説明

冷陰極ランプのための一体化されたゲッターと低仕事関数を有する陰極及びその製造方法

ゲッター材料の層(15、26、31)で少なくとも部分的に被覆された表面を有する冷陰極ランプのための陰極(11、20、30)であって、陰極の仕事関数の値の低減、それゆえランプの消費電力の低減を達成できる陰極の幾つかの実施態様が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一体化されたゲッターを有し、使用されるランプの消費電力を下げることができる低減された仕事関数の値を有する冷陰極ランプのための陰極に関する。
【背景技術】
【0002】
冷陰極ランプは放電ランプの一種である。放電ランプとは、ガス媒体中での放電の結果として発光が生じるすべてのランプをいうものである。放電は、ランプの相対する端部に配置された2つの電極(陰極と呼ばれる)に印加される電位差によって誘発及び支持される。放電ランプの系統群には、いわゆる熱陰極も含まれるが、冷陰極ランプがはるかにより寿命が長いため好ましい(熱陰極ランプの12,000〜15,000の運転時間に対して40,000〜50,000の運転時間)。
【0003】
冷陰極ランプの陰極は、金属片又は金属の完全円筒体として成形することができる。しかしながら、好ましい幾何学的形状は中空体であり、この場合には、陰極は、放電ゾーンに対面する端部が開放され、反対側の端部が閉じた中空円筒の形状を有する。当分野で周知のように、中空陰極の他の形状の陰極に対する第1の利点は、ランプ機能に必要とされる電位差がより低いということであり(約5〜10%)、別の利点は、陰極の「スパッタリング」現象、即ち、隣接する表面、中でもランプのガラス壁に堆積して、ランプの光出力を低下させる場合のある陰極材料の原子又はイオンの放出がより低い強度であるということである。中空陰極は、例えば、(LCDとして一般に知られる)液晶ディスプレイの背面照明用ランプとして小型ランプにおいて使用するのに特に好適である。中空陰極を有するランプの例は、例えば、米国特許第4,437,038号明細書及び同第4,885,504号明細書、並びに特開2000−133201号公報において開示されている。
【0004】
冷陰極ランプのスイッチを入れると、電界によって第1の電子放出が起こり、電界が十分強い場合には、陰極を形成する材料から電子を取り出すことができ、ランプの点火のために中空陰極ランプの電極に印加されるべき電位差の典型的な値は、数千ボルト(V)程度であり、例えば、約1000〜2000Vであり、この点火電圧は「開始電圧」として当分野で公知である。放電が開始されると(通常は1秒未満の後)、陰極が熱くなり、さらには熱イオン効果によって放出が助長される。ランプが作用しているときには、陰極に供給されるべき電位差は、数百ボルト、例えば、約300〜600Vの値にセットされる。
【0005】
いずれにせよ、ランプの消費電力は、点火段階と放電が確立したときの両方において、陰極材料から電子を取り出すのに必要とされるエネルギー値に関係し、このエネルギー値は、ギリシャ文字Φにより文献で示される「仕事関数」として公知であり、(たとえ、それが、幾つかのパラメータ、例えば、電子が放出される結晶面、又は放出面の汚染状態などに関係して変化する場合があるとしても)各単一材料の典型的な値である。最後に、ランプの消費電力は陰極の仕事関数に直接的に依存している。
【0006】
冷陰極ランプの陰極は、ニオブやタンタル(しかしながら、これらの金属は両方とも実用するには価格が非常に高い)、約4.2〜4.6エレクトロンボルト(eV)で構成される仕事関数の値を有するタングステン、約4.7〜5.3eVで構成される仕事関数の値を有するニッケル、又はより一般には約4.4〜4.9eVで構成される仕事関数の値を有するモリブデンなどの金属から作製することができる。中空陰極、特に小さい寸法の中空陰極の場合には、使用される金属は、機械的な展性の優れた特徴を有する。即ち、タングステンはこれらの陰極に実際的には用いられず、モリブデンが産業的な適用を有するが、加工が困難であるため、この金属から作製される陰極はむしろ高価である。したがって、優れた展性と低コストを有することから、たとえ仕事関数が比較的高い値であるという不利を有するとしても、ニッケルが結果として好ましい。
【0007】
消費電力の低減は、ランプ又はランプが用いられる装置の製造において常に必要とされ、このような装置では、ランプは、固定型の用途と、中でも有限エネルギーの蓄積を有するバッテリー又は蓄電池によってエネルギーが供給される携帯型の用途の両方で用いられる。携帯型コンピュータの場合には、例えば、スクリーンは、一般には、直径が数mmの1個又は2個の直線型冷陰極蛍光ランプによって後方照明されるLCDタイプのものであり、スクリーンの照明はコンピュータの蓄電池の消費に対してより大きく寄与し、独立した使用の時間が制限される。他の用途のためのLCDスクリーン(例えば、家庭用のテレビジョンスクリーン)は、4〜10個の蛍光ランプを含む場合がある。
【0008】
陰極の仕事関数、したがってランプの消費電力を低減するために、下地の金属よりも低い仕事関数を有する電子放出物質を同じ陰極の表面に堆積することが知られている。
【0009】
冷陰極ランプを製造するのに他に必要なことは、確実に放電が起こる雰囲気の組成を一定にすることである。実際、幾つかの不純物は、ランプの作業特性を変化させることが知られている。例えば、酸素は蛍光ランプの運転に必要な水銀を奪う場合があり、水素は特には開始電圧を高くすることによって放電の電気パラメータを変化させる場合がある。このため、ランプ内部にゲッター材料、即ち、放電が起こるガス中に存在する不純物を化学的に拘束できる材料を添加することが知られている。この目的で広く用いられるゲッター材料は、例えば、米国特許第3,203,901号明細書に開示されている合金ジルコニウム−アルミニウム、米国特許第4,306,887号明細書に開示されている合金ジルコニウム−鉄、米国特許第4,312,669号明細書に開示されている合金ジルコニウム−バナジウム−鉄、及び米国特許第5,961,750号明細書に開示されている合金ジルコニウム−コバルト−ミッシュメタルである(以下においてMMとも示されるミッシュメタルは、希土類金属の混合物であり、イットリウム及び/又はランタンを添加することがある)。
【0010】
たとえ、幾つかの場合において、ゲッターが単に粉末材料から形成された錠剤の形状で容易にランプに導入されるとしても、ゲッター材料が容器中又は金属支持体上に存在する素子の形状であり、この素子が同じランプの任意の構成要素に固定されることが非常により好ましい。その理由は、固定されていないゲッターはランプの高温領域には一般にないため、そのガス収着効果が低下し、さらには発光を妨げる場合がある。ランプのためのゲッター素子の例は、米国特許第5,825,127号明細書に開示されている。このゲッター素子は、例えば、陰極の支持体に(通常はスポット溶接によって)固定することができ、さらには専用の支持体がランプに付加される場合もある。いずれにせよ、とにかく追加の工程がランプの製造プロセスにおいて必要とされる。さらには、背面照明LCDに対して用いられるような小型ランプの場合には、ランプの内部においてゲッター素子に適した配置を見出すことは困難であり、結果として素子の組み立て操作が極めて困難になることがある。出願人の名における国際公開第03/044827号パンフレットは、ゲッター材料が陰極自体の表面の幾つかの領域に直接堆積される中空陰極を開示している。この国際公開第03/044827号パンフレットの教示によれば、ゲッター材料は、チタン、バナジウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム及びタンタルの中から選択することができるか、又は遷移金属及びアルミニウムの中から選択される1つ又は複数の元素とジルコニウム又はチタンに基づいた合金の中から選択することができる。
【0011】
欧州特許出願公開第0675520号明細書は、その内部が、陰極の仕事関数を低下させる機能を有するアルミニウムと、不純物のためのゲッターの機能を有するジルコニウムとの粉末から構成される堆積物で部分的に被覆された中空陰極を開示している。この堆積物は、結合材料を含有する水−アセトン混合物から作製される懸濁媒体において上記の材料を含有するペースト中に陰極の構造を構成する金属円筒を部分的に浸すことによって形成される。この文献の教示によれば、外面上でさえ存在する場合には生じる放射性混合物材料のスパッタリングを避けるために、陰極の内面のみが被覆される。さらには同じ理由から、ランプの内部に向けられた陰極端部の円筒表面に対応する陰極の内面領域にも放射性堆積物が存在するのを避けることが好ましい。しかしながら、このようにして形成された堆積物は、粉末の無視できない損失という問題を有し、時間とともに陰極の機能性の低下を招く。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記の問題に対する解決策を提供することである。特には、本発明の目的は、単一材料の堆積物で少なくとも部分的に被覆された陰極を提供することであり、それにより、陰極が挿入されたランプの消費電力を低下させ、ゲッターの機能を組み込むことができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、ゲッター材料の層で少なくとも部分的に被覆された金属支持部品を含むゲッター材料で少なくとも部分的に被覆された冷陰極ランプのための陰極であって、該ゲッター材料が、
・ジルコニウムと、コバルトと、イットリウム、ランタン又は希土類の中から選択される1つ又は複数の成分とを含み、質量%組成の三角図において、以下の点、即ち、
a)Zr81%−Co9%−A10%
b)Zr68%−Co22%−A10%
c)Zr74%−Co24%−A2%
d)Zr88%−Co10%−A2%
によって規定され、式中、Aがイットリウム、ランタン、希土類又はそれらの混合物の中から選択される元素である多角形において囲まれるようにした合金;
・イットリウムとアルミニウムからなり、少なくとも70質量%のイットリウムを含有する合金;並びに
・イットリウムとバナジウムからなり、少なくとも70質量%のイットリウムを含有する合金
の中から選択されることを特徴とする陰極によって達成される。
【0014】
本発明は、図面を参照してさらに説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明者らは、上記のように配合されたゲッター材料で少なくとも部分的に被覆された陰極が、陰極上にゲッターの機能を組み込むことのほかに、陰極自体の仕事関数を低下させることにより、電子の放出に必要とされるエネルギーを低下させるという効果も達成することを見出した。
【0016】
本発明によるゲッター材料の堆積は、有利には、任意の幾何学的形状、例えば、帯状、完全な又は中空の円筒形の陰極上に達成することができる。
【0017】
図1は、陰極11を含むランプ10の端部の切り取り図を示している。陰極がランプの底壁14のガラスを貫通する金属ワイヤー13を先細にすることによって得られる単一金属片12であるケースが例示される。金属片12の表面の一部が本発明のゲッター材料15で被覆されている。図1の陰極に十分類似しているが完全な円筒形の陰極は、ワイヤー13の端部を、それを前もって先細にすることなくゲッター材料で被覆することにより得ることができる。
【0018】
先に記載したとおり、陰極の好ましい形状は中空である。公知であるように、中空陰極においては、主としてキャビティの内部で放電が起こり、それゆえ、それは被覆された部品である必要があるが、陰極の外部は被覆してもよいし又は被覆しなくてもよい。外部も被覆すると、ゲッター材料の量が増加し、したがってランプの内部雰囲気からの不純物の除去能力を高めるという利点がある。中空陰極では主としてキャビティの内部で放電が起こるので、陰極の外面上のゲッター材料の部分は、主としてゲッターの機能を果たし、一方で、内部のゲッター材料が陰極の仕事関数を下げる機能をさらに果たす。図2及び3においては、陰極のみを断面で示しており、本発明による中空陰極の2つの可能性のある実施態様を示している。陰極20は、支持体23が固定されている閉端部22を有する円筒形部品21から形成されており、支持体23は一般的に図1の場合に示されるランプ端部のガラスにおいて半田付けされる金属ワイヤーである。キャビティ25を画定している陰極24の内面はゲッター材料26で被覆され、幾つかの詳細を示すために、図2では表面24の部分的な被覆を示しているが、この被覆は、完全なものであることを意図している。陰極の金属部品を製造するのに好ましい材料は、容易に機械加工されるニッケルであり、支持ワイヤー23は、ランプの封止及びオン/オフ段階の際に熱衝撃によってガラスが割れる危険を低減するために、ランプの包装材料のガラスと類似の熱膨張を有する材料から作製されることが好ましい。可能性のある材料はモリブデンである。支持体23は、例えば、半田付け又は圧接によって部品22に固定することができる。
【0019】
陰極30の場合においては、ゲッター材料31による被覆は、キャビティ内部と金属部品32の外面の両方に存在しており、残りの部分については、この陰極は図2の陰極と完全に類似している。
【0020】
本発明において有用なゲッター材料は、出願人の名において米国特許第5,961,750号明細書に記載されている合金である。St787の名称で出願人により製造及び販売されているZr80%−Co15%−MM5%の質量%組成を有する合金の使用が特に好ましい。ミッシュメタルは、異なる配合を有することができる希土類の幾つかの混合物の商品名であり、最も多く存在する元素は、一般に、セリウム、ランタン及びネオジムであり、より少ない量の他の希土類を有する。いずれにせよ、上記の元素は類似の化学的挙動を有し、その結果、異なるタイプのミッシュメタルの化学的挙動は、単一元素の含有量が変化しても本質的に同じであるので、ミッシュメタルの正確な組成は重要ではない。
【0021】
本発明に有用な他のゲッター材料は、少なくとも70質量%のイットリウムを含有するY−V又はY−Al合金であり、このような合金は、最終的なランプの水素分圧を下げるのに特に有効である。
【0022】
ゲッター材料の層は、(以下で具体的に示すように)それを製造するのに用いられる技術に応じて、数ミクロン(μm)〜数百μmの厚さを有することができる。中空陰極の場合には、この厚さはキャビティの直径の関数でもある。約1mm直径のキャビティを有する陰極の場合には、不純物収着機能を有効に果たすのに十分なゲッター材料があるという条件で、ゲッター層の厚さはできる限り薄いことが好ましい。
【0023】
ゲッター材料(26、31)の層は、様々な方法によって陰極の金属部品上に堆積させることができる。
【0024】
第1の実施態様によれば、ゲッター材料の層は、陰極堆積法、薄膜製造の分野で「スパッタリング」としてよく知られる技術によって得ることができる。公知であるように、この技術においては、被覆されるべき支持体(この場合には中空陰極)と、層が得られるべき材料の「ターゲット」と呼ばれる一般に円筒形の本体とを適切なチャンバー中に配置して、チャンバーを減圧し、次いで、希ガス、通常アルゴンを約10-2〜10-3mbarの圧力で導入し、支持体とターゲットの間に電位差をかけることにより(ターゲットは陰極電位に維持されている)、Ar+イオンの形成とともに、アルゴン中にプラズマを作り出し、Ar+イオンを電界によってターゲットの方へ加速させ、そうして衝突させることによりターゲットを侵食し、ターゲットから取り去った粒子(原子又は原子「団」)を利用可能な表面、中でも支持体の表面上に堆積させて薄層を形成する。技術の原理及び使用説明に関する更なる詳細については、豊富なその分野の文献を参照されたい。単位時間に堆積される層厚に関してスパッタリング技術の生産性はとりわけ高くはないので、この技術は、厚さ約20μm以下のゲッター層が製造されるべき場合、したがって、直径の小さい中空陰極の場合に好ましい。陰極の金属部品表面の部分的な被覆は、この場合、スパッタリングプロセスの際に、さらにマスキングを実施する金属部品の好適な支持体を使用することによって得ることができる。例えば、図2の陰極は、スパッタリングの際に、被覆されるべき中空陰極が内部に配置された円筒形支持体を用い、そして、この支持体を円筒形部品21の外面と接触させて、したがって表面24だけが露出するようにして製造することができる。
【0025】
本発明によるゲッター層の被覆を有する陰極を製造するための別の方法は電気泳動法によるものであり、この方法によるゲッター材料層の製造原理は、出願人の名において米国特許第5,242,559号明細書で開示されている。この技術に関する更なる詳細については、この文献を参照されたい。この場合には、陰極の金属部品の部分的又は全体的な被覆は、被覆浴の中にこの部品を部分的又は全体的に浸すことによって簡単に得ることができ、さらにこの場合には、前記金属部品の好適な支持体を使用することにより、2つの表面、内面又は外面の一方を選択的に被覆することも可能である。この技術は、最大数百μmの厚さの層を容易にかつ速やかに形成できるとともに、スパッタリングによって得られるものよりも厚いゲッター層を製造するのに適している。
【0026】
最後に、別の利用可能な技術は、好適な液体媒体におけるゲッター粒子の懸濁液を用いた噴霧技術であり、この懸濁液を圧縮ガス(一般には空気)によって被覆されるべき部品に噴霧し、そうして得られた堆積物を熱処理によって乾燥して固化する。ゲッターの堆積物を得るための技術の使用は、例えば、出願人の名において米国特許第5,934,964号明細書で開示されている。
【0027】
本発明は、以下の例によってさらに説明される。
【実施例】
【0028】
[例1]
ジルコニウム、コバルト及びミッシュメタルを含有する合金の約1μm厚さの層をタングステンワイヤーの上に製造する。この層は、St787合金のターゲットによるスパッタリングで得られる。当分野で公知であるように、異なる元素は異なるスパッタリング収率を有するので、多成分ターゲットで行うと、得られる層の最終的な組成は一般にターゲットの組成とは異なる。この場合、タングステンワイヤーの上に得られた層は、St787合金の組成と比べて、ジルコニウムが多く、コバルトが乏しい組成を有する。こうして得られたワイヤーに関して、ASTM F 83−71規格の手順に従った仕事関数の測定が行われる。特には「ショットキー法」として公知の、この手順に従った第2の利用可能な方法が続いて行われる。さらに、同じタングステンワイヤーのフラグメントの仕事関数が、しかしながら、この場合には、本発明による被覆なしで測定される。
【0029】
この2つの試験により、結果として、未被覆のタングステンに関して約4.5eV及び本発明による被覆ワイヤーに関して約3eVの仕事関数Φの値が得られ、Φ値の減少は約33%である。未被覆のワイヤーに関して測定した約4.5eVの値は、文献で得られる4.2〜4.6eVの範囲の値と一致し、測定が正確に実施されたことを確認した。
【0030】
[例2]
この場合、質量%組成Y96%−V4%のターゲットによるスパッタリングで得られたイットリウム−バナジウム合金膜によってタングステンフィラメントを被覆するという相違で以って例1の試験を繰り返す。測定された仕事関数の値は約3.1eVであり、純粋なタングステンと比べて約30%の減少である。
【0031】
[例3]
今回はニッケルフィラメントを用いて例1の試験を繰り返し、純粋な金属ワイヤーのフラグメントと、St787合金のターゲットによるスパッタリングで同じワイヤーを被覆したフラグメントに関するΦ値を測定する。この場合、得られた値は、未被覆のニッケルに関して約4.9eV及び本発明による被覆ワイヤーに関して約3.1eVであり、Φ値の減少は約37%である。同様に、この場合、ニッケルに関して測定したΦ値は、4.7〜5.3eVの範囲にある文献で与えられる値と一致している。
【0032】
[例4]
例1で記載されるようにして製造したSt787合金の膜で被覆したタングステンワイヤーを含む試験片で水素収着試験を行う。試験片をガラス球に導入してガラス球を排気し(ガラス球の外側に配置したコイルによる誘導で)400℃で30分間加熱することにより試験片を活性化する。次いで、試験片を25℃まで冷却し、規格ASTM F 798−82に記載されている手順に従って、水素圧4×10-6mbarで試験を実施する。試験の結果は(Qで示され、ヘクトパスカル(hPa)の測定圧力を掛けたガスの立方センチメートルにおいて測定され、合金1平方センチメートル当たりで標準化される)収着ガス量の関数としての(Sで示され、1秒当たり収着したガスの立方センチメートル(cc)において測定され、合金1平方センチメートル当たりで標準化される)収着速度として図4の曲線1としてグラフで報告される。
【0033】
[例5]
今回は試験ガスとして一酸化炭素を用いて例4の試験を繰り返す。試験結果は、図4の曲線2としてグラフで報告される。
【0034】
[例6]
例2で記載されるようにして製造したY−V合金の膜で被覆したタングステンワイヤーを含む試験片で水素収着試験を行う。試験片をガラス球に導入してガラス球を排気し、誘導加熱により500℃で10分間試験片を活性化し、次いで、試験片を25℃まで冷却する。水素収着試験を例4の場合と同様に実施する。試験の結果は、図5の曲線3としてグラフで報告される。
【0035】
[例7]
今回は試験ガスとして一酸化炭素を用いて例6の試験を繰り返す。試験結果は、図5の曲線4としてグラフで報告される。
【0036】
金属の陰極を本発明によるゲッターで被覆することにより、陰極の仕事関数の値を顕著に下げることができ、本発明の陰極がまた、例4〜7の試験で得られるように、優れたガス収着特性を示すことがこれらの試験で確認される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の陰極が存在するランプ端部の切り取り図を示す。
【図2】本発明の1つの好ましい実施態様に従った陰極の断面図を示す。
【図3】本発明の1つの好ましい実施態様に従った陰極の断面図を示す。
【図4】本発明による陰極のガス収着特性を表すグラフを示す。
【図5】本発明による陰極のガス収着特性を表すグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲッター材料の層(15、26、31)で少なくとも部分的に被覆された金属支持部品(12、21、22、32)を含む、一体化されたゲッターと低減された仕事関数の値を有する冷陰極ランプのための陰極(11、20、30)であって、該ゲッター材料が、
・ジルコニウムと、コバルトと、イットリウム、ランタン又は希土類の中から選択される1つ又は複数の成分とを含み、質量%組成の三角図において、以下の点、即ち、
a)Zr81%−Co9%−A10%
b)Zr68%−Co22%−A10%
c)Zr74%−Co24%−A2%
d)Zr88%−Co10%−A2%
によって規定され、式中、Aがイットリウム、ランタン、希土類又はそれらの混合物の中から選択される元素である多角形において囲まれるようにした合金;
・イットリウムとアルミニウムからなり、少なくとも70質量%のイットリウムを含有する合金;並びに
・イットリウムとバナジウムからなり、少なくとも70質量%のイットリウムを含有する合金
の中から選択されることを特徴とする、陰極(11、20、30)。
【請求項2】
前記金属支持部品が、ニッケル、モリブデン、タングステン、ニオブ及びタンタルの中から選択された金属から作製される、請求項1に記載の陰極。
【請求項3】
前記金属支持部品が、帯、完全な円筒又は中空の円筒の形状を有する、請求項2に記載の陰極。
【請求項4】
前記ゲッター材料の層が陰極堆積法によって形成される、請求項1に記載の陰極を製造する方法。
【請求項5】
前記ゲッター材料の層が20μm未満の厚さを有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記金属支持部品(21、22、32)が中空円筒の形状を有し、該部品の内面と外面の一方又は両方の部分的な被覆が、適切に成形された支持部材を用いて、陰極堆積法の際に該部品をマスキングすることにより行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記ゲッター材料の層が電気泳動堆積法によって形成される、請求項1に記載の陰極を製造する方法。
【請求項8】
前記中空円筒形部品の内面と外面の一方又は両方の部分的な被覆が、堆積のために用いられるゲッター粒子を含有する懸濁液中に該部品を部分的に浸し、場合によりこれらの面の一方をマスキングすることによって行われる、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−511880(P2007−511880A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539077(P2006−539077)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【国際出願番号】PCT/IT2004/000614
【国際公開番号】WO2005/048293
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(500275854)サエス・ゲッタース・ソチエタ・ペル・アツィオニ (54)
【Fターム(参考)】