説明

冷却システム

【課題】小型かつ軽量化が可能である冷却システムを提供する。
【解決手段】発熱体100に配置され、水を含んだ冷却液と熱交換する伝熱壁を有する冷却ジャケット部140、熱交換によって温度が上昇した冷却液を冷却する放熱手段150、冷却ジャケット部140と放熱手段150との間を連結し、冷却液が循環する循環配管系160、および、冷却液を圧送し、冷却液を循環させるための圧送手段170を有する冷却システムである。そして、前記伝熱壁は、親水性を備えた微細な凹凸構造体を有し、冷却液の伝熱壁近傍の流れをかく乱させる気泡を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却ジャケット部を有する冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関やモータ、インバータなどの移動体装置の動力装置は、冷却ジャケット部を備えた冷却システムを有しており、燃費や製造コストの観点から、冷却システムの小型かつ軽量化の要請がある。このため、冷却ジャケット部において冷却液をプール沸騰させ、潜熱を利用して冷却することで、熱伝達率を向上させ、冷却ジャケット部を小型かつ軽量化することが試みられている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開昭57−62912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、冷却液を液相および気相に調節するための圧力調整装置などの付帯設備を必要とし、冷却システム全体としての小型かつ軽量化を実現することが困難である問題を有する。
【0004】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、小型かつ軽量化が可能である冷却システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明は、発熱体またはその周囲に配置され、水を含んだ冷却液と熱交換する伝熱壁を有する冷却ジャケット部、前記熱交換によって温度が上昇した前記冷却液を冷却する放熱手段、前記冷却ジャケット部と前記放熱手段との間を連結し、前記冷却液が循環する循環配管系、および、前記冷却液を圧送し、前記冷却液を循環させるための圧送手段を有する冷却システムである。そして、前記伝熱壁は、凹凸構造体を有し、前記冷却液の流れをかく乱させる気泡を発生させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、気泡は、伝熱壁の凹凸構造体の固液界面から連続的に発生し、冷却液の低層(伝熱壁に極めて近い層)をかく乱するため、伝熱壁と冷却液との熱交換が促進され、熱伝達係数が向上する。また、例えば、蒸気圧を制御する装置などの付帯設備が不要である。したがって、冷却ジャケット部の伝熱壁(伝熱面積)を縮小したり、冷却液の循環量を削減しても、十分な冷却性能を確保することができる。つまり、小型かつ軽量化が可能である冷却システムを提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0008】
図1は、実施の形態1に係る冷却システムを説明するための概略図、図2は、図1に示される内燃機関を説明するための断面図、図3は、図2に示されるウォータージャケットの伝熱壁を説明するための断面図である。
【0009】
実施の形態1に係る冷却システムは、ガソリン自動車等の移動体装置の内燃機関(発熱体)100を冷却するために適用され、図1に示されるように、ウォータージャケット(冷却ジャケット部)140、放熱器(放熱手段)150、循環配管系160、圧送ポンプ(圧送手段)170および減圧装置(減圧手段)180を有する。
【0010】
内燃機関100は、図2に示されるように、燃料としてガソリンや軽油を用いる原動機であり、シリンダブロック102、シリンダヘッド104、ピストン106および点火プラグ108を有し、ウォータージャケット140が配置されている。
【0011】
シリンダブロック102は、シリンダを形成し、内燃機関の全体構造を決定する基礎構造体である。シリンダヘッド104は、シリンダブロック102に取り付けられ、混合気体が燃焼する燃焼室を形成する。ピストン106は、燃焼ガス圧力と熱を受けつつ、シリンダブロック102のシリンダ内を往復摺動する。点火プラグ108は、混合気体を適当な時期に点火爆発させるために使用される。
【0012】
ウォータージャケット140は、シリンダブロック102およびシリンダヘッド104の一部に形成された空間からなり、冷却水が流通(循環)する。冷却水は、水および添加剤からなる。添加剤は、例えば、グリセリンである。
【0013】
内燃機関100が仕事をしている場合、シリンダブロック102およびシリンダヘッド104は高温になっており、ウォータージャケット140は、冷却水と熱交換し、冷却水の温度を上昇させる。
【0014】
図3に示されるように、ウォータージャケット140における冷却液と熱交換する伝熱壁146は、親水性を備えた微細な凹凸構造体148を有し、後述するように、冷却液の流れをかく乱させる気泡を発生させることで、良好な熱伝達係数を維持しており、例えば、ウォータージャケット140の伝熱壁(伝熱面積)を縮小したり、冷却液の循環量を削減しても、十分な冷却性能を確保することができる。
【0015】
放熱器150は、熱交換によって温度が上昇した冷却液を冷却するために使用される熱交換器であり、冷却液の温度が低くなることによって冷却液の飽和ガス溶解量が増すため、冷却液に含まれる気泡を、さらに削減あるいは消失させる作用効果も有する。
【0016】
循環配管系160は、ウォータージャケット140と放熱器150との間を連結し、冷却液を循環させるために使用され、上流側配管162および下流側配管164を有する。上流側配管162は、ウォータージャケット140の冷却液吐出口144と放熱器150の冷却液導入口152との間を連結する。下流側配管164は、放熱器150の冷却液吐出口154とウォータージャケット140の冷却液導入口142との間を連結する。
【0017】
圧送ポンプ170は、冷却液を圧送し、冷却液を循環させるために使用され、上流側配管162に配置されている。圧送ポンプ170の形式は、特に限定されないが、冷却システムが良好な熱伝達係数を達成しており、冷却液の循環量を削減可能であるため、例えば、大容量のメカニカルポンプではなく、流量の制御性が良好である小容量の電動ポンプを適用することも可能である。
【0018】
減圧装置180は、放熱器150を通過した冷却液の圧力を、ウォータージャケット140に導入する前に低下させて、ウォータージャケット140内での気泡発生を容易にするために使用され、逆止弁(逆流防止手段)182、バイパス配管184およびリリーフ弁186を有する。
【0019】
逆止弁182は、圧送ポンプ170とウォータージャケット140との間の配管途中に配置され、ウォータージャケット140に対する冷却液の逆流を防止するために使用される。
【0020】
バイパス配管184は、上流側配管162と下流側配管164とを連結するために使用され、バイパス配管184の一端は、圧送ポンプ170と逆止弁182との間の配管途中に接続され、バイパス配管184の他端は、リリーフ弁186に接続される。
【0021】
リリーフ弁186は、下流側配管164に配置され、放熱器150を通過した冷却液の一部を、バイパス配管184を経由し、上流側配管162に導入するために使用される。
【0022】
したがって、減圧装置180は、放熱器150を通過し、下流側配管164を経由して導入される冷却液の一部を、リリーフ弁186によってバイパス配管184に分岐することで、冷却液の圧力を低下させことができる。また、バイパス配管184を経由して上流側配管162に導入される分岐冷却液を、逆止弁182によってウォータージャケット140へ逆流することを防止すことで、ウォータージャケット140に対する分岐冷却液の影響を排除することができる。つまり、減圧装置180は、簡単な機構によって構成されている。
【0023】
なお、圧送ポンプ170は、下流側配管164に配置することも可能である。また、減圧装置180は、逆止弁182、バイパス配管184およびリリーフ弁186によって形成される形態に限定されない。
【0024】
次に、図1を参照し、冷却液の流れを説明する。
【0025】
冷却液導入口142を経由し、ウォータージャケット140に導入された冷却液は、内燃機関100が仕事をすることによって高温になっているウォータージャケット140の伝熱壁と、熱交換する。この際、伝熱壁は、冷却液の伝熱壁に極めて近い部分のみの流れをかく乱させる気泡を発生させる。
【0026】
熱交換によって温度が上昇した冷却液は、気泡を一部保持しながら、冷却液吐出口144および上流側配管162を経由し、圧送ポンプ170に導入される。圧送ポンプ170は、冷却液を、放熱器150に向かって圧送する。この際、冷却液の圧力は、上昇するため、冷却液に含まれる気泡が削減あるいは消失する。つまり、圧送ポンプ170は、冷却液が放熱器150に導入される前に、冷却液の圧力を上昇させる加圧手段を兼ねており、独立した加圧手段が不要になるため、冷却システムの小型かつ軽量化をさらに図ることができる。
【0027】
放熱器150においては、熱交換によって温度が上昇した冷却液が冷却される。放熱器150に導入される冷却液は、気泡が削減あるいは消失しているため、放熱器150における熱交換(冷却液の冷却)に対する、気泡による影響すなわち熱交換効率の低下が抑制される。
【0028】
放熱器150を通過した冷却液は、温度が低下し、飽和ガス溶解量が増加しているため、冷却液に含まれる気泡がさらに削減あるいは完全に消失し、下流側配管164を経由し、リリーフ弁186に導入される。したがって、冷却液に含まれる気泡が、冷却液の循環に伴って循環配管系160において蓄積することが抑制される。
【0029】
リリーフ弁186は、放熱器150を通過し、下流側配管164を経由して導入される冷却液の一部を、バイパス配管184に分岐することで、冷却液の圧力を低下させる。
【0030】
圧力が低下した冷却液は、冷却液導入口142を経由し、ウォータージャケット140に導入され、内燃機関100が仕事をすることによって高温になっているウォータージャケット140の伝熱壁と、熱交換する。この際、冷却液の圧力は低下しているため、ウォータージャケット140において気泡を確実かつ容易に発生させることできる。
【0031】
一方、バイパス配管184を経由して上流側配管162に導入される分岐冷却液は、逆止弁182によってウォータージャケット140への逆流が防止されるため、ウォータージャケット140に対する分岐冷却液の影響が排除される。
【0032】
図4は、気体の飽和溶解量と温度とのとの関係を説明するためのグラフである。
【0033】
気体は、酸素O、窒素Nおよび二酸化炭素COであり、水1mlに対する飽和溶解量mlを単位とし、気体の分圧を1気圧の場合で示している。なお、空気は、酸素Oが20%、窒素Nが78%であるため、接液する気体が空気の場合、酸素Oおよび窒素Nの溶解量はそれぞれ、約0.2および0.8を乗じたものになる。
【0034】
溶存気体は、冷却液が沸騰(気化)しない低い温度においても、気泡を形成するため、伝熱壁が低温であっても冷却性能を確保することができる。したがって、冷却液は、溶存気体を含んでいることが好ましい。
【0035】
次に、ウォータージャケットの伝熱壁の凹凸構造体を詳述する。
【0036】
図5は、ウォータージャケットの伝熱壁の凹凸構造体を説明するための断面図、図6は、伝熱壁における気泡発生頻度と気泡直径との関係を説明するためのグラフである。
【0037】
凹凸構造体148は、ウォータージャケット140における冷却液と熱交換する伝熱壁146の表面に配置される被膜147に形成されている。したがって、ウォータージャケット140の形状を変更することなく、伝熱壁146に凹凸構造体148を配置することができる。
【0038】
被膜147は、酸化物からなり、良好な耐食性を有する。ウォータージャケット140の耐食性は、被膜147によって確保されるため、ウォータージャケット140の材質および冷却液の選択上における自由度が向上する。
【0039】
凹凸構造体148は、伝熱壁146の表層に位置し、内燃機関100が仕事をしている場合、高温になっており、ウォータージャケット140を循環する冷却液が接触すると、局部的な温度上昇を引き起こし、気泡を発生させる。気泡は、冷却液の低層(伝熱壁146に極めて近い層)をかく乱するため、伝熱壁146と冷却液との固液界面での熱交換が促進され、熱伝達係数が向上する。
【0040】
凹凸構造体148に対する冷却液の接触角は、90度以下であり、凹凸構造体148は、冷却液によって濡れるため、良好な親水性を呈し、発生する気泡は、成長することなく、凹凸構造体148から容易に離脱して、かく乱効果が持続するため、良好な熱伝達係数が維持される。
【0041】
なお、伝熱壁146の温度が高い部位(熱流束が大きい部位)では、冷却液のバルク温度(主流の温度)が飽和沸騰温度に到達しなくても、冷却液は局所的に高温となり表面沸騰(サブクール沸騰)し、冷却液に含まれる溶存気体の量に係らず、確実に気泡が発生する。また、冷却液は、膜沸騰域に遷移し難く、核沸騰を維持し、連続的に気泡を発生させる。
【0042】
凹凸構造体148の凹部は、止まり穴149からなり、止まり穴149内に留まった気体が、気泡核となることから、微細な気泡を容易かつ効率的に発生させることができる。
【0043】
伝熱壁における気泡発生頻度fは、図5に示されるように、気泡直径Dが小さくなるにつれて、増大し、熱伝達係数が大幅に向上する。一方、気泡直径Dは、止まり穴149の直径(形状)に影響される。したがって、止まり穴149の直径を調整(制御)することで、伝熱促進効果を高めることが可能である。
【0044】
止まり穴149の直径は、40nm未満であると、気泡の離脱性が低下し、700nmを越えると、止まり穴149の形成が困難となる。つまり、良好な気泡の離脱性を有する止まり穴149を、容易に形成するためには、止まり穴149の直径は、40nm以上700nm以下であることが好ましい。
【0045】
なお、凹凸構造体148の構成(止まり穴149の直径)を異ならせた伝熱壁146を作成し、気泡の発生状態を、例えば、カメラによって観測し、その結果に基づいて、止まり穴149の直径を最適化することも可能である。
【0046】
次に、被膜の形成方法を説明する。
【0047】
図7および図8は、伝熱壁に形成される凹凸構造体の一例および別の一例を説明するための写真である。
【0048】
ウォータージャケット140の伝熱壁の素材が、純アルミニウムあるいはアルミニウム合金(例えば、Al−Si合金鋳物)からなる場合、伝熱壁146を陽極酸化することでアルミナからなる被膜147を形成することができる。この場合、伝熱壁146が、外部から直接加工ができない部位に位置する場合であっても、被膜147を広範囲にわたって容易かつ廉価に形成することができるため好ましい。
【0049】
陽極酸化における被膜形成は、例えば、研磨工程、陽極酸化工程およびエッチング工程を有する。
【0050】
研磨工程においては、シリンダブロック102およびシリンダヘッド104におけるウォータージャケット140を形成する内壁に、バフ研磨および電解研磨が施され、表面形状が調整される。バフ研磨および電解研磨の一方を、適宜省略することも可能である。また、例えば、伝熱壁が穴の中などの内側に位置する場合、噴射加工や磁気研磨を適用することも可能である。
【0051】
陽極酸化工程においては、表面形状が調整された前記内壁が、電解液に浸漬され、電圧が印加されることで陽極酸化膜が形成される。
【0052】
エッチング工程においては、酸化物皮膜が形成された前記内壁は、清浄表面を露出させるため、エッチング液に浸漬される。エッチング液は、例えば、酸系である。
【0053】
図7は、アルミニウムに対し、シュウ酸を利用した陽極酸化によって形成した被膜の凹凸構造体を示しており、止まり穴の直径は、約100nmである。一方、図8は、りんご酸を利用した陽極酸化によって形成しかつエッチングによって止まり穴の直径を調整(拡大)した凹凸構造体を示しており、止まり穴の直径は、約300nmである。
【0054】
陽極酸化は、アルミニウムに適用する形態に限定されず、例えば、マグネシウムやチタンに適用することも可能である。つまり、陽極酸化被膜を形成する場合におけるウォータージャケット140の伝熱壁146の素材として、マグネシウムやチタンを採用することができる。
【0055】
被膜147は、化学めっきや電気めっきによって形成することも可能である。さらに、被膜147は、電気化学的に形成する形態に限定されず、例えば、被膜を形成し得る材料(例えば、酸化物や無機材料など)を含んでいる塗料あるいはペーストを、伝熱壁に被覆(セラミックコーティング)し、造膜することも可能である。
【0056】
図9は、伝熱壁に形成される凹凸構造体の別の一例を説明するための断面図である。
【0057】
凹凸構造体は、被膜に配置する形態に限定されず、例えば、噴射加工や機械加工によって、図9に示されるように、伝熱壁146の表面に直接形成することも可能である。噴射加工は、例えば、マイクロブラスト(ショットブラスト)である。機械加工は、超精密切削加工や、マイクロインデンテーション(ホッピング加工)である。
【0058】
以上のように、実施の形態1においては、冷却システムの伝熱壁は、親水性を備えた微細な凹凸構造体を有し、冷却液の一部の流れをかく乱させる気泡を発生させる。この際、気泡は、伝熱壁の凹凸構造体の固液界面から連続的に発生し、冷却液の低層(伝熱壁に極めて近い層)をかく乱するため、伝熱壁と冷却液との熱交換が促進され、熱伝達係数が向上する。凹凸構造体は、親水性を有するため、発生する気泡は、成長することなく凹凸構造体から容易に離脱して、かく乱効果が持続するため、良好な熱伝達係数が維持される。凹凸構造体は、微細であるため、ウォータージャケットの形状に対する影響が抑制される。また、例えば、蒸気圧を制御する装置などの付帯設備が不要である。したがって、ウォータージャケットの伝熱壁(伝熱面積)を縮小したり、冷却液の循環量を削減しても、十分な冷却性能を確保することができる。小型かつ軽量化が可能である冷却システムを提供することが可能である。
【0059】
冷却システムは、自動車等の移動体装置の内燃機関を冷却するために適用されるため、移動体装置の小型化、移動体装置の重量低減、燃費の向上などを図ることが可能である。
【0060】
また、冷却液が放熱器に導入される前に、冷却液の圧力を上昇させる加圧手段を有する。この場合、冷却液の圧力が上昇することで、冷却液に含まれる気泡が削減あるいは消失するため、放熱器における熱交換(冷却液の冷却)に対する気泡の影響を抑制することができる。なお、加圧手段は、圧送ポンプによって兼ねられており、独立した加圧手段が不要になるため、冷却システムの小型かつ軽量化をさらに図ることができる。
【0061】
放熱器を通過した冷却液は、温度が低下し、飽和ガス溶解量が増加することで、気泡が削減あるいは消失しているため、冷却液に含まれる気泡が、冷却液の循環に伴って循環配管系において蓄積することが抑制される。また、冷却液は、ウォータージャケットに導入される前に、減圧装置によって圧力が低下させられているため、ウォータージャケットにおいて気泡を確実かつ容易に発生させることできる。
【0062】
減圧装置は、逆止弁、バイパス配管およびリリーフ弁を有している。リリーフ弁は、放熱器を通過し下流側配管を経由して導入される冷却液の一部を、バイパス配管に分岐することで、冷却液の圧力を低下させことができる。また、逆止弁は、バイパス配管を経由して上流側配管に導入される分岐冷却液が、ウォータージャケットへ逆流することを防止するため、分岐冷却液によるウォータージャケットへの影響を排除することができる。つまり、減圧装置を、簡単な機構によって構成している。
【0063】
冷却液は、溶存気体を含んでいることが好ましい。この場合、冷却液が沸騰(気化)しない低い温度においても、気泡を発生するため、伝熱壁が低温であっても冷却性能を確保することができる。
【0064】
凹凸構造体に対する冷却液の接触角は、90度以下であることが好ましい。この場合、凹凸構造体は、冷却液によって濡れるため、良好な親水性を呈し、発生する気泡は、成長することなく凹凸構造体から容易に離脱する。
【0065】
凹凸構造体の凹部は、止まり穴からなることが好ましい。この場合、止まり穴内に留まった気体が、気泡核となることから、微細な気泡を容易かつ連続的に発生させることができる。
【0066】
止まり穴の直径は、40nm未満であると、気泡の離脱性が低下し、700nmを越えると、止まり穴の形成が困難となる。そのため、止まり穴の直径は、40nm以上700nm以下であることが好ましく、これにより、良好な気泡の離脱性を有する止まり穴を、容易に形成することができる。
【0067】
凹凸構造体は、被膜に形成されているため、ウォータージャケットの形状を変更することなく、伝熱壁に配置することができる。
【0068】
前記被膜は、酸化物からなり、良好な耐食性を有しており、当該被膜によってウォータージャケットの耐食性が確保されるため、ウォータージャケットの材質および冷却液の選択上における自由度が向上する。
【0069】
前記被膜は、伝熱壁を陽極酸化することで形成されている。そのため、伝熱壁が、外部から直接加工ができない部位に位置する場合であっても、被膜を容易に形成することができる。
【0070】
なお、実施の形態1では、親水性を備えた凹凸構造体148を用いた形態について説明してきたが、親水性でなくとも上記凹凸構造体148の形状を備えていれば気泡発生によって、本発明が解決しようとする課題を達成できることは上述の通り明らかである。ただし、親水性を備えた凹凸構造体であると、発生した気泡は成長することなく凹凸構造体から容易に離脱してかく乱効果が持続するため、良好な熱伝達係数が維持されるためより好ましい結果を得られるものである。以下、実施の形態2および3についても同様である。
【0071】
また、親水性とは、液体を該当面に滴下した際の接触角が90度以下と定義され、接触角は、例えば、画像処理式接触角測定装置(協和界面科学DCA−VZ型)を用いた液滴法により測定できる。
【0072】
さらに、親水性の被膜表面に凹凸構造体を設けた場合は、凹凸構造体部のみ親水性である場合に比べて、凹凸部以外の親水性被膜部分だけ親水領域が拡大して、親水性がいっそう向上し、上記したように発生した気泡が成長することなく凹凸構造体からいっそう離脱し易くなって、かく乱効果が持続するため、良好な熱伝達係数がさらに維持されることになる。以下、実施の形態2および3についても同様である。
【0073】
さらにまた、凹凸構造体は微細であるため、大きな設計変更を伴うことなく通常使用されるような冷却ジャケット部の形状のままで凹凸構造体を設けることが可能であり、冷却液の流れを乱して実使用に影響するような圧力損失増大をもたらすこともない。以下、実施の形態2および3についても同様である。
【0074】
次に、実施の形態2を説明する。
【0075】
図10は、実施の形態2に係る冷却システムを説明するための断面図、図11は、図10に示されるウォータージャケットを説明するための断面図である。
【0076】
実施の形態2は、冷却システムによってハイブリッド車両や電気自動車の駆動に用いられる電動機を冷却する点で、内燃機関を冷却する実施の形態1と概して異なっている。
【0077】
実施の形態2に係る電動機(発熱体)200は、軸受211によって支持されたロータ212、ロータ212の外周に配置されるステータコア214、電流が供給されるステータコイル215、および、モータケース217を有する。モータケース217は、ステータコア214を保持する中空円筒状ステータフレーム218と、ステータフレーム218の開口端部を閉鎖する中空円筒状カバー219とから構成される。
【0078】
ステータフレーム218は、カバー219との嵌合部に複数の環状溝218Aを有する。環状溝218Aは、カバー219の嵌合部の内壁219Aと一体化して、水密の経路を構成しており、当該経路は、冷却液導入口および冷却液吐出口に連結されている。実施の形態2に係る冷却システムのウォータージャケット(冷却ジャケット部)240は、環状溝218Aおよび内壁219Aによって形成され、モータケース217に一体化されている。なお、伝熱壁を構成する環状溝218Aの表面には、図11に示されるように、親水性を備えた微細な凹凸構造体が形成された被膜247が配置されている。
【0079】
したがって、モータケース217に配置される冷却液導入口に導入される冷却水は、環状溝218Aと内壁219Aによって形成される経路を流通し、高温となるステータコイル215を冷却し、冷却液吐出口から流出する。この際、環状溝218Aに配置される被膜247の凹凸構造体は、冷却液に気泡を発生させることで、良好な熱伝達係数を維持する。このため、ウォータージャケット240の伝熱壁(伝熱面積)を縮小したり、冷却液の循環量を削減しても、十分な冷却性能を確保することができる。
【0080】
なお、電動機200は、リーク電流を嫌う電動部品であるため、凹凸構造体は、電気絶縁体から構成されている。したがって、ウォータージャケット240は、電気的な絶縁が確保されるため、リーク電流を抑制することが可能である。
【0081】
以上のように、実施の形態2においては、電動機用の冷却システムを小型かつ軽量化することにより、ハイブリッド車両や電気自動車の小型化、重量低減、燃費の向上などを図ることが可能である。
【0082】
また、凹凸構造体は、電気絶縁体から構成されており、ウォータージャケットは、電気的な絶縁が確保されるため、リーク電流を嫌う電動機に適用することが容易である。
【0083】
次に、実施の形態3を説明する。
【0084】
図12は、実施の形態3に係る冷却システムを説明するための断面図、図13は、図12に示されるウォータージャケットを説明するための断面図である。
【0085】
実施の形態3は、冷却システムによってハイブリッド車両や電気自動車の駆動に用いられるインバータ装置を冷却する点で、電動機を冷却する実施の形態2と概して異なっている。
【0086】
実施の形態3に係るインバータ装置(発熱体)300は、例えば、電動機の回転数やトルクを制御するために使用され、インバータモジュール302、ウォータージャケット(冷却ジャケット部)340およびケーシング304を有する。
【0087】
インバータモジュール302は、例えば、電力スイッチング回路、制御回路、保護回路、コイルなどを有しており、駆動用電池の直流電力を交流電力に電気的に変換し、電動機に供給するために使用される。
【0088】
ウォータージャケット340は、インバータモジュール302とケーシング304との間に配置される別体部材であり、インバータ装置300が稼働することで温度が上昇するインバータモジュール302を冷却するために使用される。ウォータージャケット340の伝熱壁346の表面には、図13に示されるように、親水性を備えた微細な凹凸構造体が形成された被膜247が配置されている。
【0089】
したがって、ウォータージャケット340に配置される冷却液導入口に導入される冷却水は、高温となるインバータモジュール302を冷却し、冷却液吐出口から流出する。この際、伝熱壁346に配置される被膜347の凹凸構造体は、気泡を発生させることで、良好な熱伝達係数を維持する。このため、ウォータージャケット340の伝熱壁(伝熱面積)を縮小したり、冷却液の循環量を削減しても、十分な冷却性能を確保することができる。
【0090】
なお、インバータ装置300は、リーク電流を嫌う電動部品であるため、凹凸構造体は、電気絶縁体から構成されている。したがって、ウォータージャケット340は、電気的な絶縁が確保されるため、リーク電流を抑制することが可能である。
【0091】
以上のように、実施の形態3においては、インバータ装置用の冷却システムを小型かつ軽量化することにより、ハイブリッド車両や電気自動車の小型量化、重量低減、燃費の向上などを図ることが可能である。
【0092】
次に、実施の形態4を説明する。
【0093】
図14は、実施の形態4に係る冷却システムを説明するための概略図である。
【0094】
実施の形態4は、放熱器150を補助する熱交換器を有する点で、実施の形態1と概して異なっている。
【0095】
実施の形態4に係る熱交換器490は、例えば、内燃機関100が高負荷運転を行なう際に、放熱器150の能力が不足する場合に使用され、蓄熱容器492、3方弁494,495およびバイパス配管497,498を有する。
【0096】
蓄熱容器492は、冷却液導入口および冷却液吐出口を有し、内部には、0℃以上かつ100℃以下の融点を有する潜熱蓄熱材料が充填されている。潜熱蓄熱材料は、例えば、パラフィンである。
【0097】
3方弁494,495は、下流側配管164に配置され、放熱器150の冷却液吐出口154とリリーフ弁186との間に位置している。バイパス配管497は、放熱器側の3方弁494と蓄熱容器492の冷却液導入口とを連結している。バイパス配管498は、リリーフ弁側の3方弁495と蓄熱容器492の冷却液吐出口とを連結している。
【0098】
次に、冷却液の流れを説明する。
【0099】
内燃機関100が仕事をすることによって高温になっているウォータージャケット140の伝熱壁と熱交換し、高温となった冷却液は、上流側配管162を流れ、逆止弁182および圧送ポンプ170を経由し、放熱器150に導入される。
【0100】
そして、冷却液は、放熱器150によって冷却される。この際、例えば、放熱器150の能力が不足し、放熱器150を通過した冷却液の温度が所定の値まで低下しない場合、3方弁494,495が制御される。これにより、放熱器150を通過した冷却液は、下流側配管164から分岐し、3方弁494およびバイパス配管497を経由し、蓄熱容器492に導入される。
【0101】
冷却液は、蓄熱容器492に充填されている潜熱蓄熱材料と熱交換し、潜熱蓄熱材料が固体から液体に相変化することにより、冷却される。この際、冷却不足により冷却液に残留している気泡が、確実に削減あるいは消失する。そして、蓄熱容器492を通過し、所定の温度となった冷却液は、バイパス配管498および3方弁495を経由し、下流側配管164に導入され、リリーフ弁186を経由し、ウォータージャケット140に導入される。
【0102】
以上のように、実施の形態4においては、放熱器を補助する熱交換器が配置されているため、放熱器150の能力が一時的に不足する場合であっても、ウォータージャケット140に導入される冷却液の温度を所定の値に制御することが可能である。
【0103】
なお、蓄熱容器492の潜熱蓄熱材料は、時間の経過とともに液体から固体に相変化することにより、冷却液から除去した熱を、放出するため、当該熱を、例えば、暖房補助の熱源として利用することが可能である。
【0104】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。
【0105】
例えば、冷却システムは、移動体装置の内燃機関、電動機、インバータ装置を冷却する形態に限定されず、移動体装置に配置されるその他の発熱体の冷却に適用したり、移動体装置以外の装置に配置される発熱体の冷却に適用することも可能である。
【0106】
また、実施の形態4に係る放熱器を補助する熱交換器を、実施の形態2や実施の形態3に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】実施の形態1に係る冷却システムを説明するための概略図である。
【図2】図1に示される内燃機関を説明するための断面図である。
【図3】図2に示されるウォータージャケットの伝熱壁を説明するための断面図である。
【図4】気体の飽和溶解量と温度とのとの関係を説明するためのグラフである。
【図5】ウォータージャケットの伝熱壁の凹凸構造体を説明するための断面図である。
【図6】伝熱壁における気泡発生頻度と気泡直径との関係を説明するためのグラフである。
【図7】伝熱壁に形成される凹凸構造体の一例を説明するための写真である。
【図8】伝熱壁に形成される凹凸構造体の別の一例を説明するための写真である。
【図9】伝熱壁に形成される凹凸構造体の別の一例を説明するための断面図である。
【図10】実施の形態2に係る冷却システムを説明するための断面図である。
【図11】図10に示されるウォータージャケットを説明するための断面図である。
【図12】実施の形態3に係る冷却システムを説明するための断面図である。
【図13】図12に示されるウォータージャケットを説明するための断面図である。
【図14】実施の形態4に係る冷却システムを説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0108】
100 内燃機関(発熱体)、
102 シリンダブロック、
104 シリンダヘッド、
106 ピストン、
108 点火プラグ、
140 ウォータージャケット(冷却ジャケット部)、
142 冷却液導入口、
144 冷却液吐出口、
146 伝熱壁、
147 被膜、
148 凹凸構造体、
149 止まり穴、
150 放熱器、
152 冷却液導入口、
154 冷却液吐出口、
160 循環配管系、
162 上流側配管、
164 下流側配管、
170 圧送ポンプ(圧送手段)、
180 減圧装置(減圧手段)、
182 逆止弁、
184 バイパス配管、
186 リリーフ弁、
200 電動機(発熱体)、
211 軸受、
212 ロータ、
214 ステータコア、
215 ステータコイル、
217 モータケース、
218 ステータフレーム、
218A 環状溝、
219 カバー、
219A 内壁、
240 ウォータージャケット(冷却ジャケット部)、
247 被膜、
300 インバータ装置(発熱体)、
302 インバータモジュール、
304 ケーシング、
340 ウォータージャケット(冷却ジャケット部)、
346 伝熱壁、
347 被膜、
490 熱交換器、
492 蓄熱容器、
494,495 3方弁、
497,498 バイパス配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体に配置され、水を含んだ冷却液と熱交換する伝熱壁を有する冷却ジャケット部、
前記冷却液を冷却する放熱手段、
前記冷却ジャケット部と前記放熱手段との間を連結し、前記冷却液が循環する循環配管系、および、
前記冷却液を圧送し、前記冷却液を循環させるための圧送手段を有し、
前記伝熱壁は、凹凸構造体を有する
ことを特徴とする冷却システム。
【請求項2】
前記冷却液が前記放熱手段に導入される前に、前記冷却液の圧力を上昇させる加圧手段を有することを特徴とする請求項1に記載の冷却システム。
【請求項3】
前記循環配管系は、前記冷却ジャケット部の冷却液吐出口と、前記放熱手段の冷却液導入口との間を連結する上流側配管を有し、
前記圧送手段は、前記上流側配管に配置され、前記加圧手段を兼ねており、
前記冷却液の圧力は、前記圧送手段によって圧送されることによって上昇する
ことを特徴とする請求項2に記載の冷却システム。
【請求項4】
前記放熱手段を通過した前記冷却液を前記冷却ジャケット部に導入する前に、前記冷却液の圧力を低下させるための減圧手段を有することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の冷却システム。
【請求項5】
前記循環配管系は、前記冷却ジャケット部の冷却液導入口と前記放熱手段の冷却液吐出口との間を連結する下流側配管を有し、
前記減圧手段は、
前記圧送手段と前記冷却ジャケット部との間の配管途中に配置され、前記冷却液の逆流を防止する逆流防止手段、
前記上流側配管と前記下流側配管とを連結するバイパス配管、および、
前記下流側配管に配置されるリリーフ弁を有し、
前記バイパス配管の一端は、前記圧送手段と前記逆流防止手段との間の配管途中に接続され、
前記バイパス配管の他端は、前記リリーフ弁に接続されている
ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の冷却システム。
【請求項6】
前記冷却液は、溶存気体を含んでいることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の冷却システム。
【請求項7】
前記凹凸構造体の凹部は、止まり穴からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の冷却システム。
【請求項8】
前記止まり穴の直径は、40nm以上700nm以下であることを特徴とする請求項7に記載の冷却システム。
【請求項9】
前記伝熱壁の表面に配置される被膜を有し、
前記凹凸構造体は、前記被膜に形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の冷却システム。
【請求項10】
前記被膜は、酸化物からなることを特徴とする請求項9に記載の冷却システム。
【請求項11】
前記被膜は、前記伝熱壁を陽極酸化することで形成されていることを特徴とする請求項10に記載の冷却システム。
【請求項12】
前記凹凸構造体は、親水性であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の冷却システム。
【請求項13】
前記凹凸構造体は、親水性表面に設けられていることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の冷却システム。
【請求項14】
前記凹凸構造体は、電気絶縁体からなることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の冷却システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−139187(P2010−139187A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317055(P2008−317055)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】