説明

分子篩炭素及びその製造方法

【課題】フェノール類と尿素類とアルデヒド類を原料として合成したフェノール・尿素混合樹脂を原料とし、CO2について優れた選択吸着性能、ガス分離性能を有する細孔を制御した分子篩炭素及びその製造方法を得る。
【解決手段】細孔を制御した分子篩炭素であって、フェノール類と尿素類とアルデヒド類から合成したフェノール・尿素混合樹脂を炭化してなることを特徴とする細孔を制御した分子篩炭素及びその製造方法。その製造に際して賦活剤が不要である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子篩炭素及びその製造方法に関し、より詳しくはフェノール類と尿素類とアルデヒド類とを成分として重縮合して製造した樹脂を原料とする、細孔を制御した分子篩炭素及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス分離の方法には、主に膜分離法、圧力スイング法(以下、PSA法と言う)、液吸収法などがある。これらガス分離法は消化ガスからのメタン(CH4)の分離にも適用されている。例えば、特開2003−320221号公報には液吸収法が開示され、特開平6−173119号公報、特開平8−67513号公報にはPSA法が開示されている。そのうち、液吸収法は、消化ガスを例に言えば炭酸カリウム水溶液などに対するCH4とCO2の溶解度差を利用する方法であり、PSA法は、消化ガスを例に言えばCH4とCO2(二酸化炭素)の吸着力の差を利用する方法である。
【0003】
PSA法では吸着剤が使用されるが、分子篩炭素は、通常の吸着剤である活性炭よりシャープな細孔分布を有することから、CH4とCO2の吸着力の差が大きく、CH4の分離に適している。しかし、分子篩炭素の細孔分布を制御するのは容易ではなく、その制御方法について多くの研究がなされている。
【0004】
例えば、特開平11−79722号公報には、フェノール樹脂粒子を不活性ガス雰囲気中で焼成炭化して得られた球状炭素粒子が記載されている。より具体的には、この球状炭素粒子は、炭化後における平均粒径が100μm以下となるフェノール樹脂粒子を不活性ガス雰囲気中で800〜1200℃で焼成、炭化して得られ、炭酸ガスを選択的に吸着する炭酸ガス固定用炭素粒子として説明されている。また、特開2006−96780号公報には、フェノール樹脂に沸点800℃以下の化合物を反応させた後、炭化することで分子篩能を発現させた炭素材が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−320221号公報
【特許文献2】特開平6−173119号公報
【特許文献3】特開平8−67513号公報
【特許文献4】特開平11−79722号公報
【特許文献5】特開2006−96780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それらのガス分離法のうち、液吸収法ではCH4とCO2の水への溶解度差が25倍程度と小さく、分離性能がよくないという問題があった。また、前記特開平8−67513号公報、特開2006−96780号公報にはフェノール樹脂等を用いた炭素材が開示されている。しかし、特開平8−67513号公報に記載の分子篩炭素はCO2以外にC26を吸着し、特開2006−96780号公報に記載の分子篩炭素はCO2以外にN2を吸着するなどCO2選択吸着性に問題がある。
【0007】
ところで、本発明者らは、フェノール類とアルデヒド類から合成したフェノール樹脂を炭化することで製造した樹脂炭化物が比較的シャープな細孔分布を有し、分子篩として使用し得ることを見い出し、先に発表している(炭素材料学会第32回年会要旨集:2005年12月、p.224〜225)。
【0008】
その時点では、C38/C36(プロパン/プロピレン)系の分離性能がより良好な分子篩炭素を得ることができた。
【0009】
【非特許文献1】炭素材料学会第32回年会要旨集:2005年12月7日発行、p.224〜225
【0010】
また、同要旨集では、当該分子篩炭素によるC38/C36系のガス分離についての取得データを示しているが、CO2、CH4、N2(窒素)その他のガスについての吸着能、ガス分離能について、どのような特性を示すかは明らかではない。
【0011】
このため、フェノール樹脂を原料とする分子篩炭素自体についてもさらに実験、検討を続けるとともに、その一方で、原料であるフェノール樹脂の構成成分に着目し、その構成成分如何、炭化条件等につき実験、検討を続けたところ、原料であるフェノール樹脂の構成成分として、フェノール類、アルデヒド類のほかに、尿素類を加えることにより、得られる分子篩炭素の細孔を制御し得ることを見い出した。
【0012】
すなわち、本発明は、フェノール類と尿素類とアルデヒド類とを成分として重縮合して製造した樹脂(本明細書中、適宜“フェノール・尿素混合樹脂”と略称する)を原料とし、CO2、CH4、N2その他複数種の成分を含むガスからCO2を選択的に吸着し分離することができる、細孔を制御した分子篩炭素及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明(1)は、細孔を制御した分子篩炭素である。そして、フェノール類と尿素類とアルデヒド類から合成したフェノール・尿素混合樹脂を炭化(carbonization)してなることを特徴とする。
【0014】
本発明(2)は、本発明(1)の細孔を制御した分子篩炭素において、前記フェノール・尿素混合樹脂におけるフェノール類と尿素類の混合比がモル比(U/Pモル比)で1:0.5〜10であることを特徴とする。
【0015】
本発明(3)は、フェノール類と尿素類とアルデヒド類から合成したフェノール・尿素混合樹脂を炭化してなる細孔を制御した分子篩炭素である。そして、添付図面の図7において、縦軸のU/Pモル比と横軸の炭化温度との関係で、点線Zの枠内の条件を満たすU/Pモル比のフェノール・尿素混合樹脂を炭化してなることを特徴とする。
【0016】
本発明(4)は、本発明(1)〜(3)の細孔を制御した分子篩炭素において、前記フェノール・尿素混合樹脂の炭化温度が600〜1200℃であり、炭化時間が15分以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明(5)は、本発明(1)〜(3)の細孔を制御した分子篩炭素である。そして、前記フェノール・尿素混合樹脂を炭化温度700℃以上、炭化時間30分以上で炭化してなることを特徴とする。
【0018】
本発明(6)は、本発明(1)〜(3)の細孔を制御した分子篩炭素である。そして、前記フェノール・尿素混合樹脂を炭化温度900℃、炭化時間30分で炭化してなることを特徴とする。
【0019】
本発明(7)は、本発明(1)〜(6)の細孔を制御した分子篩炭素がCO2を含むガスからのCO2吸着分離用分子篩炭素であることを特徴とする。
【0020】
本発明(8)は、本発明(1)〜(6)の細孔を制御した分子篩炭素がCO2とCH4を含むガスからのCO2吸着分離用分子篩炭素であることを特徴とする。
【0021】
本発明(9)は、細孔を制御した分子篩炭素の製造方法である。そして、フェノール類と尿素類とアルデヒド類から合成したフェノール・尿素混合樹脂を不活性ガス雰囲気下で炭化することを特徴とする。
【0022】
本発明(10)は、本発明(9)の細孔を制御した分子篩炭素の製造方法において、前記フェノール・尿素混合樹脂のフェノール類と尿素類のモル混合比(U/Pモル比)を1:0.2〜10とすることを特徴とする。
【0023】
本発明(11)は、本発明(9)の細孔を制御した分子篩炭素の製造方法において、前記フェノール・尿素混合樹脂のフェノール類と尿素類のモル混合比(U/Pモル比)を1:0.5〜10とすることを特徴とする。
【0024】
本発明(12)は、本発明(9)〜(11)のいずれかの細孔を制御した分子篩炭素の製造方法において、前記フェノール・尿素混合樹脂の炭化温度を600〜1200℃とし、炭化時間を15分以上とすることを特徴とする。
【0025】
本発明(13)は、本発明(9)〜(11)のいずれかの細孔を制御した分子篩炭素の製造方法において、前記フェノール・尿素混合樹脂を炭化温度700℃以上、炭化時間30分以上で炭化することを特徴とする。
【0026】
本発明(14)は、本発明(9)〜(11)のいずれかの細孔を制御した分子篩炭素の製造方法において、前記フェノール・尿素混合樹脂を炭化温度900℃、炭化時間30分で炭化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るPUF分子篩炭素、すなわちフェノール類と尿素類とアルデヒド類を成分として合成したフェノール・尿素混合樹脂を炭化して得られた分子篩炭素により、CO2、CH4、その他のガスを含むガスからCO2を選択的に分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の分子篩炭素の原料樹脂の成分であるフェノール類は、フェノール類であれば特に限定はないが、例えばフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲンフェノール、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール誘導体、1−ナフトール、2−ナフトール等の1価のフェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノールなどが挙げられる。これらを単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
本発明の分子篩炭素の原料樹脂の成分である尿素類としては、尿素のほか、その誘導体を使用する。尿素誘導体としては、例えばトリメチル尿素、テトラメチル尿素、トリエチル尿素、テトラエチル尿素、ジアセチル尿素、メチルイソ尿素、エチルイソ尿素などが挙げられるが、これらに限定されない。これらを単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0030】
本発明の分子篩炭素の原料樹脂の成分であるアルデヒド類は、アルデヒド類であれば特に限定はないが、例えばホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシエチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒドなどが挙げられる。これらを単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0031】
本発明においては、それらのフェノール類の中から適当なフェノールを選び、それらの尿素類の中から適当な尿素またはその誘導体を選び、それらのアルデヒド類の中から適当なアルデヒドを選んで、それら3成分を混合し、重縮合してフェノール・尿素混合樹脂を合成する。重縮合法は特に限定はなく、従来の重縮合法を使用することができる。
【0032】
フェノール・尿素混合樹脂は、塊状、板状、球状、その他各種形状で合成されるが、塊状、板状等の形状の場合には、破砕して粒状にした後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で炭化する。炭化温度は600〜1200℃の範囲とすることができる。炭化温度の下限は600℃である。炭化温度の上限はおおよそ1200℃である。
【0033】
炭化処理は、上記炭化温度の範囲内の一定温度で行ってもよく、その炭化温度の範囲内で温度を変動しながら行ってもよいが、一定温度に昇温後この温度に保つのが好ましい。炭化時間は15分以上とする。炭化時間の上限はおおよそ120分程度であるが、これに限定されない。炭化処理は、上記範囲の炭化温度において、炭化開始時から炭化完了時まで行えばよい。
【0034】
従来法による炭素材の製造では、炭化に際して細孔構造を発達させるために賦活剤が必要である。これに対して、本発明においては、賦活剤は不要であり、分子篩炭素の細孔構造を賦活剤なしで細孔構造を制御できる。このことから、本発明の“細孔を制御した分子篩炭素の製造方法”における細孔構造の制御手段は、フェノール類、尿素類、アルデヒド類の選択以外は実質上、炭化温度、炭化時間だけであるので、その細孔構造形成の制御も容易である。本発明の分子篩炭素の製造に際して賦活剤が不要であることは重要な特徴点である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例(実験例)を基に本発明の分子篩炭素及びその製造方法についてさらに詳しく説明するが、本発明がこれら実験例に限定されないことは勿論である。
なお、前掲要旨集に記載のフェノール樹脂から製造した分子篩炭素は、本発明に直接関連する先行技術であるので、ここでは当該分子篩炭素を“比較例の分子篩炭素”とし、これとの対比を含めて順次説明する。
【0036】
フェノール(P)と尿素(U)とホルムアルデヒド(F)を所定割合(以下、モル比で示している)で混合し、密閉容器中窒素雰囲気で加熱してフェノール・尿素混合樹脂(以下「PUF樹脂」と略称する)を製造した。加熱温度は95℃とした。こうして製造したPUF樹脂を電気炉中、窒素雰囲気下、所定温度、所定時間で炭化して分子篩炭素(以下「PUF分子篩炭素」と略称する)を製造した。比較例の分子篩炭素も同様である。
【0037】
以下の吸着実験において、XPF分子篩炭素、PUF分子篩炭素によるガス吸着量、吸着時定数の測定には、磁気浮遊天秤:形式FMS-BG-H、ガス吸着量測定装置:形式BELSORP-HP、ガス吸着量測定装置:形式BELSORP-28(いずれも日本ベル株式会社製)を用いた。磁気浮遊天秤では吸着量を、BELSORP-HP及びBELSORP-28ではガス吸着量、吸着時定数を、各吸着ガスをそれぞれ用いて25℃で測定した。
【0038】
〈比較例の分子篩炭素〉
比較例:分子篩炭素は、3,5−ジメチルフェノール(X)とフェノール(P)とホルムアルデヒド(F)を1:1:4のモル比で混合して得られた樹脂(以下「XPF樹脂」と略称する)を電気炉中、800℃で30分間炭化して得た粒状の分子篩炭素である。炭化雰囲気は窒素雰囲気とした。
【0039】
図1は、当該分子篩炭素(図1中、XPF−MSCと表示。以下「比較例:XPF分子篩炭素」と略称する)による、吸着圧力に対するCO2とCH4の吸着量を示した図である。図1のとおり、CO2は吸着され、その吸着量は圧力を上げるに伴い多くなっていくのに対して、CH4はごく僅かに吸着され、その吸着量は圧力を上げても僅かに増加するだけである。
【0040】
〈実施例1の分子篩炭素〉
実施例1の分子篩炭素は、フェノール(P)と尿素(U)とホルムアルデヒド(F)を1:0.5:3のモル比で混合し合成して得られたフェノール・尿素混合樹脂〔実施例1:PUF樹脂,フェノールに対する尿素の混合比(モル比:以下当該混合比について同じ):U/P=0.5)〕を900℃で30分間炭化して得た粒状の分子篩炭素である。この分子篩炭素を「実施例1:PUF分子篩炭素」とする。炭化雰囲気は比較例の分子篩炭素の場合と同じく窒素雰囲気とした。この点、以下に記載の実施例2〜4の分子篩炭素についても同じである。
【0041】
図2は、実施例1:PUF分子篩炭素による、吸着圧力に対するCO2とCH4の吸着量を示した図である。図2のとおり、実施例1:PUF分子篩炭素には、CH4とCO2は共に吸着されるが、CO2の方が多量に吸着され、それらの吸着量は圧力を上げるに伴い多くなる。
【0042】
また、実施例1:PUF分子篩炭素によるCO2、CH4の吸着時定数(飽和吸着量の1/2に達するまでに要する時間。以下、吸着時定数について同じ)を測定したところ、それぞれ6.9秒、556.9秒であった。
【0043】
〈実施例2の分子篩炭素〉
フェノール(P)と尿素(U)とホルムアルデヒド(F)を1:1:4のモル比で混合し合成して得られたフェノール・尿素混合樹脂(実施例2:PUF樹脂,フェノールに対する尿素の混合比:U/P=1)を電気炉中、900℃で30分間炭化して得た分子篩炭素である。この分子篩炭素を「実施例2:PUF分子篩炭素」とする。
【0044】
図3は、実施例2:PUF分子篩炭素による、吸着圧力に対するCO2とCH4の吸着量を示した図である。図3のとおり、実施例2:PUF分子篩炭素には、CH4とCO2は共に吸着されるが、CO2の方が多量に吸着され、それらの吸着量は圧力を上げるに伴い多くなる。
【0045】
また、実施例2:PUF分子篩炭素によるCO2の吸着時定数、CH4の吸着時定数を測定したところ、それぞれ19.6秒、1216.6秒であった。
【0046】
〈実施例3の分子篩炭素〉
フェノール(P)と尿素(U)とホルムアルデヒド(F)を1:2:6のモル比で混合し合成して得られたフェノール・尿素混合樹脂(実施例3:PUF樹脂,フェノールに対する尿素の混合比:U/P=2)を電気炉中、900℃で30分間炭化して得た粒状の分子篩炭素である。この分子篩炭素を「実施例3:PUF分子篩炭素」とする。
【0047】
図4は、実施例3:PUF分子篩炭素による、吸着圧力に対するCO2とCH4の吸着量を示した図である。図4のとおり、実施例3:PUF分子篩炭素には、CH4とCO2は共に吸着されるが、CO2の方が多量に吸着され、それらの吸着量は圧力を上げるに伴い多くなる。
【0048】
また、実施例3:PUF分子篩炭素によるCO2の吸着時定数、CH4の吸着時定数を測定したところ、それぞれ6.1秒、66.1秒であった。
【0049】
〈実施例4の分子篩炭素〉
フェノール(P)と尿素(U)とホルムアルデヒド(F)を1:3:8のモル比で混合し合成して得られたフェノール・尿素混合樹脂(実施例4:PUF樹脂,フェノールに対する尿素の混合比:U/P=3)を電気炉中、900℃で30分間炭化して得た粒状の分子篩炭素である。この分子篩炭素を「実施例4:PUF分子篩炭素」とする。
【0050】
図5は、実施例4:PUF分子篩炭素による、吸着圧力に対するCO2とCH4の吸着量を示した図である。図5のとおり、実施例4:PUF分子篩炭素には、CH4は吸着されず、CO2のみが選択的に吸着される。しかも、CO2の吸着量は圧力を上げるに伴い急激に多くなる。
【0051】
また、実施例4:PUF分子篩炭素によるCO2の吸着時定数を測定したところ48.4秒であった。CH4は吸着しないのでCH4の吸着時定数の測定はできない。以上の実験結果のうち主な実験結果を表1に纏めて示している。
【0052】
表1中、各上段の吸着量は760mmHgにおける吸着量を吸着等温線のデータを内挿あるいは外挿して求めたものであり、また、各下段の吸着時定数は、吸着等温線の1点目の平衡吸着量に達するまでの吸着量の経時変化を求め、吸着開始時から平衡吸着量1/2の吸着量に達するまでに要した時間、つまり吸着する各ガスについて、飽和吸着量の1/2に達するまでに要した時間である。この点、表2〜5(実施例5〜9)についても同様である。
【0053】
【表1】

【0054】
〈実施例1〜4の実験結果についての考察〉
(1) 実施例1:PUF分子篩炭素のように原料PUF樹脂におけるフェノールに対する尿素の混合比:U/P=0.5、実施例2:PUF分子篩炭素のように原料PUF樹脂におけるフェノールに対する尿素の混合比:U/P=1、実施例3:PUF分子篩炭素のように原料PUF樹脂におけるフェノールに対する尿素の混合比:U/P=2と、原料PUF樹脂におけるフェノールに対する尿素の混合比:U/Pが2乃至3より小さい場合、細孔が大きいために、CO2、CH4ともに吸着されるが、吸着量に差があり、CH4に比べてCO2が多く吸着される。
【0055】
(2) 実施例4:PUF分子篩炭素のように原料PUF樹脂におけるフェノールに対する尿素の混合比:U/Pが2乃至3より大きい場合、細孔が小さくなり、CH4は吸着せず、CO2のみを吸着することがわかる。このように、原料PUF樹脂のフェノールに対する尿素の混合比:U/Pを2乃至3より大きくし、これを炭化することにより、CO2のみを選択的に吸着する分子篩炭素を得ることができる。
【0056】
なお、上記「原料PUF樹脂におけるフェノールに対する尿素の混合比:U/Pが2乃至3より小さい場合」とは、CH4に比べてCO2を多く吸着するためのフェノールに対する尿素の混合比の境界がU/P=2〜3の間にあるとの意味である。また、上記「原料PUF樹脂のフェノールに対する尿素の混合比:U/Pを2乃至3より大きくし」とは、CO2のみを選択的に吸着するためのフェノールに対する尿素の混合比の境界がU/P=2〜3の間にあるとの意味である。
【0057】
実施例4:PUF分子篩炭素のように原料PUF樹脂におけるフェノールに対する尿素の混合比:U/P=3であるとCO2のみを選択的に吸着するのに対して、実施例3:PUF分子篩炭素のようにその混合比:U/P=2であると量的には少ないがCH4も吸着することから、CO2のみを選択的に吸着するための混合比U/Pの下限は2と3の間にあるものと推認される。
【0058】
(3) 吸着時定数については、フェノールに対する尿素の混合比が0.5である実施例1:PUF分子篩炭素、フェノールに対する尿素の混合比が1.0である実施例2:PUF分子篩炭素の場合、CO2とCH4の吸着速度に大きな差(約80倍、約62倍)があリ、フェノールに対する尿素の混合比が2.0である実施例3:PUF分子篩炭素でも約11倍の吸着速度差があることがわかった。この事実から、吸着速度差により分離が可能である。
【0059】
(4) 以上の実験中の観察によると、原料PUF樹脂におけるフェノールに対する尿素の混合比:U/Pが2乃至3より小さい場合でも、炭化温度を900℃超、例えば1000℃まで上げることにより、原料PUF樹脂の熱収縮により細孔径を小さくすることができると考えられ、これによりCH4を吸着できなくすることが期待される。
【0060】
〈比較例:XPF分子篩炭素と実施例4:PUF分子篩炭素との対比、考察〉
ここで、図5に示す実施例4:PUF分子篩炭素の吸着特性を図1に示す比較例:XPF分子篩炭素の吸着特性と比べると、両者ともCH4の吸着量はゼロであるが、CO2の吸着量は、実施例4:PUF分子篩炭素は比較例:XPF分子篩炭素よりも増加している。
【0061】
図6は、実施例4:PUF分子篩炭素の細孔分布と比較例:XPF分子篩炭素の細孔分布を示した図である。細孔分布は、測定装置:オートソーブ−1MP(AUTOSORB-1MP,Quantachrome社製)を用い、温度:0℃、CO2を吸着ガスとして使用して測定し、これを基にDFTモンテカルロ法で解析したものである。
【0062】
図6のとおり、実施例4:PUF分子篩炭素の方が細孔径の小さい細孔の容量が増えており、これを細孔径6.5Å以下の総細孔容量で見ると、比較例:XPF分子篩炭素では0.109mL/gであるのに対して、実施例4:PUF分子篩炭素では0.124mL/gに増加しており、これがCO2吸着量の増加に寄与しているものと考えられる。
【0063】
〈実施例5〜9〉
以下は、フェノール(P)と尿素(U)とホルムアルデヒド(F)におけるPとUの混合比U/P(モル比)を1:0.2〜10まで拡張して、すなわちP=1に対してU=0.2〜10の範囲で製造し、得られた各PUF分子篩炭素について、CO2とCH4の吸着量および吸着時定数の評価を行い、分子篩性能を明らかにした実施例(実験例)である。
【0064】
ここで、以下に記載の表2〜5において、試料(sample)欄の右の欄に×印、△印、◎印、等の符号を付しているが、これは一連の試料のうちの相対的な評価を示すために付している符号である。CO2の吸着量について言えば、×印はCO2の選択的吸着性能を有し、△印は×印よりも優れたCO2の選択的吸着性能を有し(×印と◎印の間のCO2の選択的吸着性能)を有し、◎印は特に優れたCO2の選択的吸着性能を有することを意味する。例えばCH4の吸着量に対するCO2の吸着量について、×印でもCO2の選択的吸着性能を有する点に変わりはない。この点、吸着時定数についても同様である。
【0065】
〈実施例5:PUF分子篩炭素〉
実施例5:PUF分子篩炭素は、フェノール(P)と尿素(U)とホルムアルデヒド(F)のモル比「P:U:F」を(1)1:0.5:3、(2)1:1:4、(3)1:2:6と変え、それぞれ混合し、重縮合して得た各PUF樹脂を電気炉中、N2雰囲気下、600℃で30分間炭化して製造した粒状の分子篩炭素である。得られた各分子篩炭素を(1)〜(3)の各PUF分子篩炭素とする。
【0066】
(1)〜(3)の各PUF分子篩炭素についてCO2とCH4の吸着量、吸着時定数を計測した。表2(a)に(1)〜(3)の各PUF分子篩炭素についてそれらの特性を示している。表2(a)中、(1)〜(3)の各PUF分子篩炭素にいて、上段が吸着量、下段が吸着時定数である。
【0067】
表2(a)のとおり、(1)〜(3)のPUF分子篩炭素はいずれもCH4の吸着量に比べてCO2の吸着量が多く、CO2の吸着量は、CH4の吸着量に比べて2.6〜2.7倍の値を示している。また、(1)のPUF分子篩炭素(U/P=0.5)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は1で、CH4の吸着速度とCO2の吸着速度は同じであるが、(2)のPUF分子篩炭素(U/P=1)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は9であり、(3)のPUF分子篩炭素(U/P=2)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は4.6であり、CH4の吸着速度に対して、CO2の吸着速度が速いことを示している。
【0068】
〈実施例6:PUF分子篩炭素〉
実施例6:PUF分子篩炭素は、フェノール(P)と尿素(U)とホルムアルデヒド(F)のモル比「P:U:F」を(1)1:0.5:3、(2)1:1:4と変え、それぞれ混合し、重縮合して得た各PUF樹脂を電気炉中、N2雰囲気下、700℃で30分間炭化して製造した粒状の分子篩炭素である。得られた各分子篩炭素を(1)〜(2)の各PUF分子篩炭素とする。
【0069】
(1)〜(2)の各PUF分子篩炭素についてCO2のCH4の吸着量、吸着時定数を計測した。表2(b)に(1)〜(2)の各PUF分子篩炭素についてそれらの特性を示している。表2(b)中、それら(1)〜(2)の各PUF分子篩炭素について上段が吸着量、下段が吸着時定数である。
【0070】
表2(b)のとおり、(1)〜(2)の各PUF分子篩炭素はいずれもCH4の吸着量に比べてCO2の吸着量が多く、CO2の吸着量は、CH4の吸着量に比べて2.2〜2.3倍の値を示している。また、(1)のPUF分子篩炭素(U/P=0.5)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は4.46であり、(2)のPUF分子篩炭素(U/P=1)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は51.58である。このうち、(2)のPUF分子篩炭素(U/P=1)は、700℃で30分間炭化して製造したものであるが、CO2の吸着量が格段に優れ、またCH4の吸着速度に対するCO2の吸着速度の点でも格段に優れていることを示している。
【0071】
【表2】

【0072】
〈実施例7:PUF分子篩炭素〉
実施例7:PUF分子篩炭素は、フェノール(P)と尿素(U)とホルムアルデヒド(F)のモル比「P:U:F」を(1)1:0.5:3、(2)1:1:4、(3)1:2:6、(4)1:6:14、(5)1:7:16、(6)1:8:18、(7)1:10:22と変え、それぞれ混合し、重縮合して得た各PUF樹脂を電気炉中、N2雰囲気下、800℃で30分間炭化して製造した粒状の分子篩炭素である。得られた各分子篩炭素を(1)〜(7)の各PUF分子篩炭素とする。
【0073】
(1)〜(7)の各PUF分子篩炭素についてCO2のCH4の吸着量、吸着時定数を計測した。表3に(1)〜(7)の各PUF分子篩炭素についてそれらの特性を示している。表3中それら各PUF分子篩炭素について上段が吸着量、下段が吸着時定数である。
【0074】
【表3】

【0075】
表3のとおり、(1)〜(7)のPUF分子篩炭素によるCO2の吸着量は、CH4の吸着量に比べて2.1〜2.2倍の値を示し、いずれも、CH4に比べて、CO2をより多く吸着することを示している。
【0076】
また、(1)のPUF分子篩炭素(U/P=0.5)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は26.74であり、(2)のPUF分子篩炭素(U/P=1)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は183.93であり、(3)のPUF分子篩炭素(U/P=2)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は21.33であり、(4)のPUF分子篩炭素(U/P=6)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は10.29であり、(5)のPUF分子篩炭素(U/P=7)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は4.22であり、(6)のPUF分子篩炭素(U/P=8)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は3.20であり、(7)のPUF分子篩炭素(U/P=10)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は4.30である。
【0077】
このように、CO2の吸着速度についても、(1)〜(7)の各PUF分子篩炭素はいずれもCH4の吸着速度より速く、吸着速度の観点からのCO2の選択性があることを示している。そのうち、(1)〜(3)の各PUF分子篩炭素によるCO2の吸着速度が特に優れており、(4)のPUF分子篩炭素によるCO2の吸着速度はそれに準じている。
【0078】
〈実施例8:PUF分子篩炭素〉
実施例8:PUF分子篩炭素は、フェノール(P)と尿素(U)とホルムアルデヒド(F)のモル比「P:U:F」を(1)1:0.2:2.4、(2)1:0.5:3、(3)1:1:4、(4)1:2:6、(5)1:3:8、(6)1:6:14、(7)1:7:16、(8)1:8:18、(9)1:10:22、と変え、それぞれ混合し、重縮合して得た各PUF樹脂を電気炉中、N2雰囲気下、900℃で30分間炭化して製造した粒状の分子篩炭素である。得られた各分子篩炭素を(1)〜(9)の各PUF分子篩炭素とする。
【0079】
(1)〜(9)の各PUF分子篩炭素についてCO2のCH4の吸着量、吸着時定数を計測した。表4に(1)〜(9)の各PUF分子篩炭素についてそれらの特性を示している。表4中それら各PUF分子篩炭素について上段が吸着量、下段が吸着時定数である。
【0080】
表4のとおり、(1)〜(9)の各PUF分子篩炭素によるCO2の吸着量は、CH4の吸着量に比べて2.0〜137.8倍の値を示し、いずれも、CH4に比べて、CO2をより多く吸着することを示している。そのうち(5)のPUF分子篩炭素によるCO2の吸着量は、CH4の吸着量に比べて137.8倍であり、CO2の吸着量の点での選択吸着性の面で特異的に優れている。
【0081】
また、(1)のPUF分子篩炭素(U/P=0.2)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は3.49であり、(2)のPUF分子篩炭素(U/P=0.5)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は80.71、(3)のPUF分子篩炭素(U/P=1)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は62.07であり、(4)のPUF分子篩炭素(U/P=2)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は10.84であり、(6)のPUF分子篩炭素(U/P=6)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は44.32であり、(7)のPUF分子篩炭素(U/P=7)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は37.33、(8)のPUF分子篩炭素(U/P=8)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は14.44であり、(9)のPUF分子篩炭素(U/P=10)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は29.21である。
【0082】
このように、CO2の吸着速度についても、(1)〜(4)、(6)〜(9)の各PUF分子篩炭素はいずれもCH4の吸着速度より速く、吸着速度の点からのCO2の選択性があることを示している。そのうち、(2)〜(3)、(6)〜(7)、(9)の各PUF分子篩炭素によるCO2の吸着速度が特に優れており、(8)のPUF分子篩炭素によるCO2の吸着速度はそれに準じている。
【0083】
【表4】

【0084】
〈実施例9:PUF分子篩炭素〉
実施例9:PUF分子篩炭素は、フェノール(P)と尿素(U)とホルムアルデヒド(F)のモル比率「P:U:F」を(1)1:0.2:2.4、(2)1:0.5:3、(3)1:1:4、(4)1:3:8、(5)1:5:12、(6)1:6:14、(7)1:7:16、(8)1:8:18、(9)1:9:20、(10)1:10:22、と変え、それぞれ混合し、重縮合して得た各PUF樹脂を電気炉中、N2雰囲気下、1000℃で30分間炭化して製造した粒状の分子篩炭素である。得られた各分子篩炭素を(1)〜(10)の各PUF分子篩炭素とする。
【0085】
(1)〜(10)の各PUF分子篩炭素についてCO2のCH4の吸着量、吸着時定数を計測した。表5に(1)〜(10)の各PUF分子篩炭素についてそれらの特性を示している。表5中それら各PUF分子篩炭素について上段が吸着量、下段が吸着時定数である。
【0086】
表5のとおり、(1)〜(2)、(4)〜(10)のPUF分子篩炭素によるCO2の吸着量は、CH4の吸着量に比べて2.3〜50.8倍の値を示し、いずれも、CH4に比べて、CO2をより多く吸着することを示し、CO2の選択吸着特性が優れていることを示している。(3)のPUF分子篩炭素(U/P=1)のCO2/CH4の比は∞、つまりCO2だけを吸着し、CO2の選択吸着特性が特に優れていることを示している。
【0087】
また、(1)のPUF分子篩炭素(U/P=0.2)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は5.20であり、(2)のPUF分子篩炭素(U/P=0.5)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は0.96、(5)のPUF分子篩炭素(U/P=5)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は1.93であり、(6)のPUF分子篩炭素(U/P=6)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は3.97であり、(7)のPUF分子篩炭素(U/P=7)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は19.57であり、(8)のPUF分子篩炭素(U/P=8)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は25.83、(9)のPUF分子篩炭素(U/P=9)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は48.00であり、(10)のPUF分子篩炭素(U/P=10)についてのCH4/CO2の吸着時定数比は81.57である。
【0088】
このように、(2)のPUF分子篩炭素だけが唯一例外であるが、CO2の吸着速度についても、(1)、(5)〜(10)のPUF分子篩炭素はいずれもCH4の吸着速度より速く、吸着速度の点からのCO2の選択性があることを示している。そのうち、(7)〜(10)のPUF分子篩炭素によるCO2の吸着速度が特に優れている。
【0089】
【表5】

【0090】
〈実施例5〜9の実験結果について〉
図7は、実施例5〜9の実験結果を基に、それらのデータを総合してCO2とCH4を含むガスに対するガス分離効果の有無を図示したものである。図7中、横軸は炭化温度であり、縦軸はフェノール・尿素混合樹脂の合成時の成分P(=フェノール)とU(=尿素)とのモル比(U/Pモル比)である。
【0091】
図7のとおり、U/Pモル比と炭化温度との関係で、図7中点線Zの枠内の条件を満たすU/Pモル比のフェノール・尿素混合樹脂を使用し、これに対応して図7中点線Zの枠内の炭化温度を満たす温度で炭化して製造したPUF分子篩炭素により、CO2とCH4を含むガスからCO2を選択的に吸着して分離することができる。なお、前述のとおり、図7中×印のPUF分子篩炭素でも、その優劣は別として、CO2の選択的吸着性を有することに変わりはない。
【0092】
〈実施例5〜9の実験結果についての考察〉
以上のほか、実施例5〜9の実験結果、実験過程での観察で明らかになったPUF分子篩炭素の性能は以下のとおりである。
(1) 炭化温度が600℃を下回る場合には、PUF樹脂の炭化があまり進行しないため、PUF分子篩炭素は製造できない。
(2) 炭化温度が600℃以上ではPUF樹脂の炭化が進行する。炭化温度が上がると、PUF分子篩炭素の細孔径サイズはやや小さくなる。つまり焼けしまりが起る。
(3) UとPの比率については、U/Pモル比が0.2を下回って小さい場合(すなわちP=1モルに対するUのモル数0.2未満の場合)、そもそも分子篩効果が発現しない炭素材料となる。
(4) U/Pモル比が0.2以上となると(すなわちP=1モルに対するUのモル数0.2以上となると)、比較的揃った大きさの細孔が発達し、分子篩効果がより現れるようになり、吸着時定数の違いを利用する速度分離型のガス分離に適している。速度分離型のガス分離の場合のPUF分子篩炭素の細孔は、分離ガスの直径よりやや大きい。すなわち、例えばCO2とCH4を含むガスからCO2を選択的に分離する場合、CO2の直径よりやや大きい。
(5) U/Pモル比が0.2以上では、Uの増加に伴って細孔が発達しやすくなるとともに、細孔径が揃いやすくなる。細孔径が分離するガスに対して適切な大きさになることにより、ガスの吸着量の違いを利用する平衡分離型のガス分離になりうる。平衡分離は、大きい分子径のガスが吸着されないことを利用している。このため、例えばCO2とCH4を含むガスからCO2を選択的に分離する場合、平衡分離型のガス分離の場合のPUF分子篩炭素の細孔径は速度分離型と比較すると小さい。
(6) U/Pモル比=7以上では、さらなるUの増加に伴って細孔がより発達しやすくなるが、一般に細孔の成長の方向が乱れやすくなる。このため平衡分離型と比較して細孔径はやや大きくなり、再び速度分離型のPUF分子篩炭素となる。
(7) 本発明に係るPUF分子篩炭素は、U/Pモル比=0.2〜10という広い範囲のモル比で分子篩効果を利用したガス分離が可能になる。このため、例えばCO2とCH4を含むガスからCO2を選択的に分離することができる。
(8) 本発明に係るPUF分子篩炭素は、いずれも平衡分離型のガス分離にも、速度分離型のガス分離にも適用できるが、平衡分離型、速度分離型のどちらの方式が適切かは、分離ガスの種類と大きさ(吸着される方のガスの直径の大きさ)に応じて決定することがてきる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】比較例:XPF分子篩炭素の特性を示す図
【図2】実施例1:PUF分子篩炭素による、吸着圧力に対するCO2とCH4の吸着量を示した図
【図3】実施例2:PUF分子篩炭素による、吸着圧力に対するCO2とCH4の吸着量を示した図
【図4】実施例3:PUF分子篩炭素による、吸着圧力に対するCO2とCH4の吸着量を示した図
【図5】実施例4:PUF分子篩炭素による、吸着圧力に対するCO2とCH4の吸着量を示した図
【図6】実施例4:PUF分子篩炭素の細孔分布と比較例:XPF分子篩炭素の細孔分布を示した図
【図7】実施例5〜9の実験結果を基に、それらのデータを総合してCO2とCH4を含むガスに対するガス分離効果の有無を示した図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を制御した分子篩炭素であって、フェノール類と尿素類とアルデヒド類から合成したフェノール・尿素混合樹脂を炭化してなることを特徴とする細孔を制御した分子篩炭素。
【請求項2】
請求項1に記載の細孔を制御した分子篩炭素において、前記フェノール・尿素混合樹脂におけるフェノール類と尿素類の混合比がモル比で1:0.5〜10であることを特徴とする細孔を制御した分子篩炭素。
【請求項3】
フェノール類と尿素類とアルデヒド類から合成したフェノール・尿素混合樹脂を炭化してなる細孔を制御した分子篩炭素であって、添付図面の図7において、縦軸のU/Pモル比と横軸の炭化温度との関係で、点線Zの枠内の条件を満たすU/Pモル比のフェノール・尿素混合樹脂を炭化してなることを特徴とする細孔を制御した分子篩炭素。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の細孔を制御した分子篩炭素において、前記フェノール・尿素混合樹脂の炭化温度が600〜1200℃であり、炭化時間が15分以上であることを特徴とする細孔を制御した分子篩炭素。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の細孔を制御した分子篩炭素において、前記フェノール・尿素混合樹脂を炭化温度700℃以上、炭化時間30分以上で炭化してなることを特徴とする細孔を制御した分子篩炭素。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の細孔を制御した分子篩炭素において、前記フェノール・尿素混合樹脂を炭化温度900℃、炭化時間30分で炭化してなることを特徴とする細孔を制御した分子篩炭素。
【請求項7】
前記細孔を制御した分子篩炭素がCO2を含むガスからのCO2吸着分離用分子篩炭素であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の細孔を制御した分子篩炭素。
【請求項8】
前記細孔を制御した分子篩炭素がCO2とCH4を含むガスからのCO2吸着分離用分子篩炭素であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の細孔を制御した分子篩炭素。
【請求項9】
細孔を制御した分子篩炭素の製造方法であって、フェノール類と尿素類とアルデヒド類から合成したフェノール・尿素混合樹脂を不活性ガス雰囲気下で炭化することを特徴とする細孔を制御した分子篩炭素の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の細孔を制御した分子篩炭素の製造方法において、前記フェノール・尿素混合樹脂のフェノール類と尿素類のモル混合比を1:0.2〜10とすることを特徴とする細孔を制御した分子篩炭素の製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の細孔を制御した分子篩炭素の製造方法において、前記フェノール・尿素混合樹脂のフェノール類と尿素類のモル混合比を1:0.5〜10とすることを特徴とする細孔を制御した分子篩炭素の製造方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の細孔を制御した分子篩炭素の製造方法において、前記フェノール・尿素混合樹脂の炭化温度を600〜1200℃とし、炭化時間を15分以上とすることを特徴とする細孔を制御した分子篩炭素の製造方法。
【請求項13】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の細孔を制御した分子篩炭素の製造方法において、前記フェノール・尿素混合樹脂を炭化温度700℃以上、炭化時間30分以上で炭化することを特徴とする細孔を制御した分子篩炭素の製造方法。
【請求項14】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の細孔を制御した分子篩炭素の製造方法において、前記フェノール・尿素混合樹脂を炭化温度900℃、炭化時間30分で炭化することを特徴とする細孔を制御した分子篩炭素の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−62268(P2009−62268A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206412(P2008−206412)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】