説明

冷媒用気液分離膜、冷媒用気液分離モジュール、及び冷媒の気液分離方法

【課題】高い効率で気液並存状態の冷媒を気体と液体に分離できる冷媒用気液分離膜の提供。
【解決手段】細孔を有する冷媒用気液分離膜であって、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該気液分離膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である、冷媒用気液分離膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気液並存状態の冷媒から気液を分離させるために使用する冷媒用気液分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気液並存状態(「気液混合」または「気液二相」の状態を総称していう。)の媒体(例えば、冷媒)から、気体と液体とを分離するために、種々の方法が提案されている。
【0003】
例えば、冷凍装置で使用される冷媒は、液体、気体、及び気液並存の状態で存在する。気液並存状態から液体と気体を分離するための気液分離器としては、重力によって液を溜めるタンク、又は旋回流の遠心力によって液相を外壁に付着させ、そして重力によって液を回収する気液分離器等が用いられている(特許文献1参照)。
【0004】
これらのような構造の気液分離器は、基本的に重力及び遠心力などの体積力によって気相より密度の大きい液相を分離する構造となっているため、これらの気液分離器は、体積力が支配的となるように設置方向と重力方向とをマッチングさせるか、または旋回流れ若しくは曲がり流れのような加速度を伴う流れを発生させるなどの工夫が必要であった。このため、気液分離器の設置位置及び向きに自由度が少ないことに加えて、タンク及び旋回流発生装置を用いるために、これらの装置は大型化している。
【0005】
しかしながら、このような大型の装置を用いても気相中に液相ミストが混入した噴霧流が発生し、十分な気液分離効果が得られない場合があった。
【0006】
この問題を解決するために、気液分離器において気液並存冷媒から気体状態の冷媒(「ガス冷媒」ともいう。)を分離するためにガス透過性を有するフィルターを使用することが提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、従来のフィルターを用いた場合は、フィルターの目の細かいものは気相の通過抵抗(圧損)が大きいために処理の効率が悪く、フィルターの目の粗いものは十分な気液分離効果が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−235245号公報
【特許文献2】特開2009−133566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、従来の冷媒用気液分離器では効率的な気液分離が困難であった。本発明の目的は、高い効率で気液並存状態の冷媒を気体と液体に分離できる高性能な冷媒用気液分離膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、細孔の孔径分布が極めて狭い冷媒用気液分離膜が、気液並存状態の冷媒を気体と液体に効率よく分離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の冷媒用気液分離膜とその製造方法、冷媒用気液分離膜積層体とその製造方法、冷媒用気液分離膜モジュール、並びに気液混合冷媒の気液分離方法に関するものである。
【0012】
[1] 細孔を有する冷媒用気液分離膜であって、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該気液分離膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である、冷媒用気液分離膜。
【0013】
[2] 細孔から成る凹部を有する第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、上記[1]に記載の冷媒用気液分離膜の製造方法。
【0014】
[3] 前記細孔から成る凹部を有する第1の鋳型が、アルミニウム板を陽極酸化することにより作製される、上記[2]に記載の製造方法。
【0015】
[4] 突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写する工程、
該第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、上記[1]に記載の冷媒用気液分離膜の製造方法。
【0016】
[5] 前記突起から成る凸部を有する第3の鋳型が、基板上に積層されたフォトレジスト層を干渉露光して現像することにより作製される、上記[4]に記載の製造方法。
【0017】
[6] 上記[1]に記載の冷媒用気液分離膜と多孔性フィルム基材とを積層させて成る冷倍用気液分離膜積層体。
【0018】
[7] 上記[1]に記載の冷媒用気体接触膜と多孔性フィルム基材とを積層する工程、及び
加熱により該冷媒用気体接触膜および/または該多孔性フィルム基材を融かして両者を融着させる工程
を含む冷媒用気体接触膜積層体の製造方法。
【0019】
[8] 上記[1]に記載の冷媒用気液分離膜または上記[6]に記載の冷媒用気液分離膜積層体によって内部空間を第1の空間と第2の空間に分離された容器から成り、第1の空間に外部空間からの気液二相流液入口と液相出口を有し、かつ第2の空間に外部空間への気相出口を有する、冷媒用気液分離膜モジュール。
【0020】
[9] 上記[8]に記載の冷媒用気液分離膜モジュールの前記気液二相流液入口から気液並存状態の冷媒を入れ、前記液相出口から液相状態の冷媒を取り出し、そして前記気相出口から気相状態の冷媒を取り出すことによって、気液並存状態の冷媒を液相と気相に分離する工程を含む、冷媒の気液分離方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の冷媒用気液分離膜は、微細孔の孔径分布が小さく、さらに高い効率で気液並存状態の冷媒を気体と液体に気液分離できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の冷媒用気液分離膜の一態様を示す断面模式図である。
【図2】細孔から成る凹部を有する陽極酸化ポーラスアルミナから成る鋳型を作製する工程図である。
【図3】突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写する工程図である。
【図4】細孔から成る凹部を有する第1の鋳型から冷凍サイクル用気液分離膜を作製する一例を示す工程図である。
【図5】実施例1および2で用いたモジュールを示す断面模式図である。
【図6】比較例1および2で用いたモジュールを示す断面模式図である。
【図7】本発明の冷媒用気液分離膜モジュールの外観図である。
【図8】本発明の冷媒用気液分離膜モジュールを適用した冷凍サイクルの概略構成図である。
【図9】実施例および比較例で用いた気液分離性能評価システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の冷媒用気液分離膜は、細孔を有し、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、気液分離膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である微多孔膜である。なお、本発明における細孔とは、直径が約10〜300nmの微細な寸法を有する孔をいう。
【0024】
本発明の冷媒用気液分離膜は、片側に気液並存状態の冷媒を配置し、膜の細孔を通して気液分離させ、他方の側から気体状態の冷媒のみを取り出すことにより、高い効率で気液並存状態の冷媒を気体と液体に分離することができる。
【0025】
まず、細かな通気孔があけられたフィルター状の膜がいかに気液分離膜として機能するかについて説明する。一般的に液体には表面張力が存在し、これと共に毛管力が発生する。毛管力は、孔又は管が狭ければ狭いほど強く働き、さらに通気孔においても働くため、その通気孔における液体の通過が阻止される。一方、気体は、通気孔の断面積に反比例して流れが阻害されるものの、その通過は許容され、液体のように流れが遮断されることはない。その結果、細かな通気孔が開けられたフィルター状の膜が気液分離膜として機能することになる。
【0026】
毛管力は、通気孔付近における液体の接触角と、通気孔の孔径によって決まる。その孔径の分布が大きい場合、気液を分離する際の圧力に対抗する力は、理論的には最も大きな孔径に依存してしまう。また、従来の多くの気液分離膜における通気孔同士はつながっているため、これらの通気孔は液体の通過を誘発する。
【0027】
また、このような気液分離膜には、気体を速やかに通過させる機能も要求される。通気孔の大きさと気体の通過抵抗は、一般的にハーゲンポ・アズイユの式によって表される。通気孔(細孔)の孔径が小さくなる方向に、その孔径の分布が生じた場合には、気体の通過効率が低下してしまう。つまり、毛管力を利用した気液分離膜は、通気孔の孔径が均一であればあるほど性能と信頼性が高くなる。
【0028】
本発明の冷媒用気液分離膜の場合には、細孔の孔径分布における標準偏差は平均値の30%以下であり、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0029】
また、本発明の冷媒用気液分離膜表面は平滑性が極めて高いため、接触する流体の局所滞留が少なくなり、気液並存状態の冷媒側の気泡の移動が促進され、効率よく気体の通過を行うことができると考えられる。
【0030】
本発明の別の態様は、上記の冷媒用気液分離膜と多孔性フィルム基材とを積層させて成る冷倍用気液分離膜積層体である。従って、本発明の冷媒用気液分離膜を平滑な多孔性フィルム基材に積層した冷媒用気液分離膜積層体として使用する場合は、気液分離膜側に気液並存状態の冷媒を流すことが、気液分離効率が高くなるので好ましい。
【0031】
以下に、本発明の冷媒用気液分離膜の望ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の冷媒用気液分離膜に用いられる薄膜の一態様を示す断面模式図である。本態様の冷媒用気液分離膜の細孔は、薄膜の表面から裏面に渡って細孔径が増加していくテーパー形状を有している。本発明の冷媒用気液分離膜を後述する製造方法で製造する場合は、冷媒用気液分離膜の表面から裏面に渡って細孔径が均一な場合、鋳型より冷媒用気液分離膜を離型する工程において、薄膜の剥離をスムーズに行うことができず、欠陥を生じる可能性があるため、本態様のテーパー形状がより好ましい。
【0032】
次に、本発明の冷媒用気液分離膜に用いられる薄膜の製造方法について説明する。
第1の製造方法は、細孔から成る凹部を有する第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程を含む冷媒用気液分離膜の製造方法である。ここで、該第1の鋳型は、たとえば、アルミニウム板を陽極酸化することにより好適に作製することができる。
【0033】
第2の製造方法は、突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写する工程、該第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程を含む冷媒用気液分離膜の製造方法である。ここで、該第3の鋳型は、例えば、基板上に積層されたフォトレジスト層を干渉露光して現像することにより好適に作製することができる。
【0034】
上記2種の製造方法において、第1の鋳型は、本発明の冷媒用気液分離膜と同様に細孔から成る凹部を有する鋳型である。また、第2の鋳型、及び第3の鋳型は本発明の冷媒用気液分離膜とは逆に突起から成る凸部を有する鋳型であり、前記第1の鋳型とはポジとネガの関係にある。
【0035】
上記第1の製造方法について、より詳細に説明する。
図2は、細孔から成る凹部を有する第1の鋳型(陽極酸化ポーラスアルミナ)の作製方法を示す。陽極酸化ポーラスアルミナ3は、陽極酸化によりアルミニウム基材2の表面に形成されるが、陽極酸化ポーラスアルミナ3の細孔4の形状は、底部を除いてほぼ一定の径を有する円筒形状をしており、これをそのまま鋳型として用いた場合、薄膜の金型からの剥離をスムーズに行うことができず、欠陥を生じる可能性がある。
【0036】
一方、陽極酸化とエッチングによる細孔の拡大処理とを組み合わせることにより、所望のテーパー形状の孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナから成る反射防止膜作製用のスタンパを製造する方法が知られている(特開2005−156695号公報)。
【0037】
上記方法について簡単に述べると、アルミニウム基材2に所定の時間、陽極酸化を実施して所望の深さの細孔を形成した後、適当な酸溶液中に浸漬することにより孔径の拡大処理を行う。その後、再び陽極酸化を行うことで、1段階目に比較して孔径の小さな細孔を形成する。この操作を繰り返すことにより、テーパー形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを得ることができる。繰り返し段数を増やすことで、より滑らかなテーパー形状の細孔を得ることができる。陽極酸化時間と孔径拡大処理時間とを調整することで、様々なテーパー形状を有する細孔の形成が可能であり、この方法を冷媒用気液分離膜の製造に利用することで、ピッチ、孔の深さに合わせて最適な冷媒用気液分離膜の構造設計が可能となると考えられる。
【0038】
また、定電圧で長時間陽極酸化を施した後、一旦酸化膜を除去し、再び同一条件で陽極酸化を施すことで作製した陽極酸化ポーラスアルミナを用いることで、高い孔配列規則性を有する陽極酸化ポーラスアルミナを鋳型とすることが可能となる。
【0039】
使用する陽極酸化ポーラスアルミナとしては、例えば、シュウ酸を電解液として用い、化成電圧30V〜60Vにおいて作製した陽極酸化ポーラスアルミナを用いることができる。また、硫酸を電解液として用い、化成電圧25V〜30Vにおいて作製した陽極酸化ポーラスアルミナを用いることもできる。このような陽極酸化ポーラスアルミナを用いることで、より高い規則性を有する窪み配列を有する鋳型を得ることができる。
【0040】
さらに、陽極酸化ポーラスアルミナの作製において、陽極酸化に先立ちアルミニウム表面に微細な窪みを形成し、これを陽極酸化時の細孔発生点とすることもでき、任意の配列を有する窪み配列を鋳型とすることが可能となる。
【0041】
上記方法により作製した第1の鋳型の細孔に、金属、金属酸化物、高分子などの物質を充填した後、第1の鋳型を除去することにより第2の鋳型を得ることができる。
【0042】
金属、金属酸化物としては、特に限定されるものではないが、一般的にはNi、Ta、SiO、炭素、有機SOG等が使用される。これらの例の中で、Niは電鋳が容易であるため好ましい。
【0043】
また、第1の鋳型に充填される高分子としては、加工性を有するものであれば限定されないが、代表的なものとして、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシ3フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、ポリ3フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テフロン(登録商標)AF(登録商標:DuPont社製)、ハイフロンAD(登録商標:Solvay Solexis社製)、サイトップ(登録商標:旭硝子社製))、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、並びにそれらの共重合体等を挙げることができる。また、前記ポリマーのモノマーを第1の鋳型に充填後、UV等の光及び/又は熱で重合させてもよい。これらの例の中で、フッ素系樹脂は第1の鋳型からの離型性に優れるため好ましい。
【0044】
さらに、上記第2の鋳型に高分子を充填し、その後、該第2の鋳型から該高分子膜を離型することによって、冷媒用気液分離膜を得ることができる。
【0045】
第2の鋳型に高分子を転写する方法としては、特に限定はされないが、光インプリント、熱インプリント、室温インプリント、ナノキャスティングインプリント等の方法を用いることができる。
高分子としては、第2の鋳型に充填したときに、第2の鋳型の材料と接着又は融着等して問題が起こるものでなければ特に限定されないが、代表的なものとして、ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシ3フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、テフロン(登録商標)AF、ハイフロンAD(登録商標)、サイトップ(登録商標)等のフッ素樹脂、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、並びにそれらの共重合体等が耐久性が高く好ましい。また、前記ポリマーのモノマーを第2の鋳型に充填後、UV等の光及び/又は熱で重合させてもよい。これらの例の中でもフッ素樹脂は第2の鋳型からの離型性に優れるためより好ましい。
【0046】
転写に使用する高分子の体積を第2の鋳型の突起から成る凹凸の空隙の体積より多く使用した場合は、冷媒用気液分離膜の片側の細孔が余分の残膜で塞がれた状態となっているため、離型前又は離型後に、この残膜をエッチング処理することにより除去して貫通開孔薄膜とする必要がある。エッチング方法としては、プラズマ等を利用した高真空ドライエッチング、大気圧ドライエッチング、溶剤を用いたウェットエッチング等を挙げることができる。これらの中でも大気圧ドライエッチングは低コストでエッチング精度が高いため好ましい。
【0047】
以上の工程によって、冷媒用気液分離膜を製造するプロセスの一例を図4に示す。
陽極酸化ポーラスアルミナ3から成る第1の鋳型の表面に、無電解メッキ又はスパッタリングによりNi−P、Au、Cr等から成る表面導電層を形成した後、Ni等の電解メッキにより第2の鋳型を形成する。第1の鋳型から第2の鋳型を剥離させるか、第1の鋳型を選択的に溶解除去することにより第2の鋳型を得る。次に、第2の鋳型に高分子、例えば、ポリスルホンを溶媒に溶解させた溶液を充填し、溶媒を乾燥させて高分子から成る薄膜を得る。この薄膜の余分に充填された高分子膜をプラズマエッチングで除去した後、第2の鋳型から剥離して冷媒用気液分離膜を得る。該冷媒用気液分離膜と多孔性フィルム基材とを積層させることで、本発明の冷媒用気液分離膜積層体を得ることができる。
【0048】
次に、上記第2の製造方法について、より詳細に説明する。
図3は、突起から成る凸部を有する第3の鋳型から、細孔から成る凹部を有する第1の鋳型を作製する方法を示す。
【0049】
上記第3の鋳型は、干渉露光法によって好適に作製することができる。まず、平滑な基板7(例えば研磨されたガラス原盤)上に、ポジ型フォトレジストを塗布する。ポジ型フォトレジストは半導体装置製造の技術分野において周知のレジストであり、フェノール性水酸基を有する樹脂と、光酸発生剤とを含む組成物である。この組成物は光照射前のアルカリ性現像液に対する溶解性は低いが、光照射によって酸が発生しアルカリ性現像液に対する溶解性が高くなる。この現像液に対する光照射部と光未照射部の溶解性の差異を利用してパターニングを行うことが可能となる。以下においては、上記光未照射部のことを硬化部、上記光照射部のことを未硬化部ともいう。
【0050】
次に、レーザー光を用いた干渉露光法(以下「レーザー干渉露光法」ともいう。)により露光を行い、微細なテーパー形状の突起から成る硬化部と残余の未硬化部を得る。露光後、現像を行い未硬化部を除去することによって、突起から成る凸部8を有する第3の鋳型9として得る。
【0051】
フォトレジストに形成された凸部8は、レーザー干渉露光法により、凸部の頂上部8aが細くなる一方、底部8bが太くなる、いわゆるテーパー形状となる。この現象は、レーザー光のパワー強度がフォトレジスト表面で強く、フォトレジストの中を進むに従って弱くなり、その結果、フォトレジスト表面で露光量が大きくなって頂上部8aが浸食され、フォトレジストの深さ方向へ進むに従って露光量が小さくなって深さ方向への浸食が弱くなり、底面部8bが広がるためであると考えられる。従ってフォトレジストの感光性の度合い(γ値)によってテーパーの角度を調整することができる。
【0052】
なお、レーザー干渉露光法とは、特定の波長のレーザー光を角度θ’の2つの方向から照射して形成される干渉縞を利用した露光法であり、角度θ’を変化させることで使用するレーザーの波長で制限される範囲内で色々なピッチを有する凹凸格子の構造を得ることができる。例えば、方向を120度ずつずらした3組の上記干渉縞を重ね合わせて露光することで、上記のテーパー形状の突起から成る凹凸パターンを形成することができる。
【0053】
干渉露光に使用できるレーザーとしては、TEM00モードのレーザーに限定される。TEM00モードのレーザー発振できる紫外光レーザーとしては、アルゴンレーザー(波長364nm、351nm、333nm)、又はYAGレーザーの4倍波(波長266nm)などが挙げられる。
【0054】
また、形成されたパターンのエッチングによってもテーパーの角度を変化させることが可能である。すなわち、高真空プラズマエッチングにおいて、エッチングの異方性を制御することによりテーパーの角度を変えることができる。
【0055】
一般的に入射する反応性イオンの平均自由行程を低圧力にして長くする程、垂直にガスが入射して異方性が大きくなるが、この場合、垂直方向に一様にエッチングされるためテーパーの角度の変化は小さい。逆に圧力を高めに設定することにより、横方向への反応性イオンの入射が増加して横方向にもエッチングされ、テーパーの角度が変化する。
【0056】
上記方法により作製した第3の鋳型に対して、図3(b)に示すように、表面導電層を形成した後Ni電鋳を行い、第1の鋳型を形成する。該第3の鋳型を除去すると凹凸が反転して転写された凹凸を有する第1の鋳型10が得られる(図3(c))。
【0057】
上記方法により作製した第1の鋳型を用いて、その孔に、金属、金属酸化物、高分子などの物質を充填した後、該第1の鋳型を除去することにより第2の鋳型を得ることができる。
【0058】
上記第2の製造方法で作製した第2の鋳型は、前記第1の製造方法で作製した第2の鋳型と同様に、高分子を充填し該第2の鋳型より離型することによって、連続的に細孔径が変化するテーパー形状を有し、細孔径の孔径分布が非常に小さい冷媒用気液分離膜を得ることができる。
【0059】
上記の製造方法によって、細孔ピッチが30〜1000nmであり、細孔径が10〜300nmであり、細孔深さが30nm〜1000nmであり、かつ該細孔径の孔径分布が極めて狭いことを特徴とする冷媒用気液分離膜を得ることができる。微細孔径の孔径分布が非常に小さいとは、孔径(孔の直径)の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下であること、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下であることを言う。
【0060】
また、本発明の冷媒用気液分離膜の気孔率は、特に限定されないが、通常25%以上95%以下、好ましくは、40%以上、更に好ましくは、50%以上、特に好ましくは60%以上である。25%以上であれば透水性に優れ、95%以下であれば冷媒用気液分離膜として用いる十分な強度を確保できる。
【0061】
上記製造方法によって得られた冷媒用気液分離膜はそのまま用いることも可能であるが、機械的強度を高めるため多孔性フィルム基材と積層して冷媒用気液分離膜積層体として用いることが好ましい。多孔性フィルム基材としては、微多孔膜、不織布、相分離膜、延伸開口膜等を挙げることができる。
【0062】
多孔性フィルム基材の材質としては、特に限定はされないが、代表的なものとして、ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシ3フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、テフロン(登録商標)AF、ハイフロンAD(登録商標)、サイトップ(登録商標)等のフッ素樹脂、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、並びにそれらの共重合体等が耐久性が高く好ましい。
【0063】
多孔性フィルム基材の孔径は、冷媒用気液分離膜の細孔径より大きいものが好ましく、1〜100μmの範囲にあることがより好ましい。また、多孔性フィルム基材の厚みは10〜1000μmであることが強度と気孔率のバランス上好ましい。冷媒用気液分離膜の多孔性フィルム基材への積層は、冷媒用気液分離膜を金型から剥離しながら多孔性フィルム基材に重ね合わせていく方法が一般的であるが、残膜をエッチングすると冷媒用気液分離膜が金型から離型し難くなる場合がある。この場合は積層した後に残膜をエッチングする必要がある。しかし単純な移し変えによる重ね合わせでは残膜は多孔性フィルム基材側になるので、後工程でエッチングができない問題がある。そのような問題を防ぐためには、一度別の基材に移し取って裏返しにしてから多孔性フィルム基材に重ね合わせる必要がある。この別の基材は、金型から剥がした薄膜を多孔性フィルム基材に貼り直す必要があるので、弱粘着性であることが好ましい。
【0064】
冷媒用気液分離膜と多孔性フィルムとは単に重ね合わせて使用することも可能であるが、熱融着及び/又は接着剤による接着を行ってもよい。熱融着の場合、加熱により冷媒用気液分離膜および/又は多孔性フィルム基材を融かして両者を融着させる。このとき、多孔性フィルム基材を構成する材料の溶融温度が冷媒用気液分離膜を構成する材料の溶融温度よりも低い方が、熱融着時に冷媒用気液分離膜の細孔形状への影響が少ないので、より好ましい。熱融着の場合の加熱法としては、加熱板を当てること、熱風を当てること、赤外線及び/又は高周波を照射すること等の方法が挙げられる。
【0065】
本発明の別の態様は、上記の冷媒用気液分離膜及び/又は冷媒用気液分離膜積層体を含む以下のような冷媒用気液分離膜モジュールである。本発明の冷媒用気液分離膜モジュールは、気液並存状態の冷媒である気液二相流を気体冷媒と液体冷媒に分離するために使用することができる。
【0066】
本発明の冷媒用気液分離膜モジュールは、本発明の冷媒用気液分離膜または冷媒用気液分離膜積層体によって内部空間を第1の空間と第2の空間に分離された容器から成り、第1の空間に外部空間からの気液二相流液入口と液相出口を有し、かつ第2の空間に外部空間への気相出口を有する。また、上記冷媒用気液分離膜モジュールの気液二相流液入口、液相出口及び/又は気相出口に、コック又は流量若しくは圧力調整用のバルブを設けることも好ましい。
【0067】
冷媒用気液分離膜モジュールの容器の材料は、例えば、ステンレス等の金属、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシ3フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、ポリ3フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テフロン(登録商標)AF、ハイフロンAD(登録商標)、サイトップ(登録商標))、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、並びにそれらの共重合体等に代表される有機物を挙げることができる。
【0068】
たとえば、図5に断面模式図を示した一態様においては、冷媒用気液分離膜積層体11によって、冷媒用気液分離膜モジュールの内部空間が二分されており、第1の空間に気液二相流液入口13と液相出口14を有し、かつ第2の空間に気相出口12を有する。なお、図5では冷媒用気液分離膜積層体を単純な形状として図示しているが、気液分離面積を大きくするためにこのようなモジュールで公知の構造、たとえばスパイラル型、またはプリーツ型にしてもよい。
【0069】
本発明の気液混合冷媒の気液分離方法は、本発明の冷媒用気液分離膜モジュールの気液二相流液入口から気液並存状態の冷媒を圧力をかけて入れ、冷媒用気液分離膜の細孔を通して該冷媒を気体と液体に分離させ、液相出口から冷媒の液相を取り出し、気相出口から冷媒の気相を取り出すことにより行う。
【0070】
好適に使用できる冷媒としては、アンモニア、炭酸ガス、イソブタン、クロロフルオロカーボン系冷媒{例えばR12(ジクロロフルオロメタン)又はR22(クロロジフルオロメタン)など}、ハイドロフルオロカーボン系冷媒(例えばR407C又はR410Aなど)が挙げられる。
【0071】
本発明の冷媒用気液分離膜モジュールは、限定されるものではないが、図8に示すような冷凍サイクルに適用してよい。
図8において、冷凍サイクル20は、冷媒を圧縮する圧縮機21と、圧縮機21で圧縮された冷媒を冷却して冷媒を液化するコンデンサ22と、コンデンサ22によって液化された冷媒を減圧する減圧手段である膨張弁23と、膨張弁23によって減圧された冷媒(気液並存状態)を液相と気相に分離する冷媒用気液分離膜モジュール24と、冷媒用気液分離膜モジュール24から出た冷媒(液相)を貯める貯槽25と、この冷媒(液相)を気化させるエバポレータ26とを備えている。
【0072】
圧縮機21の出口とコンデンサ22の入口は第1接続配管27で、コンデンサ22の出口と膨張弁23の入口は第2接続配管28で、膨張弁23の出口と気液分離膜モジュール24との間は冷媒導入用配管29で、気液分離膜モジュール24と貯槽25との間は冷媒導出用配管30で、貯槽25とエバポレータ26の入口との間は冷媒導出用配管31で、冷媒用気液分離膜モジュール24とエバポレータ26の出口側はバイパス用配管32で、エバポレータ26の出口と圧縮機21の入口は第3接続配管33でそれぞれ接続されている。
【0073】
冷媒用気液分離膜モジュール24から出た気相冷媒はバイパス用配管32に導かれ、エバポレータ26を迂回して圧縮機21に戻る。
【0074】
貯槽25に溜まった液相冷媒は、冷媒導出用配管31よりエバポレータ26に送られる。従って、冷媒用気液分離膜モジュール24での分離が完全であればエバポレータ26には気相冷媒が供給されることはない。
【0075】
気液並存状態の冷媒に含まれる液相冷媒が、ミスト又は液滴の形態で気相冷媒と共にエバポレータを迂回して圧縮機に入ると、冷媒の潜熱が冷凍に有効に利用されないという問題が発生するが、本発明の冷媒用気液分離膜モジュールを使用すれば、気液並存状態の冷媒より気相冷媒を効率的かつ確実に分離し、冷媒の潜熱を無駄なく有効に利用できる。
【実施例】
【0076】
次に、実施例に基づいて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されるものではない。
【0077】
[鋳型、及び膜の構造観察]
走査型電子顕微鏡による観察:作製した鋳型、及び冷媒用気液分離膜から任意の大きさに切り取った試料を導電性両面テープにより試料台に固定し、白金を3nm程度の厚みにスパッタリングして顕微鏡試料とした。高分解能走査型電子顕微鏡装置(日立株式会社製 S−3000N)を用い、加速電圧1.0kV、及び所定の倍率で試料の表面、及び断面を観察した。鋳型の凸部の径、鋳型及び膜の厚み、細孔径、細孔ピッチについて50箇所測定し、平均値を求めた。
原子間力顕微鏡による観察:作製した試料から任意の大きさに切り取った冷媒用気液分離膜試料を両面テープにより試料台に固定し観察試料とした。原子間力顕微鏡(デジタルインスツルメント社製NanoScopeIII)を用い、Veeco社製のNCHVの探針を用いて所定の倍率で膜の表面形状を観察した。
【0078】
[膜厚]
多孔性フィルム基材:膜厚計(Mitutoyo社製 Digimatic Indicator IDF−130)を用いて測定した。異なる10点の箇所で測定し、平均値を求めた。
冷媒用気液分離膜:走査型電子顕微鏡による冷媒用気液分離膜の断面観察より膜厚を測定した。
【0079】
[気孔率]
走査型電子顕微鏡による膜の観察により、冷媒用気液分離膜の測定範囲にある孔の体積を測定し、次式(1)によって気孔率を算出した。ここで、孔の体積は上面の直径がAで底面の直径がBで高さが膜の厚さに等しい円錐台形状と仮定して計算した。
気孔率(%)=(測定範囲内の孔の体積)/測定範囲の膜の体積×100・・・(1)
【0080】
<実施例1>
0.3Mシュウ酸を電解液として用い、化成電圧60Vで、純度99.99%のアルミニウム板に50秒間陽極酸化を行った。その後、2重量%リン酸30℃中に10分間浸漬し、孔径拡大処理を行った。この操作を5回繰り返し、縦横ともに200mmで、細孔ピッチ300nm、細孔径開孔部0.2μm、孔の深さ0.3μmのテーパー形状細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナから成る第1の鋳型を得た。
【0081】
次にこの第1の鋳型の電鋳を行った。まず、ニッケルスパッタにより表面電極処理を行い、その上にニッケルの電気メッキを施した。金属メッキを鋳型から剥離することによって、ニッケルから成る第2の鋳型を得た。
【0082】
得られた第2の鋳型を、蒸留水中で十分に洗浄した。事前に調製したポリスルホン(帝人アモコ社製、UDEL−P3500)のN−メチルピロリドン溶液2wt%をこの第2の鋳型にスピンコートし、80℃で乾燥し、第2の鋳型上に厚さ0.4μmの冷媒用気液分離膜前駆体を形成した。冷媒用気液分離膜前駆体の表面にある残膜をプラズマエッチングにより厚さ0.15μm程度除去した。
【0083】
多孔性フィルム基材として縦横ともに200mmのポリプロピレン不織布(シンテックス(登録商標)MB MO18YY 三井化学株式会社製)を用いて第2の鋳型上の薄膜と160℃(ポリスルホンの熱変形温度は約175℃、ポリプロピレンの融点は約160℃)で熱融着させることによって薄膜の第2の鋳型からの剥離と多孔性フィルム基材との積層を同時に行い、ポリプロピレン不織布上にポリスルホンから成る冷媒用気液分離膜が積層された冷媒用気液分離膜積層体を得た。この積層体の厚みは157μmであった。
【0084】
この冷媒用気液分離膜を電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で解析したところ、空孔率40%、細孔径は50個測定して最小値0.18μm、最大値0.23μm、平均値0.21μm、標準偏差0.02であった。膜厚は平均値0.25μmであった。
【0085】
次にこの冷媒用気液分離膜積層体の平膜を5cm×20cmに切り出し、図5に示すような平膜モジュールを作製し、気液分離試験に使用した。有効膜面積は76cm2であった。
【0086】
図5では気液二相流体を気液二相流液入口13から入れる。気液二相流体は気液分離膜積層体11によって気相と液相に分離され、気相は気液分離膜積層体11を通過して気相出口12から出て、液相は液相出口14から排出される。
【0087】
冷媒としてR407C(ダイキン工業株式会社製)を使用し、図9に示すような気液分離性能評価システムを使用して冷媒の気液二相流の気液分離試験を実施した。この気液分離性能評価システムは、冷媒貯槽34と送液ポンプ35と膨張弁23から成る気液二相流発生部と、気液分離モジュール24と、液相の貯槽36と第1の安全弁37、気相の貯槽38と第2の安全弁39、気相の流量計40から構成される。
【0088】
図9において評価システム全体を38℃に温調し、冷媒貯槽34からR407Cを送液ポンプ35で圧力をかけて送液し、膨張弁23で1.56MPaに減圧して発生させた気液二相流を気液分離モジュール24に導いた。気液分離モジュール24で分離された液相は液相の貯槽36に、気相は気相の貯槽38に導いた。気相の貯槽38に導かれた気相の流量(処理量(l/分))を測定し、さらにミスト及び液滴の混入状態を目視で調べた。結果を表1に示す。
【0089】
<実施例2>
平滑に研磨された縦横ともに200mmのガラス板上にポジ型のフォトレジストを厚み300nmで塗布してフォトレジスト付基板を得た。TEM00モードのアルゴンレーザ(波長364nm)から出射される光をミラーで二分割して45度の角度で2方向から照射して重ね合わせることで干渉縞を形成させ、形成された干渉縞を120度間隔で3方向からフォトレジスト付基板に照射してフォトレジストを露光した。露光後、現像を行い、未硬化部を除去することによって、第3の鋳型を得た。
【0090】
この第3の鋳型の突起はピッチ260nmで、凸部の径は底部で250nm、頂部で120nmであり、高さは300nmであった。
【0091】
次にこの第3の鋳型の電鋳を行った。まず、ニッケルスパッタにより表面電極処理を行った。その上にニッケルの電気メッキを施し、金属メッキを第3の鋳型から剥離することによって、第3の鋳型の凹凸構造を反転して転写された第1の鋳型を得た。
【0092】
次に第二の電鋳の剥離のための処理として、第1の鋳型の表面を酸化処理して金属の酸化被膜を形成した。そして、電鋳として第1の鋳型の表面にニッケルメッキを施した。第1の鋳型から金属メッキを剥離して第2の鋳型を得ることができた。この第2の鋳型は第1の鋳型を原盤として作製されるため、壊れても補充が可能である。
【0093】
事前に調製したポリスルホン(帝人アモコ社製、UDEL−P3500)のN−メチルピロリドン溶液2wt%をこの第2の鋳型にスピンコートし、80℃で乾燥し、厚さ0.4μmの冷媒用気液分離膜前駆体を第2の鋳型上に得た。
【0094】
次に縦横ともに200mmに切出したフィックスフィルムHG−1(フジコピアン(株)社製)を張り合わせ、剥がすことにより冷媒用気液分離膜前駆体を金型から離型した。
【0095】
多孔性フィルム基材としてポリプロピレン不織布(シンテックス(登録商標)MB MO18YY 三井化学株式会社製)を縦横ともに200mmに切出して金型から離型した冷媒用気液分離膜前駆体と重ね合わせた。160℃で加熱して冷媒用気液分離膜前駆体と多孔性フィルム基材とを熱融着させた後フィックスフィルムHG−1を剥離した。冷媒用気液分離膜前駆体の表面にある残膜をプラズマエッチングにより厚さ0.15μm程度除去して冷媒用気液分離膜積層体を得た。この積層体の厚みは158μmであった。
【0096】
この冷媒用気液分離膜を電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で解析したところ、空孔率48%、細孔径は50個測定して最小値0.17μm、最大値0.24μm、平均値0.22μm、標準偏差0.02であった。膜厚は平均値0.26μmであった。
【0097】
次にこの冷媒用気液分離膜積層体平膜を5cm×20cmに切り出し、図5に示すような平膜モジュールを作製した。有効膜面積は76cm2であった。この平膜モジュールについて実施例1と同様の操作で気液分離試験を実施した。結果を表1に示す。
【0098】
<比較例1>
ポリテトラフルオロエチレンの微粒100重量部と石油ナフサ22重量部を混合しTダイを備えた押出し機により押出して平膜を成型し、加熱乾燥後250℃で120%に一軸延伸して平膜を作製した。この平膜を360℃で15分焼成した。得られた平膜を電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で解析したところ、空孔率40%、細孔径は50個測定して最小値0.02μm、最大値0.24μm、平均値0.14μm、標準偏差0.09であった。膜厚は平均値90μmであった。
【0099】
次にこの平膜を5cm×20cmに切り出し、図6に示すような平膜モジュールを作製し、気液分離試験を実施した。有効膜面積は76cm2であった。
【0100】
図6では気液二相流体を気液二相流液入口17から入れる。気液二相流体は平膜15で気相と液相に分離され、気相は平膜15を通過して気相出口16から出て、液相は液相出口18から排出される。この平膜モジュールについて実施例1と同様の操作で気液分離試験を実施した。結果を表1に示す。
【0101】
<比較例2>
メッシュフィルター(NY50−HD、SEFAR社製、269メッシュ、目開き50μm、厚み102μm)を5cm×20cmに切り出し、図6に示すような平膜モジュールを作製した。有効膜面積は76cm2であった。この平膜モジュールについて実施例1と同様の操作で気液分離試験を実施した。結果を表1に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
表1から明らかなように、細孔径分布が大きく平均細孔径の小さい膜では気液分離処理の効率は低かった。また目の粗いメッシュフィルターでは処理量は大きいが気液分離処理が不十分であり、ミスト及び液滴を分離できなかった。これに対して本願の冷媒用気液分離膜は高い効率で気液分離処理が可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の冷媒用気液分離膜は冷凍サイクルの気液分離処理の分野で好適に使用できる。
【符号の説明】
【0105】
1 第1の製造方法による第2の鋳型
2 アルミニウム
3 陽極酸化ポーラスアルミナ
4 細孔
5 分離膜
6 多孔性フィルム基材
7 基板
8 テーパー形状の突起から成る凸部
8a 凸部の頂上部
8b 凸部の底部
9 第2の製造方法による第3の鋳型
10 第2の製造方法による第1の鋳型
11 実施例1および2で用いたモジュールの冷媒用気液分離膜積層体
12 実施例1および2で用いたモジュールの気相出口
13 実施例1および2で用いたモジュールの気液二相流液入口
14 実施例1および2で用いたモジュールの液相出口
15 比較例1および2で用いたモジュールの平膜およびメッシュフィルター
16 比較例1および2で用いたモジュールの気相出口
17 比較例1および2で用いたモジュールの気液二相流液入口
18 比較例1および2で用いたモジュールの液相出口
19 冷媒用気液分離膜モジュール
20 冷凍サイクル
21 圧縮機
22 コンデンサ
23 膨張弁
24 冷媒用気液分離膜モジュール
25 貯槽
26 エバポレータ
27 第1接続配管
28 第2接続配管
29 冷媒導入用配管
30 冷媒導出用配管
31 冷媒導出用配管
32 バイパス用配管
33 第3接続配管
34 冷媒貯槽
35 送液ポンプ
36 液相の貯槽
37 第1の安全弁
38 気相の貯槽
39 第2の安全弁
40 気相の流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有する冷媒用気液分離膜であって、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該気液分離膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である、冷媒用気液分離膜。
【請求項2】
細孔から成る凹部を有する第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、請求項1に記載の冷媒用気液分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記細孔から成る凹部を有する第1の鋳型が、アルミニウム板を陽極酸化することにより作製される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写する工程、
該第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、請求項1に記載の冷媒用気液分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記突起から成る凸部を有する第3の鋳型が、基板上に積層されたフォトレジスト層を干渉露光して現像することにより作製される、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の冷媒用気液分離膜と多孔性フィルム基材とを積層させて成る冷倍用気液分離膜積層体。
【請求項7】
請求項1に記載の冷媒用気体接触膜と多孔性フィルム基材とを積層する工程、及び
加熱により該冷媒用気体接触膜および/または該多孔性フィルム基材を融かして両者を融着させる工程
を含む冷媒用気体接触膜積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の冷媒用気液分離膜または請求項6に記載の冷媒用気液分離膜積層体によって内部空間を第1の空間と第2の空間に分離された容器から成り、第1の空間に外部空間からの気液二相流液入口と液相出口を有し、かつ第2の空間に外部空間への気相出口を有する、冷媒用気液分離膜モジュール。
【請求項9】
請求項8に記載の冷媒用気液分離膜モジュールの前記気液二相流液入口から気液並存状態の冷媒を入れ、前記液相出口から液相状態の冷媒を取り出し、そして前記気相出口から気相状態の冷媒を取り出すことによって、気液並存状態の冷媒を液相と気相に分離する工程を含む、冷媒の気液分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−212545(P2011−212545A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81565(P2010−81565)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】