説明

凍結乾燥可能な温度応答性磁性微粒子

【課題】凍結乾燥し、水へ再分散した場合に、凍結乾燥前の分散状態に戻り、かつ温度応答性も維持している温度応答性磁性微粒子を提供する。
【解決手段】鉄酸化物とポリアルキレンイミンとの複合体からなる磁性微粒子であって、該磁性微粒子の表面が温度応答性高分子で修飾された、磁性微粒子を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結乾燥後に再利用可能な温度応答性磁性微粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水溶液の状態で下限臨界溶液温度(以下「LCST」と記述する。)を示すポリイソプロピルアクリルアミドや上限臨界溶液温度(以下「UCST」と記述する。)を示すポリグリシンアミドなどの温度応答性高分子を、粒径が100〜200nm程度のデキストランなどの多価アルコールとマグネタイトを主成分とした磁性微粒子に固定した温度応答性磁性微粒子が知られている。(例えば、特許文献1、非特許文献1および2参照)。
前記温度応答磁性微粒子は、その粒径が100〜200nmであり水によく分散する。このような粒径が小さい温度応答性磁性微粒子は、分散状態では、磁力よりもブラウン運動の方が大きく磁力では回収できない。しかし、加熱してその温度をLCST以上とした場合には、凝集が生じ、凝集物となることから、磁力で容易に回収可能である。また、凝集物は再びLCST以下にした場合に分散し、可逆的である。
【0003】
上記のような温度応答性磁性微粒子に抗体、抗原などを固定化した温度応答性磁性微粒子を用い、種々の生体分子や微生物の分離を行う試みがなされており、ミクロンサイズの粒子と比較して、より高い結合容量や反応性を示すことが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、上記のような多価アルコールを含む温度応答性磁性微粒子を凍結乾燥した場合、凍結乾燥はできるものの、その後、再び水溶媒へ分散した場合、凍結乾燥前のようなナノスケールで分散することができなくなり、結果的には凍結乾燥前の温度応答機能を失ってしまい、可逆性を失ってしまう。
【0005】
特許文献3には、カチオン性官能基を有する物質、水酸基を有する物質および磁性を有する物質を共有結合または物理吸着により複合化させた水溶性のカチオン性磁性微粒子が開示されている。しかしながら、カチオン性官能基を有する物質としてポリエチレンイミンが例示されているが、これは多価アルコールなどの水酸基を有する物質を必須成分とし、それにカチオン性官能基を有する物質を結合させたものであり、また、温度応答性高分子については開示されていない。
特許文献4には、磁性コア粒子と該コア粒子に固定されたエンベロープ層とからなる生化学的活性を有する磁性ナノ粒子が開示されており、その成分である生体適合性基質の例としてポリエチレンイミンが記載されているが、温度応答性高分子については開示されていない。
特許文献5には、アミン化合物を固定化した磁性粒子が開示されており、アミン化合物の例としてポリエチレンイミンが記載されているが、温度応答性高分子については開示されていない。
【特許文献1】特開2005−082538号公報
【特許文献2】特開2007−056094号公報
【特許文献3】特開2007−112904号公報
【特許文献4】特表2003−509034号公報
【特許文献5】特開2002−17400号公報
【非特許文献1】アプライドマイクロバイオロジーアンドバイオテクノロジー(Appl.Microbiol.Biotechnol.)1994年、41巻、99〜105頁
【非特許文献2】ジャーナルオブファーメンテーションアンドバイオテクノロジー(Journal of fermentation and Bioengineering)1997年、84巻、337〜341頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、凍結乾燥された後でも再び水溶媒へ分散することのできる、可逆性を保った温度応答性磁性微粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、鉄酸化物の磁性体に対する分散剤をポリエチレンイミンとし、表面に温度応答性高分子を結合させることで凍結乾燥しても、再び水溶媒へ分散し可逆性を保つことができ、温度に応答して磁集できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)鉄酸化物とポリアルキレンイミンとの複合体からなる磁性微粒子であり、該磁性微粒子の表面が温度応答性高分子で修飾された磁性微粒子。
(2)平均粒径が500nm以下である、(1)の磁性微粒子。
(3)前記鉄酸化物が、マグネタイト、フェライト、ヘマタイトおよびゲーサイトから選択される少なくとも一種である、(1)または(2)の磁性微粒子。
(4)ポリアルキレンイミンがポリエチレンイミンである、(1)〜(3)のいずれかの磁性微粒子。
(5)前記温度応答性高分子が、下限臨界溶液温度または上限臨界溶液温度を有する高分子である、(1)〜(4)のいずれかの磁性微粒子。
(6)前記温度応答性高分子が、N−イソプロピルアクリルアミドとN−t−ブチルアクリルアミドとの共重合体である、(1)〜(4)のいずれかの磁性微粒子。
(7)さらに生体物質結合分子が結合した、(1)〜(6)のいずれかの磁性微粒子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の磁性微粒子は、凍結乾燥をしても可逆性を失なわないため、従来の温度応答性磁性微粒子に比べ長期的な保存安定性が期待できる。また、ビオチン、グルタチオン、抗原、抗体、酵素などの生体分子結合分子を固定化した場合、生体分子を含む試料と反応させたのちに、温度応答性高分子を凝集させ、磁集することにより、生体分子の検出や精製に用いることができる。さらに、凍結乾燥をしても可逆性を失なわないため、再利用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の磁性微粒子は、鉄酸化物とポリアルキレンイミンとの複合体からなり、その表面が温度応答性高分子で表面修飾された磁性微粒子である。鉄酸化物とポリアルキレンイミンとの複合体はさらに他の無機物や有機物を含んでもよいが、デキストランなどの多価アルコールを含まないことが好ましい。
鉄酸化物としては、マグネタイト、フェライト、ヘマタイトおよびゲーサイトなどが挙げられ、マグネタイトがより好ましい。
ポリアルキレンイミンとしては、ポリエチレンイミン(以下、「PEI」と略すことがある。)やポリプロピレンイミンなどが挙げられ、ポリエチレンイミンがより好ましい。ポリアルキレンイミンの分子量は好ましくは600〜70,000である。
鉄酸化物とポリアルキレンイミンの量比は重量比で、1:0.2〜1:20が好ましく、1:1〜1:10がより好ましい。
【0011】
鉄酸化物とポリアルキレンイミンとの複合体は、水中で鉄酸化物とポリアルキレンイミ
ンを混合することによって得ることができる。pH3〜6で複合体を形成することが好ましく、pH4〜5であることがより好ましい。
【0012】
温度応答性高分子表面修飾磁性微粒子のキュムラント解析平均粒径は、50〜500nmであることが好ましく、50〜100nmであることがより好ましい。
【0013】
本発明の微粒子に用いられる温度応答性高分子は、温度変化に応答して構造変化を起こし、凝集と分散が調整できる高分子である。温度応答性高分子としては、上限臨界溶液温度(以下「UCST」と記述することがある。)を有する高分子と、下限臨界溶液温度(以下「LCST」と記述することがある。)を有する高分子が存在するが、操作性などの点からLCSTを有する高分子がより好ましい。
【0014】
LCSTを有する高分子としては、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メタクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピペリジン、N−メタクリロイルモルホリン等のN置換(メタ)アクリルアミド誘導体から選ばれる少なくとも1種のモノマーを重合して得られるポリマー;ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール部分酢化物、ポリビニルメチルエーテル、(ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン)ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンラウリルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン誘導体;ポリオキシエチレンソルビタンラウレート等のポリオキシエチレンソルビタンエステル誘導体;(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)アクリレート、(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)メタクリレート等の(ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル)(メタ)アクリレート類;及び(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)アクリレート、(ポリオキシエチレンオレイルエーテル)メタクリレート等の(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)(メタ)アクリレート類等のポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸エステル誘導体等を挙げることができる。
【0015】
本発明では、N−イソプロピルアクリルアミドとN−t−ブチルアクリルアミドとの共重合体がさらに好ましく利用できる。
【0016】
UCSTを有する高分子としては、アクリロイルグリシンアミド、アクリロイルニペコタミド、及びアクリロイルアスパラギンアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを重合して得られるホモポリマーまたはコポリマー等を挙げることができる。
【0017】
LCSTを有する高分子、UCSTを有する高分子ともに、重合または共重合するモノマーの種類、割合を変えることでLCSTまたはUCSTを制御できるため、使用する温度に合わせたポリマー設計が可能である。
【0018】
本発明に好適に用いることのできる温度応答性高分子の重合度は、通常50〜10000である。
【0019】
温度応答性高分子の製造方法としては、上記モノマーを有機溶媒または水に溶解し、不活性ガスで系中を置換した後、重合温度まで昇温し、有機溶媒中であればアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤、過酸化ベンゾイル等の過酸化物、水系であれば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等の重合開始剤を添加し、攪拌下で加熱を続けることにより得ることができる。その後、貧溶媒中で再沈殿を行い、析出したポリマーを
ろ取したり、ポリマーを凝集させる温度変化刺激を与えて凝集させ、遠心によりポリマーを分離する等の手法で、製造したポリマーを精製することができる。
【0020】
磁性微粒子と温度応答性高分子との結合は、温度応答性高分子自身の、あるいは温度応答性高分子に導入された反応性の官能基と、ポリアルキレンイミンのイミノ基とを反応させて共有結合を形成させる方法などが挙げられる。このようにして温度応答性高分子で表面修飾された磁性微粒子を得ることができる。
【0021】
温度応答性高分子は、磁性微粒子表面に1〜100nmの厚みに修飾されることが好ましく、5〜50nmであることがより好ましい。
【0022】
本発明の磁性微粒子は、さらに、生体物質結合分子が結合していてもよい。生体物質結合分子としては、タンパク質、ペプチド、糖などの生体分子に結合できるものであれば特に制限されないが、ビオチン、アビジン、レクチン、グルタチオン、抗原、抗体、プロテインA、酵素などが挙げられる。
例えば、生体物質結合分子としてビオチンを結合させた場合、本発明の磁性微粒子はアビジンで標識されたタンパク質などの生体分子を吸着することができる。ここで、タンパク質として抗体を採用し、ビオチンを介して磁性微粒子に結合した場合、本発明の磁性微粒子は生体試料中の標的抗原の検出に用いることができる。また、タンパク質としてプロテインAを採用し、ビオチンを介して磁性微粒子に結合した場合、本発明の磁性微粒子は抗体の精製に用いることができる。また、タンパク質として酵素を採用し、ビオチンを介して磁性微粒子に結合した場合、本発明の磁性微粒子は物質変換に用いることができる。
生体物質結合分子としてグルタチオンを結合させた場合、本発明の磁性微粒子はGST融合タンパク質の精製やGSTプルダウンアッセイに用いることができる。
生体物質結合分子としてレクチンを結合させた場合、本発明の磁性微粒子は糖鎖の検出や精製に用いることができる。
【0023】
温度応答性高分子と生体物質結合分子との結合の例として、温度応答性高分子と抗体の結合方法を示す。国際公開第01/009141号パンフレットに記載されているように、ビオチンをメタクリル基やアクリル基等の重合性の官能基と結合させて付加重合性モノマー(N−ビオチニル−N’−メタクロイルトリメチレンアミドなど)とし、他のモノマーと共重合することにより温度応答性高分子にビオチンを結合させることができる。
一方、リガンドとしての抗体にアビジンを結合させ、ビオチン結合温度応答性高分子と混合することにより、アビジンとビオチンの結合を利用して、温度応答性高分子に抗体を結合させることができる。なお、ビオチンの代わりにグルタチオンを用いた場合は、アビジンではなく、グルタチオンSトランスフェラーゼを用いればよい。また、ポリマーの重合時にカルボキシル基、アミノ基またはエポキシ基等の官能基を持つモノマーを他のモノマーと共重合させ、当技術分野で周知の方法に従い、この官能基を介して、抗体親和性物質(例えば、メロンゲル、プロテインA、プロテインGなど)をポリマー上に結合させる方法も利用できる。このようにして得られた抗体親和性物質に抗体を結合させることにより、温度応答性高分子に抗体を結合させることができる。
【0024】
本発明の磁性微粒子を用いて試料中の検出対象物質(生体分子)を分離する方法は、(1)試料と磁性微粒子を混合する工程、及び(2)試料中の生体分子が吸着した磁性微粒子を磁力により回収する工程、を含む。
【0025】
本発明の磁性微粒子の回収に用いる磁石等の磁力は、用いる磁性微粒子の有する磁力の大きさ等によって異なる。磁力は、目的の磁性微粒子を磁集可能な程度の磁力を適宜使用できる。磁石の素材には、例えばマグナ社製ネオジ磁石が利用できる。このように、磁性微粒子の表面に温度応答性高分子が固定されていることで、分散状態では回収困難な「ナ
ノサイズの磁性微粒子を意図的に凝集させて、回収率を高めることが可能になる。
【0026】
試料中の検出対象物質を検出する方法は、(1)、(2)の工程の後に、さらに(3)磁性微粒子上の生体分子結合分子に結合した該検出対象物質を検出する工程、を含む。
【0027】
以下に、検出対象物質として抗原を、蛍光色素を用いたサンドイッチ法により検出及び測定する例を示す。
(a)検出及び測定しようとする抗原に対する抗体aを上記のようなビオチン−アビジンの相互作用により結合させた温度応答性高分子表面修飾磁性微粒子と、検出対象物質である抗原を含む検体を混合し、反応容器中で反応させる。
(b)該磁性微粒子を磁石により反応容器壁に磁集し、検体中の不要成分を含む液体部分を除去する。洗浄バッファーを加え、磁石を外して磁性微粒子を再分散する。さらに、磁集し、洗浄バッファーを除く。同様な操作を繰り返し、磁性微粒子を洗浄する。
(c)検出及び測定しようとする抗原に対して、前記抗体aとは違う部位を認識する蛍光色素で標識された抗体bの溶液を混合し、反応容器中で反応させる。
(d)磁性微粒子を磁石により反応容器壁に磁集し、抗体b溶液中の過剰成分を含む液体部分を除去し、磁石を外して磁性微粒子を再分散する。同様な操作を繰り返し、磁性微粒子を洗浄する。
(e)蛍光色素の蛍光強度を測定する。
【0028】
この例では検出試薬として、抗原に対し、前記抗体aとは違う部位を認識する蛍光色素で標識された抗体bを使用し、蛍光を測定する方法を例として示したが、放射ラベルした抗体bを用いて放射能を測定する方法、西洋ワサビペルオキシダーゼやアルカリフォスファターゼ等の酵素で標識した抗体b及び酵素の基質である発光または発色試薬を用いて発光または発色強度を測定する方法等各種方法が適用できる。
【0029】
上記のような分離方法または検出方法は、臨床診断に利用される各種物質の分離、検出及び定量に好適に使用できる。
具体的には、体液、尿、喀痰、糞便中等に含まれるヒトイムノグロブリンG、ヒトイムノグロブリンM、ヒトイムノグロブリンA、ヒトイムノグロブリンE、ヒトアルブミン、ヒトフィブリノーゲン(フィブリンおよびそれらの分解産物)、α−フェトプロテイン(AFP)、C反応性タンパク質(CRP)、ミオグロビン、ガン胎児性抗原、肝炎ウイルス抗原、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、ヒト胎盤性ラクトーゲン(HPL)、インスリン、HIVウイルス抗原、アレルゲン、細菌毒素、細菌抗原、酵素、ホルモン、薬剤等を挙げることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
(マグネタイトの調製)
200mL容のフラスコに、塩化第二鉄・六水和物(1.0mol)及び塩化第一鉄・四水和物(0.5mol)混合水溶液を100mLを入れ、メカニカルスターラーで攪拌し、この混合溶液を50℃に昇温した後、これに28重量%アンモニア水溶液5.0mLを滴下し、1時間程度攪拌した。この操作で、平均粒径が約5nmのマグネタイトが得られた(図1)。
【0032】
(マグネタイト−ポリエチレンイミン複合体の調製)
マグネタイト10重量%水溶液10mLとポリエチレンイミン5gを混合し、超音波処理をしながら、氷浴中で1時間分散処理をした。磁気分離により、過剰なポリエチレンイ
ミンを除去した。10mLの水を添加し再分散後、1mM 塩酸水溶液で分散液のpHを4にすることで、粒子径が約70nmのマグネタイト−ポリエチレンイミン複合体を得た。ここで、2種類のポリエチレンイミン(数平均分子量600、数平均分子量70,000)を使用し、2種類のマグネタイト−ポリエチレンイミン複合体を製造した。
【0033】
(マグネタイト−ポリエチレンイミン複合体の物性評価)
マグネタイトおよびマグネタイト−ポリエチレンイミン複合体の各pHにおけるゼータ電位測定を行った(図2)。pHの調整は、1mM塩酸水溶液と1mM水酸化ナトリウム水溶液を用いた。その結果、マグネタイトは、pH10では約−50mV、pH3では約15mVの電荷だったが、マグネタイト−ポリエチレンイミン複合体では、pH10では約−15mV、pH3では約50mVであった。以上の結果より、マグネタイトとポリエチレンイミンが複合体になっていることが示唆された。また、粒子径を測定した結果、pH10では、1000nmであるがpH4では、70nmになっていることが分かり、粒子径にpH依存性があることが分かった(図2)。
【0034】
(ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド−co−N−ビオチニル−N’−メタクロイルトリメチレンアミド−co−アクリル酸共重合体の調製)
200mLの三口フラスコに、N−イソプロピルアクリルアミド1g、N−ビオチニル−N’−メタクロイルトリメチレンアミド0.7mg、アクリル酸15mgを精製水(ミリポア社製純水製造装置「Direct-QTM」によって精製された導電率18MΩcmの水であり、MillQ水と呼ばれることもある。)100mLに溶解し、30分間窒素置換した。その後、テトラメチルエチレンジアミン0.1mLおよびペルオキソ二硫酸アンモニウム150mgを加えることにより重合反応を行った。3時間の反応の後、分画分子量10,000の透析膜により精製を行い、凍結乾燥によりポリ−N−イソプロピルアクリルアミド−co−N−ビオチニル−N’−メタクロイルトリメチレンアミド−co−アクリル酸共重合体0.97gを得た。
【0035】
(温度応答性磁性微粒子の調製)
マグネタイト−ポリエチレンイミン複合体300mgを100mM MESバッファー(MES:2-(N-Morpholino)ethanesulfonic Acid、pH4.75)30mLに分散した(分散液)。この分散液を、超音波により粒子径約70nmに分散させた。また、一方でポリ−N−イソプロピルアクリルアミド−co−N−ビオチニル−N’−メタクロイルトリメチレンアミド−co−アクリル酸共重合体100mgを、100mM MESバッファー10mLに溶解し、そこへ、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC:1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide, hydrochloride) 100mgを添加し、30分反応した(ポリマー液)。その後、分散液とポリマー液とを溶解し、6時間の反応の後、水により2回洗浄を行い温度応答性磁性微粒子を得た(図3)。
【0036】
一方、マグネタイト−デキストラン複合体を調製し、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド−co−N−ビオチニル−N’−メタクロイルトリメチレンアミド−co−アクリル酸共重合体で表面修飾して、コントロールの温度応答性磁性微粒子を得た。
【0037】
(凍結乾燥試験、再分散試験)
先に得られた温度応答性磁性微粒子について、温度応答性磁性微粒子30mLを100mLのナスフラスコ中に入れ、EYELA社製PFR−1000または液体窒素で凍結した後、EYELA社製FDU−2100により凍結乾燥を行った(数平均分子量600、数平均分子量70000のポリエチレンイミンを含む温度応答性磁性微粒子とも同様に行った。)。その後、リン酸緩衝液に再分散させた。比較としてデキストランから調製した温度応答性磁性微粒子に対しても、同様の操作を行った。
【0038】
(磁気分離実験)
各分散液1mLを7mL用試験管に分注し、42℃の恒温槽に浸漬させた。液中の温度はAS ONE社製DIGITAL THERMOMETER IT−2000により液中の温度をモニタリングした。液中の温度が37℃になった後、ネオジウム磁石を試験管に近づけ磁気分離を行い、磁性微粒子の分離状態の観察を行った。
【0039】
(粒子径測定)
各分散液を0.2mL分注し、4mLに希釈した。その中の3mLを四面透過型のキュベットに移し、大塚電子株式会社社製レーザーゼーター電位計ELS−8000より粒子径を測定した。粒子の分散性を評価するために重量換算から得られた粒子径(Dw)を個数換算から得られた粒子径(Dn)で割った粒子径分布(Dw/Dn)で表した。
【0040】
(再分散試験の結果)
再分散液を0.2mL分注し、4mLに希釈した。希釈液をキュベットに移し、その透過性を確認した。その結果、デキストランを用いたものでは透過性が無いのに対し、ポリエチレンイミンを用いたものは透過性がある(キュベットの奥の面に記載された文字が見える)ことがわかり、ポリエチレンイミン由来の温度応答性磁性微粒子の方が再分散性が保たれていることが示唆された(図4)。
【0041】
(磁気分離実験の結果)
再分散液の磁気分離実験の結果を図5に示す。デキストランから調製した温度応答性磁性微粒子は上清が濁ってしまい、良好に磁気分離ができなかったが、ポリエチレンイミンから調製した温度応答性磁性微粒子は磁気分離により、上清は透明になりほぼ磁性微粒子ができていることがわかった。また、ポリエチレンイミンからなる温度応答性磁性微粒子は加熱・冷却に対して可逆的に応答した。
【0042】
(粒子径測定の結果)
凍結乾燥前の温度応答性磁性微粒子の粒子径はデキストランから調製したものとポリエチレンイミンから調製したものどちらも約100nmであり、粒子径分布は、1.2(デキストラン)および1.3(ポリエチレンイミン)であった。一方、凍結乾燥後の粒子径は、デキストランから調製したものでは、1860nm(Dw/Dn=47.7)で、ポリエチレンイミンからから調製したものでは、107nm(Dw/Dn=1.5)であった。以上の結果より、ポリエチレンイミンから調製した温度応答性微粒子は凍結乾燥後も、凍結乾燥前と同じような分散性を有していることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】調製したマグネタイトの電子顕微鏡写真。
【図2】マグネタイトおよびマグネタイトPEI複合体の各pHにおけるゼータ電位測定の結果を示す図。
【図3】温度応答性磁性微粒子の調製法の模式図。
【図4】マグネタイト−デキストラン複合体およびマグネタイト−PEI複合体を凍結乾燥後に再分散させたときの透過性を示す写真。
【図5】マグネタイト−デキストラン複合体およびマグネタイト−PEI(PEI06K:分子量600、PEI70K:分子量70000)複合体を凍結乾燥後に再分散させた再分散液の磁気分離実験の結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄酸化物とポリアルキレンイミンとの複合体からなる磁性微粒子であり、該磁性微粒子の表面が温度応答性高分子で修飾された、磁性微粒子。
【請求項2】
平均粒径が500nm以下である、請求項1に記載の磁性微粒子。
【請求項3】
前記鉄酸化物が、マグネタイト、フェライト、ヘマタイトおよびゲーサイトから選択される少なくとも一種である、請求項1または2に記載の磁性微粒子。
【請求項4】
ポリアルキレンイミンがポリエチレンイミンである、請求項1〜3のいずれかに記載の磁性微粒子。
【請求項5】
前記温度応答性高分子が、下限臨界溶液温度または上限臨界溶液温度を有する高分子である、請求項1〜4のいずれかに記載の磁性微粒子。
【請求項6】
前記温度応答性高分子が、N−イソプロピルアクリルアミドとN−t−ブチルアクリルアミドとの共重合体である、請求項1〜4のいずれかに記載の磁性微粒子。
【請求項7】
さらに生体物質結合分子が結合した、請求項1〜6のいずれかに記載の磁性微粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−62444(P2010−62444A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228425(P2008−228425)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】