説明

分光装置

【課題】 高速かつ高感度な分光が可能であるとともに、小型化を実現可能な分光装置を提供する。
【解決手段】 光源からの光が入力される光入力部102と、光学素子と、光偏向素子107と、光偏向素子107から出射された光を反射する反射素子108と、光検出器110とを少なくとも備え、
光偏向素子107が、電気光学効果を有する材料で形成された屈折率変化領域121、及び屈折率変化領域121を挟むように電極122が配置されてなり、
反射素子108が、特定波長の光を共鳴反射する波長選択性を有する共鳴フィルタであることを特徴とする分光装置101である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光装置に関し、特に高速な光走査デバイスを用いた分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より分光技術を用いた装置は数多く提案されており、例えば、分散型回折格子を用いた分光装置や、音響光学素子を用いた分光装置などが知られている。
分散型回折格子を用いた分光装置(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)における、回折格子による分光は、極めて高分解能での計測が可能である。しかしながら、高次回折光の影響による回折光の光量低減などが課題となり、スリットを設ける必要があることから、光量の減衰が生じ、光学系の大型化を避けることができない。さらに機械的な駆動に頼る必要があるため高速な分光が期待できないという問題がある。
【0003】
これに対し、機械的な駆動部を持たない方式として、音響光学素子を用いた分光装置が知られている。
音響光学素子による分光装置は、ブラッグ回折を用いているため、上述の回折格子でみられる不具合は生じず、また音響波を用いるため、比較的高速な分光が可能となる。しかしながら、音響波を発生させるトランデューサで消費される電力が大きく、駆動回路も複雑となる。さらに、分光装置を構成する中核部品のサイズが大きいという課題がある。
【0004】
一方、電気光学効果を用いた光偏向素子とプリズムや回折格子、音響光学チューナブルフィルタ(AOF)などの分散素子を用いた高速分光装置が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
電気光学効果を用いた光偏向素子は、電圧印加により高速に光を偏向させることができる。偏向された光を分散素子であるプリズムによって分光し、その集光位置を、光を偏向させることで変化させ、スリットを通過する光の波長を変化させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3に記載の装置の構成では、高速な分光は実現できるが、分散プリズムによる分散特性が、その材料に大きく依存するために、分光できる波長領域が制限されるという問題がある。
また、特許文献1及び2に記載の装置では、機械駆動させる回折格子型の分光装置と同様に光量が低下するなどの課題があり、また、スリットを含めたトータルな光学設計が必要となるため、装置の小型化が課題となる。
【0006】
よって、本発明の課題は、高速かつ高感度な分光が可能であるとともに、小型化を実現可能な分光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る分光装置は、以下のとおりである。
〔1〕 光源からの光が入力される光入力部と、光学素子と、光偏向素子と、前記光偏向素子から出射された光を反射する反射素子と、光検出器とを少なくとも備え、
前記光偏向素子が、電気光学効果を有する材料で形成された屈折率変化領域、及び該屈折率変化領域を挟むように電極が配置されてなり、
前記反射素子が、特定波長の光を共鳴反射する波長選択性を有する共鳴フィルタであることを特徴とする分光装置である。
〔2〕 前記光偏向素子の前記屈折率変化領域が、プリズム形状の電極反転部が連続して形成されてなることを特徴とする前記〔1〕に記載の分光装置である。
〔3〕 前記光偏向素子の光伝搬領域が、薄膜状部材で形成されていることを特徴とする前記〔1〕または〔2〕に記載の分光装置である。
〔4〕 前記共鳴フィルタが、基板上に、相対的に屈折率の高い高屈折率層及び相対的に屈折率が低い低屈折率層が積層されてなり、
前記高屈折率層の上部に、所望の波長と同等か所望の波長以下のピッチで形成された一方向の凹凸による周期構造を有することを特徴とする前記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の分光装置である。
〔5〕 前記共鳴フィルタが、基板上に、相対的に屈折率の高い高屈折率層及び相対的に屈折率が低い低屈折率層が積層されてなり、
前記高屈折率層の上部に、所望の波長と同等か所望の波長以下のピッチで形成された水平断面が二次元形状の凹凸による周期構造を有することを特徴とする前記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の分光装置である。
〔6〕 前記共鳴フィルタが、同一平面内において、異なるピッチで形成された凹凸による周期構造を有することを特徴とする前記〔4〕または〔5〕に記載の分光装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高速かつ高感度な分光が可能であるとともに、小型化を実現可能な分光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の分光装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】光偏向素子の構成を説明する模式的図である。
【図3】ニオブ酸リチウム材料による光偏向素子の印加電圧と偏向角の関係を示すグラフである。
【図4】光偏向素子の動作電圧の周波数に対する出力光電圧をプロットしたグラフである。
【図5】共鳴フィルタの(A)斜視図、及び(B)断面図である。
【図6】本発明の分光装置が備える共鳴フィルタのシミュレーションモデル図である。
【図7】図6に示す共鳴フィルタのシミュレーションモデルの結果を示すグラフである。
【図8】共鳴フィルタの入射角度に対する反射スペクトルをプロットしたグラフである。
【図9】本発明の分光装置が備える共鳴フィルタの他の例の上面図及び断面図である。
【図10】領域分割された共鳴フィルタの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る分光装置について図面を参照して説明する。なお、本発明は以下に示す実施例の実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0011】
本発明の分光装置の概略構成を図1に示す。
図1に示すように、本発明の分光装置101は、光源からの光が入力される光入力部102と、光学素子(偏光子103、コリメートレンズ104、集光レンズ105及び106、レンズ109)と、光偏向素子107と、光偏向素子107から出射された光を反射する反射素子108と、光検出器と110を少なくとも備え、さらに信号制御部111、信号検出部(図示せず)、電圧印加制御部112を備える。
光偏向素子107は、電気光学効果を有する材料で形成された屈折率変化領域121、及び該屈折率変化領域121を挟むように電極122が配置されてなり、反射素子108は、特定波長の光を共鳴反射する波長選択性を有する共鳴フィルタである。(以下、反射素子108を「共鳴フィルタ」という。)
【0012】
光入力部102に入射した様々な波長を有する光は、偏光子103により紙面垂直方向に振動する直線偏光に調整される。次いでコリメートレンズ104により幅が数百μmから数mm程度の平行光に変換され、集光レンズ105により光偏向素子107に入力される。図1に示す例では、紙面平行方向の光の幅を保ちながら、紙面垂直方向のみを集光するシリンドリカルレンズを用いている。なおコリメートレンズ104は、図1では模式的に1枚しか描いていないが、数枚のレンズ群からなるものから構成されていてもよい。
【0013】
光偏向素子107には、屈折率変化領域121を挟むように電極122が配置されている。電極122には、電圧印加制御部112から数百Vから数kVの電圧が印加される。
屈折率変化領域121は、プリズム形状(三角プリズム型)の分極反転部が連続して形成されている。屈折率変化領域121に電圧が印加されると、図1に模式的に示される三角形内の屈折率変化の極性が、三角形外の屈折率変化の極性と反対の極性をもつように変化する。たとえば、電圧が印加されたときに三角形内の屈折率変化が(−Δn)であれば、三角形外の屈折率変化は(+Δn)となる。
【0014】
なお、屈折率変化領域121は、図1に示した同形状の組合からなる態様だけではなく、出力側に向かうにつれ、三角プリズム形状の高さが大きくなるホーン型プリズムを形成しても良い。
【0015】
屈折率変化領域121は、電気光学効果を有する材料で形成されており、例えば、電気光学結晶に分極反転技術により屈折率変化領域121を形成している。
電極122に電圧を印加すると、電界が生じ、屈折率変化領域121を形成する電気光学結晶のポッケルス効果により屈折率が変化する。この屈折率変化が分極反転によって正負逆転するので、三角形形状の屈折変化部分ができることにより、光は偏向する。
屈折率の変化は印加電圧の大きさに依存し、印加される電圧が大きくなると偏向角が大きくなる。また、電圧の極性が変わると振れ方向が中心軸から反対方向へ偏向する。
上述のような分極反転技術により屈折率が反転する領域を形成する方法以外に、電極形状自体を三角形形状にすることにより、電極形状に応じた屈折率変化を与える態様としてもよい。
【0016】
光偏向素子107により偏向された光は、集光レンズ106によって再びコリメート光とされ、共鳴フィルタ108に入射される。共鳴フィルタ108には波長選択性があり、ビームの入力角度によって、異なる波長が反射される構造を有する(詳細は後述)。そのため、図1の概略図に示されるように偏向方向が異なる光が共鳴フィルタ108に入射されると、その角度に応じた波長が共鳴フィルタ108で選択されて反射される。
反射された特定波長の光は、レンズ109によって集光されて光検出器110に入力され、光検出器110により電気信号に変換され、出力信号として出力される。この出力信号は信号制御部111から外部入出力に接続される。
【0017】
このような構成により、電圧印加により共鳴フィルタ108での反射波長を制御することが可能となるため、可動部を必要とせず、また電圧印加スピードに応じた高速な分光が可能な分光装置が得られる。また、共鳴フィルタ108により、高反射率での分光が可能となるため高効率である。さらに、光検出器110の直前にスリットを置く必要がないため、波長間の迷光による影響を低減することができる。
【0018】
〔光偏向素子〕
以下、本発明の分光装置に用いられる光偏向素子について説明する。
図2に、光偏向素子の構成を模式的に示す。光偏向素子は、屈折率変化領域201が電気光学効果を有する材料(電気光学結晶)により形成される。ここでは、一例としてニオブ酸リチウム(LiNbO:LN)により形成された光偏向素子を示す。
図2に示すように、屈折率変化領域(以下、「ニオブ酸リチウム基板」ともいう)201を挟むように電極203及び204が配置されており、この電極203及び204が形成されたニオブ酸リチウム基板201は、接着剤層206によって支持基板205に接着されている。
【0019】
ニオブ酸リチウム基板201には、フォトリソグラフィーにより高さ3mm、幅1mm程度の三角形状が連なったレジストパターンからなる分極反転部202が形成されている。ニオブ酸リチウム基板201を挟み込むように抗電界を越えるような高電圧を印加すると、レジストがない部分に直接電界が印加されるので、その部分が分極反転し、レジストパターンに対応した三角形状の極性を変化させた分極反転部202を形成することができる。
このような分極反転により極性が異なる屈折率変化領域を形成することができる。
【0020】
分極反転部202は、フォトリソグラフィーによるパターニングであるので、基板上に一度に複数のパターンを近接させて配置させることは十分可能であり、それらを用いた分極反転基板を作成することも可能である。
マスクパターンをあらかじめ設定しておけば、任意のパターンを同じ領域にひとつのパターンを形成する方法とほとんど変わらずに形成することができる。
【0021】
分極反転部202の領域を覆うように形成された電極203及び204の面積は、分極反転部202を過不足なく覆う程度でよい。さらに、分極反転されたニオブ酸リチウム基板201を挟み込むように電極204もあらかじめ形成しておく。基板201の厚みは500μmから300μm程度であるが、図2のように基板201の表裏面に電極を形成し、電圧印加による屈折率変化を起こすことを考慮に入れると、低電圧動作を実現するためには電圧が印加される幅が狭いほうがより好ましい。
光伝搬領域が薄膜状部材で形成されていることが好ましく、ずなわち、ニオブ酸リチウム基板201の厚みを薄くすることにより低電圧動作が可能となる。
【0022】
ただし、基板201の厚みが薄いと、機械的な強度を保つための支持構成が必要となる。
図2では、支持基板205によって支えられる構成を示している。図2のように分極反転部202が形成されたニオブ酸リチウム層201は、接着層206を介して支持基板205上に貼り付けられている。
このような構成は、例えば分極反転部202と電極204とを形成した基板201を、支持基板205に接着剤(接着層206)により接着し、電極204が形成されている面とは反対の面を研磨加工により薄膜化することで製作することができる。より薄い構造であれば、低電圧動作が可能となるが、高精度な加工技術が必要となるので、ニオブ酸リチウム基板201の厚みは10μmから20μm程度としてある。
【0023】
支持基板205の材質としては、熱膨張係数が屈折率変化領域と同じものが好ましく、例えばニオブ酸リチウム基板を用いるのが好ましいが、シリコンや石英、ガラス基板であってもよい。また厚みは500μm程度あれば十分である。
【0024】
図3に、電気化学効果を有する材料としてニオブ酸リチウム材料を用いて作製した光偏向素子の印加電圧と偏向角との関係を示す。
印加する電圧が大きくなるにつれて、ニオブ酸リチウム材料のポッケルス効果により屈折率変化が大きくなるので、線形に偏向角も大きくすることができる。光が伝搬する部分の厚みは10μmまで薄膜化されているために、最大偏向角を得るための電圧も、150V程度と低電圧で駆動させることができることがわかる。
なお、薄膜化しない基板結晶厚の300μm程度の厚みで駆動させるためには、薄膜化した場合と比べて30倍の電圧を必要とする。この場合、複雑な電圧源が必要となり、消費電力も大きくなってしまうという問題がある。
【0025】
図3に示した特性を有する光偏向素子は、電圧と偏向角とが一対一対応していることを特徴とし、任意電圧を印加することで、任意偏向角を実現できる点である。つまり、偏向角と偏向周波数を電圧源によってのみ決定させることができることができる。このような駆動は、機械的な駆動では困難であり、ランダムアクセスによる偏向方向の走査も可能である。
【0026】
図4に、上述の光偏向素子の動作電圧の周波数に対する出力光電圧をプロットしたグラフを示す。図4から、光偏向素子が、周波数が0.1Hzから20kHzまでは一定した電圧出力を示していることがわかる。20kHz以上は印加電圧を発生させる電圧源の性能により出力が落ちてしまっているが、潜在的には100kHz程度まで一定して電圧出力を示すことが可能である。
このことから、従来の共振現象を用いた光偏向素子と比較して、本発明の分光装置に用いられる上述の光偏向素子は、高速スキャンかつランダムスキャンでの動作が可能であることがわかる。
【0027】
また、上述の光偏向素子は、任意の周波数に対して複雑な偏向をさせることが可能であるため、100kHz程度までの周波数であれば、柔軟な偏向が可能となる。たとえば、100Hzで電圧を変化させていたところを局所的に10kHzで電圧を変化させることも可能である。
さらに、光導波路型を採用することにより、比較的低電圧での駆動が可能となり、柔軟な電子回路設計で電圧制御部を形成することができる。
このように形成された光偏向素子の解像点数は、入力されるビーム径になどにも依存するが、現実的な値として100〜300点程度である。
【0028】
〔共鳴フィルタ〕
以下、本発明の分光装置に用いられる反射部材としての共鳴フィルタについて説明する。
前記共鳴フィルタは、特定波長の光を共鳴反射する波長選択性を有し、波長と同程度の周期構造を有する狭帯域の光学フィルタである。
共鳴フィルタは、導波モード共鳴格子や共振モード格子と呼ばれることもある。周期構造のピッチと入射光の波長とがある共振条件を満たすと共振現象が発生し、これによって非常に帯域の狭い反射型の波長フィルタを作製することができる。共振波長での反射率は理論的には100%に達するので、高次回折光が出てくる回折格子と比較して光量を効率良く得ることができる。また、波長選択フィルタであるので、反射波長以外は透過する。これは、すべての波長を回折してしまう反射型の回折格子と比較して、本発明の分光装置に用いられる共鳴フィルタの特徴である。
【0029】
多層膜から形成される波長フィルタは、垂直入射に対しては理論的に100%の反射が得られるが、斜入射の光に対しては反射率が低下することや、反射スペクトルの半値全幅が大きくなるなどの課題がある。
【0030】
図5に、一般的な一方向に配列した、すなわち一次元の周期構造を有する共鳴フィルタの構成の一例を示す。(A)は斜視図、(B)は断面図である。
共鳴フィルタは、屈折率の異なる2種類の材料から構成されており、相対的に低い屈折率nLを持つ低屈折率材料からなる基板層301上に、相対的に高い屈折率nHを持つ高屈折率材料からなる導波層302が形成され、導波層302の上面に低屈折率材料からなる周期構造層303が形成されている。(ここで、屈折率nH>屈折率nLとなっており、以後、2種類の材料を使用しているとき、相対的に屈折率のより高い材料からなる層を高屈折率層、相対的に屈折率の低い材料からなる層を低屈折率層と呼ぶ。)
図5に示す共鳴フィルタでは、入射した光のうち周期構造層303と共鳴する波長のみが、導波層302の導波モードとカップリングし共鳴反射することとなる。
【0031】
図5(B)に示すように、周期構造層303は、凹凸構造が周期pで一方向に配列した周期構造を有する。グレーティングの幅は周期に対してFF倍(0<FF<1)で定義する。このような一次元の周期構造においては、偏光方向に対する依存性が発生するため、図5(A)に示すように溝に平行な電場振動を有する成分をTE偏光、溝方向に垂直な電場振動を有する成分をTM偏光と呼ぶことにする。
【0032】
本発明の分光装置に用いられる共鳴フィルタに関し、厳密結合波解析(RCWA)によりフィルタの設計を行った。
シミュレーションモデルを図6に示す。図6に示すように、基板401上に、高屈折率層402と、低屈折率層403と、サブ波長構造(Sub-Wavelength Structure:SWS)層404をこの順に積層して形成している。
基板401の屈折率をns=1.51、高屈折率層402の屈折率をnH=2.23、低屈折率層403の屈折率をnL=1.44とし、サブ波長構造は高屈折率層と同質の材料と仮定し、その屈折率はnS=2.23としてシミュレーションを行った。
また、図6にあるような電界の振動方向に対してシミュレーションし、周期p=250nm、充填率FF=0.4とした。
各層の厚みを、高屈折率層d1、低屈折率層d2、サブ波長構造層(高屈折率層)d3としたときに、d1=100nm、d2=50nm、d3=300nmとしてシミュレーションした。
【0033】
すなわち、図6のモデルで示される本発明の分光装置に用いられる前記共鳴フィルタの一実施態様は、基板(nsub)上401に、相対的に屈折率の高い高屈折率層(nH)402、及び相対的に屈折率が低い低屈折率層(nL)403が積層されてなり、高屈折率層と同質の材料からなるサブ波長構造層(nS)404が、所望の波長と同等か所望の波長以下のピッチで形成された一方向の凹凸による周期構造を有する。
【0034】
図7に、図6のシミュレーション結果の一例を示す。
図7は、入射角度を20度から30度まで変化させたときの分光スペクトルを示している。波長600nmから650nmの波長をもつ光に対して分光できるようにパラメータを設定してあるので、入射角度によって反射される波長が変化し、偏向素子から出力される光の入射角によって分光できることがわかる。また、反射率もシミュレーション上では100%であり、入射角度に対応した波長の光を効率よく反射させることができることがわかる。
【0035】
本発明の分光装置に用いられる前記光偏向素子に印加する電圧を連続的に変化させることにより、該光偏向素子から出力される光の偏向角を連続的に変化させることができる。このことから、分解能は前記共鳴フィルタのフィルタ性能に依存する。
【0036】
図8は、前記共鳴フィルタにおいて、より詳細に、入射角度に対する反射スペクトルをプロットしたグラフである。入射角度が0.1度で変化したときの反射スペクトルをプロットし、図8のグラフから、1nm以上の分解能は十分に得られるようなフィルタであることがわかる。
スペクトルの半値で分解能を定義すると、このフィルタの波長分解能は0.5nm程度であり、サブnmの分解能での分光が可能であることを示している。
【0037】
前記共鳴フィルタにおいて、スペクトルの線幅や中心波長の設計は、パラメータ(層の厚さ、屈折率、周期)の設定で比較的容易に調整することができる。
【0038】
前記共鳴フィルタを構成する材料としては、例えば、基板には合成石英ガラス、高屈折率材料には酸化チタン(TiO)、低屈折率材料には二酸化シリコン(SiO)などが挙げられる。これらの材料を用いて均一な層を形成することは、スパッタリングや蒸着などの一般的な方法で可能である。上記以外の材料としては、例えば、基板としてはシリコン、石英、サファイアなど、高屈折率材料としては五酸化二タンタル(Ta)、ハフニウム酸化物など、低屈折率材料としては酸化マグネシウムなどを用いることができる。さらに、無機材料以外で有機材料を用いることも可能である。
【0039】
前記共鳴フィルタのサブ波長構造部分は、リソグラフィーとエッチングにより形成することができる。ここでは、電子ビーム描画により波長以下の周期構造をパターニングし、ドライエッチングで酸化チタンをエッチングして形成することを想定している。
【0040】
本発明の分光装置における分光原理を説明する。
上述のように、前記光偏向素子は高速かつ連続して光を偏向させることができる。このとき偏向角が±5度(全角で10度)であるので、中心の入射角度が25度に設定すると、20度から30度の間で入射角を調整することが可能となる。さらに25度の入射角のときに反射波長を630nm程度に設定すると、光を偏向させて得られる反射光は波長に対応していることになる。つまり、光偏向素子からの入射光の角度を電圧により変化させることができ、電圧の変化に対する反射光の受光量が波長に対応し、スペクトルを得ることができる。
【0041】
高速な光偏向素子と分散が強いプリズムもしくは回折格子を組み合わせて得られる従来の分光装置に対して、本発明の分光装置の構成では、分散による波長分離とスリットによる波長選択とを、前記共鳴フィルタによって同時に行うことができるため、高精度な光学部品配置の必要がなく、さらに装置の小型化が可能となる。
また、波長分散が角度変化に変換されているため、大きな偏向角を必要としない光偏向素子の小さい角度変化に対しても感度良く波長を分離させることができる。
【0042】
回折格子を用いた場合、高次モードの影響で反射光のパワーが減衰せざるをえず、分散型回折格子としてブレーズ回折格子を用いると、バイナリー型にする必要があり、0次または+1次の回折光が60%〜80%程度になる。
これに対し、本発明のように前記共鳴フィルタを用いることにより、理論上は100%反射であり、90%以上の反射率を実現することができる。
【0043】
入射される光は微弱であるため、光検出器において効率よく光を得ることができれば、高性能の光検出器を用いる必要がなく、装置を低コスト化することができる。また、前記共鳴フィルタを用いることにより、波長分離された光を適切にスリットで分離するための位置調整機構なども必要としないので、装置の小型化を実現できる。
【0044】
本発明のサブ波長構造層を備えた共鳴フィルタは、基本構造として、基板(屈折率nsub)上に、低屈折率層1(屈折率:nL1)、高屈折率層(屈折率:nH)、低屈折率層2(屈折率:nL2、nL1とnL2は同じでなくてよい)、サブ波長構造層(屈折率:nS)と積層して形成される。高屈折率層が低屈折率層1と低屈折率層2で挟まれているので、高屈折率層に光が導波されると、高屈折率層は光導波層となる。
サブ波長構造層は、独立した層として形成して積層してもよく、低屈折率層2に直接形成することにより設けてもよく、高屈折率層に直接形成することにより設けてもよい。サブ波長構造層を設ける位置や形成方法は、共鳴フィルタに求める効果や製作プロセスなどの条件に応じて適宜選択することができる。
共鳴フィルタを構成する各層の屈折率(材料)のパターンとしては、例えば、以下の態様が挙げられる。
(1)nsub、nL1、nH、nL2、nSがすべて異なる。
(2)nsubとnL1が同じ(同じ材料で形成されている)。
(3)nsubとnL1が同じ、かつnL2とnSが同じ(同じ材料で形成されている)。
(4)nsubとnL1が同じ、かつnHとnL2とnSが同じで、nL1とnHとは異なる屈折率。
【0045】
また、本発明の分光装置に用いられる前記共鳴フィルタは、図9(a)及び(b)に示すように、基板501上に、相対的に屈折率の高い高屈折率層503及び相対的に屈折率が低い低屈折率層502が積層されてなり、高屈折率層503の上部、具体的には最上面に形成された前記高屈折率層503の少なくとも一部に、所望の波長と同等か所望の波長以下のピッチで形成された水平断面が二次元形状の凹凸による周期構造を有する態様であってもよい。
図9(a)及び(b)は、水平断面が二次元形状の高屈折材料からなるサブ波長構造を配置したものである。このような二次元の周期構造のことをフォトニック結晶配列と呼ぶこともある。
【0046】
垂直断面図に示すように、基板501に低屈折率層502と高屈折率層503を形成し、高屈折率層503にパターニングすることでサブ波長構造が形成されている。なお、図9(a)のような凹構成でも、(b)のような凸構造でもよい。また、パターンの形状は図のような円形構造でも四角形構造でもよく、所望の波長特性に応じた形状とすることができる。
このような構成であると、偏向方向によって異なる特性が得られるとともに、エアーブリッジ構造にすることで構造強度を向上させることができる。
【0047】
サブ波長構造504での波長適用範囲は、その構造の周期に依存しており、その範囲は100nm程度である。それ以上の範囲を分光するためには、異なる共鳴フィルタを用意する必要がある。
これに対し、異なる領域を分光するために、前記共鳴フィルタを領域分割で形成し、図10に示すように、同一平面内において、異なるピッチで形成された凹凸による周期構造を有する態様としてもよい。
【0048】
図10に、領域分割された共鳴フィルタの一例を示す。基板601上に、高屈折率層602、低屈折率層603が形成され、さらに領域A及び領域Bに、それぞれ異なるピッチでサブ波長構造層604a及び604bが形成されている。なお、図10に示す上面図の上方は、領域AのA1−A2での断面を領域A側から見た図であり、下方は領域BのB1−B2での断面を領域B側から見た図である。
サブ波長構造層604a及び604bは、高屈折率層602と同質の材料からなる層であってもよく、低屈折率層603と同質の材料からなる層であってもよい。後者の場合、低屈折率層603に凹凸による周期構造を形成することによりサブ波長構造層を同時に形成することができ、サブ波長構造層を新たな層として形成するプロセスを省略することができる。
なお、このような領域分割された構造は、パターンを制御することにより、複数の領域を一度に形成することができる。
【符号の説明】
【0049】
101 分光装置
102 光入力部
103 偏光子
104 コリメートレンズ
105 集光レンズ
106 集光レンズ
107 光偏向素子
108 共鳴フィルタ
109 レンズ
110 光検出器
111 信号制御部
112 電圧印加制御部
121 屈折率変化領域
122 電極
【先行技術文献】
【特許文献】
【0050】
【特許文献1】特開2007−187550号公報
【特許文献2】特開2006−201127号公報
【特許文献3】WO2008/005525公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光が入力される光入力部と、光学素子と、光偏向素子と、前記光偏向素子から出射された光を反射する反射素子と、光検出器とを少なくとも備え、
前記光偏向素子が、電気光学効果を有する材料で形成された屈折率変化領域、及び該屈折率変化領域を挟むように電極が配置されてなり、
前記反射素子が、特定波長の光を共鳴反射する波長選択性を有する共鳴フィルタであることを特徴とする分光装置。
【請求項2】
前記光偏向素子の前記屈折率変化領域が、プリズム形状の分極反転部が連続して形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の分光装置。
【請求項3】
前記光偏向素子の光伝搬領域が、薄膜状部材で形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の分光装置。
【請求項4】
前記共鳴フィルタが、基板上に、相対的に屈折率の高い高屈折率層及び相対的に屈折率が低い低屈折率層が積層されてなり、
前記高屈折率層の上部に、所望の波長と同等か所望の波長以下のピッチで形成された一方向の凹凸による周期構造を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の分光装置。
【請求項5】
前記共鳴フィルタが、基板上に、相対的に屈折率の高い高屈折率層及び相対的に屈折率が低い低屈折率層が積層されてなり、
前記高屈折率層の上部に、所望の波長と同等か所望の波長以下のピッチで形成された水平断面が二次元形状の凹凸による周期構造を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の分光装置。
【請求項6】
前記共鳴フィルタが、同一平面内において、異なるピッチで形成された凹凸による周期構造を有することを特徴とする請求項4または5に記載の分光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−163395(P2012−163395A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22525(P2011−22525)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】