説明

分子量に基づいて選択される少なくとも1種の魚ゼラチンを含む、急速分散剤形の製剤化方法

本明細書に開示されている本発明は、キャリア及び活性成分を含む医薬組成物に関し、ここで前記キャリアは、魚ゼラチンの分子量プロファイルに基づいて予め定められた少なくとも1種の魚ゼラチンである。ある実施態様において、特にキャリア濃度が、全体の組成物の比較的低い割合を占める場合には、前記キャリアは、高分子量魚ゼラチンのみであるか、高分子量ゼラチンが主な割合を占める標準分子量ゼラチンとの組み合わせ物からなってよい。キャリア濃度が、全体の組成物の比較的高い割合を占める実施態様において、前記キャリアは、標準分子量魚ゼラチンのみであるか、標準分子量ゼラチンが主な割合を占める混合物からなってよい。従って、組成物は、様々な所要のゼラチン濃度製剤のパフォーマンスを最適化するために設計され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急速分散剤形(fast dispersing dosage form)を含む医薬品、特に、高分子量及び標準分子量の魚ゼラチン並びにこれらの組み合わせ物を含む、凍結乾燥した急速分散剤形を含む医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
薬理的活性剤の一般的な投与経路は、複数の経口剤形であって、これには、錠剤、丸剤、及びカプセル剤などのよく知られた形態が含まれる。このような剤形は、通常、簡便であり、貯蔵及び輸送において安定であり、かつ使用者になじみ深いものである。しかし、これらに問題がないわけではなく、これらの問題はしばしば重大なものである。これら経口剤形のいずれも、補助の水なしで飲み込むことは大半の人々にとって非常に困難である。ペースの速い社会において、経口薬とともに補助の水を要しなければならないことは、しばしば不便であるか、又は面倒なことである。このような困難性は、例えば子供及び老人などの、薬を飲み込む際に抱えている困難性と組み合わされる。パーキンソニズム又は他の神経学的状態などのある種の病状は、たとえ補助の水とともに飲み込む場合であってさえも、経口剤形を飲み込むことを困難なものにする。
【0003】
補助の水の必要性は、液状製剤を調剤することにより取り除かれ得る。しかし、これらは、輸送及び正確な投薬が困難であることに加えて、面倒でもある。従って、例えば、錠剤、丸剤、又はカプセル剤などの乾燥製剤の最良の特性、例えば、簡便な輸送、正確な投薬、及び頑丈な製品形態などと、液状製剤の最良の特性、例えば、補助の水なしで服用でき、かつ嚥下困難な人々が服用できることなどとを組み合わせることに向けた取り組みがなされている。
【0004】
さらに、そのままの経口剤形を飲み込むことは、剤形の胃腸内溶解及び薬剤の吸収に関与する変数の複雑なシステムと密接に関連する。
【0005】
従って、経口薬剤と、活性成分のいわゆる「胃前吸収(pre-gastric absorption)」とに多大な関心が示されている。胃前吸収は、胃の前の消化管部分からの活性成分の吸収である。従って、胃前吸収には、口腔、舌下、口腔咽頭、及び食道での吸収が含まれる。このような胃前吸収により吸収された薬剤は、全身循環系へとまっすぐに通過し、それにより、肝臓における初回通過代謝を回避する。従って、このようにして吸収された薬剤のバイオアベイラビリティもまた増加し得る。これは、所望の薬効を生じさせながら、このような薬剤の用量を減少させ得、この用量の減少により、対応する所望しない副作用の減少がもたらされ得ることを意味する。Duggerによる米国特許第6110486号に記載のとおり、頬粘膜を介した吸収とは、錠剤、丸剤、又はカプセル剤形態の薬剤には利用できない、多くの場合過小評価されている経口投与経路を意味することが現在の研究により特に示されている。
【0006】
これらの取り組みの方向性の1つが、口中で急速に分解する、経口医薬固体剤形の開発である。これらの物質は、一般に、急速分散剤形と命名されている。Ecanowによる米国特許第5079018号に例が見られ、ここでは、水で水和されている、多孔性骨格構造を有する水溶性で水和可能なゲル又はフォーム形成性物質を含む急速分散剤形が開示されている。前記ゲル又はフォーム形成性物質は、水和状態で固化剤により固化され、約0℃以下の温度で液体有機溶媒により脱水され、水和液体の代わりに空間が残る。口中で急速に分解する、経口医薬固体剤形及びその調製方法は、英国特許出願公開第1548022号及び同第2111423号で提案されている。開示のとおりの固体剤形は、医薬活性物質に対して不活性である水溶性又は水分散性キャリア物質を含むオープンマトリックスとともに、医薬活性物質を運ぶオープンマトリックスネットワークを含む。固体剤形は、医薬活性物質とキャリア物質とを含む溶液又は懸濁液から溶媒を昇華又は除去することにより調製される。溶媒の昇華又は除去は、好ましくは、フリーズドライ、すなわち凍結乾燥により行われる。典型的なアプローチは、薬剤溶液又は懸濁液を自由形状のブリスターに分注(dose)し、それに続いて、溶液又は懸濁液を急速凍結し、ついで凍結乾燥する。凍結乾燥により氷が除去されて、多孔性錠剤が残り、これを舌の上に置いた場合には、数秒で分散する。ついで、この薬剤を唾液で飲み込む。口中で急速崩壊する経口医薬固形剤形を調製するための他の方法は、米国特許第5039540号;同第5120549号;及び同第5330763号、並びにPCT/JP93/01631及びPCT/US93/12566に開示されている。この技術における他の関連特許は、米国特許第4760093号;同第4760094号;及び同第4767789号である。
【0007】
従来技術に見られるとおり、典型的なマトリックス形成剤はゼラチンである。一般的に、ゼラチンは、パッケージングから剤形を取り出す間の剤形の破損を防ぐために、剤形に十分な強度を与えるために使用されるが、いったん口中に置かれると、ゼラチンは、剤形の急速な分散を可能にする。このような製剤で通常用いられているゼラチンは、哺乳動物のコラーゲン組織、例えば、皮膚、腱、靭帯、及び骨の部分加水分解により得られるタンパク質として定義される。ゼラチンはまた、魚にも由来し得る。ゼラチン源を比較すると、哺乳動物のゼラチンを処理するのに必要な加熱工程は処理時間及びコストを増加させ、それにより、魚ゼラチンのものと比較して処理にかかる全体のコストが増加する。さらに、ウシ及びブタ産物における健康上のリスクに対する認識に加えて、様々な文化的及び宗教的要因により、哺乳動物ゼラチンよりも魚ゼラチンのほうが消費者にとってより魅力的なものとなり得る。
【0008】
特に医薬製剤のために、哺乳動物由来ゼラチンの使用の有利な代替案とは、魚ゼラチン、特に非ゲル化魚ゼラチンの使用である。非ゲル化魚ゼラチンは、好ましくは、冷水魚から得られ、ゾル−ゲル転移温度、すなわち、あるゼラチン水溶液が液体状態とゲル状態の間を転移する温度を有し、これは、大部分の哺乳動物由来ゼラチンのものよりも低い温度である。動物又は魚が食物を代謝する温度と、皮膚及び得られた抽出ゼラチンの特性との間に関連があるように思われる。
【0009】
Murrayによる米国特許第6709669号(‘669)は、経口及び局所剤形のために考案された、魚ゼラチン系キャリアと活性成分との使用を教示しており、さらに、活性成分と魚ゼラチンとの組み合わせ物を凍結乾燥、すなわちフリーズドライし、パッケージングする方法も教示している。‘669号に開示されている好ましい実施態様では、発明の組成物は、活性成分と、魚ゼラチン(例えば、非ゲル化魚ゼラチン)を含む水溶性又は水分散性キャリアとのネットワークを含む急速分散固体剤形であって、前記ネットワークは、活性成分とキャリア溶媒溶液又は溶媒分散液とを含む固体状態の組成物から溶媒を昇華することにより形成されている。
【特許文献1】米国特許第5079018号明細書
【特許文献2】米国特許第5039540号明細書
【特許文献3】米国特許第6709669号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、先の発明である‘669号の剤形は、供給者(Croda Colloids, Ltd.;Cheshire, England)により規定された分子量プロファイルを有する市販グレードの魚ゼラチンを用いていた。しかし、ゼラチンは、天然の、均質でない存在であって、化学的に著しく変動し得、それ故、物理的特性においてもかなり変動し得る。一例として限定はしないが、あるグレードの魚ゼラチンをある濃度で含む製剤を用いた場合に、所望の物理的剛性及び外観を有するものを製造することが可能でなくなり得る。従って、ゼラチンの少なくとも1つの化学的特性の定量化可能な測定により決定される、魚ゼラチン製造物、特に急速分散剤形の製造方法を発明するための手段が模索されている。理想的には、このような測定可能なパラメーターにより、高度の商業的に有効な再現性を有する製造プロトコルを予見的かつ実証可能に設計する能力が高められ得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[発明の要旨]
現在、魚ゼラチン、特に非ゲル化又はいわゆる「冷水」魚ゼラチンを用いて急速分散剤形を調製した場合に、哺乳動物ゼラチンの使用に伴う多くの問題を克服できることがよくわかった。
【0012】
その最も一般的な形態において、本発明は、様々な新しい能力を用いて従来技術を発展させ、新規かつ思いもつかない方法で従来の剤形の多くの欠点を克服する。
【0013】
最も単純な形態の1つにおいて、本発明は、キャリアと活性成分(例えば、薬剤及び化合物など)とを含む医薬組成物を製剤化するための方法を提供し、ここで、前記キャリアは、少なくとも一部分においては分子量に基づいて選択される少なくとも1種の魚ゼラチンであって、前記組成物は、流動体(例えば、唾液、体液、及び水など)と接触した際に急速に活性成分を放出する急速分散剤形の形態である。
【0014】
様々な実施態様において、少なくとも一部分においては分子量に基づいて選択される異なる魚ゼラチンが、組成パフォーマンスを最適化するために選択される。異なる分子量プロファイルの少なくとも2種の魚ゼラチンの好ましい組み合わせが、製剤の拡張された範囲にわたって様々な急速分散剤形の組成パフォーマンスを高めることが示される。
【0015】
ついで、以下が開示される:少なくとも1種の活性成分と、高分子量魚ゼラチン、標準分子量の魚ゼラチン、及びこれらの組み合わせ物からなる群から選択される、活性成分に不活性な少なくとも1種のキャリアとを含む急速分散剤形における、所定の最終ゼラチン総濃度を有する医薬組成物の調製方法。この方法の工程には、少なくとも一部分においてはキャリアの分子量プロファイルに基づき、かつ組成物の意図される所定の最終ゼラチン総濃度に基づいて、少なくとも1種のキャリアを選択する工程、及び製剤を創出するのに適した溶媒中で少なくとも1種の活性成分と少なくとも1種のキャリアとの混合物を形成する工程が含まれる。この製剤は、約48時間にわたって、ほぼ一定した粘度を示し得る。
【0016】
ついで、前記製剤を個別のユニットに分注(dose)する;個別のユニットを固める;少なくとも1種の活性成分と少なくとも1種のキャリアとのネットワークを形成するために固形の個別のユニットから溶媒を除去する。この方法により、最終製剤の2〜7重量%の所定の最終ゼラチン総濃度がもたらされ得る。魚ゼラチンは、非ゲル化魚ゼラチンであっても、加水分解されていない魚ゼラチンであってもよく、ある実施態様での溶媒は水である。溶媒は、凍結乾燥、強制空気乾燥、第二の溶媒除去プロセスにより除去されるか、又は当業者に周知の他の方法により除去されてよい。
【0017】
ある実施態様では、少なくとも1種の魚ゼラチンキャリアは、ゼラチン分子量分布の50%超、好ましくは60%超、最も好ましくは70%超が、30,000ダルトンを超える高分子量ゼラチンをさらに含んでいる第一のゼラチンをさらに含む。他の実施態様では、少なくとも1種の魚ゼラチンキャリアは、ゼラチン分子量分布の実質的に50%超、好ましくは60%超、最も好ましくは70%超が、30,000ダルトン未満である標準分子量ゼラチンをさらに含んでいる第二のゼラチンをさらに含む。
【0018】
高分子量ゼラチンと標準分子量ゼラチンとの組み合わせ物が、50%を超える高分子量ゼラチンを含むもの;高分子量ゼラチンと標準分子量ゼラチンとの組み合わせ物が、50%を超える標準分子量ゼラチンを含むものを含む、様々な組み合わせ物を開示する。高分子量ゼラチンと標準分子量ゼラチンとの比(HMW:SMW)が実質的に1:1〜1:9の範囲である組み合わせ物が形成され得る。経口急速崩壊固体剤形(the solid, oral, rapidly disintegrating dosage form)はまた、着色剤、香味料添加剤、賦形剤、及び複数の治療薬を含んでいてもよい。
【0019】
ある実施態様では、本組成物は、経口投与のために設計され、口腔内で急速に活性成分を放出し、これは、流動体中に置かれた際に1〜30秒、より好ましくは1〜20秒、最も好ましくは1〜10秒で起こり得る。
【0020】
以下の教示はまた、上記に開示した方法により製造された剤形も開示する。
【0021】
[本発明の詳細な説明]
本発明の、単一グレードの魚ゼラチン、又は分子量プロファイルが異なる魚ゼラチンの組み合わせ物を含む急速分散剤形は、従来技術の顕著な発展を可能にする。剤形の好ましい実施態様は、以前は利用できなかったが好ましく望ましい能力を示す要素の新規かつ思いもつかない組み合わせにより、これを達成する。
【0022】
in vivoの文脈において、「急速分散剤形」というフレーズは、流動体と接触させた後、1〜60秒、好ましくは1〜30秒、より好ましくは1〜10秒、特に2〜8秒以内に崩壊又は分散する剤形を意味する。流動体は、好ましくは、口腔内に見られるもの、すなわち唾液である。一般的な文脈において、このフレーズは、本明細書に記載の先に提案された剤形の全て、及びその剤形の等価物のいずれをも包含する。
【0023】
本明細書に記載の実験プロトコルで用いられている「急速分散」という用語は、固体剤形が、37℃の水に60秒以内に分散することを意味する。この剤形は、通常、約5〜20秒、より一般的には5〜10秒以内で崩壊する。
【0024】
以下のプロトコルを用いて、分散時間を試験し測定した:
【0025】
適したウォーターバスの温度を37℃+/−0.5℃に調整する。水位が最小の必須ラインを超えているかを確認する;そうでない場合には、必要に応じて水を添加する。およそ600mLの水を1000mLのビーカーに入れ、ビーカーをウォーターバス中に入れる。温度平衡が生じるのに十分な時間が経過した後、較正した温度計を用いてビーカー内の水温を確認し記録する。適正温度に達した時に、分散試験装置は使える状態となる。
【0026】
6個の急速分散剤形サンプルをパッケージングから取り出す。これらのユニットは、試験用バッチ中からランダムに選択されるべきである。ピンセットを用いて、選択した剤形の1つの単一ユニットを、ビーカー内の水面上に水平に落とす。較正した(calibrated)ストップウォッチを用いて、剤形が完全に湿潤化するのにかかった時間を測定する。これは、数秒の分散時間である。それぞれの剤形が、先に分散したユニットの残留物がない、ビーカー内の水のきれいな領域上に落とされることを確保しつつ、選択サンプルの全ての急速分散剤形について繰り返す。6個の選択ユニットのそれぞれの分散時間を記録する。
【0027】
好ましい実施態様では、本発明の組成物は、活性成分と、少なくとも1種の魚ゼラチンを含む水溶性又は水分散性キャリアとの固体ネットワークを含む急速分散固体剤形である。従って、キャリアは、活性成分に対して不活性である。前記ネットワークは、活性成分とキャリア溶媒溶液とを含む固体状態の組成物から溶媒を除去することにより得られる。本発明の最終剤形は、キャリアとして魚ゼラチンを用いて、Murrayらによる米国特許第6709669号及びGregoryらによる英国特許第1548022号に記載の方法に従って調製され得る。溶媒の除去は、例として、昇華、強制空気乾燥、及び第二の溶媒除去プロセス、例えば、参照として本明細書に援用する米国特許第6726928号(‘928)に記載されている方法などを含む様々な方法により達成され得る。
【0028】
本発明の急速分散剤形は、下記のとおりの基本設計に従って製剤化された:
【0029】
【表1】

【0030】
高分子量ゼラチン(HMW)は、分子量分布の50%超が30,000ダルトンを超えるゼラチンとして定義され、他方、標準分子量(SMW)ゼラチンは、分子量分布の50%超が30,000ダルトン未満であるゼラチンとして定義される。
【0031】
本発明では、ゼラチンの分子量分布を以下の一般的なプロトコルに従って決定した:
【0032】
ゼラチンの分子量分布を決定するためのクロマトグラフ法では、TSK Gelsw(7.5×7.5mm)ガードカラムと2つのTSKゲル4000SWXL(300×7.8mm)メインカラムを連続して用いた。HPLCユニットを以下の条件に設定する:流速0.5mL/分;波長220nm;注入量20μL;カラム温度25℃;ランタイム70分間;及び移動相組成:5Lの水に溶解し、1Nの水酸化ナトリウムを用いてpH5.3に調整した、71gの硫酸ナトリウム(NaSO)、15.6gのリン酸二水素ナトリウム(NaHPO・2HO)、及び25gのドデシル硫酸ナトリウム(C1225NaOS)。ポリエチレングリコール及びポリエチレンオキシド標準物質を用いて、1900〜439600g/molの10MWグラジエントに印を付けた。
【0033】
サンプルは100mgのゼラチンを100mLのメスフラスコ中で溶かし、90%の移動相と10%のエチレングリコールとの混合物を印まで入れて調製した。標準的なHPLC/GPCソフトウェアパッケージのいずれをも、データを分析するために用いることができる。
【0034】
(製剤及び急速分散剤形の一般的な調製)
以下、「製剤(formulation)」という用語は、その最終形へと乾燥される前の組成物を記載するために用い、他方、「急速分散剤形」という用語は、分注及び乾燥後の最終製造物を記載するために用いる。以下に報告するデータは、それぞれのサンプル製剤について900グラムのバッチサイズを用いた、ベンチスケール装置及び製造工程を用いて製造されたサンプルから得られたものであった。プレミックスを作製するために、ゼラチンとマンニトールとを、1Lの容器中、合計予測バッチ所要量の少なくとも50重量%の精製水アリコート(aliquot)に添加し、撹拌した。プレミックスをウォーターバス中で60℃に加熱し、100rpmで1時間撹拌した。ついで、プレミックスを、実験プロトコルのそれぞれの分注温度(5℃、10℃、15℃、及び23℃;以下に詳述のとおり)に冷却した。ついで、このプレミックスを精製水で900グラムにした。混合プロセスの間中、100rpmのパドル撹拌速度を用いた。
【0035】
プレミックスを、最大で48時間、100rpmで撹拌し、それぞれの分注温度(5℃、10℃、15℃、及び23℃;以下に詳述のとおり)で分注した。市販サイズのバッチの分注を完了させるのに、製剤が長期間保持される必要があり得るという商業規模の分注プロトコルを再現するために、48時間の保持時間を選択した。例えば250mgの湿潤充填重量などの適切な充填重量を注入するために、半自動式ポンプセットを用いて、予め成形しておいたブリスターパック中にプレミックスを分注した。分注後、充填されたブリスターパックを、−50℃以下の設定温度及び3分15秒間の標準的な滞留時間を用いて、液体窒素凍結トンネルを通過させた。凍結乾燥前の貯蔵の間に、分注された製造物が凍結維持されることを確保するため、十分な冷却温度に設定した冷凍キャビネット中に、全ての凍結製造物をすぐに入れた。ついで、凍結製造物を、0℃のシェルフ温度及び0.5mbarのチャンバー圧を用いて凍結乾燥した。ついで、凍結乾燥製造物、すなわち、急速分散剤形を、最終製造物評価前に乾式貯蔵キャビネットに入れた。
【0036】
(評価方法)
異なる分注温度で保持された製剤のそれぞれについて、以下の評価を実施した:
【0037】
分注能力(dosability)−ゲル化のサインについて製剤を確認した。半自動式分注ポンプを用いた分注の容易性を、分注チューブの物理的閉塞の跡及び分注溶液における気泡の存在について視覚的に評価した。保持時間の最後にゲル化した製剤は分注不可能であり、さらなる試験をしなかった。
【0038】
粘度−プレミックスの粘度を、48時間の保持時間にわたって定期的にモニタリングした。NV回転センサーを備えたHaake VT550 Viscotesterを用いて粘度を試験した。サンプルと同じ温度で保持されたセンサー温度を用いて、500〜2500(1/s)のせん断速度での粘度を記録した。
【0039】
微生物学的質−当該保持時間で、製剤サンプルをTotal Viable Count(TVC;総生菌数測定)に供した。1000cfu/mL(コロニー形成単位/mL)未満の数を合格とみなし、そのレベルを超える数を不合格とみなした。TVCは、欧州薬局方(第4版)§2.6.12[「Microbial Examination of Non-Sterile Products (Total Viable Aerobic Count)」]に詳述されているプレートカウント法に従って決定した。本発明の目的のために、微生物学的質は単なる助言的パラメーターとして試験され、すなわち、いずれの製剤も、TVCで不合格であったからといって完全に失敗であるとは最終的にはみなされない。これは、急速分散剤形中にいずれの活性成分も用いずに実験を行ったという事実から判断された。製剤pHの変化、活性成分の様々な特徴、及び様々な保存料、例えば、例示であってこれに限定されないが、静菌剤及び殺菌剤などは、最終的に出来上がった急速分散剤形の微生物学的質に影響を与え得る。
【0040】
活性剤の量は、選択される特定の薬剤及び患者の必要性に応じて変化する。しかし、活性剤は、通常、乾燥した剤形の組成物の約0.01重量%〜約85重量%、典型的には約0.02重量%〜約60重量%の量で存在できる。
【0041】
急速分散剤形を以下について評価した:
【0042】
最終製造物の目視検査−外観、及び「小塊(nodule)」と称されるものを時折含み、「外観」という用語下で評価される審美的(cosmetic)な表面不良(defect)、並びにユニット除去後のブリスターパックポケット中に存在する残留物の量。
【0043】
分散時間−上記に詳述したプロトコルごとに行い、10秒未満では急速な分散を意味し;20秒を超えると、遅い分散又は許容できない分散を意味する。
【0044】
可変性(variable)−これは、分散時間があまり一貫していないが、常に許容可能な範囲内にあることを意味し;すなわち、サンプルが、1つの実験では10秒未満で分散するが、ついで別の実験では10〜20秒の間に分散し得ることを意味する。
【0045】
限界評価(threshold evaluation)として、ゼラチン組成物を、高分子量(HMW)ゼラチンのみ又は標準分子量(SMW)ゼラチンのみ(Norland Products, Inc.)のいずれかとともに製剤化した。HMWゼラチンは、分子量分布の50%超が30,000ダルトンを超えるゼラチンとして定義される。対照的に、SMWゼラチンは、分子量分布の50%超が30,000ダルトン未満であるゼラチンである。
【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
分注温度の選択に関連していると思われる問題が明らかとなった。高分子量のみの製剤(HMW)に関して、表2に示されているように、5℃で分注された高分子量ゼラチンのみを含む全ての製剤はゲル化し、さらなる評価を実施すること又は分注することを不可能にした。23℃の分注温度では、高分子量ゼラチンのみを含む全ての製剤は、総生菌数測定で不合格であった;高い分注温度は、バクテリアの増殖を促進するようである。
【0050】
標準分子量のみの製剤に関して、表3に示されているように、5℃で分注された全ての製剤は、分注パラメーターにおいて不満足であった。粘度は、初めは増加し、それに続いて時間とともに減少することが示された。高分子量のみの製剤と同様に、23℃で分注された全ての標準分子量製剤は、総生菌数測定で不合格であり、バッチ5Bの最終データ前の試験の放棄をもたらした。SMW製剤は、ほとんどの場合に可変性の分散時間を示した。「不満足な分注能力」又はTVCでの「不合格」のいずれかを示す製剤は、分散について試験しなかった。
【0051】
明らかに温度に関連する上記製剤の低いパフォーマンスのために、同様の高分子量及び標準分子量製剤を、より中間の製剤分注温度;例えば、10℃及び/又は15℃で評価した。さらに、総濃度が4.0重量%及び3.0重量%である高分子量ゼラチンのみを含む製剤を試験し、5.5%の濃度の標準分子量ゼラチンのみを含む製剤も同様に試験した。同時に、標準分子量製剤と高分子量製剤とを組み合わせた均衡(50:50)製剤の限定試験を行った。製剤を表4に示す。
【0052】
【表5】

【0053】
【表6】

【0054】
評価結果により、表5に示されているように、5℃及び23℃の分注温度で見られたもの(表2及び表3)よりも良好なパフォーマンスが示されたが、重大な問題は残ったままであった。10℃の分注温度では、高分子量のみの製剤のパフォーマンスは、問題を抱えたままであった。その温度でのゼラチン混合物は、時間とともに粘度を増す傾向を示した。10℃の分注温度では、ゼラチン総濃度が6.5%である製剤はゲル化し、それ故、分注及び評価することが不可能であった。ゼラチン総濃度が3.0〜5.0%(10℃の分注温度)の範囲にある残りの製剤は、分注チューブの閉塞のために分注することが困難であった。HMW製剤に対する粘度測定の詳細を表6に示す。
【0055】
例えば、10℃で保持され、ゼラチン総濃度が5.0%である製剤、つまりバッチ12Cは、開始時間(initial time)から34時間の保持時点までの間におよそ3倍増の粘度を示し、それに続いて49時間では、ほぼ元の粘度レベルに戻った。10℃で保持され、ゼラチン総濃度が4.0%であるバッチ22Cは、開始時間から最大時間までの間におよそ2倍増の粘度レベルを示し、元のレベルへの減少という傾向を伴わなかった。粘度におけるこのような時間依存性の変化は、市販サイズのバッチを完成させることができる前に、製剤の粘度が高くなりすぎて分注できなくなり得るという理由から、市販品の製造にとって重大な問題をもたらし得る。
【0056】
【表7】

【0057】
23℃で保持された全てのバッチが、バクテリアの増殖について試験した総生菌数測定で不合格であったという事実を考慮すると、一般に満足のいく分注挙動を示す唯一の製剤は、15℃で保持され、6.5%の総濃度のゼラチンを含む製剤(バッチ3D)であった。15℃でのこの製剤のパフォーマンスは許容可能であった一方、この温度は、同様の製剤が総生菌数測定で不合格であった、実験1の23℃での経験と、試験温度(operating temperature)の比較的小さな差しか示さないことが示された。従って、製造ベースにおけるこのモデルの利用は、製造物においてバクテリアの増殖を促進する温度と、受け入れ難いほど近似した処理温度になり得る。さらに、この製剤(バッチ3D;15℃で保持された6.5% HMWゼラチン)は、取り出された後、パッケージング中に少量の残留物を残し、かつ遅い分散及び遅い崩壊を示したことから、他の特徴に関して最適とはいえなかった。
【0058】
目視検査において、高分子量ゼラチンのみを含む全ての製剤は、製造物に良好な白色の外観をもたらした。外観は、ゼラチン濃度が高くなるにつれて、すなわち、4.0重量%を超えるゼラチンでは、それらのユニットに対して良好であるか、または許容可能であることが示された。ゼラチン濃度が減少するにつれて、すなわち、4.0重量%以下のゼラチンでは、製剤はより大きな表面不良を有することがわかった。製造物の除去後、パッケージング中に残留物が全くないか、又はごく少量の残留物のみが残るかのいずれかであった。3重量%の高分子量ゼラチンでは、外観が悪い。
【0059】
10℃及び15℃での処理温度が有望であったことから、様々な漸増温度及びゼラチン濃度レベルでのパフォーマンスの理解を高めるために、2回目の実験を行った。ついで、結果を以下のプロトコルに従ってデータマッピングした。各種ゼラチン製剤を製剤化し、以下に詳述する5つの評価基準で評価し、表7に示されているように、それぞれのカテゴリーにおいて良好なパフォーマンスには2点、それぞれのカテゴリーにおいて許容可能なパフォーマンスには1点、それぞれのカテゴリーにおいて許容できないパフォーマンスには0点の基準で採点した。製剤を、製剤の分注及び粘度について、すなわち、凍結乾燥及びパッケージング前の製剤の分注及び粘度の質について;並びに最終的な急速分散剤形の外観、強度及び分散について採点した。いずれかのカテゴリーが不適格なものとして作用する場合には0点とし、すなわち、特定の製造物についての点数を0点に減じ、点数を総計した。従って、急速分散剤形は、0、又は5〜10点を有し得、ここで、5点は最低限許容可能な点数であり、10点は最適な点数であった。
【0060】
【表8】

【0061】
ついで、得られた点数を、表8に示すとおり、マトリクス表(tabular matrix)でデータマッピングし、製剤挙動における傾向を視覚的に識別した。実際に測定されたパラメーターを、拡大した数値型(enlarged numerical type)で示す。測定された得点の間にある測定されていないデータ得点は、マトリクスにおけるデータ得点の周りにあるパフォーマンスに基づき予測した;例えば、表8において、ゼラチン製剤が5℃で分注された場合の3.5%、5%、及び6.5%のゼラチン濃度で測定されたデータ得点は、製剤が全てゲル化し、分注を実行不可能にすることを示していた。従って、同様のゲル化挙動が、3%、4%、5.5%、及び6%の濃度のゼラチンを有する製剤について予測される。
【0062】
実際の実験及び予測実験の両方において、10点未満、すなわち、最適の点数未満の点数を示す全ての製剤について、点数の減少をもたらした評価パラメーターを、点数の下の括弧内で特定する。
【0063】
微生物学的評価、すなわち、総生菌数(TVC)を、それぞれの製剤について観察したが、データマッピングの一部として数値で計測はしなかった。上述のとおり、全ての実験は、活性成分を含めない標準製剤を用いて行った。TVCの結果は、実際の製造物における示唆的な結果でしかない;なぜなら、製剤組成物、pH、及び例えば抗生物質又は他の静生物(biostatic)添加剤などの可能な添加剤が、得られたTVCに影響を及ぼし得るからである。例えば、この実験で用いられる23℃レベルなどの比較的温かい処理温度は、ある種の製剤については許容できないTVC結果をもたらすかもしれないが、他の製剤は、その温度での処理を実現可能にさせるさらなる構成成分又は操作の影響を受けやすいかもしれない。
【0064】
【表9】

【0065】
いずれかの評価領域において不適格なものとして作用する許容できないパフォーマンスを有する多因子評価の使用、及びデータマッピングの使用により、高分子量のみの製剤に関する重大な問題が露呈した。例えば、15℃で分注された6.5%ゼラチンの製剤は、先の実験(表5及び表6)では許容可能な分注パラメーターを示したが、許容不可能な分散時間により、商業的には実施できない製剤になった。
【0066】
要約すれば、高分子量魚ゼラチンのみを含む製剤について、分注時間を5℃に維持することは、製剤のゲル化のために不可能である。一般に、10℃での分注は可能ではあるが、時間とともに粘度が漸増するために、より長い溶液保持時間では、分注における困難性に悩まされ得る。10℃を超える分注温度を維持することは、粘度がほぼ一定したままであることから、許容可能な分注をもたらす。
【0067】
しかし、溶液の微生物学的質は、23℃に保持されたサンプルで見られるとおり、15℃を超える分注温度が用いられた場合に損なわれる。さらに、前記の結果により、高分子量魚ゼラチンのみの使用は、表面不良が全くないか、又は低レベルの表面不良を有し、かつ残留物が全くないユニットを与えることが示されている。表8のマトリクスの初めの4つのカラムでほとんどの場合に見られるように、4.0%以下の総濃度のゼラチンを有するHMW製剤は、通常、急速な分散及び崩壊パラメーターを示したので(とはいえ、分注ラインにおける混合物のエアレーションのために、低温での分注は困難であったが)、HMWゼラチンの相対的により高い濃度が、乏しい分散及び崩壊特性の一因となることが推察された。要するに、HMWゼラチンのみを用いた許容可能な製造物を製剤化することは可能ではあるが、かなり制限され、製造物は、5重量%未満のゼラチンしか含まない製剤について最も実現可能なようであった。これらの制限のために、標準分子量(SMW)魚ゼラチンを用いた製剤の評価を行い、特に、5重量%を超えるSMWゼラチンを有する製剤の挙動を評価した。
【0068】
【表10】

【0069】
【表11】

【0070】
標準分子量ゼラチンのみを含む製剤に関して、表9及び10に示されているように、5.5%を超えるゼラチンを含む製剤は、低温での混合物のエアレーションのために、多くの場合に分注における困難性を示し、他方、15℃で分注された6.5%ゼラチン濃度は、満足のいく分注パラメーターを示したが、可変的な分散を示した。高ゼラチン含量(6.5%)を有する製剤は、良好な外観を有したが、可変的な分散時間を有する傾向にあった。その一方、5.5%以下の総SMWゼラチンを有する製剤は、より大きな表面不良を有したが、急速な分散を示した。バッチ16Cは、良好な粘度特性を示したが、いくらか悪い外観を示し、バッチ11Cについても同様であった。
【0071】
高分子量のみの製剤を用いた先の実験と同様に、標準分子量ゼラチンのみを用いて、前述のHMW実験と同じ多因子評価スケール及びデータマッピングを使用し、一連の実験を行った。この結果を表11に示す。
【0072】
【表12】

【0073】
記載のとおり、上記で詳述したHMW/SMW研究の補助として、高分子量ゼラチンと標準分子量ゼラチンとを、合計で6.5%の総ゼラチン濃度に均等混合したものを用いて、限定実験を行った。驚くべきことに、表12に示されているように、この混合物は、良好な分注及び粘度パラメーターを示し、表面不良及びパッケージング残留物がほとんどなく、有望であったが、遅い分散挙動を有していた。従って、表13に示すとおり、様々な分注温度で、変動比率の高分子量及び標準分子量魚ゼラチンを用いて実験を拡張した。
【0074】
【表13】

【0075】
【表14】

【0076】
表13に示されているとおり、魚ゼラチンの総濃度を変更し、従属変数として標準分子量魚ゼラチンに対する高分子量魚ゼラチンの比率を変化させることにより優れた結果が得られた。分注期間にわたる分注能力及び粘度の一貫性は、製剤中に存在するゼラチン総濃度及びHMW:SMW魚ゼラチン比率によって決まる。より高いゼラチン総濃度で、より高いHMW魚ゼラチン比率を有する製剤では、ゲル化するか、又は乏しい分散を示す傾向にある。例えば、組み合わせ物のゼラチンレベルを減少させ、適切なHMW:SMW魚ゼラチン比率を選択することにより、満足のいく分注及び許容可能な溶液粘度を達成することができた。
【0077】
微生物学的質の評価により、溶液が10℃又は15℃のいずれかで保持された場合に、10cfu/mL未満のTVCが多くの場合に報告されることが示された。しかし、先の実験(例えば、表2及び3を参照されたい)において、複数のバッチが23℃で保持された場合にTVCで不合格となっており、また、満足のいく結果が10℃の分注温度で得られたことから、ほとんどの実験をその温度(10℃)に絞った。しかし、微生物の増殖の問題を克服できるならば、より高い分注温度が使用可能であることが実験から明らかに示された。
【0078】
視覚的外観に関して、全ての分注ユニットに、明るいクリーム色の外観がもたらされた。低いHMW魚ゼラチン比率を有する製剤を除いて、個々の分注ユニットにおいて、表面不良が全く見られないか、又は極めて稀にしか見られないことが示された。いずれのユニットも、除去した後のパッケージング中に残留物が全くないか、又はほとんど残らなかった。
【0079】
分散に関して、高レベルの魚ゼラチン濃度(例えば、6.5重量%ゼラチン)及びより高いHMW魚ゼラチン比率(例えば、HMW/SMW比率が50:50)を有する分注ユニットは、遅いか、又は可変性の分散時間を示した。分散は、より低い魚ゼラチン濃度(例えば、5.0重量%魚ゼラチン)及びより低いHMW魚ゼラチン比率(例えば、HMW/SMW比率が10:90)を有する製剤で高まった。
【0080】
従って、上述のプロトコルに従って、多因子評価及びデータマッピングを用いた。製剤を、5℃、10℃、15℃、及び23℃の分注温度で評価した。3重量%、3.5重量%、4重量%、5重量%、5.5重量%、6重量%、及び6.5重量%の魚ゼラチンを含むゼラチン製剤を、総ゼラチンが、50:50のHMW/SMWゼラチン比率、35:65のHMW/SMWゼラチン比率、25:75のHMW/SMWゼラチン比率、及び10:90のHMW/SMWゼラチン比率を示す急速分散剤形で評価した。この結果を表14〜17に示す。
【0081】
【表15】

【0082】
【表16】

【0083】
【表17】

【0084】
【表18】

【0085】
要約すると、表18に示されているとおり、データマッピングにより組成物パフォーマンスの3つの大まかな領域が明らかとなり、この表において、パフォーマンスの3つの大まかな許容可能な領域をより容易に見ることができる。表18の上部左のほとんどの領域において、比較的高い比率のHMWを有する製剤が良いパフォーマンスを示したことが分かる。表18の下部右のほとんどの領域において、比較的低い比率のHMWゼラチンを有する製剤が良いパフォーマンスを示したことが分かる。表18の中央を横断して、約35:65及び25:75のHMW:SMWゼラチン比率である製剤が、ゼラチン濃度の最も広い範囲にわたって最良のパフォーマンスを示したことが分かる。
【0086】
【表19】

【0087】
表18の一般的な傾向は、表19〜21に示されているように、3つの別々の機能的領域として同一の情報を取り出した場合に、より容易に識別される。HMWゼラチンが、組成物のおよそ50重量%以下の範囲にある製剤は、総ゼラチン濃度がおよそ3.5%〜4%であるそれらの製剤において最良に機能する。
【0088】
【表20】

【0089】
HMW:SMWゼラチン比率が、およそ35:65及び25:75の領域にある製剤は、総ゼラチン濃度の広い範囲にわたって、すなわち、およそ3.5%〜6%にわたって良好に機能する。
【0090】
【表21】

【0091】
最後に、SMWゼラチンが主に占めており、HMW:SMWゼラチン比率がおよそ25:75よりも高い製剤は、およそ4%〜6%の総ゼラチン濃度で良好に機能する。
【0092】
【表22】

【0093】
[結論]
本発明の製剤開発及び最適化では、魚ゼラチンを用いた3つのオプションを評価した。これらは、(1)HMW魚ゼラチン単独の使用、(2)SMW魚ゼラチン単独の使用、及び(3)HMW魚ゼラチンとSMW魚ゼラチンとの組み合わせ物の使用であった。
【0094】
製剤中に高分子量ゼラチンを単独で用いた場合には、良好な外観を有するユニットが得られるが、低い分注温度で、ゲル化をもたらすか、又はより粘性になるという傾向がある。より高い分注温度によってこれを克服できるが、製剤の微生物学的質が、より高い分注温度では損なわれる。別法として、粘度を増加させる傾向は、製剤中のゼラチン濃度を減少されることにより克服され得るが、これにより、表面不良による悪い外観を有するユニットがもたらされた。さらに、HMW製剤は、遅い分散錠剤を生じさせる傾向にある。HMWゼラチンのみが、比較的低い総濃度の魚ゼラチンを有する製剤に最も適していた。
【0095】
SMW製剤のみが、製剤がより高い濃度の魚ゼラチンを含む場合を除いて、表面不良に関して悪い外観をユニットに生じさせる傾向にある。しかし、粘度は経時的に一定しておらず、これが分注パフォーマンスに影響を及ぼす。分散パフォーマンスもまた、SMWゼラチンのみを用いた場合に、多くの場合により急速になる。SMWゼラチンのみが、比較的高い濃度のゼラチンを有する製剤に最も適していた。
【0096】
従って、ある種のゼラチン濃度を必要とし得る急速分散剤形用のゼラチンキャリア組成物を設計するためのストラテジーが明確に示される。例えば、活性成分が、キャリア中の比較的低いゼラチン濃度を用いて最良に処方化され得る急速分散剤形においては、組成物は、HMWゼラチンの使用を最適化するために、実験的に予測され設計され得る。逆に、比較的高いゼラチン濃度が所望又は所要され得る急速分散剤形においては、組成物はより高いパーセンテージのSMWゼラチンに基づいて製造され得る。
【0097】
HMW/SMW組み合わせ製剤に関して、適切なゼラチン濃度及び適切なHMW:SMW比率を用いた場合に、良好な分注パフォーマンス及び許容可能な粘度を有する製剤を得ることができる。許容可能な外観及び急速分散を有する最終製造物もまた、得ることができる。つまり、最適なパフォーマンスのために、ゼラチン濃度は、全体的な製剤におけるSMWゼラチンの相対濃度に応じて正比例させるべきであり;全体的な製剤におけるHMWゼラチンの相対濃度に応じて反比例させるべきである。
【0098】
本発明の組成物にはまた、活性成分(1種以上)及び魚ゼラチンキャリアに加えて、他のマトリックス形成剤及び二次的構成成分も含めることができる。他の活性成分、薬剤、及び構成成分の例として、これに限定しないが、本明細書に参照として援用する米国特許第6709669号に挙げられているものを含めてもよい。
【0099】
例えば、臨床的に有効な量のフェンタニル(N−フェニル−N−[1−(2−フェニルエチル)−4−ピペリジニル]プロパンアミド)を、上述のプロトコルの35:65のHMW/SMWゼラチンキャリアプレミックスに添加する。この製剤は、48時間の保持期間、許容可能な分注能力及び粘度を示す。この製剤を個別のユニットに分注し、凍結し、ついで凍結乾燥する。このユニットは、許容可能な外観、強度、及び分散時間を示す。さらなる例として、臨床的に有効な量の塩酸アポモルフィンを、上述のプロトコルの35:65のHMW/SMWゼラチンキャリアプレミックスに添加する。この製剤は、48時間の保持期間、許容可能な分注能力及び粘度を示す。この製剤を個別のユニットに分注し、凍結し、ついで凍結乾燥する。このユニットは、許容可能な外観、強度、及び分散時間を示す。さらに別の例として、臨床的に有効な量の臭化水素酸デキストロメトルファン、少なくとも98%のホスファチジルコリンを含む大豆由来の精製水添ホスファチジルコリン、及び甘味料としてアスパルテームを、上述のプロトコルの35:65のHMW/SMWゼラチンキャリアプレミックスに添加する。この製剤は、48時間の保持期間、許容可能な分注能力及び粘度を示す。この製剤を個別のユニットに分注し、凍結し、ついで凍結乾燥する。このユニットは、許容可能な外観、強度、及び分散時間を示す。
【0100】
活性成分の正確な量は、選択される特定の薬剤及び患者の必要性に応じて変化するだろう。しかし、活性成分は、通常、乾燥剤形の約0.01重量%〜約85重量%、典型的には約0.2重量%〜約60重量%の量で存在できる。
【0101】
上記の詳細な説明は、本発明の好ましい実施態様の説明として単に意図されるものであり、本発明が製剤化又は利用され得る唯一の形態を表すことが意図されるわけではない。
【0102】
[産業上の利用可能性]
医薬産業では、急速分散製剤の創出のために魚ゼラチンが利用されており、この魚ゼラチンは、少なくとも1種の活性成分を包含するか、又は1種若しくは複数のこのような成分のためのキャリアマトリックスとして作用するかのいずれかである。本発明の方法及び製剤は、ゼラチンの分子量プロファイルに基づいて選択される少なくとも1種の魚ゼラチンが、他の因子のうち、キャリアの予測される最終ゼラチン濃度に基づいて予め定められ得る、急速分散剤形を提供する。
【0103】
本発明は、様々な特定かつ好ましい実施態様及び技術に関して記載されている。しかし、本発明の精神及び範囲内にある限り、多くの変更及び修正がなされ得ることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の活性成分と、高分子量魚ゼラチン、低分子量魚ゼラチン、及びそれらの組み合わせ物からなる群から選択され、前記活性成分に不活性な少なくとも1種のキャリアとを含む急速分散剤形における、所定の最終ゼラチン総濃度を有する医薬組成物を調製するための方法であって、以下の工程:
少なくとも一部分においては前記キャリアの分子量プロファイルに基づき、かつ前記組成物の意図される所定の最終ゼラチン総濃度に基づいて、少なくとも1種の前記キャリアを選択する工程;
製剤を創出するために、適切な溶媒中で、少なくとも1種の前記活性成分と少なくとも1種の前記キャリアとの混合物を形成する工程;
前記製剤を個別のユニットに分注する工程;
前記個別のユニットを固める工程;及び
少なくとも1種の前記活性成分と少なくとも1種の前記キャリアとのネットワークを形成するために、前記固形の個別のユニットから前記溶媒を除去する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記所定の最終ゼラチン総濃度が、前記最終製剤の2重量%〜7重量%である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記製剤が、約48時間にわたって、ほぼ一定した粘度を示す、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記魚ゼラチンが、室温で非ゲル化魚ゼラチンである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記魚ゼラチンが加水分解されていない、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒が水である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒が、凍結乾燥により前記個別のユニットから除去される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒が、強制空気乾燥により前記個別のユニットから除去される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記溶媒が、第二の溶媒除去プロセスにより前記個別のユニットから除去される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1種の前記魚ゼラチンキャリアが、分子量分布の50%超が30,000ダルトンを超える高分子量ゼラチンをさらに含んでいる第一のゼラチンをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種の前記魚ゼラチンキャリアが、分子量分布の60%超が30,000ダルトンを超える高分子量ゼラチンをさらに含んでいる第一のゼラチンをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1種の前記魚ゼラチンキャリアが、分子量分布の70%超が30,000ダルトンを超える高分子量ゼラチンをさらに含んでいる第一のゼラチンをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1種の前記魚ゼラチンキャリアが、分子量分布の50%超が30,000ダルトン未満である標準分子量ゼラチンをさらに含んでいる第二のゼラチンをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1種の前記魚ゼラチンキャリアが、分子量分布の60%超が30,000ダルトン未満である標準分子量ゼラチンをさらに含んでいる第二のゼラチンをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1種の前記魚ゼラチンキャリアが、分子量分布の70%超が30,000ダルトン未満である標準分子量ゼラチンをさらに含んでいる第二のゼラチンをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記高分子量ゼラチンと標準分子量ゼラチンとの組み合わせ物が、50重量%を超える高分子量ゼラチンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記高分子量ゼラチンと標準分子量ゼラチンとの組み合わせ物が、50重量%を超える標準分子量ゼラチンを含む、請求項11記載の方法。
【請求項18】
前記高分子量ゼラチンと標準分子量ゼラチンとの組み合わせ物が、実質的に1:1の重量比で高分子量ゼラチンと標準分子量ゼラチンとを含む、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記高分子量ゼラチンと標準分子量ゼラチンとの組み合わせ物が、実質的に1:2の重量比で高分子量ゼラチンと標準分子量ゼラチンとを含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記高分子量ゼラチンと標準分子量ゼラチンとの組み合わせ物が、実質的に1:3の重量比で高分子量ゼラチンと標準分子量ゼラチンとを含む、請求項1記載の方法。
【請求項21】
前記高分子量ゼラチンと標準分子量ゼラチンとの組み合わせ物が、実質的に1:9の重量比で高分子量ゼラチンと標準分子量ゼラチンとを含む、請求項1記載の方法。
【請求項22】
前記組成物が、経口投与のために設計され、かつ口腔内で急速に前記活性成分を放出する、請求項1記載の方法。
【請求項23】
前記組成物が、流動体と接触している状態で、1〜30秒以内に分散する、請求項1記載の方法。
【請求項24】
前記組成物が、流動体と接触している状態で、1〜20秒以内に分散する、請求項1記載の方法。
【請求項25】
前記組成物が、流動体と接触している状態で、1〜10秒以内に分散する、請求項1記載の方法。
【請求項26】
着色剤、香味料添加剤、賦形剤、及び複数の治療薬をさらに含んでいてもよい、請求項17記載の口腔内急速崩壊固体剤形。
【請求項27】
請求項1記載の方法により調製される、医薬活性物質の口腔内急速崩壊固体剤形。
【請求項28】
請求項10記載の方法により調製される、医薬活性物質の口腔内急速崩壊固体剤形。
【請求項29】
請求項11記載の方法により調製される、医薬活性物質の口腔内急速崩壊固体剤形。
【請求項30】
請求項12記載の方法により調製される、医薬活性物質の口腔内急速崩壊固体剤形。
【請求項31】
請求項13記載の方法により調製される、医薬活性物質の口腔内急速崩壊固体剤形。
【請求項32】
請求項14記載の方法により調製される、医薬活性物質の口腔内急速崩壊固体剤形。
【請求項33】
請求項15記載の方法により調製される、医薬活性物質の口腔内急速崩壊固体剤形。
【請求項34】
請求項16記載の方法により調製される、医薬活性物質の口腔内急速崩壊固体剤形。
【請求項35】
請求項17記載の方法により調製される、医薬活性物質の口腔内急速崩壊固体剤形。
【請求項36】
請求項18記載の方法により調製される、医薬活性物質の口腔内急速崩壊固体剤形。
【請求項37】
請求項19記載の方法により調製される、医薬活性物質の口腔内急速崩壊固体剤形。
【請求項38】
請求項20記載の方法により調製される、医薬活性物質の口腔内急速崩壊固体剤形。
【請求項39】
請求項21記載の方法により調製される、医薬活性物質の口腔内急速崩壊固体剤形。

【公表番号】特表2008−501709(P2008−501709A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515624(P2007−515624)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【国際出願番号】PCT/US2005/019589
【国際公開番号】WO2005/120464
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(501477831)アール.ピー. シェーラー テクノロジーズ インコーポレイテッド (23)
【Fターム(参考)】