説明

冷陰極蛍光ランプ用電極及びその製造方法

【課題】長寿命化かつ安定した電子放出特性を有する冷陰極蛍光ランプ用電極を提供する。
【解決手段】冷陰極蛍光ランプ1用電極7は、内面に蛍光体皮膜層3を有するガラス管内に放電媒体4を封入し、前記ガラス管内に封入された一対のカップ形状の電極を備える冷陰極蛍光ランプであって、カップ形状電極の内面に酸化物セラミックス膜8を成膜し、さらにその最上層にDLC膜9を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極蛍光ランプに関するものであり、特に冷陰極蛍光ランプに使用される電極及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パソコンの液晶モニターや液晶テレビ等のバックライトには冷陰極蛍光ランプ(CCFL:Cold Cathode Fluorescent Lamp)が使用されている。冷陰極蛍光ランプは、内面に蛍光体皮膜層を形成したガラス管内に少なくとも希ガス、水銀といった放電媒体を封入し、ガラス管内の両端に一対の電極を配置し、電極端部にはリード線が溶接され、リード線を介して電圧が印加される。この冷陰極蛍光ランプは、両電極間に高電圧を印加して、ガラス管内の電子を電極に衝突させて電極から電子を放出させる。そして、この電子とガラス管内の水銀とを反応させて紫外線を放射させ、蛍光体被膜層を発光させている。
【0003】
上記のような液晶モニター等の普及が進行するにつれて、モニターの大型化や、高輝度で寿命の長い製品が求められており、使用される冷陰極蛍光ランプの高性能化が求められている。
【0004】
冷陰極蛍光ランプは熱陰極型のランプに比べ、シンプルな陰極構造により細径化に向いており、現在のバックライトの主として使用されてきているが、熱陰極型に比べると発光効率に劣る。これは冷陰極蛍光ランプの放電に要する電圧が高いためである。
【0005】
また上記のような要求が高まることにより、電極への印加電圧も高める必要があることから、放電により電極がスパッタリングされやすくなり、電極の寿命が短くなるといった問題も生じるため、このような要求に応えるためにはその動作電圧、すなわち陰極降下電圧の低減が必要となる。
【0006】
このような中、特許文献1には筒型金属基体の内面の先端部を除き酸化物コーティングすることにより始動特性を良好にした電極を開示している。
【0007】
また、特許文献2には冷陰極蛍光ランプに用いられる円柱状の電極表面に炭素膜を形成することにより電極の長寿命化を図ったことを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−133200
【特許文献2】特開2006−190537
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されたような電極では、電極内面の一部が、電極材料むき出しの状態にあり、その部分からスパッタリングされやすく、長期間の使用は困難である。
【0010】
また、特許文献2に記載されたような電極は、炭素膜を形成することにより放電に対するスパッタリング耐性の向上を図っているものの、炭素膜のみでは、電子放出特性が良好とはいえず、要求された輝度特性を得るためには高い電圧を印加する必要があり、それにより管壁温度の上昇など問題が生じ、結果長期間の使用は困難である。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、冷陰極蛍光ランプで使用される電極において、電極に電子放出特性に優れる膜と耐スパッタ性に優れる膜とを必要箇所に適切に形成することにより、陰極降下電圧の低減による省電力化、および耐スパッタ性による電極の長寿命化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する為に、本発明に係る冷陰極蛍光ランプ用電極は、内面に蛍光体皮膜層を有するガラス管内に放電媒体を封入し、前記ガラス管内に封入された一対のカップ形状の電極を備える冷陰極蛍光ランプであって、前記カップ形状電極の内面に酸化物セラミックス膜を成膜し、さらにその最上層にDLC膜を形成したことを特徴とする。
【0013】
このように、酸化物セラミックス膜とDLC膜とを成膜することにより、酸化物セラミックス膜が電気特性向上の効果を付与し、陰極降下電圧を低減し、消費電力の低下、管壁温度の適正化による輝度の維持など点灯安定性が向上する。またDLC膜が、使用時における放電に対する電極へのスパッタリングに耐性を示し、さらに、酸化物セラミックス膜の上に成膜することにより、酸化物セラミックス膜の脱粒や膜剥離などに対する防止効果も期待でき、2次電子放出特性が長期間維持することができるため電極の初期特性も長期間維持することが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る冷陰極蛍光ランプ用電極は、前記酸化物セラミックス膜は溶射法により前記カップ形状電極の内底面にのみ成膜することを特徴とする。
【0015】
このように、カップ形状電極の内底面を溶射法で成膜することにより、短時間で内底面に密着性に優れるクラックなど欠陥のない膜が形成できる。
【0016】
また、本発明に係る冷陰極蛍光ランプ用電極は、前記酸化物セラミックス膜がCVD法により前記カップ形状電極の内面に成膜されていることを特徴とする。
【0017】
このようにCVD法で成膜することにより、カップ形状電極の縁部を含む内面、特に溶射法では成膜が困難な内側面に対し緻密な成膜が可能になり、さらなる陰極降下電圧の低減による省電力化が見込める。
【0018】
また、本発明に係る冷陰極蛍光ランプ用電極は、前記酸化物セラミックス膜が、Y、Gd、Ybより選択された希土類酸化物、Al、Zr、Mgより選択された酸化物のうち1種、若しくは2種以上からなることを特徴とする。
【0019】
このように、カップ形状電極内面に電子放出特性に優れる酸化物セラミックス膜を成膜することにより、陰極降下電圧を低減することにより管電圧の低下による長寿命化が見込め、また消費電力の低下、管壁温度の適正化による輝度の維持など点灯安定性が向上する。
【0020】
また、本発明に係る冷陰極蛍光ランプ用電極の製造方法は、内面に蛍光体皮膜層を有するガラス管内に放電媒体を封入し、前記ガラス管内に封入された一対のカップ形状の電極を備える冷陰極蛍光ランプであって、前記カップ形状電極の内面をブラスト処理により粗面加工し、溶射法により前記カップ形状電極の内底面にのみ酸化物セラミックス膜を成膜し、さらにその上から前記カップ形状電極の内面にDLC膜を形成することを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る冷陰極蛍光ランプ用電極の製造方法は、内面に蛍光体皮膜層を有するガラス管内に放電媒体を封入し、前記ガラス管内に封入された一対のカップ形状の電極を備える冷陰極蛍光ランプであって、CVD法により前記カップ形状電極の内面に酸化物セラミックス膜を成膜し、さらにその上から前記カップ形状電極の内面にDLC膜を形成することを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る冷陰極蛍光ランプ用電極の製造方法は、内面に蛍光体皮膜層を有するガラス管内に放電媒体を封入し、前記ガラス管内に封入された一対のカップ形状の電極を備える冷陰極蛍光ランプであって、前記カップ形状電極の内面をブラスト処理により粗面加工し、溶射法により前記カップ形状電極の内底面にのみ酸化物セラミックス膜を成膜し、さらにその上からCVD法により前記カップ形状電極の内面に酸化物セラミックス膜を成膜し、またさらにその上から前記カップ形状電極の内面にDLC膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、冷陰極蛍光ランプ用電極の内面に電子放出特性に優れる酸化物セラミックス膜を成膜することにより、陰極降下電圧の低減により冷陰極蛍光ランプの消費電力の低下、管壁温度の適正化による輝度の維持など点灯安定性が向上する。またDLC膜を成膜することにより、使用時における放電に対する電極へのスパッタリングに耐性を示し、さらに、酸化物セラミックス膜の上に成膜することにより、酸化物セラミックス膜の脱粒や膜剥離などに対する防止効果も期待でき、2次電子放出特性が長期間維持することができるため電極の初期特性も長期間維持することが可能となる。このことから、陰極降下電圧の低減による消費電力低下とスパッタリング耐性の双方から電極の長寿命化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態例に係る冷陰極蛍光ランプの概略的な構造を模式的に示す断面図である。
【図2】(A)〜(C)図1における冷陰極蛍光ランプ用電極部分の拡大断面図である。
【図3】本発明の実施の形態例に係る大気開放型化学気相成長(CVD)装置の概略構成を模式的に示す図である。
【図4】本発明の実施の形態例に係るCVD装置のノズルおよびその近辺の断面を拡大して模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明に係る冷陰極蛍光ランプの概略的な構造を示す断面図である。冷陰極蛍光ランプ1のガラス管2は、ソーダガラス、鉛ガラス等の硬質ガラス材料で形成されており、その外径は用途に応じて異なるが、φ1.8〜φ5.0mm程度で長さは150〜1500mm程度である。また、ガラス管2の両端が硼酸ガラス、珪酸ガラス等で形成された封止ガラス5により気密に封止されている。
【0027】
また、ガラス管2の内壁には、希土類蛍光体皮膜等の蛍光体が用途に応じて適宜選択された蛍光体皮膜3が形成されており、ガラス管2の内部空間には、アルゴン、キセノン、ネオン等の希ガス及び、蛍光体励起用の水銀といった放電媒体4が所定量封入されている。
【0028】
ガラス管2の両端には、リード線6の接合された一対の電極7が、リード線6が封止ガラス5を貫通する形で、一対の電極が対向するように配置されている。また電極7は、対向する面が開口している有底のカップ形状であり、ホローカソード効果により、電極内側から電子放出が行われやすく、陰極降下電圧が低減でき、低消費電力化も見込める。また電極材料としては、本発明では安価で加工性の優れるニッケルを使用しているが、ニオブやモリブデン若しくはタングステンで作製された電極であっても良い。また、電極7の内面および縁部には酸化物セラミックス膜8およびDLC膜9が形成されている。
【0029】
冷陰極蛍光ランプ1は上記のような構造を示しており、リード線6を介して電力を投入することにより、両端の電極7間に放電が発生し、水銀が励起され紫外線が発生する。その発生した紫外線により蛍光体皮膜3から可視光線が外部に放射される。
【0030】
図2(A)〜(C)は、図1における冷陰極蛍光ランプに使用される電極7部分を拡大して詳細に示す断面図である。図2(A)は、電極7の内底面にプラズマ溶射法により成膜された酸化物セラミックス膜8a(格子線)が形成されており、その上から電極7の内面および縁部にDLC膜9(右上り線)が形成されている。
【0031】
プラズマ溶射法は出力が高く高融点材料の溶射に適しており、プラズマ溶射法とすることで、完全溶融された酸化物セラミックス膜8aの原料が、電極7の内底面に密着して成膜されるために放電による膜剥離が発生しにくい。成膜におけるプラズマ溶射装置としては特に限定はなく公知のものを使用すればよい。また、溶射前に電極7にブラスト処理をして表面処理を施してから酸化物セラミックス膜8aを形成しても良い。
【0032】
また、内底面に形成する酸化物セラミックス膜8aの厚みとしては、50μm以上2000μm以下が好ましい。プラズマ溶射膜は下記に記載するCVD法による膜と比較すると、その膜に気孔が存在する。また、カップ形状の電極は使用時における放電は内底面で最も多く起こる。その理由は明らかではないが、電圧を印加すると電気エネルギーは直線的に電極へ向かって進むため、底面のイオン衝突密度が大きいためと推測される。そのため膜厚が薄すぎると、その気孔から放電が入り込む可能性がある。また逆に膜厚が厚すぎると放電阻害となり、点灯時の発光にゆらぎが生じ点灯が不安定になる。
【0033】
また、酸化物セラミックス膜8aの気孔率は5%以上20%以下が好ましく、さらには、5%以上10%以下であることがより好ましい。気孔率が5%未満の場合、皮膜が緻密すぎるため皮膜にクラックが発生し、そこから膜剥離の原因となる恐れがある。また、気孔率が20%を超えると、その空隙に放電が入り込み、膜剥離の原因となる恐れがある。
【0034】
また図2(B)は、図2(A)のプラズマ溶射膜からなる酸化物セラミックス膜8aに換え、CVD法で形成された酸化物セラミックス膜8b(ドット)から構成されている。
【0035】
これは上記プラズマ溶射法における成膜方法では基材に対し極めて直線的に成膜を行うため、電極7の内側面に成膜をすることは困難である。そこで、CVD法で成膜を行うことによりカップ形状電極の内側面に均一に成膜が可能である。CVD法により高緻密で平滑な膜を内面に形成することにより、陰極降下電圧を低減することが可能であり省電力が見込め、ひいては電極の長寿命化に貢献する。
【0036】
また、図2(C)のように、図2(A)、(B)を組み合わせた構成としても良く、このような構成とすることで、放電が最も多く起こる内底面の膜厚を厚くすることができるので、酸化物セラミックス膜自身のスパッタリングに対する耐性時間を延ばすことが可能となる。
【0037】
カップ形状電極の内面に均一な成膜を行うCVD法としては、大気開放型化学気相成長法(以下、単にCVD法ともいう)が好ましく、さらにその成膜ノズルに特徴を持たせたものを用いることが好ましい。以下にその好適な成膜の方法を記載する。
【0038】
図3は、本発明の実施の形態例に係る大気開放型化学気相成長(CVD)装置(以下、単にCVD装置ともいう。)の概略構成を模式的に示している。また、図4には図3のCVD装置の成膜ノズル部分にあたる拡大模式図を示す。図3および図4に示すように本実施の形態例に係るCVD装置10は、ガス供給部11、ガス流量計12、原料気化部14、酸素ガス供給部16、酸素ガス流量計17、ノズルフード部19、これらを接続する配管13a〜13c、多孔板20、カップ形状の電極7、電極7の加熱装置22を備える。
【0039】
上記におけるCVD装置のガス供給部11は、例えば窒素ガスボンベ等のキャリアガス供給源であり、このキャリアガス(例えば、乾燥窒素ガス)は、その供給量がガス流量計12で計数されながら、ヒーターHで加熱された配管13aを介して、原料気化部14へ供給される。原料気化部14内には酸化物セラミックス膜8bの原料15が載置されており、原料気化部14全体をヒーターHで加熱している。原料15は、原料気化部14内で、例えば60〜300℃程度に加熱気化され、気化した酸化物セラミックス膜8bの原料は、例えば毎分0.5〜30.0リットル程度の流量のキャリアガスとともに混合ガス供給管13bへ送られる。なお、このとき配管13bもヒーターHで加熱されている。
【0040】
一方、酸素ガス供給部16からは、その供給量が酸素ガス流量計17で計数されながら、ヒーターHで加熱された配管13cを介して酸素ガスが供給される。この配管13cと混合ガス供給管13bとがその下流側で接続されているので、原料気化部14で気化させた酸化物セラミックス膜8bの原料15とキャリアガスとの混合ガス中に酸素ガスが供給される。そして、酸化物セラミックス膜8bの原料15と、キャリアガスの混合ガスと、酸素ガスとが混合した原料混合ガスがノズル18内に供給される。なお、酸素ガスと原料混合ガスの割合は任意に選択することができる。
【0041】
このように酸化物セラミックス膜8bの原料15とキャリアガスの混合ガスと酸素ガスとの混合による原料混合ガスがノズル18内に供給され、ヒーター22aを配した加熱装置22で加熱された電極7の内面に、ノズルフード部19に設置された多孔板20から原料混合ガスが吹き付けられ、空気中の酸素と混合ガスが反応して電極7の内面に酸化物セラミックス膜8bが堆積する。
【0042】
また、図4は図3のCVD装置のノズルおよびその近辺の断面を拡大して模式的に示す図であり、成膜時のより好適な方法の詳細を記載する。図4に示すように本実施の形態例に係るCVD装置のノズルはさらに多孔板20より伸びる細管21が取り付けられている。細管21は電極7の径より細く作られており、電極7内に細管21の一部を挿入しながら成膜することが可能であり、原料混合ガスを強制的に送入することができる。このような方法を取ることにより、放たれた原料混合ガスが電極内部で循環したあと外部へ排出していくため、電極の内面および縁部、特に内側面部分にも効率的に成膜が可能となる。なお、成膜不要の部分にはマスキングなどの処置を施せば良い。
【0043】
また、多孔板20に配置される細管21は単数、複数何れであっても構わないが、複数本配置して成膜を行うことにより、一度に多くの電極への成膜が可能である。複数本配置して成膜を行う場合、ノズル18内で気流差が発生し膜厚にムラが生じないように、細管21を例えば直線上、同心円上等に均等な間隔に配置することが好ましい。また基材側である電極7の設置については、電極7の径より若干大きめの穴をあけた治具を準備し、そこに電極7を嵌めこむように設置して成膜を行えばよい。
【0044】
このとき形成される酸化物セラミックス膜8bの厚みとしては、成膜することがさらなる陰極降下電圧を低減することに効果を示すため特に限定はしないが、1μm以上成膜することで、安定した電気特性向上の効果が見込め、さらには10μm以上成膜することがより好ましい。これはプラズマ溶射膜で構成された酸化物セラミックス膜8aと比較し、前記CVD法により成膜された膜は、高緻密で平滑な膜であるため、その膜厚が薄く成膜されていても、同等の特性を得ることができるためである。
【0045】
また、上記溶射法やCVD法の他、ゾルゲル法のようなディップコーティングによる方法で電極7の内面に酸化物セラミックス膜8を成膜しても良い。しかしながら、このような方法は1μm程度の膜厚を得るために数十回のコーティングが必要となるので、工業的なことを考慮した場合はやはり溶射法やCVD法における成膜が望ましい。
【0046】
また使用される酸化物セラミックス膜8の原料としては、Y(酸化イットリウム)やGd(酸化ガドリニウム)、Yb(酸化イッテルビウム)などからなる3A族元素、Al(酸化アルミニウム)、ZrO(酸化ジルコニウム)、MgO(酸化マグネシウム)などからなる酸化物より1種若しくは2種以上を混合物として使用するのが好適である。また、上記主成分以外の他成分が含まれていても構わない。ただし、このような他成分は、成膜された酸化物セラミックス膜8に対して悪影響を与えないものが好ましい。そのような他成分は不可避成分であり、例えばSi、Na、Fe、Zn、Cr、Ni、Cu、Ca、Mn、Ti、Kなどが挙げられる。
【0047】
さらに酸化物セラミックス膜8の上には電極7の内面および縁部にDLC膜9が形成されている。低仕事関数で耐スパッタ性に優れるDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を電極の最上層に形成することにより、放電による電極7へのスパッタリングの耐性が向上するので寿命を延ばすことが可能となる。さらに、最上層にDLC膜9を成膜したことにより、電気放出特性に優れる酸化物セラミックス膜8の脱粒や膜剥離などといった酸化物セラミックス膜8の崩れ防止や、酸化物セラミックス膜8と電極7の境目からのエッチング防止にもなるため、使用開始時とほぼ同様の初期特性を長時間維持することができる。
【0048】
また、DLC膜9は電極7の内面および縁部にのみ形成されているが、電極の外周部に膜がついていても構わない。ただし、封止ガラス5に膜が付かないことに注意する必要がある。これは冷陰極蛍光ランプ1を製造する際、ガラス管2と封止ガラス5との接着不良が発生するためである。
【0049】
DLC膜9の成膜方法としては特に限定はなく、プラズマCVD法や熱CVD法、PVD法など各種公知の方法で成膜すればよく、またその膜厚は、電極内の放電に影響がない程度であれば特に限定はしないが、その寿命や作製におけるコストといった工業的部分を考慮すると例えば0.1μm以上2μm以下程度成膜すれば、前記のような効果が期待でき好ましい。
【0050】
上記方法を用いることにより、電極7に対し電子放出特性に優れる膜と耐スパッタ性に優れる膜とを適切に形成したことにより、陰極降下電圧の低減により冷陰極蛍光ランプの消費電力の低下、管壁温度の適正化による輝度の維持など点灯安定性が向上、および耐スパッタ性の向上による電極の長寿命化の向上を図ることが可能となる。
【実施例】
【0051】
以下に本発明に係る一実施例を詳細に説明する。なお本発明は、以下に説明する実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
φ2.0mm、深さ5mmのカップ形状のニッケル製電極を準備し、平均粒径30μm、純度99.0%で残部が不可避成分から成る酸化イットリウムを準備した。そして溶射装置として、一対のアノード(陽極)を有するトーチ型溶射装置、ツインアノード型溶射装置(エアロプラズマ社製・ASP7100)を使用し、上記ニッケル製電極の内底面部に膜厚1000μmの酸化イットリウム膜を成膜した。さらにイオンビーム蒸着法にてDLC膜を前記溶射膜の上から電極の内面および縁部に1μm成膜した。なお、実施例1において電極7には膜の密着性を向上するために成膜前にブラストにより表面処理を施している。
【実施例2】
【0053】
上記実施例1における溶射膜部分を、図3記載のCVD装置及び図4記載の成膜ノズルを用いて電極7の内面および縁部に10μm酸化イットリウム膜を成膜し、その上にDLC膜を成膜した。酸化イットリウムとしては、純度99.6%のY(DPM)(トリス(ジピバロイルメタナト)イットリウム)を使用し、成膜条件としては窒素キャリアガス流量を10リットル/min、酸素ガス流量を1リットル/min、Y(DPM)の気化温度を220℃、基板の加熱温度を500℃とした。
【実施例3】
【0054】
上記実施例1の溶射膜とDLC膜との工程間に、実施例2と同様の方法を用いてCVD膜を電極7の内面および縁部に酸化イットリウム膜を成膜した。なお成膜条件、膜厚は実施例2と同様とした。
【0055】
(比較例1)
実施例と同様のカップ形状のニッケル製電極を用意し、ニッケル製電極の内底部にのみ酸化イットリウム溶射膜を1000μmの膜厚で成膜を行った。
【0056】
(比較例2)
実施例と同様のカップ形状のニッケル製電極を用意し、酸化物セラミックス膜は成膜せず、DLC膜のみを1μmの膜厚で成膜した。
【0057】
(比較例3)
実施例と同様のカップ形状のニッケル製電極を用意したのみで、膜の成膜を行わなかった。
【0058】
実施例および比較例で作製した電極を、φ4.0mm、長さ900mmの蛍光体皮膜層3が形成されたガラス管2を準備し、両端を封止ガラス5で封止するように電極7を配置し、冷陰極蛍光ランプ1を作製した。なお、ガラス管2内には、放電媒体4として、アルゴン及び水銀が封入されている。
【0059】
次に、作製した冷陰極蛍光ランプ1の封止ガラス5より外部へ貫通するリード線6を介して、10mA、15mA、20mAの3水準で連続点灯試験を行った。また上記何れの場合もガス圧力は40torrとする。そのときの連続点灯試験100hr経過後の管電流(mA)に対する管電圧(V)の関係を表1、また管電流(mA)に対する管壁温度(℃)の関係を表2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
3水準何れの場合であっても、実施例における冷陰極蛍光ランプは5000hr連続点灯を行っても、使用初期の95%以上の輝度特性を維持した。これは、電子放出特性に優れる酸化物セラミックス膜が、管電圧を低下させ発光効率を向上し、さらに最上面に形成されたDLC膜がスパッタリングに対し耐性を示し、さらに下層に成膜される酸化物セラミックス膜を保護している結果である。
【0063】
また、実施例1と実施例2及び3では管電圧が50V、管壁温度が15〜45℃低い値を示した。これは膜質の違いや電極の内側面への成膜の有無が影響していると考えられる。
【0064】
対して比較例1は2000hrを経過した辺りから輝度低下が見られ、3000hr経過後に初期特性の80%を切った。これは酸化物セラミックス膜のスパッタリングにより水銀が消耗したためである。また、比較例2はスパッタリングに対し耐性を示したものの、管電圧が高く、管壁温度も高くなり、輝度低下が見られた。比較例3については500hr経過したところで電極の状態を確認したところ、電極の底面にスパッタリングによる穴が見られた。
【0065】
また、管電流の上昇に伴い比較例の冷陰極蛍光ランプのガラス管壁には黒化が見られた。これはスパッタリングにより、管内の水銀が蛍光体表面に付着したものであるが、実施例の冷陰極蛍光ランプは、長時間の使用においてもガラス管の黒化は見られなかった。
【0066】
以上のことから、カップ形状電極の内面に酸化物セラミックス膜を成膜し、さらに最上層にDLC膜を形成した構成を有する冷陰極蛍光ランプ用電極とすることにより、陰極降下電圧の低減による冷陰極蛍光ランプの消費電力の低下、管壁温度の適正化による輝度の維持など点灯安定性が向上する。また使用時における放電に対する電極へのスパッタリングに耐性が見込め、さらに、酸化物セラミックス膜の上にDLC膜を成膜することにより、酸化物セラミックス膜の脱粒や膜剥離などに対する防止効果も期待でき、長寿命化かつ安定した電子放出特性を有する冷陰極蛍光ランプ用電極を提供することが可能となった。
【符号の説明】
【0067】
1 冷陰極管蛍光ランプ
2 ガラス管
3 蛍光体皮膜層
4 放電媒体
5 封止ガラス
6 リード線
7 電極
8 酸化物セラミックス膜
9 DLC膜
10 CVD装置
11 ガス供給部
12 ガス流量計
13a〜c 配管
14 原料気化部
15 原料
16 酸素ガス供給部
17 酸素ガス流量計
18 ノズル本体
19 ノズルフード部
20 多孔板
21 成膜ノズル
22a、H〜H ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に蛍光体皮膜層を有するガラス管内に放電媒体を封入し、前記ガラス管内に封入された一対のカップ形状の電極を備える冷陰極蛍光ランプであって、
前記カップ形状電極の内面に酸化物セラミックス膜を成膜し、さらにその最上層にDLC膜を形成したことを特徴とする冷陰極蛍光ランプ用電極。
【請求項2】
前記酸化物セラミックス膜は溶射法により前記カップ形状電極の内底面にのみ成膜することを特徴とする請求項1に記載の冷陰極蛍光ランプ用電極。
【請求項3】
前記酸化物セラミックス膜はCVD法により前記カップ形状電極の内面に成膜されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷陰極蛍光ランプ用電極。
【請求項4】
前記酸化物セラミックス膜は、Y、Gd、Ybより選択された希土類酸化物、Al、Zr、Mgより選択された酸化物のうち1種、若しくは2種以上からなることを特徴とする請求項1〜3に記載の冷陰極蛍光ランプ用電極。
【請求項5】
内面に蛍光体皮膜層を有するガラス管内に放電媒体を封入し、前記ガラス管内に封入された一対のカップ形状の電極を備える冷陰極蛍光ランプであって、
前記カップ形状電極の内面をブラスト処理により粗面加工し、溶射法により前記カップ形状電極の内底面にのみ酸化物セラミックス膜を成膜し、さらにその上から前記カップ形状電極の内面にDLC膜を形成することを特徴とする冷陰極蛍光ランプ用電極の製造方法。
【請求項6】
内面に蛍光体皮膜層を有するガラス管内に放電媒体を封入し、前記ガラス管内に封入された一対のカップ形状の電極を備える冷陰極蛍光ランプであって、
CVD法により前記カップ形状電極の内面に酸化物セラミックス膜を成膜し、さらにその上から前記カップ形状電極の内面にDLC膜を形成することを特徴とする冷陰極蛍光ランプ用電極の製造方法。
【請求項7】
内面に蛍光体皮膜層を有するガラス管内に放電媒体を封入し、前記ガラス管内に封入された一対のカップ形状の電極を備える冷陰極蛍光ランプであって、
前記カップ形状電極の内面をブラスト処理により粗面加工し、溶射法により前記カップ形状電極の内底面にのみ酸化物セラミックス膜を成膜し、さらにその上からCVD法により前記カップ形状電極の内面に酸化物セラミックス膜を成膜し、またさらにその上から前記カップ形状電極の内面にDLC膜を形成することを特徴とする冷陰極蛍光ランプ用電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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