説明

分娩後の哺乳動物胎盤由来の胚様幹細胞、ならびに該細胞の用途および該細胞を用いる治療法

【課題】分娩後の胎盤に由来する胚様幹細胞を、臍帯血組成物または他の幹もしくは前駆細胞と共に使用する組成物ならびに方法の提供。
【解決手段】胚様幹細胞は単独でまたは他の幹細胞集団との混合物として利用する。胚様幹細胞は、臍帯血、胎児および新生児の造血幹細胞および前駆細胞、ヒト幹細胞および骨髄由来の前駆細胞を含む、他の幹細胞集団と混合しうる。胚様幹細胞および胚様幹細胞と幹細胞の混合集団には多数の用途、例えば、移植および疾患の治療・予防のための治療用途、診断用途、研究用途などに応用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.序文
本発明は、分娩後の胎盤に由来する胚様幹細胞(embryonic-like stem cells)を、従来の臍帯血組成物または他の幹もしくは前駆細胞と共に使用することに関する。胚様幹細胞はそれのみで、または他の幹細胞集団との混合物として使用される。本発明によれば、胚様幹細胞は他の幹細胞集団と混合することができ、かかる他の幹細胞集団としては、限定するものではないが、臍帯血、胎児および新生児の造血幹細胞および前駆細胞、ヒト幹細胞および骨髄由来の前駆細胞が挙げられる。胚様幹細胞、ならびに胚様幹細胞と幹細胞との混合集団はさまざまな用途を有し、例えば、移植のための治療用途、診断および研究用途があり、これらに限らない。胚様幹細胞およびその混合集団はまた、血管の疾患、神経の疾患または障害、自己免疫疾患または障害、炎症を伴う疾患または障害、癌またはそれと関連した障害を含めて、さまざまな疾患または障害の治療にも有用である。特に、胚様幹細胞またはそれを含む混合物は、HLAタイピングを行うことなく高用量で投与することができる。
【背景技術】
【0002】
2.発明の背景
ヒト幹細胞の同定、分離および生産には相当の関心が集まっている。ヒト幹細胞は、多様な成熟ヒト細胞系統を発生させる能力がある全能性または多分化能性の前駆細胞である。この能力は、器官および組織発生に必要な細胞分化および専門化のための基礎として働く。
【0003】
近年このような幹細胞の移植に成功したため、疾患による骨髄切除、有毒な化学薬品および/または放射線への暴露後の骨髄を再構成および/または補充する新規の臨床ツールが提供された。さらに、幹細胞を用いて、全てではないにしろ、多くの組織を再集団形成(repopulate)させ、生理学的および解剖学的機能性を復元できることを証明する証拠もある。組織工学、遺伝子治療送達および細胞治療法への幹細胞の応用も急速に進歩している。
【0004】
多数の異なる型の哺乳動物幹細胞が特徴づけられている。例えば、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、成体幹細胞、またはその他の最終分化へ運命づけられた幹細胞(committed stem cells)もしくは前駆細胞が知られている。幹細胞の中には、分離および特性決定されているだけでなく、制限された範囲までの分化を可能にする条件下で培養されているものもある。しかし、あらゆる細胞型に分化する能力があるヒト幹細胞の十分な量および集団を取得するのはほとんど不可能であるという根本問題が残っている。幹細胞の供給は極めて不足している。これらは、悪性疾患、先天性代謝異常、異常ヘモグロビン症、免疫不全などの非常に多様な疾患の治療にとって重要である。従って、より多量の胚性幹細胞の供給源があれば、非常に有利である。
【0005】
十分な数のヒト幹細胞を取得することは、いくつかの理由で困難であった。第一に、成人組織における幹細胞の正常に存在する集団の分離は、一部には、血液または組織には非常に限られた量しか認められないために、技術的に困難で、しかも費用がかかる。第二に、胚または流産児を含む胎児組織からのこれらの細胞の獲得は、宗教的および倫理的問題を引き起こしてきた。ヒト胚および胎児が独立した生命であるという考えが広く支持されたために、医学的研究を含むあらゆる用途での上記供給源の使用に対して、政府による規制が成立するに至った。従って、胚または胎児組織から獲得される細胞の使用を必要としない代替的供給源は、臨床における幹細胞の使用を発展させる上で不可欠である。しかし、幹細胞、特にヒト幹細胞の実現可能な代替供給源は極めて少ないため、供給は限られている。さらに、代替供給源から治療および研究目的に十分な量の幹細胞を回収するのは、ドナー被験者もしくは患者からの細胞または組織の採取、in vitroでの細胞の培養および/または増殖、切開などを含み、一般に煩雑である。
【0006】
例えば、Caplanら(1996年1月23日発行の「ヒト間葉幹細胞」と題する米国特許第5,486,359号)は、間葉細胞系統の前駆体として働く骨髄由来のヒト間葉幹細胞(hMSC)組成物を開示している。Caplanらは、hMSCが、モノクローナル抗体で同定される特定の細胞表面マーカーにより識別されることを開示している。造血細胞または分化した間葉細胞のいずれかに関連するマーカーを含まない付着性の骨髄または骨膜細胞の正の選択により、均一なhMSC組成物が得られる。これらの単離された間葉幹細胞集団は、間葉幹細胞に関連するエピトープの特徴を展示し、分化することなく培養中に再生する能力があり、従って、in vitroで誘導するか、または、損傷組織の部位にin vivoで配置すると、特定の間葉系統に分化する能力を有する。しかし、このような方法には、ドナーから骨髄または骨膜細胞を採取した後、MSCを単離しなければならないという欠点がある。
【0007】
Huら(2000年12月7日公開された、「ヒト羊膜上皮細胞の単離、低温保存、および治療的使用」と題するWO 00/73421)は、将来の使用のために単離、培養および低温保存された、または誘導して分化させた、分娩時の胎盤由来のヒト羊膜上皮細胞を開示している。Huらによれば、分娩後ただちに胎盤を回収し、例えば、切開により、絨毛膜から羊膜を分離する。次に、標準的な単離技法に従って、羊膜から羊膜上皮細胞を単離する。開示された細胞は、各種培地中で培養し、培養下で増殖し、低温保存し、または、分化するように誘導することができる。Huらは、羊膜上皮細胞が多能性(恐らくは多分化能性)であり、角膜表面上皮または膣上皮のような上皮組織へと分化できることを開示している。しかし、このような方法の欠点として、多大な労力を要することや、幹細胞の収量が非常に低いことがある。例えば、典型的な治療または研究目的に十分な数の幹細胞を取得するためには、まず、切開および細胞分離技法により、羊膜上皮細胞を羊膜から単離した後、in vitroで培養および増殖しなければならない。
【0008】
臍帯血は、造血前駆幹細胞の代替供給源として知られている。臍帯血由来の幹細胞は、造血再構成に使用するために通常低温保存されており、この造血再構成は、骨髄やその他の関連移植に広範に用いられている治療方法である(例えば、「血液由来の胎児および新生児造血幹および前駆細胞の保存」と題する、Boyseらの米国特許第5,004,681号、1993年3月9日発行の「血液由来の胎児および新生児造血幹および前駆細胞の単離と保存、ならびに、治療的使用方法」と題する、Boyseらの米国特許第5,192,553号を参照)。臍帯血を採取する通常の技法は、針またはカニューレを使用することからなり、これらは、重力を利用して、胎盤から臍帯血を排出(すなわち、瀉血)するのに用いられる(1993年3月9日発行のBoyseらの米国特許第5,192,553号;1991年4月2日発行のBoyseらの米国特許第5,004,681号;1994年12月13日発行の「胎盤血液収集のための方法および装置」と題するAndersonの米国特許第5,372,581号;1995年5月16日発行の「臍帯の締付け、切断、および血液収集装置および方法」と題するHesselらの米国特許第5,415,665号)。針またはカニューレは、通常、臍帯静脈内に配置し、胎盤を穏やかにマッサージすることにより、胎盤から臍帯血を流出させる。しかし、その後、流出させた胎盤は無用とみなされ、一般には、廃棄されてきた。臍帯血からの幹細胞の獲得に際する主な制限事項は、取得した臍帯血の量が往々にして不十分であるため、移植後の骨髄を有効に再構成するには細胞数が不足することであった。
【0009】
Naughtonら(1999年10月5日発行の「三次元間質組織培養物」と題する米国特許第5,962,325号)は、繊維芽細胞様細胞や軟骨細胞前駆細胞などの胎児細胞を、臍帯もしくは胎盤組織または臍帯血から取得できることを開示している。
【0010】
Krausら(2002年1月15日に発行の「標的細胞集団の選択的増殖」と題する、米国特許第6,338,942号)は、予め決定した標的細胞集団の選択的増殖が下記により可能であることを開示している:臍帯血または末梢血由来の細胞の出発サンプルを増殖培地に導入し、標的細胞集団の細胞を分裂させた後、増殖培地中の細胞を、特異的親和性を有する結合分子(CD34についてはモノクローナル抗体)を含む選択エレメントと接触させることにより、増殖培地中の細胞から、予め決定した標的集団の細胞を選択することができる。
【0011】
Rodgersら(2002年1月1日に発行の「造血および間葉細胞の増殖および分化を促進する方法」と題する、米国特許第6,335,195号)は、造血および間葉幹細胞のex vivo培養方法、ならびに、アンギオテンシノーゲン、アンギオテンシンI(AI)、AI類似体、AI断片およびその類似体、アンギオテンシンII(AII)、AII類似体、AII断片もしくはその類似体、またはAII AT22型受容体アゴニストの存在下で、単独もしくは他の増殖因子およびサイトカインと組み合わせて増殖させることからなる系統特異的細胞増殖および分化の誘導を開示している。上記幹細胞は、骨髄、末梢血または臍帯血に由来する。しかし、このような方法の欠点は、幹細胞の増殖および分化のための上記ex vivo方法は、前述したように時間がかかり、幹細胞の収量も低いことである。
【0012】
幹細胞の採取および使用に制限があり、臍帯血から回収される細胞の数は一般に不十分であることから、幹細胞は極めて供給が不足している。幹細胞は、悪性疾患、先天性代謝異常、異常ヘモグロビン症、免疫不全などの非常に多様な障害の治療に使用できる可能性がある。様々な治療法、およびその他の医学的に関連する目的で、多数のヒト幹細胞を容易に入手可能にする供給源が切実に求められている。本発明は、この需要その他を解決するものである。
【0013】
さらに、筋萎縮性側索硬化症(ALS)のような神経症状を治療する必要性が依然存在する。家族性ALSの照射マウスモデル(あまり一般的でないALSの形態)を用いた最近の研究は、臍帯血がこの疾患の治療に有用であることを示唆したが、先に述べた供給源の問題によりこの選択も理想的には程遠い。Endeら, Life Sci. 67: 53059 (2000)を参照されたい。したがって、疾患の治療に使用できる幹または前駆細胞の集団(特にALSのような疾患を治療しようとする場合には、より大量のこれら集団)の需要が依然存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第5,486,359号公報
【特許文献2】WO 00/73421
【特許文献3】米国特許第5,004,681号公報
【特許文献4】米国特許第5,192,553号公報
【特許文献5】米国特許第5,372,581号公報
【特許文献6】米国特許第5,415,665号公報
【特許文献7】米国特許第5,962,325号公報
【特許文献8】米国特許第6,338,942号公報
【特許文献9】米国特許第6,335,195号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Endeら, Life Sci. 67: 53059 (2000)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
3.発明の概要
本発明は以下に関する。
【0017】
[1] 幹または前駆細胞と胚様幹細胞とを含む組成物。
[2] 臍帯血細胞と胚様幹細胞とを含む組成物。
[3] 幹または前駆細胞の集団と胚様幹細胞の集団とを含む、[1]の組成物。
[4] 容器に収容されている、[1]または[2]の組成物。
[5] 前記容器が密閉され、気密であり、かつ無菌である、[4]の組成物。
[6] 幹または前駆細胞および胚様幹細胞が、それを必要とする患者への投与前または投与時に、互いと接触している、[1]または[2]の組成物。
[7] 幹または前駆細胞および胚様幹細胞が患者に別々に投与するのに適している、[1]または[2]の組成物。
[8] 骨髄移植に適している、[1]または[2]の組成物。
[9] ヒトへの投与に適している、[1]または[2]の組成物。
[10] 幹または前駆細胞が、臍帯血または胎盤血由来、胎児または新生児の造血幹または前駆細胞、ヒト幹細胞、成体細胞、あるいは骨髄幹または前駆細胞である、[1]または[2]の組成物。
[11] 幹または前駆細胞が胎児または新生児の造血幹または前駆細胞である、[10]の組成物。
[12] 複数の造血幹または前駆細胞が細胞表面マーカーCD34+およびCD38-を発現する、[11]の組成物。
[13] 幹または前駆細胞が臍帯血幹細胞である、[10]の組成物。
[14] 複数の臍帯血幹細胞が細胞表面マーカーCD34+およびCD38-を発現する、[13]の組成物。
[15] 複数の臍帯血幹細胞が細胞表面マーカーCD34+およびCD38+を発現する、[13]の組成物。
[16] 胚様幹細胞が次の細胞表面マーカー:CD10、CD29、CD44、CD54、CD90、SH2、SH3、SH4、OCT-4またはABC-pのうち少なくとも1つを示すか、または、次の細胞表面マーカー:CD34、CD45、SSEA3、SSEA4のうち少なくとも1つを欠く、[1]または[2]の組成物。
[17] 胚様幹細胞がOCT-4+およびABC-p+である、[16]の組成物。
[18] 胚様幹細胞がSSEA3-およびSSEA4-である、[16]の組成物。
[19] 前記幹または前駆細胞が第1の容器内にあり、前記胚様幹細胞が第2の容器内にある、[1]または[2]の組成物を含むキット。
[20] 複数の幹または前駆細胞と複数の胚様幹細胞とを含む組成物の調製方法であって、前記複数の幹または前駆細胞および前記複数の胚様幹細胞を単離して接触させることを含んでなる方法。
[21] 複数の幹または前駆細胞および複数の胚様幹細胞が混合前にはそれぞれ別個の容器に収容されている、[20]の方法。
[22] 前記組成物がヒトへの投与に適している、[20]の方法。
[23] 幹または前駆細胞が、臍帯血または胎盤血由来、胎児または新生児の造血幹または前駆細胞、ヒト幹細胞、成体細胞、あるいは骨髄幹または前駆細胞である、[20]の方法。
[24] 幹または前駆細胞が胎児または新生児の造血幹または前駆細胞である、[20]の方法。
[25] 複数の造血幹または前駆細胞が細胞表面マーカーCD34+およびCD38-を発現する、[20]の方法。
[26] 複数の幹または前駆細胞および複数の胚様幹細胞を物理的に混合する、[20]の方法。
[27] 複数の幹または前駆細胞および複数の胚様幹細胞を投与することを含んでなる、それを必要とする患者の治療方法。
[28] 複数の幹または前駆細胞および複数の胚様幹細胞が混合前にはそれぞれ別個の容器に収容されている、[27]の方法。
[29] 複数の幹または前駆細胞および複数の胚様幹細胞が、それを必要とする患者への投与前または投与時に、互いと接触している、[27]の方法。
[30] 幹または前駆細胞および胚様幹細胞が骨髄移植に適している、[27]の方法。
[31] 幹または前駆細胞および胚様幹細胞がヒトへの投与に適している、[27]の方法。
[32] 幹または前駆細胞が、臍帯血または胎盤血由来、胎児または新生児の造血幹または前駆細胞、ヒト幹細胞、成体細胞、あるいは骨髄幹または前駆細胞である、[27]の方法。
[33] 幹または前駆細胞が胎児または新生児の造血幹または前駆細胞である、[32]の方法。
[34] 複数の造血幹または前駆細胞が細胞表面マーカーCD34+およびCD38-を発現する、[33]の方法。
[35] 幹または前駆細胞が臍帯血幹細胞である、[32]の方法。
[36] 複数の臍帯血幹細胞が細胞表面マーカーCD34+およびCD38-を発現する、[35]の方法。
[37] 複数の臍帯血幹細胞が細胞表面マーカーCD34+およびCD38+を発現する、[35]の方法。
[38] 胚様幹細胞が次の細胞表面マーカー:CD10+、CD29+、CD34-、CD44+、CD45-、CD54+、CD90+、SH2+、SH3+、SH4+、SSEA3-、SSEA4-、OCT-4+およびABC-p+のうち少なくとも1つを示す、[27]の方法。
[39] 胚様幹細胞がOCT-4+およびABC-p+である、[38]の方法。
[40] 胚様幹細胞がSSEA3-およびSSEA4-である、[38]の方法。
[41] 複数の幹または前駆細胞および複数の胚様幹細胞が、それを必要とする患者への投与前または投与時に、混合される、[27]の方法。
[42] 複数の幹または前駆細胞および複数の胚様幹細胞が物理的に混合される、[27]の方法。
[43] 複数の幹または前駆細胞および/または複数の胚様幹細胞が、特定の細胞型への分化を誘導するために増殖因子で処理される、[27]の方法。
[44] 複数の幹または前駆細胞および/または複数の胚様幹細胞が、特定の細胞型への分化を防止または抑制するために増殖因子で処理される、[27]の方法。
[45] 複数の臍帯血細胞および複数の胚様幹細胞を投与することを含んでなる、それを必要とする患者の治療方法。
[46] 複数の臍帯血細胞および複数の胚様幹細胞が混合前にはそれぞれ別個の容器に収容されている、[45]の方法。
[47] 複数の臍帯血細胞および複数の胚様幹細胞が、それを必要とする患者への投与前または投与時に、互いと接触している、[45]の方法。
[48] 複数の臍帯血細胞および複数の胚様幹細胞が患者に別々に投与するのに適している、[45]の方法。
[49] 臍帯血細胞が胎児または新生児の造血幹または前駆細胞である、[45]の方法。
[50] 複数の造血幹または前駆細胞が細胞表面マーカーCD34+およびCD38-を発現する、[49]の方法。
[51] 複数の臍帯血幹細胞が細胞表面マーカーCD34+およびCD38-を発現する、[45]の方法。
[52] 複数の臍帯血幹細胞が細胞表面マーカーCD34+およびCD38+を発現する、[45]の方法。
[53] 胚様幹細胞が次の細胞表面マーカー:CD10+、CD29+、CD34-、CD44+、CD45-、CD54+、CD90+、SH2+、SH3+、SH4+、SSEA3-、SSEA4-、OCT-4+およびABC-p+のうち少なくとも1つを示す、[45]の方法。
[54] 胚様幹細胞がOCT-4+およびABC-p+である、[53]の方法。
[55] 胚様幹細胞がSSEA3-およびSSEA4-である、[53]の方法。
[56] 複数の臍帯血幹細胞および複数の胚様幹細胞が、それを必要とする患者への投与前または投与時に、混合される、[45]の方法。
[57] 複数の臍帯血幹細胞および複数の胚様幹細胞が物理的に混合される、[45]の方法。
[58] 複数の臍帯血幹細胞および/または複数の胚様幹細胞が増殖因子で処理される、[45]の方法。
[59] 複数の臍帯血幹細胞および/または複数の胚様幹細胞が、特定の細胞型への分化を誘導するために増殖因子で処理される、[58]の方法。
[60] 複数の臍帯血幹細胞および/または複数の胚様幹細胞が、特定の細胞型への分化を防止または抑制するために増殖因子で処理される、[58]の方法。
[61] 前記患者が炎症成分を含む疾患、障害または症状を有する、[45]の方法。
[62] 前記患者が血管の疾患、障害または症状を有する、[45]の方法。
[63] 前記疾患、障害または症状がアテローム性動脈硬化症である、[62]の方法。
[64] 前記患者が神経学的疾患、障害または症状を有する、[45]の方法。
[65] 前記疾患、障害または症状が筋萎縮性側索硬化症および多発性硬化症からなる群より選択される、[64]の方法。
[66] 前記患者が自己免疫障害を有する、[45]の方法。
[67] 前記自己免疫障害が糖尿病および筋萎縮性側索硬化症からなる群より選択される、[66]の方法。
[68] 前記患者が、外傷もしくは損傷により引き起こされる症状、または外傷もしくは損傷と関連した症状を有する、[45]の方法。
[69] 前記外傷または損傷が中枢神経系に対する外傷または損傷である、[68]の方法。
[70] 前記外傷または損傷が末梢神経系に対する外傷または損傷である、[68]の方法。
[71] 臍帯血細胞またはそこから単離された幹細胞と、胚様幹細胞とを、それを必要としている患者に投与することを含んでなる、脊髄形成異常症の治療方法。
[72] 臍帯血細胞(またはそこから単離された幹細胞)の投与と胚様幹細胞の投与が同時である、[71]の方法。
[73] 臍帯血細胞(またはそこから単離された幹細胞)と胚様幹細胞を投与前に一緒にする、[71]の方法。
[74] 疾患の治療または予防のために造血前駆細胞を移植する方法であって、臍帯血細胞(またはそこから単離された幹細胞)および胚様幹細胞を、それを必要とする患者に投与することを含んでなる方法。
[75] 臍帯血細胞またはそこから単離された幹細胞の投与と胚様幹細胞の投与が同時である、[74]の方法。
[76] 臍帯血細胞またはそこから単離された幹細胞と胚様幹細胞とを投与前に一緒にする、[74]の方法。
[77] 複数の胚様幹細胞で補充された臍帯血由来の幹または前駆細胞を含む組成物。
[78] 胚様幹細胞を含む少なくとも5×109個の有核細胞を患者に投与することを含んでなる、それを必要とする患者の治療方法。
[79] 胚様幹細胞が容器内に収容されている、[78]の方法。
[80] 前記胚様幹細胞が患者への投与に適している、[78]の方法。
[81] 前記胚様幹細胞が骨髄移植に適している、[78]の方法。
[82] 前記胚様幹細胞がヒトへの投与に適している、[78]の方法。
[83] 胚様幹細胞が次の細胞表面マーカー:CD10+、CD29+、CD34-、CD44+、CD45-、CD54+、CD90+、SH2+、SH3+、SH4+、SSEA3-、SSEA4-、OCT-4+およびABC-p+のうち少なくとも1つを示す、[78]の方法。
[84] 胚様幹細胞がOCT-4+およびABC-p+である、[83]の方法。
[85] 胚様幹細胞がSSEA3-およびSSEA4-である、[83]の方法。
[86] 胚様幹細胞が増殖因子で処理される、[78]の方法。
[87] 増殖因子がサイトカイン、リンホカイン、インターフェロン、コロニー刺激因子(CSF)、インターフェロン、ケモカイン、インターロイキン、ヒト造血増殖因子、造血増殖因子リガンド、幹細胞因子、トロンボポエチン(Tpo)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、白血病阻害因子、塩基性繊維芽細胞増殖因子、胎盤由来増殖因子、または上皮増殖因子である、[86]の方法。
[88] 胚様幹細胞が複数の細胞型への分化を誘導するために増殖因子で処理される、[87]の方法。
[89] 複数の胚様幹細胞が、特定の細胞型への分化を防止または抑制するために増殖因子で処理される、[87]の方法。
[90] 前記治療が少なくとも10×109個の総有核細胞を投与することを含む、[78]の方法。
[91] 前記治療が少なくとも20×109個の総有核細胞を投与することを含む、[78]の方法。
[92] 前記組成物中の前記細胞の少なくとも30%が胚様幹細胞である、[27]の方法。
[93] 前記組成物中の前記細胞の少なくとも60%が胚様幹細胞である、[27]の方法。
[94] 前記患者が炎症成分を含む疾患、障害または症状を有する、[78]の方法。
[95] 前記患者が血管の疾患、障害または症状を有する、[78]の方法。
[96] 前記疾患、障害または症状がアテローム性動脈硬化症である、[95]の方法。
[97] 前記患者が神経学的疾患、障害または症状を有する、[78]の方法。
[98] 前記疾患、障害または症状が筋萎縮性側索硬化症および多発性硬化症からなる群より選択される、[97]の方法。
[99] 前記患者が免疫関連障害を有する、[78]の方法。
[100] 前記自己免疫障害がアレルギー、糖尿病および筋萎縮性側索硬化症からなる群より選択される、[99]の方法。
[101] 前記患者が、外傷もしくは損傷により引き起こされる症状、または外傷もしくは損傷と関連した症状を有する、[78]の方法。
[102] 前記外傷または損傷が中枢神経系に対する外傷または損傷である、[101]の方法。
[103] 前記外傷または損傷が末梢神経系に対する外傷または損傷である、[101]の方法。
[104] 前記少なくとも5×109個の有核細胞が複数のドナーから採取してプールした細胞である、[78]の方法。
[105] 前記少なくとも5×109個の有核細胞中の前記細胞のどれに対しても、前記投与前にHLAタイピングを行わない、[78]の方法。
[106] 前記少なくとも5×109個の有核細胞が、前記投与前に、18時間〜21日間にわたりプレコンディショニングされる、[78]の方法。
[107] 前記少なくとも5×109個の有核細胞が、前記投与前に、48時間〜10日間にわたりプレコンディショニングされる、[78]の方法。
[108] 前記少なくとも5×109個の有核細胞が、前記投与前に、3〜5日間にわたりプレコンディショニングされる、[78]の方法。
【0018】
本発明は、分娩後の胎盤に由来する胚様幹細胞で補充されたまたはそれと接触させた、臍帯血組成物またはそれに由来する幹もしくは前駆細胞に関する。本発明においては、他の特許出願の主題である胚様幹細胞が、組成物として、または他の幹もしくは前駆細胞集団との混合物として使用される。本発明によれば、胚様幹細胞を他の幹もしくは前駆細胞集団(臍帯血、胎児および新生児の造血幹細胞および前駆細胞、ヒト幹細胞および骨髄由来の前駆細胞を含むが、これらに限らない)と接触させることができる。胚様幹細胞、ならびに胚様幹細胞と幹もしくは前駆細胞との混合集団はいろいろな用途で使用することができ、例えば、移植や疾患の治療および予防のための治療用途、診断および研究用途に使用される。
【0019】
本発明によれば、幹細胞集団中に多分化能性および多能性幹細胞を補充し、増強し、その濃度を高めることを目的として、幹細胞の集団が胚様幹細胞の集団と混合される。例えば、一実施形態においては、臍帯血またはそれに由来する幹もしくは前駆細胞を、患者への投与に先立って、本発明の胚様幹細胞で増強するか、またはそれと接触させる。胚様幹細胞は臍帯血またはそれに由来する細胞と同時にまたは連続的に投与することもできるが、投与前にそれぞれの細胞を接触させることが好適である。
【0020】
本発明の胚様幹細胞は、次の細胞表面マーカー:CD10、CD29、CD44、CD54、CD90、SH2、SH3、SH4、OCT-4およびABC-pの存在、ならびに次の細胞表面マーカー:CD34、CD38、CD45、SSEA3およびSSEA4の不在により特徴づけることができる。好ましい実施形態では、かかる胚様幹細胞は、細胞表面マーカーOCT-4およびAPC-pの存在により特徴づけられる。胎盤由来の胚様幹細胞は胚性幹細胞の特徴をもつが、胚に由来するものではない。言い換えれば、本発明は、臍帯血と、胎盤から分離されたOCT-4+および/またはABC-p+である胚様幹細胞と、の混合物を包含する。このような胚様幹細胞はヒト胚性幹細胞と同程度に多能性(例えば、多分化能性)である。
【0021】
本発明によれば、幹細胞の集団を、多能性または多分化能性である胚様幹細胞と混合する。このような胚様幹細胞は様々な時点で灌流胎盤から単離することができ、例えばCD34+/CD38+、CD34+/CD38-、およびCD34-/CD38-造血細胞などである。一実施形態において、このような細胞は、本発明の方法に従って、臍帯血中に見出せるもののような造血幹細胞の集団を補充するために使用される。
【0022】
本発明はまた、幹細胞と胚様幹細胞の混合物が1つのバッグまたは容器に収容されている組成物を提供する。好ましい実施形態では、前記組成物は製薬上許容される単位用量組成物である。別の実施形態では、本発明は、幹細胞の集団と胚様幹細胞の集団が2つの別個のバッグまたは容器に収容されている組成物を提供する。特定の実施形態では、そのような「ツーバッグ」(two bag)キットが、それを必要とする患者に投与する前、特に直前に、または投与時に混合される。他の実施形態では、各バッグの内容物を患者に別々に投与するが、この場合には2つの細胞集団の混合が体内で起こる。他の実施形態では、その容器が密閉され、気密であり、かつ無菌である。
【0023】
本発明は、胚様幹細胞と混合された幹細胞の集団に関する。本発明によれば、胚様幹細胞と混合することができる幹細胞には、限定するものではないが、臍帯血、胎児または新生児の造血幹細胞および前駆細胞、ヒト幹細胞および骨髄由来の前駆細胞が含まれる。本発明の好ましい実施形態では、本発明の胚様幹細胞を臍帯血と混合する。
【0024】
本発明はさらに、胚様幹細胞で補充された幹細胞の集団を投与することによる、それを必要とする患者の治療方法を提供する。一実施形態において、臍帯血細胞の集団への胚様幹細胞の補充は、組合わせたまたは「スパイクした」(spiked)細胞集団を患者に投与する前に、幹細胞と胚様幹細胞を混合することにより行う。別の実施形態では、幹細胞の集団への胚様幹細胞の補充を、患者への補充集団の投与の際に行い、例えば臍帯血細胞と胚様幹細胞を同時に投与することにより行う。別の実施形態では、幹細胞の集団への胚様幹細胞の補充を、患者への臍帯血細胞の投与後に行い、例えば幹細胞の投与とは別に、その投与前または投与後に胚様幹細胞を投与する。
【0025】
本発明によると、胎盤由来の胚様幹細胞で補充された幹細胞の集団(例えば、臍帯血)には、予防、治療および診断用途を含めて、多様な用途がある。補充幹細胞集団は移植および/または疾患の治療もしくは予防に使用することができる。本発明の一実施形態では、補充幹細胞集団を組織および器官の修繕または再生に使用し、それにより罹患した組織、器官またはその部分を置換したり、修復する。別の実施形態では、遺伝的障害について、または特定の疾患もしくは障害の素因についてスクリーニングするための診断剤として補充幹細胞集団を使用することができる。
【0026】
別の実施形態において、本発明は、瀉血胎盤の抽出液または灌流液から他の胚様幹細胞および/または多分化能性もしくは多能性幹細胞を単離し、それらを使用して本発明の方法に従って臍帯血細胞の集団を補充するための方法を提供する。
【0027】
本発明はまた、本発明の胚様幹細胞の1以上の集団で補充された幹細胞(例えば、臍帯血細胞)の集団を含有する医薬組成物を提供する。
【0028】
本発明は、あらゆる細胞型に分化する能力があるヒト胎盤幹細胞の単離された均一集団を提供する。別の実施形態では、ヒト胎盤幹細胞の集団は1つの細胞型に分化する能力がある。さらに別の実施形態では、ヒト胎盤幹細胞の集団がいくつかの異なる細胞型に分化する能力を有する。このような細胞は、本発明の方法に従って幹細胞の集団(例えば、臍帯血)を補充するため使用することができる。
【0029】
本発明はさらに、CD34+/CD38-細胞、CD34-/CD38-細胞およびCD133+細胞を含む(しかし、これらに限らない)均一な造血幹細胞を高濃度(または比較的大きな集団)で含む1以上の細胞集団により補充された造血幹細胞の集団を含有する医薬組成物を包含する。1以上のこれらの細胞集団は、移植や他の用途のために、臍帯血または他の供給源から得られる造血幹細胞(すなわちCD34+/CD38+造血幹細胞)と共に使用したり、それと混合したりすることができる。
【0030】
本発明はまた、幹細胞、前駆細胞または臍帯血細胞(バンクに保存されたまたは凍結保存された臍帯血細胞を含む)の集団を胚様幹細胞の集団と混合する方法を提供する。一実施形態では、2つの集団を物理的に混合する。この実施形態の別の形態では、2つの集団を物理的に混合してから、サイトカインおよび/またはインターロイキンなどの増殖因子で処理して細胞分化を誘導する。この実施形態の別の形態では、幹細胞および/または胚様幹細胞をサイトカインおよび/またはインターロイキンなどの増殖因子で処理して細胞分化を誘導してから、物理的に混合する。ある実施形態においては、混合した集団を増殖因子で処理して、様々な細胞型に分化するよう誘導する。別の実施形態においては、混合した集団を増殖因子で処理して、特定の細胞型に分化するよう誘導する。別の実施形態では、混合した集団を増殖因子で処理して、特定の細胞型に分化するのを防止または抑制する。特定の実施形態では、培養条件を調整することにより、例えば混合した細胞集団をサイトカインまたはインターロイキンの特別なカクテルで処理することにより、特定の細胞型への分化を指令または誘導する。
【0031】
別の実施形態においては、本発明は、複数の臍帯血細胞および複数の胚様幹細胞を投与することを含む、それを必要とする患者の治療方法を提供する。
【0032】
別の実施形態においては、本発明は、臍帯血細胞(またはそこから単離された幹細胞)および胚様幹細胞を、それを必要とする患者に投与することを含む、脊髄形成異常症の治療方法を提供する。
【0033】
本発明はまた、ヒト胎盤幹細胞(胚様幹細胞)の新規な使用に関する。胚様幹細胞と他の幹もしくは前駆細胞またはその供給源を含有する組成物を用いて疾患を治療または予防する方法もここに包含される。同様に、そのような組成物を投与する方法も包含される。最後に、本発明の組成物は複数のドナーからの幹または前駆細胞集団を含みうることに留意すべきである。本発明は、HLAが一致した組成物と同様に、HLAが一致してない組成物を患者に使用することを含む。患者との血液型一致が好ましいが、胚様幹細胞と幹または前駆細胞の両方を含む組成物を使用する場合は、血液型一致は必要でない。
【0034】
3.1. 定義
本明細書で用いる「バイオリアクター」という用語は、細胞を増殖させる、または生物学的物質を生産または発現させる、または細胞、組織、類臓器、ウイルス、タンパク質、ポリヌクレオチドおよび微生物を生育または培養するためのex vivoシステムを意味する。
【0035】
本明細書で用いる「臍帯血(cord blood)」と「臍帯血(umbilical cord blood)」とは相互に交換可能である。
【0036】
本明細書で用いる「胚性幹細胞」という用語は、胚盤胞(例えば、生後4〜5日のヒト胚)の内部細胞塊に由来し、かつ多分化能性である細胞を意味する。
【0037】
本明細書で用いる「胚様幹細胞」という用語は、胚盤胞の内部細胞塊に由来するものではない細胞を意味する。本明細書で用いる用語「胚様幹細胞」はまた、「胎盤幹細胞」と呼ばれることもあり、分娩後の灌流胎盤に由来するヒト胎盤幹細胞が好ましい。胚様幹細胞は、好ましくは、多分化能性である。しかし、胎盤から得られる幹細胞には、胚様幹細胞、多能性細胞、および前駆細胞(committed progenitor cell)も含まれる。本発明の方法によれば、胎盤に由来する胚様幹細胞は、胎盤が残留細胞を除去するのに十分な時間にわたり瀉血および灌流されたら、単離された胎盤から収集することができる。
【0038】
本明細書において、「瀉血した」または「瀉血」という用語は、胎盤に関して用いるとき、胎盤からの実質的に全ての臍帯血の除去および/または排出を意味する。本発明によれば、胎盤の瀉血は、例えば、限定するものではないが、ドレナージ、重力誘導による流出、マッサージ、搾り出し、ポンピングなどにより、達成することができる。好ましい実施形態では、胎盤の瀉血は、胎盤の瀉血に役立つ(抗凝固剤のような薬剤を含む、または含まない)液体で胎盤を灌流し、すすぎ、またはフラッシュ洗浄することにより達成することができる。
【0039】
本明細書で用いる「混合する」という用語は、1つの塊または混合物に組み合わせるまたはブレンドすること、構成要素が多かれ少なかれ均質になるように1つの塊に寄せ集めること、諸成分を組み合わせることによって生成または形成すること、添加、増強、補充または混ぜ合わせにより形成すること、あるいは、成分または要素を別の成分または要素に添加すること、またはその逆を意味する。
【0040】
本明細書で用いる「灌流する」または「灌流」という用語は、器官または組織上にまたはこれらを通して液体を注入または通過させる行為、好ましくは、器官または組織からあらゆる残留細胞、例えば、非付着細胞を除去するのに十分な力または圧力で、上記器官または組織に液体を通過させることを意味する。本明細書で用いる用語「灌流液」は、器官または組織に通過させた後に回収された液体を意味する。好ましい実施形態では、灌流液は1種以上の抗凝固剤を含む。
【0041】
本明細書で用いる「外因性細胞」という用語は、「外来」細胞すなわち異種細胞(つまり、胎盤ドナー以外の供給源に由来する「非自己」細胞)、または胎盤以外の器官もしくは組織からの自己由来細胞(すなわち、胎盤ドナーに由来する「自己」細胞)を意味する。
【0042】
本明細書で用いる「類臓器」(organoid)という用語は、哺乳動物の身体(特にヒトの身体)の器官または腺としての実際の構造物または表面的外観に、1以上の細胞型が集合した凝集物を意味する。
【0043】
本明細書で用いる「多能性細胞」という用語は、哺乳動物身体の約260の細胞型のいずれかのサブセットに成育する能力を有する細胞を意味する。多分化能性細胞とは違って、多能性細胞は、すべての細胞型を形成する能力はない。
【0044】
本明細書で用いる「多分化能性細胞」という用語は、完全な分化能力、すなわち、哺乳動物身体の約260の細胞型のいずれにも成育する能力を有する細胞を意味する。多分化能性細胞は、自己再生が可能であり、組織内で休眠または静止したままでいられる。全能性細胞(例えば、受精した二倍体卵細胞)とは違って、胚性幹細胞は通常、新しい胚盤胞を形成することはできない。
【0045】
本明細書で用いる「前駆細胞」という用語は、特定タイプの細胞に分化するように、または特定タイプの組織を形成するように拘束(committed)された細胞を意味する。
【0046】
本明細書で用いる「幹細胞」という用語は、無限に再生して、組織および器官の専門化した細胞を形成することができるマスター細胞(master cell)を意味する。幹細胞は、発生上は、多分化能性または多能性の細胞である。幹細胞は分裂して2個の娘幹細胞、または1個の娘細胞と1個の前駆(「トランジット」)細胞を産生し、後に、これが増殖して、成熟した完全に形成された組織の細胞となる。本明細書で用いる「幹細胞」には、特に断らない限り、「前駆細胞」が含まれる。
【0047】
本明細書で用いる「全能性細胞」いう用語は、完全な胚(例えば、胚盤胞)を形成することができる細胞を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0048】
4.発明の詳細な説明
本発明は、一部には、瀉血、灌流および/または培養した胎盤から得られた胚様幹細胞が所望のどのような細胞型にも容易に分化することができる多分化能性の幹細胞であるという予期せざる発見に基づくものである。これらの胚様幹細胞は、臍帯血、胎児および新生児の造血幹細胞および前駆細胞、ヒト幹細胞および骨髄由来の前駆細胞を含むがこれらに限らない幹細胞の集団を補充、増強または増大するために使用することができる。本発明によれば、幹細胞集団中に多分化能性および多能性幹細胞を補充し、増強し、その濃度を高めるために、幹細胞の集団と胚様幹細胞の集団とが混合される。本発明によれば、胚様幹細胞の集団と混合された幹細胞の集団はいろいろな用途に使用することができ、例えば、移植、疾患の治療および予防のための治療用途、診断および研究用途に使用される。
【0049】
本発明はまた、幹細胞と胚様幹細胞の混合物が1つのバッグまたは容器に収容されている組成物を提供する。別の実施形態では、本発明は、幹細胞の集団と胚様幹細胞の集団が2つの別個のバッグまたは容器に収容されている組成物を提供する。特定の実施形態では、そのような「ツーバッグ」組成物が、それを必要とする患者に投与する前、特に直前に、または投与時に混合される。他の実施形態では、各バッグの内容物を患者に別々に投与するが、この場合には2つの細胞集団の混合が体内で起こる。
【0050】
本発明はまた、幹細胞もしくは前駆細胞の集団または臍帯血(バンクに保存されたまたは凍結保存された臍帯血を含む)を胚様幹細胞の集団と混合する方法を提供する。一実施形態では、2つの集団を物理的に混合する。この実施形態の別の形態では、2つの集団を物理的に混合してから、サイトカインおよび/またはインターロイキンなどの増殖因子で処理して細胞分化を誘導する。この実施形態の別の形態では、幹細胞および/または胚様幹細胞をサイトカインおよび/またはインターロイキンなどの増殖因子で処理して細胞分化を誘導してから、物理的に混合する。
【0051】
本発明はまた、最終分化へ運命づけられた細胞(committed cells)の集団、例えば、神経細胞、筋細胞、造血細胞、血管細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞、肝細胞、膵細胞、または心臓細胞に分化するように運命づけられた細胞の集団を胚様幹細胞の集団と混合する方法を提供する。一実施形態では、2つの集団を物理的に混合する。この実施形態の別の形態では、2つの集団を物理的に混合してから、サイトカインおよび/またはインターロイキンなどの増殖因子で処理して細胞分化を誘導する。この実施形態の別の形態では、最終分化へ運命づけられた細胞および/または胚様幹細胞をサイトカインおよび/またはインターロイキンなどの増殖因子で処理して細胞分化を誘導してから、物理的に混合する。
【0052】
本発明の方法によると、臍帯動脈および臍帯静脈のいずれかもしくは両方を用いる灌流技法により、排液した胎盤から胚様幹細胞を抽出する。胎盤は、残留血液(例えば、残留臍帯血)の瀉血および収集により排液するのが好ましい。次に、排液した胎盤を、ex vivoの天然バイオリアクター環境を確立するように処理し、この環境において実質(parenchyma)および血管外空間内に常在する胚様幹細胞を動員する。胚様幹細胞は、排液した空の微小循環中に移動するが、そこで、本発明の方法に従い、好ましくは、灌流で収集容器に洗い流すことにより、これらの細胞を収集する。
【0053】
上述したように、いくつかの異なる多分化能性または多能性幹細胞を灌流中の様々な時点で灌流胎盤から単離することができ、例えばCD34+/CD38+、CD34+/CD38-、およびCD34-/CD38-造血細胞などである。一実施形態において、このような細胞は、本発明の方法に従って、幹細胞の集団(例えば臍帯血細胞)を補充するために使用される。
【0054】
本発明はさらに、あらゆる細胞型に分化する能力があるヒト胎盤幹細胞の単離された均一集団を提供する。別の実施形態では、ヒト胎盤幹細胞の集団は1つの細胞型に分化する能力がある。さらに別の実施形態では、ヒト胎盤幹細胞の集団はいくつかの異なる細胞型に分化する能力を有する。このような細胞は、本発明の方法に従って、幹細胞(例えば、臍帯血細胞)の集団を補充するため使用することができる。
【0055】
本発明はまた、幹細胞の集団を胚様幹細胞の集団と混合する方法を提供する。一実施形態では、2つの集団を物理的に混合する。この実施形態の別の形態では、2つの集団を物理的に混合してから、サイトカインおよび/またはインターロイキンなどの増殖因子で処理して細胞分化を誘導する。この実施形態の別の形態では、幹細胞および/または胚様幹細胞をサイトカインおよび/またはインターロイキンなどの増殖因子で処理して細胞分化を誘導してから、物理的に混合する。ある実施形態においては、混合した集団を増殖因子で処理して、様々な細胞型に分化するよう誘導する。別の実施形態においては、混合した集団を増殖因子で処理して、特定の細胞型に分化するよう誘導する。別の実施形態では、混合した集団を増殖因子で処理して、特定の細胞型に分化するのを防止または抑制する。特定の実施形態では、培養条件を調整することにより、例えば混合した細胞集団をサイトカインまたはインターロイキンの特別なカクテルで処理することにより、特定の細胞型への分化を指令または誘導することができる。
【0056】
本発明は、本発明の胚様幹細胞の1以上の集団で補充された幹細胞(例えば、臍帯血細胞)の集団を含有する医薬組成物を提供する。
【0057】
本発明はさらに、CD34+/CD38-細胞およびCD34-/CD38-細胞を含む(しかし、これらに限らない)均一な造血幹細胞を高濃度(または比較的大きな集団)で含む1以上の細胞集団により補充された幹細胞(例えば、臍帯血細胞)の集団を含有する医薬組成物を包含する。1以上のこれらの細胞集団は、移植や他の用途のために、臍帯血から得られる造血細胞(すなわちCD34+/CD38+造血細胞)と共に使用したり、それと混合したりすることができる。
【0058】
本発明によると、胎盤由来の胚様幹細胞で補充された幹細胞の集団(例えば、臍帯血)には、治療および診断用途を含めて、多様な用途がある。補充幹細胞集団は移植および/または疾患の治療もしくは予防に使用することができる。本発明の一実施形態では、補充幹細胞集団を組織および器官の修繕または再生に使用し、それにより罹患した組織、器官またはその部分を置換したり、修復する。別の実施形態では、遺伝的障害について、または特定の疾患もしくは障害の素因についてスクリーニングするための診断剤として補充幹細胞集団を使用することができる。
【0059】
本発明はさらに、胚様幹細胞で補充された幹細胞の集団を投与することによる、それを必要とする患者の治療方法を提供する。一実施形態において、臍帯血細胞の集団への胚様幹細胞の補充は、補充集団を患者に投与する前に、幹細胞と胚様幹細胞を混合することにより行う。別の実施形態では、幹細胞の集団への胚様幹細胞の補充を、患者への補充集団の投与の際に行い、例えば臍帯血細胞と胚様幹細胞を同時に投与することにより行う。別の実施形態では、幹細胞の集団への胚様幹細胞の補充を、患者への臍帯血細胞の投与後に行い、例えば幹細胞の投与とは別に、その投与前または投与後に胚様幹細胞を投与する。
【0060】
4.1. 胎盤の単離および培養方法
4.1.1. 胎盤の前処理
本発明の方法によれば、出産後、娩出直後のヒト胎盤を回収し、特定の実施形態では、胎盤中の臍帯血を回収する。特定の実施形態では、この胎盤を通常の臍帯血回収方法に付す。このような臍帯血回収は、例えば、LifeBank Inc., Cedar Knolls, N,J., ViaCord, Cord Blood Registry and Cryocellから商業的に入手することができる。臍帯血は、胎盤の娩出直後に排出することができる。
【0061】
他の実施形態においては、2002年2月13日出願の同時係属中の特許出願第10/076,180号(参照によりその全体を本明細書に組み入れる)に開示された方法に従って胎盤を前処理する。
【0062】
4.1.2. 胎盤の瀉血および残留細胞の除去
2002年8月22日に公開されたPCT公開WO 02/064755(参照によりその全体を本明細書に組み入れる)に開示されるように、出産後に胎盤を適切に処理する場合には活性化することができる休止細胞を含有する。例えば、子宮からの娩出後、可能なかぎりすみやかに胎盤を瀉血してアポトーシスを防止するかまたは最小限に抑える。続いて、瀉血後できるだけすぐに胎盤を灌流して、血液、残留細胞、タンパク質、因子、およびこの臓器に存在するその他の物質をすべて除去する。物質の破片も胎盤から除去することができる。灌流は通常、適切な灌流液を用いて2時間以上24時間未満にわたり続行する。こうして、胎盤は胚様幹細胞の豊富な供給源として直ちに使用することができ、これらの胚様幹細胞は、薬物探索をはじめとする研究、疾患の治療および予防(特に、移植手術または治療法)、および最終分化へ運命付けられた細胞、組織および類臓器の形成に使用される。
【0063】
さらに、驚いたことに、瀉血、灌流および/または培養した胎盤から得られたヒト胎盤幹細胞は、所望のどのような細胞型にも容易に分化することができる多分化能性の幹細胞である。
【0064】
本発明によれば、胚様幹細胞を含むがこれに限定されない幹または前駆細胞は、瀉血した、すなわち、分娩および/または通常の臍帯血回収法の後に残った臍帯血を完全に排出させた胎盤から回収することができる。本発明の方法によれば、胎盤の瀉血方法および残留細胞の除去方法は、当技術分野で公知の方法、例えば2002年8月22日に公開されたPCT公開WO 02/064755(参照によりその全体を本明細書に組み入れる)に開示された方法を用いて行うことができる。
【0065】
4.1.3. 胎盤の培養
胎盤の瀉血および十分な時間の灌流後、瀉血および灌流した胎盤の微小循環系に胚様幹細胞が移動しているのが観察されるが、この微小循環系において、本発明の方法に従い、好ましくは灌流で収集容器中に洗い流すことにより、上記胚様幹細胞を収集する。他の実施形態では、2002年8月22日に公開されたPCT公開WO 02/064755(参照によりその全体を本明細書に組み入れる)に記載される方法に従って胎盤を培養し、増殖した細胞をモニタリングし、選別し、かつ/または特徴づける。
【0066】
4.2. 胎盤からの細胞の収集
胎盤の瀉血および灌流後、胚様幹細胞は胎盤の排液された空の微小循環系に移動し、この微小循環系において、好ましくは収集容器中に流出灌流液を収集することにより、胚様幹細胞を本発明に従い収集する。
【0067】
好ましい実施形態では、当業者には公知の技法、例えば、密度勾配遠心分離、磁気細胞分離、フローサイトメトリー、または当分野でよく知られたその他の細胞分離・選別方法を用いて、胎盤で培養した細胞を流出灌流液から単離して選別する。
【0068】
特定の実施形態においては、胎盤から胚様幹細胞を収集し、2002年8月22日に公開されたPCT公開WO 02/064755(参照によりその全体を本明細書に組み入れる)に記載される方法に従って保存する。
【0069】
4.3. 胚様幹細胞
本発明の方法に従って取得された胚様幹細胞には、多分化能性細胞、すなわち、完全な分化能を有し、自己複製能があり、かつ組織内で休眠または静止状態のままでいられる細胞が含まれる。胎盤から取得できる幹細胞には、胚様幹細胞、多能性細胞、最終分化へ運命付けられた前駆細胞、および繊維芽細胞様細胞が含まれる。
【0070】
胎盤から最初に収集した血液は、臍帯血と呼ばれ、これは、主に、CD34+およびCD38+造血前駆細胞を含む。分娩後最初の24時間以内の灌流で、高濃度のCD34-およびCD38+造血前駆細胞と一緒に、高濃度のCD34+およびCD38-造血前駆細胞を胎盤から単離することができる。約24時間の灌流後、前記の細胞と一緒に、高濃度のCD34-およびCD38-細胞を胎盤から単離することができる。本発明の単離および灌流した胎盤は、CD34+およびCD38-幹細胞ならびにCD34-およびCD38+幹細胞について富化された幹細胞の大量の供給源を提供する。24時間以上灌流した単離胎盤は、CD34-およびCD38-幹細胞について富化された幹細胞の大量の供給源を提供する。
【0071】
好ましい実施形態では、本発明の方法により取得される胚様幹細胞は、生存可能で、静止した、多分化能性幹細胞であり、これらの細胞は、満期ヒト胎盤内に存在し、良好な出産および胎盤娩出後に回収することができ、結果的に、10億個もの有核細胞の回収が可能になり、5千万〜1億個の多能性および多分化能性幹細胞が得られる。
【0072】
胎盤により提供されるヒト胎盤幹細胞は、驚いたことに、胚様細胞であり、例えば、これらの細胞に次の細胞表面マーカーの存在が確認されている:SSEA3-、SSEA4-、OCT-4+およびABC-p+。好ましくは、本発明の胚様幹細胞は、OCT-4+およびABC-p+細胞表面マーカーの存在により特徴づけられる。従って、本発明は、胚供給源から単離もしくは取得されたものではないが、次のマーカー:SSEA3-、SSAE4-、OCT-4+およびABC-p+によって同定可能な幹細胞を包含する。一実施形態では、ヒト胎盤幹細胞は、MHCクラス2抗原を発現しない。
【0073】
胎盤から単離された幹細胞は均一で無菌である。さらに、幹細胞はヒトへの投与に適した形態で容易に得られ、すなわち、それらは医薬級のものである。
【0074】
本発明の方法により得られる好ましい胚様幹細胞は、OCT-4+およびABC-p+の細胞表面マーカーの存在によって同定することができる。さらに、本発明は、次のマーカーを有する胚性幹細胞も包含する:CD10+、CD38-、CD29+、CD34-、CD44+、CD45-、CD54+、CD90+、SH2+、SH3+、SH4+、SSEA3-、SSEA4-、OCT-4+およびABC-p+。このような細胞表面マーカーは、当業者には公知の方法、例えば、フローサイトメトリーに続いて、洗浄し、抗細胞表面マーカー抗体で染色することによってルーチンに調べられる。例えば、CD34またはCD38の存在を調べるためには、細胞をPBS中で洗浄した後、抗CD34-フィコエリトリンおよび抗CD38-フルオレセインイソチオシアネート(Becton Dickinson、Mountain View, CA)で二重染色する。
【0075】
別の実施形態では、胎盤バイオリアクターで培養した細胞を、コロニー形成単位アッセイにより同定して特徴づける。このアッセイは、当分野で一般に知られており、Mesen CultTM培地(stem cell Technologies, Inc. バンクーバー、ブリティッシュコロンビア)などがある。
【0076】
本発明の方法により得られる胚様幹細胞は、脂質生成、軟骨生成、骨形成、造血、筋発生、血管形成、神経発生、および肝発生などの特定の細胞系譜に沿って分化するように誘導することができる。特定の実施形態では、移植やex vivo治療プロトコルで使用できるように分化させるべく、本発明の方法に従って得られた胚様幹細胞を誘導する。特定の実施形態では、特定の細胞型に分化させた後、遺伝子工学的に操作して治療用の遺伝子産物を提供するように、本発明の方法で得られた胚様幹細胞を誘導する。特定の実施形態では、本発明の方法により得られた胚様幹細胞を、それを分化させる化合物と一緒にin vitroでインキュベートした後、分化した細胞を被験者に直接移植する。従って、本発明は、標準的培地を用いて、ヒト胎盤幹細胞を分化させる方法を包含する。さらに、本発明は、造血細胞、ニューロン細胞、繊維芽細胞、ストランド細胞(strand cell)、間葉細胞および肝細胞も包含する。
【0077】
胎盤からの収集後、胚様幹細胞は、その連続した長期培養物を得ることを目的として、胚様幹細胞と同じ胎盤由来の、または別のヒトもしくは非ヒト供給源由来の支持細胞(照射した繊維芽細胞など)上で、あるいは、このような支持細胞の培養物から取得した馴らし培地中で、培養することにより、当業者には公知の方法を用いてさらに培養してもよい。胚様幹細胞はまた、胎盤バイオリアクターからの収集前に胎盤内で、あるいは、胎盤からの回収後にin vitroで増やしてもよい。特定の実施形態では、増やそうとする胚様幹細胞を、細胞分化を抑制する薬剤に暴露するか、またはその存在下で培養する。このような薬剤は当業者には公知であり、限定するものではないが、ヒトDelta-1やヒトSerrate-1ポリペプチド(2002年1月8日発行の「分化抑制ポリペプチド」と題する、Sakanoらの米国特許第6,337,387号を参照)、白血病阻害因子(LIF)および幹細胞因子が挙げられる。細胞集団の拡大方法も当業者には公知である(例えば、2001年12月4日発行の「幹細胞のex vivo複製、造血前駆細胞培養物の最適化、ならびに、ヒトストロマ細胞の代謝、GM-CSF分泌および/またはIL-6分泌の増加のための、方法および組成物」と題する、Emersonらの米国特許第6,326,198号;2002年1月15日発行の「標的細胞集団の選択的拡大」と題する、Krausらの米国特許第6,338,942号を参照)。
【0078】
胚様幹細胞は、当業者には公知の標準的技法を用いて、生存可能性、増殖能力、および寿命について評価することができ、このような方法として、例えば、トリパンブルー排除アッセイ、フルオレセインジアセテート取込みアッセイ、ヨウ化プロピジウム取込みアッセイ(生存可能性を評価する);およびチミジン取込みアッセイ、MTT細胞増殖アッセイ(増殖を評価する)が挙げられる。寿命は、増量した培養物における集団倍加の最大数を決定するなど、当業者には公知の方法により調べることができる。
【0079】
特定の実施形態では、瀉血、灌流および/または培養した胎盤において培養した幹細胞または前駆細胞の分化をモジュレートするにあたり、1回または複数回の投与で、胎盤から収集された細胞の分化を阻害し、モジュレートし、かつ/または調節するのに十分な効果を及ぼすのに有効な用量を含む薬剤または医薬組成物を用いる。
【0080】
幹または前駆細胞の分化を誘導することができる薬剤は当業者には公知であり、限定するものではないが、下記のものが挙げられる:Ca2+、EGF、αFGF、βFGF、PDGF、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、TGF-β、サイトカイン(例えば、IL-1α、IL-1β、IFN-γ、TFN)、レチノイン酸、トランスフェリン、ホルモン(例えば、アンドロゲン、エストロゲン、インスリン、プロラクチン、トリヨードチロニン、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン)、酪酸ナトリウム、TPA、DMSO、NMF、DMF、マトリックス要素(例えば、コラーゲン、ラミニン、硫酸ヘパラン、マトリゲル(Matrigel)(商標))またはそれらの組合せ。
【0081】
細胞の分化を抑制する薬剤も当業者には公知であり、限定するものではないが、下記のものが挙げられる:ヒトDelta-1およびヒトSerrate-1ポリペプチド(2002年1月8日発行の「分化抑制ポリペプチド」と題する、Sakanoらの米国特許第6,337,387号を参照)、白血病阻害因子(LIF)および幹細胞因子。
【0082】
分化をモジュレートするのに用いられる薬剤を胎盤バイオリアクターに導入することにより、胎盤において培養する細胞の分化を誘導することができる。あるいは、この薬剤を用いて、胎盤から細胞を収集または除去した後、in vitroでの分化をモジュレートすることも可能である。
【0083】
幹細胞が特定の細胞型に分化したことを調べるには、当業者には公知の方法、例えばフローサイトメトリーまたは免疫細胞化学(例えば、組織特異的または細胞マーカー特異的抗体で細胞を染色する)などの技法を用いて形態および細胞表面マーカーの変化を測定するか、光学または共焦点顕微鏡検査法を用いて細胞の形態を調べるか、あるいは、PCRおよび遺伝子発現プロファイリングなどの公知の技法を用いて遺伝子発現の変化を測定する。
【0084】
4.4. 胚様幹細胞による幹細胞集団の補充
本発明は、胚様幹細胞と混合した幹細胞の集団に関する。本発明によれば、胚様幹細胞と混合されうる幹細胞としては、限定するものではないが、臍帯血、胎児および新生児の造血幹細胞および前駆細胞、ヒト幹細胞および骨髄由来の前駆細胞が挙げられる。本発明の好ましい実施形態では、本発明の胚様幹細胞を臍帯血と混合する。
【0085】
本発明は、あらゆる細胞型に分化する能力があるヒト胎盤幹細胞(胚様幹細胞)の単離された均質集団を提供する。このような細胞は、本発明の方法に従って幹細胞の集団(例えば、臍帯血細胞)を補充するために使用することができる。
【0086】
本発明はまた、胎盤に由来する胚様幹細胞の集団で補充された(すなわち、混合された、組み合わされた、または増強された)臍帯血細胞の集団を提供する。
【0087】
補充された集団は、全能性または多分化能性の幹細胞(例えば、CD34+/CD38+、CD34+/CD38-、またはCD34-/CD38-表現型を示す細胞)である細胞の集団を含むという点で、多岐にわたる用途を有する。
【0088】
本発明によれば、本発明の補充された幹細胞の集団は、胚様幹細胞と他の幹または前駆細胞を100,000,000:1、50,000,000:1、20,000,000:1、10,000,000:1、5,000,000:1、2,000,000:1、1,000,000:1、500,000:1、200,000:1、100,000:1、50,000:1、20,000:1、10,000:1、5,000:1、2,000:1、1,000:1、500:1、200:1、100:1、50:1、20:1、10:1、5:1、2:1、1:1、1:2、1:5、1:10、1:100、1:200、1:500、1:1,000、1:2,000、1:5,000、1:10,000、1:20,000、1:50,000、1:100,000、1:500,000、1:1,000,000、1:2,000,000、1:5,000,000、1:10,000,000、1:20,000,000、1:50,000,000または1:100,000,000の比で含有する(各集団中の有核細胞の総数を比較)。
【0089】
別の実施形態において、本発明は、幹細胞(例えば、臍帯血)を、本発明の組成物(例えば、純粋な胚様胎盤幹細胞の集団または胚様胎盤幹細胞を富化させた細胞の集団)で補充する、混合する、組み合わせる、または増強する方法を提供する。ある実施形態においては、胎盤の胚様幹細胞のアリコート(または集団)を臍帯血のアリコートに添加してから、それを必要とする患者に送達する。
【0090】
本発明はまた、臍帯血細胞の集団を胚様幹細胞の集団で補充する方法を提供する。一実施形態においては、2つの集団を物理的に混合する。この実施形態の別の態様では、2つの集団を物理的に混合してから、細胞の分化を誘導するために増殖因子(例えば、サイトカインおよび/またはインターロイキン)で処理する。この実施形態の別の態様では、臍帯血細胞および/または胚様幹細胞を増殖因子(例えば、サイトカインおよび/またはインターロイキン)で処理してから、物理的に混合する。
【0091】
本発明はまた、胚様幹細胞で補充された臍帯血細胞の集団を投与することによる、それを必要とする患者の治療方法を提供する。一実施形態において、胚様幹細胞による臍帯血細胞の集団の補充は、補充した集団を患者に投与する前に、臍帯血細胞と胚様幹細胞とを混合することによって行う。別の実施形態では、胚様幹細胞による臍帯血細胞の集団の補充を、補充した集団を患者に投与するときに行い、例えば、臍帯血細胞と胚様幹細胞を同時に投与することにより行う。別の実施形態では、胚様幹細胞による臍帯血細胞の集団の補充を、臍帯血細胞を患者に投与した後に行い、例えば、臍帯血細胞の投与とは別個に、投与前または投与後に、胚様幹細胞を投与することにより行う。
【0092】
一実施形態において、本発明は、胚様幹細胞で臍帯血細胞を補充する方法を提供し、この場合には、その混合物が1つのバッグの中に収容される。別の実施形態において、本発明は、胚様幹細胞で臍帯血細胞を補充する方法を提供し、この場合には、臍帯血細胞と胚様幹細胞とがそれぞれ別個のバッグの中に収容されている。このような「ツーバッグ」組成物は、患者に投与する前または投与するときに混合することができる。
【0093】
別の実施形態では、胎盤の胚様幹細胞のアリコート(または集団)を、臍帯血のアリコートに添加して混合する前にコンディショニングする。例えば、この実施形態の一態様では、臍帯血のアリコートに添加して混合する前に、胚様胎盤幹細胞の集団を、第4.3節で上述したように、特定の細胞系統(例えば、造血細胞、神経細胞、脂肪生成細胞、軟骨形成細胞、骨形成細胞、肝由来細胞、膵細胞、または筋原細胞系統)に分化するように誘導する。それには、例えば、胚様胎盤幹細胞の集団を、サイトカイン(例:IL-1α、IL-1β、IFN-γ、TFN)、レチノイン酸、トランスフェリン、ホルモン(例:アンドロゲン、エストロゲン、インスリン、プロラクチン、トリヨードチロニン、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン)、酪酸ナトリウム、TPA、DMSO、NMF、DMF、マトリックス要素(例えば、コラーゲン、ラミニン、硫酸ヘパラン、マトリゲル(Matrigel)(商標))またはこれらの組合せに曝す。
【0094】
この実施形態の別の態様では、胎盤の胚様幹細胞の集団を、臍帯血のアリコートに添加して混合する前に、分化を抑制する薬剤(例えば、ヒトDelta-1およびSerrate-1ポリペプチド、またはこれらの組合せ)に曝すことによりコンディショニングする。
【0095】
別の実施形態では、コンディショニングしていない胚様胎盤幹細胞のアリコート(または集団)と臍帯血のアリコートを混合し、混合した細胞の集団を、それを必要とする患者に送達する前にコンディショニングする。特定の実施形態では、胚様胎盤幹細胞と臍帯血細胞の混合集団を、先に記載したような細胞分化を誘導または抑制する薬剤によりコンディショニングする。
【0096】
特定の実施形態においては、本発明の胚様幹細胞の集団を、それを必要とする患者に投与する前に、臍帯血細胞の集団に添加するかまたは混合する。別の特定の実施形態では、本発明の胚様幹細胞の集団を、それを必要とする患者に臍帯血細胞の集団を投与している最中または投与と同時に添加するかまたは混合する。別の特定の実施形態では、本発明の胚様幹細胞の集団と臍帯血細胞の集団を、それを必要とする患者に連続的に投与する。一つの実施形態では、胚様幹細胞の集団を最初に投与し、次いで臍帯血細胞の集団を投与する。別の実施形態では、臍帯血細胞の集団を最初に投与し、次いで胎盤の胚様幹細胞の集団を投与する。
【0097】
胚様幹細胞でスパイクした臍帯血細胞の集団は、様々な条件下で培養し、増殖するように誘導し、かつ/または分化するように誘導することができ、かかる条件としては、例えば、栄養素、ビタミン、増殖因子、またはこれらの組合せを培地に導入することによって、スパイクした集団を処理することが含まれるが、これらに限らない。血清や他の増殖因子を培地に添加してもよい。増殖因子は通常タンパク質であり、限定するものではないが、サイトカイン、リンホカイン、インターフェロン、コロニー刺激因子(CSF)、ケモカイン、およびインターロイキンが含まれる。使用できる他の増殖因子には、リガンド、幹細胞因子、トロンボポエチン(Tpo)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、白血病阻害因子、塩基性繊維芽細胞増殖因子、胎盤由来増殖因子、および上皮増殖因子を含めて、組換えヒト造血増殖因子が含まれる。一つの実施形態では、補充した集団を、様々な細胞型への分化を誘導する増殖因子で処理する。別の実施形態では、スパイクした集団を、特定の細胞型への分化を誘導する増殖因子で処理する。別の実施形態では、補充した集団を、特定の細胞型への分化を阻止または抑制する増殖因子で処理する。
【0098】
本発明の特定の実施形態において、臍帯血細胞の集団を補充する方法は、(a)胚様幹細胞の分化を誘導し、(b)その胚様幹細胞を臍帯血細胞の集団と混合し、そして(c)その混合物を、それを必要とする患者に投与することを含む。
【0099】
本発明の他の実施形態において、臍帯血細胞の集団を補充する方法は、(a)胚様幹細胞を臍帯血細胞の集団と混合し、(b)臍帯血細胞と胚様幹細胞のスパイク集団の混合物の分化を誘導し、そして(c)その混合物を、それを必要とする患者に投与することを含む。
【0100】
本発明の他の実施形態において、臍帯血細胞の集団を補充する方法は、(a)胚様幹細胞で補充された臍帯血細胞の混合物を、それを必要とする患者に投与し、そして(b)その混合物の分化を誘導し、そして(c)その混合物を、それを必要とする患者に投与することを含む。
【0101】
特定の実施形態においては、幹または前駆細胞を、当技術分野で周知の方法により増殖因子に曝すことによって、特定の細胞型に分化するように誘導する。特定の実施形態において、増殖因子はGM-CSF、IL-4、Flt3L、CD40L、IFN-α、TNF-α、IFN-γ、IL-2、IL-6、レチノイン酸、塩基性繊維芽細胞増殖因子、TGF-β-1、TGF-β-3、肝細胞増殖因子、上皮増殖因子、カルジオトロピン-1、アンギオテンシノーゲン、アンギオテンシンI(AI)、アンギオテンシンII(AII)、AII AT2 タイプ2受容体アゴニスト、またはその類似体もしくは断片である。
【0102】
一つの実施形態においては、幹または前駆細胞を、当技術分野で周知の方法に従って、例えば、第5.4.1節に記載の方法によりβ-メルカプトエタノールまたはDMSO/ブチル化ヒドロキシアニソールに曝すことにより、神経細胞に分化するように誘導する。
【0103】
別の実施形態においては、幹または前駆細胞を、当技術分野で周知の方法に従って、例えば、第5.4.2節に記載の方法によりデキサメタゾン、インドメタシン、インスリンおよびIBMXに曝すことにより、脂肪細胞に分化するように誘導する。
【0104】
別の実施形態においては、幹または前駆細胞を、当技術分野で周知の方法に従って、例えば、第5.4.3節に記載の方法によりTGF-β-3に曝すことにより、軟骨細胞に分化するように誘導する。
【0105】
別の実施形態においては、幹または前駆細胞を、当技術分野で周知の方法に従って、例えば、第5.4.4節に記載の方法によりデキサメタゾン、アスコルビン酸-2-リン酸およびβ-グリセロリン酸に曝すことにより、骨細胞に分化するように誘導する。
【0106】
別の実施形態においては、幹または前駆細胞を、当技術分野で周知の方法に従って、例えば、第5.4.5節に記載の方法によりIL-6+/-IL-15に曝すことにより、肝細胞に分化するように誘導する。
【0107】
別の実施形態においては、幹または前駆細胞を、当技術分野で周知の方法に従って、例えば、第5.4.6節に記載の方法により塩基性繊維芽細胞増殖因子およびトランスフォーミング増殖因子β-1に曝すことにより、膵細胞に分化するように誘導する。
【0108】
別の実施形態においては、幹または前駆細胞を、当技術分野で周知の方法に従って、例えば、第5.4.7節に記載の方法によりレチノイン酸、塩基性繊維芽細胞増殖因子、TGF-β-1および上皮増殖因子に曝すことにより、カルジオトロピン-1に曝すことにより、またはヒト心筋層抽出物に曝すことにより、膵細胞に分化するように誘導する。
【0109】
別の実施形態では、胚様幹細胞を刺激して、免疫グロブリン、ホルモン、酵素のような生物活性分子を産生させる。
【0110】
別の実施形態では、例えば、エリトロポエチン、サイトカイン、リンホカイン、インターフェロン、コロニー刺激因子(CSF)、ケモカイン、インターロイキン;リガンド、幹細胞因子、トロンボポエチン(Tpo)、インターロイキン、および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)またはその他の増殖因子などの組換えヒト造血増殖因子の投与により、胚様幹細胞を刺激して増殖させる。
【0111】
別の実施形態では、胎盤からの収集の前または後のいずれかに、例えば、アデノウイルスまたはレトロウイルスベクターのようなウイルスベクターを用いて、あるいは、リポソームまたは化学物質が媒介するDNA取込みなどの機械的手段により、胚様幹細胞を遺伝子工学的に操作する。
【0112】
当業者には公知の方法、例えば、トランスフェクション、形質転換、形質導入、エレクトロポレーション、感染、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム沈降、リポソーム、LPOFECTIN(商標)、リソソーム融合、合成カチオン脂質、遺伝子銃またはDNAベクター運搬体を用いて、目的とする細胞にトランスジーンを含むベクターを導入し、それにより、このトランスジーンを娘細胞(例えば、胚様幹細胞の分裂により産生される娘胚様幹細胞または前駆細胞)に伝達することができる。哺乳動物細胞の形質転換またはトランスフェクションの各種技法については、Keownら、1990, Methods Enzymol. 185: 527-37;Sambrookら、2001, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor laboratory Press, N.Y.を参照されたい。
【0113】
好ましくは、細胞の核膜または他の存在する細胞または遺伝構造を損傷するものでない限り、どのような技法によりトランスジーンを導入してもよい。特定の実施形態では、マイクロインジェクションにより核の遺伝物質にトランスジーンを導入する。細胞および細胞構造体のマイクロインジェクションは当分野では一般に知られており、実施されている。
【0114】
培養した哺乳動物細胞(例えば、胚様幹細胞)の安定したトランスフェクションの場合、小割合の細胞しか外来DNAをそれらのゲノムに組み込むことができない。組込みの効率は、使用したベクターおよびトランスフェクション技法に左右される。組込み体を同定および選択するためには、一般に、選択マーカー(例えば、抗生物質に対する耐性)をコードする遺伝子を目的の遺伝子配列と一緒に、宿主である胚様幹細胞に導入する。好ましい選択マーカーとして、G418、ヒグロマイシンおよびメトトレキセートのような薬物に耐性を賦与するものが挙げられる。導入された核酸で安定にトランスフェクションされた細胞は、薬物選択により同定することができる(例えば、選択可能なマーカー遺伝子を組み込んだ細胞は生存するのに対し、他の細胞は死滅する)。このような方法は、被験者もしくは患者に組換え細胞を導入または移植する前に、哺乳動物細胞(例えば、胚様幹細胞)に相同的組換えを実施する方法において、特に有用である。
【0115】
多数の選択系を用いて、形質転換された宿主胚様細胞を選択することができる。特に、ベクターは、検出可能または選択可能なマーカーを含んでいてよい。他の選択方法として、限定するものではないが、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wiglerら、1977, Cell 11:223)、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(SzybalskaおよびSzybalski, 1962, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 48: 2026)、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowyら、1980, Cell 22: 817)遺伝子などの別のマーカーの選択が挙げられ、これらはそれぞれtk-、hgprt-またはaprt-細胞で用いることができる。また、代謝拮抗物質耐性を下記の遺伝子の選択基準として用いることができる:メトトレキセートに耐性を賦与するdhfr(Wiglerら、1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 3567;O'Hareら、1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:1527);ミコフェノール酸に耐性を賦与するgpt(MulliganおよびBerg, 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 2072);アミノグリコシドG-418に耐性を賦与するneo(Colberre-Garapinら、1981, J. Mol. Biol. 150: 1);およびヒグロマイシンに耐性を賦与するhygro(Santerreら、1984, Gene 30: 147)。
【0116】
好ましくは、ランダム組込みにより、トランスジーンを目的細胞のゲノムに組み込む。別の実施形態では、トランスジーンは、方向づけられた方法、例えば、定方向相同的組換え(すなわち、目的細胞のゲノムにおける目的遺伝子の「ノックイン」または「ノックアウト」)(Chappel、米国特許第5,272,071号;および1991年5月16日公開のPCT公開番号WO 91/06667;1995年11月7日発行のCapecchiらの米国特許第5,464,764号;1997年5月6日発行のCapecchiらの米国特許第5,627,059号;1996年1月30日発行のCapecchiらの米国特許第5,487,992号)により組み込むことができる。
【0117】
相同的組換えにより標的遺伝子改変を含む細胞を作製する方法は当業者には公知である。このような構築物は、所望の遺伝的改変を有する目的遺伝子の一部を少なくとも含み、また、標的遺伝子座と相同性の領域(すなわち、宿主のゲノムにおける標的遺伝子の内在性コピー)を含む。相同的組換えに用いられるものとは対照的に、ランダム組込み用のDNA構築物は、組換えを媒介するのに、相同性の領域を含んでいなくてもよい。マーカーをターゲッティング構築物またはランダム構築物に含有させることにより、トランスジーンの挿入について正および負の選択を実施することができる。
【0118】
相同的組換え細胞、例えば、胎盤で培養した相同的組換え胚様幹細胞、内在性胎盤細胞または外因性細胞を作製するためには、相同的組換えベクター(目的の遺伝子が、その5’および3’末端で、標的細胞のゲノムに内在する遺伝子配列により挟まれている)を作製し、これによって、ベクターが担持する目的遺伝子と、標的細胞のゲノム中の内在性遺伝子との間で、相同的組換えが起こるようにする。付加的なフランキング核酸配列は、標的細胞のゲノム中の内在性遺伝子との相同的組換えを良好に達成するのに十分な長さのものである。典型的には、数キロベースのフランキングDNA(5'および3'末端の両方で)をベクターに含有させる。相同的組換えベクターおよび組換え幹細胞から相同的組換え動物を作製する方法は、当業者には公知である(例えば、ThomasおよびCapecchi、1987, Cell 51: 503;Bradley, 1991, Curr. Opin. Bio/Technol. 2: 823-29;およびPCT公開番号WO 90/11354、WO 91/01140およびWO 93/04169を参照)。
【0119】
一実施形態では、本発明の方法に従って胎盤において培養した外因性細胞のゲノムは、相同的組換えまたはランダム組込みによる遺伝子ターゲッティングの標的となる。
【0120】
特定の実施形態では、Bonadioらの方法(1999年8月24日発行の「骨細胞への多重遺伝子導入のための方法および組成物」と題する米国特許第5,942,496号;1995年8月24日公開の「骨細胞を刺激する方法および組成物」と題するPCT WO95/22611)を用いて、胎盤で培養した幹細胞、前駆細胞または外因性細胞、例えば、骨前駆細胞などの目的細胞に核酸を導入する。
【0121】
4.5 胚様幹細胞および補充した幹細胞集団の用途
胚様幹細胞は、2002年2月13日出願の継続中の米国特許出願第01/076,180号に記載される方法に従って、灌流した胎盤から得ることができる。
【0122】
胎盤の幹細胞(胚様幹細胞)は、ex vivoまたはin vivoのいずれかで、特定の細胞型に分化するように誘導することができる。例えば、多分化能性胚様幹細胞を損傷器官に注入し、in vivoでの器官新生および傷害の修復を達成することができる。このような傷害は下記を含む状態および障害によるものが考えられる:限定するものではないが、心筋梗塞、発作障害、多発性硬化症、卒中、低血圧、心停止、虚血症、炎症、加齢による認識機能の低下、放射線による損傷、脳性麻痺、神経変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、リー病、AIDS痴呆、記憶喪失、筋萎縮性側索硬化症、虚血性腎疾患、脳または脊髄外傷、心肺バイパス、緑内障、網膜虚血、または網膜外傷。
【0123】
特定の実施形態では、胎盤から単離した胚様幹細胞を、単独でまたは幹もしくは前駆細胞集団との組合せ(すなわち、本発明の細胞組成物)で、自己または異種の酵素置換治療において用いて、下記を含む疾患または状態を治療することができる:限定するものではないが、リソソーム蓄積症、例えばテイ−サックス、ニーマン−ピック、ファブリー、ゴーシェ、ハンター、およびフルラー症候群など、ならびに、その他のガングリオシドーシス、ムコ多糖症、および糖原病。
【0124】
他の実施形態では、胚様幹細胞を、単独でまたは幹もしくは前駆細胞集団との組合せで、遺伝子治療における自己または異種トランスジーン担体として用いることにより、先天性代謝異常、副腎脳白質ジストロフィー、嚢胞性繊維症、糖原貯蔵症、甲状腺低下、鎌状赤血球貧血、ペアソン症候群、ポーンプ病、フェニルケトン尿症(PKU)、ポルフィリン症、カエデシロップ尿病、ホモシスチン尿症、ムコ多糖症、慢性肉芽腫性疾患、チロシン血症およびテイ−サックス病を改善したり、あるいは、癌、腫瘍またはその他の病状を治療したりすることができる。
【0125】
他の実施形態では、細胞組成物を下記を含む自己もしくは異種の組織再生/置換療法またはプロトコルに用いることができる:限定するものではないが、角膜上皮欠損の治療、軟骨修復、顔の皮膚擦傷法、粘膜、鼓膜、腸内層、神経構造(例えば、網膜、基部膜における聴覚ニューロン、嗅覚上皮における嗅覚ニューロン)、皮膚の火傷および創傷修復、あるいは、その他の損傷または罹患した器官もしくは組織の再構成。
【0126】
本発明の方法を用いて得られた多数の胚様幹細胞および/または前駆細胞は、特定の実施形態において、多量の骨髄提供の必要性を減らすことができる。骨髄移植のためには、患者の体重1キログラム当たり1×108〜2×108個の骨髄単核細胞を注入しなければならない(すなわち、70kgのドナーであれば約70 mlの骨髄)。70 mlを得るためには集中的な骨髄提供を必要とし、提供過程で相当量の血液が喪失する。特定の実施形態では、少量の骨髄提供(例えば、7〜10 ml)からの細胞を胎盤バイオリアクターにおいて増殖させてから受容者に注入する。
【0127】
さらには、少数の幹細胞および前駆細胞は通常、血流中を循環している。別の実施形態では、このような外因性幹細胞または外因性前駆細胞をフェレーシスにより収集する。フェレーシスは血液を採取し、1以上の成分を選択的に除去し、残りの血液をドナーに再注入する方法である。フェレーシスにより回収した外因性細胞は、胎盤バイオリアクターにおける増殖で増やすことができるため骨髄提供の必要性が完全になくなる。
【0128】
化学療法による治療を停止している間に血液細胞は再生するが、その間にも癌は成長・増殖し、恐らく自然選択により、化学療法薬に対する耐性が強くなる。従って、化学療法による治療期間を長くすると同時に、治療停止期間を短くするほど、癌をうまく死滅させる勝算が高くなる。化学療法による治療の停止期間を短くするために、本発明の方法に従い収集した胚様幹細胞または前駆細胞を、単独でまたは他の幹細胞もしくは前駆細胞の集団との組合せで、患者に導入することができる。このような治療によって、患者が低い血液細胞数を呈示する時間が短くなり、従って、化学療法による治療をこれまでより早く再開することができる。
【0129】
本発明の方法に従い胎盤から取得した胚様幹細胞、前駆細胞、外来細胞、または遺伝子操作細胞は、単独でまたは他の幹細胞もしくは前駆細胞の集団との組合せで、in vivoで組織または器官の製造に用いることができる。本発明の方法は、胎盤から取得した細胞(例えば、胚様幹細胞、前駆細胞、外来の幹または前駆細胞)を用いてマトリックスに接種し、適切な条件下で培養することにより、細胞を分化させ、マトリックスに集団形成させることを包含する。本発明の方法により得られる組織および器官は、研究や治療目的など、多様な用途に用いることができる。
【0130】
本発明の胚様幹細胞および補充した幹細胞の集団は、非常に多様な予防または治療プロトコルに用いることができ、これらのプロトコルでは、幹細胞または前駆細胞集団のような所望の細胞集団の植付け(engraftment)、移植もしくは注入により、身体の組織または器官が増大、修復または置換される。本発明の胚様幹細胞および補充した幹細胞の集団を用いて、既存の組織を置換または増大したり、新しいまたは改変した組織を導入したり、あるいは、生物学的組織または構造を一緒に結合したりすることができる。また、本発明の胚様幹細胞および補充した幹細胞の集団は、一般に胚性幹細胞を用いる本明細書に記載の治療プロトコルにおいて、胚性幹細胞の代わりに用いることができる。
【0131】
本発明の好ましい実施形態では、胚様幹細胞および補充した幹細胞集団を自己および同種異系(一致したおよび一致しないHLA型造血移植片を含む)として用いることができる。同種異系造血移植片として胚様幹細胞を使用する際には、1998年9月1日発行の米国特許第5,800,539号;および1998年9月15日発行の米国特許第5,806,529号(両者とも、参考として本明細書に組み入れる)に記載されているような、ドナー細胞の免疫拒絶を抑制するために宿主を処置しなければならないことがある。
【0132】
例えば、本発明の胚様幹細胞および補充した幹細胞集団を治療移植プロトコルで用いて、例えば、肝臓、膵臓、腎臓、肺、神経系、筋肉系、骨、骨髄、胸腺、脾臓、粘液様組織、性腺、または毛髪の幹細胞もしくは前駆細胞を増大または置換することができる。
【0133】
胚様幹細胞および補充した幹細胞集団は、特定クラスの前駆細胞(例えば、軟骨細胞、肝細胞、造血細胞、膵臓実質細胞、神経芽細胞、筋肉前駆細胞など)に代わり、前駆細胞が一般に用いられる治療または研究プロトコルで用いることができる。
【0134】
本発明の胚様幹細胞および補充した幹細胞集団は、軟骨、腱、または靭帯の増大、修復または置換に用いることができる。例えば、特定の実施形態では、プロテーゼ(例えば、股関節プロテーゼ)を、本発明の胚様幹細胞から成長させた置換軟骨組織構築物でコーティングする。別の実施形態では、胚様幹細胞から成長させた軟骨組織で関節(例えば、膝)を再構成する。軟骨組織構築物は、多種の関節の主要な再構築手術に用いることができる(プロトコルについては、例えば、Resnick, D.、およびNiwayama, G.編、1988, Diagnosis of Bone and Joint Disorders、第2版、W. B. Saunders Co.を参照)。
【0135】
本発明の胚様幹細胞および補充した幹細胞集団を用いて、外傷、代謝障害または疾患による組織および器官の損傷を修復することができる。このような実施形態では、患者に胚様幹細胞を、単独でまたは他の幹もしくは前駆細胞集団と組み合わせて、投与することにより、疾患の結果損傷した組織または器官を再生または復元させ、例えば、化学療法または放射線を受けた後の免疫系を増強したり、心筋梗塞後の心臓組織を修復したりすることができる。
【0136】
本発明の胚様幹細胞および補充した幹細の集団を用いて、骨髄移植における骨髄細胞を増大または置換することができる。ヒト自己および同種異系骨髄移植は現在、白血病、リンパ腫のような疾患や、その他の生命を脅かす障害の治療法として用いられている。しかし、これらの方法の欠点は、移植に十分な細胞を確保するために、多量のドナー骨髄を採取しなければならないことである。
【0137】
本発明の胚様幹細胞および補充した幹細胞集団は、幹細胞および前駆細胞を提供することができ、これによって、多量の骨髄提供の必要性が減少する。また、本発明の方法によれば、少量の骨髄提供を得てから、胎盤において培養および増殖することにより幹細胞および前駆細胞の数を増加させた後で、受容者に注入または移植する。
【0138】
特定の実施形態では、胚様幹細胞および補充した幹細胞集団は、自己または異種酵素置換療法に用いて、下記を含む特定の疾患または状態を治療することができる:限定するものではないが、リソソーム蓄積症、例えばテイ−サックス、ニーマン−ピック、ファブリー、ゴーシェ、ハンター、およびフルラー症候群など、ならびに、その他のガングリオシドーシス、ムコ多糖症、および糖原病。
【0139】
他の実施形態では、細胞を遺伝子治療法で、自己または異種トランスジーン担体として用いることにより、副腎脳白質ジストロフィー、嚢胞性繊維症、糖原貯蔵症、甲状腺低下、鎌状赤血球貧血、ペアソン症候群、ポーンプ病、フェニルケトン尿症(PKU)、およびテイ−サックス病、ポルフィリン症、カエデシロップ尿病、ホモシスチン尿症、ムコ多糖症、慢性肉芽腫性疾患およびチロシン血症などの先天性代謝異常を改善したり、あるいは、癌、腫瘍またはその他の病的な新生物状態を治療したりすることができる。
【0140】
他の実施形態では、下記を含む自己もしくは異種組織再生または置換治療法もしくはプロトコルに用いることができる:限定するものではないが、角膜上皮欠損の治療、軟骨修復、顔の皮膚擦傷法、粘膜、鼓膜、腸内層、神経構造(例えば、網膜、基部膜における聴覚ニューロン、嗅覚上皮における嗅覚ニューロン)、皮膚の火傷および創傷修復、頭皮(毛髪)移植、あるいは、その他の損傷または罹患した器官もしくは組織の再構成。
【0141】
本発明の方法を用いて得られた多数の胚様幹細胞および/または前駆細胞は、特定の実施形態において、多量の骨髄提供の必要性を減らすことができる。骨髄移植のためには、患者の体重1キログラム当たり1×108〜2×108個の骨髄単核細胞を注入しなければならない(すなわち、70kgのドナーであれば約70 mlの骨髄)。70 mlを得るためには、集中的な提供を必要とし、しかも、提供過程で相当量の血液が失われる。特定の実施形態では、少量の骨髄提供(例えば、7〜10 ml)からの細胞を胎盤バイオリアクターにおいて増殖した後で、受容者に注入する。
【0142】
別の実施形態では、本発明の胚様幹細胞および補充した幹細胞集団を、化学療法に加える補足的治療として用いる。癌細胞をターゲッティングし、破壊するのに用いられるほとんどの化学療法薬は、すべての増殖中の細胞(すなわち、細胞分裂している細胞)を死滅させることにより作用する。骨髄は身体において最も活発に増殖している組織の1つであるため、造血幹細胞は化学療法薬により損傷を受けたり、破壊されたりすることが多く、その結果、血液細胞生産が減少または停止してしまう。化学療法は、所定期間継続したら停止し、患者の造血系が血液細胞供給を補充してから、再開しなければならない。以前には静止状態であった幹細胞が増殖し、白血球数を許容可能なレベルまで増加させ、化学療法を再開できるまでには、1ヶ月以上を要すると考えられる(再開しても、骨髄幹細胞は再び破壊される)。
【0143】
化学療法による治療を停止している間、血液細胞は再生するが、その間にも癌は成長し、恐らく自然選択により、化学療法薬に対する耐性が強くなる。従って、化学療法による治療期間を長くすると同時に、治療を停止する期間を短くするほど、癌を確実に死滅させる勝算が高くなる。化学療法による治療の間隔を短くするために、本発明の方法に従い収集した胚様幹細胞または前駆細胞を患者に導入することができる。このような治療によって、患者が低い血液細胞数を呈示する時間が短くなるため、化学療法治療をこれまでより早く再開することができる。
【0144】
別の実施形態では、ヒト胎盤幹細胞を用いて、慢性肉芽腫性疾患のような遺伝病を治療または予防することができる。
【0145】
4.6. 医薬組成物
本発明は、本発明の胚様幹細胞および補充した幹細胞集団を含有する医薬組成物を包含する。本発明は、コンディショニングしたまたはしてないヒト前駆幹細胞の移植前または後に、1回または複数回投与して、胎盤由来のヒト多分化能性および多能性前駆幹細胞が1以上の細胞系統、例えば中胚葉、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞、筋細胞、血管細胞、神経細胞、内皮細胞、肝細胞、腎細胞、膵細胞および/または造血系列細胞に分化するのを阻害し、モジュレートし、かつ/または調節するのに十分な効果を及ぼすことができる、有効な1回量および/または複数回量を含む医薬組成物を包含する。
【0146】
この実施形態によれば、本発明の胚様幹細胞および補充した幹細胞集団は注射液として製剤化することができる(例えば、PCT WO96/39101、参考としてその全文を本明細書に組み入れる)。別の実施形態では、本発明の細胞および組織は、米国特許第5,709,854号;第5,516,532号;第5,654,381号(それぞれ、参考としてその全文を本明細書に組み入れる)に記載されているように、重合可能なまたは架橋性のヒドロゲルを用いて、製剤化することができる。胚様幹細胞は胎盤から取得したままで投与してもよいし、臍帯血にスパイクして混合細胞組成物として投与してもよい。あるいは、個体に投与するための生理的に許容されるバッファーまたは液体に入れてもよい。
【0147】
本発明はまた、高濃度(またはより大きな集団)の均質な胚様幹細胞を含む医薬組成物を包含し、この場合には、移植および他の用途に用いるため、1以上のこれらの細胞集団を他の幹または前駆細胞と共に、あるいは他の幹または前駆細胞との混合物として用いる。他の幹または前駆細胞としては、以下のものが含まれる:限定するものではないが、脂質生成、軟骨形成、骨形成、造血、筋原性、血管原性、神経原性、および肝由来の幹細胞;間葉幹細胞、ストロマ細胞、内皮細胞、肝細胞、ケラチノサイト、ならびに特定の細胞型、組織または器官(神経細胞、ミエリン、筋肉、血液、骨髄、皮膚、心臓、結合組織、肺、腎臓、肝臓、および膵島細胞などの膵臓を含むが、これらに限らない)の幹または前駆細胞。
【0148】
一つの実施形態において、本発明は、高濃度(またはより大きな集団)の均質な造血幹細胞(CD34+/CD38-細胞およびCD34-/CD38-細胞を含むが、これらに限らない)を含む医薬組成物を提供する。移植および他の用途に用いるため、1以上のこれらの細胞集団を他の幹細胞と共に、あるいは他の幹細胞との混合物として用いることができる。特定の実施形態では、医薬組成物は本発明の胎盤の胚様幹細胞と臍帯血造血細胞(すなわち、CD34+/CD38+造血細胞)を含有する。
【0149】
1以上のこれらの細胞集団は、移植および他の用途に用いるため、臍帯血造血細胞(すなわち、CD34+/CD38+造血細胞)と共に、あるいは前記造血細胞との混合物として用いることができる。
【0150】
一つの実施形態では、本発明は、胎盤の胚様幹細胞を含む有核細胞の異種集団を提供する。特定の実施形態では、有核細胞の異種集団(純粋な集団ではないCD34+細胞と胎盤の胚様幹細胞)が好適である。
【0151】
別の実施形態では、本発明は、細胞(例えば、臍帯血細胞および胎盤の胚様幹細胞)の混合集団を提供する。混合細胞集団は凍結してもしなくてもよい。このような混合集団を1つの容器(例えば、1つのバッグまたはシリンジ)に入れて保存したり、かつ/または使用することができる。
【0152】
別の実施形態では、本発明は、異なる細胞型(例えば、臍帯血細胞および胎盤の胚様幹細胞)の2以上の別個の集団を提供する。それぞれ別個の集団は、1つの型の細胞または細胞集団を含む別々の容器、例えば1つのバッグ(例えば、Baxter、Becton-Dickinson、Medcep、National Hospital ProductsまたはTerumoから入手できる血液保存バッグ)またはシリンジに入れて保存したり、かつ/または使用することができる。この実施形態の特定の態様では、本発明は、投与前に混合される異なる細胞型の別個の容器を提供する。かかる細胞は凍結してもしなくてもよい。
【0153】
特定の実施形態においては、臍帯血細胞を1つのバッグに収容し、胎盤の胚様幹細胞を別のバッグに収容する。
【0154】
別の実施形態において、本発明は、凍結する前に「コンディショニング」される胎盤の胚様幹細胞を提供する。
【0155】
別の実施形態においては、胎盤の胚様幹細胞を含むがこれに限らない細胞の集団を、標準的な方法に従って赤血球および/または顆粒球を取り除くことでコンディショニングし、結果的に、胎盤の胚様幹細胞を富化させた有核細胞の集団が残存する。このような富化させた胚様胎盤幹細胞の集団は凍結させないで使用してもよいし、あとで使用するために凍結させてもよい。細胞の集団を凍結させる場合には、凍結前の富化細胞集団に標準的な低温保存剤(例えば、DMSO、グリセロール、Epilife(商標)細胞凍結媒体(Cascade Biologics))を添加する。
別の実施形態においては、胚様胎盤幹細胞を含むがこれに限らない細胞の集団を、凍結・解凍した後に、赤血球および/または顆粒球を取り除くことでコンディショニングしてもよい。
【0156】
本発明によれば、細胞分化を誘導する薬剤を使用して、胚様幹細胞の集団をコンディショニングすることができる。特定の実施形態においては、容器内の細胞の集団に、分化を誘導する薬剤を添加するが、かかる薬剤には、以下のものが含まれる:Ca2+、EGF、αFGF、βFGF、PDGF、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、TGF-β、サイトカイン(例えば、IL-1α、IL-1β、IFN-γ、TFN)、レチノイン酸、トランスフェリン、ホルモン(例えば、アンドロゲン、エストロゲン、インスリン、プロラクチン、トリヨードチロニン、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン)、酪酸ナトリウム、TPA、DMSO、NMF、DMF、マトリックス要素(例えば、コラーゲン、ラミニン、硫酸ヘパラン、マトリゲル(Matrigel)(商標))またはそれらの組合せ。
【0157】
別の実施形態においては、胚様幹細胞の集団に細胞分化を抑制する薬剤を添加することができる。特定の実施形態では、容器内の細胞の集団に、分化を抑制する薬剤を添加するが、かかる薬剤には、以下のものが含まれる:ヒトDelta-1やヒトSerrate-1ポリペプチド(2002年1月8日発行の「分化抑制ポリペプチド」と題する、Sakanoらの米国特許第6,337,387号を参照)、白血病阻害因子(LIF)、幹細胞因子およびそれらの組合せ。
【0158】
特定の実施形態においては、胚様幹細胞の1以上の集団を、それを必要とする患者に送達する。特定の実施形態では、新鮮な(決して凍結されていない)細胞の2以上の集団を1つの容器または1つのデリバリーシステムから送達する。
【0159】
別の実施形態においては、凍結・解凍した細胞の2以上の集団を1つの容器または1つのデリバリーシステムから送達する。
【0160】
別の実施形態においては、新鮮な(決して凍結されていない)細胞の2以上の集団のそれぞれを1つの容器または1つのデリバリーシステムに移して、そこから送達する。別の実施形態では、凍結・解凍した細胞の2以上の集団のそれぞれを1つの容器または1つのデリバリーシステムに移して、そこから送達する。これらの実施形態の別の態様では、各集団を異なる静注用バッグ(例えば、Baxter、Becton-Dickinson、Medcep、National Hospital ProductsまたはTerumoから入手可能)から送達する。各容器(例えば、静注用バッグ)の内容物は別個のデリバリーシステムから送達してもよいし、各容器をピギーバック輸送してそれらの内容物を一緒にして混合してから、1つのデリバリーシステムで送達してもよい。例えば、2以上の細胞集団を共通のフローライン(例えば、チューブ)に供給し、かつ/またはその中で混合するか、あるいはそれらを共通の容器(例えば、チャンバーまたはバッグ)に供給し、かつ/またはその中で混合することができる。
【0161】
本発明によれば、2以上の細胞集団は投与の前、投与の間もしくは投与時に一緒にすることができ、また同時に送達することもできる。
【0162】
一つの実施形態では、kgあたり少なくとも1.7×107個の有核細胞を、それを必要とする患者に送達する。好ましくは、kgあたり少なくとも2.5×107個の有核細胞を、それを必要とする患者に送達する。
【0163】
一つの実施形態において、本発明は、被験者の疾患または障害を治療または予防する方法を提供し、この方法は、そのような治療または予防を希望する被験者に、治療に有効な量の本発明の胚様幹細胞または補充した細胞集団を投与することを含んでなる。
【0164】
別の実施形態において、本発明は、被験者の疾患または障害を治療または予防する方法を提供し、この方法は、そのような治療または予防を希望する被験者に、治療に有効な量の本発明の胚様幹細胞を投与することを含んでなる。
【0165】
本発明の胚様幹細胞は、炎症を経験している個体に投与したとき、抗炎症効果を奏すると予想される。好ましい実施形態では、本発明の胚様幹細胞または補充した細胞集団を用いて、炎症が原因で起こるまたは炎症を伴う疾患、症状または障害を治療することができる。炎症はどのような器官または組織に存在するものであってもよく、例えば、筋肉;脳、脊髄、末梢神経系を含めた神経系;心臓の組織を含めた血管組織;膵臓;腸または消化管の他の器官;肺;腎臓;肝臓;生殖器官;内皮組織、または内胚葉組織に存在しうる。
【0166】
また、本発明の胚様幹細胞または補充した細胞集団を用いて、自己免疫障害または免疫系関連障害(炎症を伴うものを含む)を治療することもできる。したがって、特定の実施形態では、本発明は、自己免疫疾患または症状を有する個体を治療する方法を提供し、この方法は、そのような個体に、治療に有効な量の本発明の胚様幹細胞または補充した細胞集団を投与することを含んでなる。かかる疾患または障害は、限定するものではないが、糖尿病、筋萎縮性側索硬化症、重症筋無力症、糖尿病性神経障害または狼瘡(lupus)でありうる。関連の実施形態では、本発明の胚様幹細胞または補充した細胞集団を用いて、慢性または急性アレルギーのような免疫関連障害を治療することができる。
【0167】
特定の実施形態において、疾患または障害には、限定するものではないが、本明細書に記載の疾患または障害が含まれ、例えば、再生不良性貧血、脊髄形成異常、心筋梗塞、痙攣障害、多発性硬化症、発作、低血圧、心停止、虚血、炎症、加齢に関係した認知機能の低下、放射線による損傷、脳性麻痺、神経変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、リー病(Leigh disease)、エイズ痴呆、記憶低下、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、虚血性腎疾患、脳または脊髄外傷、心臓-肺バイパス、緑内障、網膜の虚血、網膜の外傷、リソソーム蓄積症、例えばテイ−サックス、ニーマン−ピック、ファブリー、ゴーシェ、ハンター、およびフルラー症候群など、ならびに、その他のガングリオシドーシス、ムコ多糖症、糖原病、先天性代謝異常、副腎脳白質ジストロフィー、嚢胞性繊維症、糖原貯蔵症、甲状腺低下、鎌状赤血球貧血、ペアソン症候群、ポーンプ病、フェニルケトン尿症(PKU)、ポルフィリン症、カエデシロップ尿病、ホモシスチン尿症、ムコ多糖症、慢性肉芽腫性疾患、チロシン血症、テイ−サックス病、癌、腫瘍、またはその他の病的もしくは腫瘍性の症状がある。
【0168】
他の実施形態において、細胞は外傷(特に、炎症を伴う外傷)が原因の、どのような種類の損傷の治療にも使用することができる。そのような外傷に関係した症状の例としては、中枢神経系(CNS)の損傷、例えば、脳、脊髄またはCNSを取り囲む組織の損傷、末梢神経系(PNS)の損傷、または身体の他の部分の損傷がある。そのような外傷は事故によって引き起こされたり、外科手術や血管形成術のような医学的処置の正常または異常な結果であったりする。外傷は、例えば発作や静脈炎におけるように、血管の破裂または閉塞と関係することがある。特定の実施形態において、細胞は自己もしくは異種の組織再生または置換療法に使用することができ、これらには、限定するものではないが、角膜上皮欠損の治療、軟骨修復、顔面の皮膚擦傷法、粘膜、鼓膜、腸内層、神経構造(例えば、網膜、基底板における聴覚ニューロン、嗅覚上皮における嗅覚ニューロン)、皮膚の火傷および創傷修復、あるいは、その他の損傷したまたは罹患した器官もしくは組織の再構成が含まれる。
【0169】
特定の実施形態において、疾患または障害は再生不良性貧血、脊髄形成異常、白血病、骨髄障害、または造血疾患もしくは障害である。別の実施形態では、被験者はヒトである。
【0170】
別の実施形態において、本発明は、炎症と関連したまたは炎症が原因で起こる疾患、障害または症状を有する個体の治療方法を提供する。他の実施形態では、本発明は、神経学的疾患、障害または症状を有する個体の治療方法を提供する。さらに特定した実施形態では、前記神経学的疾患はALSである。さらに特定した別の実施形態では、前記神経学的疾患はパーキンソン病である。別の特定した実施形態では、前記疾患は血管または心血管疾患である。さらに特定した実施形態では、前記疾患はアテローム性動脈硬化症である。別の特定した実施形態では、前記疾患は糖尿病である。
【0171】
特定の実施形態において、本発明の医薬組成物は、胚様胎盤幹細胞が第4.4節に記載したように添加されている臍帯血のアリコートを含有する。
【0172】
多くの胚様幹細胞または補充した細胞集団は、いったん投与されると、宿主に定着して長期「コロニー」を形成することができる。結果的に、これは本質的にキメラである宿主をもたらす。他の遺伝的背景においてキメラは一般に力強くかつ回復力に富むので、このようなキメリズムは宿主の健康および幸福を高めると予想される。したがって、胚様幹細胞は特定の疾患、障害または症状に苦しんでいる個体だけでなく、全体的な健康および幸福を向上させるために個体に投与することも可能である。
【0173】
本発明の胚様幹細胞または補充した細胞集団は、個体に投与する前に、TNF-αの活性をモジュレートする化合物で処理することができる。そのような化合物は、2002年4月12日付の同時継続中の米国仮出願第60/372,348号に詳しく記載されており、その開示内容をそのまま本明細書に組み入れる。好ましい化合物はIMiDおよびSelCidと称され、特に好ましい化合物はActimidTMおよびRevimidTMという商標名で入手可能である。
【0174】
本発明の胚様幹細胞の特に有用な面は、特定の実施形態では、投与前にそれらの細胞のHLAタイピングの必要がないということである。言い換えれば、胚様幹細胞は、単数または複数の異種ドナーから採取して、かかる細胞を必要とする個体に移植することができ、移植された細胞は無期限に宿主の体内にとどまるであろう。HLAタイピングの必要性を省くことにより、移植手術それ自体と移植のドナー探しの両方が非常に容易になる。しかし、胚様幹細胞またはそれらを含む補充細胞集団は、投与に先立ってHLAを一致させる(ドナー対レシピエント)ことができる。
【0175】
本発明者らは、胚様幹細胞または補充細胞集団を用いて個体を治療する際の効力が、これらの細胞をプレコンディショニングするときに、強まることを見出した。プレコンディショニングは、細胞を気体透過性の容器に入れて、ある期間にわたり約-5〜23℃、0〜10℃、好ましくは4〜5℃で貯蔵することを含む。その期間は18時間〜21日間、48時間〜10日間とすることができ、好ましくは3〜5日間とする。プレコンディショニングの前に細胞を低温保存してもよく、好ましくは、投与の直前にプレコンディショニングする。
【0176】
したがって、一つの実施形態では、本発明は、少なくとも1つのドナーから収集した胚様幹細胞を個体に投与することを含む、個体の治療方法を提供する。本明細書中で用いる「ドナー」とは、成体、子供、幼児、好ましくは胎盤を意味する。別の好ましい実施形態では、前記方法は、複数のドナーから収集してプールした胚様幹細胞を個体に投与することを含む。特定の実施形態では、胚様幹細胞は複数のドナーから採取した幹細胞である。多数のドナーから収集した場合は、投与単位(ここで、「投与単位」は単一のドナーからの収集物である)を投与前にプールし、連続的に投与したり、選択的に投与したりすることができる。前記方法の別の実施形態では、胚様幹細胞を臍帯血と混合するか、または臍帯血に「スパイク」して、この混合物を個体に投与する。前記方法のさらに特定した実施形態では、胚様幹細胞と臍帯血の比が、有核細胞の総数基準で、少なくとも20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、70:30または80:20でありうる。
【0177】
4.7 幹細胞の投与:投与量
本発明の特に有用な態様は、高用量の幹細胞を個体に投与することである。このような数の細胞は、それらの起源材料(例えば、骨髄または臍帯血)よりも著しく効果的である。本明細書において、「高用量」は、例えば骨髄移植で投与される数と比べて、幹細胞(特に胚様幹細胞)を含む総有核細胞の数の5、10、15または20倍またはそれ以上を示す。典型的には、例えば骨髄移植のために、幹細胞の注入を受け取る患者は1単位の細胞を受け取る。ここで、1単位は約1×109個の有核細胞(1〜2×108個の幹細胞に相当)である。したがって、高用量治療の場合、患者は30億、50億、100億、150億、200億、300億、400億、500億個またはそれ以上の総有核細胞、あるいは、3、5、10、20、30、40または50単位の総有核細胞(胚様幹細胞単独、または別の幹または前駆細胞集団にスパイクされた胚様幹細胞(例えば、臍帯血にスパイクされた胚様幹細胞))を投与されるだろう。一つの好ましい実施形態において、例えば、個体は15単位のスパイク臍帯血を投与されるが、ここで、前記単位は約7億5000万個の臍帯血細胞と5億個の胚様幹細胞を含む。こうして、一つの実施形態では、個体に投与される有核細胞の数は、骨髄置換において通常投与される細胞の数の少なくとも5倍である。前記方法の別の特定の実施形態では、個体に投与される有核細胞の数は、骨髄置換において通常投与される細胞の数の少なくとも10倍である。前記方法の別の特定の実施形態では、個体に投与される有核細胞の数は、骨髄置換において通常投与される細胞の数の少なくとも15倍である。前記方法の別の実施形態では、個体に投与される有核細胞(幹細胞を含む)の総数は、体重1kgあたり1〜100×108個である。別の実施形態では、投与される総有核細胞の数は、少なくとも50億個の細胞である。別の実施形態では、投与される有核細胞の総数は、少なくとも150億個の細胞である。
【0178】
前記方法の別の実施形態では、胚様幹細胞と臍帯血を、個体に投与する直前(すなわち、5分以内)に混合する。別の実施形態では、胚様幹細胞と臍帯血を、個体への投与の5分以上前の時点で混合する。前記方法の別の実施形態では、胚様幹細胞を低温保存し、個体に投与する前に解凍する。別の実施形態では、胚様幹細胞と臍帯血を、個体への投与の24時間以上前の時点で混合して、補充細胞集団を形成させる。前記補充細胞集団は低温保存されており、投与前に解凍する。別の実施形態では、胚様幹細胞および/または補充細胞集団を1回より多く投与することができる。別の実施形態では、胚様幹細胞および/または補充細胞集団を、投与前に18時間〜21日間保存することによりプレコンディショニングする。さらに特定した実施形態では、細胞を投与前に48時間〜10日間プレコンディショニングする。好ましい特定の実施形態では、前記細胞を移植前に3〜5日間プレコンディショニングする。前記方法のいずれかの好ましい実施形態では、個体に投与する前に胚様幹細胞のHLAタイピングを行わない。
【0179】
前記方法の別の特定の実施形態では、前記胚様幹細胞が主に(すなわち、>50%)CD34+細胞である。前記方法のさらに特定した実施形態では、前記胚様幹細胞が主にCD34+33+幹細胞である。
【0180】
胚様幹細胞またはそれらを含む補充細胞集団による個体の治療的または予防的処置は、疾患、障害または症状がいずれかの方法で測定可能に改善される場合には、効果があるとみなすことができる。そのような改善は、いくつかのインディケーターによって示される。測定可能なインディケーターとしては、例えば、特定の疾患、障害または症状と関連した1以上の生理的状態(血圧、心拍数、呼吸速度、各種の血液細胞型のカウント数、特定のタンパク質、炭水化物、脂質またはサイトカインの血中濃度、あるいは疾患、障害または症状と関連した遺伝的マーカーの発現を含むが、これらに限らない)の検出可能な変化が挙げられる。そのようなインディケーターのいずれか1つが、正常値内にあるかまたは正常値により近似している値に変化することによって、かかる処置に応答する場合には、本発明の幹細胞または補充細胞集団による個体の処置は、効果があるとみなされるだろう。正常値は、各種インディケーターに関して当技術分野で知られている正常範囲によって、またはそのような対照値との比較によって確立することができる。また、医療科学の分野では、治療効果がしばしば個体の印象および個体の健康状態の主観的な感じによっても判断されている。したがって、改善の判断は、本発明の幹細胞または補充細胞集団を投与した後の個体の主観的な改善の感触、幸福感の増加、健康状態の向上、エネルギーレベルの上昇といった、主観的なインディケーターによっても行うことができる。
【0181】
本発明の胚様幹細胞または補充細胞集団は、薬学的または医学的に許容される方法(例えば、注射または注入)により患者に投与することができる。そのような細胞または補充細胞集団は薬学的に許容される担体を含むか、またはその中に含めることができる(第4.8節参照)。胚様幹細胞または補充細胞集団は、薬学的または医学的に許容される容器、例えば、血液バッグ、移動バッグ、プラスチックのチューブまたはバイアルに入れて運搬し、貯蔵し、輸送することができる。
【0182】
4.8 キット
本発明はまた、本発明の医薬組成物の1以上の成分を充填した1以上の容器を含む医薬パックまたはキットを提供する。場合により、そのような容器に以下のものを付随させてもよい:細胞培養の装置、細胞培養培地もしくは培地の成分を入れた1以上の容器、本発明の組成物を送達するための装置(例えば、本発明の組成物の静注用の装置)、および/または薬学的もしくは生物学的製剤の製造、使用または販売を規制する政府機関により定められた形の通知書(この通知書はヒトに投与するための製造、使用または販売の政府機関による認可を反映する)。特定の実施形態において、前記キットは、本発明の胚様幹細胞を充填した1以上の容器と、上記のような幹細胞(例えば、臍帯血)を満たした1以上の異なる容器を含んでなる。
【0183】
一つの実施形態では、前記キットは、1つのバッグまたは容器の中に収容された、胚様幹細胞で補充された幹細胞(例えば、臍帯血細胞)の混合物を含んでなる。別の実施形態では、キットは、2つの別々のバッグまたは容器の中に収容された、臍帯血細胞の集団と胚様幹細胞の集団を含んでなる。特定の実施形態では、キットは「ツーバッグ」組成物を含み、この場合には、臍帯血細胞を含むバッグと胚様幹細胞を含むバッグとがそれを必要とする患者に投与する前または投与する時に混合される。他の実施形態では、キットは、2つの別個のバッグまたは容器の中に収容されていて、患者に別々に(例えば、同時にまたは連続的に)投与される臍帯血細胞の集団と胚様幹細胞の集団を含んでなる。この場合、2つの細胞集団の混合は体内で起こる。
【0184】
別の実施形態では、キットは投与前に物理的に混合される臍帯血細胞の集団と胚様幹細胞の集団を提供する。この実施形態の別の態様では、キットは増殖因子、例えば、GM-CSF、IL-4、Flt3L、CD40L、IFN-α、TNF-α、IFN-γ、IL-2、IL-6、レチノイン酸、塩基性繊維芽細胞増殖因子、TGF-β-1、TGF-β-3、肝細胞増殖因子、上皮増殖因子、カルジオトロピン-1、アンギオテンシノーゲン、アンギオテンシンI(AI)、アンギオテンシンII(AII)、AII AT2タイプ2受容体アゴニスト、またはその類似体もしくは断片を含む容器を含んでなる。この実施形態の別の態様では、2つの集団を物理的に混合してから、キット内に含まれる増殖因子で処理して細胞分化を誘導し、その後で患者に投与する。この実施形態の別の態様では、臍帯血細胞および/または胚様幹細胞をキット内に含まれる増殖因子で処理して細胞分化を誘導してから、それらを物理的に混合し、その後で患者に投与する。
【0185】
以下の実験例は、本発明を説明するためのものであって、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0186】
5. 実施例
5.1. 実施例1: 排液した胎盤の灌流液から回収した細胞型の分析
この実施例では、本発明の方法により培養した胎盤の流出灌流液から回収された細胞型の分析について説明する。
【0187】
20 mlのリン酸緩衝溶液(PBS)を灌流液に添加し、10 ml部分を収集して、3,000 rpm(1分あたりの回転数)で25分間遠心分離した。流出液を4本のチューブに分けて氷浴中に配置した。PBS中の1%ウシ胎仔血清(FCS)溶液2.5 mlを添加し、チューブを遠心分離した(140分×10 g(重力による加速))。ペレットを5mlの1%FCS溶液中で再懸濁させた後、2本のチューブを一緒に合わせた。全リンパ球数と全単球数を足し算した和に全細胞懸濁容量を掛けることにより、単核細胞総数を算出した。
【0188】
以下の表に、前述した方法に従って、培養した胎盤の灌流により取得された細胞の型を示す。
【表1】

【0189】
PPのサンプルはフィコール(Ficoll)後のものであった。
フィコール後のPPの細胞総数は5.3×108で、処理前のCB数は6.3×108であった。
Lym%はリンパ球の%;MID%は中央白血球の%;GRA%は顆粒球の%をそれぞれ示す。
【0190】
5.2. 実施例2: 胎盤の灌流およびインキュベーションにより取得した細胞の分析
以下の実施例は、本発明の方法に従い、胎盤の灌流およびインキュベーションにより取得された細胞の分析について説明する。
【0191】
5.2.1. 材料および方法
胎盤ドナーは、民間の臍帯血バンクプログラムに登録し、臍帯血の回収後瀉血した胎盤の研究目的での使用を認めるインフォームドコンセントを提供した妊娠中の母親から募った。ドナーデータは内密である。これらのドナーは、低温保存のための臍帯血サンプルの通常処理から得られたデータの使用も認めた。これにより、以下に記載する実験方法を用いて、収集した臍帯血と、回収した流出灌流液の組成を比較することができた。
【0192】
臍帯から臍帯血を瀉血した後、4〜24時間以内に胎盤を室温で保存して実験室に移すため、前記の方法に従い、胎盤を室温で滅菌断熱容器に入れ、分娩から4時間以内に実験室に移した。胎盤の検査時に、器官の断片化や臍帯血管の裂傷のような物理的損傷が明らかに認められた場合には、胎盤を廃棄した。胎盤は、滅菌容器に入れて2〜20時間室温(23±2℃)で維持するか、または冷蔵保存(4℃)した。定期的に、25±3℃の滅菌食塩水中に胎盤を浸漬して洗浄することにより、肉眼で見える表面の血液や残屑をすべて除去した。
【0193】
臍帯は、胎盤への挿入部から約5cmの地点で切断し、臍帯血管にTEFLON(登録)またはポリプロピレンカテーテルを挿入した。このカテーテルは、胎盤の二方向灌流および流出液の回収を可能にする滅菌液体経路と接続している。前記の方法により、制御された周囲大気条件下で、あらゆる状況の胎盤条件付け、灌流および流出液回収を実施すると同時に、血管内圧力、流量、コアおよび灌流液温度、ならびに、回収された流出液量をリアルタイムでモニタリングすることができた。条件付けプロトコルの範囲を分娩後24時間にわたって評価し、流出液の細胞組成をフローサイトメトリー、光学顕微鏡およびコロニー形成単位アッセイにより分析した。
【0194】
5.2.2. 胎盤のコンディショニング
分娩から12〜24時間以内にドナーの胎盤を室温で処理した。処理前に、膜を除去し、母体部位(maternal site)を洗い流して残留血液を除いた。臍帯血管に、血液サンプル収集に用いられる20ゲージのバタフライ(Butterfly)針からなるカテーテルを挿入した。
【0195】
残留する胚様幹細胞の増殖および動員のために生理的に適合しうる環境を模倣および維持する目的で、5〜37℃、5%CO2、pH7.2〜7.5に維持するなど、条件を変えながら、ドナー胎盤を維持した。2U/mlヘパリン(Elkins-Sinn, NJ)を含有するIMDM無血清培地(GibcoBRL, NY)でカニューレをフラッシュ洗浄した。胎盤の灌流は、約150 mlの灌流液を収集するまで、毎分50 mlの流量で継続した。この量の灌流液には「初期画分」と記したラベルを貼った。同じ流量で灌流を継続することにより、約150 mlの第2画分を収集し、これに「後期画分」のラベルを貼った。この手順の実施過程で、胎盤を穏やかにマッサージして灌流工程を促進し、細胞性物質の回収を助けた。動脈カニューレを介した重力ドレナージおよび吸引により、灌流回路から流出液を収集した。
【0196】
次に、ヘパリン添加(2U/ml)ダルベッコ修飾イーグル培地(H.DMEM)を用いて、15ml/分の流量で10分間胎盤を灌流してから、1時間以内に母親の部位から灌流液を収集し、有核細胞を数えた。回収される有核細胞の数が100個/mlを下回るまで、灌流および収集手順を1または2回繰り返した。灌流液をプールした後、光遠心分離に付すことにより血小板、残屑および脱核細胞膜を除去した。次に、フィコール−ハイパック(Ficoll-Hypaque)密度勾配遠心分離により有核細胞を単離し、洗浄後H. DMEM中に再懸濁させた。付着細胞を単離するために、5〜10 x 106個の細胞のアリコートを数本のT-75フラスコの各々に配置し、Bio Whittakerから入手した市販の間葉幹細胞増殖培地(MSCGM)で培養し、組織培養インキュベーター(37℃、5%CO2)に入れた。10〜15日後、非付着細胞をPBSで洗浄して除去し、次にPBSの代わりにMSCGMを用いた。各種の付着細胞型の存在について、特に、繊維芽細胞様(fibroblastoid)細胞の確認およびクラスター増殖についてフラスコを毎日検査した。
【0197】
5.2.3. 細胞回収および単離
室温で5,000 x gの遠心分離を15分実施することにより、灌流液から細胞を回収した。この手順は、混入している残屑および血小板から細胞を分離するのに役立った。細胞ペレットを2U/mlヘパリンおよび2mM EDTA(GibcoBRL, NY)を含有するIMDM無血清培地中で再懸濁させた。リンフォプレップ(Lymphoprep)(Nycomed Pharma、オスロ、ノルウェー)を用いて、製造業者の推奨手順に従い、全単核細胞画分を単離した後、単核細胞画分を再懸濁させた。血球計を用いて細胞を数えた。トリパンブルー排除により生存可能性を評価した。間葉細胞の単離は、0.2%EDTAを含む0.05%トリプシン溶液(Sigma、セントルイス、MO)を用いた「ディファレンシャルトリプシン処理」により達成された。ディファレンシャルトリプシン処理が可能であった理由は、繊維芽細胞様細胞がプラスチック表面から約5分以内に脱離したのに対して、他の付着集団は20〜30分のインキュベーションを必要としたためである。トリプシン処理ならびにトリプシン中和溶液(TNS, Bio Whittaker)を用いたトリプシン中和後に、脱離した繊維芽細胞様細胞を回収した。細胞をH.DMEM中で洗浄し、MSCGM中に再懸濁させた。
【0198】
Becton-Dickinson FACS Calibur機器を用いてフローサイトメトリーを実施した。骨髄由来のMSC(間葉幹細胞)の既知マーカーに基づいて選択したFITCおよびPE標識モノクローナル抗体(mAb)は、B.D.およびCaltagラボラトリー(サウスサンフランシスコ、CA)から購入し、SH2、SH3およびSH4抗体を産生するハイブリドーマを取得して、それらの培養上清中のmAbの反応性をFITCまたはPE標識F(ab)'2ヤギ抗マウス抗体により検出した。市販の誘導および維持培地(Bio Whittaker)を製造業者の指示に従って用いて、細胞系列分化を実施した。
【0199】
5.2.4. 胎盤の胚様幹細胞の単離
培養フラスコ中の付着細胞の顕微鏡検査により、形態が異なる細胞型が明らかになった。紡錘型の細胞、大きな核と多数の核周辺小液胞を有する丸い細胞、ならびに、数個の突起(そのうちの一つを介して星型細胞はフラスコに付着していた)のある星型の細胞がフラスコに付着しているのを観察した。これらの付着細胞のさらなる特性決定は試みなかったが、類似した細胞が骨髄、臍帯および末梢血液の培養物に認められたことから、非幹細胞様であると考えられた。最後にクラスターとして現れた繊維芽細胞様細胞は、MSC(間葉幹細胞)となる候補であり、ディファレンシャルトリプトシン処理により単離し、二次フラスコで継代培養した。トリプトシン処理後に、丸い細胞の位相差顕微鏡検査によって、細胞が高度に顆粒化していることがわかり、これは、研究室で作製したまたはBio Whittakerから購入した骨髄由来のMSCと見分けがつかなかった。継代培養すると、それらの初期相とは対照的に、数時間以内に付着した、胎盤由来の胚様幹細胞は特有の繊維芽細胞様の形状を呈し、基準の骨髄由来MSCと同じ増殖パターンを形成した。継代培養および再補給の間、さらに、緩く結合した単核細胞を洗浄して除去すると、この培養物は均一な状態のままで、繊維芽細胞様細胞以外の混入物が肉眼で一切認められなかった。
【0200】
5.2.5. 結果
初期および後期画分から精製された単核細胞上のCD-34、CD-38、ならびに、その他の幹細胞関連表面マーカーの発現をフローサイトメトリーにより評価した。回収、選別した細胞をPBSにおいて洗浄してから、抗CD-34フィコエリトリンおよび抗CD38フルオレセインイソチオシアネート(Becton Dickinson、マウンテンビュー、CA)で二重染色した。
【0201】
例えば、Auto Macs(Miltenyi)のような磁気細胞分離を用いて、細胞単離を達成した。好ましくは、CD34+細胞単離を最初に実施する。
【0202】
5.3. 実施例3: 灌流培地
以下の実施例は、単離された胎盤を培養するのに好ましい灌流液の処方を示す。
【表2】

【0203】
上記組成物は、胎盤を灌流するために様々な温度で使用できる灌流液である。また、抗生物質、抗凝血剤およびその他の増殖因子などの追加成分を灌流液または培地において使用できることに留意すべきである。
【0204】
5.4 実施例4: 特定の細胞型への分化の誘導
臍帯血細胞および/または胚様幹細胞を増殖因子に曝すことにより特定の細胞型に分化するように誘導した。分化を誘導するために用いた増殖因子には、限定するものではないが、GM-CSF、IL-4、Flt3L、CD40L、IFN-α、TNF-α、IFN-γ、IL-2、IL-6、レチノイン酸、塩基性繊維芽細胞増殖因子、TGF-β-1、TGF-β-3、肝細胞増殖因子、上皮増殖因子、カルジオトロピン-1、アンギオテンシノーゲン、アンギオテンシンI(AI)、アンギオテンシンII(AII)、AII AT2タイプ2受容体アゴニスト、またはその類似体もしくは断片が含まれる。
【0205】
5.4.1 神経細胞への分化の誘導
本実施例は、臍帯血細胞および/または胚様幹細胞の神経細胞への分化の誘導について記載する。神経細胞への分化を誘導するために以下のプロトコルを採用した。
【0206】
1. 胎盤の幹細胞を、DMEM/20% FBSおよび1 mM β-メルカプトエタノールからなる前誘導培地で24時間生育させる。
2. 前誘導培地を取り除き、細胞をPBSで洗う。
3. DMEMおよび1〜10 mM β-メルカプトエタノールからなる神経細胞誘導培地を添加する。あるいはまた、DMEM/2% DMSO/200μM ブチル化ヒドロキシアニソールからなる誘導培地を用いて神経細胞分化の効率を高めてもよい。
4. 特定の実施形態では、無血清培地およびβ-メルカプトエタノールに曝した後早くも60分で形態的および分子的変化が現れることがある (Woodburyら, J. Neurosci. Res., 61: 364-370)。RT/PCRを用いて、例えば神経成長因子受容体およびニューロフィラメント重鎖遺伝子の発現を評価することができる。
【0207】
5.4.2 脂肪細胞への分化の誘導
本実施例は、臍帯血細胞および/または胚様幹細胞の脂肪細胞への分化の誘導について記載する。脂肪細胞への分化を誘導するために以下のプロトコルを採用した。
【0208】
1. 胎盤幹細胞を、15%の臍帯血清を補足したDMEMまたはMSCGM (Bio Whittaker)で生育させる。
2. 誘導/維持を3サイクル行う。各サイクルは、胎盤幹細胞に脂肪生成誘導培地(Adipogenesis Induction Medium; Bio Whittaker)を供給して、細胞を3日間(37℃、5% CO2で)培養し、その後脂肪生成維持培地(Adipogenesis Maintenance Medium; Bio Whittaker)で1〜3日間培養することからなる。1μM デキサメタゾン、0.2 mM インドメタシン、0.01 mg/ml インスリン、0.5 mM IBMX、DMEM-高グルコース、FBSおよび抗生物質を含む誘導培地を用いる。
3. 誘導/維持を3サイクル行った後、細胞を脂肪生成維持培地でさらに7日間培養する。その間2〜3日ごとに培地を交換する。
4. 脂肪生成は、脂肪親和性染色剤オイルレッドOを用いて簡単に観察できる多数の細胞質内脂質小胞の発生により評価することができる。RT/PCRアッセイを用いて、リパーゼおよび脂肪酸結合タンパク質の遺伝子の発現を調べる。
【0209】
5.4.3 軟骨細胞への分化の誘導
本実施例は、臍帯血細胞および/または胚様幹細胞の軟骨細胞への分化の誘導について記載する。軟骨細胞への分化を誘導するために以下のプロトコルを採用した。
【0210】
1. 胎盤幹細胞を、15%の臍帯血清を補足したDMEMまたはMSCGM (Bio Whittaker)で維持する。
2. 胎盤幹細胞を無菌のポリプロピレンチューブに分注する。細胞を遠心分離(150 x gで5分)にかけ、不完全軟骨形成培地(Incomplete Chondrogenesis Medium; Bio Whittaker)で2回洗う。
3. 最終洗浄の後、細胞を0.01μg/mlのTGF-β-3を含む完全軟骨形成培地(Complete Chondrogenesis Medium; Bio Whittaker)中に5 x 10(5)細胞/mlの濃度で懸濁させる。
4. 0.5 mlの細胞を15 mlポリプロピレン培養チューブに分注する。細胞を150 x gで5分ペレット化する。このペレットは培地にそのまま放置する。
5. ゆるくキャップしたチューブを37℃、5% CO2で24時間インキュベートする。
6. 細胞ペレットには、新たに調製した完全軟骨形成培地を2〜3日ごとに供給する。
7. ペレットは、低速ボルテックスを用いて毎日撹拌することにより培地に維持・懸濁する。
8. 軟骨形成細胞のペレットを培養下で14〜28日後に回収する。
9. 軟骨形成は、例えば、好酸性基底物質の産生を観察するか、細胞の形態を評価するか、かつ/またはコラーゲン2およびコラーゲン9遺伝子発現をRT/PCRで調べることにより、特徴付けることができる。
【0211】
5.4.4 骨細胞への分化の誘導
本実施例は、臍帯血細胞および/または胚様幹細胞の骨細胞への分化の誘導について記載する。骨細胞への分化を誘導するために以下のプロトコルを採用した。
【0212】
1. 胎盤幹細胞の付着培養物を、15%の臍帯血清を補足したDMEMまたはMSCGM (Bio Whittaker)で培養する。
2. 培養物を組織培養フラスコで24時間休止させる。
3. MSCGMを、0.1μM デキサメタゾン、0.05 mM アスコルビン酸-2-リン酸、10 mM β-グリセロリン酸を含む骨形成誘導培地(Osteogenic Induction Medium; Bio Whittaker)と取り替えて骨形成細胞への分化を誘導する。
4. 2〜3週間にわたり3〜4日ごとに細胞に骨形成誘導培地を供給する。
5. カルシウム特異的染色、ならびにアルカリホスファターゼおよびオステオポンチン遺伝子発現を調べるRT/PCRを用いて分化を評価する。
【0213】
5.4.5 肝細胞への分化の誘導
本実施例は、臍帯血細胞および/または胚様幹細胞の肝細胞への分化の誘導について記載する。肝細胞への分化を誘導するために以下のプロトコルを採用した。
【0214】
1. 胎盤幹細胞を、肝細胞増殖因子20 ng/mlおよび上皮増殖因子100 ng/mlを補足したDMEM/20% CBS中で培養する。CBSの代わりにノックアウト血清置換(KnockOut Serum Replacement)を使用してもよい。
2. 誘導フラスコにIL-6 50 ng/mlを添加する。
【0215】
5.4.6 膵細胞への分化の誘導
本実施例は、臍帯血細胞および/または胚様幹細胞の膵細胞への分化の誘導について記載する。膵細胞への分化を誘導するために以下のプロトコルを採用した。
【0216】
1. 胎盤幹細胞を、塩基性繊維芽細胞増殖因子10ng/mlおよびトランスフォーミング増殖因子β-1 2 ng/mlを補足したDMEM/20% CBS中で培養する。CBSの代わりにノックアウト血清置換(KnockOut Serum Replacement)を使用してもよい。
2. ネスチン陽性神経細胞培養物からの馴らし培地を50/50濃度で培地に添加する。
3. 細胞を14〜28日間培養し、この間3〜4日ごとに培地を再供給する。
4. インスリンタンパク質またはRT/PCRでインスリン遺伝子発現をアッセイすることにより分化を特徴づける。
【0217】
5.4.7 心臓細胞への分化の誘導
本実施例は、臍帯血細胞および/または胚様幹細胞の心臓細胞への分化の誘導について記載する。心臓細胞への分化を誘導するために以下のプロトコルを採用した。
【0218】
1. 胎盤幹細胞を、レチノイン酸1μM、塩基性繊維芽細胞増殖因子10ng/ml、トランスフォーミング増殖因子β-1 2 ng/ml、および上皮増殖因子100 ng/mlを補足したDMEM/20% CBS中で培養する。CBSの代わりにノックアウト血清置換(KnockOut Serum Replacement)を使用してもよい。
2. あるいは、胎盤幹細胞を、50ng/ml カルジオトロピン-1を補足したDMEM/20% CBS中で24時間培養する。
3. あるいは、胎盤幹細胞をタンパク質フリーの培地で5〜7日間維持し、その後ヒト心筋層抽出物で刺激する(漸増用量分析)。心筋層抽出物を得るには、1% 臍帯血清を補足した1% HEPESバッファー中で1グラムのヒト心筋層をホモジナイズする。この懸濁液を60分インキュベートしてから遠心分離にかけ、上清を回収する。
4. 細胞を10〜14日間培養し、この間3〜4日ごとに培地を再供給する。
5. 心臓アクチンのRT/PCR遺伝子発現アッセイを用いて分化を評価する。
【0219】
5.4.8 分化前および/または分化後の臍帯血細胞および/または胚様幹細胞の特徴づけ
分化前および/または分化後の胚様幹細胞、臍帯血細胞および/または胚様幹細胞でスパイクした臍帯血細胞の集団を特徴づけるため、フローサイトメトリーおよび免疫細胞化学のような技法を用いて形態および細胞表面マーカーの変化を測定し、また、PCRのような技法を用いて遺伝子発現の変化を測定する。増殖因子に曝したおよび/または分化した細胞は次の細胞表面マーカーの存在もしくは不在によって特徴づけられる: CD10+、CD29+、CD34-、CD38-、CD44+、CD45-、CD54+、CD90+、SH2+、SH3+、SH4+、SSEA3-、SSEA4-、OCT-4+、およびABC-p+。好ましくは、分化前の胚様幹細胞は、細胞表面マーカーOCT-4+、APC-p+、CD34-およびCD38-の存在を特徴とする。これらのマーカーを保持する幹細胞は、ヒト胚性幹細胞と同様に万能(例えば、多分化能性)である。分化前の臍帯血細胞は、細胞表面マーカーCD34+およびCD38+の存在を特徴とする。胚様幹細胞、臍帯血細胞および/または胚様幹細胞でスパイクした臍帯血細胞の集団から誘導された分化細胞は、好ましくはこれらのマーカーを発現しない。
【0220】
5.5 実施例5: 胚様幹細胞を用いた筋萎縮性側索硬化症の個体の治療
ルー・ゲーリック病(Lou Gehrig's disease)とも呼ばれている筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、皮質、脳幹および脊髄の運動ニューロンを冒す致命的な神経変性疾患である。20,000人ものアメリカ人がALSに罹患しており、米国では毎年5,000人が新たに発症している。大多数のALSの症例は散発性(S-ALS)であるが、およそ5〜10%は遺伝性(家族性F-ALS)である。ALSが発症するのは、自発運動をコントロールしている脳および脊髄の特定の神経細胞が徐々に変性するときである。ALSの主な特徴は、脊髄運動ニューロンの欠損であり、これはそれらの制御下にある筋肉を弱体化および衰弱させて麻痺を起こす。どの筋肉が最初に弱体化するかによって、ALSの発症の仕方は異なってくる。ALSは中年で出現し、男性がこの病気を発症する可能性は女性の1.5倍である。ALSは通常、診断後5年以内で死に至る。
ALSには家族性と散発性の両形態があるが、家族性の形態は現在ではいくつかの明確に区別される遺伝子座とリンクされている。ALS症例の約5〜10%が家族性であるにすぎない。これらのうち、15〜20%はCu/Znスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)をコードする遺伝子の突然変異によるものである。これらはこの酵素に毒性を付与する「機能促進」(gain-of-function)突然変異であると思われる。ALSの原因としてのSOD突然変異の発見は、この病気の理解をいくらか早めることに道を開いた。この疾患のモデル動物が現在入手可能であり、細胞死に至る分子イベントに関して仮説が打ち立てられており、試験されつつある。
【0221】
ALSを患う個体を、胎盤由来の胚様幹細胞を用いて治療する方法の例を以下に示す。この方法は、一時的な末梢血管カテーテルを介する静脈内注入を含む。
【0222】
最初に、標準的な実験室分析を行ってALSの個体を評価する。このような分析は、代謝プロファイル、鑑別を伴うCDC、脂質プロファイル、フィブリノーゲンレベル、血液のABO rHタイピング、肝機能検査、およびBUN/クレアチンレベルの測定を含みうる。移植の前日に次の薬物を摂取するように個体に指示する:ジフェンヒドラミン(BenadrylTM), 25 mg t.i.dおよびプレドニゾン10 mg。
【0223】
胚様幹細胞(単独または臍帯血にスパイクしたもの)を低温保存ストックから取り出し、解凍して、移植前に約5℃の温度で2日間ほど維持する。
【0224】
静脈内注入、生理的モニタリング、および身体的観察に必要な設備がすべて整っている外来患者臨床センターで個体に移植する。
【0225】
移植のおよそ1時間前に、個体にジフェンヒドラミン(BenadrylTM) 25 mg x 1 P.O.およびプレドニゾン 10 mg x 1 P.O.を投与する。これは用心のためであり、急性アレルギー反応の可能性を少なくするためである。注入時に、個体の4肢の1つに18 G 留置末梢静脈ラインを入れ、D5 1/2生理食塩水+20 mEq KC1をTKO速度で注入することにより開いた状態で維持する。移植に先立って個体を検査するが、特に心拍数、呼吸速度、体温に気をつける。心電図や血圧測定といった他のモニタリングを行ってもよい。
【0226】
その後、胚様幹細胞を全送達液量60 mlで1単位/時間の速度にて注入する。この場合、1単位は約1〜2×109個の総有核細胞に相当する。あるいはまた、前記単位の胚様幹細胞を全液量60 mlの臍帯血で送達する。この場合、胚様幹細胞数と臍帯血中の幹細胞数の比は少なくとも2:1とする。投与する単位は臍帯血のみであってもよい。マウスでの前臨床研究からのデータに基づいて、体重1kgあたり合計2.0〜2.5×108個の細胞を投与すべきである。例えば、70kgの個体は、約14〜18×109個の総有核細胞を受け取るであろう。個体のアレルギー反応または過敏症の兆候をモニタリングする必要がある。これらは注入の即時中止のサインである。
【0227】
注入後、個体を横たわった状態で少なくとも60分間モニタリングすべきであり、このとき彼または彼女は正常な活動を再開する可能性がある。
【0228】
5.6 実施例6: 胚様幹細胞を用いたアテローム性動脈硬化症の個体の治療
実施例5で説明した注入プロトコルを用いて、胚様幹細胞(単独または臍帯血にスパイクしたもの)をアテローム性動脈硬化症の患者に投与する。胚様幹細胞または補充細胞集団は、自覚症状のない個体、血管形成術の候補者である個体、または最近(1週間以内)心臓手術を受けた患者に投与することができる。
【0229】
本発明は、本明細書に記載した具体的な実施形態にその範囲を制限されることはない。実際、以上の説明から、当業者には、本明細書に記載したものに加えて、本発明の様々な改変が明らかであろう。このような改変は、添付の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【0230】
本文中に引用した参考文献はすべて、個々の刊行物、特許または特許出願が具体的かつ個別に、あらゆる目的のためにその全文を参考として組み入れるように示されているのと同程度に、あらゆる目的のためにその全文を参考として本明細書に組み入れるものとする。
【0231】
あらゆる刊行物の引用はそれが出願日前に開示されたためで、先行特許のために、本発明がこのような刊行物に先行する資格がないと認めたと解釈すべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹または前駆細胞と胎盤幹細胞とを含む組成物。
【請求項2】
臍帯血細胞と胎盤幹細胞とを含む組成物。
【請求項3】
幹または前駆細胞の集団と胎盤幹細胞の集団とを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
容器に収容されている、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記容器が密閉され、気密であり、かつ無菌である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
幹または前駆細胞および胎盤幹細胞が、それを必要とする患者への投与前または投与時に、互いと接触している、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項7】
幹または前駆細胞および胎盤幹細胞が患者に別々に投与するのに適している、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項8】
骨髄移植に適している、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項9】
ヒトへの投与に適している、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項10】
幹または前駆細胞が、臍帯血または胎盤血由来、胎児または新生児の造血幹または前駆細胞、成体細胞、あるいは骨髄幹または前駆細胞である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項11】
幹または前駆細胞が胎児または新生児の造血幹または前駆細胞である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
複数の造血幹または前駆細胞が細胞表面マーカーに関してCD34+およびCD38-である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
幹または前駆細胞が臍帯血幹細胞である、請求項10に記載の組成物。
【請求項14】
複数の臍帯血幹細胞が細胞表面マーカーに関してCD34+およびCD38-である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
複数の臍帯血幹細胞が細胞表面マーカーに関してCD34+およびCD38+である、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
胎盤幹細胞が次の細胞表面マーカー:CD10、CD29、CD44、CD54、CD90、SH2、SH3、SH4、OCT-4またはABC-pのうち少なくとも1つを示すか、または、次の細胞表面マーカー:CD34、CD45、SSEA3、SSEA4のうち少なくとも1つを欠く、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項17】
胎盤幹細胞がOCT-4+およびABC-p+である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
胎盤幹細胞がSSEA3-およびSSEA4-である、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
前記幹または前駆細胞が第1の容器内にあり、前記胎盤幹細胞が第2の容器内にある、請求項1または2に記載の組成物を含むキット。
【請求項20】
複数の幹または前駆細胞と複数の胎盤幹細胞とを含む組成物の調製方法であって、前記複数の幹または前駆細胞および前記複数の胎盤幹細胞を単離して接触させることを含んでなる方法。
【請求項21】
複数の幹または前駆細胞および複数の胎盤幹細胞が混合前にはそれぞれ別個の容器に収容されている、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記組成物がヒトへの投与に適している、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
幹または前駆細胞が、臍帯血または胎盤血由来、胎児または新生児の造血幹または前駆細胞、成体細胞、あるいは骨髄幹または前駆細胞である、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
幹または前駆細胞が胎児または新生児の造血幹または前駆細胞である、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
複数の造血幹または前駆細胞が細胞表面マーカーに関してCD34+およびCD38-である、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
複数の幹または前駆細胞および複数の胎盤幹細胞を物理的に混合する、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
それを必要とする患者の治療のための医薬組成物の製造における、複数の幹または前駆細胞および複数の胎盤幹細胞の使用。
【請求項28】
幹または前駆細胞および胎盤幹細胞がヒトへの投与に適している、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
幹または前駆細胞が、臍帯血または胎盤血由来、胎児または新生児の造血幹または前駆細胞、成体細胞、あるいは骨髄幹または前駆細胞である、請求項27に記載の使用。
【請求項30】
幹または前駆細胞が胎児または新生児の造血幹または前駆細胞である、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
複数の造血幹または前駆細胞が細胞表面マーカーに関してCD34+およびCD38-である、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
幹または前駆細胞が臍帯血幹細胞である、請求項29に記載の使用。
【請求項33】
胎盤幹細胞が細胞表面マーカーに関して、以下:CD10+、CD29+、CD34-、CD44+、CD45-、CD54+、CD90+、SH2+、SH3+、SH4+、SSEA3-、SSEA4-、OCT-4+およびABC-p+のうち少なくとも1つである、請求項27に記載の使用。
【請求項34】
胎盤幹細胞がOCT-4+およびABC-p+である、請求項33に記載の使用。
【請求項35】
胎盤幹細胞がSSEA3-およびSSEA4-である、請求項33に記載の使用。
【請求項36】
複数の幹または前駆細胞および/または複数の胎盤幹細胞が、特定の細胞型への分化を誘導するために増殖因子で処理される、請求項27に記載の使用。
【請求項37】
複数の幹または前駆細胞および/または複数の胎盤幹細胞が、特定の細胞型への分化を防止または抑制するために増殖因子で処理される、請求項27に記載の使用。
【請求項38】
それを必要とする患者の治療のための医薬組成物の製造における、複数の臍帯血細胞および複数の胎盤幹細胞の使用。
【請求項39】
臍帯血細胞が胎児または新生児の造血幹または前駆細胞である、請求項38に記載の使用。
【請求項40】
複数の造血幹または前駆細胞が細胞表面マーカーに関してCD34+およびCD38-である、請求項39に記載の使用。
【請求項41】
複数の臍帯血幹細胞が細胞表面マーカーに関してCD34+およびCD38-である、請求項38に記載の使用。
【請求項42】
複数の臍帯血幹細胞が細胞表面マーカーに関してCD34+およびCD38+である、請求項38に記載の使用。
【請求項43】
胎盤幹細胞が細胞表面マーカーに関して、以下:CD10+、CD29+、CD34-、CD44+、CD45-、CD54+、CD90+、SH2+、SH3+、SH4+、SSEA3-、SSEA4-、OCT-4+およびABC-p+のうち少なくとも1つである、請求項38に記載の使用。
【請求項44】
胎盤幹細胞がOCT-4+およびABC-p+である、請求項43に記載の使用。
【請求項45】
胎盤幹細胞がSSEA3-およびSSEA4-である、請求項43に記載の使用。
【請求項46】
前記患者が血管の疾患、障害または症状を有する、請求項38に記載の使用。
【請求項47】
前記疾患、障害または症状がアテローム性動脈硬化症である、請求項46に記載の使用。
【請求項48】
前記患者が神経学的疾患、障害または症状を有する、請求項38に記載の使用。
【請求項49】
前記患者が自己免疫障害を有する、請求項38に記載の使用。
【請求項50】
前記自己免疫障害が糖尿病および筋萎縮性側索硬化症からなる群より選択される、請求項49に記載の使用。
【請求項51】
前記患者が、外傷もしくは損傷により引き起こされる症状、または外傷もしくは損傷と関連した症状を有する、請求項38に記載の使用。
【請求項52】
前記外傷または損傷が中枢神経系に対する外傷または損傷である、請求項51に記載の使用。
【請求項53】
前記外傷または損傷が末梢神経系に対する外傷または損傷である、請求項51に記載の使用。
【請求項54】
脊髄形成異常症の治療のための医薬組成物の製造における、臍帯血細胞またはそこから単離された幹細胞、および胎盤幹細胞の使用。
【請求項55】
疾患の治療または予防のために造血前駆細胞を移植するための医薬組成物の製造における、臍帯血細胞またはそこから単離された幹細胞、および胎盤幹細胞の使用。
【請求項56】
複数の胎盤幹細胞で補充された臍帯血由来の幹または前駆細胞を含む組成物。
【請求項57】
それを必要とする患者の治療のための医薬組成物の製造における、少なくとも5×109個の有核細胞の使用であって、該治療は該細胞を患者に投与することを含んでなり、該有核細胞は胎盤幹細胞を含み、かつ該患者が炎症成分を含む疾患、障害または症状を有する、上記使用。
【請求項58】
それを必要とする患者の治療のための医薬組成物の製造における、少なくとも5×109個の有核細胞の使用であって、該治療は該細胞を患者に投与することを含んでなり、該有核細胞は胎盤幹細胞を含み、かつ該患者が免疫関連障害を有する、上記使用。

【公開番号】特開2010−59193(P2010−59193A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258822(P2009−258822)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【分割の表示】特願2003−568052(P2003−568052)の分割
【原出願日】平成15年2月13日(2003.2.13)
【出願人】(503291462)アンスロジェネシス コーポレーション (5)
【Fターム(参考)】