説明

分光スペクトル推定装置および学習スペクトル生成方法

【課題】分光スペクトル推定のための学習スペクトルデータを効率的に取得する。
【解決手段】学習データ生成用データ保持部132は、基材の分光反射率と、基材上における複数の網点率100%の単色色材の分光スペクトルを保持する。学習データ生成部122は、所定の標準光源と所定の等色関数を前提とし、色材の分光反射率と三刺激値との関係を規定した第1式と、三刺激値と色材の網点率との関係を規定した第2式と、基材上の色材層の反射率とS/K値(Sは散乱係数、Kは吸収係数)との関係を規定した第3式と、基材のS/K値と基材上の複数の単色色材のS/K値とを加算して得られる混色色材の、S/K値と反射率との関係を規定した第4式とを用いて、学習データとすべき複数の分光スペクトルを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物などの分光スペクトルを推定する分光スペクトル推定装置、およびその推定に必要な学習スペクトルデータを生成する学習スペクトル生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分光スペクトル推定技術が多方面で注目されている。分光スペクトル推定とは数十〜数百nm刻み程度のマルチバンド情報から、数nm刻みの分光スペクトル特性を推定する技術である。分光スペクトル特性は分光器を用いて測定することが一般的であるが、分光スペクトル推定技術を用いることにより、分光器より、小型、軽量、安価な装置で測定が可能となる。
【0003】
一画素毎に分光情報を持った分光画像を撮影できるカメラが存在する。例えば、CCD (Charge Coupled Device) イメージセンサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの固体撮像素子と可動式の複数のフィルタ、液晶チューナブルフィルタ、音響光学フィルタなどの可変バンドフィルタを組み合わせたマルチバンドカメラを使用することで分光画像が撮影できる。しかしこのようなカメラは非常に高価である。一方で、通常の3バンドで検出するカラーカメラ、あるいは6バンド程度のバンド数のカメラで撮影した画像の情報を分光スペクトル推定技術と組み合わせて分光画像を得ることで、安価な装置で代替できる。
【0004】
分光器では部分的な領域の色の平均値しか得られないが、分光画像を用いることにより、広範囲な領域のスペクトルを観測することができ、分布として捉えることができる。したがって、マルチバンド画像から分光スペクトル特性を推定する手法は、リモートセンシング、医療、化粧品、分析検査、異物検査、糖度や脂肪分計測、カラーマネジメントなどに応用されている。
【0005】
低次元画像から分光スペクトル特性を推定する手法としては、例えば、ウィナー(Wiener)推定、重回帰分析、マルコフ推定、主成分分析などがある。ウィナー推定は、観測対象の統計的性質と観測ノイズの特性を考慮し、低次元カメラ検出値から推定したスペクトルとスペクトル真値との間の誤差を最小化する推定処理として定式化されたものである。このような推定を実現するには、推定に用いる推定行列を生成するために学習データが必要となる。学習データは、低次元カメラ検出値とスペクトルの既知データであり、多数のデータからなるデータセットとして構成される。学習データは、低次元カメラ検出値とスペクトルが、正しい値であれば、どのような対象物であっても良いが、より推定の精度を上げるには、次のことが望まれる。すなわち、学習データには測定対象物の分光スペクトル特性と同様の特徴を有した分光スペクトルが多く含まれているほうがより精度よく推定できる。そのため、似た特徴でクラス分けされた学習スペクトルデータを選択して推定することにより、高精度化を図る手法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0006】
このような技術を次のように応用できる。カラーマネジメントの一環として、カラープリンタやカラーコピー機において分光反射率測定を用いた色管理が行われている。分光反射率を用いると物体色(すなわち、物が光に照らされたときに見える色)の絶対値を測定できる。分光反射率からはどのような光源/視野の三刺激値でも計算できるため応用範囲は広く、印刷物の色差管理に最適である。異なるメディア間にわたる色差も条件等色(メタメリズム)を含めて管理できる。
【0007】
しかしながら、分光器は印刷機に付属させるには高価であり、測定波長域が広ければ測定に時間(例えば、数分)がかかってしまう。また、5×5mm程度の限られた領域の色しか観測できない。そこで、カメラで撮影されたマルチバンド画像から数nm刻みの分光スペクトル特性を推定する手法を用いて、所望の印刷結果に仕上がるように印刷結果を予測し、インキ量をコントロールするカラーマッチングシステムも提案されている。このような広い測定波長域の分光データを使用した管理に、低次元カメラと分光推定を用いたスペクトルによる管理は適合する。
【0008】
スペクトルを用いた印刷の色管理は、インキに特色インキを使う場合により有効である。プロセス印刷では基本となるインキであるシアン、マゼンタ、イエロー、ブラック(以下、C、M、Y、Kと表記する)では表現できない色を再現するために特色インキがよく用いられる。特色インキはDIC株式会社、東洋インキ製造株式会社、PANTONE株式会社などのインキ会社が各種の色を準備しており、DICカラーガイド(登録商標)にはおよそ2000色が存在する。
【0009】
スペクトルを用いた色管理を実現する場合、通常のCMYK印刷であれば、ドットゲインやインキの混色の色空間などから統計学などを用いて、数nm刻みの分光スペクトル特性を印刷結果の予測に反映させることも可能であり、比較的高精度に予測できる。これに対して、特色インキを用いた印刷では、過去のデータ数も限られ、また、予測に必要なデータを取得するにも時間と労力がかかる。このためスペクトルを検出した管理が望ましい。
【0010】
これまでに用いたことが「少ない」あるいは「ない」インキを用いる場合には、少数の実測スペクトルデータを用いて多数の学習用データを演算にて生成し、学習用データを用いた推定行列等にて分光スペクトルを推定するとよい。演算にて多数の学習用データを生成する方法とすることで、実測スペクトルデータを基に実際に印刷した印刷物を生成及び測定する必要がなくなる。分光スペクトルを用いた色管理は、最も効率がよく低コストで望ましいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−304205号公報
【特許文献2】特開2009−247518号公報
【特許文献3】特開2010−156612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように低次元カメラ検出値を用いて分光スペクトルを推定する技術は極めて有効な技術である。高精度な分光スペクトル推定を行うためには、測定対象物の分光スペクトル特性の特徴を有した数十〜数百もの学習スペクトルデータの取得が必要であり、これを実測するにはデータ収集に時間と労力がかかってしまう。
【0013】
本発明はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、分光スペクトル推定のための学習スペクトルデータを効率的に計算的手法により生成する技術を提供することにある。すなわち、本発明の目的は、このような学習データを容易に大量に生成することにある。例えば、上述したような特色インキに対しても、その特色インキの特徴を十分に反映した学習データを容易に大量に生成する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のある態様の分光スペクトル推定装置は、基材の分光反射率と、基材上における複数の網点率100%の単色色材の分光スペクトルを保持する保持部と、所定の標準光源と所定の等色関数を前提とし、色材の分光反射率と三刺激値との関係を規定した第1式と、三刺激値と色材の網点率との関係を規定した第2式と、基材上の色材層の反射率とS/K値(Sは散乱係数、Kは吸収係数)との関係を規定した第3式と、基材のS/K値と基材上の複数の単色色材のS/K値とを加算して得られる混色色材の、S/K値と反射率との関係を規定した第4式とを用いて、学習データとすべき複数の分光スペクトルを生成する学習データ生成部と、観測すべき色材の低次元情報を測定するマルチバンド測定部と、低次元測定部により測定された色材の低次元情報と、学習データ生成部により生成された学習データから色材の分光反射スペクトルを推定する分光スペクトル推定部と、を備える。学習データ生成部は、第3式および第4式から保持部に保持された複数の網点率100%の単色色材が重ね合わされた混色色材の分光反射率を算出し、第2式に単色色材および混色色材の分光反射率を設定し、単色色材の網点率を複数種類設定して、複数の三刺激値を算出し、当該複数の三刺激値を第1式に設定して学習データとすべき複数の分光反射率を算出する。
【0015】
本発明の別の態様もまた、分光スペクトル推定装置である。この装置は、基材の分光スペクトルと、基材上における含有量100%の物質の分光スペクトルを保持する保持部と、所定の標準光源と所定の等色関数を前提とし、色材の分光反射率と三刺激値との関係を規定した第1式と、三刺激値と色材の網点率との関係を規定した第2式と、基材上の色材層の反射率とS/K値(Sは散乱係数、Kは吸収係数)との関係を規定した第3式と、基材のS/K値と基材上の複数の単色色材のS/K値とを加算して得られる混色色材の、S/K値と反射率との関係を規定した第4式とを転用して、学習データとすべき複数の分光スペクトルを生成する学習データ生成部と、観測すべき物質の低次元情報を測定する低次元測定部と、低次元測定部により測定された物質の低次元情報と、学習データ生成部により生成された学習データから物質の分光スペクトルを推定する分光スペクトル推定部と、を備える。物質は、固有の吸収波長または発光波長を有する物質であって、その含有量の変化に伴い固有の吸収波長または発光波長のピーク位置が変化せずピーク輝度が変化する物質であり、学習データ生成部は、第3式および第4式から保持部に保持された複数の含有率100%の物質が重ね合わされた状態の分光スペクトルを算出し、第2式に非重ね合わせ物質および重ね合わせ物質の分光スペクトルを設定し、非重ね合わせ物質の含有量を複数種類設定して、複数の三刺激値を算出し、当該複数の三刺激値を第1式に設定して学習データとすべき複数の分光スペクトルを算出する。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、学習スペクトル生成方法である。この方法は、所定の標準光源と所定の等色関数を前提とし、色材の分光反射率と三刺激値との関係を規定した第1式と、三刺激値と色材の網点率との関係を規定した第2式と、基材上の色材層の反射率とS/K値(Sは散乱係数、Kは吸収係数)との関係を規定した第3式と、基材のS/K値と基材上の複数の単色色材のS/K値とを加算して得られる混色色材の、S/K値と反射率との関係を規定した第4式とを用いて、学習データとすべき複数の分光スペクトルを生成する学習データ生成ステップを備える。学習データ生成ステップは、基材の分光反射率と、基材上における複数の網点率100%の単色色材の分光反射率を取得するステップと、第3式および第4式から複数の網点率100%の単色色材が重ね合わされた混色色材の分光反射スペクトルを算出するステップと、第2式に単色色材および混色色材の分光反射率を設定し、単色色材の網点率を複数種類設定して、複数の三刺激値を算出し、当該複数の三刺激値を第1式に設定して学習データとすべき複数の分光反射率を算出するステップと、を含む。
【0017】
本発明のさらに別の態様もまた、学習スペクトル生成方法である。この方法は、所定の標準光源と所定の等色関数を前提とし、色材の分光反射率と三刺激値との関係を規定した第1式と、三刺激値と色材の網点率との関係を規定した第2式と、基材上の色材層の反射率とS/K値(Sは散乱係数、Kは吸収係数)との関係を規定した第3式と、基材のS/K値と基材上の複数の単色色材のS/K値とを加算して得られる混色色材の、S/K値と反射率との関係を規定した第4式とを転用して、学習データとすべき複数の分光スペクトルを生成する学習データ生成ステップを備える。物質は、固有の吸収波長または発光波長を有する物質であって、その含有量の変化に伴い固有の吸収波長または発光波長のピーク位置が変化せずピーク輝度が変化する物質であり、学習データ生成ステップは、基材の分光スペクトルと、基材上における複数の含有量100%の物質の分光スペクトルを取得するステップと、第3式および第4式から複数の含有量100%の物質が重ね合わされた状態の分光スペクトルを算出するステップと、第2式に非重ね合わせ物質および重ね合わせ物質の分光スペクトルを設定し、非重ね合わせ物質の含有量を複数種類設定して、複数の三刺激値を算出し、当該複数の三刺激値を第1式に設定して学習データとすべき複数の分光スペクトルを算出するステップと、を含む。
【0018】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等の間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、分光スペクトル推定のための学習スペクトルデータを効率的に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】CMY3色で網点印刷された印刷物Pの一例を示す図である。
【図2】D65標準光源の分光スペクトルを示す図である。
【図3】CIE(1964)X10Y10Z10Color Matching Functionを示す図である。
【図4】CMYにおける網点の重なりパターンを説明するための図である。
【図5】クベルカ−ムンク理論を説明するための図である。
【図6】CMYKと特色インキDIC589を加えた計5色を用いた場合を例として実際にシミュレーションを行った図を示す図である。
【図7】図6に示したCMYKSの網点率100%の分光反射スペクトルを用い、それぞれの網点率が0.3、0.6、0.9のときの組み合わせを、全通り(35=243通り)計算した結果を示す図である。
【図8】図8(A)は、特色インキDIC589の網点率100%で印刷された印刷物の分光反射スペクトルの実測データおよび推定データを示す図である。図8(B)は、シアンインクCの網点率40%と特色インキDIC589の網点率100%で重ね合わせ印刷された印刷物の分光反射スペクトルの実測データおよび推定データを示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る分光スペクトル推定装置の構成を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態の変形例に係る分光スペクトル推定システムの構成を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る分光スペクトル推定装置の動作例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、CMY3色で網点印刷された印刷物Pの一例を示す図である。図1ではCMYによるプロセス印刷の例を示している。図1の右側の拡大図は、印刷物Pの描画領域Dの一部を拡大した図である。
【0022】
本発明の実施の形態では、CMY3色で網点印刷された印刷物Pを低次元カメラで撮影し、分光反射スペクトル推定を行う。以下、分光反射スペクトル推定に必要な学習データの生成方法について説明する。なお、CMYは色の例であり、これらの色に限定されるものではない。
【0023】
図2は、D65標準光源の分光スペクトルを示す図である。図2に示すグラフの横軸は波長[nm]、縦軸は放射エネルギーを示す。図3は、CIE(1964)X10Y10Z10Color Matching Functionを示す図である。図3に示すグラフの横軸は波長[nm]、縦軸は感度を示す。
【0024】
下記(式1)は所定の標準光源と所定の等色関数を前提とし、色材の分光反射スペクトルと三刺激値との関係を規定した式である。ここでは、光源をD65標準光源(図2参照)、等色関数をCIE(1964)X10Y10Z10Color Matching Function(図3参照)とする。
【0025】
基材(本実施の形態では、紙)の可視光域における分光反射率Reflectance(λ)、およびその基材に網点率100%(すなわち、ベタ印刷)で印刷されたCMY各色の可視光域における分光反射率Reflectance(λ)を実測する。例えば、分光器で実測する。そして、各色の分光反射率Reflectance(λ)を下記(式1)に代入する。これにより、当該基材および当該基材に網点率100%で印刷されたCMY各色の三刺激値XYZを算出できる。
【0026】
【数1】

【0027】
次に、ノイゲバウア(neugebauer)式について説明する。ノイゲバウア式とは、三刺激値と、色材の網点面積率(以下、単に網点率という)の関係を表した線形方程式である。以下、一例を挙げる。
【0028】
図4は、ドット印刷物で生じうるCMYの重なりパターンを説明するための図である。重なりは、以下の0〜7で示す8パターンがある。図4に示すドット印刷物おいて、
「0」は紙(白(以下、Wと表記する))のみの部分
「1」はCのみの部分
「2」はMのみの部分
「3」はYのみの部分
「4」はCとMが重なっている部分
「5」はCとYが重なっている部分
「6」はMとYが重なっている部分
「7」はCとMとYが重なっている部分
をそれぞれ示す。各部分0〜7は異なる三刺激値を有する。このようなドットが集まった領域に着目して、各領域の三刺激値をそれぞれ示す。
【0029】
次に印刷物の三刺激値を考える。着目した領域の三刺激値を考えることとする。この領域は多数のドットで構成され、ドットの数は、C、M、Y各インキの網点率で決まっている。着目する領域の三刺激値は、各インキの重なり部分の三刺激値を、着目する領域における面積比率で重み付けし、足し合わせることで求めることができる。着目する領域での、各インキの重なり部分の面積比率は、C、M、Yの網点率c、m、yから計算できる。
【0030】
【数2】

ここで、左辺X、Y、Zは対象とする物体の三刺激値である。右辺のXx、Yx、Zxはx部分の三刺激値で、小文字のxは上述した重なり領域を示す。例えばXwは、W(紙)の領域のX刺激値を示し、同様にXc、Xm、Xy、Xcm、Xmy、Xcy、Xcmyは、C、M、Y、CM、MY、CY、CMYの各領域の、X刺激値を示す。そして、c、m、yは網点率を示す。
【0031】
インキが重なった部分である「4」〜「7」の二次、三次色の三刺激値XYZは、CMY一次色100%の重ね印刷を行い実測から求めてもよいが、CMY一次色100%の分光反射スペクトルからクベルカ−ムンク(Kubelka-Munk)理論および混色理論を用い、下記(式3)、(式4)によって求めることができる。
【0032】
図5は、クベルカ−ムンク理論を説明するための図である。図5に示すように、ある散乱係数Sと吸収係数Kを持った厚さXである均質な色材層12が、反射率Rgである下地11の上に密着(オプティカルコンタクト)して置かれたときの反射率Rを求めるものである。すなわち、下記(式3)は基材上の色材層の反射率と、S/K値(Sは散乱係数、Kは吸収係数)との関係を規定した式であり、下記(式4)は、基材のS/K値と基材上の複数の単色色材のS/K値とを加算して得られる混色色材の、S/K値と反射率との関係を規定した式である。
【0033】
【数3】

【数4】

ここで、添え字a、b、wはそれぞれ網点率100%で印刷されたインキa、インキb、紙を示し、mixは混色を示す。混色は図4に示した重ね合わせ印刷で形成することができる。
【0034】
各波長におけるRmixが求まれば、上記(式1)のReflectance(λ)に代入して、「4」〜「7」の三刺激値XYZを求めることができる。さらに、上記(式2)から、ある網点率で印刷された印刷物の三刺激値XYZを求め、再度、上記(式1)を用いて分光反射スペクトルを求めることができる。
【0035】
この手法によれば、分光反射スペクトルの実測が必要であるのは、紙などの基材部分と、使用するインクで網点率100%の印刷部分のみであり、基材部分及び網点率100%の印刷部分の実測値から網点率を変化させたときの分光反射率スペクトルを演算で求めることができる。
【0036】
本発明の実施の形態では、このような網点率から印刷結果の予測を行うのではなく、分光スペクトルを測定せずとも低次元カメラで測定し、後述する推定法を用いることにより分光スペクトルを演算により推定する。その際に分光スペクトルの推定に必要な数十〜数百の学習スペクトルデータの生成を、上記(式2)の網点率を変化させることで生成する。
【0037】
スペクトルを用いた印刷の管理は全てのカラー印刷物で有効かつ有用だが、特色インキを用いた場合は特に有用である。以下の実施形態は、特色インキを用いた場合を説明する。特色インキなどを用いてプロセス印刷を行う場合、特に蛍光を含む特色インキの場合、CMYKインキにはない特徴的なスペクトル形状を有しているものが多い。したがって、CMYK印刷用の学習データでは精度よく分光反射スペクトルを推定することは難しい。そこで、高精度な推定を行うために、特色インキの特徴を有した学習スペクトルデータが必要である。
【0038】
例えば、CMYKに特色インキ1色を加えた計5色でも、複数の網点率で印刷し、実測するには時間と労力がかかる。そこで、最小限の実測スペクトルデータから学習スペクトルデータを生成することが求められる。ここで、最小限のデータとは、紙、用いるインキ全ての網点率100%で印刷した印刷物の分光反射スペクトルの実測データである。これらの実測データをもとに上記(式2)において網点率を変化させた場合の分光反射スペクトルを上記(式1)〜(式4)を用いて求め、学習スペクトルデータを生成する。ただし、上記(式2)は、用いるインキ数の組み合わせ分だけ行列計算が増えることになる。このように、数バンドの測定のみで印刷物の分光スペクトルデータを高精度に推定することができれば、低コストで分光スペクトルを用いた色管理を実現できる。
【0039】
図6は、CMYKと特色インキDIC589を加えた計5色を用いた場合を例として実際にシミュレーションを行った図を示す。図6に示すグラフの横軸は波長[nm]、縦軸は反射率[%]を示す。図6では特色インキDIC589の分光反射スペクトルをSで表記している。図6では、CMYKSの網点率100%(ベタ印刷)の分光反射スペクトルを示している。
【0040】
図7は、図6に示したCMYKSの網点率100%の分光反射スペクトルを用い、それぞれの網点率が0.3、0.6、0.9のときの組み合わせを、全通り(3=243通り)計算した結果を示す図である。すなわち、243通りの学習スペクトルデータを生成する。なお、網点率の組み合わせは、0.3、0.6、0.9に限るものではない。たとえば、0.25、0.5、0.75であってもよい。また、網点率の種類は3種類に限るものではなく、その種類をさらに増やしてもよい。
【0041】
ここで、低次元画像(例えば、3バンド画像、6バンド画像)から物体(例えば、印刷物)の各点の分光反射スペクトルを推定する方法について説明する。当該推定方法として、ウィナー推定、重回帰分析、マルコフ推定、主成分分析などを用いることができるが、以下、ウィナー推定を用いる例を説明する。
【0042】
低次元カメラで複数のバンドの広帯域フィルタを通して物体を撮影した場合、画像の座標(x,y)に対応する撮像素子(例えば、CCD素子)に入射する光の分光分布は、t(λ)E(λ)r(x,y;λ)で与えられる。ここで、t(λ)はi番目のフィルタの分光透過率を、E(λ)は照明の分光放射輝度を、r(x,y;λ)は画像の座標(すなわち、画素位置)(x,y)における物体の分光反射率をそれぞれ示す。また、レンズの分光透過率や撮像素子の分光感度などを合わせた総合的な分光績をS(λ)とする。このとき、各素子において得られるセンサ応答v(x,y)は、入射光tE(λ)r(x,y;λ)と分光績(λ)を波長領域で積分したものとで与えられるため、下記(式5)で表される。
【0043】
【数5】

ここで、mは低次元カメラのバンド数を示す。分光積S(λ)は波長400〜700nmの可視光域以外ではゼロであるとした。mを大きな数に設定した場合は、マルチバンドカメラと呼ばれることがある。mがいくつ以上であればマルチバンドとするか定義された数値はなく、9バンド以上であったり、1024バンド以上であったりと、マルチバンドを実現する手法と用途に応じて幅がある。本実施形態では、mが一桁の数値である場合を、低次元カメラと呼ぶ。
【0044】
次に、数学的な取扱を簡単にするため、分光分布を離散化し、ベクトルや行列を用いて表す。vをm個のバンドのセンサ応答を表したm個の要素を持つ行ベクトル、rを物体の分光反射率を表すl個の要素で構成される行ベクトルで表すと、上記(式5)は下記(式6)のようにベクトル行列を用いて表される。
【数6】

【0045】
ここで、画像の座標(x,y)は省略した。また、行列Fはi番目のフィルタの分光透過率を表す行ベクトルtをまとめた行列T(下記(式7)参照)と、照明とカメラの分光感度に対応するl×l対角行列である行列E、Sを用いて下記(式8)のように定義される。
【数7】

【数8】

【0046】
ウィナー推定は複数の学習データサンプルの分光反射率rと、推定された分光反射率(rチルダ)の間の平均二乗誤差Eを最小化する手法であり、平均二乗誤差Eは下記(式9により表される。
【0047】
【数9】

〈 〉は分光反射率サンプルに対するアンサンブル平均を表す。
【0048】
下記(式10)より、センサ応答ベクトルから分光反射率を推定する推定行列Gを考える。
【数10】

【0049】
このとき、上記(式9)で表される平均二乗誤差Eを最小化する推定行列は、下記(式11)で与えられる。
【数11】

ここで、Rrv(下記(式12)参照)はサンプルに関するrとvの相互相関行列を示し、Rvv(下記(式13)参照)はvの自己相関行列を示す。また、Rrr(下記(式14)参照)はrの自己相関行列を示す。
【数12】

【数13】

【数14】

【0050】
したがって、上記(式11)は下記(式15)と書き換えることができる。
【数15】

【0051】
また、センサ応答にノイズnが含まれる場合、上記(式6)は下記(式16)となる。
【数16】

【0052】
ノイズnの自己相関行列Rnnは、下記(式17)と表される。
【数17】

【0053】
このように、ウィナー推定は信号とノイズの統計量が分かっている場合、簡単な線形演算で、推定値の平均二乗誤差を最小化する推定行列を与える。ここで、入力スペクトルとノイズスペクトルが無相関ならば、平均二乗誤差を最小化する推定行列は、下記(式18)で与えられる。
【数18】

【0054】
これにより、推定行列Gが求まれば、測定対象物を低次元カメラにて撮影した画像の検出値(x,y)における物体の分光反射率をvとして 上記(式10)式から推定分光反射率(rチルダ)を求めることができる。例えば、vをRGB値(3バンド)とし、400nm〜700nmまで2nmおきの分光反射率データを求める場合、下記(式19)のように表される。
【数19】

【0055】
図8(A)は、特色インキDIC589の網点率100%で印刷された印刷物の分光反射スペクトルの実測データおよび推定データを示す図である。図8(A)にて、分光反射スペクトルAは実測データを示す。分光反射スペクトルE1は上記図7に示した学習データを用いた推定データを示し、分光反射スペクトルE2はJISのインキデータ(特色インキを含まない)を用いて作成された推定データを示す。
【0056】
図8(B)は、シアンインキCの網点率40%と特色インキDIC589の網点率100%で重ね合わせ印刷された印刷物の分光反射スペクトルの実測データおよび推定データを示す図である。図8(B)にて、分光反射スペクトルAは実測データを示す。分光反射スペクトルE1は上記図7に示した学習データを用いた推定データを示し、分光反射スペクトルE2はJISのインキデータ(特色インキを含まない)を用いて作成された推定データを示す。
【0057】
図8(A)、(B)いずれの場合も、上記図7の学習データを用いた推定データのほうがJISのインキデータを用いた推定データより、実測データとの一致度が高いことが分かる。
【0058】
図9は、本発明の実施の形態に係る分光スペクトル推定装置100の構成を示す図である。実施の形態に係る分光スペクトル推定装置100は、低次元測定部110、制御部120、記憶部130、入力部140および出力部150を備える。
【0059】
低次元測定部110は、測定対象物の低次元情報を取得する。低次元測定部110には、例えば低次元カメラを採用することができる。なお、低次元測定部110は低次元の情報を測定できる手段であればカメラ以外であってもよい。ここで、低次元情報とは、いくつかの任意波長域での反射率を指す。以下の説明では、ある光源(例えば、白色光源)を測定対象物に照射して低次元情報を取得し、外光の影響はないものとする。
【0060】
低次元測定部110は撮像素子111を含む。撮像素子111には、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサを用いることができる。一般的なカメラに搭載される撮像素子111には、三原色フィルタが装着されており、当該撮像素子111は、赤、緑、青(以下、R、G、Bと表記する)の三原色信号を出力する。すなわち、RGBの3バンド情報を出力する。
【0061】
また、任意の別のカラーフィルタが撮像素子111に装着されることにより、当該撮像素子111は、任意の別の波長域の輝度情報を出力できる。例えば、分光感度特性が異なる2種類のフィルタを用いてもよい。すなわち、RGBフィルタと、そのRGBフィルタの不感帯域を補間するような分光感度特性を持つR’G’B’フィルタを用いることにより、当該撮像素子111は計6バンド情報を出力できる。さらに任意の画像情報が必要なければ、撮像素子111を用いずに、任意波長の光源を照射し、図示しないフォトダイオードで反射率を測定する方法を用いてもよい。
【0062】
以下の説明では、低次元測定部110により測定される低次元情報は、低次元画像であるとする。低次元測定部110により取得された低次元画像は、制御部120に供給される。制御部120は分光スペクトル推定装置100全体を統括的に制御する。より具体的には、制御部120は、トリミング&画素値平均処理部121、学習データ生成部122および分光スペクトル推定部123を含む。
【0063】
これらの構成は、ハードウェア的には、任意のプロセッサ、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウェア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組み合わせによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0064】
記憶部130は、測定低次元情報保持部131、学習データ生成用データ保持部132、学習スペクトルデータ保持部133、光源スペクトル特性保持部134およびカメラ分光感度特性保持部135を含む。
【0065】
測定低次元情報保持部131は、低次元測定部110により測定された低次元情報を一時的に保持する。学習データ生成用データ保持部132は、学習データを生成するために最低限必要な実測スペクトルデータ(本実施の形態では基材(紙)、色材(C、M、Y、K)の網点率100%の分光反射スペクトルデータ)を保持する。当該実測スペクトルデータは、例えば、分光器などにより予め測定される。
【0066】
光源スペクトル特性保持部134は、分光反射スペクトル推定に必要な光源スペクトルデータを保持する。カメラ分光感度特性保持部135は、分光反射スペクトル推定に必要なカメラの分光感度特性を保持する。学習スペクトルデータ保持部133は、学習データ生成部122により生成された学習スペクトルデータを保持する。
【0067】
トリミング&画素値平均処理部121は、低次元測定部110により取得されたマルチバンド画像のそれぞれについて、測定対象物が写った領域内の画素値を平均化する。その際、当該領域をトリミングする。すなわち、当該領域の境界より数画素、内側の範囲の画素値を平均化する。境界部分は印刷ずれやインキの滲みによる混色が発生しやすいため、境界より内側の範囲の画素値を平均化するとよい。なお、平均値ではなく中央値を用いてもよい。例えば、低次元測定部110からRGBの3バンド画像が供給される場合、分光反射スペクトル推定の基礎となるべき3値が生成される。
【0068】
学習データ生成部122は、上記(式1)〜(式4)を用いて学習データとすべき複数の分光スペクトルを生成する。学習データ生成部122は、上記(式3)および(式4)から複数の網点率100%の単色色材が重ね合わされた混色色材の分光反射率を算出する。そして、上記(式2)に単色色材および混色色材の分光反射率を設定し、単色色材の網点率を複数種類設定して、複数の三刺激値を算出する。上述した例では、単色色材の網点率として、0.3、0.6、0.9の三種類を設定した。これら網点率はユーザ設定に起因して入力部140から設定される値である。学習データ生成部122は、上記(式2)により算出した複数の三刺激値を上記(式1)に設定して学習データとすべき複数の分光反射率を算出し、学習スペクトルデータ保持部133に格納する。
【0069】
分光スペクトル推定部123は、測定低次元情報保持部131に保持される観測すべき色材のマルチバンド画像と、学習データ生成部122により生成され、学習スペクトルデータ保持部133により保持される学習スペクトルデータから色材の分光反射スペクトルを推定する。上述したウィナー推定、重回帰分析、マルコフ推定、主成分分析などを用いることができる。出力部150は、分光スペクトル推定部123により推定された分光反射スペクトルを出力する。例えば、図示しない表示部に表示したり、図示しない別の装置に送信する。
【0070】
図10は、本発明の実施の形態の変形例に係る分光スペクトル推定システム300の構成を示す図である。分光スペクトル推定システム300は分光スペクトル推定装置100および外部演算装置200を備える。本変形例は、上述した学習スペクトルデータの生成処理を外部演算装置200(例えば、PC、サーバ)で行う例である。分光スペクトル推定装置100と外部演算装置200はネットワーク(例えば、インターネット、専用回線)を介してデータをやりとりすることができる。
【0071】
本変形例に係る分光スペクトル推定装置100は、図9に示した分光スペクトル推定装置100と比較し、学習データ生成用データ保持部132および学習データ生成部122を取り除いた構成である。本変形例では、外部演算装置200がそれらに対応する学習データ生成用データ保持部232および学習データ生成部222を備える。外部演算装置200の学習データ生成部222は、学習スペクトルデータを算出すると分光スペクトル推定装置100の学習スペクトルデータ保持部133に送信する。
【0072】
図11は、本発明の実施の形態に係る分光スペクトル推定装置100の動作例を説明するためのフローチャートである。図11では、CMY3色による印刷物の分光反射スペクトルを推定する例を説明する。まず、分光器などを用いて基材と、網点率100%のCMY単色の分光反射率を測定する(S10)。学習データ生成部122は、クベルカ−ムンク式よりCMYの重なり部分の分光反射率を算出する(S12)。次に、ノイゲバウア式より、CMYの網点率をパラメータとして、複数の三刺激値XYZを算出する(S14)。次に、上記(式1)より複数の三刺激値XYZから分光スペクトルを算出し、学習データとする(S16)。
【0073】
分光スペクトル推定部123は、ウィナー推定より推定行列を算出する(S18)。最後に、マルチバンド測定値と当該推定行列より分光反射率を演算により推定する(S20)。
【0074】
以上説明したように本実施の形態によれば、最小限の分光スペクトルの実測値をノイゲバウア式にあてはめ、ノイゲバウア式の網点率を変化させて分光スペクトルシミュレーションを行うことにより、測定対象物の分光スペクトル推定のための学習スペクトルデータを効率的に生成できる。しかも、測定対象物のスペクトルの特徴を有した、高精度な学習スペクトルデータを生成できる。そして、この学習スペクトルデータを用いて、測定対象物の分光スペクトルを高精度に推定できる。
【0075】
一般的に、当該学習スペクトルデータは数十〜数百程度必要であるが、本実施の形態によれば、基材と、網点率100%の単色色材の分光スペクトルだけ測定すれば足り、残りは上述した演算により生成できるため、時間と労力を大きく削減できる。
【0076】
以上、本発明をいくつかの実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0077】
上述した実施の形態による学習スペクトルデータの生成手法は、印刷物以外にも適用可能である。すなわち、ある特徴ピークを有し、スペクトル変化が輝度変化のみであって、ピーク波長がシフトしない物質全般に適用可能である。より具体的には、固有の吸収波長または発光波長を有する物質であって、その含有量の変化にしたがい固有波長でのピーク位置は変化せずピーク輝度のみが増減する物質であれば幅広く適用可能である。
【0078】
例えば、染色による病理診断においては顕微鏡で観察した蛍光スペクトルからある物質の含有量を測定することが行われている。これは、物質の含有量(すなわち、濃度)と蛍光スペクトルのある特定ピーク波長における輝度とが対応しており、輝度から濃度を求めるという手法である。具体的にはインキ量100%(すなわち、網点率100%)のスペクトルの代わりに濃度100%のスペクトルを当てはめればよい。ただし、あくまで本手法はスペクトル特徴を有した学習スペクトルデータの生成法に関するものであるため、例えば、濃度60%と設定した推定結果が実質的に濃度60%のときの分光スペクトルに対応しているわけではない。
【0079】
また、食肉の鮮度管理にも適用可能である。経時変化により肉に含まれる物質の濃度が変化していく。
【符号の説明】
【0080】
100 分光スペクトル推定装置、 110 低次元測定部、 111 撮像素子、 120 制御部、 121 トリミング&画素値平均処理部、 122 学習データ生成部、 123 分光スペクトル推定部、 130 記憶部、 131 測定低次元情報保持部、 132 学習データ生成用データ保持部、 133 学習スペクトルデータ保持部、 134 光源スペクトル特性保持部、 135 カメラ分光感度特性保持部、 140 入力部、 150 出力部、 200 外部演算装置、 232 学習データ生成用データ保持部、 222 学習データ生成部、 240 入力部、 300 分光スペクトル推定システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の分光反射率と、基材上における複数の網点率100%の単色色材の分光スペクトルを保持する保持部と、
所定の標準光源と所定の等色関数を前提とし、色材の分光反射率と三刺激値との関係を規定した第1式と、三刺激値と色材の網点率との関係を規定した第2式と、基材上の色材層の反射率とS/K値(Sは散乱係数、Kは吸収係数)との関係を規定した第3式と、基材のS/K値と基材上の複数の単色色材のS/K値とを加算して得られる混色色材の、S/K値と反射率との関係を規定した第4式とを用いて、学習データとすべき複数の分光スペクトルを生成する学習データ生成部と、
観測すべき色材の低次元情報を測定する低次元測定部と、
前記低次元測定部により測定された色材の低次元情報と、前記学習データ生成部により生成された学習データから前記色材の分光反射スペクトルを推定する分光スペクトル推定部と、を備え、
前記学習データ生成部は、前記第3式および前記第4式から前記保持部に保持された複数の網点率100%の単色色材が重ね合わされた混色色材の分光反射率を算出し、前記第2式に前記単色色材および混色色材の分光反射率を設定し、前記単色色材の網点率を複数種類設定して、複数の三刺激値を算出し、当該複数の三刺激値を前記第1式に設定して前記学習データとすべき複数の分光反射率を算出することを特徴とする分光スペクトル推定装置。
【請求項2】
基材の分光スペクトルと、基材上における含有量100%の物質の分光スペクトルを保持する保持部と、
所定の標準光源と所定の等色関数を前提とし、色材の分光反射率と三刺激値との関係を規定した第1式と、三刺激値と色材の網点率との関係を規定した第2式と、基材上の色材層の反射率とS/K値(Sは散乱係数、Kは吸収係数)との関係を規定した第3式と、基材のS/K値と基材上の複数の単色色材のS/K値とを加算して得られる混色色材の、S/K値と反射率との関係を規定した第4式とを転用して、学習データとすべき複数の分光スペクトルを生成する学習データ生成部と、
観測すべき物質の低次元情報を測定する低次元測定部と、
前記低次元測定部により測定された物質の低次元情報と、前記学習データ生成部により生成された学習データから前記物質の分光スペクトルを推定する分光スペクトル推定部と、を備え、
前記物質は、固有の吸収波長または発光波長を有する物質であって、その含有量の変化に伴い固有の吸収波長または発光波長のピーク位置が変化せずピーク輝度が変化する物質であり、
前記学習データ生成部は、前記第3式および前記第4式から前記保持部に保持された複数の含有率100%の物質が重ね合わされた状態の分光スペクトルを算出し、前記第2式に非重ね合わせ物質および重ね合わせ物質の分光スペクトルを設定し、前記非重ね合わせ物質の含有量を複数種類設定して、複数の三刺激値を算出し、当該複数の三刺激値を前記第1式に設定して前記学習データとすべき複数の分光スペクトルを算出することを特徴とする分光スペクトル推定装置。
【請求項3】
前記第2式はノイゲバウア(neugebauer)方程式であることを特徴とする請求項1または2に記載の分光スペクトル推定装置。
【請求項4】
所定の標準光源と所定の等色関数を前提とし、色材の分光反射率と三刺激値との関係を規定した第1式と、三刺激値と色材の網点率との関係を規定した第2式と、基材上の色材層の反射率とS/K値(Sは散乱係数、Kは吸収係数)との関係を規定した第3式と、基材のS/K値と基材上の複数の単色色材のS/K値とを加算して得られる混色色材の、S/K値と反射率との関係を規定した第4式とを用いて、学習データとすべき複数の分光スペクトルを生成する学習データ生成ステップを備え、
前記学習データ生成ステップは、
基材の分光反射率と、基材上における複数の網点率100%の単色色材の分光反射率を取得するステップと、
前記第3式および前記第4式から前記複数の網点率100%の単色色材が重ね合わされた混色色材の分光反射スペクトルを算出するステップと、
前記第2式に前記単色色材および混色色材の分光反射率を設定し、前記単色色材の網点率を複数種類設定して、複数の三刺激値を算出し、当該複数の三刺激値を前記第1式に設定して前記学習データとすべき複数の分光反射率を算出するステップと、を含むことを特徴とする学習スペクトル生成方法。
【請求項5】
所定の標準光源と所定の等色関数を前提とし、色材の分光反射率と三刺激値との関係を規定した第1式と、三刺激値と色材の網点率との関係を規定した第2式と、基材上の色材層の反射率とS/K値(Sは散乱係数、Kは吸収係数)との関係を規定した第3式と、基材のS/K値と基材上の複数の単色色材のS/K値とを加算して得られる混色色材の、S/K値と反射率との関係を規定した第4式とを転用して、学習データとすべき複数の分光スペクトルを生成する学習データ生成ステップを備え、
測定対象の物質は、固有の吸収波長または発光波長を有する物質であって、その含有量の変化に伴い固有の吸収波長または発光波長のピーク位置が変化せずピーク輝度が変化する物質であり、
前記学習データ生成ステップは、
基材の分光スペクトルと、基材上における複数の含有量100%の物質の分光スペクトルを取得するステップと、
前記第3式および前記第4式から前記複数の含有量100%の物質が重ね合わされた状態の分光スペクトルを算出するステップと、
前記第2式に非重ね合わせ物質および重ね合わせ物質の分光スペクトルを設定し、前記非重ね合わせ物質の含有量を複数種類設定して、複数の三刺激値を算出し、当該複数の三刺激値を前記第1式に設定して前記学習データとすべき複数の分光スペクトルを算出するステップと、を含むことを特徴とする学習スペクトル生成方法。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate