説明

冷却体、金属精製装置及び方法

【課題】精製すべき溶融金属中に冷却体を浸漬し、冷却体を回転させながら表面に高純度金属を晶出させる金属の精製方法に用いられる前記冷却体であって、表面に晶出した金属の遠心力による剥離防止効果を高めることができる冷却体等を提供する。
【解決手段】冷却体3の表面に1個または複数個の凹部31、32、38が形成されると共に、凹部内を含む冷却体の表面に晶出した金属5に冷却体3の回転によって遠心力が加わることによる晶出金属の剥離を防止するために、凹部の底部から開口部までの間の壁面に、凹部内の空間を狭める方向に突出した剥離防止用突部313が形成されているか、及び/または、底部から開口部までの間の壁面の少なくとも一部が、前記遠心力に対して晶出金属に抵抗力を付与する方向に傾斜した平面状または曲面状の傾斜面315に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏析凝固法の原理を利用して共晶不純物を含むアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、鉛、亜鉛等の金属から、共晶不純物の含有量を元の金属よりも少なくし,高純度の金属を製造する方法に用いられる冷却体、この冷却体を備えた金属精製装置、この冷却体を用いた金属精製方法に関に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム、ケイ素、マグネシウム、鉛、亜鉛等の金属の精製方法として,大別して電解法と偏析凝固法が行われている。電解法は高度な精製が可能ではあるが大量の電力が必要となるためにコストがかさんでしまう欠点がある。それに対し偏析凝固法は溶融金属が凝固する時の溶質分配法則を応用する精製方法であり、簡便な装置で精製可能であるためコスト面で優れた製造方法である。
【0003】
偏析凝固法の一つとして、精製用溶湯保持炉内に入れられた共晶不純物を含む溶融金属中に回転冷却体を浸漬し,回転冷却体内に冷却流体を供給しつつこの冷却体を回転させてその周面により純度の高い精製金属を晶出させる方法が知られている(特許文献1参照)。この方法では、冷却体周面への凝固速度が遅いほど、晶出した金属の純度が高くなることがわかっている。
【0004】
ところで、冷却体周面の温度が低い状態のまま冷却体を精製すべき溶融金属中に浸漬すると、その周面への凝固速度が速くなり、その結果晶出した金属の純度が低くなるという問題がある。また、このような凝固速度が大きな状態で晶出した金属は冷却体との密着性が悪く、回転による遠心力によって非常に剥離しやすく、精製金属回収量が少なくなってしまう。
【0005】
この問題に対処する方法として回転冷却体周面に剥離防止用凹溝を設ける手段が考案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】昭公昭61−3385号公報
【特許文献2】特開昭62−280334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載された剥離防止用凹溝は、その内面と溝に晶出した金属との摩擦力により、遠心力による剥離方向の力に対する抵抗力を生じさせているにすぎず、剥離防止効果の点で、今ひとつ十分ではなかった。
【0007】
この発明は、このような技術的背景に鑑みてなされたものであり、精製すべき溶融金属中に冷却体を浸漬し、冷却体を回転させながら表面に高純度金属を晶出させる金属の精製方法に用いられる前記冷却体であって、表面に晶出した金属の遠心力による剥離防止効果を高めることができる冷却体、及びこの冷却体を用いた金属精製装置と金属精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は以下の手段によって達成される。
(1)精製すべき溶融金属中に冷却体を浸漬し、冷却体を回転させながら表面に高純度金属を晶出させる金属の精製方法に用いられる前記冷却体であって、前記表面に1個または複数個の凹部が形成されると共に、前記凹部内を含む冷却体の表面に晶出した金属に冷却体の回転によって遠心力が加わることによる前記晶出金属の剥離を防止するために、凹部の底部から開口部までの間の壁面に、凹部内の空間を狭める方向に突出した剥離防止用突部が形成されているか、及び/または、底部から開口部までの間の壁面の少なくとも一部が、前記遠心力に対して晶出金属に抵抗力を付与する方向に傾斜した平面状または曲面状の傾斜面に形成されていることを特徴とする冷却体。
(2)前記剥離防止用突部と対向壁との最小距離が、前記剥離防止用突部の位置よりも深い位置における凹部内の対向壁面の最大距離の0.9倍以下である前項1に記載の冷却体。
(3)前記剥離防止用突部と対向壁との最小距離が、前記剥離防止用突部の位置よりも深い位置における凹部内の対向壁間の最大距離の0.8倍以下である前項1に記載の冷却体。
(4)前記冷却体は、上下方向に分割された複数の分割体の隣接するもの同士を連結固定することにより形成され、前記凹部は、隣接する分割体の組み合わせによって形成されている前項3に記載の冷却体。
(5)精製すべき溶融金属を収容する炉体と、前記炉体に収容された溶融金属中に浸漬される回転可能な冷却体とを備えた金属精製装置において、前記冷却体は、前項1〜4のいずれかに記載の冷却体であることを特徴とする金属精製装置。
(6)精製すべき溶融金属中に冷却体を浸漬し、この冷却体を回転させながら冷却体の表面に高純度金属を晶出させる金属精製方法において、前記冷却体として、請求項1〜4のいずれかに記載の冷却体が用いられていることを特徴とする金属精製方法。
【発明の効果】
【0009】
前項(1)に記載の発明によれば、冷却体の表面に1個または複数個の凹部が形成されると共に、前記凹部内を含む冷却体の表面に晶出した金属に冷却体の回転によって遠心力が加わることによる前記晶出金属の剥離を防止するために、凹部の底部から開口部までの間の壁部に、凹部内の空間を狭める方向に突出した剥離防止用突部が形成されている場合には、晶出した金属に冷却体の回転による遠心力が作用して、晶出金属が剥離しようとしても、凹部内の金属が突部に引っかかって剥離を阻止する抵抗力が前記金属に付与されるから、晶出金属の剥離を有効に防止することができる。また、凹部の底部から開口部までの間の壁面の少なくとも一部が、前記遠心力に対して晶出金属に抵抗力を付与する方向に傾斜した平面状または曲面状の傾斜面に形成されている場合にも、晶出した金属に冷却体の回転による遠心力が作用して、晶出金属が冷却体から剥離しようとしても、晶出金属は凹部内において、傾斜面から剥離阻止方向の抵抗力を付加されることになり、晶出金属の冷却体からの剥離を有効に防止することができる。その結果、精製金属回収量を増加することができる。
【0010】
前項(2)に記載の発明によれば、剥離防止用突部と対向壁との最小距離が、前記剥離防止用突部の位置よりも深い位置における凹部内の対向壁面の最大距離の0.9倍以下であるから、前記剥離防止用突部による剥離防止効果をさらに高めることができる。
【0011】
前項(3)に記載の発明によれば、剥離防止用突部と対向壁との最小距離が、前記剥離防止用突部の位置よりも深い位置における凹部内の対向壁面の最大距離の0.8倍以下であるから、前記剥離防止用突部による剥離防止効果をさらに一層高めることができる。
【0012】
前項(4)に記載の発明によれば、冷却体は、上下方向に分割された複数の分割体を連結固定することにより形成され、前記凹部は、隣接する分割体の組み合わせによって形成されているから、凹部の形成が容易になる。
【0013】
前項(5)に記載の発明によれば、晶出金属の冷却体からの剥離防止効果を高めることができ、ひいては精製金属回収量を増加できる金属精製装置となしうる。
【0014】
前項(6)に記載の発明によれば、晶出金属の冷却体からの剥離防止効果を高めることができ、ひいては精製金属回収量を増加できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の一実施形態を説明する。
【0016】
図1はこの発明の一実施形態に係る金属精製装置の概略構成と、これを用いた金属精製方法を説明するための図である。
【0017】
図1において、1は溶湯保持炉であり、この溶湯保持炉1の内部に溶融金属2が収容保持されている。保持炉1の上方には、下方に至るに従って外径の縮小する逆円錐台形状の回転冷却体3が、軸部7を介して回転可能にかつ上下左右移動自在に配置されるとともに、金属精製時には冷却体3が下方移動して、溶湯保持炉1内の溶融金属2中に浸漬されるものとなされている。また、図1(C)に示すように、溶湯保持炉1と平行する配置で、精製金属掻き落とし装置4が設置されている。
【0018】
また、図示は省略したが、溶湯保持炉1内の溶融金属2は、一定の温度となるよう加熱炉内に配置され、保持炉1の外側から加熱されるようになっている。
【0019】
図1(A)に示すように、前記回転冷却体3を溶湯保持炉1内の溶融金属2に浸漬し、内部に冷却流体を供給しつつ回転させ、図1(B)に示すように、冷却体1の周面に精製金属5をゆっくり晶出させる。この順序は特に限定するものではなく、回転冷却体3を回転させながら溶融金属2に浸漬させても問題はない。共晶不純物は液相中に排出されて凝固界面近傍の液相中に共用不純物の不純物濃化層が出来るが、回転冷却体3と溶融金属2との相対速度によって不純物濃化層中の不純物が液相全体に分散させられる。この状態で凝固を進行させると、冷却体3の周面には元の溶融金属2よりはるかに高純度の金属塊が得られる。
【0020】
この回転冷却体3を溶融金属2中に浸漬するときに、回転冷却体3の温度が低すぎると、溶融金属2は回転冷却体3への熱拡散により急冷され凝固してしまう。このような凝固速度が大きな状態で晶出した金属は、回転冷却体3との密着性が悪く、回転冷却体3の回転による遠心力によって非常に剥離しやすく、精製金属回収量が少なくなってしまう。
【0021】
そこで、この実施形態では、回転冷却体3の表面に剥離防止のための凹部を形成している。
【0022】
即ち、図2(A)に示すように、回転冷却体3の外周面には、軸方向(上下方向)に延びる凹部としてのリング状の凹溝31が、周方向に間隔を置いて形成されている。
【0023】
前記凹溝31は、図2(A)のIIB−IIB線断面図である図2(B)に示すように、深さ方向と平行に切断したときの断面形状において、開口部311の溝幅aが短く底面部312の溝幅bが長く、かつ底面部312から開口部311に至るに従って溝幅が連続的に小さくなるくさび型に形成されている。つまり、凹溝31の底面部312から開口部311までの間の溝幅方向の両壁面に、凹溝31内の空間を狭める方向に連続的に突出した剥離防止用突部313、313が形成されている。
【0024】
溶融金属2中に浸漬された回転冷却体3の回転により、図2(C)に示すように、前記凹溝31内を含む冷却体3の表面には金属5が晶出する。この金属5には、冷却体3の回転により冷却体3の半径方向外方(矢印Pで示す)への遠心力が作用し、この遠心力により晶出金属5は、冷却体3から剥離する方向の力を受けるが、凹溝31内の晶出金属5が抜け方向に剥離しようとしても、前記凹溝31の両壁面に形成された突部313、313に引っかかって剥離阻止方向(矢印Qで示す)の抵抗力が付加される結果、晶出金属5全体の冷却体3からの剥離を抑制でき、剥離防止効果を高めることができる。剥離するには凹溝31内の晶出金属5が破断しなければならないからである。
【0025】
このような剥離防止効果をより有効に発揮させるためには、凹溝31に人り込んだ精製金属の凝固収縮を考慮すると、前記剥離防止用突部313と対向壁(図2の例では対向壁にも剥離防止用突部313が形成されている)との最小距離が、前記剥離防止用突部313の位置よりも深い位置における凹溝31内の対向壁面の最大距離の0.9倍以下であるのが望ましい。図2の例では、剥離防止用突部313と対向壁との最小距離である前記開口部311の溝幅aが、剥離防止用突部313の位置よりも深い位置における凹溝31内の対向壁面の最大距離である底面部312の溝幅bの0.9倍以下であることが望ましく、特に0.8倍以下とするのが望ましい。
【0026】
なお、図2の例では、深さ方向と平行に切断したときの断面形状において、開口部311の溝幅aが短く底面部312の溝幅bが長く、かつ底面部312から開口部311に至るに従って溝幅が連続的に小さくなるくさび型に形成されている場合を示したが、図3(A)に示すように、底面部312から深さ方向の途中までの溝幅が一定値bであり、開口部311側に溝幅a(ただしb>a)で対向する剥離防止用突部313、313が両側壁面に形成された断面形状としてもよい。
【0027】
また、図3(B)に示すように、凹溝の底面部312側が直径bの円形で、開口部311側に溝幅a(ただしb>a)で対向する剥離防止用突部313、313が両側壁面に形成された断面形状としてもよい。
【0028】
また、図3(C)に示すように、溝幅bの凹溝31の深さ方向の途中の位置において、溝幅a(ただしb>a)で対向する剥離防止用突部313、313が両側壁面に形成された断面形状としてもよい。この場合、図3(D)に示すように、底面部312にさらに凹所314を設けても良い。
【0029】
また、凹溝31は冷却体3の周面の軸方向に形成されていなくても良い。例えば、図4(A)に示すように、周方向に延びるリング状の凹溝31を軸方向に間隔を置いて形成しても良いし、図4(B)に示すように、螺旋状に形成しても良いし、図4(C)に示すように、螺旋状かつ交差状に形成しても良い。また、図4(D)に示すように、短尺の溝を多数設けても良い。
【0030】
また、凹部形状は加工効率の面から幅細の溝状であることが望ましいが、溝状に限定されることはなく、図4(E)に示すように、深さ方向と直交する面で切断したときの断面形状が円形または角形の多数の小孔からなる凹部32を、冷却体3の外周面に分散状態に形成しても良い。この場合の凹部32の形状も、図2及び図3に示したものと同様に、凹部32の底部から開口部までの間の壁面に、凹部32内の空間を狭める方向に突出した剥離防止用突部が形成されている断面形状とすればよい。
【0031】
次に、凹部の変形例を図5に示す。この例では、凹部の底部から開口部までの間の壁面の少なくとも一部が、冷却体3の回転により前記晶出金属5に加わる遠心力に対して、凹部内の晶出金属5に抵抗力を付与する方向に傾斜した平面状または曲面状の傾斜面に形成されている。
【0032】
図5(A)は、周面に周方向に伸びる凹部としての凹溝31が、軸方向に間隔を置いて形成されている冷却体3を示すものであり、図5(B)は、前記凹溝31を深さ方向と平行に切断したときの断面図(図5のVB−VB線断面図)である。
【0033】
図5(B)の例では、凹溝31の幅方向の両壁面(上下壁面)315、316が、冷却体3の表面と冷却体3の軸中心とを結ぶ半径方向Xに対して、それぞれ同一角度θをもって傾斜した平行な平面状の傾斜面に形成されている。
【0034】
これにより、図5(C)に示すように、冷却体3の回転によって晶出金属5に半径方向外向きの遠心力(矢印P)が作用して、晶出金属5が冷却体3の表面から剥離しようとしても、凹溝31内の晶出金属5に一方の傾斜壁面315から剥離を阻止する方向の抵抗力が付与されるため、剥離が抑制され、剥離防止効果を高めることができる。
【0035】
このような剥離防止効果をより確実に発揮させるためには、前記金属5に剥離阻止方向の抵抗力を付与する壁面315の冷却体3の半径方向Xに対する傾斜角度θは、5度以上とするのが良く、好ましくは10度以上、さらに好ましくは15度以上がよい。
【0036】
また、凹溝31の両壁面の半径方向Xに対する角度θを、図5(D)に示すように、図5(B)の場合と上下方向逆向きにして、図5(B)の場合と逆に傾斜壁面316により晶出金属5に抵抗力を付与するようにしても良い。
【0037】
また、図5(E)に示すように、剥離を阻止する方向の抵抗力を付与する壁面315は、冷却体3の半径方向Xに対して、角度をもって傾斜した曲面状の傾斜面に形成されていても良い。この場合、接線方向の角度θが冷却体3の半径方向Xに対して、5度以上、好ましくは10度以上、さらに好ましくは15度以上である点を曲面上に有しているのが望ましい。
【0038】
また、凹溝31の幅方向の両壁面は平行でなくても良く、図5(F)に示すように、冷却体3の半径方向Xに対する一方の壁面316の角度θ1と、他方の壁面315の角度θ2とを異なる値に設定しても良い。
【0039】
なお、図5の例では、凹溝31が冷却体3の周方向に形成された場合を示したが、これに限定されることはない。例えば、図2に示すように、軸方向に延びる凹溝を周方向に間隔を置いて形成しても良いし、図4(B)に示すように、螺旋状に形成しても良いし、図4(C)に示すように、螺旋状かつ交差状に形成しても良い。また、図4(D)に示すように、短尺の溝を多数設けても良い。
【0040】
また、傾斜面を有する凹部は溝状のものに限定されることはなく、深さ方向と直交する面で切断したときの断面形状が円形または角形の多数の小孔からなる凹部を、図4(E)に示すように、冷却体3の周面に分散状態に形成しても良い。この場合の凹部の形状も、底部から開口部までの間の壁面の少なくとも一部が、遠心力に対して晶出金属5に抵抗力を付与する方向に傾斜していれば良い。
【0041】
図6は、この発明の他の実施形態を示すものであり、この実施形態では、冷却体3が上下方向に分割された複数の分割体により構成されている。すなわち、冷却体3は有底の中空体からなるとともに、冷却体3の底部を構成する皿状の底部分割体35と、中間部を構成する1個または複数個のリング状の中間分割体36と、最上部に位置し軸部7に固定された上部分割体37により構成されている。
【0042】
前記上部分割体37を除く各分割体35、36の上端部には、図6(B)に示すように、内周面に連続して立ち上がった薄肉の連結用筒部361が形成され、連結用筒部361の外側にリング状の平坦面362が形成されている。また、連結用筒部361の外周面には雄ネジ部363が形成されている。
【0043】
一方、下部分割体35を除く各分割体36、37の下端部には、中空部364に連接する径大のねじ込み孔365が形成されるとともに、ねじ込み孔365の内周面には前記連結用筒部361の雄ネジ部363に螺合可能な雌ネジ部366が形成されている。
【0044】
そして、下側に位置する分割体35、36の連結用筒部361を、上側の分割体36、37のねじ込み孔365にねじ込んで、各分割体35、36、37を相互に連結固定することにより、冷却体3が構成されている。
【0045】
さらに、この実施形態では、上下の分割体35、36、37が連結固定された状態で、図6(C)及び拡大図である図6(D)に示すように、前記連結用筒部361の外側の平坦面362と、これに対向する上側の分割体のリング状の下端面367との間に、所定深さの幅細のリング状の隙間38が形成されている。
【0046】
前記隙間38は、溶融金属が晶出する凹溝として機能するものであり、冷却体3の上下方向に間隔をおいて複数個形成されている。また、凹溝38の深さ方向と平行に切断したときの断面形状において、凹溝38の底面近くには溝幅bの円形幅広部39が形成される一方、前記幅広部39に連接して凹溝の開口部側には、溝幅a(ただしb>a)で対向する剥離防止用突部369、369が、凹溝38の両側壁面に形成されている。
【0047】
前記幅広部39は、各分割体の端面362、367に、断面が上向きまたは下向きの半円状のくぼみ部を予め加工することにより形成されたものである。このようなくぼみ部の加工は、連結前の各分割体に対して行うことができるから、加工が極めて容易であり、ひいては凹溝38及び剥離防止用突部369、369の形成を極めて容易に行うことができる。
【0048】
なお、分割体35、36、37の組み合わせによって形成される凹部38の形状は、図6のものに限定されることはなく、図3(A)〜(D)に示したような形状であっても良いし、分割体の凹部形成用端面を傾斜面に加工しておくことにより、図5(B)〜(F)に示すような形状としても良い。いずれの場合も、容易に凹部を形成できる。
【0049】
以上説明したような凹部31、38を冷却体3に形成することにより、金属の精製処理中に冷却体3の表面に晶出した金属5が剥離することなく精製は進む。共晶不純物は液相中に排出されて凝固界面近傍の液相中に共晶不純物の不純物濃化層ができるが、回転冷却体3と溶融金属2との相対速度によって不純物濃化層中の不純物が液相全体に分散させられる。この状態で凝固を進行させると冷却対周面には元の溶融金属よりはるかに高純度の金属塊が得られる。
【0050】
このとき、回転冷却体3がある一定以下の温度であると、溶融金属2は回転冷却体3への熱拡散により急冷され凝固してしまう。この凝固した金属は共晶不純物がほとんど排出されないため、ほぼ元の溶融金属と同じ不純物濃度となってしまうものである。
【0051】
一定時間経過後に回転冷却体3は、図1(C)に示すように、晶出した金属5とともに引き上げられ、掻き落とし装置4にて周面に晶出した精製金属5を掻き落とす。掻き落としの際に、凹部31、38に入り込んだ精製金属5は回転冷却体3の表面近傍部分で破断する。その後、図1(D)に示すように、回転冷却体3は所定温度となるように加熱装置6にて加熱され、再度溶湯保持炉1に移動させ、精製を行う。
【0052】
この金属精製装置において、精製用溶湯保持炉は単独であっても連結樋によって互いに連通状に接続されていてもかまわない。単独の場合は、精製を繰り返すと溶融金属の不純物濃度が増すため、精製した金属の純度が悪化してしまう。そのために定期的に溶融金属を入れ替え必要がある。連結樋によって互いに連結した場合は、一端から新たな溶融金属を注ぎこめば溶融金属が隣接する精製用溶湯保持炉に流出し、高濃度の溶融金属がそのまま精製用溶湯保持炉に対流することはなく溶融金属を人れ替える必要がない。また最下流の精製溶湯保持炉から流出した溶融金属ほ精製に適さない濃度となるので排出される。
【0053】
回転冷却体3は黒鉛、セラミックス製等が望ましいが、これに限るものてはない。高温の溶融金属と接触するために回転冷却体も高温となるので、この高温で溶融せず、極端な強度低下をしないものであれば良く、金属製であっても構わない。回転冷却体3を冷却するための冷媒も特に限定はされず、窒素ガス、二酸化炭素ガス、アルゴンガス、圧縮エアー等が使用でき、コストの面で圧縮エアーが推奨出来る。
【0054】
アルミニウムを精製する際、アルミニウムと包晶を生成する不純物が含まれる場合には、ホウ素添加および撹拌をする。するとホウ素が溶融金属中に含まれているTi、V、Zr等の包晶不純物と反応してTiB2、VB2、ZrB2等の不溶性ホウ化物が生成する。余剰のホウ素は、共晶不純物にして除去される。上記ホウ化物は、るつぼ内で冷却体の回転により生じる遠心力によって冷却体から遠ざけられ、冷却体の周面に晶出したアルミニウムに含まれることはない。また精製用溶湯保持炉が連結樋によって互いに連通状に接続されている場合は、最上流にホウ素添加用るつぼを配置しておくのがよい。ホウ素は一般的にアルミニウムに添加された母合金ロッドとして溶融金属中に供給される。
【0055】
上記により精製された金属は、高純度であるから、各種の加工や用途に用いることで優れた特性や機能を発揮させることができる。一例を挙げると、精製金属を鋳造に用いて鋳造品を製作しても良いし、この鋳造品を圧延して各種の金属板や金属箔として用いても良い。また、この金属箔を例えばアルミニウム電解コンデンサの電極材として用いてもよい。
【実施例】
【0056】
以下、この発明の実施例を説明する。
【0057】
不純物として主にFe:500ppm、Si:400ppmが含まれるアルミニウム溶湯を精製保持炉内に入れ、精製炉ヒーターの電力を調整し665℃の温度に保持する。その後、温度を調整した上端部の外径が150mmであるテーパー形状(図2(A)のような逆円錐台形状)の回転冷却体を溶湯中に浸潰し、周速3.1m/secの速度で回転させながら、7分間回転冷却体周面に精製アルミニウムを晶出させた。なお回転冷却体内には圧縮エアーを直接当てて冷却させた。
【0058】
上記のような条件において、冷却体として、外周面に下記のような凹部を有するものを用いて生成を行った。
(実施例1)
冷却体3として、図2(A)に示すように、外周面に軸方向(上下方向)に延びる凹部としてのリング状の凹溝が、周方向に間隔を置いて形成されているものを用いた。凹溝の断面形状は図2(B)と同じとし、凹溝の数は16本、溝の深さは2mmとし、開口部の溝幅aと底面部の溝幅bを表1のように変化させたときの、精製中の剥離回数を測定したところ、表1に示すとおりであった。
【0059】
【表1】

【0060】
表1から理解されるように、溝幅aと溝幅bが等しく剥離防止用凸部を有していない試料1は、b>aである試料2及び3に較べて精製中の剥離回数が多かった。また、a/bが0.9倍である試料2よりも、a/bが0.8倍である試料3の方が剥離回数が少なかった。
【0061】
(実施例2)
冷却体3として、図4(E)に示すように、深さ方向と直交する面で切断したときの断面形状が円形の多数の小孔からなる凹部を、外周面に分散状態に形成したものを用いた。また、凹部の断面形状は図2(B)と同じとし、凹部の深さは2mmとし、開口部の直径aと底面部の直径bを表2のように変化させたときの、精製中の剥離回数を測定したところ、表2に示すとおりであり、実施例1と同様の結果が得られた。
【0062】
【表2】

【0063】
(実施例3)
冷却体として、図5(A)に示すように、周方向に延びるリング状の凹溝が、軸方向に間隔を置いて形成されたものを用いた。凹溝の断面形状は図5(B)と同じとし、凹溝の数は5本、溝の深さは2mmとし、冷却体の半径方向Xに対する凹溝の溝幅方向の両壁面の角度θを表3のように変化させたときの、精製中の剥離回数を測定したところ、表3に示すとおりであった。
【0064】
【表3】

【0065】
(実施例4)
凹溝として図5(D)の断面形状とした以外は実施例3と同じ冷却体を用い、凹溝の幅方向両壁面の傾斜角度θを表4に変化させたときの、精製中の剥離回数を測定したところ、表4に示すとおりであった。
【0066】
【表4】

【0067】
(実施例5)
冷却体として、図5(A)に示すように、周方向に延びるリング状の凹溝が、軸方向に間隔を置いて形成されたものを用いた。凹溝の数は5本、凹溝の断面形状は下から1本目、3本目、5本目の各凹溝については図5(B)と同じ、下から2本目、4本目の各凹溝については図5(D)と同じとし、溝の深さは2mmとした。冷却体の半径方向Xに対する凹溝の溝幅方向の両壁面の角度θを表3のように変化させたときの、精製中の剥離回数を測定したところ、表5に示すとおりであった。
【0068】
【表5】

【0069】
(実施例6)
冷却体3として、図2(A)に示すように、外周面に軸方向(上下方向)に延びる凹部としてのリング状の凹溝が、周方向に間隔を置いて形成されているものを用いた。凹溝の断面形状は図5(B)と同じとし、凹溝の数は16本、溝の深さは2mmとし、冷却体の半径方向Xに対する凹溝の溝幅方向の両壁面の角度θを表6のように変化させたときの、精製中の剥離回数を測定したところ、表6に示すとおりであった。
【0070】
【表6】

【0071】
(実施例7)
冷却体として、図5(A)に示すように、周方向に延びるリング状の凹溝が、軸方向に間隔を置いて形成されたものを用いた。凹溝の断面形状は図5(F)と同じとし、凹溝の数は5本、溝の深さは2mmとした。冷却体の半径方向Xに対する凹溝の溝幅方向の両壁面の角度θ1、θ2を表7のように変化させたときの、精製中の剥離回数を測定したところ、表7に示すとおりであった。
【0072】
【表7】

【0073】
(実施例8)
冷却体3として、図4(E)に示すように、深さ方向と直交する面で切断したときの断面形状が円形の多数の小孔からなる凹部を、外周面に分散状態に形成したものを用いた。また、凹部の断面形状は図5(B)と同じとし、凹部の深さは2mmとし、冷却体の半径方向Xに対する凹部の壁面の角度θを表8のように変化させたときの、精製中の剥離回数を測定したところ、表8に示すとおりであった。
【0074】
【表8】

【0075】
(実施例9)
冷却体3として、図6(A)に示すように、上下方向に6個に分割した分割体の相互連結体からなり、各分割体の連結部の外側に、図6(C)に示すような周方向に延びるリング状の凹溝を、軸方向に5個有する冷却体を用いた。凹溝の開口部側の溝幅aと幅広部bの溝幅を表9のように変化させたときの、精製中の剥離回数を測定したところ、表9に示すとおりであった。
【0076】
【表9】

【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】この発明の一実施形態に係る金属精製装置の概略構成と、これを用いた金属精製方法を説明するための図である。
【図2】(A)は図1の精製装置に用いられている冷却体の正面図、(B)は(A)のIIB−IIB線の断面図、(C)は金属が晶出した状態でのIIB−IIB線の断面図である。
【図3】(A)〜(D)は凹部の変形例を示す断面図である。
【図4】(A)〜(E)は冷却体における凹部の配置状体を示す正面図である。
【図5】凹部の変形例を示すもので、(A)は冷却体の正面図、(B)は(A)のVB−VB線断面図、(C)は金属が晶出した状態でのVB−VB線の断面図、(D)〜(F)は凹部の変形例を示す断面図である。
【図6】この発明の他の実施形態を示すもので、(A)は冷却体の正面図、(B)は分割体の断面図、(C)は分割体を連結した状態の正面図、(D)は凹部の拡大図である。
【符号の説明】
【0078】
1 溶湯保持炉
2 溶融金属(溶湯)
3 冷却体
5 精製金属
6 加熱装置
7 軸部
31、38 凹部(凹溝)
32 凹部
311 開口部
312 底面部
313 剥離防止用凸部
315 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製すべき溶融金属中に冷却体を浸漬し、冷却体を回転させながら表面に高純度金属を晶出させる金属の精製方法に用いられる前記冷却体であって、
前記表面に1個または複数個の凹部が形成されると共に、前記凹部内を含む冷却体の表面に晶出した金属に冷却体の回転によって遠心力が加わることによる前記晶出金属の剥離を防止するために、凹部の底部から開口部までの間の壁面に、凹部内の空間を狭める方向に突出した剥離防止用突部が形成されているか、及び/または、底部から開口部までの間の壁面の少なくとも一部が、前記遠心力に対して晶出金属に抵抗力を付与する方向に傾斜した平面状または曲面状の傾斜面に形成されていることを特徴とする冷却体。
【請求項2】
前記剥離防止用突部と対向壁との最小距離が、前記剥離防止用突部の位置よりも深い位置における凹部内の対向壁面の最大距離の0.9倍以下である請求項1に記載の冷却体。
【請求項3】
前記剥離防止用突部と対向壁との最小距離が、前記剥離防止用突部の位置よりも深い位置における凹部内の対向壁間の最大距離の0.8倍以下である請求項1に記載の冷却体。
【請求項4】
前記冷却体は、上下方向に分割された複数の分割体の隣接するもの同士を連結固定することにより形成され、
前記凹部は、隣接する分割体の組み合わせによって形成されている請求項3に記載の冷却体。
【請求項5】
精製すべき溶融金属を収容する炉体と、前記炉体に収容された溶融金属中に浸漬される回転可能な冷却体とを備えた金属精製装置において、
前記冷却体は、請求項1〜4のいずれかに記載の冷却体であることを特徴とする金属精製装置。
【請求項6】
精製すべき溶融金属中に冷却体を浸漬し、この冷却体を回転させながら冷却体の表面に高純度金属を晶出させる金属精製方法において、
前記冷却体として、請求項1〜4のいずれかに記載の冷却体が用いられていることを特徴とする金属精製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−138267(P2009−138267A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292990(P2008−292990)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】