説明

凹凸形状構造の形成方法、及び凹凸形状構造を有する基板

【課題】高精度・高性能・高額な処理装置を使用しないで、かつ精細で複雑な処理工程を必要としないで、反射防止構造を有する凸形状構造又は凹形状構造を形成する方法を提供する。
【解決手段】基板上に球状粒子を配置し、前記球状粒子上に前記球状粒子とは異なる物質の膜を形成し、前記球状粒子及び前記膜をエッチングマスクとして基板のエッチング処理を行うことにより、基板表面に凹形状構造を形成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子表面に微細な凹凸構造を形成する処理方法に関し、特に光学素子の表面に反射防止効果を有する凹凸構造を形成するための表面処理方法、及び光学素子の表面に反射防止効果を有する凹凸構造を形成する転写型を作製するための表面処理方法、並びにそれによって得られた基板に関する。
【背景技術】
【0002】
光の反射現象は物質の境界部で発生することが知られている。物質の境界部には屈折率の境界部が存在し、境界部での屈折率の急激な変化が光波の反射を引き起こす原因であると考えられている。光学素子の表面は、光学素子基材と入射媒質(通常は空気)との境界部であり、光学素子基材と入射媒質とは異なる屈折率を有しており、すなわち、この境界部において屈折率が急激に変化するため、入射光はこの境界部(光学素子基材の表面)で反射する。透過光学系において光学素子の表面で光波の反射が起こると、透過光の量が減少することによる光の利用効率の低下や、反射光によるフレアやゴーストの発生等の光学系にとっての悪影響が生じる。従って、光学素子表面の反射率はできるだけ低いことが望ましく、光学素子表面には反射を防止する処理を施すのが一般的である。
【0003】
反射を防止する手法として最も一般的なのは、基板表面に反射防止膜を形成する手法である。基板表面に少なくとも1層の誘電体の薄膜を成膜し、入射媒質(空気)と膜との界面、膜と膜との界面、膜と基板との界面における反射光をそれぞれ干渉させることにより反射を低減する手法である。この手法は製造技術が確立しており、広く普及している。しかし、反射防止膜は干渉効果を利用して反射を低減しているため、反射を低減できる波長領域に制限があり(反射防止波長領域幅が狭い)、また、入射角度依存性が大きい(入射角度により特性が変化しやすい。反射を低減できる角度領域が狭い。)といった欠点を有する。
【0004】
反射を防止する別な手法として、反射防止構造を用いたものがある。基板表面に波長と同等又は波長より小さな周期(間隔)の凹凸構造を形成して、入射媒質(通常は空気)から基板にかけて連続的に見かけの屈折率を変化させることにより反射を低減させる方法である。反射防止構造は、反射率低減効果が非常に高くまた反射率低減効果の波長依存性、入射角依存性が少ないという利点を有する。
【0005】
入射媒質(通常は空気)から基板にかけて連続的に屈折率を変化させる代表的な形状として、円錐形状、角錐形状、半球形状、釣鐘型形状といった凸型の形状、及びそれらの逆パターンの凹形状が挙げられる。凸構造(又は凹構造)が適切な反射率低減効果を得るためには、その周期が光波の波長と同程度か又は波長よりも小さい必要がある。入射媒質が空気の場合、対象とする光波の波長をλ、基板の屈折率をnとしたとき、構造周期Λは、Λ≦λ/nという関係を満たす必要がある。対象となる光が可視光(400〜700 nm)の場合、必要となる凸構造(又は凹構造)の周期(間隔)は、数10 nm〜数100nmとなる。
【0006】
反射防止構造を効率よく形成する製造法としてレプリカ法がある。レプリカ法とは、所望の微細構造の逆パターンを有する転写型を作製し、この転写型を用いて、基板表面又は基板表面に塗布した転写材料に微細構造を転写する方法であり、反射防止構造を効率よく作製することができる。この手法で凸構造の反射防止構造を得るためには、凸形状の逆パターンである凹形状の構造を有する転写型が必要となる。反射防止構造を有する基板上に得るためには、当然のことながら構造周期が光波の波長と同程度か又は波長よりも小さい転写型を形成する必要がある。しかし、現在の加工技術では、このような微細な凹凸構造を形成するのが非常に難しいといった問題がある。
【0007】
以上のような背景から、基板表面に微細な凹凸構造を形成する加工法が求められており、様々な手法が検討されている。また、過去に種々の手法が提案されている。素子表面に凹凸構造を形成する場合、直接三次元の微細な凹凸構造を形成するのは技術的に難しいことから、まず素子表面に所望の周期及び形状の二次元パターンを作製し、そのパターンをエッチングマスクとして素子基板表面をエッチングすることにより、三次元的な微細な凹凸構造を形成する方法がとられる場合が多い。例えば、凹形状の構造を作製する場合は、凹形状が2次元的に配列したいわゆる、ホールアレイパターンのマスクが必要となる。可視光の場合、所望の凹凸構造の周期が数10 nm〜数100 nm程度と非常に小さいことから、それを実現可能な形成手法は限られ、高度な半導体作製技術を応用したものが主体となっている。
【0008】
特開2001-272505号(特許文献1)は、ドットアレイ状の金属をマスクとして基板をエッチング処理することにより、微細な錘形状を形成する表面処理方法を開示している。微細なドットアレイ状金属マスクを作製する際に、電子線リソグラフィー法やリフトオフ工程等の半導体製造技術を利用している。特開2001-272505号(特許文献1)には凸状構造を作製する例が記載されているが、電子線描画やフォトリソグラフィー法といった半導体製造応用技術を用いれば、微細な任意形状のパタニングが比較的容易にできるため、ドットアレイ状の逆パターンであるホールアレイパターンのマスクも容易に作製可能であり、ホールアレイ状マスクを用いて基板のエッチングを行えば、凹状構造の形成も可能である。
【0009】
しかしながら、特開2001-272505(特許文献1)に代表されるような、半導体作製技術を応用した手法の場合、一般的に以下のような問題点がある。
(i)高精度・高性能・高額な処理装置が必要である。
(ii)処理工程が精細で複雑である。
(iii)大きな面積の基板への加工が難しく、また長い加工時間が必要である。
(iv)曲面への加工が難しい。
半導体作製技術を応用すれば、所望の微細形状を得ることが可能であるにもかかわらず、以上のような制約から、微細な反射防止構造を有する光学材料の実用化、量産化及び低価格化の実現が困難となっている。
【0010】
特許第3069504号(特許文献2)には、基板上に分散配置した微粒子をマスクとして基板をエッチングし、基板上に円柱状又は円錐状の凸構造を形成する方法が記載されている。しかしながら、特許第3069504号(特許文献2)に記載の方法では、基板上への微粒子の配置がまばらであるため形成した凸構造は有効な反射防止構造とはならない。また、微粒子をエッチングマスクとして基板をエッチングする場合、形成される構造の形状は基本的には凸形状であり、凹形状の形成は原理的に不可能である。
【0011】
特開2005-331868号(特許文献3)には、基板上にドットアレイ状に球状粒子を配列させる工程と、前記粒子を選択的にエッチングすることにより前記粒子の間から基板の一部を露出させる粒子エッチング工程と、前記基板の露出した部分を選択的にエッチングする基板エッチング工程とを有し、前記粒子エッチング工程及び前記基板エッチング工程による処理を前記基板上に配列された前記粒子が消失するまで、交互に繰り返し行うことによって前記基板上にほぼ錘形状のパターンを形成することを特徴とする反射防止構造を有する光学素子の製造方法が記載されている。しかしながら、特開2005-331868号(特許文献3)に記載の方法は、第1反応ガスによる粒子エッチング処理と第2反応ガスによる基板エッチング処理との2種類のエッチングを交互に行う必要があり、煩雑で長い工程を有するため反射防止構造を形成する方法としてはコストがかかりすぎるといった問題があった。また、特許第3069504号(特許文献2)に記載の方法と同様、球状粒子をエッチングマスクとして、基板をエッチングして得られる構造の形状は、基本的には凸形状であり、凹形状の形成はできないといった問題がある。
【特許文献1】特開2001-272505号公報
【特許文献2】特許第3069504号公報
【特許文献3】特開2005-331868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、高精度・高性能・高額な処理装置を使用しないで、かつ精細で複雑な処理工程を必要としないで、反射防止効果を有する凹形状構造、又は反射防止構造を形成するための凹形状構造を有する転写型を形成する方法を提供することである。本発明の他の目的は、前記方法により得られた転写型を用いて、簡便でかつ安価に反射防止効果を有する凸形状構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、基板上に配列した球状粒子に金属等の膜を形成しエッチング処理することにより、球状粒子の頭頂部付近の膜が選択的にエッチングされ輪帯状構造が形成されること、形成された輪帯状構造をエッチングマスクとして、さらに球状粒子及び基板をエッチングすることにより、基板上に球状粒子の配列と同一周期の凹形状構造を形成できることを見出し、本発明に想到した。
【0014】
すなわち、基板表面に凹形状構造を形成する本発明の方法は、基板上に球状粒子を配置し、前記球状粒子上に前記球状粒子とは異なる物質の膜を形成し、前記球状粒子及び前記膜をエッチングマスクとして基板のエッチング処理を行うことを特徴とする。
【0015】
基板表面に凹形状構造を形成する本発明のもう一つの方法は、基板上に球状粒子を配置し、前記球状粒子の径を縮小する処理を行った後、前記球状粒子上に前記球状粒子とは異なる物質の膜を形成し、前記球状粒子及び前記膜をエッチングマスクとして基板のエッチング処理を行うことを特徴とする。
【0016】
前記膜のエッチングレートは前記球状粒子のエッチングレートより小さいのが好ましい。前記膜のエッチングレートが前記基板のエッチングレートより小さいのが好ましい。前記球状粒子のエッチングレートが前記基板のエッチングレート以上であるのが好ましい。
【0017】
前記球状粒子上に形成する物質が金属であるのが好ましい。前記金属がCr、Ni、Cu又はAlであるのが好ましい。前記基板が石英ガラスであるのが好ましい。前記球状粒子がシリカであるのが好ましい。
【0018】
前記球状粒子の配置は、前記基板表面に最密に充填するように単層を形成したものであるのが好ましい。
【0019】
前記凹形状構造は、平面上に隙間なく並べた正三角形の各頂点に凹形状を配置して得られる構造であるのが好ましい。
【0020】
前記エッチング処理法が、高速原子線(FAB)を照射するエッチング処理法であるのが好ましい。前記エッチング処理に用いるエッチングガス(反応性ガス)が、SF6であるのが好ましい。
【0021】
前記凹形状構造が反射防止構造であるのが好ましい。
【0022】
反射防止効果が得られる光波の波長をλ、基材の屈折率をnとしたとき、前記球状粒子の直径Rが、R≦λ/nであるのが好ましい。
【0023】
反射防止効果が得られる光波の波長をλ、基材の屈折率をnとしたとき、前記凸形状構造の周期Λが、Λ≦λ/nであるのが好ましい。
【0024】
本発明の凹形状構造を有する基板は、前記方法によって形成されたことを特徴とする。
【0025】
凸形状構造を形成する本発明の方法は、前記凹形状構造を転写型として基板表面に転写することにより形成することを特徴とする。
【0026】
本発明の凸形状構造を有する基板は、前記凹形状構造を転写型として形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の方法は、高精度・高性能・高額な処理装置を使用する必要がなく、かつ精細で複雑な処理工程を必要としないで、基板上に規則的に二次元配置した構造体を形成することができる。このため、反射防止構造を有する光学基材を効率よく安価に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
基板表面に凹形状構造を形成する本発明の方法は、基板上に球状粒子を配置する工程、前記球状粒子上に前記球状粒子とは異なる物質の膜を形成する工程、及び前記球状粒子及び前記膜をエッチングマスクとして基板をエッチング処理する工程からなる。
【0029】
基板表面に凹形状構造を形成する本発明のもう一つの方法は、前記球状粒子を配置する工程の後に、前記球状粒子の径を縮小する処理工程を有する。
【0030】
球体の自己組織化を利用することにより、二次元的に最密に充填された配置を簡単に形成することができる。このようにして得られる構造は、球状粒子の直径によってその周期を制御できるという利点を有している。基板上に規則的に配列させた球状粒子に、球状粒子とは異なる材料の膜を形成した後エッチング処理を行うことにより、球状粒子の頭頂部付近の膜が選択的にエッチングされ、輪帯状構造が形成される。この輪帯状構造をエッチングマスクとして、さらに球状粒子及び基板をエッチングすることにより、基板上に球状粒子により形成された配置と同一周期の凹形状構造を形成することができる。
【0031】
[1] 凹形状構造を形成する方法
(1)球状粒子を配置する工程
球体は、規則的かつ高密度に配列しようとする物理的性質があり、球状粒子が基板上に、単層で二次元的に配列した場合は最密に充填した配置をとることが知られている(自己組織化)。この性質を利用し、二次元的に最密に充填して配置した単層構造を形成することができる。同じサイズの球状粒子が、二次元的に最も安定で最密に配置される構造は、図1(a)及び(b)に示すように、1個の球状粒子の周りに6個の球状粒子が配置するように隙間なく並べた配置である。つまりこの配置は、球状粒子の直径に等しい長さの辺を有する正三角形を平面上に隙間なく並べたときに、各正三角形の頂点に球状粒子を配置して得られる。本願において、この配列を二次元最密充填配置と呼ぶ。この配置における基板上の球の密度から求めた、理想的な量の球状粒子分散液を基板上に塗布し分散媒を乾燥させることにより、球状粒子は自己組織的に二次元最密充填配置の規則的な単層構造をとる。球状粒子の供給が過剰であれば、球状粒子が重複して単層ではない箇所ができるし、球状粒子の供給が不足すれば、最密状態の単層にはならず疎な配置となる。
【0032】
球が最密に充填した配置の周期は球の直径と等しくなるため、所望の直径の球状粒子を選択することにより、容易に任意周期の周期構造を得ることができる。なお現在では、化学的手法を用いた球状粒子の製造プ口セスが確立しているため、数100 nm程度の粒径を有する粒子であれば、高度に制御された粒径及び単分散性を有する粒子を比較的容易に入手することができる。
【0033】
球状粒子としては、シリカ球、チタニア球、ポリスチレン球等を使用することができる。基板としては、ガラス、石英ガラス、結晶、樹脂等を使用することができ、特に石英ガラスが好ましい。基板として石英ガラスを使用したときにエッチングマスクとして使用する球状粒子としてはシリカ球好ましい。球状粒子の直径Rは、反射防止効果が得られる光波の波長をλ、基材の屈折率をnとしたとき、R≦λ/nであるのが好ましい。球状粒子の直径Rは、R≧50nmであるのが好ましい。球状粒子の直径Rをこの範囲にすることにより、波長λの波長の光の反射を効率よく防止することができる反射防止構造を基板上に形成することができる。
【0034】
基板上に最密に充填した状態で球状粒子を配置するには、ディップコート法を用いるのが有効である。ディップコート法とは、球状粒子を分散した分散液に基板を浸漬(ディップ)させ、その基板を引き上げることにより基板上に球状粒子を配置する方法である。ある濃度の分散液に浸漬した基板を一定速度で引き上げると、液と基板の表面張力により一定量の分散液が連続的に基板上に供給されるため、基板上に一定の量で球状粒子を供給することが可能である。引き上げ後に分散媒を乾燥して除去することにより、分散されていた球状粒子が基板上に配置される。分散媒を乾燥させる工程で、球状粒子は球状粒子間に働く液架橋力により集積化し、自己組織的に高密度に整列する性質を有する。
【0035】
一般的にディップコート法では、引き上げ速度を速くすると基板に塗布される液量が増加し、逆に引き上げ速度を遅くすると、基板に塗布される液量が減少する。よって、引き上げ速度を調節することにより、基板に配置される球状粒子の量を制御することができる。また分散液の濃度を高くすることにより、基板に配置される球状粒子の量を多くでき、逆に分散液の濃度を低くすることにより、基板に配置される球状粒子の量を少なくできる。従って、単層を形成するのに必要な量の球状粒子を一定に供給できるような、適切な分散液濃度と引き上げ速度を選択しディップコートを行うことにより、基板上に球状粒子を二次元最密充填配置させることができる。
【0036】
ディップコート法は、基板上に分散液を供給する工程と、分散媒を乾燥させて球状粒子を配列する工程とが基本的には独立した工程であるため、乾燥速度や球状粒子の沈降の影響を受けやすい後述の移流集積法よりも好ましい方法である。分散液を供給する工程においては、乾燥速度の影響を考慮しないで分散液濃度と引き上げ速度とを調節することにより球状粒子の塗布量が決まるため、条件(濃度と引き上げ速度の組み合わせ)の自由度が高く、処理速度も速い。処理中に球状粒子の沈降があまり発生しないため、安定した球状粒子配置が可能である。さらに、球状粒子の沈降を避けるために分散媒の比重より球状粒子の比重が小さくなるような組み合わせを選ぶ必要がなく、分散媒と球状粒子の選択自由度が高い。
【0037】
前記分散液中の前記球状粒子の濃度は1〜20質量%であるのが好ましく、5〜15質量%であるのがさらに好ましい。前記分散液中の前記球状粒子の濃度は0.5〜10体積%であるのが好ましく、1.5〜7体積%であるのがさらに好ましい。前記引き上げ速度は100〜20000μm/secであるのが好ましく、1000〜10000μm/secであるのがさらに好ましい。
【0038】
(2)膜を形成する工程
球状粒子上に球状粒子とは異なる物質の膜を形成し、後述のエッチング処理を施すと、球状粒子の頭頂部付近の膜が選択的にエッチングされ、膜物質からなる輪帯状構造を形成できる。球状粒子上に成膜する物質のエッチングレートは、前記球状粒子のエッチングレートより小さいのが好ましく、前記基板のエッチングレートより小さいのが好ましい。また、前記球状粒子のエッチングレートは前記基板のエッチングレート以上であるのが好ましい。具体的には、前記物質のエッチングレートは、前記球状粒子のエッチングレートの1〜50倍であるのが好ましく、前記基板のエッチングレートの1〜50倍であるのが好ましい。また前記球状粒子のエッチングレートは前記基板のエッチングレートの1〜10倍であるのが好ましい。前記物質は金属であるのが好ましく、Cr、Ni、Cu又はAlであるのがより好ましく、Cr又はNiであるのが特に好ましい。これらの物質の前記球状粒子上への形成は、従来からエッチングマスクの形成に用いられているスパッタ、蒸着、イオンプレーティング、CVD等の方法により行うことができる。
【0039】
(3) エッチング処理する工程
エッチング処理は、イオンビームエッチング、リアクティブイオンエッチング、高速原子線エッチング等の方法により行うことができる。特に、高速原子線(FAB)を照射するエッチング処理法を用いるのが好ましい。エッチング処理に用いるエッチングガス(反応性ガス)はSF6であるのが好ましい。基板のエッチング処理と膜のエッチング処理とは同じ方法で行ってもよいし、異なる方法で行っても良い。
【0040】
(4) 球状粒子の径を縮小する処理工程
球状粒子を基板上に配置(図3-1(a))した後に、図3-1(b)に示すように、エッチング処理等を行って球状粒子の径を縮小してから、球状粒子に膜を形成(図3-1(c))しても良い。球状粒子の径を縮小してから成膜を行うことにより、膜材料が球の周辺部にも堆積し、さらに膜材料が基板界面にも到達するため、その後のエッチング処理(図3-1(d)〜(j))で形成される輪帯状構造の太さ及び厚さが増加し、定着性が向上する。これにより、ホールアレイパターンマスクとしての性能が上がり、最終的に均整が取れた凹形状構造が得られ、凹形状を深くすることが可能になる。
【0041】
球状粒子の径を縮小する方法としては、前述のエッチング処理が挙げられる。球状粒子の径を縮小する処理は、基板をエッチングする処理と同じ処理を用いても良いし、異なるエッチング処理を用いても良い。また、エッチング処理に用いるエッチングガスについても、基板をエッチングする際に用いたエッチングガスと同じガスを用いても良いし、異なるガスを用いても良い。
【0042】
[2]反射防止構造
周期的に配列した球状粒子のみをエッチングマスクとして利用した場合、ドットアレイパターンマスクとして機能するため、形成される形状は凸形状となる。しかし、図2に示すように、基板1表面に配列した球状粒子2上に、球状粒子2とは異なる物質の膜3を形成(図2(a))しエッチング処理を施すという工夫を加えると、膜が形成された球状粒子の頂点部分4が選択的にエッチングされるため(図2(b))、配列した球状粒子の真ん中が優先的にエッチングされ(図2(c))、前記物質からなる輪帯状構造5が形成される(図2(d))。この輪帯状構造5をエッチングマスクとして球状粒子2及び基板1がエッチングされる(図2(e)〜(g))ため基板1上に凹形状構造6が形成される(図2(h))。この効果は、前記輪帯状構造5のエッチングレートが、球状粒子2及び基板1のエッチングレートよりも小さい場合に顕著である。輪帯状構造5は、周期的に配列した球状粒子2の形状を利用して形成されるため、輪帯状構造5をエッチングマスクとして形成された凹形状構造6は球状粒子2と同一の二次元周期を有する。
【0043】
得られた凹形状構造6を有する基板を転写型として、規則的な二次元周期を有する凸形状構造を有する基板を得ることができる。
【0044】
凸形状構造(凹形状構造)が適切な反射防止効果を有するためには、凸形状構造(凹形状構造)の周期が光波の波長と同程度か又は波長よりも小さい必要がある。入射媒質が空気の場合、凸形状構造(凹形状構造)の周期Λは、反射防止効果が得られる光波の波長をλ、基材の屈折率をnとしたとき、Λ≦λ/nであるのが好ましい。また凸形状構造(凹形状構造)の周期Λは、Λ≧50 nmであるのが好ましい。凸形状構造(凹形状構造)の周期Λをこの範囲にすることにより、波長λの波長の光の反射を効率よく防止することができる。対象となる光が可視光(400〜700 nm)の場合、必要となる凸形状構造(凹形状構造)の周期(間隔)は、数10 nm〜数100 nmとなる。
【0045】
球状粒子、膜及び基板を1つの処理工程でエッチングする方法について説明したが、必ずしも1つの処理工程で行う必要はなく、それぞれの別の工程に分けて処理を行っても良いし、一部の工程を同時に行ってもよい。ただし、一般的な製造工程においては、工程数が少ない方が効率的であることから、1つの処理工程でエッチングする方法が望ましい。
【実施例】
【0046】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0047】
実施例1
シリカ球(粒径:300 nm)をアセトンに分散しホモジナイザーで60分間攪拌して、10質量%のシリカ分散液を作製した。20 mm×20 mm×1 mmの形状の石英ガラス基板を分散液に浸漬し、30秒間静止した後、400 mm/minで引き上げた。石英ガラス基板上に塗布された分散液からアセトンを乾燥させ、石英ガラス基板上にシリカ球を配置した。球体を配列した基板上に、RFスパッタリング装置を用いて出力300 Wで2分間成膜を行い、厚さ約50 nmの金属Niの膜を形成した。Niの膜を形成した基板表面をSEMで確認したところ、図4(a)に示すように、基板上の大部分でシリカ球が約300 nmの周期で二次元最密充填配置していることを確認した。
【0048】
FAB(高速原子線)加工装置を用い、エッチング加工ガス(反応ガス)SF6を導入し、3 kVの出力で、基板を30分間エッチング処理した。エッチング処理の途中の基板表面をSEMで観察し、形成された構造の形状確認を行ったところ、図4(b)及び図4(c)に示すように、球状粒子の配列と同周期の輪帯状構造の配列が形成されており、その輪帯状構造をエッチングマスクとして基板に凹形状構造が形成されている様子が確認できた。石英ガラス基板表面には、最終的に図4(d)に示すように、幅250 nm、深さ100 nmの凹形状構造が約300 nmの周期でハニカム状に形成されていた。基板の反射率は凹形状構造を形成することにより、約3.5%(処理前)から約1.5%に低減した。
【0049】
実施例2
シリカ球(粒径:300 nm)をアセトンに分散しホモジナイザーで60分間攪拌して、10質量%のシリカ分散液を作製した。20 mm×20 mm×1 mmの形状の石英ガラス基板を分散液に浸漬し、30秒間静止した後、400 mm/minで引き上げた。石英ガラス基板上に塗布された分散液からアセトンを乾燥させ、石英ガラス基板上にシリカ球を配置した。このシリカ球が配置された石英ガラスを、FAB(高速原子線)加工装置を用いて、エッチング加工ガス(反応ガス)SF6を導入し、3 kVの出力で7分エッチング処理した。エッチング処理後の基板表面をSEMで確認したところ、図5(a)に示すように、基板上のシリカ球の径が約80%に縮小しているのが確認できた。球体を配列した基板上に、RFスパッタリング装置を用いて出力300 Wで2分間成膜を行い、厚さ約100 nmの金属Crの膜を形成した。Crの膜を形成した基板表面をSEMで確認した結果を図5(b)に示す。
【0050】
FAB(高速原子線)加工装置を用い、エッチング加工ガス(反応ガス)SF6を導入し、3 kVの出力で、基板を90分間エッチング処理した。エッチング処理の途中の基板表面をSEMで観察し、形成された構造の形状確認を行ったところ、図5(c)及び図5(d)に示すように、球状粒子の配列と同周期の輪帯状構造の配列が形成されており、その輪帯状構造をエッチングマスクとして基板に凹形状構造が形成されている様子が確認できた。石英ガラス基板表面には、最終的に図5(e)に示すように、幅250 nm、深さ250 nmの凹形状構造が約300 nmの周期でハニカム状に形成されていた。基板の反射率は凹形状構造を形成することにより、約3.5%(処理前)から約1.0%に低減した。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】基板上に、最密に充填して配置した球状粒子を模式的に示す(a)正面図、及び(b)側面図である。
【図2】基板表面に凹形状構造を形成する本発明の方法を説明するための模式図である。
【図3−1】基板表面に凹形状構造を形成する本発明のもう一つの方法を説明するための模式図である。
【図3−2】基板表面に凹形状構造を形成する本発明のもう一つの方法を説明するための模式図である。
【図4(a)】実施例1において、石英ガラス基板上に二次元最密充填配置したシリカ球にNi膜を形成した様子を示すSEM写真である。
【図4(b)】実施例1において、エッチング処理の途中過程の様子を示すSEM写真である。
【図4(c)】実施例1において、エッチング処理の途中過程の他の様子を示すSEM写真である。
【図4(d)】実施例1において、石英ガラス基板に形成された凹形状構造を示すSEM写真である。
【図5(a)】実施例2において、石英ガラス基板上に二次元最密充填配置したシリカ球を縮小処理した様子を示すSEM写真である。
【図5(b)】実施例2において、Ni膜を形成した様子を示すSEM写真である。
【図5(c)】実施例2において、エッチング処理の途中過程の様子を示すSEM写真である。
【図5(d)】実施例2において、エッチング処理の途中過程の様子を示すSEM写真である。
【図5(e)】実施例2において、石英ガラス基板に形成された凹形状構造を示すSEM写真である。
【符号の説明】
【0052】
1・・・基板
2・・・球状粒子
3・・・膜
4・・・頂点部分
5・・・輪帯状構造
6・・・凹形状構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に球状粒子を配置し、前記球状粒子上に前記球状粒子とは異なる物質の膜を形成し、前記球状粒子及び前記膜をエッチングマスクとして基板のエッチング処理を行うことにより、基板表面に凹形状構造を形成する方法。
【請求項2】
基板上に球状粒子を配置し、前記球状粒子の径を縮小する処理を行った後、前記球状粒子上に前記球状粒子とは異なる物質の膜を形成し、前記球状粒子及び前記膜をエッチングマスクとして基板のエッチング処理を行うことにより基板表面に凹形状構造を形成する方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、前記膜のエッチングレートが前記球状粒子のエッチングレートより小さいことを特徴とする基板表面に凹形状構造を形成する方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法において、前記膜のエッチングレートが前記基板のエッチングレートより小さいことを特徴とする基板表面に凹形状構造を形成する方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法において、前記球状粒子のエッチングレートが前記基板のエッチングレート以上であることを特徴とする基板表面に凹形状構造を形成する方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法において、前記球状粒子上に形成する物質が金属であることを特徴とする基板表面に凹形状構造を形成する方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記金属がCr、Ni、Cu又はAlであることを特徴とする基板表面に凹形状構造を形成する方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法において、前記基板が石英ガラスであることを特徴とする基板表面に凹形状構造を形成する方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法において、前記球状粒子がシリカであることを特徴とする基板表面に凹形状構造を形成する方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法において、前記球状粒子の配置は前記基板表面に最密に充填するように単層を形成したものであることを特徴する基板表面に凹形状構造を形成する方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法において、前記凹形状構造は、平面上に隙間なく並べた正三角形の各頂点に凹形状を配置して得られる構造であることを特徴する基板表面に凹形状構造を形成する方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の方法において、前記エッチング処理法が、高速原子線(FAB)を照射するエッチング処理法であることを特徴とする基板表面に凹形状構造を形成する方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の方法において、前記エッチング処理に用いるエッチングガス(反応性ガス)が、SF6であることを特徴とする基板表面に凹形状構造を形成する方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の方法において、前記凹形状構造が反射防止構造であることを特徴とする基板表面に凹形状構造を形成する方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、反射防止効果が得られる光波の波長をλ、基材の屈折率をnとしたとき、前記球状粒子の直径Rが、R≦λ/nであることを特徴とする基板表面に凹形状構造を形成する方法。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の方法において、反射防止効果が得られる光波の波長をλ、基材の屈折率をnとしたとき、前記凸形状構造の周期Λが、Λ≦λ/nであることを特徴とする基板表面に凹形状構造を形成する方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の凹形状構造を転写型として基板表面に凸形状構造を形成する方法。
【請求項18】
請求項1〜16のいずれかに記載の方法によって形成された凹形状構造を有する基板。
【請求項19】
請求項17に記載の方法によって形成された凸形状構造を有する基板。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図4(c)】
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【図4(d)】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図5(c)】
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【図5(d)】
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【図5(e)】
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