説明

出隅用外壁パネル

【課題】 経年によりパネル成形体に収縮現象が生じた場合でも、クラックの発生を抑制できる出隅用外壁パネルを提供する。
【解決手段】 この出隅用外壁パネル1は、コンクリートまたはセメント系の硬化性流動材料の成形体からなるパネル成形体2と、下地鉄板3と、この下地鉄板3に設けられてパネル成形体2に埋め込まれるアンカー部材4とを有する。パネル成形体2は、互いに断面L字状に折れ曲がった2つの壁部2aを有する。アンカー部材4は、下地鉄板3に形成された縦長の長孔に挿通したビス5で下地鉄板3に取付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カーテンウォールなどの出隅部を構成する出隅用外壁パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
カーテンウォールなどの出隅部を構成する出隅用外壁パネルの従来例として、図11に示す構造のものが知られている。この出隅用外壁パネルは、ガラス繊維補強コンクリート(以下、場合により「GRC」と略称する)などの成形体からなる断面L字状のパネル成形体32の内側に、接着剤34で下地鉄板33を固定すると共に、さらにパネル成形体32の外側からねじ込んだビス35で下地鉄板33をパネル成形体32に締結している。
【特許文献1】特開2003−278358号公報
【特許文献2】特開2006−104692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、GRCなどからなるパネル成形体32には、経年での乾燥や炭酸化などの収縮現象が生じる。このため、上記構成の出隅用外壁パネルでは、パネル成形体32の収縮時に、パネル成形体32の拘束部を支点として内部応力が発生し、内部応力が破断強度を越えることに起因して、クラックが発生する場合がある。また、パネル成形体32は、外側からビス35をねじ込んで下地鉄板33に固定するため、ビス35の取付孔の水密処理が必要となる。
【0004】
この発明の目的は、経年によりパネル成形体に収縮現象が生じた場合でも、クラックの発生を抑制できる出隅用外壁パネルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の出隅用外壁パネルは、コンクリートまたはセメント系の硬化性流動材料の成形体からなり、互いに断面L字状に折れ曲がった2つの壁部を有するパネル成形体と、このパネル成形体の内側に取付けられた下地鉄板と、この下地鉄板に設けられて前記パネル成形体に埋め込まれるアンカー部材とを有し、前記アンカー部材は、前記下地鉄板に形成された縦長の長孔に挿通したビスで下地鉄板に取付けられることを特徴とする。
この構成によると、パネル成形体に埋め込まれるアンカー部材が、下地鉄板に形成された縦長の長孔に挿通したビスによる締結で下地鉄板に取付けられるので、経年によるパネル成形体の収縮現象が生じた場合でも、長孔内でビスの相対的な移動が許容される。このため、パネル成形体は下地鉄板に拘束されることなく下方に収縮でき、応力の発生を緩和できる。これにより、応力の発生に起因するクラックの発生を抑制できる。また、パネル成形体は、その中に埋め込まれるアンカー部材で下地鉄板に固定されるため、パネル成形体を貫通させるビスで取付けるものと異なり、パネル成形体の外面にビス孔が生じず、水密性に優れたものとなる。
【0006】
この発明において、前記アンカー部材の複数個が前記下地鉄板の内側に縦に並べて取付けられ、最下位置のアンカー部材は、前記下地鉄板に形成された丸孔に挿通したビスで下地鉄板に取付けられるものであってもよい。
この構成の場合、最下位置のアンカー部材は、下地鉄板に形成された丸孔に挿通したビスで下地鉄板に取付けられ、下地鉄板に対して位置ずれを生じないため、パネル成形体の下方への垂れ下がりが阻止される。他の各アンカー部材の取付用の孔は長孔とするため、パネル成形体の自重による引張応力を緩和でき、その引張応力に起因するクラックの発生および成長を防止することができる。
【0007】
この発明において、前記アンカー部材は、前記パネル成形体の2つの壁部に跨がって埋め込まれ、前記下地鉄板の長孔および丸孔が下地鉄板の幅方向に分けて複数形成されていてもよい。
このようにアンカー部材がパネル成形体の2つの壁部に跨がって埋め込まれ、また上記長孔および丸孔が下地鉄板の幅方向に分けて複数形成されていると、パネル成形体の下地鉄板への固定が安定する。
【発明の効果】
【0008】
この発明の出隅用外壁パネルは、コンクリートまたはセメント系の硬化性流動材料の成形体からなり、互いに断面L字状に折れ曲がった2つの壁部を有するパネル成形体と、このパネル成形体の内側に取付けられた下地鉄板と、この下地鉄板に設けられて前記パネル成形体に埋め込まれるアンカー部材とを有し、前記アンカー部材は、前記下地鉄板に形成された縦長の長孔に挿通したビスで下地鉄板に取付けられるため、経年によりパネル成形体に収縮現象が生じた場合でも、クラックの発生を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明の一実施形態を図1ないし図7と共に説明する。この出隅用外壁パネル1の平面図を図1(A)に、その屋内側から見た正面図を図1(B)にそれぞれ示す。この出隅用外壁パネル1は、カーテンウォールにおける出隅部を構成するパネルである。図2に拡大水平断面図で示すように、この出隅用外壁パネル1は、互いに断面L字状に折れ曲がった2つの壁部2aを有するパネル成形体2と、このパネル成形体2の内側に取付けられる下地鉄板3と、この下地鉄板3に設けられて前記パネル成形体2に埋め込まれるアンカー部材4とを有する。アンカー部材4は、ビス5により下地鉄板3に取付けられる。
【0010】
パネル成形体2は、コンクリートまたはセメント系の硬化性流動材料の成形体からなる。硬化性流動材料は、例えばガラス繊維補強コンクリートまたはガラス繊維補強セメントである。パネル成形体2の表側には意匠用の凹凸2bが施されている。
【0011】
下地鉄板3は、パネル成形体2の内側に沿う断面略L字状とされている。具体的には、幅方向中間部の中間平板部3aと、この中間平板部3aの両側端から内側に略45度傾斜して折れ曲がった両斜片部3bと、これら両斜片部3bの側端部に形成され図2に鎖線で示す出隅部の柱30に取付けられる柱取付部3cとを有する。
【0012】
アンカー部材4は複数個(ここでは4個)からなり、図1(B)のように下地鉄板2の内側に縦に並べて取付けられる。図5は、アンカー部材4の斜視図を示す。このアンカー部材4は、前記下地鉄板3の中間平板部3aに重なる平板状の中間片部4aと、この中間片部4aの両側端から内側に略45度傾斜して折れ曲がり前記下地鉄板3の両斜片部3bにそれぞれ重なる両斜片部4bと、これら両斜片部4bの上下端から外側寄りに延びる断面L字状および断面逆L字状の突出片部4cとを有する。
【0013】
前記中間片部4aには、前記パネル成形体2の成形工程において、このアンカー部材4をパネル成形体2に埋め込むときにアンカー部材4を支持する治具(図示せず)の雄ねじ部を螺合させるための雌ねじとなるねじ孔6が形成されている。ここでは、中間片部4aに開口した丸孔に整合するように、その中間片部4aの外側からナットを溶接することで、前記ねじ孔6が形成されている。また、前記両斜片部4bには、前記ビス5(図2)が螺合するねじ孔7がそれぞれ形成されている。さらに、前記突出片部4cのそれぞれには、前記パネル成形体2の成形時に、パネル成形体2とアンカー部材4との結合を高めるための通孔8が複数個形成されている。
なお、図6(A),(B),(C)は、図5のアンカー部材4を矢印A,B,Cの方向から見た図をそれぞれ示している。
【0014】
下地鉄板3には、図3および図4に示すように、各高さ位置のアンカー部材4をビス5(図2)で取付けるためのビス挿通用の孔9,10が形成されている。図1(B)にA部、B部、C部として示す上位3段の各高さ位置のアンカー部材4を取付けるためのビス挿通用の孔9は、図3のように縦長の長孔とされている。この場合の長孔9は、アンカー部材4の両斜片部4bの各ねじ孔7(図5)に対応させて、下地鉄板3の幅方向に分けて複数形成されている。具体的には、下地鉄板3の両斜片部3bにそれぞれ前記長孔9が形成されている。
これに対して、図1(B)に(D)部として示す最下位置のアンカー部材4を取付けるためのビス挿通用の孔10は、図4のように丸孔とされている。この場合の丸孔10も、アンカー部材4の両斜片部4bの各ねじ孔7(図5)に対応させて、下地鉄板3の両斜片部3bにそれぞれ形成されている。
なお、下地鉄板3における各アンカー部材4の取付け位置では、その中間平板部3aに、図3および図4に示すようにアンカー部材4の前記ねじ孔6(図5)に整合する丸孔11が形成されており、この丸孔11を通して治具の雄ねじ部(図示せず)をアンカー部材4のねじ孔6に螺合させることができる。
【0015】
図7は、パネル成形体2の成形工程の説明図を示す。この成形では、断面略L字状の型枠本体22と、この型枠本体22の両端部に設けられる一対の型枠側部体23とでなる型枠21が用いられる。この成形では、予め下地鉄板3に各アンカー部材4を取付けた下地鉄板・アンカー組20を準備する。型枠21は、2点鎖線で示す架台24の上に、上向きに開口する状態に設置され、型枠側部体23はボルト25により架台24に固定される。この設置状態で、型枠本体22内に所定レベルまで硬化性流動材料を打設する。次に打設された硬化性流動材料内に、上方から前記下地鉄板・アンカー組20を押し込むことで、硬化性流動材料を、型枠本体22の成形用型面と下地鉄板3との間に流動させる。このとき、下地鉄板・アンカー組20は、アンカー部材4のねじ孔6(図5)に雄ねじ部を螺合させた治具により、所定姿勢に支持される。この後、硬化性流動材料を養生し、養生により硬化した硬化性流動材料の成形体、つまりパネル成形体2を前記型枠21から脱型することで、出隅用外壁パネル1が得られ、治具の雄ねじ部はアンカー部材4から取り外される。
【0016】
この構成の出隅用外壁パネル1によると、パネル成形体2に埋め込まれるアンカー部材4が、下地鉄板3に形成された縦長の長孔9に挿通したビス5による締結で下地鉄板3に取付けられるので、長孔9内でビス5の相対的な移動が許容され、経年によるパネル成形体2の収縮現象が生じた場合でも、パネル成形体2は下地鉄板3に拘束されることなく下方に収縮でき、応力の発生を緩和できる。これにより、応力の発生に起因するクラックの発生を抑制できる。
【0017】
また、この実施形態では、アンカー部材4の複数個(ここでは4個)が下地鉄板3内側に縦に並べて取付けられているが、最下位置のアンカー部材4は、下地鉄板3に形成された丸孔10に挿通したビス5で締結して下地鉄板3に取付けられている。そのため、最下位置のアンカー部材4と下地鉄板3との位置ずれは許容されず、パネル成形体2の下部への垂れ下がりが阻止される。最下位置の孔は丸孔10としたが、他の孔については長孔9としているので、パネル成形体2の自重による引張応力を緩和でき、その引張応力に起因するクラックの発生および成長を防止することができる。
【0018】
なお、下地鉄板3の長孔9内でビス5の上下に隙間が生じるが、その隙間はアンカー部材4が重なることで閉じられるため、パネル成形体2の成形に用いる硬化性流動材料が流動性の高いものであっても、充填時に長孔9内から漏れることがない。
また、パネル成形体2は、その中に埋め込まれるアンカー部材4で下地鉄板4に固定されるため、従来のパネル成形体を貫通させるビスで取付けるものと異なり、パネル成形体2の外面にビス孔が生じず、水密性に優れたものとなる。
【0019】
図8ないし図10は、この発明の他の実施形態を示す。この出隅用外壁パネル1は、図8に水平拡大断面図で示すように、図1〜図7の実施形態において、下地鉄板3の中間平板部3aにアンカー部材4Aを2つのビス5で締結し、下地鉄板3の両斜片部3bにはアンカー部材は設けていない。ここでは、下地鉄板3の両斜片部3bに、アンカー部材に代用されるビス5Aがパネル成形体2側に向けて突出させてある。
【0020】
この実施形態の場合も、最下位置のアンカー部材4Aを除く上部位置の各アンカー部材4Aを下地鉄板3に取付けるビス5は、図9に示すように下地鉄板3の中間平板部3aに形成された縦長の長孔9に挿通してアンカー部材4Aのねじ孔(図示せず)に螺合する。また、アンカー部材に代用されるビス5Aも、最下位置のアンカー部材4Aを除く上部位置の各アンカー部材4Aの取付位置では、下地鉄板3の両斜片部3bに形成された縦長の長孔9に挿通してパネル成形体2側に突出させてある。
この場合、アンカー部材代用のビス5Aの雄ねじ部は、下地鉄板3の外側に配置される漏れ止めプレート12のねじ孔(図示せず)に螺合させてある。この漏れ止めプレート12により、長孔9のビス5Aで塞がれない部分が蓋締めされ、パネル成形体2の成形時に長孔9から硬化性流動材料が下地鉄板3の内側へ漏れ出るのを防止できる。なお、漏れ止めプレート12は、下地鉄板3に対して摺動自在とされており、長孔9に沿ってビス5Aが上下動するのを妨げない。
【0021】
最下位置のアンカー部材4Aを取付けるビス5は、図10に示すように下地鉄板3の中間平板部3aに形成された丸孔10に挿通してアンカー部材4Aのねじ孔(図示せず)に螺合する。また、アンカー部材に代用されるビス5Aも、最下位置のアンカー部材4Aの取付位置では、下地鉄板3の両斜片部3bに形成された丸孔10に挿通してパネル成形体2側に突出させてある。その他の構成は、図1〜図7に示した実施形態と同様である。
【0022】
この実施形態の出隅用外壁パネル1の場合も、パネル成形体2に埋め込まれるアンカー部材4Aが、下地鉄板3に形成された縦長の長孔9に挿通したビス5による締結で下地鉄板3に取付けられると共に、アンカー部材の代用となるビス5Aを下地鉄板3に形成された縦長の長孔9に挿通しているので、経年によるパネル成形体2の収縮現象が生じた場合でも、パネル成形体2は下地鉄板3に拘束されることなく下方に収縮でき、応力の発生を緩和できる。これにより、応力の発生に起因するクラックの発生を抑制できる。
【0023】
また、最下位置のアンカー部材4Aは、下地鉄板3に形成された丸孔10に挿通したビス5で下地鉄板3に取付けられると共に、最下位置のアンカー部材4Aの取付位置でアンカー部材の代用となるビス5Aも下地鉄板3に形成された丸孔10に挿通してパネル成形体2側へ突出しているので、パネル成形体2の下部への垂れ下がりが阻止される。また、パネル成形体2の自重による引張応力を緩和でき、その引張応力に起因するクラックの発生および成長を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(A)はこの発明の一実施形態に係る出隅用外壁パネルの平面図、(B)は同出隅用外壁パネルを屋内側から見た正面図である。
【図2】同外壁パネルの拡大水平断面図である。
【図3】同外壁パネルにおける下地鉄板の一部の拡大正面図である。
【図4】同外壁パネルにおける下地鉄板の他部の拡大正面図である。
【図5】同外壁パネルにおけるアンカー部材の斜視図である。
【図6】(A),(B),(C)はそれぞれ図5のアンカー部材を同図における矢印A,B,Cの方向から見た図である。
【図7】同外壁パネルにおけるパネル成形体の成形工程の説明図である。
【図8】この発明の他の実施形態に係る出隅用外壁パネルの拡大水平断面図である。
【図9】同外壁パネルにおける下地鉄板の一部の拡大正面図である。
【図10】同外壁パネルにおける下地鉄板の他部の拡大正面図である。
【図11】従来例の水平断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1…出隅用外壁パネル
2…パネル成形体
2a…壁部
3…下地鉄板
4,4A…アンカー部材
5…ビス
5A…アンカー部材代用ビス
9…長孔
10…丸孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートまたはセメント系の硬化性流動材料の成形体からなり、互いに断面L字状に折れ曲がった2つの壁部を有するパネル成形体と、このパネル成形体の内側に取付けられた下地鉄板と、この下地鉄板に設けられて前記パネル成形体に埋め込まれるアンカー部材とを有し、
前記アンカー部材は、前記下地鉄板に形成された縦長の長孔に挿通したビスで下地鉄板に取付けられることを特徴とする出隅用外壁パネル。
【請求項2】
請求項1において、前記アンカー部材の複数個が前記下地鉄板の内側に縦に並べて取付けられ、最下位置のアンカー部材は、前記下地鉄板に形成された丸孔に挿通したビスで下地鉄板に取付けられる出隅用外壁パネル。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記アンカー部材は、前記パネル成形体の2つの壁部に跨がって埋め込まれ、前記下地鉄板の長孔および丸孔が下地鉄板の幅方向に分けて複数形成された出隅用外壁パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−249881(P2009−249881A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97761(P2008−97761)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】