説明

分散染料の混合物

化学式(I)
【化1】


の染料を少なくとも1つ、及び化学式(II)
【化2】


(式中、R、R、R、及びXは請求項1に記載のように定義される)の染料を少なくとも1つで構成される染料混合物、その調合のためのプロセス、及びその使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は疎水性織物材料の染色用分散染料の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2には既に、フェニルアゾ分散染料とピリドンアゾ分散染料の混合物が開示されている。
【0003】
以下に記載する混合物は、既知の混合物に比べて、ポリエステル染色物と、特にポリエステル−エラステン染色物の洗濯堅牢度及び摩擦堅牢度の物性向上という特性を示すことが今回見いだされた。記載の混合物はポリエステル材料及びポリエステル−エラステン材料の染色物の色調ビルドアップ性を更に改良できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−331104号公報
【特許文献2】特開平10−077583号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、化学式(I)
【化1】

(式中、
は(C−C)‐アルキル基又は(C−C)‐アルコキシ‐(C−C)‐アルキル基であり、かつ
は(C−C)‐アルコキシ基である)の染料を少なくとも1つと、
化学式(II)
【化2】

(式中、
Xは塩素原子又は臭素原子であり、かつ
は(C−C)‐アルキル基である)の染料を少なくとも1つと、
を含有することを特徴とする染料混合物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(C−C)‐アルキル基は直鎖でも分岐鎖でもよく、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル又はt−ブチル基である。メチル基又はエチル基が好ましい。同様のことが、(C−C)‐アルコキシ基類にも適応されるので、メトキシ基又はエトキシ基が好ましい。
【0007】
(C−C)‐アルコキシ‐(C−C)‐アルキル基の例としては、メトキシメチル、エトキシメチル、エトキシエチル、メトキシエチル、又はイソプロポキシプロピル基がある。特に好ましいのは、Rがエチル基であり、Rがメトキシ基であり、かつRがメチル基である。Xは好ましくは臭素原子である。
【0008】
好ましい染料混合物は化学式(I)と化学式(II)の染料で構成され、その量はそれぞれ1〜99重量%、より好ましくはその量はそれぞれ20〜80重量%である。非常に好ましい染料混合物は、化学式(I)の染料の量が30〜45重量%、及び化学式(II)の染料の量が55〜70重量%で構成される。
【0009】
一つの好ましい実施形態では、本発明の染料混合物は化学式(I)及び化学式(II)の染料以外の染料を含まないか、又は他の染料を含んでもその量は2重量%以下、より詳しくは0.01〜2重量%である。
【0010】
本発明の染料混合物は、化学式(I)と化学式(II)の染料を機械混合することにより調合できる。この場合その量はより詳しくは、好ましい組成の混合物が得られるように選ばれる。
【0011】
化学式(I)の染料は既知であり、例えば、独国特許出願公開第1932806号明細書に記載されている。化学式(II)の染料も同様に既知であり、例えば、独国特許出願公開第2548052号明細書に記載されている。
【0012】
本発明の染料混合物は疎水性材料の染色及び捺染に非常に適し、得られた染色物及び捺染物の均一な色調及び高いサービス堅牢度は注目に値する。注目すべき特性としては、特にポリエステル材料及びポリエステル−エラステン材料における良好な洗濯堅牢度、摩擦堅牢度、及び優れた色調のビルドアップ性が挙げられる。
【0013】
従って、本発明は、疎水性材料の染色及び捺染のために本発明の染料混合物を使用し、並びに着色剤として本発明の染料混合物を用いる従来の手順によりこのような材料を染色又は捺染する方法もまた提供する。
【0014】
前述の疎水性材料はその原料が合成でも半合成でもよい。適切な材料としては、例えば、酢酸セルロース(二次)、三酢酸セルロース、ポリアミド類、ポリラクチド類、及び特に高分子質量ポリエステルが挙げられる。高分子質量ポリエステル製の材料は、より詳しくは、ポリエチレンテレフタレート類又はポリトリメチレンテレフタレート類に基づくものである。例えば、ポリエステルと綿又はポリエステルとエラステンのような混紡織物及び混紡繊維もまた考えられる。疎水性合成材料はフィルム類又はシート構造物又は糸状構造物の形態を取ってもよく、例えば、糸類、織物繊維材料又は編み物繊維材料に加工されたものでもよい。繊維状織物材料が好ましいが、例えば、マイクロファイバー形態を取ってもよい。
【0015】
本発明がもたらす使用法に従う染色は従来のやり方で行ってもよく、好ましくは水分散により、任意選択的にはキャリヤー存在下に80〜約110℃の間で吸尽染色によるか、又は染色用オートクレーブ中で110〜140℃の高温プロセスによるか、又は織物を染色液でパッド後、続いて約180〜230℃で固着する所謂サーモフィックスプロセスにより実施してもよい。
【0016】
前述の材料の捺染は、本発明の染料混合物を捺染糊に入れ、次いでそれで捺染した織物を任意選択的にはキャリヤー存在下に処理し、染料を180〜230℃の間の温度で高温蒸気、加圧蒸気又は乾式加熱により固着するというそれ自体既知の方法で実施してもよい。
【0017】
染液、パディング液又は捺染糊に用いる本発明の染料混合物は微粒子に細分化された状態でなければならない。染料の微細化は、液媒体、好ましくは水中で分散剤と一緒にスラリー化し、混合物に剪断力の作用をかけて、元来の大きさの染料粒子を、最適の比表面積が得られ、染料の沈降は殆どない程度に機械粉砕するというそれ自体既知の方法で達成される。これはボールミル又はサンドミルのような適切なミル中で行われる。染料の粒子径は通常0.1〜5μmの間、好ましくは約1μmである。
【0018】
ミリング操作に用いる分散剤は非イオン性でも陰イオン性でもよい。非イオン系分散剤は、例えば、酸化エチレン又は酸化プロピレンのようなアルキレンオキサイドと、例えば、高級アルコール、高級アミン、高級脂肪酸、フェノール類、アルコールフェノール類、又はカルボキサミド類のようなアルキル化可能な化合物との反応生成物である。アニオン系分散剤は、例えば、リグノスルホネート類、アルキルスルホネート類、アルキルアリールスルホネート類又はアルキルアリール・ポリグリコール・エーテルスルホネート類である。
【0019】
このような方法で得られた染料調合物は、それを使用する多くの場合、流動性がなければならない。従って、これらの場合染料含有量及び分散剤含有量には限度がある。一般的に言えば、分散物の染料含有量は50重量%以下に、そして、分散剤含有量は25重量%以下に調節する。染料含有量は経済上の理由から通常15重量%より低くはない。
【0020】
その上分散物は他の助剤類で構成してもよく、例としては、例えば、m−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムのような酸化剤、又は例えば、ナトリウム・o−フェニルフェノキサイド、ナトリウム・ペンタクロロフェノキサイドのような殺菌剤として作用するもの、更に詳しくは、ブチルラクトン、モノクロロアセトアミド、クロロ酢酸ナトリウム、ジクロロ酢酸ナトリウム、3−クロロプロピオン酸のナトリウム塩、例えば、ラウリル硫酸のような硫酸のモノエステル類、又は例えば、ブチルグリコール硫酸のようなエトキシ化アルコール又はプロポキシ化アルコール類の硫酸エステル類のような所謂「酸供与体」として知られたものがある。
【0021】
この方法で得た染料分散物を用いることにより染液及び捺染糊の調合に大きな利益をもたらすことができる。
【0022】
特定の分野では粉末処方物が好まれる。これらの粉末は、染料、分散剤、及び例えば、湿潤剤、酸化剤、防腐剤、及び防塵剤のような他の助剤及び上述の「酸供与体」で構成される。
【0023】
粉末形態の染料調合物を調合する一つの好ましい方法は、例えば、真空乾燥、凍結乾燥の使用又はドラム乾燥機による乾燥、好ましくは噴霧乾燥により上述染料の液体分散物から液体をストリッピングする方法が関与する。
【0024】
染色液は、必要量の上述の染料処方物を染色媒体、好ましくは水で染色用の液比が5:1〜50:1になる程度に希釈し調合する。更には、この液を通常は分散剤、湿潤剤、及び固着助剤のような染色助剤と混合する。酢酸、コハク酸、ホウ酸又はリン酸のような有機酸又は無機酸を加えてpHを4〜5、好ましくは4.5に設定する。設定したpHの変化を低減させて、十分な量の緩衝液システムを加えることは有利である。一つの有利な緩衝液システムは、例えば、酢酸/酢酸ナトリウムのシステムである。
【0025】
本発明の染料混合物を織物の捺染に用いる場合、必要量の上述の染料処方物を、例えば、アルカリ金属アルギネート又は類似物のような増粘剤及び任意選択的には、例えば、固着加速剤、湿潤剤及び酸化剤のようなアジュバント(adjuvants)と更に一緒に従来の方法で混練し捺染糊を形成する。
【0026】
本発明は、織物をインクジェットプロセスによりデジタル捺染するための本発明の染料混合物で構成したインクもまた提供する。
【0027】
本発明のインクは好ましくは水性であり、かつ本発明の染料混合物を含有し、その量はインクの全重量に対して、例えば、0.1〜50重量%、その量は好ましくは1〜30重量%、より好ましくは1〜15重量%である。更に、インクは特に0.1〜20重量%の分散剤を含有する。適切な分散剤は当業者には周知であって市販されており、例えば、スルホン化リグニン類又はスルホメチル化リグニン類、芳香族スルホン酸類とフォルムアルデヒドの縮合物、置換又は非置換フェノールとフォルムアルデヒドの縮合物、ポリアクリル酸塩と相応するコポリマー、変性ポリウレタン類、又は、アルキレンオキサイド類と、例えば高級アルコール、高級アミン、高級脂肪酸、カルボキサミド若しくは非置換又は置換フェノール類のようなアルキル化可能な化合物の反応生成物が挙げられる。
【0028】
本発明のインクは更に通常の添加物、例としては粘度を20〜50℃の温度範囲で1.5〜40mPasの範囲に設定する粘度調節剤を含有する。好ましいインクの粘度は1.5〜20mPas、特に好ましいインクの粘度は1.5〜15mPasである。
【0029】
適切な粘度調節剤としては、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルピロリドン、及びそのコポリマー、ポリエーテル・ポリオールのようなレオロジー付与物、又は例えば、ポリ尿素、アルギン酸ナトリウム、変性ガラクトマンナン、ポリエーテル尿素、ポリウレタン、又は非イオン性セルロースエーテルのような会合性増粘剤が挙げられる。
【0030】
本発明のインクは、表面張力を使用プロセス(熱技術又は圧電技術)の機能に適した20〜65mN/mに設定するために追加の添加物として界面活性剤を含有してもよい。
【0031】
適切な界面活性剤の例は、全ての種類の界面活性剤、好ましくは非イオン界面活性剤、ブチルジグリコール、又は1,2−ヘキサンジオールを含有する。
更にインクは、真菌及び細菌の成長を阻害する物質のような習慣的なアジュバントを含有し、その量は、例えば、インクの全重量に対して0.01〜1重量%である。
【0032】
本発明のインクはその成分を水中で混合する従来の方法で調合してもよい。
【実施例】
【0033】
実施例1
a).水に湿らしたプレスケーキ形状の、38.7部の染料(Ia)
【化3】

及び61.3部の染料(IIa)
【化4】

をリグノスルホネートのナトリウム塩70gと一緒に水150mlに混合し、硫酸によりpHを6〜8に調製する。次いでこれをビーズミルで粒子の大きさ(直径)を0.1〜5マイクロメーターに粉砕する。この分散物を更にリグノスルホネート65gで標準化し、噴霧ドライヤーで乾燥する。
【0034】
b).上記a)で得た染料混合物2gを水10mlに40〜50℃で分散する。染浴は、この水分散物11.5ml、脱イオン水57.5ml、及び緩衝液(pH4.5)1.2mlで調合し、5g分のポリエステルを加える。130℃に加熱後、Werner Mathis高温染色機を用いて130℃で45分間保持する。水洗及び還元的後洗浄を行うと、ポリエステル材料は洗濯堅牢度が優れた黄褐色に染色される。この混合物の特に興味ある物性の一つは、ポリエステル及びポリエステルマイクロファイバーにおける優れた色調のビルドアップ性である。ポリエステルマイクロファイバーで従来のポリエステルと同等の色の濃さを得るには、比例的に増加する量の染料混合物を使わねばならない。
【0035】
実施例2
水に湿らしたプレスケーキ形状の、38.7部の染料(Ib)
【化5】

及び61.3部の染料(IIb)
【化6】

をナフタレンスルホン酸ナトリウムとフォルムアルデヒドの縮合生成物に基づく分散剤70gと一緒に水150mlに混合し、硫酸によりpHを6〜8に調製する。次いでこれをビーズミルで粒子の大きさ(直径)を0.1〜5μmに粉砕する。ここの分散物を更にナフタレンスルホン酸ナトリウムとフォルムアルデヒドの縮合生成物に基づく分散剤65gで標準化し、噴霧ドライヤーで乾燥する。この方法で得た染料混合物は、実施例1b)で指定した方法による染色に使用できる。
【0036】
実施例1及び実施例2と同様の方法で以下の混合物を得、ポリエステル類を染色できる。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例25
ポリエステル繊維で構成された織物を、濃度8%のアルギン酸ナトリウム溶液を50g/l、濃度8〜12%のイナゴマメ粉エーテル溶液を100g/l、及びリン酸二水素ナトリウム5g/lの水溶液で構成された液でパッド後乾燥する。ウエット・ピックアップ率は70%である。
【0039】
次いで、前処理した織物を、上述の手順に従い調合し以下の
3.5%の実施例1の染料混合物、
2.5%の分散剤Disperbyk 190、
30%の1,5−ペンタンジオール、
5%のジエチレングリコール・モノメチル・エーテル、
0.01%の殺生物剤Mergal K9N、及び
58.99%の水
を含む水性インクで、ドロップオンデマンド(圧電)方式のインクジェットプリントヘッドを用いて捺染する。捺染物を完全に乾燥する。175℃の過熱蒸気を用いて7分間固着する。その後、捺染物をアルカリ性還元的後洗浄で処理し、温水洗浄後乾燥する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(I)
【化1】

(式中、
は(C−C)‐アルキル基又は(C−C)‐アルコキシ‐(C−C)‐アルキル基であり、かつ
は(C−C)‐アルコキシ基である)の染料を少なくとも1つと、
化学式(II)
【化2】

(式中、
Xは塩素原子又は臭素原子であり、かつ
は(C−C)‐アルキル基である)
の染料を少なくとも1つと、を含有することを特徴とする染料混合物。
【請求項2】
がエチル基であり、Rがメトキシ基であり、かつRがメチル基である請求項1に記載の染料混合物。
【請求項3】
Xが臭素原子である請求項1又は請求項2に記載の染料混合物。
【請求項4】
化学式(I)及び化学式(II)の前記染料が、その量としてそれぞれ1〜99重量%存在する請求項1〜3のいずれか一項に記載の染料混合物。
【請求項5】
化学式(I)及び化学式(II)の前記染料が、その量としてそれぞれ20〜80重量%の量で存在する請求項1〜3のいずれか一項に記載の染料混合物。
【請求項6】
化学式(I)の前記染料がその量として30〜45重量%存在し、化学式(II)の前記染料がその量として55〜70重量%存在する請求項1〜3のいずれか一項に記載の染料混合物。
【請求項7】
化学式(I)及び化学式(II)の前記染料を機械的に混合するプロセスで構成される請求項1〜6のいずれか一項に記載の染料混合物を調合する方法。
【請求項8】
疎水性材料を染色及び捺染するための請求項1〜6のいずれか一項に記載の染料混合物の使用。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の染料混合物で構成されたインクをインクジェットプロセスにより織物のデジタル捺染するためのインク。

【公表番号】特表2012−514051(P2012−514051A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−540006(P2011−540006)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065898
【国際公開番号】WO2010/066587
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(310020183)ダイスター・カラーズ・ドイッチュラント・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (11)
【Fターム(参考)】