説明

刃物

【課題】 刃物に張り付いた食材を移動部材で脱離させることによって、食材が刃物の主面に付着しないようにし、食材の切断の邪魔にならないようにすること。
【解決手段】 柄部と、該柄部に取り付けられた、2つの主面を有し、かつ該2つの主面の交差部の一部に切刃を有する刃部とを備える食材用の刃物であって、前記刃部の一方の主面には、該一方の主面に沿って移動する移動部材が設けられており、該移動部材は、食材を前記切刃で切断する際に前記食材に押されて前記一方の主面に沿って移動することによって復元力が与えられ、切断後に前記復元力によって切断された食材を前記刃部から離すように前記一方の主面に沿って元の位置に移動すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は刃物に関する。
【背景技術】
【0002】
食材用の刃物では、例えば特許文献1のように、片面にフッ素樹脂膜を形成することによって、切断時の摩擦を低減することが知られている。
【0003】
しかしながら、フッ素樹脂膜を形成したことによって刃物1の表面粗さが小さくなると、食材8の切断面と刃物の片面とが吸着して張り付きやすくなる傾向があるため、切断の邪魔になる場合があった。
【0004】
そのため図4のように、例えば刃部1aの片面に部分的に凸部6を設けることによって、食材8が刃物1に張り付くことを低減する技術などが知られている。
【0005】
あるいは図4のように、例えば刃部1aの両面を貫通するように孔部7を形成することによって、空気が刃部1aと食材8との間に入り易くすることで、食材8が刃物1に張り付くことを低減する技術などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−298562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、刃部に凸部6を設けてしまうことにより、食材8と凸部6との余計な摩擦が生じることによって、刃物1の切れ味が悪くなってしまう場合や、食材8を凸部6で押しつぶしてしまう場合があった。
【0008】
また、刃部1aを貫通するように孔部7を設けてしまうことにより、食材8が孔部7に引っかかり邪魔になる場合や、あるいは、孔部7付近における刃部1a自体の強度が低下する場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記に鑑みて本発明の刃物は、柄部と、該柄部に取り付けられた、2つの主面を有し、かつ該2つの主面の交差部の一部に切刃を有する刃部とを備える食材用の刃物であって、前記刃部の一方の主面には、該一方の主面に沿って移動する移動部材が設けられており、該移動部材は、食材を前記切刃で切断する際に前記食材に押されて前記一方の主面に沿って移動することによって復元力が与えられ、切断後に前記復元力によって切断された食材を前記刃部から離すように前記一方の主面に沿って元の位置に移動することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の刃物によれば、刃物自体の切れ味を損なうことなく、また、刃部自体の強度を極端に弱めることなく、食材が刃物に張り付かないようにすることを可能にするものである。
【0011】
すなわち、刃物に張り付いた食材を移動部材で脱離させることによって、食材が刃物の
主面に付着しないようにし、食材の切断の邪魔にならないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態の刃物の模式図である。
【図2】(a)は本発明の一実施形態の刃物の刃部の模式図であり、(b)は(a)のA−A断面における模式図である。
【図3】本発明の他の実施形態の刃物の刃部の模式図であり、(b)は(a)のB−B断面における模式図である。
【図4】従来の刃物の刃部の模式図であり、(b)は(a)のC−C断面における模式図である。
【図5】本発明の一実施形態の刃物による切断プロセスを説明する模式図であり、(a)は切断前の段階、(b)は切断中の付勢段階、(c)は切断後の消勢段階、(d)は切断後の段階である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の食材用の刃物の一実施形態について、図を参照して詳細に説明する。
【0014】
本実施形態の刃物は、図1に示すように、柄部4と、柄部4に取り付けられた、2つの主面を有し、かつ2つの主面の交差部の一部に切刃2を有する刃部1aとを備える食材用の刃物1であって、刃部1aの一方の主面には、一方の主面に沿って移動する移動部材3が設けられており、移動部材3は、食材を切刃2で切断する際に食材に押されて一方の主面に沿って移動することによって復元力が与えられ、切断後に復元力によって切断された食材を刃部1aから離すように一方の主面に沿って元の位置に移動する。
【0015】
例えば図2および図5において、柄部4に取り付けられた、2つの主面を有し、かつ2つの主面の交差部の一部に切刃2を有する刃部1aとを備える食材用の刃物1を示す。
【0016】
刃部1aの一方の主面には、一方の主面に沿って移動する移動部材3が設けられており、この移動部材3は、食材8aを切刃2で切断する際に食材8aに押されて一方の主面に沿って、刃部1aの上方向(切刃2aから離れる方向)、すなわち図2(a)における実線で示される部分から点線で示される部分へと移動することによって付勢される。
【0017】
この移動部材3は柄部4にのみ固定されており、上記付勢によって復元力が与えられる。付勢工程については、図5(a)の食材を切断する前段階から、図5(b)の食材の切断中における付勢段階を参照のこと。
【0018】
そして、食材8aを切断して刃物1を引き上げた際に、付勢された移動部材3の復元力によって、一方の主面に沿って移動部材3が元の位置に戻り消勢される。
【0019】
これに伴い、切断後に刃部1aに張り付いていた食材8bを移動部材3で上から押し下げることによって、刃部1aから食材8を脱離させるように作用するものである。
【0020】
消勢工程については、図5(c)の食材切断後における消勢段階から図5(d)の食材切断後段階を参照のこと。
【0021】
もしくは切断後に刃部1aに張り付いていた食材8bに対して、刃部1aと食材8との間に移動部材8が入り込むことによって、刃部1aから食材8を脱離させるように作用するものである。
【0022】
これにより、刃物1に食材8が張り付いても、移動部材3で脱離させることができる。
【0023】
例えば、食材8を連続して切断する時において、刃物1に張り付いて残った食材8が、切断の邪魔になることを低減できる。
【0024】
なお、刃部1aの一方の主面にのみ移動部材3が設けられているが、食材8を切るのに邪魔にならなければ両方の主面に備えられていても構わない。
【0025】
さらに本実施形態の刃物は、移動部材は、一方の主面に沿って移動可能な、食材が当接する食材当接部と、食材当接部を復元力で駆動する駆動部とを有しており、食材当接部が駆動部を介して柄部に取り付けられている。
【0026】
ここで食材当接部3bとは、移動部材3の食材8に対する作用点に相当し、駆動部3aとは、移動部材3の支点に相当するものであり、かつ、復元力を蓄積(付勢)する部分でもある。
【0027】
すなわち、駆動部3aは、屈曲した部分付近で弾性変形することによって付勢され、その復元力で駆動(消勢)することによって、食材8を刃部1aから脱離させ取り払うものである。
【0028】
これにより、食材当接部3bと、駆動部3aとを分けることができ、駆動部3aが切断の邪魔にならない構造にすることができる。
【0029】
そして食材当接部3bは、例えば図1に示すように、駆動部3aを介して柄部4へと取り付けられることにより、移動部材3を必要に応じて自由に取り付け易くすることができる。
【0030】
また、食材8を切断する際に邪魔にならなければ、移動部材3を刃部1aに取り付ける構造であっても構わない。
【0031】
また、移動部材3の食材当接部3bは、刃物1に形成された切刃2の先端にある刃先2aに略平行に取り付けられていることが好ましい。
【0032】
さらに本実施形態は、食材当接部は、棒状体であり、駆動部は、弾性体であり、棒状体の一方端が弾性体を介して柄部に取り付けられている。
【0033】
これにより、食材当接部3bである棒状体を刃部1aの刃渡りに合わせることができ、最も食材8を脱離させ易い位置で切ることができる。
【0034】
例えば図2の実施形態において、食材8を脱離させるために大きな復元力が必要な場合は、柄部4に近い側で切断するのが適している。
【0035】
また例えば図2の実施形態において、食材8を脱離させるために移動部材3を大きく移動させることが必要な場合は、柄部4から離れた側で切断するのが適している。
【0036】
なお、駆動部3aを含む全体を弾性体とすれば、移動部材3を一体物として作製することが可能となる。
【0037】
例えば図2において、棒状体の移動部材3は、食材8が当接する食材当接部3bを弾性体とし、食材当接部3bと同じ材質の弾性体で駆動部3aを有していれば、移動部材3を一体物として作製することが可能となるので、本実施形態の移動部材3として最も簡単な
形状の1つであるといえる。
【0038】
弾性体の材質としては、金属、特にSUSやTi合金を用いれば、錆びない点、加工し易い点、より弾性に優れている点で移動部材3の材料として好ましい。
【0039】
あるいは、ジルコニアセラミックスを用いれば、腐食しない点、刃部1aとの摺動性が優れている点で好ましい。
【0040】
あるいは、透明な硬質プラスチックを用いれば、移動部材3を通して食材8を視認することができる点で好ましい。
【0041】
また、移動部材3の断面形状は、刃部1aに対して摺動性が良く、食材8を切り離し易い形状であれば限定されない。
【0042】
図2において移動部材3の断面形状を丸形で示しているが、食材8の種類等によって、種々変更することができる。
【0043】
例えば、食材8と刃部1aとの間に入り込ませて食材8を脱離させるのが良い場合であれば、断面を三角形状にすることが好ましい。
【0044】
あるいは、移動部材3によって食材8を上から下へ押し下げるのが良い場合であれば、断面を四角形等のものにすることが好ましい。
【0045】
さらに本実施形態の刃物は、一方の主面に複数の溝部が互いに平行に配置されているとともに、複数の溝部は切刃に略平行である。
【0046】
例えば図3において、溝部5全体が食材8によって塞がれて、食材8が刃部1aに張り付かないようにするために、溝部5の長手方向を切刃2の刃先2aと略平行にすることで、切断時に溝部5と食材8との間に空気を介するようにしておくことが好ましい。
【0047】
さらに溝部5は、刃部1aの外縁まで延びていることが、常に大気と連通させることができる点で好ましい。
【0048】
このような溝部5であれば、食材8の切断中であっても、刃部1aと食材8との間に常に空気が入り込み易くなるので、食材8が刃部1aに張り付くことを低減することができる。
【0049】
さらに本実施形態の刃物は、複数の溝部は、断面形状がそれぞれ曲線状であるとともに、深さが切刃から離れるほど深い。
【0050】
例えば図3において、刃物1の片方側の面にのみ溝部5を形成したものを示す(図3では便宜上、移動部材3は不図示とした。)。
【0051】
複数の溝部5は、その断面形状がそれぞれ曲線状であれば、食材8が溝部5の内部に引っかかり、切りづらくなることを低減できる。
【0052】
また、移動部材3が溝部5の内部で引っかかり、移動部材3の円滑な摺動を妨げられることを低減できる。
【0053】
なお、図3においては溝部5の底部のみが曲線状であるが、溝5の縁部も曲線状である
ことが好ましい。
【0054】
また例えば、食材8を連続して切断すると、切断された食材8は刃部1aの下方から上方へ競り上がってくるので、図2のように複数の溝部5は、深さが切刃2から離れるほど深ければ、切断時の食材8との摩擦に影響することがないので好ましい。
【0055】
<刃物の製造方法>
次に、本実施形態に係る刃物の製造方法の一実施形態として、セラミックス製で刃物を製造した場合を説明する。
【0056】
(原料段階)
本実施形態に係る刃部1の原料には、金属以外の例として、ジルコニアを主成分とし、イットリア、シリカ、酸化ナトリウムおよびアルミナを特定の割合で含有するジルコニア原料を用いた場合を説明する。
【0057】
具体的には、ジルコニアが90質量%以上、好ましくは95質量%以上含まれ、焼結助材としてイットリアを1.5〜3.5モル%、シリカを0.03〜0.3質量%、酸化ナトリムを0.001〜0.01質量%、アルミナを0.005〜2質量%の割合で含有する。
【0058】
これにより、焼結性が向上し、結晶構造を均一化しやすくなり、また、ジルコニア焼結体の破壊靭性が低下するのを抑制することができる。
【0059】
以上のようなジルコニア原料は、ジルコニア、イットリア、シリカ、酸化ナトリウムおよびアルミナを粉砕および混合する第1工程と、その後で乾燥を行なう第2工程とを経て得ることができる。
【0060】
(成形および焼結段階)
ジルコニア焼結体は、ジルコニア原料から成形体を作製する第1工程と、成形体を焼結する第2工程とを経て得ることができる。
【0061】
第1工程におけるジルコニア原料からの成形体の作製は、例えば鋳込み成形、射出成形、押出し成形、加圧成形、金型成形等の公知の成形方法が採用可能である。
【0062】
(表面処理段階)
そして、ジルコニア焼結体を切削、研磨し、刃付けして刃物1の刃部1aとする。
【0063】
このように刃部1aがジルコニア製であれば、食材8や移動部材3との摺動性が優れている点で好ましい。
【0064】
また刃部1aにおける溝部5を形成する場合の加工方法については、グラインダーなどを用いて刃部1aにおける溝部5の深さを調整しながら形成すればよい。
【0065】
一方、金型成型で溝部5を形成するようにすれば、別途溝部5を形成するための加工工数を減らせるとともに、溝部5の加工により刃部1a自体の強度を低下させる心配が少なくなる点で好ましい。
【0066】
(移動部材の取り付け)
移動部材3にSUSやTi合金を用いる場合は、棒状体のものを曲げて加工すればよく自由度が高い。
【0067】
また移動部材3にジルコニアセラミックスや透明な硬質プラスチックを用いる場合は、金型成型で作製できるので量産性に優れている。
【0068】
移動部材3の断面形状は、丸形状、三角形状、四角形状等自由であるが、図2のように食材当接部3bが刃部1aと摺動するように設けられているのが好ましく、例えば図1のように柄部4に形成された孔に移動部材3の一端を挿入して固定できるように加工すればよい。
【符号の説明】
【0069】
1:刃物
1a:刃部
2:切刃
2a:刃先
3:摺動部材
3a:一方端(付勢部)
3b:他方端(食材当接部)
4:柄部
5:溝部
6:凸部
7:孔部
8:食材
8a:(切断前の)食材
8b:(切断後の)食材
9:まな板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柄部と、該柄部に取り付けられた、2つの主面を有し、かつ該2つの主面の交差部の一部に切刃を有する刃部とを備える食材用の刃物であって、
前記刃部の一方の主面には、該一方の主面に沿って移動する移動部材が設けられており、該移動部材は、食材を前記切刃で切断する際に前記食材に押されて前記一方の主面に沿って移動することによって復元力が与えられ、切断後に前記復元力によって切断された食材を前記刃部から離すように前記一方の主面に沿って元の位置に移動することを特徴とする刃物。
【請求項2】
前記移動部材は、前記一方の主面に沿って移動可能な、前記食材が当接する食材当接部と、該食材当接部を前記復元力で駆動する駆動部とを有しており、前記食材当接部が前記駆動部を介して前記柄部に取り付けられている、請求項1記載の刃物。
【請求項3】
前記食材当接部は、棒状体であり、
前記駆動部は、弾性体であり、
前記棒状体の一方端が前記弾性体を介して前記柄部に取り付けられている、請求項2に記載の刃物。
【請求項4】
前記一方の主面に複数の溝部が互いに平行に配置されているとともに、
前記複数の溝部は前記切刃に略平行である、請求項3に記載の刃物。
【請求項5】
前記複数の溝部は、断面形状がそれぞれ曲線状であるとともに、深さが前記切刃から離れるほど深い、請求項4に記載の刃物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−48712(P2013−48712A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188116(P2011−188116)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】