説明

分岐レイアウト設計支援装置、分岐レイアウト設計支援方法、及び、分岐レイアウト設計支援プログラム

【課題】ワイヤハーネスのクランプの影響を考慮した分岐レイアウトの設計を支援する。
【解決手段】経路情報取得手段M1によって経路情報、部品情報取得手段M2によって部品情報、クランプ情報取得手段M3によってクランプ情報が取得される。クランプの固定位置からずらした相異なる複数のずらし位置の各々に対し、クランプの保持力及び枝線の操作力が、算出手段M4によって経路情報が示す枝線の経路と部品情報が示す枝線の物性とクランプ情報が示すクランプの性能とに基づいて算出される。算出された保持力及び操作力は、ずらし位置特定手段M5によって判定条件と比較されて、該判定条件を満たすずらし位置が特定される。許容公差範囲算出手段M6によって前記特定されたずらし位置に対応した枝線の曲げ角度許容公差範囲が算出され、該曲げ角度許容公差範囲は出力手段M7によって分岐レイアウトの設計を支援するために出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹線と該幹線から分岐する枝線とを有するワイヤハーネスを布線板に平面展開して製造する時の幹線と枝線の分岐レイアウトの設計を支援する分岐レイアウト設計支援装置、分岐レイアウト設計支援方法、及び、分岐レイアウト設計支援プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動体としての自動車などには、種々の電子機器が搭載される。このため、前記自動車などは、前記電子機器に電源などからの電力やコンピュータなどからの制御信号などを伝えるために、ワイヤハーネスを装着している。ワイヤハーネスは、複数の電線と、該電線の端部などに取り付けられたコネクタなどを備えている。
【0003】
電線は、導電性の芯線と該芯線を被覆する絶縁性の合成樹脂からなる被覆部とを備えている。電線は、所謂被覆電線である。コネクタは、導電性の端子金具と絶縁性のコネクタハウジングとを備えている。端子金具は、電線の端部などに取りつけられかつ該電線の芯線と電気的に接続する。コネクタハウジングは、箱状に形成されかつ端子金具を収容する。
【0004】
前記ワイヤハーネスを組み立てる際には、まず電線を所定の長さに切断した後、該電線の端部などに端子金具を取り付ける。必要に応じて電線同士を接続する。その後、端子金具をコネクタハウジング内に挿入する。こうして、前述したワイヤハーネスを組み立てる。
【0005】
ワイヤハーネスの設計は、該ワイヤハーネスが装着される車両等の設計進行と平行して準備される。通常、ワイヤハーネスの経路レイアウトは車両等のメーカ(単に、カーメーカとよぶ)から要望が出され、これを受けた部品メーカがその要望を満たすワイヤハーネスを製造治具を用いて製造する。そして、頻繁に発生する設計変更に的確に対応し、布線板レイアウト及びこれにともなう経路レイアウト案の設計効率を向上させるワイヤハーネスの設計支援システム等が特許文献1に記載されている。
【0006】
また、図14は、従来のワイヤハーネスの製造治具の一形態を示すものである(特許文献1参照)。
【0007】
この製造治具41は、長方形の幅広の基板42と、基板42上に立設された複数の布線治具43と、基板42に隣接して配置された部品棚44と、部品棚44上の部品ケース45とを少なくとも備えたものである。基板42と複数の布線治具43とで布線板46が構成されている。
【0008】
布線板46は脚部47で傾斜状に支持されている。これは、作業者が奥行きの広い布線板46に対して電線48の布線作業を容易に且つ効率良く行えるようにするためである。布線板46を傾斜させない場合には奥側の布線治具43まで手が届かず、布線作業性が悪い。なお、奥行きの狭い布線板については傾斜状でなく水平に配置する。
【0009】
布線とは電線48を一本づつ各布線治具43に沿って所要形状に配線することである。布線された複数本の電線48には保護チューブ49やプロテクタ等の部品が装着される。各電線48の端末には端子(図示せず)が圧着されており、各端子はコネクタハウジング内に挿入され、コネクタハウジングと端子とでコネクタ50が構成される。さらに、複数本の電線48がビニルテープ51で集束されて、ワイヤハーネス52が完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−46815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
また、上述した従来の布線板における布線レイアウト設計においては、布線板46内にワイヤハーネスを治めること(要件1)、製造時のその組立作業性を満たすこと(要件2)、分岐枝の配置は平均に分布するように配置すること(要件3)の3つの要件を満たすように設計していた。
【0012】
そのため、それらの要件を満たすように、立体形状のワイヤハーネスの布線板レイアウトを設計すると、立体形状のワイヤハーネスを折り曲げながら平面化することになるため、その曲げ方によっては布線板で実際に製造したワイヤハーネスを車両等に実装しようとしたときに、ワイヤハーネスの剛性等によってカーメーカ等から要望された形状にならないという問題があった。
【0013】
具体的には、図15において、分岐点P1で幹線Tに対して略垂直となるように組み立てられたワイヤハーネスWは、車両等に装着するために枝線Bは分岐点P1から装着点P2に折り曲げられる。このとき、分岐点P1から枝線B上の装着点P2までの枝線Bのハーネス長L10と、分岐点P1と装着点P2を直線で結ぶ直線距離L11と、を比較すると、分岐部分の剛性、テープによる収束状態等によってハーネス長L10と直線距離L11は一致しないときがある。
【0014】
また、図16に示すように、製造したワイヤハーネスWは、幹線Wmを車体等に装着されると、作業者は該幹線Wmから分岐する枝線Wbを曲げながら、該枝線Wbに設けられたクランプCを車体の取り付け穴付近に移動させ、該クランプCを挿入方向Xに移動させて前記取り付け穴に挿入して固定する。そして、作業者は該固定したクランプCを軸にして枝線Wbを曲げ方向Yに折り曲げる。
【0015】
しかしながら、上述したようにハーネス長L10と直線距離L11とが一致しない場合、枝線WbのクランプCが前記取り付け穴に挿入できないという問題が生じてしまう。また、枝線Wbの長さは、短くても、長くても、作業者がクランプCを前記取り付け穴に挿入するため要する操作力は増大してしまい、ワイヤハーネスWの装着性が悪化するため、ワイヤハーネスWの装着の作業効率を低下させるとともに、幹線Wmと枝線Wbとの分岐部分等に負荷がかかってしまうという問題があった。
【0016】
よって本発明は、上述した問題点に鑑み、ワイヤハーネスのクランプの影響を考慮した分岐レイアウトの設計を支援することが可能な分岐レイアウト設計支援装置、分岐レイアウト設計支援方法、及び、分岐レイアウト設計支援プログラムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため本発明によりなされた請求項1記載の分岐レイアウト設計支援装置は、図1の基本構成図に示すように、幹線と該幹線から分岐する枝線とを有し且つ前記幹線から所望の曲げ角度で曲げられた前記枝線がクランプで相手部材に装着されるワイヤハーネスを、布線板に平面展開して製造するときの前記幹線と前記枝線の分岐レイアウトの設計を支援する分岐レイアウト設計支援装置において、前記幹線と前記枝線の分岐経路及び前記クランプを固定する固定位置を示す経路情報を取得する経路情報取得手段M1と、前記ワイヤハーネスの物性を示す部品情報を取得する部品情報取得手段M2と、前記クランプの性能を示すクランプ情報を取得するクランプ情報取得手段M3と、前記クランプの固定位置からずらした相異なる複数のずらし位置の各々に対応する前記クランプの保持力を、前記経路情報が示す前記枝線の経路と前記部品情報が示す前記枝線の物性と前記クランプ情報が示す前記クランプの性能とに基づいて算出する算出手段M4と、前記算出手段M4が算出した保持力と前記ワイヤハーネスに対応して予め定められた判定条件とを比較して、該判定条件を満たすずらし位置を特定するずらし位置特定手段M5と、前記ずらし位置特定手段M5が特定したずらし位置に対応した前記枝線の曲げ角度許容公差範囲を算出する許容公差範囲算出手段M6と、前記許容公差範囲算出手段M6が算出した曲げ角度許容公差範囲を、前記分岐レイアウトの設計を支援するために出力する出力手段M7と、を有することを特徴とする。
【0018】
上記請求項1に記載した本発明の分岐レイアウト設計支援装置によれば、経路情報取得手段M1によって経路情報、部品情報取得手段M2によって部品情報、クランプ情報取得手段M3によってクランプ情報がそれぞれ取得される。そして、クランプの固定位置からずらした相異なる複数のずらし位置の各々に対したクランプの保持力が、算出手段M4によって経路情報が示す枝線の経路と部品情報が示す枝線の物性とクランプ情報が示すクランプの性能とに基づいて算出される。そして、算出された保持力は、ずらし位置特定手段M5によって判定条件と比較されて、該判定条件を満たすずらし位置が特定される。そして、許容公差範囲算出手段M6によって前記特定されたずらし位置に対応した枝線の曲げ角度許容公差範囲が算出され、該曲げ角度許容公差範囲は出力手段M7によって例えば表示装置、プリンタ、通信装置等に、前記分岐レイアウトの設計を支援するために出力される。なお、所望の曲げ角度とは、曲げ角度許容公差範囲内の任意の曲げ角度(装着角度)である。
【0019】
請求項2記載の発明は、図1の基本構成図に示すように、請求項1に記載の分岐レイアウト設計支援装置において、前記算出手段M4が、前記クランプの固定位置からずらした相異なる複数のずらし位置の各々に対応する前記枝線の操作力を、前記経路情報が示す前記枝線の経路と前記部品情報が示す前記枝線の物性と前記クランプ情報が示す前記クランプの性能とに基づいて算出する手段であり、前記ずらし位置特定手段M5が、前記算出した保持力及び操作力と前記判定条件とを比較して、前記判定条件を満たすずらし位置を特定する手段であることを特徴とする。
【0020】
上記請求項2に記載した本発明の分岐レイアウト設計支援装置によれば、クランプの固定位置からずらした相異なる複数のずらし位置の各々に対したクランプの保持力及び枝線の操作力が、算出手段M4によって経路情報が示す枝線の経路と部品情報が示す枝線の物性とクランプ情報が示すクランプの性能とに基づいて算出される。そして、算出された保持力及び操作力は、ずらし位置特定手段M5によって判定条件と比較されて、該判定条件を満たすずらし位置が特定される。
【0021】
請求項3記載の発明は、図1の基本構成図に示すように、請求項1又は2に記載の分岐レイアウト設計支援装置において、前記ずらし位置特定手段M5が、前記判定条件を満たす複数のずらし位置の中から最大のずらし位置を特定する手段であり、前記許容公差範囲算出手段M6が、前記最大のずらし位置に対応した曲げ角度許容公差範囲を算出する手段であることを特徴とする。
【0022】
上記請求項3に記載した本発明の分岐レイアウト設計支援装置によれば、ずらし位置特定手段M5によって前記判定条件を満たす複数のずらし位置の中から最大のずらし位置が特定されると、許容公差範囲算出手段M6によって前記最大のずらし位置に対応した曲げ角度許容公差範囲が算出される。
【0023】
請求項4記載の発明は、図1の基本構成図に示すように、請求項1〜3の何れか1項に記載の分岐レイアウト設計支援装置において、前記算出手段M4が、前記クランプの保持力及び前記枝線の操作力の双方を算出する手段であり、前記ずらし位置特定手段M5が、前記保持力及び前記操作力の双方と前記判定条件とを比較して、該判定条件を満たすずらし位置を特定する手段であることを特徴とする。
【0024】
上記請求項4に記載した本発明の分岐レイアウト設計支援装置によれば、算出手段M4によってクランプの保持力及び枝線の操作力の双方を算出されると、これらの中から判定条件を満たすずらし位置がずらし位置特定手段M5によって特定される。
【0025】
上記課題を解決するため本発明によりなされた請求項5記載の分岐レイアウト設計支援方法は、幹線と該幹線から分岐する枝線とを有し且つ前記幹線から所望の曲げ角度で曲げられた前記枝線がクランプで相手部材に装着されるワイヤハーネスを、布線板に平面展開して製造するときの前記幹線と前記枝線の分岐レイアウトの設計を支援する分岐レイアウト設計支援方法において、前記幹線と前記枝線の分岐経路及び前記クランプを固定する固定位置を示す経路情報を取得する経路情報取得過程と、前記ワイヤハーネスの物性を示す部品情報を取得する部品情報取得過程と、前記クランプの性能を示すクランプ情報を取得するクランプ情報取得過程と、前記クランプの固定位置からずらした相異なる複数のずらし位置の各々に対応する前記クランプの保持力を、前記経路情報が示す前記枝線の経路と前記部品情報が示す前記枝線の物性と前記クランプ情報が示す前記クランプの性能とに基づいて算出する算出過程と、前記算出した保持力と前記ワイヤハーネスに対応して予め定められた判定条件とを比較して、該判定条件を満たすずらし位置を特定するずらし位置特定過程と、前記特定したずらし位置に対応した前記枝線の曲げ角度許容公差範囲を、前記分岐レイアウトの設計を支援するために算出する許容公差範囲算出過程と、前記算出した曲げ角度許容公差範囲を出力する出力過程と、を有することを特徴とする。
【0026】
上記請求項5に記載した本発明の分岐レイアウト設計支援方法によれば、経路情報と部品情報とクランプ情報をそれぞれ取得すると、クランプの固定位置からずらした相異なる複数のずらし位置の各々に対したクランプの保持力を、経路情報が示す枝線の経路と部品情報が示す枝線の物性とクランプ情報が示すクランプの性能とに基づいて算出する。そして、該算出した保持力と判定条件とを比較して、該判定条件を満たすずらし位置を特定する。そして、該特定したずらし位置に対応した枝線の曲げ角度許容公差範囲を算出し、該曲げ角度許容公差範囲を例えば表示装置、プリンタ、通信装置、等に前記分岐レイアウトの設計を支援するために出力する。
【0027】
上記課題を解決するため本発明によりなされた請求項6記載の分岐レイアウト設計支援プログラムは、図1の基本構成図に示すように、幹線と該幹線から分岐する枝線とを有し且つ前記幹線から所望の曲げ角度で曲げられた前記枝線がクランプで相手部材に装着されるワイヤハーネスを、布線板に平面展開して製造するときの前記幹線と前記枝線の分岐レイアウトの設計を支援する分岐レイアウト設計支援装置のコンピュータを、前記幹線と前記枝線の分岐経路及び前記クランプを固定する固定位置を示す経路情報を取得する経路情報取得手段M1と、前記ワイヤハーネスの物性を示す部品情報を取得する部品情報取得手段M2と、前記クランプの性能を示すクランプ情報を取得するクランプ情報取得手段M3と、前記クランプの固定位置からずらした相異なる複数のずらし位置の各々に対応する前記クランプの保持力を、前記経路情報が示す前記枝線の経路と前記部品情報が示す前記枝線の物性と前記クランプ情報が示す前記クランプの性能とに基づいて算出する算出手段M4と、前記算出手段M4が算出した保持力と前記ワイヤハーネスに対応して予め定められた判定条件とを比較して、該判定条件を満たすずらし位置を特定するずらし位置特定手段M5と、前記ずらし位置特定手段M5が特定したずらし位置に対応した前記枝線の曲げ角度許容公差範囲を算出する許容公差範囲算出手段M6と、前記許容公差範囲算出手段M6が算出した曲げ角度許容公差範囲を、前記分岐レイアウトの設計を支援するために出力する出力手段M7と、して機能させるための分岐レイアウト設計支援プログラムである。
【0028】
上記請求項6に記載した本発明の分岐レイアウト設計支援プログラムを実行したコンピュータは、経路情報と部品情報とクランプ情報をそれぞれ取得すると、クランプの固定位置からずらした相異なる複数のずらし位置の各々に対したクランプの保持力を、経路情報が示す枝線の経路と部品情報が示す枝線の物性とクランプ情報が示すクランプの性能とに基づいて算出する。そして、コンピュータは該算出した保持力と判定条件とを比較して、該判定条件を満たすずらし位置を特定する。そして、コンピュータは該特定したずらし位置に対応した枝線の曲げ角度許容公差範囲を算出し、該曲げ角度許容公差範囲を例えば表示装置、プリンタ、通信装置、等に前記分岐レイアウトの設計を支援するために出力する。
【発明の効果】
【0029】
以上説明した本発明によれば、クランプの固定位置からずらした相異なる複数のずらし位置の中から、保持力が判定条件を満たすずらし位置を特定し、該ずらし位置に対応した枝線の曲げ角度許容公差範囲を算出して、分岐レイアウトの設計を支援するようにしたことから、ワイヤハーネスに対するクランプの影響を考慮した枝線の曲げ角度許容公差範囲を設計者等は参照することができるため、枝線の長さや曲げ角度を正確に設計することができる。従って、平面展開したワイヤハーネスを相手部材に装着するときに、枝線のクランプが相手部材の取り付け穴に挿入できない、クランプを取り付け穴に挿入するための作業者の負担が増加する、装着したクランプが外れてしまう、等の問題を解消することができるため、ワイヤハーネスの装着時の作業効率の低下を防止すると共に、幹線と枝線との分岐部分の負荷を低減させることができる。
【0030】
また、クランプの保持力に加えて枝線の操作力を算出し、保持力及び操作力に基づいてずらし位置を特定することで、操作しやすいずらし位置に基づいた分岐レイアウトの設計を支援することができるため、作業効率の向上に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る分岐レイアウト設計支援装置の基本構成を示す構成図である。
【図2】ワイヤハーネスの3次元形状の一例を示すで図であり、(a)は全体図、(b)は(a)中の部分Aの拡大図をそれぞれ示している。
【図3】本発明に係る幹線、枝線、曲げポイントを説明するための図である。
【図4】分岐レイアウト設計支援装置の概略構成の一例を示す構成図である。
【図5】分岐レイアウト設計支援プログラムと各種情報の一例を説明するための図である。
【図6】ワイヤハーネスを布線板に展開したときの布線平面形を示す布線レイアウトの一例を示す図である。
【図7】枝線とクランプとの関係を説明するための図である。
【図8】曲げポイントに対する枝線Wbの配置と届き距離との関係を説明するための図であり、(a)は装着前、(b)は装着後をそれぞれ示している。
【図9】複数のずらし距離に対応した操作力と保持力の変化を示すグラフである。
【図10】複数のずらし距離に対応した挿入力の変化を示すグラフである。
【図11】操作力判定範囲と保持力判定範囲との一例を示すグラフである。
【図12】図4中のCPUが実行する分岐レイアウト設計支援処理の一例を示すフローチャートである。
【図13】曲げポイントに対応した曲げ角度許容公差範囲を示す図である。
【図14】従来の布線治具を用いた布線装置の一形態を示す図である。
【図15】分岐点から装着点におけるハーネス長と直線距離との不一致を示す図である。
【図16】平面展開して製造したワイヤハーネスをクランプで装着するときの従来の問題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る分岐レイアウト設計支援装置を用いてワイヤハーネス(W/H)を布線板に展開したときの布線平面形を示す布線レイアウトの設計を支援する場合の一実施の形態を、図2〜図13の図面を参照して説明する。
【0033】
ワイヤハーネスWは、図2(a)に示すように、3次元形状(立体形状)で車両等に装着される。ワイヤハーネスWは、複数の電線(電線束)W1と、該電線W1の端部などに取り付けられるコネクタW2と、を有している。電線W1は、導電性の芯線と該芯線を被覆する絶縁性の合成樹脂からなる被覆部とを備えている。コネクタW2は、導電性の端子金具と絶縁性のコネクタハウジングとを備えている。
【0034】
ワイヤハーネスWは、図2(b)及び図3に示すように、幹線Wmと、該幹線Wmから分岐する枝線Wbと、を有している。そして、本最良の形態では、幹線Wmから枝線Wbが分岐する分岐点P11〜P15と、幹電線Wmを折り曲げる折り曲げ点P16を曲げポイントP1とする場合について説明する。つまり、分岐点P11〜P15に対する曲げポイントP1では、幹線Wmが基準電線、枝線Wbが曲げ対象電線にそれぞれ相当し、また、折り曲げ点P16に対応する曲げポイントP1では、幹線Wmが基準線及び曲げ対象電線に相当している。
【0035】
枝線Wbは、幹線Wm(装着経路)に対して装着角度θeで分岐(交叉)している。つまり、3次元形状のワイヤハーネスWにおいて、各枝線Wbに対して装着角度θeがそれぞれ設定されている。装着角度θeは、カーメーカー等から指示されたワイヤハーネスWの経路に基づいて設計されている。
【0036】
なお、曲げポイントP1については、布線板30(図6参照)内に収まるように折り曲げる折り曲げ点、枝線Wbから孫線が分岐する分岐点P13,14などの種々異なる曲げ対象電線の基準点と設定することができる。そして、支援対象とする曲げポイントP1の設定は、設計者に選択させる、自動的に算出するなど種々異なる実施形態とすることができる。
【0037】
図4において、分岐レイアウト設計支援装置10は、周知であるパーソナル・コンピュータ(パソコン)を用いており、予め定めたプログラムに従って装置全体の動作の制御などを行う中央演算処理装置(CPU)11を有している。このCPU11には、バスBを介してCPU11のためのプログラム等を格納した読み出し専用のメモリであるROM12、CPU11の処理作業に必要な各種データを格納する作業エリア等を有する読み出し書き込み自在のメモリであるRAM13が接続されている。
【0038】
CPU11には、記憶装置14がバスBを介して接続されており、この記憶装置14にはハードディスク装置、大容量のメモリなどが用いられる。記憶装置14は、図5に示すように、分岐レイアウト設計支援プログラムP、経路情報D1、製造情報D2、装着要件情報D3、部品情報D4、クランプ情報D5、等の各種情報を記憶する記憶領域を有している。布線レイアウト設計支援プログラムPは、CD−ROM等からインストールされたり、ネットワークを介してダウンロードされて記憶装置14に記憶される。
【0039】
分岐レイアウト設計支援プログラムPは、幹線Wmと該幹線Wmから分岐する枝線Wbとを有し且つ前記幹線Wmから所望の曲げ角度で曲げられた前記枝線Wbが上記クランプC(例えば図16参照)で相手部材に装着されるワイヤハーネスWを、布線板30に平面展開して製造するときの前記幹線Wmと前記枝線の分岐レイアウトの設計を支援する分岐レイアウト設計支援装置のCPU(コンピュータ)11を、前記幹線Wmと前記枝線Wbの分岐経路及び前記クランプCを固定する固定位置を示す経路情報D1を取得する経路情報取得手段と、前記ワイヤハーネスの物性を示す部品情報D4を取得する部品情報取得手段と、前記クランプCの性能を示すクランプ情報D5を取得するクランプ情報取得手段と、前記クランプCの固定位置からずらした相異なる複数のずらし位置の各々に対し、前記クランプCの保持力及び前記枝線Wbの操作力の少なくとも一方を、前記経路情報D1が示す前記枝線Wbの経路と前記部品情報D4が示す前記枝線Wbの物性と前記クランプ情報D5が示す前記クランプCの性能とに基づいて算出する算出手段と、前記算出手段が算出した保持力及び操作力の少なくとも一方と前記ワイヤハーネスWに対応して予め定められた判定条件とを比較して、該判定条件を満たすずらし位置を特定するずらし位置特定手段と、前記ずらし位置特定手段が特定したずらし位置に対応した前記枝線Wbの曲げ角度許容公差範囲を算出する許容公差範囲算出手段と、前記許容公差範囲算出手段が算出した曲げ角度許容公差範囲を出力する出力手段と、して機能させるプログラムとなっている。
【0040】
経路情報D1は、図2に示すワイヤハーネスWを示すCAD(computer aided design)などの3次元形状データと、ワイヤハーネスWの回路図データと、前記クランプCのクランプ位置データと、を有している。経路情報D1は、ワイヤハーネスWの品番等に対応して設けられており、布線レイアウトの設計に応じて予め定められたデータベースから取得して記憶したり、記憶装置14に記憶しておくなど種々異なる実施形態とすることができる。
【0041】
製造情報D2は、製造に用いる布線板30の種類等を示す識別データと、布線板30の大きさ示す寸法データ(例えば、縦900mm×横1400mmなど)と、布線可能領域データと、を有している。そして、製造情報D2は、ワイヤハーネスWの品番等に対応して設けられている。
【0042】
装着要件情報D3は、上述した分岐点P11〜P15等に対応した前記クランプCの保持力範囲、作業者の枝線Wbに対する操作力範囲、前記クランプCの挿入力範囲、等を示す判定条件データを有している。なお、本実施例では、装着要件情報D3が保持力範囲及び操作力範囲の双方を示す場合について説明するが、何れか一方のみを示す実施例とすることもできる。
【0043】
部品情報D4は、ワイヤハーネスWの品番、サイズ、物性、形状、等の各種データを有している。なお、物性データは、ワイヤハーネスWにおける幹線Wm、枝線Wbの曲げ特性、強度、等を示すデータとなっている。部品情報D4は、上記経路情報D1に関連付ける、または、経路情報D1に組み込むなど種々異なる実施形態とすることができる。
【0044】
クランプ情報D5は、ワイヤハーネスWで用いられる前記クランプCの品番、ワイヤハーネスWに対する装着位置、性能、等の各種データを有している。性能データは、例えば、前記クランプCが相手部材に装着されたときに、何kgまで耐えることができるかの保持力、等のデータとなっている。そして、クランプ情報D5は、上記経路情報D1及び上記部品情報D4の少なくとも一方に関連付けられている。なお、前記クランプCは、公知であるように、ワイヤハーネスWに装着する装着部と、該装着部の外周面に一体に設けられて車体等の相手部材の挿入口に挿入される挿入部と、を有し、合成樹脂等によって形成されている。
【0045】
また、CPU11には、入力装置15、通信装置16、表示装置17等がバスBを介して接続されている。そして、入力装置15は、キーボード、マウス等を有しており、設計者等の操作に応じた入力データをCPU11に出力する。通信装置16は、LANカード、携帯電話用モデム等の通信機器を用いている。そして、通信装置16は、受信した情報をCPU11に出力するとともに、CPU11から入力された情報を指示された送信先に送信する。
【0046】
表示装置17は、周知である液晶ディスプレイ、CRT等の各種表示器が用いられる。そして、表示装置17は、CPU11の制御によって各種情報を表示する。つまり、表示装置17は、それらの各種情報に基づいて分岐レイアウトの設計を支援する各種画面を表示して、設計者の設計を支援する。
【0047】
次に、ワイヤハーネスWの枝線Wbの配置と届き距離との関係を、図7,8の図面を参照して以下に説明する。
【0048】
まず、図7に示すように、平面展開されたワイヤハーネスWの幹線Wmに直交する枝線Wbの一部の曲げポイントP1に着目する。枝線Wbに設けられた前記クランプCの移動範囲は、図7中の波線で示す設計上移動可能範囲R1となり、枝線Wbの長さLを半径とした略半円となっている。しかしながら、前記クランプCの製造時、枝線Wbはその剛性、構造、等によって製造角度θmと装着角度θeとの差がが大きくなるほど、枝線Wbを直線的に曲げることが困難になる。そのため、前記クランプCが実際に届く距離の範囲は、図7中の実線で示す実際移動可能範囲R2となり、設計上移動可能範囲R1よりも狭い移動範囲となっている。なお、製造角度θmは、製造時における幹線Wmに対する枝線Wbの角度を示している。
【0049】
平面展開された枝線Wbは、枝線Wbを装着角度θeだけ曲げる場合、設計上では直線状の設計経路Ldとなるが、実際の枝線Wbは直線状にはならずに、弓状に曲がって装着時経路Lrとして装着される。その結果、図8(a)に示すように、装着角度θeに応じた枝線Wbの届き距離を考慮すると、枝線Wbは設計上の長さである枝長Lにずらし距離dLを加味した長さ(L+dL)を設計する必要がある。これにより、図8(b)に示すように、枝線Wbを装着角度θeだけ曲げる場合、枝線Wbが撓んでも、前記クランプCを製造位置Pfから所望の装着位置Pmに曲げて位置付けることが可能となる。
【0050】
次に、図8に示す曲げポイントP1に対し、分岐する枝線Wbの装着性を測定した結果を以下に説明する。なお、装着性の一例としては、枝線Wbの操作力及び保持力と前記クランプCの挿入力とに着目している。操作力は、曲げ操作時に枝線Wbにかける力となっている。挿入力は、前記クランプCの挿入部を相手部材の挿入口に挿入する際に前記クランプCにかかる力となっている。そして、測定条件を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
今回の測定では、製造角度θmが90度で、装着角度θeが60度のときに、ずらし距離dLを前記装着位置Pmから相異なる3つのずらし距離dLの各々分だけずらして、操作力及び保持力と、挿入力との各々を測定している。そして、装着力の測定結果が図9のグラフであり、挿入力の測定結果が図10のグラフとなっている。図9,10のグラフの各々は、縦軸が力(Kg)、横軸が経過時間(秒)となっている。なお。図9,10中の横軸の時間は、製造角度θmから装着角度θeに曲げる操作を開始してからの経過時間であり、枝線Wb又は前記クランプCに対する操作力及び保持力の変化をそれぞれ示している。
【0053】
図9において、グラフG10はずらし距離dLが0mm、グラフG11はずらし距離dLが5mm、グラフG12はずらし距離dLが10mm、グラフG13はずらし距離dLが16mmをそれぞれ示している。そして、ずらし距離dLが0mmの場合、15秒を過ぎた頃から操作力が増大し、最大操作力の約3.5Kgとなった後に、約1Kgまで低下して安定する。即ち、ずらし距離dLが0mmの場合の保持力は約1Kgとなる。
【0054】
ずらし距離dLが5mmの場合、枝線Wb及び前記クランプCに対して操作しても、操作力は増加することなく約0.2Kgで一定となり、そのため、保持力も約0.1Kgのままであった。即ち、ずらし距離dLが5mmの場合の操作力及び保持力は0Kgに近いままであったことから、作業者は余計な力を枝線Wb及び前記クランプCに加えることなく、前記クランプCを相手部材の挿入口に挿入できる。
【0055】
ずらし距離dLが10mmの場合、13秒を過ぎた頃から操作力が逆方向で増大し、最大操作力の約−3.2Kgとなった後に、約−1Kgまで低下して安定する。即ち、ずらし距離dLが10mmの場合の保持力は約−1Kgとなる。同様に、ずらし距離dLが16mmの場合、12秒を過ぎた頃から操作力が逆方向で増大し、最大操作力の約−4.2Kgとなった後に、約−1.2Kgまで低下して安定する。即ち、ずらし距離dLが16mmの場合の保持力は約−1.2Kgとなる。
【0056】
図10において、グラフG20はずらし距離dLが0mm、グラフG21はずらし距離dLが5mm、グラフG22はずらし距離dLが10mm、グラフG23はずらし距離dLが16mmをそれぞれ示している。そして、ずらし距離dLが0mmの場合、15秒を過ぎた頃から挿入力が増大し、最大操作力の約−3.9Kgとなった後に、約−0.2Kgまで復帰して安定する。
【0057】
ずらし距離dLが5mmの場合、17秒を過ぎた頃から挿入力が増大し、最大操作力の約−1.3Kgとなった後に、0Kg近くまで復帰して安定する。そして、ずらし距離dLが10mmの場合、14秒を過ぎた頃から挿入力が増大し、最大操作力の約−3Kgとなった後に、約0Kgまで復帰して安定する。そして、ずらし距離dLが16mmの場合、12秒を過ぎた頃から挿入力が増大し、最大操作力の約−3.7Kgとなった後に、0Kg近くまで復帰して安定する。
【0058】
図9及び図10の各グラフから、製造角度θmが90度で装着角度θeが60度のときは、図9のグラフG11と図10のグラフG21に対応したずらし距離dLが5mmの場合が、作業者に対する作業負担が少ないと言える。よって、製造角度θmが90度で装着角度θeが60度のとき、枝線Wbのずらし距離dLは5mmに設定することが望ましい。
【0059】
従って、図11に示すように、操作力判定時間T1に対しては操作力判定範囲J1、保持力判定時間T2に対しては保持力判定範囲J2を、上述した図9に示す測定結果から予め各々設定する。なお、操作力判定時間T1は、上述した操作に応じて変化しているグラフG10〜13の時間帯を少なくとも含む範囲となっている。保持力判定時間T2は、上述したグラフG10〜13における操作後の保持時間帯を少なくとも含む範囲となっている。また、挿入力に対しては、図10に示す測定結果から挿入力判定範囲、判定閾値、等を判定条件として予め設定する。
【0060】
本実施形態では、グラフG10〜13の最大操作力に対応した操作力判定範囲J1及び保持力に対応した保持力判定範囲J2の各々を示す判定条件データを有する装着要件情報D3を、ワイヤハーネスWの種類、品番、等に対応させて予め作成して記憶装置14等に記憶している。なお、判定条件データは、範囲に限定するものではなく、例えば、閾値などとすることもできる。判定条件データは、操作力判定範囲J1又は保持力判定範囲J2を示すデータとすることもできる。
【0061】
このように装着要件情報D3の判定条件データを構成することで、分岐レイアウト設計支援装置10は支援対象のワイヤハーネスW又は製品に対応した複数種類の装着要件情報D3を記憶装置14等に記憶している。なお、装着要件情報D3の記憶場所は、分岐レイアウト設計支援装置10がアクセスできれば、例えば他のコンピュータの記憶媒体としても差し支えない。
【0062】
次に、上述したCPU11が分岐レイアウト設計支援プログラムPを実行したときの分岐レイアウト設計支援処理の一例を、図12のフローチャートを参照して以下に説明する。なお、説明を簡単化するために、設計を支援する分岐ポイントP1が図8中の1つの曲げポイントP1である場合について説明する。
【0063】
CPU11は、記憶装置14に記憶している分岐レイアウト設計支援プログラムPを実行すると、ステップS11(経路情報取得手段に相当)において、設計支援対象のワイヤハーネスWに対応した経路情報D1を記憶装置14等から取得してRAM13に記憶し、その後ステップS12の処理に進む。なお、設計支援対象のワイヤハーネスWは、表示装置17に入力画面、選択画面、等を表示させて、設計者等に入力、選択させる。
【0064】
CPU11は、ステップS12(部品情報取得手段に相当)において、設計支援対象のワイヤハーネスWに対応した部品情報D4を記憶装置14等から取得してRAM13に記憶し、その後ステップS13の処理に進む。そして、CPU11は、ステップS13(クランプ情報取得手段に相当)において、RAM13の経路情報D1から前記クランプCを特定し、該クランプCに対応したクランプ情報D5を記憶装置14等から取得してRAM13に記憶し、その後ステップS14の処理に進む。
【0065】
CPU11は、ステップS14(算出手段に相当)において、経路情報D1から支援対象とする分岐ポイントP1を抽出し、該分岐ポイントP1に対して複数種類の枝線Wbのずらし距離dL(例えば、0,5,10,16mmなどの所定ずらし位置、0〜16mmの所定範囲内を所定単位(例えば2mm)毎にずらした複数のずらし位置、等)を設定する。CPU11は、異なる複数の補正位置dLの各々に対し、経路情報D1に基づいて枝線Wbの経路と上記製造角度θmと装着角度θe、部品情報D4に基づいて枝線Wbの物性、クランプ情報D5に基づいて前記クランプCの性能をそれぞれ特定する。CPU11は、特定した値から操作力、保持力、挿入力を求める算出プログラムを実行し、算出した操作力、保持力、挿入力を各ずらし距離dLに関連付けてRAM13に記憶し、その後ステップS15の処理に進む。
【0066】
なお、前記算出プログラムは、例えば、枝線Wbの物性や前記クランプCの性能等から特定した値をパラメータとし、実験等に基づいて作成された複数のテーブルの中から、該パラメータに対応したテーブルを抽出して操作力、保持力、挿入力を求めるプログラムや、該パラメータに基づいて枝線Wbに対する操作力、前記クランプCの保持力や挿入力を模擬して操作力、保持力、挿入力等を求めるシミュレーションプログラムなどである。そして、前記算出プログラムは、図9及び図10に示すように、操作を開始してからの経過時間とそれに応じた力を操作力、保持力、挿入力として算出する。そして、本実施形態では、操作力、保持力を図11に示すようなグラフG14〜G16として求める場合について説明する。
【0067】
CPU11は、ステップS15(ずらし位置特定手段に相当)において、ずらし距離dLに対応したRAM13の操作力、保持力、挿入力と装着要件情報D3の判定条件データとを比較し、該比較結果を各ずらし距離dLに関連付けてRAM13に記憶する。より詳細には、CPU11は図11に示すグラフG14〜G16を複数のずらし距離dLの各々に対応させて求め、判別データが示す操作力判定時間T1で操作力判定範囲J1、保持力判定時間T2で保持力判定範囲J2にグラフG14〜G16が収まっているか否かを判定する。そして、CPU11は、操作力判定範囲J1及び保持力判定範囲J2の双方に収まるグラフ(図11中ではグラフG15)を特定すると、該グラフに関連付けられたずらし距離dLをずらし位置として特定し、その後ステップS16の処理に進む。
【0068】
CPU11は、ステップS16(許容公差範囲算出手段に相当)において、特定したずらし位置に対応した枝線Wbの曲げ角度許容公差範囲を算出する。より詳細には、図12に示すように、CPU11は装着位置P10と該装着位置P10からずらし距離dL分だけずらした最大ずらし位置P11と部品情報D4とに基づいて、幹線Wmに対する枝線Wbの曲げ角度許容公差範囲を算出し、該曲げ角度許容公差範囲を曲げポイントP1に関連付けて記憶装置14等に記憶し、その後ステップS17の処理に進む。
【0069】
曲げ角度許容公差範囲の算出方法の一例は、図13に示す曲げポイントP1に対し、幹線Wmを基準電線とし、布線板30上の枝線Wbの曲げ角度θとする場合について説明する。
【0070】
製造上の製造角度θmと装着上の装着角度θeとが異なることにより、ワイヤハーネスWの届く距離変化量は変化する。例えば、装着角度θeを約90度とする場合、届く距離変形量は0mmとなり、60,120度のときに約−4mmとなり、30,150度のときに約−20mmというように、装着角度θeが90度から離れるにつれて届く距離変形量が大きくなる。
【0071】
製造角度θmと装着上の装着角度θeとが異なる場合、曲げ対象電線である枝線Wbの届く距離は、曲げ対象電線のハーネス長と異なり、曲げ対象電線の長さより短くなる。それにより生じる誤差は経路設計の許容寸法公差より小さい場合、その寸法は合格となり、大きい場合、その寸法は不良となる。
【0072】
ずらし距離dLを枝線Wbの長さ許容公差と設定する場合、布線板30上の曲げ上限角度と曲げ下限角度と装着分岐角度に対する角度差と変形量誤差との関係から、曲げ角度許容公差範囲θrは、以下の式を用いて算出することができる。
曲げ角度許容公差上限=曲げ上限角度−装着分岐角度 …式1
曲げ角度許容公差下限=曲げ下限角度−装着分岐角度 …式2
曲げ角度許容公差範囲=曲げ角度許容公差上限−曲げ角度許容公差下限 …式3
そして、このような式1〜3の算出を行う曲げ角度許容公差範囲算出プログラムを分岐レイアウト設計支援プログラムPは有している。
【0073】
CPU11は、ステップS17(出力手段に相当)において、算出したずらし距離dL(枝線Wbの長さ許容公差)、曲げ角度許容公差範囲θr、曲げ角度許容公差上限θu、曲げ角度許容公差下限θbを表示して設計を支援するための図13に示す支援画面情報Gが生成され、該支援画面情報の表示が表示装置17に要求されることで、表示装置17に支援画面情報Gが表示され、その後処理を終了する。
【0074】
以上の説明からも明らかなように、CPU11が分岐レイアウト設計支援プログラムPを実行することで、請求項中の経路情報取得手段M1、部品情報取得手段M2、クランプ情報取得手段M3、算出手段M4、ずらし位置特定手段M5、許容公差範囲算出手段M6、出力手段M7、等の各種手段としてCPU11(コンピュータ)が機能することになる。また、複数の曲げポイントP1に対して設計を支援する場合、上述した図12中のステップS11〜S17の一連の処理を各曲げポイントP1に対して繰り返すことで、各曲げポイントP1に対する設計支援を行う。
【0075】
次に、上述した分岐レイアウト設計支援装置10の動作(作用)の一例を以下に説明する。
【0076】
ワイヤハーネスWの分岐レイアウトを設計する場合、分岐レイアウト設計支援装置10は設計者等によって起動される。分岐レイアウト設計支援装置10は、設計者に設計支援対象のワイヤハーネスWを識別するための識別情報等を入力させる。分岐レイアウト設計支援装置10は、当該識別情報等に対応した経路情報D1、製造情報D2、装着要件情報D3、部品情報D4、クランプ情報D5、等を収集する。
【0077】
分岐レイアウト設計支援装置10は、収集した各種情報から必要なパラメータ等を抽出し、該パラメータ等を用いて上記算出プログラムを実行することで、複数の曲げポイントP1の各々に対して、相異なる複数種類のずらし距離dLに対応した保持力、操作力を算出する。分岐レイアウト設計支援装置10は、算出した保持力、操作力と装着要件情報D3の判定条件データとを比較し、図11に示す操作力判定範囲J1及び保持力判定範囲J2の双方の判定条件を満たすグラフ、即ち、該グラフに対応したずらし距離dLを特定する。そして、分岐レイアウト設計支援装置10は、特定したずらし距離dLから枝線Wbの曲げ角度許容公差範囲Rsを算出する。そして、特定したずらし距離dLが複数存在する場合、分岐レイアウト設計支援装置10は最大のずらし距離dLに対応した曲げ角度許容公差範囲Rsに基づいて支援画面情報を作成し、該支援画像情報を設計者等に表示して支援するために表示装置17に出力する。
【0078】
以上説明した分岐レイアウト設計支援装置10によれば、前記クランプCの装着位置(固定位置)P10からずらした相異なる複数のずらし位置の中から、保持力及び操作力の少なくとも一方が判定条件を満たすずらし位置(最大ずらし位置)P11を特定し、該ずらし位置P11に対応した枝線Wbの曲げ角度許容公差範囲Rsを算出して、分岐レイアウトの設計を支援するようにしたことから、ワイヤハーネスWに対する前記クランプCの影響を考慮した枝線の曲げ角度許容公差範囲Rsを設計者等は参照することができるため、枝線Wbの長さや曲げ角度を正確に設計することができる。従って、平面展開したワイヤハーネスWを相手部材に装着するときに、枝線の前記クランプCが相手部材の取り付け穴に挿入できない、前記クランプCを取り付け穴に挿入するための作業者の負担が増加する、等の問題を解消することができるため、ワイヤハーネス2の装着時の作業効率の低下を防止すると共に、幹線Wmと枝線Wbとの分岐部分の負荷を低減させることができる。
【0079】
なお、上述した実施形態では、図11に示すように、操作力が操作力判定範囲J1、保持力が保持力判定範囲J2に収まるものを判定条件を満たしていると判定する場合について説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、例えば、操作力判定範囲J1のみ、保持力判定範囲J2のみの何れかに着目して判定を行うなど種々異なる実施形態とすることができる。
【0080】
また、上述した実施形態では、枝線Wbの操作力と前記クランプCの保持力とに着目して複数のずらし距離dLを判定する場合について説明したが、判定項目に上述した前記クランプCの挿入力の項目を追加することで、支援対象のワイヤハーネスWにより一層適した設計支援を行うことができる。
【0081】
また、上述した実施形態では、枝線Wbの操作力とクランプCの保持力を図11に示すように、グラフG14〜G16を求める場合について説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、種々異なる実施形態とすることができる。
【0082】
例えば、上述した操作力と保持力を、複数のずらし距離dLの各々に対応して実際に測定し、該測定データを幹線Wm、枝線Wb、クランプCの属性等に関連付けてデータベースとして蓄積する。そして、測定データは、保持力測定用、操作力用の力センサーを用いて実際に測定を行ったデータとする。また、幹線Wmの属性としては、長さLt、直径Dt、ヤング率Et、ポアソン比γt、装着位置Pt(Xt、Yt,Zt)、等が一例として挙げられる。枝線Wbとしては、長さLb、直径Db、ヤング率Eb、ポアソン比γb、装着位置Pb(Xb、Yb,Zb)、等が一例として挙げられる。クランプCの属性としては、サイズDc、装着位置Pc(Xc,Yc,Zc)、装着方向角度θc、最大許容反力Mc、等が一例として挙げられる。
【0083】
本実施形態では、測定した操作力及び保持力の測定データは、図5中の波線で示す測定情報DB1として、記憶装置14やネットワーク等を介してアクセス可能な記憶媒体に記憶する。測定情報DB1の一例としては、表2に示すように、枝属性、幹属性、クランプ属性、ずらし距離dLに対して、最大操作力Fmax、クランプ保持力Meを関連付けたデータ構造とする。なお、測定情報DB1を構成する測定データは、最大値の他に最小値、平均値などとしたり、上述したグラフG14〜G16等を示すデータとすることもできる。
【0084】
【表2】

【0085】
測定情報DB1の最大操作力Fmaxは、図11に示すように、枝線Wbを装着する際の操作力の最大値となっている。同様に、保持力Meは、クランプCが装着された状態で安定したときの保持力を示す値となっている。よって、このような構成の測定情報DB1とすることで、3つの属性とずらし距離をパラメータとして、それらに対応した最大操作力Fmaxと保持力Meを特定することが可能となる。
【0086】
このように上述した実施例は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0087】
10 分岐レイアウト設計支援装置
M1 経路情報取得手段
M2 部品情報取得手段
M3 クランプ情報取得手段
M4 算出手段
M5 ずらし位置特定手段
M6 許容公差範囲算出手段
M7 出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹線と該幹線から分岐する枝線とを有し且つ前記幹線から所望の曲げ角度で曲げられた前記枝線がクランプで相手部材に装着されるワイヤハーネスを、布線板に平面展開して製造するときの前記幹線と前記枝線の分岐レイアウトの設計を支援する分岐レイアウト設計支援装置において、
前記幹線と前記枝線の分岐経路及び前記クランプを固定する固定位置を示す経路情報を取得する経路情報取得手段と、
前記ワイヤハーネスの物性を示す部品情報を取得する部品情報取得手段と、
前記クランプの性能を示すクランプ情報を取得するクランプ情報取得手段と、
前記クランプの固定位置からずらした相異なる複数のずらし位置の各々に対応する前記クランプの保持力を、前記経路情報が示す前記枝線の経路と前記部品情報が示す前記枝線の物性と前記クランプ情報が示す前記クランプの性能とに基づいて算出する算出手段と、
前記算出手段が算出した保持力と前記ワイヤハーネスに対応して予め定められた判定条件とを比較して、該判定条件を満たすずらし位置を特定するずらし位置特定手段と、
前記ずらし位置特定手段が特定したずらし位置に対応した前記枝線の曲げ角度許容公差範囲を算出する許容公差範囲算出手段と、
前記許容公差範囲算出手段が算出した曲げ角度許容公差範囲を、前記分岐レイアウトの設計を支援するために出力する出力手段と、
を有することを特徴とする分岐レイアウト設計支援装置。
【請求項2】
前記算出手段が、前記クランプの固定位置からずらした相異なる複数のずらし位置の各々に対応する前記枝線の操作力を、前記経路情報が示す前記枝線の経路と前記部品情報が示す前記枝線の物性と前記クランプ情報が示す前記クランプの性能とに基づいて算出する手段であり、
前記ずらし位置特定手段が、前記算出した保持力及び操作力と前記判定条件とを比較して、前記判定条件を満たすずらし位置を特定する手段であることを特徴とする請求項1に記載の分岐レイアウト設計支援装置。
【請求項3】
前記ずらし位置特定手段が、前記判定条件を満たす複数のずらし位置の中から最大のずらし位置を特定する手段であり、
前記許容公差範囲算出手段が、前記最大のずらし位置に対応した曲げ角度許容公差範囲を算出する手段であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分岐レイアウト設計支援装置。
【請求項4】
前記算出手段が、前記クランプの保持力及び前記枝線の操作力の双方を算出する手段であり、
前記ずらし位置特定手段が、前記保持力及び前記操作力の双方と前記判定条件とを比較して、該判定条件を満たすずらし位置を特定する手段であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の分岐レイアウト設計支援装置。
【請求項5】
幹線と該幹線から分岐する枝線とを有し且つ前記幹線から所望の曲げ角度で曲げられた前記枝線がクランプで相手部材に装着されるワイヤハーネスを、布線板に平面展開して製造するときの前記幹線と前記枝線の分岐レイアウトの設計を支援する分岐レイアウト設計支援方法において、
前記幹線と前記枝線の分岐経路及び前記クランプを固定する固定位置を示す経路情報を取得する経路情報取得過程と、
前記ワイヤハーネスの物性を示す部品情報を取得する部品情報取得過程と、
前記クランプの性能を示すクランプ情報を取得するクランプ情報取得過程と、
前記クランプの固定位置からずらした相異なる複数のずらし位置の各々に対応する前記クランプの保持力を、前記経路情報が示す前記枝線の経路と前記部品情報が示す前記枝線の物性と前記クランプ情報が示す前記クランプの性能とに基づいて算出する算出過程と、
前記算出した保持力と前記ワイヤハーネスに対応して予め定められた判定条件とを比較して、該判定条件を満たすずらし位置を特定するずらし位置特定過程と、
前記特定したずらし位置に対応した前記枝線の曲げ角度許容公差範囲を、前記分岐レイアウトの設計を支援するために算出する許容公差範囲算出過程と、
前記算出した曲げ角度許容公差範囲を出力する出力過程と、
を有することを特徴とする分岐レイアウト設計支援方法。
【請求項6】
幹線と該幹線から分岐する枝線とを有し且つ前記幹線から所望の曲げ角度で曲げられた前記枝線がクランプで相手部材に装着されるワイヤハーネスを、布線板に平面展開して製造するときの前記幹線と前記枝線の分岐レイアウトの設計を支援する分岐レイアウト設計支援装置のコンピュータを、
前記幹線と前記枝線の分岐経路及び前記クランプを固定する固定位置を示す経路情報を取得する経路情報取得手段と、
前記ワイヤハーネスの物性を示す部品情報を取得する部品情報取得手段と、
前記クランプの性能を示すクランプ情報を取得するクランプ情報取得手段と、
前記クランプの固定位置からずらした相異なる複数のずらし位置の各々に対応する前記クランプの保持力を、前記経路情報が示す前記枝線の経路と前記部品情報が示す前記枝線の物性と前記クランプ情報が示す前記クランプの性能とに基づいて算出する算出手段と、
前記算出手段が算出した保持力と前記ワイヤハーネスに対応して予め定められた判定条件とを比較して、該判定条件を満たすずらし位置を特定するずらし位置特定手段と、
前記ずらし位置特定手段が特定したずらし位置に対応した前記枝線の曲げ角度許容公差範囲を算出する許容公差範囲算出手段と、
前記許容公差範囲算出手段が算出した曲げ角度許容公差範囲を、前記分岐レイアウトの設計を支援するために出力する出力手段と、
して機能させるための分岐レイアウト設計支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−22954(P2011−22954A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169786(P2009−169786)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】