説明

分散安定性の高いカーボンナノ粒子水性分散液、その製造方法及びカーボンナノ粒子分散膜材

【課題】カーボンナノ粒子が水性媒体中に分散し、かつ経時的に凝集、沈殿し難いナノカーボン水性分散液、及びその製造方法を提供する。また、成膜性に優れ、簡便な方法で基材に塗布することができ、基材への密着性に優れ、硬度が大きく、熱伝導性、電気伝導性が良好なナノカーボン分散被膜、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】(a)短径が1nm〜5μm、長径が0.5〜1000μmの繊維状、又は直径が1〜50nmの球状であるカーボンナノ粒子、(b)アルミナ水和物粒子、(c)水溶性の酸、及び(d)水を含有するカーボンナノ粒子水性分散液、及びこのカーボンナノ粒子水性分散液から得られるナノカーボン分散膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散安定の高いカーボンナノ粒子水性分散液、その製造方法及び前記カーボンナノ粒子水性分散液を用いて得られるカーボンナノ粒子分散膜材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明に関する先行技術文献は下記のとおりである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2004−534714号公報
【特許文献2】特開2005−213108号公報
【特許文献3】特開2005−035810号公報
【特許文献4】特表2004−531442号公報
【特許文献5】特開2002−265209号公報
【特許文献6】特表2003−505332号公報
【特許文献7】特開2003−300716号公報
【特許文献8】特開2006−248816号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chem. Phys. Lett., 342, 265 (2001)
【非特許文献2】NANO Letters, 3, 269 (2003)
【非特許文献3】Chem. Lett., 638 (2002)
【非特許文献4】Chem. Phys. Lett., 378, 481 (2003)
【非特許文献5】Chem. Lett., 36, 1140 (2007)
【非特許文献6】Carbon, 34, 279 (1996)
【0005】
カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、及びフラーレンなどは、直径が数ナノメートルから数百ナノメートルの範囲(サブミクロンオーダー)内にあるカーボンナノ粒子であって、これらは高い電気導電性、熱伝導性、機械的強度、可飽和吸収効果という光学非線形性などを有しているから、これらの特性を利用する機能性材料として、燃料電池、電極、電磁波シールド材、導電性樹脂、電界放出ディスプレー(FED)用部材、水素を始めとする各種ガスの吸蔵材料、高速光通信用デバイス、レーザー用デバイスなどのエレクトロニクス、エネルギー、及び医療など幅広い分野への利用が期待されている。
カーボンナノ粒子の前記機能は、一次粒子の状態で、効率的に発揮される。しかし、カーボンナノ粒子では、その粒径がナノオーダーであるため、ファンデルワールス引力が大きく作用して、極めて凝集し易く(二次凝集)、液体中に分散させようとしても容易ではない。特に、水性媒体中で、長期間安定に分散状態を保つことは困難であることが知られている。
分散媒としては、カーボンナノ粒子が発揮すべき機能を大きく低下させない限り、環境への負荷が小さく、安全性に優れている水を主成分とするものが好ましい。
そこで、カーボンナノ粒子を水性媒体に分散するために、いろいろな技術が検討されている。非特許文献1〜5及び特許文献1にはカーボンナノ粒子の一種であるカーボンナノチューブを、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ピレン誘導体、ポルフィリン誘導体、カテキンなどの界面活性剤を利用して水性媒体中に分散させることが提案されており、その他の分散剤としては、特許文献2にはシクロデキストリンなどの包接化合物を用いること、非特許文献1にはポリビニルピロリドンを用いること、特許文献3にはスチレン−メタクリル酸共重合体、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート−スチレン共重合体などの親水基と疎水基とを持つポリマーを用いること、特許文献4にはアルギン酸、キトサンなどの水溶性有機高分子などを用いることが開示されている。
しかしながら、ナノカーボン粒子の分散剤として、低分子の界面活性剤、シクロデキストリン、又は水溶性有機高分子を使用した場合には、カーボンナノ粒子の分散性はある程度向上するけれども、再凝集や沈殿を生ずる場合があり、経時安定性が不十分という問題点があった。
【0006】
また、カーボンナノ粒子の表面に親水性を付与することにより、水性媒体への分散性を向上させようとする検討もなされている。例えば非特許文献6及び特許文献5,6には酸化剤による処理、特許文献7にはプラズマ処理によりカーボンナノ粒子の表面に親水性を付与し、水性媒体への分散性を向上させる技術も開示されている。
しかしながら、カーボンナノ粒子の表面を改質する方法には処理条件の調節が難しいこと、カーボンナノ粒子の有する特性を阻害する場合があること、操作が煩雑であること、及び高価な設備を必要とすることなどの問題があった。
【0007】
一方、無機物を添加してカーボンナノ粒子の分散性を向上させる技術については、ほとんど知られていないが、特許文献8には金属アルコキシドなど金属酸化物前駆体を含むカーボンナノチューブ可溶化剤が開示されている。しかしながら、金属アルコキシドなど金属酸化物前駆体は加水分解され易く不安定であり、水性媒体には適用し難いという問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水性媒体中にナノカーボン粒子が経時的凝集・沈殿を生ずることなく、またその特性を損うことなく安定に分散しているカーボンナノ粒子水性分散液及びそれを工業的に安価に製造する方法並びに前記カーボンナノ粒子分散液を用いて得られる膜材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明において、「カーボンナノ粒子」とは1nm〜5μmの太さと、0.5〜1000μmの長さを有する繊維状の、又は、1〜50nm粒径を有する粒状のカーボン粒子を意味し、例えば、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ及びフラーレンなどを包含する。
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、カーボンナノ粒子を、水性媒体中において、アルミナ水和物粒子と水溶性の酸とを併存させることにより、カーボンナノ粒子が経時的に凝集、沈殿し難い水性分散液が得られ、さらに、それを薄膜状に展開し固化することにより、カーボンナノ粒子の分散膜が容易に得られることを見出し、この知見に基づき本発明を完成した。
【0011】
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液は、(a)1nm〜5μmの太さと、0.5〜1000μmの長さとを有する繊維状の、又は1〜50nmの粒径を有する粒状のカーボンナノ粒子が、(b)アルミナ水和物粒子及び(c)水溶性酸の存在下に、(d)水性媒体中に、安定に分散していることを特徴とするものである。
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液において、前記カーボンナノ粒子は、10〜500nmの太さと、1〜100μmの長さを有する繊維状のものであることが好ましい。
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液において、さらに(e)シランカップリング剤を含有していてもよい。
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液において、前記シランカップリング剤(e)は1個以上のエポキシ基を有するものが好ましい。
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液において、前記シランカップリング剤(e)とともに、(f)シランカップリング剤の縮重合用触媒をさらに含んでいてもよい。
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液において、前記水性媒体(d)が水とともに少なくとも1種の水溶性有機溶媒を含んでいてもよい。
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液において、前記水溶性有機溶媒は、1〜4個の炭素原子を有する脂肪族アルコールから選ばれることが好ましい。
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液において、前記カーボンナノ粒子(a)が、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、及びフラーレン粒子から選ばれた少なくとも1種含むことが好ましい。
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液において、前記カーボンナノ粒子(a)がカーボンナノチューブであることが、更に好ましい。
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液において、前記カーボンナノ粒子(a)はその表面部に露出した親水性基を有していてもよい。
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液において、前記アルミナ水和物粒子(b)が、1〜5000nmの平均粒子径を有するベーマイト粒子及び擬ベーマイト粒子から選ばれた少なくとも1種を含むものであることが好ましい。
本発明方法は、前記カーボンナノ粒子水性分散液を製造するために、1nm〜5μmの太さと、1〜1000μmの長さとを有する繊維状の、又は0.7〜20nmの粒径を有する粒状のカーボンナノ粒子(a)からなる粉体を、アルミナ水和物粒子(b)及び水溶性酸(c)を含む水性媒体(d)中に添加し、これに分散処理を施すことを特徴とするものである。
本発明のカーボンナノ粒子分散膜は、前記カーボンナノ粒子水性分散液を基材に塗布し、固化することにより形成されたものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカーボンナノ粒子分散液は、高い分散安定性を有していて、カーボンナノ粒子の凝集及び沈澱がなく、又は少なくかつすぐれた皮膜形成性を有し、本発明方法は、前記カーボンナノ粒子水性分散液を容易に製造することができ、また、本発明のカーボンナノ粒子分散膜は、すぐれた成膜性と導電性を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液は、(a)カーボンナノ粒子が、(b)アルミナ水和物粒子及び(c)水溶性の酸の存在下に、(d)水中に安定に分散しているものである。
【0014】
カーボンナノ粒子(a)
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液に用いられるカーボンナノ粒子は、1nm〜5μm、好ましくは10nm〜500nmの太さと、0.5〜1000μm、好ましくは1〜100μmの長さとを有する繊維状の、又は、1〜50nmの、好ましくは3〜20nmの、粒径を有する粒状のカーボン粒子である。上記のような繊維状カーボンナノ粒子は、カーボンナノチューブ、金属などの特定物質を内包しているカーボンナノチューブ、カーボンナノホーン(一方の端部から他端部に向って、その太さ(直径)が連続的に増大しているホーン状形状体)、カーボンナノコイル(コイル状弯曲体)、カップスタック型カーボンナノチューブ(カップ形状のグラファイトシートの重積体)、カーボンナノファイバー、及びカーボンナノワイヤ(カーボンチューブの中心に炭素鎖を有するもの)などを包含し、粒状カーボンナノ粒子は、フラーレン球状粒子及びカーボンナノオニオン(フラーレンの周りに複数のグラファイト層が同心円状に重なり、閉殻構造を有しているもの)などを包含する。
本発明において、カーボンナノファイバーとは、太さが100〜500nmの繊維状粒子を呼称するものであり、太さが100nm未満の繊維状カーボンナノ粒子を、カーボンナノチューブと呼称する。
本発明において、カーボンナノ粒子を構成するグラファイト層は単層であってもよく、また多層であってもよい。
本発明において、好ましいカーボンナノ粒子は、カーボンナノチューブ(本発明において、単層カーボンナノチューブを、SWNTsと記し、多層カーボンナノチューブをMWNTsと呼称することがある)、カーボンナノファイバー及びフラーレンから選ばれた少なくとも1種からなるものであることが好ましく、より好ましくは、カーボンナノチューブである。カーボンナノチューブには、分散し易いという長所が認められる。
【0015】
本発明に用いられるカーボンナノ粒子の製造方法には全く制限がなく、例えば、アーク放電法、レーザーアブレーション法、又はCVD法により合成されたカーボンナノチューブ、気相成長法により合成されたカーボンナノファイバー、並びにプラズマ法、アーク放電法などで合成されたフラーレンなどは、いずれも本発明のカーボンナノ粒子として使用される。
【0016】
また、本発明に用いられるカーボンナノ粒子の種類及びカーボンナノ粒子水性分散液の用途に応じて、当該カーボンナノ粒子の分散性を向上させるために、粒子の表面部に、親水性基を導入する改質を施してもよい。親水性基としては、ヒドロキシル基(フェノール性ヒドロキシル基を包含する)、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、及びアミノ基などをあげることができる。カルボキシル基は、導入が、比較的容易であるため、カルボキシル基を、カーボンナノ粒子の表面部に導入することが好ましい。カルボキシル基の導入には、酸化剤で、カーボンナノ粒子を処理する方法(例えば、硝酸などのように、酸化性を有する酸による処理、過酸化水素による処理、又は、二酸化炭素、酸素、オゾン、又は窒素酸化物などの気相酸化剤により処理する方法など)及び、プラズマ処理による酸化法などの既知方法を用いることができる。
【0017】
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液中のカーボンナノ粒子の含有率は、カーボンナノ粒子の、粒子の大きさ、形状、単層か多層か、粒子表面の官能基の種類、及び量、並びに、他の成分の種類、量などに応じて適宜に設定することができるが、水性分散液の全質量に対して0.0001〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜5質量%である。カーボンナノ粒子の含有量が0.0001質量%未満の場合、得られる水性分散液の特性が不十分になることがあり、またそれが20質量%を超えるとカーボンナノ粒子が凝集したり沈殿するという不都合を生ずることがある。
【0018】
アルミナ水和物粒子(b)
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液に含まれるアルミナ水和物粒子は、カーボンナノ粒子を水性媒体中に安定に分散させる作用、すなわち分散安定化作用を有する。
本発明において用いられるアルミナ水和物粒子は、ギブサイト、バイヤライト、ベーマイト、擬ベーマイト、及び無定形アルミナ水和物から選ばれた1種以上を含むものである。これらのなかで、ベーマイト及び擬ベーマイトを用いることが好ましい。ベーマイトは、組成式Al23・nH2O(n=1〜1.5)で表されるアルミナ水和物の結晶体粒子であり、擬ベーマイトは、ベーマイトのコロイド状凝集体粒子である。
【0019】
本発明に用いられるベーマイト及び擬ベーマイトは、1〜5000nmの範囲内の平均粒子径を有することが好ましく、より好ましくは、5〜20nmである。ベーマイト及び擬ベーマイトの粒子形状に格別の制限はないが、例えば、板状体(アスペクト比(=長径/短径)が1〜10未満の範囲にある粒体)、粒状体(アスペクト比=10以上〜100未満)針状体(アスペクト比=100以上〜3000)、紡錘形体及び球状体などを用いることができる。好ましくは、平均粒子径が5〜100nmであり、かつアスペクト比が1〜10未満である板状ベーマイト及び擬ベーマイトが用いられる。
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液中に含まれるアルミナ水和物粒子の含有量は、水性分散液の全質量に対して、0.1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは1.0〜15質量%であり、カーボンナノ粒子の質量に対して1〜500質量倍であることが好ましく、より好ましくは50〜200質量倍である。本発明のカーボンナノ粒子水性分散液において、アルミナ水和物粒子の含有量が、カーボンナノ粒子含有質量に対して、1質量倍未満であると、カーボンナノ粒子に対する分散安定化効果が不十分になることがあり、また、それが500質量倍を超えると、その効果が飽和するのみならず、導電性などのカーボンナノ粒子の特性が失われるという不都合を生ずることがある。
【0020】
水溶性の酸(c)
本発明に用いられる水溶性酸は一価の酸であることが好ましく、一価の無機酸、例えば塩酸及び硝酸、及び一価の有機酸、例えば蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などを用いることが好ましい。
水溶性酸の使用量は、アルミナ水和物粒子1モルに対して0.001〜2.0モルの範囲にあることが好ましく、より好ましくは、0.01〜1.8モルである。本発明のカーボンナノ粒子水性分散液中の前記水溶性酸の含有量が、0.001モル未満の場合、得られる水性分散液中のカーボンナノ粒子の分散安定性が不十分になることがあり、またそれが2.0モルを超えると、得られる水性分散液の粘度安定性が不十分になり、特に、アルミナ水和物粒子の含有率が高くかつ水溶性酸の含有量が2.0モルを超える場合には、得られる水性分散液がゲル化することがある。
【0021】
水性分散媒(d)
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液の分散媒は主成分として水を含むものであり、水のみであってもよく、或は、水溶性の、好ましくは20℃において所望濃度の水溶性を示す有機溶剤と水との混合物であってもよい。水としては、純水、超純水、蒸留水、イオン交換水など、いずれも用いることができるが、イオン交換水が好ましい。また、水溶性有機溶媒としては、一価の脂肪族アルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルなど;多価アルコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなど;ケトン類、例えばアセトンなど、低級カルボン酸類、例えば蟻酸、酢酸など;環状エーテル類、例えばテトラヒドロフランなど;並びに非プロトン性極性溶剤、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、N−アセチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどを包含する。
これらの水溶性有機溶媒の中でも、1〜4個の炭素原子を有する一価の脂肪族アルコール類は取り扱いが容易であり、及び環境負荷が小さく、比較的安全性も高いなどの特性を有するので、本発明の水溶性有機溶媒として特に好ましいものである。またナノカーボン水性分散液に後記する(d)シランカップリング剤を含有させる場合は、水溶性有機溶媒を含むことが好ましく、この場合にも、炭素原子数1〜4の一価アルコールを含むことがより好ましい。
水溶性有機溶媒はカーボンナノ粒子の分散に悪影響を及ぼさない範囲で含有させることができるが、分散媒全体の質量に対する水溶性有機溶媒の割合は、1〜50質量%の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは1〜35質量%である。
【0022】
シランカップリング剤(e)
本発明のナノカーボン水性分散液から、成膜性が良好で、導電性などに優れるナノカーボン分散膜を得る場合には、シランカップリング剤が含有されていることが好ましい。
シランカップリング剤とは、加水分解性基、及び有機化合物との反応性や相互作用を有する炭素官能基を有する有機ケイ素化合物であって、例えば、下記一般式(1)により表される有機ケイ素化合物である。
【化1】

ただし、式(1)中、R1はエポキシ基、エポキシシクロヘキシル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、メルカプト基、置換基を有している、又は有していないアミノ基、或は水酸基を表し、R2、R3、R4は、それぞれ互に独立に、炭素原子数1〜6の鎖状のアルキル基、フェニル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、又は炭素原子数1〜6のハロゲノアルキル基を表し、Xは下記一般式(2)(但し、式(2)中のm+nは0〜6の整数を表す)により表される2価の有機基である。
−(CH2m− または −(CH2m−O−(CH2n− (2)
【0023】
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液に用いられるシランカップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0024】
本発明のナノカーボン水性分散液中に含まれたとき、良好な安定性を示すシランカップリング剤としては、反応性官能基としてエポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基を有するシランカップリング剤を用いることが好ましく、これらの中では、エポキシ基を有するシランカップリング剤がさらに好ましく、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
本発明のナノカーボン水性分散液に含まれるシランカップリング剤の含有率は、水性分散液の全質量に対して0.1〜20質量%の範囲内にあることが好ましく、1.0〜15質量%であることがより好ましい。
シランカップリング剤の含有率が0.1質量%未満の場合、または20質量%を超える場合には、得られるカーボンナノ粒子分散膜の成膜性、導電性などの所要性能が不十分になるなどの不都合を生ずることがある。
【0025】
シランカップリング剤の縮重合触媒(f)
本発明のナノカーボン水性分散液から、成膜性が良好で、導電性などに優れるナノカーボン分散膜を得る場合には、シランカップリング剤(e)とともにさらに、シランカップリング剤縮重合触媒(f)を含有することが好ましい。
シランカップリング剤の縮重合触媒としては、カルボン酸の金属塩、例えばアルキルチタン酸塩、オクチル酸錫およびジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジマレートなど;アミン類、例えばN−(2−アミノエチル)エタノールアミン、テトラエチルペンタミンなど;アミノ基含有シランカップリング剤、例えばN−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランなど;酸類、例えば、p−トルエンスルホン酸、フタル酸、塩酸など;アルミニウム化合物、例えばアルミニウムアルコキシド、アルミニウムキレートなど;アルカリ触媒、例えば水酸化カリウムなど;チタニウム化合物、例えばテトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、チタニウムテトラアセチルアセトネートなど;ハロゲン化シラン、例えばメチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルモノクロロシランなどが挙げられる。上記シランカップリング剤用縮重合触媒(f)は単一種のみからなるものであってもよく、また複数種の混合物であってもよい。
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液中のシランカップリング剤縮重合触媒の含有量は、シランカップリング剤質量に対して、0.1〜5.0質量%の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは0.5〜3.0質量%である。
【0026】
他の成分(g)
本発明のナノカーボン水性分散液には、カーボンナノ粒子の分散に悪影響を及ぼさない限り、必要に応じて、他の分散剤が含まれていてもよい。
他の分散剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、非イオン性水溶性有機高分子、両性界面活性剤、両性水溶性有機高分子、各種の水溶性有機高分子分散剤、有機高分子カチオン、シクロデキストリン(など)などを挙げることができる。これら分散剤のなかでは、非イオン界面活性剤、非イオン性水溶性有機高分子、両性界面活性剤、両性水溶性有機高分子、カチオン界面活性剤、及び有機高分子カチオンがより好ましく、非イオン界面活性剤、非イオン性水溶性有機高分子、両性界面活性剤、及び両性水溶性有機高分子がさらに好ましい。
【0027】
本発明では、非イオン界面活性剤、非イオン性水溶性有機高分子とは、当該界面活性剤又は当該水溶性有機高分子と水のみからなる溶液又は分散液中では、実質的にイオンとして溶解又は分散していない界面活性剤、水溶性有機高分子を指している。同様に、アニオン界面活性剤、有機高分子アニオンとは、アニオンとして溶解又は分散しているものを指し、カチオン界面活性剤、有機高分子カチオンとは、カチオンとして溶解又は分散しているものを指す。両性界面活性剤、両性水溶性有機高分子とは、同一分子中に酸性及び塩基性の解離基を有し、当該界面活性剤又は当該水溶性有機高分子と水のみからなる溶液又は分散液中では、同一分子でアニオン部位とカチオン部位を有する状態で溶解又は分散している界面活性剤、水溶性有機高分子を指している。
【0028】
アニオン界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムなどの胆汁酸類、ポルフィリン誘導体などが例示できる。
【0029】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、脂肪酸アルカノールアミド類、脂肪酸モノグリセライド類、脂肪酸ソルビタンエステル類、アルキルポリグルコシド類、サポニン類、カテキンなどが例示できる。
【0030】
カチオン界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩類、ジアルキルジメチルアンモニウム塩類、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩類、ピレン誘導体などが例示できる。
【0031】
両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミンオキシド類、アルキルカルボキシベタイン類、アルキルスルホベタイン類、ホスホコリン誘導体、ホスファチジルコリン誘導体、ホスファチジルエタノールアミン誘導体などが例示できる。
【0032】
水溶性有機高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、多糖類などの非イオン性水溶性高分子;ポリアクリル酸ナトリウム、スチレン−メタクリル酸共重合体、アクリル酸アルキルエステル−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸フェニルエステル−メタクリル酸共重合体、アルギン酸、ヒアルロン酸などの高分子アニオン;N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート−スチレン共重合体、N,N−ジメチルアミノアクリルアミド−スチレン共重合体、N−ビニルピロリドン−スチレン共重合体、キトサンなどの高分子カチオン;N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、N,N−ジメチルアミノメタクリルアミド−メタクリル酸共重合体、ポリペプチド、DNAなどの両性高分子を挙げることができる。
【0033】
また、本発明のカーボンナノ粒子水性分散液には、カーボンナノ粒子の分散に悪影響を及ぼさない範囲で、必要に応じて塩、pH調整剤、防腐剤、粘度調整剤、消泡剤、増粘剤、硬化触媒などが含まれていてもよい。
【0034】
ナノカーボン水性分散液の製造方法
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液は、アルミナ水和物粒子の水性分散液(本発明では、アルミナゾルと呼称することがある)にカーボンナノ粒子を分散させる方式、カーボンナノ粒子及びアルミナ水和物粒子を水性媒体に分散させる方式、その他の任意の方式により製造することができるが、好ましくは、アルミナゾル中にカーボンナノ粒子を分散させる方式が用いられる。
アルミナゾルを使用する場合は、各種市販品(例えば商標「アルミゾル」、川研ファインケミカル(株)製など)を利用することができる。
アルミナ水和物粒子を使用する場合は、各種市販品(例えば商標「DISPERAL」、Sasol Limited製など)を利用することができる。
カーボンナノ粒子、アルミナ水和物粒子、水溶性の酸、水性媒体の量がそれぞれ前記した割合になるように、各成分を混合、分散する。
本発明のナノカーボン水性分散液に、シランカップリング剤、シランカップリング剤縮重合触媒、及び/又は水溶性有機溶媒などを含有させる場合は、それぞれ前記の所定量を、適宜、添加する。
【0035】
分散媒中に分散質を混合、分散させる方法、例えばアルミナ水和物水性分散液にカーボンナノ粒子を分散させる方法には特に限定はないが、例えばナノマイザー、アルティマイザー、超音波分散機などによるメディアを使用しない分散方法、ボールミル、サンドグラインダー、ダイノミル、スパイクミル、DCPミル、バスケットミル、ペイントコンディショナーなどによるメディアを使用する湿式分散法、二本ロールミル、三本ロールミル、バンバリーミキサー、2軸ルーダー、ニーダーなどによる混練法などを用いることができる。
また、回転数を10,000rpm以上にできる攪拌装置による高速攪拌処理を併用することが好ましい(特開2008−195563号公報)。
【0036】
これら分散機、攪拌装置を使用し、周波数、メディア粒子径、時間、流量、回転数、圧、温度などを適宜選択することにより、粒子径を調節することができる。
また、必要に応じて、前記した分散機、攪拌装置などにより、二次凝集を解き、粒子径を調節する処理(解砕処理)を施したカーボンナノ粒子やアルミナ水和物粒子を使用してもよい。
カーボンナノ粒子の場合、酸化剤の存在下でマイクロ波を照射する(特開2007−055863号公報)など、前記した表面改質と解砕処理を同時に行ってもよい。
さらに、必要に応じて、分散処理後の液を、遠心分離又はろ過することにより、粗大粒子を除去して、更に粒子径の小さなナノカーボンからなる分散液とすることもできる。
【0037】
カーボンナノ粒子分散膜の製造方法
本発明のカーボンナノ粒子水性分散液を用い、これを薄膜状に展開し、固化して、カーボンナノ粒子分散液を製造することができる。また、カーボンナノ粒子水性分散液を基材の所望表面上に塗布して、薄膜状に展開し、乾燥により固化して、基材表面上にカーボンナノ粒子含有分散膜を形成することができる。
カーボンナノ粒子分散膜を形成するための基材としては、所望膜体が形成される限り格別の制限はないが、セラミックス材料、例えばガラス、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなど;金属材料例えば;シリコン、アルミニウム、鉄、ニッケル材料など、及び熱可塑性樹脂材料、例えばアクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルニトリル、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリエーテルイミドなどを用いることができる。
【0038】
基材の形状についても、カーボンナノ粒子分散膜の形成が可能である限り格別の制限はないが、例えば、フィルム、シートなどの膜状のもの(繊維から形成される織物や不織布も含む);膜状以外の成形体;及び粉粒体などが挙げられる。カーボンナノ粒子分散膜の密着性を向上させるために、基材表面をコロナ放電処理又はプラズマ放電処理してもよい。
塗布するナノカーボン水性分散液の粘度、所望する被膜の形状、大きさにより、各種の一般的な塗布方法が採用できる。塗布方法としては、流涎・浸漬法、ドクターブレードコート法、ナイフコート法、バーコート法、スピンコート法、グラビアコート法、スクリーンコート法、スプレーによる噴霧法などが挙げられる。
ナノカーボン水性分散液を基材に塗布後、残留する水などの分散媒を除去するために、被塗物を加熱処理する。ナノカーボン水性分散液、基材の種類、加熱雰囲気、さらに被膜形性により付与しようとする機能によっても、加熱処理温度は異なる。基材がセラミックスや金属の場合は100〜1000℃の範囲で、熱可塑性樹脂の場合は20〜250℃の範囲で、カーボンナノ粒子や基材が変質しない温度が好ましい。
カーボンナノ粒子分散膜の膜厚は、0.01〜100μmの範囲内にあることが好ましく、更に好ましくは0.1〜50μmである。
【0039】
カーボンナノ粒子分散膜は、基材上に固着されてもよいし、基材から剥離されてもよい。基材上に固着されたカーボン粒子分散膜は、基材に導電性、熱伝導性、電磁波吸収性などの作用効果を付与することができる。
【実施例】
【0040】
本発明を、下記実施例によりさらに説明する。
(1)下記実施例及び比較例において、カーボンナノ粒子分散液調製のための高速攪拌処理は、家庭用ミキサー(品番:SM−R22、メーカー:三洋電機(株))を用いて行った。
(2)カーボンナノ粒子分散液の基材への塗布には、簡易型引張圧縮試験機(商標:“プッシュプルスタンド”、型式:SV−3、メーカー:、(株)今田製作所)を利用して、浸漬法により所定の基材へ塗布した。
(3)調製したナノカーボン水性分散液の状態は、目視により、凝集、沈殿の有無について経時的に観察した。分散液の状態は、凝集、沈殿がない状態が1カ月以上継続するものを○、1〜3週間継続するものを△、分散液を調製した翌日までに凝集、沈殿が発生するものを×と表示した。
基材上に形成したナノカーボン分散膜の状態については、目視により観察評価した。
(4)ナノカーボン分散膜の表面抵抗率は、抵抗率計(商標:“LORESTA−IP”、型式:MCP−T250、メーカー:三菱化学(株))を使用して、4探針法(電極間距離:5mm、温度:25℃、湿度:15%RII)により測定した。
【0041】
実施例1
カーボンナノ粒子として、多層カーボンナノチューブ(MWNTsと記す)を用いた。このMWNTsは、Xiamen大学製であって、短径:20〜80nm、長径:1〜100μm、G/D比:1.1を有するものであった。上記G/D比とは供試のカーボンナノ粒子をラマン分光スペクトル測定に供したとき、黒鉛の結晶構造に由来して、1585cm-1付近に観測されるGバンドのピークトップの高さと、黒鉛の結晶構造の乱れ及び格子欠陥に由来して1350cm-1付近に観測されるDバンドのピークトップ高さの比を示すものである。
MWNTs 0.25gを、250gの水性アルミナゾル(アルミナ水和物粒子として、擬ベーマイト粒子(粒径:5〜20nm)10質量%と硝酸0.7質量%とを含む)に混合し、家庭用ミキサー(回転数:11850rpm)で5分間攪拌した。カーボンナノ粒子水性分散液を調製した。
得られたカーボンナノ粒子水性分散液を室温において2週間放置したが、沈澱及び凝集がないことが確認された。但し、放置3週間後に、沈澱及び凝集の発生が認められた。
上記カーボンナノ粒子分散液を透明ガラス基板上にデップコート(ガラス板の引上げ速度:557mm/min)し、寸法2.6cm×4.2cmのカーボンナノ粒子分散液膜を形成し、それを、空気雰囲気内において、温度120℃で15分間乾燥し、これを空気雰囲気中、300℃で15分間の焼成を施した。得られたカーボンナノ粒子分散膜は、透明褐色であって、2.6cm×4.2cm×300nmの寸法を有し、かつ104〜106Ω/□の表面抵抗率を有していた。
【0042】
実施例2
実施例1と同様にして、カーボンナノ粒子水性分散液及びカーボンナノ粒子分散膜を製造した。但し、予じめ、155gの水性アルミナゾル中に、15.5gの3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランと、0.25gのN−(2−アミノエチル)エタノールアミンと、0.25gの、76質量%アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)を含む2−プロパノール溶液と、56gのメタノールとを混合して、アルミニウム水和物粒子と、シランカップリング剤と、2種の縮重合触媒と、有機溶剤とを含む分散液を調製し、この分散液に、0.25gのMWNTs(Xiamen大学製)を添加して、カーボンナノ粒子水性分散液を調製した。
上記カーボンナノ粒子水性分散液は、室温で1ヶ月間の放置の後、沈澱、凝集が生じないことが確認された。また上記カーボンナノ粒子水性分散液から形成されたカーボンナノ粒子分散膜の表面抵抗率は108Ω/□であった。
【0043】
実施例3
実施例2と同様にしてカーボンナノ粒子水性分散液及びカーボンナノ粒子分散膜を製造した。但し、前記水性分散液の調製において、MWNTsの添加量を2.5gに変更した。得られたカーボンナノ粒子水性分散液については、室温で1ヶ月の放置後において、沈澱及び凝集の発生がないことが確認された。また焼成後のカーボンナノ粒子分散膜の表面抵抗率は104〜106Ω/□であった。
【0044】
実施例4
実施例2と同様にして、カーボンナノ粒子水性分散液及びカーボンナノ粒子分散膜を製造した。但し、カーボンナノ粒子水性分散液の調製において、MWNTsの添加量を2.5gに変更し、さらに、エタノール135gを追加した。得られたカーボンナノ粒子水性分散液については、室温において1ヶ月の放置によっても、沈澱及び凝集が生じないことが確認された。
またカーボンナノ粒子分散膜の製造において、前記分散液中にガラス基板のデップコートにおける引上げ速度を、58mm/minに変更した。焼成後のカーボンナノ粒子分散膜の表面抵抗率は、103〜104Ω/□であった。
【0045】
実施例5
実施例1と同様にしてカーボンナノ粒子水性分散液及びカーボンナノ粒子分散膜を製造した。但し、カーボンナノ粒子水性分散液の調製において、0.25gのγ−シクロデキストリン(商標:CAVAMAX(R)W8 Food、シクロケム社製)を追加した。得られたカーボンナノ粒子水性分散液について、室温、1ヶ月の放置後においても沈澱、凝集が発生しないことが確認された。また焼成後のカーボンナノ粒子分散膜の表面抵抗率は108Ω/□であった。
【0046】
実施例6
実施例4と同様にしてカーボンナノ粒子水性分散液及びカーボンナノ粒子分散膜を製造した。但し、カーボンナノ粒子水性分散液の調製において、MWNTsを、濃硝酸で80℃、24時間還流したMWNTsに変更した。得られたカーボンナノ粒子水性分散液については、室温で1ヶ月の放置後において、沈澱及び凝集の発生がないことが確認された。
また、作製したカーボンナノ粒子分散膜の表面抵抗率は、106Ω/□であった。
【0047】
実施例7
実施例4と同様にしてカーボンナノ粒子水性分散液及びカーボンナノ粒子分散膜を製造した。但し、カーボンナノ粒子水性分散液の調製において、MWNTsをVGCF−H(登録商標、昭和電工(株)製、短径:100〜150nm、長径:10〜20μm、G/D比:>10)に変更した。得られたカーボンナノ粒子水性分散液については、室温で1ヶ月の放置後において、沈澱及び凝集の発生がないことが確認された。
また、作製したカーボンナノ粒子分散膜の表面抵抗率は、104Ω/□であった。
【0048】
実施例8
実施例4と同様にしてカーボンナノ粒子水性分散液及びカーボンナノ粒子分散膜を製造した。但し、カーボンナノ粒子水性分散液の調製において、MWNTsを、特開2004−261771号公報に記載されている方法により製造したMWNTs(短径:20〜40nm、長径:1〜3μm、G/D比:1.1)に変更した。得られたカーボンナノ粒子水性分散液については、室温で1ヶ月の放置後において、沈澱及び凝集の発生がないことが確認された。
また、作製したカーボンナノ粒子分散膜の表面抵抗率は、106Ω/□であった。
【0049】
比較例1
実施例1と同様にしてカーボンナノ粒子水性分散液を製造した。但し、前記水性アルミナゾルの代りに、イオン交換水を用いた。得られたカーボンナノ粒子水性分散液は、室温1日間の放置の後にMWNTs粒子の沈澱が認められた。
またこのカーボンナノ粒子水性分散液から、実施例1と同様にしてカーボンナノ粒子分散膜を作製した。得られたカーボンナノ粒子分散膜は1010Ω/□以上の高い表面抵抗率を示した。
【0050】
比較例2
実施例1と同様にしてカーボンナノ粒子水性分散液を調製した。但し、前記水性アルミナゾルの代りに、γ−シクロデキストリン(商標:CAVAMAX(R)W8 Food、シクロケム社製)を用いた。この水性分散液は、室温1ヶ月の放置後に、沈澱及び凝集を示さなかった。この水性分散液から、実施例1と同様にしてカーボンナノ粒子分散膜の形成を試みたが、成膜できなかった。
【0051】
比較例3
実施例1と同様にして、カーボンナノ粒子水性分散液を調製した。但し、前記水性アルミナゾルの代りに、ポリエチレングリコール(平均分子量:1800)を用いた。得られたカーボンナノ粒子水性分散液は、室温2週間の放置後に、カーボンナノ粒子の凝集が認められた。
上記カーボンナノ粒子水性分散液から、実施例1と同様にして、カーボンナノ粒子分散膜を形成した。焼成後のカーボンナノ粒子分散膜は、1010Ω/□以上の高い表面抵抗率を示した。
【0052】
実施例1〜8及び比較例1〜3のカーボンナノ粒子分散液の組成(成分含有率は質量%で示す)及び分散安定性及びカーボンナノ粒子分散膜の表面抵抗率を表1に示す。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のナノカーボン水性分散液、及び該組成物から得られる分散膜は、カーボンナノ粒子が持つ高い導電性、機械的強度、熱伝導性、可飽和吸収効果という光学非線形性などの諸特性を効率的に発揮させることができ、燃料電池、電極、電磁波シールド材、導電性樹脂、電界放出ディスプレー(FED)用部材、水素をはじめとする各種ガスの吸蔵材料、高速光通信用デバイス、レーザー用デバイスなどの材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1nm〜5μmの太さと、0.5〜1000μmの長さとを有する繊維状の、又は1〜50nmの粒径を有する粒状のカーボンナノ粒子が、(b)アルミナ水和物粒子及び(c)水溶性酸の存在下に、(d)水性媒体中に安定に分散していることを特徴とするカーボンナノ粒子水性分散液。
【請求項2】
前記カーボンナノ粒子(a)が、10〜500nmの太さと、1〜100μmの長さとを有する繊維状のカーボンナノ粒子である、請求項1に記載のカーボンナノ粒子水性分散液。
【請求項3】
さらに(e)シランカップリング剤を含有している請求項1または2に記載のカーボンナノ粒子水性分散液。
【請求項4】
前記シランカップリング剤(e)が、1個以上のエポキシ基を有するものである、請求項3に記載のカーボンナノ粒子水性分散液。
【請求項5】
前記シランカップリング剤(e)とともに、(f)シランカップリング剤の縮重合用触媒をさらに含む、請求項3又は4に記載のカーボンナノ粒子水性分散液。
【請求項6】
前記水性媒体(d)が水とともに少なくとも1種の水溶性有機溶剤を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のカーボンナノ粒子水性分散液。
【請求項7】
前記水溶性有機溶媒が、1〜4個の炭素原子を有する脂肪族アルコールから選ばれる請求項6に記載のカーボンナノ粒子水性分散液。
【請求項8】
前記カーボンナノ粒子(a)が、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー及びフラーレン粒子から選ばれた少なくとも1種を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載のカーボンナノ粒子水性分散液。
【請求項9】
前記カーボンナノ粒子(a)がカーボンナノチューブである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のカーボンナノ粒子水性分散液。
【請求項10】
前記カーボンナノ粒子(a)が、その表面部に親水性基が導入されたものである、請求項1〜9のいずれか1項に記載のカーボンナノ粒子水性分散液。
【請求項11】
前記アルミナ水和物粒子(b)が、1〜5000nmの平均粒径を有するベーマイト粒子及び擬ベーマイト粒子から選ばれた少なくとも1種を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載のカーボンナノ粒子水性分散液。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のカーボンナノ粒子水性分散液を製造するために、1nm〜5μmの太さと0.5〜1000μmの長さを有する繊維状の、又は1〜50nmの粒径を有する粒状のカーボンナノ粒子(a)からなる粉体を、アルミナ水和物粒子(b)及び水溶性酸(c)を含む水性媒体(d)中に添加し、これに分散処理を施すことを特徴とするカーボンナノ粒子水性分散液の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のカーボンナノ粒子水性分散液を基材に塗布し、固化することにより形成されたカーボンナノ粒子分散膜。

【公開番号】特開2010−195671(P2010−195671A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2778(P2010−2778)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(390003001)川研ファインケミカル株式会社 (48)
【Fターム(参考)】