説明

分娩兆候検知方法および分娩兆候検知システム

【課題】外気温にかかわらず破水を安定して的確に検知するのに適した分娩兆候検知システムを提供する。
【解決手段】姿勢に応じて作用する方向が変化する重力の三軸の分力に相当する信号を出力する加速度センサ、該センサの出力信号を送信する通信モジュール、それらを制御する制御モジュールおよび小型電源を一体化したセンサモジュール1を、姿勢保持手段とともに、動物の分娩の際の破水排出経路内に留置する。センサモジュール1から送信された加速度センサの出力信号を無線送受信機3により受信し、計算機4において、前記受信信号波形が時間変動する波形であるときは、該センサモジュール1が動物の破水排出経路内に留置され分娩兆候は無いと判定し、前記受信信号波形が時間変動しない波形であるときは、センサモジュール1が体外へ排出され分娩兆候が有ると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜の分娩兆候を捉えるのに適した分娩兆候検知方法及び分娩兆候検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
牛などの家畜の分娩においては、必ずしも自然分娩ではスムーズにいかないため、人間の介助を必要とすることも少なくない。適切なタイミングで介助措置が施されなかったために死産になったり、あるいは母体に大きなダメージを与えるケースも多く、分娩事故の未然の防止のため、分娩に立ち会ったり、あるいは介助のためにかけつけられるよう待機することが望ましい。従って、分娩時刻を予め知るということは酪農家にとって重要である。
【0003】
分娩日をある程度予測できる方法として、体温(直腸温度)の変化に基づく判定方法が、知られている。この方法は、分娩が近づくと0.5〜1℃程度の体温低下が起こることを利用したもので、温度が低下してから半日から24時間程度に分娩が起こると判断するものである。しかし、この方法は個体差が大きく、牛によっては体温低下がほとんど認められないことも少なくない。また、分娩時間までは予測できないため、分娩介助のタイミング等の判断は経験に委ねられるところが大きいのが現状で、必ずしも酪農家の労力を軽減するには至っていない。 最近は、遠隔監視により自宅にいながら状況を確認するようなことも容易になりつつあるが、観察のための時間を拘束されることが大きな負担であることには変わりは無い。このようなことから、結果として分娩介助のタイミングを逸し、難産による分娩事故を防げないことも多かった。
【0004】
この問題に対峙する方法として、従来、例えば特許文献1に記載の方法が提案されている。
【特許文献1】特許第3523905号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法は、膣内と体外(外気温下)での温度差から、膣内に留置した温度センサが破水の際に体外に排出され、体温と外気温の差が生じることを検知し、これをもって分娩兆候を検知するものである。破水は、通常、分娩の1〜3時間前に起こるとされており、破水のタイミングが分かれば、分娩時間を狭い範囲で推定できることから、前述のような酪農家の負担は大幅に軽減されることが期待される。体内に留置する装置には、電池で駆動する小型の無線モジュールが具備されており、一定時間毎に別途外部に設置される受信機にデータを送信、さらに酪農家に通知する手段と組み合わせることで、遠隔で破水の発生を検知することができる。
【0006】
しかしながら、特許文献1をはじめとする従来技術には以下の課題があった。特許文献1の手法は温度低下をトリガとして体外排出を判断しているが、夏季の温度が高い状況では、体内と外気温の差が小さいために温度の変化が小さくなる。さらに、装置を体内に長時間留置しておけば、装置自体が体温と同程度の熱を持つことになるため、さらに温度変化は小さくなってしまう。そのため、そのような状況下では正確な体外排出の検知が不十分であることも考えられる。
【0007】
本発明は、前述の先行事例では外気温の影響などによる課題があることに鑑み、外気温にかかわらず破水を安定して的確に検知するのに適した分娩兆候検知方法および分娩兆候検知システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における分娩兆候検知方法および分娩兆候検知システムは、破水による膣内に留置した装置の体外への排出によって、当該装置の姿勢・動きが変化することに着目し、破水の発生を判断することを特徴とする。具体的には、膣内にあるときには姿勢の変化や動きが絶えず発生しているのに対して、地面に落下後は静止するために姿勢の変化や動きがなくなることに着目して判断する。さらに膣内にあるときと体外に排出され地面に落下した後では、通常姿勢が大幅に(不連続的に)変わることに着目し、特に地面に落下した後に特定の姿勢をとるように機構的な特徴を持たせることで、より精度の高い破水の発生の検知を可能とする。
【0009】
すなわち請求項1に記載の分娩兆候検知方法は、動物の分娩の際の破水排出経路内に留置した検知手段が、動物の動態もしくは姿勢変化を検知する検知ステップと、判定手段が、前記検知ステップにより検知された信号に基づいて、該検知信号が時間変動する波形から時間変動しない波形へ推移したことをもって分娩兆候有りと判定する判定ステップとを備えたことを特徴としている。
【0010】
また請求項4に記載の分娩兆候検知システムは、動物の分娩の際の破水排出経路内に留置され、動物の動態もしくは姿勢変化を検知する検知手段と、前記検知手段の検知信号に基づいて、該検知信号が時間変動する波形から時間変動しない波形へ推移したことをもって分娩兆候有りと判定する判定手段とを備えたことを特徴としている。
【0011】
具体的には、本発明の検知手段は、動物の膣内に留置される装置であって、当該装置の姿勢動きを検出するセンサと、体外の無線機と通信できる機能を具備しており、当該装置が分娩に先立ち体外に排出されることを、センサによって計測された装置の姿勢・動きより検知することを特徴としている。
【0012】
上記構成によれば、分娩前の動物の生理現象である破水の発生を判定することができ、これによって分娩兆候を安定して的確に検知することができる。
【0013】
また、請求項2に記載の分娩兆候検知方法は、請求項1において、前記検知手段は、姿勢に応じて作用する方向が変化する重力の三軸の分力に相当する信号を出力する加速度センサを有し、前記判定ステップは、前記加速度センサの出力信号波形が時間変動する波形であるときは、該加速度センサが動物の破水排出経路内に留置され分娩兆候は無いと判定し、前記加速度センサの出力信号波形が時間変動しない波形であるときは、該加速度センサが体外へ排出され分娩兆候が有ると判定することを特徴としている。
【0014】
また請求項5に記載の分娩兆候検知システムは、請求項4において、前記検知手段は、姿勢に応じて作用する方向が変化する重力の三軸の分力に相当する信号を出力する加速度センサと、前記加速度センサの出力信号を動物の体外へ送信する無線送受信手段と、前記加速度センサおよび無線送受信手段を制御する制御手段と、駆動電力供給用の小型電源とを一体化したモジュールを備え、前記判定手段は、前記動物の体外に設置され、前記モジュールの無線送受信手段から送信された前記加速度センサの出力信号を受信し、該受信された出力信号波形が時間変動する波形であるときは、前記モジュールが動物の破水排出経路内に留置され分娩兆候は無いと判定し、前記加速度センサの出力信号波形が時間変動しない波形であるときは、前記モジュールが体外へ排出され分娩兆候が有ると判定する判定装置を備えていることを特徴としている。
【0015】
具体的には、検知手段としての、膣内に留置する装置の姿勢・動きの計測結果を、連続的、あるいは間欠的に体外に別に設置した無線機を通して、当該無線機に接続された計算機に送信し、当該計算機において分娩兆候の判別を行うことを特徴としている。
【0016】
上記構成によれば、モジュールの姿勢に応じて加速度センサに作用する重力の分力が変化することを利用して、破水の発生を判定し、分娩兆候を安定して的確に検知することができる。
【0017】
また、請求項3に記載の分娩兆候検知方法は、請求項1において、前記検知ステップは、動物の動態もしくは姿勢変化を所定間隔で複数回測定するステップと、該測定したデータの平均値を検知信号として出力するステップと、該検知信号出力後に所定時間前記測定動作を休止するステップとを1検知周期として繰り返し実行することを特徴としている。
【0018】
また請求項6に記載の分娩兆候検知システムは、請求項5において、前記制御手段は、前記加速度センサの出力を所定間隔で複数回抽出し、該抽出したデータの平均値を検知信号として前記無線送受信手段により送信させ、該送信後に前記センサ出力の抽出および前記検知信号の送信動作を所定時間休止することを1周期として繰り返し実行することを特徴としている。
【0019】
上記構成によれば、データの平均値をとることによりノイズによる誤差の影響を軽減することができ、また休止時間により省電力化を図ることができる。
【0020】
また、請求項7に記載の分娩兆候検知システムは、請求項4において、前記検知手段および判定手段は同一のモジュール内に一体化されて、動物の分娩の際の破水排出経路内に留置され、前記モジュール内には、前記検知手段として構成され、姿勢に応じて作用する方向が変化する重力の三軸の分力に相当する信号を出力する加速度センサと、前記判定手段として構成され、前記加速度センサの出力信号波形が時間変動する波形であるときは、前記モジュールが動物の破水排出経路内に留置され分娩兆候は無いと判定し、前記加速度センサの出力信号波形が時間変動しない波形であるときは、前記モジュールが体外へ排出され分娩兆候が有ると判定する判定装置と、前記判定装置の判定結果を動物の体外へ送信する無線送受信手段と、前記加速度センサ、無線送受信手段および判定装置を制御する制御手段と、駆動電力供給用の小型電源とが収納されていることを特徴としている。
【0021】
具体的には、動物の膣内に留置されるモジュールには、加速度センサの計測値を記録するメモリと簡易な演算を行うCPU(計算機)が具備されており、該計算機内で分娩兆候を判別し、その結果を体外に別に設置した無線機に通知することを特徴としている。
【0022】
上記構成によれば、モジュール内で分娩兆候の有無を判別することができるため、迅速に分娩兆候を検知することができる。
【0023】
また、請求項8に記載の分娩兆候検知システムは、請求項7において、前記制御手段は、前記判定装置が分娩兆候有りと判定したときに、該分娩兆候有りの通知を前記無線送受信手段により即座に発信させ、前記判定装置が分娩兆候無しと判定した回数が所定回数以上となったときに、該分娩兆候無しの通知を前記無線送受信手段により発信させることを特徴としている。
【0024】
上記構成によれば、分娩兆候有りの通知については迅速に実行することができ、また分娩兆候無しの通知についてはその送信頻度を落とすことができ、これによって消費電力の大きい送信回数を減らして省電力化を図ることができる。
【0025】
また、請求項9に記載の分娩兆候検知システムは、請求項4ないし8のいずれか1項において、前記検知手段は、破水排出経路内で第1の姿勢にある検知手段が体外に排出されたときに、前記破水排出経路内ではとり得ない第2の姿勢に保持する姿勢保持手段を備え、前記判定手段は、前記検知手段の検知信号が、前記第1の姿勢における時間変動する波形から前記第2の姿勢における時間変動しない波形へ推移したことをもって分娩兆候有りと判定することを特徴としている。
【0026】
具体的には、動物の膣内に留置する装置には、体外に排出された場合に、体内ではとり得ない特定の姿勢をとる機構上の特徴、もしくは追加の構造物を持ち、姿勢・動きの変化が一定閾値内に収束することに加えて、体内に留置する装置が、体外排出時に前記機構上の特徴、もしくは構造物により決定付けられる姿勢と等しくなることを持って、分娩兆候を検知することを特徴としている。
【0027】
上記構成によれば、検知手段が第1の姿勢にあるか第2の姿勢にあるかを判定指標としているため、検知手段の体外への排出の検知、すなわち分娩兆候の検知精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0028】
(1)請求項1〜9に記載の発明によれば、分娩前の動物の生理現象である破水の発生を判定することができ、これによって分娩兆候を安定して的確に検知することができる。
【0029】
このため最終的な判別結果を既存の電話網(携帯電話を含む)やインターネットと接続し、酪農家に対して、携帯電話、電子メールその他一般化されている通信手段と組み合わせて、分娩の予兆となる破水の発生を通知することで、分娩時の立会いなどの事前の準備が行えるために分娩時の事故を減らせるとともに、酪農家の監視の労力を大幅に軽減することが可能となる。
(2)請求項2、5に記載の発明によれば、モジュールの姿勢に応じて加速度センサに作用する重力の分力が変化することを利用して、破水の発生を判定し、分娩兆候を安定して的確に検知することができる。
(3)請求項3、6に記載の発明によれば、データの平均値をとることによりノイズによる誤差の影響を軽減することができ、また休止時間により省電力化を図ることができる。
(4)請求項7に記載の発明によれば、モジュール内で分娩兆候の有無を判別することができるため、迅速に分娩兆候を検知することができる。
(5)請求項8に記載の発明によれば、分娩兆候有りの通知については迅速に実行することができ、また分娩兆候無しの通知についてはその送信頻度を落とすことができ、これによって消費電力の大きい送信回数を減らして省電力化を図ることができる。
(6)請求項9に記載の発明によれば、検知手段が第1の姿勢にあるか第2の姿勢にあるかを判定指標としているため、検知手段の体外への排出の検知、すなわち分娩兆候の検知精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
図1は動物の膣内に留置するセンサモジュール1(本発明のモジュール)の構成例を示している。センサモジュール1は、機能的には三つに大別され、センサモジュール1の姿勢・動きを検知するための三軸加速度センサ1a(本発明の加速度センサ;以下単に加速度センサと呼ぶ)と、体外との通信を行うための通信モジュール1b(本発明の無線送受信手段)と、加速度センサ1aの制御、計測値の計算処理、通信モジュール1bの送信間隔などの制御など、センサモジュール1の全体をコントロールする制御モジュール1c(本発明の制御手段)とから成り、さらに、加速度センサ1a,通信モジュール1bおよび制御モジュール1cに電源を供給する小型電源1d(例えば電池)を備えている。
【0032】
尚、制御モジュール1cは、後述する、体外に設置された計算機から送信される測定条件等の初期設定の内容を記録しておくメモリ(図示省略)を有している。
【0033】
加速度センサ1aの出力値には、(1)母体の動き、膣壁の伸縮に伴い生じるセンサモジュール1の動き、姿勢の変化により生じる加速度と、(2)重力加速度、の両方が効いてくるが、実際には母体の動きに伴う加速度変化より、重力の影響のほうが大きい。従って、三軸の出力値は、センサモジュール1の姿勢によって作用する方向が変化する重力の三軸の分力と近似的にみなすことができる。
【0034】
加速度センサは半導体技術を用いて、小型化、省電力化が進んでいる。最近は、外部のセンサの制御・計測インタフェースを備えた通信モジュール1b、制御モジュール1cをまとめた小型の制御機能付きで、電池駆動可能な通信モジュールも広く普及しており、小型実装が容易である。
【0035】
通信モジュール1cについては、特段、通信規格を特定する必要はないが、例えば429MHz帯の特定省電力無線を用いるものとする。当該規格の場合、アンテナまで膣内に置いても、数m程度(概ね10m未満)は体外の無線機と交信可能であるので、運用は容易である。組み込み型の無線装置によく用いられる315MHz帯の微弱無線を利用することも可能であるが、電波が家畜の体の水分で減衰されてしまうので、アンテナ部は膣孔を通して体外に出るような構成の工夫が必要である。
【0036】
図2は、陣痛による努責によって破水前にセンサモジュール1が容易に体外に排出されてしまうことを避けるために、塩化ビニール管をT字状又はY字状に成形した膣内留置具2にセンサモジュール1を取り付けた例を図示したものである。
【0037】
図2において、膣内留置具2は、センサモジュール1を固定支持する主支持片2aと、該主支持片2aの一端から主支持片2aの長軸に略直交して突設された2つの支持突片2b、2cとを備えている。
【0038】
支持突片2b,2cは弾性を有しており、膣内挿入時には図示矢印方向に撓んで挿入を容易とし、また膣内に留置された状態では膣壁に引っ掛かり、容易に体外に排出されることを防止する。
【0039】
このような膣内留置具2を利用してセンサモジュール1を膣内に留置することで、破水前に誤って排出されることを防ぐ一方、破水時には努責と胎水による非常に大きな力で膣内留置具2が体外に排出されるため、確実に検知することが可能になる。また図2の構成に限らず、センサモジュール1の筐体に膣内の留置に適した構造を具備させることで、膣内留置具2を用いないで膣内に安定的に留置することも、無論可能である。
【0040】
図3は分娩兆候検知を行うための全体のシステムイメージを表したものである。センサモジュール1から送信された姿勢・動きに関わる加速度センサ情報は、別に体外に設置された無線送受信機3で受信され、計算機4(本発明の判定装置;例えばコンピュータ)に送られる。計算機4では、受信データを分析し、分娩兆候、すなわち破水によるセンサモジュール1の体外への排出の有無を判別する。
【0041】
次に本実施例を図4のセンサモジュール1の動作を示すフローチャート例を用いて説明する。センサモジュール1は電源を投入した状態では設定モードにある。このときは、まずステップS1において計算機4より、サンプリング間隔などの測定(動作)条件が無線送受信機3を通してセンサモジュール1に送信され、センサモジュール1の中に記録される(初期設定)。
【0042】
設定完了後に、ステップS2において、計算機4から無線送受信機3を介して測定開始命令が送信され、センサモジュール1が測定開始命令を受信すると、センサモジュール1は測定モードに移行する。
【0043】
測定モードでは、三軸加速度の測定と無線送受信機3を介した計算機4への測定結果送信とを繰り返し実行する。すなわちステップS3〜S6において、前記設定された測定件数まで測定を繰り返した後、ステップS7において設定件数分のデータを一括して送信する。
【0044】
センサモジュール1は電池駆動すること、体内に留置することから、できるだけ省電力にし、小型・軽量な電池で動作することが望ましい。センサモジュール1の動作において、最も消費電力が大きいのは送信時であることから、図4の実施例では、通信のコネクションが確立するまでのオーバーヘッドを減らして送信効率を上げ、消費電力を小さくするために、初期設定の段階で予め測定件数を指定し、複数の件数を一括して送信する手順としている。
【0045】
また、送信時に次いで消費電力が大きいのは受信時(受信待ちの状態も含む)であり、一旦測定が開始されれば、計算機4側からセンサモジュール1に対して命令や情報を送信する必要はないことから、センサモジュール1が測定開始命令を受信し、測定モードに移行した後は、一方的にデータを送信するだけで、測定中、受信状態(受信待ちを含む)を設けない動作としている。
【0046】
図5は、図4のフローチャートの「測定」の項目の動作を、さらに細かく説明するものであり、(A)はフローチャート、(B)は横軸を時間にとり(A)の動作を図示するものである。図5において、初期設定で予め設定されたサンプリング回数まで繰り返し計測し(ステップS11〜S14)、その平均値を測定結果として出力する(ステップS15)。出力後は、やはり初期設定で決められた時間、センサモジュール1の動作をスリープさせる(ステップS16)。
【0047】
前記測定結果として平均値を用いるのは、無線モジュールや電子回路のノイズにより半導体加速度センサの出力値が誤差を含んでしまうことが少なくないためで、複数のサンプリングデータ(例えば10回の計測値)の平均値をとることで、外れ値の影響の軽減を図るためである。また測定結果の出力後にスリープさせるのは、省電力のためである。センサモジュール1は、膣内に留置している間は絶えず微小な姿勢の変化を生じつつも、膣内から体外へ排出される瞬間を除くと、短時間に大きな姿勢の変化を起こすことはない。従って、センサモジュール1の姿勢変化は、細かい間隔で絶えず計測(サンプリング)しなくても、一定時間内の一部分(例えば、20秒のうちの2秒だけ)を計測することで、およその管理は可能である。
【0048】
図6は測定結果の一例を示しており、図中のx、y、zは三軸加速度センサ1aのそれぞれの軸の出力値である。先に説明した通り、三軸の値は、センサモジュール1の姿勢変化を近似的に表しているとみなすことができるため、図6からセンサモジュール1の姿勢変化の推移を捉えることができる。図中、5の点線の箇所(5時過ぎ)が破水の発生であり、発生前の時間を5a、発生後の時間を5bと呼ぶ。時間5aにおいては、膣内に留置されている状態で、母体の動きや、腸管の蠕動運動や陣痛による努責により、絶えず姿勢が変化する。
【0049】
一方破水により体外に排出後は、床に放置されるので一定の姿勢を維持しており、破水の前5aと後5bでは、センサモジュール1の出力値に明らかな差異が生じる。従って計算機4では、ある一定時間内のデータの変動が予め設定した閾値内に収まる場合に、分娩兆候として、破水の発生を検知することができる。
【0050】
図7は計算機4で動作する判別アルゴルズムの一例を示すフローチャートである。x、y、zの三軸の直前データとの差の絶対値の和を直前データとの変動(以下「変動量」と呼ぶ)と定義し、直近の一定期間、例えば5レコード分の変動量が一定の閾値未満になった場合に、体外に排出されたとして判定するものである。
【0051】
まず図7のステップS21においてこの処理が起動され(監視開始)、ステップS22においてセンサモジュール1から送信された測定結果を受信する。
【0052】
次にステップS23,S24において、前記一定期間の直近データの変動量の和を算出し、ステップS25において該変動量の和が一定の閾値未満となったか否かを判定する。
【0053】
その結果、閾値以上の場合、センサモジュール1は未だ動物の膣内に留置されていると判定しステップS22に戻り、閾値未満となった場合は破水発生により体外に排出され、分娩兆候有りと判定する(ステップS26)。
【0054】
尚前記変動量については、分散や標準偏差など、データのばらつき度合いを示す他の計算値に置き換えることも可能である。先に述べたとおり、本実施例では、常時センサモジュール1の姿勢を計測しているわけではなく、省電力化のためにセンサモジュール1の動作を停止するスリープする時間を設けている。そのため、体外に排出され、床に自由落下する瞬間の加速度変化を必ずしも計測するわけではないが、破水による体外排出に伴うセンサモジュール1の姿勢変化を捉えることで、分娩の前兆となる破水の発生を検知することが可能となる。
【0055】
尚前記構成に限らず、前記加速度センサ1aの出力信号波形が時間変動する波形(図5の時間5a)から、時間変動しない波形(図5の時間5b)へ推移したことを検知したときに、該推移検知をトリガとして通信を起動し、図示しない外部送信機に分娩兆候検知信号を送信するように構成してもよい。このように構成することによって、センサモジュール1に搭載した小型電源1dの省電力化を図ることができる。
【0056】
(実施例2)
次に本発明の実施例2を説明する。前記実施例1では、図3のシステム構成において、破水の発生の判別を主に計算機4で行っていたが、センサモジュール1で判別を行い、判別結果を無線送受信機3を通して計算機4に送信するようにしたものが本実施例である。従って、本実施例も基本的な構成は実施例1と同様に図3の構成となるが、センサモジュール1から発信される情報が、加速度センサ情報ではなく、センサモジュール1内で該センサモジュール1の体外排出の判定を行った結果となることが相違点である。
【0057】
すなわち本実施例2では、加速度センサ1a、通信モジュール1b、制御モジュール1c、小型電源1dを備えた図1のセンサモジュール1に、図8に示すように、加速度センサ1aの測定データに基づいて、破水による体外排出を判定する判定装置1eをさらに設けて、それらを一体化したモジュール10(本発明のモジュール)を構成した。
【0058】
前記判定装置1eは、加速度センサ1aの計測値を記録するメモリと、簡易な演算(例えば図7のステップS23,S24で述べた演算)を行い、該演算結果に基づいてモジュールが体外に排出されたか否かを判定する(例えば図7のステップS25を実行する)CPUとを具備している。
【0059】
実施例2では、加速度センサ情報から破水による体外排出を判定するアルゴリズムは実施例1と同様であるが、判別をモジュール10内で実施することで次のような利点を生ずる。実施例1では、消費電力の低減のため、消費電力が大きいセンサモジュール1から無線送受信機3へのデータ送信の際に、複数のデータを一括して送ることで、送信頻度を減らすようにしていた。このことは、体外排出の判別を行う計算機4においては、データの更新頻度が下がることを意味しており、その分だけ検知が遅れてしまう可能性があった。
【0060】
しかし、本実施例2では、モジュール10においては、データが生じるたびに加速度情報が更新され、そのデータを基にモジュール10内で即座に判別が行われるため、実施例1のような判別遅れが生じることはない。さらに、分娩兆候の検知が目的であることを鑑みると、体外排出の際に速やかな通知が行われることが重要であることから、破水発生前には、必ずしもモジュール10から「分娩兆候が見られない」という判別結果を短い間隔で定期的に送信する必要はなく、例えば、送信頻度を減じることで、省電力化を図ることも可能である。
【0061】
図9は、本実施例2のモジュール10の動作フローの一例を示している。尚図9では、簡便化のために、加速度測定および回路のスリープ(図5(A)のステップS11〜S16)、分娩兆候(体外への排出)判断の基となる数値の計算(図7のステップS23,S24)などの加速度測定に関わる動作の詳細過程についてはステップS32の「加速度測定」という一つの項目にまとめた。
【0062】
9−1、9−2、9−3は本動作フローにおける、3通りのプロセスのループを表しており、9−1、9−2は、モジュール10が体外に排出される前と判断されたときのループであり、9−3は体外排出後と判断されたときのループである。
【0063】
まずステップS31において監視が開始されると、ステップS32において、前述した加速度測定が実行され、その結果を基に、体外排出の有無の判別が行われる(ステップS33)。体外へ排出されていないと判別された場合には、測定ループの回数カウンタの数字の判定を行い(ステップS34)、指定回数に満たない場合には、カウンタに1を追加して(ステップS35)、再度、加速度測定のプロセス(ステップS32)に戻る。
【0064】
一方、指定回数に達した場合には、「体外への排出が行われていない」ことをモジュール10から無線送受信機3に対して送信(ステップS36)した後、ループ回数カウンタをリセットする(ステップS37)。
【0065】
このことはステップS32の「加速度測定」に要する時間の間隔で体外排出の有無が判別されるが、結果が送信されるのは「加速度測定」に要する時間×「指定回数」の間隔で、「体外への排出が行われていない」ことが送信されるということである。
【0066】
他方、ステップS33において、体外排出が行われていると判別された場合には、9−1、9−2のループから外れて、9−3のループに移行する。9−3のループでは、「通知用タイマー」で設定された間隔で、モジュール10は無線送受信機3に対して「体外排出が起こった」ことを通知する(ステップS38,S39)。
【0067】
従って、個々の動作に関わる設定の値次第ではあるが、加速度の測定(体外排出の判別)間隔、体外へ未排出であることの通知間隔、体外へ排出されたことの通知間隔は異なる値に設定することができる。
【0068】
体外へ排出されているかどうかの判別は、できるだけ短い間隔で判別を繰り返されることが望ましい。一方、体外へ未排出なことは、それ自体は重要でなく、必ずしも通知することが必要ではない情報である。ただし、全くなにも動作させないと、故障が発生した場合に、そのことを検知できなくなってしまう。そのためステップS32の「加速度測定」の時間に「指定回数」を乗じることで送信間隔を長くする、すなわち送信頻度を落とすことで、消費電力の大きい送信の回数を減らし、省電力化を図っている。
【0069】
一方体外排出後は、できるだけ早期に通知することが望ましい。また、小型の無線機を用いた通信の場合、通信エラーが起こる頻度が相対的に大きいことから、短い間隔で9−3のループを回し、繰り返し「体外への排出」を通知するように動作することで、より早く、より確実に無線送受信機3への送信が行われることになる。例えば、図9において、ステップS32の「加速度測定」に要する時間を100ミリ秒、ステップS34の「指定ループ回数」を9000回、ステップS39の「通知用タイマー」の設定時間を1秒、とすると、測定間隔は100ミリ秒ではあるが、「体外への排出が行われていない」であることの通知は、9000*0.1/60=15分間隔となる。一方、体外排出後の通知間隔は通知用タイマーの設置時間である1秒間隔となり、分娩の予兆となる破水の発生通知については、迅速に且つ繰り返し行われることになる。
【0070】
(実施例3)
次に本発明の実施例3を図10とともに説明する。実施例1、2ではセンサモジュール1、モジュール10の変動に着目して体外への排出を検出したが、図6に示す通り、膣内での姿勢(本発明の第1の姿勢)と体外排出後に地面で放置される状態での姿勢が一致するという偶然は理論上起こりえるものの、膣内から体外へ排出される前後で姿勢(x、y、zのベクトル方向)も大きく変化することが多い。本実施例3は、積極的に姿勢の変化を判別に利用するものである。
【0071】
図10は、体外排出前後で確実に姿勢の変化が起こるような措置を膣内留置具2に施した例を示すものであり、図2と同一部分は同一符号をもって示している。図10(A)は挿入時の姿勢を示している。膣内留置具2の主支持片2aの、支持突片2b,2c側先端部に、丸みのある重り20(本発明の姿勢保持手段)を設けている。この構造によれば、重り20側の先端部に質量が偏在するために、重心も該先端部に偏っている。重り20側の先端部の重量を十分に大きく取れば、センサモジュール1(モジュール10)とあわせた状態でも重心は重り20側先端部に来させることが可能である。重心が重り20側先端部に存在すれば、図10(B)に示す通り、体外排出により地面に落下した際、起き上がり小法師の要領で必ず重り20側先端部が下にくる姿勢(本発明の第2の姿勢)となる。一方、膣内に留置した状態では、重り20側先端部が真下を向くような姿勢にはならないことから、姿勢によって確実な体外排出を検知することが可能となる。具体的にはセンサモジュール1(モジュール10)の姿勢のベクトルをx=(x、y、z)、体外排出後に想定される姿勢のベクトルをxo=(xo、yo、zo)とし、両ベクトルのなす角をθとすれば、両ベクトルの内積計算から、
cosθ=x・xo/(|x|・|xo|)
となり、θ→0のときにcosθ→1となることから、閾値εを設定し
1−cosθ<ε
となる場合に、センサモジュール1(モジュール10)の姿勢が、体外排出後に想定される姿勢(第2の姿勢)になったとみなすことができる。尚、加速度センサの取り付け時のずれなど誤差要因を0にすることは困難なため、閾値設定による判別が合理的である。
【0072】
前記実施例1、2においては、一定時間での姿勢の変動に着目してセンサモジュール1(モジュール10)の体外への排出を判断していたが、本実施例3で述べたようなセンサモジュール1(モジュール10)の姿勢に着目した判断指標を加えることで、体外排出の検知の精度を向上させることができる。
【0073】
尚、膣内留置具2の形状や支持突片2b,2cの個数等は、図2、図10の実施例に限らず他の形状、個数に構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施例1における、膣内に留置するセンサモジュールの一例を示すブロック図。
【図2】本発明の実施例1における膣内留置具を用いた要部の構成図。
【図3】本発明の実施例1におけるシステムの全体構成図。
【図4】本発明の実施例1におけるセンサモジュールの動作フローチャート。
【図5】本発明の実施例1におけるセンサモジュールの測定時の動作を表し、(A)は詳細フローチャート、(B)は処理の説明図。
【図6】本発明の実施例1における加速度センサの測定結果の一例を示す信号波形図。
【図7】本発明の実施例1における、体外に設置した計算機のフローチャート。
【図8】本発明の実施例2におけるモジュールの一例を示すブロック図。
【図9】本発明の実施例におけるモジュールの動作フローチャート。
【図10】本発明の実施例3における膣内留置具の構成図。
【符号の説明】
【0075】
1…センサモジュール、1a…三軸加速度センサ、1b…通信モジュール、1c…制御モジュール、1d…小型電源、1e…判定装置、2…膣内留置具、3…無線送受信機、4…計算機、10…モジュール、20…重り。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の分娩の際の破水排出経路内に留置した検知手段が、動物の動態もしくは姿勢変化を検知する検知ステップと、
判定手段が、前記検知ステップにより検知された信号に基づいて、該検知信号が時間変動する波形から時間変動しない波形へ推移したことをもって分娩兆候有りと判定する判定ステップと
を備えたことを特徴とする分娩兆候検知方法。
【請求項2】
前記検知手段は、姿勢に応じて作用する方向が変化する重力の三軸の分力に相当する信号を出力する加速度センサを有し、
前記判定ステップは、前記加速度センサの出力信号波形が時間変動する波形であるときは、該加速度センサが動物の破水排出経路内に留置され分娩兆候は無いと判定し、前記加速度センサの出力信号波形が時間変動しない波形であるときは、該加速度センサが体外へ排出され分娩兆候が有ると判定することを特徴とする請求項1に記載の分娩兆候検知方法。
【請求項3】
前記検知ステップは、動物の動態もしくは姿勢変化を所定間隔で複数回測定するステップと、該測定したデータの平均値を検知信号として出力するステップと、該検知信号出力後に所定時間前記測定動作を休止するステップとを1検知周期として繰り返し実行することを特徴とする請求項1に記載の分娩兆候検知方法。
【請求項4】
動物の分娩の際の破水排出経路内に留置され、動物の動態もしくは姿勢変化を検知する検知手段と、
前記検知手段の検知信号に基づいて、該検知信号が時間変動する波形から時間変動しない波形へ推移したことをもって分娩兆候有りと判定する判定手段と
を備えたことを特徴とする分娩兆候検知システム。
【請求項5】
前記検知手段は、姿勢に応じて作用する方向が変化する重力の三軸の分力に相当する信号を出力する加速度センサと、前記加速度センサの出力信号を動物の体外へ送信する無線送受信手段と、前記加速度センサおよび無線送受信手段を制御する制御手段と、駆動電力供給用の小型電源とを一体化したモジュールを備え、
前記判定手段は、前記動物の体外に設置され、前記モジュールの無線送受信手段から送信された前記加速度センサの出力信号を受信し、該受信された出力信号波形が時間変動する波形であるときは、前記モジュールが動物の破水排出経路内に留置され分娩兆候は無いと判定し、前記加速度センサの出力信号波形が時間変動しない波形であるときは、前記モジュールが体外へ排出され分娩兆候が有ると判定する判定装置を備えていることを特徴とする請求項4に記載の分娩兆候検知システム。
【請求項6】
前記制御手段は、前記加速度センサの出力を所定間隔で複数回抽出し、該抽出したデータの平均値を検知信号として前記無線送受信手段により送信させ、該送信後に前記センサ出力の抽出および前記検知信号の送信動作を所定時間休止することを1周期として繰り返し実行することを特徴とする請求項5に記載の分娩兆候検知システム。
【請求項7】
前記検知手段および判定手段は同一のモジュール内に一体化されて、動物の分娩の際の破水排出経路内に留置され、
前記モジュール内には、前記検知手段として構成され、姿勢に応じて作用する方向が変化する重力の三軸の分力に相当する信号を出力する加速度センサと、前記判定手段として構成され、前記加速度センサの出力信号波形が時間変動する波形であるときは、前記モジュールが動物の破水排出経路内に留置され分娩兆候は無いと判定し、前記加速度センサの出力信号波形が時間変動しない波形であるときは、前記モジュールが体外へ排出され分娩兆候が有ると判定する判定装置と、前記判定装置の判定結果を動物の体外へ送信する無線送受信手段と、前記加速度センサ、無線送受信手段および判定装置を制御する制御手段と、駆動電力供給用の小型電源とが収納されていることを特徴とする請求項4に記載の分娩兆候検知システム。
【請求項8】
前記制御手段は、前記判定装置が分娩兆候有りと判定したときに、該分娩兆候有りの通知を前記無線送受信手段により即座に発信させ、前記判定装置が分娩兆候無しと判定した回数が所定回数以上となったときに、該分娩兆候無しの通知を前記無線送受信手段により発信させることを特徴とする請求項7に記載の分娩兆候検知システム。
【請求項9】
前記検知手段は、破水排出経路内で第1の姿勢にある検知手段が体外に排出されたときに、前記破水排出経路内ではとり得ない第2の姿勢に保持する姿勢保持手段を備え、
前記判定手段は、前記検知手段の検知信号が、前記第1の姿勢における時間変動する波形から前記第2の姿勢における時間変動しない波形へ推移したことをもって分娩兆候有りと判定することを特徴とする請求項4ないし8のいずれか1項に記載の分娩兆候検知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−213515(P2009−213515A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57194(P2008−57194)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】