説明

冷間圧延機の制御装置

【課題】圧延材の板幅方向の伸び率分布を自動的に目標値にできる冷間圧延機の制御装置を提供する。
【解決手段】圧延材の板幅方向の伸び率分布を検出する検出部20と、前記伸び率分布を正規化直交関数に展開する展開演算部と、前記正規化直交関数と、前記伸び率分布の目標値との偏差を演算する偏差演算部と、前記偏差を解消する操作端の第1の操作方法を演算する操作方法演算部と、複数の参照用伸び率分布及び複数の参照用操作方法を互いに関連付けて蓄積したデータベース34と、前記複数の参照用伸び率分布から前記伸び率分布に類似する類似参照用伸び率分布を検索し、前記複数の参照用操作方法から当該類似参照用伸び率分布に関連付けられた操作方法を第2の操作方法として検索する検索部と、前記操作端を操作することにより前記圧延材の板幅方向の伸び率分布を制御する制御部28と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧延機の制御装置に関し、特に、正規化直交関数で表現できない成分を含む圧延材の板幅方向の伸び率分布を自動的に目標値にできる制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の冷間圧延機の制御装置について述べる。図7は、従来の冷間圧延機の制御装置を含む冷間圧延ラインを示すブロック図である。冷間圧延ライン10は、冷間圧延機12、ペイオフリール14、テンションリール16、及び冷間圧延機の制御装置18を備える。冷間圧延機12は、特に、可逆式冷間圧延機である。そして、冷間圧延機の制御装置18は、形状計20及び形状制御回路22を備える。また、冷間圧延ライン10の圧延方向は矢印aの方向であり、形状計20は冷間圧延機12の圧延方向出側に設けられている。
【0003】
冷間圧延機の制御装置18は、圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布を制御する。この場合、まず、冷間圧延ライン10で圧延鋼板24を圧延するときに、圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布が形状計20で検出される。
【0004】
次に、検出された伸び率分布から冷間圧延機12の操作端(図示せず)の操作方法が形状制御回路22で演算される。この際には、検出された伸び率分布が正規化直交関数に展開され、正規化直交関数とその伸び率分布の目標値との偏差が求められ、この偏差を解消する操作方法が演算されて操作端の操作方法になる。
【0005】
次に、このように演算された操作方法に基づいて形状制御回路22により冷間圧延機12の操作端が操作され、上述した偏差が解消されるように、圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布は制御される。以上により、圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布を目標値にする(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−226610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した冷間圧延機の制御装置18では、形状計20で検出される伸び率分布が圧延鋼板24の板幅方向に左右対称である場合などでは、その伸び率分布を1次成分、2次成分及び4次成分等の正規化直交関数で完全に表現できる。このため、これらの正規化直交関数と目標値との偏差を解消する操作端の操作方法を求め、この操作方法に基づいて操作端を操作して圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布を制御すれば、その伸び率分布を目標値に修正できる。
【0008】
従って、上述した伸び率分布を正規化直交関数に展開する演算、偏差を求める演算、偏差から操作端の操作方法を求める演算、及び操作端の制御を形状制御回路22で実行し、伸び率分布を目標値に修正する制御を自動で行なうことができる。
【0009】
ところが、形状計20で検出される伸び率分布が板幅方向に左右非対称であったり、その伸び率分布に局部的な特殊形状が含まれている場合がある。この場合、伸び率分布におけるその非対称な成分やその特殊形状の成分を正規化直交関数で表現できないことがある。このときには、伸び率分布を展開した正規化直交関数とその目標値との偏差を求めても、その偏差に伸び率分布とその目標値の差を完全に表現できない。従って、その偏差を解消する操作方法で操作端を操作しても、正規化直交関数で表現できない成分については圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布を目標値に修正できない。
【0010】
この場合に、正規化直交関数で表現できない成分についても圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布を目標値に修正するためには、オペレータが手動で、圧延速度や複数の操作端の操作順番やそれら操作端の操作量を制御したり、局部不良修正用のスポットクーラント等を操作する必要があった。この結果、冷間圧延機を全自動で制御できずに圧延鋼板の生産性が低下したり、オペレータによる手動制御がうまくいかずに圧延鋼板の破断が生じることもあった。
【0011】
本発明は、この課題を解決するためになされ、正規化直交関数で表現できない成分を含む圧延材の板幅方向の伸び率分布を自動的に目標値にできる冷間圧延機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る冷間圧延機の制御装置は、圧延材の板幅方向の伸び率分布を検出する検出部と、前記伸び率分布を正規化直交関数に展開する展開演算部と、前記正規化直交関数と、前記伸び率分布の目標値との偏差を演算する偏差演算部と、前記偏差を解消する操作端の第1の操作方法を演算する操作方法演算部と、予め複数の参照用伸び率分布をそれぞれ展開した複数の正規化直交関数を求め、当該複数の正規化直交関数と前記目標値との偏差がそれぞれ解消するように、前記複数の参照用伸び率分布を制御した複数の偏差解消伸び率分布を求め、当該複数の偏差解消伸び率分布をそれぞれ前記目標値にする前記操作端の複数の参照用操作方法を求め、前記複数の参照用伸び率分布及び前記複数の参照用操作方法を互いに関連付けて蓄積したデータベースと、前記複数の参照用伸び率分布から前記伸び率分布に類似する類似参照用伸び率分布を検索し、前記複数の参照用操作方法から当該類似参照用伸び率分布に関連付けられた操作方法を第2の操作方法として検索する検索部と、前記操作端を操作することにより前記圧延材の板幅方向の伸び率分布を制御する制御部と、を備えることを特徴とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、正規化直交関数で表現できない成分を含む圧延材の板幅方向の伸び率分布を自動的に目標値にできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態1に係る冷間圧延機の制御装置を含む冷間圧延ラインを示すブロック図である。
【図2】実施の形態1に係る非対称形状認識装置のブロック図である。
【図3】実施の形態1に係る自動形状制御装置のブロック図である。
【図4】実施の形態1に係る形状変化予測回路のブロック図である。
【図5】実施の形態1に係る最適形状変化判定回路のブロック図である。
【図6】実施の形態2に係る冷間圧延機の制御装置を含む冷間圧延ラインを示すブロック図である。
【図7】従来の冷間圧延機の制御装置を含む冷間圧延ラインを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
以下に、実施の形態1に係る冷間圧延機の制御装置18の構成について説明する。図1は、実施の形態1に係る冷間圧延機の制御装置を含む冷間圧延ラインを示すブロック図である。図1に示した冷間圧延ライン10は、冷間圧延機の制御装置18以外は図7に示した構成と同一の構成である。以下では、この同一の構成について既に行なった説明は省略する。また、図2は、実施の形態1に係る非対称形状認識装置のブロック図である。図3は、実施の形態1に係る自動形状制御装置のブロック図である。図4は、実施の形態1に係る形状変化予測回路のブロック図である。図5は、実施の形態1に係る最適形状変化判定回路のブロック図である。
【0016】
図1に示すように、冷間圧延機の制御装置18は、形状計(検出部)20、非対称形状認識装置26、自動形状制御装置28、形状変化予測回路30、最適形状変化判定回路32、形状パタン蓄積データベース34、及び変化過程蓄積データベース36を備える。形状計20は、圧延鋼板24の板幅方向に設けられたNチャネルを有する。
【0017】
図2に示すように、非対称形状認識装置26は、入力部38、数値的正規化展開部(展開演算部)40、偏差演算部42、形状パタン認識部44、形状パタン比較部46、及び形状実績出力部48を備える。
【0018】
図3に示すように、自動形状制御装置28は、入力部50、操作方法演算部52、非対称形状制御回路(検索部)54、及び制御出力部(制御部)56を備える。制御出力部56は、冷間圧延機12の操作端(図示せず)を操作することにより、圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布を制御する。冷間圧延機12には操作端として、WR/IMRベンダ、分割BUR、IMRシフト、圧下レベリング、スポットクーランドが設けられている。制御出力部56が操作端を操作する際には、これらの中から操作する操作端を1つ又は複数選択し、選択した操作端の操作順及び操作量を制御する。
【0019】
図4に示すように、形状変化予測回路30は、入力部58、形状変化推移予測部(予測処理部)60、及び形状変化推移出力部62を備える。図5に示すように、最適形状変化判定回路32は、入力部64、判定部66、最適操作方法決定部68、及び出力部70を備える。
【0020】
そして、形状パタン蓄積データベース34には、参照用形状パタン(参照用伸び率分布)が複数蓄積されている。この参照用形状パタンは、正規化直交関数で表現できない成分を含む圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布として、冷間圧延機の稼動経験から想定されるものである。
【0021】
そして、変化過程蓄積データベース36には、この参照用形状パタンとともに、それに対応する参照用操作方法及び参照用変化過程とが互いに関連付けられて複数ずつ蓄積されている。これら参照用操作方法及び参照用変化過程は、冷間圧延機の稼動経験から以下のようにそれぞれ取得されたものである。
【0022】
冷間圧延機の過去の稼動において、正規化直交関数で表現できない成分を含む圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布が得られた場合、それは上述した参照用形状パタンとして取得される。この場合、参照用形状パタンを展開した正規化直交関数が求められ、正規化直交関数と伸び率分布の目標値との偏差が求められる。そして、偏差が解消するように参照用形状パタンが制御され、偏差が解消するように参照用形状パタンを制御した偏差解消伸び率分布が検出される。
【0023】
さらに、過去の稼動においては、この偏差解消伸び率分布を圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布の目標値にするために、オペレータが手動で操作端を操作していた。参照用操作方法は、このときの手動での操作端の操作方法が取得されたものである。
【0024】
そして、上述した参照用形状パタンを、上述した正規化直交関数と目標値との偏差が解消するように制御した後に、上述した参照用操作方法で操作端を操作することにより制御する場合の変化過程が、参照用変化過程として取得される。
【0025】
これら参照用操作方法及び参照用変化過程は、複数の参照用形状パタンについてそれぞれ取得される。これにより、互いに関連付けられた参照用形状パタン、参照用操作方法、及び参照用変化過程のセットが複数取得される。そして、これらの複数のセットが変化過程蓄積データベース36に蓄積される。
【0026】
以下に、図1〜図5を参照しながら、冷間圧延機の制御装置18の動作について説明する。まず、図1に示す形状計20が、圧延方向出側において、Nチャネルで圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布を検出する。
【0027】
次に、図2に示す非対称形状認識装置26の入力部38に、形状計20で検出された伸び率分布が入力される。数値的正規化展開部40は、入力された伸び率分布を1次、2次、4次等の正規化直交関数に展開する。偏差演算部42は、正規化直交関数と、圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布の目標値との偏差を演算する。なお、この際には、目標値を1次〜4次の正規化直交関数で表現した上で演算が行なわれる。
【0028】
形状パタン認識部44は、入力された圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布を、図2の破線枠内に示すように、板幅方向及び伸び率分布をそれぞれ横軸及び縦軸として、2次元の形状パタンで認識する。この形状パタンは、数値的な解析で求められるものではなく、板幅方向での圧延鋼板24の中心から左右両側の伸び率分布を面積分布に置き換えて認識したものである。
【0029】
このように、伸び率分布を形状パタンで認識することにより、その正規化直交関数で表現できない成分についても認識できる。この形状パタンでは、伸び率分布が左右非対称であることや、伸び率分布に局部的な特殊形状が含まれていることも認識される。
【0030】
そして、形状パタン比較部46は、このように認識された形状パタンを、形状パタン蓄積データベース34に蓄積された複数の参照用形状パタンと比較する。さらに、形状パタン比較部46は、複数の参照用形状パタンから、認識された形状パタンと同一又は類似のものを類似参照用形状パタンとして取得する。形状実績出力部48は、このように求められた偏差及び類似参照用形状パタンを伸び率分布とともに出力する。
【0031】
次に、図3に示す自動形状制御装置28の入力部50に、形状パタン認識部44の形状実績出力部48から出力された偏差及び類似参照用形状パタンが、伸び率分布とともに入力される。
【0032】
自動形状制御装置28において、操作方法演算部52は、偏差を解消する操作端の第1の操作方法を演算する。非対称形状制御回路54は、変化過程蓄積データベース36に蓄積された複数の参照用操作方法から、類似参照用形状パタンに関連付けられたものを第2の操作方法として検索する。制御出力部56は、第1の操作方法及び第2の操作方法を伸び率分布とともに出力する。
【0033】
次に、図4に示す形状変化予測回路30の入力部58に、自動形状制御装置28の制御出力部56から出力された第1の操作方法及び第2の操作方法が、伸び率分布とともに入力される。
【0034】
形状変化予測回路30において、制御出力部56が第1の操作方法で操作端を操作した後に第2の操作方法で操作端を操作することにより、伸び率分布を制御する場合の伸び率分布の変化過程を予測する。この予測は、変化過程蓄積データベース36に蓄積された、複数の参照用形状パタン、複数の参照用操作方法、及び複数の参照用変化過程に基づいて行なわれる。形状変化推移出力部62は、第1の操作方法、第2の操作方法、及び予測された変化過程を伸び率分布とともに出力する。
【0035】
次に、図5に示す最適形状変化判定回路32の入力部64に、形状変化予測回路30の形状変化推移出力部62から出力された第1の操作方法、第2の操作方法、及び予測された変化過程が伸び率分布とともに入力される。
【0036】
最適形状変化判定回路32において、判定部66は、予測された変化過程が所定条件を満たす場合には妥当性有りと判定し、変化過程が所定条件を満たさない場合には妥当性無しと判定する。この所定条件とは、予測された変化過程において異常の発生がないことである。なお、異常とは、具体的には、圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布が乱れたり、急変することにより、圧延機の操業が不安定になることをいう。
【0037】
判定部66で妥当性有りと判定された場合には、出力部70が、第1の操作方法及び第2の操作方法を出力する。
【0038】
判定部66で妥当性無しと判定された場合には、最適操作方法決定部68は、自動形状制御装置28の制御出力部56が第1の操作方法で操作端を操作することにより伸び率分布を制御した伸び率分布を、さらにその目標値に修正するのに最も適した操作端の最適操作方法(第6の操作方法)を決定する。この際、最適操作方法決定部68は、この最適操作方法を、変化過程蓄積データベース36に蓄積された、複数の参照用形状パタン、複数の参照用操作方法、及び複数の参照用変化過程に基づいて決定する。この場合、出力部70は、第1の操作方法及び最適操作方法を、操作の見直し指令とともに出力する。
【0039】
次に、図3に示す自動形状制御装置28の入力部50に、最適形状変化判定回路32の出力部70から出力された情報が入力される。自動形状制御装置28においては、入力された情報に操作の見直し指令がある場合には、制御出力部56が第1の操作方法で操作端を操作した後に最適操作方法で操作端を操作し、圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布を制御する。これにより、伸び率分布は目標値になる。
【0040】
入力された情報にその指令が無い場合には、制御出力部56が、第1の操作方法で操作端を操作した後に第2の操作方法で操作端を操作し、圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布を制御する。これにより、伸び率分布は目標値になる。
【0041】
従って、第1の操作方法及び第2の操作方法を自動的に取得するか、第1の操作方法及び最適操作方法を自動的に取得するかした上で、取得した方法で操作端を操作することにより、正規化直交関数で表現できない成分を含む伸び率分布を目標値にする。このため、正規化直交関数で表現できない成分を含む伸び率分布を自動的に目標値にできる。
【0042】
また、特に、最適形状変化判定回路32の判定部66においては妥当性を判定して妥当性無しと判定された場合には、最適操作方法決定部68により操作端の最適操作方法を決定する。そして、最適操作方法を用いて伸び率分布を目標値にできる。このため、伸び率分布を安定した変化過程で目標値にできる。
【0043】
なお、本実施形態では、冷間圧延機12の操作端としては、その動作による伸び率分布への影響を情報として取得できるのならば、上述されたものに限らず適用できる。
【0044】
実施の形態2.
図6は、実施の形態2に係る冷間圧延機の制御装置を含む冷間圧延ラインを示すブロック図である。図6に示した冷間圧延ライン10は、冷間圧延機の制御装置18以外は実施の形態1で説明した構成と同一の構成である。
【0045】
以下に、実施の形態2に係る冷間圧延機の制御装置18の構成について実施の形態1と異なる点を中心に説明する。この冷間圧延機の制御装置18は、形状変化予測回路30及び最適形状変化判定回路32を含まず、形状計20、非対称形状認識装置26、自動形状制御装置28、形状パタン蓄積データベース34、及び変化過程蓄積データベース36のみを含む。そして、形状計20、非対称形状認識装置26、自動形状制御装置28、形状パタン蓄積データベース34、及び変化過程蓄積データベース36の構成は、実施の形態1と同じである。
【0046】
以下に、図6、図2及び図3を参照しながら、実施の形態2に係る冷間圧延機の制御装置18の動作について説明する。まず、図6に示す形状計20が、圧延方向出側において、Nチャネルで圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布を検出する。
【0047】
次に、図2に示す非対称形状認識装置26の入力部38に、形状計20で検出された伸び率分布が入力される。数値的正規化展開部40は、入力された伸び率分布を1次、2次、4次等の正規化直交関数に展開する。偏差演算部42は、正規化直交関数と、圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布の目標値との偏差を演算する。なお、この際には、目標値を1次〜4次の正規化直交関数で表現した上で演算が行なわれる。
【0048】
形状パタン認識部44は、入力された圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布を、図2の破線枠内に示すように、板幅方向及び伸び率分布をそれぞれ横軸及び縦軸として、2次元の形状パタンで認識する。この形状パタンは、数値的な解析で求められるものではなく、板幅方向での圧延鋼板24の中心から左右両側の伸び率分布を面積分布に置き換えて認識したものである。
【0049】
このように、伸び率分布を形状パタンで認識することにより、その正規化直交関数で表現できない成分についても認識できる。この形状パタンでは、伸び率分布が左右非対称であることや、伸び率分布に局部的な特殊形状が含まれていることも認識される。
【0050】
そして、形状パタン比較部46は、このように認識された形状パタンを、形状パタン蓄積データベース34に蓄積された複数の参照用形状パタンと比較する。さらに、形状パタン比較部46は、複数の参照用形状パタンから、認識された形状パタンと同一又は類似のものを類似参照用形状パタンとして取得する。形状実績出力部48は、このように求められた偏差及び類似参照用形状パタンを伸び率分布とともに出力する。
【0051】
次に、図3に示す自動形状制御装置28の入力部50に、形状パタン認識部44の形状実績出力部48から出力された偏差及び類似参照用形状パタンが、伸び率分布とともに入力される。
【0052】
自動形状制御装置28において、操作方法演算部52は、偏差を解消する操作端の第1の操作方法を演算する。非対称形状制御回路54は、変化過程蓄積データベース36に蓄積された複数の参照用操作方法から、入力された類似参照用形状パタンに関連付けられた操作方法を第2の操作方法として検索する。
【0053】
この際に、第2の操作方法として検索されるのは、第3の操作方法で操作端を操作した後に第4の操作方法で操作端を操作する方法である。第3の操作方法は、実施の形態1で説明した複数の操作端のうちの1つを操作する方法であり、第4の操作方法は、第3の操作方法が操作する操作端以外の操作端を順次操作する方法である。
【0054】
制御出力部56は、第1の操作方法で操作端を操作した後に第3の操作方法で操作端を操作することにより、圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布を制御する。
【0055】
次に、形状計20が、圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布を再検出伸び率分布として検出する。次に、非対称形状認識装置26において、形状パタン蓄積データベース34に蓄積された複数の参照用形状パタンから、再検出伸び率分布を2次元の形状パタンで認識したものと同一又は類似の形状パタンを類似参照用形状パタンとして取得する。
【0056】
次に、自動形状制御装置28において、変化過程蓄積データベース36に蓄積された複数の参照用操作方法から、再検出伸び率分布について取得された類似参照用形状パタンに関連付けられたものを第5の操作方法として検索する。制御出力部56は、第5の操作方法で前記操作端を操作し、圧延鋼板24の板幅方向の伸び率分布を制御する。これにより、伸び率分布は目標値になる。
【0057】
以上のように、第3の操作方法で一旦伸び率分布を制御した後に、形状計20が改めて検出した伸び率分布(再検出伸び率分布)に基づいて第5の操作方法が検索され、第5の操作方法で伸び率分布を制御している。
【0058】
このため、伸び率分布が第3の操作方法で制御された結果、想定から外れた伸び率分布になった場合には、想定から外れた伸び率分布に基づいて改めて検索された第5の操作方法で、伸び率分布を目標値にする残り制御が行なわれる。従って、伸び率分布を安定した変化過程で目標値にできる。
【0059】
なお、本実施形態では、第3の操作方法で操作端を操作した後に、改めて再検出伸び率分布を検出することなく、制御出力部56が第4の操作方法で操作端を操作するようにしても構わない。この場合にも、第1の操作方法と、第2の操作方法(第3及び第4の操作方法)とを自動的に取得した上で、それらの方法で操作端を操作することにより、正規化直交関数で表現できない成分を含む伸び率分布を目標値にすることになる。このため、正規化直交関数で表現できない成分を含む伸び率分布を自動的に目標値できる。
【符号の説明】
【0060】
10 冷間圧延ライン
12 冷間圧延機
14 ペイオフリール
16 テンションリール
18 冷間圧延機の制御装置
20 形状計(検出部)
22 形状制御回路
24 圧延鋼板
26 非対称形状認識装置
28 自動形状制御装置
30 形状変化予測回路
32 最適形状変化判定回路
34 形状パタン蓄積データベース
36 変化過程蓄積データベース
38 入力部
40 数値的正規化展開部(展開演算部)
42 偏差演算部
44 形状パタン認識部
46 形状パタン比較部
48 形状実績出力部
50 入力部
52 操作方法演算部
54 非対称形状制御回路(検索部)
56 制御出力部(制御部)
58 入力部
60 形状変化推移予測部(予測処理部)
62 形状変化推移出力部
64 入力部
66 判定部
68 最適操作方法決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延材の板幅方向の伸び率分布を検出する検出部と、
前記伸び率分布を正規化直交関数に展開する展開演算部と、
前記正規化直交関数と、前記伸び率分布の目標値との偏差を演算する偏差演算部と、
前記偏差を解消する操作端の第1の操作方法を演算する操作方法演算部と、
予め複数の参照用伸び率分布をそれぞれ展開した複数の正規化直交関数を求め、当該複数の正規化直交関数と前記目標値との偏差がそれぞれ解消するように、前記複数の参照用伸び率分布を制御した複数の偏差解消伸び率分布を求め、当該複数の偏差解消伸び率分布をそれぞれ前記目標値にする前記操作端の複数の参照用操作方法を求め、前記複数の参照用伸び率分布及び前記複数の参照用操作方法を互いに関連付けて蓄積したデータベースと、
前記複数の参照用伸び率分布から前記伸び率分布に類似する類似参照用伸び率分布を検索し、前記複数の参照用操作方法から当該類似参照用伸び率分布に関連付けられた操作方法を第2の操作方法として検索する検索部と、
前記操作端を操作することにより前記圧延材の板幅方向の伸び率分布を制御する制御部と、を備えることを特徴とする冷間圧延機の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1の操作方法で前記操作端を操作した後に前記第2の操作方法で前記操作端を操作することにより、前記圧延材の板幅方向の伸び率分布を制御することを特徴とする請求項1に記載の冷間圧延機の制御装置。
【請求項3】
前記第2の操作方法は、第3の操作方法で前記操作端を操作した後に第4の操作方法で前記操作端を操作する方法であり、
前記検出部は、前記制御部が前記第3の操作方法で前記操作端を操作することにより前記圧延材の板幅方向の伸び率分布を制御した後に、前記圧延材の板幅方向の伸び率分布を再検出伸び率分布として検出し、
前記検索部は、前記検出部が前記再検出伸び率分布を検出した後に、前記複数の参照用伸び率分布から前記再検出伸び率分布に類似する類似参照用伸び率分布を検索し、前記複数の参照用操作方法から当該類似参照用伸び率分布に関連付けられた操作方法を第5の操作方法として検索し、
前記制御部は、前記第1の操作方法で前記操作端を操作した後に前記第3の操作方法で前記操作端を操作し、前記第3の操作方法で前記操作端を操作した後に前記第5の操作方法で前記操作端を操作することにより、前記圧延材の板幅方向の伸び率分布を制御することを特徴とする請求項1に記載の冷間圧延機の制御装置。
【請求項4】
前記制御部が前記第1の操作方法で前記操作端を操作した後に前記第2の操作方法で前記操作端を操作することにより、前記伸び率分布を制御する場合の前記圧延材の板幅方向の伸び率分布の変化過程を予測する予測処理部と、
前記変化過程の妥当性を判定する判定部と、
前記判定部によって妥当性無しと判定された場合に、前記制御部が前記第1の操作方法で前記操作端を操作することにより前記圧延材の板幅方向の伸び率分布を制御した伸び率分布を、前記目標値にする前記操作端の第6の操作方法を決定する操作方法決定部と、
を更に備え、
前記データベースは、前記複数の参照用伸び率分布を、前記複数の正規化直交関数と前記目標値との偏差がそれぞれ解消するように制御した後に、前記複数の参照用操作方法で前記操作端を操作することによりそれぞれ制御する場合の前記複数の参照用伸び率分布の複数の参照用変化過程も、前記複数の参照用伸び率分布と関連付けて蓄積し、
前記予測処理部は、前記複数の参照用伸び率分布、前記複数の参照用操作方法、及び前記複数の参照用変化過程に基づいて、前記変化過程を予測し、
前記判定部は、前記変化過程が所定条件を満たす場合には妥当性有りと判定し、前記変化過程が所定条件を満たさない場合には妥当性無しと判定し、
前記操作方法決定部は、前記複数の参照用伸び率分布、前記複数の参照用操作方法、及び前記複数の参照用変化過程に基づいて、前記第6の操作方法を決定し、
前記制御部は、前記第1の操作方法で前記操作端を操作した後に前記第6の操作方法で前記操作端を操作することにより、前記圧延材の板幅方向の伸び率分布を制御することを特徴とする請求項1に記載の冷間圧延機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−115821(P2011−115821A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275838(P2009−275838)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】