説明

分光光度計

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明の分光光度計に係り、特に血液中の成分を測定する臨床検査の分野に主として用いられ、さらに具体的にいえば、一本の試験管を用いるだけで1回の検体定量サンプリングで迅速、かつ、簡単に吸光度測定を行うのに好適な分光光度計に関するものである。
〔従来の技術〕
血液中の成分濃度を迅速にしかも簡便に目標精度内で測定する臨床検査では、濾過や上清分離などの繁雑な操作を省略し、共存成分が多種存在する状態で試薬を添加し、発色,測定することが行われている。
しかし、これでは、共存成分が吸光度増(もしくは減)の影響をもたらし、これが誤差の原因となる。このような共存成分による妨害を除去する方法として、共存成分による吸光度増(もしくは減)をあらかじめ別途に測定しておき、この値をブランク値としてトータル発色値(通称、試料発色値)より差し引き、正しい答を求めている。
例えば、血清アルブミンを測定する4−ハイドロキシ アゾベンゼン、カーボキシリツク、アシツド法(4−Hydroxy Azobenzen Carbaxilic Acid Method)は、アルブミンと特異的に反応する精度の高い方法であるが、ビリルビンの影響を受けるので、ブランクによる補正を行うことが必要である。
また、2−Nitros−5−CH−Propyl−N−sulfopropylamino)−phenol(以下Nitroso−PSAP法と略称する)はFe2+とキレートを形成し、弱酸性から弱アルカル性領域で発色するので、血清鉄の分析に使用されるが、血清が濁つている場合には、近年特に増加の傾向にある高脂質血清などの分析において誤差を生ずる。したがつて、このような場合には、検体ブランク法(SB法)が一般に用いられる。
なお、血清鉄のように、反応に使用する試験管や空気中に存在する鉄の影響を受ける恐れのある成分では、試薬ブランクによる補正は当然有効である。よく知られているように、試薬ブランクでは、血清の代りに血清量と同じ量の水を添加し、血清分析の場合と全く同じ試薬を添加して発色させる。このときの発色強度をどの血清の発色強度からも同じに差し引くのが試薬ブランクの手法である。
したがつて、試薬ブランクにおいて、個々の容器で残鉄量が異なる場合には、若干の誤差を生ずることは致し方ないとされている。
上述のように、SB法は、迅速,簡便を要されている臨床検査において、精度向上のために極めて有効な手法として広く用いられており、特に検体数の少ない項目の試薬コストが高く新試薬レベルの分析法を用いる手分析に多く使用され、有効とされている。
なお、この種文献としては、臨床検査機器・試薬 VI:2・1983 第359頁〜第366頁の荒明等による「Feネオ“シノテスト”(Nitroso−PSAP)法による血清鉄測定に関する知見」と題する論文がある。
〔発明が解決しようとする問題点〕
上記従来技術のSB法を実際に行う場合の具体例としてNitroso−PSAP法について解決しようとする問題点について述べると、1検体に対して2本の試験管を用意し、1方には血清0.3ml,第2試薬1.0mlを加えて混和後、第3試薬1.0mlを加えた後比色測定を行い、他方の試験管には血清0.3mlに第1試薬として水1.0mlを加えて混和後、第3試薬1.0mlを加えて比色測定を行、前者より差し引いた結果を求める(第1表参照)。
ここで、2本の試薬にそれぞれ血清をサンプリングすることになるので、1本の場合に比べ、誤差は2倍になる。また、試験管を2本使用するので、労力が2倍、作業机のスペース及び試薬量も1.5倍になり、試薬量はコスト高に影響する。2本の試験管の操作は、1本のそれに対して多くの時間を必要とし、繁雑さとトラブルの原因になる。
本発明の目的は、上記欠点を解決し、迅速にトラブルなしで、しかも、高精度のSB測定法を1本の試験管で行うことができる分光光度計を提供することにある。
〔問題点を解決するための手段〕
上記目的を、反応液を生成させる試験管と、当該試験管から反応液を吸入する吸入ノズルと、当該吸入ノズルが接続されるフローセルと、前記反応液を前記吸入ノズルより前記フローセルに定量導入するしごきポンプと、前記フローセル内へ定量導入された反応液の吸光度を測定する吸光度計測部と、前記吸光度計測部による測定値を処理する演算部と、これらの各部を制御する制御部とを備え、 前記試験管で一本用いて、検体と第一試薬とを反応させて反応液を生成させ、当該反応液の一部を前記吸入ノズルおよびしごきポンプにより前記フローセルに定量導入し、前記吸光度計測部により第一の測定値を得、前記反応液を生成させた試験管内の前記反応液の残部と第二試薬とを反応させ、前記吸入ノズルおよびしごきポンプにより同様の操作を繰返し、前記フローセルと前記吸光度計測部により第二の測定値を得、前記第一の測定値と当該第二の測定値とを処理し、前記反応液中の共存成分の影響を除去し、前記検体内の成分濃度または濃度に対応する単位が得られるよう制御する構成とした。
なお、試験管中に血清を定量サンプリングし、次に試薬を添加した反応を起こさせて発色の強さを測定する従来の分析操作では、反応試料液の導入にしごき吸入ポンプを使用していたが、このポンプは吸入動力源として可撓性チユーブの弾性を利用しているので、定量性を持続できないのが最大の欠点であつた。そこで、本発明者等はさきにこのポンプの定量性を保証するため、秤量した一定量の液を吸入させ、吸入液と空気との境界を検出して、使用中のチユーブが定量液を吸入し終る時間をもつて定量吸入の尺度とする提案を行つた。そこで、この定量能力を付与したしごき吸入ポンプを使用するようにし、1本の試験管だけでSB法を実現するようにした。すなわち、試験管中の第1試薬を添加した時点での液の体積をV0、この時点でブランクの測定のために吸入した体積をVSとし、ブランクの吸光度値を記憶せしめ、次に、吸入量VSを吸入した後の残量Vrに第2試薬を添加し、反応終了後上記試験管中に定量吸入しサンプルの吸光度を測定し、この吸光度値の上記のブランクの吸光度値との差を求め、真の値を算出するようにした。
従来、ブランク用と、サンプル用の2本の試験管を用いて行つていたSB法を1本の試験管で実現するようにし、定量吸できるしごきポンプを組み込んだ分光光度計を使用し、逐次操作を行う方法を採用したので、従来の問題点を解決することができた。
〔作用〕
分析のために定量サンプリングされた血清Amlは、反応のために添加された第1試薬の量V0(ここではA≪V0として、第1試薬を添加した時点での液の体積と等しいとする)吸入のために取り去られた液量VS、最後に添加された第2試薬の量などに対し、如何なる濃度の関係にあるかが明確でなければ定量分析としての結果を求めることはできない。ここで、添加される試薬量は、1本の試験管ですべての行程が処理されるので、最小限の誤差にとどまる。その誤差は手分析の精度で支配される。また、取り去られる試料液の量の定量精度は、しごき吸入ポンプの定量精度で決まる。
測定に入る前に、一定量例えば5mlの秤量した水を吸入させ、その吸入所要時間でしごき吸入ポンプの吸入量を較正する。較正の演算は、制御装置で行う。5ml秤量液の吸入終点の検出は、分光光度計は、該秤量液を吸い終り、空気を吸い上げる際、水−空気の境界を判定することにより行う。
〔実施例〕
以下本発明を第1図に示した実施例及び第2図,第3図R>図を用いて詳細に説明する。
第1図は本発明の分光光度計の一実施例を示すハード構成図であり、これにより1本の試験管で検体ブランクを補正するSB法をNitroso−PSAP法による鉄分析例について説明する。第1図において、試験管1に血清を0.6ml秤量採取し、第1試薬として水を0.6ml添加する。従来法では、2本の試験管に血清0.3mlをそれぞれ秤量採取し、ブランク用試験管には水1mlを、また、サンプル用試験管には第2試薬である還元剤入り呈色液を1ml添加する。本発明の実施例では、以下に詳しく説明する分光光度計で前述の血清と水をそれぞれ0.6mlずつ混合した1.2mlの溶液から0.6mlを吸入し、ブランクとして吸光度を測定する。ここで、ブランクの吸光度値は後述する係数を乗じて、サンプルの吸光度値より減ずる。また、従来法では、血清+水に第3試薬である緩衝液を1ml添加し、アルカリ性で検体ブランクを測定しているが、有意な差は認められない。
残溶液0.6ml(この溶液は血清0.3ml、水0.3mlの混合液)に第2試薬(呈色液)を1.0ml添加し、十分に混和する。ここで、血清の濃度は、従来法に比べて例えば1.3/1.6であり、呈色液の濃度は、同じく1.3/1.6■0.8である。この条件の差は、多くの検体について従来法による測定値と差のないことが確認されている。次に、第3試薬である緩衝液を1.0ml加え、十分混和する。この最終液の血清の濃度は、従来法に比べて2.3/2.6であり、第2,第3試薬(本発明では第2,第3試薬を第2試薬といつている)について同様に2.3/2.6■0.88になつている。これらの濃度条件の違いは、従来法との相関を測定し、影響しないことが確認されている。上述の測定の手順は第1表に、また、血清,試薬の濃度条件の差を第2表に示してある。試薬ブランク及び測定結果の相関データ

をそれぞれ第2図,第3図に示す。ここでは本発明の実施例での吸光度実測値に6/2.3が乗じられている。また、第3図では縦軸はサンプル測定時の吸光値に26/23を乗じた後、上記のブランク値を減じた値である。
次に、吸光度の測定手順と分光光度計の機能について第1図を用いて詳述する。試験管1には、フローセル3に導入する吸入ポンプ5の較正用定量液もしくは吸光度測定用試料液を満たしてある。吸入ポンプ5は、可撓性チユーブ(図示せず)をモータ7の回転によりローラ(図示せず)でしごいて導入管4を経て液を導入するので、室温,使用期間により時間当りの導入量が異なる。したがつて、指定された一定量の液を導入するためには、測定に入る前に較正が必要である。この較正は、制御装置9の中の吸入液量較正用制御装置10が図示しないキーにより指定され、モータコントローラ8をオン−オフし、オン時間を計測することによつて行われる。ノズル2を試験管1の底部にまで挿入し、定量秤量された液(通常水)が全部吸入されて空気がノズル2内に浸入し、フローセル3を通過するとき、光検出器12への光源13からの大きな光量変化をもたらす。定量吸引の判別は、この信号を増幅器14を通して制御装置10によつて行う。制御装置10はモータ7を停止し、定量液の吸入に要した時間を計測する。なお、第1図の装置は、10mlの定量液で較正を行う。したがつて、サンプル吸入量1mlを設定した場合、上記計測時間の1/10の時間だけモータ7を回転するようにする。なお、第1図で、6は廃液容器、15はフローセル3を恒温に保持する恒温部で、温度コントローラ16で恒温に保持する。
次に、一般検体の測定の場合には、制御装置9内の検体測定用制御装置11が作動するように指示される。すなわち、本実施例では、試験管1内にそれぞれ定量サンプリングされた血清と第1試薬である水との混合液を0.6ml吸入するように検体測定用制御装置11に設定される。そして、吸入液量較正用制御装置10に記憶された吸入時間(ここでは10mlを吸入)を基準にして検体測定用制御装置11に0.6mlの吸入量が操作卓上のテンキー(図示せず)により設定できる。
このようにして吸入されたフローセル3内のブランクの吸光度の測定値は検体測定用制御装置11に記憶され、同様にした測定されたサンプルの吸光度の測定値と次式によつて演算される。
X(μg/dl)=(ES・26/23−EB・6 /23)/Estd・26/23 ……(1)
ここに、Estd:1μg/dlの鉄を含む標準試料0.3mlを第1試薬である水0.3ml,第2試薬1ml,第3試薬1mlで発色させたときの吸光度ES:検体(サンプル)の吸光度EB:ブランクの吸光度 上記した本発明の実施例において、吸入ポンプ5の定量吸入の誤差の測定精度への影響を評価すると、吸入量VSが残量Vrに比べて小さいほど影響は小さく、精度が向上する。すなわち、測定精度を検体(血精)の濃度誤差(ここでは、フアクタで表現し、Δεとする)で表すと、

ここに、V0;使用全液量(V0=Vr+VS
ΔVS;吸入量誤差となる。ここで、Vr≫VS>ΔVSとすると、

となり、濃度誤差がなくなり、精度が向上することがわかる。
なお、濃度に対応する単位を測定する場合も同様である。
〔発明の効果〕
以上説明したように、本発明によれば、1.迅速,簡便に検体ブランク法を用いた比色分析が可能となる。
2.鉄分析Nitroso PSAP法で試薬が2/3になり、試薬の節約が可能である。
3.1回の検体(サンプル)の測定ですみ、かつ2度の吸光度計測より第一の測定値と第二の測定値がえられ、両測定値を処理し共存成分の影響を除去するので、精度が向上する。
4.試薬分注の回数が減るので、能率的である。
5.試験管が1本ですむので、労力,実験机上の占有面積が1/2に軽減できる。
などの効果がある。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の分光光度計の一実施例を示すブロツクダイヤグラム、第2図はブランクの吸光度の従来法と本発明の方法との相関を示す線図、第3図は測定結果の従来法と本発明の方法との相関を示す線図、第4図は本発明と従来法の比較図である。
1……試験管、2……ノズル、3……フローセル、4……導入管、5……吸入ポンプ、7……モータ、8……モータコントローラ、9……制御装置、10……吸入液量較正用制御装置、11……検体測定用制御装置、12……光検出器、13……光源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】反応液を生成させる試験管と、当該試験管から反応液を吸入する吸入ノズルと、当該吸入ノズルが接続されるフローセルと、前記反応液を前記吸入ノズルより前記フローセルに定量導入するしごきポンプと、前記フローセル内へ定量導入された反応液の吸光度を測定する吸光度計測部と、前記吸光度計測部による測定値を処理する演算部と、これらの各部を制御する制御部とを備え、前記試験管で検体と第一試薬とを反応させて反応液を生成させ、当該反応液の一部を前記吸入ノズルおよびしごきポンプにより前記フローセルに定量導入し、前記吸光度計測部により第一の測定値を得、前記反応液を生成させた試験管内の前記反応液の残部と第二試薬とを反応させ、前記吸入ノズルおよびしごきポンプにより同様の操作を繰返し、前記フローセルと前記吸光度計測部により第二の測定値を得、前記第一の測定値と当該第二の測定値とを処理し、前記反応液中の共存成分の影響を除去し、前記検体内の成分濃度または濃度に対応する単位が得られるよう制御する構成としたことを特徴とする分光光度計。

【第2図】
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【第3図】
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【第1図】
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【第4図】
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【特許番号】第2550101号
【登録日】平成8年(1996)8月8日
【発行日】平成8年(1996)11月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭62−247855
【出願日】昭和62年(1987)10月2日
【公開番号】特開平1−91039
【公開日】平成1年(1989)4月10日
【出願人】(999999999)株式会社日立サイエンスシステムズ
【参考文献】
【文献】特開昭48−88993(JP,A)
【文献】特開昭57−98858(JP,A)
【文献】特開昭56−132548(JP,A)
【文献】特開昭62−228146(JP,A)
【文献】実開昭54−86183(JP,U)