説明

分散装置及び分散方法

【課題】凝集状態のカーボンナノチューブを可溶化する際の可溶化率を向上させて分散性を良くすることにより、カーボンナノチューブの廃棄によるコストを削減することのできる、分散装置及び分散方法を提供する。
【解決手段】分散装置10は、容器21を固定する固定用治具11と、周波数が可変の超音波を容器21に対して発振する超音波発振機12と、超音波発振機12が容器21に超音波を発振した際の容器21の振動周波数を検知する音圧測定器14と、超音波発振機12が発振する超音波の周波数を調整する制御装置19とを備え、音圧測定器14が検知した容器21の振動周波数が、容器21の共振周波数となるように、超音波発振機12が発振する超音波の周波数を、制御装置19により調整することにより、カーボンナノチューブCを粒子状態で液体中に分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散装置及び分散方法に関し、詳しくは、カーボンナノチューブを効率良く可溶化して液体に分散する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池の製造過程において、電極の導電性を向上させるための導電助剤としてカーボンナノチューブが用いられている。カーボンナノチューブを導電助剤として用いるにあたっては、凝集して塊となっているカーボンナノチューブを可溶化して、カーボンナノチューブの粒子を水等の液体中に分散させる。その後、例えば紙等の多孔質体でカーボンナノチューブの粒子が混合した液体を濾過することにより、紙状の導電助剤を得ている。
このように凝集して塊となっているカーボンナノチューブを液体中に分散させる方法として、液体中のカーボンナノチューブに超音波を発振する技術が用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−160754号公報
【特許文献2】特開2006−45034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献に記載の従来技術では、凝集状態のカーボンナノチューブを可溶化する際の可溶化率が低く、分散性が悪かった。その結果、可溶化せずに凝集状態で残ったカーボンナノチューブを多量に廃棄することになるため、コストの増大に繋がっていた。具体的には、投入したカーボンナノチューブに対して、導電助剤として回収できる量は30%であり、投入したカーボンナノチューブのうち70%は廃棄していたのである。カーボンナノチューブは高価であるため、コスト削減のために廃棄量を低減させる必要があったのである。
【0005】
そこで本発明は、上記現状に鑑み、凝集状態のカーボンナノチューブを可溶化する際の可溶化率を向上させて分散性を良くすることにより、カーボンナノチューブの廃棄によるコストを削減することのできる、分散装置及び分散方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、液体、凝集状態のカーボンナノチューブ、及び、カーボンナノチューブ粒子の周囲に吸着して分散状態のカーボンナノチューブ粒子を前記液体中で保持するための可溶化剤、を混合した混合液が入った容器を固定する、固定用治具と、前記固定用治具の近傍に配置され、周波数が可変の超音波を、前記混合液が入った容器に対して発振する、超音波発振機と、前記超音波発振機が前記容器に超音波を発振した際の前記容器の振動周波数を検知する、検知手段と、前記超音波発振機が発振する超音波の周波数を調整する、制御手段と、を備え、前記検知手段が検知した前記容器の振動周波数が、前記混合液が入った容器の共振周波数となるように、前記超音波発振機が発振する超音波の周波数を、前記制御手段が調整することにより、前記カーボンナノチューブを粒子状態で前記液体中に分散させるものである。
【0008】
請求項2においては、前記検知手段は音圧測定器を備え、前記容器の振動周波数を音圧レベルで検知するものである。
【0009】
請求項3においては、液体、凝集状態のカーボンナノチューブ、及び、カーボンナノチューブ粒子の周囲に吸着して分散状態のカーボンナノチューブ粒子を前記液体中で保持するための可溶化剤、を混合した混合液が入った容器に対して、周波数が可変の超音波を発振する、超音波発振工程と、前記超音波発振工程で前記容器に超音波を発振した際の前記容器の振動周波数を検知する、振動周波数検知工程と、前記振動周波数検知工程で検知した前記容器の振動周波数が、前記混合液が入った容器の共振周波数となるように、前記超音波発振機が発振する超音波の周波数を調整することにより、前記カーボンナノチューブを粒子状態で前記液体中に分散させる、分散工程と、を備えるものである。
【0010】
請求項4においては、前記振動周波数検知工程において、前記容器の振動周波数を音圧レベルで検知するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
本発明により、凝集状態のカーボンナノチューブを可溶化する際の可溶化率を向上させて分散性を良くすることにより、カーボンナノチューブの廃棄によるコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態に係る分散装置を示した概略図。
【図2】同じく分散装置でカーボンナノチューブを分散させるフローチャートを示した図。
【図3】同じく分散装置に固定する容器を示した図。
【図4】分散後の容器内部の状態を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0015】
[分散装置10]
まず始めに、本発明の一実施形態に係る分散装置10の概略について、図1を用いて説明する。分散装置10は図1に示す如く、中空直方体状の水槽タンク17に収容された固定用治具11、及び、固定用治具11の近傍に配置される超音波発振機12を備える。
超音波発振機12は略直方体状に形成され、その上面には複数の振動子13・13・・・が配設されている。振動子13・13・・・は、超音波発振機12から周波数信号が入力されると、該周波数信号に従って振動して超音波を発生する。さらに、超音波発振機12は水槽タンク17の外部に位置する制御装置19と電気的に接続され、該制御装置19によって、超音波発振機12が振動子13・13・・・に出力する周波数信号が可変(例えば、40kHz〜50kHz程度)に制御される。つまり、制御装置19は、超音波発振機12を介して振動子13・13・・・が発振する超音波の周波数を調整するのである。
【0016】
超音波発振機12の上方には、固定用治具11が架け渡されて配設される。具体的には、超音波発振機12の側方に対向して支持部11a・11aが上方に向けて立設され、該支持部11a・11aの上端部に固定板11bが架け渡されるのである。
固定板11bにおいて、振動子13・13・・・の上方に位置する部分には、後述する容器21・21・・・を1個以上固定するための固定孔11c・11c・・・が開口されている。換言すれば、該固定孔11c・11c・・・に容器21・21・・・を固定した際には、それぞれの容器21・21・・・が振動子13・13・・・の上方に位置するように構成されているのである。
【0017】
また、分散装置10は図1に示す如く、超音波発振機12が容器21・21・・・に超音波を発振した際の容器21・21・・・の振動周波数を検知する検知手段として、音圧測定器14及び音圧マイク15を備える。詳細には、音圧マイク15が容器21・21・・・の振動により発生する振動音の音圧レベルの大きさを検知し、電気信号(周波数信号)として音圧測定器14に入力するのである。容器21・21・・・の振動周波数が容器21・21・・・の共振周波数に近づくと、音圧マイク15が集音する音圧レベルが大きくなるため、音圧測定器14に入力される音圧レベルを判定することにより、容器21・21・・・の振動周波数が共振周波数に近づいたか否かを検知することができるのである。
【0018】
制御装置19は、図1に示す如く音圧測定器14と電気的に接続されており、音圧測定器14から容器21・21・・・の周波数信号が入力される。そして、制御装置19は、容器21・21・・・の振動周波数が容器21・21・・・の共振周波数に近づくように超音波発振機12が発振する超音波の周波数を設定する。具体的には、音圧測定器14に入力される音圧レベルが大きくなるように、超音波発振機12が発振する超音波の周波数を調節するのである。この場合、超音波発振機12から発振される超音波の周波数が容器21・21・・・の共振周波数となったときに、容器21・21・・・の振動による音圧レベルが最大となるため、超音波発振機12が発振する超音波の周波数を、音圧測定器14に入力される音圧レベルが最大となる周波数に調節することにより、超音波発振機12から発振される超音波の周波数を容器21・21・・・の共振周波数に調整することができる。
なお、本実施形態においては制御装置19が自動的に超音波発振機12による周波数を設定するように構成されているが、作業者が音圧測定器14における周波数信号の出力値を見ながら、手作業で制御装置19を操作し、音圧測定器14に入力される音圧レベルが大きくなるように超音波発振機12の周波数を設定する構成とすることも可能である。
【0019】
前記の如く構成された分散装置10においてカーボンナノチューブCを分散させる方法について、図2から図4を用いて説明する。
図2中のステップS1及び図3に示す如く、まず、水W、凝集状態のカーボンナノチューブ(CNT)C、及び、カーボンナノチューブ粒子C1(図4参照)の周囲(表面)に吸着して分散状態のカーボンナノチューブ粒子C1を水中で保持するための可溶化剤Dを混合した混合液を容器21・21・・・に入れる。なお、本実施形態においては混合液における媒体として水を用いるが、水以外の液体を用いることも可能である。
【0020】
次に、図2中のステップS2に示す如く、混合液を入れた容器21・21・・・を固定用治具11に固定する。具体的には、固定用治具11の固定板11bに開口された固定孔11c・11c・・・に容器21・21・・・の上部を挿入した状体で、固定板11bの側面部からボルト孔11d・11d・・・にボルトを螺入させることで容器21・21・・・を固定するのである。この際、それぞれの容器21・21・・・の下方に振動子13・13・・・が位置するように配設する。
【0021】
次に、図2中のステップS3に示す如く、制御装置19及び超音波発振機12を駆動させることにより、振動子13・13・・・から超音波を発振する。
そして、図2中のステップS4に示す如く、制御装置19により、超音波発振機12が発振する超音波の周波数を調整することにより、振動子13・13・・・が発振する超音波の周波数を変化させる。
【0022】
次に、図2中のステップS5に示す如く、音圧測定器14及び音圧マイク15によって、容器21・21・・・の振動周波数を検知する。具体的には前記の如く、音圧マイク15が集音し、音圧測定器14に入力される音圧レベルの大きさを判定するのである。
【0023】
次に、図2中のステップS6に示す如く、音圧測定器14で検知した振動周波数が容器21・21・・・の共振周波数か否かを判断する。具体的には、音圧マイク15が集音し、音圧測定器14に入力される音圧レベルが最大となる振動周波数を共振周波数であると判断するのである。
【0024】
前記ステップS6において、音圧測定器14で検知した振動周波数が共振周波数でないと判断した場合は、ステップS4に戻り、制御手段19によって振動子13・13・・・が発振する超音波の周波数を変化させる。一方、ステップS6において、音圧測定器14で検知した振動周波数が共振周波数であると判断した場合は、図2中のステップS7に示す如く、その振動周波数で超音波を発振し、容器21・21・・・を所定時間振動させるのである。
【0025】
換言すれば、制御手段19で振動子13・13・・・が発振する超音波の周波数を変化させながら、音圧測定器14で振動周波数を検知するのである。これにより、音圧レベルが最大となるように、制御手段19で振動子13・13・・・が発振する超音波の周波数を設定するのである。
【0026】
なお、本実施形態においては、音圧測定器14及び音圧マイク15からなる検知手段で、容器21・21・・・の振動周波数を検知する構成としているが、水槽タンク17における振動周波数を検知することによって、容器21・21・・・の振動周波数を検知することもできる。つまり、水槽タンク17を介して伝達される音圧レベルを判定することにより、容器21・21・・・の振動周波数が共振周波数に近づいたか否かを検知する構成とすることも可能である。
【0027】
上記の結果、図4に示す如く、凝集して塊となっていたカーボンナノチューブCを可溶化させ、カーボンナノチューブ粒子C1を水中に分散させることが可能となる。つまり、図4に示す水CWでは、カーボンナノチューブ粒子C1の周囲に可溶化剤Dが吸着することにより、カーボンナノチューブ粒子C1を水中で保持することが可能となるのである。この際、可溶化しなかったカーボンナノチューブC2が一部凝集状態で残ることになる。その後、遠心分離機で可溶化したカーボンナノチューブ粒子C1を分離したり、紙等の多孔質体でカーボンナノチューブ粒子C1を含んだ水CWを濾過したりすることにより、紙状の導電助剤が得られるのである。
【0028】
本実施形態においては上記の如く構成することにより、カーボンナノチューブCを可溶化する際の可溶化率を向上させる分散性を良くすることが可能となる。具体的には、音圧マイク15が集音して音圧測定器14に入力される音圧レベルが最大となるように、即ち容器21・21・・・の振動が最大となるように振動周波数を調整することにより、超音波がカーボンナノチューブCに加えるエネルギーを大きくすることができるため、カーボンナノチューブCの分散性が向上するのである。
【0029】
また、本実施形態においては、容器21・21・・・に入れる混合液の量や、容器21・21・・・の個数が変化しても、それぞれの場合に対応して最適な振動周波数で超音波を発振することができる。例えば、混合液の量が増えたり、容器21・21・・・の数が増えたりした場合は、容器21・21・・・の固有振動数が小さくなるため、共振周波数も小さくなる。このような場合であっても、実際に容器21・21・・・の振動周波数を検知して、該振動周波数に基づいて超音波発振機12を制御することにより、容器21・21・・・の振動周波数が共振周波数となるように調整することが可能となるのである。つまり、混合液の量や容器21・21・・・の数の変化など、様々な実施態様の変化に対応してカーボンナノチューブCの分散性を向上させることができるのである。
【0030】
本願出願人が行った試験結果によれば、本実施形態に係る分散装置10を用いてカーボンナノチューブCを分散させることにより、可溶化したカーボンナノチューブ粒子C1の回収率を、従来の30%程度から95%程度に大きく向上させることができた。これにより、カーボンナノチューブCの廃棄によるコストを大幅に削減することができたのである。
【符号の説明】
【0031】
10 分散装置
11 固定用治具
12 超音波発振機
13 振動子
14 音圧測定器
15 音圧マイク
19 制御装置
21 容器
C カーボンナノチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体、凝集状態のカーボンナノチューブ、及び、カーボンナノチューブ粒子の周囲に吸着して分散状態のカーボンナノチューブ粒子を前記液体中で保持するための可溶化剤、を混合した混合液が入った容器を固定する、固定用治具と、
前記固定用治具の近傍に配置され、周波数が可変の超音波を、前記混合液が入った容器に対して発振する、超音波発振機と、
前記超音波発振機が前記容器に超音波を発振した際の前記容器の振動周波数を検知する、検知手段と、
前記超音波発振機が発振する超音波の周波数を調整する、制御手段と、を備え、
前記検知手段が検知した前記容器の振動周波数が、前記混合液が入った容器の共振周波数となるように、前記超音波発振機が発振する超音波の周波数を、前記制御手段が調整することにより、前記カーボンナノチューブを粒子状態で前記液体中に分散させる、
ことを特徴とする、分散装置。
【請求項2】
前記検知手段は音圧測定器を備え、前記容器の振動周波数を音圧レベルで検知する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の分散装置。
【請求項3】
液体、凝集状態のカーボンナノチューブ、及び、カーボンナノチューブ粒子の周囲に吸着して分散状態のカーボンナノチューブ粒子を前記液体中で保持するための可溶化剤、を混合した混合液が入った容器に対して、周波数が可変の超音波を発振する、超音波発振工程と、
前記超音波発振工程で前記容器に超音波を発振した際の前記容器の振動周波数を検知する、振動周波数検知工程と、
前記振動周波数検知工程で検知した前記容器の振動周波数が、前記混合液が入った容器の共振周波数となるように、前記超音波発振機が発振する超音波の周波数を調整することにより、前記カーボンナノチューブを粒子状態で前記液体中に分散させる、分散工程と、を備える、
ことを特徴とする、分散方法。
【請求項4】
前記振動周波数検知工程において、前記容器の振動周波数を音圧レベルで検知する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の分散方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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