説明

冷却構造及びその形成方法

【課題】冷却面にナノ粒子による皮膜を迅速に形成できる冷却構造及びその形成方法を提供する。
【解決手段】プラス又はマイナスの一方の極性に帯電したナノスケールの粒子を含む作動流体11と接触する発熱体19の冷却面13の少なくとも一部に、ナノスケールの粒子とは逆極性の逆極性コーティング膜12を設けることにより、冷却面13が限界熱流束に到達する前に、ナノスケールの粒子による皮膜を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、原子炉における過酷事故の発生時に原子炉容器を冷却する冷却システム等に用いることができる冷却構造及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉における過酷事故の発生時に、原子炉圧力容器内で炉心部の燃料などが溶融し、その溶融状態が進展して、炉心部から原子炉圧力容器の下部ヘッドに溶融物が落下することが想定される。
【0003】
この場合に、冷却水により原子炉容器の外部を冷却するか、あるいは原子炉容器の内部を冷却することによって、上記の炉心溶融物が下部ヘッド内で冷却、保持する方法を容器内保持(In Vessel Retention、以下、「IVR」と記す)方法といい、有力な事故収束のための対策の一つとして注目されている。また、このように原子炉圧力容器内において溶融炉心の冷却を確保することは、世界的な規制や運用上から原子炉における基本要件となりつつある。
【0004】
上記IVRでは、原子炉圧力容器の外面で十分な除熱が行われ、圧力容器の外面での熱の伝達し易さを高めることや、局所的な高熱負荷に耐えられるようにする必要がある。
【0005】
また、近年、冷却水中にナノスケールのサイズの微粒子を分散させることにより、このような冷却水を使用した沸騰試験において熱伝達率や限界熱流束(Critical heat flux、以下、「CHF」と記す)が飛躍的に高められることが確認されている。
【0006】
例えば、下記の特許文献1〜3では、循環する冷却システムの冷却水中にナノスケールの粒子を注入して冷却水の冷却能力を上げることで、原子力圧力容器外面からの冷却能力を上げる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0212733号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0219395号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2008/0219396号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、冷却水としてナノスケールの粒子を含む流体を使用することによりCHFの向上は可能であるが、実際には冷却面表面へのナノスケールの粒子(以下、「ナノ粒子」と記す)による皮膜が形成されないとCHFの向上がなされない。
【0009】
また、冷却面が発熱体からの熱によってCHFに到達する前に、ナノ粒子による皮膜が形成される必要がある。
【0010】
そこで、本発明は、冷却面にナノ粒子による皮膜を迅速に形成できる冷却構造及びその形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、本発明の冷却構造は、プラス又はマイナスの一方の極性に帯電したナノスケールの粒子を含む作動流体と接触する発熱体の冷却面の少なくとも一部に、前記ナノスケールの粒子とは逆極性の帯電コーティング膜を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、上述の目的を達成するため、本発明の冷却構造の形成方法は、プラス又はマイナスの一方の極性に帯電したナノスケールの粒子を含む作動流体と接触する発熱体の冷却面の少なくとも一部に、前記ナノスケールの粒子とは逆極性の帯電コーティング膜を設けることにより、前記冷却面が限界熱流束に到達する前に、前記ナノスケールの粒子による皮膜を形成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、冷却面にナノ粒子による皮膜を迅速に形成できる冷却構造及びその形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る冷却構造の第1の実施形態を示す概略断面図。
【図2】本発明に係る冷却構造の第2の実施形態を示す概略断面図。
【図3】本発明に係る冷却構造の第3の実施形態を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して本発明に係る冷却構造及びその形成方法の実施の形態について説明する。
【0016】
[第1の実施の形態]
(冷却構造10の全体構成)
図1に、本発明に係る冷却構造の第1の実施形態の概略図を示す。
【0017】
この冷却構造10では、給水容器14内に、プラス又はマイナスの一方の極性に帯電したナノ粒子を含む作動流体11が収容されており、この作動流体11が、発熱体19の冷却面13の全面に設けられた、前記ナノ粒子とは逆極性の帯電コーティング膜(以下、「逆極性コーティング膜」と記す)12と接触している。
【0018】
(作動流体11)
作動流体11には、CHFを向上させる目的で、ナノ粒子が含まれる。ナノ粒子には、例えば、チタニア(酸化チタン:TiO)、アルミナ(酸化アルミニウム:Al)、銅酸化物(酸化第一銅:CuO、酸化第二銅:CuO)等の金属酸化物粒子、銅、金等の金属粒子、又はカーボンナノチューブ等を用いることができる。
【0019】
このようなナノ粒子を含む作動流体11は、ナノフルイド(ナノ流体:Nanofluid)と呼ばれ、もとの流体よりも熱伝導率が高くなり、CHFが増大することが知られている。
【0020】
ここで、ナノ粒子とは、超極微粒子(nanoparticles)であって、粒径がナノメートル(nm)単位で表されるごく微小な粒子のことをいう。
【0021】
(逆極性コーティング膜12)
上述したように、発熱体19の冷却面13の全面には、逆極性コーティング膜12が設けられている。
【0022】
ここで、作動流体11中に含まれるナノ粒子として、例えば、酸化チタン(TiO)を用いた場合について説明する。
【0023】
酸化チタンは、一般に、酸性でプラスに帯電、アルカリ性でマイナスに帯電する。このため、作動流体11の溶液が酸性(pHが7未満)の場合、逆極性コーティング膜12にはマイナスに帯電した粒子を用いる。一方、作動流体11の溶液がアルカリ性(pHが7より大)の場合、逆極性コーティング膜12にはプラスに帯電した粒子を用いる。
【0024】
具体的には、溶液が酸性の場合には、逆極性コーティング膜12としてシリカ(SiO)を用い、溶液がアルカリ性の場合には、逆極性コーティング膜12としてアルミナ(Al)を用いることができる。
【0025】
逆極性コーティング膜12は、例えば、ゾル・ゲル法等の公知の手法で冷却面に形成することができる。
【0026】
(冷却構造10の作用及び効果)
発熱体19の冷却面13に、作動流体11中のナノ粒子とは逆極性である逆極性コーティング膜12を施しておくことにより、作動流体11中のナノ粒子の冷却面13近傍の濃度が高くなるか、あるいは作動流体11中のナノ粒子の冷却面13への付着率が向上する。このため、冷却面13において、ナノ粒子による皮膜形成が促進される。
【0027】
ナノ粒子によって形成される皮膜(以下、「ナノ粒子皮膜」と記す)はCHFを向上させるので、冷却面13に逆極性コーティング膜12を施すことにより、冷却面13がCHFに到達する前にナノ粒子皮膜を形成してCHFを向上させ、安全余裕を増加させることが可能となる。
【0028】
従って、この冷却構造10を、原子炉における過酷事故の発生時に原子炉容器を冷却する冷却システム等に適用することにより、原子炉圧力容器の外面で十分な除熱が行われ、圧力容器の外面での熱の伝達し易さを高めることが可能となり、炉心溶融物を長期にわたり安定的かつ効率的に冷却・保持し続けることが可能となる。
【0029】
[第2の実施の形態]
(冷却構造20の全体構成)
図2に、本発明に係る冷却構造の第2の実施形態の概略図を示す。
【0030】
この冷却構造20では、図1に示す冷却構造10と同様に、給水容器14内に、プラス又はマイナスの一方の極性に帯電したナノ粒子を含む作動流体11が収容されている。しかし、発熱体19の冷却面13のうちで、通常の冷却では不十分な熱的に厳しい箇所にはナノ粒子と逆極性の逆極性コーティング膜12が施され、それ以外の箇所には同極性の同極性コーティング膜15が施されている。
【0031】
作動流体11中に含まれるナノ粒子として例えば、酸化チタンを用いる場合、逆極性コーティング膜12としては、第1の実施の形態の冷却構造10で用いた粒子と同様の粒子を用いることができる。
【0032】
同極性コーティング膜15としては、溶液が酸性の場合には、アルミナ(Al)を用い、溶液がアルカリ性の場合には、シリカ(SiO)を好適に用いることができる。
【0033】
逆極性コーティング膜12及び同極性コーティング膜15は、例えば、ゾル・ゲル法等の公知の手法で冷却面に形成することができる。
【0034】
(冷却構造20の作用・効果)
発熱体19の冷却面13のうち、通常の冷却では不十分な熱的に厳しい箇所に、ナノ粒子と逆極性の逆極性コーティング膜12を施しておくことにより、作動流体11中で冷却面13における逆極性コーティング膜12近傍のナノ粒子の濃度が高くなるか、あるいは作動流体11中で逆極性コーティング膜12へのナノ粒子の付着率が向上する。このため、冷却面13のうち、通常の冷却では不十分な熱的に厳しい箇所において、ナノ粒子皮膜の形成が促進される。
【0035】
ナノ粒子皮膜はCHFを向上させるので、冷却面13がCHFに到達する前にナノ粒子皮膜を形成してCHFを向上させ、安全余裕を増加させることが可能となる。
【0036】
一方、ナノ粒子皮膜を形成することによりCHFは向上するが、熱抵抗は高くなる。そこで、逆極性コーティング膜12を施した以外の場所には同極性のコーティングを施すことによって、ナノ粒子皮膜の形成を抑制し、熱抵抗の増加を防ぐことができる。
【0037】
従って、この冷却構造10を、原子炉における過酷事故の発生時に原子炉容器を冷却する冷却システム等に用いることにより、原子炉圧力容器の外面で十分な除熱が行われ、圧力容器の外面での熱の伝達し易さを高めることが可能となり、炉心溶融物を長期にわたり安定的かつ効率的に冷却・保持し続けることが可能となる。
【0038】
[第3の実施の形態]
図3に、本発明に係る冷却装置の第3の実施形態の概略図を示す。
【0039】
この冷却構造30は、冷却面13に対して、発熱体19とは異なる熱供給源18を設けた以外は、図1に示す冷却構造10と同様に形成されている。
【0040】
この構造により、発熱体19から熱が発生する前に、冷却面13に対して発熱体とは異なる熱供給源18から熱を加えることで、冷却面13にナノ粒子皮膜の形成が促進され、発熱体19からの発熱によってCHFに到達する前にナノ粒子皮膜が形成され得る。
【0041】
従って、冷却面13に異なる熱供給源18によって皮膜を形成させておくことにより、冷却面13がCHFに到達する前にCHFを向上させ、安全余裕を増加させることが可能となる。
【0042】
なお、本実施の形態では、図1に示す冷却構造10に、熱供給源18を設けた構造を示したが、図2に示す冷却構造20に、熱供給源18を設けることもできる。
【0043】
[その他の実施の形態]
第1〜第3の実施の形態で示した冷却構造10、20、30は、原子炉における過酷事故の発生時に原子炉容器を冷却する冷却システムだけでなく、通常の冷却では不十分な熱的に厳しい箇所を有するシステムや構造体、例えば、熱交換器やボイラー等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
10:冷却構造
11:作動流体
12:逆極性コーティング膜
13:冷却面
14:給水容器
15:同極性コーティング膜
18:熱供給源
19:発熱体
20:冷却構造
30:冷却構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラス又はマイナスの一方の極性に帯電したナノスケールの粒子を含む作動流体と接触する発熱体の冷却面の少なくとも一部に、前記ナノスケールの粒子とは逆極性の帯電コーティング膜を設けたことを特徴とする冷却構造。
【請求項2】
前記発熱体の冷却面の全面に、前記逆極性の帯電コーティング膜を設けたことを特徴とする請求項1記載の冷却構造。
【請求項3】
前記発熱体の冷却面が温度分布を有しており、通常の冷却では不十分な熱的に厳しい箇所に前記逆極性の帯電コーティング膜を設け、それ以外の箇所に同極性の帯電コーティング膜を設けたことを特徴とする請求項1記載の冷却構造。
【請求項4】
前記冷却面に、前記発熱体とは異なる熱供給源を設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の冷却構造。
【請求項5】
プラス又はマイナスの一方の極性に帯電したナノスケールの粒子を含む作動流体と接触する発熱体の冷却面の少なくとも一部に、前記ナノスケールの粒子とは逆極性の帯電コーティング膜を設けることにより、前記冷却面が限界熱流束に到達する前に、前記ナノスケールの粒子による皮膜を形成させることを特徴とする冷却構造の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−232211(P2011−232211A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103524(P2010−103524)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】