説明

凝固制御における改善された医薬品介入のための方法及びシステム

凝固制御のために企図された方法及び装置は、ロジット(1/INR)を従属変数として用いるのでINRのあらゆる値にわたる分散を安定化することによって、必要とされる投薬のさらに一定の投与量を確立し、ワルファリンとビタミンKに対する患者特異的な感受性を定量化し/考慮することを可能にする。さらに、そのような使用はINRとクマリン又はビタミンKの用量との間の関係を単純化し、各患者について推定されるパラメータの数を減らすことが留意されるべきである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年10月20日に出願された、参照によって本明細書に組み入れられる出願番号61/106695を持つ我々の同時係属米国仮出願に対して優先権を主張する。本明細書で議論されるこの及びそのほかすべての非本質的な物質はその全体が参照によって組み入れられる。組み入れられた参考文献における用語の定義又は使用が、本明細書で提供されるその用語の定義と一致する又はそれに反する場合、本明細書で提供されるその用語が適用され、参考文献におけるその用語の定義は適用されない。
【0002】
本発明の分野は、特にそれが、ワルファリン及びビタミンKの投与に関するとき、凝固剤及び抗凝固剤を用いた血液凝固の調節である。
【背景技術】
【0003】
ワルファリン及びそのほかの種々のビタミンK−阻害薬物(まとめてクマリンとして知られる;用語、クマリンとワルファリンは本明細書では相互交換可能に使用される)広く使用される抗凝固剤であり、第II(プロトロンビン)、第VII、第IX及び第X凝固因子並びにタンパク質S及びCのビタミンKに関連するカルボキシル化を阻害することによって作用する。凝固の抑制は、心房細動、心臓弁移植、静脈血栓塞栓症及びそのほかの症状の患者に適応があり、米国では、およそ300万人がクマリンを服用している。ワルファリンは、酵素、ビタミンKO還元酵素を阻害するが、それは、次には、ワルファリン耐性ビタミンK還元酵素によってビタミンKH2に還元されるビタミンK1に、酸化されたビタミンKエポキシド(KO)を還元する。ビタミンKH2が次いで、幾つかの凝固因子を含む幾つかのタンパク質におけるグルタミン酸残基のカルボキシル化に利用される。その過程でKH2はエポキシドに酸化される。従って、ワルファリンはビタミンKの再利用にのみ影響を及ぼし、ビタミンK代謝の阻害は、ビタミンKの高い取り込みによって圧倒されることが言及される。
【0004】
凝固カスケード自体は、PT又は「プロトロンビン時間」、トロンボプラスチンの添加後、血漿が凝固するのにかかる時間として測定される。通常PTは、INR、国際標準比という形で表され、それは、試薬を説明する実験室と変動に特異的な方法との間の抗凝固測定値を標準化するのに使用される。INRは、
INR=(PTpt/PTnormISI
として定義される。
【0005】
式中、PTptは秒で測定される患者のプロトロンビン時間であり、PTnormは正常の、未処理の血漿のプールについてのプロトロンビン時間であり、ISI(国際感度指数)はトロンボプラスチンの反応性を特徴付ける。高いINR(約0.8〜1.3の範囲を上回る)は延長されたPT又は遅い凝固形成を反映し、それは、薬物としてのワルファリンの有用性の基本である。治療は普通、通常2.0≦INR≦3.0の目標INRの範囲を達成するように適合させる。1.5≦INR≦2.5の低い強度の抗凝固は、出血合併症の低下を伴った深部静脈血栓症で有効であることが示されている一方で、2.5≦INR≦4.5の目標範囲の高い強度の抗凝固は心臓弁置換で使用される。
【0006】
ワルファリン療法は、さらに少ない因子が生成されるにつれて生体内でそれが分解することに基づいて、凝固因子のプールの緩やかな低下を生じる。それはさらに急速にプロトロンビン時間を下げるが、高い初期投与量は、一時的な凝固因子であるタンパク質Cの迅速な枯渇、及び過剰な抗凝固を招き得るので、ワルファリンの初期負荷投与量は推奨されない。米国胸部専門医学会からの学会報告の進行中のシリーズで詳説されるように出血が、ワルファリン治療の一義的な危険障害である。主な出血は、主な適応に応じてワルファリン治療患者において年に0.8〜2.0%の比率で生じ;これは、年当たり7%の最初の診断で未治療だった患者における重症の血栓塞栓症のリスクに匹敵する。ワルファリンにおける患者の致死率は、長期療法(6ヵ月を超える)についておよそ0.18%程度である。ACCPの報告は、以下のように抗凝固における変動の結果を強調している:
【0007】
「・・・INRにおける変動によって示される抗凝固剤効果における高い変動は、平均INRとは無関係な出血の高い頻度と関係する。この効果は多分、INRにおける顕著な上昇の高い頻度と程度に起因する。抗凝固剤の制御を改善する(INRのバラツキをできるだけ抑える)アプローチは、ビタミンK拮抗剤の安全性と有効性を改善し得る・・・」
【0008】
抗凝固制御の最新技術は、熟練医師が患者における一連のINR測定値を解釈し、最近の測定値に基づいて投与量を増やす、そのままにする、又は減らすかどうかを決定することである。第2の決定は、次いで現在の測定値に満足したかどうかに基づいて次の測定日を確定する、又は投与量における変更の結果をモニターすることである。INRが危険なまでに高い場合、医師は、ワルファリンの投与量を控えてもよく、又はビタミンKの1以上の投与量を処方して過剰なワルファリンに歯止めをかけてINRを迅速に下げてもよく、又はワルファリンを控え、ビタミンKを投与してもよい。
【0009】
ほとんどの医師は、ワルファリンに関する一揃いの想定のもとで操作し、想定は、多数の概説、公表された投与アルゴリズム、及び医師の主観的判断を置き換えるように意図するコンピュータプログラムの解析に反映される。これらの重要な想定は以下のとおりである。
【0010】
a.ワルファリンは作用するのに時間がかかるが、INRに対する以前の投与の効果は経時的に迅速に低下する。
【0011】
b.ワルファリンの効果は凝固因子の産生を阻害することである。しかしながら、プロトロンビン複合体活性とINRの間の定量的関係に関する研究はほとんどなく、阻害の時間的経過はほとんど分析されていないことに留意すべきである。
【0012】
c.患者のワルファリンに対する感受性はかなり迅速に変化し、INRが高い場合又は低い場合、ワルファリンの投与量を変えることを適当な処置とする。従って、ワルファリンを控えることは十分に迅速に高いINRをもたらし、それは介入として好まれる。ワルファリンの投与量を下げることはINRをかなり迅速に低下させるはずなので、新しい低い投与量の数日後、INRが高いままであれば、さらに下げることが推奨される。
【0013】
d.ビタミンK投与の効果は迅速であるが、一時的である。
【0014】
たとえば、最近公表されたコンピュータモデルICADはこれらの想定を反映し、さらに初期のさらに初歩的なコンピュータモデルTRODISと比べても、診療所では凝固制御を改善することができない。これらのプログラムを比較する臨床試験では、712人の患者をいずれかのプログラムに無作為化し、12,000回のINR試験と共に1年間経過観察した。双方のプログラムにおける患者は、80%の時間の広い治療域の範囲内にあったが、それは、コンピュータモデルの助言なしで管理された患者に典型的なINRの分布に一致している。明らかに、いずれのアルゴリズムもINRの変動を低下させなかった。さらに、この試験で示されたように、患者は、低いINR可動域と共に時間の4%を費やし、高いINR可動域と共にその時間の16%を費やしたということは、抗凝固剤の投与量が一貫して高すぎることを示している。双方のアルゴリズムは、その初期出力として提案された新しい投与量を主治医に提示したが、それは、ICADついての時間の20%及びTRODISについての時間の9%の医師によって拒絶された。しかしながら、TRODISは、提案することができず、ICADのたった2%の来院に対して39%の来院での医師の入力を要求した。
【0015】
そのような及びそのほかの症例研究は、上記の想定がクマリン及びそのほかの因子の薬物動態を適切に反映できないことを強く示唆している。さらに、これらの想定は患者の治療においてほとんどの開業医も導いているので、十分な改善がやはり実現されるべきである。
【0016】
たとえば、米国特許出願第2009/0216561号に記載されたようなそのほかの既知の方法では、治療期間の間での患者のINR、目標INR及び抗凝固剤の以前の累積投与量を用いて次の治療期間についての抗凝固剤の新しい投与量を算出する。そのような方法が概念的に単純であり、過剰の及び過少の投与量の頻度を減らす可能性がある一方で、所望のINRへの調整は通常遅い。さらに、精度は高いINR値では望ましいものより低い。WO2004/003550に記載されたようなさらなる既知の方法では、INRの維持に代謝の表現型決定を用いる。そのような方法は、制御の新しい態様を提供するが、初期治療及び大きなINRの変動の縮小には通常好適ではない。或いは、個別化された凝固剤の投与量は、VKORCI遺伝子の多型に基づいて決定することができるが、それは、WO2006/044686に教示されたようにワルファリンを代謝することに関与する。CYP2C9の追加の分析は、WO2007/143617で開示されたような適切な投与量の予測をさらに改善し得る。これらの方法がワルファリン代謝における個々の変動を特定する傾向がある一方で、それらはそれでもなお、特にINRが相対的に高い場合、INRにおける変動性を減らすことはできない。
【0017】
結果的に、多数の方法や装置がINRを制御するのに知られている一方で、それらのすべて又はほとんどすべては1以上の短所に悩まされている。従って、凝固制御における医薬介入のシステムや方法を改善するニーズが依然として存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明者らは今や、凝固を防止する患者におけるビタミンK自体と同様にビタミンK拮抗剤についての用量反応関係を発見したが、それを数字で表現して、適当な初期の及び進行中の投与の計算、及び非最適な投与量の早期の検出でさえ、その基礎を形成することができる。
【0019】
さらに詳しくは、本発明者らは、INRがビタミンK拮抗剤(クマリン)による投薬とビタミンKの関数である、凝固を防止する患者における定量的な用量反応関係を発見した。顕著なことに、及びグラフ形態で表すと、この用量反応関係は、従来の用量反応曲線に反して鋭敏性を有する。最も通常では、本発明の主題に係る用量反応曲線は、患者特異的なパラメータの推定のための過去の投与量データの畳み込みによる患者自身のINRデータに適合し、次いでそれを用いてその患者にとってのビタミンK拮抗剤の最適な用量を算出する。
【0020】
そのように算出された最適投与量を利用可能な投与形態を変えることによって相対的に密接に近似させ、算出された最適値に近づく平均毎週投与量が得られることが十分に理解されるべきである。さらに、アルゴリズムを使用して抗凝固状態に対する補完ビタミンKの効果を予測し、応答の調整を早めるまたは応答を安定化することができる。定量的な用量反応関係を数学的モデルで表現することができるので、コンピュータプログラム及びそのほかの手段を用いて医師に指針を提供することができる。本発明の主題のさらに熟考された態様では、安定効果を達成し、安定への移行の間のINRを予測するために患者とって独特のハーフタイムを計算するための方法が提示される。さらに、高い頻度の用量変動(たとえば、毎日の調整)によって患者にとって適当な投与量を制御するための関連する装置が開示される。
【0021】
上記及び追加の知見に基づいて、本発明者らは従って、ロジット(1/INR)=−log(INR−1)が従属変数として使用されるので、計算操作に基づいた結果を生じる計算操作を実行するように構成される凝固計算機が提供される、患者における抗凝固療法を助力する方法を企図する。凝固計算機はさらに好ましくは計算操作の結果を提示できるように構成される。
【課題を解決するための手段】
【0022】
特に好ましい態様では、計算操作は、所望のINRを達成するための抗凝固剤の目標投与量の計算であり、その際、抗凝固剤の目標投与量は方程式(I):
log(INR−1)=log(I−1)+b(w−w) (I)
に従って算出される。
【0023】
式中、INRは患者で測定されたINRであり、Iは患者にとって所望のINRであり、bは抗凝固剤に対する患者特異的な応答(すなわち、最適用量での用量反応曲線に傾きを与える患者特異的なパラメータ)であり、wは目標投与量であり、wは抗凝固剤の有効用量である。或いは、ビタミンKのデータが利用可能であるか、又は正確な投与量を計算するのにそれが必要とされる場合、抗凝固剤の目標投与量は方程式(II):
log(INR−1)=log(I−1)+b(w−w)−clog(K/K0) (II)
に従って算出される。
【0024】
式中、INRは患者で測定されたINRであり、Iは患者にとって所望のINRであり、bは抗凝固剤に対する患者特異的な応答(すなわち、最適用量での用量反応曲線に傾きを与える患者特異的なパラメータ)であり、wは目標投与量であり、wは抗凝固剤の有効用量であり、cは患者特異的なパラメータであり、Kは患者によるビタミンKの有効な取り込みであり、K0は患者によるビタミンKの平均の取り込みである。さらに、補完ビタミンKの取り込み、rK0が必要とされる場合、取り込みに対する投与量は、方程式(III):
r=exp[b(w1−w)/c]−1 (III)
に従って算出されてもよい。
【0025】
式中、w1は目標投与量より多い抗凝固剤の投与量であり、その際、残りのパラメータは上記と同義である。
【0026】
患者の抗凝固療法の開始については、抗凝固剤の目標投与量は方程式(IV):
=w−(1/b)log[(INR−1)/(I−1)] (IV)
に従って算出される。
【0027】
式中、INRは患者で測定された最初のINRであり、Iは患者にとって所望のINRであり、bは患者の既知の特徴に適用可能な抗凝固剤への感受性の演繹的な値であり、その際、wは目標投与量であり、wは患者の既知の特徴に適用可能な安定化ハーフタイムの演繹的な値である。bと安定化ハーフタイムの演繹的な値は、十分なINRデータが得られると患者特異的な推定値で置き換えられる。
【0028】
異なった観点から見ると、プロセッサに機能的に連結された記憶要素と、入力モジュールと出力モジュールとを含む凝固計算機が企図され、その際、記憶要素はソフトウエアの指示を保存して、ロジット(1/INR)=−log(INR−1)が従属変数として使用される計算操作を実行し、プロセッサはソフトウエアの指示を実行するので結果を生成するように構成され、出力モジュールは結果を提示できるように構成される。特定の方程式と使用に関して、上記で提供されたのと同様の検討材料及び方式が適用される。
【0029】
本発明の種々の目的、特徴、態様及び利点は、本発明の好ましい実施態様の以下の詳細な説明からさらに明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ワルファリンの低い平均1日用量を服用している患者についての用量効果関係を説明するグラフを示す図である。
【図2】ワルファリンの高い平均1日用量を服用している患者についての用量効果関係を説明するグラフを示す図である。
【図3】ワルファリンの中程度の平均1日用量を服用している患者についての用量効果関係を説明するグラフを示す図である。
【図4】(INR−1)の平均値の関数としてのINRの推定された標準偏差を説明するグラフを示す図である。
【図5】投与量を服用して以来の時間の関数としてのワルファリンの維持用量の有効性を描くグラフを示す図である。
【図6】1人の例となる患者についての実際の用量、有効な用量及び最適な用量を描くグラフを示す図である。
【図7】別の例となる患者についての実際の用量、有効な用量及び最適な用量を描くグラフを示す図である。
【図8】さらに別の例となる患者についての実際の用量、有効な用量及び最適な用量を描くグラフを示す図である。
【図9】INRに対するビタミンKの摂取の効果を描くグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明者らは今や、凝固制御における使用のために十分に改善され、定量化できる、ビタミンK拮抗剤についての用量反応関係を発見し、それによって必要とされる薬物のさらに一定の投与量を確立し、ワルファリンとビタミンKに対する患者特異的な感受性を明らかにし、考慮に入れることができる。確立された想定や計算に反して、本発明者らは、最も正確な従属変数が、ロジット(1/INR)=−log(INR−1)であることを発見した。
【0032】
従属変数のロジット形態の使用はこれまで認識されていなかったことが十分に理解されるべきである。対照的に、定義によるINRは2つの量の間の比であり、理論的には1より小さい境界を有すると想定されていたので、以前の計算は、アルゴリズムにおいて最小化の基準として(予測INR−1)対(測定INR−1)の比の対数を使用していた。そのような想定は、アルゴリズムにおける従属変数としてのこの構成を使用できないし、分散を安定化することに対する変換の効果を十分に理解することができない。従属変数としてのロジット(1/INR)を使用することは、以下に示されるようにINRのあらゆる値に対して分散を安定化し、さらに、クマリン又はその拮抗剤ビタミンKのいずれかの用量とINRとの間の関係を単純化するので、各患者について推定されるパラメータの数を減らすことにもなる。特に特定されない限り、用語「log」は本明細書で使用されるとき、自然対数(対数の底について定数eを有する)を指す。
【0033】
典型的な例では、INR=1の測定値が生じるとき、log(INR−h)が0<h<1(最も通常ではhは約.85)と共に使用され、それは、負の無限のlogを提供し、また、INRの標準偏差は小さいが「正常な」患者では正確にはゼロではないので、「正常な」INRが平均についてのみ単一であるとき、log(INR−h)が0<h<1と共に使用される。従って、ほとんどの症例に適合する実践的な値としてh=0.85の選択が使用されることに留意すべきである。文脈が正反対を指示しない限り、本明細書で示される範囲はすべてその端点を含むと解釈されるべきであり、制限のない範囲は、商業的に実践的な値のみを含むように解釈されるべきである。同様に、値のリストはすべて、文脈が正反対を指示しない限り、中間値を含むとみなされるべきである。
【0034】
ビタミンK拮抗剤の効果は、凝固因子の濃度の低下を介して、測定されたINRによって表現されるように、長い凝固時間を提供する。INRは、凝固因子に対して用量反応性であり、凝固因子の濃度が高まるにつれてINRの逆数は漸近的に1に近づく。その結果、ロジット(1/INR)は、
ロジット(1/INR)=ylog(PCA)−x
として表現することができ、
式中、PCA又はプロトロンビン複合体活性は凝固因子の「濃度」であり、x及びyはパラメータである。この関係は、ビタミンKと凝固因子の質量作用相互作用、及びKO還元酵素の阻害に由来し得る。
【0035】
以下において、ビタミンK拮抗剤のモデルとしてワルファリンを使用する。上記に基づいて、凝固因子の定量的枯渇は量bwによって効率的に表すことができ、その際、wは特定の拮抗剤(ここでは、mgでのワルファリンの1日用量)の有用用量であり、bは拮抗剤に対する患者の感受性の測定値又は用量wでの用量反応曲線の傾きである(このアプローチは、枯渇について線形の測定基準を想定するが、対数関係も熟考ざれる):
ロジット(1/INR)=ylog(PCA0)−[x+bw]及び
ロジット(1/INR)=− log(INR−1)
従って
log(INR−1)=[bw+x]−ylog(PCA
【0036】
単純化するには、a=ylog(PCA)−x、それは、患者自身の凝固因子系の固定された分布を表し;これは、方程式(1):
log(INR−1)=bw−a (1)
を生じるであろう。
【0037】
その結果、患者特異的なパラメータは今やaとbである。bはワルファリンに対する患者の直接的な応答の特徴であり、用量は、年齢によってやや変化することを除いて一般に経時的には変化しないことが言及されるべきである。さらなる情報の非存在下では、aは、患者の一定の特徴であると想定されるが、以下に示すように、患者のINRに対するビタミンKの摂取の効果も含み、その効果は、別の項目(以下を参照)を加えることによって表すことができる。方程式(1)は、a、b及びwについての値を想定してINRのどの値が観察されるかを特定するので、定義ではなく、提案であることが指摘されるべきである。さらに、こうして特定の患者について予測される値が、治療の順序にてそれが何時生じるかにかかわりなく、wにのみ依存することが十分に理解されるべきである。従って、医師は、患者のビタミンKの摂取が有意に変化しない限り適用可能であり続けるという保証と共に患者特異的な用量反応曲線のグラフを使用することができる。調べた患者について式(1)におけるaの平均値は約2.8であり、bの平均値は約0.54であり、彼らすべてがビタミンK拮抗剤としてワルファリンを服用していた。有効な用量にINRを関係付けるこれら2つのパラメータは、用量aについてのスケール因子及び用量反応bの急峻さとみなすことができる。
【0038】
図1、2及び3は、実際の患者の測定されたINRに方程式(1)を適合させた場合に明らかにされた用量−効果の関係を示し、患者は時に単回用量のビタミンKを投与された。治療域は、患者ごとに2.0〜3.0だった。図1における患者は、ワルファリンの低い1日平均用量を必要とし、患者#6は5mgの経口ビタミンKを2回服用した。図2における患者は、ワルファリンの高い1日平均用量を必要とし、患者#12は5mgの経口ビタミンKを1回服用した。図3における患者は、ワルファリンの中程度の1日平均用量を必要とし、患者#18は5mgの経口ビタミンKを1回服用した。用量スケールにて図の間での差異は方程式(1)におけるパラメータの効果を示す。
【0039】
上記に基づいて、IはINRが維持されるべきである目標値である場合、最適用量wは方程式(2)に従って維持されるべきであることが認識されるべきである:
=(1/b)・[a+log(I−I) (2)
【0040】
この最適用量wは、患者のINRを目標Iに最も近く保つ維持用量である。
【0041】
(2)からwの関数として引き出されるパラメータaは今や、方程式(1)にて置き換えられて、本発明の主題に従ってコア方程式(3)を得ることができる:
log(INR−1)=log(I−I)+b(w−w) (3)
【0042】
患者の既往歴(通常、I=2.5、普通の治療域の中点)に従って医師によって目標INR、Iが特定される。最適用量wは医師が知りたいと思うものなので、方程式(3)は日常の臨床応用で最も実践的である。2つの患者特異的なパラメータb及びwは最大公算法又は最小二乗法のような常法によって推定される。
【0043】
方程式(3)の形態で用量関係を表現することは幾つかの重要な利点を有することが特に十分に理解されるべきである:(a)医師がwの位置づけを試みるにつれて患者のデータは通常、利用可能で一般的な値の範囲になる。パラメータの良好な推定値はこうして迅速に得ることができる。(b)wのおおまかではあるが、臨床的に有用な推定値は、非常に限られたデータに適用される粗末な方法でも得ることができる。1つのINR及び1つの有効な用量w(以下を参照)でさえ(3)に置き換えてwの最初の推定値を得ることができる。
【0044】
たとえば、最適な用量wは、ワルファリン療法の開始後、最初のINRから推定することができる。方程式(3)から
=w−(1/b)log[(INR−1)/(I−I)]
【0045】
有効用量wは、患者が集団平均の最大ハーフタイムを有することを想定することによって推定することができる。最適用量wは、次いで患者が集団平均の感受性bを有することを想定することによって上記方程式から推定することができる。この方法によって、3日間の治療の後、たった1.88mg/日の推定された最適用量、及びGriceら(J. Thromb. Haemost., 2008;6: 207-9)の異常に困難な患者について1.5のINRが得られ、最終的に推定されたその維持用量は0.9mg/日であった。そのような推定値は、十分に正確であれば、治療のこの相の間での患者の危険な過剰抗凝固を防ぐであろう。本発明者らは、たとえば、尤度比法又は最小誤差法のような当業者に既知の方法によって、INRデータが蓄積するにつれて完全に推定されるモデルへの段階的移行を考えている。彼らはまた、患者の遺伝的特性及びそのほかの個人的な状況を考慮することによって感受性についての演繹的な想定及び最大ハーフタイムを改善することも考えている。
【0046】
INRの変動と凝固を防止する患者の管理の意味合いとに関して、幾つかの観察が留意されるべきである。図4に示すように、INRの標準偏差はINR−1の平均値に比例するが、それは、本発明者らの知る限り、当該技術では十分に認識されていなかった。ここで、データは、Schurgersら(Blood, 2004; Nov. 1:104(9): 2682-9)の表3及び4から得られた。容易に理解できるように、INRの標準偏差は平均値(INR−1)に比例する。点線は、比例の適合関数である。従って、変動の係数は、低い値から高い値の測定されたデータについて一定であることを理解することができる。そのようなデータの対数変換が一定の標準偏差を生じることも周知である。その結果、log(INR−1)の標準偏差はその平均値に無関係であり、患者のINRの一般的な安定性は、方程式(3)によって予測される値からの残りの変動の標準偏差によって適切に測定することができる。図4の関係に気付かないで、以前の作業は、未変換のINRの標準偏差によって安定性を測定していたので、そのレベルで混乱していた。従って、最近の研究は、患者のワルファリン投与量への外来性ビタミンKの添加は、外来性ビタミンKが単にINRを下げるのでその分散も低下させる場合、そのINR測定値における変動を低下させる一般的な全身性の効果を有すると結論付けていた。
【0047】
標準偏差の正確な推定値を可能にするのに十分長いINRの前歴には、医師が過剰な及び過少な抗凝固の徴候を治療するとき、普通、用量に対する若干の調整が含まれるであろう。これらの変化する用量の効果は、方程式(3)を用いて軽視することができるが、利用できる用量反応関数がない場合、以前の作業は、標準偏差を計算した場合、変化する用量からのINRにおける変動を含む以外に選択肢はない。従って、患者の安定性のこの測定は、医師に起因する変動を含むしかなかった。ここで提示される用量−反応の関係はINRの真の安定性を測定することを可能にし、それは、すでに生じた理由によって臨床的に相当に重要である。
【0048】
安定化へのハーフタイムに関して、以下が留意されるべきである:ワルファリンは安定化する効果について時間を必要とする。凝固因子を枯渇させなければならず、又は、用量を低下させる場合、系における過剰なワルファリンを代謝しなければならない一方で、残りのワルファリンの存在下で凝固因子のプールは緩やかに増大する。本発明では、経験的な近似を用いて、用量の変化に対する患者の応答の時間的経過を予測する。ここでは、「有効用量」は、INRに対するその効果が特定の時間での系におけるワルファリンの量と同等であるその変わらない用量として定義される。延長された時間に同一用量を患者が服用する場合、「有効用量」は、安定化時間後のその規則的な用量に等しい。「有効用量」は、投与量に及び安定化期間の間に変化がある場合、算出されることが必要であるだけである。
【0049】
「有効用量」は、用量が服用されるので、時間の関数によって実際の用量を畳み込むことによって算出される。この関数は、時間を介してINRに対する単回用量の効果を表す。ワルファリンについての「有効用量」を算出するための畳み込みへの第1の近似がここで開示される。たった1回服用された用量についての重み付けは、時間からのkの傾きを持った三角関数であり、用量はINRに対するその最大効果の時間まで服用され、その後、−kの傾きと共に先細ることが想定される。維持された1日用量について得られた関数は、S字形の増加関数であり、図5に描かれた2つの4分の1放物線から成る。さらに具体的には、図5のグラフは、単回用量が時間に対して三角の特性としてグラフにすることができる効果を有するという想定を用いて用量が服用されるので、時間の関数としてのワルファリンの維持用量の有効性を説明している。ここでは、最大遅延の半分は、用量が最大効果の半分を有する時間の1単位である。患者が薬剤の服用を止めた場合、崩壊は無効にされる。このアプローチは、ビタミンKの存在下又は非存在下でのワルファリンの単回投与に続くPTの期間的経過の一般的形状に一致する。
【0050】
用量反応方程式(1)を用いて、本発明者らは、有効用量とlog(INR−1)の相当する観察された値との間に約0.6と見られる相関を見つけ出した。ここで開示される畳み込みの近似は、当該技術で共通して知られるツールを用いてそのほかの重み付けに拡大してもよい。その結果、有効用量の近似(新しい投与の効果が加速し、次いで間隔にわたって減速して時間間隔にわたってINRに対する大まかにS字状の効果を呈するように)を得る畳み込み関数が本明細書で明白に企図されることが十分に理解されるべきである。対照的にこれまでは、既知の方法によって、ワルファリンの投与の効果がその投与の血漿濃度に比例する(すなわち、服用した日に最大となり、次いで経時的に指数的に低下する)と想定されていた。INRを予測することについての投与の遅延効果の重要性は、図6〜8に見ることができ、その際、投与に対する医師の逆相の変更は後にいずれ、INRにて相当する変動を誘導する。
【0051】
図6、7及び8はそれぞれ、例となる患者についての実際の、有効な及び最適の用量のグラフを示す。「最適な」用量は、治療域の中点にてINRが得られることが期待される用量である。有効な用量は、それぞれ、6.4、6.4及び9.0日の最大遅延の半分を用いて算出された。log(INR−0.85)と有効な用量との相関はそれぞれ、0.91、0.75及び0.75である。図7における患者は、18日目と77日目にその投与を逃した。
【0052】
この畳み込みに使用されるパラメータtmax1/2は、維持用量について最大効果の半分を達成する時間であり、また、単回用量の最大効果を達成する時間でもある。標準的な非線形の方法によって、現在、log(INR−1)の観察値と予測値の間の残差平方偏差和を最小化することによってパラメータtmax1/2を推定することができる。ワルファリンについてのtmax1/2の一般的な平均値は6.4日であると計算されているが、患者ごとに異なるので、個々の患者のデータに合わせることが必要である。従って、一定用量にてINRが安定化するまでの時間はワルファリンについては普通13日間である。しかしながら、多数の人々は、一次酵素CYP2C9について変異遺伝子を持っており、それが、ビタミンK拮抗剤の代謝率に影響を及ぼすので、患者間でのハーフタイムパラメータにおける相当の変動をもたらすことが言及されるべきである。
【0053】
従って、これらのデータを用いて、各個人について、投与の最大効果の半分までの時間、用量反応曲線の関連部分、及び投与の既往歴と測定されたINRからの患者のlog(INR−1)の残存標準偏差を推定することが思い描かれる。ワルファリン療法は通常長期間である。従って、多数の患者が薬剤に対する応答の長い前歴を有する。これらの計算されたパラメータを用いて用量の変化の効果を予測し、患者の応答におけるシフトを検出し、新しいINRが本当に許容可能な境界を越えるのかどうか、又はそれらの範囲内で無作為な変動を表すのかどうかを評価することができる。対照的に、既知の方法は通常、個々の最大ハーフタイムを計算することができず、用量反応曲線の関連する部分を描くことができず、用量対無作為変動の変化による患者のINRにおける変動の程度を評価することができない。
【0054】
上記ですでに指摘したように、患者のデータがその最大ハーフタイムの良好な推定値を入手するのに十分に広範でなくても、推定値が一般的な平均値と同じであると想定することによって患者の最適用量の臨床的に有用な推定値を得ることができる。経時的にデータが蓄積するにつれて、新しいデータを使用してこの推定値を改善することができる。
【0055】
さらに、本明細書で提示される系及び方法も有効な投与量を調整するためのビタミンKの効果の計算を可能にすることが十分に理解されるべきである。注射又は経口錠剤のいずれかによって、過剰投与量のビタミンK拮抗剤の解毒剤としてビタミンKを使用する。ビタミンKの使用は、ビタミンK拮抗剤の停止よりも速くINRを範囲内に持ち込み、それは、凝固因子のプールが増大してINRを低下させ得る前に代謝されなければならない。ワルファリンを過剰投与されずに過大なINRを提示している患者は、通常、多分ビタミンK含有食品の摂取不足によるが、ほかの薬物との相互作用による可能性もあるビタミンK欠乏である。偶発的な過剰投与は、過大INRについて考えられる別の経路である。ほとんどの場合、主治医が、治療域にINRを下げるが、それを下回らないビタミンKの量の提案を要求するであろう。本発明の主題に係るアルゴリズムが、患者の既往歴に基づいてそのような用量又は範囲を提案し、医師の判断を助けることができることが十分に理解されるべきである。
【0056】
さらに具体的には、INRの逆数は、上記で議論されたように正常な方法でビタミンKに対して用量反応性なので、log(K)においてロジット(1/INR)は線形であり、その際、Kはμg/日でのビタミンKの有効な総摂取である。ビタミンKの総摂取に関するデータは診療所では極めて稀にしか利用されないが、たとえば、ビタミンKの補完が処方される場合のような機会が生じる場合、それは普通の量からの逸脱を検討するのに実践的である。従って、log(K)は、2つの項目の和:log(K)=log(K0)+log(K/K0)として表現され、式中、K0はビタミンKの1日の平均摂取である。
【0057】
ここで記載される用量反応曲線は、2つの項目の和:a=a’+clog(K0)である方程式(1)(式中、a’は別の定数であり、cは患者特異的なパラメータである)におけるパラメータaを考慮し、K0からの逸脱の効果について項目を加えることによって外来性ビタミンKの効果を含む。従って、以下のようになる:
log(INR−1)=bw−a−clog(K/K0) (4)
【0058】
従って、方程式(2)における最適用量wの値は、患者が、患者特異的なパラメータK0として定義される、ビタミンKの普通の摂取を有するという条件で、目標INRを得るであろう用量である。
【0059】
方程式(4)に基づいて、ワルファリンの固定用量について(どんなに大きくても)、ビタミンKの相当する用量はINRが1.0に近づくように見つけられ得ることを主張し得ることが十分に理解されるべきである。方程式(4)がそのような主張に数学的に一致する一方で、ビタミンKの適切な用量は、方程式(4)がワルファリンをKの対数に線形に連結させるのでワルファリンの用量が増えるにつれて指数的に増大することに留意すべきである。実際、そのような計算は、有意なリスクで患者を運び出さない、又は少なくとも患者を有意なリスクに置く可能性がある。
【0060】
そのような仮説上の限界を克服するには、項目「bw」を項目「log(1+bw)」で置き換え得ることが熟考される。そのようなシナリオでは、wが普通の臨床用量の範囲内である場合、結果は方程式(4)によって密接して近似され、改変された式を方程式(4)における式とほとんど区別できないようにする。その結果、項目「bw」と項目「log(1+bw)」は本明細書では相互交換可能に使用することができる(少なくとも、wの投与量が正常な臨床の範囲内である場合)ことが言及されるべきである。しかしながら、ほとんどの状況下では、項目「bw」は、そのような項目が日常の臨床応用を有意に単純化するので好まれる。
【0061】
その上さらに、ビタミンKの摂取が考慮に入れられる場合、方程式(3)は以下のように定式化することができることが十分に理解されるべきである。
log(INR−1)=log(I−I)+b(w−w)−clog(K/K0) (5)
【0062】
患者特異的なパラメータcは、たとえば、最大公算法又は最小二乗法のような常法によって推定される。文献データに由来する平均値は0.43である。K0を決定するのは難しいので、医師はワルファリンに加えてビタミンKの補完を試みて、方程式(5)を用いてc及びK0の双方を推定してもよい。たとえば、ワルファリンのみの現在の用量で維持される場合、患者が3.2のINRを有し、ビタミンKの100μgの1日補完の1週間後INRが2.65であり、200μgの1日補完の1週間後INRが2.4であることが想定される。ワルファリンのみと2つの補完との間の方程式(5)における差異は、clog(1+100/K0)=0.288及びclog(1+200/K0)=0.452を示す。反復法は、c=0.394とK0=93.15μgのビタミンKという解を与える。その結果、153μgの1日補完は、ワルファリンの用量を変えることなく、この患者について2.5の目標INRをもたらすはずである。
【0063】
ビタミンKの有効な1日総摂取は、ビタミンK1の安定化へのハーフタイムが約1.6日であると推定されることを除いて、ワルファリンの有効な用量と同様の方法にて患者の既往歴から算出される。ここで開示される方法を用いて、ビタミンKの補完投与に続いてINRを測定することによって患者のK0の正確な評価に達することができる。
【0064】
ビタミンKについてのこの用量反応曲線のパラメータは、合成ビタミンK錠剤の使用に基づく公表されたデータに主として由来する。そのような公表された研究では、ビタミンKの1日平均摂取は、対象の食事中55μgと測定された。ここで我々は図9におけるこれらのデータへの方程式(4)の適合を示すが、それは、ビタミンKの総摂取(用量)の関数としての測定されたINR(効果)を示すので、データが予測された線形関係を有することを示すためにINRが変換されることを除いて真の用量反応曲線である。ここで、合成ビタミンKの1日用量によって補完された標準食(およそ55μg/日)からビタミンKは得られた。点線は適合させた用量効果曲線である。有効なビタミンKの総摂取は、投与の効果が3日間にわたって広がることを想定する。用量はINRが測定される前、各月曜日に増やした;従って火曜日のINRは増加などの後1日だった。
【0065】
文献で利用できるデータは、予想されたように、ビタミンKの1日摂取の標準偏差が平均摂取に比例することを示している。その結果、log(K)の標準偏差はK0とは無関係であろう。もし、Kが比率r<1によってK0を超えて増大するので、K=(1+r)K0であれば、方程式(5)はおよそcrのlog(INR−1)において増加があるだろうことを示す。従って、摂取の昼間の変動によって誘導されるlog(INR−1)におけるこの変動は、時間において大まかに一定であり、平均摂取とは無関係である。従って、INRの変動の特定の比率は、単に無作為な食事因子によるものであり、ビタミンK含量が固定される食事なしでは低下させることはできない。
【0066】
ビタミンKの1日の食事からの平均摂取の推定値は、季節、地理的位置、推定の方法、及び当該個体の特徴によってかなり異なる。栄養目的にて米国で推奨される量は90〜120μg/日である。ブラジルでは、3日間にわたる1日摂取は118μg/日であると報告された。オランダでは、7日間にわたる平均が54μg/日であり、32〜101μg/日の範囲だった。北部イングランドでは、INRの測定に先行する4日間の平均が47μg/日であり、7〜377μg/日の範囲だったが、28日間の平均は76μg/日と顕著に高く、18〜211μg/日の範囲だった。これらの摂取の実際の生体利用効率は、合成ビタミンKからのそれの小さな分画であることに留意すること。
【0067】
従って、ビタミンK摂取の変動は、INRに対して2つの識別可能な効果を有することを期待することができる:(a)平均摂取からの一時的な逸脱による短期間の変動、及び(b)食事Kの季節的利用性のようなことに応答した平均摂取の浮動としての長期間の傾向。ここで我々はまた、投与形態間の段階が大きい、特に低用量ワルファリンの患者において有効な用量を可能にしてさらに密接に最適用量に近づくためにワルファリンの投与量を調整するためのビタミンKの日常的な使用も企図する。
【0068】
w1>wが医師によって選択されたワルファリンの投与形態であるのなら、そのとき、
r=exp[b(w1−w)/c]−1 (6)となるようにビタミンKの補完1日量rK0によって目標INRを得ることができる。
【0069】
ビタミンKとビタミンK拮抗剤の併用は、WO01/37818A3(作動薬と固定用量の拮抗剤の同時適用によって改善された投薬法)にてBertlingらによって報告された。しかしながら、Bertlingらは、ここで示されるような、作動薬と拮抗剤の相対的な投与量を計算する好適な方法を開示できなかったし、示唆することさえできなかった。投与されるビタミンKの量は少なく、単にそれを使用して最適用量を微調整し、ワルファリンの利用できる投与形態にそれを近づける。1日当たり250μg未満の量のビタミンKで十分である。
【0070】
その結果、本明細書で提示される用量反応関係を採用して、患者において適当な投与量を算出してもよいことが十分に理解されるべきである。さらに具体的には、患者自身のデータを使用してワルファリンに対するその応答を特徴付ける3つのパラメータ:安定化へのハーフタイムと、用量反応曲線の2つのパラメータwとbとを計算することができる。困難な症例では、医師は、ビタミンKの外来性投与のINRに対する効果に追随することによって、追加のパラメータとしてK0及びcを計算することを望んでもよい。
【0071】
安定化へのハーフタイム、又は時間的ズレは、一部の特定の波形で用量が変化し、相当する波形が応答に位置し得る場合のみ推定することができる。従って、入力波形は十分な振幅を有して出力にてそれ自体を再生しなければならない。症例の大半では、経験のない患者でワルファリン治療を開始する場合、医師は最初のINR測定に対応して用量を操作しなければならないので、データはすでに十分である。すでに上記で言及したように、新しい患者が安定化への一般的な平均的ハーフタイムを有することを想定することによって早期のしかし頻繁な臨床的に有用な、最適用量の推定値を実際、得ることができる。そのような推定値は、用量に対して逆相の修正を行う一部の医師の傾向を減らすのに役立つ。患者がワルファリンに対して一般的な平均的な感受性を有するというさらなる想定に基づいた非常に早期の推定値も有用であることが分かっている。用量の効果が患者の既往歴から推定できない場合、応答のパラメータを得るために医師は故意に全身性に用量を変化させるべきである。用量反応パラメータの適合を改善するために誘導された変動を用い、次いで得られたINRを治療域内に調整するための用量反応アルゴリズムを用いた、抗凝固剤の一時的な過剰投与及び過少投与を故意に導入するこの方法がここで開示される。いったん、用量反応関数の時間的ズレとパラメータが推定されると、適切なレベルでの患者の安定化は有意に容易であることが十分に理解されるべきである。
【0072】
さらに、本明細書で提示されるアルゴリズムの適当なコンピュータプログラム、表、マトリクス又はそのほかの手段への変換は、当該技術で周知の方法を用いて行うことができる。最も通常では、プログラム又はそのほかのツールは、患者のINRの成績及び投与量の前歴から3つのパラメータを引き出す。次いでプログラムは、目標とされるINR値についての最適用量を決定すると共に、新しい値でINRが安定化するにつれて新しい用量での連続する日々におけるINRを予測する。プログラムはまた、所望のINRレベルを得るのに好適なワルファリンとビタミンKの併用最適用量も計算してもよく、又は代わりに平均して最適用量になる一連の標準投与形態を計算してもよい。最終的に、兆候を示すと判断される高い可動域のINRの症例では、K0及びcが決定されている、及びさもなければ平均値を使用する患者について、プログラムはINRを安全に目標に下げるのに十分なVKの用量を提案することができる。
【0073】
従って、患者において抗凝固療法を助力する方法は、凝固計算機を提供する工程と、ロジット(1/INR)=−log(INR−1)を従属変数として用いる計算操作を実行し、計算操作に基づいた結果を生成する凝固計算機を構成するさらなる工程とを含む。さらに別の工程では、凝固計算機は計算操作の結果を提示できるように構成される。その結果、及び異なった観点から見ると、プロセッサに機能的に連結された記憶要素と、入力モジュール(たとえば、キーボード、音声テキスト変換機、グラフィカルユーザーインターフェースにおけるマウス/画面など)と、出力モジュール(たとえば、画面、プリンター、数字/英数字の表示部)とを含み、記憶要素がソフトウエアの指示を保存してロジット(1/INR)=−log(INR−1)を従属変数として用いる計算操作を実行する凝固計算機が企図される。最も通常では、プロセッサは、ソフトウエアの指示を実行するので結果を生成するように構成され、その際、出力モジュールは結果を提示できるように構成される。
【0074】
本発明の主題の態様が凝固計算機の文脈で議論される一方で、サービス、インターフェース、システム、データベース又は個々に若しくはまとめて操作するそのほか種類の計算装置を含む種々のそのほかの計算装置も適当であると判断されることがさらに十分に理解されるべきである。計算装置がコンピュータの読み出し保存媒体(たとえば、ハードドライブ、RAM、フラッシュ、ROMなど)に保存されたソフトウエア指示を実行するように構成されたプロセッサを含むことも十分に理解すべきである。ソフトウエアの指示は好ましくは、特定の装置に関して議論されるような役割、責務又はそのほかの機能性を提供するための計算装置を構成する。特に好ましい実施態様では、種々のサービス、システム、データベース又はインターフェースが、多分HTTP,HTTPS、AES、公的−私的なキー交換、ウエブサービスAPIs、既知の金融取引プロトコール、又はそのほかの電子情報交換法に基づいた標準化されたプロトコール又はアルゴリズムを用いてデータを交換する。データ交換は好ましくは、パケット交換ネットワーク、インターネット、LAN、WAN、VPN、又はそのほかの種類のパケット交換ネットワークを通じて行われるが、その一部には、ワイヤレスのデータ転送が含まれてもよい。
【0075】
INRの可動域の解釈に関して、不適当な投与によるINRにおける変動を説明することにおいて開示された関数の精度にもかかわらず、INRには未だ説明されない残りの変動があることが言及されるべきである。たとえば、中央値の相関は、患者の安定性と医師が用量を操作した程度に依存して、図1〜3の12人の患者について、計算された有効用量とINRの間ではr=0.69であり、その範囲はr=0.48〜r=0.91である。従って、INRの分散の17%〜77%の間が、用量反応関係のみでは説明されないままである。患者の前歴とINR−1のlog変換を用いて、今や患者についての標準偏差を計算し、有意である高い又は低いINR、又は偶然生じるINRの確率を評価することができる。現在の投与についてのアルゴリズムは、高い又は低い可動域すべてを、上手く無作為であってもよいINRの結果における潜在的に有意であり、推奨される用量変化とみなすので、これは若干重要である。
【0076】
有意である可動域の確率を評価するために変換された標準偏差を使用することもまた、高い及び低い可動域についての見込みのバランスを取ることがさらに十分に理解されるべきである。抗凝固の目標レベルを下回る可動域は、患者が凝固の危険にさらされているが、低いINR値もさらに低い標準偏差を有することを示す。従って、控えめであると思われる低い可動域は、非変換スケールでは危険であると思われるおよそ高い可動域である。1.8の平均INRを持つ患者は、3.2の平均INRを持つ患者より顕著に頻度の低い2.0〜3.0の治療域内にあるだろう。これは、INR=1.8での標準偏差がINR=3.2での標準偏差より小さいからである。これらのINRが治療域から同等の距離であると考える医師の患者は、治療のポイントがこれらのリスクのバランスを取ることにある場合、出血よりも血栓塞栓症の大きなリスクにあるだろう。これが真の問題であるということは、患者は治療域の上よりも下にあることが多く、潜在的結末が容易に明らかであることを報告している幾つかの論文によって確認される。
【0077】
実用化では、測定された高い又は低いINRが、臨床家に知らせる変換された標準偏差に基づいた確率に割り振られ得る。特定の患者の既往歴に基づいた、無作為な事象である可動域の比率見込みが、別の回の変動を始動することができる即時の用量変更ではなく、後で測定を繰り返すことのような保存的反応を可能にするであろう。可動域が単に無作為でありそうにない場合、医師は、前週の間、処方された投与計画によって患者が持ちこたえたかどうかを調べ、薬剤の相互作用を検討し、ビタミンKの食事摂取が前の2日間正常量から逸脱したかどうかを調べるように催促されるであろう。
【0078】
用量反応関係を用いた長期の患者データの解析によって、何週間及び何ヵ月にもわたってINR値の上昇及び低下を招くパラメータa及びその結果として、また、wにおける以前報告されていなかった周期的な変動が明らかにされた。一部の患者では、この周期的な変動は平均INRの20%に達してもよい。季節に続く年間の成分があってもよく、それはビタミンKが豊富な産物の利用性を反映してもよい。ワルファリン若しくはビタミンKのいずれか又はその双方の投与量を調整することによって周期的な変動を検出し、治療するための規則的なINRの試験と併せたアルゴリズムの使用がここで企図される。
【0079】
本発明の主題のさらに熟考された態様では、高い頻度の交替を採用して最適用量を達成してもよいことが十分に理解されるべきである。最適な投与量は市販されない中間的な値であることが多い。たとえば、クマリン系ワルファリンは、1、2、2.5、3、4、5、6、7.5及び10mgを記録する錠剤で利用可能である。算出された最適用量は、これらの投与形態を組み合わせることによっては利用できない分画の値であってもよい。この例では、最適用量の良好な近似は、1日投与量を替えることによって得ることができる。たとえば、1.25mg/日の平均投与量は、3つの1mg、次いで2mgを繰り返し順で服用することによって得ることができる。ほかの最適投与量は同様に計算することができる。提案された投与量における変動は上記で見られる変動よりもはるかに高い頻度を有し、応答は安定化するのに14日間を必要とするので、そのような戦略によってINRに変動は誘導されない。市販の錠剤は最適用量に十分に近くないことが多いので、用量調整のこの高頻度法を用いて、ここで開示されるアルゴリズムによって計算された最適のものに近い有効な用量を提供することができる。従って、この代替シリーズの適当な錠剤を決定し、服用することにおいて患者を助ける装置が熟考され、たとえば、適当な丸薬を順に分配するプログラム可能な丸薬分配器、又は同様の機能を実行するプログラム可能な時計又はコンピュータ若しくは携帯電話用のプログラムがすべてここで熟考される。平均として最適用量に調整された順次日を伴った、まさに丸薬箱がこの目的を達成するであろう。
【0080】
本明細書の発明の概念から逸脱することなく、すでに記載されたものに加えて多数のさらなる改変が可能であることは当業者に明らかであるはずである。従って、本発明の主題は、添付の特許請求の範囲の精神におけるものを除いて制約されるべきではない。さらに明細書及び特許請求の範囲を解釈することにおいて、あらゆる用語は文脈に一致してできる限り広く解釈されるべきである。特に、用語「含む」及び「含むこと」は、非排他的様式にて要素、成分又は工程を指すとして解釈されるべきであり、参照された要素、成分又は工程は存在してもよく、利用されてもよく、又は明らかに参照されていない要素、成分又は工程と組み合わせられてもよいことを示す。明細書、特許請求の範囲が、A、B、C,・・・及びNから成る群から選択される少なくとも1つを指す場合、本文はA+N又はB+Nなどではない群からのたった1つの要素を必要とするとして解釈されるべきである。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における抗凝固療法にて薬剤のINR又は望ましい投与量を予測する方法であって、
凝固計算機を提供することと、
ロジット(1/INR)=−log(INR−1)を従属変数として用いる計算操作を実行し、計算操作に基づいた結果を生成するように凝固計算機を構成すること、
計算操作の結果を提示できるように凝固計算機をさらに構成することとを含み
hが0〜1の間を含む方法。
【請求項2】
計算操作が、所望のINR値を達成するための抗凝固剤の目標投与量の計算である請求項1の方法。
【請求項3】
抗凝固剤の目標投与量が方程式(I):
log(INR−1)=log(I−1)+b(w−w) (I)
に従って算出され、
式中、INRは患者で測定されたINRであり、Iは患者にとって所望のINRであり、bは抗凝固剤に対する患者特異的な応答を記載する患者特異的な定数であり、wは目標投与量であり、wは抗凝固剤の有効用量である請求項2の方法。
【請求項4】
患者がワルファリンの同一1日用量w’を長く服用しているので有効用量がwに等しい請求項3の方法。
【請求項5】
wが患者の投与量の前歴から推定される請求項3の方法。
【請求項6】
bがwの値及び患者の相当するINRから推定される請求項3の方法。
【請求項7】
抗凝固剤の目標投与量が方程式(II):
log(INR−1)=log(I−1)+b(w−w)−clog(K/K0) (II)
に従って算出され、
式中、INRは患者で測定されたINRであり、Iは患者にとって所望のINRであり、bは抗凝固剤に対する患者特異的な応答を記載する患者特異的な定数であり、wは目標投与量であり、wは抗凝固剤の有効用量であり、cは患者特異的なパラメータであり、Kは患者によるビタミンKの有効な取り込みであり、K0は患者によるビタミンKの平均の取り込みである請求項2の方法。
【請求項8】
所望のINR値を達成するためにビタミンKの補完取り込みを算出する工程をさらに含む請求項7の方法。
【請求項9】
補完取り込みrK0が方程式(III):
r=exp[b(w1−w)/c]−1 (III)
に従って算出され、
式中、w1は目標投与量より多い抗凝固剤の投与量である請求項8の方法。
【請求項10】
抗凝固療法が患者で開始され、抗凝固剤の目標投与量の計算が、方程式(IV):
=w−(1/b)log[(INR−1))(I−1)] (IV)
に従って算出され、
式中、INRは患者で測定された最初のINR値であり、Iは患者にとって所望のINRであり、bは患者の既知の特徴に適用可能な抗凝固剤への感受性の演繹的な値であり、wは目標投与量であり、wは患者の既知の特徴に適用可能な安定化ハーフタイムの演繹的な値に基づいた有効用量である請求項2の方法。
【請求項11】
凝固計算機であって、プロセッサに機能的に連結された記憶要素と、入力モジュールと出力モジュールとを含み、
記憶要素が、ロジット(1/INR)=−log(INR−1)を従属変数として用いる計算操作を実行するソフトウエアの指示を保存し、その際、hは0〜1の間を含み、
ソフトウエアの指示が、計算操作を用いて、患者における抗凝固療法での薬剤のINR又は望ましい投与量の予測を可能にし、
プロセッサがソフトウエアの指示を実行するので結果を生成するように構成され、
出力モジュールが、結果を提示できるように構成される凝固計算機。
【請求項12】
計算操作が、所望のINR値を達成するための抗凝固剤の目標投与量の計算である請求項11の凝固計算機。
【請求項13】
抗凝固剤の目標投与量が方程式(I):
log(INR−1)=log(I−1)+b(w−w) (I)
に従って算出され、
式中、INRは患者で測定されたINRであり、Iは患者にとって所望のINRであり、bは抗凝固剤に対する患者特異的な応答を記載する患者特異的な定数であり、wは目標投与量であり、wは抗凝固剤の有効用量である請求項12の凝固計算機。
【請求項14】
抗凝固剤の目標投与量が方程式(II):
log(INR−1)=log(I−1)+b(w−w)−clog(K/K0) (II)
に従って算出され、
式中、INRは患者で測定されたINRであり、Iは患者にとって所望のINRであり、bは抗凝固剤に対する患者特異的な応答を記載する患者特異的な定数であり、wは目標投与量であり、wは抗凝固剤の有効用量であり、cは患者特異的なパラメータであり、Kは患者によるビタミンKの有効な取り込みであり、K0は患者によるビタミンKの平均の取り込みである請求項12の凝固計算機。
【請求項15】
抗凝固療法が患者で開始され、抗凝固剤の目標投与量の計算が、方程式(IV):
=w−(1/b)log[(INR−1))(I−1)] (IV)
に従って算出され、
式中、INRは患者で測定された最初のINRであり、Iは患者にとって所望のINRであり、bは患者の既知の特徴に適用可能な抗凝固剤への感受性の演繹的な値であり、wは目標投与量であり、wは患者の既知の特徴に適用可能な安定化ハーフタイムの演繹的な値に基づいた有効用量である請求項12の凝固計算機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−505910(P2012−505910A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532239(P2011−532239)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際出願番号】PCT/US2009/060778
【国際公開番号】WO2010/048020
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(511093166)エピトム ファーマシューティカルズ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】