説明

冷却水循環供給系統及びその系統における冷却水温度の制御方法

【課題】 冷却対象である高炭特殊鋼等の割れ感受性の高い鋼の鋳造時における表面欠陥の発生を最小限に抑制できる冷却水循環供給系統及びその系統における冷却水温度の制御方法を提供する。
【解決手段】 冷却水循環供給系統は、給水タンク1から冷却水W1 を冷却対象Aに向けて供給し、冷却対象Aに向け供給後の冷却水W2 を回収タンク18に回収し、回収タンク18に回収後の冷却水W3 を冷却塔23に送って冷却し、冷却塔23により冷却された冷却水W4 を給水タンク1に戻すようになっている。そして、回収タンク18から冷却塔23に向かう冷却水W3 の通る系統のほかに、回収タンク18から給水タンク1に向かうバイパス冷却水W5 の通る系統を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水循環供給系統及びその系統における冷却水温度の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、省エネルギーや工程省略等の観点から、金属業界では、連続鋳造鋳片を常温まで温度低下させずに温片または熱片のまま熱間圧延工程に送り、加熱時間を短縮し、あるいは加熱を省略して熱間圧延するいわゆる直送圧延プロセスが検討され、これまでに、例えば特許文献1や特許文献2に記載のような種々の方法が提案されている。現在では、鋳片表面に割れの発生しにくいアルミキルド鋼等は、この直送圧延プロセスでかなりの比率で製造されるようになっている。
【0003】
しかしながら、C濃度が0.30質量%以上の鋼、およびC濃度が0.10質量%以上でかつCr,Ni,Moのうちの1種以上を含む鋼(これらの鋼を以下「高炭特殊鋼」と呼ぶ)の連続鋳造鋳片には、表面割れが発生しやすく、熱間圧延工程に送る前に表面を検査し、欠陥があればその部位を研削して除去する手立てが一般的に採られる。この除去作業はその性格上、鋳片を常温まで冷却して行わなければならず、高炭特殊鋼は直送圧延プロセスで製造するのが困難であった。
【0004】
このようなことから、高炭特殊鋼等の割れ感受性の高い鋼の鋳造時における表面欠陥の発生を抑制する方法の一つとして、鋳片に生じる歪みを極小化できる垂直型連続鋳造機にて鋳造する方法がある。しかし、この方法は、鋳片の内部品質確保の観点からは有利なものの、生産性の観点からは不利である。そこで、現在は、高炭特殊鋼等の割れ感受性の高い鋼の鋳造時における表面欠陥の発生を抑制する方法として、垂直部につづき、曲げ部と矯正部とを有する連続鋳造機(垂直曲げ型連続鋳造機という)にて鋳造する方法も採られている。
【0005】
この垂直曲げ型連続鋳造機を使用する場合には、例えば特許文献3や特許文献4に記載のように、二次冷却帯の冷却水流量の分布(二次冷却水量パターン)や具体的なスプレー方法を規定し、鋳片に生じる歪みを少なくすべき部位の冷却水流量を小さくすることにより、鋳造時における表面欠陥の発生を抑制する対策が採られることがある。その内訳としては、(1) 曲げ部、矯正部を通過する鋳片が脆化領域に入らないように二次冷却水量パターンを制御して弱冷却する、(2) 冷えやすく熱応力起因の引張歪みが生じやすい鋳片コーナー部への注水を制限して局部的に表面温度を上昇させる、という二つの方法がある。(1) は「二次冷却水の弱冷化」、(2) は「二次冷却水の幅切り」とも称される。
【0006】
ここで、(1) の「二次冷却水の弱冷化」を図るために、例えば、特許文献5に記載の水処理設備における冷却塔ファンの制御装置や特許文献6に記載の冷却塔の運転方法のように、冷却水を循環使用することでその温度を高め、さらに弱冷化を図る場合がある。
特許文献5に記載の水処理設備における冷却塔ファンの制御装置は、図5に示すように、冷却水に相当する水Aを冷却塔101に通して冷却する水処理設備において、冷却に関与する空気の湿球温度の変化を検出する湿球温度検出器102と、この湿球温度検出器102による検出信号で冷却塔ファン103の風量制御を行う風量制御機構104とを具備している。冷却塔101は、散水配管108から落下する水滴に向け、冷却塔ファン103によって外気を吸引して発生させた空気流と接触させることで、蒸発潜熱を水滴から奪って冷却する原理であるが、冷却された水Aは、冷水槽109内に一時貯留され、給水ポンプ110により冷却対象(例えば、鋳片)に向け供給されるようになっている。冷却塔101の出側にある冷水槽109内の冷却水の温度は、風量制御機構104によって冷却塔ファン103の風量制御を行うことにより、制御される。なお、図5中、符号105は信号変換器、106は可変速制御器、107は冷却塔ファン用モータである。
【0007】
また、特許文献6に記載の冷却塔の運転方法は、図6に示すように、給水主管201から分配弁202を介して上部水槽203に給水され、この上部水槽203から散水された冷却水に相当する処理水206を、可変速度送風機207により外気を吸引して発生させた空気流と接触させることで冷却する冷却塔の運転方法であって、給水主管201に流量計208を、上部水槽203内に散水面積調整用の可動仕切板209ならびに水位計210を、冷却塔下部に水温計211をそれぞれ配設し、流量計208の測定値に基づき可動仕切板209の位置設定を行うとともに、流量計208の測定値と水温計211の測定値とにより可変速度送風機207の回転数制御を行い、水位計210の測定値に基づき分配弁202の開度調整ならびに可動仕切板209の設定位置補正を行うものである。そして、可変速度送風機207により冷却された処理水206は、下部水槽205内に一時貯留され、冷却対象に向けて供給されるようになっている。流量計208の測定値と、冷却塔下部の水温計211により測定した冷却後の処理水温度の測定値とにより、可変速度送風機207の回転数を制御し、通過する外気の流量を制御し、これにより、冷却塔の出側にある下部水槽205内の処理水の温度が制御される。なお、図6中、符号204は冷却塔本体内の充填物、212は演算機、213は動力制御盤である。
【特許文献1】特公昭56−21330号公報
【特許文献2】特公昭56−24018号公報
【特許文献3】特公平2−18936号公報
【特許文献4】特開平1−95801号公報
【特許文献5】実開昭56−140798号公報
【特許文献6】特開平4−273998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献5に記載の水処理設備における冷却塔ファンの制御装置や特許文献6に記載の冷却塔の運転方法では、冷却塔の出側である冷水槽109や下部水槽205内の冷却水の温度は、冷却塔ファン103あるいは可変速度送風機207の回転数を制御することによって制御されているが、以下の理由により、所望の設定温度に制御できない場合があった。
【0009】
即ち、理論的には、冷却塔ファン103や可変速度送風機207の回転数がゼロの場合の設定温度から定格回転数の場合の設定温度まで制御可能なはずであるが、実際上は冷却塔ファン103や可変速度送風機207は、その冷却塔の給排気流量の仕様上の制限から、定格の回転数の例えば30〜50%の範囲に限って運転される等するため、その範囲未満の回転数によらなければ実現できない設定温度には制御できなかった。
【0010】
具体的には、図7に示す冷却塔の出側温度と冷却に関与する空気流量との関係で表された冷却塔性能曲線の例で、ケース1は充填物近傍の湿球温度が5℃のときの性能曲線であり、このケース1の場合には前記出側温度を46℃(冷却に関与する空気流量が約100t/ hの場合に対応する冷却塔ファンの回転数のときの温度)よりも高い温度に設定できなかった。また、ケース2の場合は充填物近傍の湿球温度が10℃のときの性能曲線であり、前記出側温度を46℃よりも高い温度に設定できなかった。同様に、ケース3の場合は充填物近傍の湿球温度が20℃のときの性能曲線であり、前記出側温度を47℃よりも高い温度に設定できなかった。更に、ケース4の場合は充填物近傍の湿球温度が30℃のときの性能曲線であり、前記出側温度を48℃よりも高い温度に設定できなかった。
【0011】
また、冷却塔内部を落下するだけでも冷却水の温度は低下するので、たとえ、冷却塔ファン103や送風機207の回転数をゼロとした場合でも、必ずいくらかは冷却水の温度は低下する。従って、冷却塔ファン103や可変速度送風機207の回転数の制御のみでは、冷却塔の出側にある冷水槽109や下部水槽205内の冷却水の設定温度をある一定の温度以上とすることは難しかった。特に、冬季は、冷却対象から戻ってくる冷却水の温度が低くかつ外気温(湿球温度)が低いので、冷却塔ファン103や可変速度送風機207の回転数の制御のみでは、前記設定温度をある一定の温度以上とすることはいよいよ難しかった。
【0012】
また、冷却塔の出側にある冷水槽109や下部水槽205内の冷却水の設定温度が、冷却対象から水処理設備に戻ってくる水温に近づくほど、冷却に関与する空気流量の制御範囲が狭くなり、ハンチング等が起こって制御が難しくなることがあった。即ち、冷水槽109や下部水槽205内の冷却水の設定温度が、冷却対象から水処理設備に戻ってくる水温に近いということは、その設定温度が高めの温度であることを意味するが、図7に示すように、出側温度の設定を急に高くしようとすると、それが少し高くなっただけでも、冷却に関与する空気流量の方はそれにも増して急に低減させることが必要になり、空気流量の低減が追いつかず、経済的に設定通りに制御できない場合があるという問題があった。
【0013】
また、冷却対象である鋼の種類に応じて、冷却塔の出側にある冷水槽109や下部水槽205内の冷却水の設定温度を変更する必要が生じる場合があるが、連続鋳造機において通常の水処理設備の能力に相当する、例えば1600m3 / hの場合、給水槽(冷水槽109や下部水槽205)の容積は1000m3 以上の場合が殆どであり、そのような膨大な容積からくる冷却水の熱容量の大きさ故、出側温度の設定を急に低くしようとしても、急には冷却水の温度が低下せず、結果的に設定通りに制御できない場合があるという問題もあった。
【0014】
このように、冷却水の温度が所望の設定温度に制御できないと、冷却対象である高炭特殊鋼等の割れ感受性の大きな鋼の鋳造時における表面欠陥の発生を十分に抑制することはできない。
従って、本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、冷却対象である高炭特殊鋼等の割れ感受性の高い鋼の鋳造時における表面欠陥の発生を最小限に抑制できる冷却水循環供給系統及びその系統における冷却水温度の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記諸問題を解決するため、本発明のうち請求項1に係る冷却水循環供給系統は、冷却水を冷却対象に向けて供給し、前記冷却対象に供給後の冷却水を回収し、回収後の冷却水を冷却塔に送って冷却し、前記冷却塔により冷却された冷却水を再び冷却対象に向けて供給する冷却水循環供給系統において、前記冷却塔に向かう冷却水の通る系統のほかに、前記冷却塔をバイパスする冷却水の通る系統を設けたことを特徴としている。
【0016】
また、本発明のうち請求項2に係る冷却水循環供給系統は、請求項1記載の冷却水循環供給系統において、前記冷却対象に向かう冷却水の温度を測定する温度計と、該温度計で測定された冷却水の温度に基づいて前記冷却塔をバイパスする冷却水の流量を制御する制御装置とを備えることを特徴としている。
さらに、本発明のうち請求項3に係る冷却水循環供給系統における冷却水温度の制御方法は、請求項2記載の冷却水循環供給系統を用いて、前記冷却対象に向かう冷却水の温度を前記温度計にて測定し、該温度計で測定された冷却水の温度に基づいて前記冷却塔をバイパスする冷却水の流量を前記制御装置により制御し、これにより前記冷却対象に向かう冷却水の温度を制御することを特徴としている。
【0017】
加えて、本発明のうち請求項4に係る冷却水循環供給系統における冷却水温度の制御方法は、請求項3記載の冷却水循環供給系統における冷却水温度の制御方法において、前記冷却塔をバイパスする冷却水の流量を前記制御装置によって変更してから、前記冷却対象に向かう冷却水の温度が前記冷却対象側の目標冷却水温度に到達するまでに要する時間を予め予測しておき、実際に前記冷却対象側の目標冷却水温度を変更すべきタイミングがくるよりも、前記予測した時間分だけ前もって前記冷却塔をバイパスする冷却水の流量を前記制御装置によって変更することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明のうち請求項1に係る冷却水循環供給系統によれば、冷却塔に向かう冷却水の通る系統のほかに、冷却塔をバイパスする冷却水の通る系統を設けたので、冷却対象に供給後の温かい冷却水を冷却塔に向かわせずにバイパスさせ、再び冷却対象に向けて供給することができる。このため、冬季においても、冷却対象に向かう冷却水の温度を高めることができ、冷却対象に向かう冷却水の温度(設定温度)を適切な値に調整することができる。これにより、冷却対象である高炭特殊鋼等の割れ感受性の高い鋼の鋳造時における表面欠陥の発生を最小限に抑制できる。
【0019】
また、本発明のうち請求項2に係る冷却水循環供給系統によれば、請求項1に記載の冷却水循環供給系統において、前記冷却対象に向かう冷却水の温度を測定する温度計と、該温度計で測定された冷却水の温度に基づいて前記冷却塔をバイパスする冷却水の流量を制御する制御装置とを備えるので、冷却対象に向かう冷却水の温度に基づいて冷却塔をバイパスする冷却水の流量を制御でき、これにより冷却対象に向かう冷却水の温度を制御することができる。従って、冷却塔ファンや送風機の回転数の制御による冷却に関与する空気流量の制御範囲が狭い場合でも、冷却対象に向かう冷却水の温度(設定温度)を適切な値に調整することができる。
【0020】
さらに、本発明のうち請求項3に係る冷却水循環供給系統における冷却水温度の制御方法によれば、請求項2に記載の冷却水循環供給系統を用いて、前記冷却対象に向かう冷却水の温度を前記温度計にて測定し、該温度計で測定された冷却水の温度に基づいて前記冷却塔をバイパスする冷却水の流量を前記制御装置により制御し、これにより前記冷却対象に向かう冷却水の温度を制御するので、冷却対象に向かう冷却水の温度(設定温度)を冬季においても適切な値に調整することができ、冷却対象である高炭特殊鋼等の割れ感受性の高い鋼の鋳造時における表面欠陥の発生を最小限に抑制できる。そして、冷却塔ファンや送風機の回転数の制御による冷却に関与する空気流量の制御範囲が狭い場合でも、冷却対象に向かう冷却水の温度(設定温度)を適切な値に制御することができる。
【0021】
加えて、本発明のうち請求項4に係る冷却水循環供給系統における冷却水温度の制御方法によれば、請求項3に記載の冷却水循環供給系統における冷却水温度の制御方法において、前記冷却塔をバイパスする冷却水の流量を前記制御装置によって変更してから、前記冷却対象に向かう冷却水の温度が前記冷却対象側の目標冷却水温度に到達するまでに要する時間を予め予測しておき、実際に冷却対象側の目標冷却水温度を変更すべきタイミングがくるよりも、前記予測した時間分だけ前もって前記冷却塔をバイパスする冷却水の流量を前記制御装置によって変更するので、実際に冷却対象側の目標冷却水温度を変更すべきタイミングがきたときに、冷却対象に向かう冷却水の温度を確実に冷却対象側の目標冷却水温度に到達させることができる。このため、必要なタイミングに必要な冷却水設定温度を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に本発明の一つの実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の一つの実施形態に係る冷却水循環供給系統の概略構成図である。図2は垂直曲げ型連続鋳造機の詳細を示す説明図である。図3は冷却塔ファンのオンオフ制御及び開閉弁の開閉制御の概要を示す説明図である。
図1において、冷却水循環供給系統は、給水タンク1から給水ポンプ2によって冷却水W1 を後述の二次冷却帯の冷却水として鋳片(冷却対象)Aに向けて供給し、鋳片Aに供給後の冷却水W2 を回収タンク18に回収し、回収タンク18に回収後の冷却水W3 を冷却塔送水ポンプ20によって冷却塔23に送って冷却し、冷却塔23により冷却された冷却水W4 を給水タンク1に戻すようになっている。
【0023】
給水タンク1には、給水主管3が接続され、給水主管3の途中には給水ポンプ2が設置されている。給水主管3の出側には、図2に示すように、垂直曲げ型連続鋳造機4の複数ゾーン101 〜1010の各々に配置された複数のノズル111 〜1110が流量制御弁121 〜1210を介して接続されている。ノズル116 〜119 及び流量制御弁126 〜129 の図示は省略している。垂直曲げ型連続鋳造機4は、溶鋼が溜められるタンディッシュ5と、タンディッシュ5の出側に設置されたモールド6と、モールド6の出側に設置された鋳片案内装置7とで構成されている。垂直曲げ型連続鋳造機4においては、タンディッシュ5に溜められた溶鋼が水冷ジャケットにより冷却されたモールド6に流れ込み、このモールド6内を通過する過程で外周部に凝固殻が形成され、次いで、モールド6から出た鋳片Aが鋳片案内装置7中に導かれ、そこで複数のノズル111 〜1110からの冷却水W1 により冷却されながら鋳片案内装置7を通過するようになっている。鋳片案内装置7は、図2に示すように、鋳片通路13に沿って連接する形で設けられた垂直部8と複数(本実施形態にあっては19個)のセグメント91 〜919とで構成され、垂直部8及び各セグメント91 〜919には、鋳片通路13を挟む形で各複数対の鋳片案内ロール14が設けられている。垂直部8は3つのゾーン101 〜103 で構成され、セグメント91 はゾーン104 を構成し、セグメント92 及び93 はゾーン105 を構成し、セグメント94 及び95 はゾーン106 を構成し、セグメント96 及び97 はゾーン107 を構成し、セグメント98 及び99 はゾーン108 を構成し、セグメント910、911及び912はゾーン109 を構成し、セグメント913、914、915、916、917、918及び919はゾーン1010を構成している。先述の二次冷却帯とは、画一的に決まるものではないが、冷却水を鋳片に向け供給すると、鋳片に生じる歪みが特に大きくなりそうな部位ということで、例えばゾーン106 と107 というように適宜決めればよい。
【0024】
そして、給水タンク1から給水ポンプ2によって給水主管3から供給される冷却水W1 は、各流量制御弁121 〜1210を介して各ノズル111 〜1110から冷却対象である鋳片Aに向け供給される。これにより、鋳片Aは冷却される。このとき、供給される冷却水W1 の流量は、各ゾーン101 〜1010毎に流量制御弁121 〜1210によって制御される。
【0025】
そして、鋳片Aに向け供給された後の冷却水W2 は、回収管15を介してフィルターや沈殿式等の異物除去装置16に回収され、その後、別の回収管17を介して回収タンク18に冷却水W’として回収される。回収タンク18には、これから冷却塔23に向けて供給されるべき、回収タンク18内の冷却水の温度を測定するための回収タンク温度検出器32が設けられている。
【0026】
回収タンク18には、送水主管19が接続され、送水主管19の途中には冷却塔送水ポンプ20が設置されている。そして、送水主管19の冷却塔送水ポンプ20よりも出側には、冷却塔23へ向かう送水主管21が接続されている。送水主管21の出側には、開閉弁22、冷却塔23、上部水槽24が順次配置されている。回収タンク18に回収後の冷却水W’は、冷却塔送水ポンプ20によって送水主管19、21を通って上部水槽24に向け冷却水W3 として供給される。上部水槽24の底部は多孔板となっており、冷却水W3 は冷却塔23の本体内部の充填物25中に通水され、充填物25中を落下した冷却水W3 は冷却されて冷却水W4 となり、冷却水W4 は給水タンク1に集められる。給水タンク1内の冷却水は符号Wで表している。冷却塔23の上部には、冷却塔ファン26が設置され、この冷却塔ファン26はその回転のオンオフ制御を行う制御装置31に接続されている。充填物25中を落下しつつある冷却水W3 は、制御装置31により冷却塔ファン26の回転をオンオフ制御することにより外気を吸引して発生させた空気流と充填物25内で接触させられ、蒸発潜熱を水滴状の冷却水W3 から奪うことで、冷却されるようになっている。
【0027】
請求項1にいう「冷却塔に向かう冷却水の通る系統」は、送水主管19,21で構成される。
そして、送水主管19の冷却塔送水ポンプ20よりも出側には、送水主管21から分岐する形でバイパス管29が設けられている。パイパス管29の途中には、開閉弁30が設けられるとともに、バイパス管29の出側は給水タンク1に接続されている。バイパス管29には、冷却塔送水ポンプ20のポンプ圧によって回収タンク18から給水タンク1に向かうバイパス冷却水W5 が通るようになっている。このバイパス管29は、請求項1にいう「冷却塔をバイパスする冷却水の通る系統」を構成する。
【0028】
そして、給水タンク1には、これから冷却対象である鋳片Aに向けて供給されるべき、給水タンク1内の冷却水Wの冷却水の温度TW を測定する温度計28が設置され、冷却塔23には、充填物25の周囲の湿球温度TA を測定する湿球温度検出器27が設置されている。温度計28及び湿球温度検出器27は、制御装置31に接続され、温度計28で測定された冷却水の温度TW の測定値及び湿球温度検出器27で測定された湿球温度TA の測定値は制御装置31に送られるようになっている。制御装置31は、冷却水の温度TW の測定値に基づいて開閉弁30の開閉制御及び冷却塔ファン26の回転のオンオフ制御を行うようになっている。
【0029】
次に、図1及び図3を参照して、制御装置31による冷却塔ファン26のオンオフ制御及び開閉弁30の開閉制御の概要を説明する。
冷却塔ファン26のオンオフ制御及び開閉弁30の開閉制御は、全く独立して行われ、冷却塔ファン26のオンオフ制御結果が開閉弁30の開閉制御に影響を及ぼしたり、あるいは開閉弁30の開閉制御結果が冷却塔ファン26のオンオフ制御に影響を及ぼすものではない。
【0030】
このため、先ず、冷却塔ファン26のオンオフ制御について説明する。図3に示すように、給水タンク1内の冷却水の温度TW が設定温度(目標冷却水温度)に対して±1.5℃の範囲内にある場合には、制御装置31は冷却塔ファン26に対して現在の状態を維持するように制御する。例えば、冷却塔ファン26がオンに制御され回転している場合には、その状態を維持するよう冷却塔ファン26をオンに制御し、その逆に冷却塔ファン26がオフに制御され回転していない場合には、その状態を維持するよう冷却塔ファン26をオフに制御する。
【0031】
そして、給水タンク1内の冷却水の温度TW が設定温度に対して1.5℃を超えて低くなった場合には、制御装置31は冷却塔ファン26をオフに制御し、その冷却塔ファン26の回転を止めるようにし、外気を吸引して発生させた空気流と冷却水を充填物25内で接触させるのを止め、冷却水の冷却を止める。これにより、給水タンク1内の冷却水の温度TW は上昇することになる。
【0032】
一方、給水タンク1内の冷却水の温度TW が設定温度に対して1.5℃を超えて高くなった場合には、制御装置31は冷却塔ファン26をオンに制御し、その冷却塔ファン26の回転を行うようにし、外気を吸引して発生させた空気流と冷却水を充填物25内で接触させ、冷却水の冷却を行う。これにより、給水タンク1内の冷却水の温度TW は低下することになる。
【0033】
次に、開閉弁30の開閉制御について説明する。図3に示すように、給水タンク1内の冷却水の温度TW が設定温度に対して0.5℃を超えて低くなった場合には、制御装置31は開閉弁30を開くよう制御する。これにより、回収タンク18内の温かいバイパス冷却水W5 が冷却塔送水ポンプ20のポンプ圧により送水主管19、29を通って給水タンク1内に供給される。このため、冬季においても、給水タンク1内の冷却水の温度TW を上昇させることができ、給水タンク1内の冷却水の温度TW (設定温度)を適切な値に調整することができる。これにより、給水タンク1から鋳片(冷却対象)Aに向けて供給する冷却水の温度を冬季においても適切な値に調整することができ、冷却対象である高炭特殊鋼等の割れ感受性の高い鋼の鋳造時における表面欠陥の発生を最小限に抑制できる。
【0034】
一方、給水タンク1内の冷却水の温度TW が設定温度に対して0.5℃を超えて高くなった場合には、制御装置31は開閉弁30を閉じるよう制御する。これにより、回収タンク18から給水タンク1へ向かう温かいバイパス冷却水W5 の供給が停止され、給水タンク1内の冷却水の温度TW は低下することになる。
制御装置31は、開閉弁30の開閉制御を行うようになっているが、開閉弁30を流量制御弁で構成し、給水タンク1へのバイパス冷却水W5 の流量を制御するようにしてもよい。このようにすることで、給水タンク1内の冷却水の温度TW に基づいて給水タンク1へ向かうバイパス冷却水W5 の流量を制御でき、これにより給水タンク1内の冷却水の温度TW を制御することができる。従って、冷却塔ファン26の回転数の制御による冷却に関与する空気流量の制御範囲が狭い場合でも、給水タンク1内の冷却水の温度(設定温度)を適切に制御することができ、給水タンク1から鋳片Aに向けて供給する冷却水の温度を適切に制御することができる。
【0035】
そして、制御装置31は、バイパス冷却水W5 の流量を変更してから、給水タンク1内の冷却水の温度TW が鋳片(冷却対象)A用の設定温度(目標冷却水温度)に到達するまでに要する時間を予め予測しておき、実際に鋳片A用の設定温度を変更すべきタイミングがくるよりも、前記予測した時間分だけ前もってバイパス冷却水W5 の流量を変更する。この、バイパス冷却水W5 の流量を変更してから、給水タンク1内の冷却水の温度TW が鋳片A用の設定温度に到達するまでに要する時間の予測は、タンディッシュ5内の残鋼量と溶鋼処理速度(t/ min)等に基づいて計算や経験的実績により行う。これにより、実際に鋳片A用の設定温度を変更すべきタイミングがきたときに、給水タンク1内の冷却水の温度TW を鋳片A用の設定温度に到達させることができる。このため、給水タンク1の容積が大きくても、必要なタイミングに必要な冷却水温度を得ることができる。
【0036】
以上の通りであるが、上記した実施形態は一例にすぎず、本発明の実施形態はこれに限るものではない。すなわち、各種の変更を加えることができる。例えば、給水タンク1や回収タンク18をはじめ、請求項に記載されていないものは適宜省略しても良い。また、温度計28、32は、タンク内の冷却水中に浸漬しなくても、例えば、配管を流れる冷却水中に浸漬する等、その他の実施形態によっても良い。
【実施例】
【0037】
図1に示した冷却水循環供給系統にて給水タンク内の冷却水の温度を設定温度に制御した場合と、図1に示した冷却水循環供給系統に対してバイパス管を設けないで給水タンク内の冷却水の温度を設定温度に制御した場合とを比較した。
ここで、垂直部の長さが2.5mである垂直曲げ型連続鋳造機を用い、給水タンク内の冷却水温度の設定温度を35℃、37℃、42℃とする3通りの場合について比較した。
【0038】
なお、連続鋳造に供する鋼種、鋳込み速度、鋳片の厚み及び幅は以下の通りである。
鋼種:C濃度0.05〜0.10質量%の低炭素鋼、比水量2.0〜2.50/ kg−steel
C濃度1.00〜1.50質量%の中炭素鋼、比水量0.6〜2.0/ kg−steel
C濃度1.50〜2.00質量%の高炭素鋼、比水量0.6〜1.61/ kg−steel
鋳込み速度:0.6〜2.0m/ min
鋳片の厚み:260mm、鋳片の幅:650〜1650mm
【0039】
図4は、図1に示した冷却水循環供給系統にて給水タンク内の冷却水の温度を設定温度に制御した場合(実施例の場合)の制御実績と、図1に示した冷却水循環供給系統に対してバイパス管を設けないで給水タンク内の冷却水の温度を設定温度に制御した場合(比較例の場合)の制御実績との比較結果を示すグラフであり、(A)は冬季の場合の制御実績の比較結果、(B)は春季の場合の制御実績の比較結果を示している。
【0040】
図4(A)からわかるように、冬季の場合(湿球温度10℃の場合)には、実施例にあっては、給水タンク内の冷却水の温度の設定温度を37℃に制御したときの実際の冷却水の温度は37℃よりもほんの少しだけ高めになる頻度が若干高かったものの、設定温度を35℃、42℃に制御したときの実際の冷却水の温度は35℃、42℃になる頻度が高かく、問題はなかった。これに対して、比較例にあっては、給水タンク内の冷却水の温度の設定温度を42℃に制御したときの実際の冷却水の温度は42℃よりもかなり低くなる頻度が高かった。冬季で設定温度が42℃の場合、冷却塔ファンの回転数の制御のみでは実際の冷却水の温度をある一定の温度以上には制御できないことがわかる。また、給水タンク内の冷却水の温度の設定温度を37℃に制御したときの実際の冷却水の温度は37℃よりもやや高くなり、かつ、ばらつきが大きくなっている。冬季で設定温度が37℃の場合、冷却塔ファンの回転数の制御のみでは実際の冷却水の温度がばらついてしまうことがわかる。なお、給水タンク内の冷却水の温度の設定温度を35℃に制御したときの実際の冷却水の温度は35℃になる頻度が高く、問題はなかった。
【0041】
また、図4(B)からわかるように、春季の場合(湿球温度20℃の場合)には、実施例にあっては、給水タンク内の冷却水の温度の設定温度を37℃に制御したときの実際の冷却水の温度は37℃よりもほんの少しだけ高めになる頻度が若干高かったものの、設定温度を35℃、42℃に制御したときの実際の冷却水の温度は35℃、42℃になる頻度が高く、問題はなかった。これに対して、比較例にあっても、給水タンク内の冷却水の温度の設定温度を37℃に制御したときの実際の冷却水の温度は37℃よりもやや高めになる頻度が高かったが、設定温度を35℃、42℃に制御したときの実際の冷却水の温度は35℃、42℃になる頻度が高く、問題はなかった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一つの実施形態に係る冷却水循環供給系統の概略構成図である。
【図2】垂直曲げ型連続鋳造機の詳細を示す説明図である。
【図3】冷却塔ファンのオンオフ制御及び開閉弁の開閉制御の概要を示す説明図である。
【図4】図1に示した冷却水循環供給系統にて給水タンク内の冷却水の温度を設定温度に制御した場合(実施例の場合)の制御実績と、図1に示した冷却水循環供給系統に対してバイパス管を設けないで給水タンク内の冷却水の温度を設定温度に制御した場合(比較例の場合)の制御実績との比較結果を示すグラフであり、(A)は冬季の場合の制御実績の比較結果、(B)は春季の場合の制御実績の比較結果を示す。
【図5】従来例の水処理設備の冷却塔ファンの制御装置の概略構成図である。
【図6】従来例の冷却塔の運転方法が適用される全体機器配置概略図である。
【図7】冷却塔の出側温度と冷却に関与する空気流量との関係の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1 給水タンク
2 給水ポンプ
3 給水主管
4 垂直曲げ型連続鋳造機
5 タンディッシュ
6 モールド
7 鋳片案内装置
8 垂直部
1 〜919 セグメント
101 〜1010 ゾーン
111 〜1110 ノズル
121 〜1210 流量制御弁
13 鋳片通路
14 鋳片案内ロール
15 回収管
16 異物除去装置
17 回収管
18 回収タンク
19 送水主管
20 冷却塔送水ポンプ
21 送水主管
22 開閉弁
23 冷却塔
24 上部水槽
25 充填物
26 冷却塔ファン
27 湿球温度検出器
28 温度計
29 パイパス管
30 開閉弁
31 制御装置
32 回収タンク温度検出器
W,W’,W1 ,W2 ,W3 ,W4 冷却水
5 バイパス冷却水
A 鋳片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水を冷却対象に向けて供給し、前記冷却対象に供給後の冷却水を回収し、回収後の冷却水を冷却塔に送って冷却し、前記冷却塔により冷却された冷却水を再び冷却対象に向けて供給する冷却水循環供給系統において、
前記冷却塔に向かう冷却水の通る系統のほかに、前記冷却塔をバイパスする冷却水の通る系統を設けたことを特徴とする冷却水循環供給系統。
【請求項2】
前記冷却対象に向かう冷却水の温度を測定する温度計と、該温度計で測定された冷却水の温度に基づいて前記冷却塔をバイパスする冷却水の流量を制御する制御装置とを備えることを特徴とする請求項1記載の冷却水循環供給系統。
【請求項3】
請求項2記載の冷却水循環供給系統を用いて、前記冷却対象に向かう冷却水の温度を前記温度計にて測定し、該温度計で測定された冷却水の温度に基づいて前記冷却塔をバイパスする冷却水の流量を前記制御装置により制御し、これにより前記冷却対象に向かう冷却水の温度を制御することを特徴とする冷却水循環供給系統における冷却水温度の制御方法。
【請求項4】
前記冷却塔をバイパスする冷却水の流量を前記制御装置によって変更してから、前記冷却対象に向かう冷却水の温度が前記冷却対象側の目標冷却水温度に到達するまでに要する時間を予め予測しておき、実際に前記冷却対象側の目標冷却水温度を変更すべきタイミングがくるよりも、前記予測した時間分だけ前もって前記冷却塔をバイパスする冷却水の流量を前記制御装置によって変更することを特徴とする請求項3記載の冷却水循環供給系統における冷却水温度の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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