説明

出血性ショックの治療

本発明は、出血性ショックが生じている患者または出血性ショックの危険性のある患者を治療する方法および組成物に関する。この治療は、一酸化炭素を含む薬学的組成物を患者に投与する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、出血性ショックが生じている患者の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)はヘム分解の最初の段階を触媒する。HO-1はb型ヘム分子のαメソ炭素架橋を酸化によって切断して、等モル量のビリベルジンIXa、一酸化炭素(CO)、および遊離イオンを生じさせる。その後に、ビリベルジンはビリベルジン還元酵素によってビリルビンに変換され、遊離イオンはフェリチンの中に隔離される(この生成は遊離イオンによって誘導される)。
【0003】
COは重要なシグナル伝達分子と認識されている(Verma et al.,Science 259:381-384,1993)。一酸化炭素は脳ではニューロンメッセンジャー分子として作用し(同上)、視床下部では神経内分泌モジュレーターとして作用することが示唆されている(Pozzoli et al.,Endocrinology 735:2314-2317,1994)。酸化窒素と同様に、COは平滑筋弛緩薬であり(Utz et al.,Biochem Pharmacol.47:195-201,1991;Christodoulides et al.,Circulation 97:2306-9,1995)、血小板凝集を阻害する(Mansouri et al.,Thromb Haemost.48:286-8,1982)。いくつかのモデルにおいて低濃度のCOの吸入には抗炎症作用があることが分かっている。
【0004】
出血性ショック(または「HS」)は、循環血量および酸素運搬能の喪失によって引き起こされるショックである。HSは、失血に関連するどの状態(例えば、特に、内出血(例えば、消化管出血)または外出血、および外傷(例えば、貫通性外傷または鈍的外傷))からでも生じる可能性がある。
【発明の開示】
【0005】
概要
本発明は患者におけるHSの方法を特徴とする。この方法は、HSが生じている患者またはHSの危険性があると診断された患者に、HS(例えば、HSに起因する全身組織損傷)を減少させるのに有効な量の一酸化炭素含有組成物を投与する段階を含む。この方法は、輸液蘇生法、再水和、酸素投与、外科手術(例えば、患者の出血を止める外科手術)、血管作用薬療法、および/または抗生物質療法などの別の処置を患者に投与する段階を含んでもよい。
【0006】
本発明はまた、(a)HSが生じている患者またはHSの危険性がある患者を特定し、(b)患者に輸液蘇生法を投与し、(c)(b)の前に、(b)と同時に、または(b)の後に、HSを治療するのに有効な量の(例えば、HSに起因する組織損傷(例えば、少なくとも1つの臓器に対する組織損傷または全身組織損傷)を減少させるのに有効な量の)、一酸化炭素を含む薬学的組成物を患者に投与することによって、患者におけるHSを治療する方法も特徴とする。
【0007】
輸液蘇生法は、一般的に、患者に液体を投与する段階(特に、液体を血管に(例えば、静脈内または動脈内に)直接投与することによって患者に液体を投与する段階)を含む。液体は、例えば、液体の一酸化炭素組成物(例えば、乳酸を含む、または乳酸を含まない、一酸化炭素飽和リンガー溶液)でもよい。さらに、輸液蘇生法は患者に血液を投与する段階を含んでもよい。血液は、全血ならびに/または部分血液(例えば、濃縮赤血球、血小板、血漿、および/もしくは凝固因子沈殿物)(例えば、リンガー溶液などの水溶液で希釈された部分血液)でもよく、一酸化炭素で完全にまたは部分的に飽和されてもよい。
【0008】
薬学的組成物は液状でもよく、ガス状でもよく、患者にガスおよび/または液体を投与する当技術分野において周知の任意の方法によって(例えば、吸入、ガス注入、注入(例えば、静脈内注入)、注射、および/または摂取を介して)患者に投与することができる。または、もしくはさらに、組成物は局所投与されてもよい(例えば、肺以外の患者の臓器に局所投与されてもよい)。本発明の1つの態様において、薬学的組成物は吸入によって患者に投与される。別の態様において、薬学的組成物は患者に経口投与される。さらに別の態様において、薬学的組成物は患者の腹腔に直接投与される。
【0009】
本発明はまた、患者における出血性ショックを治療または予防する方法であり、失血(例えば、かなりの失血(例えば、総血量の約15%を超える喪失(例えば、総量の20%、25%、30%、35%、40%、もしくは50%を超える喪失)、または少なくとも1000ml(例えば、少なくとも1500mlもしくは少なくとも2000ml)の喪失、または患者において出血性ショックを引き起こすのに十分な任意の量の喪失))が生じているか、あるいは収縮期血圧が低下している(例えば、収縮期血圧が患者の正常収縮期血圧より約20mmHg低い、または、例えば、収縮期血圧が約100mmHg未満(例えば、約90mmHg未満、60mmHg未満、もしくは50mmHg未満)である)と診断された患者に、出血性ショックに起因する全身組織損傷を減少させるのに有効な量の溶解COを含む全血または血液成分を投与する段階を含む方法も提供する。ある特定の態様において、患者は医学的処置(例えば、外科手術もしくは分娩)中であるか、または医学的処置を受けたことがある。
【0010】
本発明には、患者において輸注を行う方法も含まれる。この方法は、(a)患者への輸注に適した全血または血液成分を提供する段階;(b)血液または血液成分を一酸化炭素で部分的にまたは完全に飽和させる段階;および(c)部分的にまたは完全に飽和された血液または血液成分を患者に注入する段階を含む。ある特定の態様において、患者は、出血性ショックが生じていると、または出血性ショックの危険性があると診断されている。
【0011】
本発明はまた、患者における出血性ショックを治療する方法であり、(a)出血性ショックが生じている患者または出血性ショックの危険性がある患者を特定する段階;(b)一酸化炭素ガスを含む加圧ガスを含む容器を準備する段階;(c)容器から加圧ガスを放出して、一酸化炭素ガスを含む雰囲気を形成する段階;および (d)患者を雰囲気に曝露する段階であり、雰囲気中の一酸化炭素の量は出血性ショックに起因する全身組織損傷を減少させるのに十分である、段階を含む方法も含む。患者は、例えば、少なくとも1時間(例えば、少なくとも6時間、24時間、48時間、もしくは72時間、またはそれ以上)連続して雰囲気に曝露することができる。
【0012】
ある特定の態様において、本明細書に記載の出血性ショックを治療する方法は、出血性ショックの徴候について患者をモニタリングする段階をさらに含む。他の態様において、これらの方法は、有効な治療の非存在下で生じたものより低いレベルの全身組織損傷を観察する段階を含む。
【0013】
医療グレードの圧縮一酸化炭素ガスを含む容器も本発明の中に含まれる。容器は、患者のHS(例えば、HSの有害な後遺症、例えば、HSに起因する全身炎症および/または全身組織傷害)を治療または予防するためにガスを使用できることを表示するラベルを備えてもよい。COは、窒素ガスとの混合物として、酸化窒素および窒素ガスとの混合物として、または酸素含有ガスとの混合物として供給されてもよい。COは少なくとも約0.025%(例えば、少なくとも約0.05%、0.10%、0.50%、1.0%、2.0%、10%、50%、もしくは90%、またはそれ以上)の濃度で混合物中に存在してもよい。
【0014】
別の局面において、本発明は、一酸化炭素で部分的にまたは完全に飽和された全血または血液成分(例えば、患者におけるHSを治療または予防するために患者に輸注するための、一酸化炭素で部分的にまたは完全に飽和された全血または血液成分)を含む。例えば、発明は、容器(例えば、輸注処置に適した血液バッグ)の中に入っている、COで部分的にまたは完全に飽和された全血または血液成分を含む。容器は、HS(例えば、HSに起因し得る全身組織損傷)を治療または予防するために全血または血液成分を使用できることを表示するラベルを備えていてもよい。
【0015】
さらに別の局面において、本発明は、(a)患者への輸注に適した全血または血液成分を提供する段階;(b)血液(例えば、全血または血液成分)を一酸化炭素で処理して(例えば、血液を、一酸化炭素を含む雰囲気に曝露して)、血液/一酸化炭素製品を製造する段階;および(c)血液/一酸化炭素製品を、(例えば、著しい失血のために)輸注の必要のある患者に血液/一酸化炭素製品を投与するための説明書と共に顧客(例えば、病院または介護者)に供給する段階を含む、ビジネス方法を含む。
【0016】
本発明の範囲内には、HS(例えば、HSに起因する組織損傷(例えば、全身組織損傷))を治療または予防するための医療用薬品(medicament)の製造におけるCOの使用もある。この医療用薬品は、HSおよび/もしくは出血性ショックに起因する組織損傷を治療する方法、ならびに/または患者に輸血する方法において使用することができる。この医療用薬品は、本明細書に記載のどの形をしていてもよい(例えば、液体CO組成物でもガス状CO組成物でもよい)。
【0017】
特別の定めのない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似のまたは等価な方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、適切な方法および材料を以下で説明する。本明細書で述べられる全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献はその全体が参照として組み入れられる。コンフリクトの場合、定義を含む本明細書は調整される。材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定を目的としない。
【0018】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかであろう。
【0019】
詳細な説明
本発明は、CO投与が、HSの後に輸液蘇生法(HS/R)に供された動物におけるサイトカイン濃度および臓器傷害発生に影響を及ぼすという発見に一部基づいている。
【0020】
本明細書で使用する用語「一酸化炭素」(または「CO」)は、ガス状態の一酸化炭素分子、圧縮されて液体の形をしている一酸化炭素分子、または水溶液中に溶解している一酸化炭素分子について説明する。用語「一酸化炭素組成物」および「一酸化炭素を含む薬学的組成物」は、患者および/または臓器(例えば、HSに冒されている臓器)に投与することができるガスのまたは液体の一酸化炭素含有組成物について説明するために本明細書全体を通して用いられる。当業者であれば、薬学的組成物のどの形態(例えば、ガス、液体、またはガスおよび液体の両方)が特定の用途に好ましいかを理解するであろう。
【0021】
本明細書で使用する用語「有効量」および「治療するのに有効な」は、意図された効果または生理学的結果を引き起こすのに投与の状況で有効な、ある期間(急性投与または慢性投与および定期投与または連続投与を含む)で用いられる一酸化炭素の量または濃度を意味する。本発明において使用するための一酸化炭素の有効量は、例えば、HSに冒された1つもしくはそれ以上の特定の臓器に対する傷害を減少させる量、または一般的には、HS後の患者の予後を改善する量を含む。用語「治療する(治療)」は、HSに関連する状態またはHSにより引き起こされる状態(例えば、臓器傷害/臓器不全)の有害な作用の開始を遅延すること、有害な作用を阻害すること、または有害な作用を緩和することを説明するために本明細書で用いられる。
【0022】
ガスの場合、COの有効量は、一般的に、約0.0000001%〜約0.3重量%(例えば、約0.0001重量%〜約0.25重量%)の範囲内にあり、好ましくは少なくとも約0.001重量%、例えば、少なくとも約0.005重量%、0.010重量%、0.02重量%、0.025重量%、0.03重量%、0.04重量%、0.05重量%、0.06重量%、0.08重量%、0.10重量%、0.15重量%、0.20重量%、0.22重量%、または0.24重量%COである。好ましいCO範囲として、0.002重量%〜約0.24重量%、約0.005重量%〜約0.22重量%、約0.01重量%〜約0.20重量%、および約0.02重量%〜約0.1重量%が挙げられる。CO液体溶液の場合、有効量は、一般的に、約0.0001〜約0.0044g CO/100g液体の範囲内にあり、例えば、少なくとも約0.0001g CO/100g水溶液、0.0002g CO/100g水溶液、0.0004g CO/100g水溶液、0.0006g CO/100g水溶液、0.0008g CO/100g水溶液、0.0010g CO/100g水溶液、0.0013g CO/100g水溶液、0.0014g CO/100g水溶液、0.0015g CO/100g水溶液、0.0016g CO/100g水溶液、0.0018g CO/100g水溶液、0.0020g CO/100g水溶液、0.0021g CO/100g水溶液、0.0022g CO/100g水溶液、0.0024g CO/100g水溶液、0.0026g CO/100g水溶液、0.0028g CO/100g水溶液、0.0030g CO/100g水溶液、0.0032g CO/100g水溶液、0.0035g CO/100g水溶液、0.0037g CO/100g水溶液、0.0040g CO/100g水溶液、または0.0042g CO/100g水溶液である。好ましい範囲として、例えば、約0.0010〜約0.0030g CO/100g液体、約0.0015〜約0.0026g CO/100g液体、または約0.0018〜約0.0024g CO/100g液体が挙げられる。当業者であれば、用途に応じて、これらの範囲外の量が用いられる可能性があることを理解するだろう。
【0023】
用語「患者」は、本発明の方法による治療がなされる動物(ヒトまたは非ヒト、げっ歯類または非げっ歯類)を表すために本明細書全体を通して用いられる。獣医学的用途および非獣医学的用途が意図される。この用語は、鳥類、爬虫類、両生類、および哺乳動物(例えば、ヒト、他の霊長類、ブタ、げっ歯類(例えば、マウスおよびラット)、ウサギ、モルモット、ハムスター、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ならびにヤギ)を含むが、これらに限定されない。好ましい被検体は、ヒト、家畜、ならびにペット(飼い猫および飼い犬)である。
【0024】
用語「臓器」は、動物において特定の機能を有する任意の解剖学的部分または構成要素を説明する一般的な用語として本明細書全体を通して用いられる。この用語の意味の中には臓器の一部がさらに含まれる。このような臓器として、腎臓、肝臓、心臓、腸(例えば、大腸または小腸)、膵臓、脾臓、脳、および肺が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本明細書で使用する用語「出血性ショック」または「HS」は、一般的に、循環血量および/または酸素運搬能の喪失(例えば、急性喪失または慢性喪失)によって引き起こされるショックを意味する。出血性ショック後の蘇生(HS/R)は全身炎症反応を引き起こし、しばしば、臓器傷害および臓器不全につながる。出血性ショック後に生じる傷害は、全ての臓器系への全体的な傷害があるという点で独特のものである。細胞代謝要求を満たすことができないので、急速な組織傷害および臓器機能不全が起こる。HSの外面的な症状として、例えば、尿排出量の減少(例えば、乏尿または無尿)、毛細血管再充血の遅れ、心拍の増加、冷たくじっとりとした皮膚、精神状態の低下(例えば、混乱、動揺、または嗜眠)、衰弱、および呼吸数の増加が挙げられる。当業者であれば、出血性ショックは、患者から血液をかなり失わせる任意の要因または状態(例えば、外傷(例えば、貫通性外傷または鈍的外傷)、外科手術、分娩、および内出血/外出血)によって引き起こされることを理解するだろう。出血性ショックの標準的な治療法は輸液蘇生法である。
【0026】
HSの危険性があると考えられる個体は、主に、HSの任意の形跡の前に予防的処置が開始できるために、特に本発明から利益を得る可能性がある。「危険性のある」個体として、例えば、前記の任意の状態が生じている個体、または患者を失血の危険にさらす可能性のある別の要因(例えば、慢性疾患もしくは遺伝性疾患(例えば、血友病))を有する個体が挙げられる。例えば、HSを引き起こすのに十分な血量がまだ失われていない、創傷(例えば、鈍的外傷、刺し傷、もしくは外科手術)または胃腸出血を有するヒトは、HSが生じる前に本発明の方法によって治療することができる。
【0027】
当業者であれば、当技術分野において周知の任意の方法によって(例えば、医師の診断によって)、患者がHSの危険性があると確認できることを理解するだろう。当業者であれば、患者を診断した(または一酸化炭素組成物を患者に処方した)同じ個体によって、一酸化炭素組成物が患者に投与される必要がないことも理解するだろう。例えば、診断および/もしくは処方を行った個体ならびに/または他の任意の個体(例えば、患者が自己投与できる場合、患者自身を含む)によって、一酸化炭素組成物を投与することができる(および/または投与を監督することができる)。
【0028】
出血性ショックを治療するのに有効な量のCOは、患者が出血性ショックが生じていると診断された日に、または患者が出血性ショックを発症する可能性の増加と関連する任意の危険要因を有すると診断された日に(例えば、患者が、例えば、創傷のために、かなりの量の血液を最近失ったか、かなりの量の血液を失っているか、またはかなりの量の血液を失うと予想された日に)、例えば、医師または獣医師によって、患者に投与することができる(または処方することができる)。患者は、10ppm〜3000ppm、例えば、約100ppm〜約800ppm、約150ppm〜約600ppm、または約200ppm〜約500ppmの濃度でCOを吸入することができる。好ましい濃度として、例えば、約30ppm、50ppm、75ppm、100ppm、125ppm、200ppm、250ppm、500ppm、750ppm、または約1000ppmが挙げられる。COは断続的または連続的に患者に投与することができる。COは、少なくとも約1日、2日、4日、6日、8日、10日、12日、14日、18日、または20日、例えば、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、5ヶ月、または6ヶ月、または患者がもはや状態もしくは疾患の症状を示さなくなるまで、または患者がもはやHSもしくはHSの結果に由来する臓器傷害の危険性がないと診断されるまで投与することができる。ある特定の日に、COはまる一日連続して投与されてもよく、断続的に投与されてもよく(例えば、一日に一回のCOの吸入、この場合、高濃度が用いられる)、一日に23時間まで(例えば、一日に20時間、15時間、12時間、10時間、6時間、3時間、もしくは2時間まで、または一日に1時間まで)投与されてもよい。
【0029】
医学的処置(例えば、外科手術および/または分娩)に関して、COは、処置が行われる前に、処置が行われている間に、および/または処置が行われた後に、患者に全身投与または局所投与することができる。患者は、10ppm〜1000ppm(例えば、約100ppm〜約800ppm、約150ppm〜約600ppm、または約200ppm〜約500ppm)の濃度のCOを吸入することができる。好ましい濃度として、例えば、約30ppm、50ppm、75ppm、100ppm、125ppm、200ppm、250ppm、500ppm、750ppm、または約1000ppmが挙げられる。COは、処置前に少なくとも約1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、12時間、または少なくとも約1日、2日、4日、6日、8日、10日、12日、14日、18日、もしくは20日、断続的または連続的に患者に投与することができる。COは処置の直前にこの期間で投与されてもよく、選択的に、処置の間、続けられてもよく、投与は、処置の直前に、または処置が始まる少なくとも15分前(例えば、外科手術が始まる少なくとも30分前、1時間前、2時間前、3時間前、6時間前、または24時間前)に終了してもよい。または、もしくはさらに、COは、処置の間に、例えば、吸入および/または局所投与によって患者に投与されてもよい。または、もしくはさらに、COは処置後に患者に投与されてもよい(例えば、処置が終了した直後に開始し、少なくとも約1時間、2時間、3時間、5時間、7時間、もしくは10時間、または少なくとも約1日、2日、5日、8日、10日、20日、30日、50日、もしくは60日、1年、無期限に、あるいは処置終了後に、患者がもはやHSもしくは臓器傷害を有さなくなるまで、またはHSもしくは臓器傷害の危険性が無くなるまで継続する)。
【0030】
ガス状組成物の調製
CO組成物はガス状組成物でもよい。本発明の方法において有用な圧縮ガスまたは加圧ガスは、任意の商業的供給者から、圧縮ガスの保管に適した任意のタイプの容器に入った状態で得ることができる。例えば、圧縮ガスまたは加圧ガスは、医療用の圧縮ガス(例えば、酸素)を供給する任意の供給者から得ることができる。本明細書で使用する用語「医療グレード」のガスは、本明細書で定義されたような患者への投与に適したガスを意味する。本発明の方法に用いられるCOを含む加圧ガスは、NOおよびO2が一緒に保管できないことを除けば、所望の最終組成物の全てのガス(例えば、CO、He、NO、CO2、O2、N2)が同じ容器に入っているように提供することができる。選択的に、本発明の方法は、個々のガスを含む複数の容器を使用して実施することができる。例えば、一酸化炭素を含む容器、または一酸化炭素と他のガスを含む容器が提供されてもよく、選択的に、容器の内容物は、他の容器(例えば、酸素、窒素、二酸化炭素、圧縮空気、もしくは他の任意の適切なガス、またはその混合物を含む容器)の内容物と混合されてもよい。
【0031】
本発明に従って患者に投与されるガス状組成物は、一般的に、0重量%〜約79重量%の窒素、約21重量%〜約100重量%の酸素、および約0.0000001重量%〜約0.3重量%(約1ppbまたは0.001ppm〜約3,000ppmに相当)のCOを含む。好ましくは、ガス状組成物中の窒素の量は約79重量%であり、酸素の量は約21重量%であり、COの量は、約0.0001重量%〜約0.25重量%、好ましくは少なくとも約0.001重量%、例えば、少なくとも約0.005重量%、0.01重量%、0.02重量%、0.025重量%、0.03重量%、0.04重量%、0.05重量%、0.06重量%、0.08重量%、0.10重量%、0.15重量%、0.20重量%、0.22重量%、または0.24重量%である。好ましいCO範囲として、0.005重量%〜約0.24重量%、約0.01重量%〜約0.22重量%、約0.015重量%〜約0.20重量%、約0.08重量%〜約0.20重量%、および約0.025重量%〜約0.1重量%が挙げられる。用途に応じて、CO濃度が0.3%を超える(例えば、1%以上の)ガス状CO組成物が短期間に(例えば、1回または数回の呼吸で)使用されてもよいことに留意のこと。
【0032】
COガスを含む雰囲気を生成するためにガス状CO組成物が用いられてもよい。適切な濃度のCOガスを含む雰囲気は、例えば、COガスを含む加圧ガスを含有する容器を準備し、容器から加圧ガスをチャンバーまたは空間に放出して、チャンバーまたは空間の中にCOガスを含む雰囲気を形成することによって生成することができる。または、ガスは、末端に呼吸マスクまたは呼吸管が付いている機械に放出されてもよく、それによって、呼吸マスクまたは呼吸管の中にCOガスを含む雰囲気が生成され、確実に、患者は、かなりの濃度のCOに曝露される部屋の中の唯一の人間になる。
【0033】
雰囲気または通気回路の中のCO濃度は、当技術分野において周知の任意の方法を用いて測定またはモニタリングすることができる。このような方法として、電気化学的検出、ガスクロマトグラフィー、放射性同位体計数、赤外吸収、比色分析、および選択性の膜に基づく電気化学的方法が挙げられる(例えば、Sunderman et al.,Clin.Chem.28:2026-2032,1982;Ingi et al.,Neuron 16:835-842,1996を参照のこと)。ppm以下のCO濃度は、例えば、ガスクロマトグラフィーおよび放射性同位体計数によって検出することができる。さらに、生物学的組織におけるppm以下の範囲のCO濃度は中間赤外ガスセンサーによって測定できることが当技術分野において知られている(例えば、Morimoto et al.,Am.J.Physiol.Heart.Circ.Physiol 280:H482-H488,2001を参照のこと)。COセンサーおよび検出装置は多くの商業的供給者から広く入手することができる。
【0034】
液体組成物の調製
COを含む薬学的組成物はまた液体組成物でもよい。ガスを液体に溶解するようにする当技術分野において周知の任意の方法によって、液体を、COを含む薬学的組成物にすることができる。例えば、液体は、いわゆる「CO2インキュベーター」に入れられ、液体中の望ましいCO濃度に達するまで、連続したCOの流れに直接曝露されてもよい。別の例として、液体中の望ましいCO濃度に達するまで、COガスが液体の中で直接泡立たせられもよい。温度が低下するにつれて、ある特定の水溶液に溶解することができるCO量は増加する。さらに別の例として、ガス拡散が可能なチューブに、適切な液体が通されてもよい(この場合、例えば、体外膜型酸素付加装置などの装置を用いて、チューブはCOを含む雰囲気を通り抜ける)。または、ガスはチューブの管腔にポンプで注入され、液体はチューブの外側を取り囲み、チューブの外側と接触する。どちらにしても、COは液体の中に拡散して、液体CO組成物を生じる。
【0035】
生きている動物への導入を目的としたこのような液体組成物は、動物への導入時に37℃または約37℃である可能性が高い。
【0036】
液体は患者への投与に適した当業者に周知の任意の液体でよい(例えば、Oxford Textbook of Surgery,Morris and Malt,Eds.,Oxford University Press(1994)を参照のこと)。一般的に、液体は水溶液である。溶液の例として、リン酸緩衝食塩水(PBS)、セルシオ(Celsior)(商標)、ペルファデックス(Perfadex)(商標)、コリンズ液(Collins solution)、クエン酸溶液、およびUW液(University of Wisconsin solution)(Oxford Textbook of Surgery,Morris and Malt,Eds.,Oxford University Press(1994))が挙げられる。本発明の1つの態様において、液体はリンガー溶液(例えば、乳酸リンガー溶液)、または輸液蘇生法に使用することができる他の任意の液体である。別の態様において、液体として、血液(例えば、全血、1つもしくはそれ以上の個々の血液成分、および/または人工代用血液)が挙げられる。血液は、一酸化炭素で完全にまたは部分的に飽和されてもよい。
【0037】
任意の適切な液体をガス拡散器を介して所定のCO濃度まで飽和させることができる。または、所定の濃度のCOを含むように品質管理されている予め作成された溶液を使用することができる。用量の正確な管理は、CO分析器に接続されているガス透過性液体不透過性膜を用いた測定によって行うことができる。溶液を所望の有効濃度まで飽和させ、これらの濃度で維持することができる。
【0038】
CO組成物による患者の治療
患者にガスおよび/または液体を投与する当技術分野において周知の任意の方法を用いて、一酸化炭素組成物で患者を治療することができる。危険性があると(例えば、HSの危険性があると)診断された、または確認された患者に、一酸化炭素組成物を処方および/または投与することができる。本発明は、(例えば、吸入および/または摂取による)患者への液体またはガスの一酸化炭素組成物の全身投与、ならびに(例えば、摂取、ガス注入、および/または腹腔への導入による)インサイチューでの患者臓器への組成物の局所投与を意図する。組成物は、治療される患者に応じて、任意の人間(例えば、保健医療の専門家、獣医師、または保護者(例えば、動物(例えば、イヌもしくはネコ)の所有者))によって、ならびに/あるいは患者が組成物を投与および/または監視できる場合、患者自身によって投与および/または監視することができる。本発明は、下記の患者にCOを投与する方法に加えて、または下記の患者にCOを投与する方法の代わりに、ある用量のガス状CO組成物または液体CO組成物を送達することができる薬剤(例えば、CO放出ガム、クリーム、軟膏、ロゼンジ、パッチ、または包帯)を使用できることを意図する。
【0039】
ガス状COの全身送達
ガス状CO組成物は、患者(例えば、HSと診断された患者またはHSの危険性があると確認された患者)に全身送達することができる。ガス状CO組成物は、一般的に、口または鼻通路を通って肺に入るように吸入によって投与され、この場合、COは患者の血流に容易に吸収される。治療用ガス状組成物に用いられる活性化合物(CO)の濃度は、COの吸収、分布、不活化、および排出(一般的に、呼吸による排出)の速度ならびに当業者に周知の他の要因に左右される。個々の必要および組成物を投与している人間または組成物の投与を監視している人間の専門的な判断に応じて、任意の特定の被検体に対して特定の投与レジメを経時的に調節しなければならないこと、本明細書で示された濃度範囲は例示にすぎず、特許請求の範囲に記載の組成物の範囲または実施を制限することを目的としないことがさらに理解されるはずである。患者の最適な治療を確実にするために、治療がモニタリングし、CO投与量が調節することができる。例えば、患者におけるHSの重篤度に応じて、COの急性投与、亜急性投与、および慢性投与が本発明によって意図される。状態を治療し、意図された薬理学的効果または生物学的効果を発揮するのに十分な時間(無期限を含む)、COを患者に送達することができる。
【0040】
以下は、患者にガス状CO組成物を投与するために使用することができるいくつかの方法および装置の例である。
【0041】
人工呼吸器
医療グレードのCO(濃度は変化することがある)は、標準的な圧縮ガスタンク中で空気または別の酸素含有ガスと混合した状態で(例えば、21%O2、79%N2)、購入することができる。これは非反応性であり、本発明の方法に必要とされる濃度は可燃範囲(空気中で10%)よりかなり低い。病院の環境では、恐らく、ガスは枕元に送達されるが(この場合、ガスは、ブレンダーの中で所望の濃度(ppm(百万分率))まで酸素または室内気と混合される)、酸素または空気によるさらなる希釈を必要としない濃度で供給されてもよい。患者は、患者の快適さおよび必要に基づく流速に設定された人工呼吸器を通してガス混合物を吸入するだろう。これは、肺グラフィックス(pulmonary graphics)(すなわち、呼吸数、一回呼吸量など)により決定される。望ましい量を超える一酸化炭素を不必要に患者に与えないようにする絶対安全な機構を、この送達系に対して設計することができる。患者のCO濃度は、(1)一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)(これは静脈血中で測定することができる)および(2)人工呼吸器の側口から集められる、吐き出されたCOを試験することによってモニタリングすることができる。CO曝露は、患者の健康状態に基づいて、およびマーカーに基づいて調節することができる。必要に応じて、100%のO2吸入に切り換えることによって、COを患者から洗い流すことができる。COは代謝されない。従って、ごく少量のCOがCO2に変換される以外は、吸入されたものは全て最終的に吐き出される。結果として起こる低酸素状態を伴わずに治療用にCOを送達するために、COは任意の濃度のO2と混合することもできる。
【0042】
フェースマスクおよびテント
COを含むガス混合物は、フェースマスクおよびテントを用いて患者が受動的に吸入できるように前記のように調製される。吸入される濃度は変えることができ、100%のO2に単に切り換えることによって洗い流すことができる。CO濃度のモニタリングは、高すぎる濃度のCOが吸入されないようにする絶対安全な機構を用いて、マスクもしくはテントで行われるか、マスクもしくはテントの近くで行われる。
【0043】
携帯型吸入器
例えば、病院の環境にいないレシピエントを断続的に治療できるようにするために、圧縮COを携帯型吸入装置に入れ、調節された用量で吸入することができる。様々な濃度のCOを容器に入れることができる。この装置は、オン/オフバルブおよびチューブ(このチューブから、患者は標準的なレジメに従って、または必要に応じてCOを吸い込む)を備える、適切に希釈されたCOの小さなタンク(例えば、5kg未満)と同じくらい単純なものでもよい。
【0044】
静脈内人工肺
O2送達およびCO2除去用に設計された人工肺(血液のガス交換用のカテーテル装置)をCO送達に使用することができる。このカテーテルは移植時に大静脈の1つに留置され、全身送達のために、または局所部位で特定の濃度のCOを送達することができる。送達は、臓器部位での(例えば、肝臓付近での)短時間の高濃度COの局所送達でもよく(この高い濃度は血流中で急速に希釈される)、さらに低い濃度のCOに対する比較的長時間の曝露でもよい(例えば、Hattler et al.,Artif.Organs 18(11):806-812(1994);およびGolob et al.,ASAIO J.47(5):432-437(2001)を参照のこと)。
【0045】
常圧チャンバー
ある特定の場合では、患者全体にCOを曝露することが望ましい。患者は、患者に害のない濃度のCO、または第三者が危険に曝されることなく許容可能な危険をもたらす濃度のCOが注入された気密室の中に入る。曝露が完了すると、気密室に、空気またはCOを含まない別の酸素含有ガスが流されてもよく、患者が曝露装置から出るのを許可する前にCOが確実に残存しないようにするために、CO分析器によって試料が分析されてもよい。
【0046】
液体CO組成物の全身送達
本発明は、患者への全身送達(例えば、経口送達ならびに/または患者への注入による(例えば、静脈内、動脈内、腹腔内、および/もしくは皮下への注入)全身送達)のために、一酸化炭素を含む水溶液を生成できることをさらに意図する。例えば、液体CO組成物(例えば、CO飽和リンガー溶液)が輸液蘇生の間に患者に注入されてもよい。
【0047】
または、もしくはさらに、HSを治療または予防するために、COで部分的にまたは完全に飽和された全血(または部分血液)が患者に注入されてもよい。当業者であれば、血液に存在するCOの濃度が、血液に存在する一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)の量を試験することによってモニタリングできることを理解するだろう。例えば、COで部分的に飽和された血液は、10%COHbを超える(例えば、15%COHbを超える、25%COHbを超える、30%COHbを超える、50%COHbを超える、もしくは90%COHbを超える、またはそれ以上の)一酸化炭素ヘモグロビン含有量を示してもよい。全血または部分血液(例えば、血漿)は、当技術分野において周知の任意の方法を用いてCOで部分的にまたは完全に飽和することができる。COなどのガスを血液試料(例えば、献血された血液)に導入する例示的な方法が、その全体が参照として本明細書に組み入れられるU.S.Patent No.5,476,764に記載されているが、これは唯一の周知の方法ではない。このような方法は、患者に輸注するためのCO飽和血液(またはCOで部分的に飽和された血液)を調製するのに使用することができる。当業者であれば、血液銀行においてドナーから血液が採取された直後に、または(例えば、事故現場で救急医療隊員によって)患者に輸血を行う直前に、または献血後および輸注前の血液の保管もしくは輸送の段階で、COを血液に導入できることを理解するだろう。
【0048】
COの局所送達
または、もしくはさらに、CO組成物は、出血性ショックが生じている患者または出血性ショックの危険性のある患者の臓器に直接適用することができる。ガス状組成物は、患者にガスを吹き込む当技術分野において周知の任意の方法によって患者の臓器に直接適用することができる。他の目的のガス注入の既知の例の1つでは、検査を容易にするために、内視鏡処置の間に胃腸管に、腹腔鏡処置の間に腹腔に、ガス(例えば、二酸化炭素)が患者に吹き込まれる(例えば、Oxford Textbook of Surgery,Morris and Malt,Eds., Oxford University Press(1994)を参照のこと)。当業者であれば、CO組成物を患者の臓器に直接送達するために、同様の処置を使用できることを理解するだろう。
【0049】
液体CO組成物も患者の臓器に局所投与することができる。液体を患者に投与する当技術分野において周知の任意の方法によって、液体の組成物を投与することができる。例えば、液体組成物は、例えば、カプセル化された液体CO組成物またはカプセル化されていない液体CO組成物を患者に摂取させることによって経口投与することができる。別の例として、HSが生じている患者の胃腸管および/または腹腔に液体(例えば、溶解したCOを含む食塩水)を注射することができる。さらに、臓器に液体CO組成物を流すことによって、インサイチュー曝露を行うことができる(Oxford Textbook of Surgery,Morris and Malt,Eds.,Oxford University Press(1994)を参照のこと)。
【0050】
ヘムオキシゲナーゼ-1および他の化合物の使用
COの投与と併用して、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)を誘導、発現、および/または投与することも本発明によって意図される。HO-1は、患者においてHO-1を誘導もしくは発現させることによって、または患者に外因性HO-1を直接投与することによって患者に提供することができる。本明細書で使用する用語「誘導する(誘導された)」は、単離された細胞または組織、臓器、もしくは動物の細胞におけるタンパク質(例えば、HO-1)の産生を、そのタンパク質をコードする細胞の内因性(例えば、非組換え)遺伝子を使用して増大させることを意味する。
【0051】
HO-1は当技術分野において周知の任意の方法によって患者において誘導することができる。例えば、HO-1の産生は、ヘミンによって、鉄プロトポルフィリンによって、またはコバルトプロトポルフィリンによって誘導することができる。様々な非ヘム因子(重金属、サイトカイン、ホルモン、NO、COCl2、エンドトキシン、および熱ショックを含む)もまた強力なHO-1発現誘導物質である(Choi et al.,Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.15:9-19,1996;Maines,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.37:517-554,1997;およびTenhunen et al.,J.Lab.Clin.Med.75:410-421,1970)。HO-1はまた、酸化ストレスを引き起こす様々な因子(過酸化水素、グルタチオン枯渇薬、UV照射、エンドトキシンおよび高酸素)によっても高度に誘導される(Choi et al.,Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.15:9-19,1996;Maines,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.37:517-554,1997;およびKeyse et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:99-103,1989)。または、もしくはさらに、HO-1タンパク質は、(例えば、リポソームに入れて)患者に直接投与することができる。「HO-1誘導物質を含む薬学的組成物」は、患者においてHO-1を誘導することができる任意の因子(例えば、前記の任意の因子、例えば、NO、ヘミン、鉄プロトポルフィリン、および/またはコバルトプロトポルフィリン)を含む薬学的組成物を意味する。
【0052】
細胞内のHO-1は遺伝子導入によって増やすことができる。本明細書で使用する用語「発現する(発現された)」は、単離された細胞または組織、臓器、もしくは動物の細胞におけるタンパク質(例えば、HO-1またはフェリチン)の産生を、外因的に投与された遺伝子(例えば、組換え遺伝子)を使用して増大させることを意味する。HO-1またはフェリチンは、好ましくは、免疫反応を最小限にするために、患者と同じ種の(例えば、ヒト、マウス、ラットなど)のものである。発現は、構成的プロモーター(例えば、サイトメガロウイルスプロモーター)または組織特異的プロモーター(例えば、ホエープロモーター(乳房細胞の場合)もしくはアルブミンプロモーター(肝細胞の場合))によって駆動することができる。HO-1またはフェリチンをコードする適切な遺伝子療法ベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ポックス(例えば、ワクシニア)ウイルス、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)、マウス微小ウイルス、B型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス-1、およびレンチウイルス)が患者に経口投与されるか、吸入によって投与されるか、または本明細書に記載の疾患もしくは状態の治療に適した位置での注射によって投与される。特に好ましいのは、HS発症前、HS発症間、および/またはHS発症後に、患部に直接局所投与することである。同様に、HO-1またはアポフェリチンをコードするプラスミドベクターを、例えば、裸のDNAとして、リポソームに入れて、または微小粒子に入れて投与することができる。
【0053】
さらに、当技術分野において周知の任意の方法によって、外因性HO-1タンパク質を患者に直接投与することができる。前記のような患者におけるHO-1の誘導もしくは発現に加えて、またはHO-1の誘導もしくは発現の代わりとして、外因性HO-1を直接投与することができる。HO-1タンパク質は、例えば、リポソームに入れて、および/または融合タンパク質として(例えば、TAT-融合タンパク質として)患者に送達することができる(例えば、Becker-Hapak et al.,Methods 24:247-256(2001)を参照のこと)。
【0054】
または、もしくはさらに、HSが生じている患者またはHSの危険性のある患者に、COと共に、HO-1による任意の代謝産物(例えば、ビリルビン、ビリベルジン、鉄、および/またはフェリチン)を投与することができる。さらに、本発明は、フェリチン以外の鉄結合分子(例えば、デスフェロキサミン(DFO)、鉄デキストラン、および/またはアポフェリチン)を患者に投与できることを意図する。なおさらに、本発明は、所望の効果を生じる/高めるために、これらの任意の産物の分解を触媒する酵素(例えば、ビリベルジン還元酵素)を阻害できることを意図する。前記のものはいずれも投与(例えば、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、または局所投与)が可能である。
【0055】
本発明は、投与された後にCOを身体に放出する化合物(例えば、CO放出化合物、光活性化CO放出化合物)(例えば、金属カルボニル化合物、二マンガンデカカルボニル、トリカルボニルジクロロルテニウム(II)二量体、および塩化メチレン)(例えば、400〜600mg/kgの用量、例えば、約500mg/kg)も本発明の方法において使用することができ、同様に、一酸化炭素ヘモグロビンおよびCO供与ヘモグロビン代用物も使用することができることを意図する。
【0056】
前記のものは、どのような方法(例えば、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、または動脈内投与)でも患者に投与することができる。前記の化合物はいずれも、任意の組み合わせで患者に局所投与および/または全身投与することができる。
【0057】
併用療法
患者へのCO投与と、出血性ショックを予防/治療するための少なくとも1つの他の処置との併用も本発明によって意図される。このような処置として、例えば、出血を阻止するための処置(例えば、外出血部位の圧迫)および外科手術(例えば、患者の出血を止めるための外科手術)が挙げられる。全血の輸血も行うことができ、同様に、部分血液(すなわち、1種類またはそれ以上の種類の個々の血液成分(例えば、濃縮赤血球、血小板、血漿、および/または凝固因子沈殿物))ならびに血液(または1種類もしくはそれ以上の種類の個々の血液成分)と別の液体(例えば、希釈された全血または1種類もしくはそれ以上の種類の個々の血液成分)との混合物の輸注も行うことができる。特に、経口および/もしくは静脈内での再水和、輸液蘇生(例えば、クリスタロイド、コロイド、もしくは血液製剤を使用した液体蘇生)、酸素投与、血管作用薬療法(例えば、強心薬(例えば、ドーパミンおよびドブタミンの投与)、ならびに/または昇圧剤(vasorepressor)(例えば、フェニレフリン、ノロエピネフリン(noroepinephrine)、ならびにエピネフリン))、ならびに抗生物質(例えば、広域抗生物質)療法もまた、HSの治療または予防に有用である。
【0058】
本発明は、以下の実施例によって部分的に説明される。以下の実施例は、どのようにも本発明を限定するとみなされない。
【0059】
実施例1.CO投与はHS/Rに供された動物の臓器を保護する。
下記の試験は、COがHS/Rモデルにおける臓器傷害を防ぐことができることを証明する。出血性ショックにより誘導される多臓器不全マウスモデルにおいて、低濃度のCOへの曝露によって、出血および蘇生の後に起こる炎症後遺症および終末器官損傷が強力に阻止された。COは、ショックにより誘導される肺傷害、肝臓傷害、および腸傷害を効果的に抑制した(それぞれ、ミエロペルオキシダーゼ活性の低下、血清中アラニンアミノ転移酵素濃度の低下、および腸構造変化の低下により確かめられた)。さらに、逆説的なことに、COは出血により誘導される肝細胞低酸素を阻止した。まとめると、これらの結果は、出血性ショックにより誘導される臓器傷害におけるCOの保護的な役割を証明している。
【0060】
HSは全身傷害であるので、治療剤としてのCOにはいくつかの潜在的なメリットがある。例えば、COは全ての組織に到達することができ、従って、循環している炎症細胞の活性化を弱めながら、各臓器内の傷害の進行を遅らせることができる。別の例として、COは容易に投与することができ、例えば、吸入剤として、事故現場で救急医療隊員が(例えば、マスクおよび/または気管内チューブによって)投与することができる。
【0061】
動物および出血性ショック
出血性ショックは以下のようにマウスにおいて誘導された:体重20〜26グラムのC57/BL6マウスまたはil-10-/-マウス(ジャクソン研究所(Jackson Laboratories))(n=3/群)をペントバルビタール(70mg/kg;IP)で麻酔した。右および左の大腿動脈にカニューレを挿入した。MAPおよび心拍を追跡するために、左動脈カテーテルをモニターに接続した。MAPが25mmHgとなるように血圧をモニタリングしながら、10分にわたって血液を右カテーテルから抜き取った。血液を抜き取り、25mmHgのMAPを維持するために必要に応じて動物に戻した。偽の動物にカニューレを挿入したが、出血させなかった。ショック期間(90〜150分)の終わりに、抜き取った血液と、抜き取った血液の2倍量の乳酸リンガー溶液を用いて、15〜30分にわたってマウスを蘇生した。動物を蘇生開始の4〜24時間後に屠殺し、血液、肝臓、肺、および腸を集めた。
【0062】
サイトカインおよび血清中ALTの測定
サイトカインであるインターロイキン-6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、およびインターロイキン-10(IL-10)の血清中濃度を、酵素結合免疫測定法(ELISA)(アールアンドディーシステムズ(R&D systems))によって製造業者の説明書に従って測定した。これらのサイトカインは炎症を媒介するために測定された。炎症誘発性サイトカイン濃度は出血性ショック後に上昇することがあり、血行動態を悪化させ、多臓器機能不全の発症に寄与することがある。
【0063】
HS/Rに供されたマウスにおいて肝臓傷害が生じたかどうか確かめるために、血清中アラニンアミノ転移酵素(ALT)濃度の比色分析を使用した。アラニンアミノ転移酵素試験は肝機能検査として知られる検査群の1つであり、肝臓損傷をモニタリングするのに用いられる。アラニンアミノ転移酵素は、肝臓において通常発現する酵素であり、正常条件下では血清試料に非常に低い濃度で存在する。高い血清中ALT濃度は肝細胞死および/または肝不全を示している。
【0064】
ミエロペルオキシダーゼ活性
肺のMPO活性は以下のように観察した:肺を切除し、食塩水で洗浄し、液体窒素中で凍結させた。試料を解凍し、20mmol/Lリン酸カリウム(pH7.4)中でホモジナイズした。試料を15,000×gで4℃で30分間遠心分離して、ペレットを得た。ペレットを、0.5%臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(hesadecyltrimethylammonium bromide)を含む50mmol/Lリン酸カリウム(pH6.0)に再懸濁した。試料を超音波処理し、次いで、15,000×gで4℃で10分間遠心分離した。次いで、上清5μLを、反応緩衝液(530nmol/L o-ジアニシジンおよび150nmol/L H2O2を含む50mmol/Lリン酸カリウム(pH6.0))196μLに添加した。光吸光度(490nmおよび620nm)を読み取り、標準と比較した。試料中のタンパク質含有量はビシンコニン酸アッセイ(BCA)を使用して測定した。結果を、存在するタンパク質の総量に対して標準化した。
【0065】
低酸素画像化
組織低酸素をモニタリングするためにEF5(2-[2-ニトロ-1H-イミダゾール-1-イル]-N-(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)アセトアミド)の取り込みを観察する技法は十分に確立されており、信頼性がある。EF5の送達および染色は以下のように行った:EF5(10mM保存液10μl/g;ip;低酸素画像化グループ(Hypoxia Imaging Group),ペンシルバニア大学(University of Pennsylvania))を、ショック開始の30分後に各動物に投与した。動物をショック開始の90分後に屠殺し、製造業者のプロトコールによるEF5免疫組織化学分析のために、肝臓を採取した。染色強度は、動物1匹あたり10枚の異なる切片の平均蛍光を測定することによって求めた(n=5/群;メタモルフ(MetaMorph)(商標))。EF5は全ての細胞に取り込まれるニトロイミダゾールであり、還元することができる。酸素正常状態では還元型EF5からの電子は酸素に移動し、電子の「空転サイクル」が存在する。低酸素状態では、ニトロイミダゾールはさらに還元されて、ニトロソアミンおよびヒドロキシアミンが形成される。これらの形の化合物は細胞内のタンパク質に不可逆的に結合し、次いで、免疫組織化学によって検出することができる。従って、EF5結合の程度は酸素状態の間接的な尺度として使用することができる。インビボ環境では、陽性のEF5染色は組織低酸素と直接関連している。
【0066】
組織学
採取された腸を洗浄し、2%パラホルムアルデヒドで2時間固定し、次いで、30%スクロースで12時間固定した。切片を冷2-メチルブタン中でゆっくりと凍結させた。切片を、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)を使用して染色し、構造変化を評価した。
【0067】
CO曝露
マウスを250ppmの濃度のCOに曝露した。簡単に述べると、ステンレススチール製混合ボンベの中で1%COを含む空気と空気(21%酸素)を混合し、次いで、12L/minの流速で3.70 ft3ガラス曝露室に向けた。室内のCO濃度を連続測定するために、CO分析器(インタースキャン(Interscan),Chatsworth,CA)を使用した。CO濃度を常に250ppmに維持した。必要に応じて、マウスを曝露室の中に入れた。
【0068】
ほとんどの実験において、HS/R期間全体を通して、マウスをCO(250ppm)または標準的な室内気(対照)で処置した。すなわち、CO投与は2.5時間のHS期間の始めに開始し、4時間の輸液蘇生期間の後に終了する。しかしながら、ある実験では(輸液蘇生法が24時間行われる場合)、蘇生期間の間のみマウスをCOまたは室内気で処置した(図5を参照のこと)。全ての場合において、マウスを蘇生期間後に屠殺した。
【0069】
一酸化炭素は出血性ショック蘇生モデルにおける多臓器傷害を防ぐ
一酸化炭素の吸入は中心血行動態に影響を及ぼさない
偽動物およびショックを与えた動物を麻酔し、前記のように動脈カテーテルおよび静脈カテーテルを挿入した。偽群およびショック群において、「ショック」期間全体を通して平均動脈圧(MAP)をモニタリングした。偽手術を受けたマウスにおいて、CO処置(250ppm)は空気対照と比較してMAPも心拍も変えなかった。同様に、MAPを25mmHgにするために流された血液の出血量は、CO処置マウスおよび空気処置マウスにおいて同じであった。25mmHgのMAPは、マウスにおいて出血性ショックが生じるレベルであると当技術分野において認められている。COは可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化することが知られており、血管拡張性を有する可能性があるが、これらの試験で用いられた用量では全身血圧に対して測定可能な影響は無かった。表1(以下)から、CO投与は健常マウスのMAPに影響を及ぼさないことが分かる。さらに、表1から、CO投与は、MAPを25mmHgにするためにマウスから取り出すのに必要とされる血液量に影響を及ぼさなかったことが分かる。
【0070】
【表1】

【0071】
COは、HS/Rにより誘導される血清中IL-6を減少させ、HS/Rにより誘導される血清中IL-10濃度を増加させる
【0072】
IL-6などの炎症誘発性サイトカインの濃度は出血性ショック後に上昇することがある。これらのサイトカインは血行動態を悪化させ、多臓器機能不全の発症に寄与することがある。従って、HS/Rにより誘導される血清中IL-6濃度増加に対するCOの影響を調べた。蘇生の4時間後にサイトカイン濃度を調べた。HS/R群の血清中IL-6濃度は偽対照より2.82倍高かった(図1;P<0.05)。このIL-6増加はCO処置動物において著しく阻止された(未処置HS/Rマウスと比較してP<0.05)。従って、CO投与は、HS/Rに供された動物において血清中IL-6濃度を減少させる。COにより誘導されるIL-6の減少は、COが保護をもたらす機構の1つであるかもしれない。
【0073】
さらに、血清中IL-10(抗炎症性サイトカイン)濃度に対するCOの影響を調べた。このHS/Rモデルでは、CO処置によって、ショックを与えたマウスの血清中IL-10濃度が5.4倍増加した(図2;偽およびショック対照と比較してP<0.05)。従って、CO投与は、HS/Rに供された動物において血清中IL-10濃度を増加させた。COによるこの抗炎症性サイトカインの濃度増加は、COが保護をもたらす別の機構であるかもしれない。
【0074】
COはHS/R後に肝臓、肺、および腸の傷害を減少させる
COがHS/Rにより誘導される臓器傷害を防ぐことができるかどうかを調べた。前記のように、血清、肝臓、肺、および腸を蘇生の4時間後に採取した。肝臓、肺、および腸の傷害を、それぞれ、血清中ALT(図3)、肺MPO活性(図6)、および腸組織(図4A〜4D)を試験することによって調べた。HS/Rは全ての場合において傷害および組織損傷をもたらした(図3、図4B、および図6を参照のこと)。偽動物では測定可能な影響を及ぼさなかったCO処置は、これらの傷害を防いだ。HS/Rに供された動物では、COは、未処置マウスと比較して血清中ALT(図3)および肺MPO活性(図6)を著しく低下させた(P<0.05)。腸傷害に関して、COで処置されたショックマウスの腸組織(図4D)は、COおよび空気で処置された偽対照(それぞれ、図4Cおよび図4A)とよく似ていた。従って、CO投与は、HS/Rに供された動物における肝臓、肺、および腸の傷害を減少させるように思われる。
【0075】
治療用COは臓器傷害を防ぐことができる
前記の全ての実験において、CO処置は動物の出血と同時に開始した。従って、CO送達が蘇生期間の間に開始しても臓器傷害を防ぐかどうかを調べた。マウスを2.5時間のHSに供した後に、24時間の輸液蘇生に供した。24時間輸液蘇生期間の間にマウスにCOを投与した(HS期間にはCOを投与しなかった)。蘇生間のCO処置の開始は4時間後に肺MPO活性を著しく改善したが(図5A)、蘇生後4時間の時点で肝臓傷害がアッセイされた時、肝臓傷害に対する明らかな保護は無かった(データ示さず)。しかしながら、さらに後の時点(蘇生後24時間)で肝臓傷害がアッセイされた時、CO処置マウスの血清中ALT濃度は、未処置ショックマウスの血清中ALT濃度と比較して有意に低かった(図5B)。従って、CO処置を輸液蘇生の開始まで遅らせた時でさえも、CO投与は、HS/Rに供された動物における肝臓傷害/不全を実質的に減少させるように思われる。
【0076】
一酸化炭素は肝臓低酸素を減少させる
COが保護をもたらす可能性のある機構の1つは、出血により誘導される組織低酸素の減少によるものである。ニトロイミダゾールEF5を使用して、組織低酸素に及ぼすCOの影響を調べた。低酸素状態では、EF5は還元され、細胞内タンパク質に不可逆的に結合する。細胞低酸素をモニタリングするために、この化合物に対して試料を免疫染色することができる。偽マウスおよびショックマウスを未処置のままにするか、COで処置した(250ppm;ショック開始時に開始した)。ショック開始の30分後に、EF5(10mM保存液10μl/g;ip)を各動物に投与した。ショック開始の90分後に動物を屠殺し、前記のようにEF5免疫組織化学分析のために肝臓を採取した。空気処置偽対照と比較して、空気処置ショックマウスの肝臓におけるEF5染色は17±1.7倍増加した(P<0.01,図7)。EF5染色は中心静脈の周りで最も顕著に増加した。CO処置によって、ショック動物の肝臓のEF5染色は減少し、空気処置偽対照と比較して染色は3.7±0.7倍しか増加しなかった(空気処置ショックマウスと比較してP<0.05)。CO処置偽対照は、空気処置偽対照と比較して肝臓低酸素の増加を示さなかった。これらのデータは、COが出血に伴う組織低酸素を減少させることを示唆している。
【0077】
COはil-10-/-マウスの臓器傷害を防がない
保護が、IL-10発現を増大させるCOの能力に部分的に関連するかどうか調べるために、IL-10欠損マウス(il-10-/-)において、HS/RをCO投与と共に、およびCO投与なしで行った。肺傷害および肝臓傷害の測定値として、それぞれ肺MPO活性よび血清中ALTを使用した時、COは、前記のマウスにおいてHS/Rにより誘導される臓器傷害を防ぐように思われなかった(図8Aおよび図8Bを参照のこと)。これらの結果は、IL-10がCOの保護作用の一部を媒介する可能性があるという仮説と一致している。しかしながら、これらのil-10-/-マウスにおけるHS/R誘導傷害は、HS/R後のALTおよびMPOの著しい増加により示されるように、遺伝的に一致した野生型(C57/BL6)と比較した時に顕著であった。傷害に対するil-10-/-マウスの感受性増大および出血に対する反応の悪化は、これらのマウスではCOの保護能力が無いことを説明しているのかもしれない。
【0078】
本発明の多くの態様が説明された。それにもかかわらず、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更を加えることができることが理解されるだろう。従って。他の態様も以下の特許請求の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】HS/Rに供されたマウスにおける血清中IL-6濃度に対するCOの影響を示す棒グラフである。N=3〜4/群。
【図2】HS/Rに供されたマウスにおける血清中IL-10濃度に対するCOの影響を示す棒グラフである。N=3〜4/群。
【図3】HS/Rに供されたマウスにおける血清中アラニンアミノ転移酵素(ALT)濃度に対するCOの影響を示す棒グラフである。N=3〜4/群。
【図4】HS/Rに供されたマウスにおける腸傷害に対するCOの影響を示す腸切片写真である。4A:HS/Rに供されていない空気曝露マウス。4B:HS/Rに供された空気曝露マウス。4C:HS/Rに供されていないCO曝露マウス。4D:HS/Rに供されたCO曝露マウス。N=3〜4/群。
【図5A】COが輸液蘇生中にのみ投与された時の、HS/Rに供されたマウスの肺におけるミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性に対するCOの影響を示す棒グラフである。
【図5B】COが輸液蘇生中にのみ投与された時の、HS/Rに供されたマウスにおける血清中ALT濃度に対するCOの影響を示す棒グラフである。N=3〜4/群。
【図6】HS/Rに供されたマウスの肺におけるMPO活性に対するCOの影響を示す棒グラフである。
【図7】出血により引き起こされた肝臓低酸素に対するCOの影響を示す棒グラフである。
【図8】Aは、HS/Rに供されたil-10-/-マウスにおける血清中ALT濃度に対するCOの影響を示す棒グラフである。Bは、HS/Rに供されたil-10-/-マウスの肺におけるMPO活性に対するCOの影響を示す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における出血性ショックを治療する方法であり、以下の段階を含む方法:
出血性ショックが生じていると診断された患者に、出血性ショックに起因する組織損傷を減少させるのに有効な量の一酸化炭素を含む薬学的組成物を投与する段階。
【請求項2】
輸血、再水和、外科手術、抗生物質療法、および血管作用薬療法からなる群より選択される少なくとも1つの治療を患者に投与する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
薬学的組成物がガス状であり、吸入を介して患者に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
薬学的組成物がガス状であり、肺以外の患者の臓器に局所投与される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
薬学的組成物がガス状であり、患者の腹腔に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
薬学的組成物が液状であり、患者に経口投与される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
薬学的組成物が液状であり、患者の臓器に局所投与される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
薬学的組成物が液状であり、患者の腹腔に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
薬学的組成物が液状であり、患者に静脈内投与または腹腔内投与される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
有効な治療の非存在下で生じたものより低いレベルの全身組織損傷を観察する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
出血性ショックの徴候について患者をモニタリングする段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
患者における出血性ショックを治療する方法であり、以下の段階を含む方法:
出血性ショックの危険性があると診断された患者に、出血性ショックに起因する全身組織損傷を減少させるのに有効な量の、一酸化炭素を含む薬学的組成物を投与する段階;および
出血性ショックの徴候について患者をモニタリングする段階。
【請求項13】
輸血、再水和、外科手術、抗生物質療法、および血管作用薬療法からなる群より選択される少なくとも1つの治療を患者に投与する段階をさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
薬学的組成物がガス状であり、吸入を介して患者に投与される、請求項12記載の方法。
【請求項15】
薬学的組成物がガス状であり、肺以外の患者の臓器に局所投与される、請求項12記載の方法。
【請求項16】
薬学的組成物がガス状であり、患者の腹腔に投与される、請求項12記載の方法。
【請求項17】
薬学的組成物が液状であり、患者に経口投与される、請求項12記載の方法。
【請求項18】
薬学的組成物が液状であり、患者の臓器に局所投与される、請求項12記載の方法。
【請求項19】
薬学的組成物が液状であり、患者の腹腔に投与される、請求項12記載の方法。
【請求項20】
薬学的組成物が液状であり、患者に静脈内投与または腹腔内投与される、請求項12記載の方法。
【請求項21】
患者における出血性ショックを治療する方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)出血性ショックが生じている患者または出血性ショックの危険性がある患者を特定する段階;
(b)患者に輸液蘇生法を投与する段階;および
(c)段階(b)と同時に、または段階(b)の後に、出血性ショックに起因する全身組織損傷を減少させるのに有効な量の一酸化炭素を含む薬学的組成物を患者に投与する段階。
【請求項22】
輸液蘇生法を投与する段階が、液体の一酸化炭素組成物を患者に投与する段階を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
液体の一酸化炭素組成物が一酸化炭素飽和リンガー溶液である、請求項21記載の方法。
【請求項24】
輸液蘇生法を投与する段階が、一酸化炭素で部分的にまたは完全に飽和された血液を患者に投与する段階を含む、請求項21記載の方法。
【請求項25】
輸液蘇生法を投与する段階が、一酸化炭素飽和リンガー溶液を患者に投与する段階をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項26】
薬学的組成物がガス状であり、吸入を介して患者に投与される、請求項21記載の方法。
【請求項27】
薬学的組成物がガス状であり、肺以外の患者の臓器に局所投与される、請求項21記載の方法。
【請求項28】
薬学的組成物がガス状であり、患者の腹腔に投与される、請求項21記載の方法。
【請求項29】
薬学的組成物が液状であり、患者に経口投与される、請求項21記載の方法。
【請求項30】
薬学的組成物が液状であり、患者の臓器に局所投与される、請求項21記載の方法。
【請求項31】
薬学的組成物が液状であり、患者の腹腔に投与される、請求項21記載の方法。
【請求項32】
患者における出血性ショックを治療する方法であり、以下の段階を含む方法:
出血性ショックを引き起こすのに十分であり得る失血が生じていると診断された患者に、出血性ショックに起因する全身組織損傷を減少させるのに有効な量の溶解一酸化炭素を含む全血または血液成分を投与する段階。
【請求項33】
患者が外科手術中である、または外科手術を受けたことがある、請求項32記載の方法。
【請求項34】
患者において輸注を行う方法であり、以下の段階を含む方法:
(a)患者への輸注に適した全血または血液成分を提供する段階;
(b)全血または血液成分を一酸化炭素で部分的にまたは完全に飽和させる段階;および
(c)部分的にまたは完全に飽和された全血または血液成分を患者に注入し、それにより患者において輸注を行う段階。
【請求項35】
患者が、出血性ショックが生じている、または出血性ショックの危険性があると診断されている、請求項34記載の方法。
【請求項36】
患者における出血性ショックを治療する方法であり、以下の段階を含む方法:
(a)出血性ショックが生じている患者または出血性ショックの危険性がある患者を特定する段階;
(b)一酸化炭素ガスを含む加圧ガスを含む容器を準備する段階;
(c)容器から加圧ガスを放出して、一酸化炭素ガスを含む雰囲気を形成する段階;および
(d)患者を該雰囲気に曝露する段階であり、該雰囲気中の一酸化炭素の量は出血性ショックに起因する全身組織損傷を減少させるのに十分である、段階。
【請求項37】
患者が少なくとも1時間連続して雰囲気に曝露される、請求項36記載の方法。
【請求項38】
患者が少なくとも6時間連続して雰囲気に曝露される、請求項36記載の方法。
【請求項39】
患者が少なくとも24時間連続して雰囲気に曝露される、請求項36記載の方法。
【請求項40】
患者の出血性ショックの症状をモニタリングする段階をさらに含む、請求項36記載の方法。
【請求項41】
医療グレードの圧縮一酸化炭素ガスを含み、患者における出血性ショックの有害な後遺症を減少させるためにガスを使用できることを表示するラベルを備える、容器。
【請求項42】
有害な後遺症が全身炎症を含む、請求項41記載の容器。
【請求項43】
有害な後遺症が全身組織傷害を含む、請求項41記載の容器。
【請求項44】
一酸化炭素ガスが酸素含有ガスと混合されている、請求項41記載の容器。
【請求項45】
一酸化炭素ガスが少なくとも約0.025%の濃度で混合物中に存在する、請求項44記載の容器。
【請求項46】
一酸化炭素ガスが少なくとも約0.05%の濃度で混合物中に存在する、請求項44記載の容器。
【請求項47】
一酸化炭素ガスが少なくとも約0.10%の濃度で混合物中に存在する、請求項44記載の容器。
【請求項48】
一酸化炭素ガスが少なくとも約1.0%の濃度で混合物中に存在する、請求項44記載の容器。
【請求項49】
一酸化炭素ガスが少なくとも約2.0%の濃度で混合物中に存在する、請求項44記載の容器。
【請求項50】
一酸化炭素で部分的にまたは完全に飽和された全血または血液成分を含む容器であって、該容器は、出血性ショックの有害な後遺症を減少させるために全血または血液成分を患者に投与できることを表示するラベルを備える、容器。
【請求項51】
以下の段階を含む、ビジネス方法:
(a)患者への輸注に適した全血または血液成分を提供する段階;
(b)血液または血液成分を一酸化炭素で処理して、血液/一酸化炭素製品を製造する段階;および
(c)血液/一酸化炭素製品を、輸注の必要のある患者に血液/一酸化炭素製品を投与するための説明書と共に顧客に供給する段階。
【請求項52】
(b)が、一酸化炭素を含む雰囲気に血液を曝露する段階を含む、請求項51記載のビジネス方法。
【請求項53】
顧客が病院または介護者である、請求項51記載のビジネス方法。
【請求項54】
著しい失血が生じた患者に血液/一酸化炭素製品を投与するための説明書を含む、請求項51記載のビジネス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−514621(P2006−514621A)
【公表日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−551490(P2004−551490)
【出願日】平成15年9月30日(2003.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2003/030956
【国際公開番号】WO2004/043341
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(505167576)ユニバーシティー オブ ピッツバーグ オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケーション (2)
【出願人】(503469393)イエール ユニバーシティ (11)
【Fターム(参考)】