説明

刃先を部分無電解メッキ処理した帯鋸及びそのメッキ装置

【課題】安価でありながら刃先の耐摩耗性、硬度、じん性及び耐衝撃性に優れたることで寿命が長い帯鋸の提供を目的とし、さらには、この帯鋸に好適な部分メッキ方法及び装置の提供を目的とする。
【解決手段】帯鋸の刃先部分にのみ、部分的に無電解ニッケルメッキ皮膜を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃先部分にのみ無電解メッキを施した帯鋸及び、そのためメッキ処理方法とメッキ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製材の分野にては、鋸断性に優れ刃先の寿命の長い帯鋸が要求される。
近年は、製材生産性向上を目的に挽き材の送り速度を速くする要求が高く、それだけ帯鋸の走行速度が速くなり帯鋸にかかる負荷が増大している。
【0003】
現在、帯鋸の刃先を硬化する方法としては、コバルトを主成分とし、クロム約30%、タングステン4〜15%含有するステライト(登録商標)を刃先に溶着することが一般に普及している。
しかし、ステライトは高価であり、より安価で高寿命の刃先硬化技術が要求されている。
一方、無電解ニッケルメッキの技術分野においては、Ni−P系及びNi−B系の無電解皮膜等が公知であり、さらに耐衝撃性、耐熱性に優れ、硬度が高く、耐摩耗性を改善したNi−P−B系メッキ皮膜も提案されている(特許文献1)。
これに対して特許文献2には、鋸刃全体を複合メッキ処理した技術を開示するものの、刃先部分のみを部分的に無電解ニッケルメッキを施した例は見当らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3027515号公報
【特許文献2】特開平7−308905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安価でありながら刃先の耐摩耗性、硬度、じん性及び耐衝撃性に優れることで寿命が長い帯鋸の提供を目的とし、さらには、この帯鋸に好適な部分メッキ方法及び装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る帯鋸は、帯鋸の刃先部分にのみ、部分的に無電解ニッケルメッキ皮膜を形成したことを特徴とする。
ここで、無電解ニッケルメッキは、Ni−P−B系メッキ皮膜であるとメッキ後に熱処理を施さなくても硬度が約Hv700ある。
また、この種のメッキ皮膜は約300℃の熱処理をすると硬度が約Hv1000まで向上し、さらに刃先の寿命が延びる。
Ni−P−B系のメッキ方法としては特許文献1に記載の方法を取り込むことができる。
【0007】
本発明に適した帯鋸の部分無電解メッキ処理方法は、帯鋸全体をメッキ液の温度付近まで加温した状態でメッキ液に帯鋸の刃先部分のみ浸漬することを特徴とする。
従来の無電解メッキは、例えば帯鋸全体等、処理製品全体をメッキ液にデッピングしていた。
これでは必要のない部分までメッキが施されコストアップの要因となる。
しかし、帯鋸の刃先だけを単にメッキ液に浸漬したのでは帯鋸本体が冷たく、刃先だけを約80〜90℃のメッキ液につけても、刃先が冷たいのでメッキ皮膜の品質が希望どおりに得られない問題があった。
【0008】
そこで本発明は、帯鋸全体をメッキ液の温度付近まで加温した状態でメッキ液に帯鋸の刃先部分のみを浸漬し、無電解ニッケルメッキを施すことにした。
従って、本発明の部分無電解メッキ装置は、帯鋸の刃先部分のみを浸漬するメッキ液槽と、当該メッキ液槽のメッキ液上部の空間を恒温に維持する加温手段とを備えたことを特徴とする。
メッキ液に帯鋸の刃先を浸漬する前に帯鋸を加温する手段は、各種手段を採用することができるが、例えばメッキ槽の液面上部空間を加温恒温室でおおう方法があり、またメッキ槽を恒温槽内に設置してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、帯鋸の刃先部分にのみ無電解ニッケルメッキを施す際に、帯鋸全体をメッキ液の温度に近い状態まで加温し、又は加温しつつ刃先部分のみをメッキ液に浸漬するようにしたことにより、メッキ皮膜の密着性及び硬度等の品質に優れた帯鋸が得られる。
これにより、SKS51等の材質からなる鋸身にばちあさり歯を形成したスウェージ刃に部分無電解ニッケルメッキを施すことで、従来のステライト溶着帯鋸よりも安価に、このステライト溶着帯鋸と同等以上の寿命が得られる。
また、従来のステライト溶着帯鋸の刃先の上に重ねて本発明に係る部分無電解メッキを施すことにより、寿命をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る帯鋸の部分図を示し、(b)は刃先部分の拡大図を示す。
【図2】本発明に係るメッキ装置の構造例を示す。
【図3】帯鋸の刃先の連続使用可能な寿命の評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る帯鋸1は、図1に示すように鋸身の本体部1bの刃先1aにばちあさり歯を形成してあり、この刃先1a部分にのみNi−P−B系メッキ皮膜M,カニボロン(登録商標)を施してある。
【0012】
メッキの処理手順としては帯鋸を常法に従いアルカリ脱脂→水洗→酸洗→水洗→電解洗浄→水洗→酸活性→水洗の前処理をする。
次に図2に示したようなメッキ装置を用いて、刃先1aにのみ部分的に無電解ニッケルメッキを施す。
メッキ装置は、一定温度に加温可能な恒温槽20の中にメッキ槽10を設けてある。
なお、本実施例ではメッキ槽10を恒温槽20内に設置したがメッキ槽の上部空間をおおうように恒温室を直接設けてもよい。
メッキ槽10の底部からは架台12を立設し、この上に、必要に応じて折り曲げた帯鋸1を載置するとメッキ液面11aの下に刃先1aのみが浸入し、メッキ液11には刃先のみが浸漬するようになっている。
メッキ液は図示を省略したが、ポンプ循環され80〜90℃に温調されていて、恒温槽20の内部もこの温度に一致するように温調されている。
これにより、帯鋸を恒温槽20に入れる際に鋸身が約80〜90℃に加温され、帯鋸全体がメッキ液温に近い状態に加温された状態にて刃先1aがメッキ液11に浸漬されるのでメッキ皮膜が安定して刃先1aの表面に形成される。
メッキ処理後は水洗、乾燥する。
【0013】
本発明に係るメッキ処理した帯鋸と比較例として従来のステライト溶着帯鋸を用いて、丸太木材を連続製材評価した結果を図3の表に示す。
発明品NO.1は、鋸身にばちあさり歯を形成したスウェージ歯に無電解メッキ(カニボロン)を10〜20μmを付着させた皮膜硬度はHv700であった。
発明品NO.2は、ステライト溶着した刃の上に上記と同様の無電解メッキを付着させた後に、さらに300℃の熱処理をしたものである。
皮膜硬度はHv1000であった。
比較品NO.3は、従来のステライト溶着したものである。
これらの帯鋸を用いて、実際に連続的に製材したところ、約8時間使用が可能であった。
従って、発明品NO.1は従来品の比較品NO.3と同等の寿命を示した。
なお、上記連続使用後に図1(b)に示す、あさり歯の側面1cを歯研ぎしたが、歯面1dのメッキ皮膜が剥がれることなく再度製材に使用できた。
また、発明品NO.2は、NO.1やNO.3の約2倍の16時間も連続使用が可能であった。
これにより、帯鋸の刃先部分に無電解メッキを施すことで寿命の改善が可能であることから明らかになった。
【符号の説明】
【0014】
1 帯鋸
1a 刃先
1b 本体部
10 メッキ槽
11 メッキ液
11a 液面
12 架台
20 恒温槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯鋸の刃先部分にのみ、部分的に無電解ニッケルメッキ皮膜を形成したことを特徴とする帯鋸。
【請求項2】
無電解ニッケルメッキ皮膜は、Ni−P−B系メッキ皮膜であることを特徴とする請求項1記載の帯鋸。
【請求項3】
帯鋸全体をメッキ液の温度付近まで加温した状態でメッキ液に帯鋸の刃先部分のみ浸漬することを特徴とする帯鋸の部分無電解メッキ処理方法。
【請求項4】
帯鋸の刃先部分のみを浸漬するメッキ液槽と、当該メッキ液槽のメッキ液上部の空間を恒温に維持する加温手段とを備えたことを特徴とする帯鋸部分無電解メッキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−221427(P2010−221427A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68617(P2009−68617)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(309005777)有限会社古曽部商店 (1)
【Fターム(参考)】