分子カプセルおよびその製造方法
【課題】分子カプセルおよびその製造方法の提供。
【解決手段】カリックスアレーン系化合物と、1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンとを反応させ、得られる生成物とスチレンとを反応させることにより得られるスターポリマーをカチオン重合により分子内架橋し、得られた架橋体を加水分解することによりカリックスアレーン骨格を除去することによって得られることを特徴とする分子カプセル。
【解決手段】カリックスアレーン系化合物と、1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンとを反応させ、得られる生成物とスチレンとを反応させることにより得られるスターポリマーをカチオン重合により分子内架橋し、得られた架橋体を加水分解することによりカリックスアレーン骨格を除去することによって得られることを特徴とする分子カプセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラッグデリバリーやナノリアクターなどに用いることができる分子カプセルおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超分子化学は、酵素などの生体内に存在する天然物の構造に着想を得て確立された、分子内の分子間相互作用が精密に制御された物質を取り扱う化学分野である。このような化学分野の中でも、ホスト−ゲスト化学において超分子の役割は重要な役割を担っており、現在、超分子化学において、生体内のレセプターおよび酵素等の基質特異性のような性質を有する、選択的にゲスト分子を捕らえるホスト分子の合成が望まれている。
近年、超分子化学において高分子化学は重要な役割を占めており、ポリカテナン、ロタキサンなどの特殊構造を有する超分子ポリマーが合成されている。そして、ドラッグデリバリーやナノリアクターなどへの応用が期待されることから、直鎖型ポリマーの自己集合を利用したコア−シェル型の中空のナノスフィアーおよびナノカプセルに関する研究が盛んに行われており、例えば、ブロック共重合体からポリマーミセル状集合体を形成し、更に、中空ベシクル構造を形成する方法が提案されている(非特許文献1参照。)。然るに、このようなファンデルワールス力により形成されるミセル集合体は、溶媒条件若しくは温度条件等の物理的条件により構造が不安定である、という問題がある。
このような理由から、最近において、共有結合型の分子カプセルが注目され、例えばポルフィリンなどの閉環メタセシス重合によりデンドリマーの末端基アリル位を分子内架橋し、その後、ポルフィリンコアを除去することによって得られる共有結合型の分子カプセルが提案されている(非特許文献2参照。)。然るに、この分子カプセルは、合成工程が多段階でかつ精製が必要となる、という問題がある。
このような問題を解決するため、原子移動型ラジカル重合法(ATRP)を利用して分子カプセルを合成する方法が提案されている(非特許文献3参照。)。
【0003】
【非特許文献1】Wolley K. L., J. Poolym. Sci, Part A: Polym. Chem., 38, 1397(2000).
【非特許文献2】S. C. Zimmerman, M. S. Weldland, N. A. Rakow, I. Zhaov, and K. S.Suslick, Nature,418,339(2002).
【非特許文献3】J. B. Biel and S. C. Zimmerman, Macromlecures, 37, 778(2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規な分子カプセルおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の分子カプセルは、下記式(1)または下記式(2)で表されるスターポリマーをカチオン重合により分子内架橋し、得られた架橋体を加水分解することによりカリックスアレーン骨格を除去することによって得られることを特徴とする。
【0006】
【化1】
【0007】
〔式(1)および式(2)において、Rは、下記式(a)で表される基を示す。〕
【0008】
【化2】
【0009】
本発明の分子カプセルの製造方法は、上記式(1)または上記式(2)で表されるスターポリマーをカチオン重合により分子内架橋し、得られた架橋体を加水分解することによりカリックスアレーン骨格を除去する工程を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の分子カプセルの製造方法においては、下記式(3)または下記式(4)で表されるカリックスアレーン系化合物と、1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンとを反応させ、得られる生成物とスチレンとを反応させることにより、上記式(1)または上記式(2)で表されるスターポリマーを得る工程を有することが好ましい。
【0011】
【化3】
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新規な分子カプセルおよびその製造方法を提供することができ、この分子カプセルは、ドラッグデリバリーやナノリアクターなどに応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の分子カプセルは、上記式(1)または上記式(2)で表されるスターポリマー(以下、「特定のスターポリマー」という。)をカチオン重合により分子内架橋し、得られた架橋体を加水分解することによりカリックスアレーン骨格を除去することによって得られる。
また、特定のスターポリマーは、上記式(3)または上記式(4)で表されるカリックスアレーン系化合物(以下、「特定のカリックスアレーン系化合物」という。)と、1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンとを反応させることにより、下記式(5)または下記式(6)で表されるスターポリマー(以下、「中間体スターポリマー」という。)を合成し、この中間体スターポリマーとスチレンとを反応させることによって得られる。
【0014】
【化4】
【0015】
〔式(5)および式(6)において、R1 は、下記式(b)で表される基を示す。〕
【0016】
【化5】
【0017】
[特定のカリックスアレーン系化合物の合成]
特定のカリックスアレーン系化合物は、p−tert−ブチルカリックス[8]アレーンまたはC−(4−ヒドロキシベンズ)カリックス[4]レゾルシンアレーンと2−ブロモイソブチルブロマイドとを、塩基の存在下に、適宜の溶媒中で反応させることによって得られる。
ここで、塩基としては、トリエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジンなどを用いることができる。
溶媒としては、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、ジクロロメタンなどを用いることができる。
また、反応温度は、例えば0〜70℃であり、反応時間は、例えば2〜48時間である。
また、C−(4−ヒドロキシベンズ)カリックス[4]レゾルシンアレーンは、例えば塩酸の存在下にレゾルシノールとp−ヒドロキシベンズアルデヒドとを反応させることにより得られる。
特定のカリックスアレーン系化合物の合成プロセスを下記式(i−1)および下記式(i−2)に示す。
【0018】
【化6】
【0019】
[中間体スターポリマーの合成]
中間体スターポリマーは、特定のカリックスアレーン系化合物と1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンとを、例えばカチオン触媒の存在下に、適宜の溶媒中または無溶媒で反応させることによって得られる。
触媒系としては、臭化第1銅/2,2’−ビピリジル、ピリジンなどを用いることができる。
溶媒としては、N,N’−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリドン、アニソールなどを用いることができる。
また、反応温度は、例えば0〜100℃であり、反応時間は、例えば0.5〜48時間である。
また、1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンは、例えばアリルマグネシウムブロミドとクロロメチルスチレンとのグリニャール反応により得られる。
中間体スターポリマーの合成プロセスを下記式(ii−1)および下記式(ii−2)に示す。
【0020】
【化7】
【0021】
〔式(ii−1)および式(ii−2)において、R1 は、上記式(b)で表される基を示す。〕
【0022】
[特定のスターポリマーの合成]
特定のスターポリマーは、中間体スターポリマーとスチレンとを、例えばカチオン触媒の存在下に反応させることによって得られる。
触媒系としては、臭化第1銅/2,2’−ビピリジル、ピリジンなどを用いることができる。
また、反応温度は、例えば25〜100℃であり、反応時間は、例えば0.5〜72時間である。
特定のスターポリマーの合成プロセスを下記式(iii −1)および下記式(iii −2)に示す。
【0023】
【化8】
【0024】
〔式(iii −1)および式(iii −2)において、Rは、上記式(a)で表される基を示し、R1 は、上記式(b)で表される基を示す。〕
【0025】
[分子カプセルの製造]
本発明の分子カプセルの製造においては、先ず、特定のスターポリマーを、適宜の溶媒中でカチオン重合により分子内架橋することにより、架橋体を合成する。
架橋反応に用いられる溶媒としては、特定のスターポリマーを溶解することができ、かつ、重合反応を阻害しないものであれば特に限定されず、その具体例としては、ジクロロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、クロロホルムなどを挙げることができる。溶媒としては脱水処理したものを用いることが好ましい。
架橋反応に用いられるカチオン重合触媒としては、第2世代グラブス触媒、BF3 Et2 O、HCl、H2 SO4 CF3 COOHなどを挙げることができる。
また、架橋反応の反応温度は、例えば−20〜60℃であり、反応時間は、例えば1〜48時間である。
【0026】
次いで、この架橋体を、アルカリおよび水の存在下に、適宜の溶媒中で加水分解することにより、架橋体におけるカリックスアレーン骨格を除去することによって得られる。
加水分解反応に用いられるアルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどを挙げることができる。
加水分解反応に用いられる溶媒としては、テトラヒドロフラン、エタノール、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、トリクロロメタン、ジクロロメタンなどを挙げることができる。
また、加水分解反応の反応温度は、例えば0〜100℃であり、反応時間は、例えば0.1〜60時間である。
【0027】
このようにして得られる分子カプセルは、分子内にカルボキシル基を有する親水性空孔が形成されたものであり、例えばドラッグデリバリー、ナノリアクター、分子包接化合物などに有用である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0029】
以下の実施例において、原料および溶媒等として下記のものを使用した。
(1)p−tert−ブチルカリックスアレーンとしては、新中村化学(株)より提供されたものをクロロホルムに溶解させた後、再結晶を行うことにより精製したものを使用した。
(2)2,2’−ビピリジルとしては、n−ヘキサンに熔解させた後、再結晶を行うことにより精製したものを使用した。
(3)4,4’−ジノニル−2,2’−ジピリジルとしては、n−ヘキサンに溶解させた後、再結晶を行うことにより精製したものを使用した。
(4)臭化第1銅としては、酢酸中で撹拌した後、エタノールおよびエーテルで洗浄して乾燥することにより精製したものを使用した。
(5)クロロメチルスチレンとしては、セイミケミカル(株)より提供されたものを減圧乾燥処理することにより精製したものを使用した。
(6)スチレンとしては、水素化カルシウムを用いて脱水処理した後、減圧蒸留することにより精製したものを使用した。
(7)塩化メチレンとしては、水素化カルシウムを用いて脱水処理した後、減圧蒸留することにより精製したものを使用した。
(8)レゾルシノール、p−ヒドロベンズアルデヒド、2−ブロモイソブチルブロマイド、エタノール、アリルマグネシウムクロリド(THF2.0M溶液)、テトラヒドロフラン、第2世代グラブス触媒としては、市販のものをそのまま使用した。
(9)C−(4−ヒドロキシベンズ)カリックス[4]レゾルシンアレーンとしては、以下のようにして調製したものを使用した。
レゾルシノール11.04g(0.1mol)をエタノール20mLに溶解し、12N塩酸14.0mLを加えた後、この溶液を撹拌させながら5℃まで氷冷し、p−ヒドロキシベンズアルデヒド12.22g(0.1mol)を加えた。その後、80℃で1時間撹拌した。反応終了後、室温に戻し、析出した赤白色固体をろ別し、水、メタノール、アセトンの順に十分洗浄し、得られた固体を24時間減圧乾燥することにより、C−(4−ヒドロキシベンズ)カリックス[4]レゾルシンアレーンを得た。
(10)1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンとしては、以下のようにして調製したものを使用した。
アルゴン置換された三つ口フラスコ内に、アリルマグネシウムクロリド(THF2.0M溶液)100mL(200mmol)を加えた後、攪拌下で1−(クロロメチル)−4−ビニルベンゼン28mL(200mmol)を徐々に滴下した。反応母液を水で希釈した後、有機相をエーテルで4回抽出し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、乾燥剤をろ別した後に減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n−ヘキサン)により単離した。得られた薄黄色液体を蒸留することにより、無色透明液体の1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンを得た。
【0030】
また、測定装置としては、下記のものを使用した。
(1)赤外分光光度計(IR):Thermo ELECTRON製「NICOLLET 380」
(2)核磁気共鳴装置(NMR):
1H−NMR:日本電子(株) 製「JNM−ECA−500(500MHz)」
(3)ゲル浸透クロマトグラフィー:東ソー(株)製「HLC−8020システム」,
カラム:「TSK gelMultipore Hxl−M」,
展開溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド
(4)多角度レーザー光散乱検出器:Wyatt DAWN8+
【0031】
以下の実施例において、数平均分子量Mn(以下、「Mn」という。)および分子量分布Mw/Mn(以下、「Mw/Mn」という。)は、特に断りの無い限り、ゲル浸透クロマトグラフィーおよび多角度レーザー光散乱検出器(SECDMF /MALLS)によって測定されたものを示す。
【0032】
〈特定のカリックスアレーン系化合物の合成〉
化合物合成例1:
300ml三つ口ナスフラスコにp−tert−ブチルカリックス[8]アレーン2.85g (2mmol)、トリエチルアミン7.29g(72mmol)、テトラヒドロフラン50mlを加えて、アルゴンガス雰囲気下で氷冷しながら、これに2−ブロモイソブチルブロマイド16.6g(72mmol)を20分間滴下し、その後、70℃で24時間還流させた。次いで、クロロホルムで希釈し、1N水酸化ナトリウム水溶液で2回、1N塩酸で2回、飽和食塩水で3回洗浄を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥を行い、乾燥剤をろ別した後、溶媒を減圧留去した。得られた粗結晶をクロロホルムに溶解させ、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)により分離した。そして、クロロホルムを用いて再結晶処理を行い、白色の板状結晶を得た。収量は2.6g(55%)であった。
IR分析およびNMR分析の結果から、得られた生成物は、下記式(A)で表される特定のカリックスアレーン系化合物であることが確認された。以下、これを「化合物(A)」とする。
【0033】
【化9】
【0034】
IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図1に、 1H−NMRスペクトル図を図2に示す。
IR (KBr,cm-1):
2966(νCH3 ),2868(νCH2 ),1753(νC=O ester ),1599,1461(νC=C aromatic) ,1140,1104(νC−O−C ether ) 1HNMR(500MHz,CDCl3 ,TMS)δ(ppm):
1.33(m,72.0 H,Hc ),2.10(m,48.0H,Ha ),3.34〜4.19(m,16.0H,Hb )
【0035】
化合物合成例2:
300ml三つ口ナスフラスコにC−(4−ヒドロキシベンズ)カリックス[4]レゾルシンアレーン1.7g (2mmol)、トリエチルアミン7.29g(72mmol)、テトラヒドロフラン50mlを加えて、アルゴンガス雰囲気下で氷冷しながら、これにテトラヒドロフラン100mlで希釈した2−ブロモイソブチルブロマイド16.6g(72mmol)を20分間かけて滴下し、その後、70℃で24時間攪拌した。次いで、溶液をクロロホルムで希釈し、1N水酸化ナトリウム水溶液で2回、1N塩酸で2回、飽和食塩水で3回洗浄を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、乾燥剤をろ別した後、溶媒を減圧留去した。得られた粗結晶をクロロホルムに溶解させ、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)により分離した。そして、クロロホルムを減圧留去した後、クロロホルムを用いて再結晶処理を行い、白色の板状結晶を得た。収量は1.0g(19%)であった。
元素分析、IR分析およびNMR分析の結果から、得られた生成物は、下記式(B)で表される特定のカリックスアレーン系化合物であることが確認された。以下、これを「化合物(B)」とする。
【0036】
【化10】
【0037】
元素分析、IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図3に、 1H−NMRスペクトル図を図4に示す。
元素分析(C101 H102 Br12O23) 実測値:C:45.81%,H:3.65%
計算値:C:45.90%,H:3.89%
IR(film,cm-1):
2977(νCH3 ),2930(νCH2 ),1757(νC=O ester ),1593,1491(νC=C aromatic) ,1134,1100(νC−O−C ether ) 1HNMR(500MHz,CDCl3 ,TMS)δ(ppm):
1.68(d,24.0H,Hd ),1.86(s,12.0H,Hb ),1.95(s,12.0 H,Hc ),2.06(d,24.0H,Ha ),5.84(s,4.0H,He ),6.13(s,2.0H,Hf ),6.33(s,2.0H,Hi ),6.82(d,8.0H,Hj ),6.98(s,2.0H,Hg ),7.04(s,2.0H,Hh )
【0038】
〈中間体スターポリマーの合成〉
中間体合成例1:
20ml二股ナスフラスコに化合物(A)125.6mg(0.050mmol)、2,2’−ビピリジル126.0mg(0.81mmol)を加え、窒素雰囲気下で、臭化銅(I)58.0 mg(0.81mmol)、1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼン10.0ml(50.4mmol)を加え、脱気・封管を行った後、100℃で30分間反応を行った。その後、液体窒素で反応を停止し、反応母液をクロロホルムで希釈して、アルミナカラムに通して、反応系中の銅を除去した。次いで、クロロホルムを減圧留去した後、良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にメタノールを用いて沈殿精製処理を行い、室温で24時間減圧乾燥し、白色の粉末を得た。
IR分析およびNMR分析の結果から、得られた生成物は、下記式(C)で表される中間体スターポリマーであることが確認された。以下、これを「中間体(C)」とする。
また、中間体(C)の数平均分子量Mnは9200、分子量分布Mw/Mnは1.14で 1H−NMR分析から算出した1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンの転化率は6%であった。
【0039】
【化11】
【0040】
IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図5に、 1H−NMRスペクトル図を図6に示す。
IR(film,cm-1):
3047(νC−H aromatic),1747(νC=O ester ),1639(νC=C aliphatic ),1511,1448(νC=C aromatic),1111(νC−O−C ether )
1HNMR(500MHz,CDCl3 ,TMS)δ(ppm):
0.16〜2.12(broad,3.8H,Ha ,Hc ,Hd ,He )2.31(m,2.4H,Hh ),2.61(m,2.0H,Hi ),4.96〜5.02(m,2.0H,Hk ,Hl ),5.84(m,1.0H,Hj ),6.10〜7.21(broad,4.4H,Hf ,Hg )
【0041】
中間体合成例2:
20ml二股ナスフラスコに化合物(B)111.1mg(0.042mmol)、4,4’−ジノニル−2,2’−ジピリジル274.9mg(0.67mmol)を加え、窒素雰囲気下で、臭化銅(I)48.2 mg(0.34mmol)、1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼン10.0ml(50.4mmol)を加え、脱気・封管を行った後、100℃で1.5時間反応を行った。その後、液体窒素で反応を停止し、反応母液をクロロホルムで希釈して、アルミナカラムに通して、反応系中の銅を除去した。次いで、クロロホルムを減圧留去した後、良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にメタノールを用いて沈殿精製処理を行い、室温で24時間減圧乾燥し、白色の粉末を得た。
IR分析およびNMR分析の結果から、得られた生成物は、下記式(D)で表される中間体スターポリマーであることが確認された。以下、これを「中間体(D)」とする。
また、中間体(D)の数平均分子量Mnは12800、分子量分布Mw/Mnは1.05で 1H−NMR分析から算出した1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンの転化率は4%であった。
【0042】
【化12】
【0043】
IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図7に、 1H−NMRスペクトル図を図8に示す。
IR(film,cm-1):
2978(νCH3 ),2924(νCH2 ),2852(νC−H),1753(νC=O ester ),1639(νC=C aliphatic ),1511,1445(νC=C aromatic),1102(νC−O−C ether )
1HNMR(500MHz,CDCl3 ,TMS)δ(ppm):
0.15〜2.06(broad,3.2H,Ha ,Hc ,Hd ,Hl ),2.32(m,2.3H,Hh ),2.63(m,1.8H,Hg ),4.97(m,1.9H,Hj ,Hk ),5.84(d,1.0H,Hi ),6.04〜7.19(broad,3.9H,He Hf )
【0044】
〈特定のスターポリマーの合成〉
スターポリマー合成例1:
二股試験管に中間体(C)119.5mg(0.013mmol)を加え、窒素雰囲気下で、ペンタメチルジエチレントリアミン3.0μl(0.013mmol)、臭化銅(I)1.9 mg(0.013mmol)、スチレン1.5ml(13.0mmol)を加え、脱気・封管を行った後、80℃で7時間反応を行った。その後、液体窒素で反応を停止し、反応母液をクロロホルムで希釈して、アルミナカラムに通して、反応系中の銅を除去した。次いで、クロロホルムを減圧留去した後、良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にメタノールを用いて沈殿精製処理を行い、室温で24時間減圧乾燥し、白色の粉末を得た。 IR分析およびNMR分析の結果から、得られた生成物は、下記式(E)で表される特定のスターポリマーであることが確認された。以下、これを「スターポリマー(E)」とする。
また、スターポリマー(E)の数平均分子量Mnは18500、分子量分布Mw/Mnは1.09で 1H−NMR分析から算出したスチレンの転化率は12%であった。
【0045】
【化13】
【0046】
IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図9に、 1H−NMRスペクトル図を図10に示す。
IR(film,cm-1):
3025(νC−H aromatic),1747(νC=O ester ),1639(νC=C aliphatic ),1511,1452(νC=C aromatic),1107(νC−O−C ether )
1HNMR(500MHz,CDCl3 ,TMS)δ(ppm):
0.35〜2.16(broad,7.7H,Ha ,Hc ,Hd ,He ,Hm ,Hn ),2.32(m,2.6H,Hh ),2.61(m,2.3H,Hi ),5.01(m,2.0H,Hk ,Hl ),5.84(m,1.0H,Hj ),6.18〜7.21(broad,10.6H,Hf ,Hg ,Ho ,Hp ,Hq ,Hr )
【0047】
スターポリマー合成例2:
二股試験管に中間体(D)110.8mg(0.0087mmol)を加え、窒素雰囲気下で、ペンタメチルジエチレントリアミン3.6μl(0.0174mmol)、臭化銅(I)2.5mg(0.0174mmol)、スチレン1.0ml(8.7mmol)を加え、脱気・封管を行った後、80℃で4時間反応を行った。その後、液体窒素で反応を停止し、反応母液をクロロホルムで希釈して、アルミナカラムに通して、反応系中の銅を除去した。次いで、クロロホルムを減圧留去した後、良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にメタノールを用いて沈殿精製処理を行い、室温で24時間減圧乾燥し、白色の粉末を得た。
IR分析およびNMR分析の結果から、得られた生成物は、下記式(F)で表される特定のスターポリマーであることが確認された。以下、これを「スターポリマー(F)」とする。
また、スターポリマー(F)の数平均分子量Mnは38400、分子量分布Mw/Mnは1.15で 1H−NMR分析から算出したスチレンの転化率は12%であった。
【0048】
【化14】
【0049】
IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図11に、 1H−NMRスペクトル図を図12に示す。
IR(film,cm-1):
3025(νC−H aromatic),1747(νC=O ester ),1639(νC=C aliphatic ),1511,1452(νC=C aromatic),1107(νC−O−C ether )
1HNMR(500MHz,CDCl3 ,TMS)δ(ppm):
0.33〜2.12(broad,10.1H,Ha ,Hc ,Hd ,He ,Hm ,Hn ),2.31(m,2.3H,Hh ),2.61(m,1.7H,Hi ),5.01(broad,1.8H,Hk ,Hl ),5.83(m,1.0H,Hj ),6.14〜7.21(broad,13.7H,Hf ,Hg ,Ho ,Hp ,Hq ,Hr ,Hs )
【0050】
〈架橋体の合成〉
架橋体合成例1:
2Lナスフラスコに、スターポリマー(E)88.8g(4.8μmol)、第2世代グラブス触媒36.6mg、ジクロロメタン1.5Lを入れ、24時間還流した。その後、更に第2世代グラブス触媒36.6mgを加え、室温で24時間撹拌した。反応が終了した後、溶液中の触媒を分液操作およびアルミナカラムにより除去し、溶液を濃縮し、良溶媒としてクロロホルム、貧溶媒としてメタノールを用いて再沈殿処理を行った。その後、室温で減圧乾燥を行うことにより、白色個体を得た。収量は85.2g(96%)であった。
IR分析の結果から、1639cm-1のC=C aliphatic の伸縮振動に起因する吸収ピークの強度が減少したことから、分子内架橋が進行したことが確認された。得られた生成物を「架橋体(G)」とする。
また、架橋体(G)の数平均分子量Mnは16600、分子量分布Mw/Mnは1.10であり、スターポリマー(E)と比較して分子量および分子量分布が低下したのは、架橋により分子サイズが小さくなり、見かけ上の分子量が低下したためと考えられる。
【0051】
IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図13に、 1H−NMRスペクトル図を図14に示す。
IR(film,cm-1):
3024(νC−H aromatic),1746(νC=O ester ),1510,1452(νC=C aromatic),1100(νC−O−C ether )
1HNMR(500MHz,CDCl3 ,TMS)δ(ppm):
0.32〜3.70(very broad),4.91〜7.41(very broad)
【0052】
架橋体合成例2:
2Lナスフラスコに、スターポリマー(F)184.3g(4.8μmol)、第2世代グラブス触媒36.6mg、ジクロロメタン1.5Lを入れ、24時間還流した。その後、更に第2世代グラブス触媒36.6mgを加え、室温で24時間撹拌した。反応が終了した後、溶液中の触媒を分液操作およびアルミナカラムにより除去し、溶液を濃縮し、良溶媒としてクロロホルム、貧溶媒としてメタノールを用いて再沈殿処理を行った。その後、室温で減圧乾燥を行うことにより、白色個体を得た。収量は178.8g(97%)であった。
IR分析の結果から、1639cm-1のC=C aliphatic の伸縮振動に起因する吸収ピークの強度が減少したことから、分子内架橋が進行したことが確認された。得られた生成物を「架橋体(H)」とする。
また、架橋体(H)の数平均分子量Mnは38100、分子量分布Mw/Mnは1.13であり、スターポリマー(F)と比較して分子量および分子量分布が低下したのは、架橋により分子サイズが小さくなり、見かけ上の分子量が低下したためと考えられる。
【0053】
IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図15に、 1H−NMRスペクトル図を図16に示す。
IR(film,cm-1):
3025(νC−H aromatic),1750(νC=O ester ),1509,1452(νC=C aromatic),1096(νC−O−C ether )
1HNMR(500MHz,CDCl3 ,TMS)δ(ppm):
0.47〜3.05(very broad),5.97〜7.39(very broad)
【0054】
〈分子カプセルの製造〉
カプセル製造例1:
50mLナスフラスコに、架橋体(G)38.4g(2.0μmol)、テトラヒドロフラン8mL、水酸化カリウム247.8g(4.4mmol)、エタノール1.0mL、水1.0mLを入れ、100℃で60時間還流した。その後、溶液に1N塩酸8mLを加え、有機相をクロロホルムで5回抽出を行い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤をろ別した後、溶液を濃縮し、良溶媒としてクロロホルム、貧溶媒としてメタノールを用いて再沈殿処理を行った。そして、室温で減圧乾燥を行うことにより、白色個体を得た。収量は5.6mg(51%)であった。
IR分析の結果から、1746cm-1のエステルのC=O伸縮振動に起因する吸収ピークが僅かに減少し、1698cm-1のカルボキシル基のC=O伸縮振動に起因する吸収ピークが僅かに発現したことが確認された。
また、得られた生成物の数平均分子量Mnは15300、分子量分布Mw/Mnは1.13であった。
IR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図17に示す。
IR(film,cm-1):
3024(νC−H aromatic),1746(νC=O ester ),1510,1452(νC=C aromatic),1100(νC−O−C ether )
【0055】
カプセル製造例2:
50mLナスフラスコに、架橋体(H)37.6g(1.0μmol)、テトラヒドロフラン4mL、水酸化カリウム123.9g(2.2mmol)、エタノール0.5mL、水0.5mLを入れ、100℃で48時間還流した。その後、溶液に1N塩酸4mLを加え、有機相をクロロホルムで5回抽出を行い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤をろ別した後、溶液を濃縮し、良溶媒としてクロロホルム、貧溶媒としてメタノールを用いて再沈殿処理を行った。そして、室温で減圧乾燥を行うことにより、白色個体を得た。収量は13.8mg(37%)であった。
IR分析の結果から、1750cm-1のエステルのC=O伸縮振動に起因する吸収ピークが消失し、1698cm-1のカルボキシル基のC=O伸縮振動に起因する吸収ピークが発現したことが確認され、カリックスアレーン骨格が離脱し、分子内にカルボキシル基を有する親水性空孔が形成された分子カプセルが得られたことが確認された。
また、得られた生成物の数平均分子量Mnは36500、分子量分布Mw/Mnは1.14であった。
IR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図18に示す。
IR(film,cm-1):
3024(νC−H aromatic),1698(νC=O carboxyl group),1510,1452(νC=C aromatic)
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】化合物合成例1で得られた特定のカリックスアレーン系化合物のIRスペクトル図である。
【図2】化合物合成例1で得られた特定のカリックスアレーン系化合物の 1H−NMRスペクトル図である。
【図3】化合物合成例2で得られた特定のカリックスアレーン系化合物のIRスペクトル図である。
【図4】化合物合成例2で得られた特定のカリックスアレーン系化合物の 1H−NMRスペクトル図である。
【図5】中間体合成例1で得られた中間体スターポリマーのIRスペクトル図である。
【図6】中間体合成例1で得られた中間体スターポリマーの 1H−NMRスペクトル図である。
【図7】中間体合成例2で得られた中間体スターポリマーのIRスペクトル図である。
【図8】中間体合成例2で得られた中間体スターポリマーの 1H−NMRスペクトル図である。
【図9】スターポリマー合成例1で得られた特定のスターポリマーのIRスペクトル図である。
【図10】スターポリマー合成例1で得られた特定のスターポリマーの 1H−NMRスペクトル図である。
【図11】スターポリマー合成例2で得られた特定のスターポリマーのIRスペクトル図である。
【図12】スターポリマー合成例2で得られた特定のスターポリマーの 1H−NMRスペクトル図である。
【図13】架橋体合成例1で得られた架橋体のIRスペクトル図である。
【図14】架橋体合成例1で得られた架橋体の 1H−NMRスペクトル図である。
【図15】架橋体合成例2で得られた架橋体のIRスペクトル図である。
【図16】架橋体合成例2で得られた架橋体の 1H−NMRスペクトル図である。
【図17】カプセル製造例1で得られた分子カプセルのIRスペクトル図である。
【図18】カプセル製造例2で得られた分子カプセルのIRスペクトル図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラッグデリバリーやナノリアクターなどに用いることができる分子カプセルおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超分子化学は、酵素などの生体内に存在する天然物の構造に着想を得て確立された、分子内の分子間相互作用が精密に制御された物質を取り扱う化学分野である。このような化学分野の中でも、ホスト−ゲスト化学において超分子の役割は重要な役割を担っており、現在、超分子化学において、生体内のレセプターおよび酵素等の基質特異性のような性質を有する、選択的にゲスト分子を捕らえるホスト分子の合成が望まれている。
近年、超分子化学において高分子化学は重要な役割を占めており、ポリカテナン、ロタキサンなどの特殊構造を有する超分子ポリマーが合成されている。そして、ドラッグデリバリーやナノリアクターなどへの応用が期待されることから、直鎖型ポリマーの自己集合を利用したコア−シェル型の中空のナノスフィアーおよびナノカプセルに関する研究が盛んに行われており、例えば、ブロック共重合体からポリマーミセル状集合体を形成し、更に、中空ベシクル構造を形成する方法が提案されている(非特許文献1参照。)。然るに、このようなファンデルワールス力により形成されるミセル集合体は、溶媒条件若しくは温度条件等の物理的条件により構造が不安定である、という問題がある。
このような理由から、最近において、共有結合型の分子カプセルが注目され、例えばポルフィリンなどの閉環メタセシス重合によりデンドリマーの末端基アリル位を分子内架橋し、その後、ポルフィリンコアを除去することによって得られる共有結合型の分子カプセルが提案されている(非特許文献2参照。)。然るに、この分子カプセルは、合成工程が多段階でかつ精製が必要となる、という問題がある。
このような問題を解決するため、原子移動型ラジカル重合法(ATRP)を利用して分子カプセルを合成する方法が提案されている(非特許文献3参照。)。
【0003】
【非特許文献1】Wolley K. L., J. Poolym. Sci, Part A: Polym. Chem., 38, 1397(2000).
【非特許文献2】S. C. Zimmerman, M. S. Weldland, N. A. Rakow, I. Zhaov, and K. S.Suslick, Nature,418,339(2002).
【非特許文献3】J. B. Biel and S. C. Zimmerman, Macromlecures, 37, 778(2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規な分子カプセルおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の分子カプセルは、下記式(1)または下記式(2)で表されるスターポリマーをカチオン重合により分子内架橋し、得られた架橋体を加水分解することによりカリックスアレーン骨格を除去することによって得られることを特徴とする。
【0006】
【化1】
【0007】
〔式(1)および式(2)において、Rは、下記式(a)で表される基を示す。〕
【0008】
【化2】
【0009】
本発明の分子カプセルの製造方法は、上記式(1)または上記式(2)で表されるスターポリマーをカチオン重合により分子内架橋し、得られた架橋体を加水分解することによりカリックスアレーン骨格を除去する工程を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の分子カプセルの製造方法においては、下記式(3)または下記式(4)で表されるカリックスアレーン系化合物と、1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンとを反応させ、得られる生成物とスチレンとを反応させることにより、上記式(1)または上記式(2)で表されるスターポリマーを得る工程を有することが好ましい。
【0011】
【化3】
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新規な分子カプセルおよびその製造方法を提供することができ、この分子カプセルは、ドラッグデリバリーやナノリアクターなどに応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の分子カプセルは、上記式(1)または上記式(2)で表されるスターポリマー(以下、「特定のスターポリマー」という。)をカチオン重合により分子内架橋し、得られた架橋体を加水分解することによりカリックスアレーン骨格を除去することによって得られる。
また、特定のスターポリマーは、上記式(3)または上記式(4)で表されるカリックスアレーン系化合物(以下、「特定のカリックスアレーン系化合物」という。)と、1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンとを反応させることにより、下記式(5)または下記式(6)で表されるスターポリマー(以下、「中間体スターポリマー」という。)を合成し、この中間体スターポリマーとスチレンとを反応させることによって得られる。
【0014】
【化4】
【0015】
〔式(5)および式(6)において、R1 は、下記式(b)で表される基を示す。〕
【0016】
【化5】
【0017】
[特定のカリックスアレーン系化合物の合成]
特定のカリックスアレーン系化合物は、p−tert−ブチルカリックス[8]アレーンまたはC−(4−ヒドロキシベンズ)カリックス[4]レゾルシンアレーンと2−ブロモイソブチルブロマイドとを、塩基の存在下に、適宜の溶媒中で反応させることによって得られる。
ここで、塩基としては、トリエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジンなどを用いることができる。
溶媒としては、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、ジクロロメタンなどを用いることができる。
また、反応温度は、例えば0〜70℃であり、反応時間は、例えば2〜48時間である。
また、C−(4−ヒドロキシベンズ)カリックス[4]レゾルシンアレーンは、例えば塩酸の存在下にレゾルシノールとp−ヒドロキシベンズアルデヒドとを反応させることにより得られる。
特定のカリックスアレーン系化合物の合成プロセスを下記式(i−1)および下記式(i−2)に示す。
【0018】
【化6】
【0019】
[中間体スターポリマーの合成]
中間体スターポリマーは、特定のカリックスアレーン系化合物と1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンとを、例えばカチオン触媒の存在下に、適宜の溶媒中または無溶媒で反応させることによって得られる。
触媒系としては、臭化第1銅/2,2’−ビピリジル、ピリジンなどを用いることができる。
溶媒としては、N,N’−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリドン、アニソールなどを用いることができる。
また、反応温度は、例えば0〜100℃であり、反応時間は、例えば0.5〜48時間である。
また、1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンは、例えばアリルマグネシウムブロミドとクロロメチルスチレンとのグリニャール反応により得られる。
中間体スターポリマーの合成プロセスを下記式(ii−1)および下記式(ii−2)に示す。
【0020】
【化7】
【0021】
〔式(ii−1)および式(ii−2)において、R1 は、上記式(b)で表される基を示す。〕
【0022】
[特定のスターポリマーの合成]
特定のスターポリマーは、中間体スターポリマーとスチレンとを、例えばカチオン触媒の存在下に反応させることによって得られる。
触媒系としては、臭化第1銅/2,2’−ビピリジル、ピリジンなどを用いることができる。
また、反応温度は、例えば25〜100℃であり、反応時間は、例えば0.5〜72時間である。
特定のスターポリマーの合成プロセスを下記式(iii −1)および下記式(iii −2)に示す。
【0023】
【化8】
【0024】
〔式(iii −1)および式(iii −2)において、Rは、上記式(a)で表される基を示し、R1 は、上記式(b)で表される基を示す。〕
【0025】
[分子カプセルの製造]
本発明の分子カプセルの製造においては、先ず、特定のスターポリマーを、適宜の溶媒中でカチオン重合により分子内架橋することにより、架橋体を合成する。
架橋反応に用いられる溶媒としては、特定のスターポリマーを溶解することができ、かつ、重合反応を阻害しないものであれば特に限定されず、その具体例としては、ジクロロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、クロロホルムなどを挙げることができる。溶媒としては脱水処理したものを用いることが好ましい。
架橋反応に用いられるカチオン重合触媒としては、第2世代グラブス触媒、BF3 Et2 O、HCl、H2 SO4 CF3 COOHなどを挙げることができる。
また、架橋反応の反応温度は、例えば−20〜60℃であり、反応時間は、例えば1〜48時間である。
【0026】
次いで、この架橋体を、アルカリおよび水の存在下に、適宜の溶媒中で加水分解することにより、架橋体におけるカリックスアレーン骨格を除去することによって得られる。
加水分解反応に用いられるアルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどを挙げることができる。
加水分解反応に用いられる溶媒としては、テトラヒドロフラン、エタノール、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、トリクロロメタン、ジクロロメタンなどを挙げることができる。
また、加水分解反応の反応温度は、例えば0〜100℃であり、反応時間は、例えば0.1〜60時間である。
【0027】
このようにして得られる分子カプセルは、分子内にカルボキシル基を有する親水性空孔が形成されたものであり、例えばドラッグデリバリー、ナノリアクター、分子包接化合物などに有用である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0029】
以下の実施例において、原料および溶媒等として下記のものを使用した。
(1)p−tert−ブチルカリックスアレーンとしては、新中村化学(株)より提供されたものをクロロホルムに溶解させた後、再結晶を行うことにより精製したものを使用した。
(2)2,2’−ビピリジルとしては、n−ヘキサンに熔解させた後、再結晶を行うことにより精製したものを使用した。
(3)4,4’−ジノニル−2,2’−ジピリジルとしては、n−ヘキサンに溶解させた後、再結晶を行うことにより精製したものを使用した。
(4)臭化第1銅としては、酢酸中で撹拌した後、エタノールおよびエーテルで洗浄して乾燥することにより精製したものを使用した。
(5)クロロメチルスチレンとしては、セイミケミカル(株)より提供されたものを減圧乾燥処理することにより精製したものを使用した。
(6)スチレンとしては、水素化カルシウムを用いて脱水処理した後、減圧蒸留することにより精製したものを使用した。
(7)塩化メチレンとしては、水素化カルシウムを用いて脱水処理した後、減圧蒸留することにより精製したものを使用した。
(8)レゾルシノール、p−ヒドロベンズアルデヒド、2−ブロモイソブチルブロマイド、エタノール、アリルマグネシウムクロリド(THF2.0M溶液)、テトラヒドロフラン、第2世代グラブス触媒としては、市販のものをそのまま使用した。
(9)C−(4−ヒドロキシベンズ)カリックス[4]レゾルシンアレーンとしては、以下のようにして調製したものを使用した。
レゾルシノール11.04g(0.1mol)をエタノール20mLに溶解し、12N塩酸14.0mLを加えた後、この溶液を撹拌させながら5℃まで氷冷し、p−ヒドロキシベンズアルデヒド12.22g(0.1mol)を加えた。その後、80℃で1時間撹拌した。反応終了後、室温に戻し、析出した赤白色固体をろ別し、水、メタノール、アセトンの順に十分洗浄し、得られた固体を24時間減圧乾燥することにより、C−(4−ヒドロキシベンズ)カリックス[4]レゾルシンアレーンを得た。
(10)1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンとしては、以下のようにして調製したものを使用した。
アルゴン置換された三つ口フラスコ内に、アリルマグネシウムクロリド(THF2.0M溶液)100mL(200mmol)を加えた後、攪拌下で1−(クロロメチル)−4−ビニルベンゼン28mL(200mmol)を徐々に滴下した。反応母液を水で希釈した後、有機相をエーテルで4回抽出し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、乾燥剤をろ別した後に減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n−ヘキサン)により単離した。得られた薄黄色液体を蒸留することにより、無色透明液体の1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンを得た。
【0030】
また、測定装置としては、下記のものを使用した。
(1)赤外分光光度計(IR):Thermo ELECTRON製「NICOLLET 380」
(2)核磁気共鳴装置(NMR):
1H−NMR:日本電子(株) 製「JNM−ECA−500(500MHz)」
(3)ゲル浸透クロマトグラフィー:東ソー(株)製「HLC−8020システム」,
カラム:「TSK gelMultipore Hxl−M」,
展開溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド
(4)多角度レーザー光散乱検出器:Wyatt DAWN8+
【0031】
以下の実施例において、数平均分子量Mn(以下、「Mn」という。)および分子量分布Mw/Mn(以下、「Mw/Mn」という。)は、特に断りの無い限り、ゲル浸透クロマトグラフィーおよび多角度レーザー光散乱検出器(SECDMF /MALLS)によって測定されたものを示す。
【0032】
〈特定のカリックスアレーン系化合物の合成〉
化合物合成例1:
300ml三つ口ナスフラスコにp−tert−ブチルカリックス[8]アレーン2.85g (2mmol)、トリエチルアミン7.29g(72mmol)、テトラヒドロフラン50mlを加えて、アルゴンガス雰囲気下で氷冷しながら、これに2−ブロモイソブチルブロマイド16.6g(72mmol)を20分間滴下し、その後、70℃で24時間還流させた。次いで、クロロホルムで希釈し、1N水酸化ナトリウム水溶液で2回、1N塩酸で2回、飽和食塩水で3回洗浄を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥を行い、乾燥剤をろ別した後、溶媒を減圧留去した。得られた粗結晶をクロロホルムに溶解させ、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)により分離した。そして、クロロホルムを用いて再結晶処理を行い、白色の板状結晶を得た。収量は2.6g(55%)であった。
IR分析およびNMR分析の結果から、得られた生成物は、下記式(A)で表される特定のカリックスアレーン系化合物であることが確認された。以下、これを「化合物(A)」とする。
【0033】
【化9】
【0034】
IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図1に、 1H−NMRスペクトル図を図2に示す。
IR (KBr,cm-1):
2966(νCH3 ),2868(νCH2 ),1753(νC=O ester ),1599,1461(νC=C aromatic) ,1140,1104(νC−O−C ether ) 1HNMR(500MHz,CDCl3 ,TMS)δ(ppm):
1.33(m,72.0 H,Hc ),2.10(m,48.0H,Ha ),3.34〜4.19(m,16.0H,Hb )
【0035】
化合物合成例2:
300ml三つ口ナスフラスコにC−(4−ヒドロキシベンズ)カリックス[4]レゾルシンアレーン1.7g (2mmol)、トリエチルアミン7.29g(72mmol)、テトラヒドロフラン50mlを加えて、アルゴンガス雰囲気下で氷冷しながら、これにテトラヒドロフラン100mlで希釈した2−ブロモイソブチルブロマイド16.6g(72mmol)を20分間かけて滴下し、その後、70℃で24時間攪拌した。次いで、溶液をクロロホルムで希釈し、1N水酸化ナトリウム水溶液で2回、1N塩酸で2回、飽和食塩水で3回洗浄を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、乾燥剤をろ別した後、溶媒を減圧留去した。得られた粗結晶をクロロホルムに溶解させ、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)により分離した。そして、クロロホルムを減圧留去した後、クロロホルムを用いて再結晶処理を行い、白色の板状結晶を得た。収量は1.0g(19%)であった。
元素分析、IR分析およびNMR分析の結果から、得られた生成物は、下記式(B)で表される特定のカリックスアレーン系化合物であることが確認された。以下、これを「化合物(B)」とする。
【0036】
【化10】
【0037】
元素分析、IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図3に、 1H−NMRスペクトル図を図4に示す。
元素分析(C101 H102 Br12O23) 実測値:C:45.81%,H:3.65%
計算値:C:45.90%,H:3.89%
IR(film,cm-1):
2977(νCH3 ),2930(νCH2 ),1757(νC=O ester ),1593,1491(νC=C aromatic) ,1134,1100(νC−O−C ether ) 1HNMR(500MHz,CDCl3 ,TMS)δ(ppm):
1.68(d,24.0H,Hd ),1.86(s,12.0H,Hb ),1.95(s,12.0 H,Hc ),2.06(d,24.0H,Ha ),5.84(s,4.0H,He ),6.13(s,2.0H,Hf ),6.33(s,2.0H,Hi ),6.82(d,8.0H,Hj ),6.98(s,2.0H,Hg ),7.04(s,2.0H,Hh )
【0038】
〈中間体スターポリマーの合成〉
中間体合成例1:
20ml二股ナスフラスコに化合物(A)125.6mg(0.050mmol)、2,2’−ビピリジル126.0mg(0.81mmol)を加え、窒素雰囲気下で、臭化銅(I)58.0 mg(0.81mmol)、1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼン10.0ml(50.4mmol)を加え、脱気・封管を行った後、100℃で30分間反応を行った。その後、液体窒素で反応を停止し、反応母液をクロロホルムで希釈して、アルミナカラムに通して、反応系中の銅を除去した。次いで、クロロホルムを減圧留去した後、良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にメタノールを用いて沈殿精製処理を行い、室温で24時間減圧乾燥し、白色の粉末を得た。
IR分析およびNMR分析の結果から、得られた生成物は、下記式(C)で表される中間体スターポリマーであることが確認された。以下、これを「中間体(C)」とする。
また、中間体(C)の数平均分子量Mnは9200、分子量分布Mw/Mnは1.14で 1H−NMR分析から算出した1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンの転化率は6%であった。
【0039】
【化11】
【0040】
IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図5に、 1H−NMRスペクトル図を図6に示す。
IR(film,cm-1):
3047(νC−H aromatic),1747(νC=O ester ),1639(νC=C aliphatic ),1511,1448(νC=C aromatic),1111(νC−O−C ether )
1HNMR(500MHz,CDCl3 ,TMS)δ(ppm):
0.16〜2.12(broad,3.8H,Ha ,Hc ,Hd ,He )2.31(m,2.4H,Hh ),2.61(m,2.0H,Hi ),4.96〜5.02(m,2.0H,Hk ,Hl ),5.84(m,1.0H,Hj ),6.10〜7.21(broad,4.4H,Hf ,Hg )
【0041】
中間体合成例2:
20ml二股ナスフラスコに化合物(B)111.1mg(0.042mmol)、4,4’−ジノニル−2,2’−ジピリジル274.9mg(0.67mmol)を加え、窒素雰囲気下で、臭化銅(I)48.2 mg(0.34mmol)、1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼン10.0ml(50.4mmol)を加え、脱気・封管を行った後、100℃で1.5時間反応を行った。その後、液体窒素で反応を停止し、反応母液をクロロホルムで希釈して、アルミナカラムに通して、反応系中の銅を除去した。次いで、クロロホルムを減圧留去した後、良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にメタノールを用いて沈殿精製処理を行い、室温で24時間減圧乾燥し、白色の粉末を得た。
IR分析およびNMR分析の結果から、得られた生成物は、下記式(D)で表される中間体スターポリマーであることが確認された。以下、これを「中間体(D)」とする。
また、中間体(D)の数平均分子量Mnは12800、分子量分布Mw/Mnは1.05で 1H−NMR分析から算出した1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンの転化率は4%であった。
【0042】
【化12】
【0043】
IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図7に、 1H−NMRスペクトル図を図8に示す。
IR(film,cm-1):
2978(νCH3 ),2924(νCH2 ),2852(νC−H),1753(νC=O ester ),1639(νC=C aliphatic ),1511,1445(νC=C aromatic),1102(νC−O−C ether )
1HNMR(500MHz,CDCl3 ,TMS)δ(ppm):
0.15〜2.06(broad,3.2H,Ha ,Hc ,Hd ,Hl ),2.32(m,2.3H,Hh ),2.63(m,1.8H,Hg ),4.97(m,1.9H,Hj ,Hk ),5.84(d,1.0H,Hi ),6.04〜7.19(broad,3.9H,He Hf )
【0044】
〈特定のスターポリマーの合成〉
スターポリマー合成例1:
二股試験管に中間体(C)119.5mg(0.013mmol)を加え、窒素雰囲気下で、ペンタメチルジエチレントリアミン3.0μl(0.013mmol)、臭化銅(I)1.9 mg(0.013mmol)、スチレン1.5ml(13.0mmol)を加え、脱気・封管を行った後、80℃で7時間反応を行った。その後、液体窒素で反応を停止し、反応母液をクロロホルムで希釈して、アルミナカラムに通して、反応系中の銅を除去した。次いで、クロロホルムを減圧留去した後、良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にメタノールを用いて沈殿精製処理を行い、室温で24時間減圧乾燥し、白色の粉末を得た。 IR分析およびNMR分析の結果から、得られた生成物は、下記式(E)で表される特定のスターポリマーであることが確認された。以下、これを「スターポリマー(E)」とする。
また、スターポリマー(E)の数平均分子量Mnは18500、分子量分布Mw/Mnは1.09で 1H−NMR分析から算出したスチレンの転化率は12%であった。
【0045】
【化13】
【0046】
IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図9に、 1H−NMRスペクトル図を図10に示す。
IR(film,cm-1):
3025(νC−H aromatic),1747(νC=O ester ),1639(νC=C aliphatic ),1511,1452(νC=C aromatic),1107(νC−O−C ether )
1HNMR(500MHz,CDCl3 ,TMS)δ(ppm):
0.35〜2.16(broad,7.7H,Ha ,Hc ,Hd ,He ,Hm ,Hn ),2.32(m,2.6H,Hh ),2.61(m,2.3H,Hi ),5.01(m,2.0H,Hk ,Hl ),5.84(m,1.0H,Hj ),6.18〜7.21(broad,10.6H,Hf ,Hg ,Ho ,Hp ,Hq ,Hr )
【0047】
スターポリマー合成例2:
二股試験管に中間体(D)110.8mg(0.0087mmol)を加え、窒素雰囲気下で、ペンタメチルジエチレントリアミン3.6μl(0.0174mmol)、臭化銅(I)2.5mg(0.0174mmol)、スチレン1.0ml(8.7mmol)を加え、脱気・封管を行った後、80℃で4時間反応を行った。その後、液体窒素で反応を停止し、反応母液をクロロホルムで希釈して、アルミナカラムに通して、反応系中の銅を除去した。次いで、クロロホルムを減圧留去した後、良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にメタノールを用いて沈殿精製処理を行い、室温で24時間減圧乾燥し、白色の粉末を得た。
IR分析およびNMR分析の結果から、得られた生成物は、下記式(F)で表される特定のスターポリマーであることが確認された。以下、これを「スターポリマー(F)」とする。
また、スターポリマー(F)の数平均分子量Mnは38400、分子量分布Mw/Mnは1.15で 1H−NMR分析から算出したスチレンの転化率は12%であった。
【0048】
【化14】
【0049】
IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図11に、 1H−NMRスペクトル図を図12に示す。
IR(film,cm-1):
3025(νC−H aromatic),1747(νC=O ester ),1639(νC=C aliphatic ),1511,1452(νC=C aromatic),1107(νC−O−C ether )
1HNMR(500MHz,CDCl3 ,TMS)δ(ppm):
0.33〜2.12(broad,10.1H,Ha ,Hc ,Hd ,He ,Hm ,Hn ),2.31(m,2.3H,Hh ),2.61(m,1.7H,Hi ),5.01(broad,1.8H,Hk ,Hl ),5.83(m,1.0H,Hj ),6.14〜7.21(broad,13.7H,Hf ,Hg ,Ho ,Hp ,Hq ,Hr ,Hs )
【0050】
〈架橋体の合成〉
架橋体合成例1:
2Lナスフラスコに、スターポリマー(E)88.8g(4.8μmol)、第2世代グラブス触媒36.6mg、ジクロロメタン1.5Lを入れ、24時間還流した。その後、更に第2世代グラブス触媒36.6mgを加え、室温で24時間撹拌した。反応が終了した後、溶液中の触媒を分液操作およびアルミナカラムにより除去し、溶液を濃縮し、良溶媒としてクロロホルム、貧溶媒としてメタノールを用いて再沈殿処理を行った。その後、室温で減圧乾燥を行うことにより、白色個体を得た。収量は85.2g(96%)であった。
IR分析の結果から、1639cm-1のC=C aliphatic の伸縮振動に起因する吸収ピークの強度が減少したことから、分子内架橋が進行したことが確認された。得られた生成物を「架橋体(G)」とする。
また、架橋体(G)の数平均分子量Mnは16600、分子量分布Mw/Mnは1.10であり、スターポリマー(E)と比較して分子量および分子量分布が低下したのは、架橋により分子サイズが小さくなり、見かけ上の分子量が低下したためと考えられる。
【0051】
IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図13に、 1H−NMRスペクトル図を図14に示す。
IR(film,cm-1):
3024(νC−H aromatic),1746(νC=O ester ),1510,1452(νC=C aromatic),1100(νC−O−C ether )
1HNMR(500MHz,CDCl3 ,TMS)δ(ppm):
0.32〜3.70(very broad),4.91〜7.41(very broad)
【0052】
架橋体合成例2:
2Lナスフラスコに、スターポリマー(F)184.3g(4.8μmol)、第2世代グラブス触媒36.6mg、ジクロロメタン1.5Lを入れ、24時間還流した。その後、更に第2世代グラブス触媒36.6mgを加え、室温で24時間撹拌した。反応が終了した後、溶液中の触媒を分液操作およびアルミナカラムにより除去し、溶液を濃縮し、良溶媒としてクロロホルム、貧溶媒としてメタノールを用いて再沈殿処理を行った。その後、室温で減圧乾燥を行うことにより、白色個体を得た。収量は178.8g(97%)であった。
IR分析の結果から、1639cm-1のC=C aliphatic の伸縮振動に起因する吸収ピークの強度が減少したことから、分子内架橋が進行したことが確認された。得られた生成物を「架橋体(H)」とする。
また、架橋体(H)の数平均分子量Mnは38100、分子量分布Mw/Mnは1.13であり、スターポリマー(F)と比較して分子量および分子量分布が低下したのは、架橋により分子サイズが小さくなり、見かけ上の分子量が低下したためと考えられる。
【0053】
IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図15に、 1H−NMRスペクトル図を図16に示す。
IR(film,cm-1):
3025(νC−H aromatic),1750(νC=O ester ),1509,1452(νC=C aromatic),1096(νC−O−C ether )
1HNMR(500MHz,CDCl3 ,TMS)δ(ppm):
0.47〜3.05(very broad),5.97〜7.39(very broad)
【0054】
〈分子カプセルの製造〉
カプセル製造例1:
50mLナスフラスコに、架橋体(G)38.4g(2.0μmol)、テトラヒドロフラン8mL、水酸化カリウム247.8g(4.4mmol)、エタノール1.0mL、水1.0mLを入れ、100℃で60時間還流した。その後、溶液に1N塩酸8mLを加え、有機相をクロロホルムで5回抽出を行い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤をろ別した後、溶液を濃縮し、良溶媒としてクロロホルム、貧溶媒としてメタノールを用いて再沈殿処理を行った。そして、室温で減圧乾燥を行うことにより、白色個体を得た。収量は5.6mg(51%)であった。
IR分析の結果から、1746cm-1のエステルのC=O伸縮振動に起因する吸収ピークが僅かに減少し、1698cm-1のカルボキシル基のC=O伸縮振動に起因する吸収ピークが僅かに発現したことが確認された。
また、得られた生成物の数平均分子量Mnは15300、分子量分布Mw/Mnは1.13であった。
IR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図17に示す。
IR(film,cm-1):
3024(νC−H aromatic),1746(νC=O ester ),1510,1452(νC=C aromatic),1100(νC−O−C ether )
【0055】
カプセル製造例2:
50mLナスフラスコに、架橋体(H)37.6g(1.0μmol)、テトラヒドロフラン4mL、水酸化カリウム123.9g(2.2mmol)、エタノール0.5mL、水0.5mLを入れ、100℃で48時間還流した。その後、溶液に1N塩酸4mLを加え、有機相をクロロホルムで5回抽出を行い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤をろ別した後、溶液を濃縮し、良溶媒としてクロロホルム、貧溶媒としてメタノールを用いて再沈殿処理を行った。そして、室温で減圧乾燥を行うことにより、白色個体を得た。収量は13.8mg(37%)であった。
IR分析の結果から、1750cm-1のエステルのC=O伸縮振動に起因する吸収ピークが消失し、1698cm-1のカルボキシル基のC=O伸縮振動に起因する吸収ピークが発現したことが確認され、カリックスアレーン骨格が離脱し、分子内にカルボキシル基を有する親水性空孔が形成された分子カプセルが得られたことが確認された。
また、得られた生成物の数平均分子量Mnは36500、分子量分布Mw/Mnは1.14であった。
IR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図18に示す。
IR(film,cm-1):
3024(νC−H aromatic),1698(νC=O carboxyl group),1510,1452(νC=C aromatic)
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】化合物合成例1で得られた特定のカリックスアレーン系化合物のIRスペクトル図である。
【図2】化合物合成例1で得られた特定のカリックスアレーン系化合物の 1H−NMRスペクトル図である。
【図3】化合物合成例2で得られた特定のカリックスアレーン系化合物のIRスペクトル図である。
【図4】化合物合成例2で得られた特定のカリックスアレーン系化合物の 1H−NMRスペクトル図である。
【図5】中間体合成例1で得られた中間体スターポリマーのIRスペクトル図である。
【図6】中間体合成例1で得られた中間体スターポリマーの 1H−NMRスペクトル図である。
【図7】中間体合成例2で得られた中間体スターポリマーのIRスペクトル図である。
【図8】中間体合成例2で得られた中間体スターポリマーの 1H−NMRスペクトル図である。
【図9】スターポリマー合成例1で得られた特定のスターポリマーのIRスペクトル図である。
【図10】スターポリマー合成例1で得られた特定のスターポリマーの 1H−NMRスペクトル図である。
【図11】スターポリマー合成例2で得られた特定のスターポリマーのIRスペクトル図である。
【図12】スターポリマー合成例2で得られた特定のスターポリマーの 1H−NMRスペクトル図である。
【図13】架橋体合成例1で得られた架橋体のIRスペクトル図である。
【図14】架橋体合成例1で得られた架橋体の 1H−NMRスペクトル図である。
【図15】架橋体合成例2で得られた架橋体のIRスペクトル図である。
【図16】架橋体合成例2で得られた架橋体の 1H−NMRスペクトル図である。
【図17】カプセル製造例1で得られた分子カプセルのIRスペクトル図である。
【図18】カプセル製造例2で得られた分子カプセルのIRスペクトル図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)または下記式(2)で表されるスターポリマーをカチオン重合により分子内架橋し、得られた架橋体を加水分解することによりカリックスアレーン骨格を除去することによって得られることを特徴とする分子カプセル。
【化1】
〔式(1)および式(2)において、Rは、下記式(a)で表される基を示す。〕
【化2】
【請求項2】
請求項1に記載の式(1)または式(2)で表されるスターポリマーをカチオン重合により分子内架橋し、得られた架橋体を加水分解することによりカリックスアレーン骨格を除去する工程を有することを特徴とする分子カプセルの製造方法。
【請求項3】
下記式(3)または下記式(4)で表されるカリックスアレーン系化合物と、1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンとを反応させ、得られる生成物とスチレンとを反応させることにより、請求項1に記載の式(1)または式(2)で表されるスターポリマーを得る工程を有することを特徴とする請求項2に記載の分子カプセルの製造方法。
【化3】
【請求項1】
下記式(1)または下記式(2)で表されるスターポリマーをカチオン重合により分子内架橋し、得られた架橋体を加水分解することによりカリックスアレーン骨格を除去することによって得られることを特徴とする分子カプセル。
【化1】
〔式(1)および式(2)において、Rは、下記式(a)で表される基を示す。〕
【化2】
【請求項2】
請求項1に記載の式(1)または式(2)で表されるスターポリマーをカチオン重合により分子内架橋し、得られた架橋体を加水分解することによりカリックスアレーン骨格を除去する工程を有することを特徴とする分子カプセルの製造方法。
【請求項3】
下記式(3)または下記式(4)で表されるカリックスアレーン系化合物と、1−(3−ブテニル)−4−ビニルベンゼンとを反応させ、得られる生成物とスチレンとを反応させることにより、請求項1に記載の式(1)または式(2)で表されるスターポリマーを得る工程を有することを特徴とする請求項2に記載の分子カプセルの製造方法。
【化3】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2009−263605(P2009−263605A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118474(P2008−118474)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】
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