説明

刃先交換式溝入れ工具及び周面溝入れ加工方法

【課題】切削インサートの部品点数を増加させることなく、被削材の端面に沿って周面溝入れ加工する場合であっても加工精度を十分に確保できる刃先交換式溝入れ工具及び周面溝入れ加工方法を提供する。
【解決手段】切削インサート30は、インサート高さ軸線C3に関して回転対称、かつ、インサート仮想平面に関して面対称に形成され、インサート幅軸線C2が、他方の幅方向C2Aへ向かうに従い漸次被削材Wの回転する回転方向の前方側へ向けて傾斜し、インサート長手軸線C1が、一方の延在方向C1Aへ向かうに従い漸次工具仮想平面に接近するようにインサート本体31の下面側へ向けて延び、他方の切れ刃32Bにおける他方の幅方向C2Aとは反対側に位置する一方のコーナー部43Cが、一方の切れ刃32Aにおける一方のコーナー部43Aよりも他方の幅方向C2A側に配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃先交換式溝入れ工具及びこれを用いた周面溝入れ加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料等からなる被削材を回転軸線回りに回転させて、この被削材の外周面や回転軸線を中心に形成された加工穴の内周面に、切削インサートの切れ刃で溝入れ加工を施す刃先交換式溝入れ工具が知られている。例えば、図23に示す従来の刃先交換式溝入れ工具100は、軸状をなす工具本体1の先端部に、断面矩形の棒状に形成された切削インサート30が着脱自在に装着されている。切削インサート30は、棒状をなすインサート本体31の延在方向(図23における上下方向(Y方向))の両端部に、一対の切れ刃32を有している。そして、これら切れ刃32のうち工具本体1の外周面から突出された一方の切れ刃32Aが、被削材Wの加工穴Hの内周面Sに溝入れ加工(内径溝入れ)を施す。図23の例では、被削材Wには、内周面Sに隣接するとともに回転軸線WOに直交する奥面(端面)Bが形成されており、一方の切れ刃32Aは、この端面Bに沿うように回転軸線WOに直交するY方向に移動することにより内周面Sに対して溝入れ加工する。尚、切削インサート30は、インサート本体31の延在方向及び幅方向の中央を通るとともにこれら延在方向及び幅方向に垂直な高さ方向に延びるインサート高さ軸線C3に関して回転対称、かつ、このインサート高さ軸線C3を含み前記延在方向に直交するインサート仮想平面(不図示)に関して面対称に形成されており、工具本体1の仕様が左勝手か右勝手かに係わらず、両切れ刃32A、32Bを使用できる。
【0003】
また図23において、一対の切れ刃32のうち他方の切れ刃32Bは切削には供されず、一方の切れ刃32Aが摩耗や欠損等により使用に適さなくなった際に、インサート本体31の取り付け向きを延在方向に反転させることで、該切れ刃32Bが工具本体1の外周面から突出されて溝入れ加工に用いられる。
【0004】
また図24の例では、前述の切削インサート30が、軸状をなす刃先交換式溝入れ工具105の先端部に着脱自在に装着されている。そして、工具本体1の先端面から突出された一方の切れ刃32Aが、多段円柱状に形成された被削材Wの段部Uに沿うようにして回転軸線WOに直交するY方向に移動することにより、被削材Wの外周面に溝入れ加工(外径溝入れ)を施す。この例では、被削材Wの段部Uには、外周面の小径部分に隣接するとともに回転軸線WOに直交する端面Eが形成されており、一方の切れ刃32Aは、この端面Eに沿うように移動することにより前記小径部分に対して溝入れ加工する。
【0005】
このようにして、刃先交換式溝入れ工具100、105を用いた内径溝入れや外径溝入れなどの周面溝入れ加工が行われている。
また、このような溝入れ加工に用いられる他の切削インサートとして、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−115251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の刃先交換式溝入れ工具100、105においては、次のような課題を有していた。
切削インサート30は、そのインサート本体31の延在方向(図23、図24に示すインサート長手軸線C1)が被削材Wの端面B、Eに対して平行に延びて配置されており、一対の切れ刃32は、端面B、Eからの距離が互いに同一とされている。このような切削インサート30の配置状態で、一方の切れ刃32Aが被削材Wの端面B、Eから離間されて周面に溝入れ加工する際には特に問題はないが、切れ刃32Aが被削材Wの端面B、Eに沿って移動しつつ周面に対して溝入れ加工する場合には、他方の切れ刃32Bが端面B、Eに接触して傷付けてしまう。尚、図24の外径溝入れでは、被削材Wにおいて端面Eを形成した大径部分の直径φd1と、他方の切れ刃32Bから回転軸線WOまでの距離L3との関係が、d1/2<L3である場合には接触は無いが、d1/2≧L3となると接触することから、被削材Wの形状が制限される上、加工中に前記距離L3が縮小されていき前述の接触が生じることが考えられる。このような接触が生じると、被削材Wの加工精度が確保できないばかりか、未使用の他方の切れ刃32Bが傷んでしまうことになる。詳しくは、図25に示すように、他方の切れ刃32Bにおいて被削材Wの端面B、E側に位置するコーナー部43Cが、端面B、Eに接触する。このため、図23及び図24のような被削材Wの端面B、Eに沿った周面溝入れはできなかった。
【0008】
このような切れ刃32Bの端面B、Eへの接触を防止するために、例えば、工具本体1に装着する切削インサート30の姿勢を変えることが考えられる。すなわち、図26及び図27に示すように、切削インサート30のすくい面33側(インサート本体31の上面側)から見て、インサート本体31のインサート長手軸線C1が、一方の切れ刃32A側から他方の切れ刃32B側へ向かうに従い漸次被削材Wの端面B(E)から離間するように切削インサート30をY方向に対して傾斜させて、工具本体1に装着すればよい。これにより、切削インサート30において他方の切れ刃32Bの端面B(E)側に配置されたコーナー部43Cが、該端面B(E)から離間して配置されることから、前述の接触が防止される。
【0009】
しかしながら、この場合、一方の切れ刃32Aに着目すれば、図27に示すように、切れ刃32Aの正面切れ刃41は、回転軸線WOに平行な仮想線WO1に対して図中の角度αだけ傾斜されることになる。本来、溝入れ加工により形成される溝の溝底Dは、回転軸線WOに平行であることが要求されるが、前述のように正面切れ刃41が傾斜されることにより、切削された溝の溝底Dも回転軸線WOに対して角度αだけ傾斜してしまい、加工精度を十分に確保することができない。
【0010】
一方、特許文献1に記載された切削インサートにおいては、該切削インサートを前記インサート高さ軸線に関して回転対称に形成する一方で、前記インサート仮想平面に関して面対称には形成しておらず、インサート本体が全体に捩れたように形成されている。そして、切削インサートを工具本体に装着した際に、他方の切れ刃における端面B(E)側のコーナー部が、一方の切れ刃における端面B(E)側のコーナー部よりも該端面B(E)から離間されるようにしている。しかしながら、この場合、工具本体の仕様に合わせて、左勝手用及び右勝手用の切削インサートをそれぞれ用意しなければならず、部品点数が増加して管理が煩雑となる。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、切削インサートの部品点数を増加させることなく、被削材の端面に沿って周面溝入れ加工する場合であっても加工精度を十分に確保できる刃先交換式溝入れ工具及び周面溝入れ加工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち本発明は、回転軸線を中心に回転する被削材の周面に向けて切れ刃を突出させた切削インサートと、軸状をなし、先端部に前記切削インサートが着脱自在に装着される工具本体と、を有し、前記切れ刃で前記周面に溝入れ加工する刃先交換式溝入れ工具であって、前記切削インサートは、棒状をなすインサート本体の延在方向の両端部における該インサート本体の上面に一対の切れ刃を備え、前記インサート本体の延在方向の中央及び該延在方向に直交する幅方向の中央を通りこれら延在方向及び幅方向に直交するインサート高さ軸線に関して回転対称、かつ、前記インサート高さ軸線を含み前記延在方向に垂直なインサート仮想平面に関して面対称に形成され、前記切れ刃は、前記インサート本体の延在方向の端縁に形成されて前記幅方向に沿って延びる正面切れ刃と、この正面切れ刃の両端に配置されて前記幅方向にそれぞれ突出する一対のコーナー部と、前記コーナー部から前記延在方向に沿って該インサート本体の中央側に向かうに従い漸次互いの間隔を狭めるようにそれぞれ延びる一対の側面切れ刃とを有し、前記工具本体は、前記一対の切れ刃のうち一方の切れ刃を溝入れ方向へ向けて突出させて、前記切削インサートを装着しており、前記切削インサートは、前記インサート本体の延在方向の中央を通り前記幅方向に沿うインサート幅軸線が、前記幅方向のうち、前記一対のコーナー部における一方のコーナー部から他方のコーナー部に向かう方向である他方の幅方向へ向かうに従い漸次被削材の回転する回転方向の前方側へ向けて傾斜しており、前記インサート本体の幅方向の中央を通り前記延在方向に沿うインサート長手軸線が、前記一方の切れ刃における他方のコーナー部及び前記回転軸線を含む工具仮想平面に対して傾斜しているとともに、前記延在方向のうち、前記一対の切れ刃における他方の切れ刃から前記一方の切れ刃に向かう方向である一方の延在方向へ向かうに従い漸次前記工具仮想平面に接近するように前記インサート本体の下面側へ向けて延びており、前記他方の切れ刃における前記他方の幅方向とは反対側に位置する一方のコーナー部が、前記一方の切れ刃における前記一方のコーナー部よりも前記他方の幅方向側に配置されていることを特徴とする。
また本発明は、回転軸線を中心に回転する被削材の周面に向けて切れ刃を突出させた切削インサートと、軸状をなし、先端部に前記切削インサートが着脱自在に装着される工具本体と、を有する刃先交換式溝入れ工具を用いて、前記切れ刃で前記被削材の周面に溝入れ加工する周面溝入れ加工方法であって、前記切削インサートは、棒状をなすインサート本体の延在方向の両端部における該インサート本体の上面に一対の切れ刃を備え、前記インサート本体の延在方向の中央及び該延在方向に直交する幅方向の中央を通りこれら延在方向及び幅方向に直交するインサート高さ軸線に関して回転対称、かつ、前記インサート高さ軸線を含み前記延在方向に垂直なインサート仮想平面に関して面対称に形成され、前記切れ刃は、前記インサート本体の延在方向の端縁に形成されて前記幅方向に沿って延びる正面切れ刃と、この正面切れ刃の両端に配置されて前記幅方向にそれぞれ突出する一対のコーナー部と、前記コーナー部から前記延在方向に沿って該インサート本体の中央側に向かうに従い漸次互いの間隔を狭めるようにそれぞれ延びる一対の側面切れ刃とを有し、前記切削インサートを、前記一対の切れ刃のうち一方の切れ刃を溝入れ方向へ向けて突出させて前記工具本体に装着するとともに、該一方の切れ刃を前記溝入れ方向に沿って移動させることにより前記周面に対して溝入れ加工するときに、前記インサート本体の延在方向の中央を通り前記幅方向に沿うインサート幅軸線を、前記幅方向のうち、前記一対のコーナー部における一方のコーナー部から他方のコーナー部に向かう方向である他方の幅方向へ向かうに従い漸次被削材の回転する回転方向の前方側へ向けて傾斜させ、前記インサート本体の幅方向の中央を通り前記延在方向に沿うインサート長手軸線を、前記一方の切れ刃における他方のコーナー部及び前記回転軸線を含む工具仮想平面に対して傾斜させるとともに、前記延在方向のうち、前記一対の切れ刃における他方の切れ刃から前記一方の切れ刃に向かう方向である一方の延在方向へ向かうに従い漸次前記工具仮想平面に接近するように前記インサート本体の下面側へ向けて延在させ、前記他方の切れ刃における前記他方の幅方向とは反対側に位置する一方のコーナー部を、前記一方の切れ刃における前記一方のコーナー部よりも前記他方の幅方向側に配置することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具及び周面溝入れ加工方法によれば、工具本体の先端部から被削材の周面に向けて突出された切削インサートの一方の切れ刃における正面切れ刃が、インサート幅軸線に平行となるように前記他方の幅方向へ向かうに従い漸次被削材の回転する回転方向の前方側へ向けて傾斜しているので、この正面切れ刃は、被削材に対してポジティブ(正)角に設定される。従って、一方の切れ刃が切削した切屑の排出性が高められる。
【0014】
また、切削インサートのインサート長手軸線が、前記一方の延在方向へ向かうに従い漸次工具仮想平面に接近するように傾斜して、インサート本体の下面側へ向けて延びている。すなわち、前記工具仮想平面に対して、他方の切れ刃がインサート本体の上面側へ向けて離間されているので、一方の切れ刃のくさび角を大きく設定できる。従って、被削材に溝入れ加工する一方の切れ刃の刃先強度が十分に確保されている。
【0015】
また、他方の切れ刃において前記他方の幅方向とは反対側に位置する一方のコーナー部が、一方の切れ刃において前記反対側に位置する一方のコーナー部に対して、前記他方の幅方向側に配置されている。これにより、例えば被削材の回転軸線を中心に形成された円柱穴状の加工穴の奥面(端面)に沿って該加工穴の内周面に溝入れ加工(内径溝入れ)を行う場合に、下記のような作用効果を奏する。すなわち、例えば、切削インサートの一方の切れ刃における一方のコーナー部を被削材の端面に当接させるように近接配置し、この切削インサートを該端面に沿って溝入れ方向に移動させ溝入れ加工するときに、他方の切れ刃における一方のコーナー部がこの端面から離間されて、このコーナー部が該端面に接触して傷付けてしまうようなことが確実に防止される。また、この接触によって、未使用の他方の切れ刃が傷んでしまうようなことが防止される。また、多段円柱状をなす被削材の段部において、回転軸線に直交する端面に沿って該被削材の外周面に溝入れ加工(外径溝入れ)する場合に、図24で説明した被削材Wの大径部分の直径d1に係わらず他方の切れ刃の一方のコーナー部がこの端面から離間されて、このコーナー部が該端面に接触して傷付けてしまうようなことが確実に防止される。
【0016】
さらに、一方の切れ刃が切削する被削材の溝底に着目すると、前述のように、切削インサートのインサート幅軸線が前記他方の幅方向に向かうに従い漸次被削材の回転する回転方向の前方側へ向けて傾斜し、インサート長手軸線が前記一方の延在方向に向かうに従い工具仮想平面に対して接近するようにインサート本体の下面側へ向けて傾斜し、かつ、他方の切れ刃における一方のコーナー部が一方の切れ刃における一方のコーナー部よりも前記他方の幅方向側に配置されていることによって、該溝底は被削材の回転軸線に対して平行に近い傾斜を備えて形成されることになる。すなわち、図27で説明した溝底Dの角度αが比較的小さく形成されて、被削材に切削された溝の加工精度が高められている。
【0017】
また、各切れ刃がそれぞれ備える一対の側面切れ刃は、インサート本体の延在方向の外側から中央側へ向かうに従い漸次互いの間隔を狭めるように傾斜して形成されているので、溝壁の加工精度が確保される。すなわち、切削インサートの工具本体に対する装着姿勢が前述のように設定されても、一方の切れ刃において被削材の端面側とは反対側(つまり前記他方の幅方向側)に配置された側面切れ刃が、被削材に形成された溝の前記反対側における溝壁の開口端縁に接触するようなことがない。
【0018】
また、本発明に係る刃先交換式溝入れ工具において、前記切削インサートを前記工具仮想平面に直交する向きから見て、前記インサート幅軸線と前記回転軸線とのなす角度θ1が、0°≦θ1≦0.5°に設定されることとしてもよい。
【0019】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具によれば、例えば、被削材の前記端面が回転軸線に直交して形成される場合に、インサート本体の延在方向が被削材の端面に対して傾斜する角度は、インサート幅軸線と回転軸線とのなす角度θ1の設定値に近似しつつも僅かに該θ1より大きい値に設定される。すなわち、工具本体に対する切削インサートの姿勢を、インサート本体の延在方向(インサート長手軸線)を被削材の端面に対して殆んど傾斜させることなく略平行に配置しつつも、前述のように他方の切れ刃の一方のコーナー部を該端面から確実に離間させることができる。従って、溝入れされた被削材の溝底の加工精度がより確実に高められる。
【0020】
また、本発明に係る刃先交換式溝入れ工具において、前記周面は、被削材の前記回転軸線側を向く内周面であり、前記一方の切れ刃は、前記内周面に対して内径溝入れ加工することとしてもよい。
【0021】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具によれば、例えば、被削材に形成された円柱穴状の加工穴の内周面に隣接して、回転軸線に直交する奥面(端面)が形成されている場合であっても、溝入れする内周面の位置に係わらず、精度の高い内径溝入れが行える。
【0022】
また、本発明に係る刃先交換式溝入れ工具において、前記工具本体は、前記一方の切れ刃を前記先端部の外周面から側方へ向けて突出させており、前記切削インサートは、前記一方の切れ刃の前記正面切れ刃が、前記工具本体の先端側から基端側へ向かうに従い漸次前記回転方向の前方側へ向けて傾斜して、ポジティブ角に設定されていることとしてもよい。
【0023】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具によれば、例えば、被削材に形成された円柱穴状の加工穴の内周面に隣接して、回転軸線に直交する奥面(端面)が形成されている場合において、下記のような作用効果を奏する。すなわち、一方の切れ刃の正面切れ刃が前述のようにポジティブ角に設定されていることにより、一方の切れ刃が切削して生じた切屑が前記奥面とは反対側の加工穴の出口方向へ向かうため、切屑が該奥面を傷付けることが防止されるとともに、排出性が向上する。
【0024】
また、本発明に係る刃先交換式溝入れ工具において、前記一方の切れ刃における前記一対のコーナー部から前記回転軸線までのそれぞれの距離が、互いに同一に設定されることとしてもよい。
【0025】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具によれば、内径溝入れにおいて、一方の切れ刃における一対のコーナー部から被削材の回転軸線までのそれぞれの距離が互いに同一に設定されるので、一方の切れ刃で切削する被削材の溝底を、回転軸線に対して平行に形成できる。よって、被削材の溝の仕上がり精度が十分に確保される。
【0026】
また、本発明に係る刃先交換式溝入れ工具において、前記周面は、被削材の前記回転軸線とは反対側を向く外周面であり、前記一方の切れ刃は、前記外周面に対して外径溝入れ加工することとしてもよい。
【0027】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具によれば、例えば、多段円柱状をなす被削材の段部において、外周面の小径部分に隣接する円環面からなり回転軸線に直交する端面が形成されている場合であっても、溝入れする外周面の位置に係わらず、精度の高い外径溝入れが行える。
【0028】
また、本発明に係る刃先交換式溝入れ工具において、前記工具本体は、前記切削インサートを該工具本体の側方を向く一側面に沿うように配置しているとともに、前記一方の切れ刃を前記先端部の先端面から先端側へ向けて突出させており、前記切削インサートは、前記一方の切れ刃の前記正面切れ刃が、前記一側面側から該一側面とは反対側の側方を向く他側面側へ向かうに従い漸次前記回転方向の前方側へ向けて傾斜して、ポジティブ角に設定されていることとしてもよい。
【0029】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具によれば、例えば、多段円柱状をなす被削材の段部において、外周面の小径部分に隣接する円環面からなり回転軸線に直交する端面が形成されている場合に、下記のような作用効果を奏する。すなわち、一方の切れ刃の正面切れ刃が前述のようにポジティブ角に設定されていることにより、一方の切れ刃が切削して生じた切屑が、前記端面とは反対側の前記小径部分方向へ向かうため、切屑が該端面を傷付けることが防止されるとともに、排出性が向上する。
【0030】
また、本発明に係る刃先交換式溝入れ工具において、前記コーナー部は、凸曲線状の第1コーナー刃を有し、前記一方の切れ刃における前記他方のコーナー部は、このコーナー部に隣接する前記正面切れ刃の延長線と前記第1コーナー刃における前記幅方向の外縁部から前記延長線に向けて延ばした垂線との交点を、前記工具仮想平面上に配置していることとしてもよい。
【0031】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具によれば、切れ刃のコーナー部は、凸曲線状の第1コーナー刃を有しているので、該コーナー部における刃先欠損等が防止される。
【0032】
また、本発明に係る刃先交換式溝入れ工具において、前記コーナー部は、前記第1コーナー刃における前記インサート本体の延在方向の中央側の端部と前記側面切れ刃とを繋ぐ直線状の第2コーナー刃を有し、前記切削インサートを前記工具仮想平面に直交する向きから見て、前記第2コーナー刃は、被削材の前記回転軸線に対して直交するように延びていることとしてもよい。
【0033】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具によれば、切れ刃のコーナー部には、第1コーナー刃におけるインサート本体の延在方向に沿う中央側の端部と側面切れ刃とを繋ぐ第2コーナー刃が、被削材の回転軸線に対して直交するように延びているので、一方の切れ刃の正面切れ刃及び第1コーナー刃が切削した被削材の溝壁をこの第2コーナー刃がさらうことになり、該溝壁の仕上げ精度が高められる。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具及び周面溝入れ加工方法によれば、切削インサートの部品点数を増加させることなく、被削材の端面に沿って周面溝入れ加工する場合であっても加工精度を十分に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具と、この刃先交換式溝入れ工具を用いて溝入れ加工を施す被削材とを示す概略斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具と、この刃先交換式溝入れ工具を用いて溝入れ加工を施す被削材とを示す概略斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具と被削材とを、切削インサートのすくい面に対向する向きから見た平面図であるとともに、切削インサートを上面から見た図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具と被削材とを、切削インサートの正面逃げ面に対向する向きから見た側面図であるとともに、切削インサートの一方の切れ刃を正面から見た図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具と被削材とを、工具本体の先端側から見た正面図であるとともに、切削インサートを側面から見た図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具を、切削インサートの正面逃げ面に対向する向きから見た側面図であるとともに、切削インサートの一方の切れ刃を正面から見た図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具を、工具本体の先端側から見た正面図であるとともに、切削インサートを側面から見た図である。
【図8】切削インサートを示す斜視図である。
【図9】図1における一方の切れ刃32Aを拡大して示す図である。
【図10】図2における一方の切れ刃32Aを拡大して示す図である。
【図11】図3における切削インサート30及び溝底Dを拡大して示す図である。
【図12】図4における一方の切れ刃32A及び奥面Bを拡大して示す図である。
【図13】切削インサート30の装着姿勢と、一方の切れ刃32Aにおける一対のコーナー部43から回転軸線WOまでのそれぞれの距離とを説明する図である。
【図14】図13における切削インサート30をインサート本体31の上面から見た図、及び、インサート本体31の側面から見た図である。
【図15】図13における切削インサート30をインサート本体31の正面から見た図である。
【図16】本発明の第2の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具と、この刃先交換式溝入れ工具を用いて溝入れ加工を施す被削材とを示す概略斜視図である。
【図17】本発明の第2の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具と被削材とを、切削インサートのすくい面に対向する向きから見た平面図であるとともに、切削インサートを上面から見た図である。
【図18】図17における切削インサート30及び溝底Dを拡大して示す図である。
【図19】切削インサート30の装着姿勢と、一方の切れ刃32Aにおける一対のコーナー部43から回転軸線WOまでのそれぞれの距離とを説明する図である。
【図20】図19における切削インサート30をインサート本体31の側面から見た図である。
【図21】切削インサートの切れ刃におけるコーナー部の変形例を示す図である。
【図22】切削インサートの切れ刃におけるコーナー部の変形例を示す図である。
【図23】従来の刃先交換式溝入れ工具(内径溝入れ)と被削材とを、切削インサートのすくい面に対向する向きから見た平面図であるとともに、切削インサートを上面から見た図である。
【図24】従来の刃先交換式溝入れ工具(外径溝入れ)と被削材とを、切削インサートのすくい面に対向する向きから見た平面図であるとともに、切削インサートを上面から見た図である。
【図25】図23、図24におけるA部を拡大して示す図である。
【図26】従来の刃先交換式溝入れ工具と被削材とを、切削インサートのすくい面に対向する向きから見た平面図であるとともに、切削インサートを上面から見た図である。
【図27】図26における切削インサート30及び溝底Dを拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(第1実施形態)
図1〜図7は、本発明の第1の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具10を示し、図8〜図15は、この刃先交換式溝入れ工具10に用いられる切削インサート30の全体又は一部を拡大して示すものである。本実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具10は、軸状に形成されその中心軸線TOに直交する断面が略円形をなす工具本体1と、この工具本体1の中心軸線TOに沿う先端側の端部(先端部)3に着脱自在に装着されて該工具本体1の外周面1Aから側方へ向けて切れ刃32を突出させる切削インサート30とを有している。
【0037】
本実施形態の刃先交換式溝入れ工具10は、略円筒状の被削材Wに内径溝入れ加工を行うものである。被削材Wにおいて円柱穴状をなす加工穴Hには、その最奥部に該被削材Wの回転軸線WOに直交する円形状の平面からなる奥面(端面)Bが形成されている。この奥面Bは、加工穴Hの回転軸線WO側を向く内周面(周面)Sに隣接している。刃先交換式溝入れ工具10は、工具本体1の中心軸線TOを被削材Wの回転軸線WOに対して略平行に配置した状態で、回転軸線WOを中心に回転方向WTに回転する被削材Wにおいて該回転軸線WOを中心に形成された加工穴Hに工具本体1の先端部3を挿入して、奥面Bに沿うように切れ刃32を移動させ、該加工穴Hの内周面Sを切削する。尚、本実施形態では、方向を示す符号X、Y、Zを一部の図中に用いる。ここで、符号X、Yは水平方向をそれぞれ示しており、詳しくは、X方向が被削材Wの回転軸線WOに平行な水平方向を示し、Y方向が回転軸線WOに垂直な水平方向を示している。また、符号Zは鉛直方向を示している。
【0038】
工具本体1は、鋼材等から形成されており、その中心軸線TOに沿う先端部3以外の中央部及び基端部が略一定の外径をなしてシャンク部2とされている。工具本体1の外周面1Aにおいてシャンク部2に位置する領域には、中心軸線TOに平行に延びる帯状の平面からなるとともに該中心軸線TOを挟み互いに背向するように配置された一対の切り欠き面2A、2Aが形成されている。この刃先交換式溝入れ工具10は、これらの切り欠き面2A、2Aによって回り止めされた状態でシャンク部2が保持されることにより、不図示の工作機械に固定支持される。尚、本実施形態では、中心軸線TOがX方向に延びており、切り欠き面2A、2AがX−Y水平面内に配置されている。
【0039】
図3及び図4に示すように、工具本体1の先端部3は、その上面3Aがシャンク部2の切り欠き面2Aに対して僅かに傾斜した平面をなし、一対の切り欠き面2A、2Aのうちシャンク部2の上面に配置された切り欠き面2Aよりも一段窪まされるように形成されている。また、工具本体1の先端部3における下面3Bは、工具軸線TOに直交する断面が凸曲線状をなし、シャンク部2の外径よりも一段縮径されて形成されている。尚、前述した工具本体1の先端部3における上面3A、下面3Bの形状は一例であり、本実施形態に限定されるものではない。
【0040】
また、工具本体1の先端部3において、中心軸線TOに垂直で切り欠き面2A、2Aに平行な方向(図3における上下方向(Y方向))に沿う一方側(図3における下方側)を向く側面3Cは、その中心軸線TOに沿う基端部及び中央部がシャンク部2の外径よりも径方向内側へ大きく切り欠かれるように形成されている。また、側面3Cにおいて中心軸線TOに沿う先端側の端部は、前記基端部及び中央部よりも前記一方側へ向けて突出し形成されている。
【0041】
詳しくは、図5及び図7に示すように、側面3Cの先端側の端部において、後述するインサート取付座4の下側(図5及び図7における下側)に配される部分(下顎部)が、該インサート取付座4の上側(図5及び図7における上側)に配される部分(上顎部)よりも前記一方側(図5及び図7における右側)へ突出し形成されており、この下顎部の外径は、シャンク部2の外径よりも大きく設定されている。
【0042】
また、工具本体1の先端部3には、側面3Cに対して中心軸線TOを挟んで背向するように配置されるとともに、Y方向の他方側(図3における上方側)を向く側面3Dが形成されている。側面3Dは、工具軸線TOに直交する断面が凸曲線状をなし、シャンク部2の外径よりも一段縮径されて形成されている。
【0043】
また、工具本体1の先端部3における上面3A、下面3Bの間には、切削インサート30が着脱自在に装着されるインサート取付座4が、先端部3の先端面に開口するとともに側面3Cから側面3Dにかけて貫通し形成されている。詳しくは、インサート取付座4は、その中心軸線TOに沿う先端側の部分のうち、側面3Cに開口する部位が略直方体穴状に形成されているとともに、該側面3Cから前記他方側へ向けて延びている。
【0044】
また、インサート取付座4の前記先端側の部分のうち側面3Cに開口する部位において、上下に互いに向かい合う天壁面4B及び底壁面4Cは、図5及び図7における工具本体1の正面視で上面3Aに略平行に延びているとともに、図12に示すように、側面3Cから見てそれぞれ凸V字状に形成されている。また、図5に示すように、インサート取付座4の前記先端側の部分のうち、側面3Dに開口する部位は、前記側面3Cに開口する部位に対して天壁面4Dと底壁面4Eとの間隔が狭く形成されているとともに、上面3Aに略平行なスリット状に切り欠かれている。また、インサート取付座4には、前記側面3Cに開口する部位と前記側面3Dに開口する部位とを繋いで前記一方側を向く段部4Aが形成されている。
【0045】
また、インサート取付座4の中心軸線TOに沿う基端側の部分は、スリット状をなして前記先端側の部分に連なっている。また、インサート取付座4の前記基端側の部分における天壁面には、先端部3の上面3Aに開口するとともにクランプネジ5が挿通される貫通孔5Aが形成されている。また、インサート取付座4の前記基端側の部分における底壁面には、前記貫通孔に同軸とされて内周面に雌ねじ加工が施されたねじ穴(不図示)が形成されている。
【0046】
また、この刃先交換式溝入れ工具10に装着される切削インサート30は、超硬合金等の硬質材料からなり、図7に示すように、棒状をなすインサート本体31の延在方向(図7の左右方向)の両端部における該インサート本体31の上面(図7において上方を向く面)に一対の切れ刃32を備える、所謂ドッグボーン型の切削インサートである。
【0047】
ここで、図8〜図15等に示す符号C1は、インサート本体31の延在方向に沿うインサート長手軸線を示しており、このインサート長手軸線C1は、インサート本体31において前記延在方向に直交する幅方向の中央を通るとともに、一対の切れ刃32における後述する正面切れ刃41、41の中央をそれぞれ通って延びている。また、符号C2は、インサート本体31の幅方向に沿うインサート幅軸線を示しており、該インサート幅軸線C2は、インサート長手軸線C1に沿うインサート本体31の中央(図中に二重丸で示す部位)を通り、該インサート長手軸線C1に直交するとともに正面切れ刃41に平行に延びている。また、符号C3は、インサート本体31の高さ方向に沿うインサート高さ軸線を示しており、該インサート高さ軸線C3は、インサート本体31の前記中央を通り、インサート長手軸線C1及びインサート幅軸線C2にそれぞれ直交する向きに延びている。
【0048】
また、切削インサート30は、インサート長手軸線C1に沿うインサート本体31の中央を通るとともに該インサート長手軸線C1に垂直なインサート仮想平面VS1に関して対称(すなわち面対称)に形成されている。また、図12に示すように、この切削インサート30は、インサート長手軸線C1及びインサート高さ軸線C3を含み、インサート本体31の上面(図12において上方を向く面)及び下面(図12において下方を向く面)の各中央を通るインサート仮想平面VS2に関しても対称(面対称)に形成されている。すなわち、この切削インサート30は、インサート高さ軸線C3に関して回転対称に形成されている。尚、切削インサート30は、インサート仮想平面VS2に関して面対称に形成されていなくても構わない。
【0049】
また、図12に示すように、切削インサート30は、インサート本体31の上面における前記延在方向の中央部、及び、下面が、インサート長手軸線C1に直交する断面でそれぞれ凹V字状に形成されている。このようなインサート本体31の形状により、切削インサート30がインサート取付座4の前記側面3Cに開口する部位において天壁面4B及び底壁面4Cに摺接するように案内され、前記一方側から前記他方側へと挿入される。
【0050】
図7に示すように、インサート取付座4に挿入された切削インサート30は、インサート本体31の前記他方側の端面が段部4Aに突き当てられて位置決めされる。この状態で、クランプネジ5を締め付けることにより、インサート取付座4の天壁面4B、4Dが底壁面4C、4Eへ向けて弾性変形しつつ近づいていき、これら天壁面4B、4Dと底壁面4C,4Eとの間隔が狭められて、切削インサート30が工具本体1の先端部3に固定支持される。
【0051】
また、インサート本体31の上面においてインサート長手軸線C1方向に沿う両端部には、一対の切れ刃32が配置されている。図11に示すように、切れ刃32は、インサート本体31の延在方向の端縁に形成されて該延在方向に直交する幅方向(図11における左右方向)に延びる直線状の正面切れ刃41と、この正面切れ刃41の両端に配置されて前記幅方向にそれぞれ突出する一対のコーナー部43と、これらコーナー部43から前記延在方向に沿って該インサート本体31の中央側(内側)に向かうに従い漸次互いの間隔を狭めるようにそれぞれ直線状に延びる一対の側面切れ刃42とを有している。
【0052】
詳しくは、一対の側面切れ刃42は、インサート本体31の延在方向の外側から中央側へ向かうに従い漸次幅方向の外側から中央側(内側)へ向かうように傾斜して形成されており、所謂バックテーパが与えられている。
【0053】
また、インサート本体31の上面における前記両端部は、前記中央部よりも一段後退させられてそれぞれ略四角形状をなしており、一対のすくい面33とされている。すくい面33は、その外周縁のうち前記延在方向の中央側以外の三方が正面切れ刃41及び一対の側面切れ刃42とされている。
【0054】
また、図7、図8及び図12において、インサート本体31の外面のうち上面と下面とを繋ぐ周面には、正面切れ刃41に連なる正面逃げ面51と、一対の側面切れ刃42にそれぞれ連なる一対の側面逃げ面52とが形成されている。正面逃げ面51は、正面切れ刃41から下面側へ向かうに従い漸次インサート本体31の外面から後退するように傾斜して形成されている。また、側面逃げ面52は、側面切れ刃42から下面側へ向かうに従い漸次インサート本体31の外面から後退するように傾斜して形成されている。尚、以下の説明では、インサート本体31において正面逃げ面51が形成された面を切削インサート30の正面、インサート本体31において側面逃げ面52が形成された面を切削インサート30の側面と呼ぶ。
【0055】
切削インサート30が工具本体1のインサート取付座4に装着されると、図3に示すように、一対の切れ刃32のうち前記一方側(図3における下側)に切れ刃32Aが配置され、前記他方側(図3における上側)に切れ刃32Bが配置される。そして、一方の切れ刃32Aが、工具本体1の先端部3における外周面から中心軸線TOに直交する側方へ向けて突出されるとともに被削材Wの内周面Sに対向配置され、該内周面Sに溝入れ加工を施すようになっている。詳しくは、工具本体1は、一対の切れ刃32のうち一方の切れ刃32Aを、先端部3の外周面から前記Y方向のうち符号YAで示される溝入れ方向へ向けて突出させて、切削インサート30を装着している。
【0056】
また、図3、図8及び図11に符号C2Aで示す向きは、インサート本体31の幅方向(インサート幅軸線C2方向)のうち、一対のコーナー部43A、43B(43C、43D)において被削材Wの奥面B側に位置する一方のコーナー部43A(43C)から奥面B側とは反対側に位置する他方のコーナー部43B(43D)に向かう方向である他方の幅方向を示している。図4、図12の切削インサート30の正面視(工具本体1においては側面視)に示すように、切削インサート30のインサート幅軸線C2は、前記他方の幅方向C2Aへ向かうに従い漸次被削材Wの回転方向WTの前方側へ向けて傾斜している。
【0057】
すなわち、この切削インサート30は、一方の切れ刃32Aにおける正面切れ刃41が、前記他方の幅方向C2Aへ向かうに従い漸次被削材Wの回転方向WTの前方側へ向けて傾斜している。詳しくは、図12に示すように、切削インサート30は、切れ刃32Aの正面切れ刃41が、工具本体1の先端側から基端側へ向かうに従い漸次回転方向WTの前方側へ向かうとともに該工具本体1の下側に位置する切り欠き面2Aへ向けて傾斜しており、この正面切れ刃41はポジティブ(正)角に設定されている。またこれにより、一方の切れ刃32Aにおいて、一対のコーナー部43A、43Bのうち前記他方の幅方向C2A側に位置するコーナー部43Bは、コーナー部43Aに対して被削材Wの回転方向WTの前方側に配置されている。
【0058】
本実施形態では、切れ刃32Aの正面切れ刃41は、回転軸線WOに沿って奥面Bから離間するに従い漸次被削材Wの回転方向WTの前方側へ向けて傾斜している。ここで、図5及び図12に符号VS3で示すものは、切れ刃32Aのコーナー部43B及び回転軸線WOを含む工具仮想平面を表している。図12において、切れ刃32Aの正面切れ刃41と工具仮想平面VS3とのなす角度θ2は、0°<θ2≦7°の範囲内に設定されている。尚、本実施形態においては、このθ2が例えば3°程度に設定されている。また、インサート幅軸線C2は正面切れ刃41に対して平行であることから、前記θ2は、該インサート幅軸線C2と工具仮想平面VS3とのなす角度であるとも言える。尚、本実施形態においては、工具仮想平面VS3がX−Y水平面内に配置されている。
【0059】
また、図3及び図5に符号C1Aで示す向きは、インサート本体31の延在方向(インサート長手軸線C1方向)のうち、一対の切れ刃32A、32Bにおける他方の切れ刃32Bから一方の切れ刃32Aに向かう方向である一方の延在方向を示している。図5の切削インサート30の側面視(工具本体1においては正面視)に示すように、切削インサート30のインサート長手軸線C1は、前記一方の延在方向C1Aへ向かうに従い漸次工具仮想平面VS3に接近するように傾斜されている。
【0060】
詳しくは、図5に示すように、工具本体1の先端側から見て、インサート長手軸線C1は、前記一方の延在方向C1Aへ向かうに従い漸次インサート本体31の上面側(図5における上下方向(Z方向)の上方側)から下面側(図5におけるZ方向の下方側)へ向けて工具仮想平面VS3に接近するように延びている。またこれにより、切れ刃32Bの正面切れ刃41が、工具仮想平面VS3に対してインサート本体31の上面側(図5における上方側)へ向けて離間されている。そして、切れ刃32A、32Bの各正面切れ刃41、41を通るインサート長手軸線C1と工具仮想平面VS3とのなす角度θ3が、0°<θ3≦10°の範囲内に設定されている。本実施形態では、このθ3が例えば7°程度に設定されている。
【0061】
工具本体1に装着された切削インサート30は、図7に示すように、切れ刃32Bが配置される前記他方側から切れ刃32Aが配置される前記一方側へと前記一方の延在方向C1Aに向かうに従い漸次工具本体1の下側に位置する切り欠き面2Aへ向かうように傾斜して配置されている。
【0062】
また、図3は、切削インサート30を工具仮想平面VS3に直交する向きから見た上面図であり、この切削インサート30は、インサート幅軸線C2と回転軸線WOとのなす角度θ1が、0°≦θ1≦0.5°の範囲内に設定されて、インサート取付座4に装着されている。本実施形態においては、前記θ1が0°程度に設定されている。これにより、この上面視において、インサート幅軸線C2に平行な切れ刃32Aの正面切れ刃41と回転軸線WOとのなす角度も、θ1(=0°)とされている。また図3において、インサート長手軸線C1と回転軸線WOとのなす角度θ4は、90°<θ4<91°の範囲内に設定されている。本実施形態においては、このθ4が90.4°程度に設定されている。詳しくは、前記θ4と前記θ1との関係は、1°>θ4−90°>θ1に設定されている。
【0063】
そして、図3、図11に示すように、工具仮想平面VS3に直交するとともにすくい面33に対向する向きから見て、この切削インサート30は、他方の切れ刃32Bにおける前記他方の幅方向C2Aとは反対側に位置するコーナー部43Cが、一方の切れ刃32Aにおける前記反対側に位置するコーナー部43Aよりも前記他方の幅方向C2A側に配置されている。すなわち、一方の切れ刃32Aにおける工具本体1の先端側(図3及び図11における左側)に位置するコーナー部43Aは、他方の切れ刃32Bにおける前記先端側に位置するコーナー部43Cよりも前記先端側に配置されている。本実施形態では、切れ刃32Bにおいて奥面B側に位置するコーナー部43Cが、切れ刃32Aにおいて奥面B側に位置するコーナー部43Aに対して、奥面Bから離間されている。
【0064】
さらに、前述したθ1〜θ4を調整することにより、図13〜図15に示すように、一方の切れ刃32Aにおけるコーナー部43A、43Bから被削材Wの回転軸線WOまでのそれぞれの距離L1、L2を互いに同一に設定することもできる。つまり、切れ刃32Aにおいて、コーナー部43Aを回転軸線WO回りに回転させて得られる仮想円の半径(距離L1)と、コーナー部43Bを回転軸線WO回りに回転させて得られる仮想円の半径(距離L2)とを、互いに同一に設定することとしてもよい。尚、これら仮想円の外周は、被削材Wに形成される溝の溝底Dにおける奥面B側の端部及び奥面Bとは反対側の端部にそれぞれ一致する。
【0065】
また、切れ刃32Aの正面切れ刃41は、コーナー部43Aとコーナー部43Bとの間に配置されるいずれの部位においても、回転軸線WOまでの距離が前記距離L1、L2と同一に設定されている。また、前記距離L1、L2は、溝入れ加工する溝底Dの半径に対応して予め求めることができるので、これら距離L1、L2を満たすように、被削材Wに対する切削インサート30の姿勢を設定すればよい。
【0066】
本実施形態においては、前述の構成を有する工具本体1の切削インサート30が、一方の切れ刃32Aのコーナー部43Aを被削材Wの奥面Bに当接させるように近接配置した状態で、該奥面Bに沿って被削材Wの径方向外側へ向け溝入れ方向YAに移動して、切れ刃32Aが内周面Sに対して溝入れ加工する。
【0067】
以上説明したように、本実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具10及びこれを用いた周面溝入れ加工方法によれば、工具本体1の先端部3から被削材Wの内周面Sに向けて突出された切削インサート30の一方の切れ刃32Aにおける正面切れ刃41が、インサート幅軸線C2に平行とされているとともに、前記他方の幅方向C2Aへ向かうに従い漸次被削材Wの回転する回転方向WTの前方側へ向けて傾斜して、被削材Wに対してポジティブ角に設定されているので、一方の切れ刃32Aが切削した切屑の排出性が高められる。
【0068】
すなわち、切れ刃32Aの正面切れ刃41が、工具本体1の先端側から基端側へ向かうに従い漸次回転方向WTの前方側へ向けて傾斜していることにより、該切れ刃32Aで切削された切屑が工具本体1の基端側(奥面Bとは反対側の加工穴Hの出口方向)へ向けて排出される。これにより、切屑の排出性が向上するとともに、工具本体1の先端側に位置する被削材Wの奥面Bに切屑が接触したり該奥面B付近に切屑溜まりが生じたりすることが防止されて、加工精度が向上する。
【0069】
また、切削インサート30のインサート長手軸線C1が、前記一方の延在方向C1Aへ向かうに従い漸次工具仮想平面VS3に接近するように傾斜して、インサート本体31の下面側へ向けて延びている。すなわち、工具仮想平面VS3に対して、他方の切れ刃32Bがインサート本体31の上面側へ向けて離間されているので、一方の切れ刃32Aのくさび角β(図5及び図7においてすくい面33と正面逃げ面51とのなす角度)を比較的大きく設定できる。従って、被削材Wに溝入れ加工する一方の切れ刃32Aの刃先強度が十分に確保されている。
【0070】
また、このような切削インサート30の装着姿勢によれば、工具本体1の先端部3において該切削インサート30を支持する前記下顎部の肉厚を十分に確保でき、該先端部3の機械的強度が高められる。さらに、切れ刃32Aの正面切れ刃41に連なる正面逃げ面51が溝底Dから離間されて、該溝底Dに接触するようなことが防止される。
【0071】
また、他方の切れ刃32Bにおいて前記他方の幅方向C2Aとは反対側に位置するコーナー部43Cが、一方の切れ刃32Aにおいて前記反対側に位置するコーナー部43Aに対して、前記他方の幅方向C2A側に配置されている。これにより、本実施形態のように、被削材Wの回転軸線WOを中心に形成された円柱穴状の加工穴Hの奥面Bに沿って該加工穴Hの内周面Sに溝入れ加工(内径溝入れ)する場合であっても、他方の切れ刃32Bのコーナー部43Cがこの奥面Bから離間されて、このコーナー部43Cが該奥面Bに接触して傷付けてしまうようなことが確実に防止される。また、この接触によって、未使用の他方の切れ刃32Bが傷んでしまうようなことが防止される。
【0072】
さらに、一方の切れ刃32Aが切削する被削材Wの溝底Dに着目すると、切削インサート30のインサート幅軸線C2が前記他方の幅方向C2Aに向かうに従い漸次被削材Wの回転する回転方向WTの前方側へ向けて傾斜し、インサート長手軸線C1が前記一方の延在方向C1Aに向かうに従い工具仮想平面VS3に対して接近するようにインサート本体31の下面側へ向けて傾斜し、かつ、他方の切れ刃32Bにおける一方のコーナー部43Cが一方の切れ刃32Aにおける一方のコーナー部43Aよりも前記他方の幅方向C2A側に配置されていることによって、該溝底Dは被削材Wの回転軸線WOに対して平行に近い傾斜を備えて形成されることになる。すなわち、図27における溝底Dの角度αが比較的小さく形成されて、被削材Wに切削された溝の加工精度が高められる。
【0073】
また、各切れ刃32A、32Bがそれぞれ備える一対の側面切れ刃42、42は、インサート本体31の延在方向の外側から中央側へ向かうに従い漸次互いの間隔を狭めるように傾斜して形成されているので、加工された溝における溝壁の加工精度が確保される。すなわち、切削インサート30の工具本体1に対する装着姿勢が前述のように設定されても、一方の切れ刃32Aにおいて被削材Wの奥面B側とは反対側(すなわち前記他方の幅方向C2A側)に配置された側面切れ刃42が、被削材Wに形成された溝の前記反対側の溝壁において回転軸線WO側に位置する開口端縁に接触するようなことがない。
【0074】
また、切削インサート30を工具仮想平面VS3に直交する向きから見て、インサート本体31の幅方向に沿うインサート幅軸線C2と被削材Wの回転軸線WOとのなす角度θ1が、0°≦θ1≦0.5°に設定されている。これに伴って、インサート本体31の延在方向に沿うインサート長手軸線C1が被削材Wの奥面Bに対して傾斜する角度(θ4−90°)は、前記θ1の設定値に近似しつつも僅かに該θ1より大きい値に設定される。すなわち、工具本体1に対する切削インサート30の姿勢を、インサート本体31の延在方向(インサート長手軸線C1)を被削材Wの奥面Bに対して殆んど傾斜させることなく略平行に配置しつつも、前述のように他方の切れ刃32Bのコーナー部43Cを該奥面Bから確実に離間させることができる。従って、溝入れされた被削材Wの溝底Dの加工精度がより確実に高められる。
【0075】
また、本実施形態の内径溝入れにおいて、一方の切れ刃32Aにおける一対のコーナー部43A、43Bから被削材Wの回転軸線WOまでのそれぞれの距離L1、L2を互いに同一に設定した場合には、一方の切れ刃32Aで切削する被削材Wの溝底Dを、回転軸線WOに対して平行に形成できる。よって、被削材Wの溝の仕上がり精度が十分に確保される。
【0076】
また、工具仮想平面VS3に直交する向きから見て、インサート長手軸線C1と被削材Wの回転軸線WOとのなす角度θ4が、90°<θ4<91°に設定されているので、一方の切れ刃32Aを用いて加工穴Hの奥面Bに沿って該加工穴Hの内周面Sに溝入れ加工を行う場合であっても、他方の切れ刃32Bにおける奥面B側のコーナー部43Cがこの奥面Bから確実に離間されるとともに、溝底Dの加工精度が十分に確保される。
【0077】
すなわち、角度θ4が91°以上に設定された場合は、深溝を形成する際等に、一方の切れ刃32Aにおいて工具本体1の基端側に配置された側面切れ刃42が、加工した溝の前記開口端縁に接触するおそれがある。また、溝の溝底Dが回転軸線WOに対して比較的大きく傾斜することになり、溝の加工精度が確保できない。
【0078】
このように、前述した刃先交換式溝入れ工具10を用いた内径溝入れ加工においては、被削材Wに形成された加工穴Hの内周面Sに隣接して回転軸線WOに直交する奥面Bが形成されていても、溝入れする内周面Sの位置に係わらず、精度の高い内径溝入れが行えるのである。
【0079】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具20について、図16〜図20を参照して説明する。尚、前述の実施形態と同一部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0080】
本実施形態の刃先交換式溝入れ工具20は、軸状に形成され、断面が略矩形をなす工具本体1と、この工具本体1の先端部3に着脱自在に装着されて該工具本体1の先端面1Bから先端側へ向けて切れ刃32Aを突出させる前述の切削インサート30とを有している。すなわち、本実施形態の刃先交換式溝入れ工具20は、切削インサート30のインサート長手軸線C1を工具本体1の延在方向に沿うように配置している。工具本体1は、その先端部3において側方(図17におけるX方向)を向く両側面のうち、前記他方の幅方向C2Aとは反対側を向く一側面3Eに沿うように切削インサート30を配置している。図17に示すように、工具仮想平面VS3に直交する向きから見て、工具本体1は被削材Wの回転軸線WOに対して略垂直に延びるようにY方向に沿って配置されているとともに、一方の切れ刃32Aを溝入れ方向YAへ向けて突出させている。
【0081】
この刃先交換式溝入れ工具20は、多段円柱状に形成された被削材Wの段部Uに沿うように切れ刃32Aを溝入れ方向YAへ移動させて、被削材Wの回転軸線WOとは反対側を向く外周面(周面)Rに溝入れ加工(外径溝入れ)を施すものである。被削材Wの段部Uには、外周面Rの小径部分に隣接するとともに回転軸線WOに直交する円環面からなる端面Eが形成されている。詳しくは、本実施形態においては、切削インサート30が、一方の切れ刃32Aのコーナー部43Aを被削材Wの端面Eに当接させるように近接配置した状態で、該端面Eに沿って被削材Wの径方向内側へ向け溝入れ方向YAに移動して、切れ刃32Aが外周面Rの前記小径部分に対して溝入れ加工する。尚、本実施形態においては、被削材Wの回転方向WTが前述の第1実施形態とは反対に設定されている。
【0082】
本実施形態の刃先交換式溝入れ工具20においては、一方の切れ刃32Aの一対のコーナー部43A、43Bのうち、前記他方の幅方向C2A側に位置するコーナー部43Bが、コーナー部43Aに対して被削材Wの回転方向WTの前方側に配置されている。すなわち、この切削インサート30は、一方の切れ刃32Aにおける正面切れ刃41が、インサート幅軸線C2に平行とされているとともに、前記他方の幅方向C2Aへ向かうに従い漸次被削材Wの回転方向WTの前方側へ向けて傾斜している。詳しくは、切れ刃32Aの正面切れ刃41が、工具本体1の一側面3E側から該一側面3Eとは反対側の側方を向く他側面3F側(すなわち前記他方の幅方向C2A側)へ向かうに従い漸次回転方向WTの前方側へ向けて傾斜して、該正面切れ刃41がポジティブ(正)角に設定されている。本実施形態では、切れ刃32Aの正面切れ刃41は、回転軸線WOに沿って端面Eから離間するに従い漸次被削材Wの回転方向WTの前方側へ向けて傾斜している。
【0083】
また、図20の切削インサート30の側面視(工具本体1においても側面視)に示すように、切削インサート30のインサート長手軸線C1は、前記一方の延在方向C1Aへ向かうに従い漸次インサート本体31の下面側(図20における上下方向(Z方向)の下方側)へ向けて工具仮想平面VS3に接近するように傾斜している。またこれにより、切れ刃32Bの正面切れ刃41が、工具仮想平面VS3に対してインサート本体31の上面側(図20におけるZ方向の上方側)へ向けて離間されている。
【0084】
そして、図17及び図18に示すように、工具仮想平面VS3に直交するとともにすくい面33に対向する向きから見て、この切削インサート30は、他方の切れ刃32Bにおける前記他方の幅方向C2Aとは反対側に位置するコーナー部43Cが、一方の切れ刃32Aにおける前記反対側に位置するコーナー部43Aよりも前記他方の幅方向C2A側に配置されている。すなわち、一方の切れ刃32Aにおける工具本体1の一側面3E側(図17及び図18における左側)に位置するコーナー部43Aは、他方の切れ刃32Bにおける一側面3E側に位置するコーナー部43Cよりも、一側面3E側に配置されている。本実施形態では、切れ刃32Bにおいて端面E側に位置するコーナー部43Cが、切れ刃32Aにおいて端面E側に位置するコーナー部43Aに対して、端面Eから離間されている。
【0085】
また、この刃先交換式溝入れ工具20における角度θ1〜θ4は、前述した刃先交換式溝入れ工具10における角度θ1〜θ4と同一の数値範囲にそれぞれ設定される。
【0086】
本実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具20によれば、多段円柱状をなす被削材Wの段部Uにおいて、回転軸線WOに直交する端面Eに沿って該被削材Wの外周面Rに溝入れ加工(外径溝入れ)する場合であっても、図17における被削材Wの大径部分の半径φd1/2と、他方の切れ刃32Bのコーナー部43Cから回転軸線WOまでの距離L3との関係(大小)に係わらず、切れ刃32Bのコーナー部43Cがこの端面Eから離間されて、このコーナー部43Cが該端面Eに接触して傷付けてしまうようなことが確実に防止される。また、この接触によって、未使用の他方の切れ刃32Bが傷んでしまうようなことが防止される。
【0087】
また、一方の切れ刃32Aの正面切れ刃41が前述のようにポジティブ角に設定されていることにより、切れ刃32Aで切削された切屑が工具本体1の他側面3F側(端面Eとは反対側の前記小径部分方向)へ向けて排出される。これにより、切屑の排出性が向上するとともに、工具本体1の一側面3E側に位置する被削材Wの端面Eに切屑が接触したり該端面E付近に切屑溜まりが生じたりすることが防止されて、加工精度が向上する。
【0088】
このように、前述した刃先交換式溝入れ工具20を用いた外径溝入れ加工においては、被削材Wの外周面Rの小径部分に隣接して回転軸線WOに直交する端面Eが形成されていても、溝入れする外周面Rの位置に係わらず、精度の高い外径溝入れが行えるのである。
【0089】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。
例えば、前述した実施形態では、工具本体1の先端部3にインサート取付座4が形成されていることとしたが、これに限定されるものではなく、先端部3に着脱可能なヘッド部が装着されているとともに、このヘッド部にインサート取付座4が形成されていることとしてもよい。また、前述した工具本体1の形状は、前述の実施形態で説明したものに限定されない。
【0090】
また、切れ刃32の一対のコーナー部43は、前述の実施形態において説明した形状に限定されるものではない。図21及び図22は、コーナー部43の変形例を示している。図21においては、コーナー部43は、凸曲線状をなし、正面切れ刃41及び側面切れ刃42を滑らかに繋ぐ第1コーナー刃44を有している。そして、一方の切れ刃32Aにおけるコーナー部43Bは、このコーナー部43Bに隣接する正面切れ刃41の延長線VL1と第1コーナー刃44におけるインサート本体31の幅方向の外縁部から延長線VL1に向けて延ばした垂線VL2との交点Pを、前記工具仮想平面VS3上に配置している。この場合、各コーナー部43における刃先欠損等が防止される。
【0091】
また図22においては、コーナー部43は、第1コーナー刃44と、該第1コーナー刃44におけるインサート本体31の延在方向に沿う中央側(図22における上方側)の端部と側面切れ刃42とを繋ぐ直線状の第2コーナー刃45とを有している。切削インサート30を工具仮想平面VS3に直交する向きから見て、第2コーナー刃45は、被削材Wの回転軸線WOに対して直交するように延びているとともに、奥面B又は端面Eに対して平行に延びて形成されている。この場合、一方の切れ刃32Aの正面切れ刃41及び第1コーナー刃44が切削した被削材Wの溝壁をこの第2コーナー刃45がさらうことになり、該溝壁の仕上げ精度が高められる。
【0092】
また、前述の実施形態では、切削インサート30の切れ刃32Aが、被削材Wの端面B、Eに沿って周面S、Rに溝入れ加工することとしたが、これに限定されるものではない。例えば、被削材Wの端面B、Eから離間した周面S、R部分を溝入れ加工することとしても構わない。本発明の実施形態によれば、被削材Wの端面B、Eに隣接した周面S、R部分又は離間した周面S、R部分のいずれを溝入れする場合であっても、高精度の切削加工を行うことができる。
【符号の説明】
【0093】
1 工具本体
1A 工具本体の外周面
1B 先端面
3 先端部
3E 一側面
3F 他側面
10、20 刃先交換式溝入れ工具
30 切削インサート
31 インサート本体
32 切れ刃
32A 一方の切れ刃
32B 他方の切れ刃
41 正面切れ刃
42 側面切れ刃
43 コーナー部
43A 一方の切れ刃において他方の幅方向C2Aとは反対側に位置する一方のコーナー部
43B 一方の切れ刃において他方の幅方向C2A側に位置する他方のコーナー部
43C 他方の切れ刃において他方の幅方向C2Aとは反対側に位置する一方のコーナー部
43D 他方の切れ刃において他方の幅方向C2A側に位置する他方のコーナー部
44 第1コーナー刃
45 第2コーナー刃
B 奥面(端面)
C1 インサート長手軸線(インサート本体の延在方向)
C1A インサート本体の延在方向のうち、他方の切れ刃から一方の切れ刃に向かう方向である、一方の延在方向
C2 インサート幅軸線(インサート本体の幅方向)
C2A インサート本体の幅方向のうち、一方のコーナー部から他方のコーナー部に向かう方向である、他方の幅方向
C3 インサート高さ軸線(インサート本体の高さ方向)
E 端面
L1 一方の切れ刃において他方の幅方向C2Aとは反対側に位置する一方のコーナー部から回転軸線までの距離
L2 一方の切れ刃において他方の幅方向C2A側に位置する他方のコーナー部から回転軸線までの距離
P 延長線VL1と垂線VL2との交点
R 被削材の外周面(周面)
S 内周面(周面)
VL1 正面切れ刃の延長線
VL2 第1コーナー刃の外縁部から延長線VL1に向けて延ばした垂線
VS1 インサート仮想平面
VS3 工具仮想平面
W 被削材
WO 被削材の回転軸線
WT 被削材の回転方向
YA 溝入れ方向
θ1 インサート幅軸線と被削材の回転軸線とのなす角度
θ2 一方の切れ刃の正面切れ刃(又はインサート幅軸線)と工具仮想平面とのなす角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸線を中心に回転する被削材の周面に向けて切れ刃を突出させた切削インサートと、軸状をなし、先端部に前記切削インサートが着脱自在に装着される工具本体と、を有し、前記切れ刃で前記周面に溝入れ加工する刃先交換式溝入れ工具であって、
前記切削インサートは、棒状をなすインサート本体の延在方向の両端部における該インサート本体の上面に一対の切れ刃を備え、前記インサート本体の延在方向の中央及び該延在方向に直交する幅方向の中央を通りこれら延在方向及び幅方向に直交するインサート高さ軸線に関して回転対称、かつ、前記インサート高さ軸線を含み前記延在方向に垂直なインサート仮想平面に関して面対称に形成され、
前記切れ刃は、前記インサート本体の延在方向の端縁に形成されて前記幅方向に沿って延びる正面切れ刃と、この正面切れ刃の両端に配置されて前記幅方向にそれぞれ突出する一対のコーナー部と、前記コーナー部から前記延在方向に沿って該インサート本体の中央側に向かうに従い漸次互いの間隔を狭めるようにそれぞれ延びる一対の側面切れ刃とを有し、
前記工具本体は、前記一対の切れ刃のうち一方の切れ刃を溝入れ方向へ向けて突出させて、前記切削インサートを装着しており、
前記切削インサートは、
前記インサート本体の延在方向の中央を通り前記幅方向に沿うインサート幅軸線が、前記幅方向のうち、前記一対のコーナー部における一方のコーナー部から他方のコーナー部に向かう方向である他方の幅方向へ向かうに従い漸次被削材の回転する回転方向の前方側へ向けて傾斜しており、
前記インサート本体の幅方向の中央を通り前記延在方向に沿うインサート長手軸線が、前記一方の切れ刃における他方のコーナー部及び前記回転軸線を含む工具仮想平面に対して傾斜しているとともに、前記延在方向のうち、前記一対の切れ刃における他方の切れ刃から前記一方の切れ刃に向かう方向である一方の延在方向へ向かうに従い漸次前記工具仮想平面に接近するように前記インサート本体の下面側へ向けて延びており、
前記他方の切れ刃における前記他方の幅方向とは反対側に位置する一方のコーナー部が、前記一方の切れ刃における前記一方のコーナー部よりも前記他方の幅方向側に配置されていることを特徴とする刃先交換式溝入れ工具。
【請求項2】
請求項1に記載の刃先交換式溝入れ工具であって、
前記切削インサートを前記工具仮想平面に直交する向きから見て、前記インサート幅軸線と前記回転軸線とのなす角度θ1が、0°≦θ1≦0.5°に設定されることを特徴とする刃先交換式溝入れ工具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の刃先交換式溝入れ工具であって、
前記周面は、被削材の前記回転軸線側を向く内周面であり、
前記一方の切れ刃は、前記内周面に対して内径溝入れ加工することを特徴とする刃先交換式溝入れ工具。
【請求項4】
請求項3に記載の刃先交換式溝入れ工具であって、
前記工具本体は、前記一方の切れ刃を前記先端部の外周面から側方へ向けて突出させており、
前記切削インサートは、前記一方の切れ刃の前記正面切れ刃が、前記工具本体の先端側から基端側へ向かうに従い漸次前記回転方向の前方側へ向けて傾斜して、ポジティブ角に設定されていることを特徴とする刃先交換式溝入れ工具。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の刃先交換式溝入れ工具であって、
前記一方の切れ刃における前記一対のコーナー部から前記回転軸線までのそれぞれの距離が、互いに同一に設定されることを特徴とする刃先交換式溝入れ工具。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の刃先交換式溝入れ工具であって、
前記周面は、被削材の前記回転軸線とは反対側を向く外周面であり、
前記一方の切れ刃は、前記外周面に対して外径溝入れ加工することを特徴とする刃先交換式溝入れ工具。
【請求項7】
請求項6に記載の刃先交換式溝入れ工具であって、
前記工具本体は、前記切削インサートを該工具本体の側方を向く一側面に沿うように配置しているとともに、前記一方の切れ刃を前記先端部の先端面から先端側へ向けて突出させており、
前記切削インサートは、前記一方の切れ刃の前記正面切れ刃が、前記一側面側から該一側面とは反対側の側方を向く他側面側へ向かうに従い漸次前記回転方向の前方側へ向けて傾斜して、ポジティブ角に設定されていることを特徴とする刃先交換式溝入れ工具。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の刃先交換式溝入れ工具であって、
前記コーナー部は、凸曲線状の第1コーナー刃を有し、
前記一方の切れ刃における前記他方のコーナー部は、このコーナー部に隣接する前記正面切れ刃の延長線と前記第1コーナー刃における前記幅方向の外縁部から前記延長線に向けて延ばした垂線との交点を、前記工具仮想平面上に配置していることを特徴とする刃先交換式溝入れ工具。
【請求項9】
請求項8に記載の刃先交換式溝入れ工具であって、
前記コーナー部は、前記第1コーナー刃における前記インサート本体の延在方向の中央側の端部と前記側面切れ刃とを繋ぐ直線状の第2コーナー刃を有し、
前記切削インサートを前記工具仮想平面に直交する向きから見て、前記第2コーナー刃は、被削材の前記回転軸線に対して直交するように延びていることを特徴とする刃先交換式溝入れ工具。
【請求項10】
回転軸線を中心に回転する被削材の周面に向けて切れ刃を突出させた切削インサートと、軸状をなし、先端部に前記切削インサートが着脱自在に装着される工具本体と、を有する刃先交換式溝入れ工具を用いて、前記切れ刃で前記被削材の周面に溝入れ加工する周面溝入れ加工方法であって、
前記切削インサートは、棒状をなすインサート本体の延在方向の両端部における該インサート本体の上面に一対の切れ刃を備え、前記インサート本体の延在方向の中央及び該延在方向に直交する幅方向の中央を通りこれら延在方向及び幅方向に直交するインサート高さ軸線に関して回転対称、かつ、前記インサート高さ軸線を含み前記延在方向に垂直なインサート仮想平面に関して面対称に形成され、
前記切れ刃は、前記インサート本体の延在方向の端縁に形成されて前記幅方向に沿って延びる正面切れ刃と、この正面切れ刃の両端に配置されて前記幅方向にそれぞれ突出する一対のコーナー部と、前記コーナー部から前記延在方向に沿って該インサート本体の中央側に向かうに従い漸次互いの間隔を狭めるようにそれぞれ延びる一対の側面切れ刃とを有し、
前記切削インサートを、前記一対の切れ刃のうち一方の切れ刃を溝入れ方向へ向けて突出させて前記工具本体に装着するとともに、該一方の切れ刃を前記溝入れ方向に沿って移動させることにより前記周面に対して溝入れ加工するときに、
前記インサート本体の延在方向の中央を通り前記幅方向に沿うインサート幅軸線を、前記幅方向のうち、前記一対のコーナー部における一方のコーナー部から他方のコーナー部に向かう方向である他方の幅方向へ向かうに従い漸次被削材の回転する回転方向の前方側へ向けて傾斜させ、
前記インサート本体の幅方向の中央を通り前記延在方向に沿うインサート長手軸線を、前記一方の切れ刃における他方のコーナー部及び前記回転軸線を含む工具仮想平面に対して傾斜させるとともに、前記延在方向のうち、前記一対の切れ刃における他方の切れ刃から前記一方の切れ刃に向かう方向である一方の延在方向へ向かうに従い漸次前記工具仮想平面に接近するように前記インサート本体の下面側へ向けて延在させ、
前記他方の切れ刃における前記他方の幅方向とは反対側に位置する一方のコーナー部を、前記一方の切れ刃における前記一方のコーナー部よりも前記他方の幅方向側に配置することを特徴とする周面溝入れ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2011−161536(P2011−161536A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24707(P2010−24707)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】