説明

分割型複合繊維及び繊維構造物

【課題】 ポリアミド極細繊維からなり、柔軟性と耐アルカリ性に優れた緻密な構造の不織布を得るのに好適な分割型複合繊維であって、容易に、しかも、安定して生産が可能となる分割型複合繊維を提供する。
【解決手段】 主たる繰り返し単位の炭素数の差が4以上である2種のポリアミド成分(成分A、成分B)からなる複合繊維であって、繊維の長手方向に対して垂直に切断した単糸の横断面形状において、成分Aからなるセグメントと成分Bからなるセグメントが配置されており、成分Aと成分Bの比率(成分A/成分B)が質量比で10/90〜90/10である分割型複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維断面において2種のポリアミド成分が複数個配置された複合形態を呈し、優れた分割性を有し、分割することにより容易に極細ポリアミド繊維が得られる分割型複合繊維であって、研磨布等のワイピングクロス、各種衣料用、医療衛生材用、工業用分野等に好適な織編物、不織布等の布帛を容易に得ることができる分割型複合繊維に関するものである。また、このような本発明の分割型複合繊維から得られる織編物、不織布等の繊維構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド繊維は、繊維強力が高く、ヤング率がポリエステル繊維に比べ低く柔軟性に優れていることや、染色性に優れていることから、汎用素材として産業資材や衣料用、一般家庭資材、土木、農業資材、衛生材料などに幅広く用いられている。
【0003】
さらに、ポリアミドはポリエステルに比べて、耐アルカリ性に優れることから、耐アルカリ性が求められる用途に好適に用いられている。
【0004】
近年、携帯電話、モバイルコンピューター、デジタルカメラ等の小型電子機器、玩具、携帯型電動工具等の普及により、その電源として、充電式電池の需要が増しており、アルカリ電解液に侵されにくいポリアミド繊維を用いた不織布が電池セパレーターとして多く使用されている。
【0005】
これらの機器の軽量化、小型化に伴って、充電式電池に対しても同様の軽量化、小型化に加え、大容量化、耐久性向上等の高性能化の要求が強く、その主要部品である電池セパレーター用不織布の性能向上が必須となっている。そして、より緻密な構造の不織布とするために原料繊維の細繊度化が求められている。
【0006】
従来より極細繊維を得る方法として、複数のセグメントからなる構造の複合繊維にアルカリ溶解処理や物理的処理を施して複数のセグメントを分割、独立させて極細繊維を得る方法が種々提案されている。
【0007】
ポリアミド極細繊維を得ることができる分割型複合繊維としては、アルカリ易溶性ポリエステルと通常のポリアミドからなり、アルカリ易溶性ポリエステルを溶解してポリアミド極細繊維を得る分割型複合繊維が公知である。このような分割型複合繊維では、ポリアミドがアルカリに溶解しないため、複合繊維中のポリアミドのセグメント同士が少しでも接合、近接していると、未分割となりやすく、極細ポリアミド繊維を得ることが困難となるという問題点がある。
【0008】
このような問題点を解決するものとして、特許文献1においては、ポリアミド成分の配置と形状を特定の範囲のものとすることで、分割性を改善したポリエステルとポリアミドからなる分割型複合繊維が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、ポリアミド成分のアミノ末端基量と溶融粘度を特定のものとし、ポリアミド成分のセグメントを放射状に配置することにより、分割性を改善したポリエステルとポリアミドからなる分割型複合繊維が開示されている。
【0010】
しかしながら、これらの複合繊維では、分割後のポリアミド極細繊維の断面形状が特定のものに限られるという問題点があり、長時間の操業中には、断面形状が特定範囲のものから外れるものが発生するという欠点もあった。また、これらの製品中から断面形状が特定範囲から外れたものを排除することは難しく、製品中に分割不良となる繊維が混入することを完全に排除することもできないという問題点があった。そして、このような分割不良となる繊維が生じると、得られる製品としては均一性に劣るものとなり、緻密な構造となる不織布を得ることが困難となるという問題があった。
【0011】
また、特許文献3には、ポリエステルとポリオレフィンのような互いに相溶性の低い成分を用いた複合繊維であって、高圧水流等の物理的処理により、両成分を剥離分割することができる分割型複合繊維が提案されている。
【0012】
このような物理的処理により両成分を分割させる方法は、上記のように一方の成分を溶解除去する方法と比較して、廃液処理の問題、残存する溶解成分の悪影響等の問題がなく、極細繊維不織布等の布帛を低コストで得るためにも有効な手段である。
【0013】
しかしながら、高圧水流等の物理的処理により分割させる過程においても分割不良が生じやすく、繊維断面のセグメント形状の僅かなずれ等により分割性が大きく左右されるため、繊維の生産管理が困難であるという問題があった。
【0014】
以上のように、これまでに提案された分割型複合繊維は、溶解型分割複合繊維では、アルカリ易溶性成分として採用されている共重合ポリエステルを完全に溶解除去するのが困難なため、残存する共重合ポリエステル成分が悪影響を及ぼすことが問題となったり、加えて、近年の環境に対する意識の高まりから、アルカリ易溶性共重合ポリエステルを多く溶解したアルカリ溶液の廃液処理が問題となっていた。また、構成成分の一部を溶解除去するため、製品収率が低下したり、溶解除去加工に要する費用が必要であったりして、コスト面でも不利であった。
【0015】
また、剥離型分割繊維では、ポリアミド成分とポリオレフィン、ポリエステルといった異素材との複合繊維であり、分割不良が生じやすく、また、繊維製品の使用後の分別回収が困難となるという問題があった。
【特許文献1】特許第3020715号公報
【特許文献2】特開2001−115337号公報
【特許文献3】特開2000−129538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記の問題点を解決し、ポリアミド極細繊維からなり、柔軟性と耐アルカリ性に優れた緻密な構造の不織布を得るのに好適な分割型複合繊維であって、容易に、しかも、安定して生産が可能となる分割型複合繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
【0018】
すなわち、本発明は、次の構成を要旨とするものである。
(1) 主たる繰り返し単位の炭素数の差が4以上である2種のポリアミド成分(成分A、成分B)からなる複合繊維であって、繊維の長手方向に対して垂直に切断した単糸の横断面形状において、成分Aからなるセグメントと成分Bからなるセグメントが配置されており、成分Aと成分Bの比率(成分A/成分B)が質量比で10/90〜90/10であることを特徴とする分割型複合繊維。
(2) (1)記載の分割型複合繊維を用い、単糸繊度が1.0dtex以下であるポリアミド繊維を含有することを特徴とする繊維構造物。
【発明の効果】
【0019】
本発明の分割型複合繊維は、2種類のポリアミド成分からなる複合繊維であるため、物理的処理により、分割性よくポリアミド極細繊維が得られ、緻密な構造の不織布を得ることが可能である。本発明の分割型複合繊維からなる繊維構造物は、電池セパレーター用不織布を始めとした、耐アルカリ性の要求される用途分野に好適に用いることができ、低コストで生産することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
本発明の複合繊維は、主たる繰り返し単位の炭素数の差が4以上である2種のポリアミド成分からなることが必要である。
【0022】
分割型複合繊維を構成するポリアミド成分の主たる繰り返し単位の炭素数の差が4未満であると、ポリアミド成分同士の相溶性が高く、分割型複合繊維の分割性が悪くなり、好ましくない。
【0023】
分割型複合繊維を構成するポリアミド成分(成分A、成分B)としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン12などが挙げられ、ポリアミド成分の主たる繰り返し単位の炭素数の差が4以上となるように適宜組み合わせを選定すればよい。中でも、好ましいポリアミド成分は、ナイロン6とナイロン12の組合せや、ナイロン66とナイロン12の組合せ等である。ナイロン6及びナイロン66は比較的安価であるため、複合繊維のコストを低く抑えることができるため、好ましい。
【0024】
そして、本発明の複合繊維は、繊維の長手方向に対して垂直に切断した単糸の横断面形状において、成分Aからなるセグメントと成分Bからなるセグメントが配置されている。成分Aからなるセグメントと成分Bからなるセグメントは単数でも複数でもよく、一方の成分のみ複数であってもよい。
【0025】
本発明の分割型複合繊維の単糸の横断面形状を図面を用いて説明する。図1(a)〜(c)は、本発明の分割型複合繊維の単糸の横断面形状を示す一実施態様である。1はA成分、2はB成分であり、(a)はA成分が3つのセグメント、B成分が1つのセグメントからなる3葉断面形状のもの、(b)はA成分が4つのセグメント、B成分が1つのセグメントからなる4葉断面形状のもの、(c)はA成分、B成分ともに10個のセグメントからなる花弁型断面形状のものである。
【0026】
中でも、成分Aからなるセグメントが成分Bからなるセグメントの周囲に複数個配置されている断面形状の複合繊維とすることが好ましい。つまり、図1の(a)、(b)のような形状のものであることが好ましい。このような形状とすることにより、物理的処理により、成分Aのセグメントが成分Bのセグメントから分割しやすくなるため、分割性よく極細繊維を得ることが可能となる。
【0027】
なお、本発明の分割型複合繊維の単糸の断面形状は、これらに限定されるものではなく、多角断面形状、扁平断面形状、中空断面形状等の周知の形状のいずれであってもよい。
【0028】
本発明の分割型複合繊維の分割後の繊維の繊度は、1.0dtex以下であることが好ましく、中でも0.1〜1.0dtexとすることが好ましい。
【0029】
分割後の繊維の繊度が1.0dtexを超えると、緻密な構造の不織布を得ることが困難となる。また、繊度が1.0dtexを超えると、通常の製糸技術によって得られる繊度レベルとなり、分割型複合繊維として細繊度化する本発明の意義が失われる。
【0030】
一方、分割後の繊維の繊度が0.1dtex未満であると、溶融紡糸する際の紡糸口金の単孔当たりの吐出量が低下し、生産量が低下するばかりか、紡糸での操業性が不安定となりやすい。
【0031】
なお、本発明の分割型複合繊維の単糸繊度(分割前の単糸繊度)は、分割数、分割後の単糸繊度等にもよるが、生産性、操業安定性から1.0〜6.0dtexとすることが好ましい。単糸繊度が1dtex未満では、目的とする断面形態が得られ難くなり、一方、単糸繊度が6dtexを超えると、分割後の繊度が大きくなりやすく、分割後に細繊度の単糸を得ようとすると分割数を多くする必要があり、安定して紡糸することが困難となるため好ましくない。
【0032】
一方、分割数が多ければ分割後の繊度が小さくなるという利点があるが、分割数が多すぎると、分割後の個々の形態が均一になり難いという問題点もあるため、両成分のセグメントの合計数(分割数)を4〜30とすることが好ましい。
【0033】
そして、分割型複合繊維のA成分とB成分の複合比率は、体積比で10/90〜90/10の範囲が好ましく、より好ましくは、30/70〜70/30である。
【0034】
複合比率は、複合繊維の単糸繊度、分割数、分割処理後に残る繊維の単糸繊度等を考慮して上記範囲で適宜決定すればよいが、ポリアミド成分の複合比(体積比)が上記範囲を外れると、複合繊維を製造する過程で複合繊維の複合状態が不均一となりやすく、物理的外力による分割が困難となるため好ましくなく、また、分割後の繊維の繊度の範囲が目的とする範囲内とすることが困難となるため、好ましくない。
【0035】
次に、分割型複合繊維を構成する2種のポリアミド成分の少なくとも一方の成分が脂肪酸アミドを含有していることが好ましい。
【0036】
脂肪酸アミドの含有量は、いずれか一方、又は両方の成分に含有する場合ともに、繊維質量に対して0.005〜5.0質量%とすることが好ましく、中でも0.01〜1.0質量%とすることが好ましい。
【0037】
脂肪酸アミドの含有量が0.005質量%よりも少ないと、脂肪酸アミドによる界面の皮膜形成が少なくなり、セグメントの剥離、分割性向上の効果が不十分となる。一方、脂肪酸アミドの含有量が5.0質量%よりも多いと、紡糸ノズルが汚れやすく、糸切れの発生など紡糸の安定性が低下するため、好ましくない。
【0038】
本発明における脂肪酸アミドとしては、モノアミドやビスアミド、メチロールアミドやエタノールアミド等が挙げられるが、中でもビスアミド化合物が好ましい。ビスアミド化合物としては、例えば、メチレンビスステアリルアミド、メチレンビスラウリルアミド、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスラウリルアミド、エチレンビスオレイルアミド、エチレンビスベヘニルアミドが挙げられ、中でもエチレンビスステアリルアミドが好ましい。
【0039】
なお、本発明の複合繊維の両ポリアミド成分には、必要に応じて酸化防止剤のような安定剤や蛍光剤、顔料、抗菌剤、消臭剤、強化剤等を用途上の機能を損なわない範囲で添加してもよい。
【0040】
本発明の複合繊維は、織編物等の布帛にする場合には長繊維、不織布や紡績糸にする場合には所定の長さに切断した短繊維とすることが好ましい。そして、物理的処理により両ポリアミド成分を分割させることが好ましい。
【0041】
本発明の分割型複合繊維(短繊維)の製造方法について、一例を用いて説明する。
まず、通常使用する複合紡糸装置を用い、2種のポリアミド成分が所望の断面形状となるように複合紡糸を行う。次に、紡糸された糸条を横吹付や環状吹付等の従来公知の冷却装置を用いて、吹付風により冷却し、油剤を付与し、引き取りローラを介して未延伸糸として巻取機に巻取る。
そして、巻取られた未延伸糸を公知の延伸機にて周速の異なるローラ群間で延伸し、必要に応じて油剤を付与し、必要に応じて機械捲縮の付与を行う。こうして得られた繊維をECカッター、ギロチンカッター等で所定の長さに切断すればよい。
【0042】
次に、本発明の繊維構造物は、本発明の分割型複合繊維を用い、単糸繊度が1.0dtex以下であるポリアミド繊維を含有するものである。繊維構造物としては、織編物や不織布等の布帛が好ましく、これらの布帛において、単糸繊度が1.0dtex以下であるポリアミド繊維が繊維構造物の50質量%以上含有されていることが好ましい。
【0043】
本発明の繊維構造物を工業用精密機器、各種電子部品等の研磨用の布帛とする場合、中でも単糸繊度が0.5dtex以下のポリアミド繊維のみからなる(100質量%使用)布帛とすることが好ましい。そしてこのような布帛とするには、本発明の分割型複合繊維のみを使用(100質量%使用)したものとすることが好ましい。
【0044】
さらに、本発明の繊維構造物は上記のような工業用精密機器、各種電子部品等の研磨用の布帛とする場合において、不織布とすることが好ましい。そして、このような繊維構造物を得る場合、本発明の分割型複合繊維を用いて不織布となした後に高圧水流等の物理的処理により分割させることが好ましい。
【0045】
本発明の繊維構造物として、上記のような不織布とする場合は、湿式抄紙法により得られた湿式不織布とすることが好ましい。
【0046】
湿式抄紙法で不織布を製造する場合、本発明の分割型複合繊維の繊維長は1〜20mmとすることが好ましい。繊維長が1mmに満たないと、不織布としての強力が得にくくなり好ましくない。一方、20mmを超えると、不織布作成時に繊維同士が絡み合い、分散性が悪くなり、均一な不織布が得にくくなり好ましくない。
【0047】
さらに、湿式抄紙法で製造する場合には、本発明の分割型複合繊維は、実質的に機械捲縮を付与していないノークリンプ綿とすることが好ましい。
【0048】
なお、本発明の繊維構造物として乾式不織布を得る場合は、本発明の分割型複合繊維として、押し込み式クリンパー等を用いて機械捲縮を付与したものを用いることが好ましい。この場合の繊維長は、目的とする製品の性能、設備の特性により異なるが、25〜64mmとすることが好ましい。
【0049】
次に、本発明の繊維構造物の製造方法の一例として、湿式不織布の製造方法について説明する。本発明の分割型複合繊維をパルプ離解機に投入し、撹拌する。その後、抄紙機に移し、付帯の撹拌羽根にて撹拌を行い、湿式不織布ウエブとする。抄紙した湿式不織布ウエブを、メッシュスクリーンからなるネットコンベアーに載置し、噴射孔を複数個有する噴射ノズルを用い、ウエブの表裏に水流交絡処理を施して分割型複合繊維の分割処理を行い、プレス機(熊谷理機工業製)にて余分な水分を脱水した後、回転乾燥機にて熱処理し、湿式不織布を得る。
【0050】
このとき、不織布ウエブを載置するメッシュスクリーンの組織やメッシュの大きさ等を適宜選択することによって、不織布の表面形態を平滑とする他、孔形状や模様等を付与することができる。また、高圧液体流の作用により、分割型複合繊維を分割すると同時に、分割により発現した極細繊維同士が緻密に三次元的に交絡一体化するため、不織布化も同時に行うことができる。
【0051】
中でもメッシュスクリーンとして細かい目のもの(100メッシュ程度)を用いて得られたものは、表面平滑なものであり、極細繊維が緻密に交絡した不織布が得られる。
【0052】
さらに、得られた不織布を相対する熱カレンダーロール等を通過させることによって、
不織布の厚みを規制したり、熱接着処理を行うことによって、緻密な構造の不織布を得ることができる。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における特性値等の測定法は次のとおりである。
(1)単糸繊度(dtex)
JIS L−1015の方法により測定した。
(2)分割後の繊度(dtex)
上記(1)で測定した単糸繊度(分割前の単糸繊度)と、セグメントの数(分割数)と繊維を構成する各ポリアミド成分の複合比より分割後の繊度を計算により算出した。
(3)分割率(%)
得られた不織布の断面を電子顕微鏡で観察し、次式で算出した。
分割率(%)=(a/b)×100
a:セグメント数の半数以上が分割した単糸の本数(一視野あたり)
b:aにおいて、セグメントが分割する前の単糸の本数
(4)相対粘度
96%硫酸を溶媒として、濃度1g/dl、温度25.0℃で測定した。
【0054】
実施例1
分割型複合繊維を構成する成分として、A成分として相対粘度が2.5のナイロン6、B成分として相対粘度が2.0のナイロン12を使用し、単糸の横断面形状が図1(b)に示すような形状となる、セグメント数(分割数)が5個(ナイロン6成分とナイロン12成分との合計)の十字断面複合紡糸口金(孔数1014孔)を用いて溶融紡糸を行った。このとき、複合比を体積比で70/30(A/B)、紡糸温度250℃、紡糸速度1100m/分で溶融紡糸し、分割型ポリアミド複合繊維の未延伸糸を得た。
次いで、得られた未延伸糸を延伸温度60℃、延伸倍率3.2倍で延伸した後、仕上げ油剤を付与後、捲縮を付与することなく切断し、繊度2.2dtex、繊維長5mmの分割型複合繊維(短繊維)を得た。
得られた分割型複合繊維をパルプ離解機(熊谷理機工業製)に投入し、3000rpmにて1分間撹拌した。その後、得られた試料を抄紙機(熊谷理機工業製角型シートマシン)に移し、付帯の撹拌羽根にて撹拌を行い、湿式不織布ウェブとした。抄紙した湿式不織布ウェブを、100メッシュスクリーンからなるネットコンベアーに載置し、孔径0.12mm、孔間隔1.0mmの噴射孔を複数個有する噴射ノズルを3段階に設け、前段1960kPa、中段2940kPa、後段2940kPaの水圧でウエブの表裏に水流交絡処理を施して分割型ポリアミド複合繊維の分割処理を行い、プレス機(熊谷理機工業製)にて余分な水分を脱水した後、表面温度130℃、熱処理時間100秒、プレス線圧0.1MPaの条件の回転乾燥機(熊谷理機工業製:卓上型ヤンキードライヤー)にて熱処理し、目付80g/m2の湿式不織布を得た。
【0055】
実施例2、比較例1〜2
実施例1の分割型複合繊維を構成するポリアミド成分を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で分割型複合繊維と不織布を得た。
【0056】
実施例3
単糸の横断面形状が図1(c)に示すような形状となる、セグメント数(分割数)が20個(ナイロン6成分とナイロン12成分との合計)の丸断面複合紡糸口金を用い、複合比を体積比で50/50に変更した以外は、実施例1と同様の方法で分割型複合繊維と不織布を得た。
【0057】
実施例4、5
実施例1の分割型ポリアミド複合繊維を構成するA成分(ナイロン6)に脂肪族アミドとしてエチレンビスステアリルアミドを表1に示す含有量(繊維質量に対する含有量)となるように添加した以外は、実施例1と同様の方法で分割型ポリアミド系複合繊維と不織布を得た。
【0058】
実施例1〜5、比較例1〜2で得られた分割型複合繊維と不織布における各種の測定値及び評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1から明らかなように、実施例1〜5では、いずれも紡糸操業性が良好で分割性に優れた分割型複合繊維を得ることができ、この繊維から得られた不織布は、繊維の分割率が高く緻密な構造の不織布となった。特に、脂肪酸アミドを含有するポリアミド成分からなる実施例4、5の分割型複合繊維は、繊維の分割率が高かった。
【0061】
一方、比較例1、2は、2種のポリアミド成分の主たる繰り返し単位の炭素数の差が4未満であったため、2種のポリアミド同士の相溶性が高く、分割性に劣るものとなり、得られた不織布は性能の低いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の分割型複合繊維の一実施態様を示す単糸の横断面模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰り返し単位の炭素数の差が4以上である2種のポリアミド成分(成分A、成分B)からなる複合繊維であって、繊維の長手方向に対して垂直に切断した単糸の横断面形状において、成分Aからなるセグメントと成分Bからなるセグメントが配置されており、成分Aと成分Bの比率(成分A/成分B)が質量比で10/90〜90/10であることを特徴とする分割型複合繊維。
【請求項2】
成分A、成分Bの少なくともいずれか一方に脂肪酸アミドを含有している請求項1記載の分割型複合繊維。
【請求項3】
分割型複合繊維を構成する成分Aがナイロン6、成分Bがナイロン12である請求項1又は2記載の分割型複合繊維。
【請求項4】
分割型複合繊維を構成する成分Aがナイロン66、成分Bがナイロン12である請求項1〜3いずれかに記載の分割型複合繊維。
【請求項5】
繊維の長手方向に対して垂直に切断した単糸の横断面形状において、成分Aからなるセグメントが成分Bからなるセグメントの周囲に複数個配置されている請求項1〜4いずれかに記載の分割型複合繊維。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の分割型複合繊維を用い、単糸繊度が1.0dtex以下であるポリアミド繊維を含有することを特徴とする繊維構造物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−31873(P2007−31873A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215966(P2005−215966)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】