説明

処理液の浄化装置及び浄化方法

【課題】 水中に含まれるバクテリアや藻などの有機物を処理する浄化装置において、確実に処理して浄化することができ、また比較的安価に構成できるようにする。
【解決手段】 水洗槽1から処理管路10を通して取り出した処理液を浄化するための電解処理装置11を設け、この電解処理装置11として、上流側のガードセル20と下流側の電解セル21を設ける。そして各セル20、21の内部に、白金被膜チタンの多孔質板からなる陽極板23と陰極板24を設け、これら陽極板23と陰極板24との間にスルホン酸型の強酸性陽イオン交換樹脂25を介装し、各セル20、21を通過する処理液に含まれるバクテリアや藻などの有機物を分解処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車生産ラインにおいて塗装工程前に行われる前処理工程の処理液の浄化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の生産ラインにおける塗装工程では、防錆目的で塗装する電着塗装の車体に対する塗着性を向上させるため、電着塗装前に車体に対して前処理が行われる。この前処理においては、車体を水洗いすることで車体表面に付着する異物を除去するようにされ、通常、大量の洗浄水が入った多数の水洗槽に車体を没入させるか、或いは車体に高圧洗浄水を吹き付けることにより行われる。また、この大量の洗浄水は、コストや環境の観点から水洗槽内の洗浄水を槽外に引き出した循環管路を通して常時循環させることで行われ、車体から取り除かれた異物等を槽外の循環管路に配置したフィルタなどにより除去するのが一般的である。
【0003】
ところで、このような閉ループによって長期間水洗水を循環させていると、水洗水内にバクテリアや藻などが繁殖し、この繁殖したバクテリアや藻などが水洗工程で車体に付着するようになり、その上から電着塗装が行われると、電着塗装が乾燥した後、ゴミ不良になるという不具合があった。これを防止するため、網目の比較的密なフィルタを使用したりするとコスト高になり、しかも確実に除去することが難しかった。そこで、異物を確実に除去するため、更に網目の密なフィルタを使用すると、直ぐに目詰まりし、交換頻度が増して一層コスト高を招くという問題があった。そこで、塩素を使用して殺菌することも考えられたが、使用を長期間継続すると、バクテリアや藻などが耐性を有するようになり、殺菌効果が減少するとともに、環境に与える影響も懸念されていた。
そこで、流路の途中に紫外線消毒装置を配設し、紫外線消毒装置内に流入した被処理水に紫外線ランプにより紫外線を照射し、藻や微生物などを死滅させるような技術が開示されている。(例えば、特許文献1参照。)
また、工場廃水の流路の途中に流動槽や酸素供給ラインを配設し、流動槽内に流入した被処理水に酸素を溶存させ、これに向けて紫外線ランプによって紫外線を照射することで酸素をオゾンに変換すると同時に、ヒドロキシルラジカルを発生させ、被処理水中の不要な有機物を分解させる技術も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−220042号公報
【特許文献2】特開2010−227842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1や特許文献2のように紫外線ランプによって紫外線を照射する技術は、紫外線ランプの照射範囲が狭く、効率的に有機物を死滅させるためには多数のランプが必要となるため設備が大型化すると同時にコスト高になるという不具合があった。
また、有機物の死滅率は紫外線の照射時間に比例するため、例えば、被処理水が常時循環しているような環境下で使用される場合には、照射時間に制約を受け、確実に無害化することが困難であるという問題もあった。
【0006】
そこで本発明は、バクテリアや藻などの有機物を確実に処理して除去することができ、また設備コストが高騰化することのない浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、処理すべき処理液を処理管路を通して処理槽から取り出した後、この処理液を電解処理装置で処理し、処理した処理液を再び処理管路を通して前記処理槽内に戻すようにした処理液の浄化装置において、前記電解処理装置を、白金被膜チタンの多孔質板からなる陰極および陽極と、これら陰極と陽極間に介装されるスルホン酸型の強酸性陽イオン交換樹脂とにより構成される電極部を内装する電解セルと、前記電極部に電気を供給する電源ユニットから構成するようにした。
【0008】
このような白金被膜チタンの多孔質板からなる陰極および陽極と、これら陰極と陽極間に介装されるスルホン酸型の強酸性陽イオン交換樹脂からなる電極部によって電解処理することにより、両極間に電圧を印加した際にイオン交換樹脂が電解質として作用するようになり、導電率の低い水洗水でも電気分解が効率的に行われて、陰極側では水素が発生すると同時に、陽極側では酸素やオゾンや酸化分解能力の高いヒドロキシルラジカル(OHラジカル)が発生し、バクテリアや藻などの微生物の細胞膜または細胞壁が酸化分解されて微生物等を死滅処理したり分解処理したりすることができる。
また、白金被膜チタンの多孔質板からなる陰極と陽極を使用することにより、水を電解する際のオゾンやヒドロキシルラジカルなどの生成量を増やすことができ、処理効率を高めることができる。
【0009】
また本発明では、前記電解処理装置における電解セルを、前記処理管路に沿って少なくとも二個直列に配置するようにした。
このように電解セルを直列に二個配置することで、特に、下流側の電解セルの電極部の経年劣化による処理能力の低下を抑制することができ、短期的にメンテナンスする場合は、上流側の電解セルだけのメンテナンスで済むようになる。
【0010】
また本発明では、前記電解処理装置より上流側の処理管路に循環処理槽を配設し、前記電解セルから発生するガスを、配管を通して循環処理槽内の処理液中に放出するようにした。
そして、電解処理装置で発生する酸素やオゾンやヒドロキシルラジカルによって電解処理装置の処理液中の微生物等を処理するとともに、これら酸素やオゾンや水素等のガスを水洗水から分離して収集し、これを上流側の循環処理槽に送り込んで処理液中に放出し、気泡をバブリングすることにより、上流側の循環処理槽の処理液中のバクテリアや藻等の微生物を処理するようにすれば、一層効率的に微生物等を死滅処理したり分解処理したりすることができる。
【0011】
また、本発明では、前記電解処理装置より上流側の処理管路にフィルタ装置を配設するようにした。
そして、循環処理槽や電解処理装置で死滅した微生物等の残骸の一部をフィルタ装置で除去する。
【発明の効果】
【0012】
電解処理装置で処理液を処理するような処理液の浄化装置において、電解処理装置として、電解セルに内装される電極部を、白金被膜チタンの多孔質板からなる陰極および陽極と、これら陰極と陽極間に介装されるスルホン酸型の強酸性陽イオン交換樹脂から構成することで、バクテリアや藻などの微生物の死滅処理や分解処理等を効率的に行うことができる。この際、複数の電解セルを処理管路に沿って直列に配列することで、メンテナンスの容易化等を図ることができ、電解処理装置の上流側に循環処理槽を設け、電解セルから発生するガスを洗浄液中に放出すれば、一層効率良く微生物等を処理できる。また、更にその上流側の処理管路にフィルタ装置を配設すれば、処理液中で死滅した微生物等を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る浄化装置を水洗槽に配設した状態を示す概略図である。
【図2】電解処理装置に使用される電極部の構造を示し、(a)は分解図、(b)は組立図である。
【図3】電極部の電気回路を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。
本発明に係る処理液の浄化装置は、例えば、自動車車体の電着塗装前の前処理工程に設置される水洗槽において、バクテリアや藻などの有機物を確実に処理して除去することができ、また比較的安価に構成できる浄化装置を提供できるようにされている。
【0015】
すなわち、図1に示すように、水洗槽1は、上方に敷設される搬送コンベア2の下方に配置され、搬送コンベア2に吊り下げられて搬送される搬送ハンガ3には、車体Wが搭載可能とされ、この車体Wは、搬送中に水洗槽1の水洗水中に浸漬されて、車体表面に付着する異物が除去されるように構成されている。
【0016】
そして、この水洗槽1中の水洗水は、車体入槽側1aから循環管路4を通してポンプ5により槽外に引き出され、フィルタ6によって異物が除去された後、再び車体出槽側1bから水洗槽1内に戻されるよう構成され、車体表面から除去された異物は、循環管路4のフィルタ6で捕捉されるようになっている。
【0017】
そして、この水洗槽1で洗浄されて前処理された車体Wは、下流の電着塗装工程に移送されて電着塗装が行われるが、水洗槽1で長期間水洗水を循環させていると、水洗水中にバクテリアや藻などが繁殖し、繁殖したバクテリアなどが車体に付着したまま電着塗装が行われると、乾燥後にゴミ不良となる不具合が生じることについては前述の通りである。
【0018】
そこで、本発明では、水洗水中に発生するバクテリアや藻などの微生物を電気化学的な手法で処理するようにし、水洗槽1から引き出した洗浄液としての水洗水を処理管路10を通して電解処理装置11に送り込んで処理し、処理した水洗水を、車体出槽側1bに配設されるシャワー装置12に送り込むようにしている。そして、シャワー装置12から吹き出された水洗水は再び水洗槽1内に流れ込むようにされている。
【0019】
処理管路10には、その上流から下流に向けて、フィルタ装置としての前処理装置13、ポンプ14、循環処理槽15、電解処理装置11、ポンプ16、貯水槽17、ポンプ18が順番に配置されている。
【0020】
前記前処理装置13は、内部にフィルタが装着され、水洗水内の異物(繁殖しているバクテリアや藻などの微生物および後述する要領により電解処理装置11で処理されたバクテリアや藻などの微生物の死骸の一部など)をフィルタの網目により除去できるようにされている。
そして、フィルタによって濾過された水洗水は、循環処理槽15に貯留されるが、循環処理槽15については後述する。
【0021】
前記電解処理装置11は、上流側の電解セルとしてのガードセル20と下流側の電解セル21から構成されている。そして、ガードセル20と電解セル21の内部には、いずれも以下に述べる電極部22が内装されている。
【0022】
ガードセル20内に内装される電極部22は、図2に示すように、白金被膜チタンの多孔質板より構成される陽極板23と陰極板24、およびこれら陽極板23と陰極板24との間に配設されるイオン交換膜としてのスルフォン酸型の強酸性陽イオン交換樹脂25から構成されており、イオン交換膜としてのスルフォン酸型の強酸性陽イオン交換樹脂25が電解質として作用することで、導電率の低い水洗水でも電気分解可能にされている。
なお、このスルフォン酸型の強酸性陽イオン交換樹脂25としては、例えばフッ素樹脂系の商品名ナフィオン(デュポン社登録商標)が耐久性の観点などから好適である。
【0023】
そして、両極板23、24間に電圧が印加されると、陰極板24側では水素が発生すると同時に、陽極板23側では酸素とオゾンと酸化分解能力の高いヒドロキシルラジカル(OHラジカル)が発生し、オゾンとヒドロキシルラジカルの作用によってバクテリアや藻などの微生物の細胞膜や細胞壁が壊されて微生物が死滅処理または分解処理されるが、この際、陽極板23と陰極板24を白金被膜チタンの多孔質板とすることにより、オゾンやヒドロキシルラジカルの生成量を増やすことができ、より効率的に処理できる。
なお、図3にも示すように、電解セル21では、ガードセル20と同じ構成の電極部22を複数配設し、これらガードセル20や電解セル21内の各電極部22の極板23、24には、並列に電源ユニット26が接続されている。
【0024】
このような電極部22の作用のもとに、図1に示すように、循環処理槽15内に貯留された水洗水は、まずガードセル20内に流入し、水洗水内で繁殖しているバクテリアや藻などの微生物が処理される。
次いで、この水洗水は電解セル21に導入され、この電解セル21内では、更に水洗水内で繁殖しているバクテリアや藻などの微生物を処理する。
【0025】
この際、電解セル21の上流側にガードセル20を配設しているため、電解セル21が水洗水内の異物に直接晒されることによる経年劣化を抑制して処理能力の低下を防ぐことができ、また短期的なメンテナンスはガードセル20だけで対応できるという利点がある。
【0026】
ここで、ガードセル20と電解セル21において電気分解によって発生する酸素やオゾンや水素などのガスは、水洗水から分離されて収集され、図1に示すようなガス配管27によって上流側の循環処理槽15内に送られる。
【0027】
循環処理槽15では、ガス配管27により送られた酸素やオゾンや水素などのガスが水洗水中に放出される。すると、水洗水はオゾンなどを含有するガスの気泡によりバブリングされ、循環処理槽15内でもバクテリアや藻などが処理される。そして、水洗水から分離したガスは、循環処理槽15から外部の大気に放出される。
【0028】
以上のような構成によって、本装置では、循環処理槽15、ガードセル20、電解セル21の三箇所でオゾン等によってバクテリアや藻などの微生物を処理することができる。
【0029】
電解処理装置11で処理された水洗水は、下流側の貯留槽17に送り込まれる。そして、貯留槽17で貯留されている間、水洗水中に存在するガスが水洗水中から分離し、貯留槽17から大気に放出されるが、ガスが放出されるまでの間、貯留槽17内の水洗水中に存在するバクテリアや藻などの微生物は継続して処理されるため、これらの含有率は確実に低減する。
【0030】
そして、貯留槽17内の水洗水はシャワー装置12を経由して水洗槽1に戻される。
【0031】
以上のような要領によって、電解処理装置11を有する処理管路10を常時作動させ、水洗水を循環させて処理することにより、水洗水中に含まれるバクテリアや藻などの微生物の含有率を低いレベルに抑えることができ、電着塗装後のゴミ不良等を確実に低減させることができる。しかも、比較的安価に構成することができる。
【0032】
なお、本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。
例えば、上記実施例では処理液中の微生物の分解に適用した例を示したが、それ以外に、例えば処理液の脱色、脱臭、処理液中の有機化合物の分解によるCODの低減、アルカリ性処理液の中和、塗装工程におけるワークの脱脂処理などにも広い分野で適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
水洗水に含まれるバクテリアや藻などの有機物を確実に処理して除去することができ、また比較的安価に構成できるため、例えば自動車の電着塗装前の前処理工程などにおいて広い普及が期待される。
【符号の説明】
【0034】
1…水洗槽、10…処理管路、11…電解処理装置、15…循環処理槽、20…ガードセル、21…電解セル、22…電極部、23…陽極板、24…陰極板、25…強酸性陽イオン交換樹脂、26…電源ユニット、27…ガス配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理すべき処理液を処理管路を通して処理槽から取り出した後、この処理液を電解処理装置で処理し、処理した処理液を再び処理管路を通して前記処理槽内に戻すようにした処理液の浄化装置であって、前記電解処理装置は、白金被膜チタンの多孔質板からなる陰極および陽極と、これら陰極と陽極間に介装されるスルホン酸型の強酸性陽イオン交換樹脂とにより構成される電極部を内装する電解セルと、前記電極部に電気を供給する電源ユニットからなることを特徴とする処理液の浄化装置。
【請求項2】
前記電解処理装置における電解セルを、前記処理管路に沿って少なくとも二個直列に配置することを特徴とする請求項1に記載の処理液の浄化装置。
【請求項3】
前記電解処理装置より上流側の処理管路に循環処理槽を配設し、前記電解セルから発生するガスを、配管を通して循環処理槽内の処理液中に放出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の処理液の浄化装置。
【請求項4】
前記電解処理装置より上流側の処理管路にフィルタ装置を配設することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の処理液の浄化装置。
【請求項5】
処理すべき処理液を処理槽から取り出した後、フィルタ装置、循環処理槽、電解処理装置を順に経由させて処理し、処理した処理液を再び処理槽に戻すようにした処理液の浄化方法であって、前記電解処理装置において、少なくともオゾンとヒドロキシルラジカル(OHラジカル)を発生させて処理液中の微生物等を分解処理すると同時に、前記電解処理装置から放出されるオゾン等を含有する気体を前記循環処理槽に送り込み、この循環処理槽内の処理液中に放出することで処理液中の微生物等を分解処理し、これら分解処理された微生物等を前記フィルタ装置で除去することを特徴とする処理液の浄化方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−17941(P2013−17941A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152434(P2011−152434)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(501141769)株式会社industria (29)
【Fターム(参考)】