最高対最低三分位値:HR1.67;95%CI、0.88から3.13;P=0.11;最高対中央三分位値:HR1.89;95%CI1.09から3.33;P=0.03)。因子1はまた、調整されない比較において、死亡/MIの発生に関連したが(最高対最低三分位値HR1.85;95%CI、1.06から3.23;P=0.03;最高対中央三分位値HR1.79;95%CI、1.02から3.03;P=0.04)、調整後まったく有意でなかった(それぞれP=0.14および0.05)。
【0077】
これらの知見を検証するため、本発明者らは、独立した症例−対照データセット(「イベント−複製」群)においてメタボロミクスのプロファイリングを行った。この群では、因子8は、その後の心血管イベントに罹った症例対イベントなしの対照においてより高いスコアを有する、心血管イベントに関連した(調整されないOR1.52;95%CI、1.08から2.14;P=0.01;調整されたOR1.82;95%CI、1.08から3.50;P=0.03)。因子内の個別の代謝産物はまた、元の「イベント」データセットで観察されたものと類似の効果の方向を有する、症例と対照との間で有意に異なった(P<0.05)。
【0078】
この実施例により、末梢血代謝産物プロファイルが、CADの存在と独立に関連しており、臨床変数のみを含むモデルと比較したCADの識別可能な能力に加えることが実証される。さらに、本発明者らは、CADを有する個体においてその後の心血管イベントを独立に予測するある特定の代謝産物クラスターを報告する。
【実施例2】
【0079】
CADの遺伝率
材料および方法
試験母集団。GENECARD試験は、920のファミリーを登録して、(男性51歳、女性56歳以前に)早期発生のCADの遺伝子を同定するために罹患同胞対連鎖を行った(非特許文献7参照)。少なくとも2つの同胞を有し、そのそれぞれが(男性51歳、女性56歳以前に)早期発生のCADの基準を満たすファミリーを補充した。罹患していないファミリーメンバーを、CADの臨床的証拠なしおよび男性が55歳を超える(女性が60歳を超える)年齢として定義した。このコホートから、本発明者らは、本発明者らが比較的多数のファミリーメンバーの利用可能性および発端者および周囲の世代におけるCADの重い負担に基づいて特に有益であると考えた、8つの代表的なファミリーを選択した(図3)。これらのファミリーに再度連絡を取り、前もって登録していない罹患同胞対およびファミリーメンバーをCADに関係なく確認し、罹患同胞対の子孫に焦点を絞った。この確認戦略は、代謝性のプロファイルの異常がこれらのファミリーにおけるCADの発症に先行するかどうか、子孫中に顕性のCADがない場合でもファミリー内の代謝産物レベルの有意な一致が明らかであるという仮説に基づいた。所与のファミリー内の試料採取を、1人の熟練した瀉血士によりいくつかの異なる回数でおよび異なる場所で行った。血液試料を、末梢の静脈の瀉血による採取後に(数分以内に)迅速に処理し、その後可能な限り早く凍結し(試料の大部分が採取の1〜2時間以内に凍結されるなら、せいぜい12時間以内に)、EDTAによって処置した管に血漿試料として−80℃で貯蔵した。試料を、できるだけ空腹状態で採取したが、このコンシステンシーは決定できなかった。施設内審査委員会は、試験プロトコールを承認し、インフォームドコンセントを、それぞれの対象から得た。
【0080】
生化学的測定。凍結した血漿試料を用いて、37種のアシルカルニチン種、15種のアミノ酸、9種の遊離脂肪酸および従来の分析物、ケトンおよびC−反応性タンパク質(CRP)を含めて、標的代謝産物を定量的に測定した。試料調製および変動係数が報告されている(非特許文献8参照)。研究室は、ファミリー識別子および症例−対照状態に盲検化された。アッセイの範囲は、0.05〜40マイクロモル(μM)(アシルカルニチン);5〜1000μM(アミノ酸);および1〜1000mmol/L(脂肪酸)である。簡潔にするために、代謝産物の臨床の省略表現を用いる(表1)。個体内の可変性を、繰り返しプロファイリングが別々の5日に同じ試料で実施された5名の個体から得られた試料において評価した。変動係数および相関は、最小限のアッセイ内の可変性を確認した(表1)。
【0081】
従来の代謝産物分析。標準臨床化学方法を、Roche Diagnostics(Indianapolis、IN)から入手した試薬を含むグルコース、総コレステロール、高密度リポタンパク質(HDL)および低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール、およびトリグリセリド;ならびにWako(Richmond、VA)から入手した試薬を含む(全)遊離脂肪酸およびケトン(全および3−ヒドロキシブチラート)を含めた従来の代謝産物のために用いた。すべての測定を、Hitachi 911臨床化学分析器を用いて行った。
【0082】
アシルカルニチンおよびアミノ酸。タンパク質を最初にメタノールによる沈澱によって除去した。アリコートした上清を乾燥し、次いで、熱い、酸性のメタノール(アシルカルニチン)またはn−ブタノール(アミノ酸)でエステル化した。アシルカルニチンおよびアミノ酸を、Quattro Micro instrument(Waters Corporation、Milford、MA)を有するタンデム型MSにより分析した。血漿中の37種のアシルカルニチン種および15種のアミノ酸を、本発明者らが前もって記載した方法(非特許文献9;非特許文献4;非特許文献10参照)によりアッセイした。ロイシン/イソロイシン(LEU/ILE)が本発明者らのMS/MS方法によって分離されず、アロ−イソロイシンおよびヒドロキシプロリンからの寄与を含むため、これらを単一の分析物として報告した。正常な環境下で、これらの等比重のアミノ酸は、LEU/ILEに帰せられるシグナルにほとんど寄与しない。さらに、ブチルエステルを形成するために用いた酸性条件により、グルタミンをグルタミン酸に部分的に加水分解し、アスパラギンをアスパルタートに部分的に加水分解する。したがって、GLU/GLNまたはASP/ASNとして報告される値は、グルタマートおよびグルタミンのモル和、またはアスパルタートおよびアスパラギンのモル和を示すものではなく、むしろ、グルタマートまたはアスパルタートの量プラスそれぞれグルタミンおよびアスパラギンの部分的な加水分解反応の寄与を測定することを意味する。
【0083】
遊離脂肪酸。遊離脂肪酸を、ヨードメタンを用いてゆっくりとメチル化し、固相抽出によって精製した(非特許文献11参照)。誘導体化された脂肪酸を、Trace DSQ instrument(Thermo Electron Corporation、Austin、TX)を用いてキャピラリーガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)により分析した。試料容積を考慮することによって、117名の個体のうち80名のみ(8ファミリーのうち5ファミリー)は、遊離脂肪酸測定が行われた。
【0084】
すべての質量分析は、安定同位体希釈を使った。前述の「標的化された」中間代謝物の定量は、公知の量の安定同位体内部標準の混合物を、Isotec(StLouis、MO)、Cambridge Isotope Laboratories(Andover、MA)およびCDN Isotopes(Pointe−C1aire、Quebec、CN)から入手した試料に加えることによって容易にした(表3)。
【0085】
遺伝率分析。遺伝率を、Sequential Oligogenic Linkage Analysis Routines(SOLAR) software version 4.0.7(非特許文献12参照)を用いて算出し、これは、最尤法を用いて分散成分を推定し、遺伝的影響についての公知の共変量および分散成分についての固定された影響の取り込みを可能にする。この手法は、すべてのファミリーメンバー間の相関を適切に説明し、現在の研究において存在するような拡大した家系の取り込みを可能にする。全変動は、相加遺伝分散および環境分散、ならびに残りの(未解明の)可変性についての成分に分配される。このプログラムは、家系の共分散行列を用いる。
【0086】
【数1】

【0087】
式中、Ωは共分散行列であり、Φは血族値の行列であり、
【0088】
【数2】

【0089】
は相加遺伝分散であり、Iは単位行列を表し、
【0090】
【数3】

【0091】
はランダムな環境分散である(非特許文献12参照)。このモデルは、複雑な家系データ(すなわち、親−子孫対を超えた)を可能にし、そのため、得られた遺伝率推定値は、核ファミリーメンバーのみを用いて得られたものよりも正確である。現在の研究の場合、家系からの採取されたすべての個体は、罹患していない子孫、いとこ、および婚姻したファミリーメンバーを含めて、分散成分モデルの一部になる。婚姻したファミリーメンバー(すなわち、遺伝子的に無関係であるが環境を共有する)の取り込みは、形質の家族内のクラスタリングの環境成分のより優れた推定を可能にする。
【0092】
外れ値とみなされる値を、遺伝率分析から除外し,平均±4SD以外に属する値として定義した(それぞれ24種の代謝産物について1〜2個の外れ値)。定量下限(LOQ)を下回る代謝産物測定値には、LOQ/2の値が与えられた。LOQを下回る試料の>25%を有する4種の代謝産物を、さらに分析しなかった(C6、C5−OH:C3−DC、C4DC、およびC10:2アシルカルニチン)。すべての測定値を、分析前に自然対数に変換し、その結果、ほとんどの代謝産物は、分散成分分析について考慮すべき重要な点である、正規分布に近似した。18個の代謝産物は、この判定基準を満たさず、したがって、肥満度指数(BMI)、年齢、性別、CAD、糖尿病(DM(あり/なし)、高血圧(あり/なし)、および異脂肪血症(あり/なし)について調整された線形回帰モデルを、これらの代謝産物のそれぞれについて構成し、残差を遺伝率推定値に用いた。代謝産物について時々の低い形質の標準偏差(<0.5)があることを前提として、すべての対数に変換された代謝産物を、分析前に4.7倍に乗じた。
【0093】
次いで、多遺伝子性の遺伝率モデルを構成した。正規に分布する代謝産物(代謝産物の大部分)の場合、多遺伝子性の遺伝率モデルを、年齢、性別、BMI、DM、異脂肪血症、高血圧およびCADについて調整し、対数変換値を用いて算出した。発端者およびファミリーメンバーを、任意の代謝産物値に基づいて選択しなかったが、確認バイアスの可能性が存在する。したがって、分析を、ファミリーメンバー(発端者)が早期発生CADのファミリーを確認するための指標メンバーであったことに基づいて補正した。食事制限(家庭で共有するが、推定上遺伝的ではない)などの因子を説明するために、(現住所(residential address)のマーカーによるモデルが含まれる)一般的な家庭の影響に関連する分散の画分に対応する追加の分散成分パラメータを、それぞれのモデルに加えた。最終の多遺伝子性のモデルのすべての残差尖度は、2種のアミノ酸(セリンおよびフェニルアラニン)、11種のアシルカルニチン(C5、C10、C10:1、C10:3、C12:1、C14、C14−OH:C12−DC、C16−OH:C14−DC、C18:1−OH、C18:1−DC、およびC18−DC:C20−OH)および3種の遊離脂肪酸(FAC14:0、FAC16:1、FAC18:1)を除いて、正常な範囲内であった(すなわち、<0.8)。これらの代謝産物の場合、最も極端な値の1〜4個を除去することが必要であり、その結果、正常な残差尖度になった。2種のアシルカルニチンは、正常な残差尖度(C16−OH:C14−DCおよびC12−OH:C10−DC)を達成するためにさらに多数の外れ値の除去を必要とし、そのため、これらの結果は、それに応じて解釈すべきである。18種の正規に分布しない代謝産物の場合、調整された回帰モデルから得られた標準化された残差を、SOLARを用いて遺伝率を推定するために用いたが、正常化された変数が関連する共変量についてすでに調整されたため、これらの残差を用いた遺伝率モデルをさらに調整しなかった。臨床の共変量によって説明された分散の比率の推定値を、対数に変換した粗の値から構成された調整された多遺伝子性のモデルを用いて推定した、これらの正規に分布しない代謝産物について報告する。
【0094】
ファミリー間の代謝産物における定量的な差を理解するために、性別、年齢、BMI、CAD、DM、異脂肪血症および高血圧について調整された、多変量によって一般化した線形モデルを用いて、ファミリー間の平均代謝産物レベルを比較した。
【0095】
教師なし主成分分析。多くの代謝産物が重複する経路に存在する場合、代謝産物の相関が予測される。相関を理解するために、本発明者らは、多数の相関した変数を、外れ値を除去せずに生の代謝産物の値を用いてより少ない数の相関していない因子のクラスターにするために主成分分析(PCA)を用いた。最も高い「固有値」を有する因子は、データセット内の最も多量の可変性を説明する。年齢、性別、BMI、DM、およびCADについて調整された線形回帰モデルからそれぞれの代謝産物を算出した標準化された残差を、PCAのための入力として用いた。この場合に関して、それぞれの変数の単位が大きさで有意に変わるとき、残差を用いたPCAは、推奨される(非特許文献13を参照)。固有値≧1.0を有する因子を、一般に使用したKaiser判定基準に基づいて同定した(非特許文献14を参照)。次いで、バリマックス回転を行って、解釈可能な因子を生成した。因子負荷≧|0.4|を有する代謝産物を、任意の閾値として一般に用いられ、所与の因子を構成するものとして報告した(非特許文献15を参照)。次いで、スコアリング係数を用いて、(それぞれの個別の代謝産物について算出した因子負荷量に重み付けされた、その因子内で標準化された代謝産物の値の重み付けされた和からなる)それぞれの個体の因子スコアをコンピュータで計算した。次いで、これらの因子スコアを、共変数についてさらに調整されない多遺伝子性のモデルを用いた、上記で詳述したSOLARでそれぞれの因子の遺伝率を算出するために用いた。因子のいくつかの最も極端な値の1〜4個を除去することは、正常な残差尖度を達成するために必要であった。
【0096】
すべての分析が性質上探索的であり、代謝産物の共直線性をもたらすため、多重比較について調整されない公称の両側のp値を示したが、保守的なボンフェローニ補正と関連して解釈した結果を報告した。公称の統計的有意性をp値≦0.05として定義した。統計解析は、SOLAR(非特許文献12を参照)を用いた遺伝率推定値の他に、SAS version 9.1(SAS Institute、Cary NC)を用いた。
【0097】
結果および考察
遺伝率分析。代謝性のプロファイリングを、早期CADのGENECARD試験から得られた8つのマルチプレックスのコーカサス人ファミリー(図3)内の個体117名に行った。注目すべきことに、本試験で標本抽出したファミリーメンバーの大部分は、元の罹患同胞対の、今のところ罹患していない子孫であったが、この子孫は、これらのファミリーのメンバーとして、早期CADの発症のリスクが高かった。予想通り、有病率がファミリー間で異なったが、CADリスク因子の負担が高かった(表13)。
【0098】
【表13】

【0099】
本発明者らは、脂質およびBMIなどの従来のリスク因子の高い遺伝率を見出した(図4)。全ケトン(h2 0.75、p=3.8×10-8)は、非質量分析に基づく方法により分析した代謝産物間で最も遺伝率が高く、同様に、個別のケトンβ−ヒドロキシブチラートの遺伝率が高かった(h2 0.51、p=0.004)。質量分析によって測定された分析物のうち、いくつかのアミノ酸は、遺伝率が高かった(図5、表14)。アルギニン(ARG)は、スコアが最も高く(h2 0.80、p=1.9×10-16)、グルタミン/グルタマート(GLX;h2 0.73、p=0.00006)、アラニン(ALA;h2 0.55、p=0.00002)、プロリン(PRO;h2 0.52、p=0.00004)、オルニチン(ORN、h2 0.48、p=0.000005)、フェニルアラニン(PHE;h2 0.46、p=0.0001)、および分枝鎖アミノ酸ロイシン/イソロイシン(LEU/ILE;h2 0.39、p=0.00005)およびバリン(VAL;h2 0.44、p=0.00006)の遺伝率もまた強力であった。遊離脂肪酸(図5)のうち、FA−C20:4(アラキドン酸、炎症経路の中で最重要な成分)が、FA−C18:2(リノール酸、アラキドン酸の前駆体、h2 0.48、p=0.002)と同様に最も遺伝性であった(h2 0.59、p=0.00005)。多くのアシルカルニチンもまた、遺伝率が高く(図6、表14)、最も高いのは、C18アシルカルニチン(C18、C18:1、およびC18:2、h2 0.39〜0.82、p=0.0000007〜0.004);C14:1(h2 0.79、p=0.0000002);C5:1(h2 0.67、p=0.000003);C10群(C10−OH:C8−DC、C10およびC10:1、h2 0.35〜0.57、p=0.00003〜0.02);C16(h2 0.57、(p=0.0002);C4:Ci4(h2 0.56、p=0.00003);短鎖ジカルボキシルアシルカルニチン(C5−DC、C6−DC、h2 0.45〜0.51、p=0.003〜0.004);およびC2アシルカルニチン(h2 0.50、p=0.00008)であった。興味深いことに、それぞれの代謝産物の可変性の遺伝的な成分の推定値は、しばしば、臨床の共変量によって説明される分散の比率を超えた(表14)。
【0100】
【表14−1】

【0101】
【表14−2】

【0102】
【表14−3】

【0103】
ファミリー内のメタボロミクスのプロファイル。これらの強力な知見を前提として、本発明者らは、ファミリー間の代謝産物の定量的な差を理解しようと努めた。多変量の線形モデルを用いてファミリー間の代謝産物の差を試験した。アミノ酸の中で、グルタマート、オルニチン、アルギニン、プロリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、アラニンおよびメチオニン(すべてp<0.0001)、ロイシン/イソロイシン(p<0.0001)およびバリン(p=0.003)は、ファミリーを最も良く区別した。アシルカルニチンの中で、C5:1(p<0.0001)およびC2(p<0.0001)アシルカルニチンと共に、C18(C18、C18:1、およびC18:2)およびC14アシルカルニチン(C14、C14:1)(すべてp<0.0001)は、ファミリーを最も良く区別した。多くの遊離脂肪酸は、ファミリーを区別し、最も強力なものは、アラキドン酸およびパルミチン酸(両方p<0.0001)であった。従来の代謝産物の中で、ケトン(p<0.0001)およびβ−ヒドロキシブチラート(p=0.0001)は、ファミリーを最も良く区別した。
【0104】
主成分分析。生物学的な経路における代謝産物の相関の場合、本発明者らは、代謝産物のクラスターが相関したことを理解するためにおよびほとんど遺伝性であった因子を同定するためにPCAを行った。15個の因子を同定し、生物学的に一定の関係が証明された(表15)。データセット内で最も多量の分散を占めている因子は、因子1(短鎖および中鎖アシルカルニチン);因子2(長鎖遊離脂肪酸);因子3(ミトコンドリアの機能でおそらく報告している長鎖アシルカルニチンおよびアミノ酸[アルギニン、グルタマート/グルタミン、およびオルニチン]);因子4(ケトン、β−ヒドロキシブチラート、C2およびC4−OH[β−ヒドロキシブトリル]アシルカルニチン;脂肪酸酸化の最終ステップのすべてのマーカー);および因子5(分枝鎖アミノ酸を含めたアミノ酸、ならびにC3およびC5アシルカルニチン[分枝鎖アミノ酸異化作用の副生成物])であった。予想通り、個別の代謝産物についての結果を前提として、多くの因子は遺伝性であった。
【0105】
【表15−1】

【0106】
【表15−2】

【0107】
分析ツールの包括的なセットを適用して、心血管疾患の生化学的および生理的な基盤、ならびにどのようにしてメタボロミクスのプロファイルがCADリスクの公知の遺伝成分に関係し得るのかということのより良い理解を得た。標的化された、定量的な代謝性のプロファイリングを、早期CADを抱えたマルチプレックスファミリー内で行い、その大部分が、CADをまだ発症していなかった罹患した世代の子孫を表したが、その中で、かかるプロファイルが遺伝性であった場合、本発明者らは、彼らの罹患したファミリーメンバーと類似の代謝性のプロファイルを仮定した。高い遺伝率は、多くの代謝産物に見出され、多くは従来のリスク因子よりも高い遺伝率を有した。こうした高い遺伝率は、遺伝子型および表現型間の強力な相関を示唆し、CADを抱えたファミリーにおけるこれらの代謝性のサインのクラスタリングへの強力な遺伝成分を意味する。
【0108】
さらに、いくつかの個別の代謝産物は、ファミリーを区別し、最も際立ったのは、アミノ酸のうち、アルギニン、オルニチン、およびグルタマート/グルタミンであり、脂質由来代謝産物のうち、長鎖アシルカルニチンC18:0、C18:1、およびC18:2である。これらの知見は、これらのファミリーにおけるミトコンドリアの機能の基本的な差を示唆し、損傷を受けたミトコンドリアの機能とインスリン抵抗性との関係を示す以前の研究と整合する。
【0109】
本発明者らの研究が仮説生成であったことを前提として、本発明者らは、多重比較について調整しなかった。しかし、因子のレベルにおけるボンフェローニ補正により、9つの因子は有意なままである(p<0.003)。本発明者らは、食事パターン(代謝産物に対する公知の影響)、腎機能、または薬剤(未知の影響)について説明しなかった。これらの「非遺伝性の」影響を最小限にするのを助けるため、本発明者らは、家庭の影響を組み込み、婚姻した個体を含め、共有した栄養上および他の環境の影響について部分的に制御した。家庭の影響の測定により、調整に関わらず高い遺伝率を有する遺伝率推定値に対する最小限の影響が示唆される。したがって、本発明者らは、結果が、伝統的なコレステロールパラメータと同様の、両方の根底にある遺伝および環境の影響を反映すると考える。したがって、本発明者らは、LDLコレステロールの有意な家庭の影響を見出したが(家庭による分散の比率0.11、p=0.02)、この環境の影響についての調整にもかかわらず遺伝率は有意であった(h2 0.37、p=0.004)。
【0110】
同様に、結果は、必須の代謝産物対非必須の代謝産物の差を反映し得る。しかし、本発明者らは、群として分析したとき、必須(h2=0.40、p=0.0004)および非必須(h2=0.63、p=0.00002)アミノ酸の類似の遺伝率を見出し、必須(h2=0.50、p=0.003)脂肪酸の類似の遺伝率を非必須(h2=0.33、p=0.03)脂肪酸と比較した。かかる分析にパワー不足であるが、本発明者らはまた、年齢のこれらの群に関係する遺伝率との関係を試験した。年齢は、両方の必須(バリン)および非必須(プロリン、オルニチン、シトルリン)アミノ酸の遺伝率推定値に対して有意な共変量であった(表14)。遊離脂肪酸の場合、年齢は、非必須脂肪酸(パルミトレイン酸、オレイン酸およびステアリン酸)のみの共変量であった。本発明者らはまた、代謝産物の年齢との相関を試験し、必須(チロシン、リノール酸)および非必須(グルタミン、オルニチン、シトルリン、オレイン酸)代謝産物の両方が、年齢と有意に相関した(データ未掲載)ことを見出した。したがって、必須/非必須群に基づいて、代謝産物の年齢との一貫した変動になると思われず、遺伝率推定値との一貫した変動になるとも思われない。これは、基本的なおよび遺伝子的に制御された代謝過程(例えば、ミトコンドリアのまたはミクロソームの異化経路)が、代謝機構のこれらの一般的な要素を利用する必須および非必須の代謝産物のレベルに影響を与えていることが示され得る。
【0111】
遺伝率推定値に影響を与え得る他の因子には、試料採取またはプロセシングにおける可変性が含まれる。本発明者らは、この可変性のタイプを制限するために標準化されたプロトコールを用い、個体内の変動は、一組の繰り返されるアッセイにおいて低く、ファミリーメンバーは、異なる場所および時間で採取された。
【0112】
本試験の主な強度は、メタボロミクスのプロファイリングへの非常に正確な、標的化された、定量的な手法の使用であり、CAD病態生理の根底にある生物学的な機序を精査することが可能になる。CAD病態生理の理解を促す他、これらの結果は、リスク予測のための有意な意味を有し得る。
【0113】
本明細書で引用したそれぞれの参考文献は、その全体を参照により本明細書に組み込む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における心血管疾患のリスクを評価するための方法であって、
a)前記対象からの試料中の少なくとも1種の代謝産物のレベルを検出するステップであって、前記代謝産物は、アシルカルニチン、アミノ酸、ケトン、遊離脂肪酸およびヒドロキシブチラートからなる群から選択される、該ステップと、
b)標準と前記試料中の前記代謝産物のレベルを比較するステップであって、前記対象における前記代謝産物のレベルは、前記対象における前記心血管疾患のリスクを示す、該ステップと
を含むことを特徴とする、該方法。
【請求項2】
対象における心血管疾患のリスクを評価するための方法であって、
前記対象から試料を得るステップと、
前記試料中の代謝産物レベルの検出のために研究室に前記試料を提供するステップであって、前記代謝産物は、アシルカルニチン、アミノ酸、ケトン、脂肪酸およびヒドロキシブチラートから選択される、該ステップと、
前記研究室から前記試料中の前記代謝産物レベルを示す報告を受けるステップであって、前記代謝産物のレベルは、前記対象における前記心血管疾患のリスクを示す、該ステップと
を含むことを特徴とする、該方法。
【請求項3】
前記心血管疾患は、心血管イベントであり、前記対象における前記代謝産物のレベルは、前記対象において心血管イベントのリスクを示すことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(a)において検出された代謝産物は、短鎖ジカルボキシルアシルカルニチン代謝産物であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(a)において検出された代謝産物は、Gly、Ala、Ser、Pro、Met、His、Phe、Tyr、Asx、Glx、オルニチン、シトルリン、arg、C2、C3、C4:C14;C5:1、C5、C4:OH、C14−DC:C4DC、C5−DC、C6−DC、C10:3、C10、C10−OH:C8DC、C12:1、C12、C12−OH:C10DC、C14:1−OH、C14−OH:C12−DC、C16、C16−OH/C14−DC、C18:2、C18−OH/C16−DC、C20、C20:1−OH/C18:1−DC、C20−OH/C18−DC、C8:1−OH/C6:1−DC、C8:1−DC、C16:1、C16:1−OH/C14:1−DC、C20:4、FFA、HBUT、およびKetからなる群から選択されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(a)において検出された代謝産物は、因子8の前記代謝産物を含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(a)において検出された代謝産物は、シトルリン、C5−DC、C6−DC、C8:1−OH/C6:1−DC、およびC8:1−DCを含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(a)において検出された代謝産物は、オルニチン、シトルリン、C5、C14−DC:C4DC、C5−DC、C6−DC、C10−OH:C8DC、C8:1−OH/C6:1−DC、C8:1−DC、C20:4およびFFAを含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記心血管疾患は、冠動脈疾患であり、前記対象における前記代謝産物のレベルは、前記対象における前記冠動脈疾患の存在を示すことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(a)において検出される代謝産物は、中鎖アシルカルニチン、分枝鎖アミノ酸もしくは関連代謝産物、または尿素回路に関連する代謝産物であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(a)において検出された代謝産物は、Pro、Leu/Ile、Met、Val、Glx、シトルリン、C2、C3、C4:Ci4;C5、C8、C8:1−OH/C6:1−DC、C10:1、C14:2、C14:1−OH、C16:2、C16:1、C16:2、C16:1、C16:1−OH/C14:1−DC、C18−OH/C16−DC、HBUT、およびKetからなる群から選択されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(a)において検出された代謝産物は、因子1、因子4または因子9の少なくとも1種の前記代謝産物を含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(a)において検出された代謝産物は、Leu/Ile、Glx、C14:1−OHおよびC16:1−OH/C14:1−DCを含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項14】
170mMを超えるLeu/Ileのレベルは、冠動脈疾患を示すことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
128mMを超えるGLxのレベルは、冠動脈疾患を示すことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
0.013uM未満のC14:1−OHのレベルは、冠動脈疾患を示すことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項17】
0.0089uM未満のC16:1−OH/C14:1−DCのレベルは、冠動脈疾患を示すことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(a)において検出された代謝産物は、C2、C5およびC18−OH/C16−DCをさらに含むことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記心血管疾患は、冠動脈疾患であり、前記対象における前記代謝産物のレベルは、前記対象において前記冠動脈疾患を発症するリスクを示すことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項20】
測定された前記代謝産物は、短鎖および中鎖アシルカルニチン代謝産物、分枝鎖アミノ酸、ならびに尿素回路に関連する代謝産物を含むことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
測定された前記代謝産物は、ケトン、arg、オルニチン、シトルリン、glx、ala、val、leu/ile、pro、C2、C14:1、C18:1、C5:1、C4−i4、C18、C10:1およびFFAを含むことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも2つの代謝産物のレベルは、ステップ(a)において検出されることを特徴とする請求項1から5、9から11または19から20のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記試料は、血液であることを特徴とする請求項1から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記代謝産物のレベルは、質量分析を用いて検出されることを特徴とする請求項1から23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記代謝産物のレベルは、比色定量アッセイまたは蛍光定量アッセイを用いて検出されることを特徴とする請求項1から24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
対象のための治療計画を開発する方法であって、前記対象における心血管疾患のリスクに基づいた治療計画を開発するために請求項1から25のいずれかに記載のステップ(b)の比較を用いるステップを含むことを特徴とする、該方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−520463(P2012−520463A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−554159(P2011−554159)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/026845
【国際公開番号】WO2010/104964
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(304028151)デューク ユニバーシティ (5)
【Fターム(参考)】