説明

冷却加湿アセンブリ

【課題】腹膜腔内の温度を下げるシステム、及び乾燥させずに冷却が可能な調整ユニット、及び癒着形成を予防するための方法を提供する。
【解決手段】低体温が、癒着形成、より特定的には気腹術により促進される癒着形成を減らすことが判明したことに基づき、冷却システムは、乾燥を防ぐためにすべての時間で100%相対湿度を維持しつつ、手術中の腹膜腔温度を下げるように設計されており、調整ユニットは、吸入気体を調節して、必要な冷却を最小限にしながらこのことを達成するように設計される。これは乾燥を防ぎながら冷却し、癒着をより効果的に防ぐための新規な方法である。マウスにおいて、因子、例えば、環境温度、麻酔、換気及び気腹術を使用して、癒着形成を防ぐために体温に影響を与えることが示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、癒着形成の予防及び冷却システムに関し、特に、腹膜腔内の温度を下げるシステム、及び乾燥させずにこの冷却を得ることが可能な調整ユニット、及び特に癒着形成を予防するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
術後癒着形成は、その合併症、例えば、腸閉塞(Ellis H Eur J Surg Supp 15−9,1997)、慢性的な骨盤の痛み(Duffy DM, DiZerega GS, J Reprod Med 41: 19−26,1996)及び女性の不妊症(Gomel V: Fertil Steril 40:607−611,1983)及び手術時間の長期化及び術後合併症(さらなる外科的手技が必要な場合)のために重大な臨床的問題である。最も一般的な原因は、従来の手術である。重要な癒着形成に関係する最もよくある外科的手技は、婦人科、心血管、一般の腹部手術である。腹腔鏡手術と同様に、このことは、従来の手術にとって真実である。
【0003】
癒着形成に関係する病態生理学的事象は、周知であり(Holmdahl L et al, Eur J Surg Suppl 56−62,1997 and DiZerega GS, Eur J Surg Suppl 10−16,1997)、以下のようにまとめることができる:腹膜欠損によって浸出、フィブリン堆積が起こり、3〜8日以内で炎症性の反応、線維素溶解および完全な再上皮化が起こる。この迅速な治癒は、病変中の複数の病巣からの中皮層の再生の結果であり、別の上皮の再生中に見出されるような境界からの再生の結果ではない。この直接的な結果は、再上皮化期間は腹膜中の露出した部位から独立しているということである。この迅速な治癒プロセスが、フィブリンの積みすぎによって(例えば、出血による)、線維素溶解の減少によって(例えば、さらに重篤な組織外傷の結果として)失敗し、持続的なフィブリンマトリックスが得られる(Bittinger F, J Surg Res 82: 28−33,1999)、又は長期にわたる炎症性の反応によって(例えば、感染症又は縫合材料による)失敗する場合、長期にわたる線維芽細胞増殖、コラーゲン堆積、血管形成が起こり、最終的に癒着形成が起こる。
【0004】
これらの結果の罹患率及び重篤度の正確なデータは、癒着が手術の過酷さと共に変動するため、及び系統だった二次的点検の内視鏡検査により、明らかな倫理的理由のために実行することができないため、入手することができない。癒着は、開腹後患者のうち50%より多くで起こる一方、開腹後の癒着のための再診療の危険性は、スコットランドにおける大きな手術において、最近の10年間では35%であると概算されている(Ellis
H.et al,Lancet 353: 1476−1480,1999)。癒着形成は、外科的手技後の重大な課題であり、手術後の痛み、及び不妊性のよくある原因である。癒着は腸閉塞の主な原因であり、腹腔内手順後に、癒着が約50〜80パーセントの患者に起こると推定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、患者の癒着形成を阻害するための方法及び組成物の必要性が存在する。
また、最小の接近手術と呼ばれている内視鏡検査は、術後の病的状態を減少し、痛みをより少なくし、入院期間を短縮するという明確な効果を与えるので、最近は広く使われて
いるようになっている。これらの手順は、拡張を視覚化可能な吸入システム又は洗浄システムを必要とする。内視鏡手術は、気体流、例えば二酸化炭素ガス(CO)を使用する。無酸素血症が癒着形成の主な原因及び/又は共因子であるため、適切な比率のCO/Oの気体混合物が、現在、癒着形成を減らすために用いられており、提案されている(US6428500)。
【0006】
しかしながら、気腹術、特にCO気腹術は、癒着形成における共因子のままである。
本願発明者らは、CO気腹術及びCO/Oの下での、冷却の癒着形成への特定の影響について、内視鏡マウスモデルにおいて評価した。
【0007】
第1に、ベースとなる癒着及び気腹術により促進される癒着の形成に対する体温の影響を、室温(RT)又は37℃に置かれたマウスで評価した。第2に、換気の際に加湿空気を使用することの体温に対する影響を評価した。その後、癒着形成に対する体温(32〜37℃)の影響を詳細に評価した。最後に、体温を37℃に維持したマウスにおいて、純粋なCOによる気腹術により促進される癒着の形成と共に、3〜12%の酸素を加えた場合の影響を確認した。
【0008】
驚くべきことに、気腹術により促進される癒着形成が、より低い体温ではそれほどおこらないことがわかった。
【0009】
加湿されていない気体が換気又は気腹術のいずれかのために使用される場合、体温の低下が麻酔及び乾燥の結果である場合がある。本願発明者らは、37℃の環境温度で、気腹術に3%の酸素を添加することにより、癒着形成が減少し、12%の酸素を添加することにより、3%よりも多い癒着が生じることを確認した。
【0010】
さらに驚くべきことに、低体温が癒着形成を減らすことが発見され、明らかに示された。低体温を誘発し、制御するためのシステムは、哺乳動物、好ましくはヒトの外科手術、好ましくは内視鏡手術における癒着を予防するために設計される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
腹腔鏡検査の間、気腹術は作業空間を作るために必要であり、COは、一般的に安全の理由すなわち、水への高い溶解度及び肺での高い交換能のための使用される。COによる気腹術は、全身的及び局所的な影響を生じることは周知である。全身的に、CO気腹術は過炭酸症および酸血症をもたらす(Junghans et al.,1997;Liem et al.,1996)。局所的に、CO気腹術は、pHを下げ(Volz et al.,1996)、微小循環を変え(Taskin et al.,1998)、中皮細胞の形態を変える(Hazebroek et al.,2002;Volz et al.,1999;Suematsu et al.,2001)。
【0012】
さらに、CO気腹術中、特に、冷たく乾燥したCO気体を高い流速で使用する場合には、体温は減少する場合がある(Bessell et al.,1999)。熱力学から予想されるように、この冷却効果は、気体温度によるものはほとんどなく、主に乾燥COを加湿するために体内の水を蒸発させるのに必要なエネルギーによるものである(Bessell et al.,1995)。実際に、暖かい乾燥気体を用いても冷却を防ぐことはできず(Bessell et al.,1995;Hazebroek et al.,2002)、一方、冷たい加湿気体によって冷却はかなりの程度まで予防することができる(Hazebroek et al.,2002)。ラット(Hazebroek et al.,2002)、ブタ(Bessell et al.,1995
;Bessell et al.,1999;Mouton et al.,1999)、及びヒト(Puttick et al.,1999)において示されるように、暖かい加湿気体を用いることによって冷却を完全に予防することができる。当該技術分野における努力により、患者の体腔及び手術部位に対する冷却の影響を防ぐことができた。
【0013】
乾燥し冷却したCOを用いた気腹術は、中皮の形態を変える、すなわち、六角形のパターンを破壊し、絨毛様突起を減らし(Hazebroek et al.,2002)、細胞を膨隆させる(Volz et al.,1999;Suematsu et al.,2001)。乾燥し冷却したCOのこれらの影響はさらに、胸腔鏡検査の後、胸膜中皮で観察される(Mouton et al.,1999)。これらが暖かい加湿気体を用いて予防可能であるかどうかは、予防できるという報告(Mouton et al.,1999)と、効果なしという報告(Hazebroek et al.,2002)の両方がされているため、不明である。いずれにしろ、ヒトにおける内視鏡手術の用の高い流速の通気器の導入以来(Koninckx and Vandermeersch,1991)、使用されるCOは徐々に加温され、加湿されるようになった。暖かい加湿気体の使用は、手術後の痛み及び入院期間を減らし(Demco 2001)、腹膜内サイトカイン反応を減らし(Puttick et al.,1999)、腫瘍増殖を減らす(Nduka et al.,2002)ことが主張された。
【0014】
ここ数年にわたって、CO気腹術は、術後癒着形成の共因子として知られるようになった(Ordonez et al.,1997;Molinas and Koninckx 2000;Molinas et al.,2001)。いくつかの機構が関与しているようである。第1に、気腹術の持続時間及び吸入圧に伴ってこの影響が増加するため、同様の効果がヘリウムを用いた気腹術で観察されたため、2〜4%の酸素をCO及びヘリウムを用いた気腹術に添加すると癒着形成が減少したため(Molinas and Koninckx 2000;Molinas et al.,2001)、低酸素誘発因子(HIF)(Molinas et al. , 2003b)、プラスミノゲンアクチベータ1(PAI−1)(Molinas et al.,2003a)、脈管内皮成長因子(VEGF)及び胎盤成長因子(P1GF)が存在しないマウスにおいてこの影響がなかったため(Molinas et al.,2003c)、中皮の低酸素により誘発される血管形成が機構として示唆された。第2に、反応性酸素種(ROS)活性が開腹及び腹腔鏡検査の間に増加するため、ROSが虚血/再かん流プロセスの間に作られるため、及びいくつかの動物モデルにおいてROSスカベンジャの投与により癒着形成が減少するため、癒着形成における反応性酸素種(ROS)の役割が示唆された(Binda et al.,2003)。第3に、他の機構、例えば冷却及び乾燥が関与している可能性があった。
【0015】
気腹術の間、乾燥及び冷却は、密に関連している。腹膜損害及び癒着形成に対する乾燥及び冷却の正確な役割は、まだ詳細に研究されてはいないが、本願発明者らは、腹腔鏡マウスモデルにおいて、CO気腹術中の冷却の癒着形成に対する特別な効果を評価することを計画した。
【0016】
定義
気腹術は、腹腔鏡検査及び腹腔鏡手術の間、露出を達成するために患者の腹部に気体が導入されることを意味する。腹腔鏡検査及び腹腔鏡手術の間の気腹術は、通気器によって達成することができ、例えば特定の障害を処置するための腹腔鏡検査及び腹腔鏡手術の間、露出を達成するために、気体、例えば、二酸化炭素を腹膜に注入するための手段を意味する。内視鏡吸入システムは、通気器を含む内視鏡を意味する。
【0017】
低体温は、37℃(98.6°F)であるヒトの通常な体温より顕著に低い体温又は部
位の体温を意味する。表面冷却で得ることができる中程度の体温は23〜32℃であると考えられ、顕著な低体温は、12〜20℃の体温又は部位の体温であると考えられる。
【0018】
患者は、本明細書において、外科手術を受けたか、受けようとしているか、又は受けさせられる動物、好ましくは温血動物、さらに好ましくは哺乳動物、もっとも好ましくはヒトを意味する。
【0019】
結果
第1の実験(図1)において、マウス及び装置を環境的RT又は37℃のいずれかに維持した。マウスに、ベースとなる癒着及び気腹術により促進される癒着を形成させるために10分間(T20〜T30)又は60分(T20〜T80)の気腹術を行った。麻酔及び換気のみの間(T〜T20)、体温は、RT及び37℃で、それぞれ約36.5℃から31℃、37.5℃から35℃に下がった。RTで、10分間又は60分間の気腹術を行ったマウスにおいてT80で、体温はさらにそれぞれ28.5℃及び26.5℃まで下がった。37℃では、体温は10分間又は60分間の気腹術について、それぞれT80で34.5℃及び35.5℃に維持されていた。最終的に、体温は、常に、すなわち、RT(p<0.0001)及び37℃(p=NS)で10分間の気腹術後よりも60分間の気腹術の後に低下しており、;体温はさらに、37℃、でよりもRTで常に、すなわち、10分間の気腹術(p<0.0001)及び60分間の気腹術(p<0.0001)低下していた(2方式のANOVA)。
【0020】
RTで、癒着形成は、以前に示されたように、気腹術の持続時間に伴って増加した(10分 対 60分:比率:p<0.05)。37℃で、気腹術の持続時間のこの影響はさらに顕著であった(10分 対 60分:比率:p=0.01、合計:p=0.04、程度:p=0.02、種類:p=0.03)。それに加えて、37℃での癒着形成は、気腹術により促進される癒着(比率:p=0.04、合計:p<0.05、程度:p=0.03)では明確に、ベースとなる癒着ではわずかに(p=NS)、RTよりも大きかった(図1、表I、Mann Whitney試験)。
【0021】
第2の実験では、体温は、加湿空気が換気のために使用された場合に、約1℃高く(p=0.003、2方式のANOVA)、加湿した換気の場合には、38.1±0.1(T)、36.4±0.1(T10)、35.9±0.3(T20),36.2±0.5(T30)、36.5±0.6(T40),36.5±0.6(T50),36.8±0.5(T60),37.0±0.5(T70)及び37.1±0.5(T80)℃であり、加湿していない換気の場合には、37.8±0.4(T)、36.1±0.1(T10)、35.0±0.4(T20)、35.3±0.5(T30)、35.4±0.5(T40)、35.8±0.7(T50)、35.7±0.6(T60)、35.6±0.5(T70)及び36.1±0.5(T80)℃である。
【0022】
第3の実験(図2)では、麻酔及び換気のみの間(T〜T20)、体温は、グループI及びIIについては38℃から35.5℃に下がり、グループIIIについては36.5℃から31℃に下がった。その後で、体温は、T80まで、グループIについては37℃、グループIIについて36℃、グループIIIについてはは32.5℃の一定温度に維持された(グループI 対 III:p<0.0001、II 対 III:p<0.0001及びI 対 II:p=0.02)。グループIV、V及びVIの体温は、グループIと同様であった(p=NS、データは示されない、2方式のANOVA)。
【0023】
気腹術により促進される癒着の形成は、体温の低下に伴って減少した(ピアソン相関:比率についてp=0.0171;図2、表II)。グループIと比較して、気腹術により促進される癒着は、グループIIIにおいて低かった(比率:p=0.04;Mann
Whitney試験)。他のグループとの差は、統計的有意性はなかった。
【0024】
以前(実験I)に示されたように、本願発明者らは、37℃のチャンバにおいて、気腹術が10分から60分まで延長された場合に、癒着形成が増加したことを確認した。(グループVI 対 I:比率:p=0.04、合計:p=0.02、程度:p=0.04、種類:p=NS、引っ張り強さ:p=0.04)。純粋なCOを用いた場合(グループI)と比較して、3%の酸素を加えた気腹術(グループIV)では、癒着形成が減少した(比率:p=0.03、合計:p=0.04、程度:p<0.05、種類:p=NS、引っ張り強さ:p=NS)。3%の酸素を加えた気腹術(グループIV)と比較して、12%の酸素を加えた気腹術(グループV)では癒着が増加したが、統計的有意性はなかった(図3、表II)。
【0025】
図4では、体温と気腹術により促進される癒着形成との関係をグラフに示すために、実験I及びIIIのデータが組み合わされている。すべてのデータをまとめると、気腹術により促進される癒着形成は、低い体温に伴って顕著に減少する(線形回帰及びPearson相関:比率についてp=0.0036;合計についてp=0.0251)。
【0026】
この研究により、麻酔、換気及び気腹術が体温に与える影響に関する以前のデータが確認され、拡張された。
【0027】
本願発明者らは、以前にラット(Torbati et al.,2000)、マウス(Gardner et al.,1995)及びヒト(Buhre and Rossaint 2003)において示されたように、麻酔によりマウスの体温が下がることを確認した。予想されたように、この冷却の影響は、環境温度によって影響を受け、RTでは顕著であり、37℃ではそれほど顕著ではなかった。これらの観察結果は、ヒトにおける手術室の室温の報告された影響と一致している。実際に、患者は、暖かい実験室内にいる場合には麻酔の後に正常体温のままであるが、より低い温度の手術室にいる場合には低体温となった(Morris and Wilkey 1970;Morris 1971a;Morris 1971b)。この純粋な麻酔による副作用は、保温を阻止する皮膚血管拡張によって生じる。結果として、麻酔された被検体は不規則な状態の体温となり、体温は環境温度に伴って変動する(Morris 1971b)。
【0028】
この研究は、加湿していない換気が、体温を下げる場合があることをマウスにおいて示し、ヒトにおける以前のデータを確認した(Fonkalsrud et al.,1980;Bissonnette and Sessler 1989;Dery 1973)。飽和していない空気は、濡れた表面からの蒸発によって水を吸収する(Williams et al.,1996)ため、呼吸経路から水を失うことが、最ももっともらしい説明である。
【0029】
本願発明者らは、これらの実験において、気腹術のために使用された気体によって生じる乾燥が冷却をもたらすことを以前に示し、確認した。それゆえに、加湿していない気体は、乾燥が重要であるために、さらに大きい流速で重大な冷却をもたらす。この理由のために、本願発明者らは、腹部を通るいかなる流れも防ぐことによって(実験I)、及び気体を加湿することによって(実験II及びIII)、乾燥を防ぐことにかなりの注意を払った。トロカール挿入の気体の完全な密閉を得るのが非常に困難であるため、及び100%未満の加湿がいくらか乾燥を生じさせるため、気腹術による少なくともいくつかの乾燥を完全に除外することは困難である。このことは、可能な限り乾燥を防ごうと努力したとしても、60分の気腹術が、10分の気腹術よりもわずかに冷却を引き起こすことを説明する。これらのデータは、明らかに、他の同時の効果(例えば脈管圧縮及び循環の減少)を除外することはできない。
【0030】
乾燥と冷却との関係は複雑である。第1に、乾燥は冷却を引き起こす。第2に、絶対湿度が温度に伴って増加する(例えば、100%の相対湿度は、25℃では水25mg/気体1リットルに対応し、37℃では水44mg/気体1リットルに対応する)ために、乾燥はより高い気体温度でより重要である。このことは、癒着形成に対する影響が、乾燥及び冷却の両方が厳しく制御されない場合にも変動し得ることを説明する。それゆえに、乾燥の影響を評価する実験は、乾燥により温度が下がり、これにより乾燥が減少するために、この影響を過小評価する場合がある。
【0031】
本発明によれば、本願発明者らは、低体温が癒着形成を減らすという発見を明確に示した。気腹術により促進される癒着が体温の増加に伴って増加するだけではなく、ベースとなる癒着及び気腹術により促進される癒着の形成の間の差は、体温の増加に伴って増加する。
【0032】
本発明は、初めて、低体温が直接的に組織及び細胞を気腹術による癒着を促進する効果から保護することを示す。
【0033】
1つの可能な理由は、細胞による酸素消費が温度の減少に伴って減少することである。低体温は、虚血中の広範囲にわたる脳の代謝速度を下げ、ショ糖、クレアチンリン酸及びATPの破壊を遅くし、ラクテート及び無機ホスフェートの形成を遅くする(Erecinska et al.,2003)。
【0034】
低体温の影響の別の理由は、虚血−再かん流プロセスに対する影響であり、気腹術により促進される癒着形成は、虚血−再かん流プロセスと考えることができる。低体温は、脳(Zhao et al.,1996)、前脳(Horiguchi et al.,2003)、心臓(Prasad et al.,1992)、腸(Attuwaybi et al.,2003)、内皮(Zar and Lancaster,Jr.2000)及び筋肉(Yoshioka et al. , 1992)での再かん流中のROSの生成を減らす。低体温は、再かん流中のエネルギパラメータの回復を高める(Erecinska et al.,2003)。低体温はさらに、肝臓の虚血−再かん流後の炎症性応答を抑制し、多形核球の浸入を減らし(Patel et al.,2000)、腫瘍壊死因子−αの生成、インターロイキン−1β及びマクロファージ炎症性タンパク質−2の産生も減少させる(Patel et al.,2000;Kato et al.,2002)。
【0035】
本明細書の実験において、本願発明者らはさらに、3%の酸素を加えた気腹術により、気腹術により促進される癒着形成が減り、12%の酸素を加えた気腹術では、3%の酸素を加えた気腹術と比較して、癒着形成が純粋なCOを用いた場合と同様のレベルまで増えたことを示す、RTでの本願発明者らの以前の観察結果を確認し、37℃に拡張した。
【実施例】
【0036】
実施例
以下の実施例は、本発明を説明する。
【0037】
動物
本研究は、86匹のメスのNaval Medical Research Institute(NMRI)の30〜40g体重の9〜10週齢のマウスで行った。これらの動物は、Katholieke Universiteit Leuvenの動物用施設で、標準実験条件下(温度20〜22℃、相対湿度50〜60%、明るい状態が14時間、暗い状態が10時間)に維持された。これらの動物には、餌及び水をいつでも取れる状態で、標準実験用食餌(Muracon.G,Carsil Quality,Turnhout,Belgium)が与えられた。この研究は、Institutional Review Animal Care Committeeによって承認された。
【0038】
麻酔及び換気
ペントバルビタール(Nembutal,Sanofi Sante Animale,Brussels,Belgium)を0.08mg/gの用量で用いて腹腔内(i.p.)で動物を麻酔した。この時間を時間0(T)とみなした。動物の準備を麻酔10分後に開始した(T10)。腹部の毛を剃り、動物を仰向きの位置でテーブルに固定した。記載されるように気管内挿管を行なった(Molinas et al.,2001;Molinas et al.,2003a;Molinas et al.,2003b;Molinas et al.,2003c;Elkelani et al.,2002)。簡単にいうと、換気カニューレ(とかっていない端をもつ20ゲージ針;BD
Microlance 3,Becton Dickinson,Fraga,Spain)を声帯の透光によって気管に導入した。カテーテルをメカニカルベンチレータ(Mouse Ventilator MiniVent,Type 845,Hugo Sachs Elektronik−Harvard Apparatus GmbH,March−Hugstetten,Germany)に接続し、実験が終了する(T80)まで、160ストローク/分で1回の換気量250μLで、動物を加湿していない部屋の空気又は加湿した部屋の空気で(実験に従って)換気した。
【0039】
腹腔鏡手術
キシホイド(xyphoides)虫垂に対して尾部まで正中線切開を行ない、3.3mmの吸入用外側外筒を有する2mmの内視鏡(Karl Storz,Tuttlingen,Germany)を腹腔に導入した。ビデオカメラ及び光源に接続した内視鏡(Karl Storz,Tuttlingen,Germany)をホルダに固定し、漏れを防ぐために5/0ポリプロピレン縫合(Prolene, Ethicon,Johnson and Johnson Intl,Brussels,Belgium)を用いて内視鏡の周囲の切開部を気体がもれないように閉じた(Molinas et al.,2001;Molinas et al.,2003a;Molinas et al.,2003b;Molinas et al.,2003c;Elkelani et al.,2002)。
【0040】
Thermoflator Plus(Karl Storz,Tuttlingen,Germany)を用いて、気腹術を麻酔を注入した20分後に(T20)行なった。この気腹術では、COに種々の濃度のOを加えることが可能であった。吸入気体、加湿及び温度は実験の設計に伴って変動した。加湿のために、Storz 加湿器 20432033(Karl Storz,Tuttlingen,Germany)を使用した。気体温度は、周囲温度によって決定した(すなわち、23〜25℃(RT)又は37℃のいずれか)。実際に、以前の実験では、7mm内径の管を用い、2.5L/分の流速を用いた50cmの管を入れる前に、気体温度の平衡が示された。Thermoflator Plusを、あらかじめ流速2.5リットル/分及び圧力18mmHgに設定しておいた。水バルブを使用して圧力変化を緩和し、過剰のCOが水バルブから自由に逃げ、一方、圧力は水バルブにおいて正確に維持されるために、20cmのHO(=約15mmHg)の連続的な吸入圧力を確認した。
【0041】
腹膜内癒着の誘発
気腹術を達成した後(T20)、2つの14ゲージカテーテル(Insyte−W,Vialon,Becton Dickinson,Madrid,Spain)を、装置を動かすために右及び左の横腹に腹腔鏡映像下で挿入した。1.5mmの把持装置で子宮
を正中線に沿ってつかみ、標準化された10mm×1.6mmの病変を、ホームメイドの1.6mmボールプローブ(10ワット,標準凝縮モード,Autocon 350,Karl Storz,Tuettlingen,Germany)を用いた単極凝縮を用いて、右及び左の子宮角の腸間膜反対側縁で作った。それに加えて、同一の病変を、右及び左の骨盤側壁の両方に作成した。
【0042】
ベースとなる癒着及び気腹術により促進される癒着の形成を評価するために、外科的に病変を作るのに必要な最小時間、気腹術を持続し、10分間(T20〜T30)、又は60分間(T20〜T80)でそれぞれ標準化した(Molinas et al.,2001)。二次穴は腹膜病変を完成させた後に取り除かれ、切開部は閉じられた。すべての切開部を5/0ポリプロピレン縫合(Prolene,Ethicon,Johnson
and Johnson Intl,Brussels,Belgium)を用いて単一層で閉じた。
【0043】
癒着の採点
評価されるグループを知らない外科医が、xyphopubic正中線切開を行ない、癒着の誘発7日後の開腹の間、腹腔全体を調べるために両側の肋骨を切開した(Molinas et al.,2001;Molinas et al.,2003a;Molinas et al.,2003b;Molinas et al.,2003c;Elkelani et al.,2002)。穴部位及び内臓を評価した後、骨盤脂肪組織を注意深く取り除き、定性採点システム及び定量採点システムを用いて、癒着を顕微鏡映像によって採点した。定性採点システムにおいて、以下の特徴が評価された:程度(0:癒着なし;1:関与する損傷した表面の1〜25%;2:26〜50%;3:51〜75%;4:76〜100%)、種類(0:癒着なし;1:フィルム状;2:密集型;3:毛細血管が存在する)、引っ張り強さ(0:癒着なし;1:容易に離れる;2:けん引が必要;3:鋭い解剖が必要)及び合計(程度+種類+引っ張り強さ)。定量採点システム(Holmdahl et al.,1994)において、癒着に覆われる病変の比率を以下の式によって測定した:癒着(%)=(個々の結合の長さの合計/病変の長さ)×100。この結果を、個々に採点した4個の個々の部位(右及び左の内臓及び体壁の腹膜)で形成された癒着の平均として表す。
【0044】
環境温度及び動物の温度
温度を制御するために、動物及び装置(すなわち、通気器、加湿器、水バルブ、ベンチレータ及び管)を、RT又は37℃のいずれかに維持した密閉チャンバに置いた(加熱空気、WarmTouch,患者加熱システム、モデル5700,Mallinckrodt Medical,Hazelwood,MO,USA)。環境温度をTesto 645(Testo N.V./S.A.,Lenzkirch,Germany)で測定し、一方、動物の温度をHewlett Packard 78353Aデバイス(Hewlett Packard,Boblingen,Germany)で直腸で測定し、T〜T80まで10〜20分ごとに記録した。
【0045】
実験の計画
第1の実験(n=32)において、ベースとなる癒着及び気腹術により促進される癒着の形成を、体温とともに、RT又は37℃に置かれたマウスにおいて評価した。この実験において、加湿していないCOを気腹術のために使用し、腹膜を通るいかなる流れも避け、乾燥を最小限にするために、トロカールの周囲で気体を完全に密閉するように特別の注意を払った。換気を加湿していない空気で行なった(4グループ、1グループあたりn=8)。
【0046】
第2の実験(n=6)において、加湿空気を用いた場合又は用いなかった場合で換気の
体温に対する影響を、60分の加湿したCOを用いた気腹術中37℃に置いたマウスにおいて評価した(2グループ、1グループあたりn=3)。
【0047】
第3の実験(n=48)を、癒着形成に対する体温(範囲:32℃〜37℃)の影響を詳細に評価するために計画した。最小限に冷却された体温(すなわち37℃付近)を達成するために、マウスを37℃に置き、加湿空気で換気した。わずかに低い体温(すなわち36℃付近)を達成するために、マウスを37℃に置き、加湿していない空気で換気した。約32℃の体温を達成するために、マウスをRT(T〜T20、T30〜T40、T50〜T60、及びT70〜T80)及び37℃(T20〜T30、T40〜T50、及びT60〜T70)に交互におき、加湿空気で換気した。これらの設定は、以前の実験に基づいて決定した。気腹術により促進される癒着の形成を、マウスにおいて37℃(グループI)、36℃(グループII)及び32℃(グループIII)で、純粋かつ加湿したCO2を用いて評価した。37℃での気腹術により促進される癒着の形成をさらに、3%の酸素を用いた加湿CO(グループIV)及び12%の酸素を用いた加湿CO(グループV)を用いて評価した。同時に、ベースとなる癒着形成を、純粋かつ加湿したCOを用いて評価した(グループVI)。気腹術中は、23ml/分の流れをすべてのグループにおいて使用した(6グループ、1グループあたりn=8)。
【0048】
統計学
ウィンドウズ(登録商標)95のGraphPad Prismバージョン4(GraphPad Software Inc.,San Diego California USA.)を用いて統計学的分析を行なった。Mann Whitney試験を使用して、個々のグループ間の癒着形成を比較した。体温におけるグループ間の差を、2方式のANOVAで評価した。線形回帰及びPearson相関を使用して、癒着及び体温のデータを分析した。すべてのデータは、平均±平均の標準誤差(SE)であらわされる。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
発明の要約
本発明は、一般的に、癒着の予防に関し、特に、単独で、又は癒着形成を予防するための内視鏡吸入システムを有するアセンブリに組み込まれたシステム及び方法に関する。癒着形成は、外科的手技後の重大な課題であり、手術後の痛み、及び不妊性のよくある原因である。癒着は腸閉塞の主な原因であり、腹腔内手順後に、癒着が約50〜80パーセントの患者に起こると推定される。
【0052】
癒着形成の機構は、以下のようにまとめることができる:腹膜内壁の外傷の後にすばやく炎症反応が起こり;血漿の浸出及びフィブリンマトリックスの堆積が起こる。その後、病変はフィブリン堆積物の劣化によって、及び腹膜の間葉内壁の増殖によって治癒する。この修復プロセスが数日間のうちに完了しない場合、線維芽細胞の増殖が始まり、最終的にコラーゲンが堆積し、癒着形成が起こる。このプロセスの鍵となるものは、特にフィブリン及び線維素溶解、マクロファージ及びそれらの分泌産物、例えば成長ホルモン及びサイトカイン、及び明らかに内皮修復プロセスである。この修復プロセスから、癒着形成が外傷の程度に大きく依存する結果となる。
【0053】
本発明によって、驚くべきことに、腹腔内の低体温又は手術部位での低体温により術後癒着を効率的に減らすことができることがわかったため、初めて、乾燥により癒着形成が増加し、乾燥と冷却との既知の関係が与えられることが示されたため、本発明の目的は、腹腔内冷却手段、好ましくは、癒着形成をより効果的に予防するために、腹腔内冷却ユニットとともに加湿器と、乾燥させずに所望の冷却を達成することが可能な調整ユニットとを含む内視鏡システムを提供することである。
【0054】
驚くべきことに、体腔内の組織表面を冷却することにより、体腔内の組織表面間の術後癒着形成が減ることがわかった。本発明は、特に、癒着形成を予防するための医薬を製造するための化合物を用いるか又は用いずに、上記体腔内の組織表面での低体温を誘発することに関する。乾燥が癒着形成を高める一方、絶対湿度が温度上昇に伴って増加するため、相対湿度を必ず減少させる温度上昇を防ぎ、乾燥を防ぐために、吸入された気体の温度が腹腔内温度よりもすべての時間で高いことが必須である。吸入気体の絶対湿度は、腹腔内温度まで冷却された後に、その温度での絶対湿度を超え、すべての時間で腹腔内で100%の相対湿度を確保するように凝縮され、乾燥を防ぎ、濃縮水は癒着を防ぐ薬物を送達する手段になるべきである。温度、湿度、及び乾燥の関係が与えられ、調整ユニットは、37℃から32℃まで腹腔内温度を下げ、好ましくはいくらか凝縮して、連続して100%相対湿度を保つように最適化するために計画されている。実際に、必要な冷却量(cal/分)は、吸入気体の温度に伴って増加し、吸入気体の絶対湿度に伴って増加し、吸入の流速に伴って増加する。調整ユニットは、吸入気体の温度及び絶対湿度を調節することによって冷却量を最小化する。これにより、すべての時間で少なくとも1〜2mg/リットルの吸入ガスの絶対湿度を腹腔内の温度で100%を超える相対湿度に維持し、吸入気体は腹腔内に入る際にいくらか凝縮する。吸入気体の温度及び絶対湿度は、腹腔内温度に伴って変動する。
【0055】
本発明の目的は、手術中の腹膜腔温度を下げるための冷却システム、及び癒着をより効果的に防ぐための方法を提供することである。環境温度、麻酔、換気及び気腹術は、体温に影響を与えるために使用することができ、より具体的には、癒着形成を防ぐために腹腔内表面の温度に影響を与えるために使用することができる。
【0056】
重要な観察は、低体温が気腹術により促進される癒着形成を減らすことである。
これにより、低酸素及び虚血−再かん流プロセスによって生じる中毒効果からの予防になり得た。他の影響、すなわち、炎症性応答の減少、腸の蠕動運動の増加は、排除することができない。ベースとなる癒着、すなわち気腹術を行なわなかった場合の癒着がさらに低い温度によって減少するか否かは、本願発明者らのモデルにおいて、「ベースとなる癒着」のグループがなお10分間の気腹術を受けているため、まだ不確定である。癒着形成の減少が中皮温度の減少によって生じることがより大きな動物において立証される場合、すなわち、腹腔内温度の低下が十分であり、体温が37℃に維持される場合には、哺乳動
物、好ましくはヒトの手術における癒着形成を予防するという関連性は明らかである。
【0057】
本発明は、低体温又は部位の低体温の状態まで患者の体腔又は体腔表面を冷却するように設計された管内冷却手段を含むことを特徴とする冷却アセンブリを含み、ここで、上記冷却アセンブリが、患者の体腔において95〜100%の相対湿度を連続的に維持しつつ、腹腔内の冷却を調整するように設計される制御手段(a)に装着可能であり、患者の体腔及び患者の体腔の部位に冷却流体を運ぶように設計された冷却導管(c)に装着可能な冷却手段(b)を含む。このアセンブリは、冷却導管が、液体流体を含むか、又は気体/液体流体を含むように設計されることを特徴とすることができる。さらに、このアセンブリは、冷却導管(c)が、患者の体腔内又は患者の体腔の部位へ冷却流体を撒き散らすように設計されることを特徴とすることができる。
【0058】
特定の実施形態では、アセンブリは、制御手段(a)が、上記患者の体腔において96〜100%の相対湿度、好ましくは99〜100%の相対湿度、最も好ましくは100%の相対湿度を連続的に維持しつつ、腹腔内の冷却を調整するように設計されることを特徴とする。
【0059】
特定の実施形態では、本発明のアセンブリは、患者の体腔において気腹術を誘発するように設計される吸入アセンブリ(N)と一体化可能か又はそれに装着可能であることを特徴とする。この吸入アセンブリは、吸入の測定及び調節のための手段(e)、吸入管(f)、加湿器(g)、加湿器(g)及び通気器(i)を含んでもよい。
【0060】
本発明の別の実施形態では、アセンブリは、上記制御手段が、患者の体腔内の温度を測定するための少なくとも1つのセンサ、吸入流体の流速を測定するための少なくとも1つのセンサ、吸入流体の温度を測定するための少なくとも1つのセンサ、吸入流体の湿度を測定するための少なくとも1つのセンサ、及び吸入流体中の温度及び絶対湿度を調節するための少なくとも1つのアクチュエータを含むことを特徴とする。アセンブリは、冷却導管中の流速を測定するための少なくとも1つのセンサをさらに含んでもよい。
【0061】
本発明のなお別の実施形態では、アセンブリは、上記冷却導管が、内壁及び外壁を含む流体ガイダンスを含み、上記内壁が、上記外壁中の流体注入口から上記外壁中の流体排出口までの上記内部流体ガイダンスの1つの境界を規定することを特徴とする。
【0062】
本発明はさらに、上記制御手段が、吸入流体の温度及び絶対湿度を腹腔内の温度での相対湿度よりもわずかに高い絶対湿度に調節するように設計されることを特徴とするアセンブリの一実施形態を含む。例えば、上記制御手段は、吸入流体の温度及び絶対湿度を腹腔内温度での相対湿度よりも0.1%〜5%高い上記吸入流体の絶対湿度に調節するように設計することができる。
【0063】
特定の実施形態では、アセンブリは、上記制御手段が、所望の腹腔内の温度で97〜100%の相対湿度を連続的に維持するように体腔内の冷却速度を変更するように設計されることを特徴とする。このことを達成するために、上記制御手段は、体腔中の温度よりも1℃〜5℃高い吸入流体中の温度を維持するか、又は体腔中の温度よりも2℃〜4℃高い吸入流体中の温度を維持するように設計することができる。
【0064】
好ましい実施形態では、本発明のアセンブリは、上記制御手段が、腹腔内表面の予め定めた温度32〜23℃に到達するまで、冷却導管における温度、湿度及び/又は吸入流速を調整するように設計されることを特徴とするか、又は上記制御手段が、腹腔内表面の予め定めた温度23〜12℃に到達するまで、冷却導管における温度、湿度及び/又は吸入流速を調整するように設計されることができる。
【0065】
なお別の好ましい実施形態では、アセンブリは、患者の体腔又は体腔表面を中程度の低体温まで冷却するか、又は患者の体腔又は体腔表面を著しい低体温まで冷却することを特徴とすることができる。
【0066】
特定の実施形態では、アセンブリは、上記冷却導管の流体排出口が、内視鏡手術デバイスのトロカール(L)の近位端部付近にあることを特徴とし、なお別の実施形態では、冷却チャネルが、内視鏡手術デバイスのトロカール(L)内でそれらの遠位端に向かって同軸状に延びる。
【0067】
本発明の一実施形態はさらに、体腔内の組織表面間の術後癒着形成を防ぐか又は減らす方法に関するものであり、ここで、この方法は、気腹術及び手術を受けている、受けたか又は受けるであろう体腔の組織表面を、それらの癒着形成を阻害するのに有効な温度及び湿度まで冷却することによって術後癒着を防ぐ又は減らす。この方法は、体腔の表面又はその表面の一部分を中程度の低体温まで又は顕著な低体温まで冷却することを含んでもよい。
【0068】
特定の実施形態では、本発明の方法はさらに、吸入流体の温度及び吸入流体の絶対湿度が共に、腹腔内温度での相対湿度よりも高い吸入流体の絶対湿度を得るように、例えば、吸入流体の温度及び吸入流体の絶対湿度が腹腔内の相対湿度よりも0.1〜5%高い吸入流体の絶対湿度を得るように調整されることを特徴とする。
[本出願に対する先行文献]
【0069】

【0070】

【0071】

【0072】

【0073】

【0074】

【0075】

【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】マウスにおける体温(左側)及び癒着形成(右側)に対する環境温度の影響。ベースとなる癒着及び気腹術(PP)により促進される癒着は、20cmのHO吸入圧で腹腔鏡検査中に誘発され、マウスはRT又は37℃のいずれかに維持された。
【0077】
記号:○10分のPP,RT;●60分のPP,RT;□10分のPP,37℃;■60分のPP,37℃
p<0.05:a RT又は37℃で10分 対 60分,b 10分又は60分でRT 対 37℃(温度について2方式のANOVA、及び癒着形成についてMann Whitney試験)
【図2】マウスにおける癒着形成(右側)に対する体温(左側)の影響。気腹術(PP)により促進される癒着は、20cmのHO吸入圧で腹腔鏡検査中に誘発された。
【0078】
記号:□グループI,▲グループII,●グループIII。T20〜T80の間の体温の平均±SEは、癒着のグラフに示される。
【0079】
p<0.05:a対グループI,b対グループII(温度について2方式のANOVA、及び癒着形成についてMann Whitney試験)
【図3】マウスにおける気腹術の持続期間及び癒着形成の際の気腹術に対する酸素添加の37℃での影響。ベースとなる癒着(グループVI)及び気腹術(PP)により促進される癒着(グループI、IV、及びV)は、20cmのHO吸入圧で、酸素を0%含有(グループI及びVI)、3%含有(グループIV)又は12%含有(グループV)するCOを用いて腹腔鏡検査中に誘発された。T20〜T80の間の体温の平均±SEが示される。p<0.05:a対グループI,b対グループV(Mann Whitney試験)
【図4】体温と癒着形成との関係。T20〜T80の間の体温の平均の個々の値とそれぞれの癒着比率は、実験I及びIIIについての気腹術により促進される癒着について記載される。p=0.0036(Pearson相関)。
【図5】内視鏡検査のために吸入を行われた患者の断面図を示す。この通気器は、37℃未満、好ましくは35℃以下、理想的には32〜34℃の腹腔内温度(K)を得るように設計された腹腔内冷却手段、完全に乾燥を防ぐ加湿システム、及び冷却しつつ乾燥を防ぐことが可能な調整ユニットに組み込むことができる。
【0080】
J=患者、K=腹腔、L=トロカール、N=吸入手段であり、及びMはカメラ及びライトを含む内視鏡である。
【図6】腹腔内の冷却、吸入及び加湿のためのアセンブリの断面図であり、a=制御ユニット、b=腹腔内冷却手段、c=腹腔内冷却導管、d=腹腔内温度プローブ、e=吸入測定及び調節のための手段、f=調節された吸入管、g=加湿器、h=吸入管及びi=通気器である。
【0081】
制御シグナル及び測定シグナルは以下の記号で示される:S0=腹腔内冷却の設定点t;S1=吸入温度の測定値t、吸入相対湿度の測定値h、吸入温度の設定点t’、又は相対湿度の設定値h’;S2=腹腔内温度の測定値T;S3=要求される相対湿度h、及びS4は吸入流速rである。
【図7】図5のアセンブリに組み込み可能であるが、代替的に腹腔内冷却を内視鏡のトロカールを介して直接行なうことが可能なことを示す、腹腔内冷却手段の断面図である。b=腹腔内冷却手段、c=腹腔内冷却部位、d=腹腔内温度プローブ、e=吸入測定及び調節のための手段。
【0082】
制御シグナル及び測定シグナルは以下の記号で示される:S0=腹腔内冷却の設定点t;S1=吸入温度の測定値t、吸入相対湿度の測定値h、吸入温度の設定点t’、又は相対湿度の設定点h’;S2=腹腔内温度の測定値T
【図8】要求された腹腔内温度、要求された相対湿度の吸入気体に対して調整するために使用可能であり、腹腔内で吸入気体を濃縮させ完全に加湿させ乾燥を防ぐために、吸入気体と腹腔内温度との間の必要な温度差を確立可能な、フィードバックに基づく制御ループである。任意の入力シグナルは点線で示され、主に、加湿器の相対湿度の設定点及び通気器によって作成される流速を含む。この制御メカニズムは、上述の制御ユニット(図6aの制御ユニット)の具体的な実施態様であるが、唯一の動作可能な解決法ではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
35℃から23℃の間の低体温の状態まで患者の腹腔又は腹部中皮を冷却するように設計された管内冷却手段(b)を含む、乾燥を防ぎつつ患者の腹腔を冷却し加湿するための冷却加湿アセンブリであって、前記冷却手段(b)が、前記冷却手段(b)から患者の腹腔内へ冷却流体を運ぶ冷却導管(c)に装着可能であり、前記冷却手段が、腹腔内の温度より1℃〜5℃高い温度を有する吸入流体を投与するための吸入アセンブリ(N)と一体化可能又はそれに装着可能であり、
前記冷却加湿アセンブリが、前記患者の腹腔において95〜100%の相対湿度を連続的に維持し、かつ腹腔内の温度より1℃〜5℃高い吸入流体温度を維持するように腹腔内の冷却及び加湿を調整する制御手段(a)をさらに含む、冷却加湿アセンブリ。
【請求項2】
前記吸入流体の絶対湿度は、100%を超える相対湿度において、腹腔内の温度で少なくとも1〜2mg/リットルであり、これにより吸入気体は腹腔内に入る際に部分的に凝縮する、請求項1に記載の冷却加湿アセンブリ。
【請求項3】
前記冷却導管が液体流体を含むように設計されることを特徴とする、請求項1に記載の冷却加湿アセンブリ。
【請求項4】
前記冷却導管が気体/液体流体を含むように設計されることを特徴とする、請求項1に記載の冷却加湿アセンブリ。
【請求項5】
前記冷却導管(c)が、患者の腹腔内又は患者の腹腔部位へ冷却流体を拡散するためのスプリンクラーを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の冷却加湿アセンブリ。
【請求項6】
前記制御手段(a)が、患者の腹腔において96〜100%の相対湿度を連続的に維持しつつ、腹腔内の冷却を調整するように設計されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の冷却加湿アセンブリ。
【請求項7】
前記制御手段(a)が、患者の腹腔において100%の相対湿度を連続的に維持しつつ、腹腔内の冷却を調整するように設計されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の冷却加湿アセンブリ。
【請求項8】
前記吸入アセンブリが、吸入の測定及び調節のための手段(e)、吸入管(f)、加湿器(g)及び通気器(i)を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の冷却加湿アセンブリ。
【請求項9】
前記吸入アセンブリ(N)が、前記冷却加湿アセンブリ内の前記冷却手段と一体化している、請求項1〜8のいずれか1項に記載の冷却加湿アセンブリ。
【請求項10】
前記制御手段が、患者の腹腔内の温度を測定するための少なくとも1つのセンサ、吸入流体の流速を測定するための少なくとも1つのセンサ、吸入流体の温度を測定するための少なくとも1つのセンサ、吸入流体の湿度を測定するための少なくとも1つのセンサ、及び吸入流体中の温度及び絶対湿度を調節するための少なくとも1つのアクチュエータを含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の冷却加湿アセンブリ。
【請求項11】
前記制御手段が、冷却導管中の流速を測定するための少なくとも1つのセンサをさらに含むことを特徴とする、請求項10に記載の冷却加湿アセンブリ。
【請求項12】
前記制御手段が、吸入流体の温度及び絶対湿度を腹腔内温度での相対湿度よりも0.1%〜5%高い前記吸入流体の絶対湿度に調節するように設計されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の冷却加湿アセンブリ。
【請求項13】
前記制御手段が、所望の腹腔内温度で97〜100%の相対湿度を連続的に維持するような腹腔内の冷却速度を適用するように設計されることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の冷却加湿アセンブリ。
【請求項14】
前記制御手段が、腹腔中の温度よりも2℃〜4℃高い吸入流体の温度を維持するように設計されることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の冷却加湿アセンブリ。
【請求項15】
前記制御手段が、32〜23℃の間にある腹内中皮の予め定めた温度に到達するまで、冷却導管において温度、湿度及び/又は吸入流速を調整するように設計されることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の冷却加湿アセンブリ。
【請求項16】
前記冷却導管の流体排出口が、内視鏡手術デバイスのトロカール(L)の近位端付近にあることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか1項に記載の冷却加湿アセンブリ。
【請求項17】
冷却チャネルが、内視鏡手術デバイスのトロカール(L)内でそれの遠位端に向かって同軸状に延びることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか1項に記載の冷却加湿アセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−45750(P2011−45750A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248937(P2010−248937)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【分割の表示】特願2007−513625(P2007−513625)の分割
【原出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(599098493)カー・イュー・ルーベン・リサーチ・アンド・ディベロップメント (83)
【氏名又は名称原語表記】K.U.LEUVEN RESEARCH & DEVELOPMENT
【Fターム(参考)】