説明

冷媒配管接続継手およびその製造方法

【課題】冷媒配管接続継手の高さを低くしても疲労強度が高く維持できる、コンパクトでかつ耐久性に優れた冷媒配管接続継手およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の冷媒配管接続継手1は、接続対象物2にボルト3で固定される固定ブロック4と、この固定ブロック4に挿通されて支持された冷媒配管5とからなり、冷媒配管5は内側曲げ半径が3mm以下、好ましくは略0のL字形に曲げられている。そして、曲折部10の内側曲部10aが固定ブロック4に収容されるとともに、直管部14に固定ブロック4の加締め爪6が加締められ、この加締め部位7における冷媒配管5の外周面の断面形状が、長径d1/短径d2の比で1.3以下、好ましくは1.2以下となるように、固定ブロック4と冷媒配管5とが固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーエアコン等の冷媒回路を構成する際に用いられる、機器と冷媒配管とを接続する冷媒配管接続継手に関する。
【背景技術】
【0002】
〔従来技術1〕
従来の技術として、図7に示すような冷媒配管継手が提案されている(特許文献1参照)。この冷媒配管接続継手1は、接続対象物2にボルト3で固定される固定ブロック4と、この固定ブロック4に挿通されて支持された冷媒配管5とからなり、冷媒配管5はL字形に曲げられている。そして、リングシール部11と、曲折部10の少なくとも内側曲部10aとが固定ブロック4に収容された状態で、固定ブロック4と冷媒配管5とが固定されている。これにより、固定ブロック4の接続面と冷媒配管5との寸法、つまり冷媒配管接続継手1の高さh1が低く設けられるとするものである。
【0003】
〔従来技術2〕
ところが、上記従来技術1の冷媒配管接続継手1は冷媒配管5の直管部14側が固定されていないため、振動等による冷媒配管5のガタツキが問題となった。そこで、上記従来技術1の冷媒配管接続継手1を改良したものとして、図8に示すように、固定ブロック4に加締め爪6を設け、この加締め爪6を冷媒配管5の直管部14に加締めたものが実用化されている。これにより、振動等による冷媒配管5のガタツキをより確実に防止することができるようになった。
【0004】
上記従来技術2の冷媒配管接続継手1がエンジンルーム内に設置されたとき、冷媒配管5はコンプレッサからの振動等により繰り返し荷重を受ける。そして、冷媒配管5は加締め爪6で加締められた部位7で固定されているため、特にこの部位7に応力が集中することとなる。
【0005】
そこで、冷媒配管接続継手1の耐久性を評価するため、固定ブロック4を固定して冷媒配管5の直管部14先端に一定の曲げ荷重を掛けつつ当該先端を冷媒配管5の軸周りに回転させる回転疲労試験を行い、この試験結果から求められた疲労限(疲労強度)が規定値以上のものを冷媒配管接続継手1として採用することが行われている。
【0006】
ところで、近年エンジンルーム内への各種機器の設置がますます過密化しているため、冷媒配管接続継手1の高さh1をさらに低くした、よりコンパクトな冷媒配管接続継手の開発が要請されていた。
【0007】
しかるに、冷媒配管接続継手1の高さh1を単に低くするだけでは上記疲労強度が低下して規定値を満たさなくなり、上記コンパクト化の要請を満足する冷媒配管接続継手が得られない状況にあった。
【特許文献1】特開平7−12283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、冷媒配管接続継手の高さを低くしても疲労強度が高く維持できる、コンパクトでかつ耐久性に優れた冷媒配管接続継手およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、冷媒が流れる内部通路を備えた接続対象物に、接続具で固定される固定ブロックと、この固定ブロックに挿通された状態で支持された冷媒配管とを備え、前記固定ブロックを前記接続対象物に固定することによって、前記冷媒配管と前記内部通路とが接続される冷媒配管接続継手において、前記冷媒配管は、前記内部通路と接続される側に、内側曲部の曲げ半径が3mm以下である曲折部を備え、前記固定ブロックは、前記曲折部の内側曲部を収容する曲折収容部を備えるとともに、前記冷媒配管の直管部に加締められる加締め爪を備えた冷媒配管接続継手であって、この加締め爪が加締められた加締め部位における前記冷媒配管の外周面の断面形状が、長径/短径の比で1.3以下であることを特徴とする冷媒配管接続継手である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記加締め爪が加締められた加締め部位において、前記加締め爪の最上端と前記冷媒配管の最上端とが略一致する高さとなる請求項1に記載の冷媒配管接続継手である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の冷媒配管接続継手を製造する方法であって、前記加締め爪を前記冷媒配管に加締める際に、前記加締部位となる冷媒配管の内部に、あらかじめ前記冷媒配管の断面形状を保持する断面形状保持部材を挿入してから加締めることを特徴とする冷媒配管接続継手の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加締め爪で固定された部位の冷媒配管の断面形状を過度に扁平化しないことによって、疲労強度を高く維持でき、コンパクトでかつ耐久性に優れた冷媒配管接続継手およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
〔冷媒配管接続継手の構成〕
図1に実施の形態に係る冷媒配管接続継手を示す。(a)は冷媒配管接続継手の側面図、(b)は冷媒配管接続継手の上面図、(c)は(a)におけるA−A線断面図である。なお、上記図7および図8に示した従来の冷媒配管接続継手と同一の部品および部位には同一の符号を付した。冷媒配管接続継手1は、カーエアコンの冷媒回路を接続する際に用いられるもので、接続対象物としてのエアコン機器2に接続具としてのボルト3によって固定される固定ブロック4と、この固定ブロック4に端部側が挿通された状態で支持される冷媒配管5とからなる。なお、エアコン機器2は、冷媒配管5と連通する内部通路9を備え、固定ブロック4をエアコン機器2に固定することによって、冷媒配管5と内部通路9とが接続される。
【0015】
冷媒配管5は、アルミニウム製の管で、内部通路9と接続される側に、内側の曲げ半径が3mm以下、好ましくは略0のL字形に曲げられた曲折部10を備える。つまり、冷媒配管5は、内部通路9と接続される側が、エルボ形状に形成されている。冷媒配管5は、円環状に凹んだOリング溝12を備え、このOリング溝12内にはシール用のOリング13が装着される。
【0016】
固定ブロック4は、アルミニウム製のブロック体で、ボルト3を挿通するボルト挿通穴15を備えるとともに、冷媒配管5の接続端部19側を挿通する管挿通穴16を備える。この管挿通穴16は、冷媒配管5の曲折部10の内側曲部10aを覆う曲折収容部18が設けられている。さらに、冷媒配管5の直管部14を両側から挟み込むように加締められた2本の加締め爪6が設けられている。そして、冷媒配管5の内側曲部10aが曲折収容部18に接触し、冷媒配管5の直管部14が加締め爪6と加締めにより固着したことによって固定ブロック4と冷媒配管5とがガタツキなくより確実に固定される。
【0017】
2本の加締め爪6で加締められた加締め部位7における冷媒配管5の外周面の断面形状は、図1(c)に示す長径d1/短径d2の比で1.3以下、好ましくは1.2以下とする。これにより、冷媒配管接続継手1の耐久性を高く維持できる。ここに、長径d1は外周面の断面形状の最大径を意味し、短径d2は外周面の断面形状の最小径を意味する。
【0018】
上記のように長径d1/短径d2の比を限定したのは以下の理由による。すなわち、回転疲労試験において冷媒配管5の直管部14先端が短径d2に沿う方向に曲げられた状態となったときに、加締め部位7の最も直管部14先端寄りの位置7aに最大の曲げ応力が発生する。そして、上記長径d1/短径d2の比が大きくなるほど上記最大応力が上昇し、ついには疲労限が規定値より低くなってしまうためである。したがって、上記断面形状はできるだけ真円に近い形状とすることが望ましい。
【0019】
〔冷媒配管接続継手の製造方法〕
次に、上記冷媒配管接続継手1の主要部の製造方法を説明する。まず、押出成形されたアルミニウム製の冷媒配管5の端部近傍を、極小曲率でパイプを曲げ加工する曲げ加工装置(特開平8−323425号公報参照)を用いて、内側の曲げ半径が略0のL字形のエルボ形状に形成する。一方、ボルト挿通穴15、管挿通穴16および加締め爪6を有するアルミニウム製の固定ブロック4を押出し材からの切削によって形成する。
【0020】
次に、固定ブロック4の管挿通穴16内に冷媒配管5の端部を挿通し、曲折収容部18に内側曲部10aを接触させる。そして、冷媒配管5の直管部14内に断面形状保持部材として冷媒配管5内径よりやや細径の鋼製の中実棒8を、その先端部が加締め部位7まで届くように挿入したのち、対向する1対の加締め爪6の先端部をともに内側に折り曲げるように加締めて、これら対向する1対の加締め爪6で冷媒配管5を包み込むようにして固定する。加締め完了後中実棒8を抜き取る。加締め部位7における冷媒配管5の外周面の断面形状は、以下のようにして適正なものとすることができる。例えば予備実験で加締め爪6の長さ、断面形状保持部材8の断面形状、加締め力等の加締め条件を種々変更して加締めを行って上記長径d1/短径d2の比を測定し、長径d1/短径d2の比で1.3以下、好ましくは1.2以下が得られる加締め条件を求めておき、その条件で加締めることにより、再現性良く適正な断面形状を得ることができる。
【0021】
次に、固定ブロック4から突出した冷媒配管5に、プレス加工により管軸方向に圧縮して円筒状の拡管部19を形成した後、例えば転造加工等によりOリング溝12を形成する。その後、Oリング溝12内にOリング13を装着して、冷媒配管接続継手1が完成する。
【0022】
〔変形例〕
上記実施の形態では、冷媒配管5および固定ブロック4の材質としてアルミニウムを例示したが、アルミニウム合金、銅、黄銅、ステンレスなど他の材質を用いてもよい。また、冷媒配管5と固定ブロック4の材質は必ずしも同じ材質に限られるものではなく、異なる材質としてもよい。また、接続具3としてボルトを例示したが、ネジや嵌め合わせによって係合する係合構造など、他の手段を用いてもよい。また、1対の加締め爪6で冷媒配管を固定する例を示したが、2対以上の加締め爪で固定するようにしてもよい。また、固定ブロック4に1本の冷媒配管5を固定した例を示したが、複数の冷媒配管を固定して、1度の組付によって複数の冷媒通路を接続するように設けてもよい。また、また、固定ブロック4を押出し材からの切削によって形成する例を示したが、プレス冷鍛加工技術によって形成してもよく、アルミニウムのダイカスト技術によって形成してもよい。また、断面形状保持部材8として鋼製の中実棒を例示したが、黄銅、ステンレスなど他の変形しにくい材質からなる中実棒を用いてもよい。冷媒配管接続継手1をカーエアコンの冷媒回路の接続に用いる例を示したが、ルームエアコン、冷凍機の冷媒回路の接続にも用いることができる。したがって、接続対象物2としてエアコン機器を例示したが、冷凍機にも用いることができる。
【実施例】
【0023】
上記実施の形態で説明した製造方法により冷媒配管接続継手1を製造した。冷媒配管5は、外径12mm、肉厚1.75mmのアルミニウム製パイプの端部から約21mmの位置を前記曲げ加工装置(株式会社オプトン製)を用いて、内側の曲げ半径が略0のL字形のエルボ形状に形成した。固定ブロック4は、押出し材からの切削により、図2に示すような、1個のボルト挿通穴15、1個の管挿通穴16および対向する1対(2本)の加締め爪6を有するアルミニウム製のブロック形状に形成した。なお固定ブロック4は、加締め爪の高さh2が約10mmのもの(比較例)と約5mmのもの(実施例)を2種類作製した。
【0024】
そして、これら2種類の固定ブロック4のそれぞれに冷媒配管5をセットしたのち、この冷媒配管5の直管部14内に断面形状保持部材8を、その先端部が加締め部位7まで届くように挿入した。断面形状保持部材8としては、図3および図4に示すように、8.5mm径の中実棒鋼の先端部を一部面取りしたものを用いた。なお、図3は比較例に用いたもの、図4は実施例に用いたものを示す。
【0025】
その後、加締め装置により、対向する1対の加締め爪6の先端部をともに内側に折り曲げるように加締めて、これら対向する1対の加締め爪6で冷媒配管5を包み込むようにして固定し、加締め完了後断面形状保持部材8を抜き取った。最後に、固定ブロック4から突出した冷媒配管5に、プレス加工により管軸方向に圧縮して円筒状の拡管部19を形成した後、転造加工によりOリング溝12を形成した。
【0026】
このようにして得られた冷媒配管接続継手1の加締め部位7を管軸に対して垂直に切断し、その断面(図1(a)のA−A線断面すなわち図1(c)に相当)のマクロ観察を行った。図5に、この断面の様子を示す。(a)の比較例では、冷媒配管1の断面形状が楕円状に扁平化しており、その外周面の断面形状は、長径d1/短径d2=1.4であった。これに対し、(b)の実施例では、冷媒配管1の断面形状は真円に近いおむすび形状をしており、その外周面の断面形状は、長径d1/短径d2=1.2であった。また、(b)の実施例の場合、冷媒配管5の上端部が両側の加締め爪6の間で露出し、かつその最上端が加締め爪6の上端面(最上端)にほぼ一致する高さになっている。したがって、(a)の比較例のように冷媒配管5の全部が両側の加締め爪6で実質的に包囲された形態のものに比べて加締め爪6の高さを低くすることができる。
【0027】
次に、上記冷媒配管接続継手1を回転疲労試験装置で応力振幅を種々変更して回転疲労試験を行った。本実施例における応力振幅とは、回転疲労試験中において冷媒配管5の直管部14に貼付した歪ゲージで測定した歪の値を、加締め部位7の最も直管部14先端よりの位置(図1(a)および(b)の符号7aの位置)での曲げ応力に換算した値を意味する。試験結果を表1および図6に示す。
【表1】

【0028】
表1および図6から明らかなように、冷媒配管接続継手1の疲労限は、比較例では4.0kgf/mm2(39.2MPa)以下と低いのに対し、実施例では、上記従来技術2の従来製品とほぼ同等の約5.0kgf/mm2(49.0MPa)が得られることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施の形態に係る冷媒配管接続継手の(a)側面図、(b)上面図、(c)(a)におけるA−A線断面図である。
【図2】加締め前の固定ブロックの(a)側面図、(b)上面図、(c)端面図である。
【図3】比較例に用いた断面形状保持部材の(a)端面図、(b)側面図である。
【図4】実施例に用いた断面形状保持部材の(a)端面図、(b)側面図である。
【図5】冷媒配管接続継手の加締め部位の横断面図であり、(a)は比較例、(b)は実施例である。
【図6】回転疲労試験における、応力振幅と破壊に至った回転数との関係を示すグラフ図である。
【図7】従来技術1の冷媒配管接続継手の側面図である。
【図8】従来技術2の冷媒配管接続継手の側面図である。
【符号の説明】
【0030】
1…冷媒配管接続継手
2…接続対象物(エアコン機器)
3…接続具(ボルト)
4…固定ブロック
5…冷媒配管
6…加締め爪
7…加締め部位
8…断面形状保持部材(中実棒)
9…内部通路
10…曲折部
10a…内側曲部
14…直管部
18…曲折収容部
19…拡管部
1…長径
2…短径


【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が流れる内部通路を備えた接続対象物に、接続具で固定される固定ブロックと、この固定ブロックに挿通された状態で支持された冷媒配管とを備え、前記固定ブロックを前記接続対象物に固定することによって、前記冷媒配管と前記内部通路とが接続される冷媒配管接続継手において、前記冷媒配管は、前記内部通路と接続される側に、内側曲部の曲げ半径が3mm以下である曲折部を備え、前記固定ブロックは、前記曲折部の内側曲部を収容する曲折収容部を備えるとともに、前記冷媒配管の直管部に加締められる加締め爪を備えた冷媒配管接続継手であって、
この加締め爪が加締められた加締め部位における前記冷媒配管の外周面の断面形状が、長径/短径の比で1.3以下であることを特徴とする冷媒配管接続継手。
【請求項2】
前記加締め爪が加締められた加締め部位において、前記加締め爪の最上端と前記冷媒配管の最上端とが略一致する高さとなる請求項1に記載の冷媒配管接続継手。
【請求項3】
請求項1または2に記載の冷媒配管接続継手を製造する方法であって、
前記加締め爪を前記冷媒配管に加締める際に、前記加締め部位となる冷媒配管の内部に、あらかじめ前記冷媒配管の断面形状を保持する断面形状保持部材を挿入してから加締めることを特徴とする冷媒配管接続継手の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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