説明

冠状動脈及び動脈の動脈瘤性くも膜下出血の治療方法及び組成物

治療を必要とする患者に有効量の一酸化窒素前駆体を投与することから成るくも膜下出血(SAH)に関係する合併症を治療する方法及び組成物。治療を必要とする患者に有効量の一酸化窒素前駆体を投与することから成る血管痙攣を治療する方法及び組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2008年1月31日に出願した米国仮出願61/025,170に基づく優先権を主張する。
この発明は、動脈瘤性くも膜下出血(以下「SAH」という。)、SAHの関係する合併症(血管痙攣を含む)、及び、冠状動脈疾患の関係する血管痙攣を含むがこれらに限らないアテローム性動脈硬化症の関係する血管痙攣の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
動脈瘤性くも膜下出血(SAH)は、世界的に、脳卒中に関係する罹病及び死亡の主要な原因の1つである。SAHは、脳脊髄液に満たされている中枢神経システムを覆う空間への溢血により特徴付けられる神経学的緊急事態である。水頭、再出血、脳血管痙攣、発作、心筋障害、及び肺浮腫のような幾つかの合併症はSAHに起因する。
SAHの発生率は、報告者により100,000人当たり年間約1から96人と変わるが(非特許文献1)、世界的には、100,000人当たり年間約10人の発生率(非特許文献1)を示し、世界的に主要な関心事である。Suarez他によると、米国において年間21,000から33,000人がSAHに罹り、またSAHは全新脳卒中者の約2〜5%の割合を占める(非特許文献2)。SAHの症例の約80%は、頭蓋内の動脈瘤の破裂に由来し、これ自体は死を含む合併症の重大な危険性と結びつく。発生率のピークは55〜60歳であり、また約20%は、15〜45歳に生ずる。SAHには性差異が存在し、男性患者に対する女性患者比が1.6〜4.16であることで特徴付けられように、女性のほうが多い。SAHの発生率はまた、白人種よりアフリカ−アメリカ人で高い。
最近の統計によると、SAH患者の約30%は、24時間以内に死亡し、他の25〜30%は、次の4週間以内に死亡する(非特許文献3)。SAHに関係する最初の危険性に加えて、かなり多くの割合のSAHに罹った患者は、長期の認知障害に罹り(非特許文献2)、そのため、SAHは健康管理費用に大きく影響する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Batista da Costa Jr. 他 (2004) Arq Neuro-Psiquiatr (Sao Paulo) 62:245-249
【非特許文献2】Suarez 他. (2006) N Engl J Med 354:387-396
【非特許文献3】Flett 他 (2005) AJNR Am J Neuroradiol 26:367-372
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
動脈瘤性くも膜下出血(SAH)治療に、病状管理が主要な役割を果たしているが、SAHの2次的合併症の進行に対する潜在的な生理学的基礎を扱う治療戦略の必要性が長い間望まれてきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、患者におけるSAH及び/又は関係する合併症を治療するための方法及び組成物を提供する。いくつかの実施態様において、有効量の一酸化窒素前駆体を、SAH及び/又は関係する合併症に罹った患者、及び/又はSAHに関係する合併症に罹る危険性のある患者(即ち、血管痙攣)に投与する。いくつかの実施態様において、一酸化窒素前駆体は、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、これらの薬学的に許容可能な塩、及びこれらの組合せの少なくとも1つからなる。いくつかの実施態様において、シトルリンなどの一酸化窒素前駆体は、経口的に投与される。いくつかの実施態様において、シトルリンなどの一酸化窒素前駆体は、静脈内に投与される。いくつかの実施態様において、治療される患者は、血管痙攣に罹った患者である。いくつかの実施態様において、治療される患者は、血管痙攣に関係する急病に罹った患者である。
【0006】
本発明はまた、血管痙攣を治療するための方法及び組成物を提供する。いくつかの実施態様において、治療を受ける患者は、SAHに関係する血管痙攣に罹った患者である。いくつかの実施態様において、治療を受ける患者は、血管痙攣に至る外傷を受けた(例えばSAHに至る外傷)。その方法は、治療を必要とする患者に有効量の一酸化窒素前駆体を投与することを含むことができる。いくつかの実施態様において、一酸化窒素前駆体は、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、これらの薬学的に許容可能な塩、及びこれらの組合せの少なくとも1つからなる。いくつかの実施態様において、治療を受ける患者は、SAHに関係する血管痙攣に罹る。いくつかの実施態様において、シトルリンなどの一酸化窒素前駆体は、経口的に投与される。いくつかの実施態様において、シトルリンなどの一酸化窒素前駆体は、静脈内に投与される。
【0007】
従って、患者におけるSAH、血管痙攣及び/又は関係する合併症の治療を提供することが、本発明の目的である。
本発明の目的は上述のとおりであり、他の目的は、以下に記載するように添付の図及び実施例と結びつけて理解されたとき、記載が進むに従い明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】尿素回路の概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
世界中のかなり多くの人々が、動脈瘤性くも膜下出血(SAH)に冒されている。この病気の死亡率は、極めて高く、またSAHを切り抜けた患者すら、しばしば生活の質の大きな低下を経験する。現在用いられている治療は、適切な時間枠内に始まった場合には、SAHを経験した人の死をしばしば防ぐことができるが、患者の死を防ぐことに成功しても、深刻な2次的合併症の進行に対応しない。例えば、血管痙攣及びその後遺症のような2次的合併症を防ぐことを狙った治療が、本明細書に開示した態様に従って提供される。
【0010】
I.一般的検討事項
アルギニンのin vivo合成経路は、オルニチンと共に始まる。オルニチンは、カルバミルリン酸塩と結合してシトルリンを産生し、これは転じてアデノシン3リン酸(ATP)存在下で、アスパラギン酸塩と結合して、アルギニノコハク酸塩を産生する。最終段階で、フマル酸塩がアルギニノコハク酸塩から別れて、アルギニンを産生する。アルギニンの分解過程は、アルギナーゼによる加水分解であり、オルニチン及び尿素を産生する。これらの反応が尿素回路を形成する。この尿素回路は、内因性及び外因性タンパク質の代謝により作り出された廃棄物窒素を除く主要な経路であり、図1に概略的に示す。この窒素掃除におけるこの役割に加えて、尿素回路は、強力な血管拡張剤である一酸化窒素(NO)の前駆体として作用するアルギニンの、身体内在性の、供給源である。
【0011】
一般的にSAHは、冠状動脈の破裂に起因し、これは脳脊髄液を含む神経系区画への血液の漏れを惹き起こす。一般的に主要な症候学には、これは非常に厳しい、吐き気、嘔吐、頚痛、輝所恐怖症である突然の頭痛の開始(Suarez 他. (2006) N Engl J Med 354:387-396)が含まれ、及びしばしば身体検査で明らかとなる神経脱落症候群と結びつく意識の喪失(Suarez 他 (2006) N Engl J Med 354:387-396)が含まれる。根底にある血管への障害が修復されたとしても、水頭(20%)、再出血(7%)、脳血管痙攣(46%)、発作(30%)、ナトリウム過小血症(28%)、心不全(35%)、及び肺浮腫(23%)が患者の相当大きな割合に生ずる。これらはまた、更なる2次的な合併症を引き起こす。この合併症には、発作、肺浮腫、心不整脈、電解質異常、並びに記憶、感情及び神経生理学的機能における問題のような神経生理学的合併症が含まれる。
【0012】
SAHの様々な後遺症の原因は多因子的であるが、ある観察がなされた。例えば、エンドセリンの合成の増加、又はこの因子に対する動脈の感受性増加のように、脳血管における一酸化窒素の可用性の減少が観察された。また、収縮した状態を促進する平滑筋細胞の変化、及びカルシウム感受性を変えることができるシグナル伝達の活性化が、しばしば報告されている。更に、脳血管障壁の破壊、炎症、血管収縮及び全サイズの脳血管への損傷が生ずることが可能な様に、内皮の血栓発生の増加及び/又は動脈機能障害に寄与する血小板接着が起こることができる。
【0013】
患者へのその多大な影響を考えると、SAHの早急の診断及び治療が決定的である。一般的に、SAHを示唆する症候を表わす患者は、頭部CTを受け、これはSAHの存在を検知することができる。もしくも膜下出血が検知されたなら、FT血管造影法及び/又は脳の血管造影法が動脈瘤の所在を確認することができて、その後これは修復される。しかしながら、もし血管造影法が正常であるならば、CT血管造影法を一般的には最初の症状後1〜3週間繰り返し、任意に脳、脳幹、及び/又は脊髄画像化を行う。頭部CTがくも膜下出血を検知しない症例において、腰椎穿刺法により得た脳脊髄液検査もまた、SAHの指標を提供することができて、これはその後血管造影法で確認できる。
【0014】
一度SAHと診断されたら、一般的に治療としては、開頭クリッピング術、又は血管内コイル塞栓術による動脈瘤の緊締がある。高血圧、高熱、過血糖症及び虚血を含むがこれに限らない関係する症候群の治療が、必要に応じて提供される。SAHに関係する合併症が一般的に数週間かけて進行することを考えると、患者の病態を連続して監視するために、患者は長期間入院を続ける。
【0015】
II.治療法
本発明は、患者におけるSAH及び/又は関係する合併症の治療のための方法を提供する。いくつかの実施態様において、有効量の一酸化窒素前駆体を、SAH及び/又は関係する合併症に罹った患者、及び/又はSAHに関係する合併症に罹る危険性のある患者に投与する。この合併症の代表例は上記に示したとおりである。
【0016】
いくつかの実施態様において、一酸化窒素前駆体は、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、これらの薬学的に許容可能な塩、及びこれらの組合せの少なくとも1つからなる。図1参照。いくつかの実施態様において、一酸化窒素前駆体は、シトルリン、アルギニン又はこれらの組合せからなる、がこれらに制限されない、群から選択される。いくつかの実施態様において、シトルリンなどの一酸化窒素前駆体は、経口的に投与される。いくつかの実施態様において、シトルリンなどの一酸化窒素前駆体は、経静脈的に投与される。いくつかの実施態様において、治療される患者は、血管痙攣に罹った患者である。いくつかの実施態様において、治療される患者は、血管痙攣に関係する急病に罹った患者である。このような病気の代表例は上記に示したとおりである。
【0017】
いくつかの実施態様において、血管痙攣のような合併症にかかった患者は、相対的低シトルリン血症に罹る。用語"相対的低シトルリン血症"は、合併症にかかってない患者と比較して、合併症にかかる患者が低下した血漿シトルリンを有する状態を表す。
いくつかの実施態様において、患者は低シトルリン血症に罹る。いくつかの実施態様において、低シトルリン血症は、血漿シトルリンレベルが37μmol/liter以下、いくつかの実施態様で25μmol/liter以下、いくつかの実施態様で20μmol/liter以下、いくつかの実施態様で10μmol/liter以下、いくつかの実施態様で5μmol/liter以下により特徴付けられる。
【0018】
本明細書で開示した発明はまた、血管痙攣を治療するための方法及び組成物を提供する。いくつかの実施態様において、治療を受ける患者は、SAHが関係する血管痙攣に罹る。いくつかの実施態様において、治療を受ける患者は、血管痙攣にをもたらす外傷に罹る(例えば、SAHをもたらす外傷)。いくつかの実施態様において、血管痙攣は、患者のアテローム性動脈硬化症と関係する。いくつかの実施態様において、アテローム性動脈硬化症は、患者の冠状動脈疾患、患者の頸動脈疾患、患者の末梢動脈疾患、及びこれらの組合せと関係する。
【0019】
いくつかの実施態様において、一酸化窒素前駆体は、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、これらの薬学的に許容可能な塩、及びこれらの組合せの少なくとも1つからなる。図1参照。いくつかの実施態様において、一酸化窒素前駆体は、シトルリン、アルギニン又はこれらの組合せからなる、がこれらに制限されない、群から選択される。いくつかの実施態様において、シトルリンなどの一酸化窒素前駆体は、経口的に投与される。いくつかの実施態様において、シトルリンなどの一酸化窒素前駆体は、経静脈的に投与される。いくつかの実施態様において、治療される患者は、血管痙攣に罹った患者である。いくつかの実施態様において、治療される患者は、血管痙攣に関係する急病に罹った患者である(例えば、冠状動脈疾患における虚血及び/又は狭心症)。
いくつかの実施態様において、血管痙攣などの合併症にかかる患者は、相対的低シトルリン血症に罹る。用語"相対的低シトルリン血症"は、合併症にかかってない患者と比較して、合併症にかかる患者が低下した血漿シトルリンを有する状態を表す。
【0020】
本明細書で用いた様に、成句"治療する"は、患者における容態を緩和するために(例えば、疾患過程の開始後又は疾病後)計画された介入、及び患者に病態が生ずることを防ぐ様計画した介入の両者を表す。表現を変えれば、用語"治療する"及びこの文法上の変化型は病態の重篤性を減少させること及び/又は病態を治癒させる意味、及び予防を表わす意味を網羅するために広く説明することを意図する。後者の観点で、"治療する"は、病気に罹る危険性のある患者などの患者が病気過程に抵抗する力を、どんな程度でも、増す様に"防ぐ"ことを表すことができる。
【0021】
本明細書で開示した発明の原理は、本明細書で開示した発明は、哺乳動物及び鳥(これらも用語"患者"に含むことを意図するが)のような温血脊椎動物を含む、全ての脊椎動物種に関して有効であることを示すと理解されているが、本明細書で開示した発明の多くの実施態様で処置した患者は、望ましくはヒト患者である。この文脈において、処理が望まれる、農業又は家畜動物種などの、しかしこれらに制限されない、全ての哺乳動物種を哺乳動物は含むと理解する。
【0022】
従って、処置が提供されるのは、哺乳動物であり、例えば、ヒト、絶滅にさらされる重要な哺乳動物(シベリア虎)、経済的に重要な哺乳動物(農場で育てられ、ヒトにより消費される動物)、及び/又はヒトに対して社会的に重要な哺乳動物(ペット又は動物園で飼われる動物)、例えば、ヒト以外の肉食動物(ネコ、イヌなど)、スワイン(ブタ、ホッグ、及びイノシシ)、反芻動物(ウシ、雄牛、ヒツジ、キリン、シカ、ヤギ、バイソン及びラクダなど)及びウマである。また、処置が提供されるのは、鳥であり、これらは動物園で飼われ、絶滅にさらされる鳥類、ファウル(家禽の1種)、特に家畜のファウルであり、即ち、七面鳥、チキン、アヒル、ガチョウ、ホロホロ鳥、等の家禽であり、これらはまたヒトにとって経済的に重要である。従って、処置が提供されるのは、家畜であり、家畜化したスワイン(ブタ及びホッグ)、反芻動物、馬、家禽、等が含まれるが、これらに制限されない。
【0023】
III.医薬組成物
本発明の組成物の有効投与量が、これらを必要とする患者に投与される。"有効量"とは、測定できる応答を作り出すに充分な組成物の量である(例えば、処置される患者において生物的又は臨床的に関係した応答である)。本明細書に開示した組成物中の活性成分の実際の投与量は、変わることができて、特定の患者に対して望みの治療上の応答を得るに有効な、活性化合物量を投与する。選択された投与量レベルは治療組成物の活性、投与経路、他の薬剤又は処置との組合せ、処置される病気の重篤性、及び処置を受ける患者の健康状態及び以前の治療歴に依存するであろう。例として、制限のためでなく、組成物の投与量は、望みの治療効果に達するに必要な量より低レベルで開始し、また望みの効果が得られるまで投与量を次第に増やす。組成物の効能は、変わることができて、従って、"有効量"は変わる。
【0024】
本明細書に示した開示した発明を精査後、当業者は特定の組成物、その組成物に対して用いる投与方法、及び処置する特定の疾患を考慮に入れて、個々の患者に対して投与量を調製することができる。投与量の更なる計算のために、患者の身長、体重、性別、症候の重篤さ及び段階、及び他の有害な病気の存在を考慮することができる。
【0025】
他の例として、担体物質と組み合わせて単一の投与形態物を作ることができる活性成分の量は、治療する患者、及び投与方法により、変わるであろう。例えば、ヒトに投与する目的のある処方は、全組成物の約5%から約95%に変わりうる、適切で、使い易い量の担体物質と混合した0.5 mgから5 gの活性試薬を含むことができる。例えば、成人において、投与当たり、1人当たり、の投与量は、一般的に、一日数回までで1 mgから500 mgの間である。従って、用量―単位形態は一般的に、約1 mgから約500 mgの活性成分、一般的に25 mg、50 mg、100 mg、200 mg、300 mg、400 mg、500 mg、600 mg、800 mg、又は1000 mgの活性成分を含む。
【0026】
一酸化窒素前駆体は、いくつかの実施態様では、約0.01 mgから約1,000 mgの投与量範囲、いくつかの実施態様では、約0.5 mgから約500 mgの投与量範囲、いくつかの実施態様では、約1.0 mgから約250 mgの投与量範囲において投与される。一酸化窒素前駆体はまた、いくつかの実施態様では、約100 mgから約30,000 mgの投与量範囲、いくつかの実施態様では、約250 mgから約1,000 mgの投与量範囲において投与される。代表的投与量は、3.8 g/m2/日のアルギニン又はシトルリン(モル当量、MW L−シトルリン175.2、MW L−アルギニン 174.2)である。
【0027】
代表的静脈注射用シトルリン溶液は、100 mg/ml(10%)溶液を含むことができる。代表的静脈注射用シトルリン投与量は、200 mg/kg、400 mg/kg、600 mg/kg、及び 800 mg/kgからなることができる。いくつかの実施態様において、例えば投与量600又は800 mg/kgまでに制限されず、全身性血圧に対する観察された有害作用を緩和するために、50 mg/kgから100 mg/kgの用量範囲だけ投与量を減少することができる。いくつかの実施態様において、一日期間の様に、与えられた時間の間1回以上、投与量を投与することができる。
【0028】
いくつかの実施態様において、医薬組成物は、患者における本明細書に開示した合併症を治療するために、血漿シトルリン濃度を上昇させるに有効なシトルリン量を含む。いくつかの実施態様において、治療すべき患者の血漿シトルリン濃度と、合併症を羅患してない患者の血漿シトルリン濃度を比較して、濃度を測定する。いくつかの実施態様において、シトルリン量は、患者における血漿シトルリン濃度を、少なくとも5μmol/liter、任意に少なくとも10μmol/liter、任意に少なくとも20μmol/liter、任意に少なくとも25μmol/liter、及び任意に約 37μmol/literの増加に有効である。
【0029】
いくつかの実施態様において、本発明は、一酸化窒素前駆体及びヒトにおいて薬学的に許容可能な担体などの薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。いくつかの実施態様において、本発明は、上述の投与量のシトルリン又はアルギニンを含む医薬組成物を提供する。
【0030】
本発明の組成物を、標準的非毒性の薬学的に許容可能な担体、アジュバント、及び好みの媒体を含む投与単位形態にして、一般的に経口的に、又は非経口的に投与する。本明細書で用いる用語"非経口的"は、静脈内注射、筋肉内注射、動脈内注射又は輸液技術を含む。
例えば、滅菌した注射可能水溶性又は油性の懸濁物などの注射可能な製剤は、適切な分散剤又は湿潤剤、及び懸濁剤を用いて、既知の技法に従い作成する。滅菌した注射可能製剤はまた、1,3−ブタンジオール溶液などの非毒性許容可能な稀釈剤又は溶媒中の滅菌した注射可能溶液又は懸濁物であることができる。
【0031】
用いることができる許容可能な媒体及び溶媒としては、水、Ringer溶液、及び等脹塩化ナトリウム液がある。更に、滅菌した、不揮発性油は、溶媒又は懸濁媒体として便利に使用される。この目的のために、合成モノグリセリド、又はジグリセリドを含むどんなブランドの不揮発性油も使用できる。更に、オレイン酸のような脂肪酸は、注射可能物質の作成に使い途がある。典型的担体としては、リン酸、乳酸塩、Tris等々を用いた中性食塩緩衝液を含む。
【0032】
代表的実施態様において、関係する治療期間、1,2,3,4,5,6回又はより多い回数の投与を含むがこれに限らない、数回の投与を患者に与えることができる。
しかしながら、如何なる特定の患者に対する特定の投与量も年齢、体重、一般的健康状態、性別、食習慣、投与の時間、投与の経路、排出速度、薬剤の組合せ、及び治療を受ける特定の疾患の重篤度を含む様々な因子に依存する。
【実施例】
【0033】
以下の実施例は本明細書において開示した発明の代表的モデルを説明するために含まれた。本開示及び当業者の一般的レベルを考慮すると、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、以下の実施例が、無数の変化、修飾及び改変を採用できる例示のみを意図することを当業者は理解するであろう。
【0034】
実施例の概要
動脈瘤性くも膜下出血(SAH)治療において、症候管理は主要な役割を果たすが、SAHの2次的合併症の進行のための裏に潜んだ生理的要素に対処する長期間の治療戦略が必要とされてきた。例えば、動脈瘤SAHの後の重要な病理的機構の1つは、冠状血管において一酸化窒素が利用できなくなっていることであり、これが平滑筋の収縮又は血管痙攣をもたらしている。発明者らは、血管痙攣を持つ患者と持たない患者からの血漿を比較したところ、血管痙攣を持つ患者が、持たない患者に比べてより低いレベルのシトルリンを有し、シトルリンレベルに有意な差異があることを見出した。特定の作用機構の理論に束縛されることを意図しないが、この結果は、NO前駆体として機能するシトルリンが、他の多くの作用の中で一酸化窒素前駆体として働くことができるシトルリンの充分な補給量を回復させることにより、血管弛緩を助けるのに類似した機構を通して、SAH及び冠状動脈疾患の両者を治療することができることを示している。
実施例1及び2は、血管痙攣を持つ又は持たない患者の、シトルリン、オルニチン、アルギニン及び一酸化窒素の血漿中のレベルを評価した結果である。試料は、採取後24時間で分離した。実施例1は、初期の採取後検定したレベルを示し、実施例2は、後期の採取後検定したレベルを示す。
【0035】
実施例1
血管痙攣を持たない及び血管痙攣を持つ患者における血漿(初期の採取)の比較
【表1】

【0036】
実施例2
血管痙攣を持たない及び血管痙攣を持つ患者における血漿(後期の採取)の比較
【表2】

【0037】
参照文献
以下に掲載した参考文献及び明細書に引用した全ての参考文献は、本明細書に用いた方法、技術及び/又は組成物に対する背景を補足、説明、提供又は教える程度に従い参考文献として本明細書に取り込む。
Batista da Costa Jr. 他 (2004) Arq Neuro-Psiquiatr (Sao Paulo) 62:245-249.
Suarez 他(2006) N Engl J Med 354:387-396.
Flett 他. (2005) AJNR Am J Neuroradiol 26:367-372.
米国出願公開番号US-2004-0235953-A1,公開日November 25, 2004.
国際公開 WO 2005/082042, 公開日September 9, 2005.
米国特許第6,343,382号
米国特許第6,743,823号
【0038】
本発明の様々な詳細が、開示した発明の範囲から逸脱することなく変更可能であることは理解されるであろう。更に、先の記載は説明の目的のためだけにあり、制限を目的とするものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする患者へ有効量の一酸化窒素前駆体を投与することから成るくも膜下出血(SAH)関係の合併症の治療方法。
【請求項2】
前記患者がSAHをもたらす外傷に罹っている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一酸化窒素前駆体が、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、これらの薬学的に許容可能な塩、及びこれらの組合せの少なくとも1つから成る請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記投与が経静脈投与又は経口投与からなる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記一酸化窒素前駆体は約100 mgから約30,000 mgの範囲の投与量で投与される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記一酸化窒素前駆体は約250 mgから約1,000 mgの範囲の投与量で投与される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
必要とする患者へ有効量の一酸化窒素前駆体を投与することから成る血管痙攣の治療方法。
【請求項8】
前記血管痙攣が患者のくも膜下出血と関係する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記患者が血管痙攣をもたらす外傷に罹った患者である請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記血管痙攣が患者のアテローム性動脈硬化症と関係する請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記アテローム性動脈硬化症が冠状動脈疾患、頸動脈疾患、末梢動脈疾患又はこれらの組合せと関係する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記一酸化窒素前駆体が、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、これらの薬学的に許容可能な塩、及びこれらの組合せの少なくとも1つからなる請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記投与が経静脈投与又は経口投与からなる請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記一酸化窒素前駆体は約100 mgから約30,000 mgの範囲の投与量で投与される請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記一酸化窒素前駆体は約250 mgから約1,000 mgの範囲の投与量で投与される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
患者における動脈瘤性くも膜下出血(SAH)又は血管痙攣を治療するために血漿シトルリンレベルを上昇させるのに有効量のシトルリン及び薬学的に許容可能な担体から成る医薬組成物であって、該血漿シトルリンレベルが、治療すべき患者の血漿シトルリンレベルが、動脈瘤性くも膜下出血(SAH)又は血管痙攣に羅患してない患者の血漿シトルリンレベルと比較して決定されることを特徴とする医薬組成物。
【請求項17】
前記シトルリン量が、患者における血漿シトルリンレベルを少なくとも5μmol/liter、任意に少なくとも10μmol/liter、任意に少なくとも20μmol/liter、任意に少なくとも25μmol/liter、任意に約37μmol/liter上昇させるに有効である請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記医薬組成物が、経静脈投与又は経口投与のために適合している請求項16に記載の医薬組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2011−519821(P2011−519821A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545246(P2010−545246)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/032826
【国際公開番号】WO2009/099999
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(501271033)バンダービルト・ユニバーシティ (9)
【氏名又は名称原語表記】VANDERBILT UNIVERSITY
【Fターム(参考)】