説明

冷間圧延機のチャタリング検出方法及びチャタリング検出装置

【課題】圧延状態に起因して発生するチャタリングの振動のみを適切に検出し得る冷間圧延機のチャタリング検出方法及びチャタリング検出装置を提供する。
【解決手段】冷間圧延機において圧延中に発生するミル振動のうち、ある時点(監視タイミング)でミル振動をFFT変換した周波数波形と、それ以前(比較タイミング)でミル振動をFFT変換した周波数波形とを比較し、比較タイミングでの周波数波形に対する監視タイミングでの周波数波形の形状変化量が所定の判別値より大きいと判定したとき、当該監視タイミングにおけるミル振動を圧延状態(スリップ、スティック)に起因して発生するチャタリングの振動として検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧延機のチャタリング検出方法及びチャタリング検出装置に関し、特に圧延状態に起因して発生するチャタリングを検出する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の圧延時にミル振動によってチャタリングと呼ばれる板厚変動が発生するケースがある。チャタリングの原因は、圧延ロールチョックやベアリングの劣化により、回転部分に亀裂が入り、それによってチョックやベアリングの固有振動が発生する場合(以下、「機械状態起因」ともいう)と、圧延条件である摩擦係数や鋼板張力が安定領域から外れ、中立点がロールバイトの外に移動してしまうスリップ(またはスティック)によって引き起こされる縦振動が発生する場合(以下、「圧延状態起因」ともいう)の2種類がある。圧延状態起因のチャタリングが生じると、鋼板に縞状の模様が生じる製品不良の原因となる。そのため、圧延状態起因のチャタリングを確実に検出し、製品不良を防止することが重要である。
【0003】
従来の技術では、ミル振動時に発生する音の波形と振動センサから検出される振動波形の両方にチャタリング固有の波形成分が存在したときにのみチャタリングとして検出する方法(例えば、特許文献1参照)や、ワークロールのロール周速と鋼板の板速度を測定し、スリップを検知してチャタリングを検出する方法(例えば、特許文献2参照)、圧延されている鋼板の長手方向に2つ以上の板厚計を設置し、各々が測定した板厚の差が予め設定されている設定値以上となった場合にチャタリングとして検出する方法(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
また、ミルハウジングなどに振動センサを取り付け、その信号に対してFFT変換をした後に所定の処理を行って、チャタリングを検出する方法(例えば、特許文献4〜10参照)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−158044号公報
【特許文献2】特開平8−24922号公報
【特許文献3】特公平5−87325号公報
【特許文献4】特公平4−46650号公報
【特許文献5】特公平6−35004号公報
【特許文献6】特開平8−141612号公報
【特許文献7】特公昭54−38912号公報
【特許文献8】特開平8−29250号公報
【特許文献9】特開平8−108205号公報
【特許文献10】特開2010−234422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のチャタリング検出方法では、クレーン走行音などミルの周囲で発生する様々な音とミル振動時に発する音の分離ができない場合には、チャタリングの検出ができない。
また、上記特許文献2に記載のチャタリング検出方法では、圧延時に発生するヒュームなどにより、板速計を使用することができない場合にチャタリングの検出ができない。
【0006】
さらに、上記特許文献3に記載のチャタリング検出方法は、板厚計を複数設置するため設備コストが増大するという問題がある。また、圧延状態起因の場合のチャタリングで発生する板厚変動の周期は100Hz〜250Hz程度であり、板厚計の応答速度と比較して高周波である。そのため、高速圧延中に板厚計で板厚変動を測定することが困難であり、チャタリングの検出が難しい。
【0007】
また、ミルハウジングなどに振動センサを取り付ける方法において、特許文献4〜7に記載の技術のように、圧延機の固有振動数のみを通過させるフィルタを取り付ける場合、チャタリングの周波数成分とされる周波数帯域に、圧延駆動系の振動等の周波数成分が含まれていると、これをチャタリングとして誤検出してしまう。
特許文献8に記載の技術のように、ミルの直近に2段ロールを設け、その2段ロールに振動センサを取り付けてその振動を測定する場合、新たに2段ロールを設置しなければならず、設置する場所のスペース確保の問題やコストアップの問題がある。
【0008】
さらに、特許文献9に記載の技術のように、圧延状態に基づいて基本周波数を計算し、実際の振動をFFT変換した結果が、基本周波数の整数倍の周波数成分が設定値を超えたときにチャタリングとして検出する場合には、求めた基本周波数以外の周波数で発生するチャタリングを見逃してしまうという問題や、チャタリングに至らない振動の誤検出をしてしまうという問題が挙げられる。
【0009】
一方、特許文献10に記載の技術では、実際の振動にFFT変換した結果に対して、圧延機のロール軸受けの傷発生を示す周波数を照合することにより、機械起因のチャタリングを検出することはできる。しかしながら、圧延状態起因のチャタリングは周波数成分に対ししきい値を用いた検出方法であるため、圧延駆動系の振動をチャタリングであると誤検出してしまう。
【0010】
以上のように、上記各特許文献に記載の技術では、機械的起因におけるチャタリングの検出は可能であるが、チャタリングを引き起こす圧延状態起因の振動と圧延駆動系の振動とを分離することができない。
そこで、本発明は、圧延状態に起因して発生するチャタリングの振動のみを適切に検出し得る冷間圧延機のチャタリング検出方法及びチャタリング検出装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る冷間圧延機のチャタリング検出方法は、冷間圧延機において圧延中に発生するチャタリングを検出する冷間圧延機のチャタリング検出方法であって、任意の監視タイミングでミル振動をFFT変換した周波数波形と、前記監視タイミングよりも前の比較タイミングでミル振動をFFT変換した周波数波形とを比較し、前記比較タイミングでの周波数波形に対する前記監視タイミングでの周波数波形の形状変化量が所定の判別値より大きいと判定したとき、前記監視タイミングにおけるミル振動を圧延状態に起因して発生するチャタリングの振動として検出することを特徴としている。
【0012】
このように、ある時点(監視タイミング)における周波数波形を、それ以前(比較タイミング)における周波数波形と比較することで、上記監視タイミングで検出したミル振動が、突如発生するスリップまたはスティックの後に生じるスリップスティック現象によって瞬間的に引き起こされたミル振動であるのか、定常的に発生していたミル振動であるのかを判別することができる。したがって、機械状態起因のチャタリングを引き起こすミル振動と区別して、圧延状態起因のチャタリングを引き起こすミル振動のみを検出することができる。
【0013】
また、上記において、前記監視タイミングでの周波数波形のうち、周波数強度が最大である頂点の周波数を中心とした所定の帯域幅を有する監視領域の波形の面積と、前記比較タイミングでの周波数波形のうち、前記監視領域の波形の面積との比較により 前記周波数波形の形状変化量を定量化することを特徴としている。
このように、波形の形状の差を定量的に求めるので、圧延状態起因のチャタリングを引き起こすミル振動を適切に検出することができる。
【0014】
さらに、上記において、前記監視タイミングの周波数波形において、チャタリングを引き起こすミル振動が発生しうる周波数帯域内で周波数強度が所定の閾値よりも高く、且つその点の周波数を中心とした前記監視領域と同等の帯域幅を有する周波数帯域で周波数強度が最大である点を、前記頂点として設定することを特徴としている。
これにより、瞬間的に発生した比較的強いミル振動を対象として、圧延状態起因のチャタリングを引き起こすミル振動であるかの判定を行うことができるので、チャタリングの誤検出を抑制することができる。
【0015】
また、本発明に係る冷間圧延機のチャタリング検出装置は、冷間圧延機において圧延中に発生するチャタリングを検出する冷間圧延機のチャタリング検出装置であって、ミル振動を検出する振動センサと、任意の監視タイミングで前記振動センサで検出したミル振動をFFT変換した周波数波形と、前記監視タイミングよりも前の比較タイミングで前記振動センサで検出したミル振動をFFT変換した周波数波形とを比較し、前記比較タイミングでの周波数波形に対する前記監視タイミングでの周波数波形の形状変化量を算出する形状変化量算出手段と、前記形状変化量算出手段で算出した形状変化量が所定の判別値より大きいと判定したとき、前記監視タイミングにおけるミル振動を圧延状態に起因して発生するチャタリングの振動として検出するチャタリング検出手段と、を備えることを特徴としている。
ここで、前記形状変化量算出手段は、前記監視タイミングでの周波数波形のうち、周波数強度が最大である頂点の周波数を中心とした所定の帯域幅を有する監視領域の波形の面積と、前記比較タイミングでの周波数波形のうち、前記監視領域の波形の面積との比較により、前記周波数波形の形状変化量を定量化して算出する。
【0016】
また、前記形状変化量算出手段は、前記監視タイミングの周波数波形において、チャタリングを引き起こすミル振動が発生しうる周波数帯域内で周波数強度が所定の閾値よりも高く、且つその点の周波数を中心とした前記監視領域と同等の帯域幅を有する周波数帯域で周波数強度が最大である点を、前記頂点として設定する。
以上により、機械状態起因のチャタリングを引き起こすミル振動と区別して、圧延状態起因のチャタリングを引き起こすミル振動のみを適切に検出することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、機械状態に起因して発生するチャタリングの振動と区別して、圧延状態に起因して発生するチャタリングの振動のみを検出することができる。また、板厚変動を起こさないような小さな強度の圧延状態起因のミル振動も検出可能となることから、チャタリングが発生する前にチャタリング発生を防ぐ対策を行うこともできるようになり、製品不良を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】機械状態起因によるミル振動の周波数波形の一例である。
【図2】圧延状態起因によるミル振動の周波数波形の一例である。
【図3】本実施形態におけるチャタリング検出装置の概略図である。
【図4】演算処理器で実行するチャタリング検出処理手順を示すフローチャートである。
【図5】チャタリング検出方法の一例を示す図である。
【図6】機械状態起因によるミル振動発生時の周波数波形の変化を示す図である。
【図7】圧延状態起因によるミル振動発生時の周波数波形の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本発明者は、冷間圧延機における圧延ミルの振動を解析するにあたり、チョックやベアリングの劣化などの機械状態起因による振動と、スリップなどの圧延状態起因による振動との間で、それぞれFFT変換した周波数波形に特性の違いがあることに着目した。
図1は機械状態起因によるミル振動の周波数波形の一例であり、図2は、圧延状態起因によるミル振動の周波数波形の一例である。
【0020】
機械状態起因のミル振動の場合には、図1に示すように、ある時点での周波数波形(実線)とそれ以前(例えば1秒前)における周波数波形(破線)とは変化があまりない。これに対し、圧延状態起因のミル振動の場合には、図2に示すように、チャタリング発生時の周波数波形(実線)とそれ以前(例えば1秒前)における周波数波形(破線)とは大きく異なる。
【0021】
この理由としては、機械状態起因の場合は、チョックやベアリングの劣化による振動であるため、定常的に所定の固有振動数でミル振動が引き起こされるが、圧延状態起因の場合は、突如発生するスリップまたはスティックの後に生じるスリップスティック現象によって、瞬間的にミルの固有振動数付近で強いミル振動が引き起こされるためであると考えられる。つまり、チャタリングを引き起こすミル振動は、ある時点とそれ以前とでそれぞれFFT変換した周波数波形の形状を比較することで、機械状態起因による振動であるのか圧延状態起因による振動であるのかを判別することが可能である。
したがって、ミル振動をFFT変換した周波数波形の形を定量的に表すことができれば、ある時点とそれ以前における周波数波形を比較し、圧延状態起因のチャタリングを引き起こすミル振動の判別が可能となる。
【0022】
図3は、本実施形態におけるチャタリング検出装置の概略図である。
図中、符号10は圧延機である。この圧延機10は、鋼板Pを圧延する圧延ミル11を有するミルハウンジング13を備えて構成されている。
また、図中、符号20はチャタリング検出装置である。このチャタリング検出装置20は、振動センサ21と、振動増幅器23と、FFT変換器25と、演算処理器27とを備える。ここで、振動センサ21は、圧延機10のミルハウンジング13に取り付けられて、その振動加速度を計測する。この振動センサ21の出力の計測周期は1500Hz〜3000Hz程度である。振動センサ21により得られた振動加速度の信号は、振動増幅器23によって増幅された後、FFT変換器25に入力される。
【0023】
FFT変換器25は、入力された信号をFFT変換し、そのFFT変換した周波数波形を演算処理器27に出力する。本実施形態では、FFT変換器25は、振動センサ21で得られた振動加速度の信号に対して、所定時間周期(上記振動センサ計測周期のデータでFFT演算が可能となる時間間隔で、例えば0.1秒〜数秒の範囲で1秒周期など)でFFT変換を実施する。
演算処理器27は、FFT変換器25から入力されたFFT変換後の周波数波形(任意の監視タイミングでの周波数波形)と、その所定時間前にFFT変換器25から入力されたFFT変換後の周波数波形(監視タイミングよりも前の比較タイミングでの周波数波形)とを比較する。そして、これら2つの周波数波形の差(形状変化量)を解析することでチャタリングを検出する。
【0024】
図4は、演算処理器27で実行するチャタリング検出処理手順を示すフローチャートである。このチャタリング検出処理は、FFT変換器25から周波数波形が入力されるタイミングに同期して所定時間毎(例えば1秒毎)に繰り返し実行する。
先ずステップS1で、演算処理器27は、FFT変換器25から出力される周波数波形を取得してステップS2に移行し、取得した周波数波形をメモリに保存する。
【0025】
次にステップS3で、演算処理器27は、前記ステップS1で取得した周波数波形に、チャタリングを引き起こす可能性のある波形が含まれているか否かを判定する。具体的には、周波数強度が予め設定した閾値Tを超えているか否かを判定する。そして、周波数強度が閾値Tを超えている場合にはステップS4に移行し、周波数強度が閾値T以下である場合には、チャタリングを引き起こすミル振動は発生していないと判断し、そのままチャタリング検出処理を終了する。
【0026】
ステップS4では、演算処理器27は、チャタリングを引き起こすミル振動が発生しうる周波数である50Hz〜300Hzに対し、10Hz毎に周波数強度が最大となる点を抽出する。そして、その中から周波数強度が閾値Tよりも高い点を抽出する。このとき抽出した点は、チャタリングを引き起こす可能性のある波形の頂点の候補点である。例えば、今回のサンプリングで図5の実線で示す周波数波形M(t)を取得した場合、頂点の候補点として、点A,B,Cが抽出される。
【0027】
次にステップS5で、演算処理器27は、前記ステップS4で抽出した候補点について、その点を中心とした所定範囲(例えば±20Hz)内で、その点の周波数強度が最大であるか否かを判定し、最大である場合に、その点を、チャタリングを引き起こす可能性のある波形の頂点として設定する。すなわち、図5に示す例では、頂点の候補点A,B,Cのうち、点Aが頂点として設定される。
【0028】
そして、今回のサンプリングで取得した周波数波形から、設定した頂点の周波数αを中心とした所定の帯域幅(例えば±20Hz)を有する監視領域の波形を抽出し、抽出した波形を、チャタリングを引き起こす可能性のある波形として設定する。図5に示す例では、周波数波形M(t)のうち、α−20Hz〜α+20Hzの範囲内の波形K(t)が、チャタリングを引き起こす可能性のある波形として設定される。
ステップS6では、演算処理器27は、メモリに記憶された前回のサンプリングで取得した周波数波形から、前記ステップS5で設定した監視領域と同一の周波数帯域の波形を抽出する。そして、この抽出した波形を、チャタリング判別用の波形として設定する。
【0029】
次にステップS7では、演算処理器27は、前記ステップS5で設定したチャタリングを引き起こす可能性のある波形の面積f(t)と、前記ステップS6で設定したチャタリング判別用の波形の面積f(t−1)とを求める。次に、これら2つの面積の差を、例えば両者の比で表し、g(t)=f(t)/f(t−1)を算出する。
次にステップS8では、演算処理器27は、前記ステップS8で算出した面積差g(t)が予め設定した判別値gTHより大きいか否かを判定する。ここで、判別値gTHは、圧延状態起因のチャタリングを引き起こすミル振動と、機械状態起因のチャタリングを引き起こすミル振動とを判別可能な値に設定した。
判別値gTHの設定に際し、圧延状態起因によるチャタリングを実際に引き起こしたミル振動のデータと、機械状態起因によるチャタリングを実際に引き起こしたミル振動のデータとをそれぞれ複数集め、各データに対し面積差g(t)を算出した。その結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示すデータにおいて、No.1〜10は圧延状態起因のチャタリングのデータ、No.11〜22は機械状態起因のチャタリングのデータである。この表1に示すように、機械状態起因のチャタリングでは、No.18の面積差g(t)=2.7が最大であったことから、本実施形態では、判別値gTH=3.0に設定することとした。
そして、g(t)>gTHであるときにはステップS9に移行し、前記ステップS5で設定した波形が、圧延状態起因のチャタリングを引き起こす可能性のある波形であると判断し、チャタリング検出処理を終了する。一方、g(t)≦gTHであるときにはステップS10に移行し、前記ステップS5で設定した波形が、機械状態起因のチャタリングを引き起こす可能性のある波形であると判断し、チャタリング検出処理を終了する。
なお、図4において、ステップS3〜S7が形状変化量算出手段に対応し、ステップS8及び9がチャタリング検出手段に対応している。
【0032】
(実施例)
以下、実施例により本発明の効果を具体的に説明する。
ここでは、冷間圧延を行うタンデム圧延機において、圧延中に発生するミル振動を監視し、圧延状態起因のチャタリングを引き起こす可能性のあるミル振動を検出するようにした。
図6は、振動センサ21で計測した振動加速度の信号を、FFT変換器25でFFT変換して得られた周波数波形である。ここで、図6の(a)は時刻(t−2)(機械状態起因のチャタリングが発生する時刻tの2秒前)の周波数波形、(b)は時刻(t−1)(機械状態起因のチャタリングが発生する時刻tの1秒前)の周波数波形、(c)は時刻t(機械状態起因のチャタリング発生時)の周波数波形である。
【0033】
時刻(t−1)では、図6(b)の周波数波形から、点Dを、チャタリングを引き起こす可能性のある波形の頂点として設定した。そして、頂点Dの周波数αt-1を中心とした±20Hzの範囲Ft-1を監視領域とし、図6(b)の周波数波形のうち、監視領域Ft-1の波形の面積と、1秒前の時刻(t−2)で取得した図6(a)の周波数波形のうち、監視領域Ft-1の波形の面積とを比較し、これら2つの波形の面積の差が判別値gTHよりも大きいか否かを判定した。
【0034】
また、時刻tでは、図6(c)の周波数波形から、点Eを、チャタリングを引き起こす可能性のある波形の頂点として設定した。そして、頂点Eの周波数αtを中心とした±20Hzの範囲Ftを監視領域とし、図6(c)の周波数波形のうち、監視領域Ftの波形の面積f(t)と、1秒前の時刻(t−1)で取得した図6(b)の周波数波形のうち、監視領域Ftの波形の面積f(t−1)とを比較し、これら2つの波形の面積の差g(t)が判別値gTHよりも大きいか否かを判定した。
ここで、チャタリングが発生した時刻tで算出した面積差g(t)は0.96であり、判別値gTH=3.0よりも小さい値であった。したがって、このとき発生したチャタリングは、機械状態起因によるチャタリングであることが確認された。
【0035】
図7は、圧延状態起因のチャタリング発生時及びそれ以前に振動センサ21で計測した振動加速度の信号を、FFT変換器25でFFT変換して得られた周波数波形である。ここで、図7の(a)は時刻(t−2)(圧延状態起因のチャタリングが発生する時刻tの2秒前)の周波数波形、(b)は時刻(t−1)(圧延状態起因のチャタリングが発生する時刻tの1秒前)の周波数波形、(c)は時刻t(圧延状態起因のチャタリング発生時)の周波数波形である。
【0036】
時刻(t−1)では、図7(b)の周波数波形から、点Fを、チャタリングを引き起こす可能性のある波形の頂点として設定した。そして、頂点Fの周波数αt-1を中心とした±20Hzの範囲Ft-1を監視領域とし、図7(b)の周波数波形のうち、監視領域Ft-1の波形の面積と、1秒前の時刻(t−2)で取得した図7(a)の周波数波形のうち、監視領域Ft-1の波形の面積とを比較し、これら2つの波形の面積の差が判別値gTHよりも大きいか否かを判定した。
【0037】
また、時刻tでは、図7(c)の周波数波形から、点Gを、チャタリングを引き起こす可能性のある波形の頂点として設定した。そして、頂点Gの周波数αtを中心とした±20Hzの範囲Ftを監視領域とし、図7(c)の周波数波形のうち、監視領域Ftの波形の面積f(t)と、1秒前の時刻(t−1)で取得した図7(b)の周波数波形のうち、監視領域Ftの波形の面積f(t−1)とを比較し、これら2つの波形の面積の差g(t)が判別値gTHよりも大きいか否かを判定した。
ここで、チャタリングが発生した時刻tで算出した面積差g(t)は10.8であり、判別値gTH=3.0よりも大きい値であった。したがって、このとき発生したチャタリングは、圧延状態起因によるチャタリングであることが確認された。
【0038】
以上のように、機械状態起因のチャタリングと圧延状態起因のチャタリングとを区別し、圧延状態に起因して発生するチャタリングの振動のみを検出することができた。
また、上述した手法によると、板厚変動を起こさないような小さな強度の圧延状態起因のミル振動についても検出することが可能となる。したがって、実際にチャタリングが発生する前に、チャタリング発生を防ぐ対策を講じることができ、製品不良を低減する効果も得られる。
【0039】
(応用例)
なお、上記実施形態においては、圧延状態に起因して発生するチャタリングの振動を検出した後、さらにその振動をFFT変換した周波数波形の形をパターン認識の手法で解析し、圧延状態に起因して発生するチャタリングの振動であることを確認するようにしてもよい。解析手法としては、例えば、マハラノビス距離に基づくパターン認識の手法を用い、周波数波形の形が、周波数強度のピーク値となる周波数成分を頂点とした所定の三角形状に対応する範囲のものであるか否かを判定する。これにより、より確実に圧延状態起因によるチャタリングの振動を検出することができる。
また、上記実施形態においては、ある時点とそれ以前における周波数波形を比較して定量化する方法として、g(t)=f(t)/f(t−1)を求める方法を採用する場合について説明したが、ある時点での周波数波形がそれ以前の周波数波形に対して急変していることを検出可能な方法であれば、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0040】
10…圧延機、11…圧延ミル、13…ミルハウジング、20…チャタリング検出装置、21…振動センサ、23…振動増幅器、25…FFT変換器、27…演算処理器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延機において圧延中に発生するチャタリングを検出する冷間圧延機のチャタリング検出方法であって、
任意の監視タイミングでミル振動をFFT変換した周波数波形と、前記監視タイミングよりも前の比較タイミングでミル振動をFFT変換した周波数波形とを比較し、前記比較タイミングでの周波数波形に対する前記監視タイミングでの周波数波形の形状変化量が所定の判別値より大きいと判定したとき、前記監視タイミングにおけるミル振動を圧延状態に起因して発生するチャタリングの振動として検出することを特徴とする冷間圧延機のチャタリング検出方法。
【請求項2】
前記監視タイミングでの周波数波形のうち、周波数強度が最大である頂点の周波数を中心とした所定の帯域幅を有する監視領域の波形の面積と、前記比較タイミングでの周波数波形のうち、前記監視領域の波形の面積との比較により、前記周波数波形の形状変化量を定量化することを特徴とする請求項1に記載の冷間圧延機のチャタリング検出方法。
【請求項3】
前記監視タイミングの周波数波形において、チャタリングを引き起こすミル振動が発生しうる周波数帯域内で周波数強度が所定の閾値よりも高く、且つその点の周波数を中心とした前記監視領域と同等の帯域幅を有する周波数帯域で周波数強度が最大である点を、前記頂点として設定することを特徴とする請求項2に記載の冷間圧延機のチャタリング検出方法。
【請求項4】
冷間圧延機において圧延中に発生するチャタリングを検出する冷間圧延機のチャタリング検出装置であって、
ミル振動を検出する振動センサと、
任意の監視タイミングで前記振動センサで検出したミル振動をFFT変換した周波数波形と、前記監視タイミングよりも前の比較タイミングで前記振動センサで検出したミル振動をFFT変換した周波数波形とを比較し、前記比較タイミングでの周波数波形に対する前記監視タイミングでの周波数波形の形状変化量を算出する形状変化量算出手段と、
前記形状変化量算出手段で算出した形状変化量が所定の判別値より大きいと判定したとき、前記監視タイミングにおけるミル振動を圧延状態に起因して発生するチャタリングの振動として検出するチャタリング検出手段と、を備えることを特徴とする冷間圧延機のチャタリング検出装置。
【請求項5】
前記形状変化量算出手段は、
前記監視タイミングでの周波数波形のうち、周波数強度が最大である頂点の周波数を中心とした所定の帯域幅を有する監視領域の波形の面積と、前記比較タイミングでの周波数波形のうち、前記監視領域の波形の面積との比較により、前記周波数波形の形状変化量を定量化して算出することを特徴とする請求項4に記載の冷間圧延機のチャタリング検出装置。
【請求項6】
前記形状変化量算出手段は、
前記監視タイミングの周波数波形において、チャタリングを引き起こすミル振動が発生しうる周波数帯域内で周波数強度が所定の閾値よりも高く、且つその点の周波数を中心とした前記監視領域と同等の帯域幅を有する周波数帯域で周波数強度が最大である点を、前記頂点として設定することを特徴とする請求項5に記載の冷間圧延機のチャタリング検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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