説明

分化抑制ポリペプチド

【課題】血液細胞などの未分化細胞の分化を抑制する新規な因子に由来する化合物を提供すること。
【解決手段】ノッチはショウジョウバエで発見された神経細胞の分化制御に関わるレセプターであるが、ヒトのノッチのリガンドであるヒトデルター1、ヒトセレイトー1の特定のアミノ酸配列を含有するポリペプチド、該ペプチドをコードする特定の塩基配列、該ペプチドを含有する細胞の培養培地、該塩基配列を含有する該ペプチドを生産する細胞を用いる該ペプチドの生産方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未分化細胞の分化を抑制するための新規生理活性物質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトの血液、リンパ液中には多種類の細胞があり、それぞれが重要な役割を担っている。例えば、赤血球は体内での酸素運搬を、血小板は止血作用を、白血球やリンパ球は感染を防御している。これらの多様な細胞は骨髄中の造血幹細胞に由来する。造血幹細胞は体内の種々のサイトカインや環境要因によって刺激されて、各種血液細胞、破骨細胞、肥満細胞などに分化することが近年明らかにされてきた。このサイトカインとして、赤血球への分化についてはエリスロポエチン(EPO)が、白血球への分化については顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)が、血小板産生細胞である巨核球への分化については血小板増殖因子(mplリガンド)が発見されて、前者2つは現在すでに臨床応用がなされている。
【0003】
血液未分化細胞に関して、特定の血液系列に分化することが運命づけられた血液前駆細胞とすべての系列への分化能と自己複製能を有する造血幹細胞に概念的に分類されている。血液前駆細胞に関してコロニーアッセイによって同定が可能であるが、造血幹細胞の同定方法は確立されていない。これらの細胞に関して、ステムセルファクター(SCF)やインターロイキン3(IL−3)、顆粒球単球コロニー刺激因子(GM−CSF)、インターロイキン6(IL−6)、インターロイキン1(IL−1)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、オンコスタチンMなどが細胞の分化増殖を促すことが報告されている。骨髄移植療法に代替される造血幹細胞移植療法や遺伝子治療への応用のため、造血幹細胞を体外で増幅することが検討されている。しかし、この細胞を上記のようなサイトカインを用いて体外で増殖培養させると、造血幹細胞が本来有している多分化能および自己複製能が徐々に失われ、5週間培養後には特定の系列にのみ分化する血液前駆細胞へと変化し、造血幹細胞の特徴の一つである多分化能が失われることが報告されている(Rice et al.,Blood 86,512−523,1995)。
【0004】
血液前駆細胞の増殖には単独のサイトカインのみでは効果が十分でなく、複数のサイトカインの共同作用(シナジー)が重要であることが明らかになっている。このことから造血幹細胞の特徴を維持したまま増殖させるためには、血液未分化細胞を増殖、分化させるサイトカインと共に分化を抑制するサイトカインが必要であると考えられている。しかし、一般に細胞の増殖や分化を促進するサイトカインが多数見いだされているのに対して、細胞の分化を抑制するサイトカインは少数しか見いだされていない。例えば、白血病細胞阻害因子(LIF)はマウス胚幹細胞を分化させずに増殖させる作用が報告されているが、造血幹細胞や血液前駆細胞に対し、そのような作用は有していない。また、腫瘍細胞増殖因子(TGF−β)は多様な細胞に対して増殖抑制の作用をするが、造血幹細胞や血液前駆細胞に対する作用は一定の見解が得られていない。
【0005】
血液細胞のみならず、未分化細胞、特に幹細胞に関しては組織再生に強く関与すると考えられている。これらの組織再生、並びに各組織の未分化細胞を増幅させることは成書(吉里勝利著 再生ー甦るしくみ、1996、羊土社)を参考にすることからその幅広い用途を知ることができる。
【0006】
ノッチ(Notch)は、ショウジョウバエで発見された神経細胞の分化制御に関わるリセプター型膜蛋白質であり、ノッチのホモログは線虫(Lin−12)、アフリカツメガエル(Xotch)、マウス(Motch)、ヒト(TAN−1)などの無脊椎動物、脊椎動物の分類を越えた広い動物種から見いだされている。一方、ショウジョウバエノッチのリガンドとしてショウジョウバエデルタ(Delta)およびショウジョウバエセレイト(Serrate)の2つが見いだされており、リセプターのノッチと同様に広い動物種からノッチリガンドホモログが見いだされている(Artavanis−Tsakonas etal.,Science 268,225−232,1995)。
【0007】
特にヒトに関して、ヒトノッチホモログであるTAN−1は、幅広く体中の組織に発現されており(Ellisen et al.,Cell 66,649−661,1991)、またTAN−1以外に2つのノッチ類縁分子が存在することが報告されている(Artavanis−Tsakonas et al.,Science 268,225−232,1995)。血液細胞においては、PCR(Polymerase Chain Reaction)法にてCD34陽性細胞にTAN−1の発現が認められている(Milner et al., Blood 83,2057−2062,1994)。しかしながらヒトに関して、ノッチのリガンドと考えられるヒトデルタ、ヒトセレイトの遺伝子のクローニングの報告はない。
【0008】
ショウジョウバエノッチについて、そのリガンドとの結合性が詳細に調べられ、ノッチの細胞外部分に36あるEpidermal Growth Factor(EGF)様繰り返しアミノ酸配列のうち11番目と12番目の繰り返し配列を結合領域として、リガンドとCa++を介して結合し得ることが示された(文献のFehon et al.,Cell 61,523−534,1990およびRebay et al.,Cell 67,687−699,1991および特表平7−503123)。他種のノッチホモログについてもEGF繰り返し配列は保存されており、リガンドとの結合に関して同様の機構が類推されている。リガンドにおいてもアミノ酸末端の近くにDSL(Delta−Serrate−Lag−2)と呼ばれるアミノ酸配列とリセプターと同様にEGF様繰り返し配列が保存されている(Artavanis−Tsakonas et al.,Science 268,225−232,1995)。
【0009】
このDSLドメインはノッチリガンド分子以外にはそのような配列は見いだされておらず、ノッチリガンド分子に固有の構造である。このDSLドメインの共通配列を配列表の配列番号1に一般式として、また本発明のヒトデルター1とヒトセレイトー1と他の既知のノッチリガンド分子との比較を第1図に示す。
【0010】
一方、EGF様配列はトロンボモジュリン(Jackman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83,8834−8838,1986)や低密度リポ蛋白質(LDL)リセプター(Russell et al.,Cell 37,577−585,1984)および血液凝固因子(Furie et al.,Cell 53,505−518,1989)で見いだされ、細胞外での凝集や接着に重要な役割を果たすと考えられている。
【0011】
近年、クローニングされたショウジョウバエデルタの脊椎動物のホモログはニワトリ(C−デルタ−1)とアフリカツメガエル(X−デルタ−1)が見いだされており、X−デルタ−1は原始ニューロンの発生にXotchを介して作用することが報告されている(Henrique et al.,Nature 375,787−790,1995およびChitnis et al.,Nature 375,761−766,1995)。一方、ショウジョウバエセレイトの脊椎動物のホモログは、ラットジャグド(Jagged)が見いだされている(Claire et al.,Cell 80,909−917,1995)。この報告によれば、ラットジャグドのmRNAは胎仔ラットの脊髄に検出される。また、ラットノッチを強制的に過剰発現させた筋芽細胞株とラットジャグド発現細胞株の共培養により、この筋芽細胞株の分化が抑制されることが見いだされているが、ラットノッチを強制発現させていない筋芽細胞株に対してはラットジャグドが作用しないことが見いだされている。
【0012】
これらの報告から、ノッチおよびそれに対するリガンドは神経細胞の分化制御に関係していると考えられているが、一部筋芽細胞を除き、血液細胞を含む他の細胞、特にプライマリーな細胞への作用に関しては全く不明であった。
【0013】
また、ノッチリガンド分子にはこれらの過去のショウジョウバエ、線虫の研究から少なくともノッチリガンド分子以外には見いだされていないDSLドメイン構造を有することが特徴である。したがって、このDSLドメインを有することはノッチリセプターにとってのリガンド分子であることと等価と考えてよい。
【0014】
【非特許文献1】Rice et al.,Blood 86,512−523,1995
【非特許文献2】吉里勝利著 再生ー甦るしくみ、1996、羊土社
【非特許文献3】Artavanis−Tsakonas etal.,Science 268,225−232,1995
【非特許文献4】Ellisen et al.,Cell 66,649−661,1991
【非特許文献5】Artavanis−Tsakonas et al.,Science 268,225−232,1995
【非特許文献6】Milner et al., Blood 83,2057−2062,1994
【非特許文献7】Fehon et al.,Cell 61,523−534,1990
【非特許文献8】Rebay et al.,Cell 67,687−699,1991
【非特許文献9】Jackman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83,8834−8838,1986
【非特許文献10】Russell et al.,Cell 37,577−585,1984
【非特許文献11】Furie et al.,Cell 53,505−518,1989
【非特許文献12】Henrique et al.,Nature 375,787−790,1995
【非特許文献13】Chitnis et al.,Nature 375,761−766,1995
【非特許文献14】Claire et al.,Cell 80,909−917,1995
【特許文献1】特表平7−503123
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記のように未分化細胞に関して、それらの特徴を保ったまま増殖させる方法は完成されていない。この最大の原因は未分化細胞の分化を抑制する因子が十分に見いだされていないことにある。本発明の課題は、未分化細胞の分化を抑制する新規な因子に由来する化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らはノッチおよびそのリガンドが神経芽細胞、筋芽細胞の分化制御のみならず、広く未分化な細胞、特に血液未分化細胞の分化制御を行なうとの仮説を立てた。しかしヒトへ臨床応用する際、既知のニワトリ型、アフリカツメガエル型などの異種の生物種のノッチリガンドでは種特異性、抗原性の問題がある。このため、未だ報告のないヒト型のノッチリガンドを取得することは不可欠である。そこで、本発明者らはノッチリガンド分子に共通するDSLドメインとEGF様ドメインを有する分子で、ヒト型ノッチ(TAN−1など)のリガンドであるヒトデルタホモログ(以下ヒトデルタ)及びヒトセレイトホモログ(以下ヒトセレイト)が存在すると考え、これらの発見は未分化細胞の分化制御に有効な医薬品の候補となると考え、それらの発見に努めた。
【0017】
本発明者らはヒトノッチリガンドの探索のため、ヒト以外の動物で発見されているこれらのホモログの保存されたアミノ酸配列を解析し、対応するDNA配列の混合プライマーによるPCRによってこの遺伝子を発見すべく進めた。そして、鋭意研究の結果、ノッチリガンド分子に共通するDSLドメインを有している2つの新規分子、新規ヒトデルター1並びに新規ヒトセレイトーlのアミノ酸配列をコードするcDNAの単離に各々成功し、これらcDNAを用いて各種形態を有する蛋白質の発現系を作製した。また、これらの蛋白質の精製法を確立し、精製を行い単離した。
【0018】
新規ヒトデルタ−1のアミノ酸配列は、配列表の配列番号2から4に示し、それらをコードするDNA配列を配列表の配列番号8に示した。また、新規ヒトセレイト−1のアミノ酸配列は、配列表の配列番号5から7に示し、それらをコードするDNA配列を配列表の配列番号9に示した。
【0019】
このようにして作製された蛋白質の生理作用を神経未分化細胞、前脂肪細胞、肝細胞、筋芽細胞、皮膚未分化細胞、血液未分化細胞、免疫未分化細胞など、多数の細胞を用いて探索した。その結果、この新規ヒトデルタ−1及び新規ヒトセレイト−1はプライマリーな血液未分化細胞に対して分化制御作用を有し、かつ未分化な状態に維持する生理作用を有することを見いだした。
【0020】
血液未分化細胞に対するこのような作用は過去に報告例がなく、全く新しく見いだされた知見である。さらにマウスに対する毒性試験では明らかな毒性は観察されず有効な医薬品となる効果を示し、本発明が完成した。したがって、本発明分子を含む薬剤、本発明分子を含む培地、本発明分子が固定化された器材は、血液未分化細胞を未分化な状態で保つことができる全く新しい医薬品、医療品である。また該ヒトデルタ−1もしくは該ヒトセレイト−1を各々免疫原として各々に対する抗体を作製し、精製法を確立し、本発明が完成した。
【0021】
すなわち、本発明はヒト由来遺伝子にコードされる配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド、少なくとも配列表の配列番号2もしくは5に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド、配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド、配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド、配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド、配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド、未分化細胞の分化抑制作用を有するポリペプチド、未分化細胞が脳神経、筋肉系未分化細胞以外の未分化細胞であるポリペプチド、未分化細胞が血液未分化細胞であるポリペプチドに関し、また本発明は上記のポリペプチドを含有する医薬組成物、その用途が造血賦活剤である医薬組成物に関し、また本発明は上記のポリペプチドを含有する細胞培養培地、細胞が血液未分化細胞である細胞培養培地に関し、さらに本発明は少なくとも配列表の配列番号2もしくは5に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチドをコードするDNA、配列表の配列番号8に記載のDNA配列の242番から841番のDNA配列もしくは配列表の配列番号9に記載のDNA配列の502番から1095番のDNA配列を含有するDNA、配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチドをコードするDNA、配列表の配列番号8に記載のDNA配列の242番から1801番のDNA配列を含有するDNA、配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチドをコードするDNA、配列表の配列番号8に記載のDNA配列の242番から2347番のDNA配列を含有するDNA、配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチドをコードするDNA、配列表の配列番号9に記載のDNA配列の502番から3609番のDNA配列を含有するDNA、配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチドをコードするDNA、配列表の配列番号9に記載のDNA配列の502番から4062番のDNA配列を含有するDNA、更に本発明は上記のDNA群の中から選ばれるDNAと、宿主細胞中で発現可能なベクターDNAと連結してなる組み換えDNA体、組み換えDNA体により形質転換された細胞、細胞を培養し培養物中より生産された化合物を採取するポリペプチドの製造方法に関し、配列表の配列番号4のアミノ酸配列を有するポリペプチドを特異的に認識する抗体、配列表の配列番号7のアミノ酸配列を有するポリペプチドを特異的に認識する抗体に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明のノッチリガンド分子は未分化細胞の維持、分化抑制にとって有効な化学品となり、医薬品、医療品として使用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
遺伝子操作に必要なcDNAの作製、ノーザンブロットによる発現の検討、ハイブリダイゼーションによるスクリーニング、組換えDNAの作製、DNAの塩基配列の決定、cDNAライブラリーの作製等の一連の分子生物学的な実験は通常の実験書に記載の方法によって行うことができる。前記の通常の実験書としては、例えば、Maniatisらの編集したMolecular Cloning,A laborartory manual,1989,Eds.,Sambrook,J.,Fritsch,E.F.,and Maniatis,T.,Cold Spring Harbor Loboratory Pressを挙げることができる。
【0024】
本発明のポリペプチドは少なくとも配列表の配列番号1から7のアミノ酸配列からなるポリペプチドを有するが、自然界で生じることが知られている生物種内変異、アレル変異等の突然変異及び人為的に作製可能な点変異による変異によって生じる改変体も、配列表の配列番号1から7のポリペプチドがそれらの性質を失わない限り本発明の新規ポリペプチドに含まれる。そのアミノ酸の改変、置換に関しては例えばBennttらの出願(国際公開番号、WO96/2645号)などに詳しく記載されており、これらを参考にして作製することができる。
【0025】
また、配列表の配列番号2から4のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA配列については配列表の配列番号8に、配列表の配列番号5から7のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA配列については配列表の配列番号9に各々アミノ酸配列とともに示した。これらの遺伝子配列に関し、アミノ酸レベルの変異がなくとも、自然界から分離した、染色体DNA、またはcDNAにおいて、遺伝コードの縮重により、そのDNAがコードするアミノ酸配列を変化させることなくDNAの塩基配列が変異した例はしばしば認められる。また、5'非翻訳領域及び3'非翻訳領域はポリペプチドのアミノ酸配列の規定には関与しないので、それらの領域のDNA配列は変異しやすい。このような遺伝コードの縮重によって得られる塩基配列も本発明のDNAに含まれる。
【0026】
本発明において未分化細胞とは、特定の刺激によって増殖可能な細胞であり、かつ特定の刺激によって特定の機能を有する細胞に分化可能な細胞と規定され、これらの中には皮膚組織系の未分化細胞、脳神経系の未分化細胞、筋肉系の未分化細胞、血液系の未分化細胞などが含まれ、各々幹細胞といわれる自己複製能力を有しかつその系統の細胞を生み出す能力を有する細胞を含む。また、分化抑制作用とは、これらの未分化細胞が自律的もしくは他律的に分化する現象を抑制する作用であり、具体的には未分化な状態を維持する作用である。また、脳神経系未分化細胞とは、特定の刺激に伴い、特定の機能を有する脳、神経の細胞にのみ分化する能力を有する細胞と規定できる。また、筋肉系未分化細胞とは特定の刺激に伴い、特定の機能を有する筋肉細胞にのみ分化する能力を有する細胞と規定される。また、本発明で記載する血液未分化細胞とは、血液コロニーアッセイで同定が可能な特定の血液系列に分化することが運命づけられた血液前駆細胞および全ての系列への分化能と自己複製能を有する造血幹細胞を含む細胞群と規定される。
【0027】
配列表において、配列番号1のアミノ酸配列は、ノッチリガンド分子に共通するドメイン構造であるDSLドメインの共通アミノ酸配列を一般式として示した物であり、少なくともこのドメインの構造はヒトデルタ−1に関しては配列表の配列番号2の158番から200番までに相当し、またヒトセレイト−1に関しては配列表の配列番号5の156番から198番までに相当する。
【0028】
配列表の配列番号2のアミノ酸配列は本発明のヒトデルタ−1のシグナルペプチドを除いた活性中心の配列、すなわちアミノ末端からDSLドメインまでのアミノ酸配列であり、配列番号4に示した本発明のヒトデルタ−1の成熟型全長アミノ酸配列のアミノ酸番号1番から200番に相当している。配列番号3のアミノ酸配列は、本発明のヒトデルタ−1のシグナルペプチドを除いた細胞外ドメインの配列であり、配列番号4に示した本発明のヒトデルタ−1成熟型全長アミノ酸配列のアミノ酸番号1番から520番に相当している。配列番号4のアミノ酸配列は、本発明のヒトデルタ−1の成熟型全長アミノ酸配列である。
【0029】
配列番号5のアミノ酸配列は、本発明のヒトセレイト−1のシグナルペプチドを除いた活性中心の配列、すなわちアミノ末端からDSLドメインまでのアミノ酸配列であり、配列番号7に示した本発明のヒトデルタ−1の成熟型全長アミノ酸配列のアミノ酸番号1番から198番に相当している。配列番号6のアミノ酸配列は、本発明のヒトセレイト−1のシグナルペプチドを除いた細胞外ドメインの配列であり、配列番号7に示した本発明のヒトセレイト−1成熟型全長アミノ酸配列のアミノ酸番号1番から1036番に相当している。配列番号7のアミノ酸配列は、本発明のヒトセレイト−1の成熟型全長アミノ酸配列である。
【0030】
また、配列番号8の配列は本発明のヒトデルタ−1の全アミノ酸配列及びそれをコードしているcDNA配列であり、配列表の配列番号9の配列は本発明のヒトセレイト−1の全アミノ酸配列及びそれをコードしているcDNA配列である。
【0031】
なお、配列表に記載されたアミノ酸配列の左端及び右端はそれぞれアミノ基末端(以下N末)及びカルボキシル基末端(以下C末)であり、また塩基配列の左端及び右端はそれぞれ5'末端及び3'末端である。
【0032】
ヒトノッチリガンドの遺伝子をクローニングするために次の方法が考え得る。ヒトノッチリガンドは生物の進化の過程で一部のアミノ酸配列が保存されていることから、保存されたアミノ酸配列に対応したDNA配列を設計し、RT−PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)のプライマーとして利用し、ヒト由来のPCRテンプレートをPCR反応によって増幅することにより、ヒトノッチリガンド遺伝子の断片が得られる可能性がある。またヒト以外の生物のノッチリガンドホモログの既知DNA配列情報からRT−PCRプライマーを作製し、その生物のPCRテンプレートから既知遺伝子断片を取得することは原理的に可能である。
【0033】
ヒトノッチリガンド断片取得を目的としてPCRを行うのに、DSL配列に対するPCRがまず考えられたが、この領域に保存されたアミノ酸配列に対応するDNA配列の組み合わせは膨大であり、PCRプライマー設計が無理であったため、EGF様配列をPCRの対象としなければならなかった。前述のように多数の分子にEGF様配列は保存されているため、断片取得及び同定は極めて困難であった。
【0034】
本発明者らは実施例1に示した配列を1例とする50組程度のPCRプライマーを設計、作製し、ヒト由来の様々な組織のpolyA+RNAから作製したcDNAをPCRテンプレートとして各々PCRを行い、各10種類以上のPCR産物をサブクローニングし、合計500種以上のシークエンスを行い、鋭意努力の結果、目的とする配列を有するクローンを1種類同定できた。すなわち、得られたPCR産物をクローニングベクターにクローニングし、このPCR産物を含む組換えプラスミドを用いて宿主細胞を形質変換し、組換えプラスミドを含む宿主細胞を大量培養し、組換えプラスミドを精製単離し、クローニングベクターに挿入されたPCR産物のDNA配列を調べ、各々について既知の他種デルタのアミノ酸配列と比較し、ヒトデルタ−1の配列を有すると思われる遺伝子断片の取得に努めた。その結果、配列表の配列番号8に記載のDNA配列の1012番から1375番と同一の配列、すなわちヒトデルタ−1のcDNAの一部を含む遺伝子断片を見つけだすことに成功した。
【0035】
同様に、本発明者らは実施例3に示した配列を1例とする50組のPCRプライマーを設計、作製し、ヒト由来の様々な組織のpolyA+RNAから作製したcDNAをPCRテンプレートとして各々PCRを行い、各10種類以上のPCR産物をサブクローニングし、合計500種以上のシークエンスを行い、鋭意努力の結果、目的とする配列を有するクローンを1種類同定できた。すなわち、得られたPCR産物をクローニングベクターにクローニングし、このPCR産物を含む組換えプラスミドを用いて宿主細胞を形質変換し、組換えプラスミドを含む宿主細胞を大量培養し、組換えプラスミドを精製単離し、クローニングベクターに挿入されたPCR産物のDNA配列を調べ、各々について既知の他種セレイトのアミノ酸配列と比較し、ヒトセレイトー1の配列を有すると思われる遺伝子断片の取得に努めた。その結果、配列表の配列番号9に記載のDNA配列の1272番から1737番と同一の配列、すなわちヒトセレイトー1のcDNAの一部を含む遺伝子断片を見つけだすことに成功した。
【0036】
次に、こうして得られるヒトデルタ−1、ヒトセレイト−1遺伝子断片を用いて、ヒトのゲノム遺伝子ライブラリーあるいはcDNAライブラリーから目的遺伝子の全長を得ることができる。全長のクローニングには、前記の方法にて部分クローニングした遺伝子をアイソトープ標識、及び各種非アイソトープ標識し、ライブラリーをハイブリダイゼーションなどの方法にてスクリーニングすることによって得ることができる。アイソトープの標識法としては、例えば[32P]γ−ATPとT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて末端をラベルする方法や、他のニックトランスレーション法またはプライマー伸長法などによる標識法が利用できる。また別の方法としてヒト由来のcDNAライブラリーを発現ベクターに組み込み、COS−7細胞などで発現させ、目的の遺伝子をスクリーニングする発現クローニングなどの手法でリガンドのcDNAを分離することもできる。発現クローニングには、TAN−1など現在まで4種知られているノッチのアミノ酸配列を含有するポリペプチドの結合を利用したセルソーターによる分画法、ラジオアイソトープを用いたフィルムエマルジョンによる検出法、等の方法が挙げられる。ここではヒトデルタ−1及びセイトセレイト−1の遺伝子取得の方法を述べたが、リガンド作用の解析のために他の生物のノッチリガンドホモログ遺伝子の取得は有用であり、これも同様の手段によって取得できる。得られた目的遺伝子はDNA配列を決定し、アミノ酸配列を推定することができる。
【0037】
本発明者らは実施例2に示したごとく、ヒトデルタ−1PCR産物を含む遺伝子断片をラジオアイソトープでラベルし、ハイブリダイゼーションプローブとし、スクリーニングライブラリーとしてヒト胎盤由来cDNAを用いてスクリーニングを行い、得られた複数のクローンのDNA配列を決定したところ、配列表の配列番号8に示すDNA塩基配列を含むクローンであり、およびそれから推定される配列表の配列番号4に示すアミノ酸配列をコードすることが明らかとなり、ヒトデルタ−1の全長アミノ酸をコードするcDNAのクローニングに成功した。
【0038】
これらの配列をデータベース(Genbankリリース89、June、1995)で比較したところ、これらは新規な配列であった。該アミノ酸配列をKyte−Doolittleの方法(J.Mol.Biol.157:105,1982)に従って、アミノ酸配列から疎水性部分、親水性部分を解析した。その結果、本発明のヒトデルタ−1は細胞膜通過部分を1つ有する細胞膜蛋白質として、細胞上に発現されることが明らかとなった。
【0039】
同様に本発明者らは実施例4に示したごとく、ヒトセレイト−1PCR産物を含む遺伝子断片をラジオアイソトープでラベルし、ハイブリダイゼーションプローブとし、スクリーニングライブラリーとしてヒト胎盤由来cDNAを用いてスクリーニングを行い、得られた複数のクローンのDNA配列を決定したところ、配列表の配列番号9に示すDNA塩基配列を含むクローンであり、およびそれから推定される配列表の配列番号7に示すアミノ酸配列の一部をコードすることが明らかとなった。このスクリーニングでは全長のアミノ酸配列をコードする遺伝子配列の細胞内部分の一部、すなわち終止コドン周辺に当たる部分がクローニングできなかったため、実施例4に示した如く、RACE法(rapid amplification of cDNA ends法、Frohman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85,8998−9002,1988)にて遺伝子クローニングを行い、最終的にヒトセレイト−1の全長アミノ酸をコードするcDNAのクローニングに成功した。
【0040】
この配列をデータベース(Genbankリリース89、June、1995)で比較したところ、これらは新規な配列であった。該アミノ酸配列をKyte−Doolittleの方法(J.Mol.Biol.157:105,1982)に従って、アミノ酸配列から疎水性部分、親水性部分を解析した。その結果、本発明のヒトセレイト−1は細胞膜通過部分を1つ有する細胞膜蛋白質として、細胞上に発現されることが明らかとなった。
【0041】
cDNAを組み込むプラスミドとしては、例えば大腸菌由来のpBR322、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119(いずれも宝酒造社製、日本国)などが挙げられるが、その他のものであっても宿主内で複製増殖できるものであればいずれも用いることができる。またcDNAを組み込むファージベクターとしては、例えばλgt10、λgt11などが挙げられるが、その他のものであっても宿主内で増殖できるものであれば用いることができる。このようにして、得られたプラスミドは適当な宿主、例えばエシェリヒア(Escherichia)属菌、バチルス(Bacillus)属菌などにカルシウムクロライド法等を用いて導入する。上記エシェリヒア属菌の例としては、エシェリヒア コリK12HB101、MC1061、LE392、JM109などが挙げられる。上記バチルス属菌の例としては、バチルス、サチリスMI114等が挙げられる。また、ファージベクターは、例えば増殖させた大腸菌にインビトロパッケージング法(Proc.Natl.Acad.Sci.,71:2442−、1978)を用いて導入することができる。
【0042】
ヒトデルタ−1のアミノ酸配列の解析によれば、ヒトデルタ−1の前駆体のアミノ酸配列は配列表の配列番号8のアミノ酸配列に示す723アミノ酸残基からなり、シグナルペプチド領域は同配列表のアミノ酸配列の−21番(配列番号8の1番)のメチオニンから−1番(配列番号8の21番)のセリンにあたる21アミノ酸残基、細胞外領域は同配列表の1番(配列番号8の22番)のセリンから520番(配列番号8の541番)グリシンにあたる520アミノ酸残基、細胞膜通過領域は同配列表のアミノ酸配列の521番(配列番号8の542番)のプロリンから552番(配列番号8の573番)のロイシンにあたる32アミノ酸残基、細胞内領域は同配列表の553番(配列番号8の574番)のグルタミンから702番(配列番号8の723番)のバリンにあたる150アミノ酸残基が該当することが推定された。ただし、これらの各部分は、あくまでもアミノ酸配列から予測されたドメイン構成であり、実際に細胞上および溶液中での存在形態は、上記の構成と若干異なることも十分考えられ、上記に一応規定された各ドメインの構成アミノ酸が、5から10アミノ酸配列前後することも考えられる。
【0043】
ヒトデルタ−1の他生物のデルタホモログとのアミノ酸配列の比較では、ショウジョウバエデルタ、ニワトリデルタ、アフリカツメガエルデルタとの相同性はそれぞれ47.6%、83.3%、76.2%であり、これらの物質とは異なる新規なアミノ酸配列を有する新規な物質であり、本発明者により初めて明らかにされた物質である。また、上記のデータベース上の全ての生物種の検索においてもヒトデルタ−1と同一配列を有するポリペプチドは見いだされなかった。
【0044】
ノッチのリガンドホモログは、進化論的に保存された共通の配列を有している。すなわちDSL配列と繰り返して存在するEGF様配列である。ヒトデルタ−1とヒト以外の種のデルタホモログとの比較により、ヒトデルタ−1のアミノ酸配列からこれらの保存された配列を推定した。すなわち、DSL配列は配列表の配列番号4のアミノ酸配列の158番のシステインから200番のシステインにあたる43アミノ酸残基に相当した。EGF様配列は8回繰り返して存在し、配列表の配列番号4のアミノ酸配列のうち、第1EGF様配列は205番システインから233番システインまで、第2EGF様配列は236番システインから264番システインまで、第3EGF様配列は271番システインから304番システインまで、第4EGF様配列は311番システインから342番システインまで、第5EGF様配列は349番システインから381番システインまで、第6EGF様配列は388番システインから419番システインまで、第7EGF様配列は426番システインから457番システインまで、第8EGF様配列は464番システインから495番システインに該当した。
【0045】
ヒトデルタ−1のアミノ酸配列から予想されることとして、糖鎖が付加される部分はN−アセチル−D−グルコサミンがN−グルコシド結合可能な部分として、配列表の配列番号4のアミノ酸配列の456番のアスパラギン残基が挙げられる。また、N−アセチル−D−ガラクトサミンのO−グリコシド結合を推定する部分として、セリンまたはスレオニン残基が頻出する部分が考えられる。これらの糖鎖が付加されたタンパクの方がポリペプチドそのものよりも一般に生体内での分解に対して安定であり、また強い生理活性を有していると考えられる。したがって、配列表の配列番号2、3または4の配列を含有するポリペプチドのアミノ酸配列の中にN−アセチル−D−グルコサミンがN−グルコシドやN−アセチル−D−ガラクトサミンなどの糖鎖がN−グルコシドあるいはO−グルコシド結合してなるポリペプチドも本発明に含まれる。
【0046】
また、ヒトセレイト−1のアミノ酸配列の解析によれば、ヒトセレイト−1の前駆体のアミノ酸配列は配列表の配列番号9のアミノ酸配列に示す1218アミノ酸残基からなり、シグナルペプチド領域は同配列表のアミノ酸配列の−31番(配列番号9の1番)のメチオニンから−1番(配列番号9の31番)のアラニンにあたる31アミノ酸残基、細胞外領域は同配列表の1番(配列番号9の32番)のセリンから1036番(配列番号9の1067番)アスパラギン酸にあたる1036アミノ酸残基、細胞膜通過領域は同配列表のアミノ酸配列の1037番(配列番号9の1068番)のフェニルアラニンから1062番(配列番号9の1093)のロイシンにあたる26アミノ酸残基、細胞内領域は同配列表の1063番(配列番号9の1094番)のアルギニンから1187番(配列番号9の1218番)のバリンにあたる106アミノ酸残基が該当することが推定された。ただし、これらの各部分は、あくまでもアミノ酸配列から予測されたドメイン構成であり、実際に細胞上および溶液中での存在形態は、上記の構成と若干異なることも十分考えられ、上記に一応規定された各ドメインの構成アミノ酸が、5から10アミノ酸配列前後することも考えられる。
【0047】
ヒトセレイト−1の他生物のセレイトホモログとのアミノ酸配列の比較では、ショウジョウバエセレイト、ラットジャグドとの相同性はそれぞれ32.1%、95.3%であり、これらの物質とは異なる新規なアミノ酸配列を有する新規物質であり、本発明者により初めて明らかにされた物質である。また、上記のデータベース上の全ての生物種の検索においてもヒトセレイト−1と同一配列を有するポリペプチドは見いだされなかった。
【0048】
ノッチのリガンドホモログは、進化論的に保存された共通の配列を有している。すなわちDSL配列と繰り返して存在するEGF様配列である。ヒトセレイト−1と他のノッチリガンドホモログとの比較により、ヒトセレイト−1のアミノ酸配列からこれらの保存された配列を推定した。すなわち、DSL配列は配列表の配列番号7のアミノ酸配列の156番のシステインから198番のシステインにあたる43アミノ酸残基に相当した。EGF様配列は16回繰り返して存在し、配列表の配列番号7のアミノ酸配列のうち、第1EGF様配列は204番システインから231番システインまで、第2EGF様配列は234番システインから262番システインまで、第3EGF様配列は269番システインから302番システインまで、第4EGF様配列は309番システインから340番システインまで、第5EGF様配列は346番システインから378番システインまで、第6EGF様配列は385番システインから416番システインまで、第7EGF様配列は423番システインから453番システインまで、第8EGF様配列は460番システインから491番システインまで、第9EGF様配列は498番システインから529番システインまで、第10EGF様配列は536番システインから595番システインまで、第11EGF様配列は602番システインから633番システインまで、第12EGF様配列は640番システインから671番システインまで、第13EGF様配列は678番システインから709番システインまで、第14EGF様配列は717番システインから748番システインまで、第15EGF様配列は755番システインから786番システインまで、第16EGF様配列は793番システインから824番システインに該当した。但し、第10EGF様配列はシステインを10残基含む変則的な配列を有していた。
【0049】
ヒトセレイトー1のアミノ酸配列から予想されることとして、糖鎖が付加される部分はN−アセチル−D−グルコサミンがN−グルコシド結合可能な部分として、配列表の配列番号7のアミノ酸配列の112番、131番、186番、351番、528番、554番、714番、1014番、1033番のアスパラギン残基が挙げられる。また、N−アセチル−D−ガラクトサミンのO−グリコシド結合を推定する部分として、セリンまたはスレオニン残基が頻出する部分が考えられる。これらの糖鎖が付加されたタンパクの方がポリペプチドそのものよりも一般に生体内での分解に対して安定であり、また強い生理活性を有していると考えられる。したがって、配列表の配列番号5、6または7の配列を含有するポリペプチドのアミノ酸配列の中にN−アセチル−D−グルコサミンがN−グルコシドやN−アセチル−D−ガラクトサミンなどの糖鎖がN−グルコシドあるいはO−グルコシド結合してなるポリペプチドも本発明に含まれる。
【0050】
ショウジョウバエノッチおよびそのリガンドの結合に関する研究により、ショウジョウバエノッチのリガンドがノッチに結合するために必要なアミノ酸領域は、シグナルペプチドが切断された成熟体蛋白質のN末からDSL配列までであることが明らかにされている(特表平7−503121号)。このことから、ヒトノッチリガンド分子のリガンド作用発現に必要な領域は少なくともDSLドメイン、すなわち配列表の配列番号1のアミノ酸配列含む領域であり、また、少なくともヒトデルタ−1のリガンド作用の発現に必要な領域は配列表の配列番号2に示した新規アミノ酸配列であり、更に少なくともヒトセレイト−1のリガンド作用の発現に必要な領域は配列表の配列番号5に示した新規アミノ酸配列であることがわかる。
【0051】
また、配列表の配列番号の8の遺伝子配列の一部もしくは全部をコードするDNAを用いれば、ヒトデルター1のmRNAの検出が可能であり、配列表の配列番号の9の遺伝子配列の一部もしくは全部をコードするDNAを用いれば、ヒトセレイト−1のmRNAの検出が可能である。たとえば、これらの遺伝子の発現を調べる方法として、配列表の配列番号8または9の一部の遺伝子配列を有する12merから16mer以上、さらに望ましくは18mer以上の相補し得る核酸、つまりアンチセンスDNA、RNA、及びそれらがメチル化、メチルフォスフェート化、脱アミノ化、またはチオフォスフェート化された誘導体を用い、ハイブリダイゼーション、PCR等の手法によって行うことが出来る。同様な方法でマウス等の他の生物の本遺伝子のホモログの検出や遺伝子クローニングができる。さらに、ヒトを含めたゲノム上の遺伝子のクローニングも同様に可能である。従って、そのようにしてクローニングされたこれら遺伝子を用いれば、本ヒトデルタ−1、ヒトセレイト−1の更に詳細な機能も明らかにすることが出来る。例えば、近年の遺伝子操作技術を用いれば、トランスジェニックマウス、ジーンターゲッティングマウス、また、本遺伝子と関連する遺伝子を共に不活化したダブルノックアウトなどのあらゆる方法を用いることが出来る。また、本遺伝子のゲノム上の異常があれば、遺伝子診断、遺伝子治療への応用も可能である。
【0052】
尚、本発明のヒトデルタ−1の全アミノ酸配列をコードするcDNAを含むベクターpUCDL−1Fを大腸菌JM109に遺伝子導入した形質転換細胞は、E.coli:JM109−pUCDL−1Fとして日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号に所在の通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている。寄託日は平成8年10月28日であり、寄託番号はFERM BP−5728。また、本発明のヒトセレイト−1の全アミノ酸配列をコードするcDNAを含むベクターpUCSR−1を大腸菌JM109に遺伝子導入した形質転換細胞は、E.coli:JM109−pUCSR−1として日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号に所在の通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている。寄託日は平成8年10月28日であり、寄託番号はFERM BP−5726。
【0053】
上記の方法にて分離したヒトデルタ−1、ヒトセレイト−1のアミノ酸配列をコードするcDNAを用いた色々な形態を有したヒトデルタ−1、ヒトセレイト−1の発現、精製には多数の方法が成書によって知られている(Kriegler,Gene Transfer and Expression−A Laboratory Manual Stockton Pres,1990、および横田ら、バイオマニュアルシリーズ4,遺伝子導入と発現・解析法,羊土社、1994)。すなわち、分離した該ヒトデルタ−1、該ヒトセレイト−1のアミノ酸配列をコードするcDNAを適当な発現ベクターにつなぎ、動物細胞、昆虫細胞などの真核細胞、バクテリアなどの原核細胞を宿主として生産させることができる。
【0054】
本発明のヒトデルタ−1、ヒトセレイト−1を発現させる際に、本発明のポリペプチドをコードするDNAはその5'末端に翻訳開始コドンを有し、また、3'末端には翻訳終止コドンを有してもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは適当な合成DNAアダプターを用いて付加することもできる。更に該DNAを発現させるには上流にプロモーターを接続する。ベクターとしては上記の大腸菌由来プラスミド、枯草菌由来プラスミド、酵母由来プラスミド、あるいはλファージなどのバクテリオファージおよびレトロウィルス、ワクシニアウィルスなどの動物ウィルスなどが挙げられる。
【0055】
本発明に用いられるプロモーターとしては、遺伝子発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。
【0056】
形質転換する際の宿主がエシェリヒア属菌である場合はtacプロモーター、trpプロモーター、lacプロモーターなどが好ましく、宿主がバチルス属菌である場合にはSPO1プロモーター、SPO2プロモーターなどが好ましく、宿主が酵母である場合にはPGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。
【0057】
宿主が動物細胞である場合には、実施例に記載したSRαプロモーターなどのSV40由来のプロモーター、レトロウィルスのプロモーター、メタルチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーターなどが利用できる。
【0058】
以上に示したあらゆる同業者であれば使用可能なプロモーターを有する発現ベクターを用いることにより、本発明のポリペチドを発現することができる。
【0059】
本発明のポリペプチドを発現させる時、配列表の配列番号2、3、4、5、6もしくは7のアミノ酸配列をコードするDNAのみでもかまわないが、産生されたポリペプチドの検出を容易にするための既知抗原エピトープをコードするcDNAを付加したり、多量体構造を形成させるためにイムノグロブリンFcをコードするcDNAを付加することで、特別の機能を付加した蛋白質を生産させることもできる。
【0060】
ヒトデルタ−1に関して本発明者らは実施例5に示したごとく、細胞外タンパク質を発現する発現ベクターとして、
1)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列の1番から520番のアミノ酸をコードするDNA、
2)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列の1番から520番のアミノ酸のC末側に8アミノ酸、すなわちAsp Tyr Lys Asp Asp Asp Asp Lysのアミノ酸配列(以下FLAG配列、配列表の配列番号10)を持つポリペプチドを付加したキメラタンパク質をコードするDNA、および
3)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列の1番から520番のアミノ酸のC末側にヒトIgG1のヒンジ部分以下のFc配列(国際公開番号、WO94/02035号参照)を付加し、ヒンジ部分のジスルフィド結合により2量体構造を有するキメラタンパク質をコードするDNAを発現ベクターpMKITNeo(丸山ら、91年度日本分子生物学会予稿集、日本国東京医科歯科大学丸山より入手可能、プロモーターとしてSRαを有する)に各々別々につなぎ、ヒトデルタ−1の細胞外部分発現ベクターを作製した。
【0061】
また、ヒトデルタ−1の全長タンパク質を発現する発現ベクターとして、
4)配列表の配列番号4の1番から702番のアミノ酸をコードするDNA、および
5)配列表の配列番号4の1番から702番のアミノ酸のC末端側にFLAG配列を持つポリペプチドを付加したキメラタンパク質をコードするDNAを発現ベクターpMKITNeoに各々別々につなぎ、ヒトデルター1の全長発現ベクターを作製した。このようにして構築された該ヒトデルタ−1をコードするDNAを含有する発現プラスミドを用いて、形質転換体を製造する。
【0062】
また、同様に、ヒトセレイト−1に関して本発明者らは実施例6に示したごとく、細胞外タンパク質を発現する発現ベクターとして、
6)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列の1番から1036番のアミノ酸をコードするDNA、
7)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列の1番から1036番のアミノ酸のC末側に該FLAG配列を持つポリペプチドを付加したキメラタンパク質をコードするDNA、および
8)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列の1番から1036番のアミノ酸のC末側に該Fc配列を付加し、ヒンジ部分のジスルフィド結合により2量体構造を有するキメラタンパク質をコードするDNAを発現ベクターpMKITNeoに各々別々につなぎ、ヒトセレイトー1の細胞外部分発現ベクターを作製した。
【0063】
また、ヒトセレイト−1の全長タンパク質を発現する発現ベクターとして、
9)配列表の配列番号7の1番から1187番のアミノ酸をコードするDNA、および
10)配列表の配列番号7の1番から1187番のアミノ酸のC末端側にFLAG配列を持つポリペプチドを付加したキメラタンパク質をコードするDNAを発現ベクターpMKITNeoに各々別々につなぎ、ヒトセレイト−1の全長発現ベクターを作製した。このようにして構築された該ヒトセレイト−1をコードするDNAを含有する発現プラスミドを用いて、形質転換体を製造する。
【0064】
宿主としては例えばエシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、動物細胞などが挙げられる。動物細胞としては、例えばサル細胞であるCOS−7、Vero、チャイニーズハムスター細胞CHO、カイコ細胞SF9などが挙げられる。
【0065】
実施例7に示したごとく、上記の1)〜10)の発現ベクターをそれぞれ別々に遺伝子導入し、ヒトデルタ−1もしくはヒトセレイト−1をCOS−7細胞(理化学研究所、細胞開発銀行から入手可能、RCB0539)で発現させ、これら発現プラスミドで形質転換された形質転換体が得られる。さらに、各形質転換体をそれぞれ公知の方法により、適当な培地中で適当な培養条件により培養することによって各種ヒトデルタ−1ポリペプチド、ヒトセレイト−1ポリペプチドを製造することができる。
【0066】
実施例8に示したごとく、上記の様な培養物からヒトデルタ−1ポリペプチド、ヒトセレイト−1ポリペプチドを分離精製することができる。また、一般的には下記の方法により行うことができる。
【0067】
すなわち、培養菌体あるいは細胞から抽出するに際しては、培養後、公知の方法、たとえば遠心分離法などで菌体あるいは細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチーム及び/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破砕した後、遠心分離や濾過により粗抽出液を得る方法などを適宜用いることができる。緩衝液の中に尿素、塩酸グアニジンなどのタンパク変性剤や、トリトンX−100などの界面活性剤が含まれていてもよい。培養溶液中に分泌される場合には、培養液を公知の方法、たとえば遠心分離法などで菌体あるいは細胞と分離し、上清を集める。
【0068】
このようにして得られた細胞抽出液あるいは細胞上清に含まれるヒトデルタ−1、ヒトセレイト−1は公知のタンパク質精製法を用いることで、精製できる。その精製の過程でタンパク質の存在を確認するために、上記に示したFLAG、ヒトIgGFcなどの融合タンパクの場合には、それら既知抗原エピトープに対する抗体を用いたイムノアッセイで検出して精製を進めることができる。また、このような融合タンパク質として発現させない場合には、実施例9に記載した抗体を用いて検出することができる。
【0069】
ヒトデルタ−1、セレイト−1を特異的に認識する抗体は実施例9に示したように作製することができる。また成書(Antibodies a laboratory manual,E.Harlow et al.,Cold Spring Harbor Laboratory)に示された各種の方法ならびに遺伝子クローニング法などにより分離されたイムノグロブリン遺伝子を用いて、細胞に発現させた遺伝子組換え体抗体によっても作製することができる。このように作製された抗体はヒトデルタ−1、デルタ−1の精製に利用できる。すなわち、実施例9に示したこれらのヒトデルタ−1、セレイト−1を特異的に認識する抗体を用いれば、本発明のヒトデルタ−1、セレイト−1の検出、測定が可能であり、細胞の分化異常に伴う疾患例えば悪性腫瘍など疾患の診断薬として使用でき得る。
【0070】
精製方法としてより有効な方法としては抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーが挙げられる。この際に用いる抗体としては実施例9記載した抗体を用いることができる。また、融合タンパクの場合には、実施例8に示したように、FLAGであればFLAGに対する抗体、ヒトIgGFcであればProtein G、Protein Aを用いることができる。
【0071】
これらの融合蛋白としてはここに示した2例以外のあらゆる融合蛋白が可能である。例えば、ヒスチジンTag、myc−tagなどが挙げられるが、現在までの公知の方法以外にも、現在の遺伝子工学的な手法を用いればあらゆる融合蛋白を作製することが可能であり、それらの融合蛋白に由来する本発明ポリペプチドも本発明に含まれる。
【0072】
このように精製されたヒトデルタ−1、ヒトセレイト−1タンパクの生理機能を、各種細胞株、マウス、ラットなどの生物個体を用いた各種生理活性アッセイ法、分子生物学的手法に基づく細胞内シグナル伝達の各種アッセイ法、ノッチリセプターとの結合などの色々なアッセイ法にて知ることができる。
【0073】
本発明者らはヒトデルタ−1、ヒトセレイト−1のIgG1キメラ蛋白質を用いて、血液未分化細胞への作用を観察した。
【0074】
すなわち、実施例10に示したようにCD34陽性細胞画分を濃縮した臍帯血由来血液未分化細胞において、各種サイトカイン存在下でコロニー形成する血液未分化細胞に対して本発明ポリペチドがコロニー形成作用の抑制活性を有することを見いだした。また、この抑制活性はSCF存在下にのみ観察される過去にない活性を有していると考えられた。
【0075】
また、実施例11に示したように、SCF、IL−3、IL−6、GM−CSF、Epoの各種サイトカイン存在下での長期(8週間)液体培養へのヒトデルタ−1もしくはヒトセレイト−1のIgG1キメラ蛋白質の添加により、有意にコロニー形成細胞の維持が延長される作用が見いだした。さらにコロニー形成細胞の増殖を抑制しない作用を見いだした。一方、血液細胞の遊走、分化抑制作用を有するサイトカインであるMIP−1α(Verfaillie et al.,J.Exp.Med.179,643−649,1994)は血液未分化細胞の未分化維持の作用を有さなかった。
【0076】
さらに、実施例12に示したように、サイトカイン存在下での液体培養へのヒトデルタ−1もしくはヒトセレイト−1のIgG1キメラ蛋白質の添加により、ヒト血液未分化細胞の中で最も未分化な血液幹細胞と位置付けられているLTC−IC(Long−Term Culture−Initiating Cells)の数を有意に維持する活性を有していることを見いだした。
【0077】
これらの結果から、ヒトデルタ−1及びヒトセレイト−1は血液未分化細胞の分化を抑制し、それらの作用は血液幹細胞からコロニー形成細胞にわたって作用することが明らかである。これらの生理作用は血液未分化細胞の体外増殖に必要な作用であり、特にヒトデルタ−1もしくはヒトセレイト−1を含有する細胞培養培地で培養した細胞は抗癌剤投与後の骨髄抑制回復に有効であり、他の条件を整えることにより体外での造血幹細胞の増幅を可能とするであろう。さらに、医薬品として用いた場合には、抗癌剤などの副作用で見られる骨髄抑制作用を保護し、軽減する作用がある。
【0078】
さらに、血液細胞以外の未分化細胞においても、細胞の分化を抑制する作用が主に期待でき、また組織再生を促す作用等が期待できる。
【0079】
医薬品として用いるならば、本発明のポリペプチドを適当な安定化剤、例えばヒト血清アルブミンなどと共に凍結乾燥品を作製し、用時注射用蒸留水にて溶解もしくは懸濁して使用し得る形状が望ましい。例えば0.1から1000μg/mlの濃度に調製した注射剤、点滴剤として提供することができる。本発明者らは本発明の化合物1mg/ml、ヒト血清アルブミン1mg/mlとなるようにバイアルに小分けし、長期にわたって該化合物の活性は保持された。さらに、細胞を体外にて培養、活性化させる場合には医薬品同様に、凍結乾燥品、もしくは溶液剤を作製して、培地に加える、もしくは培養に使用する容器に固定化することができる。また、本発明のポリペプチドの毒性については、マウスに対していずれのポリペプチドも10mg/Kgを腹腔内投与したがマウスの死亡例は確認されなかった。
【0080】
また、本発明のインビトロの生理活性は、あらゆる疾患モデルマウス、またはそれらに準ずる疾患に似た症状を呈するラット、サル等の動物をモデルとして投与を行い、その身体的、生理的な機能の回復、異常を調べることにより可能となる。例えば、造血細胞に関する異常であれば、5−FU系の抗癌剤を投与して、骨髄抑制モデルマウスを作製し、このマウスに本発明の化合物を投与した群としなかった群の骨髄細胞、末梢血細胞の数、生理的な機能を調べることで明らかになる。また更に、体外で造血幹細胞を含む造血未分化細胞の培養、増殖を調べる場合には、マウス骨髄細胞を培養器などを利用して、培養を行い、その際に本発明の化合物を加えた群と加えなかった群で培養後の細胞を致死量放射線照射マウスに細胞移植を行い、その結果の回復の度合いを、生存率、血球数の変動などを指標にすることで調べることが出来る。勿論、これらの結果が人にも外挿できるため、本化合物の薬効としての評価として有効なデータを得ることが出来る。
【0081】
本発明の化合物を医薬品として利用する場合、その適応として、細胞の分化異常に伴う疾患、例えば白血病、悪性腫瘍の治療があげられ、体外でヒト由来細胞を培養して、その本来の機能を保ったまま増殖させる、もしくは新たな機能を持たせる等を行う細胞治療、組織損傷後の再生時に投与することにより本来その組織が有していた機能を損なうことなく再生させる治療法などの応用が可能である。その際の投与量としてはその形態などにもよるが、具体的には10μg/Kgから10mg/Kg程度投与すればよい。
【0082】
また、さらに強い生理活性を有する形態として、多量体を形成し得る形態で発現させることが望ましい。
【0083】
実施例10に示したようにヒトデルタ−1及びヒトセレイト−1の抑制活性は2量体構造を有するIgGキメラ蛋白質の方が高いことから、強い生理活性を有する形態として、多量体を形成し得る形態で発現させることが望ましい。
【0084】
多量体構造を有するヒトデルタ−1及びヒトセレイト−1は、実施例に記載したヒトIgGのFc部分とのキメラタンパク質として発現させて抗体のヒンジ部分によりジスルフィド結合をした多量体として発現させる方法、また、抗体認識部位をC末端もしくはN末端に発現するキメラタンパクとして発現させ、発現させた該ヒトセレイトの細胞外部分を含むポリペプチドをC末端もしくはN末端の抗体認識部位を特異的に認識する抗体と反応させることにより多量体を形成させる方法が挙げられる。さらに、別の方法として、抗体のヒンジ領域部分のみとの融合タンパクを発現させて、ジスルフィド結合にて2量体を形成させる方法、もしくはその他のヒトデルタ−1、ヒトセレイト−1の活性に何等影響を与えない方法でジスルフィド結合を生じさせる形のペプチドをC末端、N末端もしくはその他の部位に発現するように作成された融合タンパクから構成された2量体以上の高い比活性を有する多量体型ヒトデルタ−1及びヒトセレイト−1を得ることもできる。また、さらに配列表の配列番号2、3、5もしくは6のアミノ酸配列を含むポリペプチドから選ばれる1つ以上のポリペプチドを遺伝子工学的に2つ以上直列にもしくは並列に並べ多量体構造を発現させる方法などもある。その他、現在知られている2量体以上の多量体構造を持たせるあらゆる方法が適応可能である。したがって、遺伝子工学的な技術により作製される2量体もしくはそれ以上の形態を有する形の配列表の配列番号2、3、5もしくは6に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む化合物に関しても本発明に含まれる。
【0085】
また、その他の方法として、化学的な架橋剤を用いて多量体化する方法が挙げられる。例えば、リシン残基を架橋するジメチルスベロイミデート2塩酸塩など、システイン残基のチオール基で架橋するN−(γ−マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミドなど、アミノ基とアミノ基を架橋するグルタールアルデヒドなどが挙げられ、これらの架橋反応を利用して、2量体以上の多量体を形成させることができる。したがって、化学的な架橋剤により作製される2量体もしくはそれ以上の多量体の形態を有す形の配列表の配列番号2、3、5もしくは6に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む化合物に関しても本発明に含まれる。
【0086】
体外において細胞を増殖、活性化し、体内に細胞を戻す医療方法への適応には、上記のような形態を有したヒトデルタ−1もしくはヒトセレイト−1を直接培地中に加えることも可能だが、固定化する事も同様に可能である。固定化の方法としてはこれらのポリペプチドのアミノ基、カルボキシル基を利用したり、適当なスペーサーを用いたり、上記の架橋剤を用いたりして、培養容器にポリペプチドを共有結合させることができる。したがって、固体表面に存在する形態を有す配列表の配列番号2、3、5もしくは6のアミノ酸配列を含有するポリペプチドに関しても本発明に含まれる。
【0087】
また、自然界に存在するヒトデルタ−1及びヒトセレイト−1は細胞膜蛋白質であることから、これらの分子を発現する細胞と血液未分化細胞を共培養することによっても、実施例で行った分化抑制作用を発現させることができる。したがって、配列表の配列番号2〜7のアミノ酸配列をコードするDNAを用いて形質転換した細胞と未分化細胞を共培養する方法についても本発明に含まれる。
【0088】
発現させる細胞は実施例で示したCOS−7細胞でもかまわないが、ヒト由来の細胞が望ましく、また更に発現させる細胞は細胞株ではなくヒトの体内の血液細胞でも体細胞でもかまわない。したがって、遺伝子治療用のベクターに組み込んで体内で発現させることもできる。
【0089】
実施例10に示したように低濃度の単量体であるヒトデルタ−1もしくはヒトセレイト−1のFLAGキメラ蛋白質はコロニー形成抑制ではなく、逆にコロニー形成促進作用を示す。この作用は血液未分化細胞が細胞分裂する際に、ノッチリセプターとノッチリガンド分子を発現し、本発明のポリペプチドがその作用のアンタゴニストとして働いたと考えられる。このことから配列表の配列番号1、2、4もしくは5のアミノ酸配列を有するポリペプチドはその作用濃度をコントロールすることによりコロニー形成促進作用も有する。したがって、コロニー形成促進作用を有する配列表の配列番号2、3、5もしくは6のアミノ酸配列を有するポリペプチドも本発明に含まれる。
【0090】
更にこのことから、本発明分子、すなわち配列表の配列番号2〜7のアミノ酸配列を有するポリペプチドとこれらのリセプターとの結合を阻害することは細胞分化を促進する分子、化合物を見つけだす手段として利用できる。その方法としては、ラジオアイソトープなどを用いた結合実験、ノッチリセプターの下流分子である転写調節因子群を用いたルシフェラーゼアッセイ、X線構造解析を行いコンピューター上でのシュミレーションなどあらゆる方法が応用できる。したがって、配列表の配列番号2〜7のポリペプチドを用いた薬剤スクリーニング方法に関しても本発明に含まれる。
【0091】
また、次に実施例13に示したようにヒトデルタ−1もしくはヒトセレイト−1のIgGキメラタンパクを用いることにより特定の白血病細胞株を分別できる。したがって、このことは白血病の診断薬として使用でき、また特定の血液細胞の分離に応用できる。この結果はヒトデルタ−1、ヒトセレイト−1分子はそのリセプターであるノッチリセプター分子と特異的な結合をするためと考えられ、例えば上記の細胞外部分とヒトIgGFcの融合タンパクを用いれば、ノッチリセプターの発現を検出できる。ノッチはある種の白血病に関連していることが知られており(Ellisen et al.,Cell 66,649−661,1991)、したがって、配列表の配列番号2、3、5及び6のアミノ酸配列を含有するポリペプチドは体外もしくは体内の診断薬として使用が可能である。
【0092】
以下に発明を実施する形態について例を示すが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0093】
実施例1 ヒトデルタ−1プライマーによるPCR産物のクローニングおよび塩基配列の決定
C−デルタ−1およびX−デルタ−1に保存されたアミノ酸配列に対応した混合プライマー、すなわちセンスプライマーDLTS1(配列表の配列番号11に記載)及びアンチセンスプライマーDLTA2(配列表の配列番号12に記載)を用いた。
【0094】
合成オリゴヌクレオチドは固相法を原理とする全自動DNA合成機を使用して作成した。全自動DNA合成機としては米国アプライドバイオシステム社391PCR−MATEを使用した。ヌクレオチド、3'-ヌクレオチドを固定した担体、溶液、および試薬は同社の指示に従って使用した。所定のカップリング反応を終了し、トリクロロ酢酸で5'末端の保護基を除去したオリゴヌクレオチド担体を濃アンモニア中にて室温で1時間放置することにより担体からオリゴヌクレオチドを遊離させた。次に、核酸及びリン酸の保護基を遊離させるために、核酸を含む反応液を、封をしたバイアル内において濃アンモニア溶液中で55℃にて14時間以上放置した。担体及び保護基を遊離した各々のオリゴヌクレオチドの精製をアプライドバイオシステム社のOPCカートリッジを使用して行い、2%トリフルオロ酢酸で脱トリチル化した。精製後のプライマーは最終濃度が100pmol/μlとなるように脱イオン水に溶解してPCRに使用した。
【0095】
これらプライマーを用いたPCRによる増幅は以下のように行った。ヒト胎児脳由来cDNA混合溶液(QUICK−Clone cDNA、米国CLONTECH社)1μlを使用し、10×緩衝液(500mM KCl、100mM Tris−HCl(pH8.3)、15mM MgCl2、0.01%ゼラチン)5μl、dNTP Mixture(日本国宝酒造社製)4μl、前述の脊椎動物デルタホモログに特異的なセンスプライマーDLTS1(100pmol/μl)5μlおよびアンチセンスプライマーDLTA2(100pmol/μl)5μl、及びTaqDNAポリメラーゼ(AmpliTaq:日本国宝酒造社製、5U/μl)0.2μlを加え、最後に脱イオン水を加えて全量を50μlとして、95℃で45秒間、42℃で45秒間、72℃を2分間からなる行程を1サイクルとして、この行程を5サイクル行い、さらに95℃で45秒間、50℃で45秒間、72℃を2分間からなる行程を1サイクルとして、この行程を35サイクル行い最後に72℃にて7分間放置してPCRを行った。このPCR産物の一部を2%アガロースゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイド(日本国日本ジーン社製)にて染色後、紫外線下で観察し、約400bpのcDNAが増幅されていることを確認した。
【0096】
PCR産物の全量を低融点アガロース(米国GIBCO BRL社製)にて作成した2%アガロースゲルにて電気泳動し、エチジウムブロマイドにて染色後、紫外線照射下にてデルタプライマーによるPCR産物の約400bpのバンドを切り出し、ゲルと同体積の蒸留水を加え、65℃にて10分間加熱し、ゲルを完全に溶かしたのち、等量のTE飽和フェノール(日本国日本ジーン社製)を加えて、15000rpm5分間遠心分離後上清を分離し、さらに同様な分離作業をTE飽和フェノール:クロロフォルム(1:1)溶液、さらにクロロフォルムにて行った。最終的に得られた溶液からDNAをエタノール沈澱して回収した。
【0097】
ベクターとしてpCRII Vector(米国Invitorogen社製、以下pCRIIと示す)を用い、ベクターと先のDNAのモル比が1:3となるように混ぜ合わせて、T4 DNAリガーゼ(米国Invitorogen社製)にてベクターにDNAを組み込んだ。DNAが組み込まれたpCRIIを大腸菌one Shot Competent Cells(米国Invitrogen社製)に遺伝子導入し、アンピシリン(米国Sigma社製)を50μg/ml含むL−Broth(日本国宝酒造社製)半固型培地のプレートに蒔き、12時間程度37℃に放置し、現れてきたコロニーを無作為選択し、同濃度のアンピシリンを含むL−Broth液体培地2mlに植え付け、18時間程度37℃で振盪培養し、菌体を回収し、ウィザードミニプレップ(米国Promega社製)を用いて添付の説明書に従ってプラスミドを分離し、このプラスミドを制限酵素EcoRIにて消化して、約400bpのDNAが切れ出されてくることで該PCR産物が組み込まれていることを確認し、確認されたクローンについて、組み込まれているDNAの塩基配列を米国アプライドバイオシステム社の螢光DNAシークエンサー(モデル373S)にて決定した。
【0098】
実施例2 新規ヒトデルター1遺伝子の全長クローニングおよびその解折
ヒト胎盤由来のcDNAライブラリー(λgt−11にcDNAが挿入されたもの、米国CLONTECH社製)からプラークハイブリダイゼーションにて全長cDNAを持ったクローンの検索を1×106相当のプラークから行った。出現したプラークをナイロンフィルター(Hybond N+:米国Amersham社製)に転写し、転写したナイロンフィルターをアルカリ処理(1.5M NaCl、0.5M NaOHを染み込ませたろ紙上に7分間放置)し、次いで中和処理(1.5M NaCl、0.5M Tris−HCl(pH7.2)、1mM EDTAを染み込ませたろ紙上に3分間放置)を2回行い、次にSSPE溶液(0.36M NaCl、0.02M リン酸ナトリウム(pH7.7)、2mM EDTA)の2倍溶液中で5分間振とう後洗浄し、風乾した。その後、0.4M NaOHを染み込ませたろ紙上に20分間放置し、5倍濃度のSSPE溶液で5分間振とう後洗浄し、再度風乾した。このフィルターを用いて放射性同位元素32Pにて標識されたヒトデルタ−1プローブにてスクリーニングを行った。
【0099】
放射性同位元素32Pにて標識された実施例1で作製されたDNAプローブは以下のように作成した。すなわち、遺伝子配列が決定されたヒトデルタ−1プライマーによる精製PCR産物(約400bp)が組み込まれたpCRIIより、EcoRIにてベクターより切り出し、低融点アガロースゲルからDNA断片を精製回収した。得られたDNA断片をDNAラベリングキット(Megaprime DNA labeling system:米国Amersham社製)を用いて標識した。すなわち、DNA25ngにプライマー液5μl及び脱イオン水を加えて全量を33μlとして沸騰水浴を5分間行い、その後、dNTPを含む反応緩衝液10μl、α−32P−dCTP5μl、及びT4DNAポリヌクレオチドキナーゼ溶液2μlを加えて、37℃で10分間水浴し、更にその後、セファデックスカラム(Quick Spin Column Sephadex G−50:独逸国ベーリンガーマンハイム社製)で精製し、5分間沸騰水浴をしたのち、2分間氷冷後使用した。
【0100】
前述の方法にて作成したフィルターを、各々の成分の最終濃度が5倍濃度のSSPE溶液、5倍濃度のデンハルト液(日本国和光純薬社製)、0.5%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム、日本国和光純薬社製)、及び10μg/mlの沸騰水浴により変性したサケ精子DNA(米国Sigma社製)であるプレハイブリダイゼーション液中に浸し、65℃にて2時間振とうしたのち、前述の方法で32P標識されたプローブを含むプレハイブリダイゼーション液と同一組成のハイブリダイゼーション液に浸し、55℃にて16時間振盪し、ハイブリダイゼーションを行った。
【0101】
次に、フィルターを0.1%SDSを含むSSPE溶液に浸し、55℃にて振盪し2回洗浄後、さらに0.1%SDSを含む10倍希釈したSSPE溶液に浸し、55℃にて4回洗浄した。洗浄を終了したフィルターを増感スクリーンを使用して、オートラジオグラフィーを行った。その結果、強く露光された部分のクローンを拾い、再度プラークを蒔き直し前述の方法にてスクリーニングを行い、完全に単独のクローンを分離した。
【0102】
単離されたファージクローンは7クローンであった。成書の方法に従い、これらのすべてのクローンのファージを約1×109pfu調製し、ファージDNAを精製し、制限酵素EcoRIにて消化し、同様にEcoRIで消化したpBluescript(米国Stratagene社製)に組み込んだ。これらのクローンの両端のDNA配列をDNAシークエンサーにより解析したところ、D5、D6、D7の3クローンは共に配列表の配列番号8のDNA配列の1番から2244番の配列を含むクローンであり、D4のクローンは配列表の配列番号8のDNA配列の999番から2663番を含むクローンであった。D5とD4の2クローンはキロシークエンス用デリションキット(日本国宝酒造社製)を用いて添付の説明書に従ってデリションミュータントを作製し、該DNAシークエンサーを用いて5'方向、3'方向の両方向から、本発明の全長のcDNA塩基配列を決定した。
【0103】
さらに配列表の配列番号8のDNA配列の1214番にあるXhoIサイトを利用し、D4とD5を制限酵素XhoIによって消化して、配列表の配列番号7のDNA配列全長を含むプラスミドpBSDe1−1を作製した。
【0104】
実施例3 ヒトセレイト−1特異的なPCR産物のクローニングおよび塩基配列の決定
ショウジョウバエセレイトおよびラットジャグドに保存されたアミノ酸配列に対応した混合プライマー、すなわちセンスプライマーSRTS1(配列表の配列番号13に記載)およびアンチセンスプライマーSRTA2(配列表の配列番号14に記載)を用いた。作製法は実施例1に記載した方法で行った。
【0105】
これらプライマーを用いたPCRによる増幅は以下のように行った。該ヒト胎児脳由来cDNA混合溶液1μlを使用し、10×緩衝液(実施例1に記載)5μl、該dNTP Mixture4μl、前述のセレイト−1ホモログに特異的なセンスプライマーSRTS1(100pmol/μl)5μlおよびアンチセンスプライマーSRTA2(100pmol/μl)5μl、及び該TaqDNAポリメラーゼ0.2μlを加え、最後に脱イオン水を加えて全量を50μlとして、95℃で45秒間、42℃で45秒間、72℃を2分間からなる行程を1サイクルとして、この行程を5サイクル行い、さらに95℃で45秒間、50℃で45秒間、72℃を2分間からなる行程を1サイクルとして、この行程を35サイクル行い最後に72℃にて7分間放置してPCRを行った。このPCR産物の一部を2%アガロースゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイドにて染色後、紫外線下で観察し、約500bpのcDNAが増幅されていることを確認した。
【0106】
PCR産物の全量を該低融点アガロースにて作製した2%アガロースゲルにて電気泳動し、エチジウムブロマイドにて染色後、紫外線照射下にて約500bpのバンドを切り出し、ゲルと同体積の蒸留水を加え、65℃にて10分間加熱し、ゲルを完全に溶かしたのち、等量のTE飽和フェノールを加えて、15000rpm5分間遠心分離後上清を分離し、さらに同様な分離作業をTE飽和フェノール:クロロフォルム(1:1)溶液、さらにクロロフォルムにて行った。最終的に得られた溶液からDNAをエタノール沈澱して回収した。
【0107】
ベクターとして該pCRII Vectorを用い、ベクターと先のDNAのモル比が1:3となるように混ぜ合わせて、実施例1と同様に、ベクターpCRIIにDNA断片を組み込み、同様に大腸菌に遺伝子導入し、現れてきたコロニーを無作為選択し、同濃度のアンピシリンを含むL−Broth液体培地2mlに植え付け、18時間程度37℃で振盪培養し、菌体を回収し、該ウィザードミニプレップを用いて添付の説明書に従ってプラスミドを分離し、このプラスミドを制限酵素EcoRIにて消化して、約500bpのDNAが切り出されてくることで該PCR産物が組み込まれていることを確認し、確認されたクローンについて、組み込まれているDNAの塩基配列を該DNAシークエンサーにて決定した。
【0108】
実施例4 新規ヒトセレイト−1遺伝子の全長クローニングおよびその解析
前述のヒト胎盤由来のcDNAライブラリーからプラークハイブリダイゼーションにて全長cDNAを持ったクローンの検索を1×106相当のプラークから行った。フィルターの作製は実施例2に記載した方法で作製し、このフィルターを用いて放射性同位元素32Pにて標識されたヒトセレイト−1プローブにてスクリーニングを行った。
【0109】
放射性同位元素32Pにて標識された先のDNAプローブは実施例2に記載した方法にしたがって作製し、ハイブリダイゼーション、フィルターの洗浄、クローンの分離は実施例2に記載した方法にて行った。
【0110】
単離されたファージクローンは22クローンであった。成書の方法に従い、これらのすべてのクローンのファージを約1×109pfu調製し、ファージDNAを精製し、制限酵素EcoR1にて消化し、同様にEcoR1で消化したpBluescriptに組み込んだ。これらのクローンの両端のDNA配列をDNAシークエンサーにより解析したところ、S16およびS20の2クローンは共に配列表の配列番号9のDNA配列の1番から1873番の配列を含むクローンであり、S5およびS14の2クローンは配列表の配列番号9のDNA配列の990番から4005番を含むクローンであった。これらのクローンは該キロシークエンス用デリションキットを用いて添付の説明書に従ってデリションミュータントを作製し、該DNAシークエンサーを用いて5'方向、3'方向の両方向から、本発明のポリペプチドをコードするcDNA塩基配列を決定した。
【0111】
さらに、配列表の配列番号9のDNA配列の1293番にあるBglIIサイトを利用し、S20とS5を制限酵素BglIIによって消化して、配列表の配列番号9の遺伝子配列の1番から4005番のDNAを大腸菌ベクターpBluescriptにサブクローニングし、このプラスミドをpBSSRTとする。
【0112】
この結果、C末端に終止コドンが認められず、細胞内部分のC末端のアミノ酸配列をコードしている領域がクローニングできていないことが判明したため、全長遺伝子をクローニングを米国GIBCO−BRL社製3'RACEシステムキットを用いて、添付のマニュアルに従って、ヒト胎盤由来polyA+RNA(米国CLONTECH社製)から3'方向の遺伝子のcDNAのクローニングを行い、遺伝子配列を決定した。
【0113】
このように遺伝子クローニングした3つの遺伝子断片を配列表の配列番号9のDNA配列の1293番にある制限酵素Bgl2サイトと3943番にあるAcc1サイトを利用し、配列表の配列番号5のDNA配列全長を含むプラスミドをpUC18のマルチクローニングサイトのEcoR1とXba1の間につなぎ込み、ヒトセレイト−1の全長遺伝子を含むpUCSR−1を作製した。この遺伝子の配列を配列表の配列番号9にアミノ酸配列とともに示す。
【0114】
実施例5 ヒトデルタ−1発現ベクターの作製
配列表の配列番号7に記載のDNA配列からなる遺伝子を用いて、次の1)から5)に挙げるヒトデルター1蛋白質の発現ベクターを作製した。制限酵素サイトの付加、短い遺伝子配列の挿入は全て米国Stratagene社製ExSite PCR−Based Site−Directed Mutagenesis Kitを用い、添付の取扱い説明書に従って行った。
【0115】
1)分泌型ヒトデルター1蛋白質(HDEX)発現ベクター
配列表の配列番号3のアミノ酸配列の1番から520番のポリペプチドをコードするcDNAを、SRαのプロモーターとネオマイシン耐性遺伝子を含む発現ベクターpMKITNeoにつなぎ、発現ベクターを作製した。
【0116】
ヒトデルタ−1の発現ベクターを作製するにあたって、遺伝子産物のより安定的に発現させるために、開始コドン(配列表の配列番号8の遺伝子配列の179番)の5'方向に20bp上流の部分にEcoRIサイトを付加した。すなわち、上記のMutagenesis Kitを用い、配列表の配列番号8に記載のDNA配列、ヒトデルタ−1の全長のcDNAを含むプラスミドpBSDel−1をテンプレートとし、配列表の配列番号15及び配列番号16の遺伝子配列を有するをオリゴヌクレオチドをプライマーとして、5'方向に20bp上流の部分にEcoRIサイトを付加したDNAを作成した。以下このプラスミドをpBS/Eco−Deltaと示す。
【0117】
次に、このpBS/Eco−Deltaをテンプレートとして、カルボキシル末端部分に終止コドン、更に制限酵素MluIサイトを付加するため、同様にMutagenesis Kitを用い、配列表の配列番号17及び配列番号18の遺伝子配列を有するをオリゴヌクレオチドをプライマーとして、終止コドン、さらにMluIサイトの付加を行った。次に、このベクターをEcoRIおよびMluIにて消化し、切り出されてくる約1600bpの遺伝子断片を同様な制限酵素処理したpMKITNeoにつないで発現ベクターを構築した。このベクターをpHDEXと命名した。
【0118】
2)分泌型ヒトデルター1のFLAGキメラ蛋白質(HDEXFLAG)発現ベクター
配列表の配列番号3のアミノ酸配列の1番から520番のポリペプチドのC末端にFLAG配列をコードするcDNAを付加したキメラ蛋白質をコードするcDNAを、SRαのプロモーターとネオマイシン耐性遺伝子を含む発現ベクターpMKITNeoにつなぎ、発現ベクターを作製した。
【0119】
pBS/Eco−Deltaをテンプレートとして用い、細胞外部分のカルボキシル末端部分、すなわち配列表の配列番号3の520番目のGlyの後にFLAG配列を付加し、ついで終止コドン、更に制限酵素MluIサイトを付加するため同様にMutagenesis Kitを用い、配列表の配列番号19及び配列番号18の遺伝子配列を有するをオリゴヌクレオチドをプライマーとして、C末端にFLAG配列をコードする遺伝子並びに終止コドン、さらにMluIサイトの付加を行った。次に、このベクターをEcoRIおよびMluIにて消化し、切り出されてくる約1700bpの遺伝子断片を同様な制限酵素処理したpMKITNeoにつないで発現ベクターを構築した。このベクターをpHDEXFLAGと命名した。
【0120】
3)分泌型ヒトデルター1のIgG1Fcキメラ蛋白質(HDEXIg)発現ベクター
配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドのC末にヒトIgG1のヒンジ部分以下のFc部分のアミノ酸配列を付加したポリペプチドをコードする遺伝子配列をpMKITNeoにつなぎ、発現ベクターを作製した。
【0121】
イムノグロブリンFcタンパクとの融合タンパクの作製はZettlmeisslらの方法(Zettlmeissl et al.,DNA cell Biol.,9,347−354,1990)にしたがって、イントロンを含むゲノムDNAを用いた遺伝子を利用し、その遺伝子をPCR法を用いて作製した。すなわち、ヒトゲノムDNAをテンプレートとして使用して、ヒトIgG1Fc部分をコードする遺伝子配列を制限酵素BamHIサイトのついた配列表の配列番号20の配列を有するオリゴヌクレオチド、制限酵素XbaIサイトのついた配列表の配列番号21の配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCRを行い、およそ1.4kbpのバンドを精製し、制限酵素BamHI及びXbaI(日本国宝酒造社製)で処理をして、同様の制限酵素処理をしたpBluescriptにT4 DNAリガーゼにて遺伝子をつないでサブクローニングした。その後、このプラスミドDNAを精製して、シークエンスをして遺伝子配列を確認し、遺伝子配列が確かにヒトIgG1の重鎖のヒンジ部分にあたるゲノムDNAであることを確認した(その配列はKabat et al.,Sequence of Immunological Interest,NIH publication No91−3242,1991を参照)。以下、このプラスミドをpBShIgFcとする。
【0122】
次に、該pBS/Eco−Deltaをテンプレートとして用い、同様にMutagenesis Kitを用い、細胞外部分のカルボキシル末端部分、すなわち配列表の配列番号3の520番目のGlyの後に、制限酵素BamHIサイトを付加し、さらにその下流に制限酵素XbaIおよびMluIサイトを付加するために、配列表の配列番号22と配列番号23のオリゴヌクレオチドにて、同様にMutagenesis Kitを用い、BamHI、XbaI,MluIのサイトの付加を行った。このベクターをXbaI、BamHIにて消化し、上記のpBShIgFcをXbaI、BamHIにて消化し切り出されてくる約1200bpの遺伝子断片をつないで最終的に目的の分泌型ヒトデルタ−1のIgG1Fcキメラ蛋白質をコードする遺伝子断片を含むベクターを作成した。最後に、このベクターをEcoRIおよびMluIにて消化し、切り出されてくる約3000bpの遺伝子断片を同様な制限酵素処理したpMKITNeoにつないで発現ベクターを構築した。このベクターをpHDEXIgと命名した。
【0123】
4)全長型ヒトデルター1の蛋白質(HDF)発現ベクター
配列表の配列番号4のアミノ酸配列の1番から702番のポリペプチドをコードするcDNAを、SRαのプロモーターとネオマイシン耐性遺伝子を含む発現ベクターpMKITNeoにつなぎ、発現ベクターを作製した。
【0124】
pBS/Eco−Deltaをテンプレートとして用い、全長のカルボキシル末端部分、すなわち配列表の配列番号4の702番目のValの後に終止コドン、更に制限酵素MluIサイトを付加するため同様にMutagenesis Kitを用い、配列表の配列番号24及び配列番号25の遺伝子配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして、C末端に終止コドン、さらにMluIサイトの付加を行った。次に、このベクターをEcoRIおよびMluIにて消化し、切り出されてくる約2200bpの遺伝子断片を同様な制限酵素処理したpMKITNeoにつないで発現ベクターを構築した。このベクターをpHDFと命名した。
【0125】
5)全長型ヒトデルター1のFLAGキメラ蛋白質(HDFLAG)発現ベクター
配列表の配列番号4のアミノ酸配列の1番から702番のポリペプチドのC末端にFLAG配列をコードするcDNAを付加したキメラ蛋白質をコードするcDNAを、SRαのプロモーターとネオマイシン耐性遺伝子を含む発現ベクターpMKITNeoにつなぎ、発現ベクターを作製した。
【0126】
pBS/Eco−Deltaをテンプレートとして、カルボキシル末端部分にFLAG配列を付加し、ついで終止コドン、更に制限酵素MluIサイトを付加するため同様に配列表の配列番号26及び配列番号25の遺伝子配列を有するをオリゴヌクレオチドをプライマーとして、C末端にFLAG配列をコードする遺伝子並びに終止コドン、さらにMluIサイトの付加を行った。
【0127】
このベクターからヒトデルタ−1の全長をコードするDNAを大腸菌ベクターpUC19にクローニングして全長ヒトデルタ−1をコードするベクターpUCDL−1Fを作製した。
【0128】
次に、このベクターをEcoRIおよびMluIにて消化し、切り出されてくる約2200bpの遺伝子断片を同様な制限酵素処理したpMKITNeoにつないで発現ベクターを構築した。このベクターをpHDFLAGと命名した。
【0129】
実施例6 新規ヒトセレイト−1発現ベクターの作製
配列表の配列番号9に記載のDNA配列からなる遺伝子を用いて、次の6)および10)に挙げるヒトセレイト−1蛋白質の発現ベクターを作製した。制限酵素サイトの付加、短い遺伝子配列の挿入は全てExSite PCR−Based Site−Directed Mutagenesis Kitを用い、添付の取扱い説明書に従って行った。
【0130】
6)分泌型ヒトセレイトー1(HSEX)発現ベクター
配列表の配列番号6のアミノ酸配列の1番から1036番のポリペプチドをコードするcDNAを付加したキメラ蛋白質をコードするcDNAを、発現ベクターpMKITNeoにつなぎ、発現ベクターを作製した。
【0131】
配列表の配列番号6のアミノ酸配列の1番から1036番のアミノ酸配列を有するポリペプチド発現細胞の発現ベクター作製にあたって、遺伝子産物をより安定的に発現させるために、開始コドン(配列表の配列番号9の遺伝子配列の409番)の5'方向に10bp上流の部分にEcoRIサイトを付加した。すなわち、上記のMutagenesis Kitを用い、配列表の配列番号9に記載のDNA配列の1番から4005番のヒトセレイト−1cDNAを含むプラスミドpBSSRTをテンプレートとし、配列表の配列番号27の遺伝子配列を有するオリゴヌクレオチドと配列表の配列番号28の遺伝子配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして、5'方向に10bp上流の部分にEcoRIサイトを付加したDNAを作成した。
【0132】
次に、この様にして作成されたベクター(以下pBS/Eco−Serrate−1と示す)をテンプレートとして、細胞外部分のカルボキシル末端部分、すなわち配列表の配列番号6のポリペプチドのカルボキシル末端に終止コドン、更に制限酵素MluIサイトを付加するため、同様にMutagenesis Kitを用い、配列表の配列番号29の遺伝子配列を有するオリゴヌクレオチドと配列表の配列番号30の遺伝子配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして、終止コドン並びにMluIサイトを付加した。次に、このベクターをEcoRIおよびMluIにて消化し、切り出されてくる約3200bpの遺伝子断片を同様な制限酵素処理したpMKITNeoにつないで発現ベクターを構築した。このベクターをpHSEXと命名した。
【0133】
7)分型ヒトセレイト−1のFLAGキメラ蛋白質(HSEXFLAG)発現ベクター
配列表の配列番号6のアミノ酸配列の1番から1036番のポリペプチドのC末端にFLAG配列を有するFLAGキメラ蛋白質をコードするcDNAを、SRαのプロモーターとネオマイシン耐性遺伝子を含む発現ベクターpMKITNeoにつなぎ、発現ベクターを作製した。
【0134】
pBS/Eco−Serrate−1をテンプレートとして、細胞外部分のカルボキシル末端部分、すなわち配列表の配列番号6のポリペプチドのカルボキシル末端にFLAG配列を付加し、ついで終止コドン、更に制限酵素MluIサイトを付加するため、同様にMutagenesis Kitを用い、配列表の配列番号31の遺伝子配列を有するオリゴヌクレオチドと配列表の配列番号30の遺伝子配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして、FLAG配列をコードする遺伝子並びに終止コドン及びMluIサイトを付加した。次に、このベクターをEcoRIおよびMluIにて消化し、切り出されてくる約3200bpの遺伝子断片を同様な制限酵素処理したpMKITNeoにつないで発現ベクターを構築した。このベクターをpHSEXFLAGと命名した。
【0135】
8)分泌型ヒトセレイト−1のIgG1Fcキメラ蛋白質(HSEXIg)発現ベクター
配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドのC末にヒトIgG1のヒンジ部分以下のFc部分のアミノ酸配列を付加したポリペプチドをコードする遺伝子配列をpMKITNeoにつなぎ、発現ベクターを作製した。
【0136】
pBS/Eco−Serrateをテンプレートとして用い、同様にMutagenesis Kitを用い、細胞外部分のカルボキシル末端部分、すなわち配列表の配列番号6の配列を有すポリペプチドの後に、制限酵素BamHIサイトを付加し、さらにその下流に制限酵素XbaIおよびMluIサイトを付加するために、配列表の配列番号32の遺伝子配列を有すオリゴヌクレオチドと配列表の配列番号33の配列を有すオリゴヌクレオチドをプライマーとして、BamHI、XbaI、MluIのサイトの付加を行った。このベクターをXbaI、BamHIにて消化し、上記のpBShIgFcをXbaI、BamHIにて消化し切り出されてくる約1200bpの遺伝子断片をつないで最終的に目的の分泌型ヒトセレイト−1のIgG1Fcキメラ蛋白質をコードする遺伝子断片を含むベクターを作成した。最後に、このベクターをEcoRIおよびMluIにて消化し、切り出されてくる約4400bpの遺伝子断片を同様な制限酵素処理したpMKITNeoにつないで発現ベクターを構築した。このベクターをpHSEXIgと命名した。
【0137】
9)全長型ヒトセレイトー1の蛋白質(HSF)発現ベクター
配列表の配列番号7のアミノ酸配列の1番から1187番のポリペプチドをコードするcDNAを、SRαのプロモーターとネオマイシン耐性遺伝子を含む発現ベクターpMKITNeoにつなぎ、発現ベクターを作製した。
【0138】
全長の発現ベクター作製にあってはpBS/Eco−Serrate−1を制限酵素EcoRIとBglIIにて消化し、切り出されてくる約900bpの遺伝子断片をpUCSR−1を同様な制限酵素で消化し、ライゲーションしてヒトセレイト−1全長遺伝子をコードするベクターpUC/Eco−Serrate−1を作製した。
【0139】
このpUC/Eco−Serrate−1をテンプレートとして用い、全長のカルボキシル末端部分、すなわち配列表の配列番号7の1187番目のValの後に終止コドン、更に制限酵素MluIサイトを付加するため同様にMutagenesis Kitを用い、配列表の配列番号34及び配列番号35の遺伝子配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして、C末端に終止コドン、さらにMluIサイトの付加を行った。次に、このベクターをEcoRIおよびMluIにて消化し、切り出されてくる約3700bpの遺伝子断片を同様な制限酵素処理したpMKITNeoにつないで発現ベクターを構築した。このベクターをpHSFと命名した。
【0140】
10)全長型ヒトセレイト-1のFLAGキメラ蛋白質(HSFLAG)発現ベクター
配列表の配列番号7のアミノ酸配列の1番から1187番のポリペプチドのC末端にFLAG配列をコードするcDNAを付加したキメラ蛋白質をコードするcDNAを、SRαのプロモーターとネオマイシン耐性遺伝子を含む発現ベクターpMKITNeoにつなぎ、発現ベクターを作製した。
【0141】
pUC/Eco−Serrate−1をテンプレートとして、カルボキシル末端部分にFLAG配列を付加し、ついで終止コドン、更に制限酵素MluIサイトを付加するため同様に配列表の配列番号36及び配列番号35の遺伝子配列を有するをオリゴヌクレオチドをプライマーとして、C末端にFLAG配列をコードする遺伝子並びに終止コドン、さらにMluIサイトの付加を行った。次に、このベクターをEcoRIおよびMluIにて消化し、切り出されてくる約3700bpの遺伝子断片を同様な制限酵素処理したpMKITNeoにつないで発現ベクターを構築した。このベクターをpHSFLAGと命名した。
【0142】
実施例7 各種発現ベクターの細胞への遺伝子導入と発現
実施例5及び6で作製した発現ベクターはCOS−7細胞(日本国理化学研究所、細胞開発銀行から入手可能、RCB0539)に遺伝子導入した。
【0143】
遺伝子導入前の細胞の培養はD−MEM(ダルベッコ改変MEM培地、米国GIBCO−BRL社製)10%FCSにて培養した。遺伝子導入の前日に細胞の培地を交換し、細胞数を5×105cells/mlにして一晩培養した。遺伝子導入の当日、遠心分離にて細胞を沈澱させ、PBS(−)にて2回遠心洗浄後、1mM MgCl2、PBS(−)に1×107cells/mlとなるようにして細胞を調製した。遺伝子導入は米国Bio−Rad社製遺伝子導入装置ジーンパルサーを用いたエレクトロポレーション法で行った。上記の細胞懸濁液を500μlエレクトロポレーション専用セル(0.4cm)に取り、発現ベクターを20μg加え、氷中で5分間放置した。その後、3μF,450Vの条件で2回電圧をかけ、その2回の間は1分間室温で放置した。その後、氷中で5分間放置後、上記の培地10mlをあらかじめ分注した直径10cm細胞培養用ディシュに細胞を播種し、37℃、5%炭酸ガスインキュベーターで培養した。
【0144】
その翌日、培養上清を除去し、ディッシュに付着した細胞をPBS(−)10mlで2回洗浄し、発現ベクターpHDEX、pHDEXFLAG、pHDEXIg、pHSEX、pHSEXFLAG、及びpHSEXIgの場合は無血清のD−MEM10mlを加えてさらに7日間培養し、培養上清を回収し、セントリコン30(米国アミコン社製)にてバッファーをPBS(−)に置換すると同時に10倍濃縮を行い、細胞培養上清を得た。
【0145】
また、pHDF、pHDFLAG、pHSF、及びpHSFLAGの場合は、10%FCSを含むD−MEMに培地を交換し、さらに3日間培養し、細胞破砕物を調製した。すなわち、2×106個の細胞をセルリシスバッファー(50mM Hepes(pH7.5)、1% TritonX100、10% グリセロール、4mM EDTA、50μg/ml Aprotinin、100μM Leupeptin、25μM PepstatinA、1mM PMSF)200μlに懸濁し、氷中に20分間放置し、その後14000rpmで20分間遠心し上清を取り細胞破砕物を得た。
【0146】
こうして得られたサンプルを用いてウェスタンブロッティング法にて蛋白の発現を確認した。
【0147】
すなわち、濃縮した培養上清もしくは細胞破砕物を日本国ACIジャパン社製のSDS−PAGE用電気泳動槽及びSDS−PAGE用ポリアクリルアミドゲル(グラジエントゲル5〜15%)を用い、添付の取扱い説明書に従ってSDS−PAGEを行った。サンプルは2−メルカプトエタノール(2−ME)を加えて5分間の沸騰水浴加熱処理により還元処理を行ったものと、この処理を行わない非還元状態のものを用い、マーカーとしてはAmersham社製レインボーマーカー(高分子量用)を用い、サンプルバッファー、泳動バッファーについては添付の取扱い説明書に従って作製した。SDS−PAGE終了後、アクリルアミドゲルをPVDFメンブランフィルター(米国BioRad社製)に同社製ミニトランスブロットセルにより転写した。
【0148】
このように作製されたフィルターをブロックエース(日本国大日本製薬社製)、TBS−T(20mM Tris、137mM NaCl(pH7.6)、0.1%Tween 20)に4℃一晩振盪してブロッキングした。ECLウェスタンブロッティング検出システム(米国Amersham社)に添付の説明書に従い、目的の蛋白質がヒトデルタ−1由来の場合には1次抗体として実施例9に記載した抗ヒトデルタ−1マウスモノクローナル抗体を用い、ヒトセレイト−1由来の場合には1次抗体として実施例9に記載した抗ヒトセレイト−1マウスモノクローナル抗体を用い、FLAGキメラの場合は一次抗体としてマウスモノクローナル抗体Anti−FLAG M2(米国コダック社製)を用い、二次抗体としてペルオキシダーゼ標識抗マウスIg羊抗体(米国Amersham社製)を反応させた。また、IgGキメラの場合は、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgヒツジ抗体(米国Amersham社製)を反応させた。
【0149】
抗体の反応時間は各々室温で一時間反応させ、各反応間はTBS−Tにて10分間室温で振盪洗浄する操作を3回ずつ繰り返した。最後の洗浄後、フィルターをECLウエスタンブロッティング検出システム(米国Amersham社製)の反応液に5分間浸し、ポリ塩化ビニリデンラップに包んでX線フィルムに感光させた。
【0150】
その結果、還元処理を行ったサンプルはpHDEXとpHDEXFLAGの導入によって得られた蛋白質は約65kダルトン、pHDEXIgの導入によって得られた蛋白質は約95kダルトン、pHDF、pHDFLAGの導入によって得られた蛋白質は約85kダルトンのバンドを検出した。一方、非還元状態のサンプルはpHDEXIgを導入した場合、120kから200kダルトンの若干スメア状のバンドで主に約180kダルトンのバンドを検出し、還元条件のほぼ2倍の分子量であることから、2量体が形成されていることを確認した。
【0151】
また同様に、還元処理を行ったサンプルはpHSEXとpHSEXFLAGの導入によって得られた蛋白質は約140kダルトン、pHSEXIgの導入によって得られた蛋白質は約170kダルトン、pHSF、pHSFLAGの導入によって得られた蛋白質は約150kダルトンのバンドを検出した。一方、非還元状態のサンプルはpHSEXIgを導入した場合、250kから400kダルトンの若干スメア状のバンドで主に約300kダルトンのバンドを検出し、還元条件のほぼ2倍の分子量であることから、2量体が形成されていることを確認した。
【0152】
これらの実験では、コントロールとしてpMKITNeoベクターを導入したCOS−7細胞の細胞破砕物および培養上清を同様に試験したが、抗ヒトデルタ−1マウスモノクローナル抗体、抗ヒトセレイト−1マウスモノクローナル抗体、抗FLAG抗体、抗ヒトIg抗体に反応するバンドは検出されなかった。
【0153】
以上の結果から、これら10種の発現ベクターはいずれも目的のポリペプチドを生産することができた。
【0154】
実施例8 遺伝子導入細胞による分泌型ヒトデルタ−1、ヒトセレイト−1蛋白質の精製
実施例7の方法で発現が検出されたHDEXFLAG、HDEXIgおよびHSEXFLAG、HSEXIgを含むCOS−7細胞培養上清を大量調製し、アフィニティーカラムによって各々のキメラ蛋白質を精製した。
【0155】
HDEXFLAG、HSEXFLAGに関しては、実施例7に記載した方法によって取得した2リットルの培養上清をAnti−FLAG M2 Affinity Gel(米国コダック社製)を充填したカラムに通して、キメラ蛋白質が有するFLAG配列とゲルのAnti−FLAG抗体のアフィニティーによりキメラ蛋白質をカラムに吸着させた。カラムは内径10mmのディスポカラム(米国BioRad社製)を用い、上記ゲルを5ml充填した。吸着は培地ボトル→カラム→ペリスターポンプ→培地ボトルの環流式回路を組み立て、流速1ml/分で72時間循環させた。その後、カラムをPBS(−)35mlで洗浄し、0.5MTris−グリシン(pH3.0)50mlで溶出した。あらかじめ小チューブ(米国ファルコン社製2063)に0.5MTris−HCl(pH9.5)を200μl分注しておき、溶出液は2mlずつ25画分をそのチューブに分取し、各々の画分を中和した。
【0156】
上記の方法で精製された分泌型FLAGキメラ蛋白質の溶出画分の各10μlは実施例7に記載の還元処理を行い、5−15%濃度勾配ポリアクリルアミドゲルによるSDS−PAGE電気泳動を行い、電気泳動終了後、日本国和光純薬社製ワコー銀染キットIIを用いて、添付の説明書に従って銀染色を行った。結果として、HSFLAGは第4番から第8番の溶出画分にバンドが検出され、この分子量は実施例6で得られた抗FLAG抗体によるウェスタンブロッティングの結果とHDEXFLAG、HSEXFLAGとも一致した。この結果からHDEXFLAG、HSEXFLAGの純品が精製された。
【0157】
IgG1Fcキメラ蛋白質、すなわちHDEXIgとHSEXIgに関しては、FLAGキメラ蛋白質と同様の操作で培養上清の2リットルをスウェーデン国ファルマシア社製Protein Aセファロースカラムに吸着させ、溶出画分を分取した。
【0158】
FLAGキメラ蛋白質と同様に溶出液の一部を用いて、還元条件でのSDS−PAGE電気泳動および銀染色により溶出画分の決定、サイズの確認、純度検定を行った。結果として、溶出画分の第4番から第15番にバンドが検出され、サイズは抗ヒトIg抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果とHDEXIg、HSEXIgとも一致した。この結果からHDEXIg、HSEXIgの純品が精製された。
【0159】
実施例9 ヒトデルタ−1、ヒトセレイト−1を認識する抗体作成
実施例8に記載の方法で精製されたHDEXFLAG、HSEXFLAGを各々免疫原としてウサギに免疫して、抗体価の測定後、全血の採血を行い、血清を採取して、米国BioRad社製のエコノパック血清IgG精製キットを用いて、添付の取扱い説明書に従って、抗ヒトデルター1ウサギポリクローナル抗体、抗ヒトセレイトー1ウサギポリクローナル抗体を各々精製して作製した。
【0160】
また、実施例8に記載した方法で精製されたHDEXFLAG、HSEXFLAGを各々免疫原として、成書の方法に従いマウスモノクローナル抗体を作成した。すなわち、上記のように精製されたHDEXFLAG、HSEXFLAGを各々別々にBalb/cマウス(日本国日本エスエルシー社製)に1匹あたり10μgを皮下・皮内に免疫した。2回の免疫後、眼底採血を行い血清中の抗体価の上昇を認めた後、3回目の免疫を行ってからマウスの脾臓細胞を取り出し、マウスミエローマ細胞株P3X63Ag8(ATCC TIB9)とポリエチレングリコール法にて細胞融合を行った。HAT培地(日本国免疫生物研究所製)にてハイブリドーマを選択し、酵素抗体法にてヒトデルター1もしくはヒトセレイト−1の細胞外部分を認識する抗体を培地中に産生しているハイブリドーマ株を分離し、ヒトデルタ−1もしくはヒトセレイト−1を特異的に認識するマウスモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ産生株が樹立された。
【0161】
このようにして樹立されたハイブリドーマの培養上清をスウェーデン国ファルマシア社製Mab TrapG II を用いて、添付の取扱い説明書に従って、抗ヒトデルタ−1モノクローナル抗体、抗ヒトセレイト−1モノクローナル抗体を精製し作製した。
【0162】
これらモノクローナル抗体を用いてアフィニティーカラムを作製した。アフィニティーカラムの作製はスウェーデン国ファルマシア社製CNBr活性化Sepharose4Bにて添付の取扱い説明書に従い行った。このゲルの2mlを2cm2×1cmのサイズのカラムを作製した。
【0163】
抗ヒトデルタ−1モノクローナル抗体を結合させたカラムに対してはpHDEXを遺伝子導入したCOS−7細胞培養上清濃縮液を、抗ヒトセレイト−1モノクローナル抗体を結合させたカラムに対してはpHSEXを遺伝子導入したCOS−7細胞培養上清濃縮液を各々20ml/hrの速度で流し、その後同一速度でPBS(−)を15ml流して洗浄し、最終的に0.1M酢酸ナトリウム、0.5MNaCl(PH4.0)にて溶出した。この溶離液を1mlづつ分取し、各画分に1MTris−HCl(pH9.5)を200μlづつ加えて、中和した。
【0164】
さらに実施例8に記載の方法に従って、各々の精製蛋白質を還元条件下でSDS−PAGEを行い、銀染色、及びウエスタンブロッティングを行ない、分子量の推定を行った。この結果、pHDEXを遺伝子導入したCOS−7細胞培養上清濃縮液からは約65kダルトンのHDEXが、pHSEXを遺伝子導入したCOS−7細胞培養上清濃縮液からは約140kダルトンのHDSEXが精製されていることが確認され、これらアフィニティーカラムでヒトデルタ−1、ヒトセレイト−1が精製可能であることが明らかとなった。
【0165】
実施例10 HDEXIg、HSEXIgの血液未分化細胞のコロニー形成に対する作用
HDEXIg、HSEXIgの血液未分化細胞に対する生理作用を観察するため、CD34陽性細胞をHDEXIgもしくはHSEXIgおよび既存のサイトカイン存在下で無血清半固形培地で培養し、コロニー形成細胞の増減を観察した。
【0166】
ヒト臍帯血もしくはヒト正常骨髄血のCD34陽性細胞は臍帯血もしくは成人正常骨髄血をシリカ液(日本国免疫生物研究所製)により添付の説明書にしたがって処理し、その後フィコールパック(スエーデン国ファルマシア社製)による比重遠心分離法により低密度細胞画分(<1.077g/ml)を分画した単核球より分離した。
【0167】
CD34陽性細胞の分離は米国AIS社製マイクロセレクターステムもしくはノルウェー国Dynal社製DynabeadsM−450 CD34とDETACHaBEADS CD34を用い、添付の取扱説明書に従って分離した。分離後、その純度はFITC標識抗CD34抗体HPCA2(米国ベクトンデッキンソン社製)で染色し、同社のフローサイトメーター(FACSCalibur)にて検定し、85%以上の純度を有していることを確認して用いた。
【0168】
このようにして分離したCD34陽性細胞400個が下記の培地1ml中に存在するように均一に懸濁し、35mmディッシュ(米国ファルコン社製)にまき、37℃、5%炭酸ガス、5%酸素ガス、90%窒素ガス、100%湿度雰囲気下の炭酸ガスインキュベーターで2週間の培養後、形成された血球コロニーを倒立顕微鏡下で計測した。
【0169】
培養に用いた培地はα−medium(米国GIBCO−BRL製)に2%Deionized Bovine Serum Albumin(BSA、米国Sigma社製)、10μg/ml ヒトインスリン(米国Sigma社製)、200μg/ml トランスフェリン(米国Sigma社製)、10-5M 2−メルカプトエタノール(日本国ナカライテスク社製)、160μg/ml ソイビーンレクチン(米国Sigma社製)、96μg/ml コレステロール(米国Sigma社製)、0.9% メチルセルロース(日本国和光純薬社製)で行った。
【0170】
上記の培地に下記の3種の条件のサイトカイン存在下に対し、最終的に1μg/mlの濃度となるようにヒトデルタ−1細胞外Igキメラ蛋白質(HDEXIg)もしくはヒトセレイト−1細胞外Igキメラ蛋白質(HSEXIg)を加え、比較区にはIgGFc部分の影響を見るため、ヒトIgGl(米国Athens Research and Technology社製)を同濃度加えた。
【0171】
サイトカイン条件下記の通りである。
条件1:100ng/ml ヒトSCF(米国Intergen社製)、10ng/ml ヒトIL−3(米国Intergen社製)、100ng/mlヒトIL−6(米国Intergen社製)。
条件2:100ng/ml ヒトSCF、10ng/ml ヒトIL−3、4ng/ml ヒトトロンボポエチン(米国Pepro Tech社製)。
条件3:100ng/ml ヒトSCF、10ng/ml ヒトIL−3、100ng/ml ヒトIL−6、2U/ml Epo(日本国中外製薬製)、10ng/ml ヒトG−CSF(日本国中外製薬製)。
【0172】
結果を第2図に示す。第2図のAはヒトデルタ−1細胞外Igキメラ蛋白質(HDEXIg)の場合であり、Bはヒトセレイト−1細胞外Igキメラ蛋白質(HSEXIg)の場合である。AとBは各々異なった由来のヒト臍帯血CD34陽性細胞を用いた。縦軸はコロニー数を示し、白カラムは比較区、黒カラムは各々HDEXIgもしくはHSEXIgを含むデータである。
【0173】
HDEXIgとHSEXIgはいずれもコロニー形成を抑制する活性を有していた。これら結果のコロニー形成細胞の種類には違いが認められなかった。したがって、本発明の分子は血液未分化細胞のコロニー形成細胞に対して、コロニー形成抑制作用を有する。すなわち、分化抑制作用を有することが明らかになった。この活性に関してSCF存在下と非存在下の比較を行ったところ、この抑制活性はSCF存在下にのみ観察される傾向が見られた。
【0174】
また、更にこの活性に関して濃度依存性の検討を行った。また、2量体であるHSEXIgと単量体であるHSEXFLAGの比較も行った。結果を第3図に示す。この場合の濃度はモル濃度として示すが、2量体と単量体との比較を行うため、2量体のHSEXIgは正確なモル濃度の2倍濃度として示し、ヒトセレイト−1部分のモル濃度が同じとなるようにプロットした。縦軸はコロニー形成数で、横軸はモル濃度である。ノッチリガンドを含まない場合のコロニー形成数は0濃度の縦軸上にプロットした。また比較として行った1μg/mlのヒトIgG1のコロニー形成数はおよそ100個であった。
【0175】
この結果からHSEXIg、HSEXFLAGとも濃度依存的にコロニー形成を抑制したが、その活性は明らかに2量体であるHSEXIgの方が強かった。また、単量体のHSEXFLAGは低濃度領域で逆にコロニー形成を促進する作用が観察された。
【0176】
実施例11 HDEXIg、HSEXIgのコロニー形成血液未分化細胞の長期液体培養に対する作用
HDEXIg、HSEXIgの血液未分化細胞に対する生理作用を観察するため、臍帯血CD34陽性細胞をHDEXIgもしくはHSEXIgおよび既存のサイトカイン存在下で無血清培地で長期液体培養し、コロニー形成細胞の増減を観察した。
【0177】
実施例10に記載した方法で分離した臍帯血単核球CD34陽性細胞を24well細胞培養プレート(米国ファルコン社製)に1000cells/wellで液体培養した。培養は37℃、5%炭酸ガス、100%湿度雰囲気下の炭酸ガスインキュベーターで行った。液体培養の培地は無血清のイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM、米国GIBCO−BRL社製)に2% BSA、10μg/mlヒトインスリン、200μg/mlトランスフェリン、40μg/ml低密度リポプロテイン(米国GIBCO−BRL社)、10-5M2−メルカプトエタノール、50ng/mlヒトSCF、5ng/mlヒトIL−3、10ng/mlヒトIL−6、5ng/mlヒトGM−CSF(米国Intergen社製)、3U/ml Epoを加えたものを用いた。条件によって500ng HSIg、もしくは50ng/ml MIP−1α(米国Intergen社)を加えた。この培地を1wellあたり1mlを加え、週に3回の半量培地交換を行い、培養2、4、6、8週後にセルスクレイパーを用いてwellからすべての細胞を1.5mlマイクロチューブに回収し、遠心分離によって細胞を沈降させ、新鮮なIMDM 1mlに再懸濁し、細胞数を血球計算盤を用いてカウントし、5000cells/mlで血球コロニー形成アッセイを行った。
【0178】
血球コロニー形成アッセイはイスコフメチルセルロースコンプリートレディミックス(カナダ国Stem Cell Technologies社製)を使用し、35mmディッシュ(米国ファルコン社)2枚に各1mlをシリンジを用いて植え付け、炭酸ガスインキュベーターで2週間培養した。血球コロニーは倒立顕微鏡下で顆粒球単球コロニー(CFU−GM)および赤芽球コロニー(BFU−E)をカウントし、総数をCFU−Cとした。ここで得られたCFU−C数と血球計算盤で求めた細胞数を掛け合わせ、液体培養で植え付けた1000cellsあたりのCFU−C数を求めた。この結果をHDEXIgの場合を第1表に、HSEXIgの場合を第2表に示す。実験はn=3で行い、値は(平均値±SD)で表した。なお表中のNDはコロニーが検出できなかったことを示す。
【0179】
【表1】

【0180】
【表2】

【0181】
結果として未分化な状態を維持するサイトカインがない条件、およびMIP−1α存在下での条件ではCFU−Cは6週までしか観察されなかったが、HDEXIgもしくはHSEXIg存在下では8週にも観察された。MIP−1αとHDEXIg及びHSEXIgの比較では、MIP−1αは培養2週でのコロニー形成を強く抑制すること観察されたが、HDEXIg、HSEXIgでの抑制は観察されなかった。また培養6週、8週でのCFU−C数の維持はHDEXIg、HSEXIgが優れていることが観察された。
【0182】
実施例12 HDEXIg、HSEXIgの血液未分化細胞LTC−ICの液体培養に対する作用
HDEXIg、HSEXIgの血液未分化細胞に対する生理作用を観察するため、臍帯血CD34陽性細胞をHDEXIgもしくはHSEXIgおよび既存のサイトカイン存在下で無血清培地で2週間液体培養し、現在最も未分化な血液細胞群と考えられるLTC−ICの増減を観察した。
【0183】
実施例10に記載した方法で分離した臍帯血単核球CD34陽性細胞を100000から20000個を下記の培地で2週間培養し、培養前区、HDEXIg存在区、HSEXIg存在区と比較区の4つの実験区に存在するLTC−IC数の違いを調べた。
【0184】
液体培養に用いた培地はα−mediumに2%BSA、10μg/mlヒトインスリン、200μg/mlトランスフェリン、40μg/ml低密度リポプロテイン、10-5M2−メルカプトエタノールを加え、更に100ng/mlヒトSCF、10ng/mlヒトIL−3、100ng/mlヒトIL−6加えた培地を用い、これにHDEXIgもしくはHSEXIgを1μg/ml加え、比較区には前述のヒトIgG1を同濃度加えた。
【0185】
LTC−ICに使用するヒト骨髄ストローマ細胞層の作製、限界希釈法によるLTC−ICの頻度の定量はSutherlandらの方法(Blood、74、1563−、1989;Proc.Natl.Acad.Sci.USA、87、3584−、1990)に従って行った。
【0186】
すなわち、実施例10で得られた分離前のシリカ液処理しない骨髄単核球を1〜2X107細胞を1μMハイドロコルチゾン(日本国日本アップジョン社製)添加したLTC培地(MyeloCult、カナダ国Stem Cell Technologies社製)5mlでT−25フラスコ(米国ファルコン社製)にて、37℃、5%炭酸ガス、100%湿度雰囲気下の炭酸ガスインキュベーター中で培養し、付着細胞層であるストローマ細胞形成が底面積の80%以上の状態になるまで培養し、その後トリプシンEDTA液(日本国コスモバイオ社製)で処理して剥がした。96穴プレート(米国ベクトンデッキンソン社製)に1ウェルあたり約2×104個蒔き、再度培養を同培地にて培養を続け、ストローマ細胞の再構成を行った後、250Kilovolt PeakのX線を15Gy照射して、ストローマ細胞の増殖とストローマ細胞中の血液細胞を除去した物をストローマ細胞層として実験に用いた。
【0187】
上記の方法で培養した各実験区の細胞をLTC−ICアッセイに共するにあたって、1ウェルあたり培養前のCD34陽性細胞細胞は25〜400個、培養後の各実験区の細胞は625〜20000個の範囲で6段階希釈し、上記のストローマ細胞形成した96穴プレートにて、1希釈段階について16ウェルで共培養行った。培養の培地はストローマ形成で用いた培地、条件は37℃、5%炭酸ガス、100%湿度雰囲気下の炭酸ガスインキュベーター中で5週間にわたって培養を行った。培養後の細胞は1ウェルづつ浮遊細胞、付着細胞とも回収し、α−mediumに0.9%メチルセルロース、30%牛胎児血清(FCS、日本国ICNバイオメディカルジャパン)、1%BSA、10-5M2−メルカブトエタノール、100ng/mlヒトSCF、10ng/mlヒトIL−3、100ng/mlヒトIL−6、2U/ml Epo、10ng/mlヒトG−CSF添加した半固形培地に移し、2週間の培養後、実施例10、11同様のコロニー形成細胞の検出を行い、コロニー形成細胞が存在したウェル数を検出した。このデータをもとにTaswellらの方法(J.Immunol.,126、1614−、1981)に従ってLTC−ICの頻度の算出を行った。
【0188】
算出に用いたグラフを第4図に示す。第4図は液体培養後の算出のグラフで縦軸にコロニーが現れなかったwellの割合を対数で示し、横軸はwellあたりの細胞数を示す。各実験区ごとにコロニーが現れなかったwell数と細胞数をプロットし、最小自乗法にて回帰直線を求め、コロニーが現れなかったwell数が0.37(自然対数の底の逆数)である細胞数を算出し、その細胞数の逆数がLTC−ICの頻度となる。さらに、はじめの細胞数とLTC−ICの頻度からLTC−ICの絶対数を算出した。
【0189】
その結果、液体培養前は25,000細胞中に243個のLTC−ICが存在し、比較区では2週間の培養で細胞数が1,510,000個に増えたが、LTC−ICは49個に減少した。しかしながら、ヒトデルタ−1すなわちHDEXIgもしくはヒトセレイト−1すなわちHSEXIgを含む培地で培養した場合にはそれらの細胞数が各々1,310,000個、1,140,000個とほぼ同様な数を増えていたが、LTC−ICはそれぞれ115個、53個とその減少幅を小さくした。この結果から、本発明のポリペプチド、特にヒトデルタ−1は液体培養におけるLTC−ICの維持作用を有することが明らかとなった。
【0190】
実施例13 HDEXIg、HSEXIgの血液細胞株に対する結合
ノッチリガンド分子はノッチリセプターに特異的に結合する性質を用いて、ノッチリガンド分子の各種血液細胞株に対する結合を調べた。
【0191】
細胞株は血液細胞株としてJurkat(ATCC TIB−152)、Namalwa(ATCC CRL−1432)、HL−60(ATCC CRL−1964)、K562(ATCC CCL−243)、THP−1(ATCCTIB−202)、UT−7(Komatsu et al.,Cancer Res.,51,341−348、1991)、Mo7e(Avanzi et al.,Br.J.Haematol.、69、359−、1988)、CMK(Sato et al.,Exp.Hematol.,15、495−502、1987)を調べた。これらの細胞株の培養培地は各々の引用文献、もしくはATCC CELL LINES & HYBRIDOMAS 8th ed(1994)に記載の培地で行った。
【0192】
各種細胞を1×106個を2%FCS、10mM Hepesを含むハンクス液で懸濁し、HDEXIgもしくはHSEXIgを1μg/ml添加し、4℃一晩放置した。同様なハンクス液で2回洗浄後、PE標識ヤギ抗ヒトIgGモノクローナル抗体を1μg/ml添加し、30分間氷中で放置し、ハンクス液で2回洗浄後、最後に1mlのハンクス液に懸濁して解析に供した。測定はフローサイトメーター(FACSCalibur)で行った。また、コントロールとしてHDEXIg、HSEXIgのかわりに該ヒトIgG1で染色したものを用いた。
【0193】
それらの結果を第5図に示す。縦軸は細胞数で横軸は蛍光強度である。HDEXIg、HSEXIgで染色しものは実線で、コントロールのヒトIgG1で染色したものは破線で示し、左のカラムはHDEXIg、右のカラムはHSEXIgを各々示す。これらの結果からJurkatは反応、Namalwaは未反応、HL−60は未反応、K562は未反応、THP−1は未反応、UT−7は反応、Mo7eは未反応、CMKは反応した。また、これらの結果は、HDEXIg、HSEXIgとも同一の結果が得られたことから、同一の分子を認識することが明らかであり、またこれらの細胞を分別することができることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【図1】第1図は本発明分子を含む各種生物で同定されたノッチリガンド分子のDSLドメインのアラインメントである。
【図2】第2図は本発明分子の血液未分化細胞のコロニー形成抑制を示すものである。
【図3】第3図は本発明分子の血液未分化細胞のコロニー形成抑制作用の濃度依存性を示すものである。
【図4】第4図は本発明分子を用いた液体培養後のLTC−ICの算出を行った際のグラフを示すものである。
【図5】第5図は本発明分子によって染色された細胞を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド。
【請求項2】
配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列を含有する請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列を含有する請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項4】
配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を含有する請求項1乃至3に記載のポリペプチド。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載のポリペプチドを含有する細胞培養培地。
【請求項6】
細胞が血液未分化細胞である請求項5に記載の細胞培養培地。
【請求項7】
請求項1乃至3に記載のポリペプチドをコードするDNA。
【請求項8】
配列表の配列番号8に記載の242番から841番のDNA配列を含有する請求項7に記載のDNA。
【請求項9】
配列表の配列番号8に記載の242番から1801番のDNA配列を含有する請求項7に記載のDNA。
【請求項10】
配列表の配列番号8に記載の242番から2347番のDNA配列を含有する請求項7に記載のDNA。
【請求項11】
請求項7乃至10に記載のDNA群から選ばれるDNAと、宿主細胞中で発現可能なベクターDNAとを連結してなる組み換えDNA。
【請求項12】
請求項11に記載した組み換えDNAによって形質転換された細胞。
【請求項13】
請求項12に記載の細胞を培養し、該培養物より生産された化合物を採取することを特徴とする請求項1乃至4に記載のポリペプチドの製造方法。
【請求項14】
配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドを特異的に認識する抗体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−29099(P2007−29099A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240958(P2006−240958)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【分割の表示】特願平9−519584の分割
【原出願日】平成8年11月15日(1996.11.15)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】